(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】エアバッグ装置及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 21/237 20060101AFI20220609BHJP
B60R 21/203 20060101ALI20220609BHJP
B60R 21/231 20110101ALI20220609BHJP
B60R 21/2338 20110101ALI20220609BHJP
B60R 21/261 20110101ALI20220609BHJP
【FI】
B60R21/237
B60R21/203
B60R21/231
B60R21/2338
B60R21/261
(21)【出願番号】P 2020537372
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2019024395
(87)【国際公開番号】W WO2020035994
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2018152440
(32)【優先日】2018-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018176776
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100098143
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】森田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 圭祐
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088073(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102012010771(DE,A1)
【文献】特開2018-020737(JP,A)
【文献】特開2004-106841(JP,A)
【文献】特開2016-088173(JP,A)
【文献】実開平04-093244(JP,U)
【文献】特開平07-069151(JP,A)
【文献】特開2003-276546(JP,A)
【文献】特開2013-103661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの内部に収容されるエアバッグ装置において、
膨張ガスを発生するインフレータと;
前記膨張ガスによって展開することで乗員を保護するエアバッグとを備え、
前記エアバッグは、押し潰されるように圧縮されたコンプレスト体として収容され、
前記コンプレスト体は、前記エアバッグの前記インフレータ側において、ステアリングホイールのリムに水平な面に対して垂直方向に押し潰された垂直コンプレスト部と;少なくとも前記エアバッグの前記垂直コンプレスト部の展開方向遠部側において、前記リムに水平な面に沿って押し潰された水平コンプレスト部とを含むことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記垂直コンプレスト部の、前記インフレータと反対側の端面が、前記エアバッグの展開初期の段階で前記リムの外側に達するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグは、前記インフレータに連結された概ね円形のバックパネルと、当該エアバッグの展開時に乗員に面し、前記バックパネルより径の大きな概ね円形のフロントパネルと、これらバックパネルとフロントパネルとに連結されたサイドパネルとによって、概ね円錐台状に成形されることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグは、前記インフレータに連結された概ね円形のバックパネルと、当該エアバッグの展開時に乗員に面する概ね円形のフロントパネルとによって形成されることを特徴とする請求項
1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
乗員側に面する前記フロントパネルの一部は、収容時に外側に露出した状態を維持することを特徴とする請求項3又は4に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記フロントパネルの露出した部分は、少なくとも当該フロントパネル中心領域を含むことを特徴とする請求項5に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記垂直コンプレスト部の前記垂直方向における中心軸は、前記フロントパネルとバックパネルの中心部を通るように形成されることを特徴とする請求項3乃至6の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記エアバッグの内部に、当該エアバッグの展開形状を規制するテザーが設けられ、
前記テザーは、前記フロントパネルの中心部分に固定された概ね円形のベース部と;当該ベース部から前記バックパネル側に延びる少なくとも2本の紐状部とを備え、前記紐状部の端部が前記インフレータの周囲近傍に結合されることを特徴とする請求項3乃至7の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記エアバッグの内部に、前記インフレータから噴出したガスの流れる方向を変える整流布を更に備え、
