(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】凍結乾燥物
(51)【国際特許分類】
F26B 5/06 20060101AFI20220609BHJP
F26B 17/20 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
F26B5/06
F26B17/20 A
(21)【出願番号】P 2021127617
(22)【出願日】2021-08-03
【審査請求日】2021-08-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520114797
【氏名又は名称】株式会社エムアイアイ
(72)【発明者】
【氏名】盛本 修司
(72)【発明者】
【氏名】竹原 誠
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌人
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-530061(JP,A)
【文献】特開2002-029909(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141787(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/235036(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 5/06
F26B 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結乾燥装置において機械的に力を受けて移動しながら乾燥される凍結乾燥物であって、
前記凍結乾燥装置は原料液をスプレーして凍結物を生成する凍結部と、前記凍結物を移動させながら乾燥させる乾燥部とを備え、
前記凍結部は、原料液をノズルから真空中へ、又は、冷風環境中に放出して凍結物を生成し、
前記乾燥部は、水平方向に直線状に延びる筒形状を有し、内壁に長手方向に向かって連続的に形成された螺旋状の壁部又は溝部を設けた真空の筒状体を備え、その周囲を囲むように長手方向において少なくとも3カ所以上に区画され、該区画された筒状体の周辺領域に夫々温度制御されたエアーまたは液が供給されて、前記筒状体の内壁と前記壁部又は溝部とに熱伝導され、前記筒状体が回転することにより前記凍結物或いは凍結乾燥物は前記壁部又は溝部との間のスベリにより前記筒状体の長手方向へ移送されると同時に前記筒状体の内壁及び前記壁部又は溝部に接触して熱伝導されて昇華或いは乾燥し、昇華或いは乾燥に伴い蒸発した水分を外部に排出するように構成してあり、
流動開始角が44度より小さいこと、又は、安息角が流動開始角よりも大きく且つ55度より小さいこと
、及び、前記筒状体の長手方向長さが30cmであるときに投入量10gに対する残留量が3g以下であることを特徴とする凍結乾燥物。
【請求項2】
流動開始角が
38.0度以下、安息角が40.5度以下、安息角は流動開始角よりも大きい、かつ、前記残留量が0.4g以下であることを特徴とする請求項1に記載の凍結乾燥物。
【請求項3】
前記原料液には賦形剤として糖アルコール及び二糖類の少なくとも一方が含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の凍結乾燥物。
【請求項4】
前記糖アルコールはエリスリトール又はマンニトールであり、前記二糖類はスクロース又はトレハロースであることを特徴とする請求項3に記載の凍結乾燥物。
【請求項5】
前記凍結乾燥物が注射剤又は固形剤の医薬品であることを特徴とする請求項1から4に記載の凍結乾燥物。
【請求項6】
前記注射剤又は医薬品が、COVID-19ワクチン、天然痘ワクチン又はインフルエンザワクチンを含むワクチン製剤、核酸又は抗体を含むバイオ医薬、抗ウイルス剤、及び幹細胞の何れかであることを特徴とする請求項5に記載の凍結乾燥物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空凍結乾燥装置及び真空凍結乾燥方法に関わる凍結乾燥物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノズルより液を放出し、その液を凍結凝固させた凍結粒子を凍結乾燥する凍結乾燥装置及び凍結乾燥方法が提案されている。(特許文献1)
