(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】エリスリトール顆粒およびその製造方法、ならびにそれを用いた錠剤の製造方法および錠剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/26 20060101AFI20220609BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220609BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20220609BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220609BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220609BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20220609BHJP
【FI】
A61K47/26
A61K47/38
A61K9/16
A61K47/12
A61K9/20
A23L33/125
(21)【出願番号】P 2019503059
(86)(22)【出願日】2018-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2018007497
(87)【国際公開番号】W WO2018159673
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2017037138
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】蓑田 香奈子
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩充
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-178183(JP,A)
【文献】特開2013-035798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリスリトールの粉末を流動または攪拌しながら、当該エリスリトールの粉末にヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはヒドロキシプロピルメチルセルロース
とエリスリトールとを含有する噴霧液を噴霧した後乾燥させる造粒工程を有する、エリスリトール顆粒の製造方法。
【請求項2】
前記造粒工程が流動層造粒法により行われる、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記噴霧液において、ヒドロキシプロピルセルロースの濃度が2.5質量%超30質量%未満、または、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度が2.5質量%超20質量%未満である、請求項
1または請求項
2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記噴霧液において、エリスリトールの濃度が35%未満であり、かつ、エリスリトールとヒドロキシプロピルセルロースとの重量比が下記(a)もしくは(b)のいずれか、または、エリスリトールとヒドロキシプロピルメチルセルロースとの重量比が下記(c)もしくは(d)のいずれかである、請求項
1~3のいずれかに記載の製造方法;
(a)エリスリトールが33重量部に対して、ヒドロキシプロピルセルロースが2.5重量部超30重量部未満、
(b)ヒドロキシプロピルセルロースが5重量部に対して、エリスリトールが3.3重量部超35重量部未満、
(c)エリスリトールが33重量部に対して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが2.5重量部超20重量部未満、
(d)ヒドロキシプロピルメチルセルロースが5重量部に対して、エリスリトールが0重量部超35重量部未満。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の
製造方法により製造されたエリスリトール顆粒と薬効成分または食品材料との混合物を乾式直接打錠法により打錠する打錠工程を有する、錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスリトールを主成分とする顆粒(エリスリトール顆粒)に関し、より詳細には、乾式直接打錠法による錠剤製造に好適なエリスリトール顆粒およびその製造方法、ならびにそれを用いた錠剤の製造方法および錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エリスリトールは、あっさりとして後引きがなく、砂糖に似た好ましい甘味質を持つ糖アルコールである。エリスリトールはまた、カロリーがゼロであること、非う蝕性であること、緩下作用が比較的小さいこと、血糖値に影響しないこと、苦みや青臭みなどの好ましくない味を抑制する矯味矯臭効果を有すること等の有用な性質を有しているため、薬物やサプリメント等の錠剤を製造する際の賦形剤として、利用が期待されている。
【0003】
一方、錠剤を製造する方法(打錠方法)には、薬効成分等の材料と賦形剤等の添加物とを混合して、加水せずそのまま打錠する「乾式直接打錠法(直打法)」と、薬物と添加物との混合物を結合剤溶液や水等の適当な溶媒を用いて造粒し、これを乾燥した後に打錠する「湿式造粒打錠法」とがある。これらのうち前者は、薬効成分等が水に弱い場合であっても適用でき、工程がシンプルなため工程管理が容易で、製品の製造コストも低減しうる等の利点を有することから、近年、採用されるケースが増えてきている。