前記整流布の一部が前記フロントパネルの中心部近傍に設けられることを特徴とする請求項3乃至8の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記整流布は、前記エアバッグの圧縮収納時に、前記フロントパネル近傍に位置し、又は接触するように配置される天板布と;この天板布から前記バックパネル側に延びる側面部とを備えることを特徴とする請求項9に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記整流布の前記側面部には、前記インフレータから噴出した膨張ガスが、前記天板布で跳ね返されながら、水平方向に流れるように開口部が設けられていることを特徴とする請求項10に記載のエアバッグ装置。
【請求項12】
前記整流布の前記側面部の垂直方向の長さが、前記垂直コンプレスト部が展開初期にステアリングホイールのリムの乗員側端部の水平面からわずかに飛び出すような長さに設定されていることを特徴とする請求項10又は11に記載のエアバッグ装置。
【請求項13】
前記整流布の前記天板布が、前記エアバッグの収容状態において、前記フロントパネルの中心付近に位置することを特徴とする請求項10、11又は12の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項14】
前記垂直コンプレスト部の前記垂直方向における中心軸は、バックパネルの中心部を通り、前記フロントパネルの中心部は、当該中心軸からずれて設けられるように形成されることを特徴とする請求項3乃至5の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項15】
前記フロントパネルの中心部は、前記垂直コンプレスト部の前記中心軸よりも車両の下方向にずれて設けられる請求項14に記載のエアバッグ装置。
【請求項16】
前記エアバッグの内部に、当該エアバッグの展開形状を規制するテザーが設けられ、
前記テザーは、前記フロントパネルの中心部分に固定された概ね円形のベース部と;当該ベース部から前記バックパネル側に延びる少なくとも2本の紐状部とを備え、前記紐状部の端部が前記インフレータの周囲近傍に結合されることを特徴とする請求項14又は15に記載のエアバッグ装置。
【請求項17】
前記エアバッグの内部に、前記インフレータから噴出したガスの流れる方向を変える整流布を更に備え、
前記整流布の一部が、前記垂直コンプレスト部の垂直方向の中心軸を含むフロントパネルの近傍に設けられることを特徴とする請求項14、15又は16の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項18】
前記整流布は、前記エアバッグの圧縮収納時に、前記フロントパネル近傍に位置し、又は接触するように配置される天板布と;この天板布から前記バックパネル側に延びる側面部とを備えることを特徴とする請求項17に記載のエアバッグ装置。
【請求項19】
前記整流布の前記側面部には、前記インフレータから噴出した膨張ガスが、前記天板布で跳ね返されながら、水平方向に流れるように開口部が設けられていることを特徴とする請求項18に記載のエアバッグ装置。
【請求項20】
前記整流布の前記側面部の垂直方向の長さが、前記垂直コンプレスト部が展開初期にステアリングホイールのリムの乗員側端部の水平面からわずかに飛び出すような長さに設定されていることを特徴とする請求項18又は19に記載のエアバッグ装置。
【請求項21】
前記整流布の前記天板布が、前記エアバッグの収容状態において、前記垂直コンプレスト部の垂直方向の中心軸を含むフロントパネルの近傍に位置することを特徴とする請求項18、19又は20の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項22】
ステアリングホイールの内部に収容され、膨張ガスを発生するインフレータと、当該膨張ガスによって展開することで乗員を保護するエアバッグとを備えたエアバッグ装置の製造方法において、
押し潰すように圧縮することで、当該エアバッグのコンプレスト体を形成する工程を含み、
前記コンプレスト体を形成する工程は:
前記エアバッグの前記インフレータ側の部分を前記ステアリングホイールのリムに水平な面に対して垂直方向に押し潰して垂直コンプレスト部を形成する工程と;
少なくとも前記エアバッグの前記垂直コンプレスト部の展開方向遠部側において、前記リムに水平な面に沿って押し潰して水平コンプレスト部を形成する工程とを含むことを特徴とするエアバッグ装置の製造方法。
【請求項23】
前記垂直コンプレスト部を形成する工程において、当該垂直コンプレスト部の、前記インフレータと反対側の端部が、前記エアバッグが展開した時に前記リムより外側まで達するように、当該垂直コンプレスト部の圧縮範囲を設定することを特徴とする請求項22に記載のエアバッグ装置の製造方法。
【請求項24】
前記エアバッグは、前記インフレータに連結された概ね円形のバックパネルと、当該エアバッグの展開時に乗員に面し、前記バックパネルより径の大きな概ね円形のフロントパネルと、これらバックパネルとフロントパネルとに連結されたサイドパネルとによって、概ね円錐台状に成形され、
前記垂直コンプレスト部は、前記バックパネルと前記サイドパネルの一部によって形成され、
前記水平コンプレスト部は、前記サイドパネルの残りの部分と、前記フロントパネルによって形成されることを特徴とする請求項22又は23に記載のエアバッグ装置の製造方法。
【請求項25】
前記エアバッグは、前記インフレータに連結された概ね円形のバックパネルと、当該エアバッグの展開時に乗員に面する概ね円形のフロントパネルとによって形成され、
前記垂直コンプレスト部は、前記バックパネルによって形成され、
前記水平コンプレスト部は、前記バックパネルの残りの部分と、前記フロントパネルによって形成されることを特徴とする請求項22又は23に記載のエアバッグ装置の製造方法。
【請求項26】
前記水平コンプレスト部を形成する工程において、前記フロントパネルの表面の少なくとも一部は、外側に露出した状態を維持することを特徴とする請求項