【0003】
また、原料液を入れたトレーを棚に載置させ、凍結乾燥させるようにした凍結乾燥装置も提案されている(特許文献2)。
【0004】
また、真空凍結乾燥装置において、真空中へ放出し、凍結粒子を昇華乾燥させるものが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2013/050162号公報
【文献】国際公開WO2010/005021号公報
【文献】国際公開WO2019/235036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、例えば、棚式真空凍結乾燥装置(特許文献2)においては凍結乾燥物を連続して製造できない。即ち、所定量の原料液が入ったトレーを棚に載置して、凍結乾燥を行った後、取り出すという方式(所謂バッチ式)のため、量的制限を受けてしまう。更に、凍結乾燥したものは、トレー内で固まりとなっているので、運搬し易い粉体とするには、凍結乾燥後に解砕や篩過工程の手間を要する。加えて、トレーの棚及び棚内の載置場所によって、凍結乾燥の進行状態が異なり、品質にバラツキを生じるという問題も発生する。
【0007】
即ち、従来においては、生産性の問題、品質上のバラツキ、トレーで凍結乾燥後の解砕や篩過に手間取るという問題がある。つまり、一連の連続操作で仕込みから取り出しまで行うことはできないので、生産性で問題がある。また、所定量の原料液を入れたバイアルを棚に並べ、棚式凍結乾燥をする場合では、バイアル内での凍結乾燥故に、その後処理は簡略化されるが、棚式凍結乾燥であれば、棚載置位置などに起因する凍結及び乾燥の品質のバラツキが生じる。即ち、凍結乾燥において、凍結させたときの凍結物の温度、及び、乾燥させた時の乾燥物の水分量が均一ではなかった。よって、凍結及び乾燥の品質が均一な凍結乾燥物を速やかに且つ大量に製造することはできなかった。
【0008】
そこで、本発明者は、以上の問題点に鑑みて、凍結及び乾燥の品質が均一な凍結乾燥物を連続的に製造することができる凍結乾燥装置及び凍結乾燥方法を提案している(特許文献4:特許第6777350号公報参照)。 ここで、『連続的』とは、所定量の原料液が入ったトレーまたはバイアルを棚に載置して凍結乾燥するバッチ式とは対称的に、凍結乾燥における投入から凍結、乾燥、取り出しまでの工程が繋がっていることであり、原料液を供給する限り、これらの工程を連続して行い、継続的に凍結乾燥産物を製造し続けることである。
かかる特許によって、従来技術の問題点を克服し、原料液を投入する限り、連続して凍結乾燥物を製造できるので、量的制限を受けず、且つ品質上のバラツキを改善することができるが、凍結物及び凍結乾燥物が凍結乾燥装置の乾燥部内を移送される間に、乾燥部内に該凍結物及び凍結乾燥物が付着してしまうという問題が発生した。即ち、付着した該凍結物及び凍結乾燥物が乾燥部内で緩衝材となり、続いて移送される凍結物及び凍結乾燥物に対する均一な熱伝導が困難となった。
【0009】
上記問題を解決するためには、凍結物及び凍結乾燥物が乾燥部と十分に接触して良好な熱伝導をしながら、乾燥部に付着して残留することなく、スムースに移送される必要がある。この際、留意すべきは、凍結乾燥された乾燥物が相互に付着し易い或いは乾燥部内壁面に付着し易い性質があるということである。従って、本発明の課題は、上述した凍結乾燥装置において品質が均一な凍結乾燥物を連続的に製造するために、乾燥部内をスムースに移送できる特性を有する凍結乾燥物を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、凍結乾燥物が、乾燥部の壁面への付着を少なくし、また、凍結乾燥物同士の付着により塊とならずにスムースに移送されるためには、凍結乾燥物自体の特性が重要な要件であり、このような凍結乾燥物の特性を、安息角と流動開始角を測定することで見出した。
即ち、凍結乾燥装置において機械的に力を受けて移動しながら乾燥される凍結乾燥物であって、流動開始角が44度より小さいこと、又は、安息角が流動開始角よりも大きく且つ55度より小さいというものである。あるいは、流動開始角が38.0度以下、安息角が40.5度以下、及び安息角が流動開始角よりも大きいというものである。かかる特性を有する凍結乾燥物であれば、乾燥部における他物(壁面など)や乾燥物同士の付着が少なく、スムースな移送が行い得ることが分った。
