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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】VDAC1由来ペプチドの類似体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/435 20060101AFI20220610BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220610BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220610BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220610BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220610BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220610BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
C07K14/435 ZNA
C07K19/00
A61K38/17
A61P35/00
A61P35/02
A61P1/16
A61P29/00
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2018512340
(86)(22)【出願日】2016-09-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 IL2016050958
(87)【国際公開番号】W WO2017037711
(87)【国際公開日】2017-03-09
【審査請求日】2019-07-12
(31)【優先権主張番号】62/213,667
(32)【優先日】2015-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517454022
【氏名又は名称】ビー.ジー. ネゲヴ テクノロジーズ アンド アプリケーションズ リミテッド、アット ベン-グリオン ユニヴァーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】518071419
【氏名又は名称】ザ ナショナル インスティチュート フォー バイオテクノロジー イン ザ ネゲヴ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ショーシャン-バルマツ,ヴァルダ
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/095347(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/011711(WO,A1)
【文献】特表2014-528700(JP,A)
【文献】特表2010-526099(JP,A)
【文献】Bio-Synthesis, "Retro Inverso Peptides", [online], 2014.04.30, [令和2年5月29日検索], インターネット, <URL: https://www.biosyn.com/tew/retro-inverso-peptides.aspx>
【文献】Cell Death and Disease, 2013, Vol.4, e809(pp.1-11)
【文献】LifeTein, "D Amino Acid and Retro-inverso Peptides", [online], 2015.08.23, [令和2年5月29日検索], インターネット, <URL: https://www.lifetein.com/Peptide-Synthesis-D-Amino-Acid.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含み、かつ完全インベルソ修飾型である、VDAC-1由来ペプチド類似体、および(ii)トランスフェリン受容体結合ドメイン(Tf)のレトロ類似体、を含む、合成ペプチド。
【請求項2】
前記トランスフェリン受容体結合ドメイン(Tf)のレトロ類似体がすべてL-立体異性体ペプチドおよびすべてD-立体異性体ペプチドから選択される、請求項1に記載の合成ペプチド。
【請求項3】
前記トランスフェリン受容体結合ドメイン(Tf)のレトロ類似体が配列番号8に記載のアミノ酸配列を有し、前記アミノ酸のすべてがL立体配置にある、請求項2に記載の合成ペプチド。
【請求項4】
前記トランスフェリン受容体結合ドメイン(Tf)のレトロ類似体が前記VDAC1由来ペプチドの類似体のN末端またはC末端に直接結合している、請求項1~3のいずれか1項に記載の合成ペプチド。
【請求項5】
