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特許7085532カチオン型ルテニウム錯体及びその製造方法並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】カチオン型ルテニウム錯体及びその製造方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/50 20060101AFI20220609BHJP
   C07C 29/145 20060101ALI20220609BHJP
   C07C 29/149 20060101ALI20220609BHJP
   C07C 33/20 20060101ALI20220609BHJP
   C07C 33/22 20060101ALI20220609BHJP
   C07C 45/29 20060101ALI20220609BHJP
   C07C 49/78 20060101ALI20220609BHJP
   C07C 209/00 20060101ALI20220609BHJP
   C07C 211/48 20060101ALI20220609BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220609BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20220609BHJP
【FI】
C07F9/50 CSP
C07C29/145
C07C29/149
C07C33/20
C07C33/22
C07C45/29
C07C49/78
C07C209/00
C07C211/48
C07B61/00 300
C07F15/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019510222
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013542
(87)【国際公開番号】W WO2018181865
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2017069797
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100158872
【氏名又は名称】牛山 直子
(72)【発明者】
【氏名】小形 理
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-508722(JP,A)
【文献】Inorganic Chemistry,2012年,Vol. 51, No. 18,pp. 9730-9739
【文献】Organic Letters,2015年,Vol. 17, No. 3,pp. 454-457
【文献】Organic Process Research & Development,2012年,Vol. 16, No. 1,pp. 166-171
【文献】Gazzetta Chimica Italiana,1992年,Vol. 122, No. 11,pp. 461-470
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/50
C07C 29/145
C07C 29/149
C07C 33/20
C07C 33/22
C07C 45/29
C07C 49/78
C07C 209/00
C07C 211/48
C07B 61/00
C07F 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
[RuX(CO)(PNP)]Y (1)
(一般式(1)中、Xはヒドリドを表し、Yはカウンターアニオンを表す。PNPは下記一般式(2)
(一般式(2)中、R、R、R’及びR’は、各々独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基又はアミノ基を表す。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び複素環基は置換基を有していても良い。また、これらのRとR及びR’とR’は、各々独立して互いに結合し隣接するリン原子と共に環を形成していてもよい。Q及びQは、各々独立して置換基を有していてもよいアルカンジイル基、又は置換基を有していてもよいアラルキレン基を表す。)
で表される三座配位子を表し、COは一酸化炭素を表す。)
で表されるルテニウム錯体。
【請求項2】
PNPが下記一般式(3)
(一般式(3)中、R、R、R’及びR’は、前記一般式(2)における定義と同一の基を表す。R、R’、R、R’、R、R’、R10及びR10’は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基又はアミノ基を表す。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び複素環基は置換基を有していてもよい。また、これらのRとR又はR又はR10;R’とR’又はR’又はR10’;RとR又はR10;R’とR’又はR10’;RとR10又はR’又はR10’;R’とR10又はR10’;及びR10とR10’は、各々独立して互いに結合し隣接する炭素原子と共に環を形成していてもよい。)
で表される三座配位子であることを特徴とする、請求項に記載のルテニウム錯体。
【請求項3】
PNPが下記一般式(4)
(一般式(4)中、R、R、R’及びR’は、前記一般式(2)における定義と同一の基を表す。)
で表される三座配位子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のルテニウム錯体。
【請求項4】
、R、R’及びR’が各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基であることを特徴とする、請求項に記載のルテニウム錯体。
【請求項5】
下記一般式(5)
[RuX(PNP)] (5)
(一般式(5)中、X及びXは、各々独立して一価アニオン性単座配位子を表し、PNPは前記一般式(2)、(3)又は(4)で表される三座配位子を表し、qは1又は2の整数を表す。)
で表されるルテニウム錯体と一級アルコールを反応させることを特徴とする、請求項1~のいずれか一つに記載のルテニウム錯体の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(6)
RuX(CO)(PNP) (6)
(一般式(6)中、X3 は一価アニオン性単座配位子を表し、X 4 はヒドリドを表し、PNPは前記一般式(2)、(3)又は(4)で表される三座配位子を表し、COは一酸化炭素を表す。)で表されるルテニウム錯体と一級アルコール及び/又は一酸化炭素を反応させることを特徴とする、請求項1~のいずれか一つに記載のルテニウム錯体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一つに記載のルテニウム錯体を触媒として用いる、アルデヒド類又はケトン類の水素化還元によるアルコール類の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一つに記載のルテニウム錯体を触媒として用いる、アルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応によるN-アルキルアミン化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一つに記載のルテニウム錯体を含有してなることを特徴とする、アルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン型ルテニウム錯体及びその製造方法、並びにこの錯体を触媒としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、遷移金属と配位子から構成される種々の遷移金属錯体が、有機合成反応における触媒として様々な反応に用いられている。
【0003】
例えば、ケトン類及びエステル類等の水素化還元に用いられるルテニウム触媒として、ビス(ホスフィノアルキル)アミンを三座配位子として一つ有し、かつ一酸化炭素を単座配位子として一つ有するルテニウム錯体が報告されている(特許文献1参照)。また、このルテニウム錯体を触媒としたアルコール類の脱水素的酸化、アルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応も報告されている(特許文献2、3参照)。一方、ビス(ホスフィノアルキル)アミンを三座配位子として一つ有し、かつ一酸化炭素を単座配位子として二つ有するルテニウム錯体が報告されているが、このルテニウム錯体は触媒として用いられていない(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2011/048727号公報
【文献】WO2012/144650号公報
【文献】WO2014/136374号公報
【文献】Inorg. Chem. 2012, 51, 9730
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、安価に製造可能で取り扱いが容易なカチオン型ルテニウム錯体及びその製造方法、並びに該ルテニウム錯体を触媒として用いた、アルデヒド類又はケトン類の水素化還元によるアルコール類の製造方法;エステル類の水素化還元によるアルコール類、アルデヒド類又はヘミアセタール類の製造方法;アルコール類、ヘミアセタール類又はヘミアミナール類の酸化によるカルボニル化合物の製造方法;及びアルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応によるN-アルキルアミン化合物の製造方法を提供することにある。これらの反応ではコスト面や残留金属の問題及び安全面から工業的に実地する上で、より温和な反応条件下で、高い触媒活性を示す新規錯体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の事情に鑑み、鋭意検討を行った結果、ビス(ホスフィノアルキル)アミンを三座配位子として一つ有すること、及び一酸化炭素を単座配位子として二つ有することを特徴とするカチオン型ルテニウム錯体を見出した。本発明によって見出されたカチオン型ルテニウム錯体は安価に製造可能である上、空気中で安定な粉末であるために取扱いが容易であり、アルデヒド類、ケトン類及びエステル類の水素化還元、アルコール類、ヘミアセタール類及びヘミアミナール類の脱水素的酸化、及びアルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応の触媒として有用であることを見出した。これらの知見を基にして、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、以下の[1]から[17]に関するものである。
[1]次の一般式(1)
[RuX(CO)(PNP)]Y (1)
(一般式(1)中、Xは1価アニオン性単座配位子を表し、Yはカウンターアニオンを表す。PNPは下記一般式(2)
【0008】
【化1】
【0009】
(一般式(2)中、R、R、R’及びR’は、各々独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基又はアミノ基を表す。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び複素環基は置換基を有していても良い。また、これらのRとR及びR’とR’は、各々独立して互いに結合し隣接するリン原子と共に環を形成していてもよい。Q及びQは、各々独立して置換基を有していてもよいアルカンジイル基、又は置換基を有していてもよいアラルキレン基を表す。)
で表される三座配位子を表し、COは一酸化炭素を表す。)
で表されるルテニウム錯体。
[2]Xがヒドリドであることを特徴とする、前記[1]に記載のルテニウム錯体。
[3]PNPが下記一般式(3)
【0010】
【化2】
【0011】
(一般式(3)中、R、R、R’及びR’は、前記一般式(2)における定義と同一の基を表す。R、R’、R、R’、R、R’、R10及びR10’は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基又はアミノ基を表す。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び複素環基は置換基を有していてもよい。また、これらのRとR又はR又はR10;R’とR’又はR’又はR10’;RとR又はR10;R’とR’又はR10’;RとR10又はR’又はR10’;R’とR10又はR10’;及びR10とR10’は、各々独立して互いに結合し隣接する炭素原子と共に環を形成していてもよい。)で表される三座配位子であることを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載のルテニウム錯体。
[4]PNPが下記一般式(4)
【0012】
【化3】
【0013】
(一般式(4)中、R、R、R’及びR’は、前記一般式(2)における定義と同一の基を表す。)で表される三座配位子であることを特徴とする、前記[1]~[3]に記載のルテニウム錯体。
[5]R、R、R’及びR’が各々独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基であることを特徴とする、前記[4]に記載のルテニウム錯体。
[6] 下記一般式(5)
【0014】
[RuX(PNP)] (5)
【0015】
(一般式(5)中、X及びXは、各々独立して一価アニオン性単座配位子を表し、PNPは一般式(2)、(3)又は(4)で表される三座配位子を表し、qは1又は2の整数を表す。)で表されるルテニウム錯体と一級アルコール及び/又は一酸化炭素を反応させることを特徴とする、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載のルテニウム錯体の製造方法。
