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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】水素製造装置及び水素製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/10 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
C01B3/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019509657
(86)(22)【出願日】2018-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2018011377
(87)【国際公開番号】W WO2018180878
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2017061139
(32)【優先日】2017-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】湯村 正典
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-164235(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101870455(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第01604947(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0212457(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102225744(CN,A)
【文献】特開2008-137864(JP,A)
【文献】LIANG-SHIN FAN,CHEMICAL LOOPING SYSTEMS FOR FOSSIL ENERGY CONVERSIONS,2010年08月27日,Pages 301-361.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を水と一段階反応にて化学反応させ、前記金属を酸化させると共に水素を生成する水素生成部と、
属を酸素と一段階反応にて化学反応させ、当該金属を酸化させる酸化部と、
前記水素生成部にて生成される第1金属酸化物、及び前記酸化部にて生成される第2金属酸化物の両方を一緒に還元ガスと化学反応させ、前記第1金属酸化物及び前記第2金属酸化物を前記金属まで還元させる還元部と、
を備え、
前記第1金属酸化物と前記第2金属酸化物とは、同一の金属酸化物であり、
前記水素生成部の出口部は、前記酸化部を介することなく前記還元部の入口部に接続されている、
水素製造装置。
【請求項2】
前記還元部の出口部は、前記水素生成部の入口部と、前記酸化部の入口部とのそれぞれに接続されており、
前記水素生成部には、還元された前記金属の一部が供給され、
前記酸化部には、還元された前記金属の他部が供給される、請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記金属は、ニッケル及び亜鉛の少なくともいずれかである、請求項1または2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
水素生成部にて、金属を水と一段階反応にて化学反応させ、前記金属を酸化させると共に水素を生成する水素生成工程と、
酸化部にて、金属を酸素と一段階反応にて化学反応させ、当該金属を酸化させる酸化工程と、
還元部にて、前記水素生成工程にて生成される第1金属酸化物、及び前記酸化工程にて生成される第2金属酸化物の両方を一緒に還元ガスと化学反応させ、前記第1金属酸化物及び前記第2金属酸化物を前記金属まで還元させる還元工程と、
を備え、
前記第1金属酸化物と前記第2金属酸化物とは、同一の金属酸化物であり、
前記第1金属酸化物は、前記水素生成部から前記酸化部を介することなく前記還元部へ供給される、
