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特許7085384時間デジタル変換回路及び時間デジタル変換方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】時間デジタル変換回路及び時間デジタル変換方法
(51)【国際特許分類】
   H03K 5/26 20060101AFI20220609BHJP
   H03M 1/50 20060101ALI20220609BHJP
   G04F 10/04 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
H03K5/26 P
H03M1/50
G04F10/04 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018063455
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019176357
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591128453
【氏名又は名称】株式会社メガチップス
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100109715
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 英明
(72)【発明者】
【氏名】生巣 春彦
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-100252(JP,A)
【文献】特開2000-6471(JP,A)
【文献】特表2011-525737(JP,A)
【文献】特開2012-138848(JP,A)
【文献】特開2019-87797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04F10/04
H03K5/26
H03M1/50-1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の時間デジタル変換部と、
前記複数の時間デジタル変換部のいずれかの出力を選択可能なセレクタと、
測定の対象信号とクロック信号との分配及び前記セレクタの制御を行うコントローラと、を備え、
前記複数の時間デジタル変換部の各々は、
複数の遅延回路が直列に接続された伝送路と、
前記遅延回路とは異なる遅延量を有する複数のクロック遅延回路が直列に接続されたクロック伝送路と、
前記伝送路の複数の遅延段及び前記クロック伝送路の複数の遅延段にそれぞれ対応して設けられ、前記クロック伝送路の対応する遅延段に到達したクロック信号に基づき、前記伝送路の対応する遅延段の信号レベルを捕捉する複数の捕捉部が含まれる捕捉部群と、
を有し、
前記コントローラは、前記対象信号を前記複数の時間デジタル変換部の前記伝送路へ送り、クロック信号を前記複数の時間デジタル変換部の前記クロック伝送路へ所定の順序で順次分配し、かつ、前記複数の時間デジタル変換部のうち、分配された前記クロック信号に基づき前記捕捉部群が捕捉を完了した時間デジタル変換部の出力が前記所定の順序と同じ順序で順次選択されるように前記セレクタを制御する、
時間デジタル変換回路。
【請求項2】
前記セレクタによる出力の選択サイクル、前記コントローラによるクロック信号の分配サイクルよりも、クロック信号の1周期分進んでいる、
請求項1記載の時間デジタル変換回路。
【請求項3】
前記コントローラには、クロック信号を分配する分配回路と、前記対象信号を遅延させて前記複数の時間デジタル変換部へ送るバッファと、を有する、
請求項1又は請求項2に記載の時間デジタル変換回路。
【請求項4】
前記複数の時間デジタル変換部の各々は、
前記伝送路、前記クロック伝送路及び前記捕捉部群が複数組含まれる複数のバーニア形遅延チェーンと、
前記複数のバーニア形遅延チェーンにおける各段の前記捕捉部の捕捉結果を多数決する複数の多数決回路とを備え、
前記複数の多数決回路の決定結果を出力する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の時間デジタル変換回路。
【請求項5】
クロック信号の周期pと、前記時間デジタル変換部の個数(i+1)と、前記対象信号が前記伝送路の始端から最後の遅延段に到達する時間Tとは、
p×(i+1)≧Tの関係を満たす、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の時間デジタル変換回路。
【請求項6】
前記時間デジタル変換部がデジタル値に変換可能な最大の時間間隔が、クロック信号の周期以上である、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の時間デジタル変換回路。
【請求項7】
複数の時間デジタル変換部と、
前記複数の時間デジタル変換部のいずれかの出力を選択可能なセレクタと、を備え、
前記複数の時間デジタル変換部の各々が、
複数の遅延回路が直列に接続された伝送路と、
前記遅延回路とは異なる遅延量を有する複数のクロック遅延回路が直列に接続されたクロック伝送路と、
前記伝送路の複数の遅延段及び前記クロック伝送路の複数の遅延段にそれぞれ対応して設けられ、前記クロック伝送路の対応する遅延段に到達したクロック信号に基づき、前記伝送路の対応する遅延段の信号レベルを捕捉する複数の捕捉部が含まれる捕捉部群と、
を有する回路を用いた時間デジタル変換方法であって、
測定の対象信号を前記複数の時間デジタル変換部の前記伝送路へ送り、
クロック信号を前記複数の時間デジタル変換部の前記クロック伝送路へ所定の順序で順次分配し、
前記複数の時間デジタル変換部のうち、分配された前記クロック信号に基づき前記複数の捕捉部が捕捉を完了した時間デジタル変換部の出力が前記所定の順序と同じ順序で順次選択されるように前記セレクタを制御する、
時間デジタル変換方法。
【請求項8】
前記セレクタによる出力の選択サイクル、クロック信号の分配サイクルよりも、クロック信号の1周期分進んでいる、
