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特許7085479打音の低減された熱可塑性樹脂組成物及び成形体
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  • 特許-打音の低減された熱可塑性樹脂組成物及び成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】打音の低減された熱可塑性樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20220609BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C08L51/04
C08L9/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018533496
(86)(22)【出願日】2017-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2017028747
(87)【国際公開番号】W WO2018030398
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2016156694
(32)【優先日】2016-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】野村 博幸
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-137066(JP,A)
【文献】特開2011-137067(JP,A)
【文献】特開2011-168186(JP,A)
【文献】特開2013-040237(JP,A)
【文献】特開平09-272780(JP,A)
【文献】特開平11-236481(JP,A)
【文献】特開昭57-076047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム強化樹脂(A1)及び、
熱可塑性エラストマーから選ばれた打音低減材(B)
を含有し、
前記ゴム強化樹脂(A1)は、ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1)と、芳香族ビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを含み、
前記ゴム質部分(a1)が、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体に由来する部分を含み、
前記熱可塑性エラストマーは、tanδの主分散ピークが-30~+50℃の範囲にある重合体、または、tanδの主分散ピークが-30~+50℃の範囲にある重合体部分をその分子構造中に有する重合体であって、1,2-結合および/もしくは3,4-結合を含む共役ジエン系重合体部分またはその水素化物を含む、
熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゴム質部分(a1)が、さらに、ジエン系ゴム質重合体に由来する部分を含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ゴム含量が5~60質量%である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーの含量が、前記熱可塑性樹脂組成物全体を100質量%として0.1~20質量%である、請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ISO178に従って測定した曲げモジュラスが1850MPa以上であり、かつ、下記の条件で測定した場合に、20~20,000Hzの周波数域の音圧の最大値が2.0Pa/N以下である、請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
測定条件:
縦120mm、横60mm、厚さ3mmの矩形本体の上端に上底20mm、下底40mm、高さ8mm、厚さ1.5mmの台形状の突起を備えた形状の一体成形品である試験片の前記突起に2本の糸をテープで貼り付けて吊り下げた状態で、前記試験片の一方の面の中央をステンレス製のハンマーで20±5Nの力で叩いた時の響きを、前記面に対して垂直方向に12cm離して設置した音圧マイクロホンで集音して求めた音圧の周波数スペクトルに基づいて測定。
【請求項6】
前記最大音圧を与える周波数が8,000Hz以下である請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
ジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ測定装置SSP-02を使用して測定される異音リスク値が、以下の測定条件において3以下である請求項又はに記載の熱可塑性樹脂組成物。
測定条件:
縦60mm、横100mm、厚さ4mmの試験片、及び、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片を用意し、温度23℃、湿度50%RH、荷重40N、速度10mm/秒、振幅20mmで3回、前者の試験片の面と後者の試験片の面とを擦り合わせて測定。
【請求項8】
請求項1~の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い剛性を備えるだけでなく、打音の発生が抑制された成形体を提供し得る熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂などのゴム強化樹脂は、その優れた機械的性質、耐熱性、成形性により自動車内装部品等の車両部品の成形材料として広範囲に使用されている。
【0003】
樹脂で車両部品を成形する場合、一定以上の機械的強度を充足するだけでなく、車両室内での居住性の関係から、部品から発生する騒音を低下させ、車両の静粛性を向上させることが一層求められている。
【0004】
従来、ゴム成分としてエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体を用いたゴム強化樹脂で自動車内装部品を成形することで、機械的強度を一定水準に維持しつつ、部品同士が接触することにより発生する軋み音を防止することは既に行われている(特許文献1)が、「ラトル(rattle)」と呼ばれる打音のような騒音を抑制することについては未解決であった。
【0005】
一方、従来、難燃性ゴム強化樹脂にエラストマー性ブロック重合体を配合することにより制振性を付与することが行われている(特許文献2)が、片持ち梁共振法によって、25℃での2次共振周波数における損失係数を評価しているに過ぎず、打音のような騒音を抑制することについては何ら検討していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-112812号公報