前記トランスフェリン受容体結合ドメイン(Tf)のレトロ類似体が前記VDAC1由来ペプチドの類似体のN末端またはC末端にリンカー配列を介して結合している、請求項1~3のいずれか1項に記載の合成ペプチド。
【請求項6】
前記ペプチドが、おのおの前記VDAC1由来ペプチドの類似体のC末端またはN末端に独立して位置する配列番号11に記載のアミノ酸配列および配列番号12に記載のアミノ酸配列をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の合成ペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドが、おのおの前記VDAC1由来ペプチドの類似体のC末端またはN末端に独立して位置する配列番号12に記載のアミノ酸配列および配列番号13に記載のアミノ酸配列をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の合成ペプチド。
【請求項8】
配列番号12および配列番号13のいずれか1つに記載のアミノ酸がD-アミノ酸である、請求項7に記載の合成ペプチド。
【請求項9】
前記ペプチドが配列番号14に記載のアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の合成ペプチド。
【請求項10】
前記ペプチドが配列番号14に記載のアミノ酸配列からなる、請求項9に記載の合成ペプチド。
【請求項11】
少なくとも1つの請求項1~10のいずれか1項に記載の合成ペプチドを含む医薬組成物であって、薬学的に許容される担体、希釈剤、塩または賦形剤をさらに含む、医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物が少なくとも1つの配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する合成ペプチドを含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1つの合成ペプチドが配列番号14に記載のアミノ酸配列からなる、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
有害な細胞増殖を阻害する際に用いる、請求項11~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
異常なアポトーシスおよび/または細胞過剰増殖に関連する疾患の処置で用いる、請求項11~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記疾患が癌性疾患である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記癌性疾患が神経膠腫、肝癌、白血病、肺癌、前立腺癌、乳癌、膵癌および黒色腫からなる群から選択される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記神経膠腫が神経膠芽腫である、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記過剰増殖の細胞は、癌幹細胞である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項20】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および/またはNAFLDに伴う症状の予防および/または処置で用いるための、請求項11~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記NAFLDが非アルコール性脂肪肝および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)からなる群から選択される、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記NAFLDに伴う症状が脂肪滴の蓄積、炎症、線維化、肝細胞の細胞死、およびそのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、請求項20~21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然の親ペプチドと比較して薬物動態特性が改善されたVDAC1由来ペプチドの類似体を含むペプチドに関し、これらのペプチドは、細胞エネルギー産生の障害、アポトーシス細胞死、特に癌細胞の細胞死の誘導、癌幹細胞の除去、および非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に関連する肝細胞における脂肪肝、炎症および線維化に伴う症状の軽減に効果がある。
【背景技術】
【0002】
