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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】シューズ
(51)【国際特許分類】
   A43B 13/14 20060101AFI20220609BHJP
   A43B 5/06 20220101ALI20220609BHJP
   A43B 13/20 20060101ALI20220609BHJP
   A43B 13/16 20060101ALN20220609BHJP
【FI】
A43B13/14 Z
A43B5/06
A43B13/20 A
A43B13/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020568357
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2019041127
(87)【国際公開番号】W WO2021075052
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】高増 翔
(72)【発明者】
【氏名】入江 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 滋之
【審査官】大内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-008298(JP,A)
【文献】特許第4704429(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0324269(US,A1)
【文献】米国特許第07444767(US,B2)
【文献】特開2010-094480(JP,A)
【文献】特開2003-189906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 13/00~13/42
A43B 5/00~ 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地面及び当該接地面とは反対側を向いた接足面とを有する軟質材製のミッドソール及びアウトソールを含むソールと、
当該ミッドソールの接足面側に結合されたアッパーと
前記ミッドソールの中足部分と、前記ミッドソールの後足部とを補強する補強部材と、
を備え、
前記接足面におけるシューズの中心線と着用者のMP関節に対応する仮想線との交点と、踵中心に対応する点と、を結んだ傾斜仮想線と前記接地面とがなす角度が8~16度となるように、着用者のMP関節に対応する位置における前記ソールの厚みと前記踵中心に対応する位置における前記ソールの厚みが異なっており、
前記ミッドソールは中足部において上方向に凹んだアーチ部を有し、
前記ミッドソールの後足部は側面視において前記後足部の後端部から前記中足部の前記アーチ部にかけて踵骨中心の真下を最下点としてR100~200mmの曲率半径となる半楕円形状を有するとともに、前記補強部材の後足部側の部分は前記ミッドソールの後足部の上部に位置する、シューズ。
【請求項2】
前記ソールの前記接足面は、着用者のMP関節を結んだ仮想線よりもつま先側に相当する前記ソールの前足部が平坦であり、着用者のMP関節を結んだ仮想線よりも踵側が中足部から後足部にかけて前傾している、請求項1に記載のシューズ。
【請求項3】
前記補強部材は前記ソールの後足部からMP関節に対応する位置まで連続して延びる、請求項1又は2に記載のシューズ。
【請求項4】
前記補強部材は踵部に沿って立ち上がる巻き上げ部を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシューズ。
【請求項5】
前記ソールは踵部に沿って立ち上がる巻き上げ部を有し、前記補強部材の巻き上げ部の高さは、前記ソールの巻き上げ部の高さの1.0~2倍である、請求項に記載のシューズ。
【請求項6】
前記ソールの後足部の最大厚さは、前記ソールの前足部の最大厚さの3~5倍である、請求項1乃至のいずれか1項に記載のシューズ。
【請求項7】