【文献】特開2001-158841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、車両部品等に求められる機械的強度を充足するために一定以上の剛性を発現するように樹脂を改良した場合、樹脂成形品から発生する打音が目立つようになることを見出した。
そこで、本発明の目的は、高い剛性を備えるだけでなく、打音の発生が抑制された成形品を提供し得る熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、樹脂成形品の打音の周波数スペクトルの最大音圧を低下させるか、又は、該周波数スペクトルのピーク周波数を低い周波数にシフトさせることにより、樹脂成形品の剛性を一定水準に維持しつつ、樹脂成形品から発生する打音を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明の一局面によれば、ISO178に従って測定した曲げモジュラスが1850MPa以上であり、かつ、下記の条件で測定した場合に、20~20,000Hzの周波数域の音圧の最大値が2.0Pa/N以下である熱可塑性樹脂組成物が提供される。
測定条件:
縦120mm、横60mm、厚さ3mmの矩形本体の上端に上底20mm、下底40mm、高さ8mm、厚さ1.5mmの台形状の突起を備えた形状の一体成形品である試験片の前記突起に2本の糸をテープで貼り付けて吊り下げた状態で、前記試験片の一方の面の中央をステンレス製のハンマーで20±5Nの力で叩いた時の響きを、前記面に対して垂直方向に12cm離して設置した音圧マイクロホンで集音して求めた音圧の周波数スペクトルに基づいて測定。
また、上記課題を解決する熱可塑性樹脂組成物として、本発明の他の局面によれば、ゴム強化樹脂(A1)及び、ポリプロピレン系樹脂及び熱可塑性エラストマーから選ばれた打音低減材(B)を含有し、前記ゴム強化樹脂(A1)は、ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1)と、芳香族ビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを含み、 前記ゴム質部分(a1)が、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体に由来する部分を含む、熱可塑性樹脂組成物が提供される。
また、本発明のさらに他の局面によれば、上記熱可塑性樹脂組成物からなる成形体が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂組成物の剛性やきしみ音の発生と打音の発生は必ずしも連動したものではないことが明らかとなった。かくして、この知見に基づき、樹脂成形品の打音の周波数20~20,000Hzの周波数域の音圧の最大値を2.0Pa/N以下に維持した場合に、樹脂成形品の剛性を一定水準以上に維持したまま、打音の耳障りな成分を目立たなくすることができ、かくして、打音を抑制することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明において打音の測定に使用した試験片を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び/又は共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
また、JIS K 7121-1987に準じて測定した融点(本明細書において、「Tm」と表記することもある)は、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値である。
【0013】
1.本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)
本発明の熱可塑性樹脂組成物(本明細書では「成分(X)」ともいう)は、ISO178に従って測定した曲げモジュラスが1850MPa以上を備え、上記条件で測定した場合に、20~20,000Hzの範囲内の音圧の最大値が2.0Pa/N以下である熱可塑性樹脂組成物であれば特に限定されない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)としては、例えば、ISO178に従って測定した曲げモジュラスが1850MPa以上の熱可塑性樹脂(A)に、打音低減材(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物(X)が挙げられる。前記熱可塑性樹脂(A)の例としては、ゴム強化樹脂(A1)などが挙げられる。ゴム強化樹脂の例としては、ABS樹脂、AES樹脂等のゴム強化芳香族ビニル系樹脂が挙げられる。また、ゴム強化樹脂(A1)は、他の樹脂(A2)とのアロイであってもよい。他の樹脂(A2)の例としては、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。
【0014】
前記熱可塑性樹脂(A)としては、とりわけ、ジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ測定装置SSP-02を使用して測定される異音リスク値が、以下の測定条件において3以下を示すものが好ましい。
測定条件:
縦60mm、横100mm、厚さ4mmの試験片、及び、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片を用意し、温度23℃、湿度50%RH、荷重40N、速度10mm/秒、振幅20mmで3回、前者の試験片の面と後者の試験片の面とを擦り合わせて測定。
異音リスク値は、ドイツ自動車工業会(VDA)規格準拠の仕様にて、同一の材質で接触部材を作製した時のスティックスリップ異音発生リスクを10段階の指数で示したものであり、上記異音レベルが3以下なら合格とされている。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)に含まれる前記熱可塑性樹脂(A)だけでなく、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)自体が、上記異音リスク値3以下を示すものである場合、打音の発生だけでなく、きしみ音の発生も抑制できるので、音響的に高品質の成形品を提供することができる。