(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】生体用水素発生材、食品及び医療用食品、並びに食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/68 20060101AFI20220609BHJP
C01B 3/06 20060101ALI20220609BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20220609BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20220609BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220609BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C02F1/68 520B
C02F1/68 510B
C02F1/68 510Z
C02F1/68 530B
C01B3/06
C01B33/02 Z
A23L5/00 K
A23L33/10
A61K33/00
(21)【出願番号】P 2021063404
(22)【出願日】2021-04-02
(62)【分割の表示】P 2017135940の分割
【原出願日】2016-08-23
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2015237328
(32)【優先日】2015-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594056384
【氏名又は名称】小林 光
(73)【特許権者】
【識別番号】309005168
【氏名又は名称】株式会社KIT
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】小林 光
(72)【発明者】
【氏名】小林 悠輝
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-026211(JP,A)
【文献】特表2009-502157(JP,A)
【文献】特開2017-104848(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033815(WO,A1)
【文献】特開2010-265158(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0275981(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/275981(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/266729(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/98988(US,A1)
【文献】松田 真輔 ほか,シリコンナノ粒子による水の分解と水素濃度,第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,2015年,11a-A27-6,全文
【文献】EROGBOGBO, Folarin ,外,On-Demand Hydrogen Generation using Nanosilicon: Splitting Water without Light, Heat, or Electricity,NANO LETTERS,2013年,VOL.13,P.451-456,http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG4_Radio/TSGR4_76bis/Docs/R4-156310.zip
【文献】IMAMURA,Kentaro, et al.,Hydrogen generation from water using Si nanopowder fabricated from swarf,Journal of Nanoparticle Research,2016年05月,Vol.18 No.5,Page.Article:116,1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-1/78
C01B 3/06
C01B 33/02
A23L 5/00
A23L 33/10
A61K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
