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特許7085388SiC繊維強化SiC複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】SiC繊維強化SiC複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20220609BHJP
   C04B 35/573 20060101ALI20220609BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C04B35/80 600
C04B35/573
C04B35/577
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018067552
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178023
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】川口 章秀
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-247745(JP,A)
【文献】特開2007-015901(JP,A)
【文献】特開2006-052135(JP,A)
【文献】特開平11-035376(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093360(WO,A1)
【文献】特開2013-241327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/80
C04B 35/565-35/577
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC繊維からなる骨材に、水とSiC粒子と黒鉛粒子とからなるスラリーを含浸し、乾燥する第1含浸工程と、
前記第1含浸工程の後に、溶融シリコンを含浸する第2含浸工程と、
を有することを特徴とするSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記スラリーにおける固形分の含有割合は、50~80重量%である請求項1に記載のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記スラリーにおける黒鉛粒子の真密度は、2.05~2.26g/cmである請求項1又は2に記載のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記スラリーにおけるSiC粒子と黒鉛粒子の合計体積に対する黒鉛粒子の体積比率は、下記の式(1)及び式(2)により算出される下記sに対して10%以内である請求項1~3のいずれか一項に記載のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法。
【数1】
【数2】
ρSi:溶融シリコン密度
ρc:黒鉛真密度
u:スラリー含浸前の骨材の気孔率
Vp:スラリー含浸後、溶融シリコン含浸前の骨材の気孔率
s:SiC粒子と黒鉛粒子の和に対する黒鉛粒子の体積比
【請求項5】
前記第1含浸工程における前記スラリーの含浸回数は、1回である請求項1~4のいずれか一項に記載のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記SiC粒子の平均粒子径は、0.1~10μmである請求項1~5のいずれか一項に記載のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記黒鉛粒子の平均粒子径は、0.1~10μmである請求項1~6のいずれか一項に記載のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記スラリーは、分散剤をSiC粒子及び黒鉛粒子の合計100重量部に対して2~5重量部含む請求項1~7のいずれか一項に記載のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC繊維強化SiC複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、耐熱性、化学的安定性、機械的特性等に優れた材料である。このため、これらのセラミック材料は、原子力分野、航空・宇宙分野、発電分野等の過酷な環境下や、ポンプメカニカルシール等の一般的な分野で使用される材料として開発が進められている。
【0003】
しかしながら、焼結体としてのSiCはセラミックス材料であるため、破壊靱性が小さく、その弱点を解消するためにSiC繊維強化SiC複合材料が開発されている。
SiC繊維からなる骨材の間にSiCからなるマトリックスが充填されたSiC繊維強化SiC複合材料は、様々な製造方法がある。
【0004】
CVI法ではSiC繊維の骨材の間に気相成長法でSiCからなるマトリックスを形成する。PIP法では、SiC繊維の骨材の間にSiC前駆体を含浸したのち、焼成し、セラミック化してSiCマトリックスを形成する。MI法では、SiC繊維の隙間に炭素源を含浸したのち、溶融シリコンを含浸し、内部で炭素とシリコンを反応させSiCマトリックスを形成する。
【0005】
特許文献1には、SiC繊維強化SiC複合材料の製造方法の1つであるMI法が記載されている。特許文献1の特許請求の範囲には、 セラミックマトリックス複合材(CMC)物品を形成する方法であって、遊離ケイ素含量を有するセラミックマトリックス材料中にセラミック繊維強化材料を含むセラミックマトリックス複合材基材を溶融含浸によって形成する工程と、基材の少なくとも一部に配置された、遊離ケイ素含量を有しないセラミックマトリックス材料中にセラミック繊維強化材料を含むセラミックマトリックス複合材外側層を化学気相含浸によって形成する工程とを含む方法が記載されている。
【0006】
