(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】泡消火薬剤用消泡剤
(51)【国際特許分類】
B01D 19/04 20060101AFI20220609BHJP
A62D 1/00 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
B01D19/04 A
A62D1/00
(21)【出願番号】P 2018005276
(22)【出願日】2018-01-17
【審査請求日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2017015161
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺 英実
(72)【発明者】
【氏名】川久保 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】北野 健一
(72)【発明者】
【氏名】笹田 翔平
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-154513(JP,A)
【文献】特開昭59-213413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00-19/04
A62D 1/00-1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消泡成分(A)と、アニオン界面活性剤(B)、ノニオン界面活性剤(D)、及びカチオン界面活性剤(E)から選ばれる少なくとも1種とを含む泡消火薬剤用消泡剤であって、
前記成分(A)が、無機
粉体(A1)、シリコーン成分(A2)及び金属石鹸(A3)から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記アニオン界面活性剤(B)が、スルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)、硫酸エステル型アニオン界面活性剤(B2)、及びリン酸エステル型アニオン界面活性剤(B3)から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記ノニオン界面活性剤(D)が
、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル(D2
)を含み、
前記カチオン界面活性剤(E)が、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(E1)を含み、
前記消泡剤の不揮発分に対する消泡成分(A)の重量割合が1~70重量%である、泡消火薬剤用消泡剤。
【請求項2】
前記アニオン界面活性剤(B)がスルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)を含む、請求項1に記載の泡消火薬剤用消泡剤。
【請求項3】
前記スルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)がジアルキルスルホコハク酸塩を含む、請求項2に記載の泡消火薬剤用消泡剤。
【請求項4】
前記第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(E1)がアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドを含む、請求項1~
3のいずれかに記載の泡消火薬剤用消泡剤。
【請求項5】
泡消火薬剤用消泡剤の不揮発分に対する前記成分(B)、前記成分(D)、及び前記成分(E)から選ばれる少なくとも1種の重量割合が30~99重量%である、請求項1~
4のいずれかに記載の泡消火薬剤用消泡剤。
【請求項6】
pHが4以下、又は9以上の、請求項1~
5のいずれかに記載の泡消火薬剤用消泡剤。
【請求項7】
フッ素系泡消火薬剤用、又はたん白系泡消火薬剤用である、請求項1~
6のいずれかに記載の泡消火薬剤用消泡剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡消火薬剤用消泡剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
泡消火設備は、定期的に放出点検が実施されている。この点検では、放出された泡の状態を確認する必要があるため、実際に泡を放出して点検することが義務付けられている。
【0003】
泡消火設備で放出された消火用泡は、自然状態では消泡し難く、泡の回収処理に時間がかかり、非常に効率が悪いという問題があった。
【0004】
そこで、定期点検時に、泡消火設備で消火薬剤を放出した際に、オイル系やシリコーン系の液体、あるいは消泡性を有する粉末剤などを含む消泡剤を用いて消泡処理する技術(特許文献1)、特殊な清掃設備を有する泡消火設備(特許文献2)、高分子吸収剤を含む消泡剤により消泡する消泡工程を含む泡消火設備の点検方法(特許文献3)などがあった。
しかしながら、特許文献1の粉末消泡剤は、倍率20倍以下の低発泡の消火用泡では、泡径が小さく、泡膜を安定化している疎水基と親水基の分子構造が密集していることから、消泡剤が泡膜に侵入し難く、消泡効果が十分でない。特許文献2の泡消火設備は特殊であり、特許文献3の点検方法では実施には大きな消泡シートを必要とすることから泡消火薬剤の回収が容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-97009号公報
【文献】特開平10-263102号公報