電位依存性陰イオンチャネル(VDAC;ミトコンドリアポリン)は、すべての真核細胞においてミトコンドリ外膜に見られる。VDACは、細胞エネルギー代謝の中心的な役割を担っており、かつミトコンドリア仲介アポトーシスにおいて重要な役割を果たし、ミトコンドリアとサイトゾルとの間のイオンフラックスおよび代謝物を制御する。VDACは、種々のリガンドおよびタンパク質とのその結合を介して仲介される、種々の細胞生存シグナルおよび細胞死シグナルの収束点も提供する。VDACはミトコンドリア仲介アポトーシス、特に、サイトゾルへのミトコンドリアアポトーシス促進タンパク質(例えば、シトクロムc、アポトーシス誘導因子(AIF)および第2のミトコンドリア由来カスパーゼ活性化因子(Smac/DIABLO))の放出において重要な役割を担っており、アポトーシス調節タンパク質、例えばBcl-2、Bcl-xlおよびヘキソキナーゼ(HK)と相互作用する。
【0003】
VDACの3種の哺乳動物アイソフォーム、VDAC1、VDAC2およびVDAC3が知られており、VDAC1は、哺乳動物細胞中で発現される主要なアイソフォームであり(De Pinto, V.,ら,2010.Biochim Biophys Acta 1797:1268-1275).Blachly-Dysionら(Blachly-Dyson Eら,1993.J Biol Chem.268(3):1835-41)、2種のヒトVDACアイソフォーム、VDAC1とVDAC2の酵母中でのクローニングおよび機能発現が開示された。米国特許第5,780,235号は、2つのVDAC配列を開示しており、それらはHACH(ヒト電圧依存性陰イオンチャネル)と命名され、その後VDAC2とVDAC3として特定された。同特許は、遺伝子改変発現ベクター、該ベクターを含有する宿主細胞、HACHを作成する方法、およびHACHの発現と活性を阻害する医薬組成物を特性する方法、ならびに癌および増殖性疾患の処置のためのそのような組成物の使用を提供する。
【0004】
プログラム細胞死としても知られているアポトーシスは、とりわけ多細胞生物の成長、免疫細胞調節および組織恒常性において中心的役割を果たしている。種々の種からの遺伝解析および分子解析により、アポトーシス経路が高度に保存されていることが明らかにされた。正常な成長と維持にとって不可欠であることに加えて、アポトーシスは、ウイルス感染に対する防御および癌の予防において重要である。ミトコンドリアは、アポトーシスの細胞死において重要な役割を果たしている。ミトコンドリア膜間腔から細胞の細胞質内へのシトクロムcなどのアポトーシス誘導タンパク質が放出されると、細胞死プログラムを実行するカスパーゼ活性化に関与するカスケードステップが開始される。実質的証拠は、VDAC1をアポトーシスと関連づけて、VDAC1が哺乳動物細胞内のミトコンドリアからのアポトーシス誘導タンパク質の放出において重要な役割を担っていることを示唆している(Lemasters,J.J.,およびHolmuhamedov, E.2006.Biochim. Biophys Acta 1762:181-190;Shoshan-Barmatz Vら,2010.Molecular Aspects of Medicine 31(3):227-286;Shoshan-Barmatz VおよびBen-Hail D.2012.Mitochondrion 12(1):24-34;Shoshan-Barmatz V およびGolan M. 2012.Current Medicinal Chemistry 19(5):714-35; Shoshan-Barmatz,Vら,2015.Biochim Biophys Acta,1848(10 Pt B):2547-75)。
【0005】
VDAC由来のペプチドはアポトーシスを誘導することができることがすでに示されている(Prezma Tら,2013.Cell Death and Disease 4:e809)。
【0006】
本発明の発明者およびその他への米国特許第8,119,601号および同第8,648,045号は、細胞においてアポトーシスを誘導することができるペプチド由来の単離VDAC1と、異常なアポトーシス、詳しくは癌に伴う疾患の処置において有用なVDAC1を含む医薬組成物とを開示する。ペプチドは、VDAC1のN末端ドメインならびにVDAC1βストランド14およびそのサイトゾルβループに由来する。
【0007】
本発明の発明者およびその他への国際特許出願公開第WO2015/011711号は、ヒトミトコンドリアタンパク質電位依存性陰イオンチャネル1(VDAC)のN末端ドメインのアミノ酸配列に基づいた短ペプチド、および細胞透過性が増強された部分をさらに含むペプチド結合体を開示する。ペプチド、ペプチド結合体、および同成分を含む医薬組成物は、細胞過剰増殖または細胞死、詳しくは癌に対する抵抗性によって特徴づけられる疾患の処置に役立つ。
【0008】
Prezmaら(Prezma Tら,2013.Cell Death Dis. 19(4):e809)は、短ペプチドを含むVDAC1に基づくペプチドが慢性Bリンパ性白血病(CLL)の患者由来の末梢単核細胞(PBMC)の細胞死を選択的に誘導したが、一方健常ドナー由来のPBMCに対しては小さな影響を示したことを明らかにした。
