(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】嫌気性発酵茶の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/08 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
A23F3/08
(21)【出願番号】P 2021048003
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】311007419
【氏名又は名称】長峰製茶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136560
【氏名又は名称】森 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】多々良 高行
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-143515(JP,A)
【文献】特開2009-183272(JP,A)
【文献】特開2011-072217(JP,A)
【文献】特開2019-099529(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112293505(CN,A)
【文献】特開2014-064565(JP,A)
【文献】特開昭58-086045(JP,A)
【文献】HORIE, M. et al.,Field Research for Production Method of Miang: Post-Fermented Tea in Thailand,Japan Journal of Food Engineering,2020年,Vol. 21,pp. 125-137
【文献】さがせ、菌の「お国自慢」 いま地産微生物が熱い!,産総研[online],2017年11月30日,[retrieved on 2022.03.11], https://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/bluebacks/no5/
【文献】土屋 雄人,富士山頂に貯蔵した茶の熟成効果,あたらしい農業技術,2016年,No. 611
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉を蒸した後に、嫌気性環境下で茶葉を発酵
し、
前記嫌気性環境が、真空であることを特徴とする嫌気性発酵茶の製造方法。
【請求項2】
茶葉を発酵した後の茶葉の搾汁液のpHが、4.0~5.0である請求項1記載の嫌気性発酵茶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性発酵茶の製造方法に関し、特に、酸味が向上し、臭みが少ない嫌気性発酵茶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
お茶は、その製造方法により様々な種類が存在する。一例としては、不発酵茶である緑茶、半発酵茶であるウーロン茶、発酵茶である紅茶、後発酵茶のプアール茶等がある。中でも、後発酵茶は、他の茶よりも香りなどで優れるため好まれている。
【0003】
かかる後発酵茶としては、阿波晩茶(煮製後発酵茶)、碁石茶(登録商標、蒸製二段階後発酵茶)がある。阿波晩茶は、手摘み、煮熱、揉捻、樽漬、乳酸発酵、天日乾燥の工程を得て作られている。また、碁石茶(登録商標)は、手摘み、蒸熱、一次発酵(カビによる好気発酵)、樽漬、二次発酵(乳酸発酵)、天日乾燥の工程を得て作られている。
【0004】
さらに、特許文献1には、タンパク質の糖化反応を有効に阻害し、安全な物質を製造することを目的として、タンパク質の糖化反応を阻害する物質の製造方法であって、茶葉を好気的発酵した後に嫌気的発酵して発酵茶を得る工程と、上記発酵茶を水系溶媒により抽出して水系溶媒抽出物を得る工程と、上記水系溶媒抽出物をエステル系溶媒により抽出する工程を含む方法が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
しかしながら、伝統的な煮製後発酵茶は釜で煮て殺育するため、連続的に製造することができなかった。また、煮熱工程は、茶葉の成分が煮汁に溶出しやすく、香味成分や栄養成分および後発酵に不可欠な乳酸菌が、減少する要因となっていた。