前記ソールは、後足部に中空部が形成されている、請求項1乃至のいずれか1項に記載のシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシューズに関し、特に運動用のシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば中距離又は長距離のランニングのような競技に用いられるシューズにおいて、走り易さや安定性等の機能性を向上させるために様々な技術が提案されている。このようなシューズの機能性の内の一つに加速性がある。例えば特許文献1には、靴底の反発機能を高めることでシューズの加速性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4704429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特許文献1とは全く異なる技術的手段により、加速性に優れる構造のシューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、
接地面及び当該接地面とは反対側を向いた接足面とを有する軟質材製のソールと、
当該ソールの接足面側に結合されたアッパーとを備え、
前記接足面と前記接地面とがなす角度が8~16度となるように、着用者のMP関節に対応する位置における前記ソールの厚みと踵中心に対応する位置における前記ソールの厚みが異なっている。
【0006】
このような構成によれば、シューズの接地面が地面に接触したときに着用者の足裏を前傾させられる。これにより、着用者が地面を蹴る力を効率的に前進する力に変換できる。
【発明の効果】
【0007】
以上のように本発明によれば、加速性に優れる新たな構造のシューズを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】足の骨格を示す上面図である。
図2】実施形態によるシューズの側面図である。
図3】同シューズの側面図である。
図4】同シューズの断面図である。
図5】同シューズの上面図である。
図6】変形例によるシューズの上面図である。
図7】シューズの概略側面図である。
図8】変形例によるシューズの側面図である。
図9】変形例によるシューズの側面図である。
図10】実施例によるシューズの実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本明細書で用いる用語の定義について説明する。本明細書では、方向を示す用語として、前後方向、幅方向、及び上下方向を用いることがあるが、これら方向を示す用語は、シューズを平らな面に置き、シューズを着用したときの着用者の視点から見た方向を示す。したがって、前方向はつま先側を意味し、後方向はかかと側を意味する。また、方向を示す用語として、内足側、及び外足側を用いることがあるが、内足側とは足の幅方向内側、即ち足の母指(第1指)側を意味し、外足側とは幅方向において内足側とは反対側を意味する。
【0010】
また、以下の説明では、シューズのソールについて言及することがある。ソールとは、ミッドソールのみ、又はアウトソールとミッドソールの両者を意味する。また、幾つかの例では、3次元直交座標を用いて方向を説明することがある。この場合、X軸は外足側から内足側に向けて延び、Y軸は踵側からつま先側に向けて延び、Z軸は底面側から上側に向けて延びる。
【0011】
また、実施形態によるシューズの説明を行う前に、実施形態によるシューズと関連するこがある足の骨格について、図1を参照しながら説明を行う。
【0012】
図1は、足の骨格を示す上面図である。人体の足は、主に、楔状骨Ba、立方骨Bb、舟状骨Bc、距骨Bd、踵骨Be、中足骨Bf、趾骨Bgで構成される。足の関節には、MP関節Ja、リスフラン関節Jb、ショパール関節Jcが含まれる。ショパール関節Jcには、立方骨Bbと踵骨Beがなす踵立方関節Jc1と、舟状骨Bcと距骨Bdがなす距舟関節Jc2とが含まれる。本明細書での着用者の「前足部」は、MP関節Jaよりも前側の部分をいい、シューズの長さ比率で置き換えると、つま先側から測定してシューズの全長の0~約30%の部分をいう。また、「中足部」は、MP関節Jaからショパール関節Jcまでの部分をいい、同様に、つま先側から測定してシューズの全長の約30~80%の部分をいう。また、「後足部」は、ショパール関節Jcよりも後側の部分をいい、同様に、つま先側から測定してシューズの全長の約80~100%の部分をいう。また、図1において中心線Sは、シューズの中心線を示し、足幅方向中央部に沿って延びる。中心線Sは、人体の第三中足骨Bf3と踵骨Beの踵骨隆起内側突起Be1を通る直線上に位置する部位を想定している。図1では踵骨隆起内側突起Be1が位置すると想定される範囲を示す。シューズの全長における割合は目安であって、前足部、中足部、後足部の範囲を限定するものではない。
