(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】反応観察方法及び層状隔壁式封止物品
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20220609BHJP
【FI】
G01N23/04
(21)【出願番号】P 2018122478
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐生
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-213147(JP,A)
【文献】特開2014-229401(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2626884(EP,A1)
【文献】特表2013-500146(JP,A)
【文献】特公平05-086023(JP,B2)
【文献】佐々木祐生,グラフェンサンドイッチ構造を利用した金コロイド溶液の透過型電子顕微鏡観察,第65回応用物理学会春季学術講演会,2018年03月17日,p.06-083(20p-B303-1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01N 1/00-1/44
H01J 37/00-37/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる層状物質からなる隔壁膜と外壁膜との間にそれぞれ封止される複数の試料間の反応又は混合の挙動を観察する方法であって、
観察対象とする2つの試料の少なくとも一方は液状であり、
前記2つの試料は、前記隔壁膜の一部を隔壁部として共有して該隔壁部を介して隣接するように収容されており、
前記隔壁膜を構成する前記層状物質は、前記外壁膜を構成する前記層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さく、
外部から前記隔壁部に向けて荷電粒子線を照射することにより該隔壁部を開孔させ、該開孔部を通して生じる試料間の反応又は混合の挙動を観察することを特徴とする反応観察方法。
【請求項2】
前記隔壁膜を構成する前記層状物質は、前記外壁膜を構成する前記層状物質より導電性が低いか、又は構成原子の質量が小さい請求項1に記載の反応観察方法。
【請求項3】
前記隔壁膜及び前記外壁膜を構成する前記層状物質は、それぞれ原子層からなる請求項1又は2に記載の反応観察方法。
【請求項4】
前記荷電粒子線は電子線である請求項1乃至3のいずれかに記載の反応観察方法。
【請求項5】
第1の層状物質からなる前記隔壁膜を介して第1の試料と第2の試料とが隣り合って収容されており、
前記第1の試料を封止する前記外壁膜は第2の層状物質からなり、
前記第2の試料を封止する前記外壁膜は第3の層状物質からなり、
前記第1の層状物質は、前記第2の層状物質及び第3の層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さい請求項1乃至4のいずれかに記載の反応観察方法。
【請求項6】
前記第2の層状物質及び前記第3の層状物質は同一物質である請求項5記載の反応観察方法。
【請求項7】
異なる層状物質からなる隔壁膜と外壁膜との間にそれぞれ試料を封止する複数の収容部を備え、
前記試料の少なくとも一つは液状であり、
相互に隣接する前記収容部は前記隔壁膜の一部を隔壁部として共有する構造を有し、
前記隔壁膜を構成する前記層状物質は、前記外壁膜を構成する前記層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さいことを特徴とする層状隔壁式封止物品。
【請求項8】
前記隔壁膜を構成する前記層状物質は、前記外壁膜を構成する前記層状物質より導電性が低いか、又は構成原子の質量が小さい請求項7記載の層状隔壁式封止物品。
【請求項9】
前記隔壁膜及び前記外壁膜を構成する前記層状物質は、それぞれ原子層からなる請求項7又は8に記載の層状隔壁式封止物品。
【請求項10】
第1の層状物質からなる前記隔壁膜を介して、第1の試料を収容する第1収容部と第2の試料を収容する第2収容部とが隣り合っており、
前記第1収容部の前記外壁膜は第2の層状物質からなり、
前記第2収容部の前記外壁膜は第3の層状物質からなり、
前記第1の層状物質は、前記第2の層状物質及び第3の層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さい請求項7乃至9のいずれかに記載の層状隔壁式封止物品。
【請求項11】