24又は25に記載のエアバッグ装置の製造方法。
【請求項27】
前記垂直コンプレスト部は、前記フロントパネルとバックパネルの中心部を含むように形成されることを特徴とする請求項24、25又は26に記載のエアバッグ装置の製造方法。
【請求項28】
前記垂直コンプレスト部の前記垂直方向における中心軸は、バックパネルの中心部を通り、前記フロントパネルの中心部は、当該中心軸からずれて設けられるように形成されることを特徴とする請求項24、25又は26に記載のエアバッグ装置の製造方法。
【請求項29】
前記フロントパネルの中心部は、前記垂直コンプレスト部の前記中心軸よりも車両の下方向にずれるように設けられる請求項28に記載のエアバッグ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールに収容される運転席用エアバッグ装置及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の事故発生時に乗員を保護するために、1つまたは複数のエアバッグを車両に設けることは周知である。エアバッグとしては、例えば、自動車のステアリングホイールの中心付近から膨張して運転者を保護する、いわゆるドライバエアバッグ、自動車の窓の内側で下方向に展開して車両横方向の衝撃や横転、転覆事故時に乗員を保護するカーテンエアバッグ、更には、車両横方向の衝撃時に乗員を保護すべく乗員とサイドパネルとの間で展開するサイドエアバッグなどの様々な形態がある。
【0003】
その中で、ドライバエアバッグ装置は、ステアリングホイール内部という限られた空間に収容する必要があり、エアバッグをコンパクトに圧縮することが要求される。また、エアバッグ装置が作動した初期の段階でドライバを速やか且つ、確実に拘束する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、乗員を速やか且つ確実に拘束可能なエアバッグ装置を提供することを目的とする。特に、エアバッグ展開の初期の段階で速やか且つ、確実に乗員を拘束可能なエアバッグ装置を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、エアバッグの圧縮工程の簡素化を図ることにより、製造コストの低減に寄与するエアバッグ装置の画期的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(第1の態様)
上記のような課題を解決するために、本発明の第1の態様は、膨張ガスを発生するインフレータと;前記膨張ガスによって展開することで乗員を保護するエアバッグとを備えたエアバッグ装置において、前記エアバッグが、押し潰されるように圧縮されたコンプレスト体として収容される構造とした。
【0006】
ここで、「コンプレスト体」とは、規則的に折り折り畳まれたり、ロールされたりすることなく、所望の圧縮形状とするために、グシャグシャに押し潰すことで形成されるエアバッグの塊を意味する。すなわち、折り畳み、ロール等の規則性を有する圧縮工程を含んでも良いが、少なくとも形成されたコンプレスト体の主要部が不規則的に押し潰されて成形された塊からなるという意味である。
【0007】
このように、単純に押し潰されたコンプレスト体の形態でエアバッグを収容する構成であるため、エアバッグを予め決められた折り目に沿って何度も折り畳んだり、中心がずれないようにロールしたりする煩雑な作業が不要となり、製造工程の著しい簡素化を図ることが可能となる。
【0008】
また、エアバッグをコンプレスト体の形態で収容するため、エアバッグ装置の作動時に当該エアバッグが速やか且つ、スムーズに展開することになる。他方、既存の方法のように、エアバッグを蛇腹状に折り畳んだり、ロールしたりした場合には、当該エアバッグが膨張展開する際にどこかに引っ掛りが生じて、スムーズに展開しないことがある。
【0009】
前記コンプレスト体は、前記エアバッグの前記インフレータ側において、ステアリングホイールのリムに水平な面に対して垂直方向に押し潰された垂直コンプレスト部と;少なくとも前記エアバッグの前記垂直コンプレスト部の展開方向遠部側において、前記リムに水平な面に沿って押し潰された水平コンプレスト部とを含むことができる。
【0010】
なお、エアバッグの圧縮工程や展開動作に関する以下の説明において、「水平」とは基本的にリムの表面に平行な(沿った)方向を意味し、「垂直」とは基本的に当該表面に垂直な方向を意味するものとする。そして、リムの表面に平行な面(水平方向)において、乗員の腹部側又は車両の下方向を「下」側とし、乗員の頭部側又は車両の上側に向く方向を「上」側とする。すなわち、ステアリングホイールを時計の文字盤と見立てたときに12時の方向を「上」とし、6時の方向を「下」とする。また、リムの表面に垂直な方向(垂直方向)において、乗員側を「上」側とし、ステアリングコラム側を「下」側とする。
【0011】
インフレータ側から垂直方向に押し潰された垂直コンプレスト部を形成することにより、インフレータから放出された膨張ガスによって、真っ先に垂直コンプレスト部が乗員側に向かって展開するため、エアバッグの前面が非常に早い段階で乗員に近づき、又は接触し、当該乗員の前方(ステアリングホイール方向)への移動を速やかに拘束することが可能となる。
【0012】
また、垂直コンプレスト部の存在により、乗員の前方への移動を速やかに拘束するというメリットに加え、水平コンプレスト部が速やか且つスムーズに展開することになる。すなわち、最初に垂直コンプレスト部が展開するため、水平コンプレスト部がステアリングホイールのリムの表面に沿って水平方向に展開しようとするときには、既に、当該水平コンプレスト部は十分に前方に押し出されている。このため、水平コンプレスト部はステアリングホイール内部で干渉することなく水平方向にスムーズに展開することになる。
