(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】細孔性モノリスの形態にある光触媒を用いる光触媒的二酸化炭素還元方法
(51)【国際特許分類】
C07C 1/02 20060101AFI20220609BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220609BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20220609BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20220609BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20220609BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20220609BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220609BHJP
【FI】
C07C1/02
B01J35/02 J ZAB
B01J35/10 301G
B01J35/04 A
B01J23/10 M
C07C9/04
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019557560
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2018060380
(87)【国際公開番号】W WO2018197435
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-19
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】ベルナデット ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】フェカン アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ウズィオ ドゥニ
(72)【発明者】
【氏名】バッコフ レナル-ヴァスコ
(72)【発明者】
【氏名】ラヴァイン セルジュ
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-063895(JP,A)
【文献】特開昭55-105625(JP,A)
【文献】国際公開第2004/113251(WO,A1)
【文献】特開平08-099041(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0295178(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0190639(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105854860(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0044919(KR,A)
【文献】国際公開第2015/011072(WO,A1)
【文献】TAHIR, M. et al.,Photocatalytic CO2 reduction and kinetic study over In/TiO2 nanoparticles supported microchannel monolith photoreactor,Applied Catalysis A: General,2013年,Vol.467,pp.483-496,DOI:10.1016/j.apcata.2013.07.056
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔性モノリスの形態にある
少なくとも1種の半導体からなる光触媒を用いて光照射下に液相中および/または気相中で行われる光触媒的二酸化炭素還元方法であって、以下の工程:
a) 二酸化炭素および少なくとも1種の犠牲化合物を含有している供給原料を、0.25g/mL以下のバルク密度を含んでいる細孔性モノリスの形態にある光触媒と接触させる工程;
b) 該光触媒に、前記光触媒のバンドギャップより低い少なくとも1つの波長を生じさせる少なくとも1種の光照射源により光照射する工程であって、-10℃~200℃の温度、および0.01MPa~70MPaの圧力で行われる、工程
を含
み、
前記方法が気相中で行われる場合に、犠牲化合物は、水、アンモニア水、水素、メタンおよびアルコールから選ばれる気体性化合物であり、
前記方法が液相中で行われる場合に、犠牲化合物は、水、アンモニア水、アルコール、アルデヒドまたはアミンから選ばれる可溶性の固体または液体の化合物であり、
前記細孔性モノリスの形態にある光触媒は、細孔径が0.2nm超かつ50nm以下であるメソ細孔を有し、そのメソ細孔容積は、0.01~1mL/gであり、細孔径が50nm超かつ1000nm以下であるI型マクロ細孔を有し、I型マクロ細孔容積は、0.1~3mL/gであり、細孔径が1μm超かつ10μm以下であるII型マクロ細孔を有し、II型マクロ細孔容積は、0.1~8mL/gである、方法。
【請求項2】
光照射源は、人工または天然の光照射源である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
細孔性モノリスの形態にある光触媒は、メソ孔隙および/またはI型マクロ孔隙および/またはII型マクロ孔隙を含む、請求項
1または2に記載の方法。
【請求項4】
細孔性モノリスの形態にある光触媒は、細孔径が10μm超であるマクロ細孔を含み、該マクロ細孔容積は、0.5mL/g未満である、請求項1~
3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
細孔性モノリスの形態にある光触媒が含むバルク密度は、0.19g/mL未満である、請求項1~
4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
細孔性モノリスの形態にある光触媒が有する比表面積は、10~1000m
2/gである、請求項1~
5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
半導体は、TiO
2、ZnO、Cu
2O、CuO、Ce
2O
3、CeO
2、In
2O
3、SiC、ZnSおよびIn
2S
3から単独または混合物として選ばれる、請求項1~
6のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、光触媒を用いることによる光照射下の二酸化炭素(CO2)の光触媒的還元の分野である。
【背景技術】
【0002】
化石燃料、例えば、石炭、石油および天然ガスは、それらの利用可能性、それらの安定性およびそれらの高いエネルギー密度の故に、従来からの主要な世界的エネルギー供給源である。しかしながら、それらの燃焼により、地球の温暖化の主因であると考えられている二酸化炭素の放出が引き出される。それ故に、CO2を捕捉するかまたはそれを転化させるかのいずれかによって、CO2の放出を低減させる必要性が増している。
【0003】
