(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】エアロゲル含有生地及びエアロゲル含有生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 31/00 20190101AFI20220608BHJP
A41D 31/06 20190101ALI20220608BHJP
A41D 31/02 20190101ALI20220608BHJP
B32B 5/16 20060101ALI20220608BHJP
B32B 27/14 20060101ALI20220608BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
A41D31/00 502Z
A41D31/06 100
A41D31/02 C
A41D31/02 E
B32B5/16
B32B27/14
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2021167814
(22)【出願日】2021-10-13
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】202111073103.7
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521450207
【氏名又は名称】サム ワードローブ(チョーチアン) ガーメント テクノロジー テッド
【氏名又は名称原語表記】Thumb Wardrobe(zhejiang)Garment Technology.,Ted.
【住所又は居所原語表記】9-1-16, Building 3, 687 Changxing Road, Jiangbei District, Ningbo City, Zhejiang Province, China
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】江可佳
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-014652(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111844983(CN,A)
【文献】中国実用新案第203058351(CN,U)
【文献】特開平11-012343(JP,A)
【文献】NOURI Nowrouz Mohammad, SAADAT‐BAKHSH Mohammad,Fabrication method of large-scale and mechanically durable superhydrophobic silicon rubber/aerogel coating on fibrous substrates,Journal of Coatings Technology and Research,米国,2017年01月18日,Vol.14, No.2,Page.477-488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
A41D1/00-31/32
B05B5/00-5/16
B05D1/04-1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏生地層と、粘着剤層と、エアロゲル中間層及び表生地層とが、この順で配置されて一体化されてなり、前記エアロゲル中間層は粉粒状のエアロゲルからなり、前記粘着剤層は少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を含む混合物から構成され、全体が熱融着により一体化してなるエアロゲル含有生地の製造方法であって、
(1)基台上に裏生地を配置し裏生地層を形成する工程と、
(2)前記裏生地層の上に、水と熱可塑性ポリウレタン樹脂と増粘剤を混合した粘着剤を塗布し粘着剤層を形成する工程と、
(3)前記裏生地層の上に粘着剤層が形成された積層体に、高電圧を印加して帯電させる工程と、
(4)前記帯電した積層体の粘着剤層の上に、粉粒状のエアロゲルを噴霧し、静電的に均一に吸着させて積層しエアロゲル中間層を形成する工程と
(5)前記エアロゲル中間層の上に、表生地を載せ、表生地層を形成する工程と、
(6)前記裏生地層、前記粘着剤層、前記エアロゲル中間層及び前記表生地層が順に積層された積層体を高温の圧縮機で加熱プレスし熱融着により一体化する工程、
を含むことを特徴とするエアロゲル含有生地の製造方法。
【請求項2】
