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特許7085232スキーアイゼンおよびスキーアイゼンセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】スキーアイゼンおよびスキーアイゼンセット
(51)【国際特許分類】
   A63C 7/10 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
A63C7/10 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020148696
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2021074514
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019205158
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517455317
【氏名又は名称】有限会社ブンリン
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】文林 秀高
(72)【発明者】
【氏名】平下 恒男
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3154762(JP,U)
【文献】実公昭29-2251(JP,Y1)
【文献】特開昭55-103801(JP,A)
【文献】実公昭40-21542(JP,Y1)
【文献】特開昭48-100231(JP,A)
【文献】実開昭54-94566(JP,U)
【文献】実公昭34-18040(JP,Y1)
【文献】特開2003-299763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63C 7/10
A43C 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキー板の表面に取り付けられた取付板と、前記スキー板の幅方向の両側を当該スキー板の裏面側に突出して前記スキー板の前後方向に延びる一対の横滑り防止刃と、を備えるアイゼン本体と、
一対の前記横滑り防止刃に架け渡されて前記スキー板の裏面側を前記幅方向に延びる板状の後滑り防止刃と、
前記後滑り防止刃を付勢する付勢機構と、を有し、
一対の前記横滑り防止刃は、前記後滑り防止刃が架け渡された支持部を備え、
前記支持部は、前記後滑り防止刃を、前記スキー板の裏面に沿って延びて刃先が後方を向く第1位置と、前記スキー板の裏面から起立して前記刃先が前記スキー板とは反対側を向く第2位置と、の間で揺動可能に支持し、
前記付勢機構は、前記後滑り防止刃を前記第2位置に付勢することを特徴とするスキーアイゼン。
【請求項2】
前記支持部は、各横滑り防止刃において前記幅方向に貫通する一対の支持孔を備え、
前記後滑り防止刃は、前記幅方向で一対の前記横滑り防止刃の間に位置する本体部と、前記本体部の両側で前記支持孔を貫通する一対の貫通部と、前記貫通部の前記本体部とは反対側で一対の前記横滑り防止刃の外側に位置する一対の突出部と、を備え、
前記横滑り防止刃における前記支持孔の開口縁は、前記後滑り防止刃が前記第1位置にあるときに、前記スキー板の側から前記後滑り防止刃に当接する第1開口縁部分と、前記後滑り防止刃が前記第2位置にあるときに前方から前記後滑り防止刃に当接する第2開口縁部分とを備え、
前記付勢機構は、前記後滑り防止刃を前記第2開口縁部分に付勢することを特徴とする請求項1に記載のスキーアイゼン。
【請求項3】
前記貫通部は、前記後滑り防止刃が前記第2位置にあるときに前記スキー板の側の端に位置する部分に、当該貫通部の他の部分よりも前後方向に厚い厚肉部分を備え、
前記厚肉部分は、前記付勢機構が前記後滑り防止刃を前記第2開口縁部分に付勢したときに、前記横滑り防止刃における前記支持孔の開口縁において前記第1開口縁部分と前記第2開口縁部分とが交わる入隅部に当接することを特徴とする請求項2に記載のスキーアイゼン。
【請求項4】
一対の前記支持孔のうちの一方は、前記後滑り防止刃を前記幅方向に通過させることが可能な孔部分を備えることを特徴とする請求項2または3に記載のスキーアイゼン。
【請求項5】
各横滑り防止刃は、当該横滑り防止刃の刃先の側から前記支持孔に連通する切欠き溝を備え、
前記切欠き溝の幅は、前記後滑り防止刃の厚み以上であることを特徴とする請求項2または3に記載のスキーアイゼン。
【請求項6】
一対の前記突出部のそれぞれは、前記後滑り防止刃が前記第2位置に配置されたときに前記スキー板に近い側に貫通孔を備え、
前記付勢機構は、伸縮可能な弾性部分を備えるロープを備え、
前記ロープは、前記後滑り防止刃が前記第2位置に配置されたときに、一方の前記突出部における前記貫通孔の開口縁部分に後方から当接する第1結び目と、前記後方から前記前方に向かって一方の前記突出部の前記貫通孔を通過し、前記スキー板の前記表面の側を経由して、前記前方から前記後方に向かって他方の前記突出部の前記貫通孔を通過する引き回し部分と、他方の前記突出部における前記貫通孔の開口縁に後方から当接する第2結び目と、を備えることを特徴とする請求項2から5のうちのいずれか一項に記載のスキー
アイゼン。
【請求項7】
前記ロープは、ナイロン製の第1ナイロンロープおよび第2ナイロンロープと、弾性を備えるストレッチロープと、を備え、
前記第1ナイロンロープは、前記第1結び目を備え、一方の前記突出部の前記貫通孔を通過して前記取付板の前記スキー板とは反対側に達しており、
前記第2ナイロンロープは、前記第2結び目を備え、他方の前記突出部の前記貫通孔を通過して前記取付板の前記スキー板とは反対側に達しており、
前記ストレッチロープは、前記スキー板の前記表面の側において、前記第1ナイロンロープと第2ナイロンロープとの間を前記幅方向に延びることを特徴とする請求項6に記載のスキーアイゼン。
【請求項8】
前記第1ナイロンロープと前記ストレッチロープの幅方向の一方側の端部分とは結ばれており、
前記第2ナイロンロープと前記ストレッチロープの前記幅方向の他方側の端部分とは、係止機構を介して着脱可能に接続されており、
前記係止機構は、前記ストレッチロープおよび前記第2ナイロンロープの一方に設けられた係止部と、前記ストレッチロープおよび前記第2ナイロンロープの他方に設けられた被係止部と、を備えることを特徴とする請求項7に記載のスキーアイゼン。
【請求項9】
前記第1ナイロンロープと前記ストレッチロープの幅方向の一方側の端部分とは、結ばれており、
前記第2ナイロンロープと前記ストレッチロープの前記幅方向の他方側の端部分とは、結ばれており、
前記後滑り防止刃は、一方の前記突出部に、前記貫通孔に連通するロープ挿通用切欠き溝を備え、
前記第1ナイロンロープは、前記ロープ挿通用切欠き溝を通過可能であり、
前記ロープ挿通用切欠き溝の幅寸法は、前記貫通孔の直径以下であることを特徴とする請求項7に記載のスキーアイゼン。
【請求項10】
前記本体部は、前記後滑り防止刃が前記第2位置に配置されたときに前記スキー板から離間する方向に向かって前記幅方向で先細りとなる刃部を当該幅方向に連続して複数備えることを特徴とする請求項2から8のうちのいずれか一項に記載のスキーアイゼン。
【請求項11】
請求項1ないし10のうちのいずれかの項に記載のスキーアイゼンと、
前記アイゼン本体をスキー板に取り付けるための固定具と、
前記固定具をスキー板の表面に締結固定する締結ボルトと、
前記アイゼン本体が前記スキー板から脱落することを防止する脱落防止機構と、
を有し、
前記取付板は、非円形の開口部を備え、
前記固定具は、前記取付板と同一の厚みを備え前記開口部に嵌合可能なベースと、前記スキー板と垂直な回転軸回りに回転可能な状態で前記ベースに取り付けられた非円形の係止板と、前記係止板と前記ベースとの間に介在するスペーサと、を有し、
前記係止板は、前記ベースが前記開口部に嵌った状態において、前記回転軸方向から見た場合に前記開口部の内側に位置する第1回転位置と、前記開口部から外周側に突出する係止部分を備える第2回転位置との間で回転し、
