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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】さく岩機
(51)【国際特許分類】
   B25D 16/00 20060101AFI20220609BHJP
   B25D 17/26 20060101ALI20220609BHJP
   E21B 1/26 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
B25D16/00
B25D17/26
E21B1/26
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021078551
(22)【出願日】2021-05-06
(62)【分割の表示】P 2016251064の分割
【原出願日】2016-12-26
(65)【公開番号】P2021119029
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】594149398
【氏名又は名称】古河ロックドリル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】村上 進
(72)【発明者】
【氏名】松田 年雄
(72)【発明者】
【氏名】松本 吉見
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237999(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118924(WO,A1)
【文献】特開2015-160960(JP,A)
【文献】特開平3-136742(JP,A)
【文献】特開2008-64215(JP,A)
【文献】国際公開第2005/028689(WO,A1)
【文献】特開2001-098868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 16/00
B25D 17/26
E21B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のスプライン歯が外面に形成されるとともに自身後端部が打撃ピストンで打撃されるシャンクロッドと、該シャンクロッドの第一のスプライン歯に回転力を伝達するとともに軸方向に沿った摺動が可能に嵌合される第一のスプライン溝が内面に形成され且つ第二のスプライン歯が外面に形成されたチャックと、該チャックの前記第二のスプライン歯に嵌合される第二のスプライン溝が内面に形成されたチャックドライバと、を有する回転伝達部を備え
前記第一のスプライン歯および前記第一のスプライン溝相互の接触箇所並びに前記第二のスプライン歯および前記第二のスプライン溝相互の接触箇所に、オイルミストを供給するオイルミスト供給経路を有し、
前記チャックには、径方向に貫通する連通孔が設けられており、
該連通孔は、前記オイルミスト供給経路の一部を構成して、前記第一のスプライン歯および前記第一のスプライン溝相互の接触箇所と前記第二のスプライン歯および前記第二のスプライン溝相互の接触箇所とを径方向で相互に連通させることを特徴とするさく岩機。
【請求項2】
前記オイルミストは、風量が、0.1m3/min以上0.6m3/min以下、かつ、風量あたりの消費油量が、10cc/m3以上25cc/m3以下のものである請求項1に記載のさく岩機。
【請求項3】
前記チャックの材質は、Ni:1.5~3.0wt%、Si:0.5~1.5wt%、Cr:0.5~1.5wt%、Sn:0.1~0.3wt%、および、残部がCuおよび不可避的不純物元素からなる、熱伝導率が200W/(m・K)以上の銅合金である請求項1または2に記載のさく岩機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さく岩機に係り、特に、さく岩機の回転伝達部に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のさく岩機の回転伝達部としては、例えば特許文献1記載の技術が開示されている。同文献記載のさく岩機について、図3を適宜参照しつつ説明する。
【0003】
この種のさく岩機は、公知の打撃機構および回転機構を備える。回転機構は、図3に示すように、シャンクロッド140、チャック150、チャックドライバ160および駆動ギヤ134を備え、図示しないモータにより駆動ギヤ134が回転駆動される。駆動ギヤ134とチャックドライバ160との当接箇所はギヤ機構であり、シャンクロッド140とチャック150相互の当接箇所は、内外径に形成されたスプライン嵌合部によって回転駆動力の伝達および軸方向に沿った摺動が可能に嵌合している。
【0004】
