(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】結晶性物質および膜複合体
(51)【国際特許分類】
C01B 37/04 20060101AFI20220609BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220609BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220609BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C01B37/04
B01D69/12
B01D71/02 500
B01J20/18 A
(21)【出願番号】P 2021505605
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2020005241
(87)【国際公開番号】W WO2020184033
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2019043080
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121889(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121887(WO,A1)
【文献】CASTRO, Maria et al.,Molecular Modeling, Multinuclear NMR, and Diffraction Studies in the Templated Synthesis and Charact,J. Phys. Chem. C,2010年,Vo.114,p.12698-12710
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 37/04
B01D 69/12
B01D 71/02
B01J 20/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性物質であって、
酸素、アルミニウムおよびリンを含み、下表に記載の粉末X線回折ピークを有する。
【表6】
【請求項2】
請求項1に記載の結晶性物質であって、
平均粒径が0.01~10μmの粉末である。
【請求項3】
請求項1または2に記載の結晶性物質であって、
構造規定剤を含まない。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の結晶性物質であって、
ケイ素、マグネシウム、亜鉛、チタン、コバルト、銅、鉄およびホウ素の少なくとも一種をさらに含む。
【請求項5】
膜複合体であって、
支持体と、
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の結晶性物質を含み、前記支持体に設けられた膜と、
を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性物質および膜複合体に関する。
[関連出願の参照]
本願は、2019年3月8日に出願された日本国特許出願JP2019-043080からの優先権の利益を主張し、当該出願の全ての開示は、本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトには様々な構造のものが知られており、その一つとしてSAT型がある。SAT型のゼオライトに関して、例えば、Graham W. Noble、他2名による「The templated synthesis and structure determination by synchrotron microcrystal diffraction of the novel small pore magnesium aluminophosphate STA-2」(Journal of Chemical Society, Dalton Transactions 1997、4485-4490頁)(文献1)やMaria Castro、他10名による「Molecular Modeling, Multinuclear NMR, and Diffraction Studies in the Templated Synthesis and Characterization of the Aluminophosphate Molecular Sieve STA-2」(Journal of Physics and Chemistry C 2010、114巻、12698-12710頁)にその粉末の生成方法が開示されている。
【0003】
ところで、ゼオライト等の結晶性物質は、特定のガスの分離や分子の吸着等、様々な用途での使用が検討または実用化されている。したがって、所望の特性を有する結晶性物質の選択肢を広げるため、新規な構造の結晶性物質が常に求められている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、結晶性物質に向けられており、新規な構造の結晶性物質を提供することを目的としている。
【0005】
本発明の好ましい一の形態に係る結晶性物質は、酸素、アルミニウムおよびリンを含み、下表に記載の粉末X線回折ピークを有する。
【0006】
【0007】
本発明によれば、新規な構造の結晶性物質を提供することができる。
【0008】
好ましくは、結晶性物質が、平均粒径が0.01~10μmの粉末である。