請求項7記載の時間デジタル変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間デジタル変換回路(TDC:Time Digital Converter)及び時間デジタル変換方法に関し、特に、バーニア形遅延チェーンを用いた時間デジタル変換回路及び時間デジタル変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定の対象信号と基準信号との時間間隔を、遅延チェーンを用いてデジタル値に変換する時間デジタル変換回路がある。代表的な遅延チェーンは、複数の遅延回路が直列に接続された伝送路と、伝送路の複数の遅延段にそれぞれ対応して設けられた複数のフリップフロップとを有する。各フリップフロップは、同時に入力される基準信号に同期して、伝送路の対応する遅延段の信号レベルを捕捉する。このような回路においては、対象信号が伝送路に入力され、対象信号が伝送路を進んでいる間に基準信号が複数のフリップフロップに入力される。例えば、ハイレベルの対象信号がx段目の遅延段に到達したタイミングで基準信号が入力されると、x段目のフリップフロップまではハイレベルの信号を捕捉し、x+1段目から以降のフリップフロップはローレベルの信号を捕捉する。したがって、複数のフリップフロップの出力により、対象信号が伝送路の何段目の遅延回路まで進んだときに基準信号が入力されたのかが特定される。したがって、各遅延回路の遅延量τから対象信号と基準信号との時間間隔が求められる。上記の例では、x×τが、対象信号と基準信号との時間間隔となる。このような回路において、測定される時間間隔の分解能は、遅延量τである。
【0003】
特許文献1の図3には、並列に接続された複数列の遅延チェーンを用いて、信号の時間間隔をデジタル値に変換する回路が示されている。この回路では、測定の対象信号が複数の遅延チェーンに同時に入力される一方、複数列の遅延チェーンに互いに僅かな時間差が付加された基準信号が入力される。例えば、各遅延チェーンの分解能がτであれば、i個(iは2以上)の遅延チェーンに互いに時間差τ/iを付加した基準信号がそれぞれ入力される。これにより、複数の遅延チェーンで測定される時間間隔の基準タイミングが時間差τ/iずつ異なる。したがって、1列の遅延チェーンの分解能がτであっても、複数列の遅延チェーンの出力を合わせることで、分解能τ/iで時間間隔がデジタル値に変換される。
【0004】
また、遅延チェーンに含まれる遅延回路の遅延量よりも高い分解能で時間間隔をデジタル値に変換できる従来の時間デジタル変換回路として、バーニア形の遅延チェーンを用いた回路がある。バーニア形の遅延チェーンは、典型的には、複数の遅延段を有する基準信号の伝送路を備える。基準信号は、複数段階に遅延が付加されて各フリップフロップへ送られる。バーニア形の遅延チェーンは、異なる遅延量τ1、τ2を有する2種類の遅延回路を使用し、これらの遅延量の差|τ1-τ2|を分解能とする時間間隔の測定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2012-522466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によれば、遅延チェーンが持つ分解能よりも、高い分解能で時間間隔がデジタル値に変換される。しかしながら、特許文献1の技術では、複数列の遅延チェーンに供給される基準信号に、各列の遅延チェーンの分解能を整数で除算した時間差を付加する必要がある。そして、複数の基準信号の時間差の精度が測定結果の精度に直接に影響するという課題がある。例えば、並列に接続された4列の遅延チェーンに、時間差を付加した4つの基準信号をそれぞれ供給する場合、1つの基準信号の精度が低いと、この基準信号を受けた遅延チェーンの全ビットの出力に基準信号と同程度の精度の低下が生じる。すなわち、特許文献1の技術では、測定結果のデジタル値に精度の低いビットが偏在しやすいという課題が生じる。
【0007】
また、バーニア形の遅延チェーンを用いた回路では、基準信号にも複数段に遅延を付加することで、高い分解能で対象信号と基準信号との時間間隔が測定される。このため、時間間隔の測定に要する時間が、測定可能な時間間隔の最大値よりも長くなるという課題がある。例えば、分解能がτ1-τ2で、遅延回路の段数をn段とした場合、測定可能な時間間隔の最大値は(τ1-τ2)×nである一方、1回の測定に要する時間はτ1×nであり、後者の方が測定に要する時間が長い。
【0008】
このため、基準信号が周期的なクロック信号として入力され、測定を繰り返し行う場合、クロック周期を1回の測定に要する時間に合わせた場合、測定可能な最大の時間間隔はクロック周期内の一部の期間に限られてしまう。この場合、クロック周期内のその他の期間に対象信号が入力されても時間間隔を測定することができない。また、クロック周期を、測定可能な最大の時間間隔に合わせた場合、1つのクロック信号が遅延チェーンに入力されてから1回の測定が完了する前に、次のクロック信号が遅延チェーンに入力されて次の測定が開始されてしまう。このため、1回目の測定結果のデジタル値を出力する際、次のクロック信号によって始端側のデジタル値が更新されてしまい、正常な結果が得られないことがあるという課題が生じる(図9及び比較例の説明を参照)。
【0009】
そこで、本発明は、クロック信号と対象信号との時間間隔を、各遅延回路の遅延量よりも高い分解能で、正常にデジタル値に変換できる時間デジタル変換回路及び時間デジタル変換方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、デジタル値に精度の低いビットが偏在しにくい時間デジタル変換回路及び時間デジタル変換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的特徴乃至は発明特定事項を含んで構成される。
【0012】
