(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】空気圧ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 17/00 20060101AFI20220609BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20220609BHJP
B60T 8/94 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
B60T17/00 B
B60T17/18
B60T8/94
(21)【出願番号】P 2018561396
(86)(22)【出願日】2018-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2018000384
(87)【国際公開番号】W WO2018131621
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017001644
(32)【優先日】2017-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510063502
【氏名又は名称】ナブテスコオートモーティブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【氏名又は名称】藤井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 裕樹
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/006695(WO,A1)
【文献】特開2009-113803(JP,A)
【文献】特開2012-256167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00-17/22
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、車輪に設けられたブレーキ機構から空気を排出させてパーキングブレーキを作動させ、空気を前記ブレーキ機構へ供給してパーキングブレーキを解除する空気圧ブレーキシステムであって、
通電状態でパーキングブレーキを解除し、非通電状態でパーキングブレーキを作動させるパーキングブレーキモジュールと、
前記パーキングブレーキモジュールを通電状態及び非通電状態とするブレーキ制御装置と、を備え
、
前記パーキングブレーキモジュールは、
前記ブレーキ制御装置により制御される制御バルブと、
空気圧により制御されるリレーバルブと、
空気貯留部から前記リレーバルブに空気圧信号として空気を供給する信号通路と、
前記空気貯留部及び前記ブレーキ機構を接続し、前記信号通路よりも流路断面積が大きい供給通路と、
前記信号通路のうち前記制御バルブの上流側に接続される第1端と、前記信号通路のうち前記制御バルブの下流側に接続される第2端とを有する迂回路と、
前記迂回路に接続され、前記迂回路を遮断する第1位置と、前記迂回路を連通する第2位置とに位置を変更可能である解除バルブと、を備え、
前記制御バルブは、前記ブレーキ制御装置により通電された状態で前記信号通路を連通する接続位置と、非通電状態で前記信号通路を遮断する遮断位置とに位置を変更可能であり、
前記リレーバルブは、前記空気圧信号が入力されたときに、前記供給通路を連通し前記ブレーキ機構に空気を供給してパーキングブレーキを解除し、前記空気圧信号が入力されないときに前記供給通路を遮断して前記ブレーキ機構の空気を排出してパーキングブレーキを作動させる
空気圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記車両には、前記ブレーキ制御装置とは異なる第1ブレーキ制御装置によって制御される第1パーキングブレーキモジュールが設けられ、
前記パーキングブレーキモジュールは、前記第1パーキングブレーキモジュールが動作しない場合に、前記ブレーキ制御装置である第2ブレーキ制御装置により制御されて第2パーキングブレーキモジュールとして動作する
請求項
1に記載の空気圧ブレーキシステム。
【請求項3】
車両に搭載され、車輪に設けられたブレーキ機構から空気を排出させてパーキングブレーキを作動させ、空気を前記ブレーキ機構へ供給してパーキングブレーキを解除する空気圧ブレーキシステムであって、
通電状態でパーキングブレーキを解除し、非通電状態でパーキングブレーキを作動させるパーキングブレーキモジュールと、
