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特許7085531強毒性エンテロウイルス71の安定的生産およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】強毒性エンテロウイルス71の安定的生産およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20220609BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20220609BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20220609BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220609BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20220609BHJP
   C12N 15/41 20060101ALN20220609BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N7/00
C12N5/077
C12N15/09 100
C12N15/63 Z
C12N15/41
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019509880
(86)(22)【出願日】2018-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2018012410
(87)【国際公開番号】W WO2018181298
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2017072562
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】小池 智
(72)【発明者】
【氏名】小林 郷介
(72)【発明者】
【氏名】巣鷹 佑衣
(72)【発明者】
【氏名】猪村 亜弓
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-268688(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103081868(CN,A)
【文献】FUJII Ken, et al,Transgenic mouse model for the study of enterovirus 71 neuropathogenesis,PNAS,2013年09月03日,Vol.110,p.14753-14758
【文献】日本ウイルス学会学術集会プログラム・抄録集,2016年09月30日,p.323, P2-045, P2-046
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
CAplus(STN)、MEDLINE(STN)、
EMBASE(STN)、BIOSIS(STN)、
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強毒性の手足口病病因ウイルスを安定的に増殖させるための宿主細胞であって、前記宿主細胞が、ヘパラン硫酸を発現しておらず、かつ、霊長類のスカベンジャー受容体クラスBメンバー2(SCARB2)を過剰発現している、宿主細胞。
【請求項2】
前記強毒性の手足口病病因ウイルスが、ヒトエンテロウイルスA群に分類されるウイルスである、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項3】
前記強毒性の手足口病病因ウイルスが、エンテロウイルス71、コクサッキーウイルスA16、コクサッキーウイルスA14またはコクサッキーウイルスA7である、請求項1または2に記載の宿主細胞。
【請求項4】
EXT1遺伝子および/またはEXT2遺伝子を発現していない、請求項1~3のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項5】
前記霊長類のSCARB2がヒトSCARB2である、請求項1~4のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項6】
前記細胞がRD細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項7】
(1)強毒性の手足口病病因ウイルスを産生する細胞を得るために、請求項1~6のいずれか1項に記載の宿主細胞に、強毒性の手足口病病因ウイルスのゲノムRNAを導入するステップと、
(2)強毒性の手足口病病因ウイルスを増殖させるために、前記ステップ(1)により得られた細胞を培養するステップと、
(3)前記ステップ(2)により増殖させた強毒性の手足口病病因ウイルスを回収するステップと
を含む、強毒性の手足口病病因ウイルスを安定的に生産する方法。
【請求項8】
前記強毒性の手足口病病因ウイルスが、ヒトエンテロウイルスA群に分類されるウイルスである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記強毒性の手足口病病因ウイルスが、エンテロウイルス71、コクサッキーウイルスA16、コクサッキーウイルスA14またはコクサッキーウイルスA7である、請求項7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強毒性の手足口病病因ウイルスの安定的な生産、および、強毒性の手足口病病因ウイルスを用いたワクチンまたは抗ウイルス薬のスクリーニングに関する。
【背景技術】
【0002】
手足口病は、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属内の、主としてヒトエンテロウイルスA群(HEV-A)に分類されるウイルスが原因となって起こるウイルス性疾患である。手足口病は、口腔粘膜および四肢末端に現われる水疱性の発疹を主症状とし、幼児を中心に夏季に流行するが、一般的には軽症であり、特別な治療を行わなくても数日のうちに自然治癒する。しかし、エンテロウイルス71(EV71)は、無菌性髄膜炎や脳炎などの重篤な中枢神経系の合併症を稀に引き起こすことが報告されており、東アジアにおいては、1990年代後半から、EV71の大規模流行による多数の死亡例が報告されている。これは、EV71をはじめとするエンテロウイルスはRNAウイルスであり、他のRNAウイルス(例えばインフルエンザウイルスなど)と同様に変異頻度が極めて高く、ウイルスの大規模流行の間に強毒性変異株が生じることが一因と考えられている。そのため、エンテロウイルスは公衆衛生上危険なウイルスであると考えられており、ワクチンや抗ウイルス薬の開発が望まれている。
【0003】
