(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】リチウム金属電極及びそれを備える電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20220609BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220609BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220609BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220609BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220609BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220609BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220609BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220609BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20220609BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220609BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20220609BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220609BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20220609BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220609BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20220609BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/38 Z
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0562
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/42 Z
H01M12/08 K
H01M50/409
(21)【出願番号】P 2018551127
(86)(22)【出願日】2017-04-05
(86)【国際出願番号】 US2017026227
(87)【国際公開番号】W WO2017176936
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2018-09-28
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-28
(32)【優先日】2016-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】504337958
【氏名又は名称】カーネギー メロン ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】511242269
【氏名又は名称】24エム・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】24M Technologies, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン イエ-ミン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスワナターン ヴェンカタサブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】リー リンセン
(72)【発明者】
【氏名】パンデ ヴィクラム
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナマーシー ディリップ
(72)【発明者】
【氏名】アーマッド ゼーシャン
(72)【発明者】
【氏名】ウッドフォード ウィリアム ヘンリー
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-171574(JP,A)
【文献】特開2011-34798(JP,A)
【文献】特表2013-525954(JP,A)
【文献】特開平6-290807(JP,A)
【文献】特開2012-113842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再充電式電気化学セル内
のセパレータ
における欠陥を修復する方法であって、
再充電式電気化学セル内で第1電極を第1電圧に保持するステップを有し、
その再充電式電気化学セルが、
0.1Mの量のセパレータを形成するためのプレカーサの一部を含む電解質を備え、
第1電圧によりそのセパレータを形成するプレカーサの一部を反応させることで第1電極・第2電極間の位置にセパレータを形成し、前記第1の電極が特定の電圧に達したときに、前記プレカーサが反応して、前記
形成されたセパレータの1つ以上の欠陥を修復し、前記1つ以上の欠陥は、前記セパレータと実質的に同様の組成を有する素材を前記1つ以上の欠陥内に形成することによって修復される、方法。
【請求項2】
再充電式電気化学セル内のセパレータにおける欠陥を修復する方法であって、
再充電式電気化学セル内で第1電極を第1電圧に保持するステップを有し、
その再充電式電気化学セルがセパレータを備え、
その再充電式電気化学セルが、
0.1Mの量のセパレータを形成するために使用されるプレカーサの一部を含む電解質を備え
、
前記第1の電極が第1の電圧に達したときに、前記第1電圧により前記プレカーサを反応させ、前記セパレータの1つ以上の欠陥を修復し、前記1つ以上の欠陥は、前記セパレータと実質的に同様の組成を有する素材を前記1つ以上の欠陥内に形成することにより修復される、方法。
【請求項3】
第1電極と、
第2電極と、
セパレータと、
電解質と、
を備え、前記電解質は、0.01M以上の濃度を有する塩を含み、前記電解質が
0.1Mの量のセパレータを形成するプレカーサの一部を有し
、前記第1電極および前記第2電極が特定の電圧に達したときに、前記プレカーサが反応して、前記セパレータの1つ以上の欠陥を修復し、前記1つ以上の欠陥は、セパレータと実質的に同様の組成を有する素材を前記1つ以上の欠陥内に形成することにより修復される、再充電式電気化学セル。
【請求項4】
第1電極と、
第2電極と、
セパレータと、
0.1Mの量のセパレータを形成するためのプレカーサを含む電解質と、
を備え、
前記プレカーサが第1ハロゲン化物アニオン及び第1ハロゲン化物アニオンを形成する反応が起きうる種のうち少なくとも一方を含み、且つその電解質が第2ハロゲン化物アニオン及び第2ハロゲン化物アニオンを形成する反応が起きうる種のうち少なくとも一方を含
み、
前記第1の電極を第1の電圧に保持することにより、前記プレカーサを反応させ、前記セパレータと実質的に同様の組成を有する素材を1つ以上の欠陥内に形成することにより修復する、再充電式電気化学セル。
【請求項5】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサが、上記セパレータにおける欠陥を修復しうるものである方法。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサの一部がハロゲン化物アニオンを含む方法。
【請求項7】
請求項
6記載の方法であって、上記ハロゲン化物アニオンがフッ化物アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオン又はヨウ化物アニオンのうち一種類である方法。
【請求項8】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサの一部が、ハロゲン化物アニオンを形成する反応が起きうる種を含む方法。
【請求項9】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサの一部がポリハロゲン化物アニオンを含む方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の方法であって、上記ポリハロゲン化物アニオンが少なくとも二種類のハロゲン種を含む方法。
【請求項11】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサの一部が、その酸化状態が0のハロゲンを含む方法。
【請求項12】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサの一部が塩素酸アニオン、過塩素酸アニオン、硝酸アニオン、リン酸アニオン、PF
6
-アニオン、BF
4
-アニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン又はビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドアニオンのうち少なくとも一種類を含む方法。
【請求項13】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサの一部がリチウムカチオンを含む方法。
【請求項14】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサの一部がアルカリ土類金属カチオンを含む方法。
【請求項15】
請求項
14に記載の方法であって、上記アルカリ土類金属カチオンがMg
2+である方法。
【請求項16】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサが少なくとも二種類のハロゲン化物アニオンを含む方法。
【請求項17】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサが、上記再充電式電気化学セルが4V以上の電圧にて動作する際にレドックスシャトルに参加しない方法。
【請求項18】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサの一部が岩塩結晶構造を有する方法。
【請求項19】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサが蛍石結晶構造を有する方法。
【請求項20】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記プレカーサがR3バーm結晶構造にて結晶化する方法(「3バー」は「3」に上線)。
【請求項21】
請求項1
、2、5乃至
20のうちいずれかに記載の方
法であって、上記電解質が溶媒を含み、その溶媒がエーテル基、ニトリル基、シアノエステル基、フルオロエステル基、テトラゾール基、フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、ニトロ基、カーボネート基、ジカーボネート基、ニトレート基、フルオロアミド基、ジオン基、アゾール基及びトリアジン基のうち一種類又は複数種類を伴う方
法。
【請求項22】
請求項1
、2、5乃至
21のうちいずれかに記載の方
法であって、上記電解質がアルキルカーボネート溶媒を含む方
法。
【請求項23】
請求項1
、2、5乃至
22のうちいずれかに記載の方
法であって、上記電解質が、その電解質における上記セパレータ用プレカーサの溶解度を高める添加物を含む方
法。
【請求項24】
請求項
23に記載の
方法であって、上記添加物がニトリル基、フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、ニトロ基、ニトレート基、フルオロアミド基又はジオン基のうち一種類又は複数種類を含む
方法。
【請求項25】
請求項1
、2、5乃至
24のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータのイオン導電率が10
-4S/cm以上である方
法。
【請求項26】
請求項1
、2、5乃至
25のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータの単位面積インピーダンスが20Ω・cm
2以下である方
法。
【請求項27】
請求項1
、2、5乃至
26のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータが3.7Vの動作電位まで安定である方
法。
【請求項28】
請求項1
、2、5乃至
27のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータが5GPa以上の剪断弾性率を有する方
法。
【請求項29】
請求項1
、2、5乃至
28のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータが20GPa以上の剪断弾性率を有する方
法。
【請求項30】
請求項1
、2、5乃至
29のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータが0.0000105K
-1以下の熱膨張係数を有する方
法。
【請求項31】
請求項1
、2、5乃至
30のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータが単イオン導体である方
法。
【請求項32】
請求項1
、2、5乃至
31のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータが上記第1電極に直に隣接している方
法。
【請求項33】
請求項1
、2、5乃至
32のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータの厚みが1nm以上50ミクロン以下である方
法。
【請求項34】
請求項1
、2、5乃至
33のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータが少なくとも第1層及び第2層を有する方
法。
【請求項35】
請求項
34に記載の方
法であって、上記第1層が上記第2層とは異なる組成を有する方
法。
【請求項36】
請求項
35に記載の方
法であって、上記第2層よりも上記第1層の方が上記第1電極に近い方
法。
【請求項37】
請求項
36に記載の方
法であって、上記セパレータが少なくとも第3層を有する方
法。
【請求項38】
請求項1
、2、5乃至
37のうちいずれかに記載の方
法であって、上記第1電極の表面が不活性化されている方
法。
【請求項39】
請求項1
、2、5乃至
38のうちいずれかに記載の方
法であって、上記第1電極の表面にパッシベーション層が備わる方
法。
【請求項40】
請求項
39に記載の方
法であって、上記パッシベーション層が1nm以上100ミクロン以下の厚みを有する方
法。
【請求項41】
請求項
39に記載の方
法であって、上記パッシベーション層がハロゲン化物アニオンを含む方
法。
【請求項42】
請求項
39に記載の方
法であって、上記パッシベーション層がポリ(2-ビニルピリジン)を含む方
法。
【請求項43】
請求項1
、2、5乃至
42のうちいずれかに記載の方
法であって、上記第1電極の厚みが15ミクロン以上50ミクロン以下である方
法。
【請求項44】
請求項
1に記載の方
法であって、上記第2電極が、上記再充電式電気化学セルの作用イオンを、その作用イオンを構成する金属に対し2.0V超の電位にて蓄蔵する方
法。
【請求項45】
請求項
1に記載の方
法であって、上記第2電極が層間化合物、転化化合物、酸化物、ハロゲン化物又はカルコゲン化物のうち少なくとも一種類を含み、その第2電極がリチウムイオン層間化合物を含む方
法。
【請求項46】
請求項
1に記載の方
法であって、上記第2電極がコバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、及びリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、硫黄又は空気のうち少なくとも一種類を含む方
法。
【請求項47】
請求項1
、2、5乃至
46のうちいずれかに記載の方
法であって、上記第1電極がリチウム金属を含む方
法。
【請求項48】
請求項1
、2、5乃至
47のうちいずれかに記載の方
法であって、上記第1電極がナトリウム金属を含む方
法。
【請求項49】
請求項1
、2、5乃至
48のうちいずれかに記載の方
法であって、上記第1電極がカリウム金属を含む方
法。
【請求項50】
請求項1
、2、5乃至
49のうちいずれかに記載の方
法であって、上記第1電極がマグネシウム、カルシウム、イットリウム、亜鉛又はアルミニウムのうち一種類又は複数種類を含む方
法。
【請求項51】
請求項1
、2、5乃至
50のうちいずれかに記載の方
法であって、上記再充電式電気化学セルが更にエクスサイチューセパレータを備える方
法。
【請求項52】
請求項1
、2、5乃至
51のうちいずれかに記載の方
法であって、上記第1電圧が3V以上5V以下である方
法。
【請求項53】
請求項1
、2、5乃至
52のうちいずれかに記載の方
法であって、上記再充電式電気化学セルが50サイクル以上後はデンドライト無しとなる方
法。
【請求項54】
請求項1
、2、5乃至
53のうちいずれかに記載の方
法であって、上記再充電式電気化学セルが3mAh/cm
2以上10mAh/cm
2以下の面積容量を有する方
法。
【請求項55】
請求項1
、2、5乃至
54のうちいずれかに記載の方
法であって、上記セパレータが固体電解質である方
法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、「リチウム金属電極及びそれを備える電池」(Lithium Metal Electrodes and Batteries Thereof)と題する2016年4月5日付米国暫定特許出願第62/318470号に基づき米国特許法第119条(e)の規定による優先権を主張する出願であるので、この参照を以てその目的を問わずその全容を本願に繰り入れることにする。
(政府のスポンサー)
この発明は、エネルギー省から授与された認可番号DE-EE0007810に基づく政府の支援を受けて行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
(分野)
本発明は、大略、電気化学セル内にセパレータを形成するシステム及び方法並びに電気化学セル内のセパレータにおける欠陥を修復するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム金属電池は、リチウムの比エネルギが高いため将来が楽しみなテクノロジである。しかしながら、アノードからカソードへのデンドライト成長が原因で、多くのリチウム金属電池が早期故障の憂き目に遭っている。リチウム金属電池にはデンドライト成長を阻止するためセパレータが付加されてきたが、大抵は成長中のデンドライトにより損傷された暁にその実用性が利用されるだけである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、改良された構成及び方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
大略、電気化学セル内セパレータの形成及び修復方法及び物品が提供される。本発明の主題には、場合によっては、相互に関連する産品、特定の問題に対する代替的解法、及び/又は、1個又は複数個のシステム及び/又は物品の相異なる複数種類の用法が包含される。
【0006】
ある態様では、大略、再充電式電気化学セル内にセパレータを形成する方法が提供される。ある方法は、再充電式電気化学セル内で第1電極が第1電圧に保持されうるものである。その電気化学セルは、1mM以下1nM以上の量のセパレータ用プレカーサを含む電解質を備えるものとすることができる。幾つかの実施形態では、第1電圧の働きでそのセパレータ用プレカーサが反応し、それによりセパレータが第1電極・第2電極間の位置に形成される。
【0007】
別のある態様では、再充電式電気化学セル内のセパレータにおける欠陥を修復する方法が提供される。ある方法は、再充電式電気化学セル内で第1電極が第1電圧に保持されうるものである。その再充電式電気化学セルは、セパレータと、1mM以下1nM以上の量のセパレータ用プレカーサを含む電解質と、を備えるものとすることができる。幾つかの実施形態では、第1電圧の働きでそのセパレータ用プレカーサが反応し、それによりそのセパレータにおける欠陥が修復される。
【0008】
幾つかの実施形態は再充電式電気化学セルに関する。一実施形態に係る再充電式電気化学セルは、第1電極、第2電極及び電解質を備える。その電解質は、1mM以下1nM以上の電解質内溶解度を有するセパレータ用プレカーサを、含むものとすることができる。
【0009】
幾つかの実施形態に係る再充電式電気化学セルは、第1電極、第2電極及び電解質を備える。その電解質は、第1ハロゲン化物アニオンと第1ハロゲン化物アニオン形成反応が起きうる種とのうち少なくとも一方を含み且つ第2ハロゲン化物アニオンと第2ハロゲン化物アニオン形成反応が起きうる種とのうち少なくとも一方を含むものとすることができる。
【0010】
幾つかの実施形態に係る再充電式電気化学セルは、第1電極、第2電極及びセパレータを備える。そのセパレータは、少なくとも第1層及び第2層を有するものとすることができ、またその第2層が第1層よりも高い電圧での酸化に供されるようにすることができる。
【0011】
本発明の他の長所及び新規特徴については、本発明の様々な非限定的実施形態についての後掲の詳細記述を添付図面と併せ考慮することで明らかになろう。本願明細書と参照により繰り入れられた文献との間に、抵触する及び/又は一貫しない開示が含まれている場合、本願明細書が基準になるものとする。参照により繰り入れられた2個以上の文献に、互いに抵触する及び/又は一貫しない開示が含まれている場合、より遅い効力発生日を有する文献が基準になるものとする。
【0012】
本発明の非限定的実施形態について例示により記述するため、模式的であり忠実縮尺描写を意図していない添付図面を参照する。それらの図面では、個々の同一又はほぼ同一な描出されている部材を、基本的に単一の参照符号により表すこととする。明瞭性なる目的に鑑み、全ての部材に全ての図で符号を付すことも、本発明の各実施形態の全ての部材を図示することも、本件技術分野に習熟した者(いわゆる当業者)が本発明を理解しうるようにするために描写が必要でない場合にはされていない。図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】幾つかの実施形態に係り、第1電極、第2電極及び電解質を備え、その電解質がセパレータ用プレカーサを含む再充電式電気化学セルを、示す図である。
【
図2】幾つかの実施形態に係り、第1電極、第2電極、電解質及びセパレータを備え、その電解質がセパレータ用プレカーサを含む再充電式電気化学セルを、示す図である。
【
図3】幾つかの実施形態に係り、第1電極、第2電極、電解質及びセパレータを備える再充電式電気化学セルを、示す図である。
【
図4】幾つかの実施形態に係り、第1電極、第2電極、電解質及びセパレータを備え、そのセパレータが第1層及び第2層を有する再充電式電気化学セルを、示す図である。
【
図5A】幾つかの実施形態に係り、第1電極、第2電極、電解質及びセパレータを備え、その電解質がセパレータ用プレカーサを含み、そのセパレータが欠陥を有する再充電式電気化学セルを、示す図である。
【
図5B】幾つかの実施形態に係る再充電式電気化学セル内欠陥修復方法を示す図である。
【
図6】幾つかの実施形態に係るリチウムハロゲン化物層形成方法を示す図である。
【
図7】幾つかの実施形態に従い、様々なリチウムハロゲン化物塩の様々な特性を示すプロットである。
【
図8】幾つかの実施形態に係るセパレータ内自己修復を示す図である。
【
図9】幾つかの実施形態に係り、パッシベーション層を電極上に形成する方法を示す図である。
【
図10】幾つかの実施形態に係るセパレータ形成方法を示す図である。
【
図11】幾つかの実施形態に従い、リチウムハロゲン化物塩に係る吸着及び形成エネルギの計算値を示す図である。
【
図12】幾つかの実施形態に従い、I
-/I
2/I
3
-に係る溶液相ダイアグラムを示す図である。
【
図13A】幾つかの実施形態に従い、様々な電気化学セルに係るインピーダンスの計測結果を示す図である。
【
図13B】幾つかの実施形態に従い、様々な電気化学セルに係るインピーダンスの計測結果を示す図である。
【