前記パーキングブレーキモジュールを通電状態及び非通電状態とするブレーキ制御装置と、を備え
、
前記車両には、前記ブレーキ制御装置とは異なる第1ブレーキ制御装置によって制御される第1パーキングブレーキモジュールが設けられ、
前記パーキングブレーキモジュールは、前記第1パーキングブレーキモジュールが動作しない場合に、前記ブレーキ制御装置である第2ブレーキ制御装置により制御されて第2パーキングブレーキモジュールとして動作する
空気圧ブレーキシステム。
【請求項4】
前記車両は、他の車両と隊列を走行する車両であって、
前記ブレーキ制御装置は、前記車両に搭載された隊列走行制御装置からの停止指示により前記パーキングブレーキモジュールを制御し、前記隊列走行制御装置に異常が発生した場合に前記パーキングブレーキモジュールを非通電状態としてパーキングブレーキを作動させる
請求項1~
3のいずれか1項に記載の空気圧ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキングブレーキを作動させる空気圧ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の車両が隊列を編成して走行する隊列走行を実現するためのシステムの研究開発が進められている。隊列を編成する各車両は互いに通信をしながら、それらの車両の間の距離を所定の車間距離に保つように走行する。特に物流分野においては、運転者が運転する先頭車両と、無人の又は監視者が乗車する後続車両とによる隊列走行のためのシステムが提案されている。後続車両は、先頭車両の挙動に追従して制御される。例えばブレーキ制御では、先頭車両がブレーキを作動させたときに、後続車両が追従してブレーキを作動させる。当該分野で用いられるトラック等の貨物車両には、圧縮空気を用いてブレーキを作動させる空気圧ブレーキシステムが搭載されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、先行車との車間距離を保ちながら追従走行制御を行う追従走行制御装置が記載されている。車両は、パーキングブレーキを作動させる電動パーキングブレーキアクチュエーターを備えている。追従走行制御装置のコントローラは、ブレーキ制御装置を介して、電動パーキングブレーキアクチュエーターを制御する。追従走行制御が行われている場合、ブレーキスイッチ等が運転者により操作されたときには、追従走行制御を待機する制御解除状態となる。制御解除状態において追従走行制御装置に異常が発生すると、装置停止状態へ遷移する。装置停止状態では、車両が停止したときにサービスブレーキによる制動から電動パーキングブレーキによる制動に切り換える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、隊列における後続車両は無人運転又は監視者が車両挙動を監視する自動運転により制御されるがゆえに、例えばブレーキ制御装置など、その空気圧ブレーキシステムに異常が生じた場合に運転者による後続車両の操作が行われない。上記の追従走行制御装置では、追従走行中に運転者の操作が行われなければ制御解除状態とならない。したがって、空気圧ブレーキシステムに異常が生じても、装置停止状態に遷移して車両を強制的に停止させることができない。したがって、隊列走行を行う車両の空気圧ブレーキシステムの異常にも対処できるように、空気圧ブレーキシステムの保安性を高めることが要請されている。
【0006】
尚、こうした課題は、隊列を編成して走行する車両に限らず、自動運転を行う車両においては概ね共通したものである。
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、非常時にパーキングブレーキを自動的に作動させることのできる空気圧ブレーキシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する空気圧ブレーキシステムは、車両に搭載され、車輪に設けられたブレーキ機構から空気を排出させてパーキングブレーキを作動させ、空気を前記ブレーキ機構へ供給してパーキングブレーキを解除する空気圧ブレーキシステムであって、通電状態でパーキングブレーキを解除し、非通電状態でパーキングブレーキを作動させるパーキングブレーキモジュールと、前記パーキングブレーキモジュールを通電状態及び非通電状態とするブレーキ制御装置と、を備える。
【0008】