[7] 下記一般式(6)
【0016】
RuX(CO)(PNP) (6)
【0017】
(一般式(6)中、X3及びX4は、各々独立して一価アニオン性単座配位子を表し、PNPは一般式(2)、(3)又は(4)で表される三座配位子を表し、COは一酸化炭素を表す。)で表されるルテニウム錯体と一級アルコール及び/又は一酸化炭素を反応させることを特徴とする、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載のルテニウム錯体の製造方法。
[8]前記[1]~[5]のいずれか一つに記載のルテニウム錯体を触媒として用いる、アルデヒド類又はケトン類の水素化還元によるアルコール類の製造方法。
[9]前記[1]~[5]のいずれか一つに記載のルテニウム錯体を触媒として用いる、エステル類の水素化還元によるアルコール類、アルデヒド類、又はヘミアセタール類の製造方法。
[10]前記[1]~[5]のいずれか一つに記載のルテニウム錯体を触媒として用いる、アルコール類、ヘミアセタール類、又はヘミアミナール類の脱水素的酸化によるカルボニル化合物の製造方法。
[11]前記[1]~[5]のいずれか一つに記載のルテニウム錯体を触媒として用いる、アルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応によるN-アルキルアミン化合物の製造方法。
[12]前記[8]~[11]のいずれか一つに記載の製造方法において、下記一般式(5)
【0018】
[RuX(PNP)] (5)
【0019】
(一般式(5)中、X及びXは各々独立して一価アニオン性単座配位子を表し、PNPは一般式(2)、(3)又は(4)で表される三座配位子を表し、qは1又は2の整数を表す。)で表されるルテニウム錯体と一級アルコール及び/又は一酸化炭素を反応系内に各々添加して触媒とすることを特徴とする、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール類、カルボニル化合物及びN-アルキルアミン化合物の製造方法。
[13]前記[1]~[5]のいずれか一つに記載のルテニウム錯体を含有してなることを特徴とする、有機反応用触媒。
[14]有機反応が、水素供与体を用いてエステル基を有する官能基を還元する反応であることを特徴とする、前記[13]に記載の有機反応用触媒。
[15]有機反応が、アルコール類、ヘミアセタール類、又はヘミアミナール類を脱水素化してカルボニル化合物を製造する反応であることを特徴とする、前記[13]に記載の有機反応用触媒。
[16]有機反応が、アルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応である、前記[13]に記載の有機反応用触媒。
[17]ルテニウム錯体が、下記一般式(5)
【0020】
[RuX(PNP)] (5)
【0021】
(一般式(5)中、X及びXは各々独立して一価アニオン性単座配位子を表し、PNPは一般式(2)、(3)又は(4)で表される三座配位子を表し、qは1又は2の整数を表す。)で表されるルテニウム錯体と一級アルコール及び/又は一酸化炭素を反応系内に各々添加して形成されることを特徴とする、前記[13]~[16]に記載の有機反応用触媒。
【発明の効果】
【0022】
本発明のルテニウム錯体は、ルテニウム化合物、PNPで表される三座配位子、及び一級アルコール(又は一酸化炭素)から容易に調製することができ、工業的な使用に適したものであり、温和な反応条件且つ高い触媒活性で反応を行うことができる。例えば、水素供与体存在下、アルデヒド類、ケトン類及びエステル類の水素化還元によるアルコール類の製造;アルコール類等の脱水素的酸化によるカルボニル化合物の製造;アルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応によるN-アルキル化合物の製造等が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ルテニウム錯体B(実施例4)のX線構造解析のORTEP図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一般式(1)で表されるルテニウム錯体について説明する。
一般式(1)において、PNPは一般式(2)で表される三座配位子を表す。
【0025】
一般式(2)における、R、R、R’及びR’に関して説明する。
【0026】
アルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでも良いアルキル基が挙げられる。例えば、炭素数1~50、好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、3-メチルブタン-2-イル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、1-ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、2-ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、1-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、2-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、1-アダマンチル基(1-トリシクロ[3.3.1.1]デシル基)及び2-アダマンチル基(1-トリシクロ[3.3.1.1]デシル基)等が挙げられる。好ましくはイソプロピル基及びシクロヘキシル基が挙げられる。
【0027】
アリール基としては、例えば、炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、より好ましくは炭素数6~14の単環式、多環式又は縮合環式のアリール基が挙げられる。具体例としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ビフェニル基、2-ビフェニル基及び3-ビフェニル基等が挙げられる。好ましくはフェニル基が挙げられる。
【0028】
アラルキル基としては、前記したアルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記したアリール基で置換された基が挙げられる。例えば、炭素数7~37、好ましくは炭素数7~20、より好ましくは炭素数7~15のアラルキル基が挙げられる。具体例としては、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基及び1-フェニルプロピル基等が挙げられる。
【0029】
アルケニル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいアルケニル基が挙げられる。例えば、炭素数2~20、好ましくは炭素数2~15、より好ましくは炭素数2~10のアルケニル基が挙げられる。具体例としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-シクロヘキセニル基及び1-シクロへプテニル基等が挙げられる。
【0030】
アルキニル基としては、直鎖状でも分岐状でもよいアルキニル基が挙げられる。例えば、炭素数2~20、好ましくは炭素数2~15、より好ましくは炭素数2~10のアルキニル基が挙げられる。具体例としては、エチニル基、1-プロピニル基及び2-プロピニル基等が挙げられる。
【0031】
アルコキシ基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいアルコキシ基が挙げられる。例えば、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~15、より好ましくは炭素数1~10のアルキル基からなるアルコキシ基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0032】
アリールオキシ基としては、例えば、炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、より好ましくは炭素数6~14の単環式、多環式又は縮合環式のアリール基からなるアリールオキシ基が挙げられる。具体例としては、フェノキシ基、p-メチルフェノキシ基及び1-ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0033】
アラルキルオキシ基としては、前記アルコキシ基のアルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記アリール基で置換された基が挙げられる、例えば、炭素数7~20、好ましくは7~15のアラルキルオキシ基が挙げられる。具体例としては、ベンジルオキシ基、1-フェニルエトキシ基、2-フェニルエトキシ基、1-フェニルプロポキシ基、2-フェニルプロポキシ基、3-フェニルプロポキシ基、4-フェニルブトキシ基、1-ナフチルメトキシ基及び2-ナフチルメトキシ基等が挙げられる。
【0034】
複素環基としては、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基としては、例えば、炭素数2~14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1~3個のヘテロ原子を含んでいる、3~8員、好ましくは4~6員の単環の脂肪族複素環基、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。ヘテロ原子の具体例としては、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子等が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、2-ピロリジル基、2-ピペリジニル基、2-ピペラジニル基、2-モルホリニル基、2-テトラヒドロフリル基、2-テトラヒドロピラニル基及び2-テトラヒドロチエニル基等が挙げられる。
【0035】
芳香族複素環基としては、例えば、炭素数2~15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1~3個のヘテロ原子を含んでいる、5又は6員の単環式ヘテロアリール基、多環式又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられる。ヘテロ原子の具体例としては、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子等が挙げられる。芳香族複素環基の具体例としては、2-フリル基、3-フリル基、2-チエニル基、3-チエニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、2-ピリミジル基、2-ピラジル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、2-オキサゾリル基、2-チアゾリル基、2-ベンゾフリル基、3-ベンゾフリル基、2-ベンゾチエニル基、3-ベンゾチエニル基、2-キノリル基、3-キノリル基、1-イソキノリル基、2-ベンゾイミダゾリル基、2-ベンゾオキサゾリル基及び2-ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0036】
アミノ基は、置換基を有していても良く、例えば、アミノ基及びアミノ基の少なくとも1つの水素原子が、各々独立して前記したアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基又はアルキニル基で置換されたアミノ基が挙げられる。具体例としては、N,N-ジエチルアミノ基、N,N-ジイソプロピルアミノ基、N,N-ジシクロヘキシルアミノ基、N,N-ジフェニルアミノ基、N-ナフチル-N-フェニルアミノ基及びN,N-ジベンジルアミノ基等が挙げられる。また、置換基を2つ有する場合、互いに結合し環を形成していてもよい。具体例としては、ピロリジノ基及びピペリジノ基等が挙げられる。また、ピペラジノ基及びモルホリノ基もアミノ基として挙げられる。
【0037】
これらのアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び複素環基は置換基を有していても良い。
【0038】
アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基及びアラルキルオキシ基の置換基としては、水酸基、前記したアルコキシ基、前記したアリールオキシ基、前記したアラルキルオキシ基、前記した複素環基、前記したアミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基及びアシルオキシ基等が挙げられる。
【0039】
アリール基、アリールオキシ基及び複素環基の置換基としては、前記したアルキル基、前記したアリール基、前記したアラルキル基、前記したアルケニル基、前記したアルキニル基、前記した複素環基、水酸基、前記したアルコキシ基、前記したアリールオキシ基、前記したアラルキルオキシ基、前記したアミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基及びアシルオキシ基が挙げられる。
【0040】
ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基等が挙げられる。
【0041】
ハロゲノアルキル基としては、前記したアルキル基上の少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子によって置換された基が挙げられる。具体例としてはトリフルオロメチル基及びn-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。好ましくはトリフルオロメチル基が挙げられる。