【0004】
この点、上述のエリスリトールは結晶性が強く吸湿性が低いため、直打法で打錠する際に必要となる結着性が小さいという問題がある。そこで、エリスリトールを主成分とし、かつ結着性を有する打錠用の顆粒が研究開発されており、例えば、特許文献1には、エリスリトールと還元でん粉糖化物とを含む組成物を練捏して圧出成形して造粒する顆粒物の製造方法が開示されており、特許文献2には、エリスリトール粉末を流動層造粒コーティング装置に仕込み、エリスリトール溶液を噴霧する造粒物の製造方法が開示されており、特許文献3には、平均粒径0.4μm~23μmのエリスリトール極微細粉末を造粒する直打用エリスリトール球形顆粒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2852498号公報
【文献】特許第3491887号公報
【文献】特許第6061768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、還元水飴や還元麦芽糖水飴等を用いるため、ゼロカロリーや血糖値に影響しない等のエリスリトールの特質を生かした打錠用顆粒を製造できない。また、特許文献2に記載の方法は、造粒物をふるいで篩過して所定の粒度範囲のものを選択的に回収する工程が必要であり([請求項1]、段落[0023]および[0039])、工程数が多くなることや製品歩留まりが低下することから、製造に係るコストが大きくなる懸念がある。また、特許文献3に記載の方法は、結合剤等を使用せずエリスリトールのみで顆粒を製造する方法であり、発明者らの知見によれば、十分な結着性を有する打錠用顆粒を製造できないと考えられる。したがって、エリスリトールの特性を保持しつつ、十分な結着性を備えた打錠用エリスリトール顆粒および当該打錠用エリスリトール顆粒をより簡便かつ効率的に製造する方法の開発が求められていた。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、エリスリトールの特性を保持しつつ十分な結着性を有し、直打法による錠剤製造に用いることができるエリスリトール顆粒およびその製造方法、ならびにそれを用いた錠剤の製造方法および錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、エリスリトールがヒドロキシプロピルセルロース(HPC)またはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)と相性が良く、これらを用いて造粒することにより、直打法による錠剤製造に好適な物性を具備し、かつエリスリトールの特性を保持した顆粒を簡便かつ効率的に製造できることを見出した。そこで、この知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
【0009】
(1)本発明に係るエリスリトール顆粒の第1の態様は、HPCまたはHPMCを含有するエリスリトール顆粒であって、160mgの当該エリスリトール顆粒に1.6mgのステアリン酸マグネシウムを添加してなる試料を直径8mmの臼に充填し、10mm/分の圧縮速度、0~100MPaの圧力にて圧縮した場合に、30~100MPaの範囲における平均降伏圧が2941MPa未満となる物性を有するものである。
【0010】
(2)本発明に係るエリスリトール顆粒の第2の態様は、1.48質量%超15.25質量%未満のHPC、または、1.48質量%超10.71質量%未満のHPMCを含有するものである。
【0011】
(3)本発明に係るエリスリトール顆粒は、乾式直接打錠法(直打法)による錠剤製造に好適に用いることができる。
【0012】
(4)本発明に係るエリスリトール顆粒は、エリスリトール顆粒100重量部に対してステアリン酸マグネシウムを1重量部の割合で添加した後、直打法により5.0~6.0kNの打錠圧で打錠して、直径が8mmで1錠当たり200mgの錠剤に成型した場合に、当該錠剤の硬度が3.5kgf以上となる物性を有することが好ましい。
【0013】
(5)本発明に係るエリスリトール顆粒の製造方法は、エリスリトールの粉末を流動または攪拌しながら、当該エリスリトールの粉末にHPCおよび/またはHPMCを含有する噴霧液を噴霧した後、乾燥させる造粒工程を有する。
【0014】
(6)本発明に係るエリスリトール顆粒の製造方法において、前記造粒工程は流動層造粒法により行われることが好ましい。
【0015】
(7)本発明に係るエリスリトール顆粒の製造方法において、前記噴霧液は、HPCを2.5質量%超30質量%未満の濃度で含有するもの、または、HPMCを2.5質量%超20質量%未満の濃度で含有するものであることが好ましい。
【0016】
(8)本発明に係るエリスリトール顆粒の製造方法において、前記噴霧液は、さらにエリスリトールを含有することが好ましい。
【0017】
(9)本発明に係るエリスリトール顆粒の製造方法において、前記噴霧液は、エリスリトールを35質量%未満の濃度で含有し、かつ、エリスリトールとHPCとの重量比が下記(a)もしくは(b)のいずれか、または、エリスリトールとHPMCとの重量比が下記(c)もしくは(d)のいずれかであることが好ましい;(a)エリスリトールが33重量部に対して、HPCが2.5重量部超30重量部未満、(b)HPCが5重量部に対して、エリスリトールが3.3重量部超35重量部未満、(c)エリスリトールが33重量部に対して、HPMCが2.5重量部超20重量部未満、(d)HPMCが5重量部に対して、エリスリトールが0重量部超35重量部未満。
