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▶ 角川 裕次の特許一覧

<図1>
  • 特許-走行制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   A63H 18/12 20060101AFI20220609BHJP
   A63H 19/10 20060101ALI20220609BHJP
   A63H 29/22 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
A63H18/12
A63H19/10
A63H29/22 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021201221
(22)【出願日】2021-11-19
【審査請求日】2021-11-19
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518378488
【氏名又は名称】角川 裕次
(72)【発明者】
【氏名】角川 裕次
【審査官】宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-113522(JP,A)
【文献】特開2003-245477(JP,A)
【文献】特開2008-048935(JP,A)
【文献】米国特許第10434429(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 1/00 - 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流モーターを用いて走行する模型車両の走行制御装置において、
前記走行制御装置は前記モータへの印加電圧を決定する制御部を含み、
前記制御部は走行速度電圧設定手段と、低速強化電圧設定手段と、低速強化周期設定手段と、低速強化パルス幅設定手段と、を含み、
前記走行速度電圧設定手段で定められる電圧を前記モーターに印加するが、
前記走行速度電圧設定手段で定められる電圧が0ボルトより大きく、かつ前記低速強化電圧設定手段で定められる電圧よりも小さい場合には、
前記低速強化周期設定手段で定められる周期で前記低速強化電圧設定手段で定められる電圧を前記低速強化パルス幅設定手段で定められるパルス幅で挿入することにより、
前記走行速度電圧設定手段で定められる電圧が低電圧の場合でも
前期模型車両を走行可能にすることを特徴とする
模型車両の走行制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記モーターへの印加電圧をPWM方式で制御することを特徴とする模型車両の走行制御装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記制御部が前記低速強化電圧設定手段と、前記低速強化周期設定手段と、前記低速強化パルス幅設定手段と、を具備して設定値を定める代わりに、それらの一部または全部をそれぞれ、事前定義された値、前記走行速度電圧設定手段で定められる電圧値に応じて決まる値、疑似乱数による値、のいずれかを設定値とする特徴とする
模型車両の走行制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の
模型車両の走行制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流モーターを用いて走行する模型車両の走行制御方法に関し、より詳細には模型車両の超低速走行を実現するモーターへの電圧印加制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
模型車両の運転における低速走行は、趣味性の高い玩具において実感性の高さを実現する観点で重要である。例えば、鉄道模型による模型車両の低速走行は、駅ホーム等での発車や停車の実感性の高さを決める重要な役割を果たしているため、その実現は長年に渡る技術的課題のひとつに挙げられる。本発明は直流モーターを用いて走行する鉄道模型車両を主な対象とし、超低速走行を実現する直流モーターへの電圧印加制御方法に関する。なお本発明における超低速走行とは、通常の電圧の印加方法では機構の摩擦等の要因で模型車両が走行できない程度の速度での走行を指すものとする。以降では主に鉄道模型を対象として本発明を説明するが、本発明の適用対象はそれに限定されるものではなく、例えば戦車、自動車、工事車両等の模型車両にも適用可能である。
【0003】
本発明はモーターの回転速度の制御に関するものであり、モーターへの印加電圧の波形の違いにより、アナログ電圧を印加する方式(以降ではアナログ印加方式と呼ぶ)とPWM(Pulse With Modulation)波による電圧を印加する方式(以降ではPWM印加方式と呼ぶ)の2通りの制御方式を対象として説明をする。なおアナログ印加方式とは時間変化のない電圧がモーターに印加され、その値の大小に従ってモーターの回転速度が加減される制御方式である。またPWM印加方式とは電圧の高速なオン・オフの形でモーターに電圧が印加され、そのオン・オフの時間比率、すなわちデューティー比で決まる実効電圧値の大小に従ってモーターの回転速度が加減される制御方式である。本発明はアナログ印加方式とPWM印加方式の2方式に限定するものではなく、他の印加方式にも適用可能である。
【0004】
模型車両の超低速走行を困難とする主要因は、モーターのコギングトルクや線路・車輪・ギア・モーターによる摩擦と、モーターの出力トルクとの関係にある。モーターへの印加電圧が低いときはモーターの出力トルクは小さいため、静摩擦やコギングトルクを超えずモーターは回転しない。印加電圧を次第に高くしてゆきモーターの出力トルクが静摩擦を超えた途端にモーターは急に回転を始め、模型車両は急発進をしてしまう。