【0013】
図2及び図3は、シューズの側面図である。より具体的には、図2は内足側から(-X側から)シューズを見た側面図であり、図3は外足側から(+X側から)シューズを見た側面図である。また、図4はシューズの断面図であり、より具体的には中心線Sに沿った側断面図である。なお、説明の便宜上、図4においてはアッパーを省略してある。
【0014】
図2乃至図4に示すようにシューズ10は、地面に接触する接地面を有するソール12と、ソール12を覆うアッパー14とを備える。
【0015】
アッパー14は、足の甲の上側を覆う形状を有している。アッパー14は、アッパー本体16と、アッパーの緊締手段(緊締構造)18と、アッパー14の幅方向中央付近においてアッパー14の前後方向に延びるスリット20とを備えている。また、アッパー14にはシュータン22が取り付けられている。本実施形態では、アッパー14の締め付け具合を調整するための緊締手段18として、ハトメと、シューレースとの組み合わせによる構造を採用しているが、緊締手段18としては面ファスナー等を用いてもよい。また、スリットを備えない、モノソックタイプのアッパーとしてもよい。
【0016】
アッパー本体16は、例えばポリエステル、ポリウレタン等の合成繊維を編んだメッシュ素材、合成皮革、天然皮革によって形成され、足の甲を覆う形状を有している。スリット20は、シューレースの締め具合によってアッパー本体の幅を調整するための緩衝部分である。スリット20の幅方向両側には、複数のハトメが設けられている。スリット20からはシュータン22が露出しており、シューレースを付けた際にシューレースが着用者の足の甲に接触しないようになっている。
【0017】
ソール12は、上面視したときに全体的に足型形状を有するシート状の部材であり、その一方の面(底面)に接地面24が形成され、他方の面(上面)に接足面26が形成される。ソール12は、少なくともその一部が軟質材料によって形成されている。ソール12は、前後方向(Y軸に沿った方向)においてシューズ10の前端から後端にかけて連続しており、前足部、中足部、及び後足部が一体に形成されている。ソール12の厚さは、前後方向で大きく異なっており、前足部において薄く後足部において厚い。この場合、ソール12の後足部の最大厚さは、ソール12の前足部の最大厚さの3~5倍であることが好ましい。一例として、前足部におけるソール12の厚さが10mmの場合、後足部におけるソール12の厚さは30~50mmである。ソール12の後足部の最大厚さを、ソール12の前足部の最大厚さの5倍以下とすることにより、シューズ着用時の安定性を保てる。また、ソール12の後足部の最大厚さは、ソール12の前足部の最大厚さの3倍以上とすることにより、シューズ10着用時の加速感を得られる。ソール12の前後方向で厚さを異なる構造を採用することにより、接足面26と接地面24との角度(以下、「前傾角度」ということがある)が8~16度となっている。接足面26と接地面24との角度の測定方法については後述する。
【0018】
特に図4に示すようにソール12は、底面に形成されたアウトソール28と、アウトソール28上に配置され一定の弾力性を有するミッドソール30とを備える。また、ミッドソール30上にインソール32を配置してもよい。ソール12は、下からアウトソール28、ミッドソール30、及びインソール32の順で積層されている。ソール12の厚さは、実質的にはアウトソール28、及びミッドソール30の合計厚さとなる。したがって、上述したようにソール12の厚さを前後方向で異ならせるためには、ソール12を構成するアウトソール28、及びミッドソール30のそれぞれの厚さを適宜調整する。なお、アウトソール28の厚さが全体的に均一であればアウトソール28の厚さが接足面26と接地面24との前傾角度に影響を及ぼすことがなく、角度を調整する際にアウトソール28の厚さを考慮する必要はない場合もある。
【0019】
アウトソール28は、例えばラバーを所定形状に成形することで形成されている。アウトソール28は、ミッドソール30の底面を少なくとも部分的に覆うように、ミッドソール30の底面に貼り付けられている。したがって側面視したときのアウトソール28の形状は、実質的にミッドソール30の底面形状に倣う。アウトソール28は、地面Gに接触する接地面24を有する。接地面24は、凹凸パターンをなしており、この凹凸パターンによりグリップを向上させる。
