(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04W 40/12 20090101AFI20220609BHJP
H04W 84/18 20090101ALI20220609BHJP
H04W 4/38 20180101ALI20220609BHJP
【FI】
H04W40/12
H04W84/18
H04W4/38
(21)【出願番号】P 2018082987
(22)【出願日】2018-04-24
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】304020498
【氏名又は名称】サクサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【氏名又は名称】根本 恵司
(72)【発明者】
【氏名】亀山 元紀
【審査官】三枝 保裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-087761(JP,A)
【文献】特開2011-030049(JP,A)
【文献】特開2001-095048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが端末である親機、及び親機に対して階層的に無線接続される複数段の子機からなる無線通信システムであって、
各端末は、呼び掛け要求を受信したとき、自端末の識別情報及び段数並びに前記呼び掛け要求の受信電界強度を含む呼び掛け応答を送信する呼び掛け応答送信手段を有し、
各子機は、周囲の端末に対して、呼び掛け要求をブロードキャストする呼び掛け要求送信手段と、前記呼び掛け要求に対する周囲の端末からの呼び掛け応答を受信する呼び掛け応答受信手段と、前記呼び掛け応答受信手段により受信された呼び掛け応答に含まれている受信電界強度及
び当該呼び掛け応答の受信電界強度
のうちの少なくとも前記呼び掛け応答受信手段により受信された呼び掛け応答に含まれている受信電界強度である通信電界強度に基づいて、所定数の端末を通報先端末として選択する通報先端末選択手段と、を有し、
前記呼び掛け要求送信手段は、前記呼び掛け要求のブロードキャストを所定の複数回実施する機能を有し、
前記通報先端末選択手段は、前記複数回の全ての呼び掛け要求に
おける通信電界強度が良好な端末を選択する優先選択処理を行う、無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載された無線通信システムにおいて、
前記優先選択処理により選択された端末が複数ある場合、前記複数回の呼び掛け応答
における通信電界強度の合算値又は平均値に基づいて、当該複数の端末の優先順位を決定する第1の選択処理を行う、無線通信システム。
【請求項3】
請求項2に記載された無線通信システムにおいて、
前記第1の選択処理で前記合算値又は平均値が同じ端末が複数ある場合、前記複数回の呼び掛け応答
における通信電界強度の差に基づいて、当該複数の端末の優先順位を決定する第2の選択処理を行う、無線通信システム。
【請求項4】
請求項3に記載された無線通信システムにおいて、
前記第2の選択処理で前記
通信電界強度の差の同じ端末が複数ある場合、前記複数回のそれぞれ
の呼び掛け応答に含まれている受信電界強度と、前記複数回のそれぞれの呼び掛け応答の受信電界強度との差に基づいて、当該複数の端末の優先順位を決定する第3の選択処理を行う、無線通信システム。
【請求項5】
請求項4に記載された無線通信システムにおいて、
前記通報先端末選択手段は、前記優先選択処理から前記第3の選択処理までの処理により所定数の端末を選択できなかった場合、前記優先選択処理で選択されなかった端末を選択する第4の選択処理を行う、無線通信システム。
【請求項6】
請求項1に記載された無線通信システムにおいて、
前記通報先端末選択手段は、所定の複数回目より前の呼び掛け要求に対する呼び掛け応答で良好な
通信電界強度の端末が所定数見つかったとき、当該端末を選択する、無線通信システム。
【請求項7】
請求項1に記載された無線通信システムにおいて、
前記通報先端末選択手段は、所定の複数回目より前の呼び掛け要求に対する呼び掛け応答で新たな端末を見つけることができず、かつ安定した通信が可能な
通信電界強度の端末が所定数見つかったとき、当該端末を選択する、無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