「受動的(passive)」な炭素の捕捉および分離(carbon capture and sequestration:CCS)は、一般的に、CO2の放出を低減させるための能率的な方法であると考えられているが、他の戦略が想定され得、特に、CO2を、経済的価値を有する物、例えば、工業的燃料および化学製品に転化させる「能動的(active)」な戦略がある。
【0004】
このような戦略は、二酸化炭素を利用可能な物に還元することに基づいている。
【0005】
二酸化炭素の還元は、生物学的に、熱的に、電気化学的に、あるいは、光触媒的に行われ得る。
【0006】
これらの選択肢の中で、光触媒的CO2還元は、ますますの注目を得ているところである。光触媒的CO2還元は、代替の形態のエネルギーを、例えば、太陽エネルギーを利用することによって潜在的に消費することができ、この太陽エネルギーは、豊富であり、安価であり、かつ生態学的にクリーンかつ安全であるからである。
【0007】
光触媒的二酸化炭素還元により、C1以上の炭素ベースの分子、例えば、CO、メタン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸、あるいは他の分子、例えば、カルボン酸、アルデヒド、ケトンあるいは種々のアルコールを得ることが可能となる。これらの分子、例えば、メタノール、エタノール、ギ酸あるいはメタンおよび全てのC1
+炭化水素は、エネルギーの点で直接的に有用であり得る。一酸化炭素COも、フィッシャー・トロプシュ合成による燃料の形成のために水素との混合物としてエネルギー目的のために利用され得る。カルボン酸分子、アルデヒド分子、ケトン分子または、種々のアルコールの分子は、それらの一部について、化学または石油化学の方法において用途を有することができる。全てのこれらの分子は、それ故に、工業的な観点から非常に興味深いものである。
【0008】
犠牲化合物が存在する中での光触媒的二酸化炭素還元のための方法が従来技術において知られている。
【0009】
Halmannら(非特許文献1)は、水性媒体中のCO2の光触媒的還元について3種の半導体(TiO2、SrTiO3およびCaTiO3)の性能レベルを評価した。彼らは、ホルムアルデヒド、ギ酸およびメタノールの生成を観察している。
【0010】
Anpoら(非特許文献2)は、水蒸気によるゼオライトのミクロ細孔中に固定されたTiO2ベースの光触媒上のCO2の光触媒的還元を研究した。前記光触媒は、気体状メタノールに非常に高い選択性を呈する。
【0011】
TiO2ベースの光触媒であって、白金のナノ粒子がその上に沈着させられたものが、CO2およびH2Oの気相中混合物をメタンに転化させるために知られている(非特許文献3)。
【0012】
金のナノ粒子を負荷されたTiO2ベースの光触媒も、気相中(非特許文献4)および水性相中(非特許文献5)のCO2の光触媒的還元についての文献から知られている。
【0013】
水溶液中のCO2のメタノール、ギ酸およびホルムアルデヒドへの光触媒的還元が、種々の半導体、例えば、ZnO、CdS、GaP、SiCまたはWO3を用いて行われ得ることも知られている(非特許文献6)。
【0014】
Liouら(非特許文献7)は、CO2をCH3OHに還元するためにNiOドープInTaO4光触媒を使用した。
【0015】
Satoら(非特許文献8)は、CO2の選択的還元を行うためにp型InP半導体とルテニウムにより錯化されたポリマーとを合金にする混成系を研究した。
【0016】
最後に、公開文献からの総説および成書の章により、光触媒的二酸化炭素還元において用いられる光触媒の網羅的概要が提供されている:一方の非特許文献9および他方の非特許文献10。
【0017】
本発明の目的は、新しく、長続きする、かつより有効な炭素ベースの分子の製造のルートであって、少なくとも1種の半導体を含有している細孔性モノリスの形態にある光触媒を用いた、電磁気エネルギーによる光触媒的二酸化炭素転化によって利用され得る、ルートを提供することにある。光触媒的CO2還元のためのこのタイプの光触媒の使用により、この反応のための既知の実施と比較して改善された性能レベルを達成することが可能となる。実際に、非特許文献11から、照射表面の単位当たりの光触媒活性は、光触媒の重量により増大し、その後プラトーに達することが知られている。驚くべきことに、光触媒的二酸化炭素還元のために少なくとも1種の半導体を含有している細孔性モノリスの形態にある光触媒を使用することは、光触媒の重量を増大させることにより光照射表面の単位当たりの活性を増大させることを可能にするが、これは、他の形態(例えば粉体)については該当しない。
【0018】
特許出願(特許文献1)には、可視スペクトルにおける光照射下に空気中または水中の汚染物質をH2に分解するためのまたは可視スペクトルにおける光照射下に水をH2にクラッキングするための光触媒としての細孔性モノリスの形態にあるN-TiO2をベースとする材料の使用が記載されている。文献(特許文献2)には、TiO2を含有している細孔性モノリスを調製する方法および光照射下に空気中または水中の汚染物質を分解するための光触媒としてのその使用が記載されている。
【0019】
M. TahirおよびN. S. Amin(非特許文献12および13)から、ミリメートルサイズのチャネルを含有しており、かつ、このチャネルが光触媒的CO2還元のための半導体化合物によりコーティングされている「ハニカム」タイプのモノリスを用いることも知られている。それにも拘わらず、このタイプの物体は、単位体積当たりの高い密度(約0.8~0.9g/mL)を有し、この高い密度により、大きな比表面積を得ることが可能とならない。
【0020】
しかしながら、いずれの文献にも、光触媒的二酸化炭素還元方法において、少なくとも1種の半導体を含有している細孔性モノリスの形態にある光触媒を用いることは何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】国際公開第2015/11072号
【文献】仏国特許出願公開第2975309号明細書
【非特許文献】
【0022】
【文献】Halmannら著、“Solar Energy”、1983年、第31巻、第4号、p.429-431
【文献】Anpoら著、“J. Phys. Chem. B”、1997年、第101巻、p.2632-2636
【文献】Q-H. Zhangら著、“Catal. Today”、2009年、第148巻、p.335-340
【文献】S.C. Royら著、“ACS Nano”、2010年、第4巻、第3号、p.1259-1278
【文献】W. Hou ら著、“ACS Catal.”、2011年、第1巻、p.929-936
【文献】T. Inoueら著、“Nature”、1979年、第277巻、p.637-638
【文献】Liouら著、“Energy Environ. Sci.”、2011年、第4巻、p.1487-1494
【文献】Satoら著、“JACS”、2011年、第133巻、p.15240-15243
【文献】M. Tahir、N. S. Amin著、“Energy Conv. Manag.”、2013年、第76巻、p.194-214
【文献】“Photocatalysis, Topics in current chemistry”、2011年、第303巻、C. A. Bignozzi(編集長)、Springer、p.151-184