図13C】幾つかの実施形態に従い、様々な電気化学セルに係るインピーダンスの計測結果を示す図である。
【
図14A】幾つかの実施形態に従い、様々な電気化学セルを対象に実行されたサイクリックボルタメトリ計測について示す図である。
【
図14B】幾つかの実施形態に従い、様々な電気化学セルを対象に実行されたサイクリックボルタメトリ計測について示す図である。
【
図14C】幾つかの実施形態に従い、様々な電気化学セルを対象に実行されたサイクリックボルタメトリ計測について示す図である。
【
図14D】幾つかの実施形態に従い、様々な電気化学セルを対象に実行されたサイクリックボルタメトリ計測について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
大略、再充電式電気化学セル内セパレータの形成及び/又は修復に関するシステム及び方法が提供される。ある種の物品及び方法は、インサイチュー(現場的)な再充電式電気化学セル内セパレータの形成及び/又は修復に関する。幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルを、組立終了時にはセパレータを欠いているものの、電気化学セルの充電及び/又は放電中にセパレータを形成可能なものとすることができる。幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルを、組立完了時にエクスサイチュー(現場外的)なセパレータが備わるものにすることや、インサイチューなセパレータを、電気化学セルの充電及び/又は放電中に形成することができる。セパレータ、例えば電気化学セルの充電及び/又は放電中に形成されるものには1個又は複数個の欠陥が現れることがあり、その欠陥を、その電気化学セル内に存する一種類又は複数種類の種(化学種)により修復することができる。
【0015】
ある種の実施形態は、一種類又は複数種類のセパレータ用プレカーサを有する再充電式電気化学セルに関する。そのセパレータ用プレカーサたりうる種は、反応により電気化学セル内セパレータを形成すること及び/又は電気化学セル内セパレータにおける欠陥を修復することが可能なものである。幾つかの実施形態によれば、その電気化学セル内で1個又は複数個の電極がある電圧に保持されているときに、セパレータ用プレカーサを反応させてセパレータを形成し及び/又はセパレータにおける欠陥を修復することができる。幾つかの実施形態によれば、電気化学セル用プレカーサを、ハロゲン化物又はハロゲン化物含有種を含むものとすることができる。幾つかの実施形態によれば、セパレータ用プレカーサを、その再充電式電気化学セル内に存する電解質において比較的低い溶解度を有するものとすること、及び/又は、その再充電式電気化学セル内に存する電解質において比較的低い濃度を呈するものとすることができる。本願にて用いられている「セパレータ」(仕切り)には、本件技術分野で一般的な意味合いが与えられている。ある一群の実施形態においては、これが、アノードをカソードから物理的に分離させ短絡を防止する固体又はジェル素材とされる。セパレータのプレカーサ(前駆物質)とは、それ自身ではセパレータとして有効ではないが、電極のうち1個をある設定電圧に保持すること又はその電極をサイクリングすること、或いは本願記載の他の実施イベントを経て、セパレータを形成する物質のことである。
【0016】
上述の通り、ある種の実施形態は再充電式電気化学セルに関する。
図1に、ある非限定的実施形態に係る再充電式電気化学セル100であり、第1電極110と、第2電極120と、セパレータ用プレカーサ140を含む電解質130とを、備えるものを示す。
図1には一種類のセパレータ用プレカーサが示されているが、ご理解頂くべきことに、幾つかの実施形態によれば、電解質中に二種類、三種類又はより多種類のセパレータ用プレカーサを存在させることもできる。
【0017】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルにセパレータ用プレカーサを具備させ、それを反応に供することで、セパレータを形成することができる。例えば、再充電式電気化学セル内で第1電極を第1電圧に保持することで、セパレータの形成を果たすことができる。その反応は好適であればいずれの反応でもよく、例えば酸化還元反応、重合反応及び/又は結晶化反応でよい。幾つかの実施形態によれば、その電解質中に溶け込んでいる溶質の、電気化学セル構成部材上(例.第1電極上)での結晶化を含む反応とすることができる。第1電極は、適切であればどのような手段で第1電圧に保持してもよい。幾つかの実施形態によれば、例えば外部電圧源により、電圧を第1電極に印加することができる。幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セル内に配置されたとき第1電極が生得的に呈する電圧を、第1電圧とすることができる。幾つかの実施形態では、第1電圧が0V以上、1.5V以上、2V以上、2.5V以上、3V以上、3.5V以上、4V以上、4.5V以上、5V以上、或いは5.5V以上とされる。幾つかの実施形態では、第1電圧が6V以下、5.5V以下、5V以下、4.5V以下、4V以下、3.5V以下、3V以下、2.5V以下、2V以下、1.5V以下、1V以下、或いは0.5V以下とされる。上掲の値域の組合せもありうる(例.0V以上6V以下)。他の値域もありうる。第1電圧は、Li+/Li参照電位を基準とした電圧であるものと理解されるべきである。
【0018】
図2に、セパレータ用プレカーサ140が反応に供されそれにより再充電式電気化学セル100内にセパレータ150が形成される実施形態の一つを示す。幾つかの実施形態、例えば
図2に示すそれによれば、セパレータを第1電極上に直接形成することができる。とはいえ、他の実施形態では、セパレータが第1電極上に直接形成されないこともある。例えば、第1電極上に配置されている1個又は複数個の介在的電気化学セル構成部材(例.後に詳述する1個又は複数個のパッシベーション層)上にセパレータを形成してもよい。幾つかの実施形態によれば、第1電極上、並びに第2電極、電解質及びエクスサイチューセパレータのうち1個又は複数個の上に、セパレータを(直接的又は間接的に)形成することができる。幾つかの実施形態によれば、セパレータのうち一層(例.第2層)を(インサイチュー又はエクスサイチュー形成された)第1層上に形成することができる。他の構成もありうる。
【0019】
ある再充電式電気化学セル構成部材が別の再充電式電気化学セル構成部材(群)の「上に配置され」、「間に配置され」、「表面にあり」又は「隣にある」と述べられている場合、それは、当該ある再充電式電気化学セル構成部材を当該別の再充電式電気化学セル構成部材の上に直接配置し、間に直接配置し、直に表面に配し又は直に隣り合わせてもかまわないこと、言い換えれば介在する再充電式電気化学セル構成部材が存在していてもいいことを意味している。再充電式電気化学セル構成部材が別の再充電式電気化学セル構成部材の「すぐ隣にあり」、「すぐ上にあり」又は「接触している」場合、それは介在する電気化学セル構成部材が存在していないことを意味している。これもまた理解されるべきことに、ある再充電式電気化学セル構成部材が別の再充電式電気化学セル構成部材(群)の「上に配置され」、「間に配置され」、「表面にあり」又は「隣にある」と述べられている場合、当該ある再充電式電気化学セル構成部材が、当該別の再充電式電気化学セル構成部材の全体又は当該別の再充電式電気化学セル構成部材の一部により覆われ、その上にあり又はそれに隣り合っていてもよい。
【0020】
幾つかの実施形態によれば、本願記載の再充電式電気化学セルを、インサイチュー形成されたセパレータを初期的には欠くが、電気化学セルのサイクリング中にセパレータがインサイチュー形成されるものとすることができる。幾つかの実施形態によれば、セパレータを初回サイクル中に形成することや、1サイクル以上、2サイクル以上又は3サイクル以上を経て形成することができる。幾つかの実施形態によれば、セパレータを4サイクル以下、3サイクル以下、2サイクル以下又は1サイクル以下を経て形成することができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.初回サイクル中且つ4サイクル以下の後)。他の値域もありうる。セパレータの形成具合は電子顕微鏡法を用い判別することができる。理屈にこだわりたくはないが、セパレータ形成の速度は次の諸要因のうち1個又は複数個により影響されうるものと考えられる:プレカーサの素性及び/又は濃度、サイクリングの速度、サイクリングが起こる温度、サイクリング中に存する電圧限界、サイクリング中に存する電解質の組成、サイクリング中に存する添加物の素性及び/又は濃度、第1及び/又は第2電極内電子活性素材、第1及び/又は第2電極内導電性添加物の素性、第1及び/又は第2電極内バインダの素性、並びにあらゆる集電体の素性である。
【0021】
上述の通り、ある種の実施形態はセパレータを備える電気化学セル、例えばインサイチュー形成されたセパレータを備える電気化学セルに関する。
図3に、セパレータを有する電気化学セルの一例として、第1電極110、第2電極120、電解質130及びセパレータ150を有する再充電式電気化学セル100を示す。必ずしも全てではないが、幾つかの実施形態ではセパレータがインサイチュー形成セパレータとされる。電解質はセパレータ用プレカーサを含むものとすることができ、そのセパレータ用プレカーサは、その再充電式電気化学セル内に存しているセパレータ向けのプレカーサ(即ちセパレータ形成反応に供することが可能で、それによりその電気化学セル内に存しているセパレータと実質的に同じ組成で以てセパレータが形成されるもの)とすることも、その再充電式電気化学セル内に存しているセパレータとは異なるセパレータ向けのプレカーサ(即ちセパレータ形成反応に供することが可能で、それによりその再充電式電気化学セル内に存しているセパレータとは異なる組成で以てセパレータが形成されるもの)とすることもできる。幾つかの実施形態では、再充電式電気化学セルがセパレータ用プレカーサを含まない電解質を備える。
【0022】
幾つかの実施形態、例えば
図3に示したそれによれば、セパレータを第1電極に直接隣り合わせることができる。しかしながら、他の実施形態では、セパレータが第1電極に直接隣り合わせないこともある。例えば、第1電極上に配置されている1個又は複数個の介在的電気化学セル構成部材(例.後に詳述する1個又は複数個のパッシベーション層)に、セパレータを隣り合わせることがありうる。幾つかの実施形態では、第1電極と、第2電極、電解質及びエクスサイチューセパレータのうち1個又は複数個とに、セパレータを直接的又は間接的に隣り合わせることがありうる。他の構成もありうる。
【0023】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに備わるセパレータを、複数個の層を有するものとすることができる。
図4に、2個の層を有するセパレータを備える再充電式電気化学セルのある非限定的実施形態を示す。
図4中の再充電式電気化学セル100は、第1電極110、第2電極120、電解質130及びセパレータ150を備えている。セパレータ150は第1層152及び第2層154を有している。幾つかの実施形態では、第2層よりも第1層の方が、第1電極の近くに配置されよう。セパレータの第2層を、セパレータの第1層と実質的に同様の組成を有するものとすることも、それら二層を相異なる組成を有するものにすることもできる。場合によっては、セパレータの第2層が、第1層よりも高い電圧での酸化に供されよう。例えば、セパレータを、LiIを含む第1層(第1層のうち任意の好適なwt%、最高で100wt%がLiIで組成されうる)と、LiFを含む第2層(第2層のうち任意の好適なwt%、最高で100wt%がLiFで組成されうる)とを、有するものにすることができる。理屈にこだわりたくはないが、セパレータの最外層をそのセパレータ内の層のうち最も高電圧での酸化に供される層とすることが、その最外層が最安定層となるセパレータがもたらされるので、有利であろう。この安定な頂部層によって、あまり安定でない下部層の浸食及び/又は破損を防ぐことができる。第1層が高いイオン導電率を呈するようにすること及び/又は第2層が比較的低い電解質内溶解度(例.1nM~1mM)を呈するようにすることも有利であろう。
【0024】
