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特許7085536潤滑性ブロックコポリマーおよび生体模倣境界潤滑剤としてのそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】潤滑性ブロックコポリマーおよび生体模倣境界潤滑剤としてのそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/00 20060101AFI20220609BHJP
   A61K 31/785 20060101ALI20220609BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220609BHJP
   C08F 291/12 20060101ALI20220609BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C08L53/00
A61K31/785
A61P19/02
C08F291/12
C08F293/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019518233
(86)(22)【出願日】2017-10-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 US2017055057
(87)【国際公開番号】W WO2018067648
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】62/403,962
(32)【優先日】2016-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508298488
【氏名又は名称】コーネル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】デーヴィッド・パトナム
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス・ボナサー
(72)【発明者】
【氏名】ヂゥシュン・サン
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-134419(JP,A)
【文献】特表2007-504311(JP,A)
【文献】国際公開第2015/054452(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/144886(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0275118(US,A1)
【文献】JACQUIN et al.,Characterization of Amphiphilic Diblock Copolymers Synthesized by MADIX Polymerization Process,Macromolecules,米国,American Chemical Society,2007年,2007, 40,pp.2672-2682
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08F251/00-283/00、
283/02-289/00、
291/00-297/08
A61K 31/785
A61P 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックコポリマーであって、以下の構造:
【化1】
(式中:
、RおよびRは、少なくとも1個および最大12個の炭素原子を有する炭化水素基から独立して選択され;
XおよびX’は、-NR’-、-O-および結合から独立して選択され、ここでR’は、水素原子、ならびに少なくとも1個および最大6個の炭素原子を有する炭化水素基から選択され;
Yは、ポリアルキレングリコールであり
添字aおよびbは、独立して、少なくとも3の整数であり;
添字cは、少なくとも1の整数である)
を有し、
化学の法則によって、該ブロックコポリマーは、末端基によって各端部で終端となっており、該コポリマーにおける第四級アンモニウム基の総正電荷は、前記アンモニウム基に
結合したアニオンによって提供される同等の大きさの総負電荷によって均衡化されている、
前記ブロックコポリマーを含む、生体組織を潤滑化するための組成物。
【請求項2】
前記ポリアルキレングリコールはポリエチレングリコールである、請求項に記載の組成物
【請求項3】
前記ポリアルキレングリコールは、少なくとも2個および最大500個のモノマー単位で構築されている、請求項1に記載の組成物
【請求項4】
前記ポリアルキレングリコールは、少なくとも2個および最大200個のモノマー単位で構築されている、請求項1に記載の組成物
【請求項5】
前記ポリアルキレングリコールは、少なくとも2個および最大100個のモノマー単位で構築されている、請求項1に記載の組成物
【請求項6】
前記ポリアルキレングリコールは、少なくとも2個および最大20個のモノマー単位で構築されている、請求項1に記載の組成物
【請求項7】
、RおよびRは、少なくとも1個および最大12個の炭素原子を有するアルキル基から独立して選択される、請求項1に記載の組成物
【請求項8】
前記末端基の少なくとも1個はチオール基である、請求項1に記載の組成物
【請求項9】
適当なレベルの潤滑性能を生体組織に付与するための方法であって、該方法は、前記生体組織を十分な量の組成物と接触させることで適当な潤滑性能を付与することを含み、前記組成物は、以下の構造:
【化2】
(式中:
、RおよびRは、少なくとも1個および最大12個の炭素原子を有する炭化水素基から独立して選択され;
XおよびX’は、-NR’-、-O-および結合から独立して選択され、ここでR’は、水素原子、ならびに少なくとも1個および最大6個の炭素原子を有する炭化水素基から選択され;
Yは、ポリアルキレングリコールであり
添字aおよびbは、独立して、少なくとも3の整数であり;
添字cは、少なくとも1の整数である)
を有するブロックコポリマーを含み、
化学の法則によって、該ブロックコポリマーは、末端基によって各端部で終端となっており、該コポリマーにおける第四級アンモニウム基の総正電荷は、前記アンモニウム基に結合したアニオンによって提供される同等の大きさの総負電荷によって均衡化されている、
前記方法。
【請求項10】
前記末端基の少なくとも1個はチオール基である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記生体組織は、関節、骨、眼球組織、鼻組織、腱、腱膜および腟内組織から選択される、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条の下で、2016年10月4日に出願した米国仮出願第62/403,962号の優先権を主張するものであり、この仮出願はその全体を本明細書に組み入れる。
【0002】
連邦支援研究に関する記述
この発明は、国立衛生研究所によって授与された認可番号AR066667-01の下、政府支援でなされた。政府は、本発明においてある特定の権利を有する。
【0003】
この発明は、一般に、薬学的に許容される潤滑組成物、ならびに生体組織、殊に関節、軟骨および骨の表面を潤滑する方法におけるそれらの使用に関する。本発明は、さらに特定すると、ラブリシンの作用を模倣するポリマー組成物、およびさらに特定すると、潤滑が疾患または状態の影響を処置および寛解させることに殊に有益である変形性関節症など様々な状態を処置するためのこうした組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ラブリシンは、滑液中に見出されるグリコシル化タンパク質であり、関節境界潤滑および変形性関節症の防止に中心的役割を果たす。ラブリシンは、境界モードにおける関節軟骨の摩擦の係数(COF)を70パーセントも低減する(非特許文献1)。この強力な潤滑能力は、ラブリシンの構造(ラブリシンの中心ムチン様ドメインは、分子の近くに水を誘引および保持する広範にグリコシル化されたコアタンパク質からなり;ラブリシンのC末端は、タンパク質を軟骨表面に結合させる)から生じる(非特許文献2)。この構築様式は、関節軟骨の境界モード潤滑に不可欠であり、というのは、ラブリシンのいずれかのドメインの変性が、潤滑能力の部分的または完全な損失を引き起こすからである。