【0018】
(10)本発明に係る錠剤の製造方法は、本発明に係るエリスリトール顆粒と薬効成分または食品材料との混合物を、直打法により打錠する打錠工程を有する。
【0019】
(11)本発明に係る錠剤は、本発明に係るエリスリトール顆粒と薬効成分または食品材料とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るエリスリトール顆粒は、エリスリトールの特性を保持しつつ、十分な結着性を有するものである。本発明によれば、当該エリスリトール顆粒を簡便かつ効率的に製造することができる。また、当該エリスリトール顆粒を用いて、エリスリトールの特性を利用した錠剤を直打法により簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】造粒装置のノズル開口部における噴霧液の付着の様子を示す写真である。
【
図2】実施例3における各試料の電子顕微鏡観察画像であって、それぞれ造粒していない粉末状のエリスリトール(未造粒ERT)、結合剤を含有しないエリスリトール顆粒(No.6)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含有するエリスリトール顆粒(No.2およびNo.8)に係る観察画像である。
【
図3】実施例4で測定したヘッケルプロットを示す図であって、上図は、未造粒ERTおよびHPMCを含有する噴霧液を噴霧しながら造粒したエリスリトール顆粒(No.2)のヘッケルプロットであり、下図は、未造粒ERTならびにHPMCおよびエリスリトールを含有する噴霧液を噴霧しながら造粒したエリスリトール顆粒(No.8)のヘッケルプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るエリスリトール顆粒およびその製造方法、ならびにそれを用いた錠剤の製造方法および錠剤について詳細に説明する。
【0023】
本発明において、「錠剤」は、粉粒体を小型の一定形状に圧縮成型したものをいう。すなわち、本発明に係る錠剤には、医薬品や医薬部外品のほか、健康食品(サプリメント等)や菓子(錠果)等の飲食品が含まれる。
【0024】
本発明において、「エリスリトール顆粒」とは、エリスリトールを主成分とする顆粒またはその集合体をいい、エリスリトールのみからなるものでもよく、エリスリトール以外の成分を含有するものであってもよい。顆粒の粒子径は、エリスリトールの粉末の粒子径よりも大きいものであればよいが、直打法による錠剤製造に使用する観点からは、メジアン径(d50)が50μm以上250μm未満であることが好ましい。
【0025】
本発明は、直打法による錠剤製造に好適な物性を具備し、かつエリスリトールの特性を保持したエリスリトール顆粒を提供する。後述する実施例3に示すように、本発明に係るエリスリトール顆粒は、細孔の多い(ポーラスな)構造を有しており、それ故に、錠剤製造時の高い成型性、結着性、製造された錠剤における高い硬度等の打錠適性を有している。
【0026】
ここで、顆粒の打錠適性を示す指標として、平均降伏圧がある。平均降伏圧は、後述する実施例4に示すように、当該顆粒を万能試験機の臼に充填し、圧縮していった場合の圧縮圧(P)の値と、当該圧縮圧における顆粒層の空隙率の逆数の自然体数(In(1/ε))の値との関係をプロットしたもの(ヘッケルプロット)を作成することにより求めることができる。平均降伏圧はヘッケルプロットの直線部分の傾きの逆数として定義され、顆粒層が塑性変形を示す段階に係る平均降伏圧が低いほど、塑性変形しやすい、すなわち打錠適性が高いことを示す。ポーラス構造を有し、打錠適性を備える本発明のエリスリトール顆粒について、平均降伏圧で示せば、以下の値を例示することができる;当該エリスリトール160mgにステアリン酸マグネシウム(滑沢剤)1.6mgを添加してなる試料を直径8mmの臼に充填し、10mm/分の圧縮速度、0~100MPaの圧力にて圧縮した場合の30~100MPaの範囲における平均降伏圧が、1400MPa前後、あるいは、1200MPa以上1600MPa以下、1000MPa以上1800MPa以下、800MPa以上2000MPa以下、600MPa以上2200MPa以下、400MPa以上2400MPa以下、200MPa以上2600MPa以下、2800MPa以下、または2941MPa以下。
【0027】
すなわち、本発明に係るエリスリトール顆粒の第1の態様は、HPCまたはHPMCを含有するエリスリトール顆粒であって、160mgの前記エリスリトール顆粒に1.6mgのステアリン酸マグネシウムを添加してなる試料を直径8mmの臼に充填し、10mm/分の圧縮速度、0~100MPaの圧力にて圧縮した場合に、30~100MPaの範囲における平均降伏圧が2941MPa未満となる物性を有するものである。
【0028】
また、ポーラス構造を有し、打錠適性を備える本発明のエリスリトール顆粒について、結合剤の含有量で示せば、HPCであれば1.48質量%超15.25質量%未満、HPMCであれば1.48質量%超10.71質量%未満ということができる。すなわち、本発明に係るエリスリトール顆粒の第2の態様は、HPCまたはHPMCを含有するエリスリトール顆粒であって、1.48質量%超15.25質量%未満のHPC、または、1.48質量%超10.71質量%未満のHPMCを含有するものである。
【0029】