エンテロウイルスに対するワクチンや抗ウイルス薬の開発のためには、エンテロウイルスの感染動物モデルが必要となる。本発明者らは、細胞表面受容体であるスカベンジャー受容体クラスBメンバー2(SCARB2)がEV71の感染に必須の分子であることをすでに明らかにしており、EV71感染モデルマウスとして、ヒトSCARB2を発現するトランスジェニックマウスを作製している(非特許文献1)。一方、上記モデルマウスに感染させるためのEV71は、RD細胞などのウイルス感受性細胞を用いて増殖させて調製する。しかし、ウイルス感受性細胞を用いて増殖させたEV71では、その病原性が著しく低下してしまうことが度々確認されており、このことは、EV71のワクチンや抗ウイルス薬の開発を行う上で大きな障害となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Fujii, K., et al., Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A., Vol. 110, No. 36, pp. 14753-14758 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EV71をはじめとするHEV-Aに分類されるエンテロウイルスが結合する細胞膜表面受容体には、SCARB2の他にも、ヘパラン硫酸やPSGL-1など、いくつかの分子が存在することが知られている。しかし、これらの細胞膜表面受容体の機能的な相違や、エンテロウイルスの病原性との相関、変異エンテロウイルスに対する選択圧などについては明らかにされていない。
【0006】
本発明は、EV71をはじめとするHEV-Aに分類されるエンテロウイルスの感染機構を明らかにするとともに、強毒性の手足口病病因ウイルスの安定的な生産を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ヘパラン硫酸を介して取り込まれた弱毒性EV71が、SCARB2を介して感染した強毒性EV71を上回って増殖することにより、EV71の弱毒化が起こることを明らかにした。本発明者らは、この新規な発見に基づき、強毒性の手足口病病因ウイルスを安定的に増殖させるための宿主細胞および方法を確立した。
【0008】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、強毒性の手足口病病因ウイルスを安定的に増殖させるための宿主細胞であって、前記宿主細胞が、ヘパラン硫酸を発現しておらず、かつ、霊長類のスカベンジャー受容体クラスBメンバー2(SCARB2)を過剰発現している、宿主細胞を提供するものである。
【0009】
前記強毒性の手足口病病因ウイルスは、ヒトエンテロウイルスA群に分類されるウイルスであることが好ましい。
【0010】
前記強毒性の手足口病病因ウイルスは、エンテロウイルス71、コクサッキーウイルスA16、コクサッキーウイルスA14またはコクサッキーウイルスA7であることが好ましい。
【0011】
前記宿主細胞は、EXT1遺伝子および/またはEXT2遺伝子を発現していないことが好ましい。
【0012】
前記SCARB2はヒトSCARB2であることが好ましい。
【0013】
前記細胞はRD細胞であるであることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、一実施形態によれば、(1)強毒性の手足口病病因ウイルスを産生する細胞を得るために、上記記載の宿主細胞に、強毒性の手足口病病因ウイルスのゲノムRNAを導入するステップと、(2)強毒性の手足口病病因ウイルスを増殖させるために、前記ステップ(1)により得られた細胞を培養するステップと、(3)前記ステップ(2)により増殖させた強毒性の手足口病病因ウイルスを回収するステップとを含む、強毒性の手足口病病因ウイルスを安定的に生産する方法を提供するものである。
【0015】
前記強毒性の手足口病病因ウイルスは、ヒトエンテロウイルスA群に分類されるウイルスであることが好ましい。
【0016】
前記強毒性の手足口病病因ウイルスは、エンテロウイルス71、コクサッキーウイルスA16、コクサッキーウイルスA14またはコクサッキーウイルスA7であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、一実施形態によれば、上記方法により調製された、強毒性の手足口病病因ウイルス株を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、一実施形態によれば、(1)霊長類のスカベンジャー受容体クラスBメンバー2(SCARB2)を発現しているトランスジェニックマウスを準備するステップと、(2)前記トランスジェニックマウスに、候補ワクチンを接種するステップと、(3)前記ステップ(2)のトランスジェニックマウスを、上記記載の強毒性の手足口病病因ウイルス株で攻撃するステップと、(4)前記ステップ(3)のトランスジェニックマウスを解析するステップとを含む、抗手足口病病因ウイルスワクチンのスクリーニング方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、一実施形態によれば、(1)霊長類のスカベンジャー受容体クラスBメンバー2(SCARB2)を発現しているトランスジェニックマウスを準備するステップと、(2)前記トランスジェニックマウスを、上記記載の強毒性の手足口病病因ウイルス株に感染させるステップと、(3)前記ステップ(2)のトランスジェニックマウスに、抗手足口病病因ウイルス薬の候補化合物を投与するステップと、(4)前記ステップ(3)のトランスジェニックマウスを解析するステップとを含む、抗手足口病病因ウイルス薬のスクリーニング方法を提供するものである。
【0020】
前記SCARB2はヒトSCARB2であることが好ましい。
【0021】
前記トランスジェニックマウスは4週齢以上であるであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る強毒性の手足口病病因ウイルスを安定的に増殖させるための宿主細胞および方法は、手足口病病因ウイルスを弱毒化させることなく増殖させることができるため、強毒性の手足口病病因ウイルス株を安定的かつ効率的に提供することが可能となる。
【0023】
また、本発明に係る強毒性の手足口病病因ウイルス株およびそれを用いた抗手足口病病因ウイルスワクチンまたは抗手足口病病因ウイルス薬のスクリーニング方法は、安定して高い再現性を有する。そのため、ワクチンおよび抗ウイルス薬の開発ならびに品質管理のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】EXT1遺伝子またはEXT2遺伝子をノックアウトしたRD細胞のヘパラン硫酸発現量を確認した図である。
図2】ヘパラン硫酸またはSCARB2を介したEV71の感染機構を示す模式図である。
図3】強毒性EV71(N772株)により攻撃したマウス(ワクチン接種(-)または(+))の体重変化を示すグラフである。
図4】強毒性EV71(N772株)により攻撃したマウス(ワクチン接種(-)または(+))の中和抗体価および生死を示す図である。
図5】強毒性EV71(N772株)により攻撃したマウス(ワクチン接種(-)または(+))の脊髄におけるウイルス力価(TCID50)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。
【0026】
本発明は、第一の実施形態によれば、強毒性の手足口病病因ウイルスを安定的に増殖させるための宿主細胞であって、前記宿主細胞が、ヘパラン硫酸を発現しておらず、かつ、霊長類のスカベンジャー受容体クラスBメンバー2(SCARB2)を過剰発現している、宿主細胞である。
【0027】
「手足口病病因ウイルス」とは、エンテロウイルスのうち、ヒトに感染し、手足口病を引き起こすものを意味する。また、本実施形態における「強毒性の手足口病病因ウイルス」とは、手足口病病因ウイルスのうち、神経病原性を有し、致死的感染を起こすものをいう。
【0028】