【0013】
前記垂直コンプレスト部の、前記インフレータと反対側の端面が、前記エアバッグの展開初期の段階で前記リムの外側に達することが好ましい。これは、垂直コンプレスト部の垂直方向への展開(延伸)ストロークを十分に大きくすることを意味する。
上述したように、エアバッグが展開を開始すると、真っ先に垂直コンプレスト部が乗員側に向かって展開するが、垂直コンプレスト部の前面がリムの外側まで達することにより、水平コンプレスト部がステアリングホイールのリムの表面に沿って水平方向に展開しようとするときに、水平方向に干渉する物体が存在しなくなるため、エアバッグ(水平コンプレスト部)がより確実・スムーズに水平方向に展開可能となる。
【0014】
前記エアバッグは、前記インフレータに連結された概ね円形のバックパネルと、当該エアバッグの展開時に乗員に面し、前記バックパネルより径の大きな概ね円形のフロントパネルと、これらバックパネルとフロントパネルとに連結されたサイドパネルとによって、概ね円錐台状に成形することができる。
【0015】
あるいは、前記エアバッグは、前記インフレータに連結された概ね円形のバックパネルと、当該エアバッグの展開時に乗員に面する概ね円形のフロントパネルとによって形成することができる。
【0016】
乗員側に面する前記フロントパネルの一部は、収容時に外側に露出した状態を維持することが好ましい。すなわち、フロントパネルの上面(乗員側の面)の全てが、圧縮工程において内側に入り込むようなことなく、少なくとも一部が表面に出ている状態にすることが好ましい。
このような構造にすると、エアバッグの展開初期の段階で垂直コンプレスト部が展開すると、露出したフロントパネルにより、乗員を「平面」で支えることができ、乗員の拘束性能が向上することになる。
【0017】
また、前記フロントパネルの露出した部分は、少なくとも当該フロントパネル中心領域を含むことが好ましい。更に、前記垂直コンプレスト部は、前記フロントパネルとバックパネルの中心部を含むように形成することが好ましい。
【0018】
バックパネルの中心とフロントパネルの中心とを、垂直方向で一致させることにより、垂直コンプレスト部が垂直方向に直線的に展開し易くなり、展開速度の向上及び展開挙動の安定化を図ることができる。すなわち、例えば、垂直コンプレスト部が蛇行して展開するような事態を回避することも可能となる。
【0019】
あるいは、前記垂直コンプレスト部の前記垂直方向における中心軸が、バックパネルの中心部を通り、前記フロントパネルの中心部が、当該中心軸からずれるように形成することができる。このとき、前記フロントパネルの中心部は、前記垂直コンプレスト部の前記中心軸よりも車両の下方向にずれるように設けることが好ましい。
このような構造とすることにより、エアバッグの水平コンプレスト部が展開し始めた段階で、当該エアバッグが乗員の頭部方向よりも腹部方向に対して大きく且つ、速やかに展開・進入することになる。
【0020】
前記エアバッグの内部に、当該エアバッグの展開形状を規制するテザーを設けることができる。この場合、前記テザーは、前記フロントパネルの中心部分に固定された概ね円形のベース部と;当該ベース部から前記バックパネル側に延びる少なくとも2本の紐状部とを備え、前記紐状部の端部が前記インフレータの周囲近傍に結合されることができる。テザーの存在により、エアバッグの展開挙動が更に安定することになる。
【0021】
前記エアバッグの内部に、前記インフレータから噴出したガスの流れる方向を変える整流布を更に備え、前記整流布の一部が前記フロントパネルの中心部近傍に位置するように構成することができる。この整流布は、前記エアバッグの圧縮収納時に、フロントパネル近傍に位置し、又は接触するように配置される天板布と;この天板布から前記バックパネル側に延びる側面部とを備える。この側面部には、インフレータから噴出した膨張ガスが、天板布で跳ね返されながら、水平方向の流れるように開口部が設けられている。そして、側面部の垂直方向の長さは、垂直コンプレスト部が展開初期にステアリングホイールのリムの乗員側端部の水平面(リムの乗員側の表面を含む平面。以下、「リム面」という。)からわずかに飛び出すような長さに設定されている。また、整流布の一部がフロントパネルの中心付近に位置することにより、エアバッグの展開初期に、整流布が垂直コンプレスト部と一緒に垂直方向に伸張し、ステアリングホイールのリム面からわずかに突出する。このように、整流布の存在により、エアバッグの展開初期に、膨張ガスの圧力の多くを垂直方向上方に向けられ、フロントパネルの内面中心付近を垂直方向上側に押すように作用し、エアバッグの展開初期における垂直方向上方への展開を促進することになる。そして、垂直方向への初期の展開が進むと、次に整流布の側面に設けられている開口部から、膨張ガスが前記エアバッグ内の水平方向に向かって流れる。これにより、エアバッグは水平方向に展開する力が大きくなる。既に垂直方向に展開してわずかにリム面から突出している部分から、リム面に沿ってその水平方向に広がるように展開する。
【0022】
(第2の態様)
本発明の第2の態様は、ステアリングホイールの内部に収容され、膨張ガスを発生するインフレータと、当該膨張ガスによって展開することで乗員を保護するエアバッグとを備えたエアバッグ装置の製造方法において、前記エアバッグをロールしたり折り畳むことなく、押し潰すように圧縮することで、当該エアバッグのコンプレスト体を形成する工程を含む。
【0023】
前記コンプレスト体を形成する工程は:前記エアバッグの前記インフレータ側の部分を前記ステアリングホイールのリムに水平な面に対して垂直方向に押し潰して垂直コンプレスト部を形成する工程と;少なくとも前記エアバッグの前記垂直コンプレスト部の展開方向遠部側において、前記リムに水平な面に沿って押し潰して水平コンプレスト部を形成する工程とを含むことができる。
【0024】