水素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、水素製造装置及び水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素や二酸化炭素を副生せず、かつ多量の電気エネルギーを必要とせずに水素の安定的生成を図るための手法として、下記特許文献1に記載の水素製造方法が挙げられる。この水素製造方法では、鉄等の金属又はその酸化物と水との化学反応により水素を発生させるものである。具体的には、上記水素製造方法は、金属又はその酸化物を収納した反応容器の内部に酸素含有ガスを供給し、金属又はその酸化物の酸化反応により反応容器内の温度を上昇させる工程と、温度が上昇した反応容器内に水を供給し、金属又はその酸化物の酸化反応により水素を発生させる工程とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-36579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されている水素製造方法は、酸素キャリアである鉄(Fe)を第1酸化鉄(Fe)に酸化する第1プロセスと、第1酸化鉄を水にてさらに反応させて第2酸化鉄(Fe)まで酸化させる第2プロセスとを有する。この場合、第1プロセスにて発生した熱を利用し、第2プロセスが実施される。このように鉄の多段階反応を実施することによって、第1の酸化鉄を第2の酸化鉄(Fe)まで酸化させると共に水素を発生させる。
【0005】
しかしながら、上記方法においては、鉄から第1の酸化鉄になることなく、第2の酸化鉄まで反応することがある。この場合、水による酸化鉄の酸化反応が発生せず、水素が生成されなくなることがある。加えて、鉄の酸化反応にて過剰に発熱し、いわゆるシンタリングの発生によって、当該鉄が不活性化してしまうことがある。これらの問題の発生を防止すべく、多段階反応を順番に実施できるように制御する手法が提案されている。しかしながら、未だ有効な解決案は見出されていない。
【0006】
本発明の一態様は、複雑な制御を要することなく水素を生成できる水素製造装置及び水素製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る水素製造装置は、金属を水と一段階反応にて化学反応させ、金属を酸化させると共に水素を生成する水素生成部と、水と未反応の金属を酸素と一段階反応にて化学反応させ、当該金属を酸化させる酸化部と、水素生成部にて生成される第1金属酸化物、及び酸化部にて生成される第2金属酸化物の両方を還元ガスと化学反応させ、第1金属酸化物及び第2金属酸化物を前記金属まで還元させる還元部と、を備え、第1金属酸化物と第2金属酸化物とは、同一の金属酸化物である。
【0008】
また、本発明の他の一態様に係る水素製造方法は、金属を水と一段階反応にて化学反応させ、金属を酸化させると共に水素を生成する水素生成工程と、水と未反応の金属を酸素と一段階反応にて化学反応させ、当該金属を酸化させる酸化工程と、水素生成工程にて生成される第1金属酸化物、及び酸化工程にて生成される第2金属酸化物の両方を還元ガスと化学反応させ、第1金属酸化物及び第2金属酸化物を金属まで還元させる還元工程と、を備え、第1金属酸化物と第2金属酸化物とは、同一の金属酸化物である。
【0009】
この水素製造装置及び水素製造方法によれば、水素生成工程においては、水素生成部にて金属を水と一段階反応にて化学反応させ、第1金属酸化物が生成される。また、酸化工程においては、酸化部にて金属を水と一段階反応にて化学反応させ、第2金属酸化物が生成される。加えて、第1金属酸化物及び第2金属酸化物は、同一の金属酸化物である。この場合、例えば鉄のように多段階反応を利用することなく、水素を生成できる。すなわち、多段階反応を順番に実施できるように制御することなく、水素を生成できる。したがって、この水素製造装置及び水素製造方法によれば、複雑な制御を要することなく水素を生成できる。
【0010】
還元部の出口部は、水素生成部の入口部と、酸化部の入口部とのそれぞれに接続されており、水素生成部には、還元された金属の一部が供給され、酸化部には、還元された金属の他部が供給されてもよい。この場合、水素生成部に供給される金属の量と、酸化部に供給される金属の量とを容易に調整できる。このため、水素生成部にて生成する水素の量と、酸化部にて発生する熱量とを容易に推定できる。
【0011】