幾つかの実施形態によれば、電気化学セル用プレカーサにより、少なくとも第1層及び第2層を構成することができ、またその第2層が酸化に供される電圧を、第1層が酸化に供される電圧を3%以上上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を5%以上上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を10%以上上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を15%以上上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を20%以上上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を25%以上上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を30%以上上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を35%以上上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を40%以上上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を45%以上上回る電圧、或いは第1層が酸化に供される電圧を50%以上上回る電圧、或いは第1層が酸化に供される電圧を55%以上上回る電圧とすることができる。幾つかの実施形態では、第2層が酸化に供される電圧が、第1層が酸化に供される電圧を60%以下上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を55%以下上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を50%以下上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を45%以下上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を40%以下上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を35%以下上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を30%以下上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を25%以下上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を20%以下上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を15%以下上回る電圧、第1層が酸化に供される電圧を10%以下上回る電圧、或いは第1層が酸化に供される電圧を5%以下上回る電圧とされる。上掲の値域の組合せもありうる(例.3%以上上回り60%以下上回る電圧)。他の値域もありうる。層が酸化に供される電圧はサイクリックボルタメトリにより判別することができる。
【0025】
図4にはそのセパレータが2層しか有していない再充電式電気化学セルを示したが、ご理解頂くべきことに、セパレータが2個以上の層を有していてもよい。幾つかの実施形態では、セパレータが3個以上の層、4個以上の層、或いは更に多数の層を有する。セパレータ内の各層をそのセパレータ内の他の各層と実質的に同様の組成を有するものにしても、或いはそのセパレータ内の1個又は複数個の層をそのセパレータ内の他の1個又は複数個の層とは異なる組成を有するものにしてもよい。
【0026】
上述の通り、ある種の実施形態はセパレータ内欠陥を修復する方法に関する。そのセパレータはインサイチューセパレータでもエクスサイチューセパレータでもかまわない。一例に係る欠陥修復方法を
図5A及び
図5Bに示す。
図5Aに示す再充電式電気化学セルは、第1電極110と、第2電極120と、セパレータ用プレカーサ140を含む電解質130と、欠陥160を有するセパレータ150とを備えている。
図5Bでは、セパレータ用プレカーサ140が反応に供され、それにより欠陥160が修復されたため、そのセパレータに損傷がなくなり又はより軽微な度合の損傷となっている。ある種の実施形態によれば、
図5Bに示すように、そのセパレータと実質的に同様の組成を有する素材をその欠陥内に形成することにより、そのセパレータ内の1個又は複数個の欠陥を修復することができる。他の実施形態によれば、そのセパレータとは異なる組成を有する素材をその欠陥内に形成することにより、そのセパレータ内の欠陥を修復することができる。修復しうる欠陥の非限定的例としてはクラック、ピット、ピンホール等がある。
【0027】
幾つかの実施形態によれば、第1電極を第1電圧に保持することでセパレータ内欠陥を修復することができる。幾つかの実施形態によれば、例えば外部電圧源により、第1電極に電圧を印加することができる。幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セル内に配置されたときに第1電極が生得的に呈する電圧を、その第1電圧とすることができる。幾つかの実施形態では、その第1電圧が0V以上、1.5V以上、2V以上、2.5V以上、3V以上、3.5V以上、4V以上、或いは4.5V以上とされる。幾つかの実施形態では、その第1電圧が5V以下、4.5V以下、4V以下、3.5V以下、3V以下、2.5V以下、2V以下、1.5V以下、1V以下、或いは0.5V以下とされる。上掲の値域の組合せもありうる(例.0V以上5V以下)。他の値域もありうる。第1電圧は、Li+/Li参照電位を基準とした電位であると理解されるべきである。
【0028】
幾つかの実施形態によれば、電気化学セルにとり有益な一種類又は複数種類の特性を、本願記載のセパレータ用プレカーサに持たせることができる。例えば、再充電式電気化学セルに備わるセパレータ用プレカーサを、その再充電式電気化学セルが2.5V以上、3V以上、3.5V、4V以上、4.5V以上又は5V以上の電位で動作しているときに、レドックスシャトル機構に参加しないものとすることができる。理屈にこだわりたくはないが、レドックス(酸化還元)シャトル機構とはある種の電気化学セルにて時たま起こるプロセスであり、ある種がカソードにて酸化され、アノードへと拡散し、そしてアノードにて還元されるものである。その結果として内部短絡回路が生じ、且つその再充電式電気化学セルにより供給されるパワーの量及びそのセルのラウンドトリップ効率が低下する。
【0029】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに備わるセパレータ用プレカーサを、やはりその再充電式電気化学セル内に存する電解質中に比較的溶け込みにくいものとすることができる。そのセパレータ用プレカーサの電解質内溶解度を、1mM以下、100μM以下、10μM以下、1μM以下、100nM以下、或いは10nM以下とすることができる。そのセパレータ用プレカーサの電解質内溶解度を、1nM以上、10nM以上、100nM以上、1μM以上、10μM以上、或いは100μM以上とすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.1nM以上1mM以下)。他の値域もありうる。
【0030】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに備わるセパレータ用プレカーサを、同じくその再充電式電気化学セル内に存する電解質中に比較的低い濃度で存するものとすることができる。幾つかの実施形態によれば、そのセパレータ用プレカーサがその電解質中で呈する濃度を、1mM以下、100μM以下、10μM以下、1μM以下、100nM以下、或いは10nM以下とすることができる。そのセパレータ用プレカーサがその電解質中で呈する濃度を、1nM以上、10nM以上、100nM以上、1μM以上、10μM以上、或いは100μM以上とすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.1nM以上1mM以下)。他の値域もありうる。
【0031】
ある種の実施形態によれば、本願記載のセパレータ用プレカーサを、塩等、一種類又は複数種類のアニオンを伴う種を含むものにすることができる。幾つかの実施形態では、セパレータ用プレカーサに、電解質中に溶け込んだ塩が含まれる。セパレータ用プレカーサには、一種類又は複数種類のハロゲン化物アニオン、例えばフッ化物アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオン及びヨウ化物アニオンのうち一種類又は複数種類を含ませることができる。幾つかの実施形態によれば、セパレータ用プレカーサに、少なくとも二種類のハロゲン化物アニオン、少なくとも三種類のハロゲン化物アニオン、或いは更に多種類のハロゲン化物アニオンを含ませることができる。幾つかの実施形態によれば、セパレータ用プレカーサに、1個又は複数個のハロゲン原子を含むアニオン、例えばポリハロゲン化物アニオンを含ませることができる。存している場合、そのポリハロゲン化物アニオンを、ハロゲン原子を一種類しか含まないもの(例.ヨウ素のみからなるI3
-等)にすることも、二種類以上のハロゲン原子を含むもの(例.ClBr2
-等)にすることもできる。幾つかの実施形態によれば、セパレータ用プレカーサに、ハロゲン化物アニオン及び/又はポリハロゲン化物アニオンを形成する反応(例.酸化還元反応、化学反応)に供しうる種を、含ませることができる。そうした種の非限定的例としてはLiPF6、LiBF4等がある。
【0032】
幾つかの実施形態によれば、セパレータ用プレカーサに、ハロゲン原子を全く含まない種を含ませることができる。例えば、セパレータ用プレカーサに、ハロゲン原子を全く含まないアニオンを構成し電解質中に溶け込んでいる塩を、含ませることができる。そうしたアニオンの非限定的例としては、塩素酸アニオン、過塩素酸アニオン、硝酸アニオン、リン酸アニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドアニオン等がある。
【0033】
上述の通り、幾つかの実施形態によれば、電解質中に溶け込んだ塩等、塩をセパレータ用プレカーサに含ませることができる。そうした塩に適するカチオンの非限定的例としては、アルカリ金属カチオン例えばリチウム及びナトリウム、アルカリ土類金属カチオン例えばマグネシウム、遷移金属カチオン例えば亜鉛及び銅等がある。
【0034】
幾つかの実施形態によれば、本願記載の再充電式電気化学セルに備わるセパレータ用プレカーサを、塩でも塩の成分でもないものにすることができる。例えば、再充電式電気化学セルに備わるセパレータ用プレカーサを、I2等、その酸化状態が0のハロゲンとすることができる。
【0035】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに、少なくとも二種類のセパレータ用プレカーサ、少なくとも三種類のセパレータ用プレカーサ、或いは更に多種類のセパレータ用セパレータを具備させることができる。幾つかの実施形態によれば、それらセパレータ用プレカーサのうち二種類以上を、ハロゲン化物アニオンたる種又は反応してハロゲン化物アニオンを形成しうる種とすることができる。例えば、電気化学セルに、少なくとも、第1ハロゲン化物アニオン及び第1ハロゲン化物アニオンを形成する反応が起きうる種のうち少なくとも一方であるセパレータ用第1プレカーサと、第2ハロゲン化物アニオン及び第2ハロゲン化物アニオンを形成する反応が起きうる種のうち少なくとも一方であるセパレータ用第2プレカーサとを、具備させることができる。幾つかの実施形態によれば、その再充電式電気化学セルに、少なくとも、第1ハロゲン化物アニオン及び第1ハロゲン化物アニオンを形成する反応が起きうる種のうち少なくとも一方であるセパレータ用第1プレカーサと、ハロゲン化物アニオンでも反応してハロゲン化物アニオンを形成しうる種でもないセパレータ用第2プレカーサとを、具備させることができる。
【0036】