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、耐衝撃性等の機械的特性、及び、打音やきしみ音等の音響特性の観点から、ゴム強化樹脂(A1)を含有することが好ましく、熱可塑性樹脂組成物(X)全体を100質量%とした場合に、ゴム含量が5~60質量%であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物(X)が結晶性を有すると、又は、結晶性を有する成分を含有すると、きしみ音の発生を抑制する効果がさらに優れて好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂組成物(X)は、JIS K 7121-1987に準じて測定した融点が0~120℃の範囲にあることが好ましく、10~90℃の範囲がより好ましく、20~80℃の範囲がさらにより好ましい。尚、上記のように、融点(Tm)は、JIS K 7121-1987に準じて得られるが、0~120℃の範囲における吸熱パターンのピークの数は、一つに限定されず、二つ以上でもよい。また、0~120℃の範囲に見られるTm(融点)は、ゴム強化樹脂(A1)、特にゴム質部分(a1)に由来するものであってよく、または、ゴム強化樹脂(A1)に関連して下記する添加剤、例えば、数平均分子量が10,000以下といった低分子量のポリオレフィンワックス等の摺動性付与剤に由来するものであってもよい。なお、該摺動性付与剤は、ゴム強化樹脂(A1)に添加されたものであっても、熱可塑性樹脂組成物(X)に直接添加されたものであってもよい。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、高い機械的強度を保持していることが好ましい。したがって、熱可塑性樹脂組成物(X)は、荷重たわみ温度(1.8MPa)が70℃以上であることが好ましく、ロックウェル硬さが98以上であることが好ましく、引張強度が35MPa以上であることが好ましく、曲げ強度が45MPa以上であることが好ましい。
【0018】
1-1.ゴム強化樹脂(A1)
ゴム強化樹脂(A1)は、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)の基礎樹脂である熱可塑性樹脂(A)として好適に使用され、上述のとおり、熱可塑性樹脂組成物(X)に良好な機械的特性及び音響特性を付与するのに好適に使用される。また、ゴム強化樹脂(A1)は、上記熱可塑性樹脂組成物(X)が有するきしみ音等の異音の発生を抑制する機能をさらに優れたものとするため、結晶性を有することが好ましい。具体的には、JIS K 7121-1987に準じて測定した融点が0~120℃の範囲にあることが好ましく、10~90℃の範囲がより好ましく、20~80℃の範囲がさらにより好ましい。
【0019】
ゴム強化樹脂(A1)としては、例えば、ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1)と、ビニル系単量体、好ましくは芳香族ビニル系単量体に由来する構成単位を含む樹脂部分(a2)とからなるゴム強化樹脂(A1)を用いることができる。ゴム質部分(a1)は樹脂部分(a2)がグラフト重合したグラフト共重合体を形成していることが好ましい。したがって、ゴム強化樹脂は、上記グラフト共重合体と、ゴム質部分(a1)にグラフト重合していない樹脂部分(a2)とから少なくとも構成されることが好ましく、さらに、樹脂部分(a2)がグラフトしていないゴム質部分(a1)、又は、添加剤等のその他の成分を含んでもよい
【0020】
上記ゴム質部分(a1)は、25℃でゴム質(ゴム弾性を有する)であれば、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。また、上記ゴム質部分(a1)は、ジエン系重合体(以下、「ジエン系ゴム」という)及び非ジエン系重合体(以下、「非ジエン系ゴム」という)のいずれから構成されてもよい。また、これらの重合体は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。このうち、本発明においては、耐衝撃性向上の点から、上記ゴム質部分(a1)の少なくとも一部がジエン系ゴムから構成されることが好ましい。また、打音やきしみ音等の異音の抑制効果の点から、上記ゴム質部分(a1)の少なくとも一部が非ジエン系ゴムから構成されることが好ましく、上記ゴム質部分(a1)の全部が非ジエン系ゴムから構成されることが特に好ましい。
【0021】
非ジエン系ゴムとしては、エチレン・α-オレフィン系ゴム;ウレタン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーンゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム;共役ジエン系化合物に由来する構造単位を含む(共)重合体を水素添加してなる水素添加重合体(但し、水素添加率は50%以上)等が挙げられる。この水素添加重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0022】
本発明においては、打音やきしみ音等の異音の抑制効果の点から、上記非ジエン系ゴムとして、エチレン・α-オレフィン系ゴムを使用することが好ましい。エチレン・α-オレフィン系ゴムは、エチレンに由来する構造単位と、α-オレフィンに由来する構造単位とを含む共重合体ゴムである。α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらのα-オレフィンは、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。α-オレフィンの炭素原子数は、耐衝撃性の観点から、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、更に好ましくは3~8である。エチレン・α-オレフィン系ゴムにおけるエチレン:α-オレフィンの質量比は、通常5~95:95~5、好ましくは50~95:50~5、より好ましくは60~95:40~5である。エチレン:α-オレフィンの質量比が上記範囲にあると、得られる成形品の耐衝撃性がさらに優れて、好ましい。エチレン・α-オレフィン系ゴムは、必要に応じて、非共役ジエンに由来する構造単位を含んでもよい。非共役ジエンとしては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類が挙げられ、好ましくは5-エチリデン-2-ノルボルネンおよびジシクロペンタジエンである。これらの非共役ジエンは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。非共役ジエンに由来する構造単位の、非ジエン系ゴム全体に対する割合は、通常0~10質量%、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~3質量%である。
【0023】