上記CMC物品の製造方法によれば、外側層を有しないCMC物品の耐クリープ性より大きい耐クリープ性を有するCMC物品をもたらし得る。遊離元素態ケイ素又はケイ素合金を有しないCMC外側層は、CMC基材(遊離ケイ素を含んでもよい)と比較してより高い温度(例えば、ケイ素の融点より高い)に耐えることができ、その結果、外側層を有しないCMC物品のそれより高い温度に耐え得るCMC物品をもたらし得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-185901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のCMC物品では、対クリープ性の小さい内部のCMC物品を、遊離ケイ素を持たない外側層で補強している構造であり、内側層自体の耐熱性を高めるものではない。従って、内側層の耐熱性、強度は不充分であるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑み、簡単な方法で内部まで残留シリコン、未反応炭素あるいは気孔が少なく、耐熱性に優れたSiC繊維強化SiC複合材料が得られるSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法は、SiC繊維からなる骨材に、水とSiC粒子と黒鉛粒子とからなるスラリーを含浸し、乾燥する第1含浸工程と、上記第1含浸工程の後に、溶融シリコンを含浸する第2含浸工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記第1含浸工程で、予め水とSiC粒子と黒鉛粒子とからなるスラリーを含浸しているので、従来の方法よりも効率よくSiC粒子及び黒鉛粒子を気孔内部に含浸することができる。またスラリーには水が用いられており、水は他の溶媒よりもSiC粒子や黒鉛粒子の凝集が起こりにくいので、スラリーの粘度が上昇しにくく、高濃度のSiC粒子と黒鉛粒子のスラリーの含浸に適している。
【0012】
第1含浸工程後の第2含浸工程で、SiC繊維中の残された気孔に高温の溶融シリコンが含浸され、黒鉛粒子と反応し、反応焼結SiCが生成する。第1含浸工程の後に残された気孔が多いと、含浸される溶融シリコンの量が増え、必要とする黒鉛粒子の量が多くなる。さらに得られる反応焼結SiCの量が多くなると反応収縮に伴って基材内部に残留するシリコンの量も増加してしまう。
【0013】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、黒鉛粒子とともにSiC粒子を充填することにより、第1含浸工程後に残された気孔を少なくし、SiCの形成に必要な黒鉛粒子の量を少なくしたので、残留シリコン、残留炭素を少なくすることができる。また、第2含浸工程で溶融シリコンを含浸することにより反応焼結SiCが形成される。このため第1含浸工程で充填できなかった空隙にSiを充填し、SiC化させ緻密なSiC繊維強化SiC複合材料を得ることができる。
【0014】
また、第1含浸工程でSiC粒子が充填されているため、黒鉛粒子が過剰となって未反応の黒鉛粒子が残ることを防止することができる。さらに、炭素質の粒子と比較して真密度の高い黒鉛粒子は結晶化が進行しているので溶融シリコンとの反応が遅く、溶融シリコンが内部まで行き渡ってからゆっくり反応する。このため、表面付近の黒鉛粒子が先にSiC化することによる閉塞が起きにくく、気孔の少ないSiC繊維強化SiC複合材料を得ることができる。
【0015】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記スラリーにおける固形分の含有割合は、50~80重量%であることが望ましい。
【0016】
溶融シリコンを含浸して反応焼結によりSiCを形成するMI法によるSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法においては、完全にシリコンを含浸した場合、スラリーを含浸した第1含浸工程後の骨材中の気孔量がそのまま溶融シリコンの含浸量となる。溶融シリコンの含浸量が多いと、反応に必要な黒鉛粒子の量が増える上に、反応による体積収縮でさらにシリコンがSiC繊維の間に含浸され残留シリコンが多くなる。
【0017】
上記したように、水は他の溶媒よりもSiC粒子の凝集が起こりにくい。また、水は適用できる分散剤が多いため、凝集の起こりにくいものを選択しやすく、溶媒として適している。従って、本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法において、上記スラリーにおける固形分の含有割合が50~80重量%と高い含有割合であっても、スラリーの粘度が上昇しにくく、高い含有割合で、SiC粒子及び黒鉛粒子をSiC繊維の間に含浸させることができる。
【0018】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、固形分の含有割合が50重量%以上と高い含有割合であると、効率よくSiC繊維の間にSiC粒子及び黒鉛粒子を充填させることができる。また、SiC粒子の含有割合が80重量%以下であると、スラリーの粘度が低い状態で維持することができるので、SiC繊維の間にSiC粒子及び黒鉛粒子を充分に充填させることができる。
【0019】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記スラリーにおける黒鉛粒子の真密度は、2.05~2.26g/cmであることが望ましい。
【0020】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法の第2含浸工程では、黒鉛粒子と溶融シリコンとが反応して反応焼結SiCを形成する。溶融シリコンの密度は約2.57g/cmであり、SiCの密度は約3.2g/cmである。一方、黒鉛の密度は、バラツキがあり、最も大きくなる理論値でも2.26g/cmである。従って、SiCは、シリコン、黒鉛のいずれよりも密度が高い。このため、黒鉛粒子と溶融シリコンとの反応によって必ず収縮が起こる。本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記スラリーにおける黒鉛粒子の真密度を2.05~2.26g/cmと高く設定することにより、反応収縮を少なくすることができ、より緻密なSiC繊維強化SiC複合材料を得ることができる。
【0021】