上記構成によれば、ブレーキ制御装置に異常が生じたときには、パーキングブレーキモジュールは通電されないため、パーキングブレーキが強制的に作動する。このため、例えば隊列走行時等、運転者の操作が期待できない場合であっても、非常時にパーキングブレーキを自動的に作動させることができる。
【0009】
一実施形態では、上記空気圧ブレーキシステムについて、前記パーキングブレーキモジュールは、前記ブレーキ制御装置により制御される制御バルブと、空気圧により制御されるリレーバルブと、空気貯留部から前記リレーバルブに空気圧信号として空気を供給する信号通路と、前記空気貯留部及び前記ブレーキ機構を接続し、前記信号通路よりも流路断面積が大きい供給通路と、を備え、前記制御バルブは、前記ブレーキ制御装置により通電された状態で前記信号通路を連通する接続位置と、非通電状態で前記信号通路を遮断する遮断位置とに位置を変更可能であり、前記リレーバルブは、前記空気圧信号が入力されたときに、前記供給通路を連通し前記ブレーキ機構に空気を供給してパーキングブレーキを解除し、前記空気圧信号が入力されないときに前記供給通路を遮断して前記ブレーキ機構の空気を排出してパーキングブレーキを作動させてもよい。
【0010】
上記構成によれば、電磁弁である制御バルブは空気圧信号を供給できる出力性能を有していればよいため、制御バルブの大型化を抑制し、制御バルブの消費電力量を小さくすることができる。また、リレーバルブは、空気圧信号が入力されたときに、空気貯留部側と信号通路よりも流路断面積の大きい通路とを接続してブレーキ機構に多量の空気を迅速に供給することができる。このため、パーキングブレーキを解除する際の応答性を高めることができる。さらに、制御バルブは、通電状態で空気圧信号を送り、非通電状態で空気圧信号の供給を停止するため、ブレーキ制御装置に異常が発生したときには空気圧信号の供給が停止される。これにより、リレーバルブによるブレーキ機構への空気の供給が停止されるため、パーキングブレーキを強制的に作動させることができる。
【0011】
一実施形態では、上記空気圧ブレーキシステムについて、前記信号通路のうち前記制御バルブの上流側に接続される第1端と、前記信号通路のうち前記制御バルブの下流側に接続される第2端とを有する迂回路と、前記迂回路に接続され、前記迂回路を遮断する第1位置と、前記迂回路を連通する第2位置とに位置を変更可能である解除バルブと、を備えてもよい。
【0012】
上記構成によれば、強制的にパーキングブレーキが作動したとき、例えば操作者によって解除バルブが操作されることにより、迂回路を介してリレーバルブに空気圧信号を供給することができる。これにより、強制ブレーキを解除して、車両を再走行させることができる。
【0013】
一実施形態では、上記空気圧ブレーキシステムについて、前記車両には、前記ブレーキ制御装置とは異なる第1ブレーキ制御装置によって制御される第1パーキングブレーキモジュールが設けられ、前記パーキングブレーキモジュールは、前記第1パーキングブレーキモジュールが動作しない場合に、前記ブレーキ制御装置である第2ブレーキ制御装置により制御されて第2パーキングブレーキモジュールとして動作してもよい。
【0014】
上記構成によれば、パーキングブレーキモジュールは、第1パーキングブレーキモジュールが動作しない場合に、バックアップ用の第2パーキングブレーキモジュールとして動作する。このため、空気圧ブレーキシステムの冗長性を高めることができる。
【0015】
一実施形態では、上記空気圧ブレーキシステムについて、前記車両は、他の車両と隊列を走行する車両であって、前記ブレーキ制御装置は、前記車両に搭載された隊列走行制御装置からの停止指示により前記パーキングブレーキモジュールを制御し、前記隊列走行制御装置に異常が発生した場合に前記パーキングブレーキモジュールを非通電状態としてパーキングブレーキを作動させてもよい。
【0016】
上記構成によれば、隊列走行を行う車両において、隊列走行制御装置に異常が発生した場合にパーキングブレーキモジュールを非通電状態とする。このため、隊列走行制御装置に異常が発生した場合にパーキングブレーキを作動させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非常時にパーキングブレーキを自動的に作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】空気圧ブレーキシステムの一実施形態について、当該空気圧ブレーキシステムが搭載された車両によって編成された隊列の模式図。
【
図2】同実施形態の空気圧ブレーキシステムの一部を詳細に示す空圧回路であって、パーキングブレーキが作動された状態を示す回路図。
