(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】シロキサン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 290/14 20060101AFI20220609BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20220609BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20220609BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20220609BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220609BHJP
C09D 183/07 20060101ALI20220609BHJP
C08G 77/20 20060101ALN20220609BHJP
【FI】
C08F290/14
C08J7/04 A
C09D4/02
C09D7/20
C09D7/63
C09D183/07
C08G77/20
(21)【出願番号】P 2018112102
(22)【出願日】2018-06-12
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000187046
【氏名又は名称】東レ・ファインケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】関 浩康
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀利
(72)【発明者】
【氏名】蔵岡 孝治
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/105401(WO,A1)
【文献】特開2018-062067(JP,A)
【文献】特開2005-104025(JP,A)
【文献】特開2016-160284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/12
C08F 290/14
C08J 7/04
C09D 4/02
C09D 183/07
C09D 7/63
C09D 7/20
C08G 77/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン樹脂と、アクリル単量体と、光重合開始剤と、溶媒とからなるシロキサン樹脂組成物であって、前記シロキサン樹脂が、下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rは
メタクリロイル基を含む炭化水素基、Xは水素原子またはケイ素原子、nは1以上の整数を示す)
で表されるユニットのみで構成され、重量平均分子量が500から100,000、分散度が1から20であり、前記光重合開始剤が2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、またはビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドであり、
前記光重合開始剤の含有率が、シロキサン樹脂組成物100重量%中の0.1~10重量%であって、前記溶媒が、
2-プロパノールであることを特徴とするシロキサン樹脂組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)に記載のRが3-メタクリロキシプロピル基である請求項1記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリル単量体がメタクリル酸メチル、または無水メタクリル酸、またはトリメチロールプロパントリメタクリラートである請求項1または2記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項4】
前記シロキサン樹脂組成物を基板に塗布したとき、紫外線照射により硬化させることができる請求項1から3のいずれかに記載のシロキサン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のシロキサン樹脂組成物からなる硬化膜であって、その酸素透過率が20.0×10
-12mol・m
-2・s
-1・Pa
-1未満である硬化膜。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のシロキサン樹脂組成物を基板に塗布し、紫外線を照射することで硬化させる硬化膜の製造方法。
【請求項7】
得られた硬化膜の酸素透過率を20.0×10
-12mol・m
-2・s
-1・Pa
-1未満にする請求項6に記載の硬化膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性が高くかつ優れたガスバリア性を示すシロキサン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ塩化ビニリデン(以下、「PVDC」と略す。)がガスバリア膜として多くの場面で使用されてきた。実際、PVDCは優れたガスバリア性を示し、高湿度条件でも高いガスバリア性を示す。しかし、PVDCは焼却処分する際、適切な条件で燃焼しないと、ダイオキシンや塩素ガスといった環境・人体に有害な物質が発生することが懸念されている。このようなことから、廃棄処分が容易なガスバリア膜の開発が進められているが、ガスバリア性が低い、透明性が低いなどデメリットが多く、実用化に至っていない。