【0042】
シリル基としては、シリル基上の少なくとも一つの水素原子が前記したアルキル基、前記したアリール基、前記したアラルキル基等に置き換った基が挙げられる。具体例としてはトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基及びトリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0043】
シロキシ基としては、前記したシリル基が酸素原子と結合した基が挙げられる。具体例としては、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、トリイソプロピルシロキシ基、t-ブチルジメチルシロキシ基、t-ブチルジフェニルシロキシ基及びトリフェニルシロキシ基等が挙げられる。
【0044】
アシルオキシ基としては、例えば、炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、より好ましくは炭素数6~14のアシルオキシ基が挙げられる。具体例としては、アセチルオキシ基及びベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0045】
とR及びR’とR’は各々独立して互いに結合し隣接するリン原子を含む環を形成していてもよい。リン原子を含む環の具体例として、ホスホラン、ホスホール、ホスフィナン、2,5-ジオキサホスホラン及び2,5-ジアザホスホリジン等が挙げられる。これらの基は前記したような置換基を有していても良い。
【0046】
一般式(2)におけるQ、Qに関して説明する。
【0047】
及びQは置換基を有していてもよいアルカンジイル基又は置換基を有していてもよいアラルキレン基を表す。
【0048】
アルカンジイル基としては、鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいアルカンジイル基が挙げられる。例えば、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~6のアルカンジイル基が挙げられる。具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、シクロプロパン-1,2-ジイル基、シクロブタン-1,2-ジイル基、シクロブタン-1,3-ジイル基、シクロペンタン-1,2-ジイル基、シクロペンタン-1,3-ジイル基、シクロヘキサン-1,2-ジイル基及びシクロヘキサン-1,3-ジイル基等が挙げられる。好ましくはエチレン基が挙げられる。
【0049】
アラルキレン基としてはベンジル基、フェネチル基等などのアラルキル基上のアリール基から水素を一個除いた炭素数7~11のアラルキレンジイル基が挙げられる。具体例としては、ベンジレン基(-Ph-CH-)、2-フェニルエチレン基(-Ph-CHCH-)、1-ナフチルメチレン基(-Np-CH-)及び2-ナフチルメチレン基(-Np-CH-)等が挙げられる。
【0050】
これらのアルカンジイル基、アラルキレン基の置換基としては、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基及びアシルオキシ基が挙げられる。これらの基は前記した基と同様の基が挙げられる。
【0051】
好ましいPNPとしては、一般式(3)で表される三座配位子が挙げられ、さらに好ましいPNPとしては、一般式(4)で表される三座配位子が挙げられる。
【0052】
一般式(3)における、R、R’、R、R’、R、R’、R10及びR10’に関して説明する。アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基及びアミノ基としては一般式(2)におけるR、R、R’及びR’の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0053】
また、これらのアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び複素環基は置換基を有していてもよい。
【0054】
アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基及びアラルキルオキシ基の置換基としては、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基及びアシルオキシ基が挙げられる。これらの基のうちアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基及びアシルオキシ基は、一般式(2)におけるR、R、R’及びR’の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0055】
アリール基、アリールオキシ基及び複素環基の置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基及びアシルオキシ基が挙げられる。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、複素環基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基及びアシルオキシ基は、一般式(2)におけるR、R、R’及びR’の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0056】
一般式(1)における、X、Yに関して説明する。
一般式(1)中のXは、一価アニオン性単座配位子を表す。一価アニオン性単座配位子とは、一価の負電荷を有し、金属錯体中の金属に対して単結合しうる官能基又は陰イオンを表す。具体例としては(括弧内に一般式を示す)、ヒドリド(-H)、水酸基(-OH)、アルコキシ基(-OR)、アリールオキシ基(-OAr)、アラルキルオキシ基(-OAral)、アシルオキシ基(-OC(=O)R)、スルホニルオキシ基(-OSOR)、ハロゲノ基(-X)、炭酸水素イオン(HCO )、テトラヒドロホウ酸イオン(BH )、テトラフルオロホウ酸イオン(BF )、テトラアリールホウ酸イオン(BAr )、過塩素酸イオン(ClO )、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF )、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン(SbF )、テトラヒドロアルミン酸イオン(AlH )、テトラヒドロキソアルミン酸イオン([Al(OH))、ビス(2-メトキシエトキシ)ジヒドロアルミン酸イオン(AlH(OCHCHOCH )、トリヒドロシアノホウ酸イオン(BHCN)、トリエチルヒドロホウ酸イオン(BH(Et) )及びトリス(2-ブチル)ヒドロホウ酸イオン(BH(sec-Bu) )等が挙げられる。好ましくは、ヒドリド(-H)、ハロゲノ基(-X)及びテトラヒドロホウ酸イオン(BH )が挙げられる、さらに好ましくは、ヒドリド(-H)が挙げられる。
【0057】
一般式(1)中のYはカウンターアニオンを表す。カウンターアニオンとは、一価の負電荷を有し、金属錯体中において対イオンとして機能しうる陰イオンを表す。具体例としては、水酸化物イオン(HO)、アルコキシドイオン(RO)、アリールオキシドイオン(ArO)、アラルキルオキシドイオン(AralO)、カルボン酸イオン(RCO )、スルホン酸イオン(RSO )、ハロゲン化物イオン(X)、炭酸水素イオン(HCO )、テトラヒドロホウ酸イオン(BH )、テトラフルオロホウ酸イオン(BF )、テトラアリールホウ酸イオン(BAr )、過塩素酸イオン(ClO )、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF )、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン(SbF )、テトラヒドロアルミン酸イオン(AlH )、テトラヒドロキソアルミン酸イオン([Al(OH))、ビス(2-メトキシエトキシ)ジヒドロアルミン酸イオン(AlH(OCHCHOCH )、トリヒドロシアノホウ酸イオン(BHCN)、トリエチルヒドロホウ酸イオン(BH(Et) )及びトリス(2-ブチル)ヒドロホウ酸イオン(BH(sec-Bu) )等が挙げられ、好ましくは水酸化物イオン(HO)、ハロゲン化物イオン(X)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF )、テトラアリールホウ酸イオン(BAr )及びヘキサフルオロリン酸イオン(PF )等が挙げられる。好ましくは、ハロゲン化物イオン(X)及びテトラアリールホウ酸イオン(BAr )が挙げられる。
【0058】
アルコキシ基/アルコキシドイオンとしては、例えば、炭素数1~10のアルコキシ基/アルコキシドイオン、好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基/アルコキシドイオンが挙げられる。具体例としては、メトキシ基/メトキシドイオン、エトキシ基/エトキシドイオン、1-プロポキシ基/1-プロポキシドイオン、2-プロポキシ基/2-プロポキシドイオン、1-ブトキシ基/1-ブトキシドイオン、2-ブトキシ基/2-ブトキシドイオン及びtert-ブトキシ基/tert-ブトキシドイオン等が挙げられる。
【0059】
アリールオキシ基/アリールオキシドイオンとしては、例えば、炭素数6~14のアリールオキシ基/アリールオキシドイオン、好ましくは炭素数6~10のアリールオキシ基/アリールオキシドイオンが挙げられる。具体例としては、フェノキシ基/フェノキシドイオン、p-メチルフェノキシ基/p-メチルフェノキシドイオン、2,4,6-トリメチルフェノキシ基/2,4,6-トリメチルフェノキシドイオン、p-ニトロフェノキシ基/p-ニトロフェノキシドイオン、ペンタフルオロフェノキシ基/ペンタフルオロフェノキシドイオン、1-ナフチルオキシ基/1-ナフチルオキシドイオン及び2-ナフチルオキシ基/2-ナフチルオキシドイオン等が挙げられる。
【0060】
アラルキルオキシ基/アラルキルオキシドイオンとしては、例えば、炭素数7~20のアラルキルオキシ基/アラルキルオキシドイオン、好ましくは炭素数7~15のアラルキルオキシ基/アラルキルオキシドイオンが挙げられる。具体例としては、ベンジルオキシ基/ベンジルオキシドイオン、1-フェニルエトキシ基/1-フェニルエトキシドイオン及び2-フェニルエトキシ基/2-フェニルエトキシドイオン等が挙げられる。
【0061】
アシルオキシ基/カルボン酸イオンとしては、例えば、炭素数1~18、好ましくは炭素数1~6のカルボキシル基/カルボン酸イオンが挙げられる、具体例としては、ホルミルオキシ基/ギ酸イオン、アセトキシ基/酢酸イオン、トリフルオロアセトキシ基/トリフルオロ酢酸イオン、プロパノイルオキシ基/プロピオン酸イオン、アクリロイルオキシ基/アクリル酸イオン、ブタノイルオキシ基/酪酸イオン、ピバロイルオキシ基/ピバリン酸イオン、ペンタノイルオキシ基/吉草酸イオン、ヘキサノイルオキシ基/カプロン酸イオン、ベンゾイルオキシ基/安息香酸イオン及びペンタフルオロベンゾイルオキシ基/ペンタフルオロ安息香酸イオン等が挙げられる。
【0062】
スルホニルオキシ基/スルホン酸イオンの具体例としては、メタンスルホニルオキシ基/メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基/トリフルオロメタンスルホン酸イオン、n-ノナフルオロブタンスルホニルオキシ基/n-ノナフルオロブタンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホニルオキシ基/p-トルエンスルホン酸イオン及び10-カンファースルホニルオキシ基/10-カンファースルホン酸イオン等が挙げられる。
【0063】
ハロゲノ基/ハロゲン化物イオンの具体例としては、フルオロ基/フッ化物イオン、クロロ基/塩化物イオン、ブロモ基/臭化物イオン及びヨード基/ヨウ化物イオンが挙げられる。好ましくは、クロロ基/塩化物イオン及びヨード基/ヨウ化物イオンが挙げられる。
【0064】
テトラアリールホウ酸イオンの具体例としては、テトラフェニルホウ酸イオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン及びテトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸イオン等が挙げられる。
【0065】
一般式(1)で表される本発明のルテニウム錯体は、ルテニウム化合物、配位子としてPNP、一級アルコール及び/又は一酸化炭素から容易に製造することができる。
【0066】