エンテロウイルスは、ピコルナウイルス科(family Picornaviridae)エンテロウイルス属(genus Enterovirus)に分類されるウイルスであり、エンベロープを持たず、VP1~VP4の4種類のタンパク質から構成された正十二面体のカプシドの中に一本鎖プラス鎖RNAを含む。エンテロウイルス属には、ポリオウイルス、コクサッキーA群ウイルス(CAV)、コクサッキーB群ウイルス(CBV)、エコーウイルス、エンテロウイルスが含まれる。このうち、ヒトに感染するエンテロウイルスは、分子系統解析に基づき、4つの種(species):ヒトエンテロウイルスA群(HEV-A)、ヒトエンテロウイルスB群(HEV-B)、ヒトエンテロウイルスC群(HEV-C)、およびヒトエンテロウイルスD群(HEV-D)に分類され、さらに、抗体による中和反応性の違いから、多くの血清型に分類される。
【0029】
本実施形態における手足口病病因ウイルスには、強毒性のものであれば、任意の血清型のエンテロウイルスを用いることができる。手足口病病因ウイルスの毒性の重篤化を決定する遺伝子変異は、現時点では十分には特定されていない。しかし、本発明は、EV71感染患者から単離されたEV71では、ほとんどの場合において、VP1カプシドタンパク質の第145番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)(VP1-145E)であるのに対し、培養細胞で継代を重ねたEV71では同アミノ酸がグリシン(G)(VP1-145G)またはグルタミン(Q)(VP1-145Q)であり、これらのEV71は弱毒性であるという発見に一部基づいている。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、VP1カプシドタンパク質の第145番目のアミノ酸の上記変異がウイルス粒子表面の電荷分布を変化させ、その結果、EV71のヘパラン硫酸への結合親和性が変化することがEV71の毒性変化をもたらすと推測される。したがって、VP1-145Eと同様にヘパラン硫酸に対する結合親和性を示さず、SCARB2を介して感染する手足口病病因ウイルスであれば、VP1-145Eと同様に強毒性である可能性が高い。ここで、「感染」とは、ウイルス粒子が宿主細胞の表面に結合し、宿主細胞内に取り込まれ、脱殻され、子孫ウイルスが増殖するまでの一連の過程を意味する。
【0030】
すなわち、本実施形態における強毒性の手足口病病因ウイルスは、好ましくは、HEV-Aに分類されるウイルスであり、特に好ましくは、エンテロウイルス71(EV71)、コクサッキーウイルスA16(CVA16)、コクサッキーウイルスA14(CVA14)またはコクサッキーウイルスA7(CVA7)であり、最も好ましくは、EV71である。
【0031】
エンテロウイルス71(EV71)は、VP1遺伝子の分子系統解析に基づき、A、B1~B5、およびC1~C5の遺伝子型(subgenogroup)にさらに分類される。本実施形態におけるEV71は、いずれの遺伝子型のEV71であってよく、例えば、以下に限定されないが、Y90-3896株(C1型)、Isehara株(C2型)、N772-Sendai.H-06株(C4型)、2716-Yamagata-03株(B5型)などが挙げられる。なお、EV71感染患者から単離された上記株はいずれもVP1-145Eである。各遺伝子型のEV71の塩基配列情報は、所定のデータベースから入手することができる。
【0032】
また、本実施形態における強毒性の手足口病病因ウイルスは、ヒトSCARB2を発現するエンテロウイルス感染モデルマウス(Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A., Vol. 110, No. 36, pp. 14753-14758)における50%致死量(LD50)により定義することができる。本実施形態における強毒性の手足口病病因ウイルスは、上記LD50が、好ましくは10 TCID50以下であり、特に好ましくは10 TCID50以下である。
【0033】
本実施形態における「宿主細胞」とは、手足口病病因ウイルスが感染する標的細胞をいう。「感染」とは、上で定義した通りである。本実施形態における宿主細胞は、ウイルスの増殖のために一般的に用いられる任意の哺乳動物細胞を用いて調製することができる。本実施形態における宿主細胞を調製するために用いることができる細胞には、例えば、RD細胞、Vero細胞、HeLa細胞、MDCK細胞、COS-7細胞、HEK293T細胞、BHK細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。本実施形態における宿主細胞を調製するために用いることができる細胞は、好ましくは、RD細胞である。
【0034】
本実施形態における宿主細胞は、ヘパラン硫酸を発現していない。「ヘパラン硫酸」とは、グルコサミンおよびウロン酸を構成成分とする糖鎖であり、コアタンパク質に結合したプロテオグリカンの形態で、細胞表面や細胞外マトリックスに広く存在している。また、「発現していない」とは、通常行われる検出手段(例えば免疫化学的手法など)によって、ヘパラン硫酸を検出することができない程度に、その産生量が欠損または低下していることを意味する。
【0035】
本実施形態における宿主細胞は、ヘパラン硫酸の生合成に関与する酵素が変異により不活性化されている、または、当該酵素をコードする遺伝子が発現されないことにより、ヘパラン硫酸を発現しない。本実施形態における宿主細胞は、好ましくは、ヘパラン硫酸の生合成に関与する酵素をコードする遺伝子を発現しないことにより、ヘパラン硫酸を発現しない。ヘパラン硫酸の生合成には、EXT遺伝子ファミリーが関与することが知られており、このファミリーには、EXT1、EXT2、EXTL1、EXTL2およびEXTL3が含まれる。EXT1およびEXT2はそれぞれ、α1,4-GlcNAc転移酵素およびβ1,4-GlcA転移酵素の両活性を有する酵素をコードし、EXTL1、EXTL2およびEXTL3もまた、それぞれGlcNAc転移酵素をコードする。すなわち、本実施形態における宿主細胞は、好ましくは、EXT1、EXT2、EXTL1、EXTL2および/またはEXTL3を発現しておらず、特に好ましくは、EXT1およびEXT2のいずれか一方または両方を発現していない。
【0036】
ヘパラン硫酸の生合成に関与する遺伝子の発現は、当分野において周知の方法により消失させることができる。例えば、CRISPR/Cas9などを用いたゲノム編集技術により、遺伝子自体を破壊(ノックアウト)してもよいし、siRNAなどを用いた遺伝子サイレンシングにより、遺伝子の発現を抑制(ノックダウン)してもよい。また、ヘパラン硫酸の生合成に関与する上記遺伝子はすでにクローニングされており、その塩基配列情報は、所定のデータベースから入手することができる。例えば、ヒトEXT1については、Genbankアクセッション番号NM_000127、ヒトEXT2については、Genbankアクセッション番号NM_000401、NM_207122、NM_1178083が利用可能である。
【0037】
本実施形態における宿主細胞は、さらに、霊長類のスカベンジャー受容体クラスBメンバー2(SCARB2)を過剰発現している。「スカベンジャー受容体クラスBメンバー2(SCARB2)」(以下、単に「SCARB2」と記載する)とは、2つの膜貫通領域を有する細胞表面受容体タンパク質であり、HEV-Aに分類される一部のウイルスの感染に必須の分子である。また、SCARB2を「過剰発現している」とは、SCARB2をコードする外来遺伝子を導入していない宿主細胞が本来発現する量を超えて、SCARB2を発現している状態をいう。
【0038】