なお、黒鉛結晶では、六角網面とエッジとを比較すると、エッジの方が反応しやすい。黒鉛は真密度が高くなるに従って六角網面が広がり、エッジの比率が小さくなる。このため、真密度が2.05g/cm未満の黒鉛結晶や炭素材料では、溶融シリコンと接触するとすぐに固体のSiCとなるため、気孔を閉塞させ溶融シリコンの浸透を抑制してしまう。真密度が2.05g/cm以上の黒鉛粒子を使用すると、反応収縮を抑制するとともに、ゆっくりと反応するので、溶融シリコンの浸透を妨げにくく、緻密なSiC繊維強化SiC複合材料を得ることができる。
【0022】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記スラリーにおけるSiC粒子と黒鉛粒子の合計体積に対する黒鉛粒子の体積比率は、下記の式(1)及び式(2)により算出される下記sに対して10%以内であることが望ましい。
【数1】
【数2】
ρSi:溶融シリコン密度
ρc:黒鉛真密度
u:スラリー含浸前の骨材の気孔率
Vp:スラリー含浸後、溶融シリコン含浸前の骨材の気孔率
s:SiC粒子と黒鉛粒子の和に対する黒鉛粒子の体積比
【0023】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材の製造方法において、上記スラリーにおけるSiC粒子と黒鉛粒子の合計体積に対する黒鉛粒子の体積比率が、式(1)及び式(2)により算出される上記sに対して10%以内であると、SiC繊維の内部の元々の気孔がSiC粒子と反応焼結SiCでほぼ充填され、反応収縮分のみが溶融シリコンで充填されるようになるため、空隙の少ない緻密なSiC繊維強化SiC複合材料を得ることができる。
【0024】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記第1含浸工程における上記スラリーの含浸回数は、1回であることが望ましい。
【0025】
水とSiC粒子とからなるスラリーを含浸し、乾燥する本発明の第1含浸工程では、SiC粒子及び黒鉛粒子をSiC繊維の間に充填することが主な目的であり、SiC粒子及び黒鉛粒子が充填された状態でSiC繊維の間にSiC粒子及び黒鉛粒子を固定することは難しい。このため、SiC繊維の間に充填されたSiC粒子及び黒鉛粒子の固定は不充分であり、SiC繊維の間から脱落しやすい。従って、2回以上、繰り返し含浸工程を繰り返すと、一旦充填されたSiC粒子及び黒鉛粒子の流出につながってしまう。本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法によれば、スラリーの含浸回数は、1回であるので、効率よくSiC粒子及び黒鉛粒子をSiC繊維の間に充填することができる。
【0026】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記SiC粒子の平均粒子径(直径)は、0.1~10μmであることが望ましい。
【0027】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法において、上記SiC粒子の平均粒子径が0.1μm以上であると、少ない量の水で粘度の低いスラリーを得ることができ、効率よくSiC粒子をSiC繊維の間に充填することができる。また、上記SiC粒子の平均粒子径が10μm以下であると、SiC繊維の間の空隙が狭くても、SiC粒子が空隙の内部に充填されやすい。
【0028】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記黒鉛粒子の平均粒子径(直径)は、0.1~10μmであることが望ましい。
【0029】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法において、上記黒鉛粒子の平均粒子径が0.1μm以上であると、少ない量の水で粘度の低いスラリーを得ることができ、効率よく黒鉛粒子をSiC繊維の間に充填することができる。また、上記黒鉛粒子の平均粒子径が10μm以下であると、SiC繊維の間の空隙が狭くても、黒鉛粒子が空隙の内部に充填されやすい。
【0030】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記スラリーは、分散剤をSiC粒子及び黒鉛粒子の合計100重量部に対して2~5重量部含むことが望ましい。
【0031】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法において、上記スラリーが分散剤をSiC粒子及び黒鉛粒子の合計100重量部に対して2重量部以上含むと、SiC粒子を充分に分散させ、スラリーの流動性を確保することができる。一方、分散剤は少量で性能を発現するので、過剰に入れてもスラリーの粘度はあまり影響を受けなくなるが、本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法において、分散剤の配合量をSiC粒子及び黒鉛粒子の合計100重量部に対して5重量%以下とすることにより、少量でスラリーの粘度を充分に低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1(a)は、本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法において、板形状の骨材を作製する際に用いる固定治具の一例を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、上記固定治具の斜視図である。
図2図2(A)~(C)は、炭素粒子と最初に含浸された溶融シリコンのモル数が等しく、気孔に溶融シリコンが完全に含浸した場合の変化を示す帯グラフである。
図3図3(A)~(C)は、炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より多く、気孔に溶融シリコンが完全に含浸した場合の変化を示す帯グラフである。
図4図4(A)~(C)は、炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より少なく、気孔に溶融シリコンが完全に含浸した場合の変化を示す帯グラフである。
図5図5(A)~(C)は、炭素粒子と最初に含浸された溶融シリコンのモル数が等しく、気孔への溶融シリコンの含浸が不充分な場合の変化を示す帯グラフである。