【0020】
アウトソール28は、複数の島状部分を所定のミッドソールの底面の所定位置に貼り付けて形成されている。接地面24は必ずしも連続した面である必要はなく、XY平面において複数の部分に分離されていてもよい。接地面24が分離したとしても、シューズ10を水平で平坦な面に置けば、シューズ10と水平面との間に1枚の接地面が定義できる。
【0021】
ミッドソール30は、衝撃を吸収する役割を果たし、その一部又は全部が例えば発泡EVA、若しくは発泡ウレタンのようなフォーム材、GEL、又はコルクを含む衝撃を吸収する軟質材によって形成される。ミッドソール30を形成する材料としては、ヤング率が10MPa以下(10%歪のとき)、又はアスカーゴム硬度計C型による計測値が70以下であることが好ましい。また、変形例において後述するが、ミッドソール30を中実構造とせず所定の弾性構造を有するものとした場合、ミッドソール30を硬質材で形成してもよい。この場合、硬質材としては硬質ウレタン、ナイロン、FRP等を用いることができる。ミッドソール30は、その上面が前方(+Y方向)を向くように前傾している。より具体的にはミッドソール30の上面は中足部から後足部にかけて前傾しており、前足部は略XY平面に沿って平坦である。ミッドソール30の前傾部分と平坦部分との境目は、実質的にMP関節Jaを結んだ仮想線に相当する。従って、簡潔に言えばミッドソール30の上面はMP関節Jaを結んだ仮想線よりもつま先側が平坦であり、MP関節Jaを結んだ仮想線よりも踵側が前傾している。
【0022】
またミッドソール30の外縁は、足を上面視したときの投影形状を模した平面形状を有している。ミッドソール30の上面は、足の裏の凹凸形状に対応する凹凸形状を有している。また、ミッドソール30の上面には、アッパー14が結合される。より具体的にはアッパー14は、ミッドソール30の外縁に沿って、又は外縁よりも僅かにミッドソール30の内側に沿って結合されている。アッパー14をミッドソール30に結合する手段としては、アッパー14の縁をミッドソール30に縫い付けたり、接着剤等の接合手段を用いて結合したりする方法がある。
【0023】
また、ミッドソール30の下面の中足部には+Z方向に凹をなすアーチ部分34が形成されている。アーチ部分34はミッドソール30の後足部と前足部との間を+Z方向に浮かせ、Y軸に沿って延びる溝を設けることで形成されている。アーチ部分34を設けることにより、シューズ10が地面Gに接触した状態でミッドソール30を上方から圧縮したときに、ミッドソール30が変形する空間を確保できる。アーチ部分34を側面視したときの形状は特に限定されるものではない。この場合、図示のように溝のつま先側の面及び踵側の面を傾斜させ頂点が+Z方向を向いた逆V字形状としてもよい。また、例えば踵側の面をZ軸方向に沿って延びる垂直な面としてもよい。ただし、溝を逆V字形状とした方がアーチ部分34の踵側においてミッドソール30の量を増やせ、これにより後足部においてミッドソール30が変形し難くなる。なお、アーチ部分34にはアウトソール28を設けなくてもよい。
【0024】
また、ミッドソール30の下面の踵部36は、側面視したときに湾曲形状を有している。具体的には踵部36は、側面視したときに-Y方向及び-Z方向に凸な弧形状を有している。このような踵部36の形状により、踵から着地したときに湾曲形状に沿って足を+Y方向にローリングさせ、スムーズな着地を促せる。よりスムーズな着地を促すためには、湾曲形状を踵骨中心の直下を最下点としてR100~200mm程度の曲率半径で形状を構成するのが望ましい。このとき、十分な接触面積を確保するため、最下点付近のY方向±10mm程度の区間はフラットな面であってもよい。最下点付近のY方向±10mmより外で段差を設けたり、逆Rを設けたりすることで接地させないようにしても、同様のローリング効果を得られる。
【0025】
また、シューズ10はミッドソールを補強する補強部材38を備える。
【0026】