前記第2の層状物質及び前記第3の層状物質は同一物質である請求項10記載の層状隔壁式封止物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応観察方法及び層状隔壁式封止物品に関する。詳しくは、複数の試料を異なる層状物質の間にそれぞれ封止し、試料を隔てる層状物質を荷電粒子線により開口させることにより試料間の反応や混合の挙動を直接観察する反応観察方法、及び複数の試料を封止する層状隔壁式封止物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透過型電子顕微鏡等により固体試料を直接観察することは、広く行われてきたが、近年、液状試料の直接観察も行われるようになってきた(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。特許文献1には、真空雰囲気中で液体試料に電子線を照射して観察する電子顕微鏡の液体試料ホルダであって、液体試料を挟み込む一対の基板と、該一対の基板に設けられた電子線透過用の窓と、一対の基板間の窓を囲む位置に設けられた液体試料を注入する枠体と、一対の基板間の枠体の外側に塗布充填されて一対の基板と枠体を接着すると共に液体試料を枠体内に封止する封止樹脂とを有し、液体試料と接する一対の基板表面に窒化シリコン膜と酸化シリコン膜を形成したことを特徴とする電子顕微鏡の液体試料ホルダが開示されている。また、非特許文献1には、極微量の水液滴を疎水性のグラフェン層どうしの間に挟んだ状態で、これを観察した実験が記載されており、液滴に気泡が生じた画像が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Chemical Physics Letters 650(2016) 107-112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液状試料の電子顕微鏡による直接観察が可能となったことで、液状材料を含む複数の材料が反応したり、混合したりする際の挙動の観察が求められるようになった。しかし、従来の観察方法においては、前記のように液中における高分解能な動的観測は可能であっても、複数の材料の接触時、混合時等の反応や作用を動的に直接観測することはできなかった。
本発明の目的は、複数の試料を異なる層状物質の間にそれぞれ封止し、試料を隔てる層状物質を荷電粒子線により開口させることにより試料間の反応や混合の挙動を直接観察する反応観察方法、及び複数の試料を封止する層状隔壁式封止物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の通りである。
1.異なる層状物質からなる隔壁膜と外壁膜との間にそれぞれ封止される複数の試料間の反応又は混合の挙動を観察する方法であって、観察対象とする2つの試料の少なくとも一方は液状であり、前記2つの試料は、前記隔壁膜の一部を隔壁部として共有して該隔壁部を介して隣接するように収容されており、前記隔壁膜を構成する前記層状物質は、前記外壁膜を構成する前記層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さく、外部から前記隔壁部に向けて荷電粒子線を照射することにより該隔壁部を開孔させ、該開孔部を通して生じる試料間の反応又は混合の挙動を観察することを特徴とする反応観察方法。
2.前記隔壁膜を構成する前記層状物質は、前記外壁膜を構成する前記層状物質より導電性が低いか、又は構成原子の質量が小さい前記1.記載の反応観察方法。
3.前記隔壁膜及び前記外壁膜を構成する前記層状物質は、それぞれ原子層からなる前記1.又は2.に記載の反応観察方法。
4.前記荷電粒子線は電子線である前記1.乃至3.のいずれかに記載の反応観察方法。
5.第1の層状物質からなる前記隔壁膜を介して第1の試料と第2の試料とが隣り合って収容されており、前記第1の試料を封止する前記外壁膜は第2の層状物質からなり、前記第2の試料を封止する前記外壁膜は第3の層状物質からなり、前記第1の層状物質は、前記第2の層状物質及び第3の層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さい前記1.乃至4.のいずれかに記載の反応観察方法。
6.前記第2の層状物質及び前記第3の層状物質は同一物質である前記5.記載の反応観察方法。
7.異なる層状物質からなる隔壁膜と外壁膜との間にそれぞれ試料を封止する複数の収容部を備え、前記試料の少なくとも一つは液状であり、相互に隣接する前記収容部は前記隔壁膜の一部を隔壁部として共有する構造を有し、前記隔壁膜を構成する前記層状物質は、前記外壁膜を構成する前記層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さいことを特徴とする層状隔壁式封止物品。
8.前記隔壁膜を構成する前記層状物質は、前記外壁膜を構成する前記層状物質より導電性が低いか、又は構成原子の質量が小さい前記7.記載の層状隔壁式封止物品。
9.前記隔壁膜及び前記外壁膜を構成する前記層状物質は、それぞれ原子層からなる前記7.又は8.に記載の層状隔壁式封止物品。
