(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 143/04 20060101AFI20220609BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20220609BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220609BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C09D143/04
C09D5/16
C09D7/63
C08F220/26
(21)【出願番号】P 2019568811
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(86)【国際出願番号】 EP2018055196
(87)【国際公開番号】W WO2018158437
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-26
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519316391
【氏名又は名称】ヨツン アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】セシーリア ビナンダー
(72)【発明者】
【氏名】マーリト ダーリング
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046600(JP,A)
【文献】特開2016-089167(JP,A)
【文献】特開2002-097406(JP,A)
【文献】特開2011-026357(JP,A)
【文献】特開2010-144106(JP,A)
【文献】特開2002-097407(JP,A)
【文献】特表2014-524443(JP,A)
【文献】国際公開第2015/150249(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C09K 5/16
C08F 220/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、
(ii)トラロピリル、
(iii)金属カルボン酸塩、ここで、前記金属カルボン酸塩は、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ土類金属カルボン酸塩又は遷移金属カルボン酸塩であり、5~50個の炭素原子を有するカルボン酸に由来する、及び、
(iv)場合により、カルボン酸、ここで、前記カルボン酸/前記金属カルボン酸塩の質量比は0:100~45:55である、
を含む、防汚コーティング組成物。
【請求項2】
前記カルボン酸/前記金属カルボン酸塩の質量比は0:100~10:90である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記カルボン酸/前記金属カルボン酸塩の前記質量比は0.5:99.5~45:55である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記金属カルボン酸塩はカルボン酸亜鉛である、請求項1~3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記金属カルボン酸塩は5~20個の炭素原子を有するカルボン酸に由来する、請求項1~4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記金属カルボン酸塩は、樹脂酸、樹脂酸の誘導体、C
6-20環状カルボン酸、C
5-10非環状脂肪族カルボン酸及びC
7-20芳香族カルボン酸ならびにそれらの混合物から選ばれるカルボン酸に由来する、請求項1~5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記金属カルボン酸塩は、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ピマル酸、イソピマル酸、レボピマル酸、パルストリン酸、サンダラコピマル酸、コムン酸及びそれらの混合物に由来する、請求項1~6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記金属カルボン酸塩はガムロジンに由来する、請求項1~7のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
前記金属カルボン酸塩は、樹脂酸、樹脂酸の誘導体、C
6-20環状カルボン酸、C
5-10非環状脂肪族及びC
7-20芳香族カルボン酸ならびにそれらの混合物から選ばれるカルボン酸の亜鉛塩である、請求項1~8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
前記金属カルボン酸塩は、ガムロジン亜鉛塩、ガムロジン誘導体の亜鉛塩又はそれらの混合物である、請求項1~9のいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
前記金属カルボン酸塩は、水素化ロジン亜鉛塩、部分水素化ロジン亜鉛塩、不均化ロジン亜鉛塩又はそれらの混合物である、請求項1~10のいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は、組成物の総質量に基づいて0.5~25wt%の金属カルボン酸塩を含む、請求項1~11のいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
カルボン酸を含む、請求項1~12のいずれか1項記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物は、組成物の総質量に基づいて0~5wt%のカルボン酸を含む、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
カルボン酸を含まない、請求項1~12のいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
前記トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーはコポリマーである、請求項1~15のいずれか1項記載の組成物。
【請求項17】
前記トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは式(I):
【化1】
(上式中、
R
1はH又はCH
3であり、
R
2は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖C
1-4アルキル基から選ばれ、
R
3は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖C
1-20アルキル基、C
3-12シクロアルキル基及び-OSi(R
4)
3からなる群より選ばれ、
各R
4は独立して、直鎖又は分岐鎖C
1-4アルキル基であり、
ZはC
1~C
4アルキレンであり、
mは0~1の整数であり、そして
nは0~5の整数である)の少なくとも1つのモノマーの残基を含む、請求項1~16のいずれか1項記載の組成物。
【請求項18】
前記式(I)のモノマーはトリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートである、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
前記トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは(メタ)アクリレートモノマーをさらに含む、請求項1~18のいずれか1項記載の組成物。
【請求項20】
前記(メタ)アクリレートモノマーは式(IIa)~(IIc):
【化2】
(上式中、R
5は水素又はメチルであり、R
6は環状エーテル(オキソラン、オキサン、ジオキソラン、ジオキサンであって場合によりアルキル置換されていてよいものなど)であり、XはC
1~C
4アルキレンである)、
【化3】
(上式中、R
7は水素又はメチルであり、R
8は少なくとも1つの酸素又は窒素原
子を有するC
3~C
18置換基である)、
【化4】
(上式中、R
9は水素又はメチルであり、R
10はC
1~C
8ヒドロカルビルである)
を有する、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物は0.5~10wt%のトラロピリルを含む、請求項1~20のいずれか1項記載の組成物。
【請求項22】
(i)1~50wt
%のトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、
(ii)0.5~10wt
%のトラロピリル、
(iii)0.5~25wt
%の金属カルボン酸塩、及び、
(iv)0~5wt
%のカルボン酸、
を含む、請求項1~21のいずれか1項記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物は52℃で1週間の貯蔵後に50~2000cPの粘度を有する、請求項1~22のいずれか1項記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物は52℃で4週間の貯蔵中にゲルを形成しない、請求項1~23のいずれか1項記載の組成物。
【請求項25】
(i)トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、
(ii)トラロピリル、
(iii)金属カルボン酸塩、ここで、前記金属カルボン酸塩は、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ土類金属カルボン酸塩又は遷移金属カルボン酸塩であり、5~50個の炭素原子を有するカルボン酸に由来する、及び、
(iv)場合により、カルボン酸、
を混合することを含む、請求項1~24のいずれか1項記載の組成物を調製する方法。
【請求項26】
請求項1~24のいずれか1項記載の組成物を含む塗料。
【請求項27】
請求項1~24のいずれか1項記載の組成物を含む塗料容器。
【請求項28】
請求項1~24のいずれか1項記載の組成物を含むコーティングを、表面の少なくとも一部に含む(例えば、被覆又はコーティングされている)物品。
【請求項29】
物品をコーティングしてその汚損を防止するための方法であって、前記方法は:
請求項1~24のいずれか1項記載の組成物で前記物品の表面の少なくとも一部をコーティングすること、及び、
前記コーティングを乾燥及び/又は硬化させること、
を含む、方法。
【請求項30】
請求項1~24のいずれか1項記載の組成物の、物品の表面の少なくとも一部をコーティングしてその汚損を防止するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
イントロダクション
本発明は、トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、トラロピリル、カルボン酸金属塩及び、場合により、カルボン酸を含む防汚コーティング組成物、ならびに組成物の調製方法に関する。この組成物は優れた長期貯蔵安定性を有する。本発明はまた、該組成物を含む塗料及び該組成物を含む塗料容器に関する。さらに、本発明は、表面の少なくとも一部にコーティングを含む物品、及び物品の表面の少なくとも一部を該組成物でコーティングすることを含む、物品の汚損を防止するためのコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
海洋環境に沈んでいる表面は、バクテリア、珪藻、藻類、チューブワーム、フジツボ及びムラサキイガイなどの汚損生物の付着を受ける。表面で成長するすべての海洋生物の中で、ハードファウリング(フジツボ、ムラサキイガイ、ムシクイなど)は、最も大きな経済的な結果をもたらす問題である。適切な条件を仮定すると、ハードファウリングは非常に急速に成長する可能性がある。フジツボ及びムラサキイガイは世界中に分布しており、沿岸水域で最もよく見られる汚損生物である。
【0003】
船舶の汚損ならびにフジツボ及びその他のハードファウリングの付着の危険性は、通常、新しい建造のための準備期間中及び停泊中の長いレイアップ又は取引中の長い静止期間を有する船舶で最も高くなる。汚損は、船舶の運用効率を著しく損なう可能性がある。これにより、流体抵抗が増加し、燃料消費量が増加し、速度が低下し、動作範囲が減少する。非常に粗く汚損した船体は、燃料使用量が最大40%増加する可能性がある。ドライドッキングの追加費用もある。フジツボ、ムラサキイガイ及びチューブワームなどの付着した石灰生物の除去は、機械的スクレーピングによって行われなければならない。船舶の汚損は非在来種の拡散を引き起こす可能性もある。これらはすべて、生物付着の防止を要求する重要な経済的要因である。