【文献】特開2011-92614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、強固な泡消火薬剤に対しても噴霧や混合により迅速に消泡でき、泡の回収が容易となる泡消火薬剤用消泡剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の消泡成分を特定量と、特定のアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、及びカチオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種とを含む泡消火薬剤用消泡剤であれば、上記課題を解決することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の泡消火薬剤用消泡剤は、消泡成分(A)と、アニオン界面活性剤(B)、ノニオン界面活性剤(D)、及びカチオン界面活性剤(E)から選ばれる少なくとも1種とを含む泡消火薬剤用消泡剤であって、前記成分(A)が、無機粉体(A1)、シリコーン成分(A2)及び金属石鹸(A3)から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記アニオン界面活性剤(B)が、スルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)、硫酸エステル型アニオン界面活性剤(B2)、及びリン酸エステル型アニオン界面活性剤(B3)から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記ノニオン界面活性剤(D)が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(D1)、及びポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル(D2)及びから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記カチオン界面活性剤(E)が、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(E1)を含み、
前記消泡剤の不揮発分に対する消泡成分(A)の重量割合が1~70重量%である。
【0009】
前記アニオン界面活性剤(B)がスルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)を含むと好ましい。
前記スルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)がジアルキルスルホコハク酸塩を含むと好ましい。
【0010】
前記ノニオン界面活性剤(D)が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(D1)を含むと好ましい。
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(D1)がポリオキシエチレンアルキルエーテルを含むと好ましい。
【0011】
前記第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(E1)がアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドを含むと好ましい。
【0012】
泡消火薬剤用消泡剤の不揮発分に対する前記成分(B)、前記成分(D)、及び前記成分(E)から選ばれる少なくとも1種の重量割合が30~99重量%であると好ましい。
【0013】
本発明の泡消火薬剤用消泡剤のpHが、4以上、又は9以下であると好ましい。
【0014】
本発明の泡消火薬剤用消泡剤が、フッ素系泡消火薬剤用、又はたん白系消火薬剤用であると好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の泡消火薬剤用消泡剤は、強固な泡消火薬剤に対しても噴霧や混合により迅速に消泡でき、泡の回収が容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、泡消火薬剤用消泡剤(以下、単に消泡剤ということがある)の各成分について説明する。
〔消泡成分(A)〕
消泡成分(A)は、泡消火薬剤用消泡剤に必須に含有され、文字通り泡を消す役割を果たす。消泡成分(A)は、25℃において固状、液状を問わない。
消泡成分(A)は、無機粉体(A1)、シリコーン成分(A2)及び金属石鹸(A3)から選ばれる少なくとも1種を含む。消泡成分(A)は、無機粉体(A1)を必須に含むと消泡効果の観点から好ましい。
【0017】
無機粉体(A1)としては、微細に粉砕した微粒子状物質であれば、特に限定されるものではないが、二酸化ケイ素(シリカ)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、ヒュームドTiO2、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム及びこれらの混合物等が挙げられ、1種又は2種以上使用されてもよい。より好ましくは微粉末シリカが挙げられる。
微粉末シリカのBET法による表面積は、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましく、200m2/g以上がさらに好ましい。
微粉末シリカは公知の方法、例えば、ハロゲン化珪素の熱分解法、珪酸金属塩の、例えば珪酸ナトリウム、の分解沈殿法、及び、ゲル形成法等により製造することができる。