還元部の出口部は、水素生成部の入口部に接続されており、水素生成部の出口部は、酸化部の入口部に接続されており、酸化部の出口部は、還元部の出口部に接続されてもよい。この場合、水素生成部、酸化部、及び還元部を一本の循環経路とすることができるので、金属(及び金属酸化物)を上記循環経路内に容易に循環できる。加えて、酸素は水よりも酸化力が高いので、水素生成部にて反応しきれなかった金属を、酸化部にて十分に化学反応できる。
【0012】
金属は、ニッケル及び亜鉛の少なくともいずれかであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、複雑な制御を要することなく水素を生成できる水素製造装置及び水素製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る水素製造装置を示す概略構成図である。
図2】実施形態に係る水素製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3】変形例に係る水素製造装置を示す概略構成図である。
図4】変形例に係る水素製造方法を説明するためのフローチャートである。
図5】実施例3の混合液の濁度測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一態様による水素製造装置及び水素製造方法の好適な実施形態について添付図面を参照しながら説明する。以下の実施形態は、本発明の一態様を説明するための例示であり、本発明は以下の内容に限定されない。また、添付図面は実施形態の一例を示したものであり、水素製造装置の形態、及び構成の比率は図面に限定して解釈されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。なお、以下の説明において同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
本実施形態に係る水素製造装置は、いわゆる3塔式のケミカルループ燃焼装置であり、金属(詳細は後述する)と水との化学反応により水素を生成する装置である。ケミカルループ燃焼とは、燃焼反応を「金属の酸化」と、「酸化した金属の還元」という2つの化学反応に分け、両方の化学反応を、金属を循環させることによって成立させる手法である。本実施形態では、後述するように、水素生成反応を含む金属の酸化反応と、酸化した金属の還元反応とを繰り返し実施できるように、金属を循環させる。このため、循環する上記金属は、酸素を輸送する機能を有すると言える。
【0017】
本実施形態にて用いられる金属は、後述する酸化工程において生成される金属酸化物の組成式と、後述する水素生成工程にて生成される金属酸化物の組成式とが同一になる金属である。また、これらの金属酸化物は、金属を一段階反応にて酸化させて生成されるものである。これらの条件を満たす金属として、例えばニッケル(Ni)及び亜鉛(Zn)が挙げられる。ニッケルの場合、水または酸素等の酸化剤を用い、一段階反応にて酸化されて生成される金属酸化物は、酸化ニッケル(NiO)である。亜鉛の場合、水または酸素等の酸化剤を用い、一段階反応にて酸化されて生成される金属酸化物は、酸化亜鉛(ZnO)である。本実施形態では、金属としてニッケルが用いられる。
【0018】
上記金属は、多孔質粒子形状を呈してもよい。この場合、金属において酸素等の気体と反応する面積が増加し、水素生成量を増加できる。上記金属は、多孔質体の表面に担持(付着)してもよいし、当該表面を被覆してもよい。この場合も、金属が上記気体と反応する面積が増加するので、水素生成量を増加できる。多孔質体は、例えばアルミナ(AlOx)又はシリカ(SiOx)などである。多孔質体は、耐熱性を有してもよい。
【0019】
図1は、本実施形態に係る水素製造装置を示す概略構成図である。図1に示される水素製造装置1は、水素生成塔2と、酸化塔3と、燃焼塔4とを備えている。なお、水素製造装置1は、内部循環型装置でもよいし、外部循環型装置でもよい。内部循環型装置とは、酸化塔3の内部に少なくとも燃焼塔4が配置された装置である。外側循環型装置とは、燃焼塔4が酸化塔3の内部に配置されていない装置である。本実施形態では、金属を良好に循環させる観点から、水素製造装置1は外部循環型装置であるものとして説明する。なお、水素製造装置1は、循環流動層を構成してもよい。この場合、水素製造装置1は、水素生成塔2、酸化塔3、及び燃焼塔4が一体化した一つの塔(1塔式)としてもよい。