【0011】
本発明の凍結乾燥装置においては、その乾燥部は内部に凍結物或いは凍結乾燥物を移送する筒状体を備え、その筒状体は水平方向に直線状に延びる筒形状であって、筒状体内には連続的に設けられる螺旋状の壁部又は溝部を設けた移送手段が設けられる。その筒状体は長手方向において、少なくとも周囲を囲むように3か所以上に区画され、区画された筒状体の周辺領域に夫々温度制御されたエアー或いは液が供給され、筒状体の外面の温度を調温する。それにより調温された筒状体の内壁或いは内部の移送手段に凍結物或いは凍結乾燥物を十分に接触させ、それらと移送手段とのスベリにより筒状体の長手方向へ移送させ、そして同時に効率よく熱伝導させて内部の凍結物あるいは凍結乾燥物を昇華或いは乾燥させる。なお、蒸発した水分は外部に排気するように構成する。筒状体は回転部によって回転を行い、筒状体が回転するとその入り口から入る凍結物が螺旋状の壁部又は溝部を設けた移送手段を通って、筒状体内を出口に向かって順次移送される。そのような移送を行う間に凍結物は連続的に昇華及び乾燥が行われる。そのような構造の凍結乾燥装置であれば、乾燥部における他物(壁面など)や乾燥物同士の付着がより少なく、よりスムースな移送が実現できることが分った。
なお、本発明にいう凍結乾燥物とは、凍結乾燥方法によって原料液が凍結乾燥したものをいう。ここに言う原料液とは、凍結乾燥を行う液のことを言い、注射剤又は固形剤を含む。具体例として、COVID-19ワクチン、天然痘ワクチン又はインフルエンザワクチン製剤を含むワクチン製剤、核酸または抗体を含むバイオ医薬、抗ウイルス剤、幹細胞などである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記した条件によって凍結乾燥物が乾燥部と十分な接触と熱伝導をして、乾燥しながらスムースに移送し得ることができ、また、凍結乾燥物が、筒状体の壁面への付着をより少なく、また、凍結乾燥物同士の付着による塊とならず、筒状体内でスベリ良く、よりスムースに移送されながら十分な熱伝導により乾燥され得ることができる。
殊に、原料液への賦形剤として糖アルコール(例えばマンニトール又はエリスリトール)及び二糖類(例えばスクロース又はトレハロース)の少なくとも一方を含むことで、凍結乾燥物の粉同士の接触面積を小さくして付着を抑制し、乾燥装置内でスベリ良く移送しながら乾燥させてよりスムースに移送できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施に用いた真空凍結乾燥装置の縦断正面図である。
【
図2】
図2は、
図1の真空凍結乾燥装置の乾燥部を示す正面図である。
【
図3】
図3は、
図1の真空凍結乾燥装置の乾燥部を示す平面図である。
【
図4】
図4は、乾燥部に備えた筒状体を構成する複数の筒部の1つを示す斜視図(a)、正面図(b)、横断面図(c)、縦断正面図(d)、及び、(d)の一部拡大図(e)である。
【
図5】
図5は本発明に係る安息角測定方法の説明図である。
【
図6】
図6は本発明に係る流動開始角の測定装置の斜視図である。
【
図7】
図7は流動開始角の測定状態を示す正面図である。
【
図8】
図8は凍結乾燥物の実験サンプルNo.1~8、及び、参考例1~2の安息角と流動開始角の測定データである。
【
図9】
図9は凍結乾燥物の実験サンプルNo.9~17、及び、参考例3の安息角と流動開始角の測定データである。
【
図10】
図10は安息角と流動開始角の測定データに基づく流動性の解析データである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施の形態について、図面にもとづいて以下詳述する。本発明にかかる凍結乾燥物の製造に用いる真空凍結乾燥装置については、前記した特許文献4(特許第6777350号公報)を参照されたい。なお、上記凍結乾燥物は、注射剤又は固形剤の医薬品を含み、例として、COVID-19ワクチン、天然痘ワクチン又はインフルエンザワクチンを含むワクチン製剤、核酸または抗体を含むバイオ医薬、抗ウイルス剤、幹細胞である。