【0003】
さらに電子材料分野、例えば有機ELや太陽電池などでは、有機発光体である有機分子を保護するため、高いガスバリア性を有するガスバリア膜が求められている。一般に電子材料向けに用いられるガスバリア膜はシリカ蒸着で形成されているが、シリカ蒸着の装置は大型で機械導入のコストが高く経済面で大きな課題がある。例えば電子線加熱蒸着で高いガスバリア性が得られた報告はあるが、設備導入に多額な費用投資が必要である(例えば特許文献1、2参照)。
【0004】
一方、半導体やディスプレイ材料において、高性能化に伴い電流密度の増加、発光波長の短波長化などにより、高い耐熱性を示す材料が求められている。そのような材料として高い透明性と耐熱性を有するシロキサン樹脂が注目されており、広く用いられている。このシロキサン樹脂を用いて硬化膜を作製しガスバリア膜として評価した例は報告されている。
【0005】
しかし、例えば環状ポリオルガノシロキサンを用いて硬化膜を作製しガスバリア性を評価した例も報告されているが、ガスバリア性の評価レベルが低く電子材料への適応は困難である(例えば特許文献3参照)。また、特許文献3に記載された熱硬化性樹脂組成物は、基板上への塗布性が必ずしも十分でなく、しかも光硬化性を有していないため、電子材料の生産性が低いという課題があった。
【0006】
このことから、ガスバリア膜を形成する設備が高価な蒸着ではなく、さらに耐熱性、透明性が高いガスバリア膜を形成するための新規なシロキサン樹脂組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-102042号公報
【文献】特開2013-52561号公報
【文献】特開2012-211235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、基板上への塗布性が良好で光硬化性を有し、かつ透明性およびガスバリア性に優れたシロキサン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシロキサン樹脂組成物は、シロキサン樹脂と、アクリル単量体と、光重合開始剤と、溶媒からなるシロキサン樹脂組成物であって、前記シロキサン樹脂が、下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rは
メタクリロイル基を含む炭化水素基、Xは水素原子またはケイ素原子、nは1以上の整数を示す)
で表されるユニットのみで構成され、重量平均分子量が500から100,000、分散度が1から20であり、前記光重合開始剤が2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、またはビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドであり、
前記光重合開始剤の含有率が、シロキサン樹脂組成物100重量%中の0.1~10重量%であって、前記溶媒が、
2-プロパノールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシロキサン樹脂組成物は、側鎖にアクリロイル基を有し、重量平均分子量(Mw)500から100,000、分散度(Mw/Mn)が1から20であるシロキサン樹脂と、アクリル単量体と、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、またはビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドである光重合開始剤と、沸点が50~120℃のアルコール、またはシクロヘキサン、またはトルエンである溶媒とからなる。このシロキサン樹脂組成物は、通常シロキサン樹脂と、アクリル単量体と、光重合開始剤とが溶媒に溶解している溶液状態で、塗布性が良好である。このシロキサン樹脂組成物からなる溶液をさまざまな基板に塗布することで基板上に薄膜を形成することができ、紫外線照射により基板上に光硬化フィルムを作製することができる。このように形成した光硬化フィルムは透明性と耐熱性に優れた特性を有していることから、半導体やディスプレイの保護膜などに使用することができる。
【0011】
前記一般式(1)に記載のRは、3-メタクリロキシプロピル基にすることができる。アクリル単量体としてはメタクリル酸メチル、または無水メタクリル酸、またはトリメチロールプロパントリメタクリラートにすることができる。
前記シロキサン樹脂組成物は、基板に塗布したとき、紫外線照射により硬化させることができる。
また上述したシロキサン樹脂組成物からなる膜は、その酸素透過率を20.0×10-12mol・m-2・s-1・Pa-1未満にすることができる。
上述したシロキサン樹脂組成物を基板に塗布し、紫外線照射により硬化させることにより、透明性および耐熱性に優れた硬化膜を製造することができる。
この製造方法で得られた硬化膜は、その酸素透過率を20.0×10-12mol・m-2・s-1・Pa-1未満にすることができる。
また、本発明のシロキサン樹脂組成物は電子分野に限らず、塗料や接着剤等、幅広い分野に応用できる。
また、この製造方法で得られた硬化膜は、その透湿度を50.0g/(m2・day)(25μm換算)未満にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のシロキサン樹脂組成物は、シロキサン樹脂と、アクリル単量体と、光重合開始剤と、溶媒からなるシロキサン樹脂組成物であって、前記シロキサン樹脂が、下記一般式(1)