薬効成分や食品材料などを混合せず、エリスリトール顆粒のみ、あるいはこれに滑沢剤を添加したのみで、そのまま直打法により製造した錠剤の硬度もまた、当該エリスリトール顆粒の打錠適性を示す指標となる。ポーラス構造を有し、打錠適性を備える本発明のエリスリトール顆粒について、錠剤の硬度で示せば、以下の値を例示することができる;当該エリスリトール顆粒100重量部に対してステアリン酸マグネシウム(滑沢剤)を1重量部の割合で添加した後、直打法により5.0~6.0kNの打錠圧で打錠して、直径が8mmで1錠当たり200mgの錠剤に成型した場合に、当該錠剤の硬度が3.5kgf以上。
【0030】
エリスリトール顆粒は、本発明の特徴を損なわない限りにおいて、他の結合剤や糖アルコール、香料や着色料、保存料などの食品添加物や医薬品添加物を含有していてもよい。ここで、他の結合剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、プルラン、アルギン酸ナトリウム、寒天、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどを挙げることができる。
【0031】
エリスリトールは、化学名が1,2,3,4-Butaneterolである糖アルコールであり、エリトリトールとも呼ばれる。粉末状のエリスリトールは、市販されているものを用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。公知の製造方法としては、グルコースなどを炭素源としてエリスリトール生産菌を培養して生産させ、これを精製して得る方法を挙げることができる。ここで、エリスリトール生産菌としては、例えば、トリゴノプシス属またはカンジダ属に属する微生物(特公昭47-41549号公報)、トルロプシス属、ハンゼヌラ属、ピヒア属またはデバリオミセス属に属する微生物(特公昭51-21072号公報)、モニリエラ属に属する微生物(特開昭60-110295号公報、特開平10-215887)、オーレオバシデュウム属に属する微生物(特公昭63-9831号公報)、イエロビア属に属する微生物(特開平10-215887号公報)などを挙げることができ、培養条件は、各菌に適した通常の条件で行うことができる。また、エリスリトールの精製は、菌体分離、クロマトグラフィーによるエリスリトールの分取、脱塩、脱色、晶析、結晶分解および乾燥の工程を常法に従って行うことができる。
【0032】
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は、セルロースの骨格にヒドロキシプロポキシル基(-OCH2CHOHCH3)が導入されてなる、セルロース誘導体である。本発明において、HPCは市販のものを用いることができ、その粘度、分子量、粒子径、モル置換度ないしヒドロキシプロポキシル基の含有量などは、エリスリトール顆粒における所望の物性や造粒方法などに応じて適宜設定することができる。後述する実施例1~5においては、粘度が2~2.9ミリパスカル秒(mPa・s)(20℃/2%水溶液)、分子量が約40000、メジアン径が20μmのHPC(HPC SSL SFP;日本曹達)を用いている。
【0033】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、セルロースの骨格にメトキシル基(-OCH3)およびヒドロキシプロポキシル基(-OCH2CHOHCH3)が導入されてなる、セルロース誘導体である。本発明において、HPMCは市販のものを用いることができ、その粘度、分子量、粒子径、メトキシル基およびヒドロキシプロポキシル基の置換度ないし含有量などは、エリスリトール顆粒における所望の物性や造粒方法などに応じて適宜設定することができる。後述する実施例1~5においては、粘度が3~15mPa・s(20℃/2%水溶液)、メトキシル基の含有量が28.0~30.0質量%(乾燥重量当たり)、ヒドロキシプロポキシル基の含有量が7.0~12.0質量%(乾燥重量当たり)のHPMC(TC-5;信越化学)を用いている。
【0034】
エリスリトール顆粒は、例えば、エリスリトールの粉末を流動または攪拌しながら、当該エリスリトールの粉末にHPCおよび/またはHPMCを含有する噴霧液を噴霧した後、乾燥させる造粒工程により製造することができる。すなわち、本発明は、上記工程を有するエリスリトール顆粒の製造方法をも提供する。
【0035】
上記造粒工程は、後述する実施例の試験方法(2)に示すように流動層造粒法により行うことができるほか、攪拌造粒法、噴霧乾燥法などにより行うこともできる。ここで、流動層造粒法とは、湿式造粒の一方法であり、造粒室の下部から熱風を送り込み、原料粉粒体を空中に巻き上げることにより粒子が流動する状態になる層を形成してから、液体(噴霧液)を噴霧して、凝集または被覆により原料粉粒体を粒状物(顆粒)に成長させる方法である。流動層造粒法による造粒は、市販の造粒装置により行うことができる。
【0036】
すなわち、上記造粒工程を流動層造粒法により行う場合は、エリスリトールの粉末を熱風で攪拌しながら、当該エリスリトールの粉末にHPCおよび/またはHPMCを含有する噴霧液を噴霧した後、当該熱風により乾燥させることにより、エリスリトール顆粒を製造することができる。
【0037】
噴霧液におけるHPCおよび/またはHPMCの溶媒は、例えば、水やエタノールなどのアルコール、あるいはこれらの混合物などを挙げることができる。また、噴霧液には、本発明の特徴を損なわない限りにおいて、他の結合剤や糖アルコール、香料や着色料、保存料などの食品添加物や医薬品添加物を添加して用いてもよい。ここで、他の結合剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、プルラン、アルギン酸ナトリウム、寒天、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどを挙げることができる。