10.第1の層状物質からなる前記隔壁膜を介して、第1の試料を収容する第1収容部と第2の試料を収容する第2収容部とが隣り合っており、前記第1収容部の前記外壁膜は第2の層状物質からなり、前記第2収容部の前記外壁膜は第3の層状物質からなり、前記第1の層状物質は、前記第2の層状物質及び第3の層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さい前記7.乃至9.のいずれかに記載の層状隔壁式封止物品。
11.前記第2の層状物質及び前記第3の層状物質は同一物質である前記10.記載の層状隔壁式封止物品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の反応観察方法によれば、異なる層状物質からなる隔壁膜と外壁膜との間にそれぞれ封止される複数の試料間の反応又は混合の挙動を観察する方法であって、観察対象とする2つの試料の少なくとも一方は液状であり、その2つの試料は、隔壁膜の一部を隔壁部として共有して隔壁部を介して隣接するように収容されており、隔壁膜を構成する層状物質は、外壁膜を構成する層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さく、外部から隔壁部に向けて荷電粒子線を照射することにより隔壁部を開孔させることができる。これにより、層状物質からなる膜を積層させ、それらの膜の間に、試料として異なる溶液、固体もしくはその混合物を封止し、大気中、真空中を問わず各試料を安定な状態に保つことができる。そして、任意のタイミングで、外部から外壁膜を通して、2つの試料を隔てる隔壁部に向けて荷電粒子線を照射することにより、荷電粒子線に対する強度が高い外壁膜を損傷することなく、2つの試料を隔てる隔壁部のみを開孔させて、開孔を通して生じる試料間の反応又は混合の挙動をリアルタイムで観察することができる。試料を収容する各層状物質は、1又は複数の原子層から構成することができ、ほぼ透明であるため、例えば透過型電子顕微鏡を用いて反応を観察することが容易である。これにより、従来は観察対象にできなかった有機反応、有機金属反応、中和反応、酸化還元反応、触媒反応等の科学反応や薬剤作用等の現象が、高分解能で直接に観測可能となる。
また、2種類の試料間の反応に限らず、3以上の試料がそれぞれ層状物質により封止されている場合も、各試料によって生じる反応を順次観察することができる。例えば、第1の試料、第2の試料及び第3の試料が別々に封止されており、第1の試料と第2の試料とが層状物質(隔壁膜)を介して隣接しており、第2の試料と第3の試料とが別の層状物質(隔壁膜)を介して隣接していれば、はじめに、第1の試料と第2の試料との間の層状物質のみを開孔させて反応を観察した後、第2の試料と第3の試料との間の層状物質を開孔させ、第1の試料と第2の試料との混合で得られた反応生成物と、第3の試料との反応を観察するといった多段階の観察を行うことができる。
【0008】
前記隔壁膜を構成する前記層状物質は、前記外壁膜を構成する前記層状物質より導電性が低いか、又は構成原子の質量が小さい場合には、外壁膜の荷電粒子線に対する強度を隔壁膜より強くすることができ、導電性又は構成原子の質量に基づいて隔壁膜及び外壁膜を構成する各層状物質を選択することが可能になる。
【0009】
また、本発明の層状隔壁式封止物品によれば、異なる層状物質からなる隔壁膜と外壁膜との間にそれぞれ試料を封止する複数の収容部を備え、前記試料の少なくとも一つは液状であり、相互に隣接する前記収容部は前記隔壁膜の一部を隔壁部として共有する構造を有するため、各収容部を構成する層状物質からなる膜の間に、試料として異なる溶液、固体もしくはその混合物を封止し、大気中、真空中を問わず安定な状態を保つことができる。また、隔壁膜を構成する層状物質は、外壁膜を構成する層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さいため、外部から2つの試料を隔てる隔壁部に向けて荷電粒子線を照射することにより、収容部の外壁膜を損傷することなく、2つの試料を隔てる隔壁部のみを開孔させて、開孔を通して生じる試料間の反応又は混合の挙動をリアルタイムで観察することが可能になる。収容部を構成する各層状物質は、1又は複数の原子層から構成することができる。これにより、本層状隔壁式封止物品は前記反応観察方法に最適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述によって更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】層状隔壁式封止物品の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本開示の観察方法において、層状隔壁式封止物品の隔壁部に対する荷電粒子線の照射を説明するための模式図である。
