(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】成形体及び加工方法
(51)【国際特許分類】
B29C 53/08 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
B29C53/08
(21)【出願番号】P 2017198530
(22)【出願日】2017-10-12
【審査請求日】2020-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】513026399
【氏名又は名称】三菱ケミカルインフラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】梅田 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 久弥
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/122174(WO,A1)
【文献】特開2003-145618(JP,A)
【文献】特開2001-232681(JP,A)
【文献】特開2008-284714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 53/00-53/84
B29C 57/00-59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリエチレンを2次加工する加工方法であって、
前記
架橋ポリエチレンの損失正接(tanδ)が最大となるときの温度+15℃の温度をT1(℃)、該T1+30℃の温度をT2(℃)としたとき、
前記T1から前記T2の範囲における前記
架橋ポリエチレンの貯蔵弾性率(E´)は、前記T1における前記
架橋ポリエチレンの貯蔵弾性率(E´T1)の±10%以内であり、
前記
架橋ポリエチレンをT1+15℃以上の温度に加熱して2次加工する加工方法。
【請求項2】
前記架橋ポリエチレンをT1+15℃以上T1+165℃以下の温度に加熱して2次加工する、請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記架橋ポリエチレンをT1+65℃以上T1+115℃以下の温度に加熱して2次加工する、請求項1に記載の加工方法。
【請求項4】
少なくとも前記
架橋ポリエチレンを含有する管状体の加工方法であって、
前記管状体の全外周を覆う賦形形状に彫り込まれた賦形型に前記管状体を沿わせて設置し、
前記管状体を前記賦形型に設置した状態で前記管状体の内部から圧力を加える請求項
1~3のいずれか1項に記載の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、合成樹脂が加工された成形体、及び合成樹脂の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂製の管状体が曲げ加工された製品が広く販売されている。
樹脂製の管状体を曲げ加工する方法としては、次のように行うことが一般的である。まず、原管となる管状体を曲げ変形が可能となる温度まで加熱し、次いで潰れを防止するための中芯材を管状体内に挿入し、そして所望の形状に倣ったキャビティを備えた型によって管状体を型締めして変形させる。変形後は、型の内部で管状体を冷却してから、型開きし、管状体から中芯材を抜き取る。これにより、所望の曲げ角に曲げられた管状体が得られる。
このような管状体の加工方法については、例えば特許文献1~3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平4-42974号公報
【文献】特開平5-69480号公報
【文献】特公平6-55430号公報
【文献】特開平7-223274号公報
【文献】特開2008-284714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、架橋性樹脂製の管状体が開発されており、当該管状体の曲げ加工方法について研究されている。
架橋性樹脂の特徴としては、架橋化することにより耐熱性、耐油性、耐クリープ性などの熱的安定性、化学的安定性、機械的特性が向上安定化することである。
しかしながら、架橋性樹脂は上記の特徴を有するために、架橋化してしまうと曲げなどの加工が極めて難しい問題がある。例えば、特許文献1~3に開示されている方法では、架橋性樹脂製の管状体を曲げ加工を施すことは困難である。