親機、及び親機に対して階層的に無線接続される複数段の子機からなる無線通信システムと、センタ装置とを有し、子機で取得された監視情報(ガスメータや水道メータの検針値、ガス漏れ警報や電池残量低下警報等)を親機経由でセンタ装置に通報する遠隔監視システムがある(特許文献1)。
【0003】
この遠隔監視システムにおいて、センタ装置-親機間は無線や有線の商用通信回線を介して通信を行い、「親機,1段目子機,2段目子機,・・・,N段目子機」により構成される無線通信システム内の無線通信は特定小電力無線などを用いて行う。
【0004】
子機と親機との間には複数の通信ルートが登録されている。各子機にはガスメータ、水道メータ、ガス漏れ検知器等のセンサが接続されており、それらのセンサで生成された監視情報を取得し、通信ルート上の上位の子機経由で、すなわち上位の子機を中継子機として親機に通報するマルチホップ通信を行う。
【0005】
子機の通信ルートの登録は例えば以下のように実施される。子機が新規に設置されると、子機は、まず自端末の端末ID(端末識別情報)を付加したルート検索電文(以下、呼び掛け要求とも言う)をブロードキャストし、所定時間内に周囲の端末(親機、子機)から応答であるルート応答電文(以下、呼び掛け応答とも言う)があるか否かチェックする。なお、以下、呼び掛け要求と呼び掛け応答のやりとりを呼び掛け通信と言う。
【0006】
所定時間内に応答があった場合、ルート応答電文に含まれている端末ID、電界強度(ルート検索電文の受信電界強度)、段数から通信条件の良い端末を選択し、最終的に1つ以上の通信ルート情報、つまり通信ルートとなる直上の端末(以下、「通報先端末」、「通信相手端末」とも言う)の端末ID及び段数を通信ルート毎に自端末の記憶部に格納する。
【0007】
また、この時に取得した電界強度や段数から、通信条件の良い順、例えば段数が少なく、かつ電界強度の強い順に、第1通信ルート、第2通信ルートなどのルート番号(優先順位)を付ける。そして、これらの通信ルートの登録要求の電文(この電文には、自端末の端末ID、直上の端末の端末ID、段数、及び電界強度が含まれている)を第1通信ルート上の直上の端末経由でセンタ装置に送信する。センタ装置は、登録要求の電文を受信し、通信ルートを登録する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の無線通信システムにおける子機の通信ルート登録手順では、周囲の端末への呼び掛け要求のブロードキャストを瞬時に行い、それに対する呼び掛け応答に基づいて通信ルートを決定しているため、その時たまたま呼び掛け要求を受信できなかった端末や、呼び掛け要求は受信できたものの、呼び掛け応答が子機に届かなかった端末は通信ルートとして登録されない。
【0010】
また、安定した通信ルートの確保のため、瞬時ではなく呼び掛け要求のブロードキャストを複数回行い、呼び掛け応答に含まれている受信電界強度の平均値を用いることで、安定した通信ルートとなる端末を選択する方法も知られているが、単純に平均値を用いるだけでは、安定した通信ルートとなる端末を効率的に確保できないという問題がある。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、親機、及び親機に対して階層的に無線接続される複数段の子機からなる無線通信システムにおいて、呼び掛け要求のブロードキャストを行った子機が安定した通信ルートとなる端末を効率的に確保できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、それぞれが端末である親機、及び親機に対して階層的に無線接続される複数段の子機からなる無線通信システムであって、各端末は、呼び掛け要求を受信したとき、自端末の識別情報及び段数並びに前記呼び掛け要求の受信電界強度を含む呼び掛け応答を送信する呼び掛け応答送信手段を有し、各子機は、周囲の端末に対して、呼び掛け要求をブロードキャストする呼び掛け要求送信手段と、前記呼び掛け要求に対する周囲の端末からの呼び掛け応答を受信する呼び掛け応答受信手段と、前記呼び掛け応答受信手段により受信された呼び掛け応答に含まれている受信電界強度及び当該呼び掛け応答の受信電界強度のうちの少なくとも前記呼び掛け応答受信手段により受信された呼び掛け応答に含まれている受信電