消泡成分(A)に使用するのに好ましいシリカには、ヒュ-ムドシリカ、沈殿シリカ及びゲル形成シリカ等が挙げられる。
【0018】
これらの無機粉体(A1)の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは0.1~100μmであり、より好ましくは0.5~50μmであり、さらに好ましくは1~30μmである。
【0019】
シリコーン成分(A2)は、オルガノポリシロキサン類の総称であって、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂等を含むものを意味する。シリコーン成分はこれらのシリコーンを含む成分である。
オルガノポリシロキサン類としては、たとえば、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルイソプロピルポリシロキサン、メチルドデシルポリシロキサン等のジアルキルポリシロキサン;メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体等のアルキルフェニルポリシロキサン;メチル(フェニルエチル)ポリシロキサン、メチル(フェニルプロピル)ポリシロキサン等のアルキルアラルキルポリシロキサン;3,3,3-トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等を挙げることができる。これらのオルガノポリシロキサン類は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0020】
シリコーン成分としては、泡に容易に拡散する観点からは、分子構造が直鎖状で、重合度が低く常温で流動性を有するシリコーンオイル等が好ましい。その粘度については、特に限定はないが、消泡性と浸透性のバランスの点で、25℃における粘度が、好ましくは100~500万mPa・s、さらに好ましくは500~50万mPa・sである。なお、本発明で粘度とは、コーンプレート型粘度計で測定したものを意味するものとする。
【0021】
金属石鹸(A3)としては、炭素数8~20の有機酸の非アルカリ金属塩であればよく、1種又は2種以上を含んでも良い。
【0022】
金属石鹸を構成する有機酸については、特に限定はないが、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、5-ドデセン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、7-テトラデセン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、パクセン酸、オレイン酸、リシノール酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、パウリン酸から選ばれる1種であればよく、2種以上を含んでも良い。
【0023】
金属石鹸の非アルカリ金属塩については、特に限定はないが、Al、Ag、Ba、Ca、Ce、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Hg、Li、Mg、Mn、Ni、Pb、Sn、Th、Ti、Znから選ばれる1種であればよく、2種以上を含んでも良い。
【0024】
また、金属石鹸の二次平均粒径については、特に限定はないが、消泡性等を考慮すると、好ましくは0.1~200μm、より好ましくは0.5~100μm、さらに好ましくは1.0~50μm、特に好ましくは1.5~40μm、最も好ましくは2.0~30μmである。
【0025】
本発明において、泡消火薬剤の強固な泡を消泡するメカニズムは、従来の消泡剤によるものとは異なり、泡を形成している層に積極的に消泡成分を吸着させ、破泡後には下層の泡に再吸着しながら順次継続して消泡するものである。
アニオン界面活性剤(B)、ノニオン界面活性剤(D)、及びカチオン界面活性剤(E)から選ばれる少なくとも1種は、当該消泡成分の吸着を促進する役割を果たしている。
【0026】
〔アニオン界面活性剤(B)〕
アニオン界面活性剤(B)は、スルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)、硫酸エステル型アニオン界面活性剤(B2)、及びリン酸エステル型アニオン界面活性剤(B3)から選ばれる少なくとも1種であり、泡消火薬剤への浸透及び消泡が優れる観点から、スルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)、及びリン酸エステル型アニオン界面活性剤(B3)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
また、消泡成分(A)との相溶性に優れることで泡消火薬剤への浸透及び消泡が優れる観点から、スルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)を含むとより好ましい。
【0027】
スルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)としては、例えば、直鎖ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、分岐ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;α-テトラデセンスルホン酸ナトリウム、α-ヘキサデセンスルホン酸ナトリウム、α-ヘキサデセンスルホン酸カリウム等のα-オレフィンスルホン酸塩;ドデシルスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウム等のアルカンスルホン酸塩;α-スルホラウリン酸メチルナトリウム、メトキシヘキサエチレングリコール-α-スルホラウリン酸メチルナトリウム等のα-スルホ脂肪酸エステル塩;ココイルイセチオン酸ナトリウム、ココイルイセチオン酸アンモニウム等のアシルイセチオン酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等のN-アシル-N-メチルタウリン酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩;プロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩等を挙げることができる。スルホン酸型アニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等が好ましく、ジアルキルスルホコハク酸塩等がさらに好ましい。これらのスルホン酸型アニオン界面活性剤は1種または2種以上を併用してもよい。
【0028】
硫酸エステル型アニオン界面活性剤(B2)としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸カリウム、ドデシル硫酸トリエタノールアミン、ステアリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレン(3)ドデシル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレン(3)セチル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレン(3)セチル硫酸エステルトリエタノールアミン等のポリオキシエチレンアルキルエーエル硫酸エステル塩;ロート油等の硫酸化油;硫酸化オレイン酸ブチル等の硫酸化脂肪酸エステル塩等を挙げることができる。上記で、ポリオキシエチレン(3)とは、オキシエチレン基の繰返し単位数が3であるポリオキシエチレン基を意味する。硫酸エステル型アニオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化脂肪酸エステル塩等が好ましく、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーエル硫酸エステル塩等がさらに好ましい。これらの硫酸エステル型アニオン界面活性剤は1種または2種以上を併用してもよい。
【0029】
リン酸エステル型アニオン界面活性剤(B3)としては、例えば、ドデシルリン酸ナトリウム、ドデシルリン酸カリウム、ステアリルリン酸ナトリウム、ステアリルリン酸カリウム、等のアルキルリン酸塩:ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテルリン酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩:ポリオキシエチレン(3)ラウリルフェニルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(3)ラウリルフェニルエーテルリン酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩をあげることができる。リン酸エステル型アニオン界面活性剤としては、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩等が好ましく、アルキルリン酸エステル塩がさらに好ましい。これらのリン酸エステル型アニオン界面活性剤は1種または2種以上を併用してもよい。
【0030】
〔ノニオン界面活性剤(D)〕
ノニオン界面活性剤(D)は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(D1)、及びポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル(D2)から選ばれる少なくとも1種であり、泡消火薬剤への浸透及び消泡が優れる観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(D1)を含むと好ましい。
【0031】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(D1)としては、例えば、ポリオキシエチレン(7)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(10)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(15)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(9)SEC-アルキル(C12アルキル体~C15アルキル体)エーテル、ポリオキシエチレン(12)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(8)セチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられる。
これらのポリオキシアルキレンアルキルエーテルは1種または2種以上を併用してもよい。
【0032】
ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル(D2)としては、例えば、ポリオキシエチレン(10)ノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(24)スチリルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが挙げられる。
これらのポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルは1種または2種以上を併用してもよい。
【0033】
〔カチオン界面活性剤(E)〕
カチオン界面活性剤(E)は、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(E1)を含む。
【0034】
第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(E1)としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
これらの第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤は1種または2種以上を併用してもよい。
また、泡消火薬剤への浸透及び消泡が優れる観点から、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤はアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドを含むと好ましい。
【0035】
〔水〕
本発明の消泡剤は低濃度でも十分消泡効果があり、作業性及び経済性の観点から水に希釈して使用するのが良く、あらかじめ水に希釈しておいても良い。水としては、イオン交換水、蒸留水、超純水、工業用水、水道水、海水などが挙げられる。
【0036】
(その他成分)
本発明の泡消火薬剤用消泡剤は、その他の成分として、防腐剤、pH調整剤、粘度調整剤、消泡成分の相溶安定性を向上させる観点から、前記ノニオン界面活性剤(D1)及び(D2)以外のノニオン界面活性剤等を含んでいても良い。
pH調整剤としては、硫酸、塩酸、酢酸、乳酸、クエン酸等の酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカノールアミン類、炭酸ナトリウム等のアルカリが挙げられる。
粘度調整剤としては、メタノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、両性界面活性剤、電解質、水溶性高分子等が挙げられる。
ノニオン界面活性剤(D1)、及び(D2)以外のノニオン界面活性剤としては、例えば、グリセリンモノラウレート、グリセリンセスキラウレート、グリセリンジラウレート、グリセリントリラウレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンセスキステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンセスキオレエート、グリセリンジオレエート、グリセリントリオレエート等のグリセリンアルキレート:ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールステアレート、ポリエチレングリコールオレエート等のポリエチレングリコールアルキレート:モノラウリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、ジオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル:ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0037】
〔泡消火薬剤用消泡剤〕
泡消火薬剤用消泡剤の不揮発分に対する消泡成分(A)の重量割合は、1~70重量%であり、2~30重量%が好ましく、3~25重量%がより好ましく、4~20重量%がさらに好ましい。1重量%未満では、消泡性が不足し、70重量%超では浸透性が低下するために迅速に消泡できない。
なお、ここで不揮発分とは、泡消火薬剤用消泡剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0038】
泡消火薬剤用消泡剤の不揮発分に対するアニオン界面活性剤(B)、ノニオン界面活性剤(D)、及びカチオン界面活性剤(E)から選ばれる少なくとも1種の重量割合は、30~99重量%が好ましく、35~98重量%が好ましく、40~90重量%がさらに好ましく、50~85重量%が特に好ましく、60~80重量%が最も好ましい。30重量%未満では、浸透性が低下するために迅速に消泡できないことがあり、99重量%を超えると、消泡性が不足することがある。
【0039】
泡消火薬剤用消泡剤が水を含有する場合には、泡消火薬剤用消泡剤に対する水の重量割合は、5~95重量%が好ましく、5~80重量%が好ましく、10~60重量%がさらに好ましく、15~40重量%が特に好ましく、20~30重量%が最も好ましい。5重量%未満では、泡消火薬剤の泡への浸透性が悪くなることがあり、95重量%を超えると、消泡性が悪くなることがある。
【0040】
泡消火薬剤用消泡剤がその他の成分を含有する場合には、泡消火薬剤用消泡剤に対するその他の成分の重量割合は、5~50重量%が好ましく、10~25重量%がより好ましい。5重量%未満では、泡消火薬剤の泡への浸透性が悪くなることがあり、50重量%を超えると、消泡性が悪くなることがある。
【0041】
本発明の泡消火薬剤用消泡剤は、フッ素系泡消火薬剤又はたん白系泡消火薬剤に好適である。
フッ素系泡消火薬剤の場合、泡消火剤用消泡剤のpHは、アニオン界面活性剤(B)を含む場合、環境への負担が少ないことから4~10が好ましく、5~9がさらに好ましく、6~8が特に好ましい。