160時間以上時間が経過したときに、容量30mlの硼ケイ酸ガラス瓶中に空気が入らないようにpH値7.0の超純水と10mgのシリコン微細ナノ粒子とを密封したときの溶存水素濃度が1pp
mとなる水素を発生させることができる、
フッ酸によって該シリコン微細ナノ粒子の表面のシリコン酸化膜が除去されていない、前記シリコン微細ナノ粒子を含み、
生体内において前記シリコン微細ナノ粒子が水又は水溶液に接触したときに水素を発生させることに用いるための、
生体用水素発生材。
【請求項2】
請求項1に記載の生体用水素発生材を含む、
食品。
【請求項3】
請求項1に記載の生体用水素発生材を含む、
医療用食品。
【請求項4】
請求項1に記載の生体用水素発生材を食品に含有させる工程を含む、
食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン微細ナノ粒子及び/又はその凝集体及び生体用水素発生材及びその製造方法並びに水素水とその製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を水に溶解させた水素水は、1ppm以上の溶存水素濃度が必要とされ、活性酸素を除去することが可能となり、健康飲料水、洗顔水、入浴水、医療分野や電子部品の洗浄水また植物の生育促進水などの多方面の利用が進みつつあるが、水素水の製造技術や製造装置としては、水素ガスを水に導入することや水の電気分解法によって行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術で開示されている水素水を製造する技術においては、水素ガスを直接導入する過程を要し、その制御及び取扱いに課題がある。更に、低コストで生体及び生体内への安全性の高い水素発生材料を用いて、オンサイトで簡便な水素水、その製造方法及びその製造装置が求められている。
【0005】
本発明は、上述の技術課題の少なくとも1つを解消し、シリコン微細粒子を有効活用し、安全性、経済性及び工業性に優れた製造方法により水素発生を行うことにより、簡単かつ安全な水素水の製造及びその製造装置に大いに貢献するものである。
【0006】
本願発明者らは、半導体や発光素子において、シリコン微細粒子の有効活用に着眼し研究を進めてきた。一方、かかるシリコン微細粒子から、実用性及び工業性に優れた水素の製造技術について、鋭意研究に取り組んだ。その結果、室温で温和な条件下であっても、低コストで安全な材料であるシリコン微細粒子を水中に分散して、その水中から水素を発生し得ることを見出し、この水素を水中で溶存させ、制御された水素濃度を有する水素水を実現できることを見出した。
【0007】
本発明は、上述の視点に基づいて創出されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つは、シリコン微細粒子又はシリコン微細粒子を更に粉砕したシリコン微細粒子(以下、シリコン微細ナノ粒子と呼ぶ)及び/又はその凝集体を水中に接触もしくは分散させて発生の水素を、直接的に前記水中に溶存させて容器に密封した水素水である。
【0009】
本発明の1つの水素水の製造装置は、シリコン微細粒子又はシリコン微細粒子を更に粉砕したシリコン微細ナノ粒子を形成する粉砕部とそのシリコン微細ナノ粒子及び/又はその凝集体を水又は水溶液内で接触もしくは分散させて直接的に前記水中に溶存させて密封する水素水発生部とを備える。
【0010】
この水素水の製造装置によれば、シリコン微細ナノ粒子及び/又はその凝集体を密封容器中で水又は水溶液中に接触もしくは分散させて、実用に耐え得る水素濃度と量の水素水を確度高く低コストで安全にオンサイトで製造することが可能である。この水素水の製造装置によれば、水素水の製造における工業生産性を格段に向上させることができる。
【0011】
また、本発明の1つの水素水の製造方法は、シリコン微細粒子を形成する粉砕工程と、シリコン微細ナノ粒子及び/又はその凝集体を水又は水溶液で接触もしくは分散させて水素を発生し、その水素を前記水中に溶存させて密封する水素水の生成工程を含む。
【0012】
この水素水の製造方法によれば、シリコン微細粒子を出発材料として、実用に耐え得る水素濃度と量の水素水を製造することが可能であり、この水素水の製造方法は、シリコン微細ナノ粒子を有効活用し、環境保護に大きく貢献するのみならず、飲料水等ともなる。その水素水の製造コストを大幅に削減することができ、工業生産性を格段に向上させることができる。
【0013】
また、本発明の1つの水素水の製造に使用するシリコン微細ナノ粒子及び/又はその凝集体は、その結晶子径の分布が100nm(ナノメートル)以下、好ましくは50nm以下の範囲であることが、水中で水素を発生し、その水素を前記水中に溶存させて容器に密封する,水素水の生成に好適である。