【0020】
水素生成塔2は、金属を水と一段階反応にて化学反応させ、金属を酸化させると共に水素を生成する部分(水素生成部)であり、例えば中空の立体形状を呈している。水素生成塔2は、持ち運び可能な収容体でもよいし、持ち運び不可能な建造物でもよい。水素生成塔2は、金属を内部に供給するための入口部2aと、酸化された金属(金属酸化物)を外部に排出するための出口部2bとを備えている。また、水素生成塔2には、図示されていないが、水(水蒸気)を内部に供給するための水供給部と、水素を外部に排出するための水素排出部とが設けられている。
【0021】
例えば金属がニッケルである場合、水素生成塔2内では、化学反応式1(2Ni+2HO(g)→2H(g)+2NiO、常温常圧にてΔH=4.3kJ)に沿った化学反応(吸熱反応)が発生する。すなわち、水素生成塔2内では、ニッケルと水蒸気とを化学反応させることにより、酸化ニッケル(第1金属酸化物)と水素とが生成される。加えて、この化学反応は一段階反応である。なお、常温とは25℃(298.15K)であり、常圧とは1気圧(101.3kPa)である。
【0022】
水素生成塔2における化学反応は、上記化学反応式1に示されるように吸熱反応であるため、当該化学反応を発生させるためには熱が必要である。この熱は、例えば酸化塔3にて発生した熱を利用してもよい。このため、水素生成塔2は、酸化塔3と熱交換可能に何らかの態様にて接続されてもよい。なお、酸化塔3にて発生する熱については、下記にて詳述する。
【0023】
酸化塔3は、金属を酸素と一段階反応にて化学反応させ、当該金属を酸化させる部分(酸化部)であり、例えば中空の立体形状を呈している。酸化塔3は、水素生成塔2と同様に、持ち運び可能な収容体でもよいし、持ち運び不可能な建造物でもよい。酸化塔3は、金属を内部に供給するための入口部3aと、酸化された金属(金属酸化物)を外部に排出するための出口部3bとを備えている。また、酸化塔3には、図示されていないが、少なくとも酸素を含むガスを内部に供給するためのガス供給部と、不要なガスを外部に排出するためのガス排出部とが設けられている。本実施形態では、酸素を含むガスとして空気が用いられる。このため、ガス排出部からは、主に窒素が排出される。
【0024】
例えば金属がニッケルである場合、酸化塔3内では、化学反応式2(2Ni+O(g)→2NiO、常温常圧にてΔH=-479.4kJ)に沿った化学反応が発生する。すなわち、酸化塔3内では、ニッケルと酸素とを化学反応させることにより、酸化ニッケル(第2金属酸化物)が生成される。加えて、この化学反応は一段階反応である。なお、化学反応式1,2に示されるとおり、水素生成塔2にて生成される金属酸化物の組成式は、酸化塔3にて生成される金属酸化物の組成式と同一となっている。このため、本実施形態では、比較的弱い酸化力を有する水と反応してなる金属酸化物と、水よりも強い酸化力を有する酸素と反応してなる金属酸化物とが同一となる金属が用いられる。
【0025】
酸化塔3における化学反応は、上記化学反応式2に示されるように発熱反応であるため、当該化学反応が発生する際に熱(反応熱)が発生する。このため、酸化塔3は、耐熱性を有する容器または構造物である。酸化塔3内に熱が蓄積すると、酸化塔3に収容された金属または反応後の金属酸化物が溶融することがある。この溶融によって、金属の格子結晶の破壊、もしくは多孔質形状の消失に伴う表面積の減少(すなわち、シンタリング)等が発生してしまうことがある。したがって図示しないが、酸化塔3には、排熱可能な形状であってもよい。例えば、酸化塔3は、上述したように、水素生成塔2と熱交換可能とする構造(具体的には、水素生成塔2に熱を供給する構造)を有してもよい。具体例としては、酸化塔3の少なくとも一部が、水素生成塔2の一部と接している。これにより、酸化塔3にて発生した熱を水素生成塔2にて発生する化学反応に利用できる。加えて、酸化塔3は、燃焼塔4と熱交換可能とする構造(具体的には、燃焼塔4に熱を供給する構造)を有してもよい。この場合、水素製造装置1の自立運転が可能になる。自立運転とは、水素製造装置1に対して外部から熱を加えなくとも各化学反応が発生することとする。
【0026】