前記垂直コンプレスト部を形成する工程において、当該垂直コンプレスト部の、前記インフレータと反対側の端部が、前記エアバッグが展開した時に前記リムより外側まで達するように、当該垂直コンプレスト部の圧縮範囲を設定することが好ましい。
【0025】
前記エアバッグは、前記インフレータに連結された概ね円形のバックパネルと、当該エアバッグの展開時に乗員に面し、前記バックパネルより径の大きな概ね円形のフロントパネルと、これらバックパネルとフロントパネルとに連結されたサイドパネルとによって、概ね円錐台状に成形することができる。そして、前記垂直コンプレスト部は、前記バックパネルと前記サイドパネルの一部によって形成し、前記水平コンプレスト部は、前記サイドパネルの残りの部分と、前記フロントパネルによって形成することができる。
【0026】
あるいは、前記エアバッグは、前記インフレータに連結された概ね円形のバックパネルと、当該エアバッグの展開時に乗員に面する概ね円形のフロントパネルとによって形成することができる。そして、前記垂直コンプレスト部は、前記バックパネルによって形成し、前記水平コンプレスト部は、前記バックパネルの残りの部分と、前記フロントパネルによって形成することができる。
【0027】
前記水平コンプレスト部を形成する工程において、前記フロントパネルの表面の少なくとも一部は、外側に露出した状態を維持することが好ましい。
【0028】
前記垂直コンプレスト部は、前記フロントパネルとバックパネルの中心部を含むように形成することができる。
あるいは、前記垂直コンプレスト部の前記垂直方向における中心軸が、バックパネルの中心部を通り、前記フロントパネルの中心部が、当該中心軸からずれるように形成することができる。このとき、前記フロントパネルの中心部は、前記垂直コンプレスト部の前記中心軸よりも車両の下方向にずれるように設けることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の構造を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置に採用されるエアバッグのパネル構成を示す概略斜視図(A)及び、概略断面図(B)である。
【
図3】
図3(A)~(D)は、本発明の第1実施例に係るエアバッグを構成する各パネルの形状を示す平面図である。
【
図4】
図4(A)~(D)は、本発明の第1実施例に係るエアバッグの圧縮工程を示す説明図であり、(A)~(C)が断面、(D)が斜視図である。
【
図5】
図5(A1)、(A2)、(B)は、本発明の第1実施例に係るエアバッグの圧縮工程を示す説明図(断面)である。
【
図6】
図6(A)、(B)は、本発明の第1実施例に係るに係るエアバッグが展開する様子を示す説明図である。
【
図7】
図7は、本発明の第1実施例に係るに係るエアバッグが展開する様子を示す説明図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1実施例に係るエアバッグを形成するサイドパネルの他のバリエーションを示す平面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2実施例に係るエアバッグの構造及び圧縮工程を示す説明図(断面)である。
【
図10】
図10は、
図9に示すエアバッグに使用されるフロントパネル(A)、バックパネル(B)の形状を示す平面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第3実施例に係るエアバッグの構造及び圧縮工程を示す説明図(断面)である。
【
図12】
図12は、本発明の第4実施例に係るエアバッグの構造及び圧縮工程を示す説明図(断面)である。
【
図13】
図13(A)、(B)は、本発明の第4実施例に係るエアバッグが展開する様子を示す説明図である。
【
図14】
図14は、本発明の第4実施例に係るエアバッグが展開する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置の構造を示す断面図である。本実施例に係るエアバッグ装置10は、膨張ガスを発生する円盤(円柱)状のインフレータ12と;膨張ガスによって展開することで乗員を保護するエアバッグ14とを備えている。インフレータ12は、リテーナ18を介してハウジング20に固定される。ハウジング20は、エアバッグ装置10が収容されるステアリングホイールの中心部分を覆うカバー22に対して連結される。
【0031】
後に詳細に説明するが、エアバッグ14は、押し潰されるように圧縮されたコンプレスト体として収容される。ここで、「コンプレスト体」とは、規則的に折り折り畳まれたり、ロールされたりすることなく、所望の圧縮形状とするために、グシャグシャに押し潰すことで形成されるエアバッグ14の塊を意味する。すなわち、折り畳み、ロール等の規則性を有する圧縮工程を含んでも良いが、少なくとも形成されたコンプレスト体の主要部が不規則的に押し潰されて成形された塊からなるという意味である。
【0032】
エアバッグによるコンプレスト体(14)は、エアバッグ14のインフレータ12側において、ステアリングホイールのリム16に水平な面に対して垂直方向に押し潰された垂直コンプレスト部14Vと;少なくともエアバッグ14の垂直コンプレスト部14Vの展開方向遠部側において、リム16に水平な面に平行に押し潰された水平コンプレスト部14Hとを含む。
【0033】
なお、エアバッグの圧縮工程や展開動作に関する以下の説明において、「水平」とは基本的にリムの表面(リム面)に平行な方向Hを意味し、「垂直」とは基本的に当該表面に垂直な方向Vを意味するものとする。
【0034】
(第1実施例)
図2は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置10に採用されるエアバッグ14のパネル構成を示す概略斜視図(A)及び、概略断面図(B)である。