すなわち、ある観点に従う本発明は、複数の時間デジタル変換部と、前記複数の時間デジタル変換部のいずれかの出力を選択可能なセレクタと、測定の対象信号とクロック信号との分配及び前記セレクタの制御を行うコントローラと、を備え、前記複数の時間デジタル変換部の各々は、複数の遅延回路が直列に接続された伝送路と、前記遅延回路とは異なる遅延量を有する複数のクロック遅延回路が直列に接続されたクロック伝送路と、前記伝送路の複数の遅延段及び前記クロック伝送路の複数の遅延段にそれぞれ対応して設けられ、前記クロック伝送路の対応する遅延段に到達したクロック信号に基づき、前記伝送路の対応する遅延段の信号レベルを捕捉する複数の捕捉部が含まれる捕捉部群と、を有し、前記コントローラは、前記対象信号を前記複数の時間デジタル変換部の前記伝送路へ送り、クロック信号を前記複数の時間デジタル変換部の前記クロック伝送路へ順次分配し、かつ、前記複数の時間デジタル変換部のうち、分配された前記クロック信号に基づき前記捕捉部群が捕捉を完了した時間デジタル変換部の出力が順次選択されるように前記セレクタを制御する時間デジタル変換回路である。
【0013】
ここで、前記コントローラは、前記複数の時間デジタル変換部へ所定の順序でクロック信号を分配し、かつ、前記セレクタに前記所定の順序と同じ順序で前記複数の時間デジタル変換部の出力を選択させ、前記セレクタによる出力の選択サイクルが、前記コントローラによるクロック信号の分配サイクルよりも、クロック信号の1周期分進んでいてもよい。
【0014】
さらに、前記コントローラには、クロック信号を分配する分配回路と、前記対象信号を遅延させて前記複数の時間デジタル変換部へ送るバッファと、を有してもよい。
【0015】
さらに、前記複数の時間デジタル変換部の各々は、前記複数の時間デジタル変換部の各々は、前記伝送路、前記クロック伝送路及び前記捕捉部群が複数組含まれる複数のバーニア形遅延チェーンと、前記複数のバーニア形遅延チェーンにおける各段の前記捕捉部の捕捉結果を多数決する複数の多数決回路とを備え、前記複数の多数決回路の決定結果を出力してもよい。
【0016】
さらに、クロック信号の周期pと、前記時間デジタル変換部の個数(i+1)と、前記対象信号が前記伝送路の始端から最後の遅延段に到達する時間Tとは、p×(i+1)≧Tの関係を満たしてもよい。
【0017】
さらに、前記時間デジタル変換部がデジタル値に変換可能な最大の時間間隔が、クロック信号の周期以上であってもよい。
【0018】
別の観点に従う本発明は、複数の時間デジタル変換部と、前記複数の時間デジタル変換部のいずれかの出力を選択可能なセレクタと、を備え、前記複数の時間デジタル変換部の各々が、複数の遅延回路が直列に接続された伝送路と、前記遅延回路とは異なる遅延量を有する複数のクロック遅延回路が直列に接続されたクロック伝送路と、前記伝送路の複数の遅延段及び前記クロック伝送路の複数の遅延段にそれぞれ対応して設けられ、前記クロック伝送路の対応する遅延段に到達したクロック信号に基づき、前記伝送路の対応する遅延段の信号レベルを捕捉する複数の捕捉部が含まれる捕捉部群と、を有する回路を用いた時間デジタル変換方法であって、測定の対象信号を前記複数の時間デジタル変換部の前記伝送路へ送り、クロック信号を前記複数の時間デジタル変換部の前記クロック伝送路へ順次分配し、前記複数の時間デジタル変換部のうち、分配された前記クロック信号に基づき前記複数の捕捉部が捕捉を完了した時間デジタル変換部の出力が順次選択されるように前記セレクタを制御する時間デジタル変換方法である。
【0019】
ここで、前記複数の時間デジタル変換部へ所定の順序でクロック信号を分配し、かつ、前記セレクタに前記所定の順序と同じ順序で前記複数の時間デジタル変換部の出力を選択させ、前記セレクタによる出力の選択サイクルが、クロック信号の分配サイクルよりも、クロック信号の1周期分進んでいてもよい。
【0020】
なお、本明細書等において、手段とは、単に物理的手段を意味するものではなく、その手段が有する機能をソフトウェアによって実現する場合も含む。また、1つの手段が有する機能が2つ以上の物理的手段により実現されても、2つ以上の手段の機能が1つの物理的手段により実現されてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、クロック信号と対象信号との時間間隔を、各遅延回路の遅延量よりも高い分解能で、かつ、正常にデジタル値に変換できる。
【0022】
さらに、本発明によれば、デジタル値に精度の低いビットが偏在しにくい時間デジタル変換回路及び時間デジタル変換方法を提供することができる。
【0023】
本発明の他の技術的特徴、目的、及び作用効果乃至は利点は、添付した図面を参照して
説明される以下の実施形態により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路の構成の一例を示すブロックダイアグラムである。
図2】本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路のコントローラの構成の一例を示すブロックダイアグラムである。
図3図2のカウンタの構成の一例を示す回路図である。
図4図2の分配部の構成の一例を示す回路図である。
図5図2のエンコーダの構成の一例を示す回路図である。
図6図2のバッファの構成の一例を示す回路図である。
図7】本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路の複数列の遅延チェーンの構成の一例を示す回路図である。
図8】本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路のセレクタの構成の一例を示す回路図である。
図9】比較例の時間デジタル変換回路の各信号のタイミングチャートである。
図10】本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路におけるコントローラの信号のタイミングチャートである。
図11】本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路における1列目の遅延チェーンの各信号のタイミングチャートである。
図12】本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路における2列目の遅延チェーンの各信号のタイミングチャートである。
図13】本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路における3列目の遅延チェーンの各信号のタイミングチャートである。
図14】本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路における4列目の遅延チェーンの各信号のタイミングチャートである。