【0005】
変形性関節症(OA)は、先進国世界において5000万人を超える個体を苦しめており、この数は、中央年齢および平均余命が増加するにつれて上がると予想される。変形性関節症処置の経済的な影響は、合衆国単独で年間300億ドルを超える。財政的な負担、および他の因子(即ち、生活の質、労働時間の損失など)は、より有効な処置の開発に動機を与えている。
【0006】
変形性関節症のための現在の処置としては、非ステロイド性抗炎症薬、関節内副腎皮質ステロイド注射、およびコンドロイチン硫酸またはグルコサミンサプリメントが挙げられる。しかしながら、これらの処置の全ては、疾患進行に対して効果をほとんどまたは全く有さない。OAの処置に対するより近年の手法は、天然滑液のグリコサミノグリカン、ヒアルロン酸(HA)の関節内注射であり(例えば、非特許文献3)、ここで、HAは、滑液粘度(例えば、関節内補充療法)を増加させることで、潤滑の流体力学的モードにおける摩擦の係数を低減することが知られている(例えば、非特許文献4)。滑液中の他の主体な潤滑構成成分は、潤滑の境界モードにおける摩擦の係数を低減する高分子量糖タンパク質のラブリシンである。
【0007】
傷害軟骨において、ラブリシンの軟骨細胞産生が損なわれ、境界モード潤滑が低減されることはよく知られている。プロテオグリカン凝集体およびムチン(例えば、ラブリシン)などの天然潤滑剤は、天然表面を親水性に保持する。補助的ラブリシンの関節内注射、および切断された組換えラブリシンコンストラクトLUB:1は、疾患のラットモデルにおいてOAの進行を遅延させることが示された(例えば、非特許文献5;非特許文献6)。しかしながら、現在まで、ラブリシンおよびLUB:1の両方の大規模な組換え製造は、タンパク質コアにおける複数のアミノ酸反復、および高度のグリコシル化により依然として難題である(例えば、非特許文献7;非特許文献8)。その上、変形性関節症の進行した段階で起こり得るような直接的な骨と骨との接触が起こる状況において骨のための有効な潤滑薬剤の必要性が別にある。その結果として、ラブリシンもしくはLUB:1と同じまたは同様の境界潤滑を提供し得る有効な潤滑薬剤は、この分野における重大な進歩となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Gleghorn,J.P.ら、J.Orthop.Res.2009、27(6)、77
【文献】Zappone,B.ら、Langmuir 2008、24(4)、1495
【文献】Mabuchiら(1994)J.Biomed.Mat.Res.28:865~70
【文献】Tadmorら(2002)J.Biomed.Mat.Res.61:514~23
【文献】Jayら(2010)Arthritis Rheum.62:2382~91
【文献】Flanneryら(2009)Arthritis Rheum.60:840~7
【文献】Jay(2004)Curr.Opin.Orthop.15:355~359
【文献】Jonesら(2007)J.Orthop.Res.25:283~292
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、ラブリシン模倣構造を有するとともに境界モード潤滑条件下で実質的な潤滑能力を提供する特殊化ブロックコポリマーの設計、合成および使用を対象とする。特別な実施形態において、ブロックコポリマーは、ラブリシンのムチン様ドメインを模倣する潤滑ブロック(例えば、約200kDaのM)およびヘモペキシン様ドメインを模倣するより小さい軟骨結合性ブロック(例えば、約3kDaのM)を含有する。本明細書において後に開示されている通り、この型のポリマーをラブリシン欠損ウシ関節軟骨または骨に適用することは、未処置対照と比較して、著しく低減された摩擦の係数(COF)をもたらした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様において、本発明は、以下の構造:
【化1】
(式中:R、RおよびRは、少なくとも1個および最大12個の炭素原子を有する炭化水素基から独立して選択され;XおよびX’は、-NR’-、-O-および結合から独立して選択され、ここでR’は、水素原子、ならびに少なくとも1個および最大6個の炭素原子を有する炭化水素基から選択され;Yは、ポリアルキレングリコール、サッカリドおよびポリアルコールから選択され;添字aおよびbは、独立して、少なくとも3の整数であり;添字cは、少なくとも1の整数である)
を有するブロックコポリマーを対象とする。化学の法則に従って、該ブロックコポリマーは、末端基によって各端部で終端となっており、該コポリマーにおける第四級アンモニウム基の総正電荷は、アンモニウム基に結合したアニオンによって提供される同等の大きさの総負電荷によって均衡化されている。
【0011】
別の態様において、本発明は、以下の構造:
【化2】
(式中:Xは、-NR’-、-O-および結合から選択され、ここでR’は、水素原子、ならびに少なくとも1個および最大6個の炭素原子を有する炭化水素基から選択され;Yは、ポリアルキレングリコール、サッカリドおよびポリアルコールから選択され;Rは、水素原子、1~12個の炭素原子を有する炭化水素基(R)、または軟骨結合性ドメインであり;添字dおよびeは、独立して、少なくとも3の整数であり;添字fは、0、または少なくとも1の整数である)
を有するブロックコポリマーを対象とする。該式において、示されているカルボン酸基上の水素原子は、正荷電金属イオンまたは正荷電有機基と場合により置き換えられている。化学の法則に従って、該ブロックコポリマーは、末端基によってチオール基と反対側の端部で終端となっている。
【0012】
別の態様において、本発明は、生体組織を十分な量の潤滑組成物と接触させて生体組織の潤滑性能を増加させることによって、適当なレベルの潤滑性能を生体組織に付与するための方法に関する。潤滑組成物は、例えば、上に記載されているブロックコポリマーのいずれかであってよい。生体組織は、例えば、関節、骨、眼球組織、鼻組織、腱、腱膜および腟内組織から選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】結合性ブロックおよび潤滑性ブロックの部分が同定された本発明の例証的なジブロックコポリマーの一般的表示である。
図2】リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液、図1のジブロックコポリマー、結合性ブロックのみ、および潤滑性ブロックのみについて摩擦の係数(COF)の結果をプロットするグラフである。
図3】競合的結合研究の一部として、結合性ブロック:ジブロックコポリマー比で変動する溶液のCOFをプロットするグラフである。
図4図1のジブロックコポリマー、および2つのブロックモノマーのランダムRAFT共重合、続いて第四級アンモニウム変換によって合成された通りのジブロックコポリマーのランダムコポリマー版(即ち、同じモノマー単位であるが、ブロックの代わりにランダム様式においてコポリマーに組み込まれた)のCOFをプロットするグラフである。
図5A図1のジブロックコポリマーの濃度の関数としてCOFをプロットするグラフである。
図5B】異なる持続期間の間1mg/mLのコポリマーを用いる、インキュベーション時間の関数としてCOFをプロットするグラフである。結果として得られたグラフは、結合キネティクス曲線と考えることができる。