【0009】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、「無症状」であることが多い肝臓疾患であり、肝細胞および非アルコールユーザの他の肝細胞の細胞質内に脂肪酸とトリグリセリドが過度に異常に蓄積されることを特徴とする。NAFLDは、西洋社会において重要な公衆衛生上の懸念として現れ、異常肝機能で最も一般的な原因である。NAFLDは、良性脂肪肝から連続慢性脂肪肝疾患に及び、その進行形は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼ばれる。NASHにおいて、肝臓での脂肪蓄積は、炎症および様々な程度の瘢痕を伴う。NASHは、末期肝臓疾患、硬変症および肝細胞癌(HCC)に進行するかなりの危険性を有する潜在的に深刻な状態である。肝硬変を発症する一部の患者は、肝不全の危険性があり、最終的に肝移植を必要とすることもあり得る。
【0010】
非アルコール性脂肪性肝疾患は、単離脂肪肝(IFL)およびNASHとして分類される。IFLおよびNASHの両方において、肝細胞中に異常量の脂肪が存在するが、NASHでは、加えて肝臓内に炎症があり、結果として、肝細胞は損傷を受ける。細胞が死滅すると、肝細胞は瘢痕組織によって交換され、肝変症の原因となる。
【0011】
NAFLDの原因は複雑であり、完全に理解されていない。そこで、NAFLDは、全般的に、代謝症候群(MS)の肝臓の症状として考えられ、インスリン抵抗性はその主要な病態生理学的特徴とみなされる。NAFLDと代謝症候群ならびに世界的な肥満のまん延との強い関連性を考えると、NAFLDおよびNASHの有病率は増えている。NAFLDは、一般集団よりも代謝病態の既往歴のある患者のコホートにおいてまん延している。
具体的には、2型糖尿病およびNAFLDには、とりわけ緊密な関係がある。2型糖尿病患者の試験では、超音波検査NAFLDの69%の有病率が報告された。しかし、糖尿病性変性合併症または血糖コントロールと、NAFLDの存在の間の関係性は明白でなかった。肥満者における単純性脂肪肝の有病率は30%から37%の範囲であるが、一方NAFLDにおいて診療所に通う太り過ぎの外来患者の57%から、非糖尿病肥満患者の98%の範囲である。
【0012】
NAFLDまたはNASHを防止または処置するための薬物は現在、承認されたものはなく、したがって現在の療法は、生活習慣の改善、およびNAFLDに伴う疾患の処置に依存する。この疾患を有する人に与えられる最も重要な忠告としては、体重を減らすこと(肥満または太り過ぎの場合)、バランスのよい健康的な食事を続けること、身体活動を増やし、アルコールや不必要な薬剤を避けること、場合によっては肥満手術が挙げられるが、主な目標は、診断後に疾患症状を軽減させることである。
【0013】
ミトコンドリアは、エネルギー産出、脂質代謝、活性酸素種(ROS)の産生と解毒、およびアポトーシス促進タンパク質の放出のレベルで細胞運命に影響し得る。さまざまな試験は、ミトコンドリアが脂肪肝の病変形成においてこれらの細胞小器官の形態上の主要な役割を内部に持つことを明らかにした。
【0014】
ペプチドのin vivoでの治療用途に対する大きな障害は、タンパク質分解に対するそれらの感受性である。レトロ-インベルソペプチドは、そのアミノ酸配列が逆転し、アミノ酸サブユニットのαセンターのキラリティーも反転している。通常、この種のペプチドは、側鎖形態を元のLアミノ酸ペプチドのそれと同様に維持することに役立つため、タンパク質分解に対してペプチドの抵抗性を高めるために、逆配列にD-アミノ酸を組み入れることによって設計される。科学文献でこれらのペプチドの他の報告されている同義語としては、全-D-レトロ-ペプチド、レトロ-エナンチオ-ペプチド、レトロ-インベルソアナログ、レトロ-インベルソ類似体、レトロ-インベルソ誘導体、レトロ-インベルソペプチドおよびレトロ-インベルソ異性体が挙げられる。D-アミノ酸は、生物系に存在する天然タンパク質に生じる天然のL-アミノ酸の立体構造の鏡像を表す。ペプチド結合の一部だけが逆転し、逆転した部分のアミノ酸残基のキラリティーが反転する、直鎖状ペプチドの部分的修飾型レトロ-インベルソ類似体もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
D-アミノ酸を含有するペプチドは、医薬品として使用される場合、一般的にタンパク質分解に影響を受けにくく、有効時間が長い。適切に設計されている場合、レトロ-インベルソペプチドはL-ペプチドと類似している結合特性を有することができる。レトロ-インベルソペプチドは、ペプチドエピトープ、タンパク質-タンパク質界面またはタンパク質-ペプチド界面の形状を模倣するペプチド模倣薬を設計することによるタンパク質-タンパク相互作用の研究の有用な候補である。レトロ-インベルソペプチドは、医薬品として使用されるL-ペプチドの魅力的な代替物である。これらのペプチドは、L-ペプチドと比較して低い免疫原性応答を誘導することが報告されている。しかし、レトロ-インベルソ類似体が代謝安定性の上昇を示すとはいえ、その生物活性は大きく損なわれることが多い(Guichard Gら,1994.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,91:9765-9769)。