ルテニウム化合物としては、特に制限はないが、例えば、三塩化ルテニウム水和物、三臭化ルテニウム水和物、三ヨウ化ルテニウム水和物等の無機ルテニウム化合物、テトラ(ジメチルスルホキシド)ジクロロルテニウム(RuCl(DMSO))、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)ルテニウム(II)ポリマー([Ru(cod)Cl]n)、ジクロロ(ノルボルナジエン)ルテニウム(II)ポリマー([Ru(nbd)Cl]n)、ビス(2-メタリル)(1,5-シクロオクタジエン)ルテニウム(II)((cod)Ru(2-methallyl))、ジクロロ(ベンゼン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(benzene)Cl)、ジブロモ(ベンゼン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(benzene)Br)、ジヨード(ベンゼン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(benzene)I)、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(p-cymene)Cl)、ジブロモ(p-シメン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(p-cymene)Br)、ジヨード(p-シメン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(p-cymene)I)、ジクロロ(メシチレン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(mesitylene)Cl)、ジブロモ(メシチレン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(mesitylene)Br)、ジヨード(メシチレン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(mesitylene)I)、ジクロロ(ヘキサメチルベンゼン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(hexamethylbenzene)Cl)、ジブロモ(ヘキサメチルベンゼン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(hexamethylbenzene)Br)、ジヨード(ヘキサメチルベンゼン)ルテニウム(II)ダイマー([Ru(hexamethylbenzene)I)、ジクロロトリス(トリフェニル)ホスフィン(RuCl(PPh)、ジブロモトリス(トリフェニル)ホスフィン(RuBr(PPh)、ジヨードトリス(トリフェニル)ホスフィン(RuI(PPh)、テトラヒドロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(IV)(RuH(PPh)、ヒドロクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(RuClH(PPh)、アセタトトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(RuH(OAc)(PPh)及びジヒドロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(RuH(PPh)等が挙げられる。
【0067】
一級アルコールとは水酸基が第一級炭素に結合したアルコール、水酸基が第一級炭素に結合した多価アルコール及びメタノールを表す。具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-メチル―1-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル―1-ブタノール、1-ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール及び3-メトキシ-1-ブタノール等が挙げられる。好ましくは、メタノールが挙げられる。
【0068】
続いて、本発明の一般式(1)で表されるルテニウム錯体の製造方法について説明する。 本発明のルテニウム錯体は下記一般式(5)
【0069】
[RuX(PNP)] (5)
【0070】
で表されるルテニウム錯体、又は下記一般式(6)
【0071】
RuX(CO)(PNP) (6)
【0072】
で表されるルテニウム錯体と一級アルコール及び/又は一酸化炭素とを反応させることにより得ることができる。
【0073】
一般式(5)及び(6)におけるX、X、X及びXは一般式(1)にて詳述した一価アニオン性単座配位子と同義の一価アニオン性単座配位子を表し、一般式(1)中のXと同一であっても異なっていても良い。
【0074】
製造される本発明のルテニウム錯体は、配位子の配位様式やコンホメーションによって立体異性体を生じることがある。具体的な例として下記に示す立体異性体等が挙げられる。
【0075】
【化4】
【0076】
(式中、R、R、R’、R’、Q、Q、X、Yは一般式(1)における定義と同様であり、各記号間の破線は配位結合を表し、各記号間の実線は共有結合を表す。)
前記錯体の立体異性体の表記において、ent-[D]は[D]の鏡像異性体、racemi-[D]は[D]とent-[D]のラセミ混合物を表す。本発明の反応に用いる本発明のルテニウム錯体はこれら立体異性体の混合物であっても純粋なひとつの異性体であっても構わないが、より好ましい立体異性体として[B]が挙げられる。例えば、純粋な[B]を得る製造方法として、一般式(5)又は一般式(6)で表されるルテニウム錯体と一級アルコール及び/又は一酸化炭素を反応させる製造方法が挙げられる。
【0077】
一般式(1)で表されるルテニウム錯体の製造においては、溶媒を用いることが望ましい。用いられる溶媒の具体例として、ヘキサン及びヘプタン等の脂肪族炭化水素、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン及びクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルtert-ブチルエーテル及びシクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、2-ブタノール及びtert-ブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール及びグリセリン等の多価アルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類及びアセトニトリル等のニトリル類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類及び水等が挙げられ、好ましくは脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル類、アルコール類、多価アルコール類、アミド類、ニトリル類及びスルホキシド類が挙げられる。具体例としては、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル及びジメチルスルホキシド等が挙げられる。好ましくは、メタノールが挙げられる。これらの溶媒は、各々単独で用いても2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
【0078】
本発明の製造法は不活性ガス、一酸化炭素ガス、又は大気雰囲気下で行うことが望ましい。不活性ガスとしては、具体例としてはアルゴンガス及び窒素ガス等が挙げられる。これらのガス及び大気は各々単独で用いても混合ガスとして用いてもよい。反応温度は、通常-50℃~300℃、好ましくは-20℃~250℃、より好ましくは30℃~200℃の範囲から適宜選択される。反応時間は、塩基、溶媒及び反応温度その他の条件によって自ずから異なるが、通常1分~72時間、好ましくは1分~24時間、より好ましくは5分~12時間の範囲から適宜選択される。
【0079】
また、本発明の製造法では適宜添加剤を加えてもよい。添加剤の具体例として、ブレンステッド酸、ブレンステッド酸の塩、塩基性化合物等が挙げられる。ブレンステッド酸の具体例として、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、酢酸、安息香酸、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸及びヘキサフルオロリン酸等が挙げられる。ブレンステッド酸の塩の具体例として、ブレンステッド酸からなる金属塩等が挙げられる。より好ましい具体例として、金属ハロゲン化物等が挙げられる。さらに好ましい具体例として、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム及び臭化カリウム等が挙げられる。塩基性化合物の具体例として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化セシウム等の金属水酸化物、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化アルミニウムリチウム及び水素化ジイソブチルアルミニウム等の金属水素化物、リチウムメトキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウムtert-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド及びカリウムtert-ブトキシド等の金属アルコキシドが挙げられる。より好ましくは、水素化ホウ素ナトリウム、ナトリウムメトキシド及びカリウムtert-ブトキシドが挙げられる。
【0080】
本発明の製造法により製造した本発明のルテニウム錯体は、必要に応じて後処理、単離及び精製を行うことができる。後処理の方法の具体例として、濃縮、溶媒置換、洗浄、抽出、逆抽出、濾過及び貧溶媒の添加による晶析等が挙げられる。これらは、単独で或いは併用して行うことができる。単離及び精製の方法の具体例として、反応溶液の乾固、カラムクロマトグラフィー、再結晶及び貧溶媒による結晶洗浄等が挙げられる。これらは、単独で或いは併用して行うことができる。
【0081】
本発明の一般式(1)で表されるルテニウム錯体は、アルデヒド類、ケトン類及びエステル類の水素化還元における触媒として有用である。また、本発明の一般式(1)で表されるルテニウム錯体は、アルコール類、ヘミアセタール類及びヘミアミナール類の脱水素的酸化、並びにアルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応における触媒として有用である。
【0082】
したがって、本発明は、一般式(1)で表されるルテニウム錯体を含有してなる、有機反応用のルテニウム触媒を提供する。
【0083】
アルデヒド類又はケトン類の水素化還元によるアルコール類の製造方法について説明する。
【0084】
本発明におけるアルデヒド類又はケトン類の水素化還元によるアルコール類の製造方法は、一般式(1)で表されるルテニウム錯体と水素供与体を用いてアルデヒド類又はケトン類からアルコール類を製造する方法であり、下記スキーム(1)
【0085】
【化5】
【0086】
(スキーム(1)中、R10は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基又は一価基を一つ有するカルボニル基を表し、好ましくはアルキル基、アリール基を表す。また、これらのアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は置換基を有していてもよい。)
で表される方法、又は下記スキーム(2)
【0087】
【化6】
【0088】
(スキーム(2)中、R11及びR12は、各々独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基又は一価基を一つ有するカルボニル基を表し、好ましくはアルキル基又はアリール基を表す。また、R11とR12は互いに結合し隣接する原子と共に環を形成していてもよい。また、これらのアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は置換基を有していてもよい。)
で表される方法が挙げられる。
【0089】
スキーム(1)及びスキーム(2)におけるR10、R11及びR12に関して説明する。
【0090】
アルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでも良いアルキル基が挙げられる。例えば、炭素数1~50、好ましくは炭素数1~30、より好ましくは炭素数1~20のアルキル基が挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、3-メチルブタン-2-イル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、1-ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、2-ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、1-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、2-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、1-アダマンチル基(1-トリシクロ[3.3.1.1]デシル基)及び2-アダマンチル基(1-トリシクロ[3.3.1.1]デシル基)等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。さらに好ましくは、メチル基が挙げられる。
【0091】
アリール基としては、例えば、炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、より好ましくは炭素数6~14の単環式、多環式又は縮合環式のアリール基が挙げられる。具体例としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ビフェニル基、2-ビフェニル基及び3-ビフェニル基等が挙げられる。好ましくは、フェニル基が挙げられる。
【0092】
アラルキル基としては、前記したアルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記したアリール基で置換された基が挙げられる。例えば、炭素数7~50、好ましくは炭素数7~30、より好ましくは炭素数7~20のアラルキル基が挙げられる。具体例としては、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、1-フェニルブチル基、1-フェニルペンチル基、1-フェニルヘキシル基、1-フェニルヘプチル基、1-フェニルオクチル基、1-フェニルノニル基、1-フェニルデシル基、1-フェニルウンデシル基、1-フェニルドデシル基、1-フェニルトリデシル基及び1-フェニルテトラデシル基等が挙げられる。
