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特許7085325アラゴナイト型軽質炭酸カルシウム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】アラゴナイト型軽質炭酸カルシウム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
C01F11/18 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017168604
(22)【出願日】2017-09-01
(65)【公開番号】P2019043809
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390020167
【氏名又は名称】奥多摩工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 利司
(72)【発明者】
【氏名】高野 達夫
(72)【発明者】
【氏名】餘目 草太
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-223225(JP,A)
【文献】特開2009-221640(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0256939(US,A1)
【文献】特開平05-229819(JP,A)
【文献】特表2013-527105(JP,A)
【文献】特表2016-528156(JP,A)
【文献】特開2003-073117(JP,A)
【文献】特開2010-077009(JP,A)
【文献】特開2008-156204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
C09C 1/02
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消石灰と二酸化炭素との反応によって生成する軽質炭酸カルシウムであって、ストロンチウムを含み、アラゴナイト含有率が95%以上であって、且つガス吸着法による細孔容積が0.15cm/g以上、BET比表面積が30m/gを超えることを特徴とするアラゴナイト型軽質炭酸カルシウム。
【請求項2】
請求項1に記載のアラゴナイト型軽質炭酸カルシウムであって、カルシウム1モルに対し0.005モル以上のストロンチウムを含有することを特徴とするアラゴナイト型軽質炭酸カルシウム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアラゴナイト型軽質炭酸カルシウムであって、
短径60nm以下で、粒子径1μm以上の粒子を実質的に含まない針状粒子からなるアラゴナイト型軽質炭酸カルシウム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のアラゴナイト型軽質炭酸カルシウムであって、
実質的に凝集していないことを特徴とするアラゴナイト型軽質炭酸カルシウム。
【請求項5】
消石灰スラリー中に二酸化炭素含有ガスを吹き込み、消石灰と二酸化炭素との反応により軽質炭酸カルシウムを製造する方法であって、前記消石灰スラリー中に、ストロンチウムイオンを放出するストロンチウム化合物と有機酸とを、消石灰スラリー中の水酸化カルシウムに対し、前記有機酸を0.1重量%以上0.4重量%未満、前記ストロンチウム化合物と前記有機酸との割合(重量比)で33:1~100:1となるように添加して反応を進行させることを特徴とするアラゴナイト型軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の軽質炭酸カルシウムの製造方法であって、
消石灰スラリー中の水酸化カルシウムに対し、前記ストロンチウム化合物を、10~20重量%添加することを特徴とするアラゴナイト型軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の軽質炭酸カルシウムの製造方法であって、
前記有機酸が、クエン酸、酒石酸、フタル酸の中から選ばれる1種以上であることを特徴とするアラゴナイト型軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7の何れか一項に記載の軽質炭酸カルシウムの製造方法であって、