図6図6Aおよび6Bは、ジブロックコポリマー(3)溶液(2時間の間10mg/mLまたは1時間の間1mg/mL)またはPBS溶液で処置された海綿骨および肋軟骨下骨の試料それぞれのCOFをプロットするグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の態様において、本発明は、ムチン様ドメインおよびC末端ヘモペキシン様(PEX-様)ドメインを有することによってラブリシンを模倣するブロックコポリマーを対象とする。該コポリマーは、例えば、正または負荷電ペンダント基を含有するポリマーブロック、ならびにペンダント非イオン性親水性基、特に、エーテル官能基および/またはヒドロキシ官能基を含有する親水性基を含有するポリマーブロックを含有することができる。ペンダント基がポリマー性である場合において該コポリマーは、グラフトブラシコポリマーとしてさらに分類することができる。「コポリマー」という用語は、本明細書で使用される場合、少なくとも2つのポリマーブロックの存在を指す。該コポリマーは、例えば、ジブロックコポリマー、トリブロックコポリマー、テトラブロックコポリマー、またはより高次のコポリマーであってよい。
【0015】
本明細書において考えられるブロックコポリマーの第1のクラスは、以下の包括的構造:
【化3】
によって包含される。
【0016】
式(1)における置換基R、RおよびRは、少なくとも1個および最大12個の炭素原子を有する炭化水素基(R)から独立して選択される。置換基R、RおよびRは、一部の実施形態において、正確には1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個もしくは12個の炭素原子、またはその炭素原子の特別な範囲、例えば、1~10個、1~8個、1~6個、1~4個、1~3個、2~12個、2~10個、2~8個、2~6個、2~4個、3~12個、3~10個、3~8個もしくは3~6個の炭素原子を有するとしてさらに特定して定義することができる。一部の実施形態において、R、RおよびRは全て同じであるが、他の実施形態において、R、RおよびRは全て同じというわけでない(またはR、RおよびRの少なくとも2つは異なる)。炭化水素基Rは、飽和または不飽和、直鎖(線状)または分枝、および環式または非環式であってよい。
【0017】
1組の実施形態において、R、RおよびRの少なくとも1つ、2つまたは全ては、炭素および水素だけで構成される炭化水素基から選択される。炭素および水素だけで構成される炭化水素基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル(脂肪族)基または芳香族基であり得る。直鎖アルキル基の一部の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基およびn-ドデシル基が挙げられる。分枝アルキル基の一部の例としては、イソプロピル(2-プロピル)、イソブチル(2-メチルプロパ-1-イル)、sec-ブチル(2-ブチル)、t-ブチル、2-ペンチル、3-ペンチル、2-メチルブタ-1-イル、イソペンチル(3-メチルブタ-1-イル)、1,2-ジメチルプロパ-1-イル、1,1-ジメチルプロパ-1-イル、ネオペンチル(2,2-ジメチルプロパ-1-イル)、2-ヘキシル、3-ヘキシル、2-メチルペンタ-1-イル、3-メチルペンタ-1-イルおよびイソヘキシル(4-メチルペンタ-1-イル)が挙げられ、ここで、「1-イル」接尾辞は、基の付着点を表す。直鎖オレフィン性基の一部の例としては、ビニル基、プロペン-1-イル(アリル)基、3-ブテン-1-イル(CH=CH-CH-CH-)基、2-ブテン-1-イル(CH-CH=CH-CH-)基、ブタジエニル基および4-ペンテン-1-イル基が挙げられる。分枝オレフィン性基の一部の例としては、プロペン-2-イル、3-ブテン-2-イル(CH=CH-CH.-CH)、3-ブテン-3-イル(CH=C.-CH-CH)、4-ペンテン-2-イル、4-ペンテン-3-イル、3-ペンテン-2-イル、3-ペンテン-3-イル、および2,4-ペンタジエン-3-イルが挙げられ、ここで、前述の例証的な式におけるドットは、ラジカル(即ち、基の付着点)を表す。シクロアルキル基の一部の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基およびシクロオクチル基が挙げられる。シクロアルキル基は、2つの環基の間に結合(例えば、ジシクロヘキシル)、または共有(即ち、縮合)側(例えば、デカリンおよびノルボルナン)のいずれかを所有することによって多環式(例えば、二環式)基であってもよい。シクロアルケニル(脂肪族)基の一部の例としては、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロヘプテニル基、シクロヘプタジエニル基、シクロオクテニル基、シクロオクタジエニル基およびシクロオクタテトラエニル基が挙げられる。芳香族基の一部の例としては、フェニルおよびベンジルが挙げられる。不飽和環式炭化水素基は、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フェナレンまたはインデンにおける通り、環基の2つの間に結合(例えば、ビフェニル)、または共有(即ち、縮合)側のいずれかを所有することによって多環式基(二環式または三環式のポリ芳香族基など)であってもよい。
【0018】
別の組の実施形態において、R、RおよびRの少なくとも1つは、少なくとも1個のヘテロ原子(即ち、非炭素原子および非水素原子)、例えば酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびハロゲン化物原子から選択される1つまたはそれ以上のヘテロ原子、およびこれらヘテロ原子の1つまたはそれ以上を含有する基(即ち、ヘテロ原子含有基)を含有する炭化水素基から選択される。一部の実施形態において、炭化水素基は、水素原子を含有しない(例えば、ここで、-CFにおけるなど、全ての水素原子はヘテロ原子と置き換えられている)が、他の実施形態において、炭化水素基は、少なくとも1個の水素原子を含有する。酸素含有基の一部の例としては、ヒドロキシ基(OH)、アルコキシ基(OR)、カルボニル含有基(例えば、カルボン酸官能性基、ケトン官能性基、アルデヒド官能性基、カルボン酸エステル官能性基、アミド官能性基および尿素官能性基)、ニトロ基(NO)、炭素-酸素-炭素基(エーテル)、スルホニル基およびスルフィニル基(即ち、スルホキシド)が挙げられる。アルコキシ基(-OR)の一部の特別な例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基、2-メトキシエトキシ基、2-エトキシエトキシ基、ビニルオキシ基およびアリルオキシ基が挙げられる。エーテル基の場合において、エーテル基は、ポリエチレンオキシド基などのポリアルキレンオキシド基(ポリアルキレングリコール)であってもよい。窒素含有基の一部の例としては、第一級アミン基、第二級アミン基、第三級アミン基(即ち、-NR’またはNR’ 、ここでR’は、Hおよび上記で説明されている炭化水素基から独立して選択される)、ニトリル(CN)基、アミド基(即ち、-C(O)NR’または-NRC(O)R’、ここでR’は、水素原子および上記で説明されている炭化水素基から独立して選択される)、イミン基(例えば、-CR’=NR’、ここでR’は、独立してHまたは炭化水素基である)、尿素基(-NR’-C(O)-NR’、ここでR’は、独立してHまたは炭化水素基である)、およびカルバメート基(-NR’-C(O)-OR’、ここでR’は、独立してHまたは炭化水素基である)が挙げられる。硫黄含有基の一部の例としては、メルカプト基(即ち、-SH)、チオエーテル基(即ち、硫化物、例えば、-SR)、二硫化物基(-R-S-S-R)、スルホキシド基(-S(O)R)、スルホン基(-SOR)、スルホネート基(-S(=O)OR”、ここでR”は、H、炭化水素基またはカチオン基である)、および硫酸基(-OS(=O)OR”、ここでR”は、H、炭化水素基またはカチオン基である)が挙げられる。ハロゲン化物原子の一部の例としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。上に記載されているヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子および/または硫黄原子)の1つまたはそれ以上は、上に記載されている炭化水素基のいずれかにおいて、炭素原子の間に挿入することができる(例えば、-O-、-NR’-または-S-として)。代替として、または加えて、ヘテロ原子含有基の1つまたはそれ以上は、炭化水素基上の1つまたはそれ以上の水素原子に置き換わることができる。一部の実施形態において、上記基のいずれか1つまたはそれ以上は除外される。