つまり、モータの駆動により駆動ギヤ134が回転駆動されると、回転駆動力は、チャックドライバ160からチャック150を介してシャンクロッド140に伝達されてシャンクロッド140を回転させる。また、シャンクロッド140は、シャンクロッド140およびチャック150相互の当接箇所に設けられた内外径のスプライン嵌合部により、軸方向に沿って前後に所定距離の移動が可能になっている。
【0005】
また、打撃機構は、打撃ピストン120と、図示しない切換バルブとを有し、切換バルブによる油路の切換えに応じて打撃ピストン120が前後に移動し、シャックロッド140の後端部を打撃するようになっている。シャンクロッド140は、打撃ピストン120に打撃されることで、図示しないロッドおよびビットに打撃エネルギーを伝えるとともに、前述した回転機構の回転駆動力をロッドおよびビットに伝えて岩盤を破砕する。すなわち、この種のさく岩機は、シャンクロッド140が、チャック150によって前後に摺動保持されながら回転力を伝達可能に構成される。
【0006】
ここで、シャンクロッドは、その後端部を繰り返し打撃する打撃ピストンと同程度の強度を要する。そのため、シャンクロッドの材質は、ニッケルクロムモリブデン鋼等の合金鋼が採用される。その一方で、チャックは、シャンクロッドとの当接箇所である内径のスプライン溝は、摺動による摩耗と回転による面圧の両方に対応することが求められる。そのため、チャックの材質に関しては、耐摩耗性と高強度を併せ持つ材料として、アルミ青銅等の銅合金が採用されている。
【0007】
ところで、一般的なさく岩機の仕様として、打撃機構の打撃数は2000~3000bpm、回転機構の回転数は100~300rpmになる。そのため、シャンクロッドとチャックの当接箇所である内外径のスプライン嵌合部は、高速摺動かつ高トルク状態に晒される。
【0008】
前述したように、チャックは、耐摩耗性と高強度を併せ持つ材料として銅合金が採用されているものの、それだけでは寿命の低下は免れない。そこで、特許文献2に開示されるように、チャックとシャンクロッドの当接箇所に潤滑油を供給することで、チャックの損耗を低減する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2000-52278号公報
【文献】特開2013-518198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、近年のさく岩機においては、さらなる高出力化が進み、特許文献1ないし2に開示されるような従来のチャックの材質選定や潤滑方法では、チャックの損耗に対応しきれない場合が生じている。
【0011】
すなわち、さく岩機の回転伝達部であるシャンクロッドとチャックにおいては、製作誤差や使用による摩耗に起因して、スプライン嵌合部の接触状態は、複数枚あるスプライン歯またはスプライン溝ごとに面圧が不均一となる場合や、スプライン歯またはスプライン溝の面内で不均一となる箇所が生じることは避けられないところ、過酷な使用条件下では、このような不均一箇所で局所的な応力集中が発生して異常高温となり、そこから強度低下に陥り、チャックが早期に損耗するという問題があった。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、高出力化に対応可能なさく岩機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るさく岩機は、第一のスプライン歯が外面に形成されるとともに自身後端部が打撃ピストンで打撃されるシャンクロッドと、該シャンクロッドの第一のスプライン歯に回転力を伝達するとともに軸方向に沿った摺動が可能に嵌合される第一のスプライン溝が内面に形成され且つ第二のスプライン歯が外面に形成されたチャックと、該チャックの前記第二のスプライン歯に嵌合される第二のスプライン溝が内面に形成されたチャックドライバと、を有する回転伝達部を備え前記第一のスプライン歯および前記第一のスプライン溝相互の接触箇所並びに前記第二のスプライン歯および前記第二のスプライン溝相互の接触箇所に、オイルミストを供給するオイルミスト供給経路を有し、前記チャックには、径方向に貫通する連通孔が設けられており、該連通孔は、前記オイルミスト供給経路の一部を構成して、前記第一のスプライン歯および前記第一のスプライン溝相互の接触箇所と前記第二のスプライン歯および前記第二のスプライン溝相互の接触箇所とを径方向で相互に連通させることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係るさく岩機によればオイルミスト供給経路により、第一のスプライン歯および第一のスプライン溝相互の接触箇所並びに第二のスプライン歯および第二のスプライン溝相互の接触箇所にオイルミストを供給するので、シャンクロッドとチャックの接触部並びにチャックドライバとチャックとの接触部に対して冷却および潤滑を行うことができる。
特に、チャックには、径方向に貫通する連通孔が設けられ、この連通孔は、オイルミスト供給経路の一部を構成して、第一のスプライン歯および第一のスプライン溝相互の接触箇所と第二のスプライン歯および第二のスプライン溝相互の接触箇所とを径方向で相互に連通させる。