図15】本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路の各信号の遅延チェーンの各信号のタイミングチャートである。
図16】本発明の他の実施形態に係る時間デジタル変換回路の遅延チェーンの構成の一例を示すブロックダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、以下に明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形(例えば各実施形態を組み合わせる等)して実施することができる。また、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付して表している。図面は模式的なものであり、必ずしも実際の寸法や比率等とは一致しない。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることがある。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路の構成の一例を示すブロックダイアグラムである。同図に示すように、時間デジタル変換回路1は、例えば、複数列のバーニア形の遅延チェーン13と、コントローラ11と、セレクタ15とを備える。時間デジタル変換回路1は、所定周期pのクロック信号と、測定の対象信号とを受け、クロック信号と対象信号との入力タイミングの時間間隔を、デジタル値である出力データOUT[n:0]に変換する。上記構成要素のうち、複数の遅延チェーンは、本発明に係る複数の時間デジタル変換部の一例に相当する。以下、時間デジタル変換回路1として、i+1(iは1以上の整数)列のバーニア形の遅延チェーン13を有する構成例、或いは、i=3の構成例について説明する。本明細書及び図面において、[整数2:整数1]の表記は、整数1から整数2までの(整数1-整数2+1)ビットを表わす。
【0027】
図2は、本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路のコントローラの構成の一例を示すブロックダイアグラムである。コントローラ11は、例えば、複数のバッファ111、カウンタ112、複数の分配部113及びエンコーダ114を有する。複数のバッファ111の個数及び複数の分配部113の個数は、複数の遅延チェーン13の本数と一致する。カウンタ112及び複数の分配部113が、本発明に係る分配回路の一例に相当する。
【0028】
コントローラ11は、対象信号を外部から受け、対象信号を複数のバッファ111を介して複数の遅延チェーン13に出力する。また、コントローラ11はクロック信号を外部から受け、分配部113を介して1つずつ順番にクロック信号を複数の遅延チェーン13に分配する。1列目からi+1列目の遅延チェーン13へ出力される対象信号及び分配されるクロック信号を、対象信号sig0~sigi及びクロック信号ck0~ckiとそれぞれ表わす。
【0029】
複数のバッファ111は、互いに同等の遅延を信号に与える回路である。各バッファ111は、クロック信号がいずれかの分配部113を通過する際に付加される遅延量と同等の遅延を、通過する信号に付加する。これにより、コントローラ11を通過する際の対象信号の遅延及びクロック信号の遅延が同等となり、対象信号とクロック信号との時間間隔がコントローラ11を通過する際に変化することが抑制される。
【0030】
カウンタ112は、クロック信号に同期して、クロック信号の分配先を決めるステート信号s[0]~s[i]をそれぞれ複数の分配部113へ出力する。ステート信号s[0]~s[i]は、例えば1つがハイレベル、他がローレベルであり、クロック信号に同期してハイレベルのステート信号s[0]~s[i]が循環的に変化する。
【0031】
各分配部113は、入力されたステート信号がハイレベル(アサート)であれば、クロック信号を通過させ、入力されたステート信号がローレベル(ネゲート)であれば、クロック信号を遮断する。
【0032】
エンコーダ114は、カウンタ112の出力に用いて、複数の遅延チェーン13の捕捉データD0[n:0]~Di[n:0]のうち、いずれか1つを選択させる選択信号sel[j:0]を生成し、これをセレクタ15に出力する。エンコーダ114は、選択信号sel[j:0]を、カウンタ112の出力に同期して、すなわちクロック信号に同期して出力する。選択信号sel[j:0]は、(i+1)個の捕捉データD0[n:0]~Di[n:0]のいずれか1つを選択可能な(j+1)ビットの信号である。エンコーダ114は、複数の遅延チェーン13のうち、次のクロック信号が分配される遅延チェーン13の出力が、その前のクロック信号に同期して選択されるように、選択信号sel[j:0]を生成する。
【0033】
ここで、コントローラ11の各部の具体的な回路を示す。ただし、コントローラ11の各部は、これらの具体的な回路に制限されない。図3は、図2のカウンタの構成の一例を示す回路図である。図4は、図2の分配部の構成の一例を示す回路図である。図5は、図2のエンコーダの構成の一例を示す回路図である。図6は、図2のバッファの構成の一例を示す回路図である。
【0034】
カウンタ112は、図3に示すように、例えば、i+1個のフリップフロップaを組み合わせた、クロック信号により状態を変化させるステートマシンにより構成される。状態を示すステート信号s[0]~s[i]は、1つがハイレベル、他がローレベルであるように初期状態がセットされる。
【0035】
複数の分配部113は、図4に示すように、例えば、0番目からi番目の複数のAND回路bから構成できる。複数のAND回路bは、複数の遅延チェーン13にそれぞれ対応づけられて設けられている。各AND回路bには、クロック信号、及びステート信号s[0]~s[i]のうちの対応する1つが入力される。さらに、各AND回路bは、対応する遅延チェーン13へクロック信号ck0~ckiを出力する。エンコーダ114は、例えばi=3の場合、図5に示すように、2つのOR回路cから構成できる。2つのOR回路cは、例えば4ビットのステート信号s[0]~s[3]のうちの3ビットを用いて、4(=i+1)通りの選択が可能な2ビットの選択信号sel[0]、sel[1]を生成する。i=3以外の場合でも、エンコーダ114は、論理ゲートを適宜に組み合わせて構成され得る。バッファ111は、図6にも示すが、例えば所定数の論理ゲートを直列接続して構成され得る。バッファ111に含まれる論理ゲートの段数は、例えば、クロック信号がカウンタ112に入力されてからステート信号s[0]~s[i]が更新され、複数の分配部113の出力が切り替わるまでの論理動作の段数と一致するように設定される。