【0005】
そのため、従来では、架橋前の状態又は架橋度を低減した状態で管状体の曲げ加工を行っていた。例えば、特許文献4、5に架橋性樹脂製の管状体の曲げ加工方法が開示されている。
特許文献4には、架橋前の未反応状態で曲げを行い、続いて、管内に熱媒を通してベース材と架橋材とを反応させることで、架橋性樹脂製の管状体を曲げ加工することが開示されている。特許文献5には、管状体が溶融しない程度のある一定の架橋度までで架橋化させてから、管状体を加熱して曲げ加工することが開示されている。
しかしながら、特許文献4、5に開示された方法では、曲げ加工後に最終の架橋度まで架橋化させる工程が必要となるため、架橋工程において管状体に余計な負荷が掛かると形状が崩れてしまう虞がある。そのため、加工後の形状に合わせた保持具、安全具が必要となる。また、曲げ加工工程から架橋工程までの時間や温度管理も必要である。
よって、特許文献4、5に記載された方法では、曲げ加工後工程から架橋工程までの形状変化を考慮しつつ、工程間の時間管理、温度管理が必要であった。
【0006】
そこで、本願では曲げ加工等の2次加工後も安定した形状の成形体、及び、2次加工後の後処理が不要な加工方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の1つの態様は、
合成樹脂が2次加工された成形体であって、前記合成樹脂の損失正接(tanδ)が最大となるときの温度+15℃の温度をT1(℃)、該T1+30℃の温度をT2(℃)としたとき、前記T1から前記T2の範囲における前記合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)は、前記T1における前記合成樹脂の貯蔵弾性率(E´T1)の±10%以内であり、前記合成樹脂がT1+15℃以上の温度に加熱されて2次加工された成形体、である。
【0008】
好ましくは、前記合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が前記T1における貯蔵弾性率(E´T1)の±10%以内にある温度範囲で、前記合成樹脂が加熱されて2次加工されている成形体である。
【0009】
また、前記成形体は管状体であることが好ましい。そして、前記管状体の外径は35mm以下であることが好ましく、前記管状体の肉厚は10mm以下であることが好ましい。
【0010】
また、上記課題を解決するための本発明の1つの態様は、
合成樹脂を2次加工する加工方法であって、前記合成樹脂の損失正接(tanδ)が最大となるときの温度+15℃の温度をT1(℃)、該T1+30℃の温度をT2(℃)としたとき、前記T1から前記T2の範囲における前記合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)は、前記T1における前記合成樹脂の貯蔵弾性率(E´T1)の±10%以内であり、前記合成樹脂をT1+15℃以上の温度に加熱して2次加工する加工方法、である。
【0011】
前記加工方法は、少なくとも前記合成樹脂を含有する管状体の加工方法であって、前記管状体の全外周を覆う賦形形状に彫り込まれた賦形型に前記管状体を沿わせて設置し、前記管状体を前記賦形型に設置した状態で前記管状体の内部から圧力を加えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の成形品によれば、2次加工後も安定した形状の成形体を提供することができる。また、本発明の加工方法によれば、2次加工後の後処理が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】架橋ポリエチレン樹脂の粘弾性挙動の代表例を示した図である。
【
図2】超高分子量ポリエチレンの粘弾性挙動の代表例を示した図である。
【
図4】加工方法10における各工程と温度との関係を示した図である。
【
図5】合成樹脂管全体を覆う賦形型に合成樹脂管を設置する方法を説明した図である。
【
図6】合成樹脂管の加熱した部分のみを覆う賦形型に合成樹脂管を設置する方法を説明した図である。
【
図7】曲げ形状に対して直角方向の割り面を有する賦形型の概略図である。
【
図8】複数箇所の曲げ加工を行う賦形型に合成樹脂管を設置する方法を説明した図である。
【
図9】曲げ形状への変化量εを説明するための図である。
【