界強度である通信電界強度に基づいて、所定数の端末を通報先端末として選択する通報先端末選択手段と、を有し、前記呼び掛け要求送信手段は、前記呼び掛け要求のブロードキャストを所定の複数回実施する機能を有し、前記通報先端末選択手段は、前記複数回の全ての呼び掛け要求における通信電界強度が良好な端末を選択する優先選択処理を行う、無線通信システムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、親機、及び親機に対して階層的に無線接続される複数段の子機からなる無線通信システムにおいて、呼び掛け要求のブロードキャストを行った子機が安定した通信ルートとなる端末を効率的に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る遠隔監視システムの概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る遠隔監視システムにおける子機の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る遠隔監視システムにおける端末設置時の1回目の呼び掛け通信の一例を示すシーケンス図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る遠隔監視システムにおける端末設置時の2回目の呼び掛け通信の一例を示すシーケンス図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る遠隔監視システムにおける端末設置時の3回目の呼び掛け通信の一例を示すシーケンス図である。
【
図6】1回目から3回目の呼び掛け通信で新規設置端末が収集した応答端末情報を示す図である。
【
図7】電界強度と通信品質との対応関係の一例を示す図である。
【
図8】優先選択処理、第1の選択処理、及び第2の選択処理の各々の一例を示す図である。
【
図11】1回目の呼び掛け通信で収集した応答端末情報から通報先端末を決定した一例を示す図である。
【
図12】2回目の呼び掛け通信で収集した応答端末情報から通報先端末を決定した一例を示す図である。
【
図13】2回目以降の呼び掛け通信で新たな端末を見つけることができず、かつ、安定した通信が可能な電界強度の端末が所定数見つかった時点で通報先端末を決定した例を示す図である。
【
図14】安定した通信ルートを確保するための処理を示すフローチャートである。
【
図15】
図14における第1の安定したルート選択処理の内容を示すフローチャートである。
【
図16】
図15における第2の安定したルート選択処理の内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
〈遠隔監視システムの概略構成〉
図1は、本発明の実施形態に係る遠隔監視システムの概略構成を示す図である。
【0016】
この遠隔監視システムは、例えば、ガスメータや水道メータの自動検針に用いられるものであって、センタ装置1と、親機2及び多段構成の複数の子機(1段目子機A~G、2段目子機H~N、3段目子機O~Q)からなる本発明の実施形態に係る無線通信システムとを有する。なお、子機Xは新規に設置される端末である。
【0017】
親機2とセンタ装置1との間の通信は携帯電話回線などの商用通信回線を介して行う。また、親機2、1段目の子機A~G、2段目の子機H~N、3段目子機O~Qにより構成される無線通信システム内の通信は特定小電力無線などを用いて行う。
【0018】
各子機にはガスメータ、水道メータ、ガス漏れ検知器などのセンサが接続されており、それらのセンサで生成された監視情報を取得し、上位の子機経由で、即ち上位の子機を中継子機として親機2に通知する。なお、以下の説明では、各子機を区別しないときは子機3とする。また、親機と子機を区別しないときは端末とする。
【0019】
〈子機の概略構成〉
図2は、
図1に示されている遠隔監視システムにおける子機の概略構成を示すブロック図である。
【0020】
図示のように、子機3は、制御部31と、それぞれが制御部31に接続された記憶部32、無線送受信部33、外部I/F(インタフェース)部34、表示部35、及び操作入力部36を備えている。無線送受信部33にはアンテナ37が接続されている。
【0021】