前記粘着剤層を構成する水と熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤の総重量に対し、熱可塑性ポリウレタン樹脂が5~10重量%、増粘剤が1~2重量%であることを特徴とする請求項1に記載のエアロゲル含有生地の製造方法。
【請求項3】
前記エアロゲル中間層の粉粒状のエアロゲルが、粒径1.0~50.0μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアロゲル含有生地
の製造方法。
【請求項4】
前記エアロゲル含有生地の全体の厚さが1.0~10.0mmであることを特徴とする
請求項1又は2に記載のエアロゲル含有生地
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い保温性を有し軽量で高い通気性を備え、非常に薄いエアロゲル含有生地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、保温性の高い材料として、エアロゲルが衣料品や寝装具に用いられることが増えてきた。エアロゲルは、軽量の固体であり、熱伝導率が、空気の熱伝導率よりも極めて低いため、高い断熱特性を有するものである。
【0003】
エアロゲルを衣料品や寝装具に用いられる例としては、羽毛に比べて多くはないものの、実用新案登録第3233325号には、「熱反射生地と遠赤外線発熱生地のうちの1種又は2種を用いて製造される蓄熱層と、化学繊維綿又はバイオ繊維フロックである詰め物を用いて製造される緩衝層と、エアロゲルと発泡材料を用いて製造される複合材料で製造される保温層と、化学繊維織物又は不織布裏地を用いて製造される固定層と、防風・防水・透湿生地を用いて製造される保護層と、を含み、前記蓄熱層は人体に近い最内層に位置し、前記緩衝層と前記保温層は前記固定層と前記固定層との間に位置するエアロゲル入り保温衣服」が開示されている(特許文献1)。
【0004】
前記特許文献1に記載のエアロゲル入り保温衣服は、蓄熱層、緩衝層、保温層、固定相、保護層といった複数種の機能層からなり、これらを選択することにより、複雑な条件の寒冷環境下での着用に適した衣服を実現することができ、防風・防雨・保温に優れた衣服となっている。
【0005】
また、特許6641061号にもエアロゲルを用いた衣料品が記載されており、具体的には、「化学繊維綿をシート状に形成した中綿で構成される第一中綿層と、第一熱可塑性樹脂フィルム層と、エアロゲル含有中間層と、第二熱可塑性樹脂フィルム層と、化学繊維綿をシート状に形成した中綿で構成される第二中綿層とが、この順で配置されて一体化してなるエアロゲル含有積層シートであって、前記エアロゲル含有中間層は、ポリエステル複合繊維を含むポリエステル複合繊維層と、エアロゲル層とを含む、エアロゲル含有積層シート。」が記載されている(特許文献2)。
【0006】
これは、エアロゲルの極めて軽量でかつ高い断熱特性をポリエステル複合繊維、さらに羽毛やキュプラ繊維と組み合わせることで、その効果をより発揮させたものであり、薄くて軽量で嵩張らず、高い断熱特性を備え、かつ各層を熱溶着で一体化しているので、全体が高い接着性で接着され、上下方向にも左右方向にも弾力性を備えたものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実用新案登録第3233325号公報
【文献】特許第6641061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エアロゲルは、その構造上の特性から、衝撃に脆く、耐久性に欠け、濡れると性質が変化するという問題点があり、これらの問題に対応するため、特許文献1では、粉末状にしたエアロゲルを発泡材料に保持させて、発泡材料の耐高温、耐低温の特性にエアロゲルの低密度の特徴を合わせ、柔らかくして通気性を高めている。
しかし、特許文献1に記載のエアロゲル入り保温衣服は、蓄熱層、緩衝層、保温層、固定相、保護層と複数層を積層して構成されるため、全体として厚く柔軟性に乏しく、嵩高で衣服に加工しにくく、かつ重たく着にくいという問題がある。
また、発泡材料に多量のエアロゲルを保持させることが難しく、エアロゲルの特徴を最大限に発揮させることが難しいという問題がある。
【0009】
一方、特許文献2に記載のエアロゲル含有積層シートは、断熱性が高く保温性が高いうえ軽量であり、上記のような問題を解決し冷寒地でも十分な効果を発揮するものであり、このエアロゲル含有積層シートを衣服に利用した場合、その高い保温性は、外気が寒くても衣服の内側が暑くなって汗をかいてしまうほどの効果がある。
そこで、本発明ではより快適性を向上させるべく、エアロゲルの性能を最大限引き出して高い保温性を備えつつ、それでいて非常に薄く軽量で着やすく、汗をかいても衣服内が蒸れるようなことのない熱が内部に溜まらない通気性の高いものを提供することを課題とする。