【0009】
好ましくは、結晶性物質が、構造規定剤を含まない。
【0010】
好ましくは、結晶性物質が、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、チタン、コバルト、銅、鉄およびホウ素の少なくとも一種をさらに含む。
【0011】
本発明は、膜複合体にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る膜複合体は、支持体と、上記結晶性物質を含み、前記支持体に設けられた膜とを備える。
【0012】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】結晶性物質の粉末の製造の流れを示す図である。
【
図2】結晶性物質の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図3】結晶性物質の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図4】結晶性物質の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図6】膜複合体の一部を拡大して示す断面図である。
【
図9】分離装置による混合物質の分離の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る結晶性物質(以下、「本結晶性物質」ともいう。)は、酸素(O)、アルミニウム(Al)およびリン(P)を含み、表2に記載の粉末X線回折ピークを有する。
【0015】
【0016】
表2において、粉末X線回折ピークの回折角2θは、線源としてCuKα線を用いた場合の値である。また、2θ=14.17±0.2°におけるピークを基準ピークとし、基準ピークの強度を100とした場合における、各ピークの強度の相対値を相対強度として示している(他の表において同様)。なお、ピークの相対強度は、粉末X線回折パターンにおける底部のライン、すなわち、バックグラウンドノイズ成分を除いた高さを用いるものとする。粉末X線回折パターンにおける底部のラインは、例えば、Sonneveld-Visser法またはスプライン補間法により求められる。
【0017】
本実施の形態では、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「SAT」であるゼオライトに、後述する処理を施すことにより、表2に記載の粉末X線回折ピークを有する本結晶性物質が生成される。表2が示す粉末X線回折パターンは、SAT型ゼオライトの粉末X線回折パターン(例えば、上記文献1の
図1の(b)参照)と相違しており、本結晶性物質では、例えば、2θ=8.65±0.2°におけるピークの相対強度が、SAT型ゼオライトよりも小さい。したがって、本結晶性物質は、SAT型ゼオライトとは異なる新規な構造を有する。結晶性物質は、表2に記載の粉末X線回折ピーク以外のピークを含んでもよい。このようなピークは、他の物質の混在等により生じる場合がある。
【0018】
本結晶性物質の生成に用いられるSAT型ゼオライトの一例は、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO4)の中心に位置する原子(T原子)がAlとPとからなるAlPO型のゼオライトである。T原子がSi(ケイ素)とAlとPとからなるSAPO型のゼオライト、T原子がマグネシウム(Mg)とSiとAlとPとからなるMAPSO型のゼオライト、T原子が亜鉛(Zn)とSiとAlとPとからなるZnAPSO型のゼオライト等が用いられてもよい。T原子の一部は、チタン(Ti)およびホウ素(B)等の他の元素に置換されていてもよい。
【0019】
上記SAT型ゼオライトから生成される本結晶性物質は、当該SAT型ゼオライトと同様に、多孔質物質であり、ゼオライトであると考えられる。結晶性物質も、典型的には、当該SAT型ゼオライトと同様の組成を有する。したがって、本結晶性物質は、酸素、アルミニウムおよびリンを含む。また、結晶性物質は、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、チタン、コバルト、銅、鉄およびホウ素の少なくとも一種をさらに含んでもよい。これにより、結晶性物質における細孔径や吸着特性を変えることが可能となる。
【0020】
本結晶性物質におけるリン/アルミニウムのモル比(リンのモル数をアルミニウムのモル数で除して得た値である。以下同様。)は、好ましくは0.5~4であり、より好ましくは0.7~2である。後述する原料溶液中のアルミニウム源とリン源との配合割合等を調整することにより、結晶性物質におけるリン/アルミニウム比を調整することが可能である(他の元素の比率についても同様である。)。
【0021】
本結晶性物質では、SAT型ゼオライトの生成時に用いられる構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)が除去されていることが好ましい。すなわち、好ましい結晶性物質は、SDAを含まない。これにより、結晶性物質において細孔が適切に確保される。SDAの有無の確認には、例えば、加熱発生ガス質量分析(TPD-MS)が利用可能である。結晶性物質をHe雰囲気で200~900℃以上に加熱した場合におけるCO2ガスの質量を結晶性物質の質量で除した値が、例えば、1000wtppm以下であるときには、結晶性物質がSDAを含まないといえる。一例では、Heフロー(50ml/min)を行いながら昇温速度10℃/minで加熱した際に発生したガスを、島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS QP2010Plus)を用いて分析することにより、SDAの有無が確認される。結晶性物質の用途によっては、結晶性物質が、SDAを含んでもよい。結晶性物質は、アルカリ金属を含んでいてもよい。当該アルカリ金属は、例えば、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)である。