図3(A)~(D)は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ14を構成する各パネルの形状を示す平面図である。
【0035】
図2(A)及び
図3に示すように、エアバッグ14は、リテーナリング18を介してインフレータ12に連結された円形のバックパネル142と;当該バックパネル142より径の大きな円形に成形され、エアバッグ14の展開時に乗員に面するフロントパネル144と;これらバックパネル142とフロントパネル144とに連結されたサイドパネル146とによって、概ね円錐台状に成形される。なお、バックパネル142の中心には、インフレータ12が収まる開口26が形成されている。
【0036】
図3(C)に示すように、サイドパネル146は、長方形状(帯状)の部材に切り込みを入れることで円錐台の側面をなめらかに形成する。なお、サイドパネル146に代えて、
図8に示すように、扇形(正確には、「環状扇形」又は「中空扇形」)のサイドパネル246を採用することもできる。
【0037】
図2(B)に示すように、エアバッグ14の内部に、当該エアバッグ14の展開形状を規制するテザー28が設けられている。なお、
図2(A)においては、テザー28を含めたエアバッグ14の内部の構造の図示は省略する。また、
図2(B)において、平行な2本の細線で示されているのは、縫製箇所である。
【0038】
テザー28は、フロントパネル144の中心部分に同心円状に配置・固定された概ね円形のベース部28aと;当該ベース部28aからバックパネル142側に延びる少なくとも2本の紐状部28b、28cとを備えている。そして、紐状部28b、28cの端部は、インフレータ12の周囲近傍に結合される。テザー28の紐状部28b、28cには、補強布30a,30bの一端が縫製によって連結され、補強布30a,30bの他端はフロントパネル144の内面に縫製によって連結される。
【0039】
テザー28の存在により、エアバッグ14の展開挙動が更に安定することになる。すなわち、垂直方向の膨張範囲(厚み)を調整することにより、フル展開時のエアバッグ14の形状(厚み、表面積など)を適切にすることが可能となる。
【0040】
図4(A)~(D)は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ14の圧縮工程を示す説明図であり、(A)~(C)が断面、(D)が斜視図である。
図5(A1)、(A2)、(B)は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ14の圧縮工程を示す説明図(断面)である。なお、
図5においては、説明の便宜上、各パネル142,144,146の縫製箇所を白抜きの丸で示している。また、インフレータ12周辺の構造は簡素化して示しているが、実際にはインフレータ12がリテーナリング18(
図1)を介してバックパネル142に対して固定される。
【0041】
本実施例において、
図4(A)、
図5(A1)に示す状態からエアバッグ14を圧縮する際には、まず、
図5(A2)に示すように、バックパネル142の中心部を引き下げて、バックパネル142とサイドパネル146の一部を筒状に保持する。例えば、エアバッグにインフレータを設置する前に、筒状の部材をバックパネル142の開口26から差し込んで、フロントパネル144側に向かって押し込むことで、概ね筒状に成形することができる。
【0042】
次に、
図4(B)、
図5(B)に示すように、バックパネル142側からフロントパネル144側に向かって垂直方向にエアバッグ14を押し潰すように圧縮して垂直コンプレスト部14Vを成形する。このとき、垂直コンプレスト部14Vは、フロントパネル144の中心部とバックパネル142の中心部とを含むようにし、垂直方向において中心位置が重なるように芯合わせをする。すなわち、垂直方向Vとエアバッグの中心線C1とが一致するようにすることが好ましい。
【0043】
また、垂直コンプレスト部14Vを形成する工程において、
図5(A2)に示すように、当該垂直コンプレスト部14Vを形成すべく圧縮される領域の垂直方向の高さVLは、リテーナリング18の底面からリム16の表面(リム面)までの距離(深さ)D1(
図1参照)よりも大きくする。これは、エアバッグ14の展開初期の時点で、垂直コンプレスト部14Vの上面が確実にカバー22よりも外側に達し、リム面よりも乗員側に突出するようなストロークを確保するためである。
【0044】
続いて、
図4(C)、(D)に示すように、垂直コンプレスト部14V以外のフロントパネル144及びサイドパネル146を水平方向に押し潰すように圧縮して、垂直コンプレスト部14Vの周囲に水平コンプレスト部14Hを成形する。これら垂直コンプレスト部14Vと水平コンプレスト部14Hとによって、コンプレスト体(14)が完成する。なお、水平コンプレスト工程において、実際には、垂直コンプレスト部14Vについても、ある程度水平方向に押し潰されることになる。
【0045】
ここで、水平コンプレスト部14Hを形成する工程において、フロントパネル144の表面の少なくとも一部は、外側に露出した状態を維持するようにする。例えば、テザー28の中心部分28a及びその周辺は、表に出た状態とすることが好ましい。
水平コンプレスト部14Hを形成する工程において、例えば、押し板を用いて、X方向とY方向を別々に押し潰したり、交互に押し潰したり、あるいは、X方向とY方向を同時に押し潰したりして形成しても良い。
【0046】
上記のように、本実施例においては、収容状態のエアバッグ14として、単純に圧縮されたコンプレスト体の形態を採用するため、エアバッグ14を予め決められた折り目に沿って何度も折り畳んだり、芯の周囲にずれないようにロールしたりする作業が一切不要となり、製造工程の著しい簡素化を図ることが可能となる。