【0038】
噴霧液におけるHPCの濃度は、例えば、2.5~30質量%、2.6~29質量%、2.7~28質量%、2.8~27質量%、2.9~26質量%、3.0~25質量%、3.1~24質量%、3.2~23質量%、3.3~22質量%、3.4~21質量%、3.5~21質量%などとすることができる。また、噴霧液におけるHPMCの濃度は、例えば、例えば、2.5~20質量%、2.6~19質量%、2.7~18質量%、2.8~17質量%、2.9~16質量%、3.0~15質量%、3.1~14質量%、3.2~13質量%、3.3~12質量%、3.4~11質量%、3.5~11質量%などとすることができる。
【0039】
噴霧液は、HPCまたはHPMCの他に、さらにエリスリトールを含有することが好ましい。後述する実施例2に示すように、HPCまたはHPMCを含有する噴霧液にエリスリトールを添加することにより、硬度がより高い錠剤の製造が可能なエリスリトール顆粒を製造することができる。
【0040】
噴霧液におけるエリスリトールの濃度は、エリスリトールが溶解可能な最大量とすることができ、具体的には、35質量%未満とすることができる。また、エリスリトール(ERT)とHPCとの重量比は、下記(a)もしくは(b)のいずれかであることが好ましい。ERTとHPMCとの重量比は、下記(c)もしくは(d)のいずれかであることが好ましい;
(a)ERTが33重量部に対して、HPCが2.5重量部超30重量部未満、
(b)HPCが5重量部に対して、ERTが3.3重量部超35重量部未満、
(c)ERTが33重量部に対して、HPMCが2.5重量部超20重量部未満、
(d)HPMCが5重量部に対して、ERTが0重量部超35重量部未満。
後述する実施例3および実施例4に示すように、噴霧液におけるHPCまたはHPMCとERTとの含有割合を上記(a)~(d)のいずれかとすることにより、硬度がより高い錠剤の製造が可能なエリスリトール顆粒を製造することができる。
【0041】
造粒工程における造粒装置は、例えば、通常流動層型造粒機や強制循環型流動層造粒機、噴流層型造粒機などのバッチ式流動層造粒機、箱型連続式流動層造粒機や円筒型連続式流動層造粒機などの連続式流動層造粒機を用いることができる。造粒装置における噴霧液のスプレーノズルの位置は、例えば、底部スプレー方式、トップスプレー方式、接線スプレー方式のいずれであってもよい。造粒条件はエリスリトールの仕込み量やエリスリトール顆粒における所望の物性などに応じて適宜設定することができるが、例えば、熱風入口温度を60~100℃、風量を0.4~0.8m3/分、噴霧液の噴霧圧力を0.1~0.3MPaとすることができる。
【0042】
本発明に係る錠剤の製造方法は、本発明に係るエリスリトール顆粒と薬効成分または食品材料との混合物を直打法により打錠する打錠工程を有する。当該打錠工程において、エリスリトール顆粒と薬効成分との混合物を打錠すれば、錠剤の剤型を有する医薬品や医薬部外品を製造することができ、エリスリトール顆粒と食品材料との混合物を打錠すれば、錠剤の剤型を有する菓子(錠菓)やサプリメントなどの飲食品を製造することができる。
【0043】
なお、上記打錠工程における混合物は、本発明の特徴を損なわない限りにおいて、エリスリトール顆粒および薬効成分または食品材料以外の物質を含んでいてもよい。そのような物質としては、例えば、加工特性を改良するための滑沢剤や結合剤、錠剤の風味や嗜好性、保存性などを改良するための食品添加物や医薬品添加物を挙げることができる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
【0044】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0045】
<試験方法>
本実施例は、別段に記載のない限り下記(1)~(4)の方法で行った。また、本実施例においては、別段に記載のない限り「%」は「質量%」を意味する。また、エリスリトールは「ERT」と表記する場合がある。
【0046】
(1)エリスリトールおよび結合剤
粉末状のエリスリトールは「エリスリトール 100M(白色粉末、医薬品添加物規格)(物産フードサイエンス社)」を用いた。また、結合剤は表1に示すものを用いた。
【表1】
【0047】
(2)造粒方法
粉末状のエリスリトールから顆粒の形状のエリスリトール(エリスリトール顆粒;ERT顆粒)の製造は、流動層造粒法により行った。すなわち、造粒装置「マルチプレックス FD-MP-01ND(パウレック社)」に、粉末状のエリスリトールを仕込み、熱風入口温度が80℃、風量が0.6m3/分、噴霧圧力が0.2MPaにて、噴霧液を噴霧しながら造粒を行った。噴霧液には、水に結合剤および/またはエリスリトールを溶解した溶液を用いた。
【0048】
(3)打錠方法
ERT顆粒を用いて、直打法により錠剤を製造した。すなわち、ERT顆粒100重量部に対して、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム1重量部を添加した後、卓上型単発式打錠機「MINIPRESS MII(RIVA S.A.社)」に仕込み、5.0~6.0kNの打錠圧で、錠剤の形状に圧縮成型した。錠剤のサイズは、直径が8mm、1錠当たりの重量は200mgとした。すなわち、錠剤の面積(π×0.4cm×0.4cm≒0.5cm2)に対して5.0~6.0kNの打錠圧をかけることにより錠剤を製造した。
【0049】
(4)評価項目および評価方法
製造したERT顆粒および錠剤について、下記[4-1]~[4-5]の項目を評価した。評価項目および評価基準の一覧を表2に示す。
【表2】
【0050】