【0007】
また、伝統的な蒸製二段階後発酵茶や特許文献1記載の方法は、蒸熱による殺青を行ってはいるが、蒸し桶を使用したものであり、連続的に製造することができなかった。また、揉捻を行わずに、生産地域由来のカビによる一次発酵で茶葉の組織を破壊しているため、他の地域では同様の製法による後発酵茶の製造が困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、前記の従来技術の問題を解決し、酸味が向上し、臭みが少ない嫌気性発酵茶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、茶葉を嫌気性環境下で乳酸発酵させることにより、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の嫌気性発酵茶の製造方法は、茶葉を蒸した後に、嫌気性環境下で茶葉を発酵することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の嫌気性発酵茶の製造方法は、前記嫌気性環境が、真空であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の嫌気性発酵茶の製造方法は、茶葉を発酵した後の茶葉の搾汁液のpHが、4.0~5.0であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、酸味が向上し、臭みが少ない嫌気性発酵茶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】蒸した(蒸熱)後の茶葉排出部を示す写真である。
【
図5】真空・減圧対応のアルミ蒸着袋を示す写真である。
【
図12】発酵葉・乾燥サンプルの菌数測定平版像の写真である。
【
図13】発酵葉・乾燥サンプルのコロニー像(MRS寒天培地)およびグラム染色象の一例の写真である。
【
図14】発酵葉・乾燥サンプルのコロニー像(MRS寒天培地)およびグラム染色象の他の例の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の嫌気性発酵茶の製造方法について具体的に説明する。
本発明の嫌気性発酵茶の製造方法は、茶葉を蒸した(蒸熱した)後、嫌気性環境下で茶葉を発酵することを特徴とするものである。また、本発明の嫌気性発酵茶の製造方法は、茶葉を蒸した後に揉捻し、次いで嫌気性環境下で茶葉を発酵することを特徴とするものである。蒸した茶葉を密閉性容器にいれ嫌気性環境下で乳酸発酵させる。また、茶葉を隈なく嫌気性環境下に置くことで、発酵初期の好気性菌やカビ等による腐敗を抑え、茶葉内部の乳酸菌により乳酸発酵を行う。夏季であれば2~3週間程度で強い酸味と果実様の香気が感じられる茶を得ることができる。
【0016】
また、伝統的な煮製後発酵茶が、煮熱工程で茶葉の成分が煮汁に溶出しやすく、乳酸菌も煮汁に溶出し、煮汁が加熱されることで乳酸菌がさらに減少したのに対して、本発明は、蒸熱によるため茶葉内部の種々の栄養成分のロスがなく、乳酸菌もより多く存在する。
【0017】
また、本発明において、前記嫌気性環境としては、本発明の効果が得られれば限定されず、例えば、窒素ガス等の嫌気性ガスを封入することもできるが、窒素ガス等の嫌気性ガスを封入せずに真空とすることが最も好ましい。これにより、伝統的な煮製後発酵茶と異なり、煮汁の必要がないため、茶業界で一般的に使用されている蒸機が使用でき、機械摘採が選択できる。さらに、連続的で効率的な摘採および殺青が可能である。さらにまた、従来の伝統的な製造方法は、樽由来の香気や煮汁由来の香味が付加され複雑な香味が形成されている。特に、樽の上部は空気に直接さらされていることもあり、酵母や乳酸菌以外の微生物による意図しない発酵が行われる場合がある。また、樽内部においても漬け込み時に茶葉と茶葉の間に空気が残っていると乳酸菌の働きが弱まり、品質低下の原因となっていた。これに対して、本発明のように、真空発酵の場合には、容器や袋の内部が満遍なく嫌気状態に置かれるため、純粋な嫌気性発酵による香味が中心となる。そのため、伝統的な煮製後発酵茶等より酸味が強く感じられ、果実様の香気となり、従来の伝統的な製造方法とは全く異なる後発酵茶を得ることができる。
【0018】