【文献】J. M. Herrmann著、“Topics in Catalysis”、2005年、第34巻、p.1-4
【文献】M. TahirおよびN. S. Amin著、“Appl. Catal. A: General”、2013年、第467巻、p.483-496
【文献】M. TahirおよびN. S. Amin著、“Chem. Eng. J.”、2013年、第230巻、p.314-327
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
(発明の主題)
本発明は、少なくとも1種の半導体を含有している細孔性モノリスの形態にある光触媒を用いて光照射下に液相中および/または気相中で行われる光触媒的二酸化炭素還元方法に関する。前記方法は、より詳細には、以下の工程:
a) 二酸化炭素を含有している供給原料および少なくとも1種の犠牲化合物を、0.25g/mL以下のバルク密度を含んでいる細孔性モノリスの形態にある光触媒と接触させる工程;
b) 該光触媒に、光触媒のバンドギャップより低い少なくとも1つの波長を生じさせる少なくとも1つの照射源を照射して、前記照射源によって活性にされた前記光触媒の存在下に二酸化炭素を還元し、かつ、犠牲化合物を酸化し、少なくとも一部においてCO2以外のC1以上の炭素ベースの分子を含有している流出物を生じさせる工程
を含む。
【0024】
バルク密度は、触媒の重量対それの幾何学量の比を取ることによって計算される。
【0025】
一変形例によると、本方法が気相中で行われる場合、犠牲化合物は、水、アンモニア水、水素、メタンおよびアルコールから選ばれる気体化合物である。
【0026】
一変形例によると、本方法が液相中で行われる場合、犠牲化合物は、水、アンモニア水、アルコール、アルデヒドまたはアミンから選ばれる液相に可溶な化合物である。
【0027】
一変形例によると、工程a)および/またはb)において希釈流体が存在する。
【0028】
一変形例によると、光照射源は、人工または天然の光照射源である。
【0029】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、細孔径が0.2nm超かつ50nm以下であるメソ細孔を有し、そのメソ細孔容積は、0.01~1mL/g、好ましくは0.05~0.5mL/gである。
【0030】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、I型マクロ細孔、すなわち、細孔の径が50nm超かつ1000nm(1μm)以下であるマクロ細孔を有し、このI型マクロ細孔容積は、0.1~3mL/g、好ましくは0.2~2.5mL/gである。
【0031】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、II型マクロ細孔、すなわち、細孔の径が1μm超かつ10μm以下であるマクロ細孔を有し、そのII型マクロ細孔容積は、0.1~8mL/g、好ましくは0.5~8mL/gである。
【0032】
一つの好ましい変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、メソ孔隙および/またはI型マクロ孔隙および/またはII型マクロ孔隙を有している。
【0033】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、細孔径が10μm超であるマクロ細孔も有しており、そのマクロ細孔容積は、0.5mL/g未満である。
【0034】
一つの好ましい変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒が有するバルク密度は、0.05~0.5g/mLである。
【0035】
マクロ細孔容積およびメソ細孔容積は、規格ASTM D4284-83に従う、最大圧力4000バールでの、表面張力484dynes/cmおよび接触角140°を用いた水銀圧入ポロシメトリによって測定される。
【0036】
一変形例によると、メソ細孔性モノリスの形態にある前記光触媒が有する(S. Brunauer, P.H. Emmett, E. Teller, J. Am. Chem. Soc., 1938, 60 (2), pp 309-319において定義された、Brunauer,Emmett,Teller法、すなわち、BET法から確立された規格ASTM D 3663-78に従って測定される)比表面積は、10~1000m2/g、好ましくは50~600m2/gである。
【0037】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、4eV超のエネルギーを有する光子を吸収しない少なくとも1種の無機相内に希釈された少なくとも1種の半導体を含む。好ましくは、無機相は、シリカまたはアルミナを含有する。
【0038】
一つの好ましい実施形態によると、モノリス形態にある光触媒は、半導体によって構成される。
【0039】
一つの好ましい変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒が少なくとも1種の半導体を含み、この半導体が、4eV超のエネルギーを有する光を吸収しない少なくとも1つの無機相内に分散させられている場合、その半導体の含有率は、光触媒の全重量に対して5重量%~70重量%である。
【0040】
一変形例によると、前記光触媒は、元素周期律表の第VIIIB族、第IB族および第IIIA族の元素から選ばれる少なくとも1種の元素Mを金属の状態で含有してよい。好ましくは、金属の状態にある元素(1種または複数種)Mの含有率は、光触媒の全重量に対して0.001重量%~20重量%である。
【0041】
好ましくは、光触媒の半導体は、TiO2、ZnO、Cu2O、CuO、Ce2O3、CeO2、In2O3、SiC、ZnSおよびIn2S3から単独または混合物として選ばれる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(発明の詳細な説明)
(定義)
本明細書の以降において、化学元素の族は、CAS分類(CRC Handbook of Chemistry and Physics, CRC Pressによる出版, 編集長 D.R. Lide, 第81版, 2000-2001)に従って与えられる。例えば、CAS分類による第VIII族は、新IUPAC分類による8、9および10族の金属に相当する。
【0043】
用語「犠牲化合物(sacrificial compound)」は、被酸化性化合物を意味するとして意図される。犠牲化合物は、気体または液体の形態にあってよい。
【0044】
用語「C1以上の炭素ベースの分子(C1 or higher carbon-based molecules)」は、CO2を除く1個以上の炭素原子を含有しているCO2の還元に由来する分子を意味するとして意図される。このような分子は、例えば、CO、メタン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸、あるいは、他の分子、例えば、炭化水素、カルボン酸、アルデヒド、ケトンまたは種々のアルコールである。
【0045】