【
図3】同実施形態の空気圧ブレーキシステムの一部を詳細に示す空圧回路であって、パーキングブレーキが解除された状態を示す回路図。
【
図4】同実施形態の空気圧ブレーキシステムの一部を詳細に示す空圧回路であって、強制的にパーキングブレーキが作動した後に再走行が可能となった状態を示す回路図。
【
図5】空気圧ブレーキシステムの変形例について、空気圧ブレーキシステムの一部を詳細に示す空圧回路の概略構成を示す図。
【
図6】空気圧ブレーキシステムを構成する解除バルブの変形例の模式図。
【
図7】空気圧ブレーキシステムを構成する解除バルブの変形例の模式図であって、(a)は第1通路を連通した状態、(b)は強制ブレーキを解除するときの状態を示す。
【
図8】空気圧ブレーキシステムを構成する解除バルブの変形例の模式図であって、(a)は第1通路を連通した状態、(b)は強制ブレーキを解除するときの状態を示す。
【
図9】空気圧ブレーキシステムを構成する解除バルブの変形例の模式図であって、(a)は第1通路を連通した状態、(b)は強制ブレーキを解除するときの状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、空気圧ブレーキシステムを、隊列走行を行う車両に適用した一実施形態について説明する。
図1を参照して、隊列走行について説明する。隊列を編成する車両100は、貨物車両であって、車両に一体に設けられた荷台を有するトラックである。隊列は、先頭車両100aと、先頭車両100aよりも後方を走行する後続車両100bとから編成される。先頭車両100aは、運転者により運転され(有人運転)、後続車両100bは、無人で自動運転が行われるか(無人運転)、又は監視者が乗車した自動運転が行われる。監視者は、自身の乗車する車両の挙動を監視するのみであって、基本的に運転は行わない。隊列を編成する車両100は、その後方を走行する車両100に対し、速度等の情報を、例えば数ミリ秒~数十ミリ秒毎に送信する。車両100は、受信した速度等の情報に基づき、前方の車両100との車間距離が所定の距離となるように加速又は減速する。また、後続車両100bは、隊列走行を行う所定の区間以外の道路を走行する場合等、必要に応じて運転者により運転されることがある。なお、
図1では、3台の車両100によって隊列を編成したが、隊列を編成する車両台数は3台以外の複数台であってもよい。
【0020】
車両100には、圧縮された空気を用いてブレーキを作動させる空気圧ブレーキシステムが搭載されている。空気圧ブレーキシステムは、空気圧によってブレーキ力を可変とするサービスブレーキ(常用ブレーキ、フットブレーキ)と、スプリングの付勢力によって車輪に所定のブレーキ力を付与するパーキングブレーキ(駐車ブレーキ)とを作動させる。
【0021】
図2を参照して、空気圧ブレーキシステム11の構成について説明する。空気圧ブレーキシステム11は、ブレーキ制御装置12を備えている。ブレーキ制御装置12は、演算部、演算領域としての揮発性記憶部、及び不揮発性記憶部を有する。演算部は、不揮発性記憶部に格納されたプログラムに従って、ブレーキを制御する。また、ブレーキ制御装置12は、図示しない車載ネットワークを介して、走行制御装置としての隊列走行制御装置13に接続されている。隊列走行制御装置13は、演算部、演算領域としての揮発性記憶部、不揮発性記憶部を有している。演算部は、不揮発性記憶部に格納されたプログラムに従って、隊列走行のための各種演算を行い、各制御装置に指示を出力する。また、隊列走行制御装置13は、通信部(図示略)を介して、路車間通信、車車間通信等を行う。ブレーキ制御装置12は、隊列走行制御装置13からの減速指示が入力されると、ブレーキを作動させる。
【0022】
空気圧ブレーキシステム11は、車輪毎に設けられたブレーキ機構としてのブレーキチャンバー50を備えている。ブレーキチャンバー50は、パーキングブレーキ用の第1空気貯留室51と、サービスブレーキ用の第2空気貯留室52とを有している。第1空気貯留室51には、パーキングブレーキモジュール20が接続され、第2空気貯留室52にはサービスブレーキモジュール21が接続されている。
【0023】