図6図6(A)~(C)は、炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より多く、気孔への溶融シリコンの含浸が不充分な場合の変化を示す帯グラフである。
図7図7(A)~(C)は、炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より少なく、気孔への溶融シリコンの含浸が不充分な場合の変化を示す帯グラフである。
【0033】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法について詳述する。
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法は、SiC繊維からなる骨材に、水とSiC粒子と黒鉛粒子とからなるスラリーを含浸し、乾燥する第1含浸工程と、上記第1含浸工程の後に、溶融シリコンを含浸する第2含浸工程と、を有することを特徴とする。
【0034】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記第1含浸工程で、予め水とSiC粒子と黒鉛粒子とからなるスラリーを含浸しているので、従来の方法よりも効率よくSiC及び黒鉛粒子を気孔内部に含浸することができる。またスラリーには水が用いられており、水は他の溶媒よりもSiC粒子や黒鉛粒子の凝集が起こりにくいので、スラリーの粘度が上昇しにくく、高濃度のSiC粒子と黒鉛粒子のスラリーの含浸に適している。
【0035】
第1含浸工程後の第2含浸工程で、SiC繊維中の残された気孔に高温の溶融シリコンが含浸され、黒鉛粒子と反応し、反応焼結SiCが生成する。第1含浸工程の後に残された気孔が多いと、含浸される溶融シリコンの量が増え、必要とする黒鉛粒子の量が多くなる。さらに、得られる反応焼結SiCの量が多くなると反応収縮に伴って基材内部に残留するシリコンの量も増加してしまう。
【0036】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、黒鉛粒子とともにSiC粒子を充填することにより、第1含浸工程後に残された気孔を少なくし、SiCの形成に必要な黒鉛粒子の量を少なくしたので、残留シリコン、残留炭素を少なくすることができる。また、第2含浸工程で溶融シリコンを含浸することにより反応焼結SiCが形成される。このため第1含浸工程で充填できなかった空隙にSiを充填し、SiC化させ緻密なSiC繊維強化SiC複合材料を得ることができる。
【0037】
また、第1含浸工程でSiC粒子が充填されているため、黒鉛粒子が過剰となって未反応の黒鉛粒子が残ることを防止することができる。さらに、炭素質の粒子と比較して真密度の高い黒鉛粒子は結晶化が進行しているので溶融シリコンとの反応が遅く、溶融シリコンが内部まで行き渡ってからゆっくり反応する。このため、表面付近の黒鉛粒子が先にSiC化することによる閉塞が起きにくく、気孔の少ないSiC繊維強化SiC複合材料を得ることができる。
【0038】
骨材としてSiC繊維を用い、その隙間に炭素源である炭素(黒鉛)粒子とSiC粒子を、スラリーを介して予め充填した後、高温の溶融シリコンを含浸し、反応焼結SiCを形成するSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法について下記の6つのパターンを例示して説明する。
【0039】
具体的には、上記製造方法で、第1含浸工程後、及び、第2含浸工程後のSiC繊維からなる骨材中に存在する気孔、充填SiC粒子、反応焼結SiC、未反応炭素、残留シリコンの量等を検討する。
気孔:骨材中に何も充填されていない空間を意味する。
未反応炭素:充填された炭素粒子で溶融シリコンと反応せず、残留した炭素。
残留シリコン:充填された炭素粒子と反応せず、残留したシリコン。
【0040】
各パターンにおいて、SiC繊維強化SiC複合材料の製造工程の進行度合いとSiC繊維からなる骨材全体の容積に対して各部材の占める容積割合を帯グラフ(A)、(B)及び(C)、で示している。
すなわち、図2(A)~(C)は、炭素粒子と最初に含浸された溶融シリコンのモル数が等しく、気孔に溶融シリコンが完全に含浸された場合の変化を示す帯グラフである。
図3(A)~(C)は、炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より多く、気孔に溶融シリコンが完全に含浸された場合の変化を示す帯グラフである。
図4(A)~(C)は、炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より少なく、気孔に溶融シリコンが完全に含浸された場合の変化を示す帯グラフである。
図5(A)~(C)は、炭素粒子と最初に含浸された溶融シリコンのモル数が等しく、気孔への溶融シリコンの含浸が不充分な場合の変化を示す帯グラフである。
図6(A)~(C)は、炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より多く、気孔への溶融シリコンの含浸が不充分な場合の変化を示す帯グラフである。
図7(A)~(C)は、炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より少なく、気孔への溶融シリコンの含浸が不充分な場合の変化を示す帯グラフである。
【0041】
(A):SiC繊維からなる骨材に、SiC粒子と炭素粒子からなるスラリーを充填した後の各部材の容積割合
(B):溶融シリコン含浸後、反応焼結発生直前の各部材の容積割合
(C):反応焼結後の反応焼結による体積の収縮を考慮した各部材の容積割合
なお、「最初に含浸された」とは反応焼結SiCの生成による反応収縮前に含浸されたことを示す。
【0042】
上記グラフ及び下記する説明において使用する記号を下記の表1にまとめる。
【0043】
【表1】
【0044】
(パターン1)炭素粒子と最初に含浸された溶融シリコンのモル数が等しく、気孔に溶融シリコンが完全に含浸された場合(図2参照)
(A)
SiC繊維Vfの隙間に炭素粒子VcとSiC粒子Vsicとが充填されるが、炭素粒子とSiC粒子とが充填されていない部分には、気孔Vpが形成される。
(B)
気孔Vpに溶融シリコンが完全に充填され、Vpが溶融シリコンVsiに置き換わる。
(Vp=Vsi)
(C)