そのため、回転伝達部であるシャンクロッドとチャックの接触部並びにチャックドライバとチャックとの接触部で局所的な応力集中が発生して温度が上昇しても局所的な高温状態となることが防止または抑制される。さらに、オイルミストによってチャックおよびその内外の各スプライン部の冷却と潤滑がなされるので、チャックの早期損耗を抑制できる。よって、本発明の一態様に係るさく岩機によれば、さく岩機の高出力化に充分に対応できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、さく岩機の高出力化に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一態様に係るさく岩機の回転伝達部の一実施形態を示す説明図であり、同図(a)は模式的縦断面(同図(b)のX-X断面)を示し、(b)は(a)でのZ-Z断面を示している。
図2】本発明に係るチャックと従来のチャックの摩耗状態を対比する図(写真)である。
図3】従来のさく岩機の回転伝達部の一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一態様に係るさく岩機の回転伝達部の一実施形態を図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0017】
図1に示すように、本実施形態のさく岩機10は、回転機構30、ダンパ機構70およびスイベル機構80並びに公知の打撃機構100を備える。打撃機構100は、打撃ピストン20と図示しない公知の切換バルブ機構とを有し、切換バルブ機構による油路の切換え作動によって打撃ピストン20が前進後退動作を繰り返し、打撃ピストン20の前端面21が、後述するシャンクロッド40の後端面41を打撃するようになっている。
【0018】
回転機構30は、フロントヘッド31と、フロントヘッド31の前方に設けられたフロントカバー32とを有する筐体を備える。フロントカバー32の先端にはフロントキャップ81が装着され、フロントヘッド31の後方にモータ33が装着されている。フロントヘッド31の内部には、モータ33の出力軸に連結された駆動ギヤ34が回転自在に支承されている。フロントカバー32の内部には、円筒状のフロントリング35がフロントキャップ81の後端面に当接する位置に設けられ、フロントリング35と同軸にシャンクロッド40が支持されている。
【0019】
シャンクロッド40は、自身の後部に、周方向に等配された複数のスプライン歯である外径角スプライン42を有するとともに、自身の後端面41が、打撃ピストン20の前端面21に打撃される被打撃面になっている。シャンクロッド40の前端には、図示しない公知のねじ部が設けられている。シャンクロッド40の外周面の途中部分は摺接部43になっており、シャンクロッド40の内部には、ねじ部の端面まで連通する水孔44が同軸に形成されている。水孔44の基端側は、摺接部43の側方に開口している。
さらに、フロントカバー32の内部には、シャンクロッド40の後部の位置に、チャック50およびチャックドライバ60が装着されている。
【0020】
チャック50は、同図(b)に示すように、その内周面に、周方向に等配された複数のスプライン溝である内径角スプライン51が形成されるとともに、外周面には、周方向に等配された複数のスプライン歯である外径角スプライン52が形成されている。チャック50の内径角スプライン51は、シャンクロッド40の外径角スプライン42とスプライン嵌合されている。
また、チャック50の前後の端面には、同図(a)に示すように、径方向に延びる端面スリット53、53´が設けられ、さらに、各端面スリット53、53´に連通してチャック50の内周面に内径溝54、54´が形成されるとともに、チャック50の中央部分には、径方向に貫通する連通孔55が設けられている。
【0021】
チャックドライバ60は、外周面の後方の位置に、駆動ギヤ34に歯合する外径ギヤ部64が設けられ、その後部には、円筒状のチャックドライバブッシュ65が同軸に摺嵌されている。チャックドライバブッシュ65は、その前端面66がシャンクロッド40の後端面41に当接しており、後端部には端面スリット67が径方向に沿って形成されている。
【0022】
また、チャックドライバ60は、内周面に、周方向に等配された複数のスプライン溝である内径角スプライン61が形成されている。チャックドライバ60の内径角スプライン61は、チャック50の外径角スプライン52とスプライン嵌合されている(同図(b)参照)。さらに、チャックドライバ60には、軸方向後方の内周面に、内径円環溝(大)62が形成されるとともに、後端面に内径円環溝(小)63が形成されている。
【0023】
ここで、フロントヘッド31には、内周側の肉厚部に、軸方向に第3連通孔36が貫通形成されている。フロントカバー32には、前方側の端部に、径方向に沿ってオイルミスト排出口37が貫通形成されている。また、チャックドライバ60には、外径ギヤ部64が設けられた厚肉部に、第4連通孔68が、第3連通孔36と内径円環溝(大)62とを繋ぐように斜めに形成され、さらに、第5連通孔69が、径円環溝(小)63に連通するように斜めに形成されている。