ブレーキチャンバー50には、スプリング53が設けられている。第1空気貯留室51に空気が供給されると、第1空気貯留室51を区画するピストン57が、スプリング53の付勢力に抗して移動して、第1空気貯留室51の容積が増大される。また、第1空気貯留室51から空気が排出されると、スプリング53の付勢力によりピストン57が移動して、第1空気貯留室51の容積が減少する。また、ピストン57には、押圧部材56が連結されている。押圧部材56は、ピストン57が第2空気貯留室52の容積を増大する方向に移動するとき、第2空気貯留室52を区画するダイヤフラム58を押圧する。また、ダイヤフラム58には、プッシュロッド54が連結されている。プッシュロッド54の先端には、車輪のブレーキライニング(図示略)に挿入される楔55が設けられている。第2空気貯留室52に空気が充填されていない状態で第1空気貯留室51から空気が排出されると、スプリング53の付勢力によって押圧部材56が押圧され、押圧部材56はダイヤフラム58をブレーキライニングに向かって押し出す。ダイヤフラム58の移動によりプッシュロッド54が押し出されると、楔55がブレーキライニングに挿入されてブレーキライニングを押し広げ、パーキングブレーキが作動する。また、第1空気貯留室51に空気が充填されると、スプリング53が圧縮され、ピストン57がプッシュロッド54とは反対に向かって移動する。これにより、押圧部材56及びダイヤフラム58がピストン57の移動方向と同じ方向に移動し、プッシュロッド54の楔55がブレーキライニングから抜出されてパーキングブレーキが解除される。第2空気貯留室52に空気が充填されると、ダイヤフラム58がブレーキライニングに向かって移動して、プッシュロッド54が押し出され、楔55がブレーキライニングに挿入されてサービスブレーキが作動する。第2空気貯留室52に供給された空気量が大きくなると、ブレーキ力が増大する。
【0024】
パーキングブレーキモジュール20は、信号通路としての第1通路31に設けられた制御バルブ22を備えている。第1通路31は、空気貯留源であるタンク25に接続されている。タンク25には、図示しないコンプレッサによって圧縮された空気が貯留されている。制御バルブ22は、ブレーキ制御装置12によって制御される電磁弁である。制御バルブ22は、通電されていない状態である非通電状態で第1通路31を遮断し、制御バルブ22よりも下流の空気を排気する排気位置と、通電状態で第1通路31を連通する接続位置に位置を変更可能に構成されている。
【0025】
第1通路31には、制御バルブ22を迂回する迂回路33が設けられている。迂回路33は、第1通路31のうち制御バルブ22の上流に接続される第1端と、第1通路31のうち制御バルブ22の下流に接続される第2端とを有する。
【0026】
迂回路33には、解除バルブ23が設けられている。解除バルブ23は、操作者が手動で操作する操作部23Sを有している。解除バルブ23は、第1通路31及び迂回路33に接続されている。解除バルブ23は、迂回路33を遮断し且つ第1通路31を連通する第1位置と、迂回路33を連通し且つ第1通路31を遮断する第2位置とに位置を変更可能に構成されている。解除バルブ23は、操作部23Sが操作されない状態では第1位置に維持される。また、解除バルブ23は、操作部23Sに対し例えば押圧操作等の操作がされたとき第2位置となる。
【0027】
また、パーキングブレーキモジュール20は、リレーバルブ24を備えている。リレーバルブ24は、タンク25とブレーキチャンバー50の第1空気貯留室51とを接続する供給通路としての第2通路32に設けられている。第2通路32は、第1通路31や迂回路33に比べて流路断面積等が大きく、大容量の空気を供給可能な通路である。リレーバルブ24は、第1空気貯留室51からの空気を排出可能な排気口24Eを備えている。また、リレーバルブ24は、空気圧信号として送られる所定圧の空気により制御されるパイロット弁であって、空気圧信号の入力ポートは、第1通路31に接続されている。また、リレーバルブ24は、第1空気貯留室51と排気口24Eとを接続する排気位置、第2通路32を連通してタンク25とブレーキチャンバー50とを接続する接続位置に位置を変更可能に構成されている。リレーバルブ24は、リレーバルブ24を排気位置にすべく付勢力を付与するスプリングを有しており、空気圧信号が入力されない状態では排気位置となり、空気圧信号が入力されている状態では接続位置となる。
【0028】
次に、
図2~
図4を参照して、パーキングブレーキモジュール20の動作について説明する。パーキングブレーキモジュール20の状態には、作動状態、非作動状態、強制ブレーキ状態及び強制ブレーキ解除状態が含まれる。
【0029】