本実施形態において、SCARB2は、SCARB2をコードする外来遺伝子を宿主細胞に導入することにより過剰発現させることができる。本実施形態において使用できるSCARB2をコードする遺伝子は、任意の霊長類由来のものであってよいが、好ましくはヒト由来である。SCARB2をコードする遺伝子はすでにクローニングされており、その塩基配列情報は、所定のデータベースから入手することができる。例えば、ヒトSCARB2については、Genbankアクセッション番号BC021892.1が利用可能である。
【0039】
SCARB2をコードする外来遺伝子の宿主細胞への導入は、当分野において周知の方法により行うことができる。例えば、SCARB2をコードする外来遺伝子を組み込んだ発現ベクターにより宿主細胞を形質転換することによって、SCARB2をコードする外来遺伝子を宿主細胞へと導入することができる。発現ベクターとしては、例えば、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)などのプラスミドや、レトロウイルスベクターなどを用いることができる。形質転換は、リン酸カルシウム共沈殿法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などの周知の方法により行うことができる。
【0040】
本実施形態の宿主細胞は、強毒性の手足口病病因ウイルスを安定的に増殖させるために有用である。ここで、「安定的」とは、増殖させて得られたウイルス株において、増殖させる前の種ウイルスが有していた毒性が維持されていることを意味する。手足口病病因ウイルスは、他のRNAウイルスと同様、増殖における変異頻度が極めて高い。そのため、当分野で一般的に用いられている宿主細胞に手足口病病因ウイルスを感染させた場合には、培養日数や継代回数を重ねるにしたがって、変異により弱毒性の手足口病病因ウイルスが生じ、それが宿主細胞に優位に感染を繰り返すことにより、手足口病病因ウイルス株が弱毒化してしまう。これに対し、本実施形態における宿主細胞では、変異により生じた弱毒性の手足口病病因ウイルスの選択的な感染が最小限に抑えられているため、増殖させる前と同様の毒性を維持した強毒性の手足口病病因ウイルス株を得ることができる。
【0041】
本発明は、第二の実施形態によれば、(1)強毒性の手足口病病因ウイルスを産生する細胞を得るために、上記記載の宿主細胞に、強毒性の手足口病病因ウイルスのゲノムRNAを導入するステップと、(2)強毒性の手足口病病因ウイルスを増殖させるために、前記ステップ(1)により得られた細胞を培養するステップと、(3)前記ステップ(2)により増殖させた強毒性の手足口病病因ウイルスを回収するステップとを含む、強毒性の手足口病病因ウイルスを安定的に生産する方法である。
【0042】
本実施形態における「宿主細胞」、「強毒性の手足口病病因ウイルス」および「安定的」は、第一の実施形態において定義したものと同様である。
【0043】
本実施形態の方法では、第一の実施形態における宿主細胞に強毒性の手足口病病因ウイルスのゲノムRNAを導入することにより、強毒性の手足口病病因ウイルスを産生する細胞(以下、単に「ウイルス産生細胞」と表記する)を調製する。強毒性の手足口病病因ウイルスのゲノムRNAの宿主細胞への導入は、強毒性の手足口病病因ウイルスを感染させることにより行ってもよいし、強毒性の手足口病病因ウイルスのゲノムRNAを調製してトランスフェクションすることにより行ってもよい。
【0044】
強毒性の手足口病病因ウイルスの宿主細胞への感染は、従来公知の条件にしたがって行うことができる。例えば、宿主細胞を10~10/cmの濃度で播種した後、強毒性の手足口病病因ウイルスをMOI=0.01~10で添加することにより感染させることができる。宿主細胞に感染させるための強毒性の手足口病病因ウイルスは、中枢神経疾患を発症した手足口病病因ウイルス感染動物や、手足口病患者の咽頭拭い液、直腸拭い液、便などから分離することができ、または、国立感染症研究所もしくは日本全国の地方衛生研究所から入手することができる。
【0045】
強毒性の手足口病病因ウイルスのゲノムRNAの調製は、強毒性の手足口病病因ウイルスのcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写することにより行うことができる。また、強毒性の手足口病病因ウイルスのゲノムRNAの宿主細胞へのトランスフェクションは、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法などの周知の方法により行うことができる。強毒性の手足口病病因ウイルスのcDNAは、上記と同様に分離または入手した強毒性の手足口病病因ウイルスから、公知の方法により調製することができる。
【0046】
次いで、上記により得られたウイルス産生細胞を培養し、強毒性の手足口病病因ウイルスを増殖させる。ウイルス産生細胞の培養条件は、従来公知の条件にしたがって行うことができる。例えば、3~7日間程度、細胞変性効果(CPE)が観察されるまでウイルス産生細胞を培養することができる。CPEとは、増殖したウイルスが細胞内に蓄積することによって起こるウイルス産生細胞の形態変化であり、光学顕微鏡で観察することにより容易に確認することができる。
【0047】
次いで、増殖させた強毒性の手足口病病因ウイルスを回収する。増殖した強毒性の手足口病病因ウイルスは、培養液中に放出または産生細胞の内部に蓄積されており、従来公知の方法により回収することができる。例えば、ウイルス産生細胞を含む培養液について超音波破砕または凍結融解の繰り返し処理を行い、ウイルス産生細胞を破壊した後、遠心分離により細胞残渣を除去することにより、増殖した強毒性の手足口病病因ウイルスを回収することができる。必要に応じて、ポリエチレングリコール沈殿や密度勾配超遠心などにより、回収された強毒性の手足口病病因ウイルスをさらに精製してもよい。
【0048】
本実施形態の方法は、強毒性の手足口病病因ウイルスを安定的に増殖させることができる宿主細胞を用いることにより、弱毒性の手足口病病因ウイルスの増殖を最小限に抑え、強毒性の手足口病病因ウイルスを容易かつ安定的に生産することができる。そのため、本実施形態の方法によれば、強毒性の手足口病病因ウイルス株を容易に調製することが可能となる。
【0049】
すなわち、本発明は、第三の実施形態によれば、上記方法により調製された、強毒性の手足口病病因ウイルス株である。
【0050】
本実施形態において、「強毒性の手足口病病因ウイルス株」とは、複数の手足口病病因ウイルス粒子の集まりであって、集まり全体として強毒性を示すものをいう。本実施形態における「強毒性」とは、第一の実施形態において定義したものと同様である。本実施形態における強毒性の手足口病病因ウイルス株は、単一の血清型または遺伝子型の強毒性の手足口病病因ウイルスから実質的に構成されてもよいし、複数の血清型または遺伝子型の強毒性の手足口病病因ウイルスから実質的に構成されてもよい。ここで、「実質的に構成される」とは、変異により弱毒化した手足口病病因ウイルスの混入が、調製された手足口病病因ウイルス株の神経病原性に影響しない程度であることを意味する。本実施形態における強毒性の手足口病病因ウイルス株は、EV71のVP1-145E変異株、またはそれと同様のSCARB2に対する結合親和性を有し、SCARB2を介して感染するEV71、CVA16、CVA14もしくはCVA7の変異株から実質的に構成されることが好ましい。
【0051】
本実施形態における強毒性の手足口病病因ウイルス株は、神経病原性を有し、致死的感染を起こすことができる。そのため、強毒性の手足口病病因ウイルス株のワクチンや抗ウイルス薬の開発のために有用である。
【0052】