【0093】
アルケニル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいアルケニル基が挙げられる。例えば、炭素数2~50、好ましくは炭素数2~30、より好ましくは炭素数2~20のアルケニル基が挙げられる。具体例としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基、2-ヘプテニル基、2-オクテニル基、2-ノネニル基、2-イコセニル基、1-シクロヘキセニル基及び1-シクロへプテニル基等が挙げられる。
【0094】
アルキニル基としては、直鎖状でも分岐状でもよいアルキニル基が挙げられる、例えば、炭素数2~50、好ましくは炭素数2~30、より好ましくは炭素数2~20のアルキニル基が挙げられる。具体例としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、2-ブチニル基、2-ペンチニル基、2-ヘキシニル基、2-ヘプチニル基、2-オクチニル基、2-ノニニル基及び2-イコシニル基等が挙げられる。
【0095】
複素環基としては、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基としては、例えば、炭素数2~14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1~3個のヘテロ原子を含んでいる、3~8員、好ましくは4~6員の単環の脂肪族複素環基、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。ヘテロ原子の具体例として、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子等が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、2-ピロリジル基、2-ピペリジニル基、2-ピペラジニル基、2-モルホリニル基、2-テトラヒドロフリル基、2-テトラヒドロピラニル基及び2-テトラヒドロチエニル基等が挙げられる。
【0096】
芳香族複素環基としては、例えば、炭素数2~15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1~3個のヘテロ原子を含んでいる、5又は6員の単環式ヘテロアリール基、多環式又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられる。ヘテロ原子の具体例として、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子等が挙げられる。芳香族複素環基の具体例として、2-フリル基、3-フリル基、2-チエニル基、3-チエニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、2-ピリミジル基、2-ピラジル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、2-オキサゾリル基、2-チアゾリル基、2-ベンゾフリル基、3-ベンゾフリル基、2-ベンゾチエニル基、3-ベンゾチエニル基、2-キノリル基、3-キノリル基、1-イソキノリル基、2-ベンゾイミダゾリル基、2-ベンゾオキサゾリル基及び2-ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0097】
一価基を一つ有するカルボニル基としては、下記一般式(A)
【0098】
【化7】
【0099】
(一般式(A)中、Rは一価基を表し、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基又はハロゲノアルキル基が挙げられる。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及びハロゲノアルキル基は置換基を有していても良い)
で表されるものが挙げられる。
【0100】
一般式(A)中のRに関して説明する。アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基としては、前記した基と同様の基が挙げられる。
【0101】
アルコキシ基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいアルコキシ基が挙げられる。例えば、炭素数1~50、好ましくは炭素数1~30、より好ましくは炭素数1~20のアルキル基からなるアルコキシ基が挙げられる。具体例として、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、n-イコシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0102】
アリールオキシ基としては、例えば、炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、より好ましくは炭素数6~14の単環式、多環式又は縮合環式のアリール基からなるアリールオキシ基が挙げられる。具体例として、フェノキシ基、p-メチルフェノキシ基及び1-ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0103】
アラルキルオキシ基としては前記アルコキシ基のアルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記アリール基で置換された基が挙げられる。例えば、炭素数7~15のアラルキルオキシ基挙げられる。具体例として、ベンジルオキシ基、1-フェニルエトキシ基、2-フェニルエトキシ基、1-フェニルプロポキシ基、2-フェニルプロポキシ基、3-フェニルプロポキシ基、4-フェニルブトキシ基、1-ナフチルメトキシ基及び2-ナフチルメトキシ基等が挙げられる。
【0104】
アミノ基は、置換基を有していても良い。例えば、アミノ基の少なくとも1つの水素原子が、各々独立して前記したアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基又はアラルキル基で置換されたアミノ基が挙げられる。具体例として、N,N-ジエチルアミノ基、N,N-ジイソプロピルアミノ基、N,N-ジブチルアミノ基、N,N-ジペンチルアミノ基、N,N-ジデシルアミノ基、N,N-ジシクロヘキシルアミノ基、N,N-ジフェニルアミノ基、N-ナフチル-N-フェニルアミノ基及びN,N-ジベンジルアミノ基等が挙げられる。また、置換基を2つ有する場合、互いに結合し環を形成していてもよい。具体例として、ピロリジノ基及びピペリジノ基等が挙げられる。また、ピペラジノ基及びモルホリノ基もアミノ基の例として挙げられる。
【0105】
ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基等が挙げられる。
【0106】
ハロゲノアルキル基としては、前記したアルキル基上の少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子によって置換された基が挙げられる。具体例として、トリフルオロメチル基及びn-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。好ましくは、トリフルオロメチル基が挙げられる。
【0107】
がこれらのアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はハロゲノアルキル基の場合、置換基を有していても良い。Rがアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はハロゲノアルキル基の場合に有していても良い置換基としては、複素環基、水酸基、オキソ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基及びアシルオキシ基が挙げられる。これらの基のうち複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基及びハロゲノ基は、前記した基と同様の基が挙げられる
シリル基としては、シリル基上の少なくとも一つの水素原子が前記したアルキル基、アリール基又はアラルキル基等に置き換った基が挙げられる。具体例として、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基及びトリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0108】
シロキシ基としては、前記したシリル基が酸素原子と結合した基が挙げられる。具体例として、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、トリイソプロピルシロキシ基、t-ブチルジメチルシロキシ基、t-ブチルジフェニルシロキシ基及びトリフェニルシロキシ基等が挙げられる。
【0109】
アシルオキシ基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいアシルオキシ基が挙げられる。例えば、炭素数1~50、好ましくは炭素数1~30、より好ましくは炭素数2~20のアシルオキシ基が挙げられる。具体例として、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、ピバロイルオキシ基(2,2-ジメチルプロパノイルオキシ基)、n-ブタノイルオキシ基、n-ペンタノイルオキシ基、n-ヘキサノイルオキシ基、n-ヘプタノイルオキシ基、n-オクタノイルオキシ基、n-ノナノイルオキシ基、n-デカノイルオキシ基、n-ウンデカノイルオキシ基及びn-ドデカノイルオキシ基等が挙げられる。
【0110】
がアリール基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基の場合に有していてもよい置換基として、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基及びアシルオキシ基が挙げられる。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基及びアシルオキシ基は、前記した基と同様の基が挙げられる。
【0111】
スキーム(1)及びスキーム(2)において、これらのアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は置換基を有していても良い。
【0112】
アルキル基、アラルキル基、アルケニル基及びアルキニル基の置換基としては、複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及びカルボニル基が挙げられる。これらの基のうち複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及びカルボニル基は前記した基と同様の基が挙げられる。
【0113】
アリール基及び複素環基の置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及びカルボニル基が挙げられる。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及びカルボニル基は前記した基と同様の基が挙げられる。
【0114】
スキーム(2)において、R11とR12が互いに結合し隣接する原子と共に環を形成する場合、ケトン類は環状ケトンになる。
【0115】
スキーム(1)およびスキーム(2)におけるR10、R11及びR12が各々独立して一価基を一つ有するカルボニル基、アルケニル基又はアルキニル基である場合や、R10、R11及びR12が各々独立して一価基を一つ有するカルボニル基、アルケニル基、アルキニル基及び/又はアシルオキシ基を置換基として有する場合には、これらの基は反応の過程で還元されても良い。
【0116】
10、R11及びR12が各々独立してアラルキルオキシ基を置換基として有する場合には、アラルキルオキシ基は反応の過程で還元されても良い。
【0117】
一般式(2)で表されるPNPが光学活性体である場合は、スキーム(2)における生成物として、片方の鏡像体が過剰なアルコールが得られても良い。
【0118】
本発明におけるアルデヒド類又はケトン類からアルコール類への水素化反応は、無溶媒又は溶媒中で好適に実施することができるが、溶媒を使用することが望ましい。好ましい溶媒としてはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルtert-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、2-ブタノール、tert-ブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、グリセリン等の多価アルコール類及び水等が挙げられる。より好ましくは、トルエン、テトラヒドロフラン及びメタノールが挙げられる。これらの溶媒は、各々単独で用いても2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
【0119】
本発明の方法で用いられる水素供与体としては、水素ガス、蟻酸、一級アルコール及び2級アルコール等が挙げられる。具体例として、水素ガス、メタノール、エタノール、1-ブタノール及びイソプロパノール等が挙げられる。より好ましくは、水素ガスが挙げられる。
【0120】