本発明においては、エチレン・α-オレフィン系ゴムとして、融点(Tm)が0~120℃のものを使用することが好ましい。エチレン・α-オレフィン系ゴムのTm(融点)は、より好ましくは10~90℃、さらにより好ましくは20~80℃である。エチレン・α-オレフィン系ゴムが融点(Tm)を有するということは、該ゴムが結晶性を有することを意味する。したがって、かかる融点(Tm)を備えるエチレン・α-オレフィン系ゴムを使用することで、上記熱可塑性樹脂組成物(X)に0~120℃の範囲で融点を発現させ、打音やきしみ音等の異音抑制効果をさらに優れたものとすることができる。ゴム強化樹脂(A1)がかかる結晶性を有すると、スティックスリップ現象の発生が抑制されるため、その成形品と他の物品とが動的に接触した場合、きしみ音等の異音の発生が抑制されると考えられる。尚、スティックスリップ現象は、特開2011-174029公報等に開示されている。
【0024】
エチレン・α-オレフィン系ゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃;JIS K 6300-1に準拠)は、通常5~80、好ましくは10~65、より好ましくは10~45である。ムーニー粘度が上記範囲にあると、成形性が優れる他、成形品の衝撃強度及び外観がさらに優れて、好ましい。
【0025】
エチレン・α-オレフィン系ゴムは、打音、軋み音等の異音発生の低減の観点から、非共役ジエン成分を含有しないエチレン・α-オレフィン共重合体が好ましく、これらのうち、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体がさらに好ましく、エチレン・プロピレン共重合体が特に好ましい。
【0026】
ゴム強化樹脂(A1)のゴム質部分(a1)は、剛性等の機械的強度の観点から、上記非ジエン系ゴムに加えて、上記ジエン系ゴムを含むことが好ましい。上記ゴム強化樹脂(A1)のゴム質部分(a1)が、非ジエン系ゴムに加えて、上記ジエン系ゴムから構成されていると、熱可塑性樹脂組成物(X)の成形性及び耐衝撃性、並びに、得られる成形品の外観がさらに十分なものとなる。
【0027】
ジエン系ゴムとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。該ジエン系ゴム質重合体は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。
【0028】
本発明において、ゴム強化樹脂(A1)中のゴム質部分(a1)の含有量即ちゴム含量は、ゴム強化樹脂(A1)全体100質量%に対して、好ましくは3~80質量%、より好ましくは3~75質量%、さらに好ましくは4~70質量%、さらに好ましくは5~70質量%、特に好ましくは7~65質量%である。ゴム含量が前記範囲にあると、熱可塑性樹脂組成物(X)の耐衝撃性、打音やきしみ音等の異音の低減効果、寸法安定性、及び成形性等がさらに優れて好ましい。
【0029】
ゴム強化樹脂(A1)の樹脂部分(a2)は、ビニル系単量体に由来する構造単位からなり、該ビニル系単量体は特に限定されるものではないが、芳香族ビニル化合物を含むことが好ましく、芳香族ビニル化合物と該芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物とから構成されてもよい。上記芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα-メチルスチレンが好ましい。
【0030】
芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物としては、好ましくは、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも1種が使用でき、さらに必要に応じて、これらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体も使用することができる。かかる他のビニル系単量体としては、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物等が挙げられ、これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0033】
上記マレイミド系化合物の具体例としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
上記カルボキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
ゴム強化樹脂(A1)中の上記芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量の下限値は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物に由来する構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは40質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは60質量%である。尚、上限値は、通常、100質量%である。
【0038】
ゴム強化樹脂(A1)の樹脂部分(a2)が構造単位として、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む場合、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、通常40~90質量%であり、好ましくは55~85質量%であり、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、10~60質量%であり、好ましくは15~45質量%である。
【0039】
ゴム強化樹脂(A1)は、例えば、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造することができる。この製造方法における重合方法は、上記グラフト共重合体が得られる限り特に限定されず、公知の方法を適用することができる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合方法とすることができる。これらの重合方法では、公知の重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を適宜使用することができる。
【0040】
上記製造方法では、通常、ビニル系単量体同士の(共)重合体がゴム質重合体にグラフト重合したグラフト共重合体と、ゴム質重合体にグラフト重合していないビニル系単量体同士の(共)重合体との混合生成物が得られる。場合により、上記混合生成物は、該(共)重合体がグラフト重合していないゴム質重合体を含むこともある。本発明のゴム強化樹脂(A1)は、ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1)とビニル系単量体に由来する構成単位を有する樹脂部分(a2)とからなり、ゴム質部分(a1)は樹脂部分(a2)がグラフト重合したグラフト共重合体を形成していることが好ましいので、上記のようにして製造されたグラフト共重合体と(共)重合体との混合生成物を、ゴム強化樹脂(A1)としてそのまま使用することができる。