燃焼塔4は、水素生成塔2にて生成される金属酸化物、及び酸化塔3にて生成される金属酸化物の両方を還元ガスと化学反応させ、両方の金属酸化物を金属まで還元させる部分(還元部)であり、例えば中空の立体形状を呈している。燃焼塔4は、水素生成塔2及び酸化塔3と同様に、持ち運び可能な収容体でもよいし、持ち運び不可能な建造物でもよい。燃焼塔4は、金属酸化物を内部に供給するための入口部4aと、還元された金属を外部に排出するための出口部4bとを備えている。また、燃焼塔4には、図示されていないが、還元ガス(燃料)を内部に供給するためのガス供給部と、不要なガス等を外部に排出するための排出部とが設けられている。還元ガスは、例えば化石燃料、水素等が用いられる。本実施形態では、還元ガスとしてメタン(CH)が用いられるため、排出部からは、主に二酸化炭素及び水が排出される。
【0027】
燃焼塔4の入口部4aは、物質を移送する管であるラインL1を介して、水素生成塔2の出口部2bと、酸化塔3の出口部3bとに接続されている。本実施形態では、ラインL1は、金属酸化物(具体的には、水素生成塔2にて酸化された金属酸化物及び酸化塔3にて酸化された金属酸化物)を移送する分岐管である。ラインL1は、水素生成塔2の出口部2bに接続される分岐部分L1Aと、酸化塔3の出口部3bに接続される分岐部分L1Bと、分岐部分L1A及び分岐部分L1Bが合流してなり、燃焼塔4の入口部4aに接続される合流部分L1Cとを有している。このため、燃焼塔4の入口部4aには、ラインL1を介して水素生成塔2にて生成された金属酸化物と、酸化塔3にて生成された金属酸化物とが供給される。上記金属酸化物は、例えばポンプ又は搬送ガス等を利用した公知の供給手段によって、ラインL1に収容され、且つ、燃焼塔4に供給される。
【0028】
燃焼塔4の出口部4bは、物質を移送する管であるラインL2を介して、水素生成塔2の入口部2aと、酸化塔3の入口部3aとに接続されている。本実施形態では、ラインL2は、金属(具体的には、燃焼塔4にて還元された金属)を移送する分岐管である。上記金属は、例えばポンプ等の公知の供給手段によって、ラインL2に収容され、且つ、水素生成塔2及び酸化塔3にそれぞれ供給される。ラインL2は、水素生成塔2の入口部2aに接続される分岐部分L2Aと、酸化塔3の入口部3aに接続される分岐部分L2Bと、分岐部分L2A及び分岐部分L2Bが合流してなり、燃焼塔4の出口部4bに接続される合流部分L2Cとを有している。このため、水素生成塔2の入口部2aには、合流部分L2C及び分岐部分L2Aを介して燃焼塔4から還元された金属の一部が供給される。また、酸化塔3の入口部3aには、合流部分L2C及び分岐部分L2Bを介して燃焼塔4から還元された金属の他部が供給される。すなわち、酸化塔3の入口部3aには、水素生成塔2にて水と未反応の金属が供給される。このようにラインL1,L2を適用することにより、水素生成塔2及び酸化塔3と、燃焼塔4とによって循環経路を形成でき、当該循環経路に沿って金属を循環させることができる。
【0029】
例えば金属がニッケルである場合、燃焼塔4内では、化学反応式3(2NiO+1/2CH(g)→2Ni+HO(g)+1/2CO(g)、常温常圧にてΔH=78.1kJ)に沿った化学反応が発生する。すなわち、燃焼塔4内では、酸化ニッケルとメタンとを化学反応させることにより、単体まで還元されたニッケルと、水と、二酸化炭素とが生成される。燃焼塔4における化学反応は、上記化学反応式3に示されるように吸熱反応であるため、水素生成塔2と同様に、当該化学反応を発生させるためには熱が必要である。この熱は、上述したように、酸化塔3にて発生した熱を利用してもよい。
【0030】
本実施形態では、上記化学反応式1~3に示されたエンタルピー変化(ΔH)の値に基づいて、例えば、燃焼塔4によって還元された金属の内、約5/6が水素生成塔2に供給され、約1/6が酸化塔3に供給される。この場合、各化学反応の熱バランスを取ることができ、例えば酸化塔3内にて過剰な発熱の発生を抑制できる。水素生成塔2に供給される水蒸気を酸化塔3にて発生した熱を利用して生成する場合、燃焼塔4によって還元された金属の内、約1/3が酸化塔3に供給されてもよい。これにより、上記熱バランスを取りつつ、外部の加熱装置を用いることなく上記水蒸気を生成できる。なお、液体状の水を水蒸気に変化させるためのΔHは、約45kJ/mol・HOである。
【0031】
次に、図2を参照しながら本実施形態に係る水素製造装置1を用いた水素製造方法の一例を説明する。図2は、本実施形態に係る水素製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0032】