【0014】
なお、シリコン微細ナノ粒子の中でも、化学的処理(代表的には、後述する各実施形態における、フッ酸水溶液及び/又はフッ化アンモ二ウム水溶液による酸化膜の除去処理)されたものは、水素水の製造用シリコン微細ナノ粒子として好適な一例であり、本発明の1つの水素水の製造方法は、シリコン微細ナノ粒子を形成する粉砕工程を含む。
【0015】
なお、シリコン微細ナノ粒子の中でも、化学的処理(代表的には、後述する各実施形態における、過酸化水素水溶液による加熱処理)されたものは、生体及び生体内での水素水の製造用シリコン微細ナノ粒子として好適な一例であり、本発明の1つの水素水の製造方法は、シリコン微細ナノ粒子を形成するエタノール中での粉砕工程を含む。
【0016】
上述の水素水製造用シリコン微細ナノ粒子、及びその製造方法によれば、シリコン微細ナノ粒子及び/又はその凝集体が、実用に耐え得る水素濃度と量の水素水を効率よく製造するための生体安全性を有する材料として提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の1つの水素水の製造装置及び本発明の1つの水素水の製造方法によれば、シリコン微細ナノ粒子が、水素水生成の出発材料として、実用に耐え得る水素濃度と量の水素水を確度高く低コストで安全に、オンサイトで製造することに利用される。したがって、シリコン微細ナノ粒子及び/又はその凝集体が有効活用されて、環境保護や生体安全性に貢献するとともに、水素水の製造コストの大幅削減に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例における一段階粉砕後のシリコン微細ナノ粒子の結晶構造例を示す断面TEM(透過型電子顕微鏡)写真図である。
【
図2】個別のシリコン微細ナノ粒子に着目した拡大TEM写真図である
【
図3】実施例の1段階粉砕で得られるシリコン微細ナノ粒子のX線回折装置(XRD)による結晶子径分布図である。
【
図4】実施例の2段階粉砕で得られるシリコン微細ナノ粒子のXRDによる結晶子径分布図である。
【
図5】実施例で得られる水素水中の溶存水素濃度特性図である。
【
図6】実施例で得られる水素水中の溶存水素濃度特性図である。
【
図7】実施例で得られる水素水中の溶存水素濃度特性図である。
【
図8】実施例で得られる水素水中の溶存水素濃度特性図である。
【
図9a】他の実施例で得られる水素水中の溶存水素濃度特性図及び水素発生量特性図である。
【
図9b】他の実施例で得られる水素水中の水素発生量特性図で、Si1g当たりに換算した水素発生量ある。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。
【0020】
シリコン微細粒子には、市販の高純度Si粉末(高純度化学社製、粒度分布<φ0.5μm、純度99.9%、i型シリコン))と、高純度Si粉末からビーズミル法で作製したシリコン微細ナノ粒子を用いて、水溶液にはpH8の弱アルカリのほう酸カリウムバッファー溶液混合の水溶液、pH7の超純水、並びにpH7.1~7.3の標準的な水道水を個別に選択して用いて、密閉容器内で反応させる。
【0021】
上述のシリコン微細ナノ粒子は、ビーズミル装置(アイメックス株式会社製:RMB型バッジ式レディーミル)を用いて、高純度Si粉末15gを99%以上のイソプロピルアルコール(IPA)300mlに分散させ、φ;0.5μmのジルコニア製ビーズ(容量300ml)を加えて4時間、回転数2500rpmで粉砕(一段階粉砕)を行い、X線回折装置(XRD)による測定により、平均結晶子径(体積分布)20.0nmを得た。それをさらにφ;0.3mmのジルコニア製ビーズ(容量300ml)を用いて、4時間、回転数2500rpmで粉砕(二段階粉砕)を行い、XRDによる測定により平均結晶子径(体積分布)10.9nmを得た。
【0022】
図1は、本実施例におけるビーズミルの一段階粉砕工程後で得られたシリコン微細ナノ粒子の結晶構造例を示す断面TEM(透過型電子顕微鏡)写真である。
図1は、シリコン微細ナノ粒子が一部凝集して、不定形の0.5μm程度以下のやや大きな微粒子が形成されている状態を示している。また、
図2は、個別のシリコン微細ナノ粒子に着目して拡大したTEM写真図である。
図2中の白線で囲んで示すように、約5nmから10nmの大きさのシリコン微細ナノ粒子が確認された。また、このシリコン微細粒子は結晶性((111)面)を有していることが確認された。外観は不定形の形状で、一部にはシリコン微細ナノ粒子の凝集体も見られる。図示していないが、二段階粉砕後のTEM解析により、一段階粉砕後の約1/2程度以下の結晶性((111)面)を有するシリコン微細ナノ粒子が得られた。