反応焼結によりVrsicが生成し、溶融シリコンVsi及び炭素粒子Vcは完全に消費されるが、生成したVrsicは、VsiとVcの合計体積よりも小さく、収縮しているので、形成された隙間に新たに溶融シリコンVsi2が充填される。
【0045】
(パターン1)では、SiC繊維強化SiC複合材料は、最終的に、Vf+Vsic+Vrsic+Vsi2となり、骨材中にはSiCのほかにシリコンのみ残留し、気孔は形成されない。
【0046】
(パターン2)炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より多く、気孔に溶融シリコンが完全に含浸された場合(図3参照)
(A)
SiC繊維Vfの隙間に炭素粒子VcとSiC粒子Vsicとが充填されるが、炭素粒子とSiC粒子とが充填されていない部分には、気孔Vpが形成される。パターン1と比較してVcの量が多い。
(B)
気孔Vpに溶融シリコンが完全に充填され、Vpが溶融シリコンVsiに置き換わる。
(Vp=Vsi)
(C)
反応焼結によりVrsicが生成し、余剰な炭素粒子Vc2が残留する。生成したVrsicは、VsiとVcの合計体積よりも小さく、収縮しているので、形成された隙間に新たに溶融シリコンVsi2が充填される。
【0047】
(パターン2)では、SiC繊維強化SiC複合材料は、最終的に、Vf+Vsic+Vrsic+Vc2+Vsi2となり、骨材中にはSiCのほかに、炭素Vc2とシリコンVsi2が残留し、気孔は形成されない。
【0048】
(パターン3)炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より少なく、気孔に溶融シリコンが完全に含浸された場合(図4参照)
(A)
SiC繊維Vfの隙間に炭素粒子VcとSiC粒子Vsicとが充填されるが、炭素粒子とSiC粒子とが充填されていない部分には、気孔Vpが形成される。パターン1と比較してVcの量が少ない。
(B)
気孔Vpに溶融シリコンが完全に充填され、Vpが溶融シリコンVsiに置き換わる。
(Vp=Vsi)
(C)
反応焼結によりVrsicが生成し、余剰なシリコンVsi3が残留する。生成したVrsicは、VsiとVcの合計体積よりも小さく、収縮しているので、形成された隙間に新たに溶融シリコンVsi2が充填される。
【0049】
(パターン3)では、SiC繊維強化SiC複合材料は、最終的に、Vf+Vsic+Vrsic+Vsi2+Vsi3となり、骨材中にはSiCのほかに、シリコン(Vsi2、Vsi3)が残留することとなり、気孔は形成されない。なお、Vsi2は、反応収縮に伴って後から含浸された溶融シリコンであり、Vsi3は反応に関与せず残留した最初に含浸された溶融シリコンである。
【0050】
(パターン4)炭素粒子と最初に含浸された溶融シリコンのモル数が等しいが、気孔への溶融シリコンの含浸が不充分な場合(図5参照)
(A)
SiC繊維Vfの隙間に炭素粒子VcとSiC粒子Vsicとが充填されるが、炭素粒子とSiC粒子とが充填されていない部分には、気孔Vpが形成される。
(B)
気孔Vpに溶融シリコンが充填されるが、Vpに完全に充填されず、Vsiのほかに気孔Vp2が残留する。(Vp=Vsi+Vp2)
(C)
反応焼結によりVrsicが生成し、溶融シリコンVsi及び炭素粒子Vcは完全に消費される。この時点でVsiとVcは等モルである。生成したVrsicは、VsiとVcの合計体積よりも小さく、収縮しているので、形成された隙間に新たに溶融シリコンVsi2が充填されるが、気孔Vp2が残留する。
【0051】
(パターン4)では、SiC繊維強化SiC複合材料は、最終的に、Vf+Vsic+Vrsic+Vsi2+Vp2となり、骨材中にはSiCのほかに、シリコン(Vsi2)及び気孔Vp2が残留することとなる。
【0052】
(パターン5)炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より多く、気孔への溶融シリコンの含浸が不充分な場合(図6参照)
(A)
SiC繊維Vfの隙間に炭素粒子VcとSiC粒子Vsicとが充填されるが、炭素粒子とSiC粒子とが充填されていない部分には、気孔Vpが形成される。パターン4と比較してVcの量は多い。
(B)
気孔Vpに溶融シリコンが充填されるが、Vpに完全に充填されず、Vsiのほかに気孔Vp2が残留する。(Vp=Vsi+Vp2)
(C)
反応焼結によりVrsicが生成し、余剰な炭素粒子Vc2が残留する。生成したVrsicは、VsiとVcの合計体積よりも小さく、収縮しているので、形成された隙間に新たに溶融シリコンVsi2が充填されるが、気孔Vp2が残留する。
【0053】
(パターン5)では、SiC繊維強化SiC複合材料は、最終的に、Vf+Vsic+Vrsic+Vc2+Vsi2+Vp2となり、骨材中にはSiCのほかに、炭素粒子(Vc2)、シリコン(Vsi2)及び気孔(Vp2)が残留することとなる。
【0054】
(パターン6)炭素粒子の方が最初に含浸された溶融シリコンのモル数より少なく、気孔への溶融シリコンの含浸が不充分な場合(図7参照)
(A)
SiC繊維Vfの隙間に炭素粒子VcとSiC粒子Vsicとが充填されるが、炭素粒子とSiC粒子とが充填されていない部分には、気孔Vpが形成される。パターン4と比較してVcの量は少ない。
(B)
気孔Vpに溶融シリコンが充填されるが、Vpに完全に充填されず、Vsiのほかに気孔Vp2が残留する。(Vp=Vsi+Vp2)
(C)
反応焼結によりVrsicが生成し、余剰なシリコンVsi3が残留する。生成したVrsicは、VsiとVcの合計体積よりも小さく、収縮しているので、形成された隙間に新たに溶融シリコンVsi2が充填されるが、気孔Vp2が残留する。
【0055】
(パターン6)では、SiC繊維強化SiC複合材料は、最終的に、Vf+Vsic+Vrsic+Vsi2+Vsi3+Vp2となり、骨材中にはSiCのほかに、シリコン(Vsi2、Vsi3)及び気孔(Vp2)が残留することとなる。なお、Vsi2は、反応収縮に伴って後から含浸された溶融シリコンであり、Vsi3は反応に関与せず残留した最初に含浸された溶融シリコンである。
【0056】
上記した6つの製造条件のパターンにより得られたSiC繊維強化SiC複合材料を各部材や気孔を下記の表1にまとめている。
【0057】
【表2】