制御部31は、例えばマイクロプロセッサ及びその周辺回路などで構成され、子機3全体の制御や演算処理等を行う。また、制御部31は、記憶部32内に記憶されているプログラム及びデータを処理することにより実現される手段として、通報先端末選択手段311を備えている。さらに、制御部31は、記憶部32に記憶されているプログラム及びデータを処理し、無線送受信部33を制御することにより、本発明に係る呼び掛け要求送信手段、呼び掛け応答送信手段、呼び掛け応答受信手段などを実現する。
【0022】
記憶部32は、ROMなど不揮発性メモリ、フラッシュメモリなどの書換え可能な不揮発性メモリ、RAMなどの揮発性メモリからなる。そして、ROMには子機3を動作させるために必要な制御プログラムが記憶されている。また、RAMには制御部31が実行中の各プログラムや、それらの実行に必要な情報(端末ID、無線チャネル、電界強度、自端末の段数)が格納される。また、書換え可能な不揮発性メモリには、各種設定データなどが記憶される。
【0023】
無線送受信部33は、特定小電力無線などにより、他の子機3や親機2との間で無線通信を行う。外部I/F部34にはガスメータ、水道メータ等の外部機器が接続される。表示部35は、LEDなどで構成されており、子機3の動作状態などを表示するユーザI/Fである。操作入力部36は、ボタンやスイッチ等からなり、子機3に対する所定の設定を入力するためのユーザI/Fである。
【0024】
〈親機の概略構成〉
親機2については、商用通信回線を介してセンタ装置1と通信を行う網制御部を備えていること、及び外部機器を接続するための外部I/F部を備えていない(備えている構成例もある)こと以外は、子機3と同様に構成されているので、詳細な説明は省略する。
【0025】
〈新規設置端末の通信ルート選択手順〉
次に、本発明の実施形態に係る遠隔監視システムにおける新規設置端末の通信先端末選択手順を説明する。
【0026】
《通報先端末選択手順の概要》
まず通報先端末選択手順の概要を説明する。通報先端末選択手順の概要は下記(1)~(7)である。
(1)呼び掛け要求をn回(nは2以上の整数)実施する。
(2)n回の全ての呼び掛け要求に対して、呼び掛け応答を送信し、かつn回の全ての呼び掛け応答に含まれている呼び掛け要求の受信電界強度が良好な通信が可能な第1の閾値(例.7)以上の端末を通報先端末として選択する優先選択処理を行う。
(3)優先選択処理により選択された端末が複数ある場合、n回の呼び掛け応答に含まれている受信電界強度の合算値又は平均値に基づいて、複数の端末の優先順位を決定する第1の選択処理を行う。
(4)第1の選択処理で合算値又は平均値が同じ端末が複数ある場合、n回の呼び掛け応答に含まれている受信電界強度の差に基づいて、複数の端末の優先順位を決定する第2の選択処理を行う。
(5)第2の選択処理で電界強度の差の同じ端末が複数ある場合、n回の呼び掛け応答のそれぞれに含まれている受信電界強度と、それぞれの呼び掛け応答の設置端末における受信電界強度との差に基づいて、複数の端末の優先順位を決定する第3の選択処理を行う。
(6)優先選択処理から第3の選択処理まで実行しても所定数の端末を選択できなかった場合、優先選択処理で選択されなかった端末を通報先端末として選択する第4の選択処理を行う。
(7)以下、必要に応じて、順次に第1乃至第3の選択処理と同様の選択処理を行う。
【0027】
《呼び掛け通信の例》
図3、
図4、
図5は、それぞれ新規設置端末の1回目、2回目、3回目の呼び掛け通信の例を示すシーケンス図である。
【0028】
ここでは、新規設置端末を端末(子機)Xとし、端末Xから周囲の複数の端末である端末(子機)に呼び出し要求がブロードキャストされるものとした。また、
図3乃至
図5において、網掛が付されている期間が呼び掛け要求のブロードキャスト期間、すなわち、端末Xが端末IDを含む呼び掛け要求(ルート検索電文)を周囲の端末にブロードキャストしている期間であり、その後の期間が周囲の端末が自端末の端末ID及び呼び掛け要求の受信電界強度を含む呼び掛け応答(ルート応答電文)を送信している期間である。なお、ここでは呼び掛け応答する端末を子機のみとしたが、親機が呼び掛け応答する端末となる場合も同様のシーケンスとなる。
【0029】
また、
図6は、新規に設置される端末が1回目から3回目の呼び掛け通信で収集した応答端末情報を示す図である。ここで、
図6A、
図6B、
図6Cは、それぞれ1回目、2回目、3回目の呼び掛け通信で収集した応答端末情報である。