【0005】
模型車両が急発進する振る舞いを鉄道模型分野においては特にラピッドスタート(rapid start)と俗称しており、走行の実感性を大きく損なうことから様々な対策が考えられてきた。以降での本発明を説明では主に鉄道模型を対象とすることから、鉄道模型の主な車両走行制御方式であるアナログ制御方式とデジタル制御方式それぞれの概略と関連する用語を説明する。アナログ制御方式とは、線路に電圧を印加し、その電圧がそのまま模型車両内のモーターに印加されることで、線路への印加電圧の加減により走行速度を制御する方式である。この印加電圧の加減をして模型車両の走行速度の制御を行う装置はパワーパックと呼ばれている。デジタル制御方式とは、走行制御をデジタル制御司令信号により行う方式であり、模型車両に搭載のデコーダー(Decoder)装置内のマイクロコントローラがデジタル制御司令信号を受信・解釈し、モータードライバを制御してモーターへの印加電圧を加減し、走行速度を制御する方式である。代表的な規格のひとつがDCC(Digital Command Control)であり、線路を介して電力の供給とデジタル制御司令信号が模型車両に伝えられる。
【0006】
これまでに提案されている模型車両の超低速走行の実現手法は以下の通りであり、アナログ制御方式の走行制御に適応する際の欠点を述べる。
【0007】
第1の手法は、例えば非特許文献1で採用されているように、PWM印加方式において、PWM周波数を低くすることにより静摩擦を超えるトルクを発生させるものである。PWM周波数が高い場合はパルスひとつ当たりの時間幅が短いため、モーター軸の慣性により回転を始める前にパルス期間が終了し、実際には回転が起きない。しかしPWM周波数が低い場合には、パルスの時間幅はモーター軸がわずかに回転するに足る長さのため、超低速走行が可能となる。
【0008】
この手法の欠点は、低周波数のPWM波を用いているために低速走行時のモーターの出力トルクの加減はPWM周波数の加減でしか行えず、模型車両の個体それぞれに適切な出力トルク増強は限定的にしか設定できない点にある。さらに、十分な出力トルクを得るためのPWM周波数は、人間の可聴域の周波数(例えば100ヘルツ程度)まで低くせざるを得ないことが多い。するとモーターはその周波数で振動し、不快な音が発生して模型の実感性が大きく損なわれてしまう。
【0009】
第2の手法は、例えば特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4で述べられている通り、モーターのBEMF(Back Electro-Motive Force、逆起電力)を測定し、PID制御法等の閉ループ制御によりモーターへの実際の印加電圧を加減するものである。これはモーターへの電圧印加を停止しても慣性によりモーターの軸は回転を続け、モーターは逆に発電機として働いて回転速度に応じた電圧(逆起電力)が発生することを利用するものである。具体的には、1秒間に10から100回程度の周期でモーターへの電圧印加を短時間の停止をし、その時間内にモーターの逆起電力を測定を行う。そしてこの逆起電力の値から実際の走行速度を推定し、目標値との差分がゼロになるように制御器はモーターへの実際の印加電圧を加減する。すなわちモーターの実際の回転速度が目標値と比較して低速の場合には印加電圧を上げ、高速の場合には印加電圧を下げる閉ループ制御を行う。この手法は主としてデジタル制御方式のDCCデコーダー内のマイクロコントローラの制御ソフトウエアで実現されている。DCCデコーダの出力にはモーターだけを接続して、逆起電力を測定する際に誤差のもととなるもの、例えば室内灯やヘッドライト等の電力を消費するものは接続しないことで、逆起電力を正確に測定可能な構造をなしている。
【0010】
この手法の欠点は、アナログ制御方式の鉄道模型で採用する場合、モーターの逆起電力の正確な測定が困難であり、正確な制御が行えない点にある。その理由は、パワーパックはモーター以外に室内灯やヘッドライト等の電流を消費する他の機器も接続されてることに加え、パワーパックからモーターまでの間に存在する電線及び線路による抵抗・インダクタンス・コンダクタンス各成分の影響も受けるからである。
【0011】
第3の手法は、例えば非特許文献4で述べられているKick Start機能と呼ばれている機能であり、速度ゼロの状態から加速を始めるときの一瞬だけ高電圧パルスをモーターに印加するものである。これは動摩擦は静摩擦よりも小さいという一般的な物理的性質を利用している。すなわち、静摩擦を超える強い出力トルクを一瞬だけ発生させてモーターを回転させれば、その後は印加電圧が低くても出力トルクは静摩擦を超え、動摩擦を下回らない限りモーターは回転し続ける。この手法は主としてデジタル制御方式のDCCデコーダー内のマイクロコントローラの制御ソフトウエアで実現されている。
【0012】
この手法の欠点は、走行中に何かに引っかかるなどして停止が起きれば、モーターの出力トルクが静摩擦やコギングトルクを超えない場合には再び動き出すことがない点にある。またモーターの出力トルクが動摩擦やコギングトルクを下回る超低速度の走行は不可能である。
【0013】
第4の手法は、例えば特許文献2で述べられている通り、モーターから車軸の間のギヤ比を大きくするものであり、機械的機構によりトルクを大きくする。
【0014】
この手法の欠点は、模型車両自体にギア交換を行う改造が必要であり、高度な工作技術を有する者にしか行えない点にある。更に、ギヤ比の変更のため他の模型車両とは走行速度が一致せず、連結して協調運転ができない欠点もある。
【0015】
第5の手法は、模型車両に搭載するモーターにコアレスモーターを採用するものである。コアレスモーターにはコギングトルクが無く、印加電圧が低い時でも十分な出力トルクを有するため低速走行が可能となる。
【0016】