【化2】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基、Xは水素原子またはケイ素原子、nは1以上の整数を示す)
で表されるユニットのみで構成され、重量平均分子量(Mw)が500から100,000、分散度(Mw/Mn)が1から20であり、前記光重合開始剤が2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、またはビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドであり、前記溶媒が、沸点が50~120℃のアルコール、またはシクロヘキサン、またはトルエンである。
【0013】
上記一般式(1)で示されるユニットのみで構成されるとは、シロキサン樹脂の繰り返し単位が、上記ユニットだけで構成されることをいう。繰り返し構造の末端は水素原子、アルキル基にすることができる。上記一般式(1)において、ユニットの繰り返し数(n)は1以上の整数であり、好ましくは1~50の整数、より好ましくは2~45の整数、さらに好ましくは3~40の整数である。繰り返し数(n)が1以上であれば塗膜にすることができ、nが50以下であれば多くの溶媒に可溶であり好ましい。
【0014】
上記一般式(1)のシロキサン樹脂において、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基を示す。アクリロイル基を含む炭化水素基の炭素数は好ましくは4~10であるとよい。Rとしては、例えば2-メタクリロキシエチル基、3-メタクリロキシプロピル基、4-メタクリロキシブチル基等が挙げられる。その中で工業的に入手可能な3-メタクリロキシプロピル基が特に好ましい。
【0015】
前記一般式(1)において、Xは水素原子、またはケイ素原子を示す。Xが水素原子の場合は、下記一般式(2)で示すユニットとなり、一般的なシラノールと呼ばれる酸性置換基を示す。一方、Xがケイ素原子の場合は、Si-O-Siのシロキサン結合を示す。Xは、隣接する一般式(1)で表されるユニット中のケイ素原子でもよい。
【化3】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
【0016】
本発明を構成するシロキサン樹脂は、ケイ素原子に3つ酸素原子が結合した下記一般式(3)の構造を有し、一般的にはシルセスキオキサンと呼ばれている。
【化4】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基を示す)
【0017】
シルセスキオキサンは、例えば下記一般式(4)のように末端がシラノール基でも良い。
【化5】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基を示す)
【0018】
また、シルセスキオキサンは下記一般式(5)で示すこともできる。
【化6】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基を示すし、nは一般的な重合度を示す整数を示す。)
【0019】
また、シルセスキオキサンは下記一般式(6)で示すラダー型構造が含まれていても良い。
【化7】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基を、nは一般的な重合度を示す整数を示す。)
【0020】
また、本発明を構成するシロキサン樹脂は、分子の立体構造に次の籠型の構造が含まれていても良い。代表的な籠型構造は下記一般式(7)で示されるケイ素原子が8つ有するT8構造と、下記一般式(8)で示されるケイ素原子が10個有するT10構造と、下記一般式(9)で示されるケイ素原子を12個有するT12構造が挙げられる。
【化8】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基を示す)
【0021】
【化9】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基を示す)
【0022】
【化10】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基を示す)
【0023】
それら構造は完全縮合した形では無く、部分的にシラノール基が残っている構造、例えば下記一般式(10)で表されるような構造も含まれていてもよい。また、籠型だけでなく、閉環していないラダー型構造において、部分的にシラノール基が残っていても良い。
【化11】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基を示す)
【0024】
本発明を構成するシロキサン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、500~100,000の範囲である。シロキサン樹脂としては、立体的に小さい構造のものが、硬化膜作製時に緻密な膜が形成でき、それに伴いガスバリア性も向上すると考えられることから、重量平均分子量がより小さい500~50,000のものがより好ましく、500~10,000のものがさらに好ましい。
【0025】
またシロキサン樹脂は、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割った分散度(Mw/Mn)が1~20である。また緻密な膜形成によりガスバリア性が向上するため分散度(Mw/Mn)が小さい方が好ましく、1~5がより好ましい。