本発明は、第四の実施形態によれば、(1)霊長類のスカベンジャー受容体クラスBメンバー2(SCARB2)を発現しているトランスジェニックマウスを準備するステップと、(2)前記トランスジェニックマウスに、候補ワクチンを接種するステップと、(3)前記ステップ(2)のトランスジェニックマウスを、上記記載の強毒性の手足口病病因ウイルス株で攻撃するステップと、(4)前記ステップ(3)のトランスジェニックマウスを解析するステップとを含む、抗手足口病病因ウイルスワクチンのスクリーニング方法である。
【0053】
本実施形態における「SCARB2」および「強毒性の手足口病病因ウイルス」は、第一の実施形態において定義したものと、「強毒性の手足口病病因ウイルス株」は、第三の実施形態において定義したものと、それぞれ同様である。
【0054】
本実施形態の方法では、霊長類のSCARB2を発現しているトランスジェニックマウスを使用する。本実施形態におけるトランスジェニックマウスは、当分野において周知の方法により作製することができる。例えば、マウスの受精卵に、霊長類のSCARB2をコードする遺伝子を適切なプロモーター配列の下流に配置した発現ベクターをマイクロインジェクションなどにより導入することにより、霊長類のSCARB2を発現しているトランスジェニックマウスを作製することができる。本実施形態におけるトランスジェニックマウスは、転写調節領域を含めた完全長の霊長類のSCARB2遺伝子座をクローニングしたBACなどの人工染色体を導入して作製されることが好ましい。本実施形態において使用できるSCARB2をコードする遺伝子は、任意の霊長類の由来のものであってよいが、好ましくはヒト由来である。霊長類のSCARB2をコードする遺伝子の塩基配列情報は、第一の実施形態において記載したとおり、所定のデータベースから入手することができる。
【0055】
また、霊長類のSCARB2を発現しているトランスジェニックマウスとして、すでに存在する系統を用いてもよく、例えば、ヒトSCARB2を発現しているトランスジェニックマウスであるhSCARB2-Tg10(Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A., Vol. 110, No. 36, pp. 14753-14758)などを用いることができる。
【0056】
本実施形態において使用するトランスジェニックマウスは、免疫応答が確立した成体マウスであることが好ましい。4週齢未満の仔マウスでは、免疫応答が発達途上であるため、ワクチンの効果を十分に評価できない場合がある。したがって、本実施形態において使用するトランスジェニックマウスは、好ましくは4週齢以上であり、特に好ましくは4~12週齢である。
【0057】
次いで、上記トランスジェニックマウスに候補ワクチンを接種する。候補ワクチンには、開発段階のワクチンの他、出荷前に品質管理のために検定される製品化されたワクチンが含まれる。候補ワクチンには、例えば、不活化ワクチン、ウイルス様中空粒子ワクチン、生(弱毒化)ワクチン、ペプチドワクチン、DNAワクチンなどが挙げられる。候補ワクチンの接種量は、候補ワクチンの種類により異なるが、例えば、0.01~10μg/体重kgの範囲で適宜選択することができる。
【0058】
また、本実施形態において、候補ワクチンは、アジュバントと混合して投与されてもよい。アジュバントとは、宿主動物の免疫応答を非特異的に増強する物質であり、種々のアジュバントが当技術分野で公知である。本実施形態において使用できるアジュバントとしては、以下に限定されないが、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、ミョウバン、ペペス、カルボキシビニルポリマーなどが挙げられる。
【0059】
本実施形態において、候補ワクチンの接種は、単回または複数回繰り返して行うことができるが、複数回繰り返して行うことが好ましい。候補ワクチンを複数回繰り返して接種する場合には、2~4週間の間隔で接種を繰り返すことが好ましい。候補ワクチンの投与経路は、特に限定されないが、例えば、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与などが挙げられる。
【0060】
次いで、候補ワクチンを接種した上記トランスジェニックマウスを、上記強毒性の手足口病病因ウイルス株で攻撃する。攻撃は、候補ワクチンを投与していない上記トランスジェニックマウスに投与した場合に90%以上のマウスが死亡する量の強毒性の手足口病病因ウイルス株を投与することにより行うことができる。すなわち、本実施形態における強毒性の手足口病病因ウイルス株の攻撃投与量は、候補ワクチンを投与していない上記トランスジェニックマウスにおけるLD50の10~100倍量であることが好ましい。本実施形態における強毒性の手足口病病因ウイルス株の投与経路は、特に限定されないが、例えば、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与などが挙げられる。
【0061】
本実施形態における強毒性の手足口病病因ウイルス株による攻撃は、上記候補ワクチンの接種の1~20週間後に行うことが好ましい。また、攻撃の時期を決定するために、候補ワクチンを接種した上記トランスジェニックマウスから血清を採取し、血清中の抗体価を予め確認してもよい。
【0062】
次いで、上記攻撃後のトランスジェニックマウスを解析することにより、候補ワクチンの有効性を評価する。トランスジェニックマウスの解析は、当分野において周知の方法により、例えば、生死状態や麻痺症状の有無などについて観察することにより行うことができる。
【0063】
本実施形態のスクリーニング方法において、候補ワクチンの投与により、候補ワクチンを投与しなかったトランスジェニックマウスと比較して、死亡率および麻痺症状が有意に減少した場合には、当該候補ワクチンは、抗手足口病病因ウイルスワクチンとして有望であると評価することができる。一方、候補ワクチンの投与により、候補ワクチンを投与しなかったトランスジェニックマウスと比較して、死亡率および麻痺症状に変化が見られないまたは増加した場合には、当該候補ワクチンは、抗手足口病病因ウイルスワクチンとして有望または有効ではないと評価することができる。
【0064】
本発明は、第五の実施形態によれば、(1)霊長類のスカベンジャー受容体クラスBメンバー2(SCARB2)を発現しているトランスジェニックマウスを準備するステップと、(2)前記トランスジェニックマウスを、上記記載の強毒性の手足口病病因ウイルス株に感染させるステップと、(3)前記ステップ(2)のトランスジェニックマウスに、抗手足口病病因ウイルス薬の候補化合物を投与するステップと、(4)前記ステップ(3)のトランスジェニックマウスを解析するステップとを含む、抗手足口病病因ウイルス薬のスクリーニング方法である。
【0065】
本実施形態における「SCARB2」、「強毒性の手足口病病因ウイルス」および「感染」は、第一の実施形態において定義したものと、「強毒性の手足口病病因ウイルス株」は、第三の実施形態において定義したものと、それぞれ同様である。
【0066】
本実施形態の方法では、霊長類のSCARB2を発現しているトランスジェニックマウスを使用する。本実施形態におけるトランスジェニックマウスは、第四の実施形態におけるものと同様である。本実施形態において使用するトランスジェニックマウスは、好ましくは4週齢以上であり、特に好ましくは4~12週齢である。
【0067】