【0030】
また、
図3乃至
図5における呼び掛け応答の電界強度、並びに
図6における電界強度の上、下は、それぞれ周囲の端末における呼び掛け要求の受信電界強度(以下、「上り電界強度」とも言う)、新規に設置される端末における呼び掛け応答の受信電界強度(以下、「下り電界強度」とも言う)である。
【0031】
図3及び
図6Aに示されているように、1回目の呼び掛け要求に対しては、端末C、D、B、E、F、Aから呼び掛け応答がある。そして、それぞれの呼び掛け応答に含まれている上り電界強度は8、9、6、5、4、3である。また、端末Xにおけるそれぞれの下り電界強度は9、9、6、6、4、2である。
【0032】
また、
図4及び
図6Bに示されているように、2回目の呼び掛け要求に対しては、端末B、D、C、F、G、E、Hから呼び掛け応答がある。そして、それぞれの呼び掛け応答に含まれている上り電界強度は5、9、9、5、4、5、2である。また、端末Xにおけるそれぞれの下り電界強度は5、8、9、4、4、5、2である。ここで、端末G、Hは、1回目の呼び掛け要求を受信できなかったか、又は受信できたが、呼び掛け応答が届かなかった端末である。また、端末Aは2回目の呼び掛け要求が受信できなかった。
【0033】
また、
図5及び
図6Cに示されているように、3回目の呼び掛け要求に対しては、端末A、H、G、E、B、Dから呼び掛け応答がある。そして、それぞれの呼び掛け応答に含まれている上り電界強度は3、1、5、6、5、8である。また、端末Xにおけるそれぞれの下り電界強度は2、1、4、5、6、9である。端末C、Fから同時に応答があったため、それらの端末の情報の取得は失敗である。
【0034】
《通報先端末の選択》
次に上記3回の呼び掛け通信で取得した応答端末情報から、通報先端末、すなわち通信相手となる直上の端末を選択する手順について説明する。
【0035】
図7は、電界強度と通信品質(通信条件)との対応関係の一例を示す図である。この対応関係はテーブルとして子機3の記憶部32に記憶されている。図示のように、電界強度(上り、下り)は1乃至9の9段階からなり、7乃至9(以下、7以上とも言う)が強(良好)、4乃至6(以下、4以上6以下とも言う)が中(安定)、1乃至3(以下、1以上3以下とも言う)が弱(不安定)である。なお、この図以後の各図における「電界強度」は「上り」、「下り」の記載がない限り、低い方の値である。ただし、低い方の値に代えて、高い方の値又は上りと下りの平均値を採用してもよい。また、「上り電界強度」がない場合、すなわち、例えば呼び掛け応答に呼び掛け要求の受信電界強度を付与しない場合、「下り電界強度」を基準とする。
【0036】
図8は、優先選択処理、第1の選択処理、及び第2の選択処理の各々の一例を示す図である。ここで、
図8A、
図8B、
図8Cは、それぞれ1回目、2回目、3回目の応答端末情報の収集結果における電界強度を示している。また、
図8Cが優先選択処理、
図8Dが第1の選択処理、
図8Eが第2の選択処理を示している。
【0037】
図8A乃至Cに示されているように、端末A、B、Cは、3回の呼び掛け通信の全てにおいて、電界強度が7以上であるため、優先的に選択する(優先選択処理、
図8C)。
【0038】
優先選択処理で3つの端末が選択されているので、次にそれらの端末の3回の電界強度の合算値に基づいて、それらの端末の優先順位(第1乃至第3通報先)を決定する(第1の選択処理、
図8D)。ここでは、端末A、B、Cのそれぞれの3回の電界強度の合算値は、24、21、21である。よって、端末Aを第1通報先に決定する。しかし、端末B、Cは合算値が同じであるため、どちらを第2通報先、第3通報先にするのか決定することができない。
【0039】
そこで、3回の呼び掛け通信の電界強度の差をとり、差の合計に基づき、差の小さい方の優先順位を上位にする(第2の選択処理、
図8E)。ここでは、端末Bの電界強度の差の合計が4、端末Cの電界強度の差の合計が0であるから、端末Cを第2通報先、端末Bを第3通報先に決定する。
【0040】
上記の例では、複数の端末の電界強度の差の合計が異なる値であったため、第2の選択処理により、複数の端末の優先順位を決定することができた。ここで、複数の端末の電界強度の差の合計が同じ値になり、第2の選択処理では優先順位が決定できない場合について説明する。
【0041】
この場合、第3の選択処理により優先順位を決定する。