上述の通り、ある種の実施形態はセパレータを備える再充電式電気化学セルに関する。そのセパレータは、第1電極が第2電極と接触することを妨げる固体種、或いは第1電極から第2電極に至る短絡回路の形成を妨げ又は顕著に遅らせる種とすることができる。幾つかの実施形態によれば、そのセパレータを単イオン導体とすることができ、或いは固体電解質とすることができる。例えば、カチオンは導通しうるがアニオンは導通し得ないものにすることができる。幾つかの実施形態によれば、そのセパレータを、比較的高いイオン導電率を有するものにすることができる。例えば、そのセパレータのイオン導電率を、10-4S/cm以上、10-3S/cm以上、10-2S/cm以上、10-1S/cm以上、100S/cm以上、或いは101S/cm以上とすることができる。幾つかの実施形態によれば、そのセパレータのイオン導電率を、102S/cm以下、101S/cm以下、100S/cm以下、10-1S/cm以下、10-2S/cm以下、或いは10-3S/cm以下とすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.10-4S/cm以上102S/cm以下、10-4S/cm以上10-2S/cm以下)。他の値域もありうる。セパレータのイオン導電率は電気化学インピーダンス分光法により判別することができる。
【0037】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに備わるセパレータを、比較的低い単位面積インピーダンスを有するものにすることができる。幾つかの実施形態によれば、そのセパレータの単位面積インピーダンスを、100Ω・cm2以下、50Ω・cm2以下、20Ω・cm2以下、10Ω・cm2以下、5Ω・cm2以下、2Ω・cm2以下、或いは1Ω・cm2とすることができる。幾つかの実施形態によれば、そのセパレータの単位面積インピーダンスを、0.5Ω・cm2以上、1Ω・cm2以上、2Ω・cm2以上、5Ω・cm2以上、10Ω・cm2以上、20Ω・cm2以上、或いは50Ω・cm2以上とすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.0.5Ω・cm2以上100Ω・cm2以下、0.5Ω・cm2以上20Ω・cm2以下)。セパレータの単位面積インピーダンスは電気化学インピーダンス分光法により判別することができる。
【0038】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに備わるセパレータを、比較的高い電圧で安定なものにすることができる。本願で曰く、セパレータがある電圧で安定であると認められるのは、その電圧で保持されたときに、目に見えてわかる劣化例えば溶解、クラック、酸化等が現れない場合である。幾つかの実施形態によれば、そのセパレータが安定な電圧を、2V以上、2.5V以上、3V以上、3.7V、4.0V以上、4.2V以上、4.3V以上、4.5V以上、或いは4.7V以上とすることができる。幾つかの実施形態によれば、そのセパレータが安定な電圧を、5V以下、4.7V以下、4.5V以下、4.3V以下、4.2V以下、4.0V以下、3.7V以下、3V以下、或いは2.5V以下とすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.2V以上5V以下、3.7V以上5V以下)。他の値域もありうる。
【0039】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに備わるセパレータを、比較的高い剪断弾性率を有するものにすることができる。理屈にこだわりたくはないが、高い剪断弾性率を有するセパレータの方がデンドライト成長に抗しやすく、従ってその再充電式電気化学セルのサイクル寿命が改善されやすい、と考えられる。幾つかの実施形態では、そのセパレータの剪断弾性率が、5GPa以上、7.5GPa以上、10GPa以上、12.5GPa以上、15GPa以上、或いは17.5GPa以上とされる。幾つかの実施形態では、そのセパレータの剪断弾性率が、20GPa以下、17.5GPa以下、15GPa以下、12.5GPa以下、10GPa以下、或いは5GPa以下とされる。上掲の値域の組合せもありうる(例.5GPa以上20GPa以下)。他の値域もありうる。セパレータの剪断弾性率はパルスエコー超音波法により判別することができる。
【0040】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに備わるセパレータを、比較的低い線熱膨張係数を有するものにすることができる。その線熱膨張係数は、0.0000105K-1以下、10-5K-1以下又は10-6K-1以下とすることができる。線熱膨張係数は熱機械分析により判別することができる。
【0041】
セパレータは、適切であればどのような厚みでもよい。幾つかの実施形態では、そのセパレータの厚みが、1nm以上、2nm以上、5nm以上、10nm以上、20nm以上、50nm以上、100nm以上、200nm以上、500nm以上、1ミクロン以上、2ミクロン以上、5ミクロン以上、10ミクロン以上、或いは20ミクロン以上(1ミクロン=1μm)とされる。幾つかの実施形態では、そのセパレータの厚みが、50ミクロン以下、20ミクロン以下、10ミクロン以下、5ミクロン以下、2ミクロン以下、1ミクロン以下、500nm以下、200nm以下、100nm以下、50nm以下、20nm以下、10nm以下、5nm以下、或いは2nm以下とされる。上掲の値域の組合せもありうる(例.1nm以上50ミクロン以下、或いは10nm以上1ミクロン以下)。他の値域もありうる。セパレータの厚みは電子顕微鏡法で判別することができる。
【0042】
セパレータは、適切であればどのようなモルフォロジ(形態)及び組成でもよい。幾つかの実施形態では、セパレータ(或いはそのプレカーサ)が岩塩結晶構造、蛍石結晶構造又はR3バーm結晶構造を有する(「3バー」は「3」に上線)。上掲の議論からご理解頂くべきことに、セパレータがどのようなセパレータ用プレカーサを含んでいてもよい。例えば、セパレータを、一種類又は複数種類のハロゲン化物アニオン、一種類又は複数種類のポリハロゲン化物アニオン、ハロゲン化物アニオン及び/又はポリハロゲン化物アニオンを形成する反応に供しうる一種類又は複数種類の種、塩素酸アニオン、過塩素酸アニオン、硝酸アニオン、リン酸アニオン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン及び/又はハロゲン原子であり、セパレータ用プレカーサとの関連で上述されているものを、含むものとすることができる。幾つかの実施形態によれば、そのセパレータを、アルカリ土類カチオンがドーピングされたアルカリハロゲン化物塩、例えばマグネシウムがドーピングされたヨウ化リチウムを含むものとすることができる。好適なセパレータ素材の更なる非限定的例としては、LiF、LiCl、LiBr、LiI、Li4I3Br、Li4Br3I、Li4Br3Cl、Li4Cl3Br、リチウムオキシハロゲン化物例えばLi3OBr等がある。幾つかの実施形態によれば、溶媒分子から酸素を抽出することにより、一種類又は複数種類のリチウムオキシハロゲン化物を形成することができる。
【0043】
上述の通り、ある種の実施形態では再充電式電気化学セルが電解質を備える。幾つかの実施形態ではその電解質が液体電解質とされる。幾つかの実施形態によれば、その電解質を有機溶媒、例えばエーテル基、ニトリル基、シアノエステル基、フルオロエステル基、テトラゾール基、フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、ニトロ基、カーボネート基、ジカーボネート基、ニトレート基、フルオロアミド基、ジオン基、アゾール基及びトリアジン基のうち一種類又は複数種類を有する溶媒とすることができる。幾つかの実施形態によれば、その電解質を、アルキルカーボネート、例えばエチレンカーボネート及び/又はジメチレンカーボネートを含むものとすることができる。
【0044】
幾つかの実施形態によれば、上述の電解質を、一種類又は複数種類の塩を含むものとすることで、その電解質の導電率を高めることができる。好適な塩の非限定的例としては、LiPF6、LiBF4、LiFSI、LiTFSI、LiClO4、LiBOB、LiDFOB等がある。
【0045】
その電解質の導電率を高める塩が電解質に含まれている実施形態では、その電解質の導電率を高める塩が呈する濃度を、0.01M以上、0.02M以上、0.05M以上、0.1M以上、0.2M以上、0.5M以上、1M以上、或いは2M以上とすることができる。幾つかの実施形態によれば、その電解質の導電率を高める塩が呈する濃度を、5M以下、2M以下、1M以下、0.5M以下、0.2M以下、0.1M以下、0.05M以下、或いは0.02M以下とすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.0.01M以上5M以下)。他の値域もありうる。
【0046】
幾つかの実施形態によれば、本願記載の電解質に、その電解質におけるセパレータ用プレカーサの溶解度に影響する一種類又は複数種類の添加物を含めることができる。例えば、その電解質に、そのセパレータ用プレカーサの電解質内溶解度を高める添加物を含めることができる。即ち、その添加物が存在する電解質中では、その添加物を欠く以外は同等な電解質中に比べ、そのセパレータ用プレカーサが高い溶解度を呈するようにすることができる。プレカーサの電解質内溶解度を高める添加物の非限定的例としては、水、HF、HNO3等がある。幾つかの実施形態によれば、その添加物を、ニトリル基、フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、ニトロ基、ニトレート基、フルオロアミド基及びジオン基のうち、一種類又は複数種類を有するものとすることができる。
【0047】
上述の通り、ある種の実施形態は再充電式電気化学セルに関する。幾つかの実施形態では、その再充電式電気化学セルが少なくとも第1電極を備える。幾つかの実施形態では、その第1電極がアノードとされる。第1電極は、アルカリ金属例えばリチウム金属、ナトリウム金属及び/又はカリウム金属を含むものとすることができる。幾つかの実施形態によれば、その第1電極を、アルカリ土類金属例えばマグネシウム及び/又はカルシウムを含むものとすることができる。幾つかの実施形態では、その第1電極を、遷移金属(例えばイットリウム及び/又は亜鉛)及び/又は外部遷移金属(例えばアルミニウム)を含むものとする。
【0048】
第1電極は、適切であればどのような厚みでもよい。幾つかの実施形態では、その第1電極の厚みが、15ミクロン以上、20ミクロン以上、25ミクロン以上、30ミクロン以上、35ミクロン以上、40ミクロン以上、或いは45ミクロン以上とされる。幾つかの実施形態によれば、その第1電極の厚みを、50ミクロン以下、45ミクロン以下、40ミクロン以下、35ミクロン以下、30ミクロン以下、25ミクロン以下、或いは20ミクロン以下とすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.15ミクロン以上50ミクロン以下)。他の値域もありうる。第1電極の厚みは電子顕微鏡法により判別することができる。
【0049】
幾つかの実施形態によれば、第1電極の表面を不活性化(パッシベート)することができる。例えば、第1電極の表面上にパッシベーション層を配置することができる。設ける場合、そのパッシベーション層は、上述のセパレータ用プレカーサ例えばハロゲン化物アニオンにより構成することができる。幾つかの実施形態では、そのパッシベーション層がポリマ、例えばポリ(2-ビニルピリジン)を含むものとされる。パッシベーション層は、第1電極の表面と反応しパッシベーション層を形成する種を含む組成に対し、その第1電極の表面を露出させることで、形成することができる。例えば、その第1電極の表面を、ハロゲン化物塩例えばリチウムハロゲン化物塩を含む組成に対し露出させればよい。また例えば、第1電極の表面をまずはポリ(2-ビニルピリジン)、その後にヨウ素蒸気に対し露出させることで、パッシベーション層を形成することができる。
【0050】
設ける場合、第1電極上のパッシベーション層は、適切であればどのような厚みでもよい。幾つかの実施形態では、その第1電極上のパッシベーション層の厚みが、1nm以上、2nm以上、5nm以上、10nm以上、20nm以上、50nm以上、100nm以上、200nm以上、500nm以上、1ミクロン以上、2ミクロン以上、5ミクロン以上、10ミクロン以上、20ミクロン以上、或いは50ミクロン以上とされる。幾つかの実施形態では、その第1電極上のパッシベーション層の厚みが、100ミクロン以下、50ミクロン以下、20ミクロン以下、10ミクロン以下、5ミクロン以下、2ミクロン以下、1ミクロン以下、500nm以下、200nm以下、100nm以下、50nm以下、20nm以下、10nm以下、5nm以下、或いは2nm以下とされる。上掲の値域の組合せもありうる(例.1nm以上50ミクロン以下、或いは10nm以上1ミクロン以下)。パッシベーション層の厚みは電子顕微鏡法により判別することができる。