前記脱落防止機構は、前記取付板において前記係止板が前記第1回転位置と前記第2回転位置との間を回転する回転軌跡と重なる領域に前記係止板の側に突出する突起を備え、
前記突起は、前記第1回転位置に配置された前記係止板よりも前記第2回転位置の側であって、前記回転軸方向から見た場合に前記第2回転位置に配置された前記係止板と重な
らない位置に設けられ、
前記突起の突出寸法は、前記スペーサの厚み寸法よりも短いことを特徴とするスキーアイゼンセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪山の登高時、斜行時にスキー板の横滑りと後方へのスリップの双方を低減できるスキーアイゼンに関する。また、スキーアイゼンとスキーアイゼンをスキー板に固定するための固定具とを備えるスキーアイゼンセットに関する。
【背景技術】
【0002】
山スキーやテレマークスキーでは、雪山をスキーで登高する際に、スキー板に滑り止め用のアタッチメントを装着する。このような滑り止め用のアタッチメントとしては、特許文献1に記載のスキーアイゼンが知られている。同文献のスキーアイゼンは、スキー板の表面に取り付けられた取付板と、取付板の幅方向の両側から取付板の裏面側に突出して前後方向に延びる一対の横滑り防止刃と、一方の横滑り防止刃に固定されて他方の横滑り防止刃の側に向かって延びる後滑り防止刃とを備える。幅方向において、他方の横滑り防止刃と後滑り防止刃との間には、スキーアイゼンをスキー板に装着する際に、取付板の裏面側にスキー板を挿入するための隙間が設けられている。
【0003】
特許文献1のスキーアイゼンをスキー板に装着した状態では、横滑り防止刃はスキー板の幅方向の双方のエッジの側方から下方に突出して前後方向に延びる。後滑り防止刃は、スキー板の裏面の下方において横滑り防止刃と交差する方向に延びる。従って、スキーヤーがスキー板に体重を載せると、互いに交差する横滑り防止刃および後滑り防止刃が雪面に食い込む。この結果、スキー板の横滑りと後方へのスリップを同時に低減することができるので、登高が楽になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-157779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のスキーアイゼンでは、他方の横滑り防止刃と後滑り防止刃との間に隙間が設けられている。従って、雪山の急斜面を斜行する際に、後滑り防止刃が固定された一方の横滑り防止刃が谷側に位置し、他方の横滑り防止刃が山側に位置すると、スキー板の後方へのスリップを十分に低減することができなくなるという問題がある。
【0006】
すなわち、急斜面の斜行では、スキーヤーは、スキー板の山側のエッジを利かせて進行する。これにより、スキー板は、山側のエッジが雪面に沈み、谷側のエッジが浮いた状態となる。よって、スキーアイゼンを装着している場合には、山側に位置する他方の横滑り防止刃は雪面に十分に食い込むが、谷側に位置する一方の横滑り防止刃は、他方の横滑り防止刃と比較して雪面への食い込みが浅くなる。ここで、山側で雪面に深く食い込む他方の横滑り防止刃の近傍には、後滑り防止刃が存在しない。これに対して、谷側の一方の横滑り防止刃には後滑り防止刃が固定されているが、一方の横滑り防止刃は雪面への食い込みが浅いので、後滑り防止刃の雪面への食い込みが浅くなる。この結果、スキー板の後方へのスリップを十分に低減することができなくなるので、スキーヤーは、斜行の角度を低下させなければならず、斜行によって高度を稼ぐことが困難となる。
【0007】
ここで、後滑り防止刃を一対の横滑り防止刃の間に架け渡せば、斜行の方向に拘わらず、後滑り防止刃を雪面に食い込ませることができ、スキー板の後方へのスリップを低減できる。しかし、後滑り防止刃を一対の横滑り防止刃に架け渡した場合には、スキーヤーが
雪面を進行する際に、後滑り防止刃が一対の横滑り防止刃の間にある雪面の表層の雪を掻いてしまう。また、横滑り防止刃と後滑り防止刃との間に隙間が無くなるので、後滑り防止刃が掻いた雪が後滑り防止刃の前方に留まり、スキーヤーの前進を阻害する。従って、前進時にスキーヤーに負荷がかかる。
【0008】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、斜行の方向に拘わらずスキー板の横滑りと後方へのスリップを低減でき、前進時にスキーヤーへかかる負荷の増加を抑制できるスキーアイゼンおよびスキーアイゼンセットを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のスキーアイゼンは、スキー板の表面に取り付けられた取付板と、前記スキー板の幅方向の両側を当該スキー板の裏面側に突出して前記スキー板の前後方向に延びる一対の横滑り防止刃と、を備えるアイゼン本体と、一対の前記横滑り防止刃に架け渡されて前記スキー板の裏面側を前記幅方向に延びる板状の後滑り防止刃と、前記後滑り防止刃を付勢する付勢機構と、を有し、一対の前記横滑り防止刃は、前記後滑り防止刃が架け渡された支持部を備え、前記支持部は、前記後滑り防止刃を、前記スキー板の裏面に沿って延びて刃先が後方を向く第1位置と、前記スキー板の裏面から起立して前記刃先が前記スキー板とは反対側を向く第2位置と、の間で揺動可能に支持し、前記付勢機構は、前記後滑り防止刃を前記第2位置に付勢することを特徴とする。
【0010】
本発明のスキーアイゼンでは、後滑り防止刃は、スキー板の幅方向の両側で前後方向に延びる一対の横滑り防止刃に架け渡されている。従って、一対の横滑り防止刃のそれぞれと後滑り防止刃との間には隙間がない。これにより、斜行の方向に拘わらず、後滑り防止刃において山側に位置する横滑り防止刃に近い部分を雪面に食い込ませることができる。よって、斜行の方向に拘わらず、スキー板の後方へのスリップを低減できる。また、後滑り防止刃は、スキー板の裏面に沿って延びて刃先が後方を向く第1位置と、スキー板の裏面から起立して刃先がスキー板とは反対側を向く第2位置と、の間で揺動可能な状態で一対の横滑り防止刃に支持されている。従って、スキーヤーが雪面を進行する際にスキー板を前進させると、後滑り防止刃を第2位置から第1位置に移動させることができる。これにより、後滑り防止刃が雪を掻くことを防止或いは抑制できるので、前進時にスキーヤーにかかる負荷が増加することを抑制できる。さらに、後滑り防止刃は、付勢機構によって第2位置に付勢されている。従って、スキーヤーが雪面からスキー板を上げて一歩踏み出すと、後滑り防止刃はスキー板の裏面から起立する第2位置に配置される。よって、スキーヤーが雪面を踏み込む際には、後滑り防止刃を雪面に食い込ませることができる。さらに、スキーヤーが雪面を下降する際には、後滑り防止刃がスキー板の裏面に沿って延びる第1位置に配置される。従って、後滑り防止刃が滑走を阻害することを抑制できる。
【0011】
本発明において、前記支持部は、各横滑り防止刃において前記幅方向に貫通する一対の支持孔を備え、前記後滑り防止刃は、前記幅方向で一対の前記横滑り防止刃の間に位置する本体部と、前記本体部の両側で前記支持孔を貫通する一対の貫通部と、前記貫通部の前記本体部とは反対側で一対の前記横滑り防止刃の外側に位置する一対の突出部と、を備え、前記横滑り防止刃における前記支持孔の開口縁は、前記後滑り防止刃が前記第1位置にあるときに、前記スキー板の側から前記後滑り防止刃に当接する第1開口縁部分と、前記後滑り防止刃が前記第2位置にあるときに前方から前記後滑り防止刃に当接する第2開口縁部分とを備え、前記付勢機構は、前記後滑り防止刃を前記第2開口縁部分に付勢するものとすることができる。このようにすれば、一対の横滑り防止刃のそれぞれに設けた支持部によって後滑り防止刃を第1位置と第2位置との間で揺動可能に支持することが容易となる。また、付勢機構によって、後滑り防止刃を第2位置に付勢することが容易である。
【0012】
本発明において、前記貫通部は、前記後滑り防止刃が前記第2位置にあるときに前記ス