さらに、本発明の嫌気性発酵茶の製造方法は、茶葉を発酵した後の茶葉の搾汁液のpHが、4.0~5.0であることが好ましく、4.0~4.5であることがより好ましい。これにより、茶葉の発酵状態を確認でき、酸味が向上し、良質な嫌気性発酵茶を得ることができる。
【0019】
また、本発明において、茶葉とは、摘採後、加熱処理を行われていない茶葉であり、摘採直後の茶葉のみならず、摘採後、冷蔵庫や冷凍庫等で保管された茶葉等も含むものである。さらに、茶葉には、新芽、成葉、茎等のいずれの部位が含まれていてもよく、その含有割合について限定されないが、新芽、成葉が中心である。また、茶(カメリア・シネンイス、ツバキ科の常緑樹)葉は、摘採時期により、秋冬番茶、寒茶、春番茶、一番茶、二番茶、三番茶、四番茶等があるが、中でも秋冬番茶、寒茶、春番茶が好ましい。
【0020】
図1は、茶葉を示す写真であり、
図2は、乗用摘採機での摘採を示す写真である。
図1および
図2に示すように、十分に生育した茶葉を乗用摘採機で摘採する。茎が硬化している場合は、10cm程度の高さで数回に分けて摘採する。図中では、乗用摘採機で摘採しているが、摘む手段は特に限定されず、手摘み等でもよい。かかる乗用摘採機としては、例えば、カワサキ機工株式会社製の乗用型摘採機KJ8C―SJ(商品名)、乗用型摘採機KJ10C―SJ(R)(商品名)等を使用できる。
【0021】
図3は、送帯蒸機を示す写真であり、
図4は、蒸した(蒸熱)後の茶葉排出部を示す写真である。
図3に示すように、摘採した茶葉は送帯蒸機で殺青する。硬化した茶葉の場合は、蒸熱時間は5分程度である。また、
図4に示すように、送帯蒸機および排出後のコンベア等で茶葉に接触する部分については、十分に消毒、殺菌しておく。嫌気性菌やカビ等の付着により腐敗するおそれがあるからである。次いで、得られた茶葉を揉捻することもできるが、揉捻しなくてもよい。なお、図中では、送帯蒸機で蒸熱しているが、蒸熱手段は特に限定されず、例えば、回転型蒸機等を使用することもできる。かかる送帯蒸機としては、例えば、株式会社宮村鉄工所製の送帯式蒸機250K(商品名)~1600K(商品名)、簡易型送帯式蒸機200K型(商品名)、簡易型送帯式蒸機300K型(商品名)等を使用できる。
【0022】
図5は、真空・減圧対応のアルミ蒸着袋を示す写真であり、
図6は、アルミ蒸着袋に茶葉を詰めた写真であり、
図7は、真空包装工程を示す写真である。
図5~
図7に示すように、遮光性有する真空・減圧対応のアルミ蒸着袋に茶葉を入れ、真空パックする。その際に、窒素ガス等の嫌気性ガスは、封入していない。また、例えば、25kg規格のアルミ蒸着袋の場合、入れる茶葉としては、秋茶葉であれば8kg程度、寒茶葉であれば5kg程度であることが好ましい。なお、図中では、真空・減圧対応のアルミ蒸着袋を使用しているが、真空・減圧対応の容器であれば特に限定されず、例えば、缶、ドラム等も使用することができる。また、嫌気性ガスを利用して缶やドラム等の密閉容器内を嫌気性環境にする場合には、茶葉に加重する必要がある。
【0023】
図8は、発酵するための静置状態を示す写真である。
図8に示すように、茶葉を入れた真空のアルミ蒸着袋を、常温(15~35℃)で静置し、乳酸発酵させる。発酵期間としては、夏季であれば3~4週間、冬季であれば6~8週間程度であり、発酵室等を利用して適切に温度管理した場合には、より短期間で発酵が完了する。嫌気性細菌等は、茶葉に含有されるタンニンやpHの低下により減少する。また、発酵中期以降は、乳酸発酵により茶葉の搾汁液のpHが、4.0~5.0に低下する。
【0024】
図9および
図10は、天日乾燥を示す写真である
図9および
図10に示すように、乳酸発酵し、十分な酸味(pHが4.0~4.5)が感じられるようになったところで開封し、茶葉を天日乾燥する。なお、図中では、天日乾燥しているが、乾燥させることができれば乾燥方法は特に限定されず、例えば、乾燥機等も使用することができる。
【0025】
図11は、嫌気性発酵茶を示す写真である。天日乾燥後の嫌気性発酵茶は、酸味が向上し、臭みが少ないものであった。
【0026】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
(実施例)
十分に生育した秋茶葉を乗用摘採機で摘採し、摘採した秋茶葉を