図10】内圧負荷工程S13での合成樹脂管の温度挙動を示した図である。
【
図11】合成樹脂管の外表面に曲がり形状の加工を施すことを説明した図である。
【
図12】合成樹脂管の端部の外表面に曲がり形状の加工を施すことを説明した図である。
【
図13】実施例における合成樹脂管の加熱温度と曲がり角度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の成形体及び加工方法について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0015】
<成形体>
本発明の成形体は合成樹脂が加熱され2次加工されたものである。2次加工とは、押出成形や射出成形により成形された合成樹脂を、所望の形状にさらに加工することであり、例えば曲げ加工、絞り加工、バーリング加工、拡径加工等がある。
なお、以下においては、合成樹脂に曲げ加工を行った場合における効果を説明する場合があるが、このような効果はその他の2次加工においても発揮される。
【0016】
成形体の形状については特に限定されず、たとえば、管状体、平板状体、曲板状体などがあるが、なかでも管状体であることが好ましい。また、成形体が管状体である場合、2次加工前の合成樹脂も管状体であることが好ましい。
成形体が管状体である場合、当該管状体の外径は、下限が5mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましく、上限が35mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましい。また、管状体の肉厚は、下限が1mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがより好ましく、上限が10mm以下であることが好ましく、7mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることが更に好ましい。
【0017】
[合成樹脂]
合成樹脂は粘弾性体であり、その性質を表す物理的パラメータとして貯蔵弾性率(E′)及び損失弾性率(E′′)を有している。また、貯蔵弾性率(E′)に対する損失弾性率(E′′)の割合を損失正接(tanδ=E′′/E′)という。
【0018】
本発明における合成樹脂は、これらの物理的パラメータが次のような挙動を示す。すなわち、合成樹脂の損失正接(tanδ)が最大となるときの温度+15℃の温度をT1(℃)、該T1+30℃の温度をT2(℃)としたとき、T1からT2の範囲における合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が、T1における合成樹脂の貯蔵弾性率(E´
T1)の±10%以内である、という挙動を示す。これについて、
図1を用いて詳しく説明する。なお、
図1は後述する実施例において使用した架橋ポリエチレン樹脂の粘弾性挙動を測定した図である。
【0019】
図1の縦軸は貯蔵弾性率(E´)若しくは損失弾性率(E′′)、又は損失正接(tanδ)を表しており、横軸は温度を表している。また、貯蔵弾性率(E´)は線、損失弾性率(E′′)は鎖線、損失正接(tanδ)は二点鎖線で表している。そして、損失正接(tanδ)が最大となる温度をT0(120℃)としたとき、T0+15℃の温度がT1(135℃)であり、T1+30℃の温度がT2(165℃)である。
【0020】
貯蔵弾性率(E´)及び損失弾性率(E′′)に着目すると、貯蔵弾性率(E´)及び損失弾性率(E′′)は低温側からT0付近に向けて徐々に減少していく傾向にあり、T0付近を境に急激に減少する。そして、T1付近において、貯蔵弾性率(E´)及び損失弾性率(E′′)が非常に低い状態で安定する。この安定は、少なくともT1からT2の範囲まで続いていく。すなわち、
図1の粘弾性挙動を有する合成樹脂は、T1からT2の範囲における合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が、T1における合成樹脂の貯蔵弾性率(E´
T1)の±10%以内である、という挙動を示す。さらに言うと、T1からT2の範囲における合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が、T1における合成樹脂の貯蔵弾性率(E´
T1)の±1%以内である。
【0021】
このような粘弾性挙動を有する合成樹脂において、合成樹脂の温度に対する曲げ加工の効果は次のようになる。