【0016】
満たされていない要求が存在し、薬物動態特性の改善を示し、一方でその生物活性を少なくとも維持するVDAC1系ペプチドを有することは非常に有利である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、優れた薬物動態特性を有するVDAC1系ペプチドの類似体を提供することによって上述の要求に答える。本発明は、VDAC1由来ペプチドの類似体、特にレトロ類似体および部分的または完全インベルソ類似体を含む合成ペプチドを提供し、本発明の類似体のための基盤を形成する該VDAC1由来ペプチドは、癌細胞内でアポトーシスを誘導することが示された。本発明の類似体は、これまで開示された天然ペプチドと比較して、天然タンパク質の活性を少なくとも維持しながら、薬学的に適合する溶媒において溶解度を向上させ、かつ安定性を向上させ、全体として、細胞過剰増殖によって、または細胞死に対する抵抗性によって特徴づけられる疾患の処置のため、特に癌を処置するための治療薬として良好な候補になることがわかった。予想外に、VDAC1由来ペプチドの類似体は血液脳関門(BBB)を通過することを示した。本発明の合成ペプチドは、癌幹細胞を除去することによって癌を処置することにも効果的である。予想外に、本発明のペプチドは、非アルコール性脂肪肝および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の症状を抑えることにも効果的である。本発明は、ペプチドがVDAC1由来ペプチドのレトロ-インベルソ類似体βストランド14と、トリプトファンジッパーと隣接しているそのサイトゾルβループとから構成され、その天然型内に同じ成分を含む対応するペプチドと比較して、トランスフェリン受容体結合ドメインのレトロ類似体が生理溶液を含む水溶液中の溶解度を増加させ、安定性を増加させ、細胞死誘導活性を増加させたという予想外の発見に一部基づいている。レトロ-インベルソ類似体は癌細胞の死を誘導することに高い効果があり、BBBを通過できることがわかった。さらに、レトロ-インベルソ類似体が、脂肪肝に伴う症状を軽減することに極めて有効であることがわかった。
【0018】
一態様によれば、本発明は、VDAC1由来ペプチドの類似体を含む合成ペプチドを提供し、該VDAC1由来ペプチドは癌細胞内でアポトーシスを誘導することができ、かつ5~26の連続するアミノ酸からなり、該類似体は前記VDAC1由来ペプチドに関してレトロ修飾型および部分的または完全インベルソ修飾型である。
【0019】
本明細書で用いる場合、「レトロ修飾型」という用語は、レトロ-修飾されるペプチドに対して反対方向でアミノ酸残基が構築されているL-アミノ酸で構成されているペプチド類似体を指す。
【0020】
本明細書で用いる場合、「インベルソ修飾型」という用語は、インベルソ修飾されるペプチドに対して同じ方向でアミノ酸残基が構築されているD-アミノ酸で構成されているペプチド類似体を指す。部分的インベルソ修飾型類似体とは、少なくとも1つのD-アミノ酸を含むペプチドを指す。完全インベルソ修飾型類似体とは、D-アミノ酸で構成されているペプチドを指す。
【0021】
特定の実施形態によれば、類似体は部分的インベルソ修飾型である。
【0022】
特定の例示的な実施形態によれば、類似体は完全インベルソ修飾型である。
【0023】
特定の実施形態によれば、癌細胞内でアポトーシスを誘導することができるVDAC1由来ペプチドは、LP4と名付けられ、配列番号1(KKLETAVNLAWTAGNSN)に記載のアミノ酸配列からなる。これらの実施形態によれば、レトロ類似体のアミノ酸配列は、配列番号2(NSNGATWALNVATELKK)に記載されている。
【0024】
本明細書で用いる場合、「レトロ-インベルソ」類似体という用語は、レトロ-インベルソ修飾されるペプチドに対して反対方向でアミノ酸残基が構築されているD-アミノ酸で構成されているペプチド類似体を指す。
【0025】
特定の例示的な実施形態によれば、配列番号2に記載のレトロ類似体のすべてのアミノ酸は、配列D-Asn-D-Ser-D-Asn-D-Gly-D-Ala-D-Thr-D-Trp-D-Ala-D-Leu-D-Asn-D-Val-D-Ala-D-Thr-D-Glu-D-Leu-D-Lys-D-Lys(配列番号3)を有する配列番号1のレトロ-インベルソ修飾型類似体を形成するD立体配置にある。
【0026】
特定の実施形態によれば、癌細胞内でアポトーシスを誘導することができるVDAC1由来ペプチドは、配列番号4(MAVPPTYADLGKSARDVFTKGYGFGL)に記載のアミノ酸配列からなり、天然VDAC1のN末端でのアミノ酸1~26に対応する。これらの実施形態によれば、レトロ類似体のアミノ酸配列は、配列番号5(LGFGYGKTFVDRASKGLDAYTPPVAM)に記載されている。