【0010】
本願発明者は、鋭意研究の結果、水と熱可塑性ポリウレタン樹脂と増粘剤を混合した粘着剤層に、高電圧を印加して帯電させ、静電的に粘着剤層に粉末状のエアロゲルを吸着させることで均一に多量のエアロゲルを含有させることができることを見いだし、エアロゲルの特性を生かし高い保温性を備えつつ、通気性に優れ、薄くて軽いエアロゲル含有生地を発明した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明者は上記課題を下記の手段により解決した。
〔1〕裏生地層と、粘着剤層と、エアロゲル中間層及び表生地層とが、この順で配置されて一体化してなるエアロゲル含有生地であって、前記エアロゲル中間層は、粉粒状のエアロゲルからなり、前記粘着剤層は、少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を含む混合物から構成され、全体が熱融着により一体化してなることを特徴とするエアロゲル含有生地。
【0012】
〔2〕前記粘着剤層が、高電圧の印加により帯電し、その上面に噴霧される前記粉粒状のエアロゲルが静電的に均一に吸着されてなることを特徴とする前記〔1〕に記載のエアロゲル含有生地。
〔3〕前記エアロゲル中間層の粉粒状のエアロゲルが、粒径1.0~50.0μmであることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載のエアロゲル含有生地。
〔4〕前記エアロゲル含有生地の全体の厚さが1.0~10.0mmであることを特徴とする前記〔1〕~〔3〕のいずれか1に記載のエアロゲル含有生地。
【0013】
〔5〕前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか1に記載のエアロゲル含有生地を、少なくとも一部に用いてなることを特徴とする衣料品。
〔6〕前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一項に記載のエアロゲル含有生地を、少なくとも一部に用いてなることを特徴とする寝装品。
【0014】
〔7〕裏生地層と、粘着剤層とエアロゲル中間層及び表生地層とが、この順で配置されて一体化されてなり、前記エアロゲル中間層は粉粒状のエアロゲルからなり、前記粘着剤層は少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を含む混合物から構成され、全体が熱融着により一体化してなるエアロゲル含有生地の製造方法であって、
(1)基台上に裏生地を配置し裏生地層を形成する工程と、
(2)前記裏生地層の上に、水と熱可塑性ポリウレタン樹脂と増粘剤を混合した粘着剤を塗布し粘着剤層を形成する工程と、
(3)前記裏生地層の上に粘着剤層が形成された積層体に、高電圧を印加して帯電させる工程と、
(4)前記帯電した積層体の粘着剤層の上に、粉粒状のエアロゲルを噴霧し、静電的に均一に吸着させて積層しエアロゲル中間層を形成する工程と
(5)前記エアロゲル中間層の上に、表生地を載せ、表生地層を形成する工程と、
(6)前記裏生地層、粘着剤層、前記エアロゲル中間層及び表生地層が順に積層された積層体を高温の圧縮機で加熱プレスし熱融着により一体化する工程、
を含むことを特徴とするエアロゲル含有生地の製造方法。
〔8〕前記粘着剤層を構成する水と熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤の総重量に対し、熱可塑性ポリウレタン樹脂が5~10重量%、増粘剤が1~2重量%であることを特徴とする前記〔7〕に記載のエアロゲル含有生地の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、下記の効果が発揮される。
本発明のエアロゲル含有生地は、裏生地層と、粘着剤層とエアロゲル中間層及び表生地層とが、この順で配置されて一体化してなるエアロゲル含有生地であって、前記エアロゲル中間層は、粉粒状のエアロゲルからなり、前記粘着剤層は、少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を含む混合物から構成され、全体が熱融着により一体化してなるので、粘着剤層がエアロゲルの粉粒体を大量に吸着しして付着させることができ、その機能を十分に発揮し高い保温性を備え、かつ軽量で極めて薄いエアロゲル含有生地を提供することができる。
【0016】