【0022】
本結晶性物質の平均細孔径は、1nm以下である。
【0023】
一例では、本結晶性物質は粉末として製造される。当該結晶性物質の粉末の平均粒径は、例えば0.01~10μmであり、好ましくは0.05~5μmであり、より好ましくは0.1~1μmである。粉末の平均粒径は、レーザー散乱法により求めた粒径分布におけるメディアン径(D50)である。後述するように、結晶性物質は膜として製造されてもよい。
【0024】
図1は、表2の粉末X線回折ピークを有する結晶性物質の粉末の製造の流れを示す図である。本製造例では、まず、SAT型ゼオライトの粉末(結晶)が生成されて準備される(ステップS11)。SAT型ゼオライトの粉末の生成では、例えば、アルミニウム源、リン源およびSDA等を溶媒に溶解させることにより、原料溶液が作製される。原料溶液の組成は、例えば、1Al
2O
3:1P
2O
5:0.8SDA:200H
2Oである。原料溶液の溶媒には、水以外にエタノール等のアルコールを用いてもよい。アルミニウム源として、例えばアルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、アルミナゾル等を用いることができる。リン源として、例えばリン酸、リン酸エステル、リン酸アルミニウム等を用いることができる。原料溶液に含まれるSDAは、例えば有機物である。SDAとして、例えば水酸化1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-C4-ジクアット等を用いることができる。
【0025】
続いて、原料溶液の水熱合成が行われる。水熱合成時の温度は、例えば120~200℃である。水熱合成時間は、例えば5~240時間である。水熱合成が完了すると、得られた結晶が純水で洗浄される。そして、洗浄後の結晶を乾燥させることにより、SAT型ゼオライトの粉末が生成される。SAT型ゼオライトの粉末は、他の手法により準備されてもよい。
【0026】
SAT型ゼオライトの粉末が準備されると、当該粉末を酸化性ガス雰囲気下で加熱処理することにより、粉末中のSDAが燃焼除去される(ステップS12)。好ましくは、SDAはおよそ完全に除去される。SDAの除去における加熱温度は、例えば350~700℃である。加熱時間は、例えば10~200時間である。酸化性ガス雰囲気は、酸素を含む雰囲気であり、例えば大気中である。
【0027】
その後、SAT型ゼオライトの粉末が熱水に混合されて加熱される(ステップS13)。熱水の温度は、例えば100~300℃であり、好ましくは100~200℃である。加熱時間は、例えば10~100時間であり、好ましくは20~50時間である。熱水中での加熱が完了すると、得られた結晶が純水で洗浄される。そして、洗浄後の結晶を乾燥させることにより、表2に記載の粉末X線回折ピークを有する結晶性物質が得られる。
【0028】
次に、上記結晶性物質の粉末の製造の実施例について説明する。
【0029】
<実施例1>
アルミニウム源、リン源、SDA(構造規定剤)として、それぞれアルミニウムアルコキシド(アルミニウムイソプロポキシド)、85%リン酸、水酸化1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-C4-ジクアットを純水に溶解させ、組成が1Al2O3:1P2O5:0.8SDA:200H2Oの原料溶液を作製した。この原料溶液を190℃にて50時間水熱合成した。水熱合成によって得られた結晶を回収し、純水にて十分に洗浄した後、100℃で完全に乾燥させた。X線回折測定の結果、得られた結晶はSAT型ゼオライトの結晶であった。この結晶を500℃にて20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去し、150℃の熱水中で15時間加熱処理した。得られた結晶を回収し、純水にて十分に洗浄した後、100℃で完全に乾燥させた。これにより、結晶性物質の粉末を得た。
【0030】
図2は、実施例1の結晶性物質の粉末X線回折パターンを示す図である。X線回折パターンの測定は、測定粉末を十分な深さの試料ホルダに緻密に詰めて行った。粉末X線回折測定では、リガク社製のX線回折装置(装置名:MiniFlex600)を用いた。粉末X線回折測定は、管電圧40kV、管電流15mA、走査速度0.5°/min、走査ステップ0.02°で行った。また、発散スリット1.25°、散乱スリット1.25°、受光スリット0.3mm、入射ソーラースリット5.0°、受光ソーラースリット5.0°とした。モノクロメーターは使用せず、CuKβ線フィルターとして0.015mm厚ニッケル箔を使用した。また、
図2の粉末X線回折パターンの各ピークの相対強度を表3に示す。表3の各ピークの相対強度は、表2に示す相対強度の範囲に含まれており、実施例1の結晶性物質は、表2に記載の粉末X線回折ピークを有していた。
【0031】
【0032】