反応ステップは、二酸化炭素含有ガスの吹き込み量が異なる二つの反応ステップを含み、最初のステップのガス吹き込み量はその後のステップのガス吹き込み量よりも少なく、0.2l/分以下であることを特徴とするアラゴナイト型軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の軽質炭酸カルシウムの製造方法であって、
反応終了後、分散剤を加えてビーズミルに分散する処理を行うことを特徴とするアラゴナイト型軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし4何れか一項記載のアラゴナイト型炭酸カルシウムを含む紙材。
【請求項11】
請求項1ないし4何れか一項記載のアラゴナイト型炭酸カルシウムを含むインク又は塗料
【請求項12】
請求項1ないし4何れか一項記載のアラゴナイト型炭酸カルシウムを含むフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BET比表面積が高く、分散性がよい高アラゴナイト含有率の軽質炭酸カルシウムに関する。
【背景技術】
【0002】
消石灰に二酸化炭素を反応させて製造した軽質炭酸カルシウムは、製造条件を制御することによって、結晶系や粒子径、比表面積や高分散性などの特性を制御することができ、目的や用途に応じて種々の軽質炭酸カルシウムが提供されている。結晶構造は、三方晶のカルサイトが最も安定であるが、斜方晶のアラゴナイトはカルサイトよりも屈折率が高く、強度に優れることから、種々の用途に適用されている。
【0003】
アラゴナイト型炭酸カルシウムの製造方法としては、例えば、特許文献1に、水酸化ストロンチウムの存在下でアラゴナイト高含有率の炭酸カルシウムシードを生成し、このシードを用いて炭酸化反応を行ってアラゴナイト型炭酸カルシウムを製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-528156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、位相差フィルム等の光学フィルムの無機フィラーとして、複屈折率等の光学特性が制御可能な炭酸ストロンチウムが注目されている。アラゴナイト型炭酸カルシウムは、複屈折率(nδ)が大きく、炭酸ストロンチウムと光学特性が類似していることから、炭酸ストロンチウムの代替物となる可能性がある。
【0006】
アラゴナイト型炭酸カルシウムを光学用途に用いる場合、透明性を確保する観点から高い分散性が必要となるが、従来の製造方法では、炭酸化反応により製造したアラゴナイト型炭酸カルシウムを分散する過程で結晶系が変化し、カルサイト型炭酸カルシウムが生成し、最終生成物である炭酸カルシウムにおけるアラゴナイト率が低下するという問題がある。これは分散過程でアラゴナイト型炭酸カルシウムの一部が溶けだし再結晶化する際に、カルサイトに変化するためと考えられる。
【0007】
一方、軽質炭酸カルシウムの種々の用途において求められる重要な特性として、BET比表面積や細孔容積がある。例えばインクジェット用材料のフィラーとして用いられる場合、細孔容積はインクの吸収性を決定する重要な特性である。しかし従来の製造方法で得られるアラゴナイト型炭酸カルシウムは必ずしもこれら特性を満たしていない。例えば特許文献1に開示されたアラゴナイト型炭酸カルシウムのBET比表面積は30m/g以下である。
本発明は上記課題を解決するものであり、高分散性であり且つ各種特性に優れたアラゴナイト型炭酸カルシウムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアラゴナイト型炭酸カルシウムは、アラゴナイト率が95%以上であり、細孔容積0.15cm/以上、比表面積30m/gを超えるものである。また炭酸カルシウム粒子の粒子径は、最大粒子径(d100)が1.1μm以下である。
【0009】
なお本発明において、細孔容積はガス吸着法で測定した値であり、測定方法の詳細は後述する。また粒子径はレーザー解析法の粒度分布計から求めた値である。
【0010】
本発明のアラゴナイト型炭酸カルシウムの製造方法は、消石灰白濁液中に二酸化炭素含有ガスを吹き込み炭酸化反応によって炭酸カルシウムを製造する方法であり、反応液中にストロンチウムイオンと有機酸とを共存させて反応することが特徴である。ストロンチウム化合物が水酸化ストロンチウム八水和物(Sr(OH)8HO)の場合、ストロンチウム化合物と有機酸との割合は、重量比で35:1~55:1であることが好ましい。
【0011】
従来法として炭酸化反応に有機酸を用いることは知られているが、有機酸を用いた場合生成する炭酸カルシウムはカルサイト型である。これに対し、本発明ではアルカリ土類金属化合物と有機酸とを所定の割合で用いることで、カルサイトの生成が抑制され、アラゴナイトが支配的な炭酸カルシウムが得られる。