[4-1]ノズル開口部における噴霧液の付着
ERT顆粒の製造時に、造粒装置において、噴霧液を噴霧するためのノズル開口部に噴霧液が付着するか否かを目視にて確認した。
図1に示すように、ノズル開口部に噴霧液が付着した跡が視認されなかった場合は「無し(略記:○)」、少量の噴霧液が付着した跡が視認された場合は「やや有り(略記:△)」、大量の噴霧液が付着した跡が視認された場合は「有り(略記:×)」と評価した。
【0051】
[4-2]ERT顆粒の流動性
ERT顆粒の流動性の程度は、Carrの粉体物性評価基準に基づいて、流動性指数を算出して評価した。すなわち、まず、粉体特性評価装置「パウダテスタPT-X(ホソカワミクロン社)」を用いて「見かけ比重」、「圧縮度」、「安息角」、「スパチュラ角」および「凝集度」を測定した。測定値に基づきそれぞれの指数を算出した後、当該指数を足し合わせて流動性指数を求めた。流動性の程度は、流動性指数が70以上100以下であれば、「良い(略記:◎)」、60以上70未満であれば「普通(略記:○)」、40以上60未満であれば「やや悪い(略記:△)」、0以上40未満であれば「悪い(略記:×)」と評価した。
【0052】
[4-3]ERT顆粒の粒子径
ミクロ形電磁振動ふるい器 M-2形(筒井理化学器械)を用いて、ERT顆粒の粒子径分布を測定した。測定値に基づいて、メジアン径(d50)を算出した。d50が、50μm以上250μm未満であれば「打錠用顆粒として好適(略記:○)」、50μm未満または250μm以上であれば「打錠用顆粒として不適(略記:×)」と評価した。
【0053】
[4-4]錠剤の成型性
ERT顆粒を用いて製造した錠剤について、「錠剤の上下が剥がれる現象(キャッピング)」、「杵に錠剤の一部が付着し、錠剤の一部が剥がれる現象(スティッキング)」および「錠剤の中間部が層状にはく離する現象(ラミネーション)」の有無を目視により確認した。いずれかの現象も視認されなかった場合は「錠剤の成型性が有る(○)」、いずれか1以上の現象が視認された場合は「錠剤の成型性が無い(×)」と評価した。
【0054】
[4-5]錠剤硬度
ERT顆粒を用いて製造した錠剤の錠剤硬度を、モンサント硬度計(ミナトメディカル社)を用いて測定した。錠剤硬度が4.5キログラム重(kgf)以上であれば、製品の硬度として「好適(○)」、3.5kgf以上4.5kgf未満であれば「適する(△)」、3.5kgf未満であれば、「不適(×)」と評価した。
【0055】
<実施例1>結合剤の検討
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)およびポリビニルアルコール(PVA)を最終濃度が5%となるよう、水に溶解した。CMCは5%の濃度とすると粘度が高すぎて噴霧できなかったため、1%の濃度となるよう、水に溶解した。これらを噴霧液として用いてERT顆粒を製造し、ERT顆粒No.1~5を得た後、錠剤を製造して評価した。その結果を表3に示す。
【表3】
【0056】
表3に示すように、No.3、4および5(CMC、PVPおよびPVAを用いた場合)はいずれも、ノズル開口部における噴霧液の付着がやや有り、錠剤硬度は低くて製品の硬度としては不適であった。また、No.3(CMCを用いた場合)はERT顆粒の粒子径も大きすぎて、打錠用顆粒として不適であり、錠剤の成形性も無かった。これに対して、No.1および2(HPCおよびHPMCを用いた場合)はいずれも、ノズル開口部における噴霧液の付着は無く、ERT顆粒の粒子径も打錠用顆粒として好適であり、錠剤の成型性も有り、錠剤硬度も製品の硬度として好適または適する値であった。この結果から、HPCまたはHPMCを含有させることにより、直打法による錠剤製造が可能なエリスリトール顆粒が得られることが明らかになった。
【0057】
<実施例2>噴霧液におけるエリスリトール配合の効果
粉末状のエリスリトールを最終濃度が33%となるよう水に溶解し、これを噴霧液No.6とした。また、HPC、HPMC、PVPおよびPVAを最終濃度が5%となるよう、CMCを最終濃度が1%となるよう、それぞれ水に溶解した後、粉末状のエリスリトールを最終濃度が33%となるよう添加して、これらを噴霧液No.7~11とした。これらの噴霧液を用いてERT顆粒を製造し、ERT顆粒No.6~11を得た後、錠剤を製造して評価した。その結果を表4に示す。なお、表4には、比較のため、実施例1のNo.1~5の結果も合わせて示す。
【表4】
【0058】
表4に示すように、No.7およびNo.8はいずれも、ノズル開口部における噴霧液の付着は無く、ERT顆粒の流動性は普通であり、ERT顆粒の粒子径も打錠用顆粒として好適であり、錠剤の成型性も有り、錠剤硬度も製品の硬度として好適であった。そして、No.7とNo.1とを比較すると、No.7の方が錠剤硬度が高かった。同様に、No.8とNo.2とを比較すると、No.8の方が錠剤硬度が高かった。すなわち、HPCまたはHPMCを含有する噴霧液にエリスリトールを添加することにより、硬度がより高い錠剤の製造が可能なエリスリトール顆粒が製造できることが明らかになった。この結果から、HPCまたはHPMCに加えてエリスリトールを含有する噴霧液を噴霧しながら造粒することにより、直打法による錠剤製造に好適なエリスリトール顆粒が得られることが明らかになった。
【0059】
これに対して、No.6は錠剤の成型性が無く、打錠が不可能であった。すなわち、HPCまたはHPMCを含有せずエリスリトールのみを含有する噴霧液を噴霧しながら造粒した場合は、直打法による錠剤製造に適するエリスリトール顆粒は得られないことが明らかになった。
【0060】