【0036】
図7は、本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路の複数列の遅延チェーンの構成の一例を示す回路図である。先ず、1列目のバーニア形の遅延チェーン13について説明する。
【0037】
遅延チェーン13は、複数の遅延回路eが直列に接続された伝送路131と、複数の遅延回路fが直列に接続されたクロック伝送路132とを備える。伝送路131の入力ノードを0段目の遅延段、入力側からu個目(uは1~nのいずれか)の遅延回路eの出力ノードをu段目の遅延段と定義する。0段目からu段目までの遅延段の総数は、0段目を計数せずにu段と定義する。クロック伝送路132についても同様である。遅延チェーン13は、さらに、0段からn段の遅延段に対応するn+1個のフリップフロップgを含んだフリップフロップ列133を備える。伝送路131には対象信号sig0が伝送され、クロック伝送路132にはクロック信号ck0が伝送される。上記の構成要素のうち、遅延回路fは、本発明に係るクロック遅延回路の一例に相当する。フリップフロップgは、本発明に係る捕捉部の一例に相当する。フリップフロップ列133は、本発明に係る捕捉部群の一例に相当する。
【0038】
伝送路131における各遅延回路eの遅延量τ1と、クロック伝送路132における各遅延回路fの遅延量τ2とは異なる。例えば、τ1=38ps、τ2=28psである。
【0039】
複数のフリップフロップgは、それぞれ伝送路131及びクロック伝送路132の複数の遅延段に対応するように設けられている。各フリップフロップgは、伝送路131の対応する遅延段の信号がデータ端子に入力され、クロック伝送路132の対応する遅延段の信号が制御端子に入力されるように結線される。これにより、フリップフロップgは、対応する遅延段にクロック信号ck0が到達したときに、伝送路131の対応する遅延段の信号レベルを捕捉し、次のクロック信号ck0が入力されるまで、補足した信号レベルの出力を継続する。
【0040】
ここで、1つの遅延チェーン13による時間測定原理を説明する。遅延量τ1>遅延量τ2である場合、対象信号sig0が入力された後のクロック信号ck0が、測定基準となる。遅延量の関係τ1>τ2により、対象信号sig0が伝送路131を進む速度よりも、クロック信号ck0がクロック伝送路132を進む速度の方が速い。そして、対象信号sig0が伝送路131のx段目の遅延段に到達したときに、クロック信号ck0がクロック伝送路132のx段目の遅延段に追いついたとする。この場合、x段目より前では、クロック信号ck0が到達したときには、既に対象信号sig0が到達済みである。また、x段目より後では、クロック信号ck0が到達したときには、まだ対象信号sig0は到達していない。このため、対象信号sig0が、ローレベルからハイレベルに変化する信号であると仮定すると、x段目までのフリップフロップgがハイレベルの信号を捕捉し、x+1段目から後段のフリップフロップgがローレベルの信号を捕捉する。したがって、複数のフリップフロップgの捕捉データD0[n:0]により、対象信号sig0が何段目の遅延段まで進んだときに、クロック信号ck0が追い付いたのかが特定される。クロック信号ck0がx段目の遅延段に到達したタイミングは、クロック信号ck0がクロック伝送路132に入力されたタイミング+x×τ2である。対象信号sig0がx段目の遅延段に到達したタイミングは、対象信号が伝送路131に入力されたタイミング+x×τ1である。これらは同一タイミングと見なせる。これらから、対象信号sig0とクロック信号ck0との入力タイミングの時間間隔[x×(τ1-τ2)]が求められる。xは伝送路131及びクロック伝送路132の遅延段数を意味するので、測定可能な時間間隔の分解能rは(τ1-τ2)である。一例として、τ1=38ps、τ2=28psであれば、分解能rは10psとなり、分解能rは遅延回路e、fの遅延量τ1、τ2よりも小さい。
【0041】
遅延チェーン13の遅延段数nは、クロック周期p内の何れのタイミングに、対象信号sig0が入力された場合でも、クロック信号ck0と対象信号sig0との時間間隔が測定できるように設定される。ここで、クロック周期pとは、分配される前のクロック信号の周期を意味する。遅延段数n×分解能rが測定可能な時間間隔の最大値であるので、遅延段数nはクロック周期p/分解能r以上の整数に設定される。なお、遅延段数n=p/r(整数の場合)、又は、遅延段数n=[p/rの小数点第1位を繰り上げた整数]とすることで、遅延段の冗長を省くことができる。なお、クロック信号は、時間デジタル変換回路1の外部から供給するように構成してもよいし、時間デジタル変換回路1が、このような周期のクロック信号を生成するクロック生成回路を備えていてもよい。
【0042】
複数の遅延チェーン13の個数i+1は、遅延チェーン13にクロック信号ck0が入力されて測定が開始された後、1回の測定時間Tが経過する前に、次に分配されるクロック信号ck0が入力されないように設定される。ここで、1回の測定時間Tは、対象信号sig0が伝送路131に入力されてからn段目の遅延段に到達するまでの時間(n×τ1)と定義される。1回の測定時間Tが経過する前に、次のクロック信号ck0が分配されると、1回の測定結果が確定する前に、次のクロック信号ck0により始端側の値が書き換えられてしまい、正常な結果が得られない場合がある。上記の設定により、このような事態を回避できる。分配されるクロック信号ck0の周期は、遅延チェーン13の個数(i+1)×クロック周期pであるので、個数(i+1)は、T/p以上の整数となる。なお、遅延チェーン13の個数(i+1)は、T/p(整数の場合)、又は、[T/p(非整数の場合)の小数点第1位を繰り上げた整数]とすることで、遅延チェーン13の冗長を省くことができる。
【0043】