まず、金属であるニッケル(Ni)の一部を水素生成塔2に供給する(ステップS1-1)と共に、ニッケルの他部を酸化塔3に供給する(ステップS1-2)。これらのステップS1-1,S1-2では、燃焼塔4からラインL2を介して、ニッケル(Ni)の一部が水素生成塔2に供給されると共に、ニッケルの他部が酸化塔3に供給される。水素生成塔2に供給される金属量と、酸化塔3に供給される金属量との比率は、上述したとおりである。なお、ステップS1-1,1-2は、同時に実施されてもよいし、互いに別のタイミングにて実施されてもよい。
【0033】
次に、水素生成塔2にてニッケルを水(水蒸気)と化学反応させ、ニッケルを酸化させると共に水素を生成する(ステップS2-1、水素生成工程)。ステップS2-1では、まず、ニッケルが供給された水素生成塔2に水蒸気を供給する。そして、上記化学反応式1に沿ってニッケルと水蒸気とを化学反応させ、第1金属酸化物である酸化ニッケル(NiO)及び水素(H)を生成する。
【0034】
また、酸化塔3にてニッケルを酸素と化学反応させ、ニッケルを酸化させる(ステップS2-2、酸化工程)。ステップS2-2では、まず、ニッケルが供給された酸化塔3に酸素(空気)を供給する。そして、上記化学反応式2に沿ってニッケルと酸素とを化学反応させ、第2金属酸化物である酸化ニッケル(NiO)を生成する。ステップS2-2は、ステップS2-1と同時に実施されてもよいし、ステップS2-1と別のタイミングにて実施されてもよい。
【0035】
次に、水素生成塔2から酸化ニッケルを燃焼塔4に供給すると共に、酸化塔3から酸化ニッケルを燃焼塔4に供給する(ステップS3)。ステップS3においては、ラインL1を介して、水素生成塔2及び酸化塔3のそれぞれから、酸化ニッケルが燃焼塔4へ供給される。ステップS3において、水素生成塔2から燃焼塔4への酸化ニッケルの供給と、酸化塔3から燃焼塔4への酸化ニッケルの供給とは、同時に実施されてもよいし、互いに別のタイミングにて実施されてもよい。
【0036】
次に、ステップS2-1にて生成された酸化ニッケル、及びステップS2-2にて生成された酸化ニッケルの両方を還元ガス(メタンガス)と化学反応させ、両方の酸化ニッケルをニッケルに還元させる(ステップS4、還元工程)。ステップS4では、まず、上記両方の酸化ニッケルが供給された燃焼塔4にメタンガスを供給する。そして、上記化学反応式3に沿って酸化ニッケルとメタンガスとを化学反応させ、ニッケルを生成する。
【0037】
ステップS4にて生成されたニッケルは、ラインL2を介して水素生成塔2または酸化塔3に供給される(供給工程)。これにより、還元されたニッケルを用いて、上記ステップを繰り返すことができる。このように金属であるニッケルを酸化還元反応させながら水素製造装置1内を循環させる(すなわち、ケミカルループ燃焼を適用する)ことにより、水素を製造できる。
【0038】
以上に説明した本実施形態に係る水素製造装置1を用いた水素製造方法によれば、ステップS2-1においては、水素生成塔2にて金属を水と一段階反応にて化学反応させ、金属酸化物が生成される。また、ステップS2-2においては、酸化塔3にて金属を水と一段階反応にて化学反応させ、金属酸化物が生成される。加えて、これらの金属酸化物は、同一の金属酸化物である。この場合、例えば鉄のように多段階反応を利用することなく、水素を生成できる。すなわち、多段階反応を順番に実施できるように制御することなく、水素を生成できる。したがって、複雑な制御を要することなく水素を生成できる。
【0039】
加えて、金属酸化物が1種類のみの金属酸化物となる金属を用いることによって、酸化塔3における金属の過剰酸化の発生を防止できる。このため、酸化塔3においては、金属の過剰酸化反応に伴った過剰な発熱が発生しない。これにより、金属のシンタリングの発生等を良好に抑制可能となる。したがって、循環する金属の不活性化を抑制でき、長期間に亘って水素を良好に発生することができる。また、水素製造装置1は、互いに異なる水素生成塔2、酸化塔3、及び燃焼塔4を備えている。このため、水素生成塔2、酸化塔3、及び燃焼塔4にて排出される気体をそれぞれ容易に分けることできるので、水素のみを容易に取り出すことが可能である。さらには、水素製造装置1では、酸化塔3にて発生した熱を水素生成塔2及び燃焼塔4に供給することができる。これにより、熱効率よく、水素生成塔2、酸化塔3、及び燃焼塔4にて発生する各化学反応を実施できる。