【0024】
ダンパ機構70は、ダンパハウジング71と、ダンパハウジング71内に同軸に収容されたプッシングピストン72およびダンピングピストン73とを有する。ダンパハウジング71には、軸方向後方の上部の位置にオイルミスト導入口74が設けられている。オイルミスト導入口74は、径方向に貫通して開設された竪穴である第1連通孔75に連通するとともに、第1連通孔75の途中部分が、ダンパハウジング71の上部側の肉厚部分に、軸方向に沿って貫通する横穴である第2連通孔76に連通して形成されている。
【0025】
スイベル機構80は、フロントキャップ81と、フロントキャップ81内に設けられたスイベルボディ82とを有する。スイベルボディ82には、後端側に、第7連通孔84が径方向に貫通形成され、フロントキャップ81には、第7連通孔84に連通する位置に、第8連通孔83が径方向で同軸に貫通形成されており、第7連通孔84および第8連通孔83がオイルミスト排出口37に連通している。
【0026】
そして、本実施形態では、上述のスプライン嵌合部にオイルミストを供給するためのオイルミスト供給手段としてのオイルミスト経路90が構成されている。本実施形態のオイルミスト経路90は、オイルミストの入り口がオイルミスト導入口74とされ、出口がオイルミスト排出口37であり、構成部材同士が形成する潤滑空間、クリアランス、および、これらの潤滑空間とクリアランスを相互に接続する連通孔から構成される。
【0027】
詳しくは、本実施形態では、第1潤滑空間91が、打撃ピストン20の外径とプッシングピストン72の内径およびチャックドライバブッシュ65の内径によって画成され、第2潤滑空間92が、フロントヘッド31の内壁と外径ギヤ部64によって画成され、さらに、第3潤滑空間95が、フロントリング35の内径と摺接部43によって画成されている。
【0028】
さらに、同図(b)に示すように、第1クリアランス93は、外周側のスプライン嵌合部である、内径角スプライン61と外径角スプライン52の当接箇所に形成され、第2クリアランス94は、内周側のスプライン嵌合部である、内径角スプライン51との外径角スプライン42の当接箇所に形成される。
【0029】
そして、上述した第1連通路75は、オイルミスト導入口74と第1潤滑空間91とを接続している。また、第2連通路76および第3連通路36は、第1連通路75と第2潤滑空間92とを接続している。さらに、第4連通孔68および内径円環溝(大)62は、第2潤滑空間92と第1クリアランス93とを接続している。
【0030】
また、第5連通孔69、径円環溝(小)63、端面スリット53´および内径溝54´は、第2潤滑空間92と第2クリアランス94とを接続している。さらに、第6連通孔55は、第1クリアランス93と第2クリアランス94とを接続しており、第7連通孔84および第8連通孔83は、第3潤滑空間95とオイルミスト排出口37とを接続している。
【0031】
さらに、同図(b)に示す第1クリアランス93と第2クリアランス94は、端面スリット53および内径溝54によっても接続されており、第2クリアランス94と第5潤滑空間95は、内径溝54によって接続されている。
シャンクロッド40は、打撃ピストン20の打撃によって瞬間的に前進するところ、この前進時に、シャンクロッド40の後端面41と打撃ピストン20の前端面21および前端面66相互の当接状態が解かれて、第1潤滑空間91と第2クリアランス94とが連通するように構成されている。
【0032】
ここで、チャック50の性状について説明する。
表1は、本実施形態と比較例1~3の物理的・機械的性質のうち、熱伝導率、硬さ、および伸びの対比表である。また、表2は、本実施形態と比較例1~3の組成の対比表である(単位はwt%)。なお、比較例1はアルミニウム青銅、比較例2は特殊高力黄銅、および比較例3はリン青銅であり、いずれもさく岩機のチャックに採用されることの多い銅合金材料である。
表2に示すように、本実施形態のチャック50の材質は、Ni:1.5~3.0wt%、Si:0.5~1.5wt%、Cr:0.5~1.5wt%、Sn:0.1~0.3wt%、および、残部がCuおよび不可避的不純物元素からなる銅合金である。
【0033】
表1に示すように、本実施形態と比較例1~3とでは、硬さと伸びに関しては略同等の値を有しているが、熱伝導率については、本実施形態の値が比較例1~3に対して際立って高いことが見てとれる。
ここで、熱伝導率は、200W/(m・K)よりも小さいと局所的な異常高温が発生する。なお、硬さについては、80HRB以上であることが、チャック50の機能上から必須であることから、本発明に係るチャック50は、実質的に銅合金製に限定されることになり、無酸素銅の熱伝導率391W/(m・K)は、本発明の範囲外、すなわち熱伝導率の上限値と考えてよい。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