まず、合成樹脂はT1以下では貯蔵弾性率(E´)及び損失弾性率(E′′)が高く、曲げ加工時の曲げ難さ及び曲げ戻り量が大きい。また、T1付近では不安定で、曲げ戻り量が大きい。よって、確実に曲げ加工を行う観点から、合成樹脂はT+15℃以上に加熱することが重要である。合成樹脂をT1+15℃以上の温度に加熱することで、貯蔵弾性率(E´)及び損失弾性率(E′′)が十分低下した状態となり、且つ、貯蔵弾性率(E´)及び損失弾性率(E′′)が安定している状態となるため、曲げ加工後の戻り量が小さく、また安定した曲げ加工品を得ることができる。また、その後の経時変化による戻り量も安定する。
【0022】
一方で、
図1に示したように、合成樹脂は温度が高くなりすぎると劣化し始め、貯蔵弾性率(E´)が上昇する。本発明者ら検討した結果、合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が貯蔵弾性率(E´
T1)の±10%の値を超えるまで加熱すると、合成樹脂が劣化しすぎ、成形体の品質が著しく低下することを見出した。
従って、合成樹脂のより好ましい加熱温度は、T1+15℃以上、かつ、合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が貯蔵弾性率(E´
T1)の±10%以内の温度範囲である。さらに好ましくは、T1+15℃以上、かつ、合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が貯蔵弾性率(E´
T1)の±5%以内の温度範囲であり、特に好ましくは、T1+15℃以上、かつ、合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が貯蔵弾性率(E´
T1)の±1%以内の温度範囲(150℃~310℃)である。上記の温度範囲で合成樹脂管を加熱することにより、2次加工後の戻り量が小さく、また安定した2次加工品を得ることができる。
ただし、上記温度範囲であっても、加熱による変色等の外観や品質に影響がある場合にはその温度範囲を除く温度範囲に設定することが好ましい。
【0023】
このような粘弾性挙動を有する合成樹脂としては、上記の架橋ポリエチレンの他に超高分子量ポリエチレンが挙げられる。
【0024】
図2に超高分子量ポリエチレンの粘弾性挙動の代表例を示した。
図2から明らかなように、超高分子量ポリエチレンもT1からT2の範囲における合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が、T1における合成樹脂の貯蔵弾性率(E´
T1)の±10%以内である、という挙動を示している。さらに言うと、T1からT2の範囲における合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が、T1における合成樹脂の貯蔵弾性率(E´
T1)の±1%以内である。
ここで、
図2におけるT0、T1、T2の具体的な数値は次のとおりである。
T0=125℃
T1=140℃
T2=165℃
また、T1+15℃以上、かつ、合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が貯蔵弾性率(E´
T1)の±1%以内の温度範囲は155℃~175℃である。
【0025】
以上のとおり、本発明の成形体は上記のような粘弾性挙動を有する合成樹脂がT1+15℃以上に加熱されて2次加工されたものである。従来技術では、このような合成樹脂を用いた場合、曲げ加工後に使用状態の最終架橋度まで架橋化させる架橋化工程が必要であったが、本発明では、使用状態の最終架橋度まで架橋化させた架橋性樹脂から加工できるため、架橋化工程において加工された形状の崩れ、または形状維持のための処置を考慮する必要がなくなる。よって、本発明によれば、2次加工後も安定した形状の成形体を提供することができる。
【0026】
本発明の成形体は上述のよう合成樹脂をT1+15℃以上に加熱され2次加工されたものである。すなわち、最終架橋度まで架橋された合成樹脂を加熱し、合成樹脂の結晶構造を一度崩すことによって樹脂を柔らかくしてから、2次加工を施して作製されている。一方で、従来の成形体は最終架橋度まで架橋する前に樹脂の形状を加工し、加工後に最終架橋度まで架橋させることにより作製している。