図2を参照して、パーキングブレーキの作動状態について説明する。車両100のイグニッションスイッチがオフ状態の場合等には、パーキングブレーキが作動状態となる。例えば、隊列走行制御装置13及びブレーキ制御装置12の両方に異常が発生していないとき、隊列走行制御装置13により停止指示が出力され、ブレーキ制御装置12が停止指示に基づき、制御バルブ22を非通電状態とする。これにより、制御バルブ22は、排気位置となる。解除バルブ23は、第1位置に維持され、第1通路31を連通し、迂回路33を遮断している。これにより、リレーバルブ24には空気圧信号が供給されないため、リレーバルブ24は排気位置となる。その結果、ブレーキチャンバー50の第1空気貯留室51から空気が排出されて、パーキングブレーキが作動する。なお、パーキングブレーキモジュール20とサービスブレーキモジュール21は、図示しない通路で接続され、パーキングブレーキの作動状態では、サービスブレーキが作動しないようになっている。
【0030】
図3を参照して、パーキングブレーキの非作動状態について説明する。パーキングブレーキの非作動状態では、パーキングブレーキが解除された状態であって、車両100が走行可能である。また、サービスブレーキも作動させることができる。パーキングブレーキの非作動状態は、イグニッションスイッチがオン状態であり、ブレーキ制御装置12等に異常がない場合に選択される。パーキングブレーキの非作動状態では、ブレーキ制御装置12により、制御バルブ22が通電されて接続位置となる。解除バルブ23は、第1位置に維持されている。これにより、タンク25から第1通路31に空気が供給され、リレーバルブ24に空気圧信号が入力される。空気圧信号が入力されたリレーバルブ24は、接続位置となる。その結果、タンク25に貯留された空気が、リレーバルブ24を介してブレーキチャンバー50の第1空気貯留室51に供給され、パーキングブレーキが解除される。このときリレーバルブ24を介して第1空気貯留室51へ送られる空気の量は、制御バルブ22から空気圧信号として送られる空気の量よりも多いため、制御バルブ22を通電してからパーキングブレーキを解除するまでの応答性を高めることができる。
【0031】
パーキングブレーキの非作動状態において、ブレーキ制御装置12及び隊列走行制御装置13の少なくとも一方、又は他の制御装置に異常が生じた場合等、車両100を停止させる必要が生じた非常時には、強制ブレーキ状態となる。強制ブレーキ状態は、パーキングブレーキを強制的に作動させる状態であり、パーキングブレーキモジュール20自体はパーキングブレーキの作動状態(
図2参照)と同様に動作する。隊列走行制御装置13に異常が発生した場合には、車載ネットワークに接続された調停装置、又は隊列走行制御装置13から送られた情報に基づき、ブレーキ制御装置12がパーキングブレーキモジュール20を強制ブレーキ状態に遷移させる。また、ブレーキ制御装置12に異常が生じた場合には、制御バルブ22が非通電状態となり、そのまま強制ブレーキ状態に遷移する。非通電状態とされた制御バルブ22は、排気位置となり、制御バルブ22よりも下流の空気を排出する。リレーバルブ24は排気位置となるため、ブレーキチャンバー50の第1空気貯留室51から空気が排出され、パーキングブレーキが作動する。
【0032】
次に
図4を参照して、強制ブレーキ解除状態について説明する。強制ブレーキ解除状態は、強制ブレーキを作動させた後にパーキングブレーキを解除して、運転者のブレーキ操作によりサービスブレーキを作動させながら車両100を走行させるモードである。強制ブレーキの作動後に車両100を所定の速度で再走行させることによって、運転者は車両100を近隣の整備場等へ移動させることができる。
【0033】
強制ブレーキ状態では、制御バルブ22は排気位置となっている。例えば先頭車両100aの運転者や監視者等といった操作者は、解除バルブ23の操作部23Sを操作する。これにより、解除バルブ23は第2位置となり、迂回路33が連通状態となる。その結果、タンク25から供給された空気が、迂回路33を介して、リレーバルブ24の信号入力ポートに入力される。空気圧信号が入力されたリレーバルブ24は、接続位置となり、第2通路32が連通状態となる。その結果、タンク25の空気が、第2通路32を介して第1空気貯留室51に供給され、パーキングブレーキが解除される。このようにパーキングブレーキが解除されると、運転者は、ブレーキペダルなどを操作しながら、車両100を運転する。
【0034】
強制ブレーキ解除状態からパーキングブレーキを作動させる場合には、解除バルブ23を第2位置から第1位置に戻す。このとき、制御バルブ22は排気位置となっているため、制御バルブ22よりも下流側の空気が排出され、リレーバルブ24は排気位置となる。その結果、パーキングブレーキが作動する。