図5はシューズの上面図である。より具体的には図5は、アッパーを取り除いたシューズの上面図である。図4及び5に示すように、補強部材38は、ミッドソール30の上面に配置され、ミッドソール30の後足部から、中足部と前足部との境界付近にかけて連続して延びる。なお、図4においては明確化のために補強部材38の断面にハッチングを付してある。補強部材38は、例えば熱可塑性ポリウレタンのようなポリウレタン樹脂、又は繊維強化プラスチックのようなプラスチック材料によって形成されている。補強部材38は、上面視したときに全体的にミッドソール30と同様の外形を有している。図5のように上面視したときに補強部材38の中央が空洞になっていてもよい。中央の空洞は必須ではない。より具体的には補強部材38は、後足部において後足部の外縁に沿って延びている。また補強部材38は中足部において内足側及び外足側に沿って延びる。また補強部材38は、中足部と前足部の境界に沿って延び、前側は当該境界線で終端している。このような補強部材38により、後足部から中足部と前足部の境界にかけてミッドソール30の強度を向上させることができ、かつ一体性を向上させられる。さらに補強部材38により、地面Gに対して適切に力を伝達できる。また、補強部材38を設けることにより、シューズ10の中心線S回りの捻れを抑制できる。
【0027】
また補強部材38の前傾角度は、ミッドソール30の上面の前傾角度と近似しており、8~20度であることが好ましい。また、補強部材38をソール12の一部とみなし、補強部材38の上にインソールを敷き、インソール32の上面を接足面として前傾角度を定めてもよい。なお、補強部材38の前傾角度が8~20度であるのに対して、ミッドソール30の上面の前傾角度が8~16度となり補強部材38の前傾角度の上限が大きい。これは、補強部材38が設けられている場合には、補強部材38の分だけ後足部の厚さが厚くなり前傾角度が大きくなるからである。補強部材38の厚さを調整することで補強部材38の前傾角度とミッドソール30の上面の前傾角度を略同一としてもよい。
【0028】
また、図6のシューズの変形例による上面図に示すように、補強部材40を2本の細長いプレート部材42のみで形成してもよい。それぞれのプレート部材42は、それぞれ内足側及び外足側において、後足部から中足部と前足部との境界付近にかけて延びる。この位置に補強部材40を設けることによっても、ミッドソール30の後足部から中足部と前足部の境界にかけてミッドソール30の強度を向上させることができる。
【0029】
図4に戻り、補強部材38は後足部において、外縁に沿って+Z方向に立ち上がるカップ形状を有していることが好ましい。この場合、補強部材38は、カップ形状を有する補強部材の底面から所定高さ立ち上がる第1巻き上げ部44を有する。第1巻き上げ部44は、踵を少なくとも部分的に囲む。より具体的には第1巻き上げ部44は、踵の両側面及び後面を囲む。第1巻き上げ部44の高さは、10~60mmであることが好ましい。このような第1巻き上げ部44を設けることにより、踵周辺の安定性を高められる。また、より踵周辺の安定性を高めるためには、着地時のプロネーションを抑制するために、内踵と外踵に巻き上げ部を設けてもよい。この場合、内踵の巻き上げ部の高さは10~55mmであり、外踵の巻き上げ部の高さは5~50mmであることが好ましい。プロネーション抑制の観点から、内踵の巻き上げ部の高さが外踵の巻き上げ部の高さよりも5mmほど高い方が好ましい。
【0030】
また、ミッドソール30は後足部において、カップ形状の補強部材38に沿って+Z方向に立ち上がるカップ形状を有していることが好ましい。この場合、ミッドソール30は、カップ形状を有するミッドソール30の底面から所定高さ立ち上がる第2巻き上げ部46を有する。第2巻き上げ部46は、補強部材38を少なくとも部分的に囲む。より具体的には第2巻き上げ部46は、補強部材38の両側面及び後面を囲む。第2巻き上げ部46の高さは第1巻き上げ部44よりも低い。第巻き上げ部4の高さは、第巻き上げ部4の高さの1.0~2.0倍である。このような第2巻き上げ部46を設けることにより、踵周辺の安定性をさらに高められる。
【0031】