キー板の側の端に位置する部分に、当該貫通部の他の部分よりも前後方向に厚い厚肉部分を備え、前記厚肉部分は、前記付勢機構が前記後滑り防止刃を前記第2開口縁部分に付勢したときに、前記横滑り防止刃における前記支持孔の開口縁において前記第1開口縁部分と前記第2開口縁部分とが交わる入隅部に当接するものとすることができる。このようにすれば、各横滑り防止刃の支持孔の開口縁の入隅部に厚肉部分が接触するので、後滑り防止刃が第1位置と第2位置との間で変位する際に各貫通部が摩耗することを抑制できる。また、貫通部と支持孔の入隅部との接触面積が増加するので、各横滑り防止刃の支持孔の開口縁の入隅部が、後滑り防止刃との接触によって摩耗することを防止、或いは抑制できる。さらに、後滑り防止刃は、厚肉部分が支持孔の開口縁の入隅部に接触した状態で第1位置と第2位置との間で変位する。従って、第1位置と第2位置との間で変位する後滑り防止刃の動きが滑らかになる。
【0013】
本発明において、一対の前記支持孔のうちの一方は、前記後滑り防止刃を前記幅方向に通過させることが可能な孔部分を備えるものとすることができる。このようにすれば、アイゼン本体をスキー板に固定した後に、一方の横滑り防止刃の貫通孔の孔部分を介して後滑り防止刃をスキー板の裏面側に挿入して、後滑り防止刃を一対の横滑り防止刃の支持孔に架け渡すことができる。
【0014】
本発明において、各横滑り防止刃は、当該横滑り防止刃の刃先の側から前記支持孔に連通する切欠き溝を備え、前記切欠き溝の幅は、前記後滑り防止刃の厚み以上であるものとすることができる。このようにすれば、アイゼン本体をスキー板に固定した後に、切欠き溝を介して後滑り防止刃をスキー板の裏面側に配置して、後滑り防止刃を一対の横滑り防止刃の支持孔に架け渡すことができる。また、切欠き溝を介して各支持孔に後滑り防止刃を支持させる場合には、後滑り防止刃の基端から刃先までの長さ寸法を、支持孔から切り欠き部の解放端までの長さ寸法よりも大きくできる。すなわち、後滑り防止刃の基端から刃先までの長さ寸法を、横滑り防止刃の取付板から刃先までの長さ寸法よりも大きくすることが可能となる。よって、スキーアイゼンによる登高力を大きくすることが容易となる。
【0015】
本発明において、一対の前記突出部のそれぞれは、前記後滑り防止刃が前記第2位置に配置されたときに前記スキー板に近い側に貫通孔を備え、前記付勢機構は、伸縮可能な弾性部分を備えるロープを備え、前記ロープは、前記後滑り防止刃が前記第2位置に配置されたときに、一方の前記突出部における前記貫通孔の開口縁部分に後方から当接する第1結び目と、前記後方から前記前方に向かって一方の前記突出部の前記貫通孔を通過し、前記スキー板の前記表面の側を経由して、前記前方から前記後方に向かって他方の前記突出部の前記貫通孔を通過する引き回し部分と、他方の前記突出部における前記貫通孔の開口縁に後方から当接する第2結び目と、を備えるものとすることができる。このようにすれば、弾性部分を備えるロープによって、後滑り防止刃を第2位置に付勢することができる。また、弾性部分を備えるロープにより、後滑り防止刃が一対の横滑り防止刃に設けた支持部から脱落することを防止できる。さらに、弾性部分を備えるロープによって後滑り防止刃を第2位置に付勢すれば、金属製のバネ部材などを用いて後滑り防止刃を付勢する場合と比較して、軽量であり、スキーアイゼンに付着した雪などの氷結に起因するトラブルを抑制することができる。ここで、引き回し部分は、スキー板の表面の側であれば、取付け板の表面を引き回してもよく、スキー板の表面を引き回してもよい。
【0016】
本発明において、前記ロープは、ナイロン製の第1ナイロンロープおよび第2ナイロンロープと、弾性を備えるストレッチロープと、を備え、前記第1ナイロンロープは、前記第1結び目を備え、一方の前記突出部の前記貫通孔を通過して前記取付板の前記スキー板とは反対側に達しており、前記第2ナイロンロープは、前記第2結び目を備え、他方の前記突出部の前記貫通孔を通過して前記取付板の前記スキー板とは反対側に達しており、前
記ストレッチロープは、前記スキー板の前記表面の側において、前記第1ナイロンロープと第2ナイロンロープとの間を前記幅方向に延びるものとすることができる。このようにすれば、ロープに弾性部分を備えることが容易である。また、このようにすれば、耐摩耗性の高いナイロン製のナイロンロープが、雪面、横滑り防止刃、および後滑り防止刃と接触する部分を引き回される。従って、摩耗によってロープが切れることを防止或いは抑制できる。
【0017】
本発明において、前記第1ナイロンロープと前記ストレッチロープの幅方向の一方側の端部分とは結ばれており、前記第2ナイロンロープと前記ストレッチロープの前記幅方向の他方側の端部分とは、係止機構を介して着脱可能に接続されており、前記係止機構は、前記ストレッチロープおよび前記第2ナイロンロープの一方に設けられた係止部と、前記ストレッチロープおよび前記第2ナイロンロープの他方に設けられた被係止部と、を備えるものとすることができる。このようにすれば、ロープを、ストレッチロープと第2ナイロンロープとの間で分割することができる。従って、ロープを分割した状態で後滑り防止刃に取り付けておき、後滑り防止刃を一対の横滑り防止刃に架け渡した後に取付板のスキー板とは反対側で係止機構を介してストレッチロープと第2ナイロンロープを接続すれば、ロープによって付勢機構を構成できる。また、ロープによって、後滑り防止刃が一対の横滑り防止刃から脱落することを防止できる。
【0018】
本発明において、前記第1ナイロンロープと前記ストレッチロープの幅方向の一方側の端部分とは、結ばれており、前記第2ナイロンロープと前記ストレッチロープの前記幅方向の他方側の端部分とは、結ばれており、前記後滑り防止刃は、一方の前記突出部に、前記貫通孔に連通するロープ挿通用切欠き溝を備え、前記第1ナイロンロープは、前記ロープ挿通用切欠き溝を通過可能であり、前記ロープ挿通用切欠き溝の幅寸法は、前記貫通孔の直径以下であるものとすることができる。このようにすれば、第1ナイロンロープをロープ挿通用切欠き溝を介して貫通孔に挿通して、第1結び目を一方の突出部における貫通孔の開口縁部分に後方から当接させることができる。従って、ロープを後滑り防止刃に接続することが容易となる。
【0019】
次に、本発明のスキーアイゼンセットは、上記のスキーアイゼンと、前記アイゼン本体をスキー板に取り付けるための固定具と、前記固定具をスキー板の表面に締結固定する締結ボルトと、前記アイゼン本体が前記スキー板から脱落することを防止する脱落防止機構と、を有し、前記取付板は、非円形の開口部を備え、前記固定具は、前記取付板と同一の厚みを備え前記開口部に嵌合可能なベースと、前記スキー板と垂直な回転軸回りに回転可能な状態で前記ベースに取り付けられた非円形の係止板と、前記係止板と前記ベースとの間に介在するスペーサと、を有し、前記係止板は、前記ベースが前記開口部に嵌った状態において、前記回転軸方向から見た場合に前記開口部の内側に位置する第1回転位置と、前記開口部から外周側に突出する係止部分を備える第2回転位置との間で回転し、前記脱落防止機構は、前記取付板において前記係止板が前記第1回転位置と前記第2回転位置との間を回転する回転軌跡と重なる領域に前記係止板の側に突出する突起を備え、前記突起は、前記第1回転位置に配置された前記係止板よりも前記第2回転位置の側であって、前記回転軸方向から見た場合に前記第2回転位置に配置された前記係止板と重ならない位置に設けられ、前記突起の突出寸法は、前記スペーサの厚み寸法よりも短いものとすることができる。
【0020】
本発明のスキーアイゼンセットを用いてスキー板にスキーアイゼンを装着する際には、まず、スキー板に固定されたベース上で係止板を第1回転位置に配置する。次に、取付板の開口部にベースおよび係止板を貫通させて、ベースが開口部に嵌った状態とする。その後、係止板を回転させて第2回転位置に配置する。これにより、係止板は取付板の開口部から外周側に突出する係止部分を備えるものとなる。従って、取付板はスキー板と係止板