<実施例2>
アルミニウム源としてアルミナゾルを用いた以外は、実施例1と同様にして結晶性物質の粉末を得た。
図3は、実施例2の結晶性物質の粉末X線回折パターンを示す図である。また、
図3の粉末X線回折パターンの各ピークの相対強度を表4に示す。表4の各ピークの相対強度は、表2に示す相対強度の範囲に含まれており、実施例2の結晶性物質は、表2に記載の粉末X線回折ピークを有していた。
【0033】
【0034】
<実施例3>
原料溶液に酢酸マグネシウムを添加した以外は、実施例1と同様にして結晶性物質の粉末を得た。
図4は、実施例3の結晶性物質の粉末X線回折パターンを示す図である。また、
図4の粉末X線回折パターンの各ピークの相対強度を表5に示す。表5の各ピークの相対強度は、表2に示す相対強度の範囲に含まれており、実施例3の結晶性物質は、表2に記載の粉末X線回折ピークを有していた。
【0035】
【0036】
次に、本結晶性物質の多結晶膜を有する膜複合体について説明する。
図5は、膜複合体1の断面図である。
図6は、膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に設けられた多結晶膜12とを備える。本実施の形態における多結晶膜とは、支持体11の表面に上記結晶性物質が多結晶の膜状に形成されたものである。
図5では、多結晶膜12を太線にて描いている。
図6では、多結晶膜12に平行斜線を付す。また、
図6では、多結晶膜12の厚さを実際よりも厚く描いている。
【0037】
支持体11はガスおよび液体を透過可能な多孔質部材である。
図5に示す例では、支持体11は、一体成形された一繋がりの柱状の本体に、長手方向(すなわち、
図5中の上下方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられたモノリス型支持体である。
図5に示す例では、支持体11は略円柱状である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。
図5では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。多結晶膜12は、貫通孔111の内側面上に形成され、貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆する。
【0038】
支持体11の長さ(すなわち、
図5中の上下方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。隣接する貫通孔111の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または多角柱状等であってもよい。支持体11の形状が管状または円筒状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0039】
支持体11の材料は、表面に多結晶膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々な物質(例えば、セラミックまたは金属)が採用可能である。本実施の形態では、支持体11はセラミック焼結体により形成される。支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、支持体11は、アルミナ、シリカおよびムライトのうち、少なくとも1種類を含む。
【0040】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0041】
支持体11の平均細孔径は、例えば0.01μm~70μmであり、好ましくは0.05μm~25μmである。多結晶膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11の表面および内部を含めた全体における細孔径の分布については、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。多結晶膜12が形成される表面近傍における支持体11の気孔率は、例えば25%~50%である。
【0042】
支持体11は、例えば、平均細孔径が異なる複数の層が厚さ方向に積層された多層構造を有する。多結晶膜12が形成される表面を含む表面層における平均細孔径および焼結粒径は、表面層以外の層における平均細孔径および焼結粒径よりも小さい。支持体11の表面層の平均細孔径は、例えば0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができる。多層構造を形成する複数の層の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0043】
多結晶膜12は、細孔を有する多孔膜である。多結晶膜12は、複数種類の物質が混合した混合物質から、分子篩作用を利用して特定の物質を分離する分離膜として利用可能である。多結晶膜12では、当該特定の物質に比べて他の物質が透過しにくい。換言すれば、多結晶膜12の当該他の物質の透過量は、上記特定の物質の透過量に比べて小さい。
【0044】
多結晶膜12の厚さは、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。多結晶膜12を厚くすると分離性能が向上する。多結晶膜12を薄くすると透過速度が増大する。多結晶膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0045】