図9は、第3の選択処理の一例を示す図である。ここで、
図9Aは端末Kの電界強度、
図9Bは端末Lの電界強度を示す。
【0042】
図9A、
図9Bに示されているように、端末Kと端末Lは、3回の呼び掛け通信時の電界強度が7以上であることから、優先選択処理で優先選択され、電界強度の合算値が22で同じであることから、第1の選択処理で優先順位を決められず、電界強度差の合計が2で同じであることから、第2の選択処理でも優先順位を決められない。
【0043】
そこで、各回の上りの電界強度と下りの電界強度の差の合計に基づいて、合計が小さい方の優先順位を上位とする第3の選択処理により優先順位を決定する。
図9Aより、端末Kの上りと下りの電界強度の差の合計は5、
図9Bより、端末Lの上りと下りの電界強度の差の合計は1であるから、端末Lの優先順位を端末Kの優先順位よりも高くする。
【0044】
以上、優先選択処理から第3の選択処理により、3つの通報先端末を決定することができた。通報先端末の必要数が3つより多い、例えば5つの場合、優先選択処理で選択されなかった端末の中から通報先端末を決定する。
【0045】
すなわち、まず第4の選択処理により、優先選択処理では選択されなかった端末を選択する。
図10は、第4の選択処理の一例を示す図である。ここで、
図10A、
図10B、
図10Cに示されている応答端末と電界高度との対応関係は、それぞれ
図8A、
図8B、
図8Cに示されている応答端末と電界高度との対応関係と同じである。ただし、
図10Cでは
図8Cに示されている優先選択処理で選択されなかった端末D、E、F、G、H、I、Jを優先選択する(第4の選択処理)。
【0046】
次に優先選択された端末D、E、F、G、H、I、Jについて、第1の選択処理と同様の選択処理、すなわち3回の電界強度の合算値に基づいて、それらの端末の優先順位(第4及び第5通報先)を決定する。ここでは、
図10Dに示されているように、端末Iの電界強度の合算値が17で最大であり、端末Dの電界強度の合算値が12で2番目に大きいから、端末Iを第4通報先に決定し、端末Dを第5通報先に決定する。
【0047】
以上の選択処理により、第1乃至第5通報先となる端末を決定することができた。なお、
図10Dにおいて3回の電界強度の合算値が同じ端末が複数ある場合は、第2の選択処理と同様に、電界強度の差の合計に基づいて優先順位を決定する。また、電界強度の差が同じ端末が複数ある場合は、第3の選択処理と同様に、上りと下りの電界強度の差の合計に基づいて、優先順位を決定する。
【0048】
《通報先端末選択手順の変形例》
上述した手順では、効率的に安定した通信ルートを確保するため、複数回の呼び掛けを行うが、端末の設置に要する時間や、周囲の端末を含めた電池消費も考慮する必要があるため、すなわち、より少ない回数で、効率よく良好な通報先を確定させる必要があるため、下記(i)、(ii)の条件を付加する。
【0049】
(i)電界強度が良好(例:7以上。以下、同じ。)な端末が、通報先分(例:5台。以下、同じ。)見つかった時点で通報先を決定する。
(ii)2回目以降の呼び掛け通信において、新たな端末を見つけることができず、かつ、安定した通信が可能な電界強度(例:電界強度4以上、電界強度合算値8以上。以下、同じ。)の端末が、通報先分見つかった時点で、通報先を決定する。
【0050】
以下、上記(i)、(ii)について、この順番に詳しく説明する。
[上記(i)について]
図11は、1回目の呼び掛け通信で収集した応答端末情報から通報先端末を決定した一例を示す図である。ここで、
図11Aは、1回目の呼び掛け通信で収集した応答端末の電界強度を示しており、
図11Bは、通報先とその端末を示している。
【0051】
図11Aに示されているように、1回目の呼び掛け通信により電界強度が良好な端末が5台(端末C、A、B、E、F)見つかったので、
図11Bに示されているように、それらの端末を電界強度に基づいて、第1乃至第5通報先に決定している。
【0052】
また、
図12は、2回目の呼び掛け通信で収集した応答端末情報から通報先端末を決定した一例を示す図である。ここで、
図12A、
図12Bは、それぞれ1回目、2回目の呼び掛け通信で収集した応答端末の電界強度を示しており、
図12Cは、通報先とその端末を示している。
【0053】
図12Bに示されているように、2回目の呼び掛け通信で電界強度が良好な端末が5台(端末C、A、B、G、I)見つかったので、