本説明において、IUPACコンベンションによると、用語「ミクロ細孔(micropores)」は、径が2nm未満である細孔を意味するとして意図される;「メソ細孔(mesopores)」は、径が2nm超かつ50nm以下である細孔を意味するとして意図され、「マクロ細孔(macropores)」は、径が50nm超である細孔を意味するとして意図され、より特定的には、「I型マクロ細孔(type-I macropores)」は、径が50nm超かつ1000nm(1μm)以下である細孔を意味するとして意図され、「II型マクロ細孔(type-II macropores)」は、径が1μm超かつ10μm以下である細孔を意味するとして意図される。
【0046】
(説明)
本発明の主題は、少なくとも1種の半導体を含有している細孔性モノリスの形態にある光触媒を用いて、光照射下に液相中および/または気相中で行われる光触媒的二酸化炭素還元方法であって、以下の工程:
a) 二酸化炭素を含有している供給原料および少なくとも1種の犠牲化合物を、細孔性モノリスの形態にあり、かつ0.25g/mL以下のバルク密度を含んでいる光触媒と接触させる工程;
b) 該光触媒に、前記光触媒のバンドギャップより低い少なくとも1つの波長を生じさせる少なくとも1つの光照射源を照射して、前記光照射源によって活性にされた前記光触媒の存在下に二酸化炭素を還元し、かつ、犠牲化合物を酸化して、CO2以外のC1以上の炭素ベースの分子を少なくとも一部において含有している流出物を生じさせる工程
を含む、方法である。
【0047】
本発明による方法の工程a)によると、前記二酸化炭素を含有している供給原料および少なくとも1種の犠牲化合物は、前記光触媒と接触させられる。
【0048】
本発明による方法は、液相中および/または気相中で行われ得る。
【0049】
本方法により処理される供給原料は、気体の形態、液体の形態または気体および液体の二相の形態にある。
【0050】
供給原料が気体の形態にある場合、CO2は、単独または混合物としての任意の気体性の犠牲化合物の存在下にその気体の形態で存在する。気体性の犠牲化合物は、被酸化性化合物であり、例えば、水(H2O)、水素(H2)、メタン(CH4)あるいはアルコールである。好ましくは、気体性の犠牲化合物は、水または水素である。供給原料が気体の形態にある場合、CO2および犠牲化合物は、気体性の希釈流体、例えば、N2またはArにより希釈され得る。
【0051】
供給原料が液体の形態にある場合、それは、イオン性、有機性または水性の液体の形態であり得る。液体の形態にある供給原料は、優先的には、水性である。水性媒体中で、CO2は、水性の炭酸(H2CO3)の形態、炭酸水素の形態または炭酸塩の形態で溶解させられる。犠牲化合物は、液体供給原料中に可溶である液体または固体の被酸化性化合物であり、例えば、水(H2O)、アルコール、アルデヒドまたはアミンである。好ましくは、犠牲化合物は、水である。液体供給原料が水性溶液である場合、そのpHは、一般的には1~9、好ましくは2~7である。場合によっては、水性液体供給原料のpHを調節するために、塩基性または酸性の試薬が供給原料に加えられ得る。塩基性の試薬が導入される場合、それは、好ましくは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、有機塩基、例えば、アミンまたはアンモニア水から選択される。酸性の試薬が導入される場合、それは、好ましくは、無機酸、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、塩化水素酸または臭化水素酸、または有機酸、例えば、カルボン酸またはスルホン酸から選択される。
【0052】
場合によっては、液体供給原料が水性である場合に、それは、任意の量で、あらゆる溶媒和イオン、例えば、K+、Li+、Na+、Ca2+、Mg2+、SO4
2-、Cl-、F-またはNO3
2-を含有してよい。
【0053】
本方法が液相中または気相中で行われる場合、希釈流体(これは、それぞれ、液体性または気体性である)が反応媒体中に存在してよい。希釈流体の存在は、本発明を行うために必要とされるわけではない;しかしながら、媒体中の供給原料の分散、光触媒の分散、光触媒の表面における試薬/生成物の吸着の制御、光触媒による光子の吸収の制御、その再結合および同種の他の寄生的反応を制限するための生成物の希釈を保証するように前記流体を供給原料に加えるためにそれは有用であってよい。希釈流体が存在することにより、反応媒体の温度を制御することも可能となり、それ故に、光触媒された部分の考えられる発熱性/吸熱性を補填することができる。希釈流体の性質は、それの影響が反応媒体に中立であるようにまたはそれの考えられる反応が所望の二酸化炭素還元を実施することに対して有害でないように選ばれる。例として、窒素が気体希釈流体として選ばれてよい。
【0054】
二酸化炭素を含有している供給原料は、当業者に知られているあらゆる手段によって光触媒と接触させられ得る。好ましくは、二酸化炭素供給原料および光触媒は、貫流式固定床(flow-through fixed bed)または掃引式固定床(swept fixed bed)において接触させられる。
【0055】
貫流式固定床内において実施される場合、前記光触媒は、優先的には、反応器内に固定され、気体および/液体の形態にある転化させられるべき二酸化炭素を含有している供給原料が光触媒床中に送られる。
【0056】
掃引式固定床内において実施される場合、光触媒は、優先的には、反応器内に固定され、気体および/または液体の形態にある転化させられるべき二酸化炭素を含有している供給原料が光触媒床上に送られる。
【0057】
固定床または掃引床内において実施される場合、実施は、連続的に行われ得る。
【0058】
細孔性モノリスの形態にある光触媒は、少なくとも1種の半導体を含む。
【0059】
光触媒的CO2還元反応においてこのタイプのモノリス光触媒を使用することにより、驚くべきことに、従来技術から知られている細孔性モノリスの形態にはない光触媒と比較して改善された光触媒性能レベルを得ることが可能となる。
【0060】
前記光触媒の構成成分半導体(1種または複数種)は、独立して、無機半導体、有機半導体または有機-無機半導体から選ばれる。無機半導体、有機半導体または有機-無機混成半導体のバンドギャップは、一般的には、0.1~4.0eVである。
【0061】
第1の変形例によると、無機半導体は、第IVA族の1種または複数種の元素から選ばれてよく、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、炭化ケイ素またはケイ素-ゲルマニウムである。それらは、第IIIA族および第VA族の元素、例えば、GaP、GaN、InPおよびInGaAs、または第IIB族および第VIA族の元素、例えば、CdS、ZnOおよびZnS、または第IB族および第VIIA族の元素、例えば、CuClおよびAgBr、または第IVA族および第VIA族の元素、例えば、PbS、PbO、SnSおよびPbSnTe、または第VA族および第VIA族の元素、例えば、Bi2Te3およびBi2O3、または第IIB族および第VA族の元素、例えば、Cd3P2、Zn3P2およびZn3As2、または第IB族および第VIA族の元素、例えば、CuO、Cu2OおよびAg2S、または第VIIIB族および第VIA族の元素、例えば、CoO、PdO、Fe2O3およびNiO、または第VIB族および第VIA族の元素、例えば、MoS2およびWO3、または第VB族および第VIA族の元素、例えば、V2O5およびNb2O5、または第IVB族および第VIA族の元素、例えば、TiO2およびHfS2、または第IIIA族および第VIA族の元素、例えば、In2O3およびIn2S3、または第VIA族の元素およびランタニド族の元素、例えば、Ce2O3、Pr2O3、Sm2S3、Tb2S3およびLa2S3、または第VIA族およびアクチニド族の元素、例えば、UO2およびUO3からなっていてもよい。