次いで、上記トランスジェニックマウスに強毒性の手足口病病因ウイルス株を投与し、感染させる。強毒性の手足口病病因ウイルス株の投与量は、当該トランスジェニックマウスにおけるLD50の10~100倍量であることが好ましい。本実施形態における強毒性の手足口病病因ウイルス株の投与経路は、特に限定されないが、例えば、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与などが挙げられる。
【0068】
次いで、強毒性の手足口病病因ウイルスに感染させた上記トランスジェニックマウスに、抗手足口病病因ウイルス薬の候補化合物を投与する。候補化合物には、合成化合物、ペプチド性化合物、核酸、抗体などが挙げられ、これらの候補化合物は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。投与される候補化合物の濃度は、化合物の種類により異なるが、例えば、1nM~10μMの範囲で適宜選択することができる。また、候補化合物の投与は、例えば1日間~2週間にわたって行うことができる。候補化合物の投与経路は、特に限定されないが、例えば、経口投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与などが挙げられる。
【0069】
次いで、候補化合物を投与された上記トランスジェニックマウスを解析し、候補化合物の抗手足口病病因ウイルス薬としての有効性を評価する。トランスジェニックマウスの解析は、第四の実施形態におけるものと同様に、当分野において周知の方法により行うことができる。
【0070】
本実施形態のスクリーニング方法において、候補化合物の投与により、候補化合物を投与しなかったトランスジェニックマウスと比較して、死亡率および麻痺症状が有意に減少した場合には、当該候補化合物は、抗手足口病病因ウイルス薬として有望であると評価することができる。一方、候補化合物の投与により、候補化合物を投与しなかったトランスジェニックマウスと比較して、死亡率および麻痺症状に変化が見られないまたは増加した場合には、当該候補化合物は、抗手足口病病因ウイルス薬として有望ではないと評価することができる。
【実施例
【0071】
以下に実施例を挙げ、本発明についてさらに説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0072】
<1.ヘパラン硫酸(HS)欠失細胞の作製>
CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集により、ヘパラン硫酸(HS)を発現しないRD細胞を作製した。EXT1遺伝子(Genbankアクセッション番号NM_000127)およびEXT2遺伝子(Genbankアクセッション番号NM_000401、NM_207122、NM_1178083)のそれぞれを標的とするガイドRNA(sgRNA)の配列を設計し、sgRNAをコードする以下のDNA断片をpSpCas9(BB)-2A-GFPプラスミド(addgene社製)のBbsI切断部位に挿入した。
【0073】
(i)EXT1-sgRNAのためのDNA配列
【化1】
【0074】
(ii)EXT2-sgRNAのためのDNA配列
【化2】
【0075】
得られたプラスミドをRD細胞にトランスフェクションし、3日間培養した。その後、細胞をFACSAria(ベクトン・ディッキンソン社製)に供し、GFP陽性細胞を分取した。分取した細胞について限界希釈法によるクローニングを実施し、単一クローンを得た。
【0076】
得られた単一クローンについて、細胞表面におけるHSの発現量を以下の手順により解析した。細胞をトリプシンで剥がして回収し、2%ウシ胎児血清含有PBSに懸濁した。2×10細胞を分取し、一次抗体としてマウス抗HSモノクローナル抗体F58-10E4(amsbio社製)(1:50希釈)またはアイソタイプ・コントロール抗体マウスIgM MM-30(Biolegend社製)(1:50希釈)、二次抗体としてCy3標識抗マウスIgM抗体(Jackson ImmunoResearch社製)(1:200希釈)を用い、それぞれ30分、氷上で反応させた。その後、反応溶液から未反応の抗体を遠心分離により除去し、解析用サンプルとした。解析用サンプルをBD LSRFortessa X-20(ベクトン・ディッキンソン社製)に供することにより、細胞表面のCy3結合量を解析した。また、得られた単一クローンに代えて野生型RD細胞を用いた以外は同様の手順により調製したサンプルを陰性対照とした。
【0077】
結果を図1に示す。野生型RD細胞では、アイソタイプ・コントロール抗体と反応させた対照サンプルの蛍光強度ピークに比べ、抗HS抗体と反応させたサンプルの蛍光強度ピークが顕著にシフトしており、HSが大量に発現していることが確認された(図1左)。一方、EXT1遺伝子をノックアウトしたRD細胞クローン(RD-ΔEXT1)およびEXT2遺伝子をノックアウトしたRD細胞クローン(RD-ΔEXT2)では、抗HS抗体と反応させたサンプルの蛍光強度ピークは、アイソタイプ・コントロール抗体と反応させた対照サンプルの蛍光強度ピークとほぼ重なっており、HSが実質的に発現していないことが確認された(図1中央、右)。
【0078】
<2.HS欠失/SCARB2過剰発現細胞の作製>
上記1で得られたRD-ΔEXT1およびRD-ΔEXT2について、以下の手順によりヒトSCARB2遺伝子(Genbankアクセッション番号NM_001204255、NM_005506)を導入し、ヒトSCARB2を過剰発現するHS欠失RD細胞(RD-ΔEXT1-SCARB2およびRD-ΔEXT2-SCARB2)を作製した。ヒトSCARB2遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクター(pQCXIP-hSCARB2)とpVSV-Gを、GP2-293パッケージング細胞にトランスフェクションし、2日後に上清を回収し、ヒトSCARB2発現レトロウイルスを得た。得られたレトロウイルスをRD-ΔEXT1およびRD-ΔEXT2に感染させた後、1μg/mlのピューロマイシン存在下で選択培養し、RD-ΔEXT1-SCARB2およびRD-ΔEXT2-SCARB2を得た。また、同様の手順により、野生型RD細胞にSCARB2遺伝子を過剰発現させた細胞(RD-SCARB2)を作製した。
【0079】
<3.HS欠失/SCARB2過剰発現細胞を用いたEV71の増殖>
最初に、以下の手順により、継代回数P0のEV71を調製した。EV71 Isehara株(国立感染症研究所より入手)からゲノムRNAを抽出し、SuperScript(登録商標)III逆転写酵素(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、cDNAを調製した。以下のプライマーセットを用いたPCRにより、全長ゲノムRNAに対するcDNA(配列番号7)を増幅した。
【0080】
5’プライマー(NotI切断配列+T7プロモーター配列+ウイルスゲノム5’末端の20塩基)
【化3】
【0081】
3’ プライマー(SalI切断配列+poly(A)配列(25塩基)+ウイルスゲノム3’末端の10塩基)
【化4】
【0082】
表1.EV71 Isehara株 全長cDNA配列(配列番号7)
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【0083】