よって、本発明の成形体と従来技術の成形体とは、その結晶構造に差が生じている可能性があると考えられるが、その構造の違いと特性との違いを判別するためには、著しく多くの試行錯誤を重ねることが必要であり、およそ実際的ではないといえる。
【0027】
<加工方法>
次に、加工方法について説明する。
本発明の加工方法は、上記において説明した粘弾性挙動を有する合成樹脂を2次加工する加工方法である。
以下においては、本発明の好適な実施形態である管状体の合成樹脂(合成樹脂管)を曲げ加工する加工方法10について説明する。ただし、本発明はこれに限定されない。
【0028】
[加工方法10]
加工方法10は合成樹脂管を加熱して曲げ加工する方法である。詳しくは次の工程を備えている。
加工方法10は、合成樹脂管をT
1+15℃以上の温度に加熱する加熱工程S11と、加熱工程S11より加熱された合成樹脂管を、該合成樹脂管の全外周を覆う賦形形状に彫り込まれた賦形型に沿わせて設置する型設置工程S12と、型設置工程S12により賦形型に設置された状態の合成樹脂管において、該合成樹脂管の内部から圧力を加える内圧負荷工程S13と、合成樹脂管の形状保持温度まで管内径側から気体を管内径側から通風し、冷却する冷却工程S14と、冷却工程終了後に賦形型から取り出す取出工程S15と、を備えている。
ここで、
図3に加工方法10のフローチャートを、
図4に加工方法10における合成樹脂管の温度(表面温度)と工程との関係を示した。
なお、加工方法10において用いる合成樹脂管は、予め曲げ部における減肉を考慮し、肉厚を増肉した寸法のものを使用することが好ましい。
【0029】
[加熱工程S11]
加熱工程S11では、上記において説明した粘弾性挙動を有する合成樹脂管をT1+15℃以上の温度に加熱する。
合成樹脂管をT1+15℃以上の温度に加熱することで、貯蔵弾性率(E´)及び損失弾性率(E′′)が十分低下した状態となり、且つ、貯蔵弾性率(E´)及び損失弾性率(E′′)が安定している状態となるため、曲げ加工後の戻り量が小さく、また安定した曲げ加工品を得ることができる。また、その後の経時変化による戻り量も安定する。
加熱温度は、好ましくはT1+15℃以上、かつ、合成樹脂管の貯蔵弾性率(E´)が貯蔵弾性率(E´T1)の±10%以内の温度範囲であり、より好ましくは、T1+15℃以上、かつ、合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が貯蔵弾性率(E´T1)の±5%以内の温度範囲であり、さらに好ましくは、T1+15℃以上、かつ、合成樹脂の貯蔵弾性率(E´)が貯蔵弾性率(E´T1)の±1%以内の温度範囲である。上記の温度範囲で合成樹脂管を加熱することにより、曲げ加工後の戻り量が小さく、また安定した曲げ加工品を得ることができる。
ただし、上記温度範囲であっても、加熱による変色等の外観や品質に影響がある場合にはその温度範囲を除く温度範囲に設定することが好ましい。
【0030】
合成樹脂管の加熱方法は、加熱オーブン等の加熱槽等に合成樹脂管を投入し加熱しても良く、接触式ヒーターに押し付けて加熱しても良い。また、合成樹脂管は全体を加熱しても良く、曲げ加工する部分のみを加熱しても良い。
【0031】
[型設置工程S12]
型設置工程S12では、加熱工程S11より加熱された合成樹脂管を、該合成樹脂管の全外周を覆う賦形形状に彫り込まれた賦形型に沿わせて設置する。加熱工程S11にて加熱された合成樹脂管は、弾性率が低下している状態であるため、管の全周を覆う賦形型とすることで形状を保持し易い。
【0032】
また、加熱工程S11において、合成樹脂管全体を加熱した場合には、合成樹脂管全体を覆う賦形型に設置し型閉めを行うことが好ましく、曲げ加工する部分のみを加熱した場合には、加熱部分と加熱しない非加熱部分との境界部が賦形型に収まるような寸法に予め設計した賦形型に設置し型閉めを行うことが好ましい。
以下に、合成樹脂管全体を加熱した場合の型設置工程S12と、曲げ加工する部分のみを加熱した場合の型設置工程S12と、に分けて説明する。
【0033】
合成樹脂管全体を加熱した場合の型設置工程S12の概要図の1例を
図5に示す。
図5(a)は合成樹脂管1の設置前、
図5の(b)は合成樹脂管1の設置、型閉後の状態である。
図5の賦形型は、1箇所の曲がり形状の加工用のものであるが、本発明はこれに限定されず、2ヶ所以上の曲がり形状の加工用の賦形型を用いてもよい。
また、
図5に示すように、賦形型2は合成樹脂管1の全外周を覆う賦形形状とし、加熱管を設置するために分割の割り型形状(