この手法の欠点は、所有する模型車両のモーターを換装する必要があり、工作技術を有する者にしか行えない点にある。
【0017】
以上の通り従来手法では、アナログ制御方式の模型車両の走行制御に関して、実感性、確実さ、手軽さ、のすべてを満足する超低速走行の実現は解決できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】「Model train control system」、United States Patent、No.10434429
【文献】「Power transmission system with a stall prevention feature」、United States Patent、No.6190279
【文献】「鉄道模型列車の自動運転装置及びその加減速度の自動調整方法」、第6485789号
【非特許文献】
【0019】
【文献】トミーテック、「5701 TNOS 新制御システム基本セット 説明書」、
【文献】根津 達也、「DCCマニュアル 2009」、ISBN 4905659175、機芸出版社、2009年
【文献】Don Fiehmann、「The DCC Guide」、第2版、ISBN 1627001034、Kalmbach Pub Co、2014年
【文献】Digitrax,Inc.、「Mobile&Sound Decode Manual」、Second Edition、2017年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、モーターで走行する模型車両において、実感性、確実さ、手軽さ、を満足する超低速走行を可能とする走行制御装置の実現を目的とする。具体的には、模型車両やレイアウトは既存のものをそのまま無改造としながら、モーターへの印加電圧を制御する制御装置の工夫によりその実現を行うことが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、模型車両のモーターへの印加電圧に適切な頻度(例えば1秒間に10回から100回の範囲の頻度)で高電圧パルスを挿入することで、その都度、静摩擦やコギングトルクを超えるトルクを発生させてわずかにモーターを回転させることにより、通常の印加電圧方法では模型車両が走行しない場合でも超低速走行を実現する。
【0022】
鉄道模型においては模型車両が停車中でもヘッドライトや室内灯を点灯するいわゆる常点灯により、実感性の高い演出を行う場合がある。この常点灯機能による出力波形は本発明によるものと類似するが、本発明における課題を解決するものではない。モーターが回転しない程度の小さい高電圧パルスを出力に重畳することで常点灯機能は実現されている。しかし調整可能なパラメータは停車時におけるヘッドライト等の輝度であると同時に、模型車両の走行抑制が必須である。一方、本発明ではパルスの幅、周期、電圧の3つのパラメータの調整により出力波形が生成されて、模型車両の超低速走行を実現する点において全く異なる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は第1に、超低速走行による滑らかな発車・停車・走行により、実感性に富んだ模型車両の運転を実現できる効果を有する。特に、従来手法での電圧の印加方法では走行速度電圧の値がコギングトルクや静摩擦を超えないと模型車両は走行できないが、本発明では走行できる効果を有する。また、従来手法での電圧の印加方法では動摩擦をわずかに超えたトルクで模型車両が走行しているときにわずかな引っかかりで停車をすれば再び走行できないが、本発明では再び走行できる効果を有する。
【0024】
本発明は第2に、パワーパック等の走行制御装置の内部で実現できるので、既存の模型車両やレイアウトの改造は一切不要にできる効果を有する。
【0025】
本発明は第3に、本発明で導入する3つのパラメータにより個々の模型車両の物理的特性に合わせた調整を行うことで超低速走行を実現できる効果を有する。
【0026】
本発明は第4に、モーターの電圧印加方式にアナログ印加方式とPWM印加方式のいずれに対しても実現できる効果を有する。
【0027】
本発明は第5に、モーターの振動による不快な音の発生を減少できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】 本発明の概要
図2】 パワーパック装置の操作パネルの例
図3】 走行制御出力とモーターの出力トルクの波形
図4】 走行速度電圧と走行制御出力波形の関係
図5】 制御手段11内部のブロック図
図6】 PWM印加方式の場合での出力波形の概要
図7】 PWM印加方式の場合での1周期分の出力波形詳細
図8】 マイクロコントローラを用いた実施例におけるブロック図
図9】 制御アルゴリズムにおける変数
図10】 制御アルゴリズムにおけるパラメータ設定値の読み取り部
図11】 制御アルゴリズムの制御メインループ
図12】 制御アルゴリズムの出力制御部
図13】 制御アルゴリズム実行と走行制御出力波形の関係
図14】 アナログ印加方式の場合の実施例におけるブロック図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を鉄道模型を対象として説明を行うが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば戦車、自動車、工事車両等の模型車両にも適用可能である。また模型車両に具備されるモーターは1つに限らず複数あってもよい。以下では「低速強化」という語により、本発明による超低速走行を実現する仕組みあるいは機能を表す。
【0030】