【0062】
好ましくは、半導体は、TiO2、ZnO、Cu2O、CuO、Ce2O3、CeO2、In2O3、SiC、ZnS、およびIn2Sn3から単独または混合物として選ばれる。
【0063】
半導体は、金属元素、例えば、元素V、Ni、Cr、Mo、Fe、Sn、Mn、Co、Re、Nb、Sb、La、Ce、Ta、Ti、非金属元素、例えば、C、N、S、F、P、または金属および非金属の元素の混合物から選ばれる1種または複数種の元素をドーピングされてもよい。
【0064】
別の変形例によると、半導体は、有機半導体から選ばれる。前記有機半導体は、テトラセン、アントラセン、ポリチオフェン、ポリスチレンスルホン酸、ホスフィレン(phosphyrene)およびフラーレンであるだろう。
【0065】
別の変形例によると、半導体は、有機-無機半導体から選ばれる。有機-無機半導体の中で、MOF(Metal Organic Framework:金属-有機構造体)タイプの結晶性固体の言及がなされてよい。MOFは、無機サブユニット(遷移金属、ランタニド等)からなり、この無機サブユニットは、有機リガンド(カルボキシラート、ホスホナート、イミダゾラート等)によって互いに連結されており、それ故に、結晶性の、しばしば細孔性の、混成のネットワークを規定している。
【0066】
別の変形例によると、半導体は、光子を吸収することができる任意の有機分子により表面感応性であってよい。
【0067】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、モノリスの形態にある半導体によって構成される。
【0068】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、少なくとも1種の半導体を含み、この半導体は、4eV超のエネルギーを有する光子を吸収しない少なくとも1つの無機相内に分散させられている。好ましくは、希釈化している無機相は、シリカまたはアルミナを含有している。
【0069】
一つの好ましい変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒が少なくとも1種の半導体を含み、この半導体は、4eV超のエネルギーを有する光子を吸収しない少なくとも1つの無機相内に希釈されている場合、半導体の含有率は、光触媒の全重量に対して5重量%~70重量%である。
【0070】
一変形例によると、前記光触媒は、元素周期律表の第VIIIB族、第IB族および第IIIA族の元素から選ばれる少なくとも1種の元素Mを金属の状態で含有してよい。用語「金属の状態にある元素(element in the metal state)」は、ゼロの酸化状態にある(それ故に金属の形態にある)元素を意味するとして意図される。好ましくは、金属の状態にある元素(1種または複数種)Mの含有率は、光触媒の全重量に対して0.001重量%~20重量%である。
【0071】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、細孔径が0.2nm超かつ50nm以下であるメソ細孔を有し、このメソ細孔容積は、0.01~1mL/g、好ましくは0.05~0.5mL/gである。
【0072】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、I型マクロ細孔、すなわち、細孔の径が50nm超かつ100nm(1μm)以下である細孔を有し、このI型マクロ細孔容積は、0.1~3mL/g、好ましくは0.2~2.5mL/gである。
【0073】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、II型マクロ細孔、すなわち、細孔の径が1μm超かつ10μm以下であるマクロ細孔を有し、当該マクロ細孔容積は、0.1~8mL/g、好ましくは0.5~8mL/gである。
【0074】
一つの好ましい変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、メソ孔隙および/またはI型マクロ孔隙および/またはII型マクロ孔隙を有している。
【0075】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒は、細孔径が10μm超であるマクロ細孔も有し、そのマクロ細孔容積は、0.5mL/g未満である。
【0076】
一つの好ましい変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒が有するバルク密度は、0.05~0.5g/mLである。バルク密度は、触媒の重量対それの幾何学量の比を取ることによって計算される。
【0077】
一変形例によると、細孔性モノリスの形態にある前記光触媒が有するBET比表面積は、10~1000m2/g、好ましくは50~600m2/gである。
【0078】
光触媒を調製する方法は、当業者に知られておりかつ所望の光触媒に適しているあらゆる調製方法であってよい。
【0079】
一変形例によると、光触媒を調製する方法は、以下の工程:
1) 界面活性剤を含有している溶液を、酸溶液と混合する工程;
2) 4eV超のエネルギーを有する光子を吸収しない無機担体の少なくとも1種の可溶性前駆体または0.1~4eVのエネルギーを有する光子を吸収する無機半導体の前駆体を、工程1)において得られた溶液に加える工程;
3) 場合による、工程2)において得られた溶液に混和しない少なくとも1種の液体有機化合物を、工程2)において得られた溶液に加えて、エマルジョンを形成する工程;
4) 工程2)において得られた溶液または工程3)において得られたエマルジョンを、湿潤状態で放置して熟成させて、ゲルを得る工程;
5) 工程4)において得られたゲルを、有機溶液により洗浄する工程;
6) 工程5)において得られたゲルを、乾燥させかつ焼成して、細孔性モノリスを得る工程;
7) 工程2)において、4eV超のエネルギーを有する光子を吸収しない無機担体の少なくとも1種の可溶性前駆体を、工程1)において得られた溶液に加えた場合には、半導体の少なくとも1種の可溶性前駆体を含んでいる溶液を、工程6)において得られた細孔性モノリスの孔隙(porosity)に含浸させ、または、工程2)において、0.1~4eVのエネルギーを有する光子を吸収する無機半導体の少なくとも1種の前駆体を、工程1)において得られた溶液に加えた場合には、半導体の少なくとも1種の可溶性前駆体を含んでいる溶液を、工程6)において得られた細孔性モノリスの孔隙に適宜に含浸させる工程であって、前記前駆体は、工程2)に導入された前記分子前駆体と同一であるかまたはそれとは異なっている、工程;
8) 場合による、工程7)において得られた生成物を、乾燥させかつ焼成して、細孔性モノリスを得る工程
を含む。
【0080】
上記の工程は、以降においてより詳細に説明される。
【0081】
(工程1))