また本発明は、このようなアラゴナイト型炭酸カルシウムを含む材料を提供する。具体的には、填料或いはコーティング顔料又は担体として、上述のアラゴナイト型炭酸カルシウムを含む紙材、インク、塗料、プラスチック、接着剤、食品、医薬品である。また上述のアラゴナイト型炭酸カルシウムを含むフィルム、特に光学フィルムである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の炭酸カルシウムのTEM写真を示す図で、(a)は分散前、(b)は分散後を示す。
図2】(a)は実施例1の分散後の炭酸カルシウムのXRDを示す図、(b)は比較例1の分散後の炭酸カルシウムのXRDを示す図。
図3】実施例1の炭酸カルシウムの分散前後の粒度分布を示す図で、実線は分散後、点線は分散前を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のアラゴナイト型炭酸カルシウムの製造方法の実施形態とそれにより得られる炭酸カルシウムについて説明する。
【0014】
<高アラゴナイト含有炭酸カルシウムの製造方法>
まず炭酸カルシウムの製造方法を説明する。炭酸カルシウムを合成する際の原料として、消石灰乳を用いる。消石灰乳は、例えば、消石灰粉末を水に懸濁して作成することができるが、これに限定されない。消石灰乳における重質炭酸カルシウムの濃度は、180~250g/l、好ましくは200~220g/lとする。濃度が高すぎると、粒子同士の接触が促進され、粒子径が増大する。一方、濃度が低すぎると、アラゴナイトが生成しない。
【0015】
反応の開始前或いは開始後に、ストロンチウム化合物と有機酸を添加し、ストロンチウムイオンの存在下且つ有機酸が共存した状態で反応させる。ストロンチウム化合物としては、水中でストロンチウムイオンを放出する化合物であればよく、その炭酸塩や水酸化物を用いることができる。
【0016】
ストロンチウムイオンを共存させることで、カルサイトの生成を抑制し、アラゴナイト率を高めることができる。ストロンチウム化合物の添加量は、原料中の水酸化カルシウム1モルに対し0.005モル以上、好適には0.015モル以上、より好適には0.03モル以上とする。水酸化ストロンチウム八水和物を用いる場合、水酸化カルシウムの5重量%以上、好ましくは10重量%以上であって、20重量%以下であることが好ましい。
【0017】
一方、有機酸としては、ジカルボン酸やヒドロキシカルボン酸など、2以上のカルボキシル基或いは水酸基を持つ有機酸が好ましい。具体的には、クエン酸、酒石酸、フタル酸などを用いることができ、特にクエン酸が好ましい。
【0018】
有機酸の添加量は、原料中の水酸化カルシウムの0.1重量%以上が好ましく、より好ましくは0.2重量%以上~0.4重量%未満とする。またストロンチウム化合物と有機酸との割合は、重量比で35:1~55:1とすることが好ましい。ストロンチウム化合物に対する有機酸の割合を35:1とすることで、効果的にカルサイトの生成を抑制することができる。また同割合を55:1とすることで、分散性その他特性に優れたアラゴナイトを生成することができる。
【0019】
反応は、全ての材料を一度に混合してから開始してもよいし、多段階に分けて材料を追加しながら行ってもよく、二酸化炭素含有ガスを反応系に所定のガス吹き込み速度で吹き込みながら、所定の攪拌条件で進行させる。二酸化炭素含有ガスは、二酸化炭素を50%以上含むガスであればよく、酸素や窒素等の不活性ガスを含んでいてもよい。ガス吹き込み速度は、反応初期段階では、0.05~0.2リットル/分程度の低吹き込み量とする。反応初期段階で炭酸ガス供給量を少なく制御することにより、アラゴナイトの種晶の生成を促すことができる。アラゴナイトの種晶が十分生成した後は、ガス吹き込み速度は高く(例えば0.3リットル/分程度に)することができ、それにより反応が促進される。また粒子径の大きい結晶が生成するのを抑制することができる。低吹き込み量に制限する反応初期段階は、材料の仕込み量や温度によっても異なるが、反応開始から60分~100分程度経過するまでの間が好ましい。
【0020】
反応温度は、特に限定されないが、室温より高い温度、例えば30~50℃、好ましくは35~45℃とする。反応の終了はpHで監視し、pHが7程度になった時点で反応を終了する。
【0021】