本結晶性物質により構成される多結晶膜12の平均細孔径は、結晶性物質の粉末と同様に、例えば1nm以下である。多結晶膜12の平均細孔径は、好ましくは0.2nm以上かつ0.8nm以下であり、より好ましくは、0.3nm以上かつ0.5nm以下であり、さらに好ましくは、0.3nm以上かつ0.4nm以下である。多結晶膜12の平均細孔径は、多結晶膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径よりも小さい。
【0046】
20℃~400℃における多結晶膜12のCO2の透過量(パーミエンス)は、例えば100nmol/m2・s・Pa以上である。また、20℃~400℃における多結晶膜12のCO2の透過量/CH4漏れ量比(パーミエンス比)は、例えば100以上である。当該パーミエンスおよびパーミエンス比は、多結晶膜12の供給側と透過側とのCO2の分圧差が1.5MPaである場合のものである。
【0047】
図7は、膜複合体1の製造の流れを示す図である。膜複合体1が製造される際には、まず、多結晶膜12の製造に利用される種結晶が準備される(ステップS21)。種結晶は、例えば、
図1の上記ステップS11と同様に、水熱合成にてSAT型ゼオライトの粉末が生成され、当該ゼオライトの粉末から取得される。当該ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、当該粉末を粉砕等によって加工することにより種結晶が取得されてもよい。
【0048】
続いて、種結晶を分散させた溶液に多孔質の支持体11を浸漬し、種結晶を支持体11に付着させる(ステップS22)。あるいは、種結晶を分散させた溶液を、支持体11上の多結晶膜12を形成させたい部分に接触させることにより、種結晶を支持体11に付着させる。これにより、種結晶付着支持体が作製される。種結晶は、他の手法により支持体11に付着されてもよい。
【0049】
種結晶が付着された支持体11は、原料溶液に浸漬される。原料溶液は、上記ステップS11と同様に、アルミニウム源、リン源およびSDA等を溶媒に溶解させることにより作製される。そして、水熱合成により当該種結晶を核としてSAT型のゼオライトを成長させることにより、支持体11上にSAT型のゼオライト膜(ゼオライトの多結晶膜)が形成される(ステップS23)。水熱合成時の温度は、例えば120~200℃である。水熱合成時間は、例えば5~100時間である。このとき、上記原料溶液中のアルミニウム源とリン源との配合割合等を調整することにより、SAT型のゼオライト膜の組成を調整することができる。水熱合成が完了すると、支持体11およびゼオライト膜が純水で洗浄され、その後、乾燥される。
【0050】
続いて、上記ステップS12と同様に、支持体11およびゼオライト膜を酸化性ガス雰囲気下で加熱処理することにより、ゼオライト膜中のSDAが燃焼除去される(ステップS24)。これにより、ゼオライト膜内の微細孔が貫通する。好ましくは、SDAはおよそ完全に除去される。SDAの除去における加熱温度は、例えば350~700℃である。加熱時間は、例えば10~200時間である。
【0051】
その後、支持体11およびゼオライト膜が熱水に浸漬されて加熱される(ステップS25)。熱水の温度は、例えば100~300℃であり、好ましくは100~200℃である。加熱時間は、例えば10~100時間であり、好ましくは20~50時間である。熱水中での加熱が完了すると、支持体11および多結晶膜が純水で洗浄され、その後、例えば100℃にて乾燥される。これにより、支持体11と、多結晶膜12とを備える膜複合体1が得られる。多結晶膜12は、表2に記載の粉末X線回折ピークを有する結晶性物質により構成される。
【0052】
次に、
図8および
図9を参照しつつ、膜複合体1を利用した混合物質の分離について説明する。
図8は、分離装置2を示す図である。
図9は、分離装置2による混合物質の分離の流れを示す図である。
【0053】
分離装置2では、複数種類の流体(すなわち、ガスまたは液体)を含む混合物質を膜複合体1に供給し、混合物質中の透過性が高い物質を、膜複合体1を透過させることにより混合物質から分離させる。分離装置2における分離は、例えば、透過性が高い物質を混合物質から抽出する目的で行われてもよく、透過性が低い物質を濃縮する目的で行われてもよい。
【0054】
当該混合物質(すなわち、混合流体)は、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0055】
混合物質は、例えば、水素(H2)、ヘリウム(He)、窒素(N2)、酸素(O2)、水(H2O)、水蒸気(H2O)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物、アンモニア(NH3)、硫黄酸化物、硫化水素(H2S)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH3)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0056】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)等のNOX(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0057】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO2)、三酸化硫黄(SO3)等のSOX(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0058】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F-S-S-F,S=SF2)、二フッ化硫黄(SF2)、四フッ化硫黄(SF4)、六フッ化硫黄(SF6)または十フッ化二硫黄(S2F10)等である。