【0058】
ここで、1~6のいずれのパターン(パターン1~6)であっても、反応焼結によりSiCが生成すると体積収縮が生じ、体積が収縮した部分に溶融シリコンが侵入し、Si(Vsi2)が残る。
また、炭素(黒鉛)が過剰な場合(パターン2、5)、生成した反応焼結SiCは流動性がないので、残留炭素と収縮により侵入したSiとは、反応しにくく、残留シリコン(Vsi2)と、炭素粒子(Vc2)がともに残留する。
シリコンが過剰の場合(パターン3、6)、反応焼結後に侵入したSi(Vsi2)と、元々過剰であったSi(Vsi3)が残留する。
さらに、パターン4~6では、生成した反応焼結SiCによる封止の効果のため骨材の中心部などに溶融シリコンが到達せず、気孔が残留してしまう。
【0059】
上記表1より明らかなように、パターン1が最も望ましく、SiCのほかには、反応焼結により体積が収縮した部分に充填されたシリコンが存在するのみである。気孔が残らないで、耐熱性に優れたSiC繊維強化SiC複合材料となる。
【0060】
上記のような理想的なSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法について、パターン1をもとにさらに考察を進める。
【0061】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記スラリーにおけるSiC粒子と黒鉛粒子の合計体積に対する黒鉛粒子の体積比率は、下記の式(1)及び式(2)により算出される下記sに対して10%以内であることが望ましい。
【数3】
【数4】
ρSi:溶融シリコン密度
ρc:黒鉛真密度
u:スラリー含浸前の骨材の気孔率
Vp:スラリー含浸後、溶融シリコン含浸前の骨材の気孔率
s:SiC粒子と黒鉛粒子の和に対する黒鉛粒子の体積比
【0062】
以下で説明する記号は、表1に示した通りである。
【0063】
【表3】
【0064】
まず、計算を簡略化するため、スラリー含浸後のSiC繊維及びSiC粒子以外の容積比tを表3の式(3)と定義し、スラリー含浸後のSiC以外の容積(気孔+黒鉛粒子)に占める黒鉛粒子の体積比kを表3の式(4)と定義する。
【0065】
シリコンを溶融させた際の黒鉛粒子と溶融シリコンのモル数が等しいので、表3の式(5)が成立する。気孔は、溶融シリコンに完全に置換されるので、表3の式(6)が成立し、式(3)、式(4)及び式(6)を用いて、黒鉛粒子及びシリコン粒子の容積比(Vc、Vsi)を求めると、式(7)及び式(8)が得られる。
【0066】
式(5)を変形すると、式(9)となる。式(7)、式(8)、及び(9)を組み合わせると、特許請求の範囲に記載の式(1)が得られる。
【0067】
【表4】
【0068】
黒鉛粒子とSiC粒子の比について検討する。
スラリー含浸前の気孔は、スラリー含浸後に気孔となるVpと充填された黒鉛粒子の容積比Vcと充填されるSiC粒子の容積比率Vsicの合計であり、合計の気孔率uは、表4の式(10)で表される。VP+VC+VSiC+Vf=1であるので、式(10)は、式(11)のように簡略化される。
スラリー中の黒鉛粒子とSiC粒子に対する黒鉛粒子の容積比sは、式(12)で定義される。
【0069】
ここで、式(7)及び式(8)から、表4の式(13)が導かれる。
式(11)を変形し、式(13)を代入すると、式(14)となる。
さらに、式(12)式に式(13)、式(14)を代入すると、特許請求の範囲に記載の式(2)が得られ、SiC粒子と黒鉛粒子の和に対する黒鉛粒子の体積比(理想値)sを決めることができ、SiC粒子と黒鉛粒子の合計体積に対する黒鉛粒子の体積比率を、sに対して10%以内とすることにより、緻密で、耐熱性、機械的強度に優れたSiC繊維強化SiC複合材料を製造することができる。
【0070】
以上の数値を決めることにより、スラリー中の黒鉛粒子の適正容積比を設定することができる。なお、Vpについては、スラリーに含まれる黒鉛粒子、SiC粒子の体積密度とスラリー含浸前の気孔率から算出することができる。
【0071】
このときの残留シリコンVsi2の容量比は、式(15)で表すことができ、式(15)に式(1)のk、式(8)を変形して得られたtを代入すると、式(16)となる。式(16)にもう一度kを代入すると、スラリー含浸後、溶融シリコン含浸前の骨材の気孔率(Vp)と、黒鉛粒子の真密度(ρc)、溶融シリコンの密度(ρsi)、SiCの密度(ρsic)のみで決定される理想的な条件での残留シリコンVsi2の容量比が算出される[式(17)]。
【0072】
以下、本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法の各工程における製造条件等について説明する。
(1)第1含浸工程
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法における第1含浸工程では、SiC繊維からなる骨材に、水とSiC粒子と黒鉛粒子とからなるスラリーを含浸し、乾燥する。
【0073】
SiC繊維からなる骨材の形態は特に限定されず、例えば、クロス、抄造体、フィラメントワインディング体、ブレーディング体などが挙げられる。
【0074】
クロスは、セラミック繊維を束ねたストランドを用いて製織される。抄造体は、セラミック繊維の短繊維、長繊維などを用いて製造される。フィラメントワインディング体は、セラミック繊維を束ねたストランドをマンドレルに巻回して形成される。ブレーディング体は、互いに対向する螺旋方向にストランドを編んで円筒形状の骨材が形成される。
【0075】
1本のストランドに用いられるセラミック繊維の本数は特に限定されないが、例えば100~5000本である。
【0076】
SiC繊維を用いて所定の形状の骨材を作製する方法は特に限定されるものではないが、例えば、クロス、抄造体等を重ねて所定の厚さの板状体を作製する際には、クロス等を複数枚重ねた後、黒鉛製の板材等の固定治具等を用いて両側から把持し、CVI法等を用いてSiCを布状体の間等に堆積させ、複数枚の布状体を接着し、所定の厚さを有する板状の骨材とする方法を採用することができる。
【0077】
図1(a)は、本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法において、板形状の骨材を作製する際に用いる固定治具の一例を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、上記固定治具の斜視図である。