反応液をフィルタープレス等により脱水し、必要に応じて乾燥処理することにより、一次生成物であるアラゴナイト型炭酸カルシウムを得る。この一次生成物では炭酸カルシウムの一次粒子が凝集した状態であり、アラゴナイト型炭酸カルシウムの含有率が95重量%以上である。凝集体を構成する一次粒子は短径が約25~64nm(平均50nm)程度、長径が約210~550nm(平均330nm)程度の針状粒子である。なお、粒子の短径及び長径は透過型電子顕微鏡(TEM)写真から求めた値である(以下、同様)。またこの一次生成物としてのBET比表面積(JIS Z8830:2013に準拠して測定)は30m/g以上、細孔容積(ガス吸着法による)は0.15cm/g以上である。
本発明において、細孔容積は次の測定方法により計測した値である。
試料0.2gを測り取り、200℃で2時間前処理する。次いで窒素ガス吸着法(使用機器:マイクロトラックベル社製「BELSORP‐mini」)により、-78℃で測定する。
【0022】
<高分散炭酸カルシウムの製造方法>
次に高分散炭酸カルシウムを得るための分散処理について説明する。分散処理は、攪拌、せん断系分散機を用いる方法、ビーズを用いる湿式粉砕など公知の手法を適宜組み合わせて用いることができる。また分散処理においては公知の分散剤を用いることができる。以下、分散処理の一例を説明する。
【0023】
上述の製造方法で得たアラゴナイト型炭酸カルシウム(乾燥前)を所定の固形分となるように脱水した後、ポリカルボン酸塩系分散剤を添加し、工業用ミキサーにて一次分散する。ポリカルボン酸塩としては、ポリカルボン酸ナトリウムなど炭酸カルシウム用分散剤として多用されている分散剤を使用することができる。
【0024】
次いで一次分散後のスラリーを、シリンダー内にビーズを充填した横型ビーズミルに所定の流量で通す。これを複数回繰り返し、分散を終了する。分散の度合いは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)により確認することができる。
【0025】
このようにして得られた分散後の炭酸カルシウムは、分散工程を経たにも拘わらずアラゴナイト率が95重量%と高く、しかもアラゴナイト粒子の凝集がほとんどない高分散炭酸カルシウムである。これは、分散スラリー中に溶解したアラゴナイト型炭酸カルシウムの一部が再結晶化する際に、ストロンチウムの存在によりカルサイトの生成が抑制されるためと考えられる。分散後の各粒子は、短径が約20~55nm(平均32.5nm)程度、長径が約30~500nm(平均165nm)程度の針状粒子で、1μm以上の粒子を含まない微粒子である。またこのような分散処理によりBET比表面積は分散前よりも高くなり、例えば、40m/g以上にすることができる。
【0026】
次に本発明のアラゴナイト型炭酸カルシウムについて説明する。
本発明のアラゴナイト型炭酸カルシウムは、典型的には上述した炭酸カルシウムの製造方法によって製造することが可能な軽質炭酸カルシウムであって、アラゴナイト含有率が95%以上であって、細孔容積が0.15cm/g以上、BET比表面積が32m/g以上の新規なアラゴナイト型炭酸カルシウムである。本発明の軽質炭酸カルシウムは、基本的に針状のアラゴナイト粒子からなり、当該針状粒子は短径が65nm以下で実質的に1μm以上の粒子を含まないナノ粒子である。このようなアラゴナイト型炭酸カルシウムは、透明性が高く、樹脂中に30重量%添加しても樹脂の光透過性や色相に変化を与えることがない。
【0027】
本発明の軽質炭酸カルシウムは、少なくとも一部が炭酸ストロンチウムとの複合塩の形態を取っていると考えられ、分散前後でアラゴナイト率の変化が少なく、高いアラゴナイト率を維持し、分散後はBET比表面積が40m/g以上である。
【0028】
このような特性を持つ本発明の軽質炭酸カルシウムは、一般的な炭酸カルシウムの用途である紙材、インク、塗料等の填料として、またプラスチック、接着剤等の添加物、或いは食品、医薬品等の担体として用いることができる。
【0029】
例えば、インクジェット用記録紙では、インクを紙に定着させるために多孔性微粒子が用いられる。その代表的な材料はシリカであり、シリカは細孔容積が0.3cm/l以上、吸油量100~400ml/100gの特性を持つ。本発明の軽質炭酸カルシウムは、カルサイト型炭酸カルシウムの細孔容積や吸油量に比べ、シリカに近い細孔容積、吸油量を持つので、シリカの一部代替として有効である。
【0030】