【0019】
式(1)における可変XおよびX’は、-NR’-、-O-および結合から独立して選択され、ここでR’は、水素原子、および少なくとも1個および最大6個の炭素原子を有する炭化水素基(R基から選択される)から選択される。一部の実施形態において、R’は、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基およびt-ブチル基から選択されるか、またはそれらのうちのより特定の選択である。
【0020】
第1の例において、式(1)における可変Yは、ポリアルキレングリコール基であるか、またはそれを含む。ポリアルキレングリコール基は、好都合には、以下の構造によって表され:(-CR’CR’O-)R’、ここでR’は、水素原子、およびR’の各例のための炭化水素基(例えば、メチルまたはエチル)から独立して選択され、nは、少なくとも2、3、4、5もしくは6、および最大、例えば、8、9、10、12、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400もしくは500であるか、またはnは、前述の値の任意の2つによって結合された範囲内であり、ここで、前述の値の各々は、アルキレンオキシド(-CR’CR’O-)モノマー単位の数に対応する。特別な実施形態において、ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール基またはポリプロピレングリコール基である。さらに、ポリアルキレングリコール基は、ポリエチレングリコール、およびポリアクリル酸(PAA)、ポリグルタミン酸またはポリアスパラギン酸などのアニオン性ポリマー部分を含有するコポリマーなど、コポリマーに統合されているまたはされていない。
【0021】
第2の例において、式(1)における可変Yは、サッカリド基であるか、またはそれを含む。「サッカリド」という用語は、本明細書で使用される場合、モノサッカリド(1つのモノサッカリド単位を含有する)および少なくとも2つまたは2つより多いモノサッカリド単位を含有するサッカリド、例えば二糖類、三糖類、オリゴ糖類(例えば、少なくとも4、および最大20、30、40、50または60のモノサッカリド単位)、およびポリサッカリド(一般に60、70または80超のモノサッカリド単位、および最大、例えば、100、200、300、400、500または1000のモノサッカリド単位)を含む。サッカリドは、誘導体化版がまだ当業者によってサッカリドとして合理的に分類されるような方式(例えば、エステル化、エーテル化、アミノ化またはハロゲン化される)において誘導体化することもできる。モノサッカリドの一部の例としては、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、シアル酸、グルコサミン、N-アセチルグルコサミンおよびガラクツロン酸が挙げられる。二糖類の一部の例としては、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース、セロビオースおよびマンノビオースが挙げられる。オリゴ糖類の一部の例としては、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)およびマンナンオリゴ糖(MOS)が挙げられる。ポリサッカリドの一部の例としては、デキストラン、硫酸デキストラン、デンプン(例えば、アミロースまたはアミロペクチン)、セルロース、ヘミセルロース、ポリシアル酸、ペクチン、グリコーゲン、マンナン、ガラクトマンナン、キシラン、プルラン、キサンタン、カラゲナン、グアーガム、ポリガラクツロン酸、ポリ(N-アセチルガラクトサミン)、ヘパリン、ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸が挙げられる。一部の実施形態において、サッカリドは、カルボン酸基、カルボキシレート基、サルフェート基またはスルホネート基を有するサッカリドなどにおいて、全体的にアニオン性の電荷を有するように選択される。サッカリド基は、オリゴ糖部分およびオリゴペプチド部分またはポリアクリル酸部分を含有するコポリマーなどのコポリマーに統合されているまたはされていない。一部の実施形態において、サッカリド含有コポリマーは、サッカリド部分およびアニオン性ポリマー部分、例えばポリアクリル酸(PAA)、ポリグルタミン酸またはポリアスパラギン酸を含有する。
【0022】
第3の例において、式(1)における可変Yは、ポリアルコール基であるか、またはそれを含む。「ポリアルコール」という用語は、本明細書で使用される場合、多数(即ち、少なくとも2個、3個または4個)のヒドロキシ基を有する非サッカリド基を指す。ポリアルコールは、例えば、糖アルコールまたは多価アルコールであってよい。糖アルコールの一部の例としては、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、グリセリンおよびソルビトールが挙げられる。サッカリドまたはポリアルコール(Yとして)は、一般に、脱プロトン化形態におけるそれのヒドロキシ基の1個によって式(1)のブロックコポリマーに付着されており、ここでX’は、Y基からの酸素原子を表すことができるか;またはX’は結合を表すことができ、Yは、1つのそれの酸素原子によって、示されているC(O)基に結合されているサッカリドまたはポリアルコールを表すか;またはX’は-NR’-であり、Yは、1つのそれの炭素原子によって、-NR’-基に結合されているサッカリドまたはポリアルコールを表す。他の実施形態において、ポリアルコールは、ヒドロキシ基を含有するポリマーである。ヒドロキシ含有ポリマーは、例えば、少なくとも2、3、4、5または6、および最大、例えば、8、9、10、12、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400または500のモノマー単位を含むことができる。こうしたポリマーの一部の例としては、ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシメチルメタリクレート)およびポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)が挙げられる。ポリアルコール基は、ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸(PVA-PAA)コポリマーなどのコポリマーに統合されているまたはされていない。一部の実施形態において、ポリアルコール含有コポリマーは、ポリアクリル酸(PAA)、ポリグルタミン酸、またはポリアスパラギン酸など、アニオン性ポリマー部分であってよいポリアルコール部分およびアニオン性部分を含有する。
【0023】
式(1)における添字aおよびbは、独立して、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、25、30、35、40または50の整数である。一部の実施形態において、添字aおよびbは、独立して、30以下、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1200、1500、1800または2000である。一部の実施形態において、添字aは、添字bよりも小さいように選択される。例えば、添字aは、3~10、3~20、3~30または3~40の範囲内であってよく、一方、添字bは、30~500、40~500、50~500または60~500の範囲内である。他の実施形態において、添字aは、添字bよりも大きいように選択される。例えば、添字aは、30~500、40~500、50~500または60~500の範囲内であってよく、一方、添字bは、3~10、3~20、3~30または3~40の範囲内である。