とによって回転軸方向から挟まれた状態となる。よって、スキーアイゼンは、スキー板に脱落不能に装着される。ここで、固定具は、ベースと係止板との間に介在するスペーサを有する。従って、ベースに雪が付着している場合でも、係止板を回転させることが容易である。よって、雪山の進行中に、スキー板に対してスキーアイゼンを装着することが容易である。また、スキーアイゼンは、雪面に食い込む一対の横滑り防止刃と、一対の横滑り防止刃に架け渡された後滑り防止刃と、を備える。従って、スキーヤーが雪面を進行する際に、スキー板の横滑り、および後方へのスリップを確実に低減できる。
【0021】
ここで、スキーアイゼンは、固定具が備えるスペーサの厚み分だけ、スキー板上で変位可能となっている。この一方、スキーアイゼンは複数の刃を備えるので、スキーヤーが雪面を進行する際には、スキーアイゼンが雪面から受ける反力が大きくなる。従って、スキーヤーが雪面を進行する際には、雪面からの反力によって、スキーアイゼンがスキー板上で変位する。スキーアイゼンがスキー板上で変位すると、スキーアイゼンの取付板が固定具の係止板に接触して、係止板を第2回転位置から第1回転位置に向かう方向に回転させることがある。係止板が回転して第1回転位置に達すると、スキーアイゼンは、スキー板から脱落してしまう。
【0022】
このような問題に対して、スキーアイゼンセットは、スキーアイゼンがスキー板から脱落することを防止する脱落防止機構を備える。脱落防止機構は、取付板における係止板の回転軌跡と重なる領域に設けられた突起である。突起は、第1回転位置に配置された係止板よりも第2回転位置の側であり、かつ、第2回転位置に配置された係止板と重ならない位置に設けられている。従って、係止板が第2回転位置に配置されているときにスキーアイゼンが雪面からの反力を受けて変位して取付板がスキー板から浮き上がると、突起は、係止板の係止部分に第1回転位置の側から接触可能となる。よって、スキーアイゼンがスキー板上で変位する動作を繰り返した場合でも、係止板が第2回転位置から回転して第1回転位置に達することを防止できる。この一方で、突起の突出寸法は、スペーサの厚み寸法よりも短い。従って、スキーアイゼンをスキー板に装着する際に取付板とスキー板とを密着させれば、突起が係止板の回転軌跡と重なる領域に設けられていても、突起と係止板とが干渉することはない。
【発明の効果】
【0023】
本発明のスキーアイゼンをスキー板に装着すれば、雪山の急斜面を進行する際に、斜行の方向に拘わらず、スキー板の横滑り、および後方へのスリップを確実に低減できる。また、スキーヤーが雪面を前進する際には、後滑り防止刃を第2位置から第1位置に移動させることができるので、後滑り防止刃が雪を掻くことを防止或いは抑制できる。従って、後滑り防止刃を設けたことにより前進時にスキーヤーにかかる負荷が増加することを抑制できる。さらに、後滑り防止刃は、付勢機構によって第2位置に付勢されている。従って、スキーヤーが雪面からスキー板を上げて一歩踏み出すと、後滑り防止刃は、スキー板の裏面から起立する第2位置に配置される。よって、スキーヤーがスキー板を踏み込むときに、後滑り防止刃を雪面に食い込ませることができる。
【0024】
また、本発明のスキーアイゼンセットは、ベースと係止板との間にスペーサを備えるので、固定具のベースに雪などが付着した場合でも、係止板を回転させることができる。よって、雪山の進行中に、スキー板に対してスキーアイゼンを装着することができる。また、脱落防止機構によって、スキーアイゼンがスキー板から脱落することを防止或いは抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】固定具によりスキーアイゼンをスキー板に装着した状態の側面図である。
図2】スキーアイゼンをスキー板に装着した状態の正面図である。
図3】スキーアイゼンをスキー板に装着した状態の平面図である。
図4】スキー板からスキーアイゼンを取り外した状態の説明図である。
図5】固定具の断面図である。
図6】変形例1のスキーアイゼンの側面図である。
図7】変形例2のスキーアイゼンの側面図である。
図8】変形例3のスキーアイゼンの側面図である。
図9】変形例3のスキーアイゼンの後滑り防止刃の正面図、平面図、側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したスキーアイゼンセットの実施の形態を説明する。
【0027】
(全体構成)
図1は固定具によりスキーアイゼンをスキー板に装着した状態の側面図である。図2は、固定具によりスキーアイゼンをスキー板に装着した状態の正面図である。図3は、固定具によりによりスキーアイゼンをスキー板に装着した状態の平面図である。図4は、スキー板からスキーアイゼンを取り外した状態の説明図である。
【0028】
図1に示すように、本発明のスキーアイゼンセット1は、スキーアイゼン2と、スキーアイゼン2をスキー板3の表面3aに取り付けるための固定具5と、を備える。また、スキーアイゼンセット1は、図3に示すように、固定具5をスキー板3の表面3aに締結固定する4本の締結ボルト6を備える。
【0029】
以下では、固定具5を用いてスキーアイゼン2をスキー板3に取り付けた状態を説明する。また、以下では、スキー板3の前後方向およびスキー板3の幅方向を、それぞれスキーアイゼン2の前後方向X、幅方向Yとする。また、スキー板3の前方をスキーアイゼンの前方X1、スキー板の後方をスキーアイゼンの後方X2とする。さらに、スキー板3を水平としたときにスキー板3に垂直な上下方向をスキーアイゼン2の上下方向Zとする。また、スキー板3の表面3aが向いている方向を上方Z1、スキー板3の裏面3bが向く方向を下方Z2とする。
【0030】
(スキーアイゼン)
スキーアイゼン2は、図1に示すように、スキー板3の表面3aに取り付けられた取付板11と、スキー板3の幅方向Yの両側を当該スキー板3の裏面3b側に突出して前後方向Xに延びる一対の横滑り防止刃12と、を備えるアイゼン本体10を有する。アイゼン本体10は、ステンレス鋼製の一枚の板金を屈曲させて、取付板11および一対の横滑り刃を設けている。また、図2に示すように、スキーアイゼン2は、アイゼン本体10の一対の横滑り防止刃12に架け渡されてスキー板3の裏面3b側を幅方向Yに延びる板状の後滑り防止刃13を備える。後滑り防止刃13は、アルミ合金製の板部材である。さらに、スキーアイゼン2は、後滑り防止刃13の幅方向Yの両端部分に接続されて、取付板11の表面を介して引き回されたロープ14(付勢機構)を備える。
【0031】
図3図4に示すように、取付板11は、幅方向Yに長い長方形形状の板部16と、板部16の前端縁から上方Z1に屈曲する前側屈曲部17と、板部16の後端縁から上方Z1に屈曲する後側屈曲部18と、を備える。板部16の中央部分には幅方向Yに長い長方形形状の開口部19が設けられている。開口部19の四隅はアール形状に縁取られている。取付板11の上面の開口部19よりも前側には、突起20が設けられている。突起20は板部16の幅方向Yの中央に形成されている。突起20を上方Z1から見た場合の形状は半円形状であり、円弧部分は開口部19の側に設けられている。
【0032】
図1図4に示すように、一対の横滑り防止刃12は、板状であり、板部16の幅方向Yの両端縁から下方Z2に屈曲して上下方向Zおよび前後方向Xに延びる。各横滑り防止刃12は、全体として、前後方向Xに長い長方形形状をしている。各横滑り防止刃12の下端縁は、後方X2に向かって僅かに下方Z2に傾斜する。各横滑り防止刃12に下端縁には、前後方向Xで離間する2か所に切欠き部21が設けられている。これにより、各横滑り防止刃12は、下端縁に、前後方向Xで離間する3つの刃部22を備える。図2に示すように、各刃部22は、下方Z2に向かって幅方向Yの厚みが薄くなる。各刃部22の下端は横滑り防止刃12の刃先である。
【0033】
一対の横滑り防止刃12は、後滑り防止刃13を揺動可能に支持する支持部24を備える。支持部24は、各横滑り防止刃12を幅方向Yに貫通する一対の支持孔25を備える。本例では、各支持孔25は、各横滑り防止刃12の前端の刃部22の上方Z1に設けられている。図1に示すように、一方の横滑り防止刃12に設けられた支持孔25は、スキー板3の裏面3bに近い位置で前後方向Xに延びる第1開口縁部分25aと、第1開口縁部分25aの前端から下方Z2に延びる第2開口縁部分25bと、を備える。第1開口縁部分25aは、後方X2に向かって僅かに下方Z2に傾斜する。第2開口縁部分25bは、下方Z2に向かって僅かに後方X2に傾斜する。また、支持孔25は、第2開口縁部分25bの下端から後方X2に向かって上方Z1に湾曲する円弧開口縁部分25cと、円弧開口縁部分25cの上端から第1開口縁部分25aと所定の隙間を開けて平行に延びる第3開口縁部分25dと、上下方向Zに延びて第1開口縁部分25aの後端と第3開口縁部分25dの後端とを接続する第4開口縁部分25eとを備える。