【0041】
ゴム強化樹脂(A1)は、ゴム質重合体(a)の不存在下に、ビニル系単量体を重合することにより製造した(共)重合体(A’)を添加されたものであってもよい。この(共)重合体(A’)は、ゴム強化樹脂(A1)に添加されると、ゴム質部分(a1)にグラフト重合していない樹脂部分(a2)を構成することになる。
【0042】
上記のとおり、本発明で用いるゴム強化樹脂(A1)は、ゴム質部分(a1)が非ジエン系ゴムとジエン系ゴムの混合物であってもよい。このような複数のゴムを含有するゴム強化樹脂(A1)の製造方法としては、例えば、非ジエン系ゴム質重合体及びジエン系ゴム質重合体を含有するゴム質重合体(a)の存在下にビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造する方法の他、非ジエン系ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造したゴム強化樹脂と、ジエン系ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造したゴム強化樹脂とを混合する方法などによって得ることができる。
【0043】
ゴム強化樹脂(A1)のグラフト率は、通常10~150%、好ましくは15~120%、より好ましくは20~100%、特に好ましくは20~80%である。ゴム強化樹脂(A1)のグラフト率が前記範囲にあると、本発明の成形品の耐衝撃性がさらに良好となる。
【0044】
グラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)=((S-T)/T)×100 …(1)
上記式中、Sはゴム強化樹脂(A1)1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tはゴム強化樹脂(A1)1グラムに含まれるゴム質部分(a1)の質量(g)である。このゴム質部分(a1)の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法により求めることができる。
【0045】
グラフト率は、例えばゴム強化樹脂(A1)を製造する際のグラフト重合で用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるゴム強化樹脂(A1)のアセトンに可溶な成分(以下、「アセトン可溶分」ともいう)の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、通常0.05~0.9dl/g、好ましくは0.07~0.8dl/g、より好ましくは0.1~0.7dl/gである。極限粘度が前記範囲にあると、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がより良好となる。
【0047】
極限粘度[η]の測定は下記方法で行うことができる。まず、ゴム強化樹脂(A1)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
【0048】
極限粘度[η]は、例えば、ゴム強化樹脂(A1)をグラフト重合する際に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度、重合時間等を適宜選択することにより調整することができる。また、ゴム強化樹脂(A1)に、このアセトン可溶分の極限粘度[η]と異なる極限粘度[η]を備える(共)重合体(A’)を混合して調整することができる。
【0049】
ゴム強化樹脂(A1)は、摺動性付与剤及びその他の添加剤を含んでもよい。摺動性付与剤は、熱可塑性樹脂組成物(X)に摺動性を付与して本発明の成形品からなる物品の組み立てを容易にするだけでなく、使用時に本発明の成形品からなる物品から軋み音等の異音が発生するのを抑制する効果を付与することができる。摺動性付与剤の代表例としては、特開2011-137066号公報に記載されるような低分子量酸化ポリエチレン(c1)、超高分子量ポリエチレン(c2)、ポリテトラフルオロエチレン(c3)や、低分子量(例えば、数平均分子量10,000以下)ポリオレフィンワックス、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0050】
ポリオレフィンワックスとしては、融点が0~120℃に存在するポリエチレンワックス等が好ましい。また、このような融点を有するポリオレフィンワックスや、融点が0~120℃に存在するその他の添加剤をゴム強化樹脂(A1)に添加した場合、ゴム強化樹脂(A1)のゴム質部分が融点(Tm)を備えていなくても、軋み音等の異音の発生抑制効果を得ることができる。これらの摺動性付与剤は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの摺動性付与剤の配合量は、ゴム強化樹脂(A1)100質量部に対して、通常0.1~10質量部である。
【0051】
また、他の添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、老化防止剤、充填剤、帯電防止剤、難燃性付与剤、防曇剤、滑剤、抗菌剤、防かび剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、顔料(たとえば、赤外線吸収、反射能力を有する、機能性を付与した顔料も含む。)等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの添加剤の配合量は、ゴム強化樹脂(A)100質量部に対して、通常0.1~30質量部である。
【0052】
2.打音低減材(B)
本発明で使用する打音低減材(B)は、上記熱可塑性樹脂(A)に配合した時に、上記熱可塑性樹脂(A)の最大音圧を下げる効果を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂の他、スチレン-共役ジエン系共重合体などの熱可塑性エラストマーが挙げられる。さらに、打音低減材(B)は、周波数スペクトルの最大音圧を与える周波数(ピーク周波数)を低周波側にシフトさせる効果を有するものが好ましい。
【0053】
2-1.ポリプロピレン系樹脂
本発明の打音低減材(B)として使用できるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンを主成分とし、更にエチレンまたは炭素数4以上のα-オレフィンをコモノマーとして含有するランダムまたはブロック共重合体、並びにこれらの混合物等が挙げられる。
【0054】