図12Cに示されているように、それらの端末を電界強度に基づいて、第1乃至第5通報先を決定している。この場合、1回目の呼び掛け通信では、たまたま呼び掛け要求を受信できなかったり、呼び掛け応答が子機に届かなかったりしたタイミングと判断している。
【0054】
[上記(ii)について]
図13は、2回目以降の呼び掛け通信で新たな端末を見つけることができず、かつ、安定した通信が可能な電界強度の端末が所定数見つかった時点で通報先端末を決定した例を示す図である。ここで、
図13A、
図13Bは、それぞれ1回目、2回目の呼び掛け通信により取得した応答端末の電界強度の収集結果を示しており、
図13Cは、電界強度の合算値を示している。また、
図13Dは、通報先とその端末を示している。
【0055】
図13A、
図13Bに示されているように、2回目の呼び掛け通信で新たな端末を見つけることができなかった。また、
図13Cに示されているように、2回の呼び掛け通信により安定した通信が可能な電界強度の端末が通報先分見つかった。そこで、
図13Dに示されているように、2回の呼び掛け通信の結果のみで第1乃至第5通報先の端末を決定している。
【0056】
《通報先端末選択手順のフローチャート》
図14は、安定した通信ルートを確保するための処理を示すフローチャートである。また、
図15は、
図14における「第1の安定したルート選択処理」の内容を示すフローチャートであり、
図16は、
図15における「第2の安定したルート選択処理」の内容を示すフローチャートである。以下、これらの図を参照して、以上説明した通報先端末選択手順を端末(子機)Xが実行する際に端末Xの主として制御部31が実行する動作について説明する。
【0057】
端末Xでは、周囲の端末(親機2、子機3)に1回目の呼び掛け要求を送信し、一定時間内の呼び掛け応答を受信する(
図14のステップS1:呼び掛け・応答処理(1回目))。そして、電界強度が良好な端末が通報先分見つかったか否かを判断し(ステップS2)、見つかった場合は(ステップS2:Yes)、電界強度順に優先順位を付けて5個の端末を選択し(ステップS3)、この図に示されている処理を終了させる。S2:Yes→S3は
図11に示されている例に相当する。
【0058】
電界強度が良好と判断した端末が通報先分見つからなかった場合は(ステップS2:No)、周囲の端末に2回目の呼び掛け要求を送信し、一定時間内の呼び掛け応答を受信する(ステップS4:呼び掛け・応答処理(2回目))。そして、電界強度が良好な端末が通報先分見つかったか否かを判断し(ステップS5)、見つかった場合は(ステップS5:Yes)、上述したステップS3を実行した後、この図に示されている処理を終了させる。「S2:No→S4→S5:Yes→S3」は
図12に示されている例に対応する。
【0059】
2回目の呼び掛け・応答処理で電界強度が良好な端末が通報先分見つからなかった場合は(ステップS5:No)、2回目の呼び掛け・応答処理で新たな端末が見つからなかった否かを判断する(ステップS6)。そして、見つからなかった場合は(ステップS6:Yes)、安定した通信が可能な電界強度の端末が通報先分見つかったか否かを判断し(ステップS7)、見つかった場合は(ステップS7:Yes)、上述したステップS3を実行した後、この図に示されている処理を終了させる。「S6:Yes→S7:Yes→S3」は
図13に示されている例に対応する。
【0060】
2回目の呼び掛け・応答処理で新たな端末が見つかった場合は(ステップS6:No)、周囲の端末に3回目の呼び掛け要求を送信し、一定時間内の呼び掛け応答を受信する(ステップS8:呼び掛け・応答処理(3回目))。次いで、応答端末があった否かを判断し(ステップS9)、あった場合は(ステップS9:Yes)、第1の安定したルート選出処理(ステップS10)を実行した後、この図に示されている処理を終了させる。第1の安定したルート選択処理の内容については
図15を参照して後述する。
【0061】
一方、ステップS9で応答端末がなかったと判断した場合は(ステップS9:No)、そのままこの図に示されている処理を終了させる。この場合、安定した通信ルートの確保は失敗となる。
【0062】
第1の安定したルート選択処理の内容について
図15を参照して説明する。