或いは、遅延チェーン13の測定時間T’を、クロック信号ck0が分配されてからn段目のフリップフロップgの捕捉が完了するまでの時間と定義して、複数の遅延チェーン13の個数i+1を決定することもできる。この定義では、測定時間T’=n×τ2である。クロック信号ck0の分配周期は、遅延チェーン13の本数をi+1とすれば(i+1)×クロック周期pである。この期間に、遅延チェーン13の測定が完了し、最後の1クロック周期pを捕捉データD[n:0]の出力タイミングに割り当てることができれば、遅延チェーン13は、正常な測定及び正常な捕捉データD[n:0]の出力を周期的に行うことができる。つまり、測定時間T’はクロック信号ck0の分配周期(i+1)×pより1クロック周期p短い時間よりも短ければよい。これらの関係から、遅延チェーン13の個数(i+1)は、1+(T’/p)以上の整数と設定できる。何れの測定時間T、T’の定義を適用した場合でも、遅延チェーン13の必要な本数(i+1)として同じ値が得られる。
【0044】
上述した構成により、1列目の遅延チェーン13は、n+1個のフリップフロップgの捕捉データD0[n:0]を、対象信号sig0とクロック信号ck0との時間間隔を表わすデジタル値として、セレクタ15に出力する。
【0045】
2列目以降の遅延チェーン13は、入力される対象信号sig1~sigi、入力されるクロック信号ck1~cki、及び、出力される捕捉データD1[n:0]~Di[n:0]が、1列目と異なる以外は、1列目の遅延チェーン13と同様に構成される。
【0046】
図8は、本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路のセレクタの構成の一例を示す回路図である。図8は、時間デジタル変換回路1が4列の遅延チェーン13を有する場合(i=3の場合)を示す。セレクタ15は、コントローラ11から送られる選択信号sel[j:0]に応じて、i+1列の遅延チェーン13の捕捉データD0[n:0]~Di[n:0]のいずれか一つを選択し、これを出力データOUT[n:0]として出力する。i=3であれば、セレクタ15は、図8のように3つのマルチプレクサ151を組み合わせて構成できる。3つのマルチプレクサ151は、選択信号sel[j:0]に基づいて、複数の捕捉データD0[n:0]~Di[n:0]を1つずつ順々に選択するように組み合される。
【0047】
セレクタ15は、クロック周期pごと(選択信号sel[j:0]が切り替わるごと)に、複数の捕捉データD0[n:0]~Di[n:0]を1つずつ循環的に選択する。遅延チェーン13の遅延段数n及び遅延チェーン13の個数(i+1)に冗長がない場合、1個の遅延チェーン13において1回の測定が完了してから、次の測定が開始されるまで、1クロック周期しか猶予がない。したがって、セレクタ15は、この猶予期間に、該当する遅延チェーン13の捕捉データが選択されるように制御される。
【0048】
具体的には、クロック信号は、1列目の遅延チェーン13からi+1列目の遅延チェーン13へかけて循環的に分配される。セレクタ15は、この順番で、複数の捕捉データD0[n:0]~Di[n:0]を循環的に選択する。ただし、クロック信号ck0~ckiの分配サイクルと、捕捉データD0[n:0]~Di[n:0]の選択サイクルは、前者の方が1クロック周期分遅れるように設定される。例えば、クロック信号が1列目、2列目、…、i列目、i+1列目の遅延チェーン13へと順次分配される際、セレクタ15は、2列目、3列目、…、i+1列目、1列目の遅延チェーン13から順次捕捉データDx[n:0]を選択するように制御される。
【0049】
<比較例の測定動作>
図9は、比較例の時間デジタル変換回路の各信号のタイミングチャートを示す。先ず、1列のバーニア形の遅延チェーンを有する比較例の時間デジタル変換の動作について説明する。比較例の遅延チェーンは、図7に示した1列の遅延チェーン13と同等の構成であり、以下、図7の遅延チェーン13と同等の構成要素の符号を括弧内に示す。比較例の遅延チェーン(13)においては、対象信号を伝送する伝送路(131)の遅延回路(e)は遅延量τ1=38psを及ぼし、クロック伝送路(132)の遅延回路(f)は遅延量τ2=28psを及ぼし、分解能は、τ1-τ2=10psである。比較例の遅延チェーン(13)は、100段の遅延段を有し、入力されるクロック周期は、一列の遅延チェーン(13)で測定可能な時間間隔の最大値1ns(=遅延段数100×分解能10ps)に設定されている。
【0050】
図9において、sig、sig[1]~sig[100]は、対象信号が伝送される伝送路(131)の0段目の遅延段の信号レベル、1段目の遅延段の信号レベル~100段目の遅延段の信号レベルをそれぞれ示す。ck、ck[1]~ck[100]は、クロック伝送路(132)の0段目の遅延段の信号レベル、1段目の遅延段の信号レベル~100段目の遅延段の信号レベルをそれぞれ示す。D[0]~D[100]は、0段目~100段目のフリップフロップ(g)の出力をそれぞれ示す。図9は各遅延段を通過する同一のクロック信号に同一の番号を付している。
【0051】
図9のsig~sig[100]に示すように、対象信号は各遅延段で遅延量τ1ずつ遅延して伝送される。一方、図9のck、ck[1]~ck[100]に示すように、クロック信号は各遅延段で遅延量τ2ずつ遅延して伝送される。このため、0段目の遅延段と比較して、50段目の遅延段では、対象信号とクロック信号との時間間隔がクロック周期の半分だけ変化している。100段目の遅延段では、対象信号とクロック信号との時間間隔がクロック周期分だけ変化している。
【0052】
各遅延段のフリップフロップ(g)は、対応する遅延段のクロック信号の立ち上りに同期して、伝送路131の対応する遅延段の信号レベルを捕捉し、その後、捕捉した信号レベルを出力する。このため、0段目から100段目のフリップフロップ(g)の出力は、図9のD[0]~D[100]のようになる。
【0053】