光触媒を調製する方法の工程1)の間に、界面活性剤を含有している溶液は、酸性水溶液と混合されて、界面活性剤を含んでいる酸性水溶液が得られる。
【0082】
界面活性剤は、陰イオン性、陽イオン性、両性または非イオン性であってよい;好ましくは、界面活性剤は、ポリ(エチレングリコール)、セチルトリメチルアンモニウムブロミドまたはミリスチル-トリメチルアンモニウムブロミドである。酸性の試薬は、好ましくは、無機酸、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、塩化水素酸または臭化水素酸、または有機酸、例えばカルボン酸またはスルホン酸から単独または混合物として選択される。混合物のpHは、好ましくは4未満である。
【0083】
(工程2))
光触媒を調製する方法の工程2)の間に、4eV超のエネルギーを有する光子を吸収しない無機担体の少なくとも1種の可溶性前駆体または0.1~4eVのエネルギーを有する光子を吸収する無機半導体の前駆体が加えられる。
【0084】
分子前駆体が4eV超のエネルギーを有する光子を吸収しない無機担体の前駆体である場合、アルコキシドタイプの前駆体が、好ましくは、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム tert-ブトキシド、オルトケイ酸テトラエチルまたはオルトケイ酸テトラメチルから単独または混合物として選ばれる。
【0085】
分子前駆体が0.1~4eVのエネルギーを有する光子を吸収する無機半導体の前駆体である場合、アルコキシド前駆体が、好ましくは、チタンイソプロポキシドまたはオルトチタン酸テトラエチルから単独または混合物として選ばれる。
【0086】
場合によっては、無機担体および/または半導体のアルコキシド前駆体に、イオン性またはコロイドゾルタイプの無機半導体の別の前駆体を加えることが可能である。
【0087】
好ましくは、前駆体/界面活性剤の重量比は、0.1~10である。
【0088】
(工程3)[任意])
工程3)の間に、工程2)において得られた溶液と混和しない少なくとも1種の液体有機化合物が、工程2)において得られた溶液に加えられて、エマルジョンが形成される。
【0089】
好ましくは、液体有機化合物は、1種の炭化水素、または炭化水素の混合物であって、5~15個の炭素原子を有するものである。好ましくは、液体有機化合物/工程2)において得られた溶液の重量比は、0.2~5である。
【0090】
(工程4))
工程4)の間に、工程2)において得られた溶液または工程3)において得られたエマルジョンは、湿潤状態で放置熟成させられ、ゲルが得られる。
【0091】
好ましくは、熟成は、5~80℃の温度で行われる。好ましくは、熟成は、1~30日にわたって行われる。
【0092】
(工程5))
工程5)の間に、工程4)において得られたゲルは、有機溶液により洗浄される。
【0093】
好ましくは、有機溶液は、単独または混合物としてのアセトン、エタノール、メタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、酢酸エチルまたは酢酸メチルである。好ましくは、洗浄工程は、複数回繰り返される。
【0094】
(工程6))
工程6)の間に、工程5)において得られたゲルは、乾燥させられかつ焼成されて、細孔性モノリスが得られる。
【0095】
好ましくは、乾燥処理は、5~80℃の温度で行われる。
【0096】
好ましくは、乾燥処理は、1~30日にわたって行われる。場合によっては、吸着剤ペーパが、当該材料の乾燥処理を促進するために用いられ得る。
【0097】
好ましくは、焼成は、2回の工程:120~250℃の1~10時間にわたる第1の温度静止段階、その後の、300~950℃の2~24時間にわたる第2の温度静止段階において行われる。
(工程7))
工程7)の間に、半導体の少なくとも1種の可溶性前駆体を含んでいる溶液は、工程2)において、4eV超のエネルギーを有する光子を吸収しない無機担体の少なくとも1種の可溶性前駆体が工程1)において得られた溶液に加えられた場合には、工程6)において得られた細孔性モノリスの孔隙に含浸させられ、または、半導体の少なくとも1種の可溶性前駆体を含んでいる溶液は、工程2)において、0.1~4eVのエネルギーを有する光子を吸収する無機半導体の少なくとも1種の前駆体が工程1)において得られた溶液に加えられた場合には、工程6)において得られた細孔性モノリスの孔隙に適宜に含浸させられ、前記前駆体は、工程2)において導入された前記分子前駆体と同一であるかまたはそれとは異なっている。
【0098】
好ましくは、含浸の後に湿潤雰囲気下の熟成の工程が行われる。
【0099】
好ましくは、乾燥工程が、次いで、5~80℃の温度で0.5~30日にわたって行われる。
【0100】
好ましくは、空気下の焼成の工程が、次いで、80~150℃の1~10時間にわたる第1の温度静止段階、次の、150℃~250℃の1~10時間にわたる第2の温度静止段階、最後の、300~950℃の0.5~24時間にわたる第3の温度静止段階により行われる。
【0101】
(工程8)[任意の工程])
工程8)の間に、工程7)において得られた生成物は、乾燥させられかつ焼成されて、細孔性モノリスが得られる。
【0102】
前駆体は、溶液に溶解させられた形態またはコロイドゾルの形態にあってよい。
【0103】
好ましくは、乾燥工程が、次に、5~120℃の温度で0.5~2日にわたって行われる。
【0104】
好ましくは、空気下に焼成する工程が、120~250℃の0.5~10時間にわたる第1の温度静止段階、次の、300~950℃の0.5~24時間にわたる第2の温度静止段階により行われる。
【0105】
好ましくは、水素流れ下の100~600℃の温度での0.5~24時間にわたる還元の工程が、次に行われる。
【0106】
(本発明による方法の工程b))
本発明による方法の工程b)によると、光触媒は、前記光触媒のバンドギャップより低い少なくとも1つの波長を生じさせる少なくとも1つの光照射源を用いて光照射され、これにより、前記光照射源によって活性にされた前記光触媒の存在下に二酸化炭素は還元され、かつ、犠牲化合物は酸化され、その結果、少なくとも一部においてCO2以外のC1以上の炭素ベースの分子を含有している流出物が生じる。
【0107】
光触媒作用は、光照射によって導入されるエネルギーによる、1種のまたは一式の複数種の半導体、例えば、本発明による方法において用いられる光触媒の活性化の原理に基づいている。光触媒作用は、光子の吸収として定義され得、そのエネルギーは、価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップ以上であり、このバンドギャップは、半導体において電子正孔対の形成を誘導する。それ故に、伝導帯のレベルでの電子の励起および価電子帯上の正孔の形成がある。この電子正孔対により、フリーラジカルの形成が可能になるだろう。このフリーラジカルは、媒体中に存在する化合物と反応することになるか、または、種々のメカニズムに従って再結合することになるかのいずれかであるだろう。各半導体は、それの伝導帯とそれの価電子帯との間にエネルギー差、すなわち、「バンドギャップ(bandgap)」を有しており、これは、前記半導体に特有のものである。
【0108】