【0004】
海洋生物の定着及び成長を防ぐために、防汚塗料は使用されている。これらの塗料は一般に、フィルムを形成するポリマー(フィルム形成性バインダと呼ばれることもある)、汚損を遅らせ又は制御する防汚剤、顔料及び溶媒を含む。多くの場合に、塗料は、増量剤、脱水剤及びチキソトロープ剤などの1つ以上のさらなる化合物も含む。
【0005】
トラロピリルは、硬殻及び軟体動物生物に対して広いスペクトル活性を有する防汚剤である。したがって、それは、塗料、特に船舶などの水没船の表面に適用するように設計された塗料に組み込むことに魅力的な防汚剤である。
【0006】
しかしながら、塗料にトラロピリルを含めることで生じる問題は、シリル(メタ)アクリレートポリマーと組み合わせると、貯蔵中、特に1か月以上、例えば6か月の貯蔵中に塗料が増粘又はゲル化する傾向があることである。言い換えれば、シリル(メタ)アクリレートポリマー及びトラロピリルを含む塗料は、貯蔵中に粘度が上昇する傾向があり、塗料中で反応が起こっており、完全に安定していないことを示している。これは明らかに実用上問題である。塗料の粘度は、塗装方法(スプレイできるかどうかなど)を決定し、表面仕上げにも影響を及ぼす。防汚塗料などの工業用塗料の場合に、塗料は通常、非常に大きな表面積に塗布され、ほとんどの場合に、エアレススプレイによって塗布される。したがって、塗料の粘度は、現状技術水準の機器による塗布を可能にする範囲内でなければならない。それゆえ、塗料がゲル化した場合に、塗料を薄くしてスプレイすることはできない。
【0007】
EP-A-3078715は、シリル(メタ)アクリレート及びトラロピリルを含む塗料で遭遇する安定性の問題を認識している。このような塗料は、貯蔵中に増粘する傾向があることが確認されている。EP-A-3078715は、カルボジイミド及び/又はシランから選択される安定剤の添加により問題を克服できることをさらに開示している。
【0008】
JP2016089167は、トリオルガノシリル基を含むが亜酸化銅又は銅化合物を含まない加水分解性樹脂を含む塗料も不安定であることを開示している。JP2016089167は、この問題は、トリイソプロピルシリルメタクリレートとメトキシエチル(メタ)アクリレートの特定のコポリマー及びトラロピリルを含むが、銅化合物を含まない組成物によって克服できることをさらに記載している。
【発明の概要】
【0009】
発明の概要
第一の態様から見ると、本発明は:
(i)トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、
(ii)トラロピリル、
(iii)金属カルボン酸塩、ここで、前記金属カルボン酸塩は、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ土類金属カルボン酸塩又は遷移金属カルボン酸塩であり、5~50個の炭素原子を有するカルボン酸に由来する、及び、
(iv)場合により、カルボン酸、ここで、前記カルボン酸/前記金属カルボン酸塩の質量比は0:100~45:55である、
を含む、防汚コーティング組成物を提供する。
【0010】
さらなる態様から見ると、本発明は、上記のとおりの組成物を調製する方法であって、
(i)トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、
(ii)トラロピリル、
(iii)金属カルボン酸塩、ここで、前記金属カルボン酸塩は、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ土類金属カルボン酸塩又は遷移金属カルボン酸塩であり、5~50個の炭素原子を有するカルボン酸に由来する、及び、
(iv)場合により、カルボン酸、
を混合することを含む、方法を提供する。
【0011】
さらなる態様から見ると、本発明は上記のとおりの組成物を含む塗料を提供する。
【0012】
さらなる態様から見ると、本発明は上記のとおりの組成物を含む塗料容器を提供する。
【0013】
さらなる態様から見ると、本発明は、表面の少なくとも一部にコーティングを含む(例えば、被覆され又はコーティングされている)物品であって、前記コーティングは上記のとおりの組成物を含む、物品を提供する。
【0014】
さらなる態様から見ると、本発明は、物品をコーティングして物品の汚損を防止する方法であって、前記方法は:
前記物品の表面の少なくとも一部を上記のとおりの組成物でコーティングすること、及び、前記コーティングを乾燥及び/又は硬化させることを含む方法を提供する。
【0015】
さらなる態様から見ると、本発明は、物品の表面の少なくとも一部をコーティングして、その汚損を防ぐための上記のとおりの組成物の使用を提供する。
【0016】
定義
本明細書で使用されるときに、用語「防汚コーティング組成物」は、表面に適用されたときに、表面上の海洋生物の成長を防止又は最小化する組成物を指す。
【0017】
本明細書で使用するときに、用語「塗料」は、本明細書に記載のとおりの防汚コーティング組成物、及び、場合により、溶媒を含み、使用、例えば、噴霧のための準備が整った組成物を指す。したがって、防汚コーティング組成物は自体が塗料であってもよく、又は防汚コーティング組成物は、塗料を製造するために溶媒が添加される濃縮物であってもよい。
【0018】
本明細書で使用されるときに、用語「トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー」は、トリアルキルシリル(メタ)アクリレートモノマーに由来する繰り返し単位を含むポリマーを指す。一般に、トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは、トリアルキルシリル(メタ)アクリレートモノマー、すなわちトリアルキルシリルアクリレート及び/又はトリアルキルシリルメタクリレートモノマーに由来する繰り返し単位を少なくとも5wt%、より好ましくは少なくとも20wt%、さらにより好ましくは少なくとも40wt%の量で含む。
【0019】
本明細書で使用されるときに、用語「アルキル」は、飽和の直鎖、分岐鎖又は環状基を指す。アルキル基は置換されていても又は置換されていなくてもよい。
【0020】
本明細書で使用されるときに、用語「シクロアルキル」は、3~10個の炭素原子を含む飽和又は部分飽和単環式又は二環式アルキル環系を指す。シクロアルキル基は置換されていても又は置換されていなくてもよい。
【0021】
本明細書で使用されるときに、用語「アルキレン」は二価アルキル基を指す。
【0022】
本明細書で使用されるときに、用語「アリール」は少なくとも1つの芳香環を含む基を指す。アリールという用語は、ヘテロアリールならびに1つ以上の芳香環がシクロアルキル環に縮合している縮合環系を包含する。アリール基は置換されていても又は置換されていなくてもよい。アリール基の例は、フェニル、すなわちC6H5である。フェニル基は置換されていても又は置換されていなくてもよい。
【0023】
本明細書で使用されるときに、用語「置換」は、基中の水素原子の1つ以上、例えば最大6個、特に1、2、3、4、5又は6個が互いに独立して、対応する数の記載の置換基によって置換されている基を指す。本明細書で使用されるときに、用語「場合により置換された」は置換又は非置換を意味する。
【0024】
本明細書で使用されるときに、用語「金属カルボン酸塩」はカルボン酸の金属塩を指す。金属カルボン酸塩は、金属陽イオン、例えば、M+、M2+と結合又は錯体化された少なくとも1つのカルボン酸塩(-COO-)を含む。
【0025】
本明細書で使用されるときに、用語「カルボン酸」は、1~3個の-COOH基を含む化合物を指す。好ましいカルボン酸は、1つの-COOH基を含む、すなわち、好ましいカルボン酸はモノカルボン酸である。
【0026】
本明細書で使用されるときに、用語「樹脂酸」は樹脂中に存在するカルボン酸の混合物を指す。
【0027】
本明細書で使用されるときに、用語「ロジン」はロジン及びロジン誘導体を指す。
【0028】
本明細書で使用されるときに、用語「分子量」は、特に明記しない限り、重量平均分子量(Mw)を指す。
【0029】
本明細書で使用されるときに、用語「PDI」又は多分散指数は比Mw/Mnを指し、Mnは数平均分子量を指す。
【0030】
本明細書で使用されるときに、用語「揮発性有機化合物(VOC)」は、101.3kPaの標準大気圧で250℃以下の沸点を有する化合物を指す。
【0031】
本明細書で使用されるときに、「防汚剤」は、表面上における海洋生物の定着を防ぐ、及び/又は、表面上の海洋生物の成長を防ぐ、及び/又は、表面からの海洋生物の除去を促進する化合物又は化合物の混合物を指す。
【0032】
本明細書で使用されるときに、用語「エクステンダー(増量剤)」は、「フィラー」と互換的に使用され、コーティング組成物の体積又は嵩を増加させる化合物を指す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
本発明は、
(i)トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、
(ii)トラロピリル、
(iii)金属カルボン酸塩、ここで、前記金属カルボン酸塩は、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ土類金属カルボン酸塩又は遷移金属カルボン酸塩であり、5~50個の炭素原子を有するカルボン酸に由来する、及び、
(iv)場合により、カルボン酸、
を含む、防汚コーティング組成物に関する。
【0034】
場合により、組成物は、以下のうちの1つ以上:(v)追加の防汚剤、(vi)バインダ、(vii)顔料及び/又は増量剤、(Viii)脱水剤、(ix)添加剤、及び、(x)溶媒をさらに含む。
【0035】
本発明の防汚コーティング組成物において、トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、トラロピリル及び金属カルボン酸塩とカルボン酸との特定の混合物の組み合わせは、長期貯蔵安定性ならびに優れた塗布特性を有する組成物を有利に提供する。これは、防汚コーティング組成物を長期間(例えば、周囲温度で少なくとも1ヶ月)貯蔵することができ、2000cP未満の粘度をなおも有し、スプレイなどにより表面に塗布できることを意味する。
【0036】
金属カルボン酸塩
本発明の防汚コーティング組成物は、好ましくは、カルボン酸及び金属カルボン酸塩を、質量比0:100~30:70、より好ましくは0:100~20:80、さらにより好ましくは0:100~10:90で含む。本発明の幾つかの好ましい防汚コーティング組成物において、カルボン酸/金属カルボン酸塩の質量比は0:100である。本発明の他の好ましい防汚コーティング組成物において、カルボン酸/金属カルボン酸塩の質量比は、0.5:99.5~45:55、より好ましくは0.5:99.5~30:70、さらにより好ましくは0.5:99.5~20:80である。カルボン酸と金属カルボン酸塩との混合物をトリアルキルシリル(メタ)アクリレート及びトラロピリルと組み合わせると、組成物が長期貯蔵安定性を有することが判った。
【0037】
比較的多量のトラロピリル(例えば、組成物の総質量に基づいて3~10wt%)が組成物中に存在する場合に、カルボン酸と金属カルボン酸塩との比は、好ましくは0:100~20:80、より好ましくは0:100~5:95、さらに好ましくは0:100~2:98である。これらの比率は、長期にわたって最大の貯蔵安定性を提供する。比較的少量のトラロピリルが存在する場合には(例えば、組成物の総質量に基づいて0.5~3wt%)、カルボン酸と金属カルボン酸塩との比は、好ましくは0:100~45:55、より好ましくは0:100~30:70、さらにより好ましくは0:100~20:80である。
【0038】
上記のカルボン酸/金属カルボン酸塩の比率は、防汚塗料の調製中に防汚塗料に添加されるカルボン酸及び金属カルボン酸塩の質量に基づく。この比率には、組成物中にその場で生成されうるカルボン酸、又は、添加された金属カルボン酸塩中に存在するカルボン酸は含まない。好ましくは、比率は、組成物で副反応などとしてその場で生成される金属カルボン酸塩を含まない。