【0047】
図6(A)、(B)及び、
図7は、本発明に係るエアバッグ14が展開する様子を示す説明図である。なお、以下に説明するエアバッグの展開動作は、上述した第1実施例の他、後述する第2及び第3実施例についても同様である。
インフレータ12が起動し、膨張ガスによってエアバッグ14が展開し始めると、
図6(A)に示すように、その展開初期の段階で、垂直コンプレスト部14Vが最初に垂直方向に展開して、ステアリングホイールのカバー22を押し破って乗員側に近づくように、リム面よりも突出する。このとき、水平コンプレスト部14Hについても、若干展開を開始することになるが、それほど大きなものではない。
【0048】
このように、インフレータ12から放出された膨張ガスによって、真っ先に垂直コンプレスト部14Vの先端部分が乗員側に向かって展開するため、エアバッグ14の前面が非常に早い段階でリム面から突出する。
【0049】
更に、本実施例においては、円錐台の小径側のバックパネル142の中心と、大径側のフロントパネル144の中心とを、垂直方向で一致させることにより、垂直コンプレスト部14Vが垂直方向に直線的に展開し易くなり、展開速度の向上及び展開挙動の安定化を図ることができる。例えば、垂直コンプレスト部14Vが蛇行して展開するような事態を回避することも可能となる。
【0050】
次に、
図6(B)に示すように、エアバッグ14の展開が進むと、水平コンプレスト部14Hの展開が活発になり、リム16に水平な方向にエアバッグ14が展開する。つまり、垂直コンプレスト部14Vの初期展開に続き、水平コンプレスト部14Hがリム面に沿って、リム16を覆うように展開する。ここで、水平コンプレスト部14Hがステアリングホイールのリム16の表面に沿って水平方向に展開しようとするときには、既に、当該水平コンプレスト部14Hは垂直コンプレスト部14Vの展開によって十分に前方に押し出されているため、水平コンプレスト部14Hがステアリングホイール内部で干渉することなく展開することができる。これにより、エアバッグ14がフル展開するのに先だって、リム16がエアバッグ14によって少なくとも一時的に覆われる。したがって、車両の衝突時(緊急時)にエアバッグ14のフル展開前に、乗員がステアリングホイール方向に近づくことがあっても、エアバッグ14によって、乗員の腹部がステアリングホイールに直接接触(衝突)する事態を回避できる。その後、
図7に示すように、エアバッグ14がフルに展開することで、乗員を確実に拘束することができる。
【0051】
(第2実施例)
図9は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ214の構造及び圧縮工程を示す説明図(断面)である。
図10は、
図9に示すエアバッグ214に使用されるフロントパネル244(A)、バックパネル242(B)の形状を示す平面図である。なお、
図9においては、
図5と同様に、説明の便宜上、各パネル242,244の縫製箇所を白抜きの丸で示している。また、インフレータ12周辺の構造は簡素化して示しているが、実際にはインフレータ12がリテーナリング18(
図1)を介してバックパネル242に対して固定される。また、上述した第1実施例と同一又は対応する構成要素については、同一の符号を付し、重複した説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0052】
第1実施例においては、エアバッグ114をバックパネル142、フロントパネル144、サイドパネル146とによって構成しているが、第2実施例においては、バックパネル242とフロントパネル244とによってエアバッグ214を構成し、サイドパネルは採用しない。そして、
図10に示すように、概ね同一径のバックパネル242とフロントパネル244の外縁部を縫製によって連結することで、袋状のバッグを形成している。
【0053】
本実施例において、
図9(A)に示す状態からエアバッグ214を圧縮する際には、まず、バックパネル242の中心部を引き下げて、バックパネル242の一部を筒状に保持する。この実施例では、インフレータ12をエアバッグ214にセットした状態で圧縮しているが、パネル同士の中心の位置合わせのために、インフレータをセットする前に、心棒などをインフレータ用の開口26から通してパネル同士の芯合わせをした上で、筒状に保持するようにしても良い。
【0054】
次に、
図9(B)に示すように、バックパネル242側からフロントパネル244側に向かって垂直方向にエアバッグ214を押し潰すように圧縮して垂直コンプレスト部214Vを成形する。このとき、垂直コンプレスト部214Vは、フロントパネル244の中心部とバックパネル242の中心部とを含むようにし、垂直方向において中心位置が重なるように芯合わせをすることも、第1実施例と同様である。
【0055】
続いて、
図9(C)に示すように、垂直コンプレスト部214Vを構成しない残りのバックパネル242及びフロントパネル244を水平方向に押し潰すように圧縮して、水平コンプレスト部214Hを垂直コンプレスト部214Vの周囲に成形する。これら垂直コンプレスト部214Vと水平コンプレスト部214Hとによって、コンプレスト体(214)が完成する。
【0056】
(第3実施例)
図11は、本発明の第3実施例に係るエアバッグの構造及び圧縮工程を示す説明図(断面)であり、第1実施例の
図4に対応する。なお、上述した第1実施例と同一又は対応する構成要素については、同一の符号を付し、重複した説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0057】