【
図3】本開示の観察方法において、層状隔壁式封止物品に荷電粒子線を照射した後、層状物質からなる隔壁膜の隔壁部に開孔部が形成されたことを示す説明図である。
【
図4】層状物質からなる隔壁膜の隔壁部に荷電粒子線を照射して、照射部を開孔させる態様を説明するための図であり、(A)は、荷電粒子線の照射を示し、(B)は、形成される開孔部を示す。
【
図5】層状隔壁式封止物品の構造の変形例を示す概略断面図である。
【
図6】
図1の層状隔壁式封止物品の製造方法の一部を説明する断面図である。
【
図7】
図1の層状隔壁式封止物品の製造方法の一部を説明する断面図である。
【
図8】
図1の層状隔壁式封止物品の製造方法の一部を説明する断面図である。
【
図9】グラフェンを基板に直接転写する方法を説明する模式図である。
【
図10】前図の直接転写法を用いて層状隔壁式封止物品を製造する方法の一部を説明する模式図である。
【
図11】各種層状物質の荷電粒子線に対する概略の強度(導電性及び質量の大きさ)を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照しながら、本発明を詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0012】
本実施形態に係る反応観察方法は、異なる層状物質からなる隔壁膜と外壁膜との間にそれぞれ封止される複数の試料間の反応又は混合の挙動を観察する方法であって、観察対象とする2つの試料の少なくとも一方は液状であり、前記2つの試料は、前記隔壁膜の一部を隔壁部として共有して該隔壁部を介して隣接するように収容されており、前記隔壁膜を構成する前記層状物質は、前記外壁膜を構成する前記層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さく、外部から前記隔壁部に向けて荷電粒子線を照射することにより該隔壁部を開孔させ、該開孔部を通して生じる試料間の反応又は混合の挙動を観察することを特徴としている。
反応させる試料の数は2つに限らず、3以上の試料がそれぞれ層状物質の間に封止されるように積層しておくことができる。以下では、簡単のため、試料が2つである場合を例として説明する(
図1~3参照)。
【0013】
2つの試料間の反応又は混合の挙動を観察するには、第1の層状物質からなる隔壁膜(11)を介して第1の試料(20)と第2の試料(30)とが隣り合って収容されており、第1の試料(20)を封止する外壁膜(12)は第2の層状物質からなり、第2の試料(30)を封止する外壁膜(13)は第3の層状物質からなり、第1の試料(20)と第2の試料(30)とは隔壁膜(11)の一部である隔壁部(15)を介して隣り合うように構成される。また、第1の層状物質は、第2の層状物質及び第3の層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さい材料からなる。すなわち、第1の材料(20)は、第1の層状物質からなる隔壁膜(11)と、照射される荷電粒子線に対する強度が第1の層状物質より大きい第2の層状物質からなる外壁膜(12)との間に封止されている。一方、第2の試料(30)は、隔壁膜(11)と、荷電粒子線に対する強度が第1の層状物質より大きい第3の層状物質からなる外壁膜(13)とにより封止されている。第1の試料(20)と第2の試料(30)とは、1つの隔壁膜(11)を共有しており、その一部を隔壁部(15)として、隔壁部(15)を介して隣り合うように封止されている。
そして、外壁膜(12又は13)を通して外側から隔壁部(15)に向けて荷電粒子線を照射することにより、外壁膜(12又は13)を損傷させることなく隔壁部(15)のみを開孔させ、開孔部(60)を通して生じる試料間の反応又は混合の挙動をリアルタイムに観察することができる。
【0014】
上記反応観察方法は、好適には、異なる層状物質からなる隔壁膜と外壁膜との間にそれぞれ試料を封止する複数の収容部を備え、隣接する収容部は隔壁膜の一部を隔壁部として共有する構造を有し、隔壁膜を構成する層状物質は、外壁膜を構成する層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さいように構成された層状隔壁式封止物品を用いて行うことができる。
最小の構成例として、2つの収容部を備える場合には、層状隔壁式封止物品(10)は、第1の層状物質からなる隔壁膜(11)を介して、第1の試料(20)を収容する第1収容部と第2の試料(30)を収容する第2収容部とが隣り合っており、第1収容部の外壁膜(12)は第2の層状物質からなり、第2収容部の外壁膜(13)は第3の層状物質からなり、第1の層状物質は、第2の層状物質及び第3の層状物質より荷電粒子線に対する強度が小さいように構成することができる。
【0015】