【0034】
他方の横滑り防止刃12に設けられた支持孔25は、図4に示すように、スキー板3の裏面3bに近い位置で前後方向Xに延びる第1開口縁部分25aと、第1開口縁部分25aの前端から下方Z2に延びる第2開口縁部分25bと、第2開口縁部分25bから後方X2に向かって上方Z1に湾曲して第1開口縁部分25aの後端に連続する円弧開口縁部分25cと、を備える。幅方向Yから見た場合に、一対の支持孔25のそれぞれの第1開口縁部分25a、第2開口縁部分25b、および円弧開口縁部分25cは重なる。なお、他方の横滑り防止刃12に設けられた支持孔25は、一方の横滑り防止刃12に設けられた支持孔25と同一の形状を備えていてもよい。
【0035】
ここで、後滑り防止刃13は、図2に示すように、幅方向Yの両端部分を一対の横滑り防止刃12のそれぞれの支持孔25に貫通させた状態で、一対の横滑り防止刃12に架け渡される。これにより、後滑り防止刃13は、幅方向Yで一対の横滑り防止刃12の間に位置する本体部31と、本体部31の両側で支持孔25を貫通する一対の貫通部32と、各貫通部32の本体部31とは反対側で一対の横滑り防止刃12の外側に位置する一対の突出部33と、を備える。
【0036】
後滑り防止刃13が一対の横滑り防止刃12に架け渡された状態では、後滑り防止刃13は、図1に点線で示すように、第1開口縁部分25aが上方Z1(スキー板3の側)から後滑り防止刃13に当接する第1位置13Aと、図1に実線で示すように、第2開口縁部分25bが前方X1から後滑り防止刃13に当接する第2位置13Bとの間で揺動可能に支持される。第1位置13Aでは、後滑り防止刃13は、スキー板3の裏面3bに沿って延びて刃先13aが後方X2を向く。第2位置13Bでは、後滑り防止刃13は、スキー板3の裏面3bから起立して刃先13aがスキー板3とは反対側(下方Z2)を向く。
【0037】
図2に示すように、本体部31は、後滑り防止刃13が第2位置13Bに配置されたときスキー板3から離間する方向に向かって幅方向Yで先細りとなる刃部34を当該幅方向Yに連続して複数備える。本例では、後滑り防止刃13は3つの刃部34を備える。一対の貫通部32は、後滑り防止刃13が第2位置13Bに配置されたときに前方X1から見
た場合の形状が上下方向Zに長い長方形である。一対の貫通部32は、それぞれ、本体部31の上端部分から幅方向Yの両側に突出する。図1図2から分かるように、貫通部32は、支持孔25の第2開口縁部分25bの長さ寸法に対応する長さ寸法を備える。
【0038】
一対の突出部33は、後滑り防止刃13が第2位置13Bに配置された状態を前方X1から見た場合の形状が上下方向に長い長方形である。一対の突出部33は、各貫通部32から連続して幅方向Yに延びて一対の横滑り防止刃12の外側に位置する長方形形状の延設部分35と、延設部分35から上方Z1に突出する矩形部分36と、を備える。各矩形部分36は、後滑り防止刃13が第2位置13Bに配置されたときに、支持孔25よりも上方Z1に位置する。一対の突出部33のそれぞれには、後滑り防止刃13が第2位置13Bに配置されたときにスキー板3に近い側に貫通孔33aを備える。本例では、貫通孔33aは、延設部分35の上端部分に設けられている。
【0039】
ここで、図1に示すように、一方の横滑り防止刃12に設けられた支持孔25の第1開口縁部分25aと第3開口縁部分25dとが離間する離間寸法Dは、後滑り防止刃13の厚み寸法よりも長い。また、後滑り防止刃13を第1開口縁部分25aに沿った姿勢とすることにより、支持孔25の幅方向Yに後滑り防止刃13を通過させることが可能である。すなわち、一方の支持孔25は、後滑り防止刃13を幅方向Yに通過させることが可能な孔部分25fを備える。
【0040】
次に、ロープ14は、図2図3に示すように、後滑り防止刃13の一方の突出部33における貫通孔33aの開口縁に後方X2から当接する第1結び目41と、後方X2から前方X1に向かって一方の突出部33の貫通孔33aを通過し、取付板11のスキー板3とは反対側を経由して、前方X1から後方X2に向かって他方の突出部33の貫通孔33aを通過する引き回し部分42と、他方の突出部33における貫通孔33aの開口縁に後方X2から当接する第2結び目43と、を備える。
【0041】
ここで、ロープ14は、伸縮可能な弾性部分を備える。本例では、ロープ14は、ナイロン製の第1ナイロンロープ45および第2ナイロンロープ46と、弾性を備えるストレッチロープ47と、を備える。第1ナイロンロープ45は、第1結び目41を備え、一方の突出部33の貫通孔33aを後方X2から前方X1に通過して取付板11のスキー板3とは反対側に達している。第2ナイロンロープ46は、第2結び目43を備え、他方の突出部33の貫通孔33aを後方X2から前方X1に通過して取付板11のスキー板3とは反対側に達している。ストレッチロープ47は、取付板11のスキー板3とは反対側において、第1ナイロンロープ45と第2ナイロンロープ46との間を幅方向Yに延びる。また、第1ナイロンロープ45の先端とストレッチロープ47の幅方向Yの一方側の端部分とは結ばれている。第2ナイロンロープ46の先端とストレッチロープ47の幅方向Yの他方側の端部分とは、係止機構48を介して着脱可能に接続されている。
【0042】
係止機構48は、ストレッチロープ47の端部分に取り付けられた金属製のフック49(係止部)と、第1ナイロンロープ45の端部分に取り付けられた金属製のチェーン50(被係止部)と、を備える。チェーン50は、複数のリング50aが連結されたものであり、各リング50aには、それぞれフック49を係止可能である。なお、チェーン50をストレッチロープ47に設け、フック49を第2ナイロンロープ46に設けることもできる。
【0043】
(固定具)
図5は、固定具5の分解断面図である。次に、固定具5は、図4に示すように、取付板11の開口部19に嵌合するベース55と、スキー板3と垂直な回転軸L回りに回転可能な状態でベース55に取り付けられた係止板56とを備える。また、固定具5は、図1
示すように、係止板56と同軸に配置されて係止板56とベース55との間に介在するスペーサ57と、を有する。より、具体的には、ベース55は、取付板11に設けられた開口部19に嵌合する平面形状を備える。また、ベース55は、取付板11の板部16と同一の厚み寸法を備える。図3に示すように、ベース55の中央部分には、スキー板3の側から上方Z1に向かってボルト58が貫通する。ベース55の四隅には、締結ボルト6用の固定孔59が設けられている。
【0044】
係止板56を上方Z1から見た平面形状は、全体として、長方形形状である。係止板56を平面形状を規定する各辺は、中央部分が内側に湾曲している。図5に示すように、係止板56の上面の中央部分には、下方Z2に窪む円形凹部61が設けられている。円形凹部61の中心には、係止板56を上下方向Zに貫通する貫通孔62が設けられている。
【0045】
係止板56は、貫通孔62にベース55から突出するボルト58を貫通させた状態でベース55に回転可能に取り付けられる。貫通孔62にボルト58を貫通させる際には、予めボルト58に、円環状のスペーサ57を貫通させてある。これにより、スペーサ57は、係止板56と同軸に配置されて、ベース55と係止板56との間に介在する。スペーサ57は、プラスチック製のワッシャーである。その後、係止板56の貫通孔62を貫通したボルト58には、プラスチック製のワッシャー63、ステンレス製のワッシャー64、およびスプリングワッシャー65がこの順に取り付けられる。これらのワッシャー63~65は、円形凹部61内に収容される。そして、ボルト58には、上方Z1からナット66が締めこまれる。これにより、係止板56は、ボルト58の軸線と一致する回転軸L回りに回転可能な状態でベース55に取り付けられる。