図1に本発明の概要を、アナログ制御方式の鉄道模型車両の走行制御に用いた場合を例として示す。レイアウト1はフィーダー2、線路3、及び模型車両4で構成される。フィーダー2は外部から線路3へ電圧を印加するための端子であり、模型車両4は線路3の上に置かれて受電をし、モーターに電圧が印加されることで走行する。制御手段11は走行制御出力16とフィーダ2を介して線路3へ印加する電圧値を制御して、模型車両4の走行速度を制御する。以下の説明では模型車両4のモーターの印加電圧の値の範囲は鉄道模型で標準的な範囲である0ボルト(停車)から12ボルト(最高速度)であることを前提とする。制御手段11は鉄道模型においてパワーパックと称される装置に該当し、本発明はこの実現方法に関する。
【0031】
図1に示す通り本発明では、制御手段11に4つのパラメータ設定手段、すなわち、走行速度電圧設定12、低速強化電圧設定13、低速強化周期設定14、低速強化パルス幅設定15、を具備せしめる。走行速度電圧設定12は模型車両4の走行速度を設定する手段であり、通常のパワーパックも同様に具備する。多くは可変抵抗器のツマミの形で実現されており、利用者はこのツマミを操作して模型車両4の走行速度を加減する。他の3つのパラメータ設定手段は本発明における低速強化機能の実現に使用する。
【0032】
低速強化電圧設定13、低速強化周期設定14、低速強化パルス幅設定15、それぞれは、可変抵抗器を用いて利用者がツマミ操作で設定値を決める形態のほか、DIPスイッチやロータリースイッチ等の物理的なスイッチ、ロータリーエンコーダ、タッチパネル、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)、等の設定手段を用いても良い。これら3つの設定手段の一部または全部の設定値を、フラッシュメモリ、EEPROM、ハードディスク、等の不揮発性記憶装置に記録・呼び出しを行っても良い。
【0033】
低速強化電圧設定13、低速強化周期設定14、低速強化パルス幅設定15、それぞれは、ボリュームつまみ等による利用者が値を変更可能な設定手段とする代わりに、事前定義された値、走行速度電圧設定12の設定値に応じて決まる値、疑似乱数による値、のいずれかを用いても良い。
【0034】
模型車両4がコアレスモーターを搭載していれば本発明による低速強化機能を用いずとも超低速走行が可能な場合があるので、低速強化機能のオン・オフを設定する手段を設けることが望ましい。
【0035】
図2にパワーパックの操作パネルの例を示す。この操作パネル上での走行速度101は走行速度電圧設定12、強化電圧102は低速強化電圧設定13、強化周期103は低速強化周期設定14、強化パルス幅104は低速強化パルス幅設定15、の設定手段それぞれに対応する。低速強化機能105で本発明による低速強化機能のオン・オフ、方向106で走行方向の逆転、をそれぞれ行う。なお低速強化機能105と方向106は本発明に関わるものではないが鉄道模型のパワーパックでは具備することが望ましい。
【0036】
図3に本発明による超低速走行を実現するモーターへの印加電圧と出力トルクの波形を示す。通常走行時には、走行速度電圧設定12で指定される電圧を出力し続ける。超低速走行時には、走行速度電圧設定12で指定される電圧に対して周期的に高電圧のパルスを挿入して出力する。具体的には、低速強化電圧設定13で指定される電圧を、低速強化周期設定14で指定される時間周期で、低速強化パルス幅設定15で指定される時間に渡って出力することで高電圧のパルスを実現する。なお走行速度電圧設定12がゼロ、すなわち模型車両が停止すべき場合には高電圧パルスは挿入しない。
【0037】
鉄道模型における常点灯の実現のために、走行速度電圧設定12が停車に相当する場合でも、ヘッドライト等は点灯するが模型車両は走行しない実効電圧の高電圧パルスを走行制御出力16に出力しても良い。
【0038】
低速強化電圧設定13、低速強化周期設定14、低速強化パルス幅設定15、の値の設定を、模型車両4に搭載のモーターや重量等の諸特性で決まるコギングトルクや静摩擦を超えるようにすると模型車両4は超低速度で走行する。
【0039】
低速強化周期の値は任意の値に設定して良い。具体的には、0.1秒から0.01秒の範囲、すなわち1秒間のパルス数を10回から100回の範囲で設定するのが良い。低速強化パルス幅の値は0から低速強化周期で決まる期間までの範囲で設定する。具体的には、低速強化周期の0%から20%の範囲で設定するのが良い。低速強化電圧の値の範囲は0ボルトから12ボルトの範囲で設定する。具体的な値は模型車両の特性に依存するが、4ボルトから8ボルトの範囲で設定するのが良い。
【0040】
図4に走行速度電圧設定12と走行制御出力16の関係を示す。この図では、低速強化電圧設定13を6ボルトに固定した場合を例として、いくつかの走行速度電圧設定12の値に対する走行制御出力16の波形を示す。走行速度電圧設定12が0ボルトの場合には、走行制御出力16は高電圧パルスを含まずに常に0ボルトである。走行速度電圧設定12が低速強化電圧設定13を下回る場合には高電圧パルスを挿入する。
【0041】
走行速度電圧設定12が低速強化電圧設定13を上回る場合は本発明の範囲外であり、高電圧パルスの挿入を行っても行なわなくても良い。図4では、高電圧パルスの挿入を行わない場合、すなわち走行速度電圧設定12を常に出力する場合を示している。
【0042】
図5で示すブロック図を用いて制御手段の機能を実現する方法を例示する。図5での制御手段201は図1における制御手段11に該当する。制御手段201の主な構成要素は、比較器A202、比較器B203、タイミング波形発生部204、論理積205、選択器206、モータードライバ221、である。比較器A202、比較器B203、はそれぞれプラス入力とマイナス入力を具備しており、以下の説明では、プラス入力の値がマイナス入力の値よりも真に大きい場合に1を出力し、それ以外の場合、すなわちプラス入力の値がマイナス入力の値と等しいまたは真に小さい場合に0を出力するものと仮定する。
【0043】