【0024】
式(1)における添字cは、少なくとも1の整数である。異なる実施形態において、cは、正確には1、2、3、4、5、6、7,8、9、10、11もしくは12であるか、またはcは、前述の値の任意の2つによって結合された範囲内である。cの値は、cによって範囲を定められているメチレン基の数に対応する。つまり、添字cが1である場合、CHリンカーは、式(1)に示されているXと第四級アンモニウム基との間に存在し;添字cが2である場合、CHCHリンカーは、式(1)に示されているXと第四級アンモニウム基との間に存在する。
【0025】
式(1)に示されていないが、式(1)に図示されている構造は、必然的に(即ち、化学の法則によって)コポリマーの2つの端部の各々に終端基を含む。終端基は、例えば、水素原子、炭化水素基R、またはヘテロ原子含有基、例えば-OH、-OCH、ニトリル含有アルキル(例えば、ラジカル開始剤または連鎖移動剤によって提供される)、チオール(-SH)、またはジチオエステル基(RAFT連鎖移動剤によって提供される通り)から独立して選択される。一部の実施形態において、末端基の少なくとも1つはチオール基である。終端基は、しばしば、ブロックコポリマーを合成するために使用される前駆体反応物中に元々存在する基に対応し、したがって、終端基の型は、ブロックコポリマーを合成するために使用される化学にしばしば依存性である。それでもなお、終端基は、適当には、最初に生成されたブロックコポリマーを反応させることで、特定の終端基、例えば、ブロックコポリマーを所望の生体組織に結合するのを補助する軟骨結合性ドメイン(例えば、ペプチド含有基)を付加することによって調整することができる。一部の実施形態において、軟骨結合性ドメインは、形態RS-における通り、-S-リンカーを介してブロックコポリマーに付着されており、ここでRは、軟骨結合性ドメインである。さらに、その上、式(1)に示されていないが、式(1)に図示されているコポリマーにおける第四級アンモニウム基の総正電荷は、アンモニウム基に結合したアニオンによって提供される同等の大きさの総負電荷によって均衡化されている。アニオンは、例えば、ハロゲン化物(例えば、塩化物、臭化物、またはヨウ化物)、カーボネート、ビカーボネート、サルフェート、ビサルフェート、ビサルファイト、カルボキシレート(例えば、アセテート、プロピオネート、ブチレート、マレエートおよびシトレート)、およびスルホネート(例えば、メシレート)など、生きている生物体への投与に許容される任意の種から選択することができる。
【0026】
本明細書において考えられるブロックコポリマーの第2のクラスは、以下の包括的構造:
【化4】
によって包含される。
【0027】
式(2)において、式(2)における可変XおよびYは、上記にて式(1)下で提供されている通りに定義される。可変Rは、水素原子、1~12個の炭素原子(またはさらに特定すると、少なくとも4個、5個もしくは6個および最大7個、8個、9個、10個、11個もしくは12個の炭素原子)を有する炭化水素基(R)、または軟骨結合性ドメインである。Rが1~12個の炭素原子を有する炭化水素基である場合、炭化水素基は、さらに特定すると、線状または分枝のアルキル基またはアルケニル基であってよい。一部の実施形態において、軟骨結合性ドメインは、モノペプチド、ジペプチド、トリペプチド、または少なくとも4、および最大5、6、7、8、9もしくは10のペプチド単位を含有するオリゴペプチドであってよいペプチド含有基(または「ペプチド」)である。軟骨結合性ペプチドは、例えば、TKKTLRT、SQNPVQP、WYRGRL、SYIRIADTNまたはCQDSETRFY(配列番号:それぞれ1~5)、コレステロールもしくは他のステロール部分、またはブロックコポリマーを生体組織に結合するのに有用な任意の他の部分であってよい。軟骨結合性ドメイン、疎水性アルキル鎖、ステロールまたは他の薬剤をブロックコポリマーに付着させるためのコンジュゲーション化学は、当業者に知られている。示されていないが、式(2)における構造は、必然的に、RS-終端基と反対側の終端基も含む。他方の終端基は、上記にて式(1)下で記載されている通りであり得る。
【0028】
式(2)における添字dおよびeは、独立して、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、25、30、35、40または50の整数である。一部の実施形態において、添字dおよびeは、独立して、30以下、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1200、1500、1800または2000である。一部の実施形態において、添字dは、添字eよりも小さいように選択される。例えば、添字dは、3~10、3~20、3~30または3~40の範囲であってよく、一方、添字eは、30~500、40~500、50~500または60~500の範囲内である。他の実施形態において、添字dは、添字eよりも大きいように選択される。例えば、添字dは、30~500、40~500、50~500または60~500の範囲内であってよく、一方、添字eは、3~10、3~20、3~30または3~40の範囲内である。
【0029】
式(2)における添字fは、少なくとも1の整数である。異なる実施形態において、fは、正確には、1、2、3、4、5、6、7,8、9、10、11もしくは12であるか、またはfは、前述の値の任意の2つによって結合される範囲内である。添字fが1である場合、CHリンカーが存在する。添字fが2である場合、CHCHリンカーが存在する。
【0030】
式(2)において、示されているカルボン酸基上の水素原子は、正荷電金属イオンまたは正荷電有機基と置き換えることができる(即ち、場合により、置き換えられている)。正荷電金属イオンの一部の例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンが挙げられる。正荷電有機基の一部の例としては、アンモニウムイオン、例えばジメチルイオン、トリメチルイオンまたはテトラメチルアンモニウムイオンが挙げられる。
【0031】
上に記載されているブロックコポリマーは、任意の適当な重合方法によって合成することができる。特別な実施形態において、ブロックコポリマーは、当技術分野においてよく知られている可逆的付加フラグメンテーション連鎖移動(RAFT)重合によって合成される。RAFTプロセスにおいて、第1のポリマーブロックは、第1の官能化ビニルモノマー(例えば、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、即ち、DMAEA)をRAFT移動剤(例えば、4-シアノペンタン酸ジチオベンゾエート、即ち、CPADB)と、重合開始剤(例えば、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、即ち、ACPA)の存在下で反応させることによって生成される。第1のポリマーブロックは次いで、第2の官能化ビニルモノマー(例えば、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート)と重合開始剤の存在下で反応させることで、重合された第2の官能化ビニルモノマーのブロックを第1のポリマーブロックに付加する。
【0032】
以下のスキームは、例証的なRAFTプロセス:
【化5】
を示す。
【0033】