【0046】
係止板56は、上方Z1から見た場合に、全体がベース55と重なる第1回転位置56Aと、第1回転位置56Aから回転軸L回りを90°回転する第2回転位置56Bとの間で回転する。図4に実線で示すように、第1回転位置56Aにある係止板56を上方Z1から見たときに、係止板56は、ベース55から外周側に突出する部分を備えていない。図3に示すように、第2回転位置56Bにある係止板56を上方Z1から見た場合には、係止板56は、ベース55から前後方向Xに突出する一対の係止部分68を備える。
【0047】
ここで、アイゼン本体10に設けられた突起20は、取付板11における係止板56の回転軌跡と重なる領域に設けられている。また、突起20は、第1回転位置56Aに配置された係止板56よりも第2回転位置56Bの側で、かつ、第2回転位置56Bに配置された係止板56と重ならない位置に設けられている。固定具5の係止板56と、アイゼン本体10の突起20とは、アイゼン本体10がスキー板3から脱落することを防止する脱落防止機構70を構成する。なお、取付板11の突起20の突出寸法Tは、スペーサ57の厚み寸法Sよりも短い。本例では、スペーサ57の厚み寸法は1mmであり、突起20の突出寸法は、0.5mmである。
【0048】
(スキーアイゼンのスキー板への装着)
スキーアイゼンセット1を用いてスキー板3にスキーアイゼン2を装着する際には、図4に示すように、締結ボルト6によってスキー板3の表面3aに固定されたベース55上で係止板56を第1回転位置56Aに配置する。次に、取付板11の開口部19にベース55および係止板56を貫通させて、ベース55が開口部19に嵌った状態とする。
【0049】
その後、係止板56を回転させて第2回転位置56Bに配置する。これにより、図1図3に示すように、係止板56は取付板11の開口部19から外周側に突出する一対の係止部分68を備える。従って、取付板11は、スキー板3と係止板56の一対の係止部分68とによって回転軸L方向から挟まれた状態となる。よって、アイゼン本体10は、スキー板3に脱落不能に装着される。
【0050】
ここで、固定具5は、ベース55と係止板56との間に介在するスペーサ57を有する。従って、ベース55に雪が付着している場合でも、係止板56を回転させることが容易である。よって、雪山の進行中に、スキー板3に対してスキーアイゼン2を着脱することが可能となる。なお、アイゼン本体10の取付板11には、係止板56の回転軌跡と重なる領域に突起20が設けられているが、突起20の突出寸法Tは、スペーサ57の厚み寸法Sよりも短い。従って、取付板11とスキー板3とを密着させた状態で、係止板56を回転させれば、突起20と係止板56とが干渉して、係止板56の回転が妨げられることはない。
【0051】
次に、図4に示すように、ロープ14が接続された後滑り防止刃13を準備する。そして、係止機構48おいてロープ14を分断した状態としておく。その後、後滑り防止刃13を一方の横滑り防止刃12の支持孔25の第1開口縁部分25aに沿った姿勢として、幅方向Yから支持孔25を貫通させる。そして、後滑り防止刃13を一対の横滑り防止刃12の間に架け渡す。すなわち、他方の横滑り防止刃12の支持孔25に、後滑り防止刃13の他方の貫通部32および他方の突出部33を貫通させ、他方の突出部33を横滑り防止刃12の外側に配置する。また、一方の横滑り防止刃12の支持孔25に、後滑り防止刃13の一方の貫通部32を貫通させた状態として、一方の突出部33を一方の横滑り防止刃12の外側に位置する状態とする。
【0052】
その後、第1ナイロンロープ45およびストレッチロープ47を、取付板11のスキー板3とは反対側に引き出す。また、第2ナイロンロープ46を他方の横滑り防止刃12の支持孔25を介して当該横滑り防止刃12の外側に引き出す。そして、第2ナイロンロープ46を取付板11のスキー板3とは反対側に引き回し、ストレッチロープ47を取付板11の上面に沿って引き回す。その後、ストレッチロープ47に取り付けられたフック49を、第2ナイロンロープ46に取り付けられたチェーン50のリング50aに係止する。ここで、第2ナイロンロープ46とストレッチロープ47とを接続した状態では、ロープ14において取付板11の上面に沿って引き回されている部分は、第2位置13Bに位置する後滑り防止刃13よりも前方X1に位置する。
【0053】
第2ナイロンロープ46とストレッチロープ47とを接続すると、ロープ14によって後滑り防止刃13が一対の支持孔25から脱落することを防止できる。また、ロープ14によって、後滑り防止刃13が第2位置13Bに付勢される。すなわち、ストレッチロープ47の弾性力が、第1ナイロンロープ45の第1結び目41および第2ナイロンロープ46の第2結び目43を介して後滑り防止刃13を後方X2から前方X1に付勢する。これにより、後滑り防止刃13は、第2開口縁部分25bが前方X1から接触する第2回転位置56Bに支持される。
【0054】
また、後滑り防止刃13が第2位置13Bから第1位置13Aの側に変位すると、後滑り防止刃13の一対の突出部33のそれぞれにおける貫通孔33aよりも上側の部分が後方X2から第1ナイロンロープ45および第2ナイロンロープ46に接触する。そして、図1に点線で示すように、後滑り防止刃13の一対の突出部33のそれぞれにおける貫通孔33aよりも上側の部分が、第1ナイロンロープ45および第2ナイロンロープ46を下方Z2に引っ張る。これにより、ストレッチロープ47が伸びるので、ストレッチロープ47を形状復帰させる弾性力により、後滑り防止刃13は、第2回転位置56Bに向かって付勢される。よって、後滑り防止刃13は第2回転位置56Bに戻る。
【0055】
なお、第1ナイロンロープ45に取り付けられたチェーン50は複数のリング50aを備えるので、ストレッチロープ47に取り付けたフック49を係止するリング50aを選択することにより、ストレッチロープ47の弾性力を調節することができる。これにより
、ロープ14が後滑り防止刃13を第2回転位置56Bに付勢する付勢力を調整できる。
【0056】
(スキーアイゼンの作用効果)
本例のスキーアイゼン2では、後滑り防止刃13は、スキー板3の幅方向Yの両側で前後方向Xに延びる一対の横滑り防止刃12に架け渡されている。従って、一対の横滑り防止刃12のそれぞれと後滑り防止刃13との間には隙間がない。これにより、斜行の方向に拘わらず、後滑り防止刃13において山側に位置する横滑り防止刃12に近い部分を雪面に食い込ませることができる。よって、斜行の方向に拘わらず、スキー板3の後方X2へのスリップを低減できる。
【0057】
また、後滑り防止刃13は、スキー板3の裏面3bに沿って延びて刃先13aが後方X2を向く第1位置13Aと、スキー板3の裏面3bから起立して刃先13aがスキー板3とは反対側を向く第2位置13Bと、の間で揺動可能な状態で一対の横滑り防止刃12に支持されている。従って、スキーヤーが雪面を前進する際にスキー板3を前進させると、後滑り防止刃13は第2位置13Bから第1位置13Aに移動する。これにより、前進時に後滑り防止刃13が雪を掻くことを防止或いは抑制できるので、スキーヤーにかかる負荷が増加することを抑制できる。
【0058】
さらに、後滑り防止刃13は、弾性を備えるロープ14によって第2位置13Bに付勢されている。従って、スキーヤーが雪面からスキー板3を上げて一歩踏み出すと、後滑り防止刃13はスキー板3の裏面3bから起立する第2位置13Bに配置される。よって、スキーヤーが雪面を踏み込む際には、後滑り防止刃13を雪面に食い込ませることができる。さらに、雪面を下降する際には、後滑り防止刃13が、スキー板3の裏面3bに沿って延びて刃先13aが後方X2を向く第1位置13Aに配置される。従って、後滑り防止刃13が滑走を阻害することを抑制できる。
【0059】