図5に示すブロック図の具体的な実現は、ディスクリート電子部品で行うほか、汎用LSI、カスタムLSI、FPGA、マイクロコントローラ、マイクロコントローラ内蔵の周辺モジュール、マイクロコントローラの制御ソフトウエア、等を適宜組み合わせて同等な効果を有する構成にしても良い。ブロック図の中で用いる信号の具体的な表現方法は、アナログ値、デジタル値、のいずれもでも、同等な効果を有するものであれば良い。なお本発明は高電圧パルスの挿入を行う機能であり、ブロック図示したものと異なる制御論理で実現しても構わない。
【0044】
以下の説明においては、記号sを用いて走行速度電圧設定211の値を、記号pを用いて低速強化電圧設定212の値を、記号wを用いてタイミング波形発生部204の出力を、それぞれ表すものとする。なお以下では、sとpの値は0から12までの範囲を取るアナログ値であり、wの値は時間と共に変化するパルス波で0または1のデジタル値、とそれぞれ仮定して説明を行う。
【0045】
比較器A202は、模型車両の走行が通常走行と超低速走行のどちらの場合かを判定し、その結果を論理値xとして出力する。具体的には、p≦sの場合は通常走行時でありx=0、p>sの場合は超低速走行時でありx=1、である。この比較器A202は走行時に高電圧パルスの挿入を行うのか否かを判定するのが目的である。比較器B203は、模型車両は停車であるか否かを判定し、その結果を論理値vとして出力する。具体的には、s=0の場合は停車時でありv=0、s>0の場合は走行時でありv=1、である。この比較器B203は、停車時に高電圧パルスの挿入を抑制するのが目的である。タイミング波形発生部204は、低速強化周期設定213と低速強化パルス幅設定214で指定される周期と幅を持つパルス波wを出力する。
【0046】
論理積205は、xとvとwの論理積をyとして出力し、選択器206の選択制御入力へ与えられる。s=0の場合は停車時であり、このときv=0なのでy=0となる。s>0の場合は走行時であり、pの値により以下の通りの場合分けが行われる。p≦sの場合、すなわち通常走行時にはx=0であり、y=0となる。p>sの場合、すなわち超低速走行時にはy=wとなる。
【0047】
選択器206は、2つの入力のどちらか一方を選択制御入力に従って選択出力する機能を持つ。選択器206の2つの入力にはそれぞれsとpが接続され、選択制御入力には論理積205の出力yが接続され、記号zを用いて選択結果の出力を表すものとする。具体的には、選択制御入力が0の場合すなわちy=0の場合には出力はz=sであり、1の場合には出力はz=pである。以上の構成により出力zは以下の通りとなる。s=0の場合にはv=0なのでy=0となり、出力はz=sすなわちz=0であり、停車時には高電圧パルスを挿入せず常に0が出力される。s>0かつp≦sの場合にはx=0なのでy=0となり、出力はz=sであり、通常走行時には常にsが出力される。s>0かつp>sの場合には、v=1かつx=1なのでy=wであり、出力はw=0の期間にはz=s、w=1の期間にはz=p、となることから、高電圧パルスの挿入が行われる。
【0048】
モータードライバ221は選択器206の出力zを受けて、zの値に従う電圧値をモーター駆動に十分な電流を供給するよう、走行制御出力222に出力する。
【0049】
選択器206の出力zとモータードライバ221の入力の間の信号の形態は、アナログ値、PWM波形、デジタルコマンド、のいずれでも良い。なおモータードライバ221の入力がデジタルコマンドの場合には、選択器206の出力zは適切なデジタルコマンドとなるように構成する。モータードライバ221の出力の波形はアナログ値、PWM波、のいずれでも、実効的な電圧値の波形が同等であれば良い。
【0050】
走行制御出力222の出力にPWM波を用いる場合を説明する。PWM波による直流モーター制御は、0ボルトと12ボルトを高速に交互に切り替えて出力し、1周期における12ボルトの期間が占める割合、すなわちデューティー比により、モーターへの実効的な印加電圧を決める制御方式である。デューティー比が0%から100%に変化するにつれて実効的な印加電圧は0ボルトから12ボルトへと変化し、それに伴ってモーターの回転は停止から最高速度へと変化する。例えばデューティー比が20%のときの印加電圧は2.4ボルトであり、50%のときの印加電圧は6.0ボルトである。
【0051】
走行制御出力222にPWM印加方式を用いる場合における高電圧パルスの実現は、パルス期間のPWM波のデューティー比を大きくすることで実効的な電圧は高電圧となる。
【0052】
図6で走行制御出力222の波形とモーターのトルクの関係を示す。走行制御出力222に出力されるPWM波のデューティー比は、走行速度電圧設定211に従ったデューティー比を基本とするが、低速強化周期設定213及び低速強化パルス幅設定214の設定値で生成される周期的なパルスの期間においては低速強化電圧設定212の設定値に従うデューティー比にする。するとモーターに印加される実効的な電圧値は、走行速度電圧設定211に従う電圧値を基本とするが、周期的に低速強化電圧設定212に従う電圧値がパルスとして挿入され、結果として高電圧パルスの挿入が実現される。その実効的な電圧値がモーターに印加されることで、周期的に高電圧パルスがモーターに印加され、モーターの出力トルクは周期的にわずかな回転をして、模型車両の超低速走行が実現される。
【0053】
図7に、PWM波の1周期分の波形を拡大して示す。この図においてPWMパルス同士の時間間隔はPWM周波数の逆数である。また、走行速度電圧設定211に従うデューティー比のPWMパルスが細いPWMパルスに、低速強化電圧設定212に従うデューティー比のPWMパルスが太いPWMパルスに、それぞれ対応している。なお図6及び図7は出力するPWM波形とその効果を概念的に図示するものであり、PWM周波数、デューティー比、パルス幅、周期、を実際のスケール通り正確に描いているとは限らない。