pHの測定条件は、不揮発分の濃度を1重量%濃度にして測定したものである。
【0042】
一方、泡消火薬剤用消泡剤のpHを4以下、又はpH9以上にすると、さらに本願効果を奏することができ、好ましい。
泡消火薬剤用消泡剤にアニオン界面活性剤(B)を含む場合、泡消火薬剤用消泡剤のpHは好ましくは4以下又は9以上、より好ましくはpH3以下又は10以上、さらに好ましくは11以上である。
泡消火薬剤用消泡剤にノニオン界面活性剤(D)を含む場合、泡消火薬剤用消泡剤のpHは好ましくは9以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは11以上、特に好ましくは12以上で、より迅速な消泡効果が発揮される。
泡消火薬剤用消泡剤にカチオン界面活性剤(E)を含む場合、泡消火薬剤用消泡剤のpHは4以下又は9以上、好ましくは3以下又は10以上、より好ましくは11以上、さらに好ましくはpH12以上で、より迅速な消泡効果が発揮される。
pHの測定条件は上記と同様に、不揮発分の濃度を1重量%濃度にして測定したものである。
【0043】
たん白系泡消火薬剤の場合、泡消火剤用消泡剤のpHは、環境への負荷の観点で、4~10が好ましく、5~9がより好ましく、6~8がさらに好ましい。
一方、泡消火薬剤用消泡剤のpHを4以下、又はpH9以上にすると、さらに本願効果を奏することができ、好ましい。
pHの測定条件は、上記のフッ素系泡消火薬剤と同様に、不揮発分の濃度を1重量%濃度にして測定したものである。
【0044】
泡消火薬剤用消泡剤の25℃における粘度は10万mPa・s以下が好ましく、1万mPa・s以下がよりに好ましく、1000mPa・s以下がさらに好ましく、100mPa・s以下が特に好ましい。好ましい下限値は5mPa・sである。
【0045】
泡消火薬剤用消泡剤は、泡を形成している層に積極的に消泡成分を吸着させ、破泡後には下層の泡に再吸着しながら順次継続して消泡するものであり、泡消火薬剤が両性界面活性剤と水溶性高分子の水溶液を含むものであると、泡放出試験で放出された自然状態では消泡し難い泡を効率良く回収するために好ましい。
【0046】
〔泡消火薬剤用消泡剤の製造方法〕
泡消火薬剤用消泡剤の製造方法としては、従来公知の方法が挙げられる。例えば、消泡成分(A)にアニオン界面活性剤成分(B)、ノニオン界面活性剤(D)、及びカチオン界面活性剤(E)から選ばれる少なくとも1種を配合し、これに水を加え均一にすることで調製される。
また、泡消火薬剤用消泡剤のpHの調整方法としては、例えば、前記pH調整剤を用い、泡消火薬剤用消泡剤を散布する濃度に調製を行なってから、pHの調整を行う方法や、泡消火薬剤用消泡剤の散布濃度調製前の濃縮液のpHの調整を行う等、従来公知の方法が挙げられる。
【0047】
〔泡消火薬剤の消泡方法〕
上記泡消火薬剤用消泡剤を泡消火薬剤に散布する場合、水により希釈して不揮発分全体の重量割合が1~15重量%となる濃度に希釈して使用すると、取り扱い性の観点から好ましく、2~10重量%がより好ましく、3~6重量%がさらに好ましい。
上記泡消火薬剤用消泡剤を泡消火薬剤に散布する方法としては、公知の方法を採用できる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例、比較例を示す。本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
なお、実施例109~118、124、125、156~161、168、及び169を参考例とする。
【0049】
表1~14に記載の各成分を配合し、ガラス棒で良く撹拌し、水を加えて不揮発分が6重量%となるように水溶液を調製した。水を加える前の配合物の粘度は実施例1では90mPa・s、実施例2では500mPa・sであった。
また、実施例109~135、比較例14~25においては、調製した消泡剤のpHを表4~5、及び7~8に記載の値に調整した。pHが4以下の場合は乳酸、9以上の場合は炭酸ナトリウムを用いて実施した。
実施例1~135、比較例1~25については、フッ素系泡消火薬剤(メガフォーム(登録商標)AGF-3T、DIC株式会社製)をミキサーで20倍発泡させ500mLビーカーに500mLの泡を入れた後、消泡剤6%水溶液15mLを30秒かけスプレーで噴霧した。
実施例136~177、比較例26~43については、たん白系泡消火薬剤(ヤマトプロテック社製)をミキサーで10倍発泡させ300mLビーカーに300mLの泡を入れた後、消泡剤6%水溶液15mLを30秒かけスプレーで噴霧した。
60分後に液面が見え、泡がほとんど消失したものを合格とした。
60分後に泡が残存しているものを不合格とした。
なお、表1~8はフッ素系泡消火薬剤の結果を、表9~14はたん白系泡消火薬剤の結果を記載した。
また、表1~14の記載のうち、A1~E1に係る成分は以下のものを使用した。
A1 二酸化ケイ素(粒子径:10μm、BET比表面積:250m2/g)
A2 ジメチルシリコーン(粘度:1万mPa・s)
A3 ステアリン酸マグネシウム(粒子径:10μm)
B1-1 ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
B1-2 ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
B2-1 ステアリル硫酸ナトリウム
B2-2 ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸塩
B3-1 ドデシルリン酸カリウム
B3-2 ポリオキシエチレン(3)ドデシルリン酸カリウム