【0039】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在する金属カルボン酸塩は、アルカリ金属カルボン酸塩(例えば、カリウムカルボン酸塩)、アルカリ土類金属カルボン酸塩(例えば、マグネシウムカルボン酸塩、カルシウムカルボン酸塩)又は遷移金属カルボン酸塩(例えば、亜鉛カルボン酸塩、銅カルボン酸塩)である。しかしながら、好ましくは、金属カルボン酸塩は遷移金属カルボン酸塩である。特に好ましくは、金属カルボン酸塩は亜鉛カルボン酸塩である。本発明の防汚コーティング組成物における亜鉛カルボン酸塩の使用は、組成物の安定性を有意に改善することが見出された。
【0040】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在する金属カルボン酸塩は、2~50個の炭素原子、より好ましくは5~40個の炭素原子、さらにより好ましくは10~20個の炭素原子を有するカルボン酸に由来する。好ましくは、金属カルボン酸塩は、ポリマー内に存在するカルボン酸に由来しない。
【0041】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在する金属カルボン酸塩は、好ましくは、樹脂酸、樹脂酸の誘導体、C6-20環状カルボン酸、C5-10非環式脂肪族カルボン酸及びC7-20芳香族カルボン酸及びそれらの混合物から選ばれるカルボン酸に由来する。樹脂酸の代表例としては、ガムロジン、ウッドロジン、トールオイルロジン、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、パルストリン酸、レボピマル酸、ピマル酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸(sandaracopimaric acid)、コム酸(communic acid)、メルカシン酸(mercusic acid)、セコデヒドロアビエチン酸(secodehydroabietic acid)、及び、サンダラコピマル酸、ジヒドロアガタル酸(dihydroagathalic acid)、ジヒドロアガトール酸(dihydroagatholic acid)、メチルピニホル酸(methyl pinifolic acid)、コムン酸及びジヒドロアガチン酸(dihydroagathic acid)を含有するサンダラック樹脂が挙げられる。樹脂酸誘導体の代表例としては、水素化ロジン、不均化ロジン、ジヒドロアビエチン酸及びテトラヒドロアビエチン酸が挙げられる。C5-10非環式カルボン酸の代表例としては、Versatic(商標)酸、ネオデカン酸、2,2,3,5-テトラメチルヘキサン酸、2,4-ジメチル-2-イソプロピルペンタン酸、2,5-ジメチル-2-エチルヘキサン酸、2,2-ジメチルオクタン酸、2,2-ジエチルヘキサン酸、ピバリン酸、2,2-ジメチルプロピオン酸、トリメチル酢酸、ネオペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソノナン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸が挙げられる。C6-20環状カルボン酸の代表例としては、ナフテン酸、1,4-ジメチル-5-(3-メチル-2-ブテニル)-3-シクロヘキセン-1-イルカルボン酸、1,3-ジメチル-2-(3-メチル-2-ブテニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,2,3-トリメチル-5-(1-メチル-2-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,4,5―トリメチル-2-(2-メチル-2-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,4,5-トリメチル-2-(2-メチル-1-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,5,6-トリメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-メチル-4-(4-メチル-3-ペンテニル)-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-メチル-3-(4-メチル-3-ペンテニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、2-メトキシカルボニル-3-(2-メチル-1-プロペニル)-5,6-ジメチル-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、2-メトキシカルボニル-6-(2-メチル-1-プロペニル)-3,4-ジメチル-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-i―プロピル-4-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-5-イル-カルボン酸、1-i―プロピル-4-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-6-イル-カルボン酸、6-i―プロピル-3-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-8-イル-カルボン酸及び6-i-プロピル-3-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-7-イル-カルボン酸が挙げられる。
【0042】
好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物中に存在する金属カルボン酸塩は、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、パルストリン酸、レボピマル酸、ピマル酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸、コムン酸及びそれらの混合物に由来する。特に好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物中に存在する金属カルボン酸塩は、ガムロジン、ウッドロジン、トールオイルロジン、特にガムロジンに由来する。これらのロジンは、上記の樹脂酸の混合物を含む。
【0043】
本発明の他の防汚コーティング組成物において、その中に存在する金属カルボン酸塩は、C5-20カルボン酸、ネオデカン酸、ナフテン酸、1-メチル-3-(4-メチル-3-ペンテニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-メチル-4-(4-メチル-3-ペンテニル)-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,4,5-トリメチル-2-(2-メチル-1-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸及び1,5,6-トリメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸に由来する。
【0044】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在する金属カルボン酸塩は、好ましくは、上記のカルボン酸のいずれかの亜鉛塩である。好ましくは、金属カルボン酸塩は、樹脂酸、樹脂酸の誘導体、C6-20環状カルボン酸、C5-10脂肪族カルボン酸及びC7-20芳香族カルボン酸ならびにそれらの混合物から選ばれるカルボン酸の亜鉛塩である。
【0045】
特に好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物中に存在する金属カルボン酸塩は、ガムロジン、ガムロジン誘導体、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、パルストリン酸、レボピマル酸、ピマル酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸、コムン酸、及び、サンダラコピマル酸、ジヒドロアガタル酸、ジヒドロアガトール酸、メチルピニホル酸、コムン酸及びジヒドロアガチン酸を含有するサンダラック樹脂の亜鉛塩である。さらにより好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物中に存在する金属カルボン酸塩は、ロジン亜鉛塩、ロジン誘導体の亜鉛塩又はそれらの混合物であり、特に好ましくはガムロジン亜鉛塩、ガムロジン誘導体の亜鉛塩又はそれらの混合物である。
【0046】
好ましくは、本発明の組成物中に存在する金属カルボン酸塩の総量は、組成物の総質量に基づいて、0.5~25wt%、より好ましくは1.0~20wt%、さらにより好ましくは1.5~15wt%である。
【0047】
適切な金属カルボン酸塩は、当該技術分野で周知の技術により調製することができる。あるいは、適切な金属カルボン酸塩は商業的に購入してもよい。
【0048】
カルボン酸
本発明の防汚コーティング組成物は、場合により、カルボン酸を含む。幾つかの好ましい組成物において、カルボン酸は存在する。他の好ましい組成物において、カルボン酸は実質的に存在せず、好ましくは存在しない。重要なことは、トリアルキルシリル(メタ)アクリレート及びトラロピリルを含むコーティング組成物に長期貯蔵安定性を提供することが見出された金属カルボン酸塩とカルボン酸との特定の混合物の使用である。
【0049】
組成物がカルボン酸を含む場合に、カルボン酸は、好ましくは2~50個の炭素原子、より好ましくは5~40個の炭素原子、さらにより好ましくは10~20個の炭素原子を含む。
【0050】
本発明の防汚コーティング組成物中に場合により存在するカルボン酸は、好ましくは樹脂酸、樹脂酸の誘導体、C6-20環状カルボン酸、C5-10非環状脂肪族カルボン酸及びC7-20芳香族カルボン酸ならびにそれらの混合物である。樹脂酸の代表例としては、ガムロジン、ウッドロジン、トールオイルロジン、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ピマル酸、イソピマル酸、レボピマル酸、パルストリン酸、サンダラコピマル酸、コムン酸及びメルカシン酸、セコデヒドロアビエチン酸、及び、サンダラコピマル酸、ジヒドロアガタル酸、ジヒドロアガトール酸、メチルピニホル酸、コムン酸及びジヒドロアガチン酸を含有するサンダラック樹脂が挙げられる。樹脂酸誘導体の代表例としては、水素化ロジン、不均化ロジン、ジヒドロアビエチン酸及びテトラヒドロアビエチン酸が挙げられる。他のC5-10非環式脂肪族カルボン酸の代表例としては、Versatic(商標)酸、ネオデカン酸、2,2,3,5-テトラメチルヘキサン酸、2,4-ジメチル-2-イソプロピルペンタン酸、2,5-ジメチル-2-エチルヘキサン酸、2,2-ジメチルオクタン酸、2,2-ジエチルヘキサン酸、ピバリン酸、2,2-ジメチルプロピオン酸、トリメチル酢酸、ネオペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソノナン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸が挙げられる。C6-20環状カルボン酸の代表例としては、ナフテン酸、1,4-ジメチル-5-(3-メチル-2-ブテニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,3-ジメチル-2-(3-メチル-2-ブテニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,2,3-トリメチル-5-(1-メチル-2-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,4,5-トリメチル-2-(2-メチル-2-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,4,5-トリメチル-2-(2-メチル-1-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1,5,6-トリメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-メチル-4-(4-メチル-3-ペンテニル)-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-メチル-3-(4-メチル-3-ペンテニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、2-メトキシカルボニル-3-(2-メチル-1-プロペニル)-5,6-ジメチル-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-i-プロピル-4-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-5-イル-カルボン酸、1-i―プロピル-4-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-6-イル-カルボン酸、6-i-プロピル-3-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-8-イル-カルボン酸及び6-i-プロピル-3-メチル-ビシクロ[2,2,2]2-オクテン-7-イル-カルボキシ酸が挙げられる。適切なカルボン酸は商業的に購入することができる。