【0054】
PWM周波数の値には、モーターの駆動できる範囲内の値であり、なおかつ高電圧パルスの周波数、すなわち低速強化周期の逆数よりも高いものを用いる。しかし高電圧パルスの電圧値を細やかに設定可能とする観点から、高電圧パルスの周波数の10倍以上であることが望ましい。また耳障りなモーターの振動音を防止する観点から、人間の可聴域を超える20KHz以上に設定するのが望ましい。
【実施例1】
【0055】
図8に、制御手段201にマイクロコントローラを用い、PWM印加方式でモーターを駆動する実施例のブロック図を示す。これは図5と同等な機能をマイクロコントローラと制御ソフトウエアにより実現する方法である。
【0056】
制御手段301は主としてマイクロコントローラ302とモータードライバ321より構成される。マイクロコントローラ302の内部には、プログラムコードを実行するCPU303、プログラムコードを格納するROM304、プログラム実行時に使う変数値等の記憶をするRAM305、の他に、内蔵周辺モジュールとしてADコンバータ(アナログ・デジタル変換)であるADC306、タイマモジュールであるタイマ307、PWMモジュールであるPWM308、を含んでいる。走行速度電圧設定VR311は走行速度電圧、低速強化電圧設定VR312は低速強化電圧、低速強化周期設定VR313は低速強化周期、低速強化パルス幅設定VR314は低速強化パルス幅、をそれぞれ設定する手段であり、可変抵抗器いわゆるボリュームを用いてアナログ電圧値で設定を行う。マイクロコントローラ302はADC306を用いてデジタル変換を行い、各設定値を読み込む。タイマ307は設定した時間が経過すると割り込みを発生させる機能を持つ。PWM308は指定されたPWM周波数とデューティー比のPWM波を発生する機能を持つ。モータードライバ321は入力されるPWM波に従い、モーターの駆動を行う電圧と電流を走行制御出力322に出力する。
【0057】
高電圧パルスのタイミング制御はマイクロコントローラ内蔵のタイマモジュールを用いて実現する。具体的な実現法には、タイマモジュールを用いた割り込み処理の他、割り込み処理を行わないポーリング処理等でも同等な動作を行うものであれば良い。
【0058】
マイクロコントローラの制御ソフトウエアを疑似コードの形で図9図10図11図12、に示し、以下ではそれぞれを説明する。
【0059】
図9は、制御ソフトウエアで使用する変数の宣言である。変数tgt_speed(2行目)は走行速度電圧設定VR311、変数sb_speed(3行目)は低速強化電圧設定VR312、変数sb_period(4行目)は低速強化周期設定VR313、変数sb_pulsew(5行目)は低速強化パルス幅設定VR314、それぞれの値を記憶する変数である。変数mode(8行目)は高電圧パルスの発生状態を制御するための状態変数であり、0のときは通常電圧(走行速度電圧設定VR311に従ったPWMデューティー比)を出力する通常電圧状態であり、1のときは高電圧(低速強化電圧設定VR312に従ったPWMデューティー比)を出力する高電圧状態を表す。従って高電圧パルスの周期とパルス幅は、変数modeの値を変化させる時間の設定で定まる。
【0060】
図10で示す関数read_paramsは、ADコンバータ用いて4つの設定値の読み取りを行う機能を持つ。走行速度電圧設定VR311の設定値を変数tgt_speedに(3行目)に、低速強化電圧設定VR312の設定値を変数sb_speedに(4行目)に、低速強化周期設定VR313の設定値を変数sb_period(5行目)に、低速強化パルス幅設定VR314の設定値を変数sb_pulsew(6行目)に、それぞれ読み込む。
【0061】
図11で示す関数mainは、マイクロコントローラ起動後に一番最初に呼び出される関数であり、各種初期化と制御メインループを含んでいる。まずは各種初期化の部分を説明する。4行目で、内蔵周辺モジュールのPWM308に対してPWM周波数等の各種初期化を行う。5行目で、PWMのデューティー比を0に設定して、実効的な出力電圧を0ボルトにすることで模型車両を停止状態にする。6行目で、内蔵周辺モジュールのタイマ307に対してタイマのクロック設定等の各種初期化を行う。7行目で、変数modeの値を0にして、出力状態は通常電圧状態に初期化する。8行目で、関数read_paramsを呼び出して、各パラメータの設定値を対応する各変数に代入する。9行目で、タイマ307に対し、変数sb_periodの値で決まる時間後にタイマ割り込みを発生させるようにタイムアウト時間の設定を行う。なお実際には、変数sb_periodの値そのものを設定するのではなく、タイマのクロック設定や事前想定の値の範囲に従って適宜スケールした値を設定する。10行目で、タイマ307に対してタイマ割り込みを許可を行う。11行目で、タイマ307に対してタイマの始動を行い、この時点が起点となってタイムアウト時間の経過後にタイマ割り込みが発生する。以上が初期化の手順である。
【0062】
次に、関数mainの制御メインループの内容を説明する。13行目から18行目が制御のメインループで、無限ループの中で入力手段の設定値の読み出しを繰り返す。制御周期の時間は特に制約はないが、利用者の操作に対する反応時間の観点から20ミリ秒から200ミリ秒の範囲から選ぶことが望ましい。14行目で、いったん割り込みを禁止し、15行目で、関数read_paramsを呼び出して各パラメータの設定値を読み込み、16行目で、再び割り込みを許可する。割り込み禁止期間中に関数read_paramsを呼び出すのは、通常コンテキスト(関数read_params)と割り込みコンテキスト(後述する関数tmr_intr)で共有されている変数で競合状態(race condition)が発生しないよう、排他的なアクセスを保証するためである。17行目で、次の制御周期が来るまで待機を行う。走行制御出力の実際の制御は関数mainの制御メインループ内では行わず、タイマ割り込みの発生により呼び出される割り込みハンドラ内で行われる。以上が関数mainの動作である。