第1の試料(20)及び第2の試料(30)は、溶液、固体もしくはその混合物であり、少なくとも一方は液状材料である。液状材料は限定されず、例えば、1種又は2種以上の液体物質からなるもの、1種又は2種以上の物質が溶媒に溶解されてなるもの(水溶液又は有機溶液)、1種又は2種以上の物質が液体物質に溶解されずに含まれるもの(分散液等)、1種又は2種以上の物質が、水溶液又は有機溶液に溶解されずに含まれるもの(分散液等)等を挙げることができる。また、第1の試料(20)及び第2の試料(30)のいずれか一方が固体材料である場合、この固体材料は、塊状物であってよいし、小片(粉末、粒子等)の集合体であってもよい。
【0016】
前記層状隔壁式封止物品(10)は、第1の試料(20)及び第2の試料(30)がそれぞれ層状物質からなる隔壁膜及び外壁膜により別々に封止されており、かつ1つの隔壁膜を介して隣り合う構造を有している。
図1は、層状隔壁式封止物品(図中、符号10)の一例であり、3層の薄膜(隔壁膜11、外壁膜12、外壁膜13)が積層されて構成されており、その薄膜間に2つの試料(第1の試料20、第2の試料30)が封止されている。第1の試料20は、第1の層状物質からなる隔壁膜11と、荷電粒子線に対する強度が第1の層状物質より大きい第2の層状物質からなる外壁膜12とにより封止されている。即ち、隔壁膜11と外壁膜12との間に第1の試料20を収容する第1収容部(図中、符号無し)が形成されている。また、第2の試料30は、隔壁膜11と、荷電粒子線に対する強度が第1の層状物質より大きい第3の層状物質からなる外壁膜13とにより封止されている。即ち、隔壁膜11と外壁膜13との間に第2の試料30を収容する第2収容部(図中、符号無し)が形成されている。本例においては、第1収容部と第2収容部は1つの隔壁膜11を共有しており、隔壁膜11の一部を隔壁部15として、第1の試料20と第2の試料30とが隔壁部15を介して隣り合うように配置されている。
【0017】
尚、
図1に示された層状隔壁式封止物品10は、隔壁膜11、外壁膜12及び外壁膜13を、1枚ずつ用いた構造、即ち、1枚の隔壁膜11を挟んで、第1の試料20及び第2の試料30が別々に封止された構造を有するものであるが、本発明はこれに限定されず、隔壁膜11及び外壁膜12を1枚ずつ用いて形成された第1収容部と、隔壁膜11及び外壁膜13を1枚ずつ用いて形成された第2収容部とが備えられてもよい。即ち、第1収容部と第2収容部とは、隔壁部として2枚の隔壁膜11(積層膜)を介して隣り合う構造を有するものとしてもよい(図示せず)。
【0018】
第1の試料20及び第2の試料30をそれぞれ封止する各膜(隔壁膜11、外壁膜12、外壁膜13)は、いずれも層状物質(金属、半導体、絶縁体)からなる。各層状物質は、荷電粒子線(電子線)を透過させ、封止する試料の原子を透過させないものである限り問わないが、熱的、化学的、物理的に安定したものであることが好ましい。層状物質により、封止した第1の試料20及び第2の試料30を、真空中であるか大気中であるかを問わず、それぞれ漏れることなく保つことができる。
【0019】
このような層状物質としては、グラフェン、シリセン、ゲルマネン、スタネン、黒リン、六方晶窒化硼素(h-BN)、遷移金属ダイカルコゲナイド(MoS2、WS2、TaS2、HfS2、ReS2、TiS2、VS2、FeS、NbS2、SnS2、Bi2Se3、MoSe2、WSe2、TaSe2、HfSe2、ReSe2、TiSe2、VSe2、FeS、NbSe2、SnSe2、MoTe2、WTe2、TaTe2、HfTe2、ReTe2、TiTe2、VTe2、NbTe2、SnTe2、Bi2Te3等)等が挙げられる。
本実施形態における層状物質としては、グラフェン、六方晶窒化硼素、遷移金属ダイカルコゲナイド(特にMoS2、WS2)が好ましく、グラフェン及び六方晶窒化硼素が特に好ましい。
【0020】
隔壁膜11、外壁膜12及び外壁膜13を構成する各層状物質は、それぞれ原子の1層からなる原子層であることが好ましい。しかし、数層から構成されていても透過電子顕微鏡による観察において通常影響は少ないため、層状物質は、それぞれ原子の複数層から構成されていてもよい。
隔壁膜11、外壁膜12及び外壁膜13の厚さは、層状物質の種類により異なるが、例えば、グラフェン及び六方晶窒化硼素の原子層の厚さは、約0.34nmであり、遷移金属ダイカルコゲナイドの原子層の厚さは、約1.8nmである。
【0021】
層状隔壁式封止物品10において、外壁膜12を構成する第2の層状物質は、隔壁膜11を構成する第1の層状物質よりも荷電粒子線に対する強度が大きく、外壁膜13を構成する第3の層状物質もまた、隔壁膜11を構成する第1の層状物質よりも荷電粒子線に対する強度が大きくなるように選択される。
本実施形態の観察方法では、隔壁膜11、外壁膜12及び外壁膜13を備える層状隔壁式封止物品10の外部から、外壁膜12又は13を通して、隔壁膜11の隔壁部15に向けて荷電粒子線を照射する(