【0078】
図1(a)及び図1(b)に示す固定治具1は、上面側部材11及び下面側部材12からなる。上面側部材11と下面側部材12との間に積層布状体10が挟まれることにより、積層布状体10が固定治具1で把持されている。
【0079】
上面側部材11は、積層布状体10の上面側に配置される支持部材である。
上面側部材11は黒鉛からなる平板であり、積層布状体10と接する側の第1主面11aと、第1主面11aと反対側の第2主面11bとを有している。上面側部材11は、第1主面11aから第2主面11bまで貫通する複数個の貫通孔13を有している。
【0080】
下面側部材12は、上記積層布状体10の下面側に配置される支持部材である。
下面側部材12も黒鉛製の平板であり、積層布状体10と接する側の第1主面12aと、第1主面12aと反対側の第2主面12bとを有している。下面側部材12は、第1主面12aから第2主面12bまで貫通する複数個の貫通孔14を有している。
【0081】
図1には示されていないが、上面側部材11及び下面側部材12は、ネジ、ボルト、ナット等の固定部材によって互いに固定される。
【0082】
図1では、上面側部材11が鉛直上方、下面側部材12が鉛直下方に配置されているが、上面側部材11と下面側部材12との間に積層布状体10が挟まれる限り、その方向は特に限定されない。
【0083】
上記のように積層布状体を固定治具で把持した後、CVD炉に入れ、積層された布状体の間にSiC層をCVI法で形成し、複数枚の布状体を接着し、所定の厚さを有する平板状の骨材とする。固定治具はメッシュ状の貫通孔を有しているので、複数枚の布状体の間に原料ガスが届き、固定治具を外すと複数枚の布状体が接着された平板状の骨材となる。
【0084】
骨材の形状は、平板状に限定されず、目的とする骨材の形状に合わせて、固定治具の把持する部分(積層布状体等と接触する部分)の形状を変えることにより、所望の形状の骨材を形成することができる。
当然ながら、特に上記のような準備をしなくても、SiC繊維からなる骨材が所定の形状を有する場合には、そのまま骨材として使用することができる。
【0085】
次に、上記のようにして準備した所定形状の骨材に、水とSiC粒子と黒鉛粒子とからなるスラリーを含浸する。
上記スラリーにおける固形分の含有割合は、50~80重量%であることが望ましい。
【0086】
水は他の溶媒よりもSiC粒子の凝集が起こりにくいので、スラリーの粘度が上昇しにくく、このような高い含有割合であっても、スラリー中のSiC粒子及び黒鉛粒子を良好にSiC繊維の間に充填することができる。
【0087】
水とSiC粒子とからなるスラリーを含浸し、乾燥する第1含浸工程では、SiC粒子及び黒鉛粒子をSiC繊維の間に充填することが主な目的であり、SiC粒子及び黒鉛粒子が充填された状態でSiC繊維の間にSiC粒子及び黒鉛粒子を固定することは難しい。このため、SiC繊維の間に充填されたSiC粒子及び黒鉛粒子の固定は不充分であり、SiC繊維の間から脱落しやすい。従って、2回以上、繰り返し含浸工程を繰り返すと、一旦充填されたSiC粒子及び黒鉛粒子の流出につながってしまう。本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法においてスラリーの含浸回数を1回とすると、効率よくSiC粒子及び黒鉛粒子をSiC繊維の間に充填することができる。
【0088】
上記第1含浸工程におけるSiC粒子の平均粒子径は、0.1~10μmであることが望ましい。
SiC粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、少ない量の水で粘度の低いスラリーを得ることができ、効率よくSiC粒子をSiC繊維の間に充填することができる。また、小さな空隙であっても、SiC粒子がSiC繊維の間に充填されやすい。
【0089】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記黒鉛粒子の平均粒子径は、0.1~10μmであることが望ましい。
【0090】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法において、上記黒鉛粒子の平均粒子径が0.1μm以上であると、少ない量の水で粘度の低いスラリーを得ることができ、効率よく黒鉛粒子をSiC繊維の間に充填することができる。また、上記黒鉛粒子の平均粒子径が10μm以下であると、SiC繊維の間の空隙が狭くても、黒鉛粒子が空隙の内部に充填されやすい。
【0091】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法では、上記スラリーは、分散剤をSiC粒子及び黒鉛粒子の合計100重量部に対して2~5重量部含むことが望ましい。
【0092】
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法において、上記スラリーが分散剤をSiC粒子及び黒鉛粒子の合計100重量部に対して2重量部以上含むと、SiC粒子を充分に分散させ流動性を確保することができる。一方、分散剤は少量で性能を発現するので、過剰に入れてもスラリーの粘度はあまり影響を受けなくなるが、本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法において、SiC粒子及び黒鉛粒子の合計100重量部に対して5重量%以下とすることにより、少量でスラリーの粘度を充分に低下させることができる。
【0093】
上記分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリリン酸アミノアルコール、縮合ナフタレンスルホン酸アンモニウム、ポリエチレングリコール等のほかポリウレタン系、アクリル系分散剤などが挙げられる。
【0094】
上記第1含浸工程における含浸の方法としては、ディップ、吹き付け、塗布、コーター、真空加圧含浸等の方法が挙げられるが、いずれの方法であってもよい。