【0023】
図3は、一段階粉砕での実施例で得られたシリコン微細ナノ粒子の結晶子径分布をX線回折装置(リガク電機製スマートラボ)によって、測定解析した結果を示す図である。
図3では、横軸が結晶子径(nm)を表し、縦軸は、頻度を表している。また、実線は個数分布基準の結晶子径分布を示し、破線は体積分布基準の結晶子径分布を示している。個数分布においては、モード径が0.29nm、メジアン径(50%結晶子径)が0.75nm、平均径が1.2nmであった。また、体積分布においては、モード径が4.9nm、メジアン径が12.5nm、平均径が上述したように20.0nmであった。
【0024】
図4は、二段階粉砕での実施例で得られたシリコン微細ナノ粒子の結晶子径分布をX線回折装置によって、測定解析した結果を示す図である。
図4では、横軸が結晶子径(nm)を表し、縦軸は、頻度を表している。また、実線は個数分布基準の結晶子径分布を示し、破線は体積分布基準の結晶子径分布を示している。個数分布においては、モード径が0.14nm、メジアン径(50%結晶子径)が0.37nm、平均径が0.6nmであった。また、体積分布においては、モード径が2.6nm、メジアン径が6.7nm、平均径が上述したように10.9nmであった。これらの結果により、二段階粉砕後に得られるシリコン微細ナノ粒子は、一段階粉砕より、約1/2以下の微細化が達成されていることが分かった。これらのビーズミル法での粉砕処理で結晶子径が、100nm以下の範囲で、特に50nm以下に分布しているシリコン微細ナノ粒子が得られることが確認された。
【0025】
以下、一段階粉砕と二段階粉砕で作製されたシリコン微細ナノ粒子を用いた水素水の生成とその溶存水素濃度の制御について詳細に述べる。
【0026】
上述の一段階粉砕と二段階粉砕で作製されたビーズを含むシリコン微細ナノ粒子は、ビーズ分離容器(アイメックス株式会社製)に装着したSUSフィルター(φ:0.5mmのビーズの場合はフィルターのメッシュは0.35mm、φ:0.3mmのビーズの場合はメッシュ0.06mmを使用)を用いて、その上部からビーズを含むシリコン微細ナノ粒子を含むイソプロピルアルコール(IPA)溶液を注いで、分級処理して、吸引濾過しビーズを分離して、シリコン微細ナノ粒子を含むIPA溶液を得た。その後、減圧蒸発装置を用いて、40℃でIPAを蒸発処理して、シリコン微細ナノ粒子を得た。
【0027】
次いで、フッ酸処理を行う場合は以下の処理を追加した。得られたシリコン微細ナノ粒子を5%濃度のフッ酸溶液中に10分間浸漬させた。その後、100nmのフッ素樹脂製のメンブレンフィルターで大気中濾過処理を行い、シリコン微細ナノ粒子をメンブレンフィルター上にトラップし層状に残存させた。このメンブレンフィルター上のシリコン微細ナノ粒子をフッ素樹脂製ビーカー上に保持して、フッ酸処理を行った場合はその上からエタノールを滴下して、フッ酸成分を除去した。メンブレンフルター上のシリコン微細ナノ粒子を空気中で30分程度乾燥処理し、フッ酸処理したシリコン微細ナノ粒子を得た。
【0028】
これらのシリコン微細ナノ粒子表面のシリコン酸化膜厚の測定をXPS法により実施した。フッ酸処理しない場合は膜厚が1.6nm程度のシリコン酸化膜を有している。フッ酸処理をした場合は酸化膜がエッチング除去され、0.07nm以下となり、酸化膜をほとんど有していないことが分かった。
【0029】
得られたシリコン微細ナノ粒子10mgを容量30mlのガラス瓶(硼ケイ酸ガラス厚さ1mm程度、ASONE社製ラボランスクリュー管瓶)に入れて、その後、エタノール1mlを投入して、分散させ、全量が30mlになるように所定の水溶液約29mlを加え、ガラス瓶の口まで一杯にして、空気が入らないように内蓋をして、キャップ(長さ1cm)をし、完全密封をした。キャップはポリプロピレン(厚さ2mm)で、内蓋はポリエチレンとポリプロピレンの多層フィルター製を用いた。これらにより、発生する水素の透過や漏れを充分に抑えることができた。
【0030】
この状態に保ったままで、室温にて、密閉したガラス瓶中でシリコン微細ナノ粒子から徐々に水素が発生し、水溶液中に所定の濃度を有する水素を溶存させることができ、安全な水素水を得ることができた。
【0031】
水溶液中の溶存水素濃度の反応時間依存性の測定には東亜DKK社製のポータブル溶存水素濃度計を使用した。まず、
図5にフッ酸処理しない場合のシリコン微細ナノ粒子を用いたpH7の超純水の場合の測定結果を示す。
【0032】