そして、本発明にかかるエアロゲル含有生地は、前記粘着剤層に高電圧の印加により帯電させ、その上面に前記粉粒状のエアロゲルを噴霧して静電的に均一に吸着させるので、微細で超軽量な粉粒状のエアロゲルであっても、漏れ落ちることなく確実に粘着剤内に含有され、裏生地層と表生地層の間にしっかりエアロゲル中間層が形成され、高い保温性と断熱性を備えたものとなる。特に粒径が小さいエアロゲルの場合は、粒子の一つ一つが非常に軽くなり、扱いにくくなるが、本発明の製造方法ではれば、粒径が小さいエアロゲルであっても、しっかり粘着剤内に含有させることができる。
【0017】
また、本発明に係るエアロゲル含有生地は、全体の厚さを1.0~10.0mmで構成することができ、そのまま裁断、縫製でき、製造作業もしやすく、裁断時や縫製時に含有物が飛び散ることもなく、作業環境を良好に維持することができ、様々な用途に使用しやすい生地となる。
そして極めて薄く構成できるので、嵩張ることがなく、コンパクトに畳むことができ、流通においては運搬しやすく保管もしやすい。
さらに、粘着剤層に熱可塑性ポリウレタン樹脂を含んでいるので、全体を熱溶着で一体化することができ、さらには、上下方向にも左右方向にも弾力性を備え、衣料品に使用した場合には高い通気性や保温性だけでなく、着やすさ動きやすさも備える。
そして、含有されているエアロゲルは、極めて軽量で、かつ高い断熱特性を有するため、本発明のエアロゲル含有生地も、軽くて断熱性が高いものとなる。
【0018】
さらに本発明に係るエアロゲル含有生地は、熱融着の際に粘着剤層の増粘剤が液体状態となり、その中に熱可塑性ポリウレタン樹脂が含浸して溶解し、さらにそこに粉粒状のエアロゲルが吸着し一体化した構造となっているので、湿気や水気に強く、衣料品や寝装具に好適である。また極めて薄い生地状に一体化されているので加工もしやすい。
【0019】
そして、本発明にかかるエアロゲル含有生地は、
裏生地層と、粘着剤層とエアロゲル中間層及び表生地層とが、この順で配置されて一体化されてなり、前記エアロゲル中間層は粉粒状のエアロゲルからなり、前記粘着剤層は少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を含む混合物から構成され、全体が熱融着により一体化してなり、
(1)基台上に裏生地を配置し裏生地層を形成する工程と、
(2)前記裏生地層の上に、水と熱可塑性ポリウレタン樹脂と増粘剤を混合した液体粘着剤を塗布し粘着剤層を形成する工程と、
(3)前記裏生地層の上に粘着剤層が形成された積層体に、高電圧を印加して帯電させる工程と、
(4)前記帯電した積層体の粘着剤層の上に、粉粒状のエアロゲルを噴霧し、静電的に均一に吸着させて積層しエアロゲル中間層を形成する工程と
(5)前記エアロゲル中間層の上に、表生地を載せ、表生地層を形成する工程と、
(6)前記裏生地層、粘着剤層、前記エアロゲル中間層及び表生地層が順に積層された積層体を高温の圧縮機で加熱プレスし熱融着により一体化する工程、
により製造できるので、作業工程が少なく、ダウンプルーフ加工やキルティング加工など特殊な縫製や加工を必要とせず製造が容易である。
そして、水と熱可塑性ポリウレタン樹脂と増粘剤を含む加熱前の粘着剤層に静電的に粉粒状のエアロゲルが大量に吸着するので、軽くて固着させにくいエアロゲルをしっかりと均一に固着させることができ、高い断熱性、保温性を備えた、かつ非常に軽量で薄いエアロゲル含有生地を提供できる。
前記粘着剤層を、その総重量に対し、熱可塑性ポリウレタン樹脂が5~10重量%、増粘剤が1~2重量%で構成することで、エアロゲルが吸着されやすい粘性を備え、大量のエアロゲルをしっかり含有した生地を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明にかかるエアロゲル含有生地の説明用断面図である。
【
図2】本発明にかかるエアロゲル含有生地の製造方法の概要説明図である。
【
図3】本発明にかかるエアロゲル含有生地の製造方法の概要説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明にかかるエアロゲル含有生地及び該エアロゲル含有生地の製造方法を実施するための形態を、実施例の図に基づいて説明する。
図1は本発明にかかるエアロゲル含有生地の説明用断面図であり、
図2及び3は本発明にかかるエアロゲル含有生地の製造方法の概要説明図である。
図において、1はエアロゲル含有生地、2は裏生地層、3は粘着剤層、4はエアロゲル中間層、5は表生地層、10は積層体である。
【0022】
図1に示すエアロゲル含有生地の実施例の形態において、
図1(a)に示す実施例では、エアロゲル含有生地1は、裏生地2、粘着剤層3、エアロゲル中間層4及び表生地層5がこの順に積層して構成される。
そして、エアロゲル中間層4は、粉粒状のエアロゲルで構成され、エアロゲル含有生地1中の粘着剤層は、少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を含む混合物から構成されている。