【0051】
上述の通り、ある種の実施形態は再充電式電気化学セルに関する。幾つかの実施形態では、その再充電式電気化学セルに少なくとも第1電極及び第2電極が備わる。幾つかの実施形態では、その第2電極がカソードとされる。その第2電極は、層間(インタカレーション)化合物例えばリチウムイオン層間化合物、転化(コンバージョン)化合物、酸化物、硫黄、ハロゲン化物及びカルコゲン化物のうち、一種類又は複数種類を含むものとすることができる。好適な層間化合物の非限定的例としては、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物等がある。幾つかの実施形態では、その再充電式電気化学セルが金属空気セル例えばリチウム空気セルとされる。
【0052】
第2電極により、その再充電式電気化学セル中に存する作用イオンを、任意の好適な電位で貯留することができる。本願で言う作用イオンは、アノードにて金属種の酸化により形成される種であり、カソード活性種が減少しているときにカソードへのインタカレーションによりそのカソードに電気的中性を付与するもののことである。幾つかの実施形態では、その第2電極により作用イオンが貯留される電圧が、2.0V以上、2.5V以上、3.0V以上、3.5V以上、4.0V以上、或いは4.5V以上とされる。幾つかの実施形態では、その第2電極により作用イオンが貯留される電圧が、5.0V以下、4.5V以下、4.0V以下、3.5V以下、3.0V以下、或いは2.5V以下とされる。上掲の値域の組合せもありうる(例.2.5V以上5V以下)。他の値域もありうる。作用イオンが貯留された電圧はサイクリックボルタメトリにより判別することができる。
【0053】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに備わる第2電極の厚みを、20ミクロン以上、50ミクロン以上、100ミクロン以上、或いは200ミクロン以上とすることができる。幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに備わる第2電極の厚みを、500ミクロン以下、200ミクロン以下、100ミクロン以下、或いは50ミクロン以下とすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.20ミクロン以上50ミクロン以下)。他の値域もありうる。第2電極の厚みは電子顕微鏡法により判別することができる。
【0054】
幾つかの実施形態によれば、第1電極及び/又は第2電極を集電体上に配置することができる。その集電体は、その上に配置されている電極と電気的に導通するものにすること、並びにその電極から外部部材(例.負荷)へと電子を送ることが可能なものにすることができる。好適な集電体の非限定的例としては、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、クロム、グラファイト、ガラス状カーボン等がある。集電体は箔、メッシュ及び/又は泡の態にすることができる。
【0055】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルを、1個又は複数個のエクスサイチューセパレータを備えるもの、即ちセル組立プロセス中にそのセルに付加されたセパレータ(群)を備えるものとすることができる。その又はそれらのエクスサイチューセパレータは、好適であればどのような組成及び構造を有するものでもよい。好適なエクスサイチューセパレータの非限定的例としては、多孔質素材、例えば多孔質ポリマ膜(例.セルロース膜)、多孔質セラミクス膜、繊維マット(例.ガラス繊維マット)、織構造及び/又は不織構造がある。幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セル中に存する1個又は複数個のエクスサイチューセパレータを、被覆を有するものとすることができる。1個又は複数個のエクスサイチューセパレータが存している場合、各エクスサイチューセパレータには、相独立して、本願記載の特性のうちいずれかを持たせ、全てを持たせ、或いはいずれも持たせないようにすることができる。
【0056】
幾つかの実施形態によれば、本願記載の再充電式電気化学セルに、一通り又は複数通りの有利な特性、例えばサイクリング後にデンドライトから解放されるというそれを、持たせることができる。幾つかの実施形態によれば、50サイクル以上、100サイクル以上、200サイクル以上、500サイクル以上、1000サイクル以上、或いは3000サイクル以上を経て、その電気化学セルをデンドライトから解放することができる。幾つかの実施形態によれば、5000サイクル以下、3000サイクル以下、1000サイクル以下、500サイクル以下、200サイクル以下、或いは200サイクル以下を経て、その電気化学セルをデンドライトから解放することができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.50サイクル以上5000サイクル以下)。他の値域もありうる。
【0057】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに、比較的大きな面積容量を持たせることができる。その再充電式電気化学セルの面積容量を、2mAh/cm2以上、3mAh/cm2以上、4mAh/cm2以上、5mAh/cm2以上、6mAh/cm2以上、7mAh/cm2以上、8mAh/cm2以上、9mAh/cm2以上、10mAh/cm2以上、11mAh/cm2以上、12mAh/cm2以上、13mAh/cm2以上、14mAh/cm2以上、15mAh/cm2以上、16mAh/cm2以上、17mAh/cm2以上、18mAh/cm2以上、或いは19mAh/cm2以上とすることができる。その再充電式電気化学セルの面積容量を、20mAh/cm2以下、19mAh/cm2以下、18mAh/cm2以下、17mAh/cm2以下、16mAh/cm2以下、15mAh/cm2以下、14mAh/cm2以下、13mAh/cm2以下、12mAh/cm2以下、11mAh/cm2以下、10mAh/cm2以下、9mAh/cm2以下、8mAh/cm2以下、7mAh/cm2以下、6mAh/cm2以下、5mAh/cm2以下、4mAh/cm2以下、或いは3mAh/cm2以下とすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.2mAh/cm2以上20mAh/cm2以下、或いは3mAh/cm2以上10mAh/cm2以下)。他の値域もありうる。
【0058】
幾つかの実施形態によれば、再充電式電気化学セルに、比較的長いサイクル寿命を持たせることができる。その再充電式電気化学セルのサイクル寿命を、50サイクル以上、100サイクル以上、200サイクル以上、500サイクル以上、1000サイクル以上、或いは3000サイクル以上とすることができる。その再充電式電気化学セルのサイクル寿命を、5000サイクル以下、3000サイクル以下、1000サイクル以下、500サイクル以下、200サイクル以下、或いは100サイクル以下とすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.50サイクル以上5000サイクル以下)。他の値域もありうる。
【0059】
幾つかの実施形態によれば、セパレータを欠くこと及び/又はセパレータ用プレカーサを欠くこと以外は同等な電気化学セルと比べ、再充電式電気化学セルのサイクル寿命を比較的長くすることができる。再充電式電気化学セルのサイクル寿命を、それ以外は同等な電気化学セルより20%以上上回る長さ、それ以外は同等な電気化学セルより50%以上上回る長さ、それ以外は同等な電気化学セルより100%以上上回る長さ、それ以外は同等な電気化学セルより200%以上上回る長さ、それ以外は同等な電気化学セルより500%以上上回る長さ、或いはそれ以外は同等な電気化学セルより1000%以上上回る長さとすることができる。再充電式電気化学セルのサイクル寿命を、それ以外は同等な電気化学セルより2000%以下上回る長さ、それ以外は同等な電気化学セルより1000%以下上回る長さ、それ以外は同等な電気化学セルより500%以下上回る長さ、それ以外は同等な電気化学セルより200%以下上回る長さ、それ以外は同等な電気化学セルより100%以下上回る長さ、或いはそれ以外は同等な電気化学セルより50%以下上回る長さとすることができる。上掲の値域の組合せもありうる(例.それ以外は同等な電気化学セルより20%以上2000%以下上回る長さ)。他の値域もありうる。
【実施例1】
【0060】
この例で述べられているのはリチウムハロゲン化物をベースにした固体電解質の電気化学的形成を調べる実験/情報処理結合的調査であり、そのゴールは、リチウム金属製負電極を用いた自己組織性/自己修復性電池を実現し提示することにある。ハロゲン系(I,Br,Cl及びF)が呈する反応電位はリチウム金属の許で漸増する。それら電位の絶対値により、リチウム-硫黄対及びリチウム-インタカレーションカソード対をはじめ広範な電気化学対に対し調和的なセル電位にてリチウムハロゲン化物(或いはその他のアルカリハロゲン化物)の形成を制御的に行うことができる。例えば上掲のLi-S例では、LiIの形成電位(2.85V)がLi-S反応のそれ(2.5V)よりも高く、より負な自由形成エネルギに相当しているので、リチウム金属上のSEIにLiIが含まれることになると期待される。Li金属アノードが約3.45Vのセル電圧にてLiFePO4カソードと併用される仮想例では、LiI固体電解質は自発形成されないであろうが、他のハロゲン化物例えばLiBr、LiCl及びLiFは形成されるであろう。思うに、混合ハロゲン化物Li(I,Br,Cl,F)組成、例えば傾斜固体電解質は、その反応経路の適切な制御により産生することができる。それら金属ハロゲン化物はそれぞれ好適にも岩塩構造に結晶化するので、その輸送特性の組成的チューニングが更にやりやすい。例えば、アルカリ土類ヨウ化物等によるスーパー原子価(supervalent)カチオンドーピングにより、電荷補償性カチオン空孔をその岩塩格子内で産生し、それによりリチウムイオン導電率を高めることができる。自己組織性リチウムハロゲン化物固体電解質のドーピングに向けた戦略は、結合的な情報処理及び実験を通じ評価することができる。
【0061】
金属ハロゲン化物及び液体電解質組成をチューニングし、それによりその液体電解質中で溶解度制限的にハロゲン化物を産生することで、自己修復機能を導入することができる。電池サイクリング中に露出されたリチウム金属、例えばその固体電解質膜のクラックを介し露出されたそれを、その液への露出に供して不活性化することができる。リチウムハロゲン化物の非水溶媒内溶解度は、エーテル性溶媒における高溶解度から他溶媒における低溶解度まで様々である。形成電位の値域が広いことは、溶媒及びハロゲンの選択により広範囲なチューニングを行い部分溶解度を達成しうることを示唆している。この領域は、特に、実験を案内することを目的とした熱力学ベースの情報処理的サーチになじみやすい。
【0062】
この例で調べるのはリチウムハロゲン化物をベースとした固体電解質の制御的な電気化学的形成であり、そのゴールは、リチウム金属製負電極を用い自己組織/自己修復性電池を実現し提示することにある(
図6参照)。リチウム金属電極に対し調和的な固体電解質に関連する性能上の特徴は以下の通りである:
1.イオン導電率が高く、約10
-2S/cmオーダであること
2.電気化学的に安定であり、4~5Vの動作電位までそうであること
3.電子導電率が高く、概してその素材のバンドギャップが4eV超であること
4.機械的に強靱であるためデンドライト成長を抑えることができ、その剪断弾性率が20GPa超であること
5.熱的に安定であり、その線熱膨張係数αが0.0000105未満と小さいこと
6.選択性の度合いが高いこと(例.単イオン導体)
7.処理コストが低いこと
8.既存の電池デザインへの統合が容易であること
注記すべきことに、固体電解質がこれらの特徴の一部を有するのでも、それら特徴の全て有するのでも、或いはそれら特徴を全く有していないのでもよい。
【0063】
これらの指標を用いある種のリチウムハロゲン化物塩から導出されたレーダチャートを
図7に示す。看取できるように、純粋なハロゲン化物の場合、イオン導電率を除けばどの指標もほどよく良好に充足されている。とはいえ、LiIがドーピングされている場合にはイオン導電率も良好になる。
【0064】