【0051】
好ましくは、本発明の組成物中に存在するカルボン酸の総量は、組成物の総質量に基づいて、0~5wt%、より好ましくは0~2.5wt%、さらにより好ましくは0.1~1.5wt%である。より好ましくは5wt%未満、さらにより好ましくは2wt%未満のカルボン酸は本発明の組成物中に存在する。比較的多量のトラロピリル(例えば、組成物の総質量に基づいて3~10wt%)が組成物中に存在する場合には、カルボン酸の量は好ましくは0~2.5wt%、より好ましくは0~1.5wt%、さらにより好ましくは0.1~0.5wt%である。これらの比率は長期にわたって最大の貯蔵安定性を提供する。比較的少量のトラロピリル(例えば、組成物の総質量に基づいて0.5~3wt%)の場合には、カルボン酸の量は、好ましくは0~5wt%、より好ましくは0.1~2.5wt%、さらにより好ましくは0.1~2.0wt%である。
【0052】
トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー
本発明の防汚コーティング組成物中に存在するトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは、好ましくはコポリマーである。
【0053】
好ましくは、防汚コーティング組成物中に存在するトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは、少なくとも1つのトリアルキルシリル(メタ)アクリレートモノマーの残基、好ましくは少なくとも1つの式(I)のトリアルキルシリル(メタ)アクリレートモノマーの残基:
【0054】
【0055】
を含む。上式中、
R1はH又はCH3であり、
R2は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖C1-4アルキル基から選ばれ、
R3は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖C1-20アルキル基、C3-12シクロアルキル基及び-OSi(R4)3基からなる群より選ばれ、
各R4は独立して、直鎖又は分岐鎖C1-4アルキル基であり、
ZはC1~C4アルキレンであり、
mは0~1の整数であり、そして
nは0~5の整数である。
【0056】
R2及びR4基の代表例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル及びt-ブチルが挙げられる。
【0057】
Zの代表例としては、-CH2-、-CH2CH2-、―(CH2)3-及び(CH2)4が挙げられる。分岐鎖C3-4アルキレン基、例えば-CH2CH(CH3)CH2-も考えられる。
【0058】
式(I)の好ましいモノマーにおいて、mは0である。
【0059】
式(I)の好ましいモノマーにおいて、nは0である。
【0060】
式(I)の好ましいモノマーにおいて、R3はそれぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖C1-20アルキル基から選ばれる。さらにより好ましくは、R3は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖C1-8アルキル基から選ばれ、さらにより好ましくは、C2-6アルキル基から選ばれる。
【0061】
トリアルキルシリル(メタ)アクリレートモノマーの例としては、例えば、一般式(I)で定義されているとおり、
トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-sec-ブチルシリル(メタ)アクリレート、ブチルジイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、t-ブチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、テキシルジメチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソプロピルシロキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、トリイソプロピルシロキシカルボニルエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルジメチルシロキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、ノナメチルテトラシロキシ(メタ)アクリレート、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル(メタ)アクリレート及びトリス(トリメチルシロキシ)シリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0062】
好ましいモノマーは、アルキル基の1つ以上が分岐しているトリアルキルシリル(メタ)アクリレートである。特に好ましいモノマーとしては、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ブチルシリル(メタ)アクリレート及びテキシルジメチルシリル(メタ)アクリレートが挙げられる。トリイソプロピルシリルアクリレート及びトリイソプロピルシリルメタクリレートは特に好ましい。
【0063】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在するトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは、好ましくは、式(I)の1~3つの異なるモノマー、より好ましくは式(I)の1又は2つの異なるモノマーを含む。
【0064】
好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物中に存在するトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは、1つ以上の(メタ)アクリレートモノマーの残基をさらに含む。トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーに存在する好ましいメタ(アクリレート)モノマーは式(IIa)~(IIc)のものである:
【0065】
【0066】
(上式中、R5は水素又はメチルであり、R6は環状エーテルであり、XはC1~C4アルキレンである)、又は、
【0067】
【0068】
(上式中、R7は水素又はメチルであり、R8は少なくとも1つの酸素又は窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を有するC3~C18置換基である)、又は、
【0069】
【0070】
(上式中、R9は水素又はメチルであり、R10はC1~C8ヒドロカルビルである)。
【0071】
式(IIa)の好ましいモノマーにおいて、R5は水素又はメチルであり、R6は環状エーテル(オキソラン、オキサン、ジオキソラン、ジオキサンであって場合によりアルキル置換されていてよいものなど)であり、XはC1-4アルキレン、好ましくはC1-2アルキレンである。環状エーテルは、環内に単一の酸素原子又は環内に2又は3個の酸素原子を含むことができる。環状エーテルは、2~8個の炭素原子、例えば3~5個の炭素原子を含む環を含むことができる。環全体は、4~8個の原子、例えば5又は6個の原子を含むことができる。
【0072】
環状エーテルの環は、例えば、1つ以上の、例えば1つのC1-6アルキル基で置換されていてよい。その置換基は、X基に結合する位置を含む環上のいずれの位置でもよい。
【0073】
式(IIa)の適切なモノマーとしては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソプロピリデングリセロールメタクリレート、グリセロールホルマールメタクリレート及び環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートが挙げられる。
【0074】
式(IIa)は、最も好ましくは以下の構造を有するテトラヒドロフルフリルアクリレートを表す。
【0075】
【0076】
式(IIb)の好ましいモノマーにおいて、R7は水素又はメチルであり、R8は少なくとも1つの酸素又は窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を含むC3-18置換基である。
【0077】
式(IIb)の好ましいモノマーにおいて、R8は式-(CH2CH2O)m-R11であり、R11はC1-10ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1-10アルキル又はC6-10アリール置換基であり、mは1~6、好ましくは1~3の整数である。好ましくは、R8は式-(CH2CH2O)m-R11であり、R11はアルキル置換基、好ましくはメチル又はエチルであり、mは1~3の範囲、好ましくは1又は2の整数である。
【0078】
式(IIb)の好ましいモノマーとしては、2-メトキシエチルメタクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート及び2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートの1つ以上が挙げられる。
【0079】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在する好ましいトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーにおいて、式(IIa)及び(IIb)の両方のモノマーが存在することは一般に好ましくない。
【0080】
式(IIc)の好ましいモノマーにおいて、R9は水素又はメチルであり、R10はC1-8ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1-8アルキル置換基、最も好ましくはメチル、エチル、n-ブチル又は2-エチルヘキシルである。
【0081】
式(IIc)の好ましいモノマーとしては、メチルメタクリレート及びn-ブチルアクリレートが挙げられる。
【0082】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在する好ましいトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは式(IIc)の少なくとも1つのモノマーを含む。
【0083】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在するトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは、場合により、他の重合性モノマーを含むことができる。例としては、3,5,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸及びメタクリル酸のアルキルエステル、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸及びメタクリル酸の環状アルキルエステル、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸及びメタクリル酸のアリールエステル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール)(メタ)アクリレートなどのアクリル酸及びメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸及びメタクリル酸のアルコキシアルキル及びポリ(アルコキシ)アルキルエステル、無水メタクリル酸などのアクリル酸及びメタクリル酸の他の官能性モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバル酸ビニル、ドデカン酸ビニル、安息香酸ビニル、4-t-ブチル安息香酸ビニル、VeoVaTM 9、VeoVaTM 10などのビニルエステル、N-ビニルラクタム、N-ビニルピロリドンなどのN-ビニルアミド、スチレン、α-メチルスチレン及びビニルトルエンなどのビニルモノマーが挙げられる。