次に、接足面26と接地面24との角度の測定方法について説明する。接足面26と接地面24との角度は、シューズ10を平坦な水平面に置き、無負荷状態、即ちソール12が変形していない状態で測定する。接足面26と接地面24が一様な平面でない場合、接足面26と接地面24との角度は以下のように定められる。まず、図4及び図5に示すように、中心線SとMP関節Jaに相当する仮想線L1との交点と、踵骨隆起内側突起P1の点とを結ぶ。中心線Sと仮想線L1との交点、及び点P1は、接足面26の高さでとる。中心線Sと仮想線L1との交点、及び点P1を結んだ線を側面視したときに傾斜した仮想線(傾斜仮想線)L2を引く。なお、図4は中心線Sに沿った断面を示し、図中の符号L1は当該断面における仮想線L1の位置(MP関節Jaに相当する位置)を示し、符号P1は踵骨隆起内側突起の位置を示す。なお、MP関節Jaに相当する仮想線L1の位置は着用者の足のサイズによって僅かに前後する(Y軸に沿ってずれる)ことがあるため画一的に一カ所に定めなくてもよい。この場合、例えば着用者の踵をシューズのアッパーの踵側に密着させた状態でMP関節Jaの位置を採り、次いで着用者のつま先をシューズのアッパーの先端に密着させた状態でMP関節Jaの位置を採る。接足面26と接地面24との角度の測定する際の仮想線の位置は、上述した2カ所のMP関節Jaの位置の間にあればよい。また前傾角度は、MP関節Jaの位置が複数想定される場合に、少なくとも一カ所において所定の角度範囲内に収まっていればよい。
【0032】
傾斜仮想線L2は、接足面26の水平面に対する角度を示す傾斜を示す線であるとみなせる。また平坦な面上にシューズを置くと、接地面24は実質的に水平になる。従って、接足面26と接地面24との角度は、仮想傾斜線L2が水平線Hに対してなす角度となる。なお、図5では、水平線Hを仮想線L1の高さ(Z方向位置)でとっているが、仮想線L2は直線であるため、どの高さでとって仮想線L2の水平線Hに対する角度は変わらない。接足面26と接地面24との角度を上記角度範囲とすることにより、シューズ10の接地面24が地面Gに接触したときに着用者の足裏を前傾させられる。これにより、着用者が地面Gを蹴る力を効率的に前進する力に変換できる。
【0033】
図7は、走っているときのシューズの動作を示す概略側面図である。
【0034】
図7(a)に示すように、踵から地面Gに着地すると最初に湾曲した踵部36が地面Gに接触する。湾曲した踵部36が最初に地面Gに接触することにより、矢印A1によって示すような前方へのローリングが促される。図7(b)は、ローリングの結果、シューズ10の接地面24が地面Gと平行になる角度でシューズが全体的に地面Gに接触している状態を示す。この状態では、着用者の足裏は前傾している。この状態で着用者が-Z方向に足を踏み込むと、地面Gからの反発力が+Z方向成分に加えて+Y方向成分を有することとなる。これは、例えば短距離走で使用されるスターティングブロックのような前傾した面で踏み込むのと同様である。一般的なランニングシューズも4度程度の傾斜角度を有している場合があるが、実施形態によるシューズ10は、8~16度の傾斜角度を有しているため、前傾した面で踏み込む際に得られる加速は実施形態によるシューズ10の方が遥かに大きい。したがって、図7(c)に示すように、前方に向けた加速力を得られる。なお、図7(c)の破線は、図7(b)の状態のシューズを示す。
【0035】
以上のように実施形態のシューズ10によれば、シューズ10の接地面24が地面Gに接触したときに着用者の足裏を前傾させられる。これにより、着用者が地面Gを蹴る力を効率的に前進する力に変換でき、着用者は加速感を得られる。
【0036】
また、図8は変形例によるシューズの側面図である。変形例によるシューズ50は、ミッドソール52の後足部に中空部54が設けられている。中空部54は、Z軸方向においてミッドソール52の上面とミッドソール52の底面との間に設けられる。図示の例では、中空部54は軸に沿ってミッドソール52を貫通しているが、必ずしもミッドソール52を貫通する必要はない。中空部54を設けることにより、ミッドソール52のZ軸に沿った弾性変形による加速を得られる。中空部54を設ける場合、中実のミッドソールの場合と比較してミッドソールを硬質にして剛性を高めることが好ましい。中空部54を設けた場合、ミッドソール52の厚さは中空部54の存在を考慮せずに測定され、上述したように接地面からミッドソール52の上面(最上面)までの距離が、ミッドソール52の厚さとされる。ミッドソール52に中空部54を設けることにより、上述した力の変換による加速感に加えてミッドソール52の反発力による加速感を得られる。
【0037】