また、本例では、一対の横滑り防止刃12に設けた支持孔25は、スキー板3の側から後滑り防止刃13に当接する第1開口縁部分25aと、後滑り防止刃13が第2位置13Bにあるときに前方X1から後滑り防止刃13に当接する第2開口縁部分25bとを備える。そして、弾性を備えるロープ14は、後滑り防止刃13を第2開口縁部分25bに付勢する。従って、一対の支持孔25により、後滑り防止刃13を第1位置13Aと第2位置13Bとの間で揺動可能に支持することが容易となる。また、ロープ14によって、後滑り防止刃13を第2位置13Bに付勢することが容易である。さらに、支持孔25が円弧形状の円弧開口縁部分25cを備えるので、後滑り防止刃13が第1位置13Aと第2位置13Bとの間を移動する際に、後滑り防止刃13の貫通部32を円弧開口縁部分25cによってガイドできる。
【0060】
さらに、本例では、一対の支持孔25のうちの一方は、後滑り防止刃13を幅方向Yに通過させることが可能な孔部分25fを備える。従って、アイゼン本体10をスキー板3に装着した後に、一方の横滑り防止刃12の貫通孔62の孔部分25fを介して後滑り防止刃13をスキー板3の裏面3b側に挿入して、後滑り防止刃13を一対の横滑り防止刃12に架け渡すことができる。
【0061】
また、本例では、弾性部分を備えるロープ14によって後滑り防止刃13を付勢するので、金属製のバネ部材などを用いて後滑り防止刃13を付勢する場合と比較して、軽量であり、氷結に起因するトラブルを抑制することができる。
【0062】
さらに、ロープ14は、ナイロン製の第1ナイロンロープ45および第2ナイロンロープ46と、弾性を備えるストレッチロープ47と、を備える。従って、ロープ14に弾性部分を備えることが容易である。また、第1ナイロンロープ45は、第1結び目41を備
え、一方の突出部33の貫通孔33aを通過して取付板11のスキー板3とは反対側に達している。第2ナイロンロープ46は、第2結び目43を備え、他方の突出部33の貫通孔33aを通過して取付板11のスキー板3とは反対側に達している。これにより、耐摩耗性の高い第1ナイロンロープ45および第2ナイロンロープ46が、雪面、横滑り防止刃12、および後滑り防止刃13と接触する部分を引き回される。従って、摩耗によってロープ14が切れることを防止或いは抑制できる。
【0063】
また、本例では、本体部31は、後滑り防止刃13が第2位置13Bに配置されたときスキー板3から離間する方向に向かって幅方向Yで先細りとなる刃部34を当該幅方向Yに連続して複数備える。従って、雪面が氷結している場合でも、後滑り防止刃13を雪面に食い込ませることが容易となる。
【0064】
ここで、固定具5は、ベース55と係止板56との間に介在するスペーサ57を有するので、ベース55に雪が付着している場合でも、係止板56を回転させることが容易である。
【0065】
この一方で、固定具5を用いてスキーアイゼン2をスキー板3に固定したときに、スキーアイゼン2は、ベース55と係止板56との間に配置されたスペーサ57の厚み分だけ、スキー板3上で変位可能となっている。また、スキーアイゼン2は複数の刃を備えるので、スキーヤーが雪面を進行する際には、スキーアイゼン2が雪面から受ける反力が大きくなる。従って、スキーヤーが雪面を進行する際には、雪面からの反力によって、スキーアイゼン2がスキー板3上で変位する。スキーアイゼン2がスキー板3上で変位すると、スキーアイゼン2の取付板11が係止板56に接触して、係止板56を第2回転位置56Bから第1回転位置56Aに向かう方向に回転させることがある。係止板56が回転して第1回転位置56Aに達すると、スキーアイゼン2は、スキー板3から脱落してしまう。
【0066】
このような問題に対して、スキーアイゼンセット1は、スキーアイゼン2がスキー板3から脱落することを防止する脱落防止機構70を備える。脱落防止機構70は、取付板11における係止板56の回転軌跡と重なる領域において、第1回転位置56Aに配置された係止板56よりも第2回転位置56Bの側であって、第2回転位置56Bに配置された係止板56と重ならない位置に設けられている。従って、係止板56が第2回転位置56Bに位置するときにスキーアイゼン2が雪面からの反力を受けて変位して取付板11がスキー板3から浮き上がると、突起20は、係止板56の係止部分68に第1回転位置56Aの側から接触可能となる。よって、スキーアイゼン2がスキー板3上で変位する動作を繰り返した場合でも、係止板56が第2回転位置56Bから回転して第1回転位置56Aに達することを防止できる。
【0067】
なお、スキーアイゼン2をスキー板3から取り外す際には、ストレッチロープ47と第2ナイロンロープ46との接続を解除する。次に、後滑り防止刃13を、一方の支持孔25から幅方向Yに引き抜いて、アイゼン本体10から後滑り防止刃13を取り外す。しかる後に、固定具5の係止板56を第2回転位置56Bから第1回転位置56Aに戻す。これにより、係止板56はベース55と完全に重なった状態となり、取付板11の開口部19から外周側に突出する一対の係止部分68を備えない状態となる。従って、スキーアイゼン2をスキー板3および固定具5から取り外すことができる。
【0068】
(スキーアイゼンの変形例)
図6は変形例1のスキーアイゼンの側面図である。図7は、変形例2のスキーアイゼンの側面図である。なお、変形例1のスキーアイゼン2Aおよび変形例2のスキーアイゼン2Bは、支持部24が備える支持孔25の形状を除き、他の構成は上記のスキーアイゼン2と同一である。従って、支持孔25の形状を説明して、他の説明は省略する。
【0069】
図6に示すように、変形例1のスキーアイゼン2Aは、略三角形形状の支持孔25を備える。支持孔25は、スキー板3の裏面3bに近い位置で前後方向Xに延びる第1開口縁部分25aと、第1開口縁部分25aの前端から下方Z2に延びる第2開口縁部分25bと、を備える。第1開口縁部分25aは、後方X2に向かって僅かに下方Z2に傾斜する。第2開口縁部分25bは、下方Z2に向かって僅かに後方X2に傾斜する。また、支持孔25は、第2開口縁部分25bの下端から後方X2に向かって上方Z1に延びて第1開口縁部分25aの後端に接続される第3開口縁部分25gを備える。ここで、後滑り防止刃13を第1開口縁部分25aに沿った姿勢とすることにより、支持孔25の幅方向Yに後滑り防止刃13を通過させることが可能となる。すなわち、一方の支持孔25は、後滑り防止刃13を幅方向Yに通過させることが可能な孔部分25fを備えている。
【0070】
本例のスキーアイゼン2Aにおいても、一対の横滑り防止刃12のそれぞれに設けられた支持孔25を利用して、後滑り防止刃13を揺動可能に支持できる。
【0071】
図7に示すように、変形例2のスキーアイゼン2Aは、扇型形状の支持孔25を備える。支持孔25は、スキー板3の裏面3bに近い位置で前後方向Xに延びる第1開口縁部分25aと、第1開口縁部分25aの前端から下方Z2に延びる第2開口縁部分25bと、第2開口縁部分25bの下端から後方X2に向かって上方Z1に湾曲して第1開口縁部分25aの後端に接続される円弧開口縁部分25cを備える。また、本例では、支持部24は、各横滑り防止刃12の刃部22の刃先の側から支持孔25に連通する切欠き溝75を備える。切欠き溝75の幅D1は、後滑り防止刃13の厚み以上である。
【0072】
本例によれば、アイゼン本体10をスキー板3に固定した後に、切欠き溝75を介して後滑り防止刃13をスキー板3の裏面3b側に配置して、後滑り防止刃13を一対の横滑り防止刃12に架け渡すことができる。
【0073】
また、切欠き溝75を介して各支持部24に後滑り防止刃13を支持させる場合には、後滑り防止刃13の基端から刃先13aまでの長さ寸法を、横滑り防止刃12の取付板11から刃先までの長さ寸法よりも大きくすることができる。よって、スキーアイゼン2Bによる登高力を大きくすることが容易となる。
【0074】
なお、後滑り防止刃13は、ステンレス鋼製としてもよい。
【0075】
また、スキーアイゼン2、2A、2Bにおいて、ロープ14をスキー板3の表面3aに沿って引き回してもよい。この場合、ロープ14は、取付板11の前側屈曲部17の前方X1に位置し、ストレッチロープ47がスキー板3の表面3aに沿って幅方向Yに延びる。このようにすれば、前側屈曲部17がロープ14に後方X2から当接する。従って、後滑り防止刃13が変位したときに、ロープ14が後方X2に移動することがない。よって、後滑り防止刃13の動きが安定する。