【0026】
本明細書において、シロキサン樹脂の重量平均分子量(Mw)、および数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を使用して測定し、標準ポリスチレン換算により求める事が出来る。
【0027】
本発明を構成するシロキサン樹脂は、好ましくは、溶媒に可溶である。
上述したシロキサン樹脂を製造する方法としては、下記一般式(11)で表されるシリコンモノマーを塩基性触媒の存在下、水を使用して加水分解、縮重合する製造方法が好ましい。
【化12】
(式中、Rはアクリロイル基を含む炭化水素基、Aは炭素数1から5のアルキル基を示す。)
【0028】
前記一般式(11)で表されるシリコンモノマーの置換基Rは、前記一般式(1)に記載されたアクリロイル基を含む炭化水素基Rである。また、Aは炭素数1から5のアルキル基を示し、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、iso-ペンチルなどのアルキル基を例示することができる。中でも原料入手が容易なメチル、エチルが好ましい。
【0029】
前記一般式(11)のシリコンモノマーを加水分解、縮重合するには水が必要である。水の使用量は、シリコンモノマーのモル数に対して、好ましくは0.1~10.0当量、より好ましくは0.1~5.0当量にするとよい。反応の安定性の観点から0.4~3.0当量の水を使用する事ことがさらに好ましい。
【0030】
またシリコンモノマーを加水分解、縮重合するとき、塩基性触媒を使用した方が、反応がより速く進むため好ましい。塩基性触媒の使用量は、シリコンモノマーのモル数に対して、0.004~1.0当量が好ましく、反応の再現性の高さや反応制御の容易性の観点から0.004~0.5当量がより好ましい。
【0031】
加水分解、縮重合条件として、反応温度は0~100℃が好ましく、更に好ましくは20~50℃である。触媒を使用する事により反応が容易に進行する事から0℃以上であれば所望のシロキサン樹脂が得られ、100℃以下であればシロキサン樹脂の分子量が制御でき好ましい。
【0032】
本発明を構成するシロキサン樹脂の製造に用いる塩基性触媒としては、無機塩基性触媒、第四級アンモニウム塩、アミン類が好ましく、無機塩基性触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。第4級アンモニウム塩としては、例えばテトラブチルアンモニウムフルオライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラn-ブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリn-ブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、n-オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラn-プロピルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムアイオダイド、テトラエチルアンモニウムアイオダイド、テトラメチルアンモニウムアイオダイド、テトラn-プロピルアンモニウムアイオダイド、トリメチルフェニルアンモニウムアイオダイド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシト゛、フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロゲンスルフェート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラメチルアンモニウムチオシアネート、テトラメチルアンモニウムp-トルエンスルフォネートなどが挙げられる。アミン類としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジンなどが挙げられる。特に、強い塩基でモノマーの加水分解速度を制御可能なテトラメチルアンモニウムヒドロキシドがさらに好ましい。
【0033】
シロキサン樹脂を得る加水分解、縮重合を行なう際は、無溶媒でも行う事が出来るが、粘度や安定性の観点からは溶媒を使用することが好ましく、溶媒としては、トルエン、キシレン等の非プロトン性溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒等の溶媒を使用することができ、そのうちの1種類もしくは複数種類の混合系でも使用できる。また得られたポリシロキサン樹脂を例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチルなどの高沸点溶媒に溶解する場合は、そのまま反応溶媒に使用しても良い。また非プロトン性溶媒を使用した場合は、水と混合しないため加水分解反応が遅くなると推測され、そのような場合は水に可溶なアルコール溶媒を加えて加水分解反応させることが望ましい。
【0034】
反応終了後は、カルボン酸や無機酸で塩基性触媒を中和するとよい。そして非極性溶媒を添加して反応生成物と水とを分離して、重合溶媒に溶解した反応生成物を回収し、水で洗浄後に溶媒を留去することにより目的のシロキサン樹脂を得ることができる。
【0035】