【0063】
図12で示す関数tmr_intrは、タイマ割り込みに対する割り込みハンドラであり、高電圧パルスのパルス幅、高電圧、パルス周期を実現する。10行目から13行目の条件で、低速強化を行うか否かを判断する。具体的には、走行速度電圧≧低速強化電圧、低速強化パルス幅=0、低速強化周期=0、低速強化パルス幅≧低速強化周期、のいずれかが成立するときには、低速強化、すなわち高電圧パルスの周期的な挿入は行わない。この場合における動作は以下の通りである。15行目で、変数modeの値を0にして出力状態を通常電圧状態に設定する。16行目で、PWM308に対しPWMデューティー比を走行速度電圧設定VR311に従ったものとするよう設定する。17行目で、タイマ307に対し変数sb_periodの値で決まる時間後にタイマ割り込みを発生させるようタイムアウト時間の設定を行う。なお実際には、変数sb_periodの値そのものを設定するのではなく、タイマのクロック設定や事前想定の値の範囲に従って適宜スケールした値を設定する。19行目で、割り込みハンドラを終了する。以上が低速強化、すなわち高電圧パルスの周期的な挿入を行わない場合の動作である。
【0064】
低速強化、すなわち高電圧パルスの周期的な挿入を行う場合の動作を説明する。23行目で、出力状態により、すなわち変数modeの値が0か1かにより、動作を振り分ける。
【0065】
変数modeの値が0のとき、26行目から29行目が実行される。26行目で、変数modeの値を1に切り替えて出力状態を高電圧状態に遷移させ、27行目で、PWM308に対しPWMデューティー比を変数sb_speedの値(低速強化電圧設定VR312)に従ったPWMデューティー比を設定して、高電圧の出力を行う。28行目で、タイマ307に対し変数sb_pulsewの値で決まる時間後にタイマ割り込みを発生させるようタイムアウト時間の設定を行う。以上の一連の動作で通常電圧の印加を終えて、高電圧パルスの発生を開始する。
【0066】
変数modeの値が1のとき、33行目から36行目でが実行される。33行目で、変数modeの値を0に切り替えて出力状態を通常状態に遷移させ、34行目で、PWM308に対し変数tgt_speedの値(走行速度電圧設定VR311)に従ったPWMデューティー比を設定して、通常電圧を出力する。35行目で、sb_periodとsb_pulsewの差、すなわちsb_period-sb_pulsewを求め、その値で決まる時間後にタイマ割り込みを発生させるようタイマ307に対しタイムアウト時間の設定を行う。以上がタイマ割り込みハンドラにおいて、低速強化、すなわち高電圧パルスの周期的な挿入を行う場合の動作である。
【0067】
図13は、制御ソフトウエアの動作と、その結果として生成される走行制御出力の波形を示している。なおこの図は関数mainでの初期化を終えて、制御メインループを実行しているときの状況を示している。通常は関数mainが動作をしている。図13では各時点で実行されている関数を示すために、該当する関数での対応する主要な箇所を太線で描いている。なお制御周期ごとに関数read_paramsを呼び出して各パラメータの設定値を読み込んでいるが、走行制御出力の波形の生成に注目するために関数read_paramsについては図13では省略している。タイマ割り込みが発生するとタイマ割り込みハンドラ関数tmr_intrが呼び出され、その度に変数modeの値が入れ替わり、その値に応じてPWMデューティー比も入れ替わり、次のタイマ割り込みを発生させるタイムアウト時間の設定が行われる。その結果、走行制御出力のPWM波のデューティー比が所望の周期パルスを持つように制御される。以上で説明した制御ソフトウエアの動作により、高電圧パルスの挿入が実現される。
【実施例2】
【0068】
図14で示す実施例は、図5と同等な機能を持ち、アナログ印加方式の波形を出力する回路のブロック図である。この実施例での出力波形はPWM波ではなく、アナログ値の電圧に対して周期的に高電圧パルスを挿入するものであり、図3および図4で示す通りの波形となる。図14で示すブロック図は、図5における選択器206とモータードライバ221それぞれを、選択器406とモータードライバ421として詳細化したものである。
【0069】
比較器A402と比較器B403には一般的なコンパレータ回路を、タイミング波形発生部404には一般的な発振器回路とパルス発生回路を、論理積405は一般的な論理ゲートを、用いればよい。これらの動作や機能については図5において対応する構成要素と同一であり、既に説明を行っているのでここでは説明を省略する。
【0070】
以下では図14における選択器406とモータードライバ421それぞれが、図5における選択器206とモータードライバ221と同一の働きをすることを説明する。選択器406には、アナログ電圧の選択を行う機能を有し、半導体で実現されているSPDT(Signle-Pole Double-Throw)型のアナログスイッチIC431を用いる。モータードライバ421にはパワーMOSFET432を用い、これを線形領域で動作させ、選択器の出力zに対応した電圧を模型車両のモーターに印加するとともにモーターの駆動に十分な電流を供給する。アナログスイッチIC431、パワーMOSFET432ともに、汎用部品として流通しているものを用いることができる。
【0071】
以上より、選択器406は選択器206と、モータードライバ421はモータードライバ221と、それぞれ同等な機能を有しているため図5で述べた機能が実現されていることが分かる。なお上記の説明ではアナログスイッチICとパワーMOSFETを用いた場合を示したが、代替手法としてアナログスイッチICと同等な回路をディスクリート部品で構成する、パワーMOSFETの代わりにパワートランジスタを用いる、など、機能的に同等であれば本発明の範疇に入る。