図2参照)。このとき、外壁膜12及び外壁膜13は隔壁膜11よりも荷電粒子線に対する強度が大きいため、荷電粒子線の照射により外壁膜12及び外壁膜13を破壊することなく、隔壁膜11のみに開孔部60を形成することが可能になる(
図3参照)。隔壁膜11のみに開孔を形成するための荷電粒子線の照射条件の設定も容易である。
【0022】
より具体的には、第2の層状物質及び第3の層状物質として、それぞれ、第1の層状物質より導電性(電気伝導度)が高いか、あるいは、構成原子の質量が大きい物質を選択することができる。
導電性が互いに異なる層状物質からなる2つの薄膜に、同じ条件の荷電粒子線をそれぞれ照射した場合、導電性が高い層状物質(例えば、グラフェン)ではチャージアップ(電荷が溜まる現象)が発生しにくく、チャージアップに起因するような化学反応が発生しにくくなる。一方、導電性が低い層状物質(例えば、六方晶窒化硼素)では、チャージアップにより開孔の形成が促進される。このため、荷電粒子線の照射により第2の層状物質(外壁膜12)及び第3の層状物質(外壁膜13)を破壊することなく、導電性が低い第1の層状物質(隔壁膜11)のみに開孔を形成することができる。
【0023】
また、互いに構成原子の質量が異なる層状物質からなる2つの薄膜に、同じ条件の荷電粒子線をそれぞれ照射した場合、質量が軽い(原子番号が小さい)原子を含む薄膜では、軽い原子がノックオン(叩き出し)されやすいため、構成原子の質量が小さい一方の層状物質のみを開孔させることが可能である。よって、隔壁膜11を構成する物質の質量が、外壁膜12及び外壁膜13を構成する物質の質量よりも小さくなるように層状物質を選択すれば、荷電粒子線の照射により、外壁膜12及び外壁膜13を破壊することなく、隔壁膜11のみに開孔を形成することができる。
【0024】
図11は、各種の層状物質について、導電性(電気伝導性)及び構成原子の質量(原子番号)の分布傾向を表している。前記のとおり、照射される荷電粒子線(電子線)に対する強度は、層状物質の導電性が高いほど高く、層状物質を構成する原子の質量が大きい(原子番号が大きい)ほど高い。電気伝導性は、グラフェン、遷移金属ダイカルコゲナイド(NbS
2、NbSe
2、NbTe
2等)の順に高く、六方晶窒化硼素は電気伝導性が低い。また、層状物質を構成する原子の質量が大きい方から並べると、遷移金属ダイカルコゲナイド、グラフェン、六方晶窒化硼素の順となる。よって、第1の層状物質(隔壁膜11)、第2の層状物質(外壁膜12)及び第3の層状物質(外壁膜13)を構成するための好ましい材料として、
図11に例示された材料から荷電粒子線に対する強度の異なる2種類を選択することができる。
【0025】
例えば、第1の層状物質が遷移金属ダイカルコゲナイドである場合、第2の層状物質及び第3の層状物質は、いずれも、好ましくはグラフェンとすることができる。また、第1の層状物質が六方晶窒化硼素である場合、第2の層状物質及び第3の層状物質は、いずれも、好ましくはグラフェン又は遷移金属ダイカルコゲナイドとすることができる。本実施形態において、特に好ましくは、外壁膜12を構成する第2の層状物質、及び、外壁膜13を構成する第3の層状物質は、いずれもグラフェンであり、隔壁膜11を構成する第1の層状物質は六方晶窒化硼素である。
【0026】
荷電粒子線の照射条件は、隔壁膜11、外壁膜12及び外壁膜13を構成する層状物質の種類により、適宜選択される。荷電粒子線は電子線とすることができる。荷電粒子線が電子線である場合、照射条件として電子線の加速電圧、照射密度、照射時間等を調整することにより、導電性及び原子の質量のうち少なくとも一方が異なる層状物質の薄膜に対して、選択的に開口部を形成することができる。
外壁膜12を構成する第2の層状物質及び外壁膜13を構成する第3の層状物質は、同一であってよいし、異なっていてもよい。第2の層状物質及び第3の層状物質が同一物質である場合には、所定強度の荷電粒子線の照射により、開孔部を隔壁膜11のみに確実に形成することが容易である。
また、層状隔壁式封止物品に3以上の収容部を積層して設ける場合には、相互に隣接する収容部を隔てる隔壁膜を構成するための層状物質、及び各収容部の外壁膜を構成するための層状物質を、荷電粒子線に対する強度に基づいて設定することにより、着目する収容部間の隔壁膜のみを選択して、順次開口させることができる。
【0027】
上記例示した層状物質のうち、グラフェン及び六方晶窒化硼素は、ファン・デル・ワールス力により容易に且つ十分に密着するため、第1収容部又は第2収容部を形成する材料として特に好ましい組み合わせである。例えば、隔壁膜11を六方晶窒化硼素からなるものとし、外壁膜12及び外壁膜13をグラフェンからなるものとして