この実験によれば、インサイチュー形成された固体ハロゲン化物電解質膜の組成例えばドーピングを制御することで、イオン導電率を改善することができる。機械的特性に関しては、このハロゲン化物は高分子無機固体であり、
図6に描かれている如くLiデンドライト貫通防止能力を有している。しかしながら、これらの化合物は低い破壊靱性を呈しかねない。自己修復性を有するシステムを開発することでこの制限を克服すること、例えばリチウム金属のストリッピング及び堆積中に生じる露出Li金属を新規な金属ハロゲン化物により自発的且つ可制御的に不活性化することが可能であろう。
【0065】
損傷を自発的に、例えば自己修復により修復する能力は、電池素材における電気化学的反応が構造的変化につながりうること(
図8参照)からすれば、再充電式電池にとり望ましかろう。そうした変化により劣化及び損傷が起きることがあり、及び/又は、最終的にはその電池がサイクリングで機能しないこととなりうる。自己修復性ハロゲン化物ベース化学特性をリチウム金属電極に付与することで、それらのサイクル寿命及び安全性を増強すること、並びにデンドライト形成を低減することができる。これは、次に示す戦略のうち1個又は複数個により達成することができる:
1.化学的手段による初期的不活性化:Li金属上に初期ハロゲン化物層を形成する途が多々あるなか、最も単純なのは高濃度のLi
+イオン及びX
-イオンを含有する非水溶媒中への浸漬であろう。他の方法の一つはハロゲン蒸気への露出なる方法であり、またポリ-2-ビニルピリジン膜の堆積及びそれに続くI
2との反応である(
図9参照)。
2.固体ハロゲン化物組成の電気化学的制御:表面を初期的に不活性化した後、その表面上に、溶液内ハロゲン化物種の種分化及び印加電位の制御を通じ、Li(X,Y)ハロゲン化物を堆積させることができる。全要素、全添加物をその液体電解質中に入れ、組み上がったセルを対象にして形成プロセスを実行すればよい。上述の通り、それら金属ハロゲン化物の堆積が起こる電位は、I、Br、Cl、Fの順の順で高い。従って、熱力学をベースにしたクロノポテンショメトリックプロファイル及び溶解ハロゲン化物形成の協働により、その固体ハロゲン化物膜の組成を特定することができる。その溶液中の別のハロゲンイオンにより電気化学的堆積を媒介することも、ハロゲン化物のコンフォーマル被覆の形成上、有効である。例えば、その溶液相中に存するBr
-イオンによりLiCl層を媒介することができる。
この方式は次のステップ順
a.混合ハロゲン化物アニオンの形成:X
2+Y
-→X
2Y
b.アノード反応:Li→Li
++e
-
c.カソード反応:2Li
++X
2Y+2e
-→2LiX+Y
-
で進めることができる。
上述の方式によれば、LiXの形成をY
-イオンにより媒介することができる。なお、アノードがリチウム金属である必要はなく、酸化によりLi
+イオンが溶液中に解き放たれるものなら他のどういった素材でもかまわないのであり、例えばハロゲン化物固体電解質をカソード上に堆積させるようにしてもよい。
3.自己修復に向けたハロゲン化物溶解度制御:それらハロゲン化物はいずれも形成電位が十分に高いので、露出しているLi金属を、少なくともLiX単分子層により自発的に不活性化することができる。そのLiXがその電解質において完全に不溶性であるなら、溶液内のXの全て又はかなりの部分が最終的には露出Li金属により非可逆的に「ゲッター」(捕獲)されるであろうし、デンドライト形成に抗し新規露出Li金属を不活性化するという固体ヨウ化物の能力が最終的には停止するであろう。従って、溶解ハロゲン化物の持続的源泉を提供し、電池サイクリングのさなかにハロゲン化物固体電解質中に形成された欠陥をその溶解ハロゲン化物により自己修復することが、有利であろう。ハロゲン化物に係る形成電位が広域であり且つ非水溶媒のなかでLiI溶解度が既知の大きな変動を呈するのであれば、ハロゲン化物の電解質内溶解度をチューニングしうる広い「窓」が存在する。定性的には、どのような溶媒においてもLiXの溶解度はX=I,Br,Cl,Fの順の順で低下することとなろう。本プロジェクトのこの部分においては、その電解質の吸着エネルギ、ドナー数及びアクセプタ数に基づく情報処理により溶解自由エネルギを計算し、それにより実験的設計を案内することで、溶媒種別例えばアルキルカーボネート溶媒に関連付けてハロゲン化物の溶解度を系統的にマッピングすることができる。Li金属上に形成されるLiX層並びにその電解質におけるハロゲン化物の濃度及び種分化の実験的特性解明と組み合わせることで、固体電解質層とその電解質における平衡溶解度との間でハロゲン化物の仕切りをマッピングすることが可能となりうる。ある好適な熱力学的記述によれば、溶液からのハロゲン化物種の吸着が高Li活性個所にて起こりうるので、その液中に適切な自己修復用ハロゲン化物源を保全すること及び/又はリチウム金属上に形成される吸着層の組成及び構造を制御することが有益たりうる。
【0066】
デンドライト形成に対する不活性化Li金属表面の安定性を、関連する電気運動的パラメタ、例えば可逆メッキされるリチウム金属の電流密度及び厚み/容量に関し判別することができる。15~50μmなるLi金属厚に相当する3~10mAh/cm2なる面積容量にてデンドライト形成を抑圧することが、望ましかろう。
【0067】
ご認識頂けるように、以下の技術的障壁に直面するかもしれない:
1.高いイオン導電率の獲得:純粋なハロゲン化物は比較的低いイオン導電率を呈しがちである。予備的な情報処理結果によれば、アルカリ土類ドーピング例えばMg2
+によるそれにより、そのハロゲン化物塩のイオン導電率を高めることができる。
2.リチウム界面における固体電解質の選択的形成:溶媒及び塩アニオンの化学特性をチューニングすることで、所望の溶液種及び固体電解質膜を選択的に形成することができる。
3.デンドライト成長の沈静化:純粋なハロゲン化物及び混合ハロゲン化物は、共に、デンドライト成長の抑圧に関し有望な機械的特性を呈する。電解質膜成長における選択性を実現することで、厚み及び機械的特性をチューニングしてデンドライトの防止に資することが可能となろう。
4.自己修復応答の実現(
図10参照):固体ハロゲン化物電解質膜内の欠陥を新たな固体電解質で以て自発的に不活性化し、またそれを十分迅速に行うことで、デンドライト形成につながる新たなLi金属の先行堆積を防ぐことができる。
【0068】
リチウムハロゲン化物の安定固体電解質としての実現可能性(フィージビリティ)を確認するため、リチウムハロゲン化物の核生成、リチウム金属上での安定性及び成長並びに機械的強度を含む複数側面を調べた。リチウム金属上でのハロゲン化物の吸着エネルギによりハロゲン化物の核生成に係る動作電位域が決まるので、密度関数理論(DFT)を用いハロゲン化物の吸着エネルギを求めることにより、適切な見識を提供することができる。吸着エネルギは、4原子厚リチウムスラブ上の吸着分子たるハロゲン化物で以てDFTシミュレーションを実行することで計算する。シミュレーションはオントップ、ブリッジ及び中空位置なる三種類の構成について行い、そのなかで最低エネルギの構成を用い吸着エネルギを計算する。吸着エネルギを吸着状態での形成エネルギとして求め、またそのためリチウムスラブ単独でのエネルギを予めDFTにより求めておく。
図11に、LiF、LiCl、LiBr、LiIの吸着エネルギ及び形成エネルギを示す。ポリハロゲン化物及び混合ハロゲン化物の場合については、個別の混合/ポリハロゲン化物の分子で以てそれを置換することで、吸着分子を同様にシミュレートする。
【0069】
固体電解質には、電池の安全性及びエネルギ密度を顕著に改善しうる見込みがある。固体電解質のなかでも適切な機械的特性を有するものは、リチウム金属アノード上でのデンドライトの成長を抑圧することができるので、その使用によりその電池のエネルギ密度を大きく増強することができる。これらの双方の観点から、固体電解質の機械的特性を注意深く研究することが求められる。
【0070】
DFTを用いる場合、後掲の公式を用いることで、リチウム及び混合ハロゲン化物の弾性係数及び機械的特性を計算することができる。用いるのは非等方性素材についての一般的な応力歪み構成関係であり、応力を歪みに対し6×6弾性テンソルにより関連付けるものである。この有歪ハロゲン化物構造について、密度関数理論的な計算を適用することで、一連の印加歪みにおける応力が求まる。そして、それら応力及び歪みを一般的な応力歪み関係に当てはめることで、その弾性テンソルの諸成分が、それら当てはめパラメタから復元される。下記の表1は、リチウムハロゲン化物の弾性係数を、密度関数理論を用い計算した結果を表している。
【表1】
【0071】
デンドライトの抑圧が可能なハロゲン化物の実現可能性を調べるための基準として、変形化学電位を採用する。界面変形を伴う修正バトラーフォルマーモデル
【数1】
を用いる。
【0072】
その界面沿いでの周期的変位u(x1,0)=A・cos(ωx1)に対する電極電解質界面の応答に基づき、その電解質表面に現れる変形及び圧縮力が計算されることとなる。これを手がかりに、デンドライト成長を抑圧するのに必要な機械的特性の最適域の値が判別されることとなる。
【0073】
関連性及び成果についてこの欄で言及した諸方式によれば、電極上に単一成分SEI層を形成する巧妙な策が得られる。しかしながら、ポリハロゲン化物特性には複雑性があるため、電解質中にある種の電位及び濃度を精密に制御し、所望のリチウムハロゲン化物(LiX)のみが形成されるようにすることが、有益たりうる。X-及び溶解しているX2/Y2の濃度次第では、複数種類のイオン種例えばX-、X3
-、XY2
-及びXY-2を形成することができる。従って、次の反応
X-+X2←→X3
-
X-+X2←→X3
-
X-+X2←→X3
-
に関し様々な溶媒における平衡を考察することが有益たりうる。
【0074】
後掲の錯体イオン種の形成であり以下に示す電気化学的経路
X-+X2←→X3
-
X-+X2←→X3
-
を経るものを考察することも、有益たりうる。
【0075】
更に大きなポリハロゲン化物錯体の形成も可能であるが、安定化のため大きなカチオンが必要となりうる。Li
+が極小カチオンであることを考えると、3個以上のハロゲン化物原子を伴う錯体の存在はありそうにない。上掲の電気化学的反応に係る電位を用いることで、様々な電位におけるハロゲン化物種の溶液相ダイアグラムを作成することが可能となろう。様々な溶媒中のI
-/I
2/I
3
-に関し、そうした溶液相ダイアグラムの一例を
図12に示す。
【0076】
自己修復機能を実現するため考察されるもう一つの側面は、電解質におけるLiXの部分溶解である。その溶解反応は
LiX←→Li++X-
により与えられる。
【0077】
この反応に係る自由エネルギの変化はΔGdiss=GLi++GX--GLiXであり、この式中のGLi+は溶媒のグートマンドナー数及びLi+の濃度に依存する項、GX-は溶媒のグートマンアクセプタ数及びX-の濃度に依存する項、そしてGLiXは密度関数理論(DFT)計算により計算される項である。安定なSEIを形成するという目的からすれば、溶解反応を抑えることがことが望ましかろうし、自己修復反応を実現するには部分溶解が起きることが望ましかろう。これは、リチウムハロゲン化物及び電解質の適切な組合せを選択し、それによりΔGdissをほぼ0とすることにより、可能となろう。
【0078】
予備的な結果を
図13A~
図13Cに示す。ここでは、10μmのLi金属が可逆的にストリッピング及びメッキされる5mA/cm
2なる電流密度でのサイクリングに、対称Li-Liセルを供してある(2.05mAh/cm
2)。それら2個のLi電極はワットマンガラス繊維マットにより分離されていて、電解質は1MのLiPF
6であってEC:DMC(1:1)中にあり、0.1MのLiI添加を伴うものと伴わないものとがある。サイクリング後に観察したところによれば、LiI添加物有りのセルは、一貫して、LiI無しセルより低めの初期インピーダンス(
図13A)並びに低めのインピーダンス成長速度(
図13B)の双方を呈している。約70サイクル後はLiI無しセルが暴走的インピーダンス成長を呈するのに対し、LiI有りセルはなおも安定的にサイクリングしている。EISを70サイクル後に実行したところ(
図13C)、LiI添加物無しの場合、かなり高めのインピーダンスの低周波アークが現れた。これらの結果はLi金属電極上でのLiIベース低抵抗固体電解質膜の迅速形成にそぐうものであり、更なるサイクリングを通じこれは安定に保たれる。これらの結果は、LiI使用時に比しLi電極の安定性が改善されること、並びに提案されている混合LiXハロゲン化物の使用に関し多大な発見余地が存しうることを示唆している。
【0079】