まず実施回数(ここでは3回)分の応答があった端末、すなわち設置端末Xからの3回の呼び掛け要求に対する3回の呼び掛け応答が設置端末Xで受信された端末の有無を判断する(ステップS11)。そして、なかった場合は(ステップS11:No)、第2の安定したルート選択処理(ステップS19)に進む。第2の安定したルート選択処理の内容については
図16を参照して後述する。あった場合は(ステップS11:Yes)、良好な電界強度以上(例.7以上)の応答端末の有無を判断する(ステップS12)。
【0063】
良好な電界強度以上の応答端末がなかった場合は(ステップS12:No)、第2の安定したルート選択処理(ステップS19)に進む。あった場合は(ステップS12:Yes)、「電界強度合算値」の大きい順に選択する1回目の選択処理を行う(ステップS13)。そして、5端末選択できたか否かを判断し(ステップS14)、5端末選択できた場合は(ステップS14:Yes)、この図に示されている処理を終了させる。ここで、「S13→S14:Yes」は第1の選択処理である。
【0064】
1回目の選択処理で5端末選択できなかった場合は(ステップS14:No)、「実施回毎の電界強度の差の合計」が小さい順に選択する2回目の選択処理を行う(ステップS15)。そして、1回目と2回目の選択処理で合計5端末選択できたか否かを判断し(ステップS16)、合計5端末選択できた場合は(ステップS16:Yes)、この図に示されている処理を終了させる。ここで、「S15→S16:Yes」は第2の選択処理である。
【0065】
1回目と2回目の選択処理で合計5端末選択できなかった場合は(ステップS16:No)、「上りと下りの電界強度の差の合計」が小さい順に選択する3回目の選択処理を行う(ステップS17)。そして、1回目と2回目と3回目の選択処理で合計5端末選択できたか否かを判断し(ステップS18)、5端末選択できた場合は(ステップS18:Yes)、この図に示されている処理を終了させる。ここで、「S17→S18:Yes」は第3の選択処理である。
【0066】
1回目と2回目と3回目の選択処理で合計5端末選択できなかった場合は(ステップS18:No)、第2の安定したルート選出処理(ステップS19)を実行した後、この図に示されている処理を終了させる。
【0067】
第2の安定したルート選出処理の内容について
図16を参照して説明する。
まず「電界強度合算値」の大きい順に選択する4回目の選択処理を行う(ステップS21)。そして、1回目から4回目の選択処理で合計5端末選択できたか否かを判断し(ステップS22)、合計5端末選択できた場合は(ステップS22:Yes)、この図に示されている処理を終了させる。
【0068】
1回目から4回目の選択処理で合計5端末選択できなかった場合は(ステップS22:No)、「実施回毎の電界強度の差の合計」が小さい順に選択する5回目の選択処理を行う(ステップS23)。そして、1回目から5回目の選択処理で合計5端末選択できたか否かを判断し(ステップS24)、合計5端末選択できた場合は(ステップS24:Yes)、この図に示されている処理を終了させる。
【0069】
1回目から5回目の選択処理で合計5端末選択できなかった場合は(ステップS24:No)、「上りと下りの電界強度の差の合計」が小さい順に選択する6回目の選択処理を行い(ステップS25)、この図に示されている処理を終了させる。
【0070】
以上詳細に説明したように、本発明の実施形態に係る無線通信システムによれば、子機の設置時に、より安定した通信ルートとなる端末を効率的に確保することができる。そのため、その後(運用時)のセンタ装置との通信失敗数(余分なリトライ)及びそれに起因する消費電力を減らすことができる。
【0071】
なお、本発明は端末設置時だけでなく、設置後の通信ルートの更新にも適用することができる。すなわち、設置後に例えば、1日毎に1回で計3回、1か月毎に1回で計3回の呼び掛け通信を行い、それぞれの3回分の応答端末情報に基づいて、通報先端末を更新することで、設置後の環境変化(例:新たな家(建物)が出来る/壊される(解体される)、草木が生い茂る(枯れる)、雪が積もる(溶ける)、など。)後の最適な(安定した)通信ルートを常に持ち続けることが可能となる。
【符号の説明】
【0072】
2…親機、3…子機、31…制御部、32…記憶部、33…無線送受信部、34…外部I/F部、35…表示部、36…操作入力部、37…アンテナ、331…通報先端末選択手段。