【0084】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在する好ましいトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは重量平均分子量(Mw)が5000~80000、より好ましくは10000~70000、さらにより好ましくは20000~60000である。本発明の防汚コーティング組成物中に存在するトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは数平均分子量(Mn)が3000~20000、より好ましくは5000~15000、さらにより好ましくは7000~12000である。本発明の防汚コーティング組成物に存在する好ましいトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは式:多分散指数(PDI)=(Mw/Mn)を用いて計算されるPDIが1.2~5、より好ましくは2.5~4.0である。本発明の防汚コーティング組成物中に存在する好ましいトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーはTgが10℃~80℃、より好ましくは15℃~70℃、さらにより好ましくは20℃~60℃である。
【0085】
防汚コーティング組成物は、上記のとおりの1つ以上(例えば、1、2、3、4又は5つ)のトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーを含むことができる。本発明の好ましい防汚コーティング組成物は、1、2、3又は4つのトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、さらにより好ましくは1又は2つのトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーを含む。
【0086】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在する好ましいトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーにおいて、式(I)のモノマーの量は、モノマーの総質量に基づいて、好ましくは5~80wt%、より好ましくは20~70wt%、さらにより好ましくは40~65wt%である。本発明の防汚コーティング組成物中に存在する好ましいトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーにおいて、式(IIa)及び(IIb)のモノマーの総量は、モノマーの総質量に基づいて、好ましくは1~40wt%、より好ましくは2~30wt%であり、より好ましくは5~25wt%である。本発明の防汚コーティング組成物中に存在する好ましいトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーにおいて、式(IIc)のモノマーの量は、モノマーの総質量に基づいて、好ましくは1~50wt%、より好ましくは2~45wt%、さらにより好ましくは5~40wt%である。本発明の防汚コーティング組成物中に存在する好ましいトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーにおいて、他のモノマーの量は、モノマーの総質量に基づいて、好ましくは0~20wt%、より好ましくは0~15wt%、さらにより好ましくは0~10wt%である。
【0087】
好ましくは、本発明の組成物中に存在するトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーの総量は、組成物の総質量に基づいて、1~50wt%、より好ましくは2~40wt%、さらにより好ましくは5~35wt%である。
【0088】
適切なトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは当該分野で公知の重合技術を使用して調製されうる。トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合及び懸濁重合などの様々な方法のいずれかにより、重合開始剤の存在下でモノマー混合物を重合することにより得ることができる。例えば、制御された重合技術を使用することができる。上述のとおりのトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーを使用してコーティング組成物を調製する際に、ポリマーを好ましくは有機溶媒で希釈して、適切な粘度を有するポリマー溶液を得る。この観点から、溶液重合又は塊状重合を使用してトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーを調製することが望ましい。適切な重合開始剤の例としては、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)及び1,1'-アゾビス(シアノシクロヘキサン)などのアゾ化合物、及び、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシジエチルアセテート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルペルオキシベンゾエート、及び、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルペルオキシピバレート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ジ(tert-アミルペルオキシ)シクロヘキサン及び過酸化ジベンゾイルなどの過酸化物が挙げられる。これらの化合物は、単独で使用しても、又は、その2種以上の混合物として使用してもよい。
【0089】
適切な有機溶媒の例としては、キシレン、トルエン、メシチレンなどの芳香族炭化水素、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン、酢酸ブチル、酢酸アミル、エチレングリコールメチルエーテルアセテートなどのエステル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル、n-ブタノール、2-ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール、ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール、ホワイトスピリットなどの脂肪族炭化水素、及び、場合により、2つ以上の溶媒の混合物が挙げられる。これらの化合物は、単独で又はそれらの2つ以上の混合物として使用される。
【0090】
あるいは、適切なトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは市販品として購入してもよい。
【0091】
トラロピリル
本発明の防汚コーティング組成物はトラロピリル又はその塩を含む。これは、海洋汚損物を防止し又は表面から除去できる有機防汚剤である。有機殺生物剤であるトラロピリルは、JansssenによりEconea(エコネア)(登録商標)として販売している。トラロピリルは、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリルであり、以下に示す構造を有する。
【0092】
【0093】
トラロピリルは、フジツボ、ムラサキイガイ及びチューブワームを含む様々な海洋生物に対して広範な活性スペクトルを示す。その塩も使用できる。トラロピリルという用語を使用してこの殺生物剤について説明する。その教示はその塩に同様に適用される。
【0094】
本発明の防汚コーティング組成物は殺生物活性を確保する量のトラロピリルを含む。好ましい量は0.5~10wt%(乾燥固体)、好ましくは1~7wt%、好ましくは2~6wt%である。
【0095】
トラロピリルを使用する利点の1つは、金属殺生物剤と比較して海洋生物に対して高い殺生物効力を示すことであり、金属殺生物剤の量を減らすか又は排除することができることを意味する。また、銅塩の沈殿による変色などの望ましくない影響は回避又は低減される。トラロピリルを使用することの欠点は、トリアルキルシリル(メタ)アクリレート含有組成物を不安定にさせることである。しかしながら、この問題は、金属カルボン塩及び場合によりカルボン酸の特定の組み合わせを含む本明細書の防汚コーティング組成物で克服される。
【0096】
場合により、防汚コーティング組成物は、1つ以上の追加の防汚剤を含む。防汚剤、生物活性化合物、防汚剤、殺生物剤、毒性物質という用語は、表面上での海洋汚損を防ぐように作用する既知の化合物を記述するために当業界で使用されている。本発明の組成物中に存在するさらなる防汚剤は、好ましくは海洋防汚剤である。防汚剤は、無機、有機金属又は有機であることができる。適切な防汚剤は市販されている。
【0097】
無機防汚剤の例としては、銅及び酸化銅などの銅化合物、例えば、酸化銅(I)及び酸化銅(II)、銅合金、例えば銅ニッケル合金、銅塩、例えばチオシアン酸銅(I)及び硫化銅が挙げられる。
【0098】
有機金属防汚剤の例としては、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、酢酸銅、ナフテン酸銅、オキシン銅、ノニルフェノールスルホン酸銅、銅ビス(エチレンジアミン)ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)及び銅ビス(ペンタクロロフェノレート)などの有機銅化合物、亜鉛ビス(ジメチルジチオカルバメート)[ジラム]、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバメート)[ジネブ]、マンガンエチレンビス(ジチオカルバメート)[マネブ]及びマンガンエチレンビス(ジチオカルバメート)を亜鉛塩と錯化したもの[マンコゼブ]などのジチオカルバメート化合物が挙げられる。
【0099】
有機防汚剤の例としては、2-(t-ブチルアミノ)-4-(シクロプロピルアミノ)-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン[シブトリン]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2-(チオシアナトメチルチオ)-1,3-ベンゾチアゾール[ベンチアゾール]及び2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジンなどの複素環化合物、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素[ジウロン]などの尿素誘導体、N-(ジクロロフルオロメチルチオ)フタルイミド、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N',N'-ジメチル-N-フェニルスルファミド[ジクロロフルアニド]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N',N'-ジメチル-N-p-トリルスルファミド[トリルフルアニド]及びN-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミドなどのカルボン酸、スルホン酸及びスルフェン酸のアミド及びイミド、ピリジントリフェニルボラン[TPBP]、アミントリフェニルボラン、3-ヨード-2-プロピニルN-ブチルカルバメート[ヨードカルブ]、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル及びp-((ジヨードメチル)スルホニル)トルエンなどのその他の有機化合物が挙げられる。
【0100】
防汚剤の他の例としては、テトラアルキルホスホニウムハロゲン化物、グアニジン誘導体、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]などのイミダゾール含有化合物及び誘導体、大環状ラクトン、例えば、アベルメクチン及びイベルメクチンなどのその誘導体、及び、スピノシン及びスピノサドなどのその誘導体、及び、オキシダーゼなどの酵素、タンパク質分解、ヘミセルロース分解、セルロース分解、脂肪分解及びデンプン分解活性酵素が挙げられる。