動作条件下でハロゲン化物及びポリハロゲン化物種を識別するため、カーボン紙を作動電極、Li金属を対向/擬似参照電極として用いた二電極計測を、5mV/sなるスキャン速度にて実行した。そのアノードスキャンデータによれば、看取される通り、関連種はLiI、LiI
3及びI
2となる(
図14A)。これは、支配種に関し
図14Bに示した理論的分析とよく一致している。溶解電位のチューニングにおけるハロゲン化物の影響を示すため、LiI・LiBr間比較を
図14Cに示してある。この場合、ハロゲン化物アニオンでは酸化電位の正シフトが現れる。上述したポリハロゲン化物種形成の可能性を提示するため、混合ハロゲン化物(0.5MのLiI及びLiBr)を含有するセルのサイクリックボルタメトリプロファイルを
図14Dに示してあり、看取される通り、種分化がLiI含有又はLiBr含有セルのそれとは違うものとなりうる。これらは混合ポリハロゲン化物種の形成を示唆しており、このデータから考えるに、提案されている自己形成性及び自己修復性ハロゲン化物ベース方式が実行可能であることが証明されていると言えよう。
【0080】
リチウムハロゲン化物方式に関しここまでに提示された結果は、潜在的にはデンドライト成長問題を解決しうることを示している。概括すると、提案されているリチウムハロゲン化物方式には1個又は複数個の長所がある:
1.保護電極を作成するための自己形成プロセスを、単純で拡張性のあるものとすることができる。
2.混合ハロゲン化物ベース形成プロセスを三次元電極、即ち二次元電極に比べ表面積が非常に大きいため非常に高いエネルギ密度を実現できる電極の実現に向けた、ステップの一つとすることができる。
3.自己形成された保護リチウム電極は、他の添加物方式が直面している問題に悩まされることがない。
4.自己修復機能は提案方式のユニークな側面であり、これまでに成功裏且つ信頼性よく実現されていない側面であるといえる。
【0081】
情報処理的研究を適用することで、ポリハロゲン化物種分化の熱力学を情報処理し、動作電位下にあるそれら様々なポリハロゲン化物種に関し安定域を判別することができる。ポリハロゲン化物は複雑な化学特性を有すると共にX-、X3
-、X5
-、X7
-、X4
2-等々を形成しうるものであり、インプリシットな溶媒和フレームワーク内で第1原理密度関数理論計算を用いそれらの自由エネルギを計算することができる。ポリハロゲン化物の熱力学は溶媒により変化しうる。この分析により、自己組織及び自己修復プロセスが実現されるであろう活性ポリハロゲン化物種について理解をもたらすことができ、またそれをハーフセル及びフルセル試験により補強することができる。
【0082】
実験的には、提案されている自己組織性自己制限性固体電解質を、液体電解質への金属ハロゲン化物添加物を媒介にして、リチウム金属上に初期形成することができる。様々な二電極セル構成及び三電極セル構成を用い、リチウム金属上の固体ハロゲン化物膜を系統的に分離しその形成を追求することができる。セルデザインのなかには、リチウム作動電極及び不活性金属対向電極を有する「ハーフセル」や、対称リチウム-リチウムセルや、「フルセル」例えばLi-S及びLi-インタカレーションカソードセルがある。実験室でのセル試験を踏まえダウンセレクトを実行することができるので、10mAh超の容量を有するプロトタイプフルセルが製造され、DOE指定実験室に送って試験及び評価に供されることとなろう。
【0083】
本発明の数個の実施形態について本願中に記述及び図示してきたが、いわゆる当業者ならば、本願記載の諸機能を実行し及び/又は結果及び/又は1個又は複数個の長所を獲得しうる様々な他の手段及び/又は構造が、直ちに想起されるであろうし、そうした変形及び/又は修正はそれぞれ本発明の技術的範囲内にあるものと考えられる。より一般的には、いわゆる当業者には、本願記載のあらゆるパラメタ、寸法、素材及び構成が例示を意図していること、並びに本発明の教示が用いられる具体的な用途又は用途群により実際のパラメタ、寸法、素材及び/又は構成が左右されうることが、直ちに認識されよう。いわゆる当業者ならば、本願記載の発明の具体的実施形態に対する多くの等価物を認識し、或いは単なるルーチン的な実験を用い確認することができよう。従って、ご理解頂けるように、上掲の実施形態は専ら例示の手段として提示されたものであり、添付されている特許請求の範囲及びその均等物の技術的範囲内で、本発明を、具体的に記述されているもの及び特許請求の範囲に記載されているものとは別様に実施することができる。本発明は本願に記載されている個別の特徴、システム、物体、素材、キット及び/又は方法を指向している。加えて、そうした特徴、システム、物体、素材、キット及び/又は方法が相互不調和でない限り、それら特徴、システム、物体、素材、キット及び/又は方法2個以上のどのような組合せも本発明の技術的範囲に包含される。
【0084】
本願中で定められ用いられている定義は、いずれも、定義されている語についての辞書的定義、参照により繰り入れられた文献中での定義及び/又は通常の意味合いに勝るものであると理解されるべきである。
【0085】
本願の明細書及び特許請求の範囲にて用いられている不定冠詞「a」及び「an」は、その逆であることが明示されていない限り、「少なくとも1個」を意味するものと理解されるべきである。
【0086】
本願の明細書及び特許請求の範囲にて用いられている句「及び/又は」は、それにより連結されている要素のうち「一方又は双方」を意味するもの、即ちある場合には連結的に存在している要素を意味し他の場合には選言的に存在している要素を意味するものと理解されるべきである。「及び/又は」で以て列記されている多数の要素も同じ形式で、即ちそれにより連結されている要素のうち「1個又は複数個」の態で解されるべきである。それら具体的に指し示されている要素との関係の有無を問わず、他の要素、即ちその「及び/又は」節により具体的に指し示されている要素以外の要素が付加的に存在していてもよい。従って、非限定的例としては、「A及び/又はB」への参照が開放型言語例えば「備える」と併用されている場合、それは、ある実施形態ではAのみ(付加的にはB以外の要素を含む)を指し、他の実施形態ではBのみ(付加的にはA以外の要素を含む)を指し、更に他の実施形態ではA,B双方(付加的には他の要素を含む)を指す、等々といったことになりうる。
【0087】
本願の明細書及び特許請求の範囲にて用いられている「又は」は、上掲の定義による「及び/又は」と同じ意味を有するものと理解されるべきである。例えばリスト中で項目間を分かつ「又は」や「及び/又は」は包括的なものとして、即ち複数の又はリスト内の要素のうち少なくとも1個の包含であり複数個が含まれることもあり場合によっては付加的なリスト外項目が含まれるものとして、解されたい。その逆であることを明白に指し示している語、例えば「~のうち1個だけ」や「~のうちちょうど1個」、或いは特許請求の範囲にて用いられる「からなる」に限り、複数の又はリスト内の要素のうちぴったり1個の要素の包含を指すこととなろう。一般に、本願にて用いられている語「又は」は、例えば「いずれか」、「~のうち1個」、「~のうち1個だけ」、「~のうちちょうど1個」等の排他語が先行している場合、排他代替(即ち「一方又は他方であり双方ではない」)を示すものとしてのみ解釈されるべきである。「基本的に~からなる」が特許請求の範囲にて用いられている場合、それは特許法の分野で用いられるところの一般的な意味合いを有するものである。
【0088】
本願の明細書及び特許請求の範囲にて用いられ、1個又は複数個の要素で構成されたリストを参照している句「少なくとも1個」は、その要素リスト中の要素のうち任意の1個又は複数個の要素から選択された少なくとも1個の要素を意味していること、その要素リスト中に具体的に列挙されている要素全てのうち少なくとも1個しか含まれえないわけではないこと、且つその要素リスト中の要素の任意の組合せが排除されないこと、を意味するものとして理解されるべきである。この定義によれば、具体的に指し示されているそれらの要素との関係の有無を問わず、その要素リスト中で具体的に指し示され句「少なくとも1個」により参照されている要素以外の要素が、付加的に存在することも可能となる。従って、非限定的例としては、「A及びBのうち少なくとも1個」(或いはこれに等価な「A又はBのうち少なくとも1個」又は同じく等価な「A及び/又はBのうち少なくとも1個」)が、ある実施形態では、Aが少なくとも1個、付加的には2個以上あり、Bが存在していないこと(及び付加的にはB以外の要素が含まれること)を指し、他の実施形態では、Bが少なくとも1個、付加的には2個以上あり、Bが存在していないこと(及び付加的にはA以外の要素が含まれること)を指し、更に他の実施形態では、Aが少なくとも1個、付加的には2個以上あり、且つBが少なくとも1個、付加的には2個以上あること(及び付加的には他の要素が含まれること)を指す、等々といったことになりうる。
【0089】
これもご理解頂くべきことに、その逆であることが明示されていない限り、本願特許請求の範囲に記載されており複数個のステップ又は動作を含んでいるいずれの方法においても、その方法におけるそれらステップ及び動作の順序は、その方法のステップ又は動作が言及されている順序に必ずしも限定されない。
【0090】
特許請求の範囲、並びに上掲の明細書におけるあらゆる移行句、例えば「備える」、「含む」、「担持する」、「有する」、「内包する」、「孕む」、「保持する」、「組成される」等は、開放型表現として、即ち、含むがこれに限られない、を意味するものとして理解されるべきである。移行句のうち「からなる」及び「基本的に~からなる」だけは、米国特許庁特許審査手続きマニュアルのセクション2111.03にて説明されている通り、それぞれ閉鎖型又は半閉鎖型移行句とされるべきである。
【0091】
本願にて用いられるあらゆる形状、姿勢、整列及び/又は幾何学的関係関連語、例えば1個又は複数個の物体、構造、力、場、流れ、方向/軌道、及び/又はそれらの下位構成要素、及び/又はそれらの組合せ、及び/又は上に列挙されていないあらゆる他の有形又は無形要素でありそうした語による特徴付けになじむものの、或いはそれらの間の、そうした関係に関連する語については、別様に定義又は指示されているのでない限り、その語の数学的定義に対し絶対的な合致は求められないものと理解されるべきであり、その逆に寧ろ、いわゆる当業者でありその主題に最も密に関係している者が理解するであろう通りにその主題を特徴付けうる限りにおいて、その語の数学的定義への合致が指示されるものと理解されるべきである。そうした形状、姿勢及び/又は幾何学的関係関連語の例としては、これに限られるものではないが、例えば丸み付、正方形、円形の/円、長方形の/長方形、三角形の/三角形、円筒状の/円筒、楕円形の/楕円、多角形(n角形)の/多角形(n角形)等々といった形状記述語、例えば垂直な、直交する、平行な、鉛直な、水平な、共線的な等々といった角度的姿勢記述語、例えば平面/平面的な、同一平面上の、半球状の、半ば半球状の、線/線状の、双曲線状の、放物線状の、平坦な、曲がった、真っ直ぐの、弓状の、正弦波状の、正接/接触している等々といった輪郭及び/又は軌道記述語、例えば北、南、東、西等々といった方向記述語、例えば滑らかな、反射性の、透明な、明澄な、不透明な、堅固な、不浸透性の、均一(な)、不活性な、非湿潤性の、不溶性の、安定な、不変な、一定な、均質な等々といった表面及び/又はバルク素材特性及び/又は空間的/時間的分解能及び/又は分布記述語、並びに関連分野にていわゆる当業者にとり自明であろう他の多くのものを記述する語がある。一例としては、本願では「正方形」として記述されるであろう産品に、その品の面又は辺が完全に平坦又は直線状でありぴったり90°の角度で交差していることが求められることはなかろうし(実のところそうした品は数学的抽象化としてしか存在し得ない)、その逆に寧ろ、言及されている製造技術で、いわゆる当業者により理解されるであろう通りに又は具体的に記述されている如く、概して達成可能であり且つ達成される限りは、数学的に定義されるところに従い、その品の形状はほぼ「正方形」と解釈されるべきである。別例としては、本願では「整列している」として記述されるであろう複数個の産品に、その品の面又は辺が完全に整列していることが求められることはなかろうし(実のところそうした品は数学的抽象化としてしか存在し得ない)、その逆に寧ろ、言及されている製造技術で、いわゆる当業者により理解されるであろう通りに又は具体的に記述されている如く、概して達成可能であり且つ達成される限りは、数学的に定義されるところに従い、そうした品の配列はほぼ「整列している」と解釈されるべきである。