(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】圧延接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/40 20060101AFI20220609BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20220609BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20220609BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20220609BHJP
B21B 47/04 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
B21B1/40
B32B15/04 Z
B32B7/06
B21B3/00 L
B21B47/04
(21)【出願番号】P 2018120889
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018047241
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕介
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-070490(JP,A)
【文献】特開2002-232096(JP,A)
【文献】国際公開第2010/055612(WO,A1)
【文献】特開2000-117319(JP,A)
【文献】特開2014-223657(JP,A)
【文献】特開2002-127298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-3/02
B32B 15/04
B23K 20/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3層以上が積層した
キャリア層付き圧延接合体であって、
剥離可能なキャリア層、極薄金属層及び金属箔を含み、前記極薄金属層の厚みが0.5μm以上20μm以下であ
り、
前記剥離可能なキャリア層と前記金属箔とは接触せず、前記剥離可能なキャリア層、前記極薄金属層及び前記金属箔がこの順番で積層し、
前記剥離可能なキャリア層と前記極薄金属層とのピール強度が、0.1N/20mm以上1N/20mm未満である
キャリア層付き圧延接合体。
【請求項2】
前記極薄金属層と前記金属箔との間に、金属を含む中間層を1層以上有する請求項1に記載の
キャリア層付き圧延接合体。
【請求項3】
前記極薄金属層と前記金属箔のピール強度が、前記キャリア層と前記極薄金属層のキャリアピール強度よりも大きい請求項1又は2に記載の
キャリア層付き圧延接合体。
【請求項4】
少なくとも4層以上が積層した
キャリア層付き圧延接合体であって、
剥離可能な第1のキャリア層、第1の極薄金属層、第2の極薄金属層及び剥離可能な第2のキャリア層を含み、前記極薄金属層の厚みが0.5μm以上20μm以下であ
り、
前記剥離可能な第1のキャリア層と前記極薄金属層とのピール強度、及び前記剥離可能な第2のキャリア層と前記第2の極薄金属層とのピール強度が、0.1N/20mm以上1N/20mm未満である
キャリア層付き圧延接合体。
【請求項5】
前記極薄金属層が、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、スズ、クロム、金、銀、白金、コバルト及びチタン並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の層である請求項1~4のいずれか1項に記載の
キャリア層付き圧延接合体。
【請求項6】
前記金属箔が、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、マグネシウム、銀、金及び白金並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の箔である請求項1~3及び5のいずれか1項に記載の
キャリア層付き圧延接合体。
【請求項7】
少なくとも3層以上が積層した
キャリア層付き圧延接合体の製造方法であって、
剥離可能なキャリア層及び厚みが0.5μm以上20μm以下である極薄金属層からなる積層体と、金属箔とを準備する工程と、
前記極薄金属層の表面をスパッタエッチングにより活性化する工程と、
前記金属箔の表面をスパッタエッチングにより活性化する工程と、
前記活性化した表面同士を0~30%の圧下率で圧延接合する工程と、
を含み、圧延接合後に熱処理を行わず、又は350℃以下での熱処理を行う
キャリア層付き圧延接合体の製造方法。
【請求項8】
少なくとも4層以上が積層した
キャリア層付き圧延接合体の製造方法であって、
剥離可能な第1のキャリア層及び厚みが0.5μm以上20μm以下である第1の極薄金属層からなる第1の積層体と、剥離可能な第2のキャリア層及び厚みが0.5μm以上20μm以下である第2の極薄金属層からなる第2の積層体とを準備する工程と、
前記極薄金属層の表面をスパッタエッチングにより活性化する工程と、
前記活性化した表面同士を0~30%の圧下率で圧延接合する工程と、
を含み、圧延接合後に熱処理を行わず、又は350℃以下での熱処理を行う
キャリア層付き圧延接合体の製造方法。
【請求項9】
前記金属箔の表面上に金属を含む中間層を有し、前記中間層の表面がスパッタエッチングされる請求項7に記載の
キャリア層付き圧延接合体の製造方法。
【請求項10】
前記極薄金属層の表面上に金属を含む中間層を有し、前記中間層の表面がスパッタエッチングされる請求項7~9のいずれか1項に記載の
キャリア層付き圧延接合体の製造方法。
【請求項11】
前記極薄金属層が、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、スズ、クロム、金、銀、白金、コバルト及びチタン並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の層である請求項7~10のいずれか1項に記載の
キャリア層付き圧延接合体の製造方法。
【請求項12】
前記金属箔が、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、マグネシウム、銀、金及び白金並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の箔である請求項7及び9~11のいずれか1項に記載の
キャリア層付き圧延接合体の製造方法。