【0076】
図8は変形例3のスキーアイゼンの側面図である。図9は、変形例3のスキーアイゼンの後滑り防止刃の正面図、平面図、および側面図である。図9(a)の正面図では、後滑り防止刃にロープが取り付けられた状態を示す。図9(b)の平面図、および9(c)の側面図ではロープを省略して示す。
【0077】
変形例3のスキーアイゼン2Cは、変形例1のスキーアイゼン2Aと同一のアイゼン本体10を備える。変形例3のスキーアイゼン2Cの後滑り防止刃100およびロープ14Aは、実施例1のスキーアイゼン2Aとは相違する。ここで、変形例3のスキーアイゼン2Cは、変形例1のスキーアイゼン2Aと対応する構成を備えるので、対応する構成には
同一の符号を付して説明する。なお、以下の説明では、図面8の奥側を幅方向Yの一方側とし、手前側を幅方向の他方側とする。
【0078】
後滑り防止刃100は、アルミ合金製、或いはステンレス鋼製である。図9に示すように、後滑り防止刃100は、幅方向Yで一対の横滑り防止刃12の間に位置する本体部31と、本体部31の両側で支持孔25を貫通する一対の貫通部32と、各貫通部32の本体部31とは反対側で一対の横滑り防止刃12の外側に位置する一対の突出部33と、を備える。本体部31は、幅方向Yで先細りとなる刃部34を幅方向Yに3つ備える。各刃部34は、上方Z1に窪む円弧形状の刃先13aにより接続されている。
【0079】
一対の貫通部32は、後滑り防止刃100が第2位置13Bに配置されたときに前方X1から見た場合の形状が上下方向Zに長い長方形である。一対の貫通部32は、それぞれ、本体部31の上端部分から幅方向Yの両側に突出する。各貫通部32は、後滑り防止刃100が第2位置13Bに配置された場合に上端に位置する部分(スキー板3の側の端部分)に、貫通部32の他の部分よりも前後方向Xに厚い厚肉部分32aを備える。本例では、各貫通部32には、予め上方Z1に延びる舌片部が形成されており、厚肉部分32aは、この舌片部を後方X2に向かって下方Z2に折り返すことにより設けられる。
【0080】
一対の突出部33は、後滑り防止刃100が第2位置13Bに配置された状態を前方X1から見た場合の形状が上下方向に長い長方形である。各突出部33の上側の角部、および下側の角部は、アール形状を備える。一対の突出部33は、各貫通部32から連続して幅方向Yに延びて一対の横滑り防止刃12の外側に位置する長方形形状の延設部分35と、延設部分35から上方Z1に突出する矩形部分36と、を備える。各矩形部分36は、後滑り防止刃100が第2位置13Bに配置されたときに、支持孔25よりも上方Z1に位置する。一対の突出部33のそれぞれには、後滑り防止刃100が第2位置13Bに配置されたときにスキー板3に近い側に貫通孔33aを備える。各貫通孔33aは、延設部分35の上端部分に設けられている。
【0081】
ここで、本例では、一方の突出部33に、貫通孔33aに連通するロープ挿通用切欠き溝33bが設けられている。ロープ挿通用切欠き溝33bは、貫通孔33aから下方Z2に延びる第1溝部33cと、第1溝部33cから幅方向Yに屈曲して、一方の突出部33の貫通部32とは反対側の端縁に達する第2溝部33dと、を備える。第2溝部33dの第1溝部33cとは反対側の端は、一方の突出部33の貫通部32とは反対側の端縁で幅方向Yに開口する。ここで、ロープ挿通用切欠き溝33bの幅寸法D1は、ロープ14Aを挿通可能な寸法である。また、ロープ挿通用切欠き溝33bの幅寸法D1は、貫通孔33aの直径D2以下である。なお、貫通孔33aの直径Dは、第1結び目41および第2結び目43よりも小さい。
【0082】
次に、ロープ14Aは、第1ナイロンロープ45、第2ナイロンロープ46、およびストレッチロープ47を備える。第1ナイロンロープ45は、第1結び目41を備える。第2ナイロンロープ46は、第2結び目43を備える。第2ナイロンロープ46は、他方の突出部33の貫通孔33aを後方X2から前方X1に通過し、第2結び目43が突出部33における貫通孔33aの開口縁に後方X2から当接する。第1ナイロンロープ45の第1結び目41とは反対側の端は、ストレッチロープ47の一方の端部分に結ばれている。第2ナイロンロープ46の第2結び目43とは反対側の端は、ストレッチロープ47の他方の端部分に結ばれている。
【0083】
(実施例3のスキーアイゼンのスキー板への装着)
スキーアイゼン2Cをスキー板3へ装着する際には、固定具5によりアイゼン本体10をスキー板3に固定する。次に、後滑り防止刃100を一対の横滑り防止刃12の各支持
孔25に架け渡す。また、図8に示すように、ロープ14Aを、取付板11の前側屈曲部17の前方X1において、スキー板3の表面3aに沿って引き回す。これにより、ストレッチロープ47がスキー板3の表面3aに沿って幅方向Yに延びる。その後、第1ナイロンロープ45を幅方向Yに引っ張りながら、ロープ挿通用切欠き溝33bを介して、一方の突出部33の貫通孔33aに挿通させる。そして、第1結び目41を、一方の突出部33における貫通孔33aの開口縁に後方X2から当接させる。従って、ロープ14Aを後滑り防止刃100に接続することが容易である。
【0084】
ここで、第1結び目41を貫通孔33aの開口縁に後方X2から当接させると、ロープ14Aによって、後滑り防止刃100が第2位置13Bに付勢される。ロープ14Aによって後滑り防止刃100が第2位置13Bに付勢されると、図8に示すように、後滑り防止刃100の各貫通部32の厚肉部分32aが、各横滑り防止刃12の支持孔25の開口縁において第1開口縁部分25aと第2開口縁部分25bとが交わる入隅部25hに当接する。従って、後滑り防止刃100が第1位置13Aと第2位置13Bとの間で変位する際に、各貫通部32が摩耗することを抑制できる。また、厚肉部分32aの形成により貫通部32と支持孔25の入隅部25hとの接触面積が増加するので、支持孔25の入隅部25hが後滑り防止刃100との接触によって摩耗することを防止、或いは抑制できる。さらに、後滑り防止刃100は、厚肉部分32aが各横滑り防止刃12の入隅部25hに接触した状態で第1位置13Aと第2位置13Bとの間を変位する。従って、後滑り防止刃100が厚肉部分32aを備えていない場合と比較して、第1位置13Aと第2位置13Bとの間で変位する後滑り防止刃100の動きが滑らかになる。
【0085】
なお、ロープ14Aは、ストレッチロープ47を取付板11の上面に沿って引き回してもよい。また、本例の後滑り防止刃100およびロープ14Aは、スキーアイゼン2、2Bにおいても、後滑り防止刃13およびロープ14に替えて使用できる。
【符号の説明】
【0086】
1…スキーアイゼンセット、2、2A、2B、2C…スキーアイゼン、3…スキー板、3a…表面、3b…裏面、5…固定具、6…締結ボルト、10…アイゼン本体、11…取付板、12…横滑り防止刃、13、100…後滑り防止刃、13A…第1位置、13B…第2位置、14…ロープ、16…板部、17…前側屈曲部、18…後側屈曲部、19…開口部、20…突起、21…切欠き部、22…刃部、24…支持部、25…支持孔、25a…第1開口縁部分、25b…第2開口縁部分、25c…円弧開口縁部分、25d…第3開口縁部分、25e…第4開口縁部分、25f…孔部分、25h…入隅部、31…本体部、32…貫通部、32a…厚肉部分、33…突出部、33a…貫通孔、33b…ロープ挿通用切欠き溝、33c…第1溝部、33d…第2溝部、34…刃部、35…延設部分、36…矩形部分、41…第1結び目、42…引き回し部分、45…第1ナイロンロープ、46…第2ナイロンロープ、47…ストレッチロープ、48…係止機構、49…フック(係止部)、50…チェーン(被係止部)、50a…リング、55…ベース、56…係止板、56A…第1回転位置、56B…第2回転位置、57…スペーサ、58…ボルト、61…円形凹部、62…貫通孔、63…プラスチック製のワッシャー、64…ステンレス製のワッシャー、65…スプリングワッシャー、66…ナット、68…係止部分、70…脱落防止機構、75…切欠き溝、L…回転軸、X…前後方向、Y…幅方向、Z…上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9