【0040】
燃焼塔4の出口部4bは、水素生成塔2の入口部2aと、酸化塔3の入口部3aとのそれぞれに接続されており、水素生成塔2には、還元された金属の一部が供給され、酸化塔3には、還元された金属の他部が供給される。これにより、上記水素製造方法では、ステップS2-1(水素生成工程)は水素生成塔2にて実施され、ステップS2-2(酸化工程)は酸化塔3にて実施される。また、上記水素製造方法では、ステップS4にて還元された金属の一部を水素生成塔2に供給すると共に、還元された金属の他部を酸化塔3に供給してもよい。この場合、水素生成塔2に供給される金属の量と、酸化塔3に供給される金属の量とを容易に調整できる。このため、水素生成塔2にて生成する水素の量と、酸化塔3にて発生する熱量とを容易に推定できる。
【0041】
次に、図3及び図4を参照しながら、上記実施形態の変形例に係る水素製造装置及びそれを用いた水素製造方法について説明する。図3は、変形例に係る水素製造装置を示す概略構成図であり、図4は、変形例に係る水素製造方法を説明するためのフローチャートである。なお、下記に説明する変形例においては、上記実施形態と重複する説明については省略し、上記実施形態と異なる部分を説明する。
【0042】
図3に示される水素製造装置1Aでは、水素生成塔2、酸化塔3、及び燃焼塔4が、無分岐であるラインL11~L13を介して、一本の循環経路となるように構成されている。具体的には、水素生成塔2の出口部2bは、ラインL11を介して酸化塔3の入口部3aに接続されており、酸化塔3の出口部3bは、ラインL12を介して燃焼塔4の入口部4aに接続されており、燃焼塔4の出口部4bは、ラインL13を介して水素生成塔2の入口部2aに接続されている。なお、ラインL11~L13のそれぞれには、上述した公知の供給手段が設けられてもよい。
【0043】
次に、図4を参照しながら上述した水素製造装置1Aを用いた水素製造方法を説明する。まず、図4に示されるように、ニッケルを水素生成塔2に供給する(ステップS11)。ステップS11では、還元されたニッケルが燃焼塔4からラインL13を介して水素生成塔2に供給される。続いて、ニッケルの一部を水蒸気と化学反応させ、酸化ニッケル及び水素を生成する(ステップS12)。ステップS12では、上記ステップS2-1と同様にニッケルを水蒸気と化学反応させる。このとき、燃焼塔4から供給された全てのニッケルを化学反応させず、例えば約5/6のニッケルを化学反応させる。すなわち、ステップS12では、ニッケルの一部を水蒸気と化学反応させる。
【0044】
次に、水(水蒸気)と未反応のニッケル及び酸化ニッケルを、水素生成塔2から酸化塔3に供給する(ステップS13)。ステップS13では、ステップS12にて水蒸気と未反応のニッケルと、ステップS12にて生成された酸化ニッケルとが、水素生成塔2からラインL11を介して酸化塔3に供給される。続いて、ニッケルの他部を酸素と化学反応させ、酸化ニッケル及び水素を生成する(ステップS14)。ステップS14では、上記ステップS2-2と同様にニッケルを酸素と化学反応させる。このとき、水素生成塔2にて反応しなかったニッケル(ニッケルの他部)を全て酸化させる。
【0045】
次に、酸化ニッケルを、酸化塔3から燃焼塔4に供給する(ステップS15)。ステップS15では、ステップS12,14にて生成された酸化ニッケルが、酸化塔3からラインL12を介して燃焼塔4に供給される。続いて、酸化ニッケルをニッケルに還元する(ステップS16)。ステップS16では、上記ステップS4と同様に酸化ニッケルをメタンガスと化学反応させる。そして、ラインL13を介して還元したニッケルを水素生成塔2に供給することによって、上記実施形態と同様に、金属であるニッケルを酸化還元反応させながら循環させ、水素を製造できる。
【0046】
上記変形例に係る水素製造装置1Aを用いた水素製造方法によっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。加えて、燃焼塔4の出口部4bは、水素生成塔2の入口部2aに接続されており、水素生成塔2の出口部2bは、酸化塔3の入口部3aに接続されており、酸化塔3の出口部3bは、燃焼塔4の入口部4aに接続されている。このため、水素生成塔2、酸化塔3、及び燃焼塔4を一本の循環経路とすることができるので、金属(または金属酸化物)を上記循環経路内に容易に循環できる。