【請求項13】
少なくとも2層以上が積層され、極薄金属層及び金属箔を含み、前記極薄金属層の厚みが0.5μm以上20μm以下である圧延接合体の製造方法であって、
請求項1に記載の
キャリア層付き圧延接合体におけるキャリア層を剥離する工程
を含む圧延接合体の製造方法。
【請求項14】
少なくとも2層以上が積層され、第1の極薄金属層及び第2の極薄金属層を含み、前記極薄金属層の厚みが0.5μm以上20μm以下である圧延接合体の製造方法であって、
請求項4に記載の
キャリア層付き圧延接合体における第1のキャリア層を剥離する工程と、
第2のキャリア層を剥離する工程と、
を含む圧延接合体の製造方法。
【請求項15】
極薄金属層と金属箔とが積層した圧延接合体であって、
前記極薄金属層が
1μm以上
7μm以下の厚みを有する銅層であり、前記金属箔がアルミニウム、鉄、銅、ニッケル、マグネシウム、銀、金及び白金並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の箔であり、前記極薄金属層の厚みの標準偏差σが1μm未満である圧延接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料は様々な分野で利用されており、例えば、モバイル電子機器等の電子機器における集積回路用シールドカバー等の内部保護部材として用いられている。これらの金属材料には、高強度と成形加工性が要求される。このような金属材料として、ステンレスが広く用いられている。また、他の金属材料として、2種類以上の金属板又は金属箔を積層した圧延接合体(金属積層材、クラッド材)も知られている。圧延接合体は、単独の材料では得られない複合特性を有する高機能性金属材料であり、例えば、熱伝導性の向上を目的としてステンレスと銅とを積層させた圧延接合体が検討されている。
【0003】
従来の圧延接合体として、例えば、特許文献1及び2に開示されるものが知られている。特許文献1には、オーステナイト系ステンレスにより形成される第1層と、Cu又はCu合金により形成され、前記第1層に積層される第2層と、オーステナイト系ステンレスにより形成され、前記第2層の前記第1層とは反対側に積層される第3層とが圧延接合されたクラッド材からなり、前記第2層の厚みは、前記クラッド材の厚みの15%以上であるシャーシとその製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、Cu板とステンレス鋼板のブラッシング処理された接合面同士を重ね合わせて圧下率2~10%の冷間圧延を行なって圧接して合わせ板とした後、10-4Torr以下の真空中で500~1050℃に加熱することを特徴とするCu-ステンレス鋼クラッド板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5410646号公報
【文献】特許第3168930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術では、ステンレス層に対して積層させる銅層(第2層)の厚さは、せいぜい数十μm~数百μmであり、例えば数μm~20μm程度の薄い金属層を接合することは困難であった。特許文献1のように銅とステンレスの圧延接合体を製造する場合、圧延及び熱処理を繰り返すことにより薄肉化が可能であるが、圧下率を高くすると、特に薄い金属層を接合する場合には金属層に皺や割れが発生したり、金属層の平坦性が損なわれるという問題があった。この問題は、圧延接合体の製品形状が幅広・長尺である場合に特に顕在化する。また、熱処理を行うと、例えば銅とアルミニウムの圧延接合体のように、構成材料によっては層間に脆弱な金属間化合物が形成され、その箇所を起点に剥離してしまう恐れがあった。
【0007】
なお、金属層上に、他の金属からなる極薄の層を積層する技術としては、めっきやスパッタ蒸着等の手法も知られている。しかし、めっきにおいては、アルミニウムに対する銅めっきのように、金属の構成によって直接めっきを適用できず銅めっき層を形成するための下地層が目的の機能を妨げる恐れがある場合や、また、例えば、ステンレス上に銅をめっきする際のシアンの使用等、めっき液の環境への負荷が大きい場合や、基材裏へのめっきのまわり込み、めっき前処理液やめっき液が基材裏に悪影響を及ぼす懸念等がある。また、片面マスキングした場合、後工程でマスキングを剥がして除去する必要がある。そのマスキングを剥がす際、基材の厚みが薄いと、基材に変形が加わり、折れ等に繋がる可能性がある。さらに、スパッタ蒸着の場合、生産性やコストの面で課題があった。
【0008】
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、極薄の金属層が、皺や割れ等を生じることなく他の金属に積層された圧延接合体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、極薄の金属層を、支持体として機能するキャリア層と予め積層した状態で接合することによって上記課題が解決できることを見い出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0010】
(1)少なくとも3層以上が積層した圧延接合体であって、
剥離可能なキャリア層、極薄金属層及び金属箔を含み、前記極薄金属層の厚みが0.5μm以上20μm以下である圧延接合体。
(2)前記極薄金属層と前記金属箔との間に、金属を含む中間層を1層以上有する上記(1)に記載の圧延接合体。
(3)前記極薄金属層と前記金属箔のピール強度が、前記キャリア層と前記極薄金属層のキャリアピール強度よりも大きい上記(1)又は(2)に記載の圧延接合体。
(4)少なくとも4層以上が積層した圧延接合体であって、
剥離可能な第1のキャリア層、第1の極薄金属層、第2の極薄金属層及び剥離可能な第2のキャリア層を含み、前記極薄金属層の厚みが0.5μm以上20μm以下である圧延接合体。
(5)前記極薄金属層が、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、スズ、クロム、金、銀、白金、コバルト及びチタン並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の層である上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の圧延接合体。
(6)前記金属箔が、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、マグネシウム、銀、金及び白金並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の箔である上記(1)~(3)及び(5)のいずれか1つに記載の圧延接合体。