別の態様において、本発明は、本発明の1つまたはそれ以上のブロックコポリマーおよび薬学的に許容される担体(即ち、賦形剤または希釈液)を含有する医薬製剤を対象とする。医薬製剤は、関節内、鼻腔内、膣内または眼球の送達を含めて、様々な送達形態に適当な使用のために調製することができる。「薬学的に許容される担体」という成句または同等の用語は、本明細書で使用される場合、液体(希釈液または賦形剤)または固体の充填剤であってよい、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクルを指す。「薬学的に許容される」という成句は、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスク比に相応する、過度の毒性、刺激性、アレルギー応答または他の問題もしくは合併症なくヒトおよび動物の組織との接触における使用に適当である、それらの化合物、材料、組成物および/または剤形を指す。医薬組成物において、該化合物は、一般に、混合されること(例えば、固体形態で固体担体と)または液体担体中に溶解もしくは乳化されることのいずれかによって、生理学的に許容される担体中に分散される。担体は、製剤の他の成分と適合性があるとともに対象に対して生理学的に安全であるべきである。当技術分野において知られている担体のいずれもが、投与のモードに依存して、本明細書において適当であり得る。適当な担体の一部の例としては、水溶液、ゼラチン、脂肪酸(例えば、ステアリン酸)およびその塩、タルク、植物性脂肪または油、ガムおよびグリコール、デンプン、ならびにデキストランなどが挙げられる。
【0034】
該医薬組成物は、安定剤、界面活性剤、塩、緩衝剤、添加剤、またはその組合せなどの1つまたはそれ以上の助剤を含むこともでき、これらの全てが医薬技術分野においてよく知られている。安定剤は、例えば、オリゴ糖(例えば、スクロース、トレハロース、ラクトースまたはデキストラン)、糖アルコール(例えば、マンニトール)、またはその組合せであってよい。界面活性剤は、例えば、ポリアルキレンオキシド単位を含有するもの(例えば、Tween20、Tween80、Pluronic F-68)を含めて、任意の適当な界面活性剤であってよく、これらは、典型的には約0.001%(w/v)から約10%(w/v)の量で含まれる。塩または緩衝剤は、例えば、それぞれ塩化ナトリウム、またはリン酸ナトリウムもしくはリン酸カリウムなど、任意の適当な塩または緩衝剤であってよい。添加剤の一部の例としては、例えば、グリセリン、ベンジルアルコールおよび1,1,1-トリクロロ-2-メチル-2-プロパノール(例えば、クロレトンまたはクロロブタノール)が挙げられる。必要とされるならば、該溶液のpHは、適当には、pH調整剤の包含によって調整することができる。局所的投与のための医薬組成物および製剤としては、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、点滴剤、坐剤、スプレー、液体および粉末を挙げることができる。従来の医薬担体、水性、粉末または油性の基剤、および増粘剤などは、必要または望ましいことがある。該医薬製剤は、1つまたはそれ以上の緩衝液、希釈液、および/または他の適当な添加剤、例えば、以下に限定されないが、浸透増強剤および担体化合物を含有する滅菌水溶液の形態であってよい。
【0035】
別の態様において、本発明は、上記にて式(1)および(2)下で記載されている生体模倣コポリマーを使用することによって、関節、軟骨および骨などの生体組織に潤滑性能を付与するための方法を対象とする。骨の場合において、生体模倣コポリマーは、変形性関節症の進行した段階に時々起こるような直接的な骨と骨の接触に起因する不快感、疼痛および追加の傷害を低減することができる。この方法に従って、生体組織は、上記にて式(1)および(2)下で記載されているコポリマー組成物のいずれかの十分な(即ち、有効なまたは治療的に有効な)量と接触させることで、潤滑性能を増加させるか、または適当なレベルの潤滑性能を生体組織に付与する。増加されたレベルの潤滑性能は、一般に、生体組織が同じ組織または他の材料に対して滑る場合、より低いレベルの摩擦(即ち、摩擦係数、または摩擦の係数、COF)に対応する。摩擦係数は、可変速度(一般に、0.1mm/s、0.3mm/s、1mm/s、3mm/sおよび10mm/s)および可変圧縮の法線応力(一般に250kPaから300kPa)で試料の線形振動によって表面潤滑を評価する摩擦計を使用して測定することができる。
【0036】
本明細書で使用される場合、「十分な量」、「治療有効量」および「有効量」という用語は、生体組織の十分な潤滑性能、もしくは疾患もしくは状態(例えば、変形性関節症)もしくはその1つもしくはそれ以上の症状の発症、再発もしくは発病の防止をもたらすのに、または別の治療の予防効果を増強もしくは改善し、疾患もしくは状態の重症度および持続期間を低減し、疾患もしくは状態の1つもしくはそれ以上の症状を寛解させ、疾患もしくは状態の前進を防止し、ならびに/もしくは追加の処置の治療効果を増強もしくは改善するのに十分である本発明のコポリマー組成物の量を指すために相互交換可能に使用される。
【0037】
ブロックコポリマーの治療有効量は、疾患または状態の進行を緩和、寛解、安定化、逆戻りもしくは遅延させるのに、またはそうでなければ、疾患もしくは状態の病理結果を低減する、もしくは疾患もしくは状態の症状を低減するのに十分な1つもしくはそれ以上の用量で患者に投与することができる。寛解または低減は、永久的である必要はないが、少なくとも1時間、少なくとも1日、もしくは少なくとも1週、またはそれ以上を範囲とする一定期間の間であり得る。有効量は、一般に、ケースバイケースで医師によって決定され、当業者の技能内である。有効量を達成するための適切な投与量を決定する場合、いくつかの因子が典型的に考慮される。これらの因子としては、患者の年齢、性別および体重、処置されている状態、状態の重症度、および投与の経路、剤形、レジメン、および所望の結果が挙げられる。本発明のある特定の実施形態において、治療有効量は、変形性関節症を処置するために、ある一定期間にわたって疼痛軽減を達成するために、関節の運動および柔軟性を改善するために、関節における摩擦または他の認容されている骨関節炎の改善度合いを低減するために有効な量である。例証的な実施形態において、投与量レベルは、0.1~10mLの注射体積で約0.1~10mg/mL(ヒトについて)、より典型的には0.1から3mLの注射体積で約1~5mg/mLを範囲とする。
【0038】
潤滑化されるべき生体組織は、医療技術分野においてよく知られている手段のいずれかによって、式(1)または(2)のブロックコポリマーのいずれかと接触させることができる。生体組織は、例えば、ブロックコポリマーを生体組織の中もしくは上に直接的にまたは潤滑化されるべき組織を囲む生体組織中に間接的に注射、輸注、移植、スプレーまたはコーティングすることによって、ブロックコポリマーと接触させることができる。一般に、生体組織を接触させることは、ブロックコポリマーが、コポリマーでの表面のコーティングまたは組織の浸浴に至る任意の方式で組織に送達されることを意味する。ある特定の実施形態において、組織は、関節空間への組成物の注射または輸注によって接触させ、それによって、軟骨および/またはその関節空間に見出される半月板のコーティングに至る。さらに、使用される体積は、医療技術分野の技術者によって決定することができるように、接触させる組織の型、空間が充填されているかどうか、または表面がコーティングされているかどうかに少なくとも部分的に依存性である。
【0039】
特別な実施形態において、関節炎または損傷された関節または骨の中または上にブロックコポリマーを注射または輸注することで、関節または骨の潤滑性能を改善する。このように、該コポリマーは境界潤滑を提供する。処置は、具体的には、変形性関節症を処置または防止することを対象とし得る。変形性関節症または損傷された関節、軟骨もしくは骨の処置は、好ましくは、症状の低減、移動性の改善、関節痛の減少、および疾患進行の全体的阻害、または損傷された関節の場合において予防をもたらす。該方法は、式(1)および(2)の範疇外でありながらブロックコポリマーと協力して増大するまたは働くように機能する別の組成物の同時または逐次の投与と一緒に、上に記載されているブロックコポリマーの1つまたはそれ以上を投与することを含むこともできる。増大(即ち、補助)組成物は、例えば、ヒアルロン酸、ラブリシン、滑液、グリコサミノグリカン、または他の助剤から選択することができる。これらの他の薬剤は、例えば、注射または輸注によって投与することもできる。一部の実施形態において、これらの他の薬剤は、上に記載されているブロックコポリマーの1つまたはそれ以上とともに相乗的に働くことで、潤滑および摩耗保護の増強を提供することができる。