図1の層状隔壁式封止物品10を作製した場合には、隔壁膜11及び外壁膜12により封止された第1の試料20と、隔壁膜11及び外壁膜13により封止された第2の試料30とを収容した層状隔壁式封止物品10の安定性に優れる。即ち、第1の試料20又は第2の試料30が外部に漏れ出てしまう等という問題はない。
【0028】
本実施形態において観察手段は限定されず、電子線、X線等、種々の微視手段を適用して、第1の試料20と第2の試料30との反応又は混合の挙動を観察することが可能である。観察に電子顕微鏡を用いる場合、透過型電子顕微鏡が好ましい。
電子顕微鏡による観察においては、第1の試料20及び第2の試料30が収容された層状隔壁式封止物品10を電子顕微鏡装置の中に載置し、この電子顕微鏡装置に併設された荷電粒子源から、α線、β線、陽子線、電子線、イオンビーム等の荷電粒子線を層状隔壁式封止物品10の隔壁部15に向けて照射するようにすることができる。これによって、外壁膜12及び外壁膜13を開孔させず、隔壁膜11における隔壁部15のみを開孔させることができる。具体的には、電子顕微鏡装置の内部の所定位置に層状隔壁式封止物品10を載置した後、層状隔壁式封止物品10を構成する隔壁膜11の隔壁部15に焦点を合わせて、外壁膜12及び外壁膜13を透過する条件で、荷電粒子源(図示せず)から荷電粒子線50を照射し、隔壁部15を開孔させることができる。
【0029】
図2は、層状隔壁式封止物品10の上方から荷電粒子線50を照射することを示す模式図である。第2の層状物質からなる外壁膜12、及び第3の層状物質からなる外壁膜13を開孔させない条件で照射された荷電粒子線50は、外壁膜12を開孔することなくこれを透過し、隔壁膜11上の隔壁部15における荷電粒子線照射部を開孔させる。
図3は、隔壁部15において荷電粒子線照射部に開孔部60が形成されることを示す模式図である。開孔部60が形成されると同時に、その開孔部60を通して第1の試料20と第2の試料30とが接触することとなり、例えば、透過型電子顕微鏡により、両者の反応又は混合の挙動を観察することができる。
【0030】
荷電粒子線50を照射する方法として、層状隔壁式封止物品10及び荷電粒子源を固定した状態で隔壁部15における特定の位置に照射する方法、荷電粒子源からの荷電粒子線が、層状隔壁式封止物品10における特定の位置の隔壁部15に照射される一方、
図2に示された外壁膜12における荷電粒子線50の通過部が可変となるように層状隔壁式封止物品10を回転等させながら照射する方法等を適用することができる。
【0031】
荷電粒子線50の照射強度やビーム径、照射時間等は、第1の試料20及び第2の試料30の性状により選択することができる。例えば、いずれか一方の材料が分散質を含む分散液からなる液状材料である場合には、分散質が開孔部60を通過できるようにするために、開孔部60の開孔径を分散質の最大粒径より大きく形成するように荷電粒子線50を照射することが好ましい。
荷電粒子線50の照射により形成された開孔部60では、第1の試料と第2の試料とが瞬時に接触し、これらが反応又は混合されるので、電子顕微鏡により連続撮影をする等により、これらの挙動を観察することができる。
【0032】
図4は、隔壁膜11に荷電粒子線50を照射して、照射部60を開孔させる態様を説明する模式図である。同図では、外壁膜12及び外壁膜13は省略している。例えば、好ましい層状物質の1つである六方晶窒化硼素からなる隔壁膜11に、同図(A)に示すように荷電粒子線50を照射すると、同図(B)に示すように開孔部60が形成される。荷電粒子線照射部では、窒化硼素の結合が破断され、窒素原子及び硼素原子の一部が脱離して開孔部60が形成される。
【0033】
前記層状隔壁式封止物品10を変形することにより、例えば、互いに異なる3種以上の試料を用いた反応挙動の観察を行うことができる。
図5は、第1膜11、第2膜12、第3膜13及び第4膜14を用いて作製された層状隔壁式封止物品100を示している。第1の試料20、第2の試料30及び第3の試料40が、この順に、隣り合って封止されている。層状隔壁式封止物品100においては、第1の試料20を収容する第1収容部(図中、符号無し)と、第2の試料30を収容する第2収容部(図中、符号無し)と、第3原料40を収容する第3収容部(図中、符号無し)とが、この順に隣接されている。第1収容部は、第1膜(隔壁膜)11及び第2膜(外壁膜)12により封止された部分であり、第2収容部は、第1膜(隔壁膜)11及び第3膜(隔壁膜)13により封止された部分であり、第3収容部は、第3膜(隔壁膜)13及び第4膜(外壁膜)14により封止された部分である。
このような層状隔壁式封止物品100を用いて、はじめに、第1収容部及び第2収容部の間の第1膜11の隔壁部における荷電粒子線照射部のみを開孔させ、第1の試料20と第2の試料30との反応生成物を得ることができる。その後、第2収容部及び第3収容部の間の第3膜13の隔壁部における荷電粒子線照射部を開孔させ、前記反応生成物と第3の試料40との反応を観察するといった2段階(多段階)の観察方法に応用することができる。