図1(b)は、(a)に示すエアロゲル含有生地1を加熱プレスして熱融着により一体化する前の積層体10である。
【0023】
図1に示す実施例において、裏生地層2及び表生地層5を構成する生地は、天然繊維、化学繊維のいずれであってもよく、一般的に衣服や寝装具の表生地となり得る素材を採用できる。
特に、保温性、断熱性の効果を高めたい場合には、再生繊維、半合成繊維、合成繊維、無機質繊維などの化学繊維で、特にポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどの合成繊維が好適であり、複数の素材の繊維を複合したものであってもよい。
【0024】
また、本実施例において、裏生地層2及び表生地層5を構成する生地は、目付(平方メートルあたりの重量)が10~200g/m2であり、エアロゲル含有生地1全体をより薄く軽量にする場合には、目付が20~40g/m2程度となるように薄い生地を使って裏生地層2及び表生地層5とする。
逆にエアロゲル含有生地1全体を厚く重量感を持たせて保温性をより高めるには、目付150~200g/m2程度にして厚さを持たせて、裏生地層2及び表生地層5をそれぞれ構成する。
裏生地層2及び表生地層5の目付を10g/m2以下とすると、薄すぎて満足する保温性が期待できず、目付200g/m2以上だと、厚くなりすぎ重くなり、特に衣料品に使用される場合には動きにくいという問題が生じる。
なお、裏生地層2及び表生地層5はそれぞれ、同じ素材であってもよく、異なった素材であってもよい。また、目付も裏生地層2及び表生地層5は同じであっても、一方を軽く他方を重くしてもよい。
着心地の観点から、裏生地層2及び表生地層5のいずれか一方又は両方の生地は、伸縮性の生地を用いることができる。
【0025】
本発明にかかるエアロゲル含有生地1は、裏生地層2及び表生地層5の間に粘着剤層3とエアロゲル中間層4が積層される。
エアロゲル中間層4は、粉粒状のエアロゲルで構成され、粘着剤層3は、少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を含んだ混合物から構成されるものである。
【0026】
エアロゲル中間層4を構成するエアロゲルとしては、シリカエアロゲル、カーボンエアロゲル、アルミナエアロゲルなどが挙げられるが、本発明では、特にシリカエアロゲルが好適に用いることができる。
本発明にかかるエアロゲル含有生地1におけるエアロゲルの材料の形状としては、細かい粒状(粉体状)のものが好ましく用いられる。前記エアロゲルの粒径は、およそ1.0~50.0μmであり、好ましくは、10.0~50.0μmであり、さらに好ましくは20.0~50.0μmである。
本実施例で使用されるエアロゲルは、非常に低密度な個体で、液体中で調製した多孔体、即ちゲルを、超臨界乾燥を用いて空隙を維持して乾燥多孔体としたもので、該エアロゲルを用いることにより、加熱圧縮後も、あたかも中空層を形成するように機能する。また、エアロゲルは極めて軽量の固体である。
そして、前記エアロゲルは熱伝導率が、空気の熱伝導率よりも低いため、高い断熱特性を有する。
【0027】
従来より、高空隙率のエアロゲルは非常に脆弱であり、破砕しやすく、粉砕されて粉塵を生じやすい傾向があり、生地状に成形すると割れや崩壊を生じやすく、使用用途が大きく制限されている。
そこで、本発明では、上記のような衣服品用の生地に使うのは難しいとされるエアロゲルの問題点を、本実施例の構成にすることにより解消している。
すなわち、本発明では、裏生地層2の上面に粘着剤層3を形成する。前記粘着剤層3は、少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を含んだ混合物から構成される。
そして、前記裏生地層2の上面に粘着剤層3を積層した積層体に静電高圧発生機で高電圧の印加をする。具体的には、裏生地層2を鉄板等の導電性のある板体の上面に配置し、前記裏生地層2と粘着剤層3の積層体の上面から、静電高圧発生機で高電圧を印加することにより、前記鉄板と静電高圧発生機間を帯電させる。
それにより粘着剤層3は静電を帯び、その状態で、上面に粉粒状のエアロゲルを噴霧すると、前記エアロゲルは前記粘着剤層3に静電的に吸着する。したがって、裏生地層2の上面に積層された粘着剤層3の上から、まんべんなく均一にエアロゲルを噴霧することで、裏生地層2の上面に液体粘着剤を介して大量のエアロゲルを固着することができる。液体粘着剤に高電圧を印加し、静電的に吸着させるので超軽量のエアロゲルであっても、確実に吸い込むように固着することができる。
【0028】