本発明のシロキサン樹脂組成物は、上述のシロキサン樹脂、アクリル単量体、光重合開始剤、および溶媒からなる。アクリル単量体は、1つのアクリロイル基を有する単官能単量体、2つ以上のアクリロイル基、またはその無水物構造を有する多官能単量体のいずれでもよい。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を使用してもよい。
【0036】
単官能のアクリル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類、マレイン酸、フマール酸およびそれらのエステル類、塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレンなどのアルケン類、ハロゲン化アルケン類が挙げられる。また、多官能単量体の例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリラート、等の多価アルコールのポリ不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリル等の不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の多塩基酸のポリアルケニルエステル、ジビニルベンゼン等の芳香族ポリアルケニル類、無水アクリル酸、無水メタクリル酸等の酸無水物類等が挙げられる。中でもメタクリル酸メチル、トリメチロールプロパントリメタクリラート、無水メタクリル酸を用いた場合、ガスバリア性が高いため好ましい。
【0037】
光重合開始剤は、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、またはビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドである。
【0038】
2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、またはビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドを用いると、ガスバリア性を高くすることができる。またこれら光重合開始剤を用いることにより、酸素が存在する雰囲気下でも紫外線照射により、シロキサン樹脂組成物を光硬化することができる。
【0039】
溶媒は、沸点が50~120℃のアルコール、またはシクロヘキサン、またはトルエンである。シロキサン樹脂組成物を基板などに塗布した後、僅かな加熱で留去できる観点から、溶媒の沸点は低いとよく、特にアルコール系溶媒、シクロヘキサン、トルエンは、シロキサン樹脂とアクリル単量体との相溶性が優れている。沸点が50~120℃のアルコールとしては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、n-ヘプタノール、n-ヘキサノール等が挙げられ、中でも低分子であるメタノール、エタノールがより好ましい。
【0040】
本発明において、シロキサン樹脂組成物100重量%中のシロキサン樹脂の含有率は5重量%以上が好ましい。更に好ましくは5~50重量%であり、シロキサン樹脂の含有率を変えることで、ガスバリア膜の膜厚を変えることができる。シロキサン樹脂の含有率が高いと組成物の粘度が増加し、塗布性が低下することから、5~30重量%がより好ましく、5~20重量%がさらに好ましい。またシロキサン樹脂の含有率が5重量%以上であると、ガスバリア性が高く好ましい。
【0041】
また、シロキサン樹脂組成物100重量%中のアクリル単量体の含有率は、5~50重量%が好ましい。アクリル単量体の含有率が高いとシロキサン樹脂組成物の粘度が増加することから、5~30重量%がより好ましく、5~20重量%がさらに好ましい。
【0042】
また、シロキサン樹脂組成物100重量%中の光重合開始剤の含有率は、0.1~10重量%が好ましい。光重合開始剤の含有率が高いとシロキサン樹脂組成物に溶解しないことから、シロキサン樹脂組成物の塗布性が低下し、得られるガスバリア膜も着色したものになる。光重合開始剤の含有率は、0.5~10重量%がより好ましく、1~10重量%がさらに好ましい。
【0043】
シロキサン樹脂組成物100重量%中のアルコール系溶剤などの溶剤の含有率は、好ましくは45~90重量%、より好ましくは55~90重量%、さらに好ましくは65~90重量%であるとよい。
【0044】
シロキサン樹脂組成物を用いてガスバリア膜を作製する一般的な方法を次に記載する。ガスバリア膜の作製は、シロキサン樹脂組成物を基板上に塗布して薄膜を形成し、これに紫外線を照射することでガスバリア膜を作製する。基板としては、例えばガラス基板やシリコンウェハーやポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのフィルムが例示される。また塗布方法としては、例えばスピン塗布法、ディップコート法、グラビアコート法、ドクターブレード法などが挙げられる。特に本発明のシロキサン樹脂組成物は、スピン塗布性が良好であり、厚みが均一で、均質な薄膜を容易に形成することができる。
【0045】
次に基板上に形成された薄膜をホットプレートやオーブンに入れ加熱しながら紫外線を照射することにより、シロキサン樹脂中のアクリルユニットとアクリル単量体と反応させることで、光硬化膜を作製する。
【0046】
紫外線照射は、例えば紫外線ランプを使用し、紫外線を発生させて照射することができる。紫外線ランプには、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、パルス型キセノンランプ、キセノン/水銀混合ランプ、低圧殺菌ランプ、無電極ランプ等があり、いずれも使用することができる。照射露光量は、好ましくは10~10,000mJ/cm2、より好ましくは100~5,000mJ/cm2である。