【実施例3】
【0072】
本発明はデジタル制御方式におけるデコーダー内部においても実施可能である。以下では鉄道模型のデジタル制御方式の代表的な規格であるDCCで用いるDCCデコーダーの場合を説明するが、他のデジタル制御方式、例えばモトローラ方式でも同様に実施可能である。
【0073】
DCCデコーダーは模型車両4に搭載される装置であり、その主要部品はマイクロコントローラとモータードライバである。線路3とモーターの間にDCCデコーダーが取り付けられ、線路3から電力を得てモーターを駆動する。DCCにおいては線路3を用いて一種の電力線通信が行われる。すなわち制御手段11は線路3を介して模型車両4へモーター駆動用の電力を供給するが、その電力は走行速度等を指示するデジタル制御司令に基づいて変調が行われる。DCCデコーダー内では、マイクロコントローラがその司令を受信・解釈し、モータードライバを制御してモーターの回転速度を制御する。
【0074】
DCCデコーダー内のマイクロコントローラがモータードライバを制御する手段として実施例1で説明した方法を用いることで、DCCデコーダーにおいて本発明の実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は模型車両の超低速走行を可能とし、特に鉄道模型では滑らかな発車・停車・走行が実現でき、実感性と趣味性の高い演出が可能となる。また本発明は鉄道模型に限らず他の模型車両、例えば戦車、工事車両、自動車等の模型にも適用可能である。
【0076】
既存の模型車両への改造は不要であり、走行性能が低い模型車両に対しても超低速走行を可能にするので、多くの模型車両に対して本発明を実施でき、多数の利用者が見込める。
【0077】
マイクロコントローラを用いて本発明を実施する場合には、組み込み機器向けの小規模な8ビットのもので、モータードライバには汎用的なもので、それぞれ十分であり、制御ソフトウエアは簡潔な構造で実現できることから、ハードウエアとソフトウエアともに容易に実現が可能である。マイクロコントローラを使わない場合でも、汎用部品を用いた簡潔な回路で実現できる。このことから低価格で訴求力の高い製品を製造できる。
【0078】
アナログ制御方式の鉄道模型において、手動で走行速度を制御するパワーパック、人の手を介さない自動運転システム、いずれにおいても本発明の実施が可能である。特に自動運転システムにおいて駅ホームの所定の位置に模型車両を停車させる場合、既存の自動運転システムでは駅に近づくと速度を中程度までに落とし、所定の停車位置に来たら急減速を行うという、実感性の低いものしか存在していない。しかし本発明と特許文献3と組み合わせて実施することで、駅に近づくに連れて滑らかに速度を落としてゆき、停車の直前には超低速での走行を行いながら所定の位置に正確に停車することが可能となり、極めて高い実感性を有する自動運転が実現可能である。そのため実感性と趣味性の観点から訴求力の高い鉄道模型の自動運転システム製品を製造できる。
【符号の説明】
【0079】
1 レイアウト
2 フィーダー
3 線路
4 模型車両
11 制御手段
12 走行速度電圧設定手段
13 低速強化電圧設定手段
14 低速強化周期設定手段
15 低速強化パルス幅設定手段
16 走行制御出力
101 操作パネルにおける走行速度電圧設定手段の例
102 操作パネルにおける低速強化電圧設定手段の例
103 操作パネルにおける低速強化周期設定手段の例
104 操作パネルにおける低速強化パルス幅設定手段の例
105 操作パネルにおける低速強化機能オン・オフ設定手段の例
106 操作パネルにおける走行方向設定手段の例
201 制御手段
202 低速強化有効決定用比較器A
203 停止判定用比較器B
204 低速強化用パルス発生用タイミング波形発生部
205 出力電圧選択信号用論理積回路
206 出力電圧選択器
211 走行速度電圧設定手段
212 低速強化電圧設定手段
213 低速強化周期設定手段
214 低速強化パルス幅設定手段
221 モータードライバ
222 走行制御出力
301 制御手段
302 マイクロコントローラ
303 CPU
304 プログラムコード用ROM
305 変数用RAM
306 ADCモジュール
307 タイマモジュール
308 PWMモジュール
311 走行速度電圧設定用VR
312 低速強化電圧設定用VR
313 低速強化周期設定用VR
314 低速強化パルス幅設定用VR
321 モータードライバ
322 走行制御出力
401 制御手段
402 低速強化有効決定用比較器A
403 停止判定用比較器B
404 低速強化用パルス発生用タイミング波形発生部
405 出力電圧選択信号用論理積回路
406 出力電圧選択器
411 走行速度電圧設定用ボリューム
412 低速強化電圧設定用ボリューム
413 低速強化周期設定用ボリューム
414 低速強化パルス幅設定用ボリューム
421 モータードライバ
422 走行制御出力
431 SPDTアナログスイッチIC
432 パワーMOSFET
【要約】
【課題】 本発明は、直流モーターを用いて走行する模型車両の走行制御方法に関し、より詳細には模型車両の超低速走行を実現する直流モーターへの電圧印加制御方法に関する。
【解決手段】 本発明は、模型車両の直流モーターへの印加電圧に適切な頻度(例えば1秒間に10回から100回の範囲の頻度)で高電圧パルスを挿入することで、その都度、静摩擦やコギングトルクを超えるトルクを発生させてわずかに前記モーターを回転させることにより、通常の印加電圧方法では模型車両が走行しない場合でも超低速走行を実現する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14