ポリプロピレン系樹脂は、230℃ 2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が、通常0.1~200g/10分、好ましくは1~150g/10分、より好ましくは2~100g/10分で、GPCで測定した分子量分布(Mw/Mn)が、通常1.2~10、好ましくは1.5~8、より好ましくは2~6であり、融点(Tm)は、通常150~180℃、好ましくは165~175℃であり、ガラス転移点(Tg)は、通常-10~50℃、好ましくは0~40℃である。
【0055】
ポリプロピレン系樹脂は、上記のMFR、分子量分布および融点が満足されていれば、特にその製造法が限定されるものではないが、通常、チーグラー(ZN)触媒、またはメタロセン触媒を用いて製造される。
【0056】
チーグラー(ZN)触媒としては、高活性触媒が好ましく、特に、マグネシウム、チタン、ハロゲン、電子供与体を必須成分とする固体触媒成分と有機アルミニウム化合物を組み合わせた高活性触媒が好ましい。
【0057】
メタロセン触媒としては、ジルコニウム、ハフニウム、チタンなどの遷移金属にシクロペンタジエニル骨格を有する有機化合物、ハロゲン原子などが配位したメタロセン錯体と、アルモキサン化合物、イオン交換性珪酸塩、有機アルミニウム化合物などを組み合わせた触媒が有効である。
【0058】
プロピレンと共重合させるコモノマーとしては、エチレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-ペンテン-1等が挙げられる。これらコモノマー成分の含有量は、共重合体全体を100質量%として、通常0~15質量%、好ましくは0~10質量%である。これらのうち、好ましいものは、プロピレンとエチレンおよび/又はブテン-1とのブロック共重合体であり、特に好ましいものは、プロピレンとエチレンとのブロック共重合体である。
【0059】
反応系中の各モノマーの量比は経時的に一定である必要はなく、各モノマーを一定の混合比で供給することも可能であるし、供給するモノマーの混合比を経時的に変化させることも可能である。また、共重合反応比を考慮してモノマーのいずれかを分割添加することもできる。
【0060】
重合様式は、触媒成分と各モノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式の方法を採用することができる。具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるバルク法、溶液法、実質的に液体溶媒を用いず各モノマーを実質的にガス状に保つ気相法などを採用することができる。
【0061】
また、連続重合、回分式重合のいずれを用いてもよい。スラリー重合の場合には、重合溶媒としてヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族または芳香族炭化水素を単独で又は混合して用いることができる。
【0062】
重合条件としては重合温度が通常-78~160℃、好ましくは0~150℃であり、そのときの分子量調節剤として補助的に水素を用いることができる。また、重合圧力は通常0~90kg/cm2・G、好ましくは0~60kg/cm2・G、特に好ましくは1~50kg/cm2・Gである。
【0063】
2-2.熱可塑性エラストマー
本発明の打音低減材(B)として使用できる熱可塑性エラストマーとしては、室温付近にガラス転移温度(Tg)を有する熱可塑性エラストマーが挙げられ、tanδの主分散ピークが-30~+50℃の範囲にあるか、またはtanδの主分散ピークが-30~+50℃の範囲にある重合体部分をその分子構造中に有することによって、本発明の組成物において、高い打音低減効果を発揮する。ここで、-30℃よりも低い温度または逆に+50℃より高い温度にしか、ピークが無い場合には、通常の使用温度領域において、充分な打音低減効果が得られず好ましくない。
【0064】
上記熱可塑性エラストマーとしては、tanδの主分散ピークが-30~+50℃の範囲にある重合体および/またはtanδの主分散ピークが-30~+50℃の範囲にある重合体部分をその分子構造中に有する重合体であれば、いずれも使用することができる。上記の温度範囲にtanδの主分散ピークを有するものとしては、例えば分子鎖中に嵩高い側鎖を有する熱可塑性エラストマー性重合体などが挙げられる。(B)成分の具体例としては、1,2-結合および/または3,4-結合の含有量(以下「ビニル結合含量」ともいう)の高い(以下「高ビニル」ともいう)共役ジエン系重合体(部分)、α-オレフィン含量の高いエチレン-α-オレフィン系重合体(部分)などが挙げられる。また、本発明の(B)成分としては、上記のtanδの主分散ピークが-30℃~+50℃の範囲にある重合体、および/またはtanδの主分散ピークが-30℃~+50℃の範囲にある重合体部分をその分子構造中に有する重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物または芳香族ビニル化合物およびこれと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体成分を重合して得られるものも、好適に用いられる。ここで、芳香族ビニル化合物や他のビニル系単量体としては、上記(A1)成分の説明において記載したものと同じものが好適に用いられる。
【0065】
上記熱可塑性エラストマーとしては、より具体的には、高ビニルポリブタジエン、高ビニルポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、アクリロニトリル-高ビニルブタジエン共重合体、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合(以下「AS」ともいう)ブロックと高ビニルポリブタジエンブロックとのブロック共重合体、ASブロックと高ビニルポリイソプレンブロックとのブロック共重合体、高ビニルブタジエン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-高ビニルブタジエンブロック共重合体、スチレン-高ビニルイソプレンブロック共重合体、水素化スチレン-高ビニルブタジエンブロック共重合体、水素化高ビニルブタジエン系重合体、エチレン-α-オレフィン系共重合体、エチレン-α-オレフィン-ポリエン共重合体などが挙げられる。また、スチレン-高ビニルブタジエンブロック共重合体、スチレン-高ビニルイソプレンブロック共重合体には、AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型などの構造を有するものなどが含まれる。さらに、上記ブロック共重合体の水素化物のほかに、スチレンブロックとスチレン-ブタジエンランダム共重合体のブロックからなるブロック共重合体の水素化物などが含まれる。また、上記の各種重合体を主鎖として、スチレンブロックまたはASブロックがグラフトしたものや、スチレンブロックまたはASブロックを主鎖として、上記の各種重合体がグラフトしたものも含まれる。これらグラフト重合体の具体例としては、スチレン-高ビニルイソプレンブロック共重合体にAS鎖をグラフトした重合体や、AS共重合体にスチレン-高ビニルイソプレンブロック体がグラフトした重合体などが挙げられる。上記熱可塑性エラストマーは、1種単独であるいは2種以上を併用することができる。