触媒の使用量は、基質、反応条件や触媒の種類等によって異なるが、通常0.0001mol%~20mol%(基質の物質量に対するルテニウム錯体の物質量)、好ましくは0.002mol%~10mol%、より好ましくは0.005mol%~5mol%の範囲である。
【0121】
本発明のアルデヒド類又はケトン類の水素化還元では、適宜添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、ブレンステッド酸の塩及び塩基性化合物等が挙げられる。ブレンステッド酸の塩の具体例として、ブレンステッド酸からなる金属塩等が挙げられる。より具体例として金属ハロゲン化物等が挙げられる。より好ましくは、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム及び臭化カリウム等が挙げられる。塩基性化合物の具体例として、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ピペリジン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、トリ-n-ブチルアミン及びN-メチルモルホリン等のアミン類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム及び水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウムtert-ブトキシド、リチウムメトキシド、リチウムイソプロポキシド及びリチウムtert-ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド、マグネシウムメトキシド及びマグネシウムエトキシド等のアルカリ土類金属アルコキシド、水素化ナトリウム、水素化カルシウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化アルミニウムリチウム等の金属水素化物が挙げられる。好ましくは、ナトリウムメトキシド、カリウムtert-ブトキシド及び水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。これらの添加物の使用量は反応が進行する限り特に制限されないが、基質の10mol%以下用いることでも十分に高い転化率を得ることを可能とする。
【0122】
水素ガスを水素供与体とした水素化還元を行う際の圧力は、通常、常圧~20MPa、好ましくは常圧~10MPa、より好ましくは常圧~5MPaである。尚、常圧とは水素の加圧を必要としない、水素雰囲気下での圧力を意味する。
【0123】
反応温度は、通常-50℃~250℃、好ましくは-20℃~200℃、より好ましくは0℃~150℃の範囲から適宜選択される。
【0124】
反応時間は、溶媒、反応温度、及びその他の条件によって自ずから異なるが、通常1分~72時間、好ましくは1分~24時間、より好ましくは5分~12時間の範囲から適宜選択される。
【0125】
生成物は、必要に応じて後処理、単離及び精製を行うことができる。後処理の方法の具体例として、濃縮、洗浄、抽出、逆抽出及び貧溶媒の添加による晶析等が挙げられる。これらは、単独で或いは併用して行うことができる。単離及び精製の具体例として、反応溶液の乾固、各種のクロマトグラフィー、蒸留、再結晶及び貧溶媒による結晶洗浄等が挙げられる、これらは、単独で或いは併用して行うことができる。
【0126】
続いて、エステル類の水素化還元によるアルコール類、アルデヒド類及びヘミアセタール類の製造方法について説明する。
【0127】
本発明におけるエステル類の水素化還元によるアルコール類、アルデヒド類及びヘミアセタール類の製造方法は、下記スキーム(3)
【0128】
【化8】
【0129】
(スキーム(3)中、R13は、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基又は一価基を一つ有するカルボニル基を表し、好ましくはアルキル基、アリール基又は複素環基を表す。また、これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は置換基を有していてもよい。R14は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基又は複素環基を表し、好ましくはアルキル基を表す。また、これらのアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は置換基を有していてもよい。また、R13とR14は互いに結合してもよい。)
で表される方法が挙げられる。
【0130】
スキーム(3)におけるR13及びR14に関して説明する。
スキーム(3)中のR13におけるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0131】
また、これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は置換基を有していてもよい。
【0132】
アルキル基、アラルキル基、アルケニル基又はアルキニル基が有しても良い置換基としては複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうち複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0133】
アリール基又は複素環基が有しても良い置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0134】
スキーム(3)中のR14におけるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
また、これらの基は置換基を有していてもよい。
【0135】
アルキル基、アラルキル基、アルケニル基又はアルキニル基が有しても良い置換基としては、複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうち複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0136】
アリール基又は複素環基が有しても良い置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0137】
13とR14が互いに結合している場合、エステル類はラクトン等の環状化合物となる。
【0138】
13が一価基を一つ有するカルボニル基である場合や、R13及びR14が各々独立して一価基を一つ有するカルボニル基を置換基として有する場合、一価基を一つ有するカルボニル基は反応の過程で還元されても良い。
【0139】
13及びR14が、各々独立してアルケニル基又はアルキニル基である場合や、R13及びR14が、各々独立してアルケニル基、アルキニル基及び/又はアシルオキシ基を置換基として有する場合、これらの基は反応の過程で還元されても良い。
【0140】
13及びR14が、各々独立してアラルキルオキシ基を置換基として有する場合、アラルキルオキシ基は反応の過程で還元されても良い。
【0141】
本発明のエステル類の水素化還元は、無溶媒又は溶媒中で好適に実施することができるが、溶媒を使用することが望ましい。溶媒としては、アルデヒド類又はケトン類の水素化還元において詳述した溶媒と同様の溶媒が挙げられる。
【0142】
本発明のエステル類の水素化還元で用いられる水素供与体は、アルデヒド類又はケトン類の水素化還元において詳述した水素供与体と同様の水素供与体が挙げられる。
【0143】
触媒の使用量は、基質、反応条件や触媒の種類等によって異なるが、通常0.0001mol%~20mol%(基質の物質量に対するルテニウム錯体の物質量)、好ましくは0.002mol%~10mol%、より好ましくは0.005mol%~5mol%の範囲である。
【0144】
また、本発明のエステル類の水素化還元では、適宜添加剤を加えても良い。添加剤としてはアルデヒド類又はケトン類の水素化還元において詳述した添加剤と同様の添加剤が挙げられる。
【0145】
水素ガスを水素供与体とした水素化還元を行う際の圧力は、通常、常圧~20MPa、好ましくは常圧~10MPa、より好ましくは常圧~5MPaである。尚、常圧とは水素の加圧を必要としない、水素雰囲気下での圧力を意味する。
【0146】
反応温度は、通常-50℃~250℃、好ましくは-20℃~200℃、より好ましくは0℃~150℃の範囲から適宜選択される。
【0147】
反応時間は、溶媒、反応温度、及びその他の条件によって自ずから異なるが、通常1分~72時間、好ましくは1分~24時間、より好ましくは5分~12時間の範囲から適宜選択される。
【0148】
生成物は、必要に応じて後処理、単離及び精製を行うことができる。後処理の方法の具体例として、濃縮、洗浄、抽出、逆抽出及び貧溶媒の添加による晶析等が挙げられる。これらは、単独で或いは併用して行うことができる。単離及び精製の方法の具体例として、反応溶液の乾固、各種のクロマトグラフィー、蒸留、再結晶及び貧溶媒による結晶洗浄等が挙げられる、これらは、単独で或いは併用して行うことができる。
【0149】
次に、アルコール類、ヘミアセタール類及びヘミアミナール類を酸化するカルボニル化合物の製造方法に関して説明する。
【0150】
本発明におけるアルコール類、ヘミアセタール類及びヘミアミナール類の脱水素的酸化によるカルボニル化合物の製造方法は、例えば下記スキーム(4)、(5)及び(6)
【0151】
【化9】
【0152】
(スキーム(4)、(5)及び(6)中、R15、R16、R17、R19は各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又は一価基を一つ有するカルボニル基を表す。好ましくは、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又は複素環基を表す。より好ましくはアルキル基、アリール基を表す。これらのアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基は置換基を有していてもよい。R18はアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基又は複素環基を表す。これらのアルキル基、アリール基、アラルキル気、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は置換基を有していてもよい。R20及びR21は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基又は複素環基を表す。これらのアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は置換基を有していてもよい。また、スキーム(4)におけるR15とR16は互いに結合してもよく、スキーム(5)におけるR17とR18は互いに結合してもよく、スキーム(6)におけるR19とR20及び/又はR21、又はR21とR20は互いに結合してもよい。)
で表される。
【0153】
スキーム(4)、(5)及び(6)における17、R18、R19、R20及びR21に関して説明する。
【0154】
スキーム(4)、(5)及び(6)中のR15、R16、R17及びR19におけるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0155】
また、これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基は置換基を有していてもよい。
【0156】
アルキル基、アラルキル基、アルケニル基又はアルキニル基が有しても良い置換基としては複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうち複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0157】
アリール基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基が有しても良い置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0158】
スキーム(5)におけるR18について説明する。
アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。また、これらの基は置換基を有していてもよい。
【0159】
アルキル基、アラルキル基、アルケニル基又はアルキニル基が有しても良い置換基としては複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうち複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0160】
アリール基又は複素環基が有しても良い置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0161】
スキーム(4)におけるR15とR16が互いに結合している場合、アルコール類は環状アルコール等の環状化合物となる。スキーム(5)におけるR17とR18が互いに結合している場合、ヘミアセタール類は環状化合物となる。スキーム(6)におけるR19とR20及び/又はR21が互いに結合している場合、ヘミアミナール類は環状化合物となる。
また、R20とR21が互いに結合している場合、ヘミアミナール類は環状化合物となる。
【0162】
スキーム(4)~スキーム(6)中、R15~R21が、各々独立して水酸基を置換基として有する場合、水酸基は反応の過程で酸化されても良い。
【0163】
また、スキーム(5)におけるヘミアセタール類は反応系内で形成させてもよく、例えば下記スキーム(7)
【0164】
【化10】
【0165】
(スキーム(7)中、R17及びR18はスキーム(5)における定義と同一の基を表す。)で表される手法が挙げられる。
【0166】
スキーム(6)におけるヘミアミナール類は反応系内で形成させてもよく、例えば下記スキーム(8)