図3に示す送帯蒸機で殺青した。蒸熱時間は5分である。また、送帯蒸機および排出後のコンベアについては、十分に消毒、殺菌した。次いで、得られた茶葉を遮光性有する真空・減圧対応のアルミ蒸着袋に入れ、真空パックした。容量は、25kg規格のアルミ蒸着袋に秋茶葉を8kg入れた。その後、秋茶葉を入れた真空のアルミ蒸着袋を、常温(15~35℃)で静置し、乳酸発酵させた。発酵期間は、夏季のため3~4週間である。得られた茶葉の搾汁液のpHが、4.0~5.0に入っていた。さらに、茶葉を天日乾燥して、嫌気性発酵茶を製造した。得られた乳酸(嫌気性)発酵茶は、酸味が向上し、臭みが少ないものであった。
【0028】
(実験例)
摘採した後の葉(生葉)、蒸熱した後の葉(蒸葉)、揉捻した後の葉(揉捻葉)、蒸熱した後に3週間発酵した葉(蒸葉・発酵)、揉捻した後に3週間発酵した葉(揉捻葉・発酵)、蒸熱した後に3週間発酵し未乾燥の葉(発酵葉・未乾燥)、揉捻した後に3週間発酵し乾燥した葉(発酵葉・乾燥)について、下記生菌数検査および微生物分離試験を行い、結果を下記表1に記した。
【0029】
(生菌数検査試験)
各サンプル5gを計量し、それに10mLの滅菌生理食塩水を加え、破砕、懸濁したものを原液として、下記方法で塗抹、培養して、生菌数を検査した。
・培地:MRS Broth(Oxoid,GBR)+寒天
・培養温度:30℃
・培養時間:5日間
・希釈液:生理食塩水
・希釈倍率:原液~106倍希釈
・測定方法:希釈平板法(0.1mL 表面塗抹CFU法)
自動希釈・塗抹装置、easySpiralDilute(interscience、FRA)
・塗抹枚数:同一希釈を各3枚
・その他の条件:嫌気培養、アネロパウチ・ケンキシステム(三菱ガス化学株式会社)
・コロニー観察:実体顕微鏡 SMZ800N(株式会社ニコン)
・判定:適当な希釈段階のプレート上に生育したコロニーを、コロニー形態の違いによりそれぞれ計測した。
【0030】
(微生物分離試験)
上記生菌数検査試験で使用した菌数測定平板およびMRS Broth(Oxoid,GBR)で培養した培養液から微生物を分離した。分離株についてグラム染色およびカタラーゼ試験を行い、グラム陽性・カタラーゼ陰性の細菌は乳酸菌として分離した。
・培地:MRS Broth(Oxoid,GBR)+寒天
カビ分離株は、Potato Dextrose Agar(Becton Dickinson、USA、pH5.6±0.2)(PDA)でも培養
酵母分離株は、YM Broth(Becton Dickinson、USA) +寒天培地(YM agar)でも培養
・培養温度:30℃
・培養時間:5日間
・希釈液:生理食塩水
・希釈倍率:原液~106倍希釈
・分離方法:希釈平板法(0.1mL 表面塗抹CFU法)
自動希釈・塗抹装置、easySpiralDilute(interscience、FRA)
・塗抹枚数:同一希釈を各3枚
・その他の条件:嫌気培養、アネロパウチ・ケンキシステム(三菱ガス化学株式会社)
・コロニー観察:実体顕微鏡 SMZ800N(株式会社ニコン)
<グラム染色>
以下を用いてグラム染色性および細胞形態を観察した。
・グラム染色:ファイバーG「ニッスイ」(日水製薬株式会社)
・顕微鏡:光学顕微鏡 BX50F4(オリンパス株式会社)
<カタラーゼ試験>
以下を用いてカタラーゼ試験を行った。
・カタラーゼ試験:3%過酸化水素水
・判定:気泡が発生しないものを陰性と判定
【0031】
【0032】
図12は、発酵葉・乾燥サンプルの菌数測定平版像の写真であり、
図13は、発酵葉・乾燥サンプルのコロニー像(MRS寒天培地)およびグラム染色象の一例の写真であり、
図14は、発酵葉・乾燥サンプルのコロニー像(MRS寒天培地)およびグラム染色象の他の例の写真である。表1および
図12~
図14の結果から、本発明の嫌気性発酵茶の製造方法で製造することで、嫌気性発酵茶の乳酸菌のみが増え、一般細菌やカビ等は死滅していることがわかった。このことから、酸味が向上し、臭みが少ない嫌気性発酵茶が得られることが確認できた。
【要約】
【課題】酸味が向上し、臭みが少ない嫌気性発酵茶の製造方法を提供する。
【解決手段】茶葉を蒸した後に、嫌気性環境下で茶葉を発酵することを特徴とする嫌気性発酵茶の製造方法である。嫌気性環境が、真空であることが好ましく、茶葉を発酵した後の茶葉の搾汁液のpHが、4.0~5.0であることが好ましい。
【選択図】
図10