【0035】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)ブレーキ制御装置12に異常が生じたときには、パーキングブレーキモジュール20は通電されないため、パーキングブレーキが強制的に作動する。このため、運転者による操作が行われない隊列走行時であっても、非常時にパーキングブレーキを自動的に作動させることができる。
【0036】
(2)電磁弁である制御バルブ22は空気圧信号を供給できる出力性能を有していればよいため、制御バルブ22の大型化を抑制し、制御バルブ22の消費電力量を小さくすることができる。また、リレーバルブ24は、空気圧信号が入力されたときに、タンク25側と第1通路31よりも流路断面積の大きい第2通路32とを接続してブレーキチャンバー50に多量の空気を迅速にブレーキチャンバー50へ供給することができる。このため、パーキングブレーキを解除する際の応答性を高めることができる。さらに、制御バルブ22は、通電状態で空気圧信号を送り、非通電状態で空気圧信号の供給を停止するため、ブレーキ制御装置12に異常が発生したときには空気圧信号の供給が停止される。これにより、リレーバルブ24は排気位置となり、ブレーキチャンバー50への空気の供給が停止されるため、パーキングブレーキを強制的に作動させることができる。
【0037】
(3)強制的にパーキングブレーキが作動したとき、操作者によって解除バルブ23が操作されることにより、迂回路33を介してリレーバルブ24に空気圧信号を供給することができる。これにより、強制ブレーキを解除して、車両100を再走行させることができる。
【0038】
(4)隊列走行を行う車両100において、ブレーキ制御装置12は、隊列走行制御装置13に異常が発生した場合にパーキングブレーキモジュール20を非通電状態とする。このため、隊列走行制御装置13に異常が発生した場合にパーキングブレーキを作動させることができる。
【0039】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・
図5に示すように、空気圧ブレーキシステム11は、隊列走行制御装置13から減速指示が入力される第1ブレーキ制御装置12A及び第2ブレーキ制御装置12Bを備えていてもよい。第2ブレーキ制御装置12Bは、第1ブレーキ制御装置12Aが動作しない場合に、パーキングブレーキを作動及び解除する。第1ブレーキ制御装置12Aの異常は、第2ブレーキ制御装置12Bが第1ブレーキ制御装置12Aの動作を監視すること、又は隊列走行制御装置13や車載ネットワークを監視する調停装置から送信された情報等によって判断することができる。第1ブレーキ制御装置12Aは、第1パーキングブレーキモジュール27を制御し、第2ブレーキ制御装置12Bは、第2パーキングブレーキモジュール28を制御する。すなわち、パーキングブレーキモジュールは2重化されている。なお、第2パーキングブレーキモジュール28は、上記実施形態のパーキングブレーキモジュール20に対応する。第2ブレーキ制御装置12Bは、第1ブレーキ制御装置12Aや第1パーキングブレーキモジュール27に異常が生じたときに、第2パーキングブレーキモジュール28を制御する。また、隊列走行制御装置13及び第2ブレーキ制御装置12Bに異常が生じたときには、第2パーキングブレーキモジュール28の制御バルブ22が自ずと非通電状態とされるため、パーキングブレーキが作動する。
【0040】
この構成によれば、第2パーキングブレーキモジュール28は、第1パーキングブレーキモジュール27が動作しない場合にバックアップ用のモジュールとして動作するため、空気圧ブレーキシステム11の冗長性を高めることができる。また、この構成によれば、第2ブレーキ制御装置12Bに異常が発生しても、第1ブレーキ制御装置12Aに異常が発生していない場合には、第1ブレーキ制御装置12Aが第1パーキングブレーキモジュール27を制御することにより、車両100を停止及び走行させることができる。
【0041】
・
図6に示すように、解除バルブ23aは、第1通路31のうち上流側であって制御バルブ22側に接続する流路31aと、第1通路31のうち下流側であってリレーバルブ24側に接続する流路31bと、迂回路33とに接続する構成であってもよい。そして、強制ブレーキ解除モードに移行する際、操作部23Sを引くことによって、迂回路33を流路31bに接続するようにしてもよい。なお、