図5は曲げに対して水平の割り型形状である。)としておくことが好ましい。以下において、賦形型2の割り型の一方を賦形型2a、もう一方を賦形型2bとする。
【0034】
加熱工程S11において、合成樹脂管1全体を加熱した場合、賦形型2は合成樹脂管の端部1aが賦形型2の内部に収まるような大きさ・構造とすることが好ましい。これにより、次工程である内圧負荷工程S13において、合成樹脂管1の内径側からの内圧負荷を行うことで、全周を覆う賦形形状に合成樹脂管の全外周が密着するように形状賦形をすることが可能となる。
なお、管端部1aから賦形型の外までの距離xは、合成樹脂管の外径の2倍以上の距離が好ましい。合成樹脂管1の端部1aが賦形型から食み出すことを防止するためである。
【0035】
次に、曲げ加工する部分のみを加熱する場合の型設置工程S12の概要図の1例を
図6に示す。
図6(a)は合成樹脂管1の設置前、
図6の(b)は合成樹脂管1の設置、型閉後の状態である。
図6の賦形型2は、1箇所の曲がり形状の加工を行うための賦形型であるが、本発明はこれに限定されず、2ヶ所以上の曲がり形状の加工用の賦形型を用いてもよい。
また、
図6のように、賦形型2は合成樹脂管1の加熱範囲1bの全周を覆う賦形形状とし、加熱管を設置するために分割の割り型形状(
図6は曲げに対して水平の割り型形状である。)としておくことが好ましい。
【0036】
加熱しない非加熱部については、次工程の内圧負荷工程S13で掛けられる内圧により変形しない。よって、加熱工程S11において曲げ加工する部分のみを加熱する場合、被加熱部分を賦形型2で覆う必要がないため賦形型を小さくできる。ただし、加熱部と非加熱部との境界部1cは、加熱の影響により変形し易いことから、加熱範囲1bの端部から賦形型の外までの距離xは、合成樹脂管の外径の2倍以上であることが好ましく、3倍以上の距離がより好ましい。
【0037】
図5、
図6で示した賦形型の割り面の方向は、曲げに対して水平方向であるが、管の全周を覆う構造であれば曲げ方向に対して水平方向でも直角方向でもよい。
図7に、曲げに対して直角方向の割り面を有する賦形型を示した。
【0038】
また、
図5、
図6で示した賦形型2は、1箇所の曲げ加工を行う賦形型であるが、複数箇所の曲げ加工を行う賦形型を用いてもよい。複数箇所の曲げ加工を行う賦形型の構造の一例を
図8に示した。このとき、賦形型2の構造・形状は曲げ加工する形状に合わせ適宜設定することがよい。
【0039】
賦形型は、加熱した合成樹脂管の接触により変形等の形状・寸法に異常を来たす材質でなければ特に限定はない。但し、金属材などの熱伝導が良い材質の場合、加熱した管を設置し型閉めしてから内圧負荷を行なうまでに、加熱した管の温度が低下し易いことから、熱伝導の良い材質の場合は予め賦形型を加温するか、熱伝導し難い材質を選定することが望ましい。
【0040】
[内圧負荷工程S13]
内圧負荷工程S13では、型設置工程S12により賦形型に設置された状態で合成樹脂管の内部から圧力を加える。
具体的には、合成樹脂管の内径側から内圧が負荷できるように、合成樹脂管の両端に封止させるための治具を取り付け、一方端から圧力媒体を送り込み、管の外径が賦形型に密着するように内圧を負荷する。圧力媒体は特に限定されないが圧縮空気であることが好ましい。以下においては、圧力媒体が圧縮空気の場合を説明する。
また、内圧負荷工程S13は、合成樹脂管の温度が少なくとも温度T1を下回るまで行うことが好ましい。さらに、両端に封止させるための治具取り付けは、加熱工程S11時に予め行っても良い。
【0041】
圧縮空気の内圧は、加熱された合成樹脂管の弾性率や管の外径・肉厚、曲げ加工する角度によって適宜設定することができる。例えば、
図1に示す粘弾性挙動を持つ合成樹脂管の場合であって、管の外径が14.6mmであり、肉厚が2.4mmである場合、0.05MPa~0.2MPaが望ましい。
【0042】
合成樹脂管1の内圧を設定する方法としては実際に加工して賦形型への転写状態を見極めて設定することが好ましいが、簡易的な方法の一例として以下の算出式を基に設定することもできる。
管を変形させ曲げ形状を形成させるための最低必要応力:σ
曲げ形状への変形量:ε
曲げ加工時の弾性率(賦形型設置時における材料の弾性率):E
管の外径:D
管の肉厚:t
最低必要内圧:P
とすると、
σ=εE ・・・・・・・・・・(1)
P≧2σt/(D-t) ・・・・・・・・・・(2)