1種または複数種の半導体からなる光触媒は、少なくとも1種の光子の吸収によって活性にされ得る。吸収可能な光子は、そのエネルギーが半導体のバンドギャップより高い光子である。換言すると、光触媒は、光触媒を構成する半導体のバンドギャップに関連するエネルギーに相当する波長を有しているか、または、より低い波長を有している少なくとも1種の光子によって活性にされ得る。半導体によって吸収可能な最大波長は、以下の式:
【数1】
を用いて計算される。
【0109】
ここで、λmaxは、半導体によって吸収可能な最大波長(m)であり、hは、プランク定数(4.13433559×10-15 eV・s)であり、cは、真空中の光の速度(299792458m・s-1)であり、Egは、半導体のバンドギャップ(eV)である。
【0110】
前記光触媒の活性化のために適した、すなわち、光触媒によって吸収可能な少なくとも1つの波長を放出するあらゆる光照射源が本発明により用いられ得る。自然の太陽光照射またはレーザ、Hg、白熱灯、蛍光管、プラズマまたは発光ダイオード(light-emitting diode:LED)タイプの人工的な照射源の使用が例えばなされてよい。好ましくは、光照射源は、太陽光照射である。
【0111】
光照射源は、波長の少なくとも一部が、本発明による光触媒の構成半導体(1種または複数種)によって吸収可能な最大波長(λmax)より低い発光を生じさせる。光照射源が太陽光照射である場合、それは、一般的には、紫外、可視および赤外のスペクトル内で光を放射し、すなわち、それは、おおよそ280nm~2500nmの波長範囲の光を放射する(規格ASTM G173-03による)。好ましくは、照射源は、280nm超、非常に好ましくは315nm~800nmの波長範囲の光を少なくとも放射し、これは、UVスペクトルおよび/または可視スペクトルを含む。
【0112】
光照射源により、光触媒を含有している反応媒体を照射する光子の流れが提供される。反応媒体と光源との間の界面は、光源の適用および性質に応じて変動する。
【0113】
一つの好ましい様式において、それが太陽光照射の問題である場合、光照射源は、反応器の外側に配置され、その2つの間の界面は、パイレックス(登録商標)、石英、有機ガラスまたは本発明による光触媒によって吸収可能な光子が外側の媒体から反応器に放散することを可能にする任意の他の界面から作製された光学窓であってよい。
【0114】
光触媒的二酸化炭素還元の実施は、想定される反応のための光触媒系に適した光子の提供によって条件調整され、結果として、生成物(1種または複数種)の安定性を保証すること可能にするものを除いて圧力または温度の特定の範囲に制限されない。二酸化炭素を含有している供給原料の光触媒的還元のために採用される温度範囲は、一般的には-10℃~+200℃、好ましくは0~150℃、非常に好ましくは0~100℃である。二酸化炭素を含有している供給原料の光触媒的還元のために採用される圧力範囲は、一般的には0.01MPa~70MPa(0.1~700bar)、好ましくは0.1MPa~2MPa(1~20bar)である。
【0115】
光触媒的二酸化炭素還元反応の後に得られた流出物は、一方では、反応に由来する二酸化炭素以外の少なくとも1種のC1以上の分子、および、他方では、未反応供給原料を含有し、任意の希釈流体も含有するが、並行反応生成物、例えば、H2Oが犠牲化合物として用いられた場合のこの化合物の光触媒的還元に由来する二原子水素をも含む。
【0116】
以下の実施例は、本発明を例証するが、本発明の範囲を制限するものではない。
【0117】
(実施例)
(実施例1:光触媒A(本発明に合致しない)粉体化TiO2)
光触媒Aは、粉体の形態にある市販のTiO2ベースの半導体(Aeroxide(登録商標) P25、Aldrich(登録商標)、純度>99.5%)である。光触媒の粒子サイズは、21nmであり、それの比表面積は、52m2/gである。
【0118】
(実施例2:光触媒B(本発明に合致しない)CeO2)
光触媒Bは、粉体の形態にある市販のCeO2ベースの半導体(Aldrich(登録商標)、純度99.95%)である。光触媒の粒子サイズは、50nm未満であり、それの比表面積は、30m2/gである。
【0119】
(実施例3:光触媒C(本発明に合致する)TiO2モノリス)
ポリエチレングリコール(Aldrich(登録商標)、Mw=20000)1gが、蒸留水2mLに加えられ、次いで、塩化水素酸溶液(37重量%、Aldrich(登録商標)、純度97%)1mLと混合される。チタンイソプロポキシド(Aldrich(登録商標)、純度97%)1.1gが、この混合物に加えられ、生じた混合物は、明白に単一の相の混合物が得られるまで撹拌される。
【0120】
混合物は、次いで、5.5cmの内径を有するペトリ皿に注がれ、このペトリ皿は、飽和器内に7日にわたってゲル化のために置かれる。
【0121】
得られたゲルは、次いで、イソプロパノール(Aldrich(登録商標)、純度>99.5%)により連続して2回洗浄され、次いで、周囲温度で2日にわたって乾燥させられる。最後に、ゲルは、空気下にマッフル炉中180℃で2時間にわたって、次いで、350℃で6時間にわたって焼成される。
【0122】
光触媒Cは、ここで、TiO2ベースの細孔性モノリスの形態で得られる。
【0123】
光触媒Cが有するメソ細孔容積は、0.16mL/gであり、I型マクロ細孔容積は、0.19mL/gであり、II型マクロ細孔容積は、2.3mL/gである。光触媒Cが有する比表面積は、64m2/gである。
【0124】
光触媒Cが有するバルク密度は、0.23g/mLである。
【0125】
(実施例4:光触媒D(本発明に合致する)TiO2/SiO2モノリス)
ミリスチルメチルアンモニウムブロミド(Aldrich(登録商標)、純度>99%)1.12gが、蒸留水2mLに加えられ、塩化水素酸溶液(37重量%、Aldrich(登録商標)、純度97%)1mLと混合される。チタンイソプロポキシド(Aldrich(登録商標)、純度97%)0.18gおよびオルトケイ酸テトラエチル(Aldrich(登録商標)、純度>99%)1.02gが、この混合物に加えられ、生じた混合物は、明白に単一の相の混合物が得られるまで撹拌される。
【0126】
ドデカン(Aldrich(登録商標)、純度>99%)7gが、この混合物にゆっくりと導入され、エマルジョンが形成されるまで撹拌される。
【0127】
エマルジョンは、次いで、5.5cmの内径を有するペトリ皿に注がれ、このペトリ皿は、飽和器内に7日にわたってゲル化のために置かれる。
【0128】
得られたゲルは、次いで、無水テトラヒドロフラン(Aldrich(登録商標)、純度>99%)により最初に1回、次いで、容積で70/30にある無水テトラヒドロフラン/アセトンの混合物(VWR(登録商標)、ACSグレード)により、連続して2回洗浄される。
【0129】
ゲルは、次いで、周囲温度で7日にわたって乾燥させられる。最後に、ゲルは、空気下にマッフル炉中180℃で2時間にわたって、次いで、800℃で5時間にわたって焼成される。光触媒Dは、ここで、SiO2マトリクス中にTiO2を含んでいる細孔性モノリスの形態で得られる。
【0130】
光触媒Dが有するメソ細孔容積は、0.11mL/gであり、I型マクロ細孔容積は、0.74mL/gであり、II型マクロ細孔容積は、6.4mL/gである。光触媒Dが有する比表面積は、82m2/gである。Ti元素の含有率は、ICP-AESによって測定されて、9.18重量%であり、これは、光触媒D中の15.3重量%のTiO2半導体と等価である。