【0034】
層状隔壁式封止物品は、層状物質を積層させ、その層間に、所望の溶液や固体もしくはその混合物を封止する構造を有する。この層状隔壁式封止物品の作製方法は特に限定されない。以下、
図6、
図7及び
図8を参照しつつ、第1の試料20及び第2の試料30の両方が液状材料である場合を例として、層状隔壁式封止物品10(
図1)の作製方法について説明する。
はじめに、
図6に示すように、容器71に収容された第1の試料20の中に、隔壁膜11となる第1の層状物質を浮かせ、外壁膜12となる第2の層状物質を浸しておく。この状態から、外壁膜12を隔壁膜11に接近させるか、あるいは、隔壁膜11を、第1の試料20の液中に沈めて外壁膜12に接近させ、隔壁膜11と外壁膜12との間に、適量の第1の試料20が封止されるように、周縁を密着させて、
図7に示す第1の試料封止体18を作製する。容器71から取り出した第1の試料封止体18は、必要により、隔壁膜11及び外壁膜12の変形、変質等を引き起こさない液状媒体により洗浄する。
次に、
図8に示すように、第2の試料30を収容した容器73の中に、外壁膜13となる第3の層状物質を浸しておき、隔壁膜11が第2の試料30の液に面するように、第1の試料封止体18を浮かせる。そして、この状態から、外壁膜13を、第1の試料封止体18の隔壁膜11に接近させるか、あるいは、第1の試料封止体18を、第2の試料30の液中に沈めて外壁膜13に接近させ、隔壁膜11と外壁膜13との間に、適量の第2の試料30が封止されるように、周縁を密着させる。これにより、
図1に示した層状隔壁式封止物品10を作製することができる。
尚、
図7の第1の試料封止体18は、他の方法で作製することもできる。例えば、第1の試料20を、マイクロシリンジ等を用いて隔壁膜11となる第1の層状物質の表面に滴下し、その後、外壁膜12となる第2の層状物質を用いて、第1の試料20の液滴を封止する方法等を適用することができる。
【0035】
図9-10に、層状隔壁式封止物品に用いる試料封止体の別の製造方法を示す。
図9は、基板(TEMグリッド)上にグラフェンを直接転写する方法を示している。先ず、化学蒸着(CVD)により銅基板上に高品質のグラフェンを成長させる。そして、エッチング溶液(FeCl
3)を用いて銅基板を除去し、エッチング溶液上に浮遊しているグラフェン膜にTEMグリッド(例えば、径2μmの貫通孔を有するSiN膜フィルム)を載せて直接転写する。銅の残渣は、塩酸溶液により除去することができる。次に、超純水を用いてグラフェンを洗浄する。また、水素プラズマ処理等により更に清浄化することもできる。これにより、TEMグリッド上に高品質且つ大面積のグラフェンを得ることができる。
【0036】
図10は、上記のようにTEMグリッド上に転写されたグラフェンを用いて、別のグラフェン又は層状物質との間に、サンドイッチ構造で試料を封止する方法を示している。このため、エッチング溶液に別のグラフェン又は層状物質の膜を浮かせ、その膜上に噴霧器等を用いて試料を噴霧したり、試料を滴下したりすることが可能である。そして、浮遊するグラフェン又は層状物質の膜に、TEMグリッド上のグラフェンを密着させることにより、噴霧等された微小な液滴を、TEMグリッド上のグラフェンと別のグラフェン又は層状物質との間に閉じ込めることができる。
以上のような直接転写を利用した試料封止体の製造方法によれば、層状隔壁式封止物品に用いる試料封止体を効率的に作製することができる。また、層状隔壁式封止物品を多層に構成する場合も、以上のような作製プロセスを繰り返すだけでよい。
【0037】
尚、本発明においては、以上に示した実施形態に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した態様とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の反応観察方法及び層状隔壁式封止物品は、それぞれ層状物質により封止された複数の試料間の反応又は混合の挙動を観察する方法に好適に用いられる。例えば、液体どうしの反応又は混合の挙動、1の液体に、他の液体又は固体が溶解する挙動、1の液体と、他の液体又は固体とが反応する挙動、液体が固体に吸着する挙動等の観察に好適である。これにより、有機反応や有機金属反応、中和反応、酸化還元反応、触媒反応、薬剤反応等、種々の反応の観察が可能になる。また、特定の物質の表面に対する薬品の作用等も観察可能になる。
【符号の説明】
【0039】
10、100:層状隔壁式封止物品、11:隔壁膜(第1膜)、12:外壁膜(第2膜)、13:外壁膜又は隔壁膜(第3膜)、14:外壁膜(第4膜)、15:隔壁部、18:第1の試料封止体、20:第1の試料、30:第2の試料、40:第3の試料、50:荷電粒子線、60:開孔部、71、73:容器。