図5の超純水溶液中の溶存水素濃度は、未粉砕高純度Si粉末、一段階粉砕(平均結晶粒子径20.0nm)と二段階粉砕(平均結晶粒子径10.9nm)での測定値を示す。粒子径(結晶子径)が小さくなることにより、シリコン微細ナノ粒子の表面積が増大し、表面で反応発生する水素が増加し、溶存水素濃度が増加していることが分かる。また、反応時間の増加とともに得られる溶存水素濃度が大きくなり、400分(約7時間)程度の反応で、超純水中でも0.4ppm程度の溶存水素濃度を達成した。1ppm以上の溶存水素濃度を得るためには、シリコン微細ナノ粒子の量を増やせば良い。
【0033】
また、水溶液中の溶存水素濃度は、水溶液のpH値にも依存性が見られ、pH値8.0にすると、水溶液中の溶存水素濃度が超純水に比べて、大きく増大することも明確になった。
【0034】
図6に、一段階粉砕(平均結晶子径20.0nm)のシリコン微細ナノ粒子を、フッ酸溶液中に浸漬して酸化膜を除去した場合とそうでない場合を比較して示す。
【0035】
フッ酸処理をしたシリコン微細ナノ粒子を用いた場合、20分程度で1ppmを超え、100分で1.4ppmを超える溶存水素濃度を達成した。更に短時間化したい場合はシリコン微細ナノ粒子の投入量を増加すれば良い。
【0036】
また、標準的な飲料可能な水道水(pH値7.1~7.3程度)を使用して、一段階粉砕(平均結晶子径20.0nm)のフッ酸処理しない場合のシリコン微細ナノ粒子を水道水に混合して水素水を作製した。
図7にその測定値を示す。
【0037】
図7に示すように、超純水(pH値7.0)に混合したときの溶存水素濃度よりも顕著な増大を示し、200分程度で1ppmを達成した。
【0038】
なお、シリコン微細ナノ粒子として、二段階粉砕(平均結晶子径10.9nm)のものを水道水に混合して水素水を作製したところ、図示していないが、一段階粉砕のシリコン微細ナノ粒子を用いた場合の溶存水素濃度よりも更に1.4~1.6倍程度は増加することが分かった。
【0039】
水道水を用いて、フッ酸処理しないで、低コストで安全な水素濃度1ppm以上の水素水を得ることが可能であることが分かった。更に短時間化したい場合はシリコン微細ナノ粒子の投入量を増やせば良い。
【0040】
図8に一段階粉砕のシリコン微細ナノ粒子を用いて、超純水(pH値7.0)に分散したときの溶存水素濃度の長時間での測定結果を示す。フッ酸処理をした場合は20時間で1ppmを達成した。フッ酸処理しない場合には、160時間以上で(1週間程度)で1ppmを達成した。
【0041】
これは、フッ酸処理をしていない場合のシリコン微細ナノ粒子による超純水中での水素発生反応は表面にシリコン酸化膜があるため、シリコン酸化膜が超純水中に徐々に溶け出しながら、極めてゆっくり起こるため、水素濃度が長時間増大しながら持続すると考えられることを示している。
【実施例2】
【0042】
本発明の他の実施形態(実施例2)を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。
【0043】
シリコン微細ナノ粒子は、ビーズミル装置(アイメックス株式会社製:RMB型バッジ式レディーミル)を用いて、高純度シリコン(Si)粉末(高純度化学社製、粒度分布<φ0.5μm、純度99.9%、i型シリコン))60gを99・5wt%のエタノール250mlに分散させ、φ;0.5μmのジルコニア製ビーズ(容量300ml)を加えて4時間、回転数2500rpmで粉砕(一段階粉砕)を行い作製した。
【0044】
本実施例におけるビーズミルの一段階粉砕工程後で得られた体積分布やシリコン微細ナノ粒子の結晶構造は実施例1とほとんど同様の結果が得られると考えられる。
【0045】
以下、エタノール中の一段階粉砕で作製され、過酸化水素処理されたシリコン微細ナノ粒子を用いた水素水の生成とその溶存水素濃度及び水素発生量の制御について詳細に述べる。
【0046】
上述のエタノール中の一段階粉砕で作製されたビーズを含むシリコン微細ナノ粒子は、ビーズ分離容器(アイメックス株式会社製)に装着したSUSフィルター(φ:0.5mmのビーズの場合はフィルターのメッシュは0.35mm、φ:0.3mmのビーズの場合はメッシュ0.06mmを使用)を用いて、その上部からビーズを含むシリコン微細ナノ粒子を含むエタノール溶液を注いで、分級処理して、吸引濾過しビーズを分離して、シリコン微細ナノ粒子を含むエタノール溶液を得た。その後、減圧蒸発装置を用いて、30℃~35℃でエタノールを蒸発処理して、シリコン微細ナノ粒子及び/又はその凝集体(以下シリコン微細ナノ粒子ともいう)を得た。
【0047】
得られたシリコン微細ナノ粒子を過酸化水素水(3.5wt%100ml)を入れた耐熱性ガラス中に投入し、30分間加熱処理(温度約75℃)した。処理したシリコン微細ナノ粒子を遠沈管に移し替えて、遠心分離処理で、固液分離し、液体を廃棄して、新たにエタノール(3.5%100ml)を投入し、シリコン微細ナノ粒子を撹拌して、同様の遠心分離を行い、同様の処理をした。その後、同じく、同量のエタノールを加えて、同様の遠心分離処理を行い、シリコン微細ナノ粒子を得た。