前記粘着剤層3は、少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を含む混合物で、その割合は、粘着剤層3内に、熱可塑性ポリウレタン樹脂:増粘剤が、10:1~1:1となるように、より好ましくは7:1~2:1の割合で混合されると、増粘剤が最適な粘性を保持し、熱可塑性ポリウレタン樹脂がエアロゲルを一体的に吸着するので好適である。
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、強度、耐摩耗性、耐屈折性や耐屈曲性能に優れていることから、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含んだ液体粘着剤にエアロゲルを吸着させ、その後の加熱により裏生地層2及び表生地層5を融着することで、エアロゲルの保護するため、衝撃に強く、摩耗性、屈折性や屈曲性能を向上させ、粉砕されにくくする。また、柔軟性、弾力性があり、衣服に使用した場合にしなやかな動きに対応できる。
さらに熱可塑性であり、溶融しやすくエアロゲルと絡まりやすく、裏生地層2及び表生地層5と強固に接着する効果を発揮する。
【0029】
前記粘着剤層3に混合される増粘剤は、粘着剤層3に高い粘性をもたせ、粉体状等の熱可塑性ポリウレタン樹脂と混ざり、静電的に吸着させるエアロゲルの吸着を助ける。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸系、アルギン酸塩、セルロースナノファイバー、メチルセルロース、ポリビニルアルコール系などが挙げられる。
【0030】
水と、増粘剤及び熱可塑性ポリウレタン樹脂を混合した粘着剤層3は、高電圧を印加して静電的にエアロゲルを吸着後、表生地層5を積層して、高温で加熱されると、水の一部又はすべては蒸発し、増粘剤と混ざった粉体状の熱可塑性ポリウレタン樹脂が溶解し、粉粒状のエアロゲルと混ざって粘着状になり、エアロゲルの粉をしっかり粘着して、裏生地層2及び表生地層5に固定される。
【0031】
このように、粘着剤層3は、エアロゲル含有生地1の使用用途にあわせて、適宜混合する熱可塑性ポリウレタン樹脂、増粘剤の量を調整し、エアロゲルと混合することで、より用途に適したエアロゲル含有生地1を提供できるものとなっている。
【0032】
そして、本発明にかかる前記エアロゲル含有生地1は、その全体の厚さαを1.0~10.0mmとし、あたかも一枚の生地のように構成する。これは、これより薄すぎると保温性を確保できず、また10.0mm以上になると、嵩張って、軽量感がなくなるためである。
したがって、さらに好ましくは、エアロゲル含有生地1の厚さαが2.0~6.0mm程度になるよう裏生地層2、粘着剤層3、エアロゲル中間層4及び表生地層5の構成材料の混合比率を調整すると、高い通気性を備え、軽量で嵩張らず、あたかも一枚の生地のように扱え、衣料品や寝装具の生地として使いやすく、裁断、縫製等の製造作業がしやすくなり好適である。
【0033】
そして、本発明にかかるエアロゲル含有生地1は、上記のようにあたかも一枚の生地のように構成されて保温性能の高い素材として取り扱うことができるので、ジャケットやズボン、スカート、シャツ、防寒用インナーや帽子などの衣料品、掛け布団や敷布団などの寝装具など、任意の保温用の製品を製造するために用いることができる。
また、各種衣料品や寝装具の一部に本発明にかかるエアロゲル含有生地1を用いることもできる。例えば、ジャケットの前身頃と後身頃だけエアロゲル含有生地1を用いつつ、袖部を既存の薄手の生地を用いるなど組み合わせると、デザイン性の高い衣料品を製造することもできる。
同様に、寝装品についても側生地内の一部に本発明にかかるエアロゲル含有生地1を用いることもできる。
【0034】
次に、本発明にかかるエアロゲル含有生地1の製造方法を
図2、
図3に基づいて説明する。
本発明にかかるエアロゲル含有生地1の製造方法の一例としては、
(1)基台上に裏生地を配置し裏生地層を形成する工程と、
(2)前記裏生地層の上に、水と熱可塑性ポリウレタン樹脂と増粘剤を混合した液体粘着剤を塗布し粘着剤層を形成する工程と、
(3)前記裏生地層の上に粘着剤層が形成された積層体に、高電圧を印加して帯電させる工程と、
(4)前記帯電した積層体の粘着剤層の上に、粉粒状のエアロゲルを噴霧し、静電的に均一に吸着させて積層しエアロゲル中間層を形成する工程と
(5)前記エアロゲル中間層の上に、表生地を載せ、表生地層を形成する工程と、
(6)前記裏生地層、粘着剤層、前記エアロゲル中間層及び表生地層が順に積層された積層体を高温の圧縮機で加熱プレスし熱融着により一体化する工程、
を含む。
【0035】
図2及び
図3においては、鉄板等の基台上に、エアロゲル中間層4を積層する側が上面になるように裏生地層2がセットされる(第1工程)。
【0036】
次いで、裏生地層2の上に、粘着剤層3を形成する(第2工程)。