【0047】
このように作製したガスバリア膜は、シロキサン樹脂の硬化物から形成されており、透明性や耐熱性に優れたガスバリア膜である。本発明の硬化膜の製造方法は、ガラス基板やシリコンウェハー、フィルム上に、シロキサン樹脂組成物を塗布して紫外線を照射するだけでガスバリア膜を容易に作製することができる。得られた硬化膜は、優れた酸素バリア性および透明性を有するガスバリア膜である。
【0048】
ガスバリア膜の酸素透過率は、好ましくは50.0×10-12mol・m-2・s-1・Pa-1未満、より好ましくは30.0×10-12mol・m-2・s-1・Pa-1以下であるとよい。ガスバリア膜の酸素透過率を20.0×10-12mol・m-2・s-1・Pa-1以下にすることにより、高い酸素バリア性を示す優れたガスバリア膜を作製することにすることができ更に好ましい。
【0049】
ガスバリア膜の透湿度は、好ましくは20.0g/(m2・day)(25μm換算)未満、より好ましくは15.0g/(m2・day)(25μm換算)以下であるとよい。ガスバリア膜の透湿度を20.0g/(m2・day)(25μm換算)未満にすることにより、高い水蒸気バリア性を示す優れたガスバリア膜を作製することにすることができる。
【0050】
本発明のガスバリア膜は、上記の通り簡便で作製できることから半導体やディスプレイなどのガスバリア膜に適応可能となるばかりでなく、さらに透明性、耐熱性を持ち合わせた優れたガスバリア膜になる。
【実施例】
【0051】
以下実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。以下の実施例において、測定には下記装置を使用し、原料は試薬メーカー(東京化成工業社、富士フイルム和光純薬社、ナカライテスク社、アズマックス社、信越化学工業社)から購入した一般的な試薬を用いた。
【0052】
<測定装置>
・GPC測定
東ソー社製HLC-8220GPCシステムを使用し、東ソー社製TSKgel SuperHZ3000、TSKgel SuperHZ2000、TSKgel SuperHZ1000を直列に接続して分析を行った。検出はRI(屈折率計)で行い、リファレンスカラムとしてTSKgelSuperH-RCを1本使用した。展開溶媒には和光純薬社製テトラヒドロフランを使用し、カラムとリファレンスカラムの流速は0.35mL/minで行った。測定温度はプランジャーポンプ、カラム共に40℃で行った。サンプルの調製にはシリコーン重合体約0.025gを10mLのテトラヒドロフランで希釈したものを1μL打ちこむ設定で行った。分子量分布計算には、東ソー社製TSK標準ポリスチレン(A-500、A-1000、A-2500、A-5000、F-1、F-2、F-4、F-10、F-20、F-40、F-80)を標準物質として使用して算出した。
【0053】
・酸素透過率測定方法
プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法(JIS K7126-1)に準拠した圧力センサ法による気体透過率測定装置を用い、測定温度は40℃、相対湿度は0%とした。
【0054】
・透湿度測定方法
実施例1および2で得られたガスバリア膜の透湿度を、防湿包装材料の透湿度試験方法(JIS Z0208)に準拠し、条件Bで測定した。
【0055】
・ガスバリア膜作製時のスピン塗布性の評価
作製したガスバリア膜のスピン塗布性については、CPPにムラ無く塗布できたものを○、実用上問題がないレベルで塗布できたものを△、うまく塗布出来なかったものを×とした。
【0056】
・ガスバリア膜の透明性の評価
また得られたガスバリア膜の透明性については、光硬化させた後の硬化膜を目視で評価し、無色で透明なものを○、実用上問題がないレベルの透明性を有するものを△、着色したものを×とした。
【0057】
シロキサン樹脂の合成
合成例1
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた1L4つ口フラスコに、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン203.1g(0.7mol)、メチルイソブチルケトン406.2g(2.0重量倍/モノマー)、2-プロパノール60.9g(0.3重量倍/モノマー)を仕込んだ。次いで、25%テトラメチルアンモニウムヒロドキシド水溶液5.4g(0.007eq/メトキシ基)、水10.9g(0.5eq/メトキシ基)を滴下ロートから15~40℃の温度で滴下した。滴下終了後、反応液を40℃にて20時間熟成させた。熟成後、13%クエン酸水溶液152.3g(1.05eq/テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)で中和した。分液後、水層を除去して得られた油層を2回水洗した。得られた油層を減圧濃縮することで、無色透明粘調液体であるシリコーン重合体125gを得た。得られたポリシロキサン樹脂の重量平均分子量(Mw)は2,140、分散度(Mw/Mn)1.11であった。ここで「eq」は「当量」を示す。
【0058】
ガスバリア膜の作製
実施例1