(7)少なくとも3層以上が積層した圧延接合体の製造方法であって、
剥離可能なキャリア層及び厚みが0.5μm以上20μm以下である極薄金属層からなる積層体と、金属箔とを準備する工程と、
前記極薄金属層の表面をスパッタエッチングにより活性化する工程と、
前記金属箔の表面をスパッタエッチングにより活性化する工程と、
前記活性化した表面同士を0~30%の圧下率で圧延接合する工程と、
を含み、圧延接合後に熱処理を行わず、又は350℃以下での熱処理を行う圧延接合体の製造方法。
(8)少なくとも4層以上が積層した圧延接合体の製造方法であって、
剥離可能な第1のキャリア層及び厚みが0.5μm以上20μm以下である第1の極薄金属層からなる第1の積層体と、剥離可能な第2のキャリア層及び厚みが0.5μm以上20μm以下である第2の極薄金属層からなる第2の積層体とを準備する工程と、
前記極薄金属層の表面をスパッタエッチングにより活性化する工程と、
前記活性化した表面同士を0~30%の圧下率で圧延接合する工程と、
を含み、圧延接合後に熱処理を行わず、又は350℃以下での熱処理を行う圧延接合体の製造方法。
(9)前記金属箔の表面上に金属を含む中間層を有し、前記中間層の表面がスパッタエッチングされる上記(7)に記載の圧延接合体の製造方法。
(10)前記極薄金属層の表面上に金属を含む中間層を有し、前記中間層の表面がスパッタエッチングされる上記(7)~(9)のいずれか1つに記載の圧延接合体の製造方法。(11)前記極薄金属層が、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、スズ、クロム、金、銀、白金、コバルト及びチタン並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の層である上記(7)~(10)のいずれか1つに記載の圧延接合体の製造方法。
(12)前記金属箔が、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、マグネシウム、銀、金及び白金並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の箔である上記(7)及び(9)~(11)のいずれか1つに記載の圧延接合体の製造方法。
(13)少なくとも2層以上が積層され、極薄金属層及び金属箔を含み、前記極薄金属層の厚みが0.5μm以上20μm以下である圧延接合体の製造方法であって、
上記(1)に記載の圧延接合体におけるキャリア層を剥離する工程
を含む圧延接合体の製造方法。
(14)少なくとも2層以上が積層され、第1の極薄金属層及び第2の極薄金属層を含み、前記極薄金属層の厚みが0.5μm以上20μm以下である圧延接合体の製造方法であって、
上記(4)に記載の圧延接合体における第1のキャリア層を剥離する工程と、
第2のキャリア層を剥離する工程と、
を含む圧延接合体の製造方法。
(15)極薄金属層と金属箔とが積層した圧延接合体であって、
前記極薄金属層が0.5μm以上20μm以下の厚みを有する銅層であり、前記金属箔がアルミニウム、鉄、ニッケル、銅、マグネシウム、銀、金及び白金並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の箔であり、前記極薄金属層の厚みの標準偏差σが1μm未満である圧延接合体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、皺や割れを生じることなく、0.5μm以上20μm以下という極薄の金属層が積層した圧延接合体を得ることができる。
【0012】
また、剥離可能なキャリア層と極薄金属層からなる積層体と、金属箔又は剥離可能なキャリア層と極薄金属層からなる積層体とを、スパッタエッチングにより表面を活性化して接合することで、極薄金属層の厚み精度が優れた圧延接合体が得られる。さらに、キャリア層が、極薄金属層の支持体及び/又は保護層として機能するため、接合前における極薄金属層の取り扱い性に優れる。加えて、圧延接合体とした後においてもキャリア層が圧延接合体の支持層及び/又は保護層として機能するため、圧延接合体の取り扱い性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る圧延接合体の断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る圧延接合体の断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る圧延接合体の製造工程を示す図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係る圧延接合体の製造工程を示す図である。
【
図5】本発明の第4実施形態に係る圧延接合体の断面図である。
【
図6】本発明の第4実施形態に係る圧延接合体の製造工程を示す図である。
【
図7】本発明の第5実施形態に係る圧延接合体の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1に、本発明の第1実施形態に係る圧延接合体の断面を示す。
図1に示す圧延接合体1Aは、キャリア層本体11及び剥離層12から構成される剥離可能なキャリア層10と、極薄金属層20と、金属箔30とがこの順で積層して概略構成される。
【0015】
キャリア層本体11は、シート形状を有するものであり、圧延接合体1Aへの皺や折れの発生、極薄金属層20への傷を防止するための支持材料あるいは保護層として機能する。キャリア層本体11としては、銅、アルミニウム、ニッケル、及びその合金類(ステンレス、真鍮等)、表面に金属をコーティングした樹脂等からなる箔もしくは板状のものが挙げられる。好ましくは、銅箔である。
【0016】
キャリア層本体11の厚みは、特に限定されるものではなく、可撓性等の所望の特性に応じて適宜設定される。具体的には、10μm以上100μm以下程度とすることが好ましい。厚みが薄過ぎると、キャリア層10と極薄金属層20との積層体の取り扱い性が損なわれる可能性があるため好ましくない。すなわち、取り扱い時に変形して、極薄金属層20に皺や割れが生じる場合がある。また、キャリア層本体11が厚過ぎると、支持材料として過剰な剛性を有し、極薄金属層20と剥離し難くなる可能性があるため好ましくない。さらに、キャリア層と極薄金属層からなる積層体を生産するコストも上昇してしまう。
【0017】