【0066】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)における打音低減材(B)の使用量は、熱可塑性樹脂組成物(X)全体を100質量%として、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは1~10質量%である。打音低減材(B)の使用量が上記範囲にあると、成形品の打音の低減効果と機械的強度とのバランスが良好になる。
【0067】
3.本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混練機を用いて適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。更に、各々の成分を混練するに際しては、それらの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練したあと、押出機によりペレット化することもできる。溶融混練温度は、通常180~240℃、好ましくは190~230℃である。
【0068】
4.本発明の成形品の製造方法
本発明の成形品は、熱可塑性樹脂組成物(X)を射出成形、プレス成形、シート押出成形、真空成形、異形押出成形、発泡成形等の公知の成形法により成形することで製造することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、上記のような優れた性質を有するので、メータバイザー、コンソールボックス、グローブボックス、カップホルダー等の車両内装品、フロントグリル、ホイールキャップ、バンパー、フェンダー、スポイラー、ガーニッシュ、ドアミラー、ラジエターグリル、ノブ等の車両外装品、直管型LEDランプ、電球型LEDランプ、電球型蛍光灯などの照明器具、携帯電話、タブレット端末、炊飯器、冷蔵庫、電子レンジ、ガスコンロ、掃除機、食器洗浄機、空気清浄機、エアコン、ヒーター、TV、レコーダーなどの家電器具、プリンター、FAX、コピー機、パソコン、プロジェクター等のOA機器、オーディオ器具、オルガン、電子ピアノ等の音響機器、化粧容器のキャップ、電池セル筐体等として使用することができる。
【実施例
【0069】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。実施例中、部および%は特に断らない限り質量基準である。
【0070】
1.原料〔P〕
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂として、下記の合成例1及び2で得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂を用いた。
【0071】
1-1.合成例1(原料P1(ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂)の合成)
攪拌機付き重合容器に、水280部およびジエン系ゴム質重合体として、重量平均粒子径0.26μm、ゲル分率90%のポリブタジエンラテックス60部(固形分換算)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら60℃に加熱した後、アクリロニトリル10部、スチレン30部、t-ドデシルメルカプタン0.2部、クメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる単量体混合物を60℃で5時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合温度を65℃にし、1時間撹拌を続けた後、重合を終了させ、グラフト共重合体のラテックスを得た。重合転化率は98%であった。その後、得られたラテックスに、2,2′-メチレン-ビス(4-エチレン-6-t-ブチルフェノール)0.2部を添加し、塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物のグラフト率は40%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.38dl/gであった。
【0072】
1-2.合成例2(原料P2(エチレン・プロピレン(EP)ゴム強化芳香族ビニル系樹脂)の合成)
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体として、エチレン・プロピレン共重合体(エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4 ,100℃)20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は-50℃)22部、スチレン55部、アクリロニトリル23部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン110部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間攪拌して均一溶液とした。その後、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温して、100℃に達した後は、この温度を保持しながら、攪拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合反応を終了した。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-プロピオネート0.2部、ジメチルシリコーンオイル;KF-96-100cSt(商品名:信越シリコーン株式会社製)0.02部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し、さらに40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化した。得られたエチレン・α-オレフィン系ゴム強化ビニル系樹脂のグラフト率は70%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.47dl/gであった。
【0073】
2.原料〔Q〕
ゴム質重合体に由来する部分を含まない熱可塑性樹脂として、下記の原料Q1を用いた。
【0074】
2-1.原料Q1(AS樹脂)
アクリロニトリル単位及びスチレン単位の割合が、それぞれ、27%及び73%であり、極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)が、0.47dl/gであるアクリロニトリル・スチレン共重合体。ガラス転移温度(Tg)は、103℃であった。
【0075】