またアラゴナイト型炭酸カルシウムの屈折率(α=1.530、β=1.681、γ=1.685、δ=-0.155)、炭酸ストロンチウムの屈折率(α=1.520、β=1.667、γ=1.669、δ=-0.149)と近く且つ本発明の炭酸カルシウムはナノサイズの粒子径を有し透明性が高いため、光学フィルムに用いられる炭酸ストロンチウムの代わりに用いることができる。特に、複屈折率δ(α、β及びγから算出)は負の値を持つことから、正の複屈折率を持つポリマー、例えばポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等と組み合わせた位相差フィルムへの適用が有効である。
【実施例
【0031】
以下、本発明の炭酸カルシウムの製造方法の実施例を説明する。なお以下の説明において「%」は特に断らない限り、「重量%」を表すものとする。
【0032】
[製造]
<実施例1>
市販の消石灰(JIS特号消石灰)88gに水を加え、400mlの消石灰スラリーを調製した(ミルク濃度:220g/l)。このスラリーをステンレススチール製の容器に入れ、40℃に加熱し、水酸化ストロンチウム八水和物8.8g(消石灰に対し10%)、クエン酸0.16g(消石灰に対し0.2%)を添加した。攪拌機で3分攪拌したのち、炭酸ガスを0.10l/分の流量で吹き込みながら攪拌を続けた。90分後、ガス流量を0.3l/分に変更し、攪拌を続け、pHが7程度になったところで炭酸ガスの吹き込みを止めた。
【0033】
次に、上記製造方法で得た一次生成物スラリーをフィルタープレス及びベルトプレスを用いて脱水し固形分55%にした後、固形分55%の炭酸カルシウムに、ポリカルボン酸系分散剤(サンノプコ製:OT504)を2重量%添加し工業用ミキサーにて3分間分散し、炭酸カルシウムの一次分散スラリーを得た。次いで一次分散スラリー2Lを、セラミック製ビーズ1.1Lが入ったポリウレタン製容器を使用した横型分散機(ダイノーミル)に、180ml/分の流量で6回通し連続的に分散処理を行った。横型分散機を用いた分散処理時の攪拌速度(周速)は5m/秒、回転数(rpm)は1200とした。また出口温度は45~60℃であった。
【0034】
<実施例2、3及び比較例1~4>
反応系に添加する水酸化ストロンチウム八水和物及びクエン酸の添加量を表1に示すように変化させた以外は実施例1と同様にしてアラゴナイト型炭酸カルシウム(一次生成物)を製造した。また実施例1と同様の方法で一次生成物の分散処理を行い、分散後生成物を得た。
【0035】
【表1】
【0036】
[アラゴナイト生成の確認]
一次生成物である反応スラリーをTEM(透過型電子顕微鏡:日本電子製JEM-1400)で観察し、アラゴナイト型炭酸カルシウムの生成を確認した。実施例1の炭酸カルシウム(分散前)のTEMを図1(a)に示す。
【0037】
また一次生成物スラリーを乾燥して得た粉末をXRD(X線回折装置:リガク製「MultiFley」)で分析し、アラゴナイトのピークとカルサイトのピークを確認した。図2(a)に実施例1の一次生成物のXRDの結果、図2(b)に比較例1の一次生成物のXRDの結果を示す。このXRDのピークの積分値から、アラゴナイト率を次式により算出した。
[アラゴナイト率]=100×[アラゴナイトの第一ピーク強度]×3/([アラゴナイトの第一ピーク強度]×3+[カルサイトの第一ピーク強度])
なお上式において、[アラゴナイトの第一ピーク強度]に掛けている係数3は、アラゴナイトのピークとカルサイトのピークの強度を正規化するための係数であり、予め作成した検量線から求めた値である。
【0038】
図示するように比較例1で観察されたカルサイトのピークが、実施例1では見られず、ほぼアラゴナイト型の炭酸カルシウムが生成していることが確認された。なおアラゴナイト型炭酸カルシウムに由来する26度付近のピークが、実施例1では比較例1のピークに比べ積分幅が広がっていた。これは炭酸ストロンチウムのピーク幅と同程度の幅であり、炭酸ストロンチウムと炭酸カルシウムとの複合塩に近い塩が生成されているためと推測される。
なおクエン酸量(0.4%)が多い比較例4では、アラゴナイト率が低く(約10%)、SEM(走査電子顕微鏡)写真から、ほぼ紡錘形カルサイトが生成していることが確認された。このことからストロンチウム化合物を添加しても、クエン酸量が多い場合には、アラゴナイトは生成が妨げられ、カルサイトの生成が優勢になることが確認された。これは一般に有機酸を添加するとカルサイトが生成するという事実とも一致する。
【0039】
また分散後のスラリーについても、一次生成物と同様にTEMで観察し、アラゴナイト型炭酸カルシウムの生成を確認するとともに、XRDのピークからアラゴナイト率を算出した。実施例1の炭酸カルシウム(分散後)のTEMを図1(b)に示す。図示するように、上記分散工程により、凝集していた粒子が高度に分散していることが確認された。