【0167】
【化11】
【0168】
(スキーム(8)中、R19、R20及びR21はスキーム(6)における定義と同一の基を表す。)で表される手法が挙げられる。
【0169】
本発明のアルコール類、ヘミアセタール類及びヘミアミナール類の脱水素的酸化は、無溶媒又は溶媒中で好適に実施することができるが、溶媒を使用することが望ましい。好ましい溶媒としてはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルtert-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、1-フェニルエタノン及びベンゾフェノン等のケトン類が挙げられる。より好ましくは、トルエン及びキシレンが挙げられる。
【0170】
触媒の使用量は、基質、反応条件や触媒の種類等によって異なるが、通常0.0001mol%~20mol%(基質の物質量に対するルテニウム錯体の物質量)、好ましくは0.002mol%~10mol%、より好ましくは0.005mol%~5mol%の範囲である。
【0171】
また、本発明のアルコール類、ヘミアセタール類及びヘミアミナール類の脱水素的酸化では、適宜添加剤を加えても良い。添加剤としてはケトン類及びアルデヒド類の水素化還元において詳述した添加剤と同様の添加剤が挙げられる。
【0172】
本反応は不活性ガス又は大気雰囲気下で行うことが望ましい。不活性ガスとしては、具体例としてはアルゴンガス及び窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガス及び大気は各々単独で用いても、混合ガスとして用いても良い。
【0173】
反応温度は、通常-50℃~300℃、好ましくは0℃~200℃、より好ましくは20℃~150℃の範囲から適宜選択される。
反応時間は、溶媒、反応温度、及びその他の条件によって自ずから異なるが、通常1分~72時間、好ましくは1分~24時間、より好ましくは5分~12時間の範囲から適宜選択される。
【0174】
生成物は、必要に応じて後処理、単離及び精製を行うことができる。後処理の方法の具体例として、濃縮、洗浄、抽出、逆抽出及び貧溶媒の添加による晶析等が挙げられる。これらは、単独で或いは併用して行うことができる。単離及び精製の方法の具体例として、反応溶液の乾固、各種のクロマトグラフィー、蒸留、再結晶及び貧溶媒による結晶洗浄等が挙げられる。これらは、単独で或いは併用して行うことができる。
【0175】
続いて、アルコール類とアミン類の脱水縮合を経ることによるN-アルキルアミン化合物の製造方法に関して説明する。
【0176】
本発明におけるアルコール類とアミン類の脱水縮合を経ることによるN-アルキルアミン化合物の製造方法は、例えば下記スキーム(9)及び(10)
【0177】
【化12】
【0178】
(スキーム(9)及び(10)中、R22、R25及びR26は、各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基又は複素環基を表す。好ましくは、アルキル基、アリール基を表す。より好ましくは、アリール基を表す。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は置換基を有していてもよい。R23及びR24は、各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基又はシリル基を表す。より好ましくは、アルキル基又はラルキル基を表す。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基及びハロゲノアルキル基は置換基を有していても良い。また、スキーム(9)におけるR22とR23、R22とR24、R22とR23及びR24、又はR23とR24は互いに結合してもよく、スキーム(10)におけるR23とR24、R26とR25、R26とR24及び/又はR23、R26とR25とR24及び/又はR23、又はR25とR24及び/又はR23は互いに結合しても良い。)
で表される。
【0179】
スキーム(9)及び(10)における、R22、R25及びR26に関して説明する。
【0180】
スキーム(9)及び(10)中のR22、R25及びR26におけるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。また、これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び複素環基は置換基を有していてもよい。
【0181】
アルキル基、アラルキル基、アルケニル基又はアルキニル基が有しても良い置換基としては複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうち複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は、前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0182】
アリール基又は複素環基が有しても良い置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0183】
スキーム(9)及び(10)中のR23及びR24におけるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基及びシリル基は、前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。また、これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基及びハロゲノアルキル基は置換基を有していてもよい。
【0184】
アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はハロゲノアルキル基が有しても良い置換基としては複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうち複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0185】
アリール基又は複素環基が有しても良い置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基が挙げられる。これらの基のうちアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シリル基、シロキシ基、アシルオキシ基及び一価基を一つ有するカルボニル基は前記スキーム(1)及び(2)におけるR10、R11及びR12の説明において詳述した基と同様の基が挙げられる。
【0186】
スキーム(9)におけるR22とR23、R22とR24並びにR22とR23及びR24が互いに結合している場合、反応は分子内反応となり、反応生成物は環状アミン等の環状化合物となる。また、R23とR24が互いに結合している場合において、アルコール類は環状アルコール等の環状化合物となる。スキーム(10)におけるR23とR24が互いに結合している場合において、アルコール類は環状アルコール等の環状化合物となる。また、R26とR25が互いに結合している場合において、アミン類は環状アミン等の環状化合物になる。また、R26とR24及び/又はR23、R26とR25とR24及び/又はR23並びにR25とR24及び/又はR23が互いに結合している場合、反応は分子内反応となり、反応生成物は環状アミン等の環状化合物となる。
【0187】
スキーム(9)及び(10)中、R22~R26が、各々独立してアルケニル基又はアルキニル基である場合や、R22~R26が、各々独立してアルケニル基、アルキニル基、アシルオキシ基及び/又は一価基を一つ有するカルボニル基を置換基として有する場合は、これらの基は反応の過程で還元されても良い。
【0188】
スキーム(9)及び(10)中、R22~R26が、各々独立してアラルキルオキシ基を置換基として有する場合は、アラルキルオキシ基は反応の過程で還元されても良い。
【0189】
スキーム(9)及び(10)中、R22~R26が、各々独立して水酸基を置換基として有する場合は、水酸基は反応の過程で酸化されても良い。
【0190】
本発明のアルコール類とアミン類の脱水縮合は、無溶媒又は溶媒中で好適に実施することができるが、溶媒を使用することが望ましい。溶媒は、アルコール類、ヘミアセタール類及びヘミアミナールの脱水素的酸化において詳述した溶媒と同様の溶媒が挙げられる。
【0191】
触媒の使用量は、基質、反応条件や触媒の種類等によって異なるが、通常0.0001mol%~20mol%(基質の物質量に対するルテニウム錯体の物質量)、好ましくは0.002mol%~10mol%、より好ましくは0.005mol%~5mol%の範囲である。
【0192】
また、本発明のN-アルキル化反応では適宜添加剤を加えても良い。添加剤としてはアルデヒド類又はケトン類の水素化還元において詳述した添加剤と同様の添加剤が挙げられる。
【0193】
本反応は不活性ガス、水素ガス、一酸化炭素ガス、又は大気雰囲気下で行うことが望ましい。不活性ガスとしては、具体例としてはアルゴンガス及び窒素ガス等が挙げられる。これらのガス及び大気は各々単独で用いても混合ガスとして用いてもよい。
【0194】
本反応は脱水素的酸化と水素化還元を同一の系で行うことが可能なため、水素供与体は必ずしも必要ではないが、水素ガス、蟻酸等の水素供与体を用いても良い。水素供与体として水素ガスを用いる際の圧力は、通常、常圧~10MPa、好ましくは常圧~5MPa、より好ましくは常圧~2MPaである。尚、常圧とは水素の加圧を必要としない、水素雰囲気下での圧力を意味する。
【0195】
反応温度は、通常-50℃~300℃、好ましくは0℃~200℃、より好ましくは20℃~150℃の範囲から適宜選択される。
【0196】
反応時間は、溶媒、反応温度、及びその他の条件によって自ずから異なるが、通常1分~72時間、好ましくは1分~24時間、より好ましくは5分~12時間の範囲から適宜選択される。
【0197】
生成物は、必要に応じて後処理、単離及び精製を行うことができる。後処理の方法の具体例として、濃縮、洗浄、抽出、逆抽出及び貧溶媒の添加による晶析等が挙げられる。これらは単独で或いは併用して行うことができる。単離及び精製の方法の具体例として、反応溶液の乾固、各種のクロマトグラフィー、蒸留、再結晶及び貧溶媒による結晶洗浄等が挙げられる。これらは、単独で或いは併用して行うことができる。
【0198】
一般式(1)で表されるルテニウム錯体を用いた前記反応はいずれも錯体を形成させながら行うことが可能である(in situ法)。例えば、一般式(5)で表されるルテニウム錯体、一級アルコール及び/又は一酸化炭素、基質、溶媒及び必要に応じて添加剤を同一容器に封入し、水素供与体存在下でアルデヒド類、ケトン類及びエステル類の水素化還元を行うことが可能である。溶媒、水素供与体、触媒量、添加剤、反応温度、水素ガスを用いた場合の圧力、後処理、単離及び精製に関しては、前記スキーム(1)及び(2)におけるアルデヒド類及びケトン類の水素化還元において詳述した溶媒、水素供与体、触媒量、添加剤、反応温度、水素ガスを用いた場合の圧力、後処理、単離及び精製と同様の条件が挙げられる。
【0199】
同様に、一般式(5)で表されるルテニウム錯体、一級アルコール及び/又は一酸化炭素、基質、溶媒及び必要に応じて添加剤を同一容器に封入することによりアルコール類、ヘミアセタール類及びヘミアミナール類の脱水素的酸化を行うことが可能である。この反応における溶媒、触媒量、添加剤、反応温度、後処理、単離及び精製に関しては、スキーム(4)、(5)及び(6)におけるアルコール類、ヘミアセタール類及びヘミアミナール類の脱水素的酸化において詳述した溶媒、触媒量、添加剤、反応温度、水素ガスを用いた場合の圧力、後処理、単離及び精製と同様の条件が挙げられる。
【0200】
また、一般式(5)で表されるルテニウム錯体、一級アルコール及び/又は一酸化炭素、基質(アミン類及びアルコール類)、溶媒、必要に応じて水素供与体、及び必要に応じて添加剤を同一容器に封入することによりアルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応を行うことも可能である。この反応における溶媒、水素供与体、触媒量、添加剤、反応温度、水素ガスを用いた場合の圧力、後処理、単離及び精製に関しては、スキーム(9)及び(10)におけるN-アルキル化反応において詳述した溶媒、水素供与体、触媒量、添加剤、反応温度、水素ガスを用いた場合の圧力、後処理、単離及び精製と同様の条件が挙げられる。
【実施例
【0201】
以下に実施例を挙げ、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0202】
また、実施例中の構造式は、三座配位子を有する金属錯体が有するfacial/meridional異性体及び、複数の単座配位子を有する金属錯体が有するcis/trans異性体等の幾何異性体を考慮しない。
【0203】
尚、GC収率はガスクロマトグラフィー(以下、GCと略す)で行った。用いた装置は次のとおりである。
プロトン核磁気共鳴スペクトル(以下、H NMRと略す)
;400MR/DD2(共鳴周波数:400MHz、Agilent社製)
リン31核磁気共鳴スペクトル(以下、31P NMRと略す)
;400MR/DD2(共鳴周波数:161MHz、Agilent社製)
カーボン13核磁気共鳴スペクトル(以下、13C NMRと略す)
:Avance III 500 (125-MHz、Bruker社製)
ガスクロマトグラフィー(GC)
;GC-4000(GL-SCIENCES社製)
DB-WAX(30m、0.25mmID、0.25μm df)
Inj.Temp.;200℃、Det.Temp.;230℃
Temp.80℃(0min.)-5℃/min.-250℃(1min.)