このような回路では、例えば2番目のクロック信号で測定された時間間隔の結果は、2番目のクロック信号で捕捉された各フリップフロップ(g)の捕捉データの組み合わせとなる(丸枠j2に示す)。しかしながら、2番目のクロック信号が100段目の遅延段に到達したタイミングt1で、各遅延段のフリップフロップ(g)の出力を見ると、始端側の各遅延段では、後続(3番目、4番目)のクロック信号により捕捉結果が更新されている。更新されている結果を丸枠j3、j4で示す。このため、2番目のクロック信号が100段目の遅延段に到達したタイミングt1で、複数の遅延段のフリップフロップ(g)から一斉に捕捉結果を読み出しても、正常な測定結果が得られない。例えば図9の1列目~3列目の遅延チェーン(13)の捕捉結果は、ハイレベル(H)であるべきところ、ローレベル(L)に更新されている。
【0054】
<実施形態の測定動作>
続いて、実施形態の時間デジタル変換回路1の動作を説明する。ここでは、遅延チェーンが4個(i+1=4)の場合を説明する。図10は、本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路におけるコントローラの信号のタイミングチャートを示す。図11図14は、本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路における1列目~4列目の遅延チェーンの各信号のタイミングチャートを示す。図15は、本発明の一実施形態に係る時間デジタル変換回路の各信号の遅延チェーンの各信号のタイミングチャートを示す。図10図15において、コントローラ11に入力されて各遅延チェーン13に分配される同一のクロック信号は同一番号が付されて識別される。
【0055】
図10に示すように、コントローラ11では、入力されるクロック信号に同期して、カウンタ112のステート信号s[0]~s[3]が切り替わる。また、コントローラ11では、ステート信号s[0]~s[3]に基づき、4つの分配部113でクロック信号が分配され、かつ、エンコーダ114の選択信号sel[0]、sel[1]が生成される。これにより、4つの遅延チェーン13に順にクロック信号ck0~ck3が分配され、セレクタ15が捕捉データD0[100:0]~D3[100:0]を順に選択する(選択先を図10の「select」の項に示す。図10では[100:0]の記載を省略している)。クロック信号ck0~ck3の分配順と、捕捉データD0~D3の選択順とは同じであり、クロック信号ck0~ck3の分配サイクルと、捕捉データD0~D3の選択サイクルは、前者の方が1クロック周期分遅れている。
【0056】
図11の対象信号とクロック信号はコントローラ11への入力タイミングを示している。図11は、複数の遅延チェーン13のうち、1列目の遅延チェーン13の信号を示している。図11において、sig0、sig0[1]~sig0[100]は、伝送路131における0段目の遅延段の信号レベル、1段目の遅延段の信号レベル~100段目の遅延段の信号レベルをそれぞれ示す。ck0、ck0[1]~ck0[100]は、分配されたクロック信号ck0が伝送されるクロック伝送路132の0段目の遅延段の信号レベル、1段目の遅延段の信号レベル~100段目の遅延段の信号レベルをそれぞれ示す。D0[0]~D0[100]は、0段目~100段目のフリップフロップgの出力をそれぞれ示す。
【0057】
1列目の遅延チェーン13では、図9の比較例の動作と異なり、クロック信号ck0が4クロック周期ごとに入力される。このため、1つのクロック信号ck0に基づいて最終の遅延段のフリップフロップgが信号レベルを捕捉(丸枠j11に示す)したタイミングt11において、他の全ての遅延段のフリップフロップgは同一のクロック信号ck0で捕捉した結果を保持している。そして、全フリップフロップgの捕捉データD0[100:0]の値は、最終の遅延段にクロック信号ck0が到達したタイミングt11から、次のクロック信号ck0が分配されるタイミングt12まで、保持される。また、全フリップフロップgの捕捉データD0[100:0]は、同一のクロック信号ck0に基づき伝送路131の各遅延段の信号レベルを捕捉した結果なので、クロック信号ck0と対象信号sig0との時間間隔を正常に表わす。ただし、1列の遅延チェーン13により測定できる時間間隔(遅延段数n×分解能r)は、1クロック周期程度であり、分配されるクロック信号ck0の4クロック周期より短い。したがって、分配されるクロック信号ck0と対象信号sig0との時間間隔が、測定可能な時期間隔以上であれば、捕捉データD0[100:0]は全ビットがローレベル又はハイレベルとなる。
【0058】
2列目~4列目の遅延チェーン13においても、ほぼ同様の動作か得られる。ただし、図11図14に示すように、1列目~4列目の遅延チェーン13に分配されるクロック信号ck0~ck3の入力タイミングは互いに1クロック周期ずつずれる一方、対象信号sig0~sig3の入力タイミングは互いに同一である。このため、何れかの遅延チェーン13では、分配されたクロック信号ckxと対象信号sigx(xは、0~3のいずれか)との時間間隔が1クロック周期より短くなり、捕捉データDx[100:0]に、この時間間隔を表わす値が示される。図示の例では、図13の3列目の遅延チェーン13の捕捉データD2[100:0]にハイレベルのビットとローレベルのビットが含まれ、これによりクロック信号ck2の立ち上りから対象信号sigの立ち上り又は立下りまでの時間間隔が表わされる。
【0059】
そして、図15に示すように、セレクタ15では、クロック信号に同期して、測定が完了されかつ保持された捕捉データD0[100:0]~D3[100:0]が順次選択され、これが時間デジタル変換回路1の出力データOUT[100:0]として出力される。捕捉データD0[100:0]は、0番、4番、8番…のクロック信号ck0の立ち上りと対象信号の立ち上り又は立下りとの時間間隔が1クロック周期内であれば、この時間間隔を表わす。捕捉データD1[100:0]は、1番、5番、9番…のクロック信号ck1の立ち上りと対象信号の立ち上り又は立下りとの時間間隔が1クロック周期内であれば、この時間間隔を表わす。捕捉データD2[100:0]は、2番、6番、10番…のクロック信号ck2の立ち上りと対象信号の立ち上り又は立下りとの時間間隔が1クロック周期内であれば、この時間間隔を表わす。捕捉データD3[100:0]は、3番、7番、11番…のクロック信号ck3の立ち上りと対象信号の立ち上り又は立下りとの時間間隔が1クロック周期内であれば、この時間間隔を表わす。したがって、出力データOUT[100:0]により、クロック信号と対象信号との時間間隔が表わされる。