得られた全長cDNAを、pSAV14ベクターのNotI/SalI切断部位に挿入してクローニングした。これを鋳型とし、MEGAscript(登録商標)T7 kit(Ambion社製)を用いてインビトロ転写を行い、全長ゲノムRNAを得た。4μgの全長ゲノムRNAを、Lipofectamine(登録商標)2000を用いて2×10のRD-SCARB2細胞にトランスフェクションし、翌日または翌々日に、90%以上の細胞について細胞変性効果(CPE)が観察された時点で細胞を回収した。回収された細胞を3回凍結融解し、さらに超音波破砕機に供することにより細胞を完全に破砕し、ウイルスを遊離させた。その後、遠心分離により細胞残渣を除去し、上清をウイルス液として回収した。
【0084】
回収したウイルスをMOI=0.01でRD-SCARB2細胞(1×10)に感染させ、5日間にわたり細胞変性効果(CPE)を観察し、顕著なCPEが観察されたら細胞を回収した。上記と同様の手順により、増殖したウイルスを回収した。これを継代回数P0のEV71とした。上記と同様の手順により継代回数P0のEV71をRD-SCARB2細胞に感染させ、継代回数P1のEV71を得た。継代回数P1のEV71を用いて同様の手順を繰り返し、継代回数P2のEV71(RD-SCARB2(P2))を得た。その後、RD-SCARB2細胞に代えて、上記1および2で得られた各細胞を用いて、RD-SCARB2(P2)をさらに同様の手順により連続継代し、継代回数P3~P5までのEV71を得た。
【0085】
得られた継代回数P2~P5のEV71のカプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列を以下の手順により解析した。継代回数P0~P3のEV71からRNAを抽出し、逆転写によりcDNAを合成した。以下の配列のプライマーを用いて、VP1遺伝子(Genbankアクセッション番号AB177816)の部分領域(PV1の第58~297番目のアミノ酸に対応)を増幅した。増幅されたDNA断片の塩基配列をシークエンシングにより解析した。
【0086】
【化5】
【0087】
結果を表2に示す。野生型RD細胞により継代したEV71は、VP1の第145番目のグルタミン酸(E)が、1回の継代でグルタミン(Q)に変異していた。これに対し、RD-ΔEXT1-SCARB2およびRD-ΔEXT2-SCARB2により継代したEV71は、3回の継代を繰り返しても、VP1の第145番目のグルタミン酸が変異せずに維持されていることが確認された。この結果から、HSを発現しておらず、かつ、SCARB2を過剰発現している宿主細胞を用いることにより、VP1の第145番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)である強毒性EV71を安定的に増殖させることができることが示された。
【0088】
表2.VP1の第145番目のアミノ酸
【表2】
【0089】
<4.継代増殖によるEV71の毒性変化(1)>
2716-Yamagata-03株(山形県衛生研究所より入手)をRD-SCARB2細胞で1代継代増殖したものを継代回数P0のEV71とした以外は、上記3と同様の手順により、上記1および2で得られた各細胞を用いて連続継代することにより継代回数P1~P3のEV71を調製し、それらの病原性を以下の手順により解析した。ヒトSCARB2発現トランスジェニックマウスとしてhSCARB2-Tg10(Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A., Vol. 110, No. 36, pp. 14753-14758)を用いた。10TCID50/mlの上記各種EV71を0.5ml、6~7週齢のhSCARB2-Tg10(各10匹)に腹腔内投与した。投与後、2週間にわたり毎日、生死状態、麻痺症状、および体重変化を観察した。麻痺率は、2日以上にわたり四肢のいずれかに完全あるいは不完全麻痺の症状が確認されたマウスの割合を示す。体重変化率は、投与前の体重を100%として算出した。
【0090】
結果を表3~5に示す。RD-ΔEXT1-SCARB2およびRD-ΔEXT2-SCARB2により継代したEV71は、3回の継代を繰り返しても、P0と同等またはそれ以上の病原性を維持していることが示された。この結果から、HSを発現しておらず、かつ、SCARB2を過剰発現している宿主細胞を用いることにより、強毒性EV71を安定的に増殖させることができることが示された。
【0091】
表3.EV71投与から2週間後における麻痺率(%)
【表3】
【0092】
表4.EV71投与から2週間後における致死率(%)
【表4】
【0093】
表5.EV71投与から6日後における体重変化(%)
【表5】
【0094】
以上の結果から想定されるEV71の弱毒化メカニズムを図2に示す。VP1カプシドタンパク質の第145番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)である強毒性EV71(VP1-145E)と、同アミノ酸がグリシン(G)またはグルタミン(Q)である弱毒性EV71(VP1-145GまたはVP1-145Q)は、いずれもSCARB2を介して宿主細胞に感染する(黒矢印)。しかし、細胞表面にHSが発現している場合には、弱毒性EV71はHSに引き寄せられて細胞表面に接近し、強毒性EV71よりもSCARB2を介して宿主細胞に感染しやすくなり、さらに、HSに結合して細胞内に取り込まれた弱毒性EV71も、SCARB2を介した感染経路に合流して増殖する(白矢印)。その結果、弱毒性EV71が優位に増殖し、継代を重ねるにつれてEV71の弱毒化が起こるものと考えられる。
【0095】
<5.継代増殖によるEV71の毒性変化(2)>
宿主細胞として、RD-SCARB2に代えてRD-ΔEXT1-SCARB2を用いた以外は、上記3と同様の手順により、全長ゲノムRNAを細胞にトランスフェクションし、増殖したウイルスを回収した。回収したウイルスを1代継代増殖して得られたウイルス(RD-ΔEXT1-SCARB2(P1))と、上記3でRD-SCARB2を用いて調製した継代回数P0のEV71(RD-SCARB2(P2))を、それぞれ10週齢のhSCARB2-Tg10(各10匹)に静脈内投与し、投与2週間後における生存率を比較した。
【0096】
結果を表6に示す。RD-SCARB2(P2)に比べ、RD-ΔEXT1-SCARB2(P1)は、1000倍以上高い毒性を有していることが示された。
【0097】
表6.RD-SCARB2(P2)とRD-ΔEXT1-SCARB2(P1)の毒性比較
【表6】
【0098】
<6.強毒性EV71を用いたワクチン検定(1)>
SK-EV006(VP1-145G)株(国立感染症研究所より入手)をEV71の生ワクチンとして、ホルマリン固定した同株を不活化ワクチンとして用い、それぞれ以下の手順によりhSCARB2-Tg10トランスジェニックマウスを免疫した。
【0099】
(生ワクチンによる免疫)
4週齢のhSCARB2-Tg10トランスジェニックマウスに、10TCID50のSK-EV006(VP-145G)株を腹腔内投与した(初回免疫)。その後、8週齢時にも同様の投与を行った(追加免疫)。対照群には、PBSを投与した。
【0100】
(不活化ワクチンによる免疫)
100μlのホルマリン固定SK-EV006(VP-145G)を、等量のAlhydrogel(登録商標)(Invivogen社製)と混合し、不活化ワクチン調製物とした。0.3μgの不活化ワクチン調製物を、4週齢のhSCARB2-Tg10トランスジェニックマウスに皮下投与した(初回免疫)。その後、8週齢時にも同様の投与を行った(追加免疫)。対照群には、同量のAlhydrogel/PBSを投与した。
【0101】