【0040】
特別な実施形態において、生体組織は、関節、軟骨または骨、より典型的には、損傷されたまたは関節炎の関節、軟骨または骨である。一部の実施形態において、関節は、腰、膝または足首の関節など、体重負荷関節である。肩、肘、手首、手、手指およびつま先の関節を含めて、多くの異なる関節が、潤滑性能レベルの増加から利益を受けることができる。それでもなお、潤滑化される生体組織は、関節、軟骨および骨に限定されない。開示されているブロックコポリマーの使用によって潤滑化することができる他の生体組織としては、眼組織、鼻組織、および腟内組織が挙げられる。したがって、本明細書に記載されているブロックコポリマーの使用によって、関節、軟骨および骨と関連するものを超えて、様々な状態が処置される。これらの他の状態の一部としては、例えば、ドライアイ症候群、乾燥した鼻、閉経後の腟乾燥、手根管症候群、および他に多くが挙げられる。医療技術分野における技術者は、特別な生体組織を接触させるための適切な送達経路および方法を決定することができる。例えば、ドライアイについて、接触させることは、点滴剤を滴下輸注することによって達成することができ;乾燥した鼻について、接触させることは、経鼻スプレーによって達成することができ;手根管症候群について、接触させることは、炎症した腱および膜の近くまたは周囲に注射することによって達成することができ;閉経後の乾燥膣について、丸剤、トローチまたは坐剤は、腟の中に置くまたはそれに移植することができる。それゆえに、この方法が使用されることで、追加の潤滑から利益を受けることができる多種多様な生体組織のいずれについても、境界モード潤滑を達成することができる。
【0041】
例示の目的で、および現在における本発明の最良モードを記載するため、実施例が下記で説明されている。しかしながら、この発明の範囲は、本明細書において説明されている実施例によって決して限定されるものでない。
【実施例
【0042】
潤滑性ジブロックコポリマーの合成および特徴付け
ラブリシンの構築を模倣する努力において、ラブリシンのムチン様ドメインを模倣する大きい潤滑ブロック(約200kDaのM)およびC末端ドメインを模倣する小さい軟骨結合性ブロック(約3~10kDaのM)を含むジブロックコポリマーをここで製造した。2つの模倣ドメインを示す例証的な組成物は、図1に提供されている。図1に示されているジブロックコポリマーの潤滑ドメインは、ポリエチレングリコール(PEG)ブラシでグラフト化されたポリアクリル酸骨格を含有していた。前述の機能は、該ポリマーにおける水和および圧縮耐性を補助する。図1に示されているジブロックコポリマーの結合性ドメインは、アグリカンなど、負荷電軟骨構成成分と非特異的に相互作用するペンダント第四級アンモニウム基を有するポリアクリル酸骨格を含有していた。下記でさらに考察されている通り、このポリマーをラブリシン欠損ウシ関節軟骨に適用することは、著しく低減された摩擦の係数(COF)をもたらした。
【0043】
ジブロックコポリマーの合成は、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレートの可逆的付加フラグメンテーション連鎖移動(RAFT)重合で「予備結合性」ブロックを合成することから出発した。ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート(480のM)の後続のRAFT重合は、「予備結合性」ブロックをマクロ開始剤として使用することによって潤滑ブロックをコポリマーに添加した。「予備結合性」ブロックにおける第三級アミンを次いで、過剰な臭化エチルでブロックコポリマーを処理することによって第四級アンモニウム基に変換することで、最終生成物(約200kDaのM、PDI=1.8)を得た。一般的模式図が、以下の通りに(RおよびR’は、RAFT連鎖移動剤によって提供される部分を表す):
【化6】
提供される。
【0044】
24の重合度(DP)を有するポリ(2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート)(1)の合成
アニソール5mL中に4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)(ACPA)14.0mg(0.05mmol)、および4-シアノペンタン酸ジチオベンゾエート(CPADB)139.5mg(0.5mmol)を含有する溶液に、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(DMAEA)(4.30g、30mmol)を添加した。混合物を5つの凍結-融解サイクルによって脱酸素化した後に、それを最大70℃まで48時間の間加熱した。次いで反応物を液体窒素凍結することによってクエンチし、ヘキサンの添加(5回反復された)によって沈殿を誘発することによって、残留物を精製した。精製された生成物の構造は、前述の構造:
【化7】
を有していることがH NMRによって確認された。
【0045】
(1)にPEGブロックを付加することによるブロックコポリマー(2)の合成
アニソール6mL中に(1)30.9mg(0.009mmol)およびACPA 0.5mg(0.0018mmol)を含有する溶液に、PEG(9)-アクリレート、メトキシ終端(3.46g、7.2mmol)を添加した。混合物を5つの凍結-融解サイクルによって脱酸素化した後に、それを最大65℃まで8時間の間加熱した。次いで反応物を液体窒素凍結することによってクエンチし、ヘキサンの添加(5回反復された)によって沈殿を誘発することによって、残留物を精製した。精製された生成物の構造は、以下の構造:
【化8】
を有していることがH NMRおよびGPCによって確認された。
【0046】
ブロックコポリマー(2)の第四級アンモニウム誘導体(3)の合成
アセトン3mL中に(2)865.9mgを含有する溶液に、0℃で、臭化エチル0.3mLを滴下添加した。混合物を48時間の間室温で撹拌し、次いで、窒素流で溶媒を蒸発させることによってクエンチした。残留物を塩化メチレン中に溶解し、ヘキサンの添加(5回反復された)によって沈殿を誘発することによって、生成物を最初に精製した。次いで生成物(3)を0.01MのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液中に溶解させ、24時間の間0.01MのPBSおよび追加の48時間の間脱イオン水における透析によってさらに精製した後に凍結乾燥した。精製された生成物の構造(3)は、以下の構造:
【化9】
を有していることがH NMRおよびGPCによって確認された。
【0047】
軟骨に対するブロックコポリマー(3)の潤滑能力の評価
合成潤滑剤としてジブロックコポリマー(3)を評価するため、特注の軟骨オンガラス摩擦計を使用して、コポリマーの摩擦学的挙動を判定した(Gleghorn,J.P.ら、J.Orthop.Res.2009、27(6)、77)。軟骨試料を新生児ウシ後膝関節の膝蓋大腿溝から得て、1.5MのNaCl中でインキュベートすることで、ラブリシンを除去した。試料をPBS中でおよび次いでポリマー溶液中で120分間インキュベートすることで軟骨表面を飽和した。インキュベーション後、試料を境界モード条件(30%の圧縮ひずみおよび0.3mm/sの線形振動速度)下にてPBS浴中で摩擦計に載せた。ジブロック構築の重要性を実証するため、結合性ブロックのみおよび潤滑ブロックのみとして個々のブロックも同条件下で試験した。図2は、PBS、ジブロックコポリマー(3)、結合性ブロックのみおよび潤滑ブロックのみについての摩擦の係数(COF)結果をプロットするグラフである。インビトロ境界潤滑試験は、0.391±0.020から0.088±0.039(n=4~11、p<0.0001)へのCOFの減少をもたらしたが、これは、ラブリシン処置群の結果に匹敵する(COF=0.093±0.011で、図2における点線)(Gleghornら、上記参照)。とりわけ、減少されたCOFの同様の傾向は、個々のブロックのいずれかを使用する処置で観察されておらず、これは、結合性および潤滑性ブロックの両方が関節軟骨の境界潤滑に必要とされることを示唆している。