剥離層12は、キャリア層本体11のピール強度を小さくし、さらに、キャリア層10及び極薄金属層20の積層体を金属箔30と接合するに際して加熱する場合には、キャリア層本体11と極薄金属層20の間で起こり得る相互拡散を抑制する機能をも有する。剥離層12は、有機剥離層及び無機剥離層のいずれであっても良く、有機剥離層に用いられる成分としては、例えば、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。トリアゾール化合物の例としては、1,2,3-ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、N’,N’-ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア、1H-1,2,4-トリアゾール及び3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾール等が挙げられる。硫黄含有有機化合物の例としては、メルカプトベンゾチアゾール、チオシアヌル酸、2-ベンズイミダゾールチオール等が挙げられる。カルボン酸の例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸等が挙げられる。また、無機剥離層に用いられる成分としては、例えば、Ni、Mo、Co、Cr、Fe、Ti、W、P、Zn、クロメート処理膜等が挙げられる。なお、剥離層12の形成は、キャリア層本体11の表面に、剥離層12の成分含有溶液を接触させ、剥離層成分をキャリア層本体11の表面に固定すること等により行うことができる。キャリア層本体11を剥離層12の成分含有溶液に接触させる場合、この接触は、剥離層成分含有溶液への浸漬、剥離層成分含有溶液の噴霧、剥離層成分含有溶液の流下等により行えば良く、その後に乾燥等を行って固定することができる。その他、蒸着やスパッタリング等による気相法で剥離層12の成分を被膜形成する方法も採用することができる。
【0018】
剥離層12の厚みは、典型的には1nm以上1μm以下であり、好ましくは5nm以上500nm以下であるがこれに限定されるものではない。剥離層12の厚みが薄過ぎると、極薄金属層20との分離が十分に行えず剥離不良になるという問題がある。また、厚みが大き過ぎると、剥離は可能であるが、製造コストが高くなるためこれらのバランスを考慮して適宜設定される。
【0019】
極薄金属層20を構成する金属は、圧延接合体の用途や目的とする特性に応じて適宜選択することができる。具体的には、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、スズ、クロム、金、銀、白金、コバルト、チタン及びこれらのいずれかを基とする合金等が挙げられる。特に、銅、ニッケル及びこれらのいずれかを基とする合金からなる群から選択される金属の層であることが好ましい。これらの金属を金属箔30と圧延接合することで、圧延接合体の放熱性及び軽量性を向上させることができ、例えばモバイル電子機器の筐体用として好適な圧延接合体を得ることができる。
【0020】
極薄金属層20の厚みは、0.5μm以上20μm以下である。好ましくは、1μm以上12μm以下であり、より好ましくは1μm以上7μm以下である。ここで、極薄金属層20の厚みは、圧延接合体1Aの断面の光学顕微鏡写真を取得し、その光学顕微鏡写真において任意の10点における極薄金属層20の厚みを計測し、得られた値の平均値をいう。なお、圧延接合体の製造において、極薄金属層20と金属箔30とが所定の圧下率にて接合されるため、圧延接合体1Aにおける極薄金属層20の厚みは接合前に比べて薄くなる。
【0021】
また、極薄金属層20の厚みの標準偏差σは、1μm未満であることが好ましい。ここで、極薄金属層20の厚みの標準偏差σは、圧延接合体の断面の光学顕微鏡写真を取得し、その光学顕微鏡写真における幅300μmの断面について、極薄金属層20の厚みt1を等間隔で10点計測し、得られた10点の測定値から求めた標準偏差をいう。
【0022】
このような極薄金属層20は、無電解めっき法、電解めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び化学蒸着等の乾式成膜法、又はそれらの組み合わせにより剥離層12上に形成することができる。
【0023】
極薄金属層20と金属箔30のピール強度と、キャリア層10と極薄金属層20のピール強度(本明細書において「キャリアピール強度」という)とを比較した場合、極薄金属層20と金属箔30のピール強度の方が大きいことが好ましい。これにより、キャリア層10を極薄金属層20から剥離する際に、極薄金属層20に皺や破れ等を生ずることなく剥離することができる。しかし、極薄金属層20及び金属箔30のピール強度の値と、キャリアピール強度の値とが近過ぎると、実際上、極薄金属層20と金属箔30との界面に影響を及ぼさずにキャリア層10のみを剥離することが困難になる場合があるため、極薄金属層20及び金属箔30のピール強度と、キャリアピール強度との差が、0.5N/20mm以上あることが好ましい。より好ましくは1.0N/20mm以上、最も好ましくは3.0N/20mm以上である。極薄金属層20及び金属箔30のピール強度、及びキャリアピール強度の具体的な値として、極薄金属層20と金属箔30のピール強度が、1N/20mm以上であることが好ましい。また、キャリア層10と極薄金属層20のキャリアピール強度は、0より大きければ良く、1N/20mm未満であることが好ましいが、約0.1N/20mmを下回る領域では、引き剥がす材料(キャリア層10、極薄金属層20、金属箔30)自体の剛性の影響により、正確なピール強度を測れない場合がある。キャリアピール強度は、より好ましくは0.1N/20mm以上1N/20mm未満の範囲である。なお、上記ピール強度あるいはキャリアピール強度の値は、圧延接合体1Aから幅20mmの試験片を作製し、極薄金属層20と金属箔30、あるいはキャリア層10と極薄金属層20を一部剥離後、厚膜層側又は硬質層側を固定し、他方の層を固定側と180°反対側へ引っ張った際における引き剥がすのに要する力をいう(単位:N/20mm)。
【0024】
金属箔30としては、各種金属の板材又は箔状の材料であれば適用可能であり、圧延接合体の用途等に応じて適宜選択される。例えば、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、マグネシウム、銀、金及び白金並びにこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属の箔が好ましく用いられ、具体的には、SUS304、SUS316等のステンレス、あるいは、AZ31、AZ61、AZ91、LZ91等のマグネシウム合金、A1050、A1100、1N30等のアルミニウムやアルミニウム合金等の箔を挙げることができる。