C1 エチレングリコール
C2 プロピレングリコール
C3 イソプロパノール
D1 ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル
D2 ポリオキシエチレン(10)ノニルフェニルエーテル
E1 ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
〔実施例178〕
消泡成分(A)として二酸化ケイ素(A1)を5重量%、アニオン界面活性剤(B)としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(B1-1)を95重量%配合し、ガラス棒で良く撹拌し、不揮発分が6重量%となるよう水を加え、その後pHを乳酸で3に調整を行い、消泡剤を調製した。次にフッ素系泡消火薬剤(メガフォーム(登録商標)AGF-3T、DIC株式会社製、以下、単にAGF-3Tという)を実施例1と同様の方法にて20倍発泡させ、500mLビーカーに500mLの泡を入れた後、調製した消泡剤15mLを30秒かけスプレーで噴霧したところ、泡高さが、噴霧直後は400mLであったものが、10分後には35mLとなり、30分後には10mLとなり、60分後には液面が見え、泡がほとんど消失した状態となった。
【0065】
〔実施例179〕
消泡成分(A)として二酸化ケイ素(A1)を15重量%、アニオン界面活性剤(B)としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(B1-1)を75重量%、その他成分(C)としてエチレングリコール(C1)を10重量%配合し、ガラス棒で良く撹拌し、不揮発分が6重量%となるよう水を加え、その後pHを炭酸ナトリウムで11に調整を行い、消泡剤を調製した。次に前記フッ素系泡消火薬剤(AGF-3T)を実施例1と同様の方法で20倍発泡させ、500mLビーカーに500mLの泡を入れた後、調製した消泡剤15mLを30秒かけスプレーで噴霧したところ、泡高さが、噴霧直後は400mLであったものが、10分後には20mLとなり、30分後には液面が見え、泡がほとんど消失した状態となった。
【0066】
〔実施例180〕
消泡成分(A)として二酸化ケイ素(A1)を5重量%、アニオン界面活性剤(B)としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(B1-1)を95重量%配合し、実施例178と同様の方法で、消泡剤を調製した。調製した消泡剤のpHは3であった。次に、たん白系泡消火薬剤(ヤマトプロテック社製)を実施例136と同様の方法で10倍発泡させ、300mLビーカーに300mLの泡を入れた後、調製した消泡剤15mLを30秒かけスプレーで噴霧したところ、泡高さが、噴霧直後は200mLであったものが、10分後には20mLとなり、30分後には5mLとなり、60分後には液面が見え、泡がほとんど消失した状態となった。
【0067】
〔実施例181〕
消泡成分(A)として二酸化ケイ素(A1)を15重量%、アニオン界面活性剤(B)としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(B1-1)を75重量%、その他成分(C)としてエチレングリコール(C1)を10重量%配合し、実施例179と同様の方法で、消泡剤を調製した。調製した消泡剤のpHは11であった。次に、たん白系泡消火薬剤(ヤマトプロテック社製)を実施例136と同様の方法で10倍発泡させ、300mLビーカーに300mLの泡を入れた後、調製した消泡剤15mLを30秒かけスプレーで噴霧したところ、泡高さが、噴霧直後は220mLであったものが、10分後には20mLとなり、30分後には液面が見え、泡がほとんど消失した状態となった。
【0068】
表1~5、表9~11、及び実施例178~181から分かるとおり、実施例に係る消泡剤は、消泡成分(A)と、アニオン界面活性剤(B)、ノニオン界面活性剤(D)、及びカチオン界面活性剤(E)から選ばれる少なくとも1種とを含む泡消火薬剤用消泡剤であって、前記成分(A)が、無機粉体(A1)、シリコーン成分(A2)及び金属石鹸(A3)から選ばれる少なくとも1種を含み、前記アニオン界面活性剤(B)が、スルホン酸型アニオン界面活性剤(B1)、硫酸エステル型アニオン界面活性剤(B2)、及びリン酸エステル型アニオン界面活性剤(B3)から選ばれる少なくとも1種を含み、前記ノニオン界面活性剤(D)が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(D1)、及びポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル(D2)から選ばれる少なくとも1種を含み、前記カチオン界面活性剤(E)が、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(E1)を含み、前記消泡剤の不揮発分に対する消泡成分(A)の重量割合が1~70重量%であるため、消泡剤6%水溶液噴霧60分後に泡がほとんど消失しており本願の課題を解決できている。
一方、消泡成分(A)がない場合(比較例4~7、14~15、22、29~31、35~36、40)、アニオン界面活性剤成分(B)、ノニオン界面活性剤成分(D)、及びカチオン界面活性剤成分(E)がない場合(比較例1~3、26~28)、消泡剤の不揮発分に対する消泡成分(A)が70重量%を超えている場合(比較例8~13、16~21、23~25、32~34、37~39、41~43)では、60分後も泡が半分以上残っており、本願の課題を解決できていない。