2-2.合成例3(原料Q2(耐熱性AS樹脂)の合成)
撹拌機付き重合容器に、水250部およびパルミチン酸ナトリウム1.0部を投入し、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら70℃まで加熱した。さらにナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み後、α-メチルスチレン70部、アクリロニトリル25部、スチレン5部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、クメンハイドロパーオキサイド0.2部から成る単量体混合物を、重合温度70℃で連続的に7時間かけて滴下した。滴下終了後、重合温度を75℃にし、1時間撹拌を続けて重合を終了させ、共重合体のラテックスを得た。重合転化率は99%であった。その後、得られたラテックスを塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状の共重合体を得た。得られた共重合体のアセトン可溶分の極限粘度[η]は0.40dl/gであった。
【0076】
3.原料〔R〕
3-1.原料R1(PP樹脂)
日本ポリプロ社製ポリプロピレン樹脂「BC6C(商品名)」を使用した。ガラス転移温度(Tg)は、20℃であった。
【0077】
3-2.原料R2(熱可塑性エラストマー)
クラレ社製熱可塑性エラストマー(スチレン-イソプレン-スチレン共重合体)「ハイブラー5127(商品名)」を使用した。ガラス転移温度(Tg)は20℃であった。
【0078】
3.原料〔S〕
3-1.原料S1(PC樹脂)
三菱エンジニアリングプラスチック社製ポリカーボネート樹脂「NOVAREX 7022J(商品名)」を使用した。
【0079】
実施例1~4及び比較例1~2
1.熱可塑性樹脂組成物の作製
表1に示す原料〔P〕、〔Q〕、〔R〕及び〔S〕を同表に示す配合割合で混合した。その後、二軸押出機(型式名「TEX44、日本製鋼所」)を用いて、250℃で溶融混練してペレット化した。得られた樹脂組成物を用い、下記の測定及び評価に供した。結果を下記表1に示す。
【0080】
2.融点(Tm)
JIS K7121-1987に従い、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度から求めた。
【0081】
3.曲げモジュラス(剛性)
ISO178に従って測定
【0082】
4.荷重たわみ温度
ISO75に従って、1.8MPa荷重条件で測定
【0083】
5.ロックウェル硬さ
ISO2039に従って測定
【0084】
6.引張強度
ISO527に従って測定
【0085】
7.曲げ強度
ISO178に従って測定
【0086】
8.打音の音圧測定
各熱可塑性樹脂組成物を用い、図1に示すような縦120mm、横60mm、厚さ3mmの矩形本体の上端に上底20mm、下底40mm、高さ8mm、厚さ1.5mmの台形状の突起を備えた形状の一体成形品である試験片を、東芝機械製IS-170FA射出成形機によりシリンダ温度250℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃にて射出成形した。そして、この試験片の前記突起に2本の糸をテープで貼り付けて吊り下げた状態で、前記試験片の一方の面の中央を、打撃力を測定できるPCBピエゾトロニクス社製のステンレス製のハンマー(商品名:086C03)を用いて20±5Nの力で叩いた時の響きを、前記面に対して垂直方向に12cm離して設置したPCBピエゾトロニクス社製の音圧マイクロホン(商品名:378B02)で集音して、オロス社製のフーリエ変換アナライザー(商品名:マルチJOB FFTアナライザ OR34J-4)にて音圧の周波数スペクトルに変換した。得られた周波数スペクトル中の音圧(Pa/N)の最大値とその周波数(Hz)を測定値として用いた。なお、測定は室温23℃の部屋で行った。なお、測定値として得られた音圧(Pa/N)は、測定された打撃力1Nあたりの音圧を意味する。
【0087】
9.打音の減衰
前記打音の音圧測定と同様の操作を行い、オロス社製のフーリエ変換アナライザー(商品名:マルチJOB FFTアナライザ OR34J-4)にて音圧の時間変化を測定した。音の発生から、音圧が最大音圧の1/4の音圧に静まるまでに要する時間を打音の減衰時間として用いた。
【0088】
10.軋み音評価(異音リスク値)
各熱可塑性樹脂組成物を東芝機械製IS-170FA射出成形機によりシリンダ温度250℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃にて射出成形した、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの射出成形プレートから、縦60mm、横100mm、厚さ4mm及び縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片をディスクソーで切り出し、番手#100のサンドペーパーで端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、大小2枚のプレートを試験片として用いた。
2枚の試験片を80℃±5℃に調整したオーブンで300時間エージングし、25℃で24時間冷却後、大きな試験片と小さな試験片をジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機SSP-02に固定し、温度23℃、湿度50%RH、荷重40N、速度10mm/秒、振幅20mmで3回擦り合わせたときの異音リスク値が最も大きい条件の数値を抽出して測定値とした。異音リスク値が大きいほど軋み音の発生リスクは高くなり、異音リスク値が3以下であれば良好である。
【0089】
【表1】

【0090】
表1から以下のことがわかる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物〔X〕を用いた実施例1~4は、剛性が高く、かつ、20~20,000Hzの範囲内の音圧の最大値が2.0Pa/N以下であり、さらには、最大音圧を与える周波数が低く、異音リスク値が低く、剛性だけでなく打音(打音の減衰は、0.01秒よりも短いことが好ましく、0.008秒よりも短いことがより好ましい)及びきしみ音等の音響特性にも優れることが判った。
これに対し、打音低減材を含まない比較例1~2では、剛性が高く、かつ、異音リスク値が低かったが、20~20,000Hzの範囲内の音圧の最大値が2.0Pa/Nを超えており、最大音圧を与える周波数が高く、打音の発生が顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高い剛性を備えるだけでなく、打音の発生が抑制された成形品を提供する成形材料として好適に応用でき、例えば、自動車内装部品等の車両部品の成形材料として好適に用いることができる。
図1