【0015】
図1は本発明の実施に用いた真空凍結乾燥装置の縦断正面図、
図2は、
図1の真空凍結乾燥装置の乾燥部を示す正面図、
図3は、
図1の真空凍結乾燥装置の乾燥部を示す平面図である。
真空凍結乾燥装置1は、凍結部2と乾燥部3と連結部4と捕集部5を備えている。凍結部2は、原料液を真空容器内にノズル21から放出し、放出した原料液が真空中にて凍結して凍結物を生成する。放出又は滴下された原料液は落下する途中において水分が蒸発して蒸発潜熱が奪われることにより自己凍結し、昇華によって微小の凍結粒子である凍結物となり、下方が狭くなっているテーパー形状を有する収集部22に向けて落下し、収集部22によって集められる。連結部4は、凍結部2と乾燥部3とを連結するものであり、凍結部2で生成した凍結物を乾燥部3に移送するためのものである。 乾燥部3は、凍結させた凍結物を昇華及び乾燥させるものである。捕集部5は、乾燥部3の出口から放出される乾燥物を捕集する。真空凍結乾燥装置では原料液をノズルから冷風環境中へ放出して凍結し、凍結物を生成することも可能である。冷風凍結方法を用いる場合では、原料滴下時に側方から冷風を当てることになる。
【0016】
乾燥部3は凍結物或いは凍結乾燥物を移送する筒状体31を備え、筒状体31は、水平方向に直線状に延びる筒形状であって両端が開口し、連結部4によって搬送される凍結物が入る入口部31bと、昇華及び乾燥した乾燥物の出口となる出口部31cとを備えている。入口部31bは、凍結物を受け取る受取口302を有する。筒状体31内には、筒状体31の内壁近傍に入口部31bから出口部31cに向かって 連続的に設けられる螺旋状の移送手段31aが設けられている。連結部4から搬送されてきた凍結物は、筒状体31の入口部31bから入り、螺旋状の移送手段31aによって出口部31cまで移送される。
【0017】
筒状体31は長手方向において、少なくとも周囲を囲むように3カ所以上に区画されて、区画された筒状体31の周辺領域に夫々温度制御されたエアー或いは液体窒素の滴下供給によって温度制御する調温手段30a~30jが設けてある。調温手段30a~30jは、筒状体31の外側の周辺部に設けられており、筒状体31の外面の複数の領域40a~40jの温度を調温する。複数の領域40a~40jは、筒状体31の入口部31bから出口部31cに向かって設けられており、それぞれが独立して温度の制御が可能である。調温手段30a~30jは、複数の領域40a~40j内を調温することで、複数の領域40a~40jに対応する筒状体31内の箇所の温度を調整する。調温手段30a~30jは10個設けられており、調温手段30a~30jによって形成される複数の領域も10個設けられている。
【0018】
調温された複数の領域40a~40jから筒状体31の内壁と内部の移送手段31aに熱伝導され、該内壁或いは該移送手段31aと凍結物或いは凍結乾燥物とを十分に接触させながら、該凍結物或いは該凍結乾燥物と移送手段31aとの間のスベリにより筒状体31の長手方向へ移送させると同時に該接触により効率よく熱伝導させて内部の凍結物或いは凍結乾燥物を昇華或いは乾燥させ、蒸発した水分は外部に排気するように構成してある。そして、前記3カ所以上に区画された筒状体の周辺領域は、筒状体31の入口から出口に向かって それぞれマイナス温度領域と、前記マイナス温度からプラス40℃の範囲の温度領域と、プラス20℃ 以上の温度領域を少なくとも有する。
【0019】
筒状体31を回転させる回転部7が設けてある。回転部7によって筒状体31が回転すると、筒状体31の入口部31bから入ってくる凍結物が螺旋状の移送手段31aを通って、筒状体31内を出口部31cに向かって順次、移送される。その間で、凍結物は連続的に昇華及び乾燥が行われる。回転部7は、筒状体31だけを回転させるように構成されており、筒状体31の外側の調温手段30a~30jは回転しない。調温手段30a~30jも、回転しないように固定されている。
【0020】