図6に示す流路31aの解除バルブ23aへの接続位置と、迂回路33の解除バルブ23aへの接続位置とを逆にすると、パーキングブレーキ作動時に流路31a及び流路31bが接続するように構成すると、操作部23Sを押すことによって迂回路33を流路31bに接続することができる。
【0042】
・
図7に示すように、解除バルブ23bは、回転操作されることによって、第1通路31のうち上流側であって制御バルブ22側に接続する流路31aと、第1通路31のうち下流側であってリレーバルブ24側に接続する流路31bと、迂回路33との接続を切り換えるようにしてもよい。例えば、
図7(a)に示すように、解除バルブ23bは、流路31aを流路31bに接続している。
図7(b)に示すように、
図7(a)の状態から解除バルブ23bを所定角度回転させると、流路31bが迂回路33に接続される。
【0043】
・上記実施形態では、解除バルブ23を、操作部23Sに対し押圧操作がなされたときに第2位置となる構成とした。これに代えて、
図8に示すように、解除バルブ23を、操作部23Sに対し引く操作がなされたときに第2位置となる構成としてもよい。この態様において、例えば、解除バルブ23は、
図8(a)に示すように、パーキングブレーキ作動時又は解除時に第1通路31を連通して迂回路33を遮断し、
図8(b)に示すように、強制ブレーキを解除する際に第1通路31を遮断して、迂回路33を連通する。このようにしても、非常時にパーキングブレーキを自動的に作動させるとともに、パーキングブレーキを自動的に作動させた後にパーキングブレーキを解除することもできる。
【0044】
・上記実施形態では、1つの解除バルブ23が第1通路31及び迂回路33に接続されている。これに代えて、第1通路31及び迂回路33に個別に解除バルブを設けてもよい。例えば、
図9(a)に示すように、第1の解除バルブ231が第1通路31に接続され、第2の解除バルブ232が迂回路33に接続される。第1、第2の解除バルブ231,232は、操作者が手動で操作する操作部231S,232Sをそれぞれ備える。パーキングブレーキ作動時又は解除時に、第1の解除バルブ231は第1通路31を連通し、第2の解除バルブ232は迂回路33を遮断する。また、
図9(b)に示すように、強制ブレーキを解除する際に、操作部231S,232Sに対し引く操作がなされたとき、第1の解除バルブ231は第1通路31を遮断し、第2の解除バルブ232は迂回路33を連通する。
【0045】
・上記実施形態では、空気圧ブレーキシステム11を、迂回路33と、操作部23Sを有する解除バルブ23とを備える構成とした。これに代えて、解除バルブ23を、迂回路33を遮断及び接続する電磁弁としてもよく、空気圧信号の入力又は空気圧信号が入力されないことにより迂回路33を接続するパイロット弁としてもよい。要は、非常時において制御バルブ22により第1通路31が遮断されたときに、迂回路33を遮断状態から連通状態にする構成であればよい。
【0046】
・上記実施形態では、空気圧ブレーキシステム11を、通電状態で接続位置となり非通電状態で遮断位置となる制御バルブ22と、空気圧信号が入力されたとき接続位置となり、空気圧信号が入力されないとき排気位置となるリレーバルブ24とを備える構成とした。これに代えて、制御バルブ22及びリレーバルブ24を2位置弁としたが、中立位置を含む3位置弁や、モータ等により駆動して多段階的に空気を供給するリニア制御弁としてもよい。
【0047】
・上記実施形態では、空気圧ブレーキシステム11を搭載した車両100を、隊列走行を行う車両として説明した。これに代えて、車両100は、その前方を走行する他車両に追従する追従走行を行う車両であってもよく、単独で自動走行を行う車両であってもよい。追従走行を行う車両は、走行制御装置として追従走行制御装置を備え、単独で自動走行を行う車両は走行制御装置として自動走行制御装置を備える。この場合であっても、追従走行制御装置や自動走行制御装置、又はブレーキ制御装置12に異常が発生した場合に、パーキングブレーキを強制的に作動させることができる。
【符号の説明】
【0048】
11…空気圧ブレーキシステム、12…ブレーキ制御装置、12A…第1ブレーキ制御装置、12B…第2ブレーキ制御装置、13…走行制御装置としての隊列走行制御装置、20…パーキングブレーキモジュール、22…制御バルブ、23…解除バルブ、24…リレーバルブ、25…空気貯留源としてのタンク、27…第1パーキングブレーキモジュール、28…第2パーキングブレーキモジュール、31…信号通路としての第1通路、32…供給通路としての第2通路、33…迂回路、50…ブレーキ機構、100…車両。