【0060】
コントローラ11によって実現される複数の遅延チェーン13とセレクタ15との制御方法が、本発明に係る時間デジタル変換方法の一例に相当する。
【0061】
このように、本実施形態に係る時間デジタル変換回路1及び時間デジタル変換方法によれば、クロック信号と対象信号との時間間隔を、遅延回路e,fの遅延量τ1、τ2よりも高い分解能で、かつ、正常にデジタル値に変換できる。さらに、複数の遅延回路e、fの遅延量τ1、τ2には素子製造上の誤差が生じるが、誤差は複数の遅延回路e、fにおいて分散して生じる。このため、対象信号とクロック信号との時間間隔を表わす出力データOUT[n:0]×(i+i)回分の全ビットのうち特定の部分に誤差が偏在するようなことがない。したがって、本実施形態によれば、出力データOUT[n:0]に精度の低いビットが偏在しにくい時間デジタル変換回路1及び時間デジタル変換方法を提供できる。
【0062】
(その他の実施形態)
図16は、本発明の他の実施形態に係る時間デジタル変換回路の遅延チェーンの構成の一例を示すブロックダイアグラムである。本実施形態の時間デジタル変換回路は、図1に示した各遅延チェーン13を、図16に示した時間デジタル変換部23に置換することにより得られる。すなわち、本実施形態の時間デジタル変換回路は、(i+1)個の時間デジタル変換部23を備える。なお、図16は、1列目の時間デジタル変換部23を示している。2列目からi+1列目の時間デジタル変換部23については、それぞれに入力される信号は、対象信号sig1~sigiと、分配されるクロック信号ck1~ckiであり、それぞれから出力されるデータは捕捉データD1[n:0]~Di[n:0]である。
【0063】
続いて、1列目の時間デジタル変換部23について説明する。時間デジタル変換部23は、複数のバーニア形の遅延チェーン231と、複数の遅延チェーン231の各遅延段の出力の多数決をとる複数の多数決回路233とを備える。複数の遅延チェーン231には、対象信号sig0と分配されたクロック信号ck0とが同時に入力される。各遅延チェーン231は、図7の1列の遅延チェーン13と同一の構成であり、すなわち、複数の遅延チェーン231は、伝送路131、クロック伝送路132及びフリップフロップ列133を複数組有する。複数の遅延チェーン231は、ほぼ同様に動作し、複数のフリップフロップ列133の捕捉データD0a[0]~D0a[n]、D0b[0]~D0b[n]、D0c[0]~D0c[n]を出力する。ただし、対象信号sig0とクロック信号ck0との時間間隔が、分解能ごとに区切られる単位時間の間際にある場合が生じ得る。このような場合、複数の遅延回路e、fの遅延量の誤差により、複数列の捕捉データD0a[n:0]、D0b[n:0]、D0c[n:0]に違いが生じることがある。このとき、各多数決回路233が各ビットの多数決をとるので、多数結の決定結果が捕捉データD0[n:0]として出力される。
【0064】
2列目以降の時間デジタル変換部23は、入力される対象信号sig1~sigi、クロック信号ck1~cki、及び、出力される捕捉データD1[n:0]~Di[n:0]が、1列目と異なる以外は、1列目の時間デジタル変換部23と同様に構成される。
【0065】
本実施形態の時間デジタル変換回路は、図1の各遅延チェーン13の動作が、図16の時間デジタル変換部23の動作に変わるだけで、他は図1の回路と同様に動作する。そして、本実施形態の時間デジタル変換回路は、入力された対象信号とクロック信号との時間間隔をデジタル値に変換した出力データOUT[n:0]を出力する。
【0066】
このように、本実施形態の時間デジタル変換回路によれば、1つの時間デジタル変換部23から出力される捕捉データDx[n:0](xは0~iのいずれか)は、複数の遅延チェーン231の捕捉データの各ビットを多数決して得られた値である。したがって、各遅延チェーン231の各遅延回路e、fの遅延量に素子製造上の誤差があっても、これらの誤差が平均化されて捕捉データDx[n:0]が得られる。これにより、本実施形態によれば、出力データOUT[n:0]に精度の低いビットが、より偏在しにくい時間デジタル変換回路及び時間デジタル変換方法を提供できる。
【0067】
上記各実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0068】
例えば、本明細書に開示される方法においては、その結果に矛盾が生じない限り、ステップ、動作又は機能を並行して又は異なる順に実施しても良い。説明されたステップ、動作及び機能は、単なる例として提供されており、ステップ、動作及び機能のうちのいくつかは、発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略でき、また、互いに結合させることで一つのものとしてもよく、また、他のステップ、動作又は機能を追加してもよい。
【0069】
また、本明細書では、さまざまな実施形態が開示されているが、一の実施形態における特定のフィーチャ(技術的事項)を適宜改良しながら、他の実施形態に追加し、又は該他の実施形態における特定のフィーチャと置換することができ、そのような形態も本発明の要旨に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、TOF(Time of Flight)、レーザーレーダ、その他の時間間隔をデジタル値に変換する動作を要する機器の分野に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…時間デジタル変換回路
11…コントローラ
13…バーニア形の遅延チェーン
23…時間デジタル変換部
15…セレクタ
111…バッファ
112…カウンタ
113…分配部
114…エンコーダ
131…伝送路
132…クロック伝送路
133…フリップフロップ列
231…バーニア形の遅延チェーン
233…多数決回路
e,f…遅延回路
g…フリップフロップ(捕捉部)
sig0~sigi…対象信号
ck0~cki…分配されたクロック信号
D0[n:0]~Di[n:0]…捕捉データ
OUT[n:0]…出力データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16