【0025】
金属箔30の厚みは、通常、0.01mm以上であれば適用可能であり、得られる圧延接合体の機械的強度及び加工性の観点から、0.01mm以上1.8mm以下の範囲であることが好ましい。ハンドリング性を考慮すると、0.015mm以上であることが好ましい。また、圧延接合体の軽量化や薄型化の観点から、接合前の金属箔30の厚みは、より好ましくは1.2mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下、特に好ましくは0.5mm以下である。しかし、圧延接合体の厚みは接合後の再圧延によって薄くすることも可能であるため、接合前の金属箔の厚みは上記範囲に限定されるものではない。なお、接合前の金属箔30の厚みは、マイクロメータ等によって測定可能であり、対象とする金属箔の表面上からランダムに選択した10点において測定した厚みの平均値をいう。また、用いる箔については、10点の測定値の平均値からの偏差が全ての測定値で10%以内であることが好ましい。特に、接合する金属箔として厚みが1mm未満の薄い箔を用いる場合には、偏差が大きいと放熱性等の性能にばらつきが出ることが懸念されるため、偏差は小さい方が好ましい。
【0026】
また、本発明の第2実施形態として、
図2に示すように、極薄金属層20と金属箔30との間に、金属を含む中間層40を備えることができる。この中間層40は、1層でも良いし、2層以上が積層していても良い。金属を含む中間層40としては、極薄金属層20あるいは金属箔30上に設けられた蒸着もしくは電気めっき、無電解めっきによる金属層が挙げられる。
【0027】
中間層40を構成する金属は、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、クロム、コバルト、チタン、スズ、白金、銀及び金から選ばれる単一金属種もしくはこれら金属種を含む合金からなる群より選択される金属であることが好ましい。これらの金属層40を設けることにより、極薄金属層20又は金属箔30の表面を保護し、また極薄金属層20と金属箔30との密着性を向上させることができるだけでなく、金属層40特有の機能を付与することができる(例えば、エッチング加工時のエッチングストッパー層としての機能等)。中間層40の厚みは、密着性向上等の機能を発揮し得る厚みであれば良く、特に限定されない。具体的には、0.5μm以上20μm以下の厚みとすることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上10μm以下である。
【0028】
さらに、図示しないが、圧延接合体1A、1Bにおける極薄金属層20あるいは中間層40と接触する側とは反対側の金属箔30の表面には、必要に応じて、熱導電性、放熱性等の機能を妨げない程度に、耐食性、酸化防止、変色防止等を目的として保護層を設けることができる。例えば、銅からなる金属箔に対する保護層の例としては、化成処理層、Niめっき層等を挙げることができる。また、マグネシウム合金からなる金属箔に対する保護層の例としては、リン酸系、クロメート系、陽極酸化処理といった化成処理層を挙げることができる。
【0029】
次に、圧延接合体の製造方法について説明する。
図1に示す圧延接合体1Aは、剥離可能なキャリア層10及び極薄金属層20からなる積層体と、金属箔30とを準備し、これらを冷間圧延接合、熱間圧延接合、表面活性化接合等の各種の方法により互いに接合して、層間を密着させることにより得ることができる。なお、圧延接合体を製造する際の高圧下での接合及び/又は熱処理は、接合前後及び/又は熱処理前後で圧延接合体の各層における金属集合組織を著しく変化させ、圧延接合体の特性を損なう恐れがあるため、そのような組織変化を回避できる接合・熱処理条件を選択することが好ましい。
【0030】
冷間圧延接合の場合、接合した後には安定化熱処理を施すことが好ましい。熱間圧延接合は、接合体の再結晶温度以上の熱を加えながら圧延接合する方法であり、冷間圧延接合に比べて低い力で接合することができるが、接合界面に金属間化合物を生成し易い。したがって、金属間化合物を生成しないよう、加熱温度、加熱時間の条件の選択に留意するものとする。例えば、極薄金属層20が銅であり、金属箔30がアルミニウムである場合等には、加熱によって接合界面に脆弱な金属間化合物が生成し易いため、熱処理温度、熱間圧延を行う際の加熱温度は可能な限り低いことが好ましい。
【0031】
圧延接合体1Aを製造する方法として好ましい態様は次のとおりである。まず、
図3に示すように、剥離可能なキャリア層10及び厚みが0.5μm以上20μm以下である極薄金属層20からなる積層体2と、金属箔30とを準備し、極薄金属層20の表面20aをスパッタエッチングにより活性化し、金属箔30の表面30aをスパッタエッチングにより活性化し、それら活性化した表面同士を圧延接合することにより(
図3(a))、圧延接合体1Aを製造することができる(
図3(b))。圧延接合する際の圧下率は、0~30%とすることが好ましい。より好ましくは0~15%である。上記の表面活性化接合による方法は、圧下率を低くすることができるため、剥離層12の機能を維持したまま接合することが可能であり、また、皺や割れ等を生ずることなく、厚み精度に優れた極薄金属層20を形成することができる。さらに、極薄金属層20と金属箔30との界面のうねりを小さくすることができるため、圧延接合体1Aへパターンエッチングを施して極薄金属層又は金属箔を回路電極として使用する際に、厚み精度が優れるため精密な回路形成に有利である。特に、金属箔30が0.8mm以下や0.5mm以下といった薄いものに0.5μm以上20μm以下である極薄金属層を形成する場合において、従来の製造方法においては反りが発生しやすかったところ、剥離可能なキャリア層10及び極薄金属層20からなる積層体2と、金属箔30を上述のように圧延接合することにより、反りの発生の抑制も可能となり、圧延接合体の形状が幅広・長尺である場合にも効果を奏する。
【0032】
スパッタエッチング処理は、例えば、接合する積層体2あるいは金属箔30を、幅100mm~600mmの長尺コイルとして用意し、積層体2又は金属箔30の接合面をアース接地した一方の電極とし、絶縁支持された他の電極との間に1MHz~50MHzの交流を印加してグロー放電を発生させ、且つグロー放電によって生じたプラズマ中に露出される電極の面積を前記の他の電極の面積の1/3以下として行うことができる。スパッタエッチング処理中は、アース接地した電極が冷却ロールの形をとっており、搬送材の温度上昇を防いでいる。