【0040】
[一次生成物の物性の測定]
実施例1~3及び比較例1~3で製造したアラゴナイト型炭酸カルシウムの一次生成物を、それぞれ、脱水後110℃で乾燥し、炭酸カルシウムの粒子を得た。乾燥後の炭酸カルシウム粒子の粒子径(短径、長径)、BET比表面積及び細孔容積を以下の方法で測定した。また短径及び長径からアスペクト比を算出した。
【0041】
<粒子径>
短径及び長径はTEMにより測定し、平均値を求めた。また粒度分布計(堀場製作所製:LA-950)により粒度分布を求め、粒子のメジアン径(d50)等を測定した。実施例1の炭酸カルシウムの粒度分布の測定結果を図3に示す。
【0042】
<BET比表面積及び細孔容積>
比表面積/細孔分析測定装置(マイクロトラックベル製:BELSORP-mini)を用いて、JIS Z8830:2013に準拠するガス吸着法により、比表面積及び細孔容積を測定した。物性の測定結果を表2-1に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
図3の粒度分布から、実施例1の炭酸カルシウムは、分散処理によって、大きな凝集した粒子を含む粒度分布がシャープな高分散アラゴナイト型炭酸カルシウムであることがわかる。
【0045】
また、表2に示すように実施例1~3で得られた炭酸カルシウムは、いずれもアラゴナイト率95%以上の高アラゴナイト率の炭酸カルシウムであり、また粒子径が小さくアスペクト比が高い針状結晶が得られた。またBET比表面積が30m/gを超え、細孔容積も大きいことが確認された。なお実施例3の細孔容積は測定していない。
【0046】
一方、添加物を加えない比較例1で生成した炭酸カルシウムは、粒子径が大きく、アラゴナイト率が低く、比表面積、細孔容積ともに小さかった。ストロンチウム化合物のみを添加し、有機酸を添加しない比較例2では、アラゴナイト率は比較的高いものの、実施例の炭酸カルシウムに比べ、粒子径が大きく、比表面積、細孔容積ともに実施例より小さかった。
またストロンチウム化合物に対する有機酸の添加量が実施例に比べ多い比較例3では、粒子径が小さく比表面積の大きい炭酸カルシウムが得られたが、アラゴナイト率が低かった。さらにストロンチウム化合物に対する有機酸の添加量の比は比較例3と同じであるが、炭酸カルシウムに対する有機酸の添加量が多い比較例4では、アラゴナイトは殆ど生成せず、紡錘形のカルサイトが生成し、比表面積、細孔容積ともに低かった。
【0047】
[分散後生成物の物性の測定]
実施例1及び比較例1の分散後の炭酸カルシウムスラリーについて、それぞれ、一次生成物と同様の方法でアラゴナイト率、粒子径(短径及び長径)及びBET比表面積を測定した。結果を併せて表2-2に示した。
【0048】
表2-2の結果からわかるように、比較例1の炭酸カルシウムは、分散前のアラゴナイト率が82%であったのに対し、分散後は76%に低下したが、実施例1の炭酸カルシウムは分散の前後でアラゴナイト率は98%であり、分散によってもアラゴナイト率が変化しないことが確認された。また実施例1の分散後炭酸カルシウムは、粒子径がさらに小さくなり、比表面積も大幅に向上した。
【0049】
[透明性の測定]
透明性を評価するために実施例1の分散後生成物及び市販の炭酸カルシウム(比較例5)(奥多摩工業製カルサイト型炭酸カルシウム:TP-121)について、白色度とYi値を以下の方法で測定した。
【0050】
スチレンブタジエンラバー(JSR製:0692、固形分50%)に、分散後の炭酸カルシウムスラリー(固形分35%)を配合率0.3%、5%及び30%の割合でそれぞれ添加した試料を作成し、隠ぺい率試験紙の塗布面に#04バーで試料を塗工した。SBRのみを塗工したものを参考例(Blank)とした。試料塗工後の試験紙のISO白色度を/村上色彩技術研究所製「CMS-35SPX」を用いて測定した。結果を表に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3の結果からわかるように、カルサイト型炭酸カルシウム(比較例5)では配合率30%では白色度0.2を示し透明性が低下したが、実施例1の分散後炭酸カルシウムは、同じ配合率30%では白色度0、Yi値0であり、Blankの試料と同様であり透明性が高いことが確認できた。
以上の実施例から明らかなように、本発明によれば、高分散性で且つ分散後にもアラゴナイト率の変化しない、高比表面積且つ高細孔容積のアラゴナイト型炭酸カルシウムが提供される。

図1
図2
図3