【0101】
好ましいさらなる防汚剤は、酸化銅(I)、チオシアン酸銅、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバメート)[ジネブ]、2-(t-ブチルアミノ)-4-(シクロプロピルアミノ)-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン[シブトリン]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N',N'-ジメチル-N-フェニルスルファミド[ジクロロフルアニド]]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N',N'-ジメチル-N-p-トリルスルファミド[トリルフルアニド]及び4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]である。
【0102】
特に好ましいさらなる防汚剤は、酸化銅(I)、チオシアン酸銅(I)、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバメート)[ジネブ]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-1-オン[DCOIT]及び4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]である。
【0103】
異なる防汚剤は異なる海洋汚損性生物に対して作用するため、防汚剤は単独で又は混合物で使用されうる。一般に、防汚剤の混合物は好ましい。防汚剤の1つの好ましい混合物は、フジツボ、チューブワーム、コケムシ及びヒドロイドなどの海洋無脊椎動物、及び、藻類(海藻や珪藻)などの植物及び細菌に対して活性がある。
【0104】
本発明の幾つかの好ましいコーティング組成物は無機銅防汚剤を含まない。そのような組成物は、好ましくは、トラロピリルと、亜鉛ピリチオン、ジネブ及び4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選ばれる1つ以上の薬剤との組み合わせを含む。
【0105】
他の好ましいコーティング組成物は、トラロピリル、酸化銅(I)及び/又はチオシアン酸銅(I)、ならびに銅ピリチオン、ジネブ及び4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選ばれる1つ以上の薬剤を含む。
【0106】
防汚組成物中に存在する防汚剤の合計量は、コーティング組成物の60wt%以下、例えば、組成物の総質量に基づいて、0.1~50wt%、例えば、0.2~45wt%を構成しうる。無機銅化合物が存在する場合には、防汚剤の適切な量は、コーティング組成物中に5~60wt%であろう。無機銅化合物が避けられる場合には、0.1~25wt%など、例えば0.2~20wt%などの、より少ない量を使用できる。防汚剤の量は、最終用途及び使用される防汚剤に応じて変化することは理解されるであろう。これらの防汚剤の使用は防汚コーティングで知られており、それらの使用は当業者によく知られているであろう。防汚剤は、制御された放出のために、不活性キャリア上にカプセル化又は吸着されるか、又は、他の材料に結合されることができる。これらの百分率は存在する活性な防汚剤の量を示しており、したがって、使用されているキャリアを示していない。
【0107】
本発明の好ましい防汚コーティング組成物は:
(i)1~50wt%、より好ましくは2~40wt%のトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、
(ii)0.5~10wt%、より好ましくは1~7wt%のトラロピリル、
(iii)0.5~25wt%、より好ましくは1.0~20wt%の金属カルボン酸塩、及び、
(iv)0~5wt%、より好ましくは0~2.5wt%のカルボン酸、
を含み、wt%は組成物の総質量に基づく。
【0108】
バインダ成分
シリル(メタ)アクリレートポリマーに加えて、防汚コーティング組成物の特性を調整するために、追加のバインダを場合により使用することができる。使用できるバインダの例として:
(メタ)アクリルポリマー及びコポリマー、特に、WO03/070832及びEP2128208に記載されているポリ(n-ブチルアクリレート)、ポリ(n-ブチルアクリレート-コ-イソブチルビニルエーテル)などのアクリレートバインダ及びその他のもの、
親水性コポリマー、例えばGB2152947に記載されている(メタ)アクリレートコポリマー及びEP0526441に記載されているポリ(N-ビニルピロリドン)コポリマー及び他のコポリマー、
ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(エチルビニルエーテル)、ポリ(イソブチルビニルエーテル)、ポリ(塩化ビニル-コ-イソブチルビニルエーテル)などのビニルエーテルポリマー及びコポリマー、
ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(2-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4-ヒドロキシ吉草酸)、ポリカプロラクトン及び2つ以上の上記の単位から選ばれた単位を含む脂肪族ポリエステルコポリマーなどの脂肪族ポリエステル、
WO2009/100908に記載されているポリオキサレート及びWO96/14362に記載されている他の縮合ポリマー、
アルキド樹脂及び変性アルキド樹脂、及び、
WO2011/092143に記載されているような炭化水素樹脂、例えば、C5脂肪族モノマー、C9芳香族モノマー、インデンクマロンモノマー又はテルペン又はそれらの混合物から選ばれる少なくとも1つのモノマーの重合のみから形成される炭化水素樹脂などが挙げられる。
【0109】
特に適切な追加のバインダは(メタ)アクリルポリマー及びコポリマーである。
【0110】
増量剤及び顔料
本明細書において、増量剤という用語は、増量剤及びフィラーを包含するように使用される。これらの化合物は組成物の嵩を増加させる。増量剤及びフィラーの例は、ドロマイト、プラストライト、方解石、石英、重晶石、マグネサイト、アラゴナイト、シリカ、ウォラストナイト、タルク、緑泥石、雲母、カオリン、長石などの鉱物、リン酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、シリカなどの合成無機化合物、非被覆又は被覆中空及び中実ガラスビーズ、非被覆又は被覆中空及び中実セラミックビーズ、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート-コ-エチレングリコールジメタクリレート、ポリ(スチレン-コ-エチレングリコールジメタクリレート)、ポリ(スチレン-コ-ジビニルベンゼン)、ポリスチレン及びポリ(塩化ビニル)などのポリマー材料の中空、多孔質及びコンパクトビーズなどのポリマー及び無機微小球である。
【0111】
顔料は、無機顔料、有機顔料又はそれらの混合物であることができる。無機顔料は好ましい。無機顔料の例としては、二酸化チタン、酸化鉄及び酸化亜鉛が挙げられる。有機顔料の例は、ナフトールレッド、フタロシアニン化合物、アゾ顔料及びカーボンブラックである。
【0112】
好ましくは、本発明の組成物中に存在する増量剤、フィラー及び/又は顔料の総量は、組成物の総質量に基づいて0~70wt%、より好ましくは1~60wt%、さらにより好ましくは2~50wt%である。当業者は、増量剤及び顔料含有量は、存在する他の成分及びコーティング組成物の最終用途に応じて変化することを理解するであろう。
【0113】
脱水剤
本発明の防汚コーティング組成物は、水捕捉剤又は乾燥剤とも呼ばれる脱水剤を場合により含む。好ましくは、脱水剤は、それが存在する組成物から水を除去する化合物である。脱水剤は、顔料及び溶媒などの原料から導入された湿分、又は、防汚コーティング組成物中のカルボン酸化合物と二価及び三価金属化合物との反応により形成された水を除去することにより、防汚コーティング組成物の貯蔵安定性を向上させる。防汚コーティング組成物中に使用できる脱水剤及び乾燥剤としては有機化合物及び無機化合物が挙げられる。
【0114】
脱水剤は、水分を吸収するか、しばしば乾燥剤と呼ばれる結晶水として水を結合する吸湿性材料であることができる。乾燥剤の例としては、硫酸カルシウム半水和物、無水硫酸カルシウム、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸亜鉛、モレキュラーシーブ及びゼオライトが挙げられる。
【0115】
脱水剤は水と化学的に反応する化合物であることができる。水と反応する脱水剤の例としては、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリプロピル、オルトギ酸トリイソプロピル、オルトギ酸トリブチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルト酢酸トリブチル及びオルトプロピオン酸トリエチルなどのオルトエステル、ケタール、アセタール、エノールエーテル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチル及びホウ酸トリ-t-ブチルなどのオルトホウ酸塩、トリメトキシメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びエチルポリシリケートなどのオルガノシランが挙げられる。
【0116】
好ましい脱水剤は、水と化学的に反応するものである。特に好ましい脱水剤はオルガノシランである。有機シランは、無機銅防汚剤を含む防汚コーティング組成物において特に好ましい。さらにより好ましくは、酸化銅(I)を含む防汚コーティング組成物中に存在するオルガノシランである。
【0117】
好ましくは、脱水剤は、組成物の総質量に基づいて、0~5wt%、より好ましくは0.5~2.5wt%、さらにより好ましくは1.0~2.0wt%の量で本発明の組成物中に存在する。
【0118】
好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物はカルボジイミド化合物を含まない。特に、本発明の防汚コーティング組成物は、好ましくは、式[-N=C=N-]で表される官能基を含む化合物を含まない。
【0119】
その他の成分
本発明の防汚コーティング組成物は、好ましくは1つ以上の他の成分を含む。防汚コーティング組成物に添加できる他の成分の例は、強化剤、チキソトロープ剤、増粘剤、沈降防止剤、分散剤、湿潤剤及び可塑剤である。
【0120】
強化剤の例はフレーク及び繊維である。繊維としては、シリコン含有繊維、炭素繊維、酸化物繊維、炭化物繊維、窒化物繊維、硫化物繊維、リン酸塩繊維、鉱物繊維などの天然及び合成無機繊維、金属繊維、セルロース繊維、ゴム繊維、アクリル繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、ポリエステル繊維、ポリヒドラジド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエチレン繊維及びその他のものなどの天然及び合成有機繊維が挙げられ、WO00/77102に記載されている。好ましくは、繊維は、平均長さと平均厚さとの比が少なくとも5である、25~2,000μmの平均長さ及び1~50μmの平均厚さを有する。好ましくは、強化剤は、本発明の組成物中に、組成物の総質量に基づいて、0~20wt%、より好ましくは0.5~15wt%、さらにより好ましくは1~10wt%の量で存在する。
【0121】
チキソトロープ剤、増粘剤及び沈降防止剤の例は、ヒュームドシリカなどのシリカ、有機変性粘土、アミドワックス、ポリアミドワックス、アミド誘導体、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、水素化ヒマシ油ワックス、エチルセルロース、ステアリン酸アルミニウム及びその混合物である。好ましくは、チキソトロープ剤、増粘剤及び沈降防止剤はそれぞれ本発明の組成物中に、組成物の総質量に基づいて、0~10wt%、より好ましくは0.5~6wt%、さらにより好ましくは1.0~3.0wt%の量で存在する。
【0122】
可塑剤の例は、塩素化パラフィン、フタレート、リン酸エステル、スルホンアミド、アジペート及びエポキシ化植物油である。好ましくは、可塑剤は、本発明の組成物中に、組成物の総質量に基づいて、0~20wt%、より好ましくは1~15wt%、さらにより好ましくは1~10wt%の量で存在する。