図9は、更なる変形例によるシューズの側面図である。変形例によるシューズ60は、シューズ50のようにミッドソール62の後足部に中空部64が設けられている。また、中空部64を囲むミッドソール62は、側面視したときに閉じた形状を有しておらず、中足部付近において上下方向で離れている。ミッドソール62の中足部付近には、ミッドソール62の離れている部分同士を連結するように配置された軟質材66が設けられている。軟質材66は、例えばフォーム、又はGEL等の弾性が高い材料で形成されている。軟質材66は、上下の二カ所で中空部64の内面を構成するミッドソール62の表面に固定されている。このように中空部64を定める構造の一部を軟質材66で形成することにより、上記の変形例による効果に加えて、衝撃吸収性能を高められる。
【0038】
図10は、実施例によるシューズの実験結果を示すグラフである。図10は、8人の被験者が実施例によるシューズと、従来のシューズ(比較例)をそれぞれ着用して、350m走を行ったときの走破時間の変化率を示す。実施例によるシューズは、傾斜角度が12度であった。比較例によるシューズは、傾斜角度が3度であった。図10の縦軸には、比較例によるシューズを着用した場合の走破時間に対する、実施例によるシューズを着用した場合の走破時間の変化率を示す。同図に示すように大部分の着用者の走破時間が短縮されていることが分かる。一部の着用者は、度比が10%近く大きくなった。
【0039】
本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、各構成は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、上述した実施形態を一般化すると以下の態様が得られる。
【0040】
〔態様1〕
接地面及び当該接地面とは反対側を向いた接足面とを有する軟質材製のソールと、
当該ソールの接足面側に結合されたアッパーとを備え、
前記接足面と、前記接地面とがなす角度が8~16度となるように、着用者のMP関節に対応する位置における前記ソールの厚みと前記踵中心に対応する位置における前記ソールの厚みが異なっている、シューズ。
【0041】
〔態様2〕
前記ソールは中足部において上方向に凹んだアーチ部を有する、態様1に記載のシューズ。
【0042】
この構成によれば、アーチ部分を設けることにより、シューズが地面に接触した状態でミッドソールを上方から圧縮したときに、ミッドソールが変形する空間を確保できる。
【0043】
〔態様3〕
前記ソールの中足部分と、前記ソールの後足部とを補強する補強部材を備える、態様1又は2に記載のシューズ。
【0044】
この構成により、ソールの強度を向上させ、かつミッドソールの一体性を向上させられる。
【0045】
〔態様4〕
前記補強部材は後足部からMP関節に対応する位置まで連続して延びる、態様3に記載のシューズ。
【0046】
この構成により、地面に対して適切に力を伝達できる。
【0047】
〔態様5〕
前記補強部材は踵部に沿って立ち上がる巻き上げ部を有する、態様3又は4に記載のシューズ。
【0048】
この構成により、踵部を安定させられる。
【0049】
〔態様6〕
前記ソールは踵部に沿って立ち上がる巻き上げ部を有し、前記補強部材の巻き上げ部の高さは、前記ソールの巻き上げ部の高さの1.0~2である、態様5に記載のシューズ。
【0050】
この構成により、踵部をさらに安定させられる。
【0051】
〔態様7〕
前記ソールは後足部の後端部において側面視で曲線形状を有する、態様1乃至6のいずれか1項に記載のシューズ。
【0052】
この構成により、踵着地をしたときに前方に向けたローリングを促せる。
【0053】
〔態様8〕
前記ソールの後足部の最大厚さは、前記ソールの前足部の最大厚さの3~5倍である、態様1乃至7のいずれか1項に記載のシューズ。
【0054】
この構成により、安定性を確保でき、かつ加速感を実現できる。
【0055】
〔態様9〕
前記ソールは、後足部に中空部が形成されている、態様1乃至8のいずれか1項に記載のシューズ。
【0056】
この構成により、ソールの構造による反発力を得られる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、シューズの技術分野において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0058】
10 シューズ、 12 ソール、 14 アッパー、 24 接地面、 26 接足面、 36 踵部、 38 補強部材、 50 シューズ、 60 シューズ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10