粘着剤層3は、水と熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を撹拌混合したもので、裏生地層2の上面に均一に塗布して形成する。
前記塗布する粘着剤層3は、前記粘着剤層3を構成する水と熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤の総重量に対し、熱可塑性ポリウレタン樹脂が5~10重量%、増粘剤が1~2重量%で構成される。本実施例では、水89重量%、熱可塑性ポリウレタン樹脂10重量%、増粘剤1重量%で構成している。
熱可塑性ポリウレタン樹脂と増粘剤は、粘着剤層3内に、好ましくは熱可塑性ポリウレタン樹脂:増粘剤が、10:1~1:1、より好ましくは7:1~2:1の割合で混合されると、増粘剤が最適な粘性を保持し、熱可塑性ポリウレタン樹脂がエアロゲルを吸着するので好適である。
【0037】
その後、第2工程で積層された積層体に静電高圧発生機により高電圧を印加する。基台を導電性を有する材質(鉄板等)とし、静電高圧発生機との間の前記積層体を帯電させる(第3工程)。
【0038】
そして、前記帯電した積層体の粘着剤層3の上に、粉粒状のエアロゲルを噴霧し、静電的に均一に液体粘着剤に吸着させて積層し、エアロゲル中間層4を形成する(第4工程)。
静電気を帯びた粘着剤層3は、噴霧されたエアロゲルを静電的に吸着し、熱可塑性ポリウレタン樹脂と混ざった増粘剤による粘性でしっかりとエアロゲルを担持する。したがって、エアロゲル粉粒体は、粘着剤層3の上面に均一に満遍にムラなく固着し、断熱性、保温性、通気性が均一な形状に形成される。
【0039】
次に、前記エアロゲル中間層4の上に、表生地を載せ、表生地層5を形成する(第5工程)。
前記裏生地層2及び表生地層5を構成する生地は、本発明においては特に限定されず、全体として薄いエアロゲル含有生地1としたい場合には、強度があって薄い生地を採用でき、高い断熱性及び保温性を備えた厚めのエアロゲル含有生地1としたい場合には、それに適した生地を選択することができる。また、必要により、羽毛からなる羽毛層をエアロゲル中間層に隣接するように配置してもよい。
【0040】
前記第5工程で得られた積層体10を高温に加熱した圧縮機でプレスし、熱融着により一体化し(第6工程)、その後冷却しエアロゲル含有生地1を完成させる(第7工程)。
本実施例では、粘着剤層3を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂や増粘剤の材料特性に合わせ、およそ200℃の高温で加熱し、高圧で圧縮をしている。高温で圧縮することで、粘着剤層3内の水の一部又は全てが蒸発し、粘着剤層3内の熱可塑性ポリウレタン樹脂が溶解し、これに吸着して固定されたエアロゲル粉粒体が含まれ、裏生地層2と表生地層5と一体に熱融着する。この方法であれば、大量のエアロゲルが破壊されることなく、均一に含有された生地を製造することができる。
また、一体に熱融着されたエアロゲル含有生地は、保温性を備えつつ、軽量で嵩張らず、高通気性を発揮できるおよそ1.0~10.0mm程度の厚さに形成されるので、あたかも一枚の生地のように取り扱うことができ、様々な衣服や寝装具等に加工が容易である。
【0041】
本発明のエアロゲル含有生地1の製造は、上記の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明にかかるエアロゲル含有生地は、大量のエアロゲル粉粒体を均一に含有し、保温性が高く、かつ薄くて軽量で嵩張らず、さらに優れた通気性も備えるので、汗や熱、蒸気で蒸れることがなく、羽毛布団やダウンジャケットなどはもちろん、シャツやズボン、スカート、インナーや帽子、手袋、ブーツのアッパー部やバッグ、布団、毛布、シーツなど、保温性とともに軽量性、通気性が求められる布製品一般に使用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 エアロゲル含有生地
2 裏生地層
3 粘着剤層
4 エアロゲル中間層
5 表生地層
10 積層体
α エアロゲル含有生地の厚さ
【要約】
【課題】 保温性に優れ、非常に薄く軽量で嵩張らず、かつ高い通気性を備えたエアロゲル含有生地及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 裏生地層と、粘着剤層と、エアロゲル中間層及び表生地層とが、この順で配置されて一体化してなるエアロゲル含有生地であって、前記エアロゲル中間層は、粉粒状のエアロゲルからなり、前記粘着剤層は、少なくとも熱可塑性ポリウレタン樹脂及び増粘剤を含む混合物から構成され、全体が熱融着により一体化してなることを特徴とするエアロゲル含有生地。
【選択図】
図1