回転部7は、モーター71、プーリー72、73、ベルト74、回転軸75,76及び、回転ローラー77、78を備えている。 プーリー72、73には、ベルト74が掛けられている。ベルト74を介してモーター71の回転力が伝達される。回転ローラー77は、筒状体31の両側の下方に配設されている。筒状体31は、両側に配設されている回転ローラー77上に載置されている。 プーリー73は、回転軸75の一方端付近に取り付けられている。プーリー73の内側に、固定台に取り付けられた回転ローラー78が設けられており、回転軸75の他端にも 同様に固定台に取り付けられた回転ローラー78が設けられている。回転ローラー78、78の間には、8個の回転ローラー77が回転軸75に取り付けられている。回転軸76は、一方端には固定台に取り付けられた回転ローラー78と、他方端にも固定台に取り付けられた回転ローラー78とを有する。回転ローラー78、78の間には、8個の回転ローラー77が回転軸76に取り付けられている。回転軸75に取り付けられた回転ローラー77は駆動ローラーであり、回転軸76に取り付けられた回転ローラー77は従動ローラーである。
【0021】
モーター71が回転すると、プーリー72を通じてベルト74が回転し、プーリー73の回転によって、回転軸75が回転し、回転軸75に固定された回転ローラー77が回転することで、筒状体31が回転し、回転軸76に取り付けられている従動ローラーとして回転ローラー77が回転する。筒状体31の回転速度について説明すると、回転部7によって、回転速度が毎分1/30回転以上1回転以下の範囲 で回転することが好ましい。
【0022】
次に、本発明の実施に用いる乾燥部における移送手段31aについて説明する。
図4は、筒状体31を構成するする複数の筒部のうち筒部31Bを示している。
図4(a)は筒部31Bの斜視図、(b)は筒部31Bの正面図、(c)は筒部31Bの側面図、(d)は筒部31Bの縦断面図、(e)は(d)のB部を拡大 して示した断面図である。
【0023】
筒部31Bには、開口端の両側に半径方向に突出する縁部31dが形成され、螺旋状の移送手段31aの一部が一方の端部から他方の端部まで連続的に形成されている。 筒部31BXの内壁に1周目の壁部31a1、2周目の壁部31a2ように、移送手段31aの一部として連続的に壁部が形成される。壁部31a1と壁部31a2の高さは、移送手段31aの高さとなり、例えば3mm以上50mm以下の範囲で構成することが好ましい。 壁部31a1と壁部31a2のピッチPは、螺旋状の移送手段31aのピッチとなり、例えば5mm以上20mm以下の範囲で構成することが好ましい。筒状体31の内周面には、回転軸を中心とする移送手段31aとして螺旋状の溝部を形成することで、筒状体31内を螺旋送りする作用が付与され、凍結物又は凍結乾燥物を移送することができる。
【0024】
乾燥部3においては、生成された乾燥物がスムースに移送されて取り出されるための特性を発見する必要があり、装置における乾燥物の残留物と特性の関係を明らかにした。即ち、凍結乾燥物の移動に関わる特性であり、具体的には、安息角と、移動を開始する流動開始角である。この流動開始角及び安息角に着目して測定を行ったところ、筒状体31の中をスムースに移送できる凍結乾燥物の特性として、安息角が流動開始角より大きく、且つ安息角が55度より小さいことが判明した。また、筒状体31の中をスムースに移動できる凍結乾燥物の特性として、流動開始角が44度より小さいことが判明した。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の好適な実施例について説明する。
先ず、サンプルの調製方法について記述する。原料液は、ここでは、原料試薬につき、便宜上医薬品乃至薬剤は混入されていない。原料液の10%Dマンニトールの調製方法の例として、Dマンニトール50gに水を加えて500gとし、攪拌したものである。また、混合溶液である5%Dマンニトール・5%スクロースの調製方法の例として、Dマンニトール25gにスクロース25gを加えて、水を加えて500gとし、攪拌したものである。以下、同様の表記では、原料液に対する賦形剤の重量%を意味する。
【0026】
本実験に用いたサンプルの基となった原料液として、(1)10%Dマンニトール・10%スクロース、(2)8%Dマンニトール・2%スクロース、(3)5%Dマンニトール・5%トレハロース、(4)5%エリスリトール・5%スクロース、(5) 5%Dマンニトール・5%スクロース、(6)10%トレハロース、(7)10%スクロース、(8)10%Dマンニトール、(9)10%エリスリトール、(10)5%Dマンニトール・5%トレハロース、(11)5%Dマンニトール・5%スクロース、(12)10%エリストリール、(13)5%エリストリール・5%スクロース、(14)10%トレハロース、(15)10%Dマンニトール、(16)10%スクロース、(17)8%Dマンニトール・2%スクロースを調製した。