【0047】
ここで、水蒸気の酸化力は酸素等と比較して低いため、水素生成塔2内にて全てのニッケルが酸化されないときがある。このため、上記実施形態においては、水蒸気と化学反応しなかったニッケルは、ラインL1を介して燃焼塔4に供給される(戻る)。すなわち、ステップS2-1では、水素生成塔2に供給されたニッケルの全てが化学反応されないことがある。これに対して本変形例では、酸素は水よりも酸化力が高いため、酸化塔3では供給された全てのニッケルを酸化することが可能である。したがって、本変形例においては、水素生成塔2にて反応しきれなかった金属を、酸化塔3にて十分に化学反応できる。このため、本変形例では、燃焼塔4に酸化ニッケルのみを良好に供給できる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されない。例えば、上記実施形態及び上記変形例においては金属としてニッケルのみが用いられているが、金属としてニッケル及び亜鉛の両方が用いられてもよい。この場合、ニッケル及び亜鉛の両方は、多孔質粒子径状を呈している、もしくは多孔質体の表面に担持されてもよい。また、水素生成塔2、酸化塔3、及び燃焼塔4の少なくともいずれかには、公知の加熱手段が設けられてもよい。
【0049】
上記実施形態及び上記変形例においては、酸素を輸送する機能を有する金属だけでなく、無機物等が水素製造装置内を循環することを妨げない。このような無機物等は、例えば、上記金属に加えて多孔質体の表面に担持されてもよいし、上記金属が主成分となる鉱石又等に含まれてもよい。上記無機物は、上記金属と比較して微量であればよい。また、上記無機物等は、不純物でもよいし、上記金属の特性に影響を及ぼす物質でもよい。このような物質としては、例えば酸化還元に伴う金属構造の変化を防止し、上記金属の安定性を向上させる物質が挙げられる。
【実施例
【0050】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
実施例1では、ニッケルを水蒸気と化学反応させることによって、水素が発生するか否かについて検討した。具体的には、還元されたニッケルを水蒸気に接触させたときの気体中の水素分圧率の変化を確認することによって、水素の発生の有無を検討した。以下にて、気体中の水素分圧率の変化を確認するために実施した事項を説明する。
【0052】
<酸化ニッケルの還元>
まず、酸化ニッケル(NiO)をシリカ(SiO)に担持させた試料0.5gを準備した。この試料は、ニッケルの重量を基準として、10wt%の酸化ニッケルがシリカに担持されたものである。この試料を閉鎖系環境下とするため、当該試料をチャンバ内に収容して真空状態とした後、水素ガスをチャンバ内に供給した。これにより、チャンバ内の条件を200Torr以下、H:100%、温度:450℃とした。そして当該条件を1時間維持し、試料に含まれる酸化ニッケルを還元した。
【0053】
次に、水素ガスをチャンバ内から排出した後、窒素ガス及び水蒸気をチャンバ内に供給した。このとき、チャンバ内の条件を、圧力:150Torr以下(内、約9℃蒸気圧にて9Torrの水蒸気が含まれる)、温度:450℃とした。そして、チャンバ内のガス中における水素濃度をTCD-ガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製、装置名:GC-8A)にて経時的に計測した。この水素濃度の計測結果を図5に示す。
【0054】
図5は、実施例におけるガス中の水素濃度の計測結果を示すグラフである。図5において、縦軸は水素ガスの割合を示し、横軸は経過時間を示す。図5に示されるように、計測開始時においては、ガス中の水素ガスは確認されなかったが、5分後においては、ガス中の水素ガスの割合は、約0.3%となっていた。また、時間が経過するにつれて、ガス中の水素ガスの割合は、徐々に増加していく傾向にあった。この計測結果より、還元されたニッケルを水蒸気に曝すことによって、ニッケルと水とが化学反応し、水素が発生したと考えられる。
【符号の説明】
【0055】
1,1A…水素製造装置、2…水素生成塔(水素生成部)、3…酸化塔(酸化部)、4…燃焼塔(還元部)、L1,L2,L11~L13…ライン。
図1
図2
図3
図4
図5