上記真空加圧含浸法では、まず、水とSiC粒子と黒鉛粒子とからなるスラリーが投入された容器中のスラリーにSiC繊維からなる骨材を浸漬する。続いて、骨材が浸漬された容器を圧力容器に搬入し、一旦真空状態にし、SiC繊維等の内部に存在する気体を排除した後、圧力を印加してSiC繊維の間やその表面にSiC粒子を充填する。
【0095】
その後、内部やその表面にSiC粒子及び黒鉛を含浸させた骨材を、例えば60~120℃、0.5~3時間乾燥させ、水分を除去する。
【0096】
(2)第2含浸工程
本発明のSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法における第2含浸工程では、上記第1含浸工程の後に、高温の溶融シリコンを含浸する。具体的には、溶融シリコン中に第1含浸工程を経て、黒鉛粒子とSiC粒子が充填されたSiC繊維からなる骨材を浸漬する。このときの溶融シリコンの温度は、1420~1500℃が好ましい。溶融シリコンがSiC繊維の間に侵入すると、充填された黒鉛粒子と溶融シリコンが反応し、反応焼結SiCが生成する。
【0097】
反応焼結により生成した反応焼結SiCは、気孔と黒鉛粒子の合計容量よりも小さくなり、収縮するので、収縮により形成される空間に溶融シリコンがさらに侵入し、SiC繊維強化SiC複合材料が製造される。上記工程においては、内部に充填された黒鉛粒子が完全に消費され、しかも、反応後の収縮により形成される空間に侵入するシリコンの量ができるだけ、少ないように設定することにより、緻密で耐熱性、機械的強度の高いSiC繊維強化SiC複合材料を得ることができる。
【0098】
(実施例)
以下に、本発明をより具体的に説明する具体例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)
SiC繊維を用いた平織りのクロスを準備した。SiC繊維からなるクロスは、宇部興産株式会社製チラノSAを使用した。SiC繊維の太さは、10μmで、繊維束のフィラメント数は800本であった。クロスの状態でCVD炉に搬入し、熱分解炭素、CVD-SiC層をSiC繊維の表面にコーティングした。SiC繊維の表面に形成された熱分解炭素層は、後工程で形成されるSiCからなるマトリックスと、SiC繊維とが一体化することを防止する役割を果たす。得られた熱分解炭素層の厚さは 420nmであった。
具体的には平織りのクロスを7枚積層し、図1(a)及び(b)に示した固定治具を用い、上面側部材及び下面側部材の間に積層されたクロスを把持した後、CVD炉に入れ、CVI法により積層された布状体の間に熱分解炭素層、SiC層の順に形成し、複数枚の布状体を接着し、骨材とした。こうして得られた骨材の気孔率は、70%であった。
【0100】
次に得られた骨材に第1含浸工程で炭素(粒子)と、SiC粒子とからなるスラリーを含浸し(気孔率10%)、さらに第2含浸工程で溶融シリコンを含浸することを想定してシミュレーションを行った。
【0101】
(第1含浸工程)
上記の方法により準備された骨材にSiC粒子と黒鉛粒子と水とからなるスラリーを含浸する。スラリーは、水と、黒鉛粒子(真密度2.10g/cm)と、SiC粒子(真密度3.20g/cm)とからなる。溶融シリコンの真密度は2.57g/cmである。
以上の条件をもとに、最も残留シリコンの少なくなるときのスラリーのSiC粒子と黒鉛粒子の和に占める黒鉛粒子の体積比(s=0.0874)、残留シリコンの体積比(Vsi2=0.03772)が得られた。(表5)
【0102】
また、第2含浸工程を想定し、溶融シリコンの含浸性を確認するために水、黒鉛粒子(日本カーボン製 ニカビーズ 平均粒径4μm)、SiC粒子(Superior Graphite社製 β-SiC 平均粒径0・35μm)のスラリーを乾燥させた固形物に溶融シリコンを含浸させ検証試験を行った。(検証試験1)
その際の混合比は、炭素(黒鉛)粒子:SiC粒子=1:1(vol)、含浸条件は、1450℃、1時間、0.1torr以下の真空下で実施した。(表6)
【0103】
(比較例1)
本比較例1では、実施例の黒鉛粒子に代えて炭素粒子(Cancarb社製カーボンブラックN991:真密度1.84)を用いて同様にシミュレーション、検証試験を行った。
以上の条件をもとに、最も残留シリコンの少なくなるときのスラリーのSiC粒子と黒鉛粒子の和に占める黒鉛粒子の体積比(s=0.0998)、残留シリコンの体積比(Vsi2=0.04513)が得られた。その条件を表5に示す。
【0104】
また、第2含浸工程を想定し、溶融シリコンの含浸性を確認するために水、炭素粒子(Cancarb社製カーボンブラックN991:平均粒径0.28μm)、SiC粒子(Superior Graphite社製 β-SiC 平均粒径0・35μm)、の固形物に溶融シリコンを含浸させ検証試験を行った。(検証試験2)
その際の混合比は、炭素粒子:SiC粒子=1:1(vol)、含浸条件は、1450℃、1時間、0.1torr以下の真空下で実施した。(表6)
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
実施例1と比較例1とシミュレーションの数値を比較して、実施例の方が効率よく残留シリコンが減少していることが確認された。
また、検証試験で得られた試料の断面を比較し、黒鉛粒子を用いた検証試験1では、均一に溶融シリコンが含浸されていたのに対し、炭素粒子(カーボンブラック)を用いた検証試験2では、溶融シリコンが含浸されると速やかにSiC化したためか炭素の凝集体が確認され、溶融シリコンが均一に含浸されていなかったことが確認された。
【0108】
以上より、SiC繊維からなる骨材に、水とSiC粒子と黒鉛粒子とからなるスラリーを含浸し、乾燥する第1含浸工程と、上記第1含浸工程の後に、溶融シリコンを含浸する第2含浸工程と、を有するSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法によって、気孔が少なく残留シリコン、残留炭素の少ないSiC繊維強化SiC複合材料の製造方法が得られると考えられる。
【符号の説明】
【0109】
1 固定治具
10 積層布状体
11 上面側部材
11a 上面側部材の第1主面
11b 上面側部材の第2主面
12 下面側部材
12a 下面側部材の第1主面
12b 下面側部材の第2主面
13,14 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7