【0027】
特定の例示的な実施形態によれば、配列番号5に記載のレトロ類似体のすべてのアミノ酸は、配列D-Leu-D-Gly-D-Phe-D-Gly-D-Tyr-D-Gly-D-Lys-D-Thr-D-Phe-D-Val-D-Asp-D-Arg-D-Ala-D-Ser-D-Lys-D-Gly-D-Leu-D-Asp-D-Ala-D-Tyr-D-Thr-D-Pro-D-Pro-D-Val-D-Ala-D-Met(配列番号6)を有する配列番号4のレトロ-インベルソ修飾型類似体を形成するD立体配置にある。
【0028】
特定の実施形態によれば、合成ペプチドは細胞認識部分および/または局在化部分をさらに含む。局在化部分は、一般的に細胞膜を通る合成ペプチドの透過性を増強する。当技術分野で周知のように、いずれの認識部分および/または局在化部分は、本発明の教示によって用いることができ、直接結合を介してまたはスペーサーもしくはリンカーを介してVDAC1由来ペプチドの類似体の任意の位置に結合させることができる。特定の例示的な実施形態によれば、細胞認識部分および/または局在化成分は、ペプチドである。一部の実施形態によれば、局在化部分は、細胞内の局在化ペプチドであり、細胞透過性ペプチド(CPP)とも呼ばれる。
【0029】
一部の実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、すべてL-立体異性体ペプチドである。別の実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、すべてD-立体異性体ペプチドである。
【0030】
一部の実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、トランスフェリン受容体結合ドメイン(Tf)またはそのフラグメントを含む。特定の例示的な実施形態によれば、トランスフェリン受容体結合ドメインは、配列番号7(HAIYPRH)に記載のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態によれば、Tfペプチドは、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなる。特定の例示的な実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号8(HRPYIAH)に記載のアミノ酸配列を有する、配列番号7のレトロ修飾型類似体である。さらなる例示的な実施形態によれば、配列番号7および配列番号8のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むトランスフェリン受容体結合ドメインは、すべてL-立体異性体ペプチドである。
【0031】
別の実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、部分的または完全インベルソ修飾型である。一部の実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号7の完全インベルソ類似体である。特定の例示的な実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号8の完全インベルソ修飾型類似体である。
【0032】
さらなる特定の実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、ショウジョウバエ・アンテナペディア(Drosophila antennapedia)(Antp)ドメインまたはそのフラグメントを含むアミノ酸配列である。一部の実施形態によれば、Antpドメインは、配列番号9(RQIKIWFQNRRMKWKK)に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む。別の実施形態によれば、Antpドメインは、配列番号9からなる。
【0033】
別の実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号9の部分的インベルソ修飾型類似体またはその一部である。さらなる実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号9の完全インベルソ修飾型類似体またはその一部である。さらなる実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号9のレトロ修飾型類似体であり、配列番号10(KKWKMRRNQFWIKIQR)に記載のアミノ酸配列またはその一部を有する。さらなる実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号10のインベルソ類似体である。
【0034】