HRMS
;LCMS-IT-TOF(Ionization:ESI、Shimadzu社製)
【0204】
(実施例1)ルテニウム錯体の製造
次のスキームによりルテニウム錯体Aを製造した。
【0205】
【化13】
【0206】
100mLステンレス製オートクレーブに[RuCl(PNP)]を100mg(0.16mmol)、KOBuを915mg(8.2mmol)加え、窒素置換後、メタノールを10mL加えた。封緘した後に150℃バスにて5時間攪拌し、室温に冷却した。反応物に0.5N HCl/MeOHをpH3-5になるまで加え、析出した固体をろ過で除いた後にろ液を減圧濃縮し、淡黄色の固体を得た。得られた固体をトルエン5mL、水5mLで洗浄し、ルテニウム錯体Aを得た。さらに洗浄溶液を分離し、有機層を減圧濃縮することでルテニウム錯体Aが追加で得られた。これらの錯体を合わせ、計92.1mgのルテニウム錯体Aを淡黄色固体として得た(収率89%)。
H NMR(400MHz,CDCl
δ=8.70-8.80(m,1H)、8.70(s、1H)7.86-7.96(m,4H),7.60-7.70(m,4H),7.40-7.58(m,12H),3.35-3.60(m,2H),3.18-3.40(m、2H)、2.80-2.90(m、2H)、2.20-2.40(m、2H)、-6.27(t,J=16.4Hz)
31P NMR(161MHz,CDCl):δ=57.80
13C NMR(125MHz,CDCl
δ=168.42(S)、138.26(S)、135.76(t、J=23.8Hz)、133.55(t、J=23.8Hz)、133.80(t、J=6.3Hz)、131.57(t、J=6.3Hz)、131.47(S)、130.85(S)、129.26(t、J=5.0Hz)、129.13(t、J=5.0Hz)、33.13、33.02、32.91、21.43
HRMS (ESI,m/z)
計算値 C3030NORu([M-Cl])として、600.078978
実測値 600.078160
【0207】
(実施例2)ルテニウム錯体の製造
次のスキームによりルテニウム錯体Aを製造した。
【0208】
【化14】
【0209】
100mLステンレス製オートクレーブにRu-MACHOを200mg(0.33mmol)、KOBuを2.02g(18.0mmol)加え、窒素置換後、メタノールを20mL加えた。封緘した後に150℃バスにて5時間攪拌し、室温に冷却した。反応物に0.5N HCl/MeOHをpH3-5になるまで加え、析出した固体をろ過で除いた後にろ液を減圧濃縮し、淡黄色の固体を得た。得られた固体をトルエン5mL、水5mLで洗浄し、ルテニウム錯体Aを得た。さらに洗浄溶液を分離し、有機層を減圧濃縮することでルテニウム錯体Aが追加で得られた。これらの錯体を合わせ、定量的にルテニウム錯体Aを淡黄色固体として得た。
【0210】
(実施例3)ルテニウム錯体の製造
次のスキームによりルテニウム錯体Aを製造した。
【0211】
【化15】
【0212】
20mLのシュレンク管にRu-MACHOを6.1mg(0.01mmol)加え、窒素置換後、1M NaOMe(MeOH溶液)を1.0mL(1.0mmol)、メタノールを8.0mL加え、室温で10分間攪拌した。一酸化炭素ガスで置換後、室温で1時間攪拌し、反応物に0.5N HCl/MeOHをpH3-5になるまで加え、減圧濃縮を行った。析出した固体に重塩化メチレンを2mL加え、ろ過した溶液を1H NMRで分析したところ、ルテニウム錯体Aに変換していることが確認された。
【0213】
(実施例4)ルテニウム錯体の製造
次のスキームによりルテニウム錯体Bを製造した。
【0214】
【化16】
【0215】
20mLのシュレンク管にルテニウム錯体Aを150mg(0.24mmol)、NaBPhを81mg(0.24mmol)加え、窒素置換後、メタノールを3.0mL加えた。反応溶液を室温で2時間攪拌した後に、水を2mL加え、析出した固体をろ別した。得られた固体をメタノールとヘキサンで洗浄した後、減圧濃縮を行い、169.9mgのルテニウム錯体Bを白色固体として得た(収率77%)。重塩化メチレン/ヘキサンを用いてルテニウム錯体Bの単結晶を作成し、X線構造解析にて構造を決定した。
H NMR(400MHz,CDCl
δ=7.62-7.74(m,2H)、7.30-7.60(m,26H),6.98-7.10(m,8H),6.80-6.90(m,4H),2.20-2.70(m,5H),1.60-2.10(m、4H)、-6.24(t,J=16.2Hz)
31P NMR(161MHz,CDCl):δ=54.87
13C NMR(125MHz,CDCl
δ=198.72(S)、192.53(S)、167.99(S)、164.59(S)、164.20(S)、163.81(S)、136.33(S)、134.41(t、J=23.8Hz)、133.04(t、J=6.3Hz)、132.69(t、J=23.8Hz)、131.45(t、J=6.3Hz)、129.68(t、J=5.0Hz)、129.35(t、J=5.0Hz)、54.16(S)、33.14(t、J=13.8Hz)
計算値 C3030NORu([M-BPh])として、600.078978
実測値 600.078086
【0216】
(実施例5)ルテニウム錯体Aを用いたアセトフェノンの水素化還元
【0217】
【化17】
【0218】
100mLステンレス製オートクレーブに実施例2で得られたルテニウム錯体Aを1.6mg(0.0025mmol)加え、窒素置換後、1 M KOBu(THF溶液)を0.25mL(0.25mmol)、トルエン2mL、基質0.29mL(2.5mmol)を加えた後、水素圧1MPa、80℃にて5時間攪拌した。冷却後、反応物をGCにて分析したところGC収率94%で1-フェニル-1-エタノールが得られた。
【0219】
(実施例6)ルテニウム錯体Aを用いた安息香酸メチルの水素化還元
【0220】
【化18】
【0221】
100mLステンレス製オートクレーブに実施例2で得られたルテニウム錯体Aを1.6mg(0.0025mmol)加え、窒素置換後、1 M KOBu(THF溶液)を0.25mL(0.25mmol)、トルエン2mL、基質0.3mL(2.5mmol)を加えた後、水素圧1MPa、80℃にて6時間攪拌した。冷却後、反応物をGCにて分析したところGC収率37%でベンジルアルコールが得られた。
【0222】
(実施例7)ルテニウム錯体Aを用いた1-フェニル-1-エタノールの脱水素型酸化反応
【0223】
【化19】
【0224】
100mLステンレス製オートクレーブに実施例2で得られたルテニウム錯体Aを1.6mg(0.0025mmol)加え、窒素置換後、1 M KOBu(THF溶液)を0.25mL(0.25mmol)、トルエン2mL、基質0.31mL(2.5mmol)を加えた後、80℃にて5時間攪拌した。冷却後、反応物をGCにて分析したところGC収率67%でアセトフェノンが得られた。
【0225】
(実施例8)ルテニウム錯体Aを用いたアニリンとメタノールによるN-メチル化反応
【0226】
【化20】
【0227】
100mLステンレス製オートクレーブに実施例2で得られたルテニウム錯体Aを1.3mg(0.002mmol)加え、窒素置換後、1 M KOBu(THF溶液)を0.4mL(0.4mmol)、メタノール3.6mL、基質169.5mg(1.82mmol)を加えた後、封緘し、150℃で5時間攪拌した。冷却後、反応物をGCにて分析したところGC収率95%でN-メチルアニリンが得られた。
【0228】
(実施例9)ルテニウム錯体Aを用いたアニリンとエタノールによるN-エチル化反応
【0229】
【化21】
【0230】
100mLステンレス製オートクレーブに実施例2で得られたルテニウム錯体Aを1.3mg(0.002mmol)加え、窒素置換後、1 M KOBu(THF溶液)を0.4mL(0.4mmol)、エタノール3.6mL、基質183.5mg(1.97mmol)を加えた。反応容器を水素ガス置換した後に、水素圧1MPa、150℃で5時間攪拌した。冷却後、反応物をGCにて分析したところGC収率71%でN-エチルアニリンが得られた。
【0231】
(実施例10)ルテニウム錯体Aを用いたアニリンとベンジルアルコールによるN-ベンジル化反応
【0232】
【化22】
【0233】
100mLステンレス製オートクレーブに実施例2で得られたルテニウム錯体Aを1.3mg(0.002mmol)加え、窒素置換後、1 M KOBu(THF溶液)を0.8mL(0.8mmol)、テトラヒドロフラン2.8mL、基質191.0mg(2.05mmol)を加え、封緘した後に、150℃で5時間攪拌した。冷却後、反応物をGCにて分析したところGC収率92%でN-ベンジルアニリンが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0234】
本発明はビス(ホスフィノアルキル)アミンを三座配位子として一つ有すること、及び一酸化炭素を単座配位子として二つ有することを特徴とする新規カチオン型ルテニウム錯体を提供するものである。本発明のルテニウム錯体は安価かつ容易に入手可能な無機ルテニウム化合物より簡便に調製することができる。本発明のルテニウム錯体は、水素供与体存在下、アルデヒド類、ケトン類及びエステル類の水素化還元を触媒する。またアルコール類、ヘミアセタール類及びヘミアミナール類の脱水素的酸化、アルコール類とアミン類の脱水縮合を経るN-アルキル化反応を触媒する。また、本発明のルテニウム錯体は空気中で安定な粉末であり、取り扱いも容易なため工業的な使用に適したものである。さらに、本発明のルテニウム錯体は、錯体を形成させながら行うこともできるため、状況に応じた様々な反応条件を可能とする。さらに、したがって、本発明のルテニウム錯体及びそれを用いた反応は有機工業化学の分野において有用である。
図1