【0048】
潤滑のための結合性ブロックの重要性を、競合的結合研究によってさらに実証した。100:1から1:1を範囲とする結合性ブロック:ジブロックコポリマーのモル比にて結合性ドメインおよびジブロックコポリマーの組合せで構成された溶液への曝露の後、軟骨試料のCOFを特徴付けた。図3は、結合性ブロック:ジブロックコポリマー(3)比が変動する溶液のCOFをプロットするグラフである。図3におけるデータによって示されている通り、試料のCOFは、用量応答挙動を呈した。予想された通り、高濃度の結合性ドメインは、ジブロックコポリマーによって潤滑を有効に阻害したが、これは、表面上のポリマーを効果的に結合することが、軟骨を有効に潤滑することにおいて、それらの成功に不可欠であることを示唆している。図3に示されている通り、挙動はS字形の用量応答に追従している(R=0.87、IC50=13.45、n=4~6)。
【0049】
別の実験において、ジブロックコポリマーのランダムコポリマー版(即ち、同じモノマー単位であるが、ブロックの代わりにランダム様式でコポリマーに組み込まれた)を、2つのモノマーのランダムRAFT共重合、続いて第四級アンモニウム変換によって合成した。図4は、ジブロックコポリマー(3)およびランダムポリマー版のCOF(上に記載されている通りの摩擦学的試験の同じ方法を使用する)をプロットするグラフである。とりわけ、図4における結果によって示されている通り、ランダムコポリマーは、関節軟骨を潤滑することにブロックコポリマーよりも有意に能力が低かった。ランダムポリマーが同じ試験において関節軟骨を潤滑しないことは、著しく改善された潤滑能力を提供するための結合性ブロックの重要性を確認した。境界潤滑モードにおいて、摩擦特性は、固体-固体相互作用によって主に支配され、そのため、対向する表面の物理的および化学的特性に大きく依存性である。境界モード潤滑剤が軟骨表面を有効にコーティングする分子層を形成することで正常負荷を支持することは重大である。ポリマー骨格において無作為に分布されている個々の正荷電第四級アンモニウム基は、軟骨表面と効果的に相互作用できず、これは再び、ジブロック構造の重要性を実証している。
【0050】
次に、ジブロックコポリマーの一部の鍵となる潤滑パラメータを評価し、天然ラブリシンと比較した。簡潔には、濃度が0.01から10mg/mLを範囲とする(3)の溶液で処理された軟骨試料を使用して、投薬研究を行った。図5Aは、ジブロックコポリマー(3)の濃度の関数としてCOFをプロットするグラフである。図5Aによって示されている通り、試料のCOFは、高濃度のコポリマー(3)がラブリシンに匹敵する(EC50は、同様の条件下で0.030mg/mLよりも大きい)レベルで軟骨の有効な潤滑(EC50=0.404mg/ml)をもたらす用量応答性挙動(R=0.89)を呈した。図5Bは、異なる持続期間の間1mg/mLのジブロックコポリマー(3)を用いる、インキュベーション時間の関数としてCOFをプロットするグラフである。結果として得られたグラフは、結合キネティクス曲線と考えることができる。S字形投薬曲線の屈曲点を使用して、濃度を選択した。1フェーズ減衰、続いてプラトーモデル(R=0.95)にフィットさせた場合、結合キネティクス曲線(図5B)は、7.19分の結合時定数(τ)を明らかにしたが、これは、天然ラブリシン(約9分)のそれに匹敵し、例えば、Gleghornら、上記参照のこと。
【0051】
上記結果は、構築が潤滑性タンパク質ラブリシンを模倣するジブロックコポリマーの設計の成功を実証している。カスタム摩擦計によって評価され、ブロックコポリマー(3)は、境界モード(0.088±0.039)において関節軟骨の摩擦の係数を天然ラブリシン(0.093±0.011)と同等であるレベルに低減するのに成功した。追加として、このポリマーのEC50(0.404mg/mL)および結合時定数(7.19分)の両方は、ラブリシンの対応するパラメータ(>0.03mg/mL、約9分)に匹敵する。ラブリシンのように、このジブロックコポリマーの際立つ摩擦学的特性は、それの分子構築によって説明することができる。特に、関節軟骨に対するこのポリマーの効果的な結合は、有効な潤滑に必須であることが示されている。ブロックコポリマー(3)は、予想外にも、ラブリシンの少なくとも潤滑能力を所有することが示されており、これは有意な臨床的可能性を示す。
【0052】
骨に対するブロックコポリマー(3)の潤滑能力の評価
この研究において、同じブロックコポリマー(3)を、骨に対するそれの潤滑能力について試験した。骨試料を新生児ウシ後膝関節の大腿顆状突起から得た。骨プラグを軟骨層から成長板までずっと6mm径のドリルによって抽出し、高さ2mmまで削り取った。軟骨層を除去することによって、肋軟骨下表面を曝露し、ドリルした骨プラグの内側部分を切断することによって、海綿骨プラグを得た。骨試料をPBS溶液中でおよび次いで(3)を含有するポリマー溶液中でインキュベートした(2時間の間10mg/mLまたは1時間の間1mg/mL)。摩擦学的特性を特注の骨オンガラス摩擦計(Gleghornら、上記参照)で450gの正常負荷ならびに0.3mm/s、1mm/sおよび3mm/sの線形振動速度下にて測定した。法線力によって除された、滑りながらの平均剪断力として、摩擦の係数を算出した。適合滑り速度を用いる一方向ANOVAおよびスチューデントt-試験を使用することで、処置間の数理的有意性を決定した。
【0053】
海綿骨および肋軟骨下骨の両方の摩擦の係数(COF)が、同条件下で軟骨と比較して著しく上昇されることは、よく知られている。図6Aおよび6Bは、ジブロックコポリマー(3)溶液(2時間の間10mg/mLまたは1時間の間1mg/mL)またはPBS溶液でそれぞれ処置された海綿骨および肋軟骨下骨の試料のCOFをプロットするグラフである。境界モードにおけるPBS中または滑液中の軟骨のCOFも示されている。図6Aおよび6Bにおいてデータによって示されている通り、ポリマー溶液中でインキュベートされた骨プラグ試料は、PBS対照よりも有意に低いCOFを呈した(海綿骨については約-0.2のΔCOF、p<0.05;肋軟骨下骨については約-0.15のΔCOF、p<0.05)。図6Aおよび6Bにおけるデータによっても確かめることができる通り、潤滑は、より高い濃度(例えば、1mg/mL超、または少なくとも2mg/mL、5mg/mLまたは10mg/mL)のポリマー溶液および/またはより長いインキュベーション時間(例えば、1時間超、または少なくとも1.5時間または2時間)を使用して、より改善されている。結果は、本明細書に記載されているブロックコポリマーが、境界モードにおけるPBS中の軟骨のCOFに匹敵するまたは優位でさえあるレベルに軟骨または骨を有効に潤滑することを実証している。理論によって束縛されることなく、本発明のジブロックコポリマーは、負に荷電された軟骨または骨のミネラル構成成分と強く相互作用するとともにボトルブラシ型の構築のおかげで垂直圧縮に抵抗すると考えられる。
【0054】
本発明の好ましい実施形態と現在考えられているものが示され、記載されているが、当業者は、添付の請求項によって定義されている本発明の範囲内にとどまる様々な変化および修飾を作製することができる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6