【0123】
溶媒
本発明の防汚コーティング組成物は、好ましくは溶媒を含む。溶媒は好ましくは揮発性である。好ましくは、溶媒は有機物である。そうは言っても、防汚コーティング組成物の成分は、代わりに、コーティング組成物中のフィルム形成成分(すなわちポリマー)に対する有機非溶媒中又は水性分散液中に分散させることができる。本発明の組成物に使用するのに適した溶媒は市販されている。
【0124】
適切な有機溶媒及び希釈剤の例は、キシレン、トルエン、メシチレンなどの芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン、酢酸ブチル、酢酸t-ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのエステル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル、n-ブタノール、イソブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール、ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール、ホワイトスピリットなどの脂肪族炭化水素であり、そして場合により、2つ以上の溶媒及び希釈剤の混合物である。
【0125】
本発明の防汚コーティング組成物中に存在する溶媒の量はできるだけ少ないことが好ましい。というのは、このことがVOC含有量を最小化するからである。好ましくは、溶媒は、組成物の総質量に基づいて、0~35wt%、より好ましくは1~30wt%、さらにより好ましくは2~28wt%の量で本発明の組成物中に存在する。当業者は、溶媒含量が存在する他の成分に応じて変わることを理解するであろう。
【0126】
組成物及び塗料
本発明はまた、組成物中に存在する成分が混合される、上記のとおりの組成物の調製方法に関する。いかなる従来の製造方法が使用されもよい。本発明の好ましい方法において、トラロピリルと混合する前に、トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー及び金属カルボン酸塩及び他の任意成分を分散、粉砕そして冷却する。トラロピリルは、場合により、溶媒中に提供されてよい。
【0127】
本明細書に記載のとおりの組成物は、使用、例えば、スプレイ塗装に適した濃度で調製することができる。この場合に、組成物自体が塗料である。あるいは、組成物は、塗料の調製のための濃縮物であってもよい。この場合に、塗料を形成するために、本明細書に記載の組成物にさらなる溶媒を添加する。好ましい溶媒は、組成物に関連して本明細書に上記したとおりである。
【0128】
混合後に、そして場合により溶媒の添加後に、防汚コーティング組成物又は塗料は、好ましくは容器に充填される。適切な容器としては、缶、ドラム及びタンクが挙げられる。
【0129】
防汚コーティング組成物は、好ましくはワンパックとして供給される。したがって、組成物は、好ましくは、調合形態又は使用準備済み形態で供給される。場合により、ワンパック製品は、塗布前に溶媒で希釈されうる。
【0130】
本発明の防汚コーティング組成物及び塗料は、好ましくは40~80体積%、より好ましくは45~70体積%、さらにより好ましくは50~65体積%の固形分を有する。
【0131】
好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物及び塗料は粘度が50~2000cP、より好ましくは50~1000cP、さらにより好ましくは100~900cP、さらにより好ましくは150~800cPである。好ましくは、粘度は実施例に記載されるように、コーンアンドプレート粘度計(ISO 2884-1:1999)を使用して測定される。
【0132】
好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物及び塗料は、ASTM D1849-95(2014)に従って、52℃で1週間貯蔵した後の粘度が50~2000cP、より好ましくは50~1000cP、さらにより好ましくは100~900cP、さらにより好ましくは150~800cPである。好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物及び塗料は、ASTM D1849-95(2014)に従って、52℃で2週間貯蔵した後の粘度が50~2000cP、より好ましくは50~1000cP、さらにより好ましくは100~900cP、さらにより好ましくは150~800cPである。好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物及び塗料は、ASTM D1849-95(2014)に従って、52℃で4週間貯蔵した後の粘度が50~2000cP、より好ましくは50~1000cP、さらにより好ましくは100~900cP、さらにより好ましくは150~800cPである。好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物は、ASTM D1849-95(2014)に従って、52℃で4週間の貯蔵中にゲルを形成しない。好ましくは、粘度は、実施例に記載されるように、コーンアンドプレート粘度計(ISO 2884-1:1999)を使用して測定される。
【0133】
好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物及び塗料は、50~500g/L、好ましくは50~420g/L、例えば、50~390g/Lの揮発性有機化合物(VOC)含有量を有する。VOC含有量は、計算(ASTM D5201-01)又は測定(EPA、方法24)されうる。
【0134】
好ましくは、本発明の防汚コーティング組成物及び塗料は、50~1000cPの粘度及び50~500g/LのVOC含有量、より好ましくは100~900cPの粘度及び50~420g/LのVOC含有量、より好ましくは150~800cPの粘度及び50~390g/LのVOC含有量を有する。
【0135】
本発明の防汚コーティング組成物及び塗料は汚損を受ける物品表面の全体又は一部に適用することができる。表面は、恒久的又は断続的に水面下にあることができる(例:潮の動き、さまざまな貨物の積み込み又は膨張)。物品の表面は、典型的には、船舶の船体、又は、石油プラットフォーム又はブイなどの固定された海洋物体の表面である。コーティング組成物及び塗料の塗布は、便利な手段のいずれか、例えば塗装(例えば、ブラシ又はローラによる)、又はより好ましくは、コーティングを物品にスプレイすることにより実現されうる。典型的には、コーティングを可能にするには、表面を海水から分離する必要がある。コーティングの塗布は、当該技術分野で従来から知られているように実現することができる。コーティングが塗布された後に、それは好ましくは乾燥される。
【実施例】
【0136】
ここで、以下の非限定的な実施例により本発明を説明する。
例
ポリマーの調製及び特性評価
ポリマー溶液の粘度の決定
ポリマー溶液の粘度は、12rpmのLV-2又はLV-4スピンドルを備えたブルックフィールドDV-1粘度計を使用して、ASTM D2196-15試験方法Aに従って決定した。ポリマーは測定前に23.0℃±0.5℃に調整した。
【0137】
ポリマー及び金属カルボン酸塩の溶液の固形分の決定
ポリマー溶液の固形分は、ISO 3251:2008に従って決定した。0.4g±0.1gの試験サンプルを取り出し、換気オーブンで乾燥した。トリアルキルシリル(メタ)アクリレートコポリマー及び他のアクリルコポリマーを150℃で30分間乾燥した。金属カルボン酸塩を105℃で3時間乾燥した。残留材料の重量は不揮発性物質(NVM)と考えられる。不揮発性物質の含有量は質量%で表される。与えられた結果は3つのパラレルの平均である。
【0138】
ポリマーの平均分子量分布の決定
ポリマーはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって特徴付けした。分子量分布(MWD)は、Agilentの2つのPLgel 5 μm Mixed-Dカラムを直列に備えたMalvern Omnisec Resolve and Revealシステムを使用して決定した。カラムは、狭いポリスチレン標準を使用した従来のキャリブレーションによって較正した。分析条件は以下の表に記載されているとおりであった。
【0139】
【0140】
サンプルは、5mlのTHFに25mgの乾燥ポリマーに相当する量のポリマー溶液を溶解することで調製した。サンプルはGPC測定のサンプリングの前に、室温で最低3時間保管した。分析の前に、サンプルを0.45μmナイロンフィルタでろ過した。重量平均分子量(Mw)及びMw/Mnとして与えられる多分散指数(PDI)を報告する。
【0141】
ポリマーガラス転移温度の決定
ガラス転移温度(Tg)は示差走査熱量測定(DSC)測定によって得た。DSC測定はTA Instrument DSC Q200で行った。乾燥ポリマーサンプルは、ギャップサイズ100μmのフィルムアプリケータを使用して、ガラスパネルにドローダウンして調製した。ガラスパネルを室温で少なくとも24時間乾燥させ、次いで、50℃で24時間乾燥させた。約10mgの乾燥ポリマー材料をガラスパネルから収集し、アルミパンに移した。測定は空のパンを基準として用いて開放したアルミニウムパンで行った。スキャンは-50℃から120℃の温度範囲で10℃/分の加熱速度及び10℃/分の冷却速度で記録した。データは、TA Instrumentsのユニバーサル分析(Universal Analysis)ソフトウェアを使用して処理した。ASTM E1356-08で規定されているとおり、第二回目の加熱のガラス転移範囲の変曲点をポリマーのTgとして報告する。
【0142】
シリルコポリマー溶液S-1からS-7の調製のための一般的な手順
ある量の溶媒を、撹拌機、凝縮器、窒素入口及び供給口を備えた温度制御された反応容器に装填した。反応容器を加熱し、85℃の反応温度に維持した。モノマー、開始剤及び溶媒のプレミックスを調製した。プレミックスを、窒素雰囲気下で2時間にわたって一定速度で反応容器に装填した。さらに1時間後に、ブースト開始剤溶液の後添加を追加した。反応容器をさらに2時間85℃の反応温度に維持した。次に、温度を110℃に上げ、さらに30分間維持した。次いで、コポリマー溶液を室温まで冷却した。
【0143】
質量部としての組成物の成分及びコポリマー溶液の特性を下記の表1に示す。
ガムロジン亜鉛塩溶液Z-1の調製
ポルトガルガムロジンの3500gの溶液(キシレン中60%、酸価117mgKOH/g)、320gの酸化亜鉛及び160gのキシレンを、攪拌機、ディーンスタークトラップ及び還流凝縮器を装備した5L温度制御反応容器に装填した。反応混合物を加熱して還流させた。ディーンスタークトラップ中で水が凝縮しなくなるまで反応混合物を140~160℃で還流させた。生成されたガムロジン亜鉛塩の溶液をろ過し、キシレンで希釈して固形分を約60wt%とした。
ロジン酸亜鉛溶液は60.8wt%の不揮発性物質を有していた。
【0144】
部分水素化ガムロジン亜鉛塩溶液Z-2の調製
Foralyn Eの1200gの溶液(キシレン中60%、酸価102mgKOH/g)、100gの酸化亜鉛及び50gのキシレンを、攪拌機、ディーンスタークトラップ及び還流凝縮器を備えた2L温度制御反応容器に装填した。反応混合物を加熱して還流させた。ディーンスタークトラップで水が凝縮しなくなるまで、反応混合物を140~160℃で還流させた。部分的に水素化されたガムロジン亜鉛塩の生成された溶液をろ過し、キシレンで希釈して、固形物含有量を約60wt%とした。
【0145】
ロジン酸亜鉛溶液は60.4wt%の不揮発性物質を有していた。
完全に水素化されたガムロジン亜鉛塩の溶液Z-3の調製
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた温度制御された1L反応容器に、200gの完全水素化ガムロジン、150gのキシレン及び100gの酸化亜鉛を加えた。混合物を徐々に加熱し、混合物を減圧下で70~80℃で3時間還流することにより脱水した。次いで、脱水生成物を室温(25℃)まで冷却し、ろ過して、完全に水素化されたガムロジン亜鉛塩の溶液を生成した。
【0146】
ロジン酸亜鉛溶液は66.1wt%の不揮発性物質を有した。
【0147】
【0148】
防汚コーティング配合物の調製及び試験
コーンアンドプレート粘度計を使用した塗料粘度の決定