また、No.9は、ERT顆粒の粒子径が不適であり、錠剤の成型性が無く、錠剤硬度が不適であった。No.10は、ノズル開口部に噴霧液の付着が有り、ERT顆粒の粒子径が不適であった。No.11は、錠剤硬度が不適であった。すなわち、CMCやPVP、PVAといった結合剤を含有する噴霧液にエリスリトールを添加しても、直打法による錠剤製造に適するエリスリトール顆粒は得られないことが明らかになった。
【0061】
<実施例3>電子顕微鏡観察
造粒していない粉末状のエリスリトール(未造粒ERT)、実施例1のNo.2並びに実施例2のNo.6およびNo.8のERT顆粒について、走査型電子顕微鏡により1000倍または2000倍および5000倍にて観察した。その観察画像を
図2に示す。また参照として、各試料の配合およびERT顆粒の評価結果を再度、表5に示す。
【表5】
【0062】
図2に示すように、No.2およびNo.8のERT顆粒は、未造粒ERTおよびNo.6のERT顆粒と比較して、細孔が多い(ポーラスな)構造であった。この結果から、本発明のエリスリトール顆粒は、結合剤を含有しないエリスリトール顆粒や造粒していない粉末状エリスリトールと比較して、ポーラスな構造を有することが明らかになった。そして、本発明のエリスリトール顆粒では、係るポーラス構造により、錠剤製造時の高い成型性、結着性、製造された錠剤における高い硬度等の高い打錠適性を達成しているものと考えられた。
【0063】
<実施例4>ERT顆粒の平均降伏圧
一般に、打錠時は、粉体層に圧力(圧縮圧)を加え圧縮していくにつれ、粉体層の体積が低下していく。圧縮初期では粉体中の空隙が減少し、その後粉体粒子の塑性変形が起こるが、この過程は下記の3段階に分けることができる。
第1ステージ:圧縮初期。2次粒子の再配列と破壊が起こり、1次粒子となる。
第2ステージ:1次粒子の塑性変形が起こる。
第3ステージ:1次粒子の塑性変形に加えて、1次粒子の破壊および再並列も生じる。
粉体層が塑性変形を示す段階(第2ステージ、第3ステージ)では、圧縮圧(P)と空隙率(ε)の逆数の自然体数のプロット(ヘッケルプロット)は直線となり、その直線の式はヘッケル式と呼ばれ、In(1/ε)=KP+A(K、Aは定数。)と表現される(Heckel, R. W., Density-pressure Relationships in Powder Compaction, Trans. Met. Soc. AIME, 221, 671 (1961); Heckel, R. W., An Anaylsis of Powder Compaction Phenomena, Trans. Met. Soc. AIME, 221, 1001 (1961))。ここで、Kは、ヘッケルプロットの直線部分の傾きで、Kの逆数は平均降伏圧(Py)を示す。平均降伏圧は、粉体層の塑性変形のしやすさを示す指標となり、その値が低いほど、塑性変形しやすい、すなわち錠剤製造が容易であると判断することができる。
【0064】
造粒していない粉末状のエリスリトール(未造粒ERT)、実施例1のNo.2および実施例2のNo.8のERT顆粒について、平均降伏圧を求めた。具体的には、160mgの未造粒ERTまたはNo.2もしくはNo.8のERT顆粒に1.6mgのステアリン酸マグネシウムを添加してなる試料を精密万能試験機(AUTOGRAPH、島津製作所)の臼(直径8mm)に充填し、10mm/分の圧縮速度、0~100MPaの圧力にて圧縮した。各圧縮圧における杵の位置から粉体層の体積を算出し、それをもとに粉体層の空隙率(ε)(%)を算出した。次に、横軸に圧縮圧(P)、縦軸に粉体層の空隙率の逆数の自然対数(In(1/ε))をプロットして、ヘッケルプロットを作成した。作成したヘッケルプロット(
図3)の形状に基づいて第1~3ステージに相当する圧縮圧の範囲を認定し、式1{In(1/ε)=KP+A(K、Aは定数)}および式2{Py=1/K}を用いて、各ステージにおける平均降伏圧(Py)を算出した。その結果を表6に示す。
【表6】
【0065】
表6に示すように、粉体粒子の塑性変形が起こる段階である第2ステージの平均降伏圧は、未造粒ERTの486MPaに対して、No.2およびNo.3ではそれぞれ332MPaおよび324MPaと、顕著に小さかった。同様に、粉体粒子の塑性変形に加えて、破壊および再配列が生じる段階である第3ステージの平均降伏圧も、未造粒ERTの2941MPaに対して、No.2およびNo.3ではいずれも1441MPaと、顕著に小さかった。この結果から、ポーラス構造を有する本発明のエリスリトール顆粒は、造粒していない粉末状のエリスリトールと比較して、粉体層が塑性変形を示す段階に係る平均降伏圧が小さいこと、すなわち、塑性変形しやすく、錠剤製造が容易な顆粒であることが明らかになった。また、この結果から、本発明のエリスリトール顆粒の平均降伏圧は、本実施例4の圧縮条件で30~100MPaの範囲において、1400MPa前後、あるいは、1200MPa以上1600MPa以下、1000MPa以上1800MPa以下、800MPa以上2000MPa以下、600MPa以上2200MPa以下、400MPa以上2400MPa以下、200MPa以上2600MPa以下、2800MPa以下、または2941MPa以下となることが明らかになった。
【0066】
<実施例5>結合剤の配合量
(1)HPCの配合量
HPCを最終濃度が1~30%となるよう水に溶解し、粉末状のエリスリトールを最終濃度が33%となるよう添加した。これらを噴霧液として用いてERT顆粒を製造した後、錠剤を製造して評価した。その結果を表7に示す。
【表7】
【0067】