【0027】
このように準備した原料液の内、(1)-(8)を凍結乾燥装置1(スプレー凍結乾燥装置)により凍結乾燥物を生成し、サンプルNo1、No2、No3、No4、No5、No6、No7、No8とした。また、原料液(9)-(17)を棚式凍結乾燥装置により凍結乾燥物を生成し、ステンレススパーテルで解砕し、目開き850ミクロンのメッシュで篩過し、サンプルNo.9、No10、No11、No12、No13、No14、No15、No16、No17とした。
前記凍結乾燥物として、水分が10%未満を対象としている。また、前記真空凍結乾燥装置1で生成した凍結乾燥物は粒径が2000ミクロン以下である。
凍結乾燥物ではないが、参考例として、(1)Tablettose、(2)馬鈴薯でん粉、(3)だんご粉を目開き850ミクロンのメッシュで篩過して作製した。
【0028】
次いで、特性試験方法について記述する。
図5は安息角測定方法の説明図である。安息角の測定は、次のように行った。
最終的に作製した乾燥物200mgを、採取し、先端の漏斗口の内径が6ミリメートルの漏斗に投入し、漏斗口から8cm下方に位置した直径2cmの台上に放出させて自然落下させて、堆積させてゆく。この際、堆積状態は、単純に円錐形を呈するのでなく、頂点が中央に位置しない場合がある。従って、安息角を見るときには、各円錐の頂点と下方の台面との傾斜角の平均を取り出して平均値を取出す必要がある。即ち、個々の山の頂点を通る十字方向4ヶ所の前記水平面との角度の平均をとった。後述するサンプルNo1のNo.1からNo.4(左欄)は、4回の実験を行ったもので、上欄は、4カ所の安息角の測定値と、その平均を出したものである。以下、同様のことが、サンプルNo2以下にも言える。また、流動開始角についても、同様に右欄に挙げており、サンプルNo1について、4回の試験ごとに流動開始角を測定し、その平均流動開始角を出し、且つ、流動開始角の標準偏差値も右欄に示している。以下のサンプルNo2からサンプルNo20(
図6参照)も同様である。
【0029】
次いで、
図6に示すのは、本発明の流動開始角を測定する測定装置の斜視図、
図7は流動開始角の測定状態を示す測定装置の正面図である。
流動開始角は、凍結乾燥物の装置に対する付着性及び凍結乾燥物同士の付着性を分析するための手法であり、ここでは、トレーに凍結乾燥物を載置し、トレーをゆっくりと傾斜させ、凍結乾燥物が流れ始めた時の角度を測定するものである。実験で用いた測定装置10は、軸心方向を水平に向けた樹脂製の円筒11の内部に上向きの平底状トレー12を水平状態に設置し、円筒11の軸方向の一端部に円筒11の半周180度分の目盛りを付し、目盛りの中心位置に指針位置が常に鉛直上向きに保持される測定針を回転自在に取り付けたものである。トレー12の両側で円筒11に対して留め具13で固定してある。トレー12は、横幅が14cmで奥行き9cm、深さ15mmのSUS430製のものが用いられ、ここに、200mgの凍結乾燥物を充填し、手で凍結乾燥物が飛散しないようにトレーを10回タップし、積もった凍結乾燥物を崩した。その後、円筒11を、1秒あたり約6度の傾斜角の変化となるよう傾斜(回転)させる。これにより、凍結乾燥物がトレー上を流れ始めるときの測定針の目盛り位置を読み流動開始角とする。
図7は流動開始角が31.1度付近の場合を示している。
【0030】
また、装置における実際の有用性を評価するため、筒状体31での乾燥物の残留特性を測定した。その実験方法として、
図4に示す筒長さが30cmの筒部31Bだけを残して他の筒部を取り外し、軸線方向を中心として、筒部31Bを1分間に1回転の速度で回転させた状態で、入り口から2センチの箇所に10グラムのサンプルを投入し、30分間、筒部31Bの出口からの排出物を収集した。そして、残留量(投入量―排出量で計算)を計測した。
図8及び