【0059】
C1~C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3~C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C3~C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1~C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、プロパン(C3H8)、プロピレン(C3H6)、ノルマルブタン(CH3(CH2)2CH3)、イソブタン(CH(CH3)3)、1-ブテン(CH2=CHCH2CH3)、2-ブテン(CH3CH=CHCH3)またはイソブテン(CH2=C(CH3)2)である。
【0060】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH2O2)、酢酸(C2H4O2)、シュウ酸(C2H2O4)、アクリル酸(C3H4O2)または安息香酸(C6H5COOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(C2H6O3S)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0061】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、イソプロパノール(2-プロパノール)(CH3CH(OH)CH3)、エチレングリコール(CH2(OH)CH2(OH))またはブタノール(C4H9OH)等である。
【0062】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CH3SH)、エチルメルカプタン(C2H5SH)または1-プロパンチオール(C3H7SH)等である。
【0063】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0064】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CH3)2O)、メチルエチルエーテル(C2H5OCH3)またはジエチルエーテル((C2H5)2O)等である。
【0065】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CH3)2CO)、メチルエチルケトン(C2H5COCH3)またはジエチルケトン((C2H5)2CO)等である。
【0066】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CH3CHO)、プロピオンアルデヒド(C2H5CHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(C3H7CHO)等である。
【0067】
以下の説明では、分離装置2により分離される混合物質は、複数種類のガスを含む混合ガスであるものとして説明する。
【0068】
分離装置2は、膜複合体1と、封止部21と、外筒22と、2つのシール部材23と、供給部26と、第1回収部27と、第2回収部28とを備える。膜複合体1、封止部21およびシール部材23は、外筒22内に収容される。供給部26、第1回収部27および第2回収部28は、外筒22の外部に配置されて外筒22に接続される。
【0069】
封止部21は、支持体11の長手方向(すなわち、
図8中の左右方向)の両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外側面を被覆して封止する部材である。封止部21は、支持体11の当該両端面からのガスの流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、封止部21には、支持体11の複数の貫通孔111と重なる複数の開口が設けられているため、支持体11の各貫通孔111の長手方向両端は、封止部21により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111へのガス等の流入および流出は可能である。
【0070】
外筒22は、略円筒状の筒状部材である。外筒22は、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。外筒22の長手方向は、膜複合体1の長手方向に略平行である。外筒22の長手方向の一方の端部(すなわち、
図8中の左側の端部)には供給ポート221が設けられ、他方の端部には第1排出ポート222が設けられる。外筒22の側面には、第2排出ポート223が設けられる。供給ポート221には、供給部26が接続される。第1排出ポート222には、第1回収部27が接続される。第2排出ポート223には、第2回収部28が接続される。外筒22の内部空間は、外筒22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0071】