合成例1に記載したポリシロキサン樹脂を1g、メタクリル酸メチル1g、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン0.55gを秤量し2-プロパノール9gに溶解させて窒素バブリング下10分撹拌しコーティング液を作製した。作製したコーティング溶液を基材であるポリプロピレン製フィルム(CPP)に1000rpm、30秒の条件でスピンコートし薄膜を形成し、高圧水銀ランプを用い、紫外線を0.5時間照射することで光硬化してガスバリア膜を作製した。ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性、酸素透過率および透湿度を測定し、表1に示した。なお基板としたポリプロピレン製フィルム(CPP)の酸素透過率は、20×10-12mol・m-2・s-1・Pa-1であった。
【0059】
実施例2
実施例1に記載したメタクリル酸メチルをトリメチロールプロパントリメタクリラートに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性、酸素透過率および透湿度を測定し、表1に示した。
【0060】
実施例3
実施例1に記載した2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンを0.55gから1.11gに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性、酸素透過率を測定し、表1に示した。
【0061】
実施例4
実施例1に記載した2-プロパノールをメタノールに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性、酸素透過率を測定し、表1に示した。
【0062】
実施例5
実施例1に記載した2-プロパノールをメタノールに、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンを0.55gから0.11gに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性、酸素透過率を測定し、表1に示した。
【0063】
実施例6
実施例1に記載したメタクリル酸メチルを無水メタクリル酸に、2-プロパノールをメタノールに、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンを0.55gから0.22gに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性、酸素透過率を測定し、表1に示した。
【0064】
実施例7
実施例1に記載した2-プロパノールをメタノールに、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン0.55gをビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド0.22gに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性、酸素透過率を測定し、表1に示した。
【0065】
実施例8
実施例1に記載した2-プロパノールを1-プロパノールに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性、酸素透過率を測定し、表1に示した。
【0066】
実施例9
実施例1に記載した2-プロパノールをシクロヘキサンに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性、酸素透過率を測定し、表1に示した。
【0067】
実施例10
実施例1に記載した2-プロパノールをトルエンに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性、酸素透過率を測定し、表1に示した。
【0068】
比較例1
実施例1に記載した2-プロパノールをメタノールに、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンを1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性を測定し、表2に示した。
【0069】
比較例2
実施例1に記載した2-プロパノールを2-メトキシエタノールに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性を測定し、表2に示した。
【0070】
比較例3
実施例1に記載した2-プロパノールをN,N-ジメチルホルムアミドに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性を測定し、表2に示した。
【0071】
比較例4
実施例1に記載した2-プロパノールをエチレングリコールに変更したことを除いて実施例1と同様の操作でガスバリア膜を作製し、ガスバリア膜作製時のスピン塗布性、作製したガスバリア膜の透明性を測定し、表2に示した。
【0072】
それぞれの実施例、比較例で用いた化合物及びその混合比、得られたシリコーン重合体を表1、表2に示す。なお、表1、表2中の各表記は、以下の化合物を表す。
(A-1):2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン
(A-2):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド
(A-3):1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン
(B-1):メタクリル酸メチル
(B-2):無水メタクリル酸
(B-3):トリメチロールプロパントリメタクリラート
【0073】
【0074】