各マウスの10週齢時に採血し、血清を得た。血清の中和抗体価を、標準的なプラーク減少中和試験(PRNT)により評価した。要すれば、得られた血清を段階希釈し、攻撃ウイルス(500pfu)と混合後、RD細胞およびSK-EV006(VP-145G)株を用いてプラークアッセイを行い、プラーク数の80%減少を達成した血清の最大希釈の逆数を中和抗体価として記録した。
【0102】
上記採血の翌日に、攻撃ウイルスを各マウスに静脈内投与した。攻撃ウイルスには、Isehara株(上記3で調製したRD-SCARB2(P2))を使用した。攻撃ウイルスの投与量は、上記攻撃ウイルスを10週齢マウスに感染させて予め決定したLD50の10~100倍量とした。攻撃後、2週間にわたり毎日、生死状態および麻痺症状を観察した。麻痺率は、上記5に記載したのと同様に算出した。
【0103】
結果を表7および8に示す。生ワクチンと不活化ワクチンのいずれを投与した場合にも、中和抗体価の上昇、死亡率および麻痺率の顕著な低下が認められ、強毒性EV71による攻撃が防御されたことが示された。この結果から、hSCARB2-Tg10の成体マウスを用いた抗EV71ワクチンのスクリーニングが可能であることが確認された。
【0104】
表7.生ワクチンによる防御効果(攻撃:Isehara RD-SCARB2(P2) 10TCID50
【表7】
【0105】
表8.不活化ワクチンによる防御効果(攻撃:Isehara RD-SCARB2(P2) 10TCID50
【表8】
【0106】
<7.強毒性EV71を用いたワクチン検定(2)>
上記6と同様にして、不活化ワクチンによりhSCARB2-Tg10トランスジェニックマウスを免疫した。各マウスの21週齢時に採血した以外は、上記6と同様の手順によりプラークアッセイを行った。上記採血の翌日に、攻撃ウイルスとして、上記3で調製したRD-ΔEXT1-SCARB2(P1)(LD50=103.5)を用いた以外は、上記6と同様の手順により攻撃感染を行い、死亡率および麻痺率を算出した。
【0107】
結果を表9に示す。攻撃ウイルスとしてRD-ΔEXT1-SCARB2(P1)を用いた場合には、その高い毒性のために、RD-SCARB2(P2)よりも少量のウイルスにより十分な攻撃が可能であることが確認された。この結果から、HSを発現しておらず、かつ、SCARB2を過剰発現している宿主細胞で継代増殖させたEV71が、ワクチン検定のための攻撃ウイルスとして有用であることが示された。
【0108】
表9.不活化ワクチンによる防御効果(攻撃:Isehara RD-ΔEXT1-SCARB2(P1) 2×10TCID50
【表9】
【0109】
<8.強毒性EV71を用いたワクチン検定(3)>
上記Isehara株(C2型)に加え、遺伝子型の異なる強毒性EV71(Y90-3896株(C1型)(仙台医療センターウイルスセンターより入手)、N772株(C4型)(仙台医療センターウイルスセンターより入手)、C7/Osaka株(B4型)(国立感染症研究所より入手)、および2716-Yamagata-03株(B5型)(山形県衛生研究所より入手))を、ワクチン検定のための攻撃ウイルスとして調製した。上記の強毒性EV71の全長cDNA配列と、cDNAの増幅のために使用したプライマーセットを以下に示す。
【0110】
表10.Y90-3896株(C1型)(配列番号10)
【表10A】
【表10B】
【表10C】
【0111】
表11.N772株(C4型)(配列番号11)
【表11A】
【表11B】
【表11C】
【0112】
表12.C7/Osaka株(B4型)(配列番号12)
【表12A】
【表12B】
【表12C】
【0113】
表13.2716-Yamagata-03株(B5型)(配列番号13)
【表13A】
【表13B】
【表13C】
【0114】
表14.PCRに使用したプライマーセット(配列番号14~21)
【表14】
【0115】
RD-SCARB2に代えてRD-ΔEXT1-SCARB2を宿主細胞として用いた以外は、上記3と同様の手順により、継代回数P0のEV71を調製した。得られた継代回数P0のEV71を、RD-ΔEXT1-SCARB2細胞に感染させ、継代回数P1のEV71を得た。得られた継代回数P1のEV71を攻撃ウイルスとして用いた(接種量:1×10TCID50)以外は、上記6と同様の手順により、不活化ワクチンにより免疫されたhSCARB2-Tg10トランスジェニックマウスを攻撃し、死亡率および麻痺率を算出した。
【0116】
結果を表15に示す。RD-ΔEXT1-SCARB2細胞を用いて継代増殖させたEV71はいずれも高い毒性を有しており、攻撃ウイルスとして使用できるものであることが確認された。また、上記6で調製した不活化ワクチンは、Isehara株に対してだけでなく、遺伝子型の異なる種々の強毒性EV71株に対しても有効であることが示された。
【0117】
表15.強毒性EV71(RD-ΔEXT1-SCARB2(P1))による攻撃感染に対する不活化ワクチンの防御効果
【表15】
【0118】
<9.強毒性EV71を用いたワクチン検定(4)>
攻撃ウイルスとして上記8で調製したN772株(RD-ΔEXT1-SCARB2(P1)、10TCID50)を用いた以外は、上記6と同様の手順により、成体hSCARB2-Tg10マウスを免疫および攻撃し、血清の中和抗体価、体重変化、死亡率および麻痺率を算出し、不活化ワクチンの有効性を評価した。
【0119】
結果を図3および4、ならびに表16に示す。不活化ワクチンを接種しなかったhSCARB2-Tg10マウスは著しく体重が減少し、死亡率および麻痺率ともに100%であったが、不活化ワクチンの接種量の増加にしたがって、中和抗体価の上昇、死亡率および麻痺率の顕著な低下が認められ、強毒性EV71による攻撃が防御されたことが確認された。この結果から、成体hSCARB2-Tg10マウスと、HSを欠失し、かつ、SCARB2を過剰発現している宿主細胞において継代増殖させたEV71株とを用いることにより、抗EV71ワクチンの有効性を評価でき、抗EV71ワクチンのスクリーニングが可能であることが示された。
【0120】
表16.N772株(RD-ΔEXT1-SCARB2(P1))による攻撃感染に対する不活化ワクチンの防御効果
【表16】
【0121】
さらに、不活化ワクチンの接種による強毒性EV71の増殖抑制効果を、脊髄におけるEV71の力価を算出することにより評価した。上記6と同様の手順により、成体hSCARB2-Tg10マウスを不活化ワクチンにより免疫し、上記8で調製したN772株(RD-ΔEXT1-SCARB2(P1)、10TCID50)により攻撃した。攻撃1日後、2日後、3日後のマウス(各6匹)から脊髄を摘出し(~0.1g)、10倍量のDMEM(日水製薬株式会社製)を加えてホモジナイズした。得られたホモジネートを15000rpm、4℃で20分間遠心し、上清を回収した。上清のウイルス力価(TCID50)を、RD-SCARB2細胞を用いて測定した。
【0122】
結果を図5に示す。不活化ワクチンを接種しなかったhSCARB2-Tg10マウスの脊髄ではEV71が増殖していたのに対し、不活化ワクチンを接種したhSCARB2-Tg10マウスの脊髄では、EV71の増殖はほとんど見られなかった。この結果からも、成体hSCARB2-Tg10マウスと、HSを欠失し、かつ、SCARB2を過剰発現している宿主細胞において継代増殖させたEV71株とを用いることにより、抗EV71ワクチンの有効性を評価でき、抗EV71ワクチンのスクリーニングが可能であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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