2つのシール部材23は、膜複合体1の長手方向両端部近傍において、膜複合体1の外側面と外筒22の内側面との間に、全周に亘って配置される。各シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、膜複合体1の外側面および外筒22の内側面に全周に亘って密着する。
図8に示す例では、シール部材23は、封止部21の外側面に密着し、封止部21を介して膜複合体1の外側面に間接的に密着する。シール部材23と膜複合体1の外側面との間、および、シール部材23と外筒22の内側面との間は、シールされており、ガスの通過はほとんど、または、全く不能である。
【0072】
供給部26は、混合ガスを、供給ポート221を介して外筒22の内部空間に供給する。供給部26は、例えば、外筒22に向けて混合ガスを圧送するブロワーまたはポンプである。当該ブロワーまたはポンプは、外筒22に供給する混合ガスの圧力を調節する圧力調節部を備える。第1回収部27および第2回収部28は、例えば、外筒22から導出されたガスを貯留する貯留容器、または、当該ガスを移送するブロワーもしくはポンプである。
【0073】
混合ガスの分離が行われる際には、上述の分離装置2が用意されることにより、膜複合体1が準備される(ステップS31)。続いて、供給部26により、多結晶膜12に対する透過性が異なる複数種類のガスを含む混合ガスが、外筒22の内部空間に供給される。例えば、混合ガスの主成分は、CO2およびCH4である。混合ガスには、CO2およびCH4以外のガスが含まれていてもよい。供給部26から外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPa~20.0MPaである。混合ガスの分離が行われる温度は、例えば、10℃~150℃である。
【0074】
供給部26から外筒22に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、膜複合体1の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合ガス中の透過性が高いガス(例えば、CO2であり、以下、「高透過性物質」と呼ぶ。)は、各貫通孔111の内側面上に設けられた多結晶膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外側面から導出される。これにより、高透過性物質が、混合ガス中の透過性が低いガス(例えば、CH4であり、以下、「低透過性物質」と呼ぶ。)から分離される(ステップS32)。支持体11の外側面から導出されたガス(以下、「透過物質」と呼ぶ。)は、矢印253にて示すように、第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収される。第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収されるガスの圧力(すなわち、透過圧)は、例えば、約1気圧(0.101MPa)である。
【0075】
また、混合ガスのうち、多結晶膜12および支持体11を透過したガスを除くガス(以下、「不透過物質」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を図中の左側から右側へと通過し、矢印252にて示すように、第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収される。第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収されるガスの圧力は、例えば、導入圧と略同じ圧力である。不透過物質には、上述の低透過性物質以外に、多結晶膜12を透過しなかった高透過性物質が含まれていてもよい。
【0076】
上述の結晶性物質および膜複合体1では、様々な変更が可能である。
【0077】
表2に記載の粉末X線回折ピークを有する結晶性物質は、SAT型のゼオライト以外から生成されてもよい。
【0078】
膜複合体1は、支持体11および多結晶膜12に加えて、多結晶膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜、シリカ膜または炭素膜等の無機膜であってもよく、ポリイミド膜またはシリコーン膜等の有機膜であってもよい。また、多結晶膜12上に積層された機能膜や保護膜には、CO2等の特定の分子を吸着しやすい物質が添加されていてもよい。
【0079】
膜複合体1の膜として、本結晶性物質により構成される多結晶膜12以外に、有機膜等の膜中に本結晶性物質の粒子を分散させたものや、本結晶性物質の粒子と有機物や無機物等を混合し膜状に形成したものが用いられてもよい。このように、支持体11に設けられる膜は、本結晶性物質を含んでいればよい。
【0080】
膜複合体1を含む分離装置2では、上記説明にて例示した物質以外の物質が、混合物質から分離されてもよい。
【0081】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0082】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の結晶性物質は、膜複合体以外の様々な用途に利用可能である。膜複合体は、例えば、ガス分離膜として利用可能であり、さらには、ガス以外の分離膜や様々な物質の吸着膜等として様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 膜複合体
11 支持体
12 多結晶膜