【0033】
スパッタエッチング処理では、真空下で積層体2又は金属箔30の接合する面を不活性ガスによりスパッタすることにより、表面の吸着物を完全に除去し、且つ表面の酸化物層の一部又は全部を除去する。極薄金属層20又は金属箔30がアルミニウムやマグネシウムあるいはこれらを基とする合金である場合は特に、酸化物層は必ずしも完全に除去する必要はなく、一部残存した状態であっても十分な接合力を得ることができる。酸化物層を残存させつつスパッタエッチングを行うことにより、酸化物層を完全に除去する場合に比べてスパッタエッチング処理時間を大幅に減少させ、圧延接合体の生産性を向上させることができる。一方、銅の酸化物層は完全に除去することが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトン等や、これらを少なくとも1種類含む混合気体を適用することができる。金属の種類にもよるが、極薄金属層20又は金属箔30の表面の吸着物は、エッチング量約1nm程度で完全に除去することができ、特に銅の酸化物層は通常5nm~12nm(SiO2換算)程度で除去が可能である。
【0034】
スパッタエッチングの処理条件は、極薄金属層20又は金属箔30の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、真空下で、100W~10kWのプラズマ出力、ライン速度0.5m/分~30m/分で行うことができる。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、例えば、1×10-5Pa~10Paであれば良い。
【0035】
スパッタエッチングを経た極薄金属層20及び金属箔30の表面同士の圧接は、ロール圧接により行うことができる。ロール圧接の圧延線荷重は、特に限定されずに、例えば、0.1tf/cm~10tf/cmの範囲に設定して行うことができる。例えば圧接ロールのロール直径が100mm~250mmのとき、ロール圧接の圧延線荷重は、より好ましくは0.1tf/cm~3tf/cmであり、さらに好ましくは0.3tf/cm~1.8tf/cmである。ただし、ロール直径が大きくなった場合や積層体2又は金属箔30の接合前の厚みが大きい場合等には、接合時の圧力確保のために圧延線荷重を高くすることが必要になる場合があり、この数値範囲に限定されるものではない。一方で、圧延線荷重が高過ぎると、極薄金属層20又は金属箔30の表層だけでなく、接合界面も変形しやすくなるため、圧延接合体におけるそれぞれの層の厚み精度が低下する恐れがある。また、圧延線荷重が高いと接合時に加わる加工ひずみが大きくなる恐れがある。
【0036】
圧接する際の圧下率は、30%以下であることが好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。なお、圧接の前後で厚さは変わらなくても良いため、圧下率の下限値は0%である。
【0037】
ロール圧接による接合は、極薄金属層20又は金属箔30表面への酸素の再吸着によって両者間の接合強度が低下するのを防止するため、非酸化雰囲気中、例えば真空中やAr等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0038】
また、圧接により得られた圧延接合体は、必要に応じて、さらに熱処理を行うことができる。熱処理によって、極薄金属層20又は金属箔30の加工ひずみが除かれ、層間の密着性を向上させることができる。この熱処理は、高温で長時間行うと、剥離層12を起点にキャリア層10にフクレが発生し、そのフクレを起点にキャリア層10が剥離する恐れや、逆にキャリア層10と極薄金属層20との密着性が相互拡散等により高まり、キャリア層10の剥離が困難となる恐れもある。また、極薄金属層20と金属箔30の組合せ次第では界面に金属間化合物を生成し、密着性(ピール強度)が低下する傾向がある。よって、上記の熱処理は350℃以下の温度で行う。好ましくは300℃以下である。特に好ましくは250℃以下である。あるいは、圧延接合した後に熱処理を行わないことが好ましい。なお、接合後の圧延接合体からキャリア層10を剥離・除去した後であれば、極薄金属層20及び金属箔30の界面において金属間化合物を生成しない温度範囲での熱処理を行っても良い。例えばキャリア層10を剥離・除去後の極薄金属層20と金属箔20の組合せが銅とステンレスの場合は600℃以上の高温での熱処理も可能となる。
【0039】
また、上記の表面活性化接合により製造した圧延接合体は、必要に応じて、さらに圧延(リロール)を施すことができる。これにより、付加価値の高い薄い構成の圧延接合体を製造することができ、また、調質圧延により材料の調質を行うことができるという利点がある。リロールを行った場合、圧下率は、リロール後の状態で測定する。すなわち、接合前の積層体2及び金属箔30の総厚みT0と、リロール後の圧延接合体の厚みTとの比T/T0が圧下率となる。
【0040】
以上の工程により圧延接合体1Aを得ることができる。なお、
図2に示すように、極薄金属層20と金属箔30との間に、金属を含む中間層40を有する圧延接合体1Bを製造する場合は、剥離可能なキャリア層10、及び表面上に中間層を有する厚みが0.5μm以上20μm以下である極薄金属層20からなる積層体、又は表面に中間層を有する金属箔を準備し、これらの中間層の表面をスパッタエッチングしたものを、他方の、表面がスパッタエッチングにより活性化された金属箔又は極薄金属層と接合する。それ以外は、上述の圧延接合体1Aを製造する方法に準じて圧延接合体1Bを得ることができる。
【0041】
次に、
図4に沿って、本発明の第3実施形態に係る圧延接合体の製造方法について説明する。
図4に示す圧延接合体1Cは、厚みが0.5μm以上20μm以下である極薄金属層20及び金属箔30が積層した2層構造の圧延接合体である。この圧延接合体1Cは、
図1に示すようなキャリア層10を備えた圧延接合体1Aから得ることができる。すなわち、
図4に示すように、圧延接合体1Aを準備し(
図4(a))、この圧延接合体1Aにおけるキャリア層10を剥離することにより(
図4(b))、2層構造の圧延接合体1Cを得ることができる(
図4(c))。
【0042】
2層構造の圧延接合体1Cは、厚みが0.5μm以上20μm以下の厚み精度に優れた極薄金属層20を有しており、極薄金属層20に割れや皺を生ずることない。このような圧延接合体1Cは、モバイル電子機器、PC等の各種電子機器、自動車等の輸送機器用電子部材、家電用電子部材等のカバー、筐体、ケース、補強部材、放熱・電磁波シールド等の機能部材等の成型品として好適に利用することができる。