(1),(2)式より
∴P≧2εEt/(D-t)
ここで、曲げ形状への変形量εは、賦形型の内部に含まれる合成樹脂管について、曲げ方向に対して垂直な方向から観察したときにおける合成樹脂管の外側の部分の変化量である。具体的には
図9を用いて説明する。
図9は、賦形型の内部に含まれる合成樹脂管を曲げ方向に対して垂直な方向から賦形型を透過して観察した図である。このときの曲げ形状への変形量εは、内圧負荷前の合成樹脂管の外側の一部分の長さをl1、当該部分の内圧負荷後の長さをl2としたとき、(l2-l1)/l1となる。
【0043】
また、内圧負荷工程S13は、両端を完全に封止し内圧負荷を行っても良く、所定の内圧を維持しながら圧力媒体をもう一端から排出し、圧力媒体を通過させるようにしても良い(圧縮空気を用いる場合は、通風である。)。所定の内圧を維持しながら圧縮空気をもう一端から排出する方法は、内圧による内径側からの賦形型への密着賦形と同時に、圧縮空気の排出する方法が挙げられる。これにより、内径側からの通風による冷却効果を発揮でき、型内での冷却工程終了までの時間短縮が図れるため、望ましい。詳しくは
図10を用いて説明する。
【0044】
図10は
図1の粘弾性挙動を持つ合成樹脂管を用いて検討した結果であり、型設置工程S12後の合成樹脂管の温度が200℃である場合において、内圧負荷工程S13で合成樹脂管の両端を完全に封止した場合の結果と、内圧負荷工程S13で合成樹脂管の一端から圧縮空気を所定の圧力で通風した場合の結果とを比較したものである。
図10から明らかなように、内圧負荷工程S13においては、圧縮空気を通風したほうが、冷却効果が高くなることが分かる。また、圧縮空気を通風した場合において、合成樹脂管の内圧が高い方が、冷却効果が向上する。
【0045】
ここで、本発明の内圧負荷工程13と従来の内圧負荷工程の違いについて説明する。
従来の曲げ加工方法の内圧負荷工程は、軟質固形の中芯材を挿入する方法やチューブ状のゴム芯材内に圧縮空気を挿入する方法を採用していた。しかしながら、これらの方法では、曲げ加工後において、中芯材を取出す際に曲がり部を通過させることが難しいため、中芯材の径を樹脂管内径よりも小さくしておくか、中芯材を低硬度にする必要があるため、その分潰れ防止には限界があった。特に、異方向に複数箇所の複雑な曲がりの場合の芯材の取出しは更に困難であった。
一方、本発明の内圧負荷工程S13は、上記のように圧力媒体を用いて行うものである。すなわち、圧力媒体を管の内径側から負荷させるため、芯材等の取り出し作業の必要もなく、様々な曲り形状,複数箇所の複雑な曲り形状の賦形型に沿った形状に密着することが簡易に行える。
また、上述の加熱工程S11にて加熱された合成樹脂管は、弾性率が低下している状態であるため、傷付き易いが、本発明のように圧縮空気等の圧力媒体を用いることで、傷を付けることなく確実な形状形成と潰れ防止ができる。また、加熱された合成樹脂管は、弾性率が低下している状態であるため、圧力媒体により負荷された管内圧は高圧とする必要がない。
【0046】
[冷却工程S14]
冷却工程S14では、合成樹脂管の形状保持温度まで管内径側から気体を管内径側から通風し、冷却する。具体的には、合成樹脂管の一方端から圧縮空気等の気体を送り込み、もう一方端を解放し通風させ管内径側から冷却する。その際に、更に加えて賦形型を冷却しても良い。
ここで、「形状保持温度」とは、合成樹脂が、賦形型からの取出、取扱いなどで負荷を加えられた場合に変形し難い状態の温度であり、合成樹脂の損失弾性率(E´´)が減少し始める温度である。例えば、
図1、
図2に示した合成樹脂の形状安定温度は、約50℃である。
【0047】
[取出工程S15]
取出工程S15では、冷却工程S14終了後に賦形型から曲げ賦形された管を取り出す。
【0048】
以上より、加工方法10の1つの実施形態である曲げ加工方法を説明した。上記において説明した粘弾性挙動を有する合成樹脂の加工方法として、従来では、曲げ加工後に使用状態の最終架橋度まで架橋化させる架橋化工程が必要であったが、本発明では、使用状態の最終架橋度まで架橋化させた架橋性樹脂から加工できるため、曲げ加工工程から架橋化工程までの間における形状変化も考慮した工程間の時間管理、温度管理が不要となる。
【0049】
上記の加工方法10は管方向転換用の曲げ加工方法であるが、本発明はこれに限定されず、例えば合成樹脂管の管外表面の形状に曲げを加えた加工(拡径させる加工)を行う加工方法であってもよい。その際には、賦形型を上記に代えて、例えば、