第3実施例においては、エアバッグ14の内部に、インフレータ12から噴出したガスの流れる方向を変える整流布300を設けている。整流布300は、例えば、パラシュート状(傘状、東屋状)に形成され、インフレータ12から噴出したガスをその天井部分の内面で反射する天板布302と、この天板布302からバックパネル142側に延びる側面部306を備える。この側面部306には、インフレータ12から噴出した膨張ガスが、天板布302の内面で反射されて、水平方向に流れ、サイドパネル146方向(横方向)に導かれるように、開口部304が設けられている。
【0058】
図11(B)、(C)に示すように、エアバッグ14の圧縮状態において、整流布300の天板布302(フロントパネル144側)が、フロントパネル144の中心部近傍に位置するように設ける。例えば、
図11(A)に示すように、整流布300の垂直方向の最大高さH1は、
図5(A2)に示す長さVL又は、
図1で示すD1と同等又はそれ以上とし、垂直コンプレスト部14Vが展開初期にステアリングホイールのリム面からわずかに飛び出すような長さに設定されている。
【0059】
整流布300の最大高さH1をこのように設定することにより、エアバッグ14の展開初期に、整流布300が垂直コンプレスト部14Vと一緒に垂直方向に伸張し、エアバッグ14が、ステアリングホイールのリム面からわずかに突出する。整流布300の存在により、展開初期に、インフレータ12から噴出した膨張ガスの多くが垂直方向上方に向けられ、整流布300の天板布302がフロントパネル144の内面中心付近を垂直方向上側に押すように作用し、エアバッグ14の展開初期における垂直方向上方への展開を促進する。そして、引き続き、リム面に沿った水平方向へのエアバッグ14の膨張展開を助けるために、整流布300の側面部306に設けられた開口部304からガスが主に水平方向に放出され、エアバッグ14がリム面を早期に覆うことができる。これにより、エアバッグ14がフル展開するのに先立って、リム16がエアバッグ14によって少なくとも一時的に覆われる。よって、車両の衝突時(緊急時)でエアバッグ14のフル展開前に、乗員がステアリングホイール方向に近づくことがあっても、エアバッグ14により、乗員とステアリングホイールとの接触(衝突)を回避可能となる。その後、エアバッグ14はフルに展開し、乗員へのダメージを更に少なくしながら、乗員を確実に拘束することができる。
【0060】
(第4実施例)
図12は、本発明の第4実施例に係るエアバッグの構造及び圧縮工程を示す説明図(断面)であり、第1実施例の
図4、第3実施例の
図11に対応する。なお、本実施例は、第3の実施例におけるエアバッグの構造をアレンジしたものであり、上述した各実施例と同一又は対応する構成要素については、同一の符号を付し、重複した説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0061】
第4実施例に使用されるエアバッグ414は、バックパネル442と、フロントパネル444と、サイドパネル446とから構成される。本実施例においては、垂直コンプレスト部414Hの垂直方向における中心軸C1が、バックパネル442の中心部を通り、更に整流布300の天板布302の中心を通る。ところが、中心軸C1は、フロントパネル444の中心部C0を通ることはなく、すなわち、中心部C0が中心軸C1からずれるように形成される。このとき、中心部C0は車両の下方向(乗員の腹部、膝方向)、すなわち、ステアリングホイールを時計の文字盤と見立てたときに6時の方向にずれるよう形成される。
【0062】
図13(A)、(B)及び、
図14は、本発明の第4実施例に係るエアバッグが展開する様子を示す説明図である。
インフレータ12が起動し、膨張ガスによってエアバッグ14が展開し始めると、
図13(A)に示すように、その展開初期の段階で、垂直コンプレスト部414Vが最初に垂直方向に展開して、ステアリングホイールのカバー22を押し破って乗員に近づくように、リム面よりも突出する。ここまでの動作に関しては、先に説明した第1~第3実施例と同様である。
【0063】
次に、
図13(B)に示すように、エアバッグ414の展開が進むと、水平コンプレスト部414Hの展開が活発になり、リム16に水平な方向にエアバッグ414が展開する。つまり、垂直コンプレスト部414Vの初期展開に続き、水平コンプレスト部414Hがリム面に沿って、リム16を覆うように展開する。ここで、水平コンプレスト部414Hがステアリングホイールのリム16の表面に沿って水平方向に展開しようとするときには、既に、当該水平コンプレスト部414Hは垂直コンプレスト部414Vの展開によって十分に前方に押し出されているため、水平コンプレスト部414Hがステアリングホイール内部で干渉することなく展開することができる。この点に関しても、先に説明した第1~第3実施例と同様である。
【0064】
本実施例においては、インフレータ12の中心からエアバッグのバックパネル446を通って垂直方向に延びる中心軸C1に対して、フロントパネル442の中心部C0が乗員の腹部方向(下方向)にずれているため、
図13(B)に示すように、エアバッグの水平コンプレスト部414Hが展開し始めた段階で、当該エアバッグが乗員の頭部方向よりも腹部方向に対して大きく且つ、速やかに展開・進入することになる。これにより、車両の衝突時(緊急時)にエアバッグ414のフル展開前に、乗員がステアリングホイール方向に近づくことがあっても、エアバッグ414によって、乗員の腹部がステアリングホイールに直接接触(衝突)する事態を回避できる。その後、
図14に示すように、エアバッグ414がフルに展開することで、乗員を確実に拘束することができる。
【0065】
本発明を上記の例示的な実施形態と関連させて説明してきたが、当業者には本開示により多くの等価の変更および変形が自明であろう。したがって、本発明の上記の例示的な実施形態は、例示的であるが限定的なものではないと考えられる。本発明の精神と範囲を逸脱することなく、記載した実施形態に様々な変化が加えられ得る。