次に、上述したオイルミスト経路90に供給するオイルミストについて説明する。
オイルミストは、さく岩機10を搭載する台車に装備されたコンプレッサ(いずれも図示略)から供給される圧縮空気と、圧縮空気に潤滑油をルブリケータ(図示略)で滴下混合することで生成する。
本実施形態におけるオイルミストの諸条件は、風量が0.1m/min以上0.6m/min以下、かつ、風量あたりの消費油量が、10cc/m以上25cc/m以下としている。風量が0.1m/minよりも少ないとチャック50の冷却が不十分となり、0.6m/minよりも大きいと油量が嵩む。風量あたりの消費油量が10cc/mよりも小さいと潤滑皮膜が不十分となり、25cc/mよりも大きいとミスト状態が不安定となり潤滑斑が発生し、また、機外へと排出される潤滑油の量が増大して作業環境が悪化する。
【0037】
次に、本実施形態のさく岩機10でさく孔作業を行う場合について説明する。
このさく岩機10でさく孔作業を行う際は、打撃機構100を作動させ、打撃ピストン20でシャンクロッド40の後端面41を打撃するとともに、モータ33を駆動し、駆動ギヤ34から、チャックドライバ60およびチャック50のスプライン嵌合部を介してシャンクロッド40に回転駆動力を伝達する。シャンクロッド40には、図示しないスリーブ、継ぎ足しロッドおよび先端ビットが接続されており、シャンクロッド40で発生した打撃と回転を先端ビットへと伝達して岩盤を破砕する。
【0038】
ダンパ機構70は、岩盤で消費しきれずに反射して戻ってきた打撃エネルギーを緩衝し、先端ビットと岩盤の密着状態を良好に保つように作動する。スイベル機構80は、図示しないフラッシング流体供給源から、フラッシング流体を、水孔44を経て先端ビットへと供給して繰り粉を排出する。
【0039】
ここで、内径角スプライン51と外径角スプライン42の当接箇所は、さく孔作業中に高速摺動と高トルク状態となる。そして、製作誤差や使用による摩耗に起因して、角スプライン同士の接触状態が、複数枚あるスプライン歯またはスプライン溝ごと、あるいはスプライン歯またはスプライン溝の面内において、面圧が不均一となる箇所が生じることは避けられないところ、このような不均一箇所では、局所的な応力集中に伴う熱が発生する場合がある。
【0040】
これに対し、本実施形態のさく岩機10であれば、チャックの材質が、熱伝導率が200W/(m・K)以上の銅合金製なので、局所的に熱が発生しても、チャック50の熱伝導性が良好である。そのため、発熱はチャック50全体に拡散し、局所的な高温状態となることが防止または抑制される。
さらに、本実施形態のさく岩機10であれば、オイルミスト経路90にオイルミストが供給されているので、スプライン歯およびスプライン溝相互の接触箇所に、充分な冷却作用と潤滑がなされる。そのため、チャック50が早期に損耗することを抑制することできる。
【0041】
図2(a)は、本実施形態のチャック50を、さく孔作業に500時間使用した後の摩耗状態を示す写真であり、同図(b)は、比較例1のチャックを、さく孔作業に50時間使用した後の摩耗状態を示す写真である。摩耗状態は、さく孔作業の条件(破砕対象が硬岩であるか軟岩であるか等)にも左右されるものの、本実施形態のチャック50は、比較例1のチャックに対して概ね10倍以上の寿命を有することが確認された。
【0042】
以上、本発明に係るさく岩機の一実施形態を図面および表を参照して説明したが、本発明に係るさく岩機の回転伝達部は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しなければ、その他の種々の変形や各構成要素を変更することが許容されることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
10 さく岩機
20 打撃ピストン
21 前端面
30 回転機構
31 フロントヘッド
32 フロントカバー
33 モータ
34 駆動ギヤ
35 フロントリング
36 第3連通孔
37 オイルミスト排出口
40 シャンクロッド
41 後端面
42 外径角スプライン
43 摺接部
44 水孔
50 チャック
51 内径角スプライン(スプライン溝)
52 外径角スプライン(スプライン歯)
53、53´ 端面スリット
54、54´ 内径溝
55 第6連通孔
60 チャックドライバ
61 内径角スプライン
62 内径円環溝(大)
63 内径円環溝(小)
64 外径ギヤ部
65 チャックドライバブッシュ
66 前端面
67 端面スリット
68 第4連通孔
69 第5連通孔
70 ダンパ機構
71 ダンパハウジング
72 プッシングピストン
73 ダンピングピストン
74 オイルミスト導入口
75 第1連通孔
76 第2連通孔
80 スイベル機構
81 フロントキャップ
82 スイベルボディ
83 第8連通孔
84 第7連通孔
90 オイルミスト経路
91 第1潤滑空間
92 第2潤滑空間
93 第1クリアランス
94 第2クリアランス
95 第3潤滑空間
100 打撃機構
図1
図2
図3