防汚コーティング組成物の粘度はISO 2884-1:1999に従って、23℃の温度に設定されたコーンアンドプレート粘度計を使用して、10000s-1のせん断速度で動作し、0~10Pの範囲で粘度測定を行った。結果は3つの測定値の平均として与えられた。
【0149】
ストーマー型粘度計を使用した塗料コンシステンシーの決定
防汚コーティング組成物のコンシステンシーはデジタルストーマー型粘度計を使用して、ASTM D562-10(2014)方法Bに従って決定した。測定は、23℃の500ml容器内のサンプルで行なった。
【0150】
VOCの決定
防汚コーティング組成物のVOC(g/L)は、ASTM D5201-01に従って計算した。
【0151】
塗料の加速貯蔵安定性試験
防汚塗料組成物の貯蔵安定性は、ASTM D1849-95(2014)に記載されている条件に従って決定した。サンプルを、52℃の250ml容器に貯蔵した。貯蔵後に、容器を開ける前にサンプルを室温まで冷却した。塗料のコンシステンシーを評価した。液体サンプルを均質な品質まで攪拌し、コーンアンドプレート粘度計を使用して粘度を記録した。52℃で1か月間貯蔵すると、23℃で6か月から1年貯蔵した場合の幾つかの影響がシミュレートされる。
【0152】
防汚コーティング組成物の調製の一般的な手順
成分を表2~5に示されている割合で混合した。量は質量部で示されている。表6に比較組成を示す。混合物を、振動ペイントシェーカーを使用して15分間、1L容器内に適切な量のガラスビーズ(直径3~4mm)の存在下で分散させた。
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
防汚コーティング組成物P1~P28はすべて、トリアルキルシリル(メタ)アクリレート、トラロピリル、金属カルボン酸塩及び場合によりカルボン酸を含み、カルボン酸/金属カルボン酸塩の質量比は0:100~45:55である。表2は、様々なロジンタイプの亜鉛塩を含み、様々なトリアルキルシリル(メタ)アクリレートコポリマーを含む防汚コーティング組成物の安定性を示している。表3は、様々な溶媒を含み、様々なレベルのトラロピリルとロジンの亜鉛塩を含む防汚コーティング組成物の安定性を示している。表4は、様々なレベルのトラロピリルと組み合わせた様々なレベルのカルボン酸を含む防汚コーティング組成物の安定性を示している。表5は様々な殺生物剤を含む様々なタイプの防汚コーティング組成物の安定性を示している。これらのコーティングはすべて貯蔵に対して安定している。したがって、加速貯蔵条件で4週間貯蔵した後でも、組成物はゲルを形成しておらず、依然としてスプレイにより表面に適用可能であることを示している。
【0160】
トリアルキルシリル(メタ)アクリレートを含むが、トラロピリル及び金属カルボン酸塩を含まない比較例CP-1は貯蔵中に安定である。これは、トラロピリル及びトリアルキルシリル(メタ)アクリレートの組み合わせが貯蔵中の防汚組成物の不安定性をもたらすことを示している。
【0161】
トリアルキルシリル(メタ)アクリレート及びトラロピリルを含むが、金属カルボン酸塩を含まず、代わりに、様々なタイプのロジンを含む比較例CP-2~CP-4はすべて安定性を欠き、1週間の貯蔵後にゲルを形成する。これは、貯蔵安定性を提供するのはコーティング組成物への金属カルボン酸塩の添加であることを実証している。
【0162】
トリアルキルシリル(メタ)アクリレート、トラロピリル、金属カルボン酸塩及びカルボン酸を含み、カルボン酸/金属カルボン酸塩の質量比が47:53である、比較例CP-5は安定性を欠き、1週間の貯蔵後にゲルを形成する。これは、カルボン酸/金属カルボン酸塩の比率がコーティング組成物の長期安定性を決定する上で重要であることを示している。
【0163】
防汚コーティング組成物の調製
防汚コーティング組成物を、溶解機を使用して調製した。120gの銅ピリチオン、500gのシリル(メタ)アクリレートポリマー溶液S-1、300gのロジン酸亜鉛溶液Z-1(キシレン中60%)及び130gのキシレンを3L塗料容器内で混合した。1400gの酸化銅(I)、240gのタルク、240gの酸化亜鉛、80gの酸化鉄レッド、40gの酸化チタン、20gの酸化ポリエーテルワックス(キシレン中25%)、20gのテトラエトキシシラン及び30gのSolvesso 100を添加した。ミルベースが40μmの粉砕度及び55℃の温度を有するまで、混合物を高速で分散させた。480gのシリル(メタ)アクリレートポリマー溶液S-1、40gのポリアミドワックス(キシレン中20%)及び120gのキシレンを攪拌下に添加した。混合物を冷却し、120gのトラロピリル及び120gのキシレンのプレミックスを加えた。塗料を室温に冷却し、粘度測定及び貯蔵安定性試験のために、より小さな容器に移した。翌日、粘度を測定した。
【0164】
塗料組成物はVOCの計算値が402g/Lであり、ストーマー粘度測定値が92KUであり、コーンアンドプレート粘度が442cPであり、粉砕度が40μmであった。
【0165】
35℃で4週間貯蔵した後に、塗料組成物はストーマー粘度が92KUであり、コーンアンドプレート粘度が476cPであり、粉砕度が50~60μmであった。
本開示は以下も包含する。
[1] (i)トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、
(ii)トラロピリル、
(iii)金属カルボン酸塩、ここで、前記金属カルボン酸塩は、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ土類金属カルボン酸塩又は遷移金属カルボン酸塩であり、5~50個の炭素原子を有するカルボン酸に由来する、及び、
(iv)場合により、カルボン酸、ここで、前記カルボン酸/前記金属カルボン酸塩の質量比は0:100~45:55である、
を含む、防汚コーティング組成物。
[2] 前記カルボン酸/前記金属カルボン酸塩の質量比は0:100~10:90である、上記項目1記載の組成物。
[3] 前記カルボン酸/前記金属カルボン酸塩の前記質量比は0.5:99.5~45:55である、上記項目1記載の組成物。
[4] 前記金属カルボン酸塩はカルボン酸亜鉛である、上記項目1~3のいずれか1項記載の組成物。
[5] 前記金属カルボン酸塩は5~20個の炭素原子を有するカルボン酸に由来する、上記項目1~4のいずれか1項記載の組成物。
[6] 前記金属カルボン酸塩は、樹脂酸、樹脂酸の誘導体、C
6-20
環状カルボン酸、C
5-10
非環状脂肪族カルボン酸及びC
7-20
芳香族カルボン酸ならびにそれらの混合物から選ばれるカルボン酸に由来する、上記項目1~5のいずれか1項記載の組成物。
[7] 前記金属カルボン酸塩は、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ピマル酸、イソピマル酸、レボピマル酸、パルストリン酸、サンダラコピマル酸、コムン酸及びそれらの混合物に由来する、上記項目1~6のいずれか1項記載の組成物。
[8] 前記金属カルボン酸塩はガムロジンに由来する、上記項目1~7のいずれか1項記載の組成物。
[9] 前記金属カルボン酸塩は、樹脂酸、樹脂酸の誘導体、C
6-20
環状カルボン酸、C
5-10
非環状脂肪族及びC
7-20
芳香族カルボン酸ならびにそれらの混合物から選ばれるカルボン酸の亜鉛塩である、上記項目1~8のいずれか1項記載の組成物。
[10] 前記金属カルボン酸塩は、ガムロジン亜鉛塩、ガムロジン誘導体の亜鉛塩又はそれらの混合物である、上記項目1~9のいずれか1項記載の組成物。
[11] 前記金属カルボン酸塩は、水素化ロジン亜鉛塩、部分水素化ロジン亜鉛塩、不均化ロジン亜鉛塩又はそれらの混合物である、上記項目1~10のいずれか1項記載の組成物。
[12] 前記組成物は、組成物の総質量に基づいて0.5~25wt%の金属カルボン酸塩を含む、上記項目1~11のいずれか1項記載の組成物。
[13] カルボン酸を含む、上記項目1~12のいずれか1項記載の組成物。
[14] 前記組成物は、組成物の総質量に基づいて0~5wt%のカルボン酸を含む、上記項目13記載の組成物。
[15] カルボン酸を含まない、上記項目1~12のいずれか1項記載の組成物。
[16] 前記トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーはコポリマーである、上記項目1~15のいずれか1項記載の組成物。
[17] 前記トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは式(I):
【化1】
(上式中、
R
1
はH又はCH
3
であり、
R
2
は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖C
1-4
アルキル基から選ばれ、
R
3
は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖C
1-20
アルキル基、C
3-12
シクロアルキル基及び-OSi(R
4
)
3
からなる群より選ばれ、
各R
4
は独立して、直鎖又は分岐鎖C
1-4
アルキル基であり、
ZはC
1
~C
4
アルキレンであり、
mは0~1の整数であり、そして
nは0~5の整数である)の少なくとも1つのモノマーの残基を含む、上記項目1~16のいずれか1項記載の組成物。
[18] 前記式(I)のモノマーはトリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートである、上記項目17記載の組成物。
[19] 前記トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマーは(メタ)アクリレートモノマーをさらに含む、上記項目1~18のいずれか1項記載の組成物。
[20] 前記(メタ)アクリレートモノマーは式(IIa)~(IIc):
【化2】
(上式中、R
5
は水素又はメチルであり、R
6
は環状エーテル(オキソラン、オキサン、ジオキソラン、ジオキサンであって場合によりアルキル置換されていてよいものなど)であり、XはC
1
~C
4
アルキレンである)、
【化3】
(上式中、R
7
は水素又はメチルであり、R
8
は少なくとも1つの酸素又は窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を有するC
3
~C
18
置換基である)、
【化4】
(上式中、R
9
は水素又はメチルであり、R
10
はC
1
~C
8
ヒドロカルビルである)
を有する、上記項目19記載の組成物。
[21] 前記組成物は0.5~10wt%のトラロピリルを含む、上記項目1~20のいずれか1項記載の組成物。
[22] (i)1~50wt%、より好ましくは2~40wt%のトリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、
(ii)0.5~10wt%、より好ましくは1~7wt%のトラロピリル、
(iii)0.5~25wt%、より好ましくは1.0~20wt%の金属カルボン酸塩、及び、
(iv)0~5wt%、より好ましくは0~2.5wt%のカルボン酸、
を含む、上記項目1~21のいずれか1項記載の組成物。
[23] 前記組成物は52℃で1週間の貯蔵後に50~2000cPの粘度を有する、上記項目1~22のいずれか1項記載の組成物。
[24] 前記組成物は52℃で4週間の貯蔵中にゲルを形成しない、上記項目1~23のいずれか1項記載の組成物。
[25] (i)トリアルキルシリル(メタ)アクリレートポリマー、
(ii)トラロピリル、
(iii)金属カルボン酸塩、ここで、前記金属カルボン酸塩は、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ土類金属カルボン酸塩又は遷移金属カルボン酸塩であり、5~50個の炭素原子を有するカルボン酸に由来する、及び、
(iv)場合により、カルボン酸、
を混合することを含む、上記項目1~24のいずれか1項記載の組成物を調製する方法。
[26] 上記項目1~24のいずれか1項記載の組成物を含む塗料。
[27] 上記項目1~24のいずれか1項記載の組成物を含む塗料容器。
[28] 上記項目1~24のいずれか1項記載の組成物を含むコーティングを、表面の少なくとも一部に含む(例えば、被覆又はコーティングされている)物品。
[29] 物品をコーティングしてその汚損を防止するための方法であって、前記方法は:
上記項目1~24のいずれか1項記載の組成物で前記物品の表面の少なくとも一部をコーティングすること、及び、
前記コーティングを乾燥及び/又は硬化させること、
を含む、方法。
[30] 上記項目1~24のいずれか1項記載の組成物の、物品の表面の少なくとも一部をコーティングしてその汚損を防止するための使用。