また、厚み精度に優れた極薄金属層を積層することができることから、選択エッチング処理によって微細な回路を形成することも可能であり、微細電子回路用基板としても使用可能である。
【0043】
次に、本発明の第4実施形態に係る圧延接合体について、
図5に基づき説明する。
図5に示す圧延接合体1Dは、剥離可能な第1のキャリア層10A、第1の極薄金属層20A、第2の極薄金属層20B及び剥離可能な第2のキャリア層10Bをこの順に積層した4層構造の圧延接合体である。第1の極薄金属層20A、及び第2の極薄金属層20Bの厚みは0.5μm以上20μm以下であり、好ましくは1μm以上12μm以下であり、より好ましくは1μm以上7μm以下である。さらに、剥離可能な第1のキャリア層10A、並びに剥離可能な第2のキャリア層10Bは、それぞれ、第1のキャリア層本体11A及び第1の剥離層12A、並びに第2のキャリア層本体11B及び第2の剥離層12Bから構成されている。キャリア層本体、剥離層、及び極薄金属層の構成は、上記第1実施形態において説明したとおりである。
【0044】
図6は、第4実施形態に係る圧延接合体の製造工程を説明する図である。
図6に示すとおり、第4に実施形態に係る圧延接合体1Dは、まず、剥離可能な第1のキャリア層10A及び厚みが0.5μm以上20μm以下である第1の極薄金属層20Aからなる第1の積層体2Aと、剥離可能な第2のキャリア層10B及び厚みが0.5μm以上20μm以下である第2の極薄金属層20Bからなる第2の積層体2Bとを準備し、続いて、第1の極薄金属層20Aの表面20Aaと、第2の極薄金属層20Bの表面20Baを、スパッタエッチングにより活性化し、活性化した表面同士を0~30%の圧下率で圧延接合する(
図6(a))。これにより、圧延接合体1Dを得ることができる(
図6(b))。
図3の場合と同様に、圧延接合後には、350℃以下での熱処理を行うか、熱処理を行わないことが好ましい。なお、接合後の圧延接合体からキャリア層10A及び10Bを剥離・除去した後であれば、極薄金属層20及び金属箔30の界面において金属間化合物を生成しない温度範囲での熱処理を行っても良い。その他の、圧延接合する際の条件等の構成については、
図3の圧延接合体1Aを製造する際の構成と同様である。
【0045】
次に、
図7に沿って、本発明の第5実施形態に係る圧延接合体の製造方法について説明する。
図5に示す圧延接合体1Eは、厚みが0.5μm以上20μm以下である第1の極薄金属層20A及び厚みが0.5μm以上20μm以下である第2の極薄金属層20Bが積層した2層構造の圧延接合体である。この圧延接合体1Eは、
図5に示すような第1のキャリア層10A及び第2のキャリア層10Bを備えた圧延接合体1Dから得ることができる。すなわち、
図7に示すように、圧延接合体1Dを準備し(
図7(a))、この圧延接合体1Dにおける第1のキャリア層10A及び第2のキャリア層10Bを剥離することにより(
図7(b))、2層構造の圧延接合体1Eを得ることができる(
図7(c))。
【0046】
この圧延接合体1Eは、厚みが0.5μm以上20μm以下の厚み精度に優れた2層の極薄金属層が積層されている。このような圧延接合体1Eは、その薄さを利用して、極薄の電磁波シールド材料や二次電池の負極用集電箔等として利用することができる。また、極薄金属層が銅である場合、その熱伝導率の高さと薄さを利用して、電子機器の放熱部材や熱輸送デバイス又はそれらの部材として適用することができ、それによって、放熱性を活かしつつ、金属層による高強度化と省スペース化を図ることが可能である。さらに、厚み精度に優れた極薄金属層を積層することができることから、選択エッチング処理によって微細な回路を形成することも可能であり、微細電子回路用基板としても使用可能である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
まず、電解銅からなる厚み18μmのキャリア層本体に、剥離層として厚み約50nmの有機剥離層(カルボキシベンゾトリアゾール(CBTA)等)を介して厚み5μmの銅層が設けられた積層体と、厚み50μmのアルミニウム箔(1N30)とを準備し、銅層及びアルミニウム箔の表面同士を圧延接合して、目的の圧延接合体を製造した。
圧延接合を行うに際し、銅層及びアルミニウム箔の表面に対しスパッタエッチング処理を施し、表面を活性化した。銅層についてのスパッタエッチングは、0.3Pa下で、プラズマ出力400W、5分間の条件にて実施し、アルミニウム箔についてのスパッタエッチングは、0.3Pa下で、プラズマ出力400W、5分間の条件にて実施した。圧接する際の線荷重は1.0t/cm(333MPa)とし、表面活性化接合による圧下率はいずれも0%である。
【0049】
(実施例2)
剥離層として、厚み約30nmの無機剥離層(ニッケル層及びクロメート層等)を用いたキャリア層及び銅層からなる積層体を圧延接合した以外は、上記実施例1と同様にして圧延接合体を得た。
【0050】
(比較例1)
表面活性化接合により銅層及びアルミニウム箔の表面同士を圧延接合した後に、380℃で1時間の熱処理を行った以外は、上記実施例1と同様にして圧延接合体を得た。
【0051】
(比較例2)
表面活性化接合により銅層及びアルミニウム箔の表面同士を圧延接合した後に、380℃で1時間の熱処理を行った以外は、上記実施例2と同様にして圧延接合体を得た。
【0052】
実施例1及び2、比較例1及び2で得られた圧延接合体について、銅層及びアルミニウム箔の間の界面(クラッド界面)におけるピール強度、及びキャリア層と銅層の間のキャリアピール強度(キャリア層のピール強度)を測定した。なお、本実施例及び比較例におけるピール強度とは180°ピール強度(180°剥離強度ともいう)を用いて測定した値のことを指す。実施例1及び2、比較例1及び2で得られた圧延接合体から幅20mmの試験片を作製し、まず、キャリア層と極薄銅層の間のキャリアピール強度を測定するために、キャリア層と極薄銅層とを一部剥離後、キャリア層側又は極薄銅層側を固定し、他方の層を固定側と180°反対側へ引っ張った際に引き剥がすのに要する力を測定し、単位としてN/20mmを用いた。次に、極薄銅層及びアルミニウム箔の間の界面におけるピール強度を測定するために、キャリア層を全て剥離した後、極薄銅層とアルミニウム箔とを一部剥離し、極薄銅層がピール強度測定時に切断されないようにするため極薄銅層側へ補強用のテープを貼り付けた。そして、上記補強用のテープが貼りついた極薄銅層側又はアルミニウム箔側を固定し、他方の層を固定側と180°反対側へ引っ張った際に引き剥がすのに要する力を測定し、単位としてN/20mmを用いた。また、剥離層におけるフクレの発生状態について評価した。評価結果を表1に示す。