図9において、安息角と流動開始角について、それぞれ試行回数を3回または4回おこない、その平均と標準偏差を計算した。例として、No1のSFD10%Dマンニトール・10%スクロースの安息角1から4の平均は、No1は36.5度、No2は42.8度、No3は42.2度、No4は40.5度であり、その平均は40.5度であり、流動開始角は、No1は39度、No2は31度、No3は44度、No4は32度であり、その平均は36.5である。
サンプルNo1からサンプルNo20の実験生データを
図8及び
図9に挙げ、解析、評価結果を
図10に示す。
図8、
図9、
図10のサンプル名に記載されているFDは棚式凍結乾燥、SFDはスプレー凍結乾燥を示している。
図10ではサンプルNo1からサンプルNo17、参考例1―3の安息角の平均A(°)、流動開始角の平均B(°)、安息角―流動開始角C(°)、残留物D(g)を表している。
【0031】
本発明では、前記螺旋状の移送手段31aの移送方向長さを30cmとしたときに、投入物が10gとすると、残留物が3g以下である移送特性を備えた乾燥物を実施例とした。実施例となった凍結乾燥物の物性を解析すると、安息角Aが55度以下であり、且つ、安息角≧流動開始角の関係が成立することが判明した。また、流動開始角が44度より小さいことが判明した。
【0032】
即ち、安息角と流動開始角の関係が、前記の如く成立すれば、好適な乾燥物の移送がスムースに行われるというわけである。例として示すと、サンプルNo1のSFD10%Dマンニトール・10%スクロースの安息角は40.5度、流動開始角は36.5度、安息角―流動開始角は4.0度で、残留物が0.2グラムで良好な移送ができる。
実施例として示すと、
図10から、サンプルNo.1,2,3,4,5,6,7,8は、本発明の対象とするもので、サンプルNo14は、安息角≧55度に該当しないので比較例とする。サンプルNo14を除き、サンプルNo9~17は、安息角≧流動開始角に該当しない。よって、これらについては比較例とする。
【0033】
結論として、好適な結果を得られたサンプルNo1からサンプルNo8を実施例とし、適格性の好ましくないサンプルNo9からサンプルNo17を比較例とした。また、前記実施例の中でも、糖アルコールと二糖類の混合溶液、即ち、糖アルコールとしてDマンニトール又はエリスリトール、及び二糖類としてスクロース又はトレハロースの混合溶液を原料液として、凍結乾燥物を生成したサンプルNo1~6は残留物が0.4g以下で特に少なく、良好な移送がみられた。
移送方向長さ30cmの筒部31Bで投入量10gに対して3g以下の残留量は、筒部31Bの10個分に相当する筒状体31の3m~6mの有効乾燥筒長さに対して、それぞれ、30g~60gの残量となるが、これは、長期間稼働した場合におよそ100g以下の残留量となり、生産装置として許容できる。もし、同条件での残留量0.4g以下であれば、3m~6mの有効乾燥筒長さに対して、4g~8gの残量となり、収率面でより望ましい。
【0034】
以上、本発明を、実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態の範囲には限定されないことは言うまでもなく、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0035】
1 凍結乾燥装置
2 凍結部
3 乾燥部
4 連結部
5 捕集部
7 回転部
10 流動開始角の測定装置
30a~30j 調温手段
31 筒状体
31a 螺旋状の移送手段
40a~40j 領域
【要約】 (修正有)
【課題】凍結乾燥装置において品質が均一な凍結乾燥物を連続的に製造するために、乾燥部内をスムースに移送できる特性を有する凍結乾燥物を製造する。
【解決手段】凍結乾燥装置において機械的に力を受けて移動しながら乾燥される凍結乾燥物であって、流動開始角が44度より小さい、又は、安息角が流動開始角よりも大きく且つ55度より小さい。凍結乾燥装置は原料液をスプレーして凍結物を生成する凍結部と、前記凍結物を移動させながら乾燥させる乾燥部とを備える。乾燥部は、内部に前記凍結物を移送させる螺旋状の移送手段を設けた真空の筒状体を備え、筒状体が回転することにより凍結物或いは凍結乾燥物を前記移送手段との間のスベリにより筒状体の軸線方向に移動させる。原料液には、賦形剤として糖アルコール及び二糖類の少なくとも一方が含まれている。
【選択図】
図1