図11a、
図11b、
図12に示した賦形型を用いて行う。
図11a、
図11bは合成樹脂管の外表面に曲がり形状の加工をする一例である。
図12は合成樹脂管の端部の外表面形状に曲がり形状を加工する一例である。
なお、管方向転換用の曲げ加工及び、管外表面の形状に曲げを加えた加工は組み合わされていてもよい。
【0050】
また、上記において説明した本発明の成形品は、本発明の加工方法を行うことにより、合成樹脂から製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下実施例について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0052】
図1の粘弾性挙動を有する市販の架橋性樹脂材料(架橋ポリエチレン樹脂材料)の合成樹脂管を用いて、加工方法10に倣って、以下の実験を行った。
なお、合成樹脂管は、外径が14.6mm、肉厚が2.4mmであるものを用いた。
【0053】
[実験方法]
まず、加熱工程において表1に示した加熱温度まで各例の合成樹脂管を加熱した。
そして、型設置工程では、合成樹脂管を賦形型に沿って設置した。このとき、賦形型は
図5a、
図5bに示した形状のものであり、曲げ角度は90°のものを使用した。
次いで、内圧負荷工程では、合成樹脂管の温度が100℃に到達するまで、合成樹脂管に対して圧縮空気を用いて内圧を負荷した。
そして、冷却工程において、合成樹脂管の温度が50℃に到達するまで、合成樹脂管の一方端から圧縮空気を通風し冷却した。
続いて、取出工程において、合成樹脂管を賦形型から取り出した。
最後に、加工後の曲げ角度及びその後の経時変化の促進評価として100℃の加熱炉に3時間投入アニールした。
上記の操作を各例ごとに3回行った。
【0054】
【0055】
[実験結果]
表1に、各例の加熱温度、加工後の曲がり角度及び外観(色)、並びに、T1における貯蔵弾性率(E´
T1)を100%としたときの各例の加熱温度における貯蔵弾性率(E´)の変化割合を示した。また、
図13(a)、
図13(b)に、横軸に加熱温度、縦軸に曲げ角度として、測定した結果のグラフを示した。なお、
図13(b)は、
図13(a)を拡大したグラフである。
また、表1における曲がり角度の評価は、曲がり角度の平均が75°以上であり、かつ、3σ(ばらつき)が2.0以下である場合を「◎」、曲がり角度の平均が75°以上であり、かつ、3σが3.0以下である場合を「○」、それ以外を「×」とした。曲げ加工状態総合評価は、曲げ加工後の評価、及び100℃で3時間アニール後の評価のうち、評価が悪い方を採用した。
【0056】
図1より合成樹脂管のT1は135℃付近であり、T1を下回る温度では貯蔵弾性率(E´)及び損失弾性率(E″)が高く、曲げ戻りが大きくなり確実な賦形ができないことが予測される。
これについて表1及び
図13(a)、
図13(b)を見ると、確かに加熱温度が130℃以下である比較例1では曲がり角度が小さく、比較例2では100時間アニール後の曲がり角度が小さく、ばらつきも大きかった。
【0057】
図1より、T1(135℃)以上では加工後の曲げ戻りは安定してくるはずである。しかしながら、T1=135℃付近である比較例3では、100℃の加熱炉に3時間投入アニール後のばらつきが大きく、その後の経時変化で不安定であることがわかる。
【0058】
一方で、150℃以上に加熱した実施例1~5では、加工後の曲げ角度は安定しており、また、その後の経時変化の促進評価としての100℃,3時間投入アニール後においても加工後に比べ曲げ戻りはあるものの曲げ角度が安定していた。
しかしながら、300℃を超える温度に加熱した実施例5では、加工後の曲げ角度はほぼ安定しているものの、促進評価としての100℃,3時間投入アニール後において、ばらつきが大きくなる傾向であった。これは、
図1において、300℃を超える温度の貯蔵弾性率(E´)がT1おける貯蔵弾性率(E´
T1)が±1%以内を超えており、再び貯蔵弾性率が上昇し不安定となることと一致している。
【0059】
以上より、本実験での曲げ加工では、曲がり角度が安定した曲げ加工品を得る為には150℃以上300℃以下の加熱温度での加工が良いことが分かった。また、加工工程でのばらつきを考慮すると200℃~250℃がより好ましいことが分かった。
【0060】
1 合成樹脂管
2 賦形型