表7に示すように、噴霧液中のHPC濃度が5%、10%および20%(ERT顆粒中のHPC濃度が2.91%、5.66%および10.71%)では、ノズル開口部における噴霧液の付着は無いかやや有る程度で、ERT顆粒の流動性は普通かやや悪い程度であり、ERT顆粒の粒子径は打錠用顆粒として好適で、錠剤の成型性も有り、錠剤硬度も製品の硬度として好適であった。一方、噴霧液中のHPC濃度が1および2.5%(ERT顆粒中のHPC濃度が0.60%および1.48%)では、錠剤硬度が低く、製品の硬度として不適であった。また、噴霧液中のHPC濃度が30%(ERT顆粒中のHPC濃度が15.25%)では、噴霧液の粘度が高すぎて噴霧できず、造粒不可であった。この結果から、HPCを含有するERT顆粒において、HPC濃度を1.48%超15.25%未満、または、噴霧液中のHPC濃度を30%未満かつエリスリトールが33重量部に対してHPCが2.5重量部超30重量部未満とすると、直打法による錠剤製造に好適なエリスリトール顆粒が得られることが明らかになった。
【0068】
(2)HPMCの配合量
HPMCを最終濃度が1~20%となるよう水に溶解し、粉末状のエリスリトールを最終濃度が33%となるよう添加した。これらを噴霧液として用いてERT顆粒を製造した後、錠剤を製造して評価した。その結果を表8に示す。
【表8】
【0069】
表8に示すように、噴霧液中のHPMC濃度が5%および10%(ERT顆粒中のHPMC濃度が2.91%および5.66%)では、ノズル開口部における噴霧液の付着は無いかやや有る程度で、ERT顆粒の流動性は普通であり、ERT顆粒の粒子径は打錠用顆粒として好適で、錠剤の成型性も有り、錠剤硬度も製品の硬度として好適であった。一方、噴霧液中のHPMC濃度が1および2.5%(ERT顆粒中のHPMC濃度が0.60%および1.48%)では、錠剤硬度が低く、製品の硬度として不適であった。また、噴霧液中のHPMC濃度が20%(ERT顆粒中のHPMC濃度が10.71%)では、噴霧液の粘度が高すぎて噴霧できず、造粒不可であった。この結果から、HPMCを含有するERT顆粒において、HPMC濃度を1.48%超10.71%未満、または、噴霧液中のHPMC濃度を20%未満かつエリスリトール33重量部に対してHPMCが2.5重量部超20重量部未満とすると、直打法による錠剤製造に好適なエリスリトール顆粒が得られることが明らかになった。
【0070】
<実施例6>噴霧液におけるエリスリトールの配合量
(1)HPCを含有する噴霧液
HPCを最終濃度が5%となるよう水に溶解し、粉末状のエリスリトールを最終濃度が3.3~35%となるよう添加した。これらを噴霧液として用いてERT顆粒を製造した後、錠剤を製造して評価した。その結果を表9に示す。
【表9】
【0071】
表9に示すように、噴霧液中のERT濃度が6.7%、16.7%および33.3%では、ノズル開口部における噴霧液の付着は無く、ERT顆粒の流動性も普通かやや悪い程度で、ERT顆粒の粒子径も打錠用顆粒として好適であり、錠剤の成型性も有り、錠剤硬度も製品の硬度として好適であった。一方、噴霧液中のERT濃度が3.3%では、錠剤成型性がなかった。また、噴霧液中のERT濃度が35%では、エリスリトールが溶けきらないため濃度が均一とならず、造粒不可であった。この結果から、HPCを含有するERT顆粒において、噴霧液中のエリスリトールの濃度を、35%未満かつHPCが5重量部に対してエリスリトールが3.3重量部超35重量部未満とすると、直打法による錠剤製造に好適なエリスリトール顆粒が得られることが明らかになった。
【0072】
(2)HPMCを含有する噴霧液
HPMCを最終濃度が5%となるよう水に溶解し、粉末状のエリスリトールを最終濃度が3.3~35%となるよう添加した。これらを噴霧液として用いてERT顆粒を製造した後、錠剤を製造して評価した。その結果を表10に示す。
【表10】
【0073】
表10に示すように、噴霧液中のERT濃度が3.3%、6.7%、16.7%および33.3%では、ノズル開口部における噴霧液の付着は無く、ERT顆粒の流動性も普通かやや悪い程度で、ERT顆粒の粒子径も打錠用顆粒として好適であり、錠剤の成型性も有り、錠剤硬度も製品の硬度として好適であった。一方、噴霧液中のERT濃度が35%では、エリスリトールが溶けきらないため濃度が均一とならず、造粒不可であった。この結果から、HPMCを含有するERT顆粒において、噴霧液中のエリスリトールの濃度を、35%未満かつHPMCが5重量部に対してエリスリトールが0重量部超35重量部未満とすると、直打法による錠剤製造に好適なエリスリトール顆粒が得られることが明らかになった。
【0074】
<実施例7>サプリメントの製造
HPMCを最終濃度が5%となるよう水に溶解し、粉末状のエリスリトールを最終濃度が33.3%となるよう添加した。これを噴霧液として用いてERT顆粒を製造した。続いて、ERT顆粒が49%、N-アセチルグルコサミンが50%およびステアリン酸マグネシウム(滑沢剤)が1%の割合で混合し、試験方法(3)に記載の方法により打錠してサプリメントを製造し、錠剤の成型性および錠剤硬度を評価した。比較例として、ERT顆粒に代えて粉末状のエリスリトールを用いて同様に打錠してサプリメントを製造し、評価した。その結果を表11に示す。
【0075】
【0076】
表11に示すように、本実施例7のサプリメントは、錠剤の成型性が有り、錠剤硬度も製品の硬度として好適なものであった。また、喫食したところ、エリスリトールの爽やかで質の良い甘味が感じられるとともに、N-アセチルグルコサミンに由来する苦味や渋味も抑制されていて美味しかった。一方、比較例のサプリメントは錠剤の成型性が無く、錠剤硬度も製品の硬度として不適であった。この結果から、本発明に係るエリスリトール顆粒を用いて、直打法により十分な硬度を有する錠剤を製造できることが明らかになった。