【0131】
光触媒Dが有するバルク密度は、0.11g/mLである。
【0132】
(実施例5:光触媒E(本発明に合致する)TiO2/SiO2モノリス)
ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド(Aldrich(登録商標)、純度>99%)1.12gが、蒸留水2mLに加えられ、次いで、塩化水素酸溶液(37重量%、Aldrich(登録商標)、純度97%)1mLと混合される。オルトケイ酸テトラエチル(Aldrich(登録商標)、純度>99%)1.02gが、混合物に加えられ、得られた混合物は、明白に単一の相の混合物が得られるまで撹拌される。
【0133】
ドデカン(Aldrich(登録商標)、純度>99%)7gが、ゆっくりと混合物に導入され、エマルジョンが形成されるまで撹拌される。
【0134】
エマルジョンは、次いで、5.5cmの内径を有するペトリ皿に注がれ、このペトリ皿は、飽和器内に7日にわたってゲル化のために置かれる。
【0135】
得られたゲルは、次いで、最初に1回無水テトラヒドロフラン(Aldrich(登録商標)、純度>99%)により、次いで、容積で70/30の無水テトラヒドロフラン/アセトンの混合物(VWR(登録商標)、ACSグレード)により連続して2回洗浄される。
【0136】
ゲルは、次いで、周囲温度で7日にわたって乾燥させられる。最後に、ゲルは、空気下にマッフル炉中180℃で2時間にわたって、次いで、650℃で5時間にわたって焼成される。SiO2ベースの細孔性モノリスがここで得られる。
【0137】
蒸留水34mL、イソプロパノール(Aldrich(登録商標)、純度>99.5%)44.75mL、塩化水素酸(37重量%、Aldrich(登録商標)、純度97%)10.74mLおよびチタンイソプロポキシド(Aldrich(登録商標)、純度97%)10.50mLを含有している溶液が撹拌を伴って調製される。細孔容積に相当するこの溶液の一部が、モノリスの孔隙に含浸させられ、次いで、12時間にわたって放置熟成させられる。モノリスは、次いで、周囲雰囲気下に24時間にわたって乾燥させられる。この工程は、2回繰り返される。最後に、モノリスは、空気下にマッフル炉中120℃で2時間にわたって、次いで、180℃で2時間にわたって、最後に、400℃で1時間にわたって焼成される。SiO2マトリクス中にTiO2を含んでいる細孔性モノリスがここで得られる。
【0138】
光触媒Eが有するメソ細孔容積は、0.20mL/gであり、I型マクロ細孔容積は、1.15mL/gであり、II型マクロ細孔容積は、5.8mL/gである。光触媒Eが有する比表面積は、212m2/gである。Ti元素の含有率は、ICP-AESによって測定されて、27.35重量%であり、これは、光触媒E中52.1重量%のTiO2と等価である。
【0139】
光触媒Eが有するバルク密度は、0.14g/mLである。
【0140】
(実施例6:光触媒F(本発明に合致する)CeO2/SiO2)
ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド(Aldrich(登録商標)、純度>99%)1.12gが、蒸留水2mLに加えられ、次いで、塩化水素酸溶液(37重量%、Aldrich(登録商標)、純度97%)1mLと混合される。オルトケイ酸テトラエチル(Aldrich(登録商標)、純度>99%)1.02gが、混合物に加えられ、得られた混合物は、明白な単一な相の混合物が得られるまで撹拌される。
【0141】
ドデカン(Aldrich(登録商標)、純度>99%)7gが、ゆっくりと混合物に導入され、エマルジョンが形成されるまで撹拌される。
【0142】
エマルジョンは、次いで、5.5cmの内径を有するペトリ皿に注がれ、このペトリ皿は、飽和器内に7日にわたってゲル化のために置かれる。
【0143】
得られたゲルは、次いで、最初に1回無水テトラヒドロフラン(Aldrich(登録商標)、純度>99%)により、次いで、容積で70/30の無水テトラヒドロフラン/アセトンの混合物(VWR(登録商標)、ACSグレード)により連続して2回洗浄される。
【0144】
ゲルは、次いで、周囲温度で7日にわたって乾燥させられる。最後に、ゲルは、空気下にマッフル炉中180℃で2時間にわたって、次いで、650℃で5時間にわたって焼成される。SiO2ベースの細孔性モノリスがここで得られる。
【0145】
硝酸セリウム六水和物(Aldrich(登録商標)、純度99%)5.3gが、撹拌を伴って蒸留水95mLに溶解させられる。この溶液のうち細孔容積に相当する部分が、モノリスの孔隙に含浸させられ、次いで、12時間にわたって放置熟成させられる。モノリスは、次いで、周囲温度下に24時間にわたって乾燥させられる。最後に、モノリスは、空気下にマッフル炉中120℃で2時間にわたって、次いで、180℃で2時間にわたって、最後に、450℃で1時間にわたって焼成される。SiO2マトリクス中にCeO2を含んでいる細孔性モノリスが、ここで得られる。
【0146】
光触媒Fが有するメソ細孔容積は、0.30mL/gであり、I型マクロ細孔容積は、1.34mL/gであり、II型マクロ細孔容積は、6.7mL/gである。光触媒Fが有する比表面積は、257m2/gである。Ce元素の含有率は、ICP-AESによって測定されて、13.03重量%であり、これは、光触媒F中の16.0重量%のCeO2と等価である。
【0147】
光触媒Fが有するバルク密度は、0.14g/mLである。
【0148】
(実施例7:気相光触媒的CO2還元における光触媒の使用)
光触媒A、B、C、D、EおよびFは、貫流床連続式鋼製反応器における気相光触媒的CO2還元試験に付される。この反応器は、石英から作製された光学窓と、光学窓の反対側のフリットとを備え、このフリット上に光触媒固体が置かれるものである。
【0149】
光触媒AおよびBについては、反応器の光照射表面領域の全体を覆うように十分な量の粉体がフリット上に置かれる。光触媒C、D、EおよびFについては、フリットの直上にモノリスが置かれ、それらの径は、反応器の径に等しい。全ての光触媒についての光照射される表面の領域は、8.042477×10-04m2である。試験は、周囲温度で大気圧下に行われる。0.3mL/分の流量のCO2が、水飽和器中を通過し、その後に、反応器に分配される。飽和器に同伴される水の望みでない光触媒的還元に由来する生じた二原子水素ガスおよび二酸化炭素の還元に由来するCH4の生成は、マイクロガスクロマトグラフィーによる6分毎の流出物の分析によってモニタリングされる。UV-可視光照射源は、Xe-Hgランプ(Asahi(登録商標)、MAX302(登録商標))を備えている。照射電力は、常時、315~400nmの波長範囲のために80W/m2に維持される。試験の継続期間は、20時間である。
【0150】
光触媒活性は、時間当たりかつ照射面積(m2)当たりの生じた二原子水素およびメタンのモル(μmol)で表される。これらは、試験の継続期間全体にわたる平均活性である。結果は、表1(下記)において報告される。
【0151】
【0152】
活性値が示していることは、本発明に合致する固体を使用することが、光触媒的CO2還元に対して最良の光触媒性能レベルおよび特により良好な選択性を系統的に呈することである。