その後、自然乾燥を1日程度長時間行った。この状態で、エタノールや過酸化水素水は完全に除去されていると考えられる。また、過酸化水素水60分間加熱処理(温度約75℃)し、同様の遠心分離処理し、シリコン微細粒子を得た
【0048】
得られたシリコン微細ナノ粒子11mg(過酸化水素水30分処理)を容量115mlのガラス瓶(硼ケイ酸ガラス厚さ1mm程度、ASONE社製ラボランスクリュー管瓶)に入れて、分散させ、全量が115mlになるように所定の水溶液約115mlと炭酸水素ナトリウム(日本薬局方準拠のもの約20g投入し1.88wt%とし、pH約8.3を得た)を加え、ガラス瓶の口まで一杯にして、空気が入らないように内蓋をして、キャップ(長さ1cm)をし、完全密封をした。キャップはポリプロピレン(厚さ2mm)で、内蓋はポリエチレンとポリプロピレンの多層フィルター製を用いた。これらにより、発生する水素の透過や漏れを充分に抑えることができた。シリコン微細ナノ粒子はそのままで均一に水溶液全体に混ざった状態となった。これは過酸化水素処理により、シリコン微細ナノ粒子が有効に親水性となってためと考えられる。過酸化水素水60分処理はシリコン微細ナノ粒子5mgを用いて、水素発生の実験を行った。
【0049】
この状態に保ったままで、室温にて、密閉したガラス瓶中でシリコン微細ナノ粒子から徐々に水素が発生し、水溶液中に所定の濃度を有する水素を溶存させることができ、実施例1のようにIPAやフッ酸を使用していないため、生体や生体内でより安全安心な薬液とプロセス処理によりシリコン微細ナノ粒子及び水素水を得ることができたことは特筆に値する。
【0050】
水溶液中の溶存水素濃度の反応時間依存性の測定には東亜DKK社製のポータブル溶存水素濃度計を使用した。
図9aと
図9bの各図では、過酸化水素水処理しない場合のシリコン微細ナノ粒子、過酸化水素水で30分処理したシリコン微細ナノ粒子、並びに過酸化水素水で60分処理したシリコン微細ナノ粒子を用いた溶存水素濃度の測定結果を示し、また、
図9bではSi1g当たりに換算した水素発生量でそれぞれを示す。
図9a、
図9bとも、縦軸は溶存水素濃度、横軸は反応時間(h:時間)を示す。過酸化水素水処理により、水素発生が加速増大することが示された。これはシリコン微細ナノ粒子が親水性となり、水溶液に均一に分散されたためである。過酸化水素水30分処理で、2時間で400ppb、4時間で1000ppm近くの特筆すべき濃度を得た。24時間で2000ppmに達した。60分処理では水素発生量は30分より、低減された。60分処理により、シリコン微細ナノ粒子の表面酸化膜が30分より膜厚が厚く、水素発生量が抑圧されたと考えられる。図示していないが、15分処理で同様の実験を行ったが、30分とほとんど同一の実験結果を得た。1分~2分処理では処理無と同程度で有効な水素発生が得られなかった。従って、過酸化水素水処理時間は5分~30分が適当である。炭酸水素ナトリウムを混入することは、通常生体の小腸のpH状態に匹敵し、体内で有効な水素発生が起こることになる。
図9bはSi1g当たりに換算した水素発生量を示している。縦軸はSi1g当たりの水素発生量(ml)、横軸は反応時間(h:時間)を示す。30分の処理で極めて有効な水素発生量(40ml)が2時間以上で継続的に得られている。
【0051】
本実験結果から、IPAやフッ酸を用いずに、生体に用いても、より安全で安心なシリコン微細ナノ粒子を作製でき、生体内で安全に水素発生させることが可能となる。更に、このシリコン微細ナノ粒子を用いて、公知の添加剤や食品に含有させて生体用水素発生材を作製することが可能となる。反応時間数時間以内で1ppm以上の溶存水素濃度を得るためには、シリコン微細ナノ粒子の量を増やせば良い。
【0052】
シリコン微細粒子として、高純度シリコン(Si)粉末以外に、太陽電池グレードのシリコン基板の切削加工から発生するシリコン切粉や半導体グレードの研磨屑を利用しても、水素水の生成は可能である。また、i型のみならず、n型、p型でも使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、生体安全性を有するシリコン微細ナノ粒子を作製でき、それを有効活用して、安全性、実用性及び経済性に優れた水素水とその製造技術に展開できるものであり、特に、健康・医療用のシリコン微細ナノ粒子を含有した水素発生材(剤)や洗浄水や健康飲料水等の健康・医療食品、製品分野への利用が可能である。