【0053】
表1に示すように、実施例1及び2の圧延接合体については、クラッド界面のピール強度が、キャリア層のピール強度より大きく、また、キャリア層のピール強度は0.1N/20mm以上1N/20mm未満という低い値に維持されていた。これによって、キャリア層のみを極薄銅層から剥離可能となり、キャリア層が銅層の保護層・支持体として機能することで、極薄銅層に割れや皺を生ずることなく、厚み精度に優れた極薄の銅層をアルミニウム箔上に形成することができた。
【0054】
一方、比較例1の圧延接合体は、熱処理によって剥離層の全面にフクレが発生した。フクレによってキャリア層の密着性が弱くなり、意図せずにキャリア層が銅層から剥離する現象が見られ、キャリア層の保護層・支持体としての効果は得られないことが分かった。
【0055】
また、比較例2の圧延接合体については、熱処理によって、キャリア層と銅層との界面において剥離ができないほど密着強度が増加した。これは、熱処理によってキャリア層と剥離層、極薄金属層と剥離層がそれぞれ相互拡散し合金化したためと推測される。あるいは、剥離層を介してキャリア層と極薄金属層が相互拡散することによりさらに密着強度が増加し過ぎた可能性もある。したがって、アルミニウム箔上の極薄の銅層が形成された2層構造の圧延接合体は得ることができなかった。
【0056】
【0057】
(実施例3)
まず、電解銅からなる厚み18μmのキャリア層本体に、剥離層として厚み約50nmの有機剥離層(カルボキシベンゾトリアゾール(CBTA)等)を介して厚み5μmの銅層が設けられた積層体と、厚み50μmのステンレス箔(SUS316)とを準備し、銅層及びステンレス箔の表面同士を圧延接合して、目的の圧延接合体を製造した。
圧延接合を行うに際し、銅層及びステンレス箔の表面に対しスパッタエッチング処理を施し、表面を活性化した。銅層についてのスパッタエッチングは、0.3Pa下で、プラズマ出力700W、5分間の条件にて実施し、ステンレス箔についてのスパッタエッチングは、0.3Pa下で、プラズマ出力700W、20分間の条件にて実施した。圧接する際の線荷重は1.0t/cm(333MPa)とし、表面活性化接合による圧下率はいずれも0%である。
【0058】
(実施例4)
剥離層として、厚み約30nmの無機剥離層(ニッケル層及びクロメート層等)を用いたキャリア層及び銅層からなる積層体を圧延接合した以外は、上記実施例3と同様にして圧延接合体を得た。
【0059】
(比較例3)
表面活性化接合により銅層及びステンレス箔の表面同士を圧延接合した後に、380℃で1時間の熱処理を行った以外は、上記実施例3と同様にして圧延接合体を得た。
【0060】
(比較例4)
表面活性化接合により銅層及びステンレス箔の表面同士を圧延接合した後に、380℃で1時間の熱処理を行った以外は、上記実施例4と同様にして圧延接合体を得た。
【0061】
実施例3及び4、比較例3及び4で得られた圧延接合体について、銅層及びステンレス箔の間の界面(クラッド界面)におけるピール強度、及びキャリア層と銅層の間のキャリアピール強度(キャリア層のピール強度)を測定した。また、剥離層におけるフクレの発生状態について評価した。評価結果を表2に示す。
【0062】
表2に示すように、実施例3及び4の圧延接合体については、クラッド界面のピール強度が、キャリア層のピール強度より大きく、また、キャリア層のピール強度はいずれも1N/20mm未満、具体的には0.1N/20mm~0.25N/20mm近傍の低い値に維持されていた。これによって、キャリア層のみを極薄銅層から剥離可能となり、キャリア層が銅層の保護層・支持体として機能することで、極薄銅層に割れや皺を生ずることなく、厚み精度に優れた極薄の銅層をステンレス箔上に形成することができた。
【0063】
一方、比較例3の圧延接合体は、熱処理によって剥離層の全面にフクレが発生した。フクレによってキャリア層の密着性が弱くなり、意図せずにキャリア層が銅層から剥離する現象が見られ、キャリア層の保護層・支持体としての効果は得られないことが分かった。
【0064】
また、比較例4の圧延接合体については、熱処理によって、剥離層の一部にフクレが発生し、キャリア層の密着性が弱くなった。
【0065】
【0066】
(実施例5)
まず、電解銅からなる厚み18μmのキャリア層本体に、剥離層として厚み約30nmの無機剥離層(ニッケル層及びクロメート層等)を介して厚み5μmの銅層が設けられた積層体と、厚み15μmのステンレス箔(SUS304)とを準備し、銅層及びステンレス箔の表面同士を圧延接合して、目的の圧延接合体を製造した。
圧延接合を行うに際し、銅層及びステンレス箔の表面に対しスパッタエッチング処理を施し、表面を活性化した。銅層についてのスパッタエッチングは、0.3Pa下で、プラズマ出力700W、10分間の条件にて実施し、ステンレス箔についてのスパッタエッチングは、0.3Pa下で、プラズマ出力700W、20分間の条件にて実施した。圧接する際の線荷重は0.5t/cm(167MPa)とし、表面活性化接合による圧下率はいずれも0%である。
【0067】
実施例5で得られた圧延接合体について、銅層及びステンレス箔の間の界面(クラッド界面)におけるピール強度、及びキャリア層と銅層の間のキャリアピール強度(キャリア層のピール強度)を測定した。また、剥離層におけるフクレの発生状態について評価した。評価結果を表3に示す。
【0068】
表3に示すように、実施例5の圧延接合体については、クラッド界面のピール強度が、キャリア層のピール強度より大きく、また、キャリア層のピール強度は0.1N/20mm以下という低い値に維持されていた。これによって、キャリア層のみを極薄銅層から剥離可能となり、キャリア層が銅層の保護層・支持体として機能することで、極薄銅層に割れや皺を生ずることなく、厚み精度に優れた極薄の銅層をステンレス箔上に形成することができた。
【0069】
【符号の説明】
【0070】
1A、1B、1C、1D、1E 圧延接合体
2 積層体
10 キャリア層
10A 第1のキャリア層
10B 第2のキャリア層
11 キャリア層本体
11A 第1のキャリア層本体
11B 第2のキャリア層本体
12 剥離層
12A 第1の剥離層
12B 第2の剥離層
20 極薄金属層
20A 第1の極薄金属層
20B 第2の極薄金属層
20a 極薄金属層の表面
20Aa 第1の極薄金属層の表面
20Ba 第2の極薄金属層の表面
30 金属箔
30a 金属箔の表面
40 中間層