一部の実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、VDAC1由来ペプチドの類似体のN末端に直接、または間接的に結合している。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表わす。
【0035】
特定の例示的な実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、VDAC1由来ペプチドの類似体のC末端に直接、または間接的に結合している。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表わす。
【0036】
大部分の低分子ペプチドは溶液中で柔軟であり、同じ配列が天然タンパク質で取り入れている構造を取り入れていない。VDAC1トポロジーモデルによれば、VDAC1由来ペプチドの一部はβループの形で存在する。したがって、特定の実施形態によれば、本発明の合成ペプチドは、VDAC1由来ペプチドの類似体のC末端またはN末端でそれぞれ互いに独立して位置する「トリプトファン(Trp)ジッパーペプチド」とともに、アミノ酸配列SWTWE(配列番号11)およびKWTWK(配列番号12)を含む。一部の実施形態によれば、Trpジッパーペプチドは、配列番号11のレトロ類似体を含み、前記レトロ類似体は配列番号13(EWTWS)に記載のアミノ酸配列を有する。さらなる実施形態によれば、Trpジッパーペプチドは、配列番号11~13のいずれか1項の部分的または完全インベルソペプチドを含む。Trpジッパーペプチド配列は、トリプトファン-トリプトファン交差鎖対による安定したβ-ヘアピンの形成を誘導することができる。
【0037】
特定の例示的な実施形態によれば、本発明の合成ペプチドは、アポトーシスを誘導することができ、かつ5~26の連続するアミノ酸からなるVDAC1由来ペプチドの類似体を含み、該類似体はVDAC1由来ペプチドに関してレトロ修飾型および部分的または完全インベルソ修飾型であり、前記誘導体はそのN末端とC末端にTrpジッパーアミノ酸と隣接している。
【0038】
特定の例示的な実施形態によれば、本発明は、そのN末端に配列番号12に記載のアミノ酸配列と、そのC末端に配列番号13に記載のアミノ酸配列とを有するTrpジッパーと隣接している配列番号1のレトロ-インベルソ類似体を含み、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有する、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドのレトロ類似体をさらに含む、合成ペプチドを提供する。特定の現在好ましい例示的な実施形態によれば、合成ペプチドは、配列番号14(D-Lys-D-Trp-D-Thr-D-Trp-D-Lys-D-Asn-D-Ser-D-Asn-D-Gly-D-Ala-D-Thr-D-Trp-D-Ala-D-Leu-D-Asn-D-Val-D-Ala-D-Thr-D-Glu-D-Leu-D-Lys-D-Lys-D-Glu-D-Trp-D-Thr-D-Trp-D-ser-His-Arg-Pro-Tyr-Ile-Ala-His)に記載のアミノ酸配列を含む。
【0039】
一部の実施形態によれば、ペプチドは、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなる。
【0040】
さらなる実施形態によれば、本発明は、そのN末端に配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドのレトロ類似体に隣接している配列番号4のレトロ-インベルソ類似体を含む。特定の実施形態によれば、合成ペプチドは、配列番号15(Lys-Lys-Trp-Lys-Met-Arg-Arg-Asn-Gln-Phe-Trp-Ile-Lys-Ile-Gln-Arg-D-Leu-D-Gly-D-Phe-D-Gly-D-Tyr-D-Gly-D-Lys-D-Thr-D-Phe-D-Val-D-Asp-D-Arg-D-Ala-D-Ser-D-Lys-D-Gly-D-Leu-D-Asp-D-Ala-D-Tyr-D-Thr-D-Pro-D-Pro-D-Val-D-Ala-D-Met)に記載のアミノ酸配列含む。
【0041】
一部の実施形態によれば、本発明は、そのN末端に配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドに隣接している配列番号4のレトロ-インベルソ類似体を含む合成ペプチドを提供する。これらの実施形態によれば、合成ペプチドは、配列番号16(Arg-Gln-Ile-Lys-Ile-Trp-Phe-Gln-Asn-Arg-Arg-Met-Lys-Trp-Lys-Lys-D-Leu-D-Gly-D-Phe-D-Gly-D-Tyr-D-Gly-D-Lys-D-Thr-D-Phe-D-Val-D-Asp-D-Arg-D-Ala-D-Ser-D-Lys-D-Gly-D-Leu-D-Asp-D-Ala-D-Tyr-D-Thr-D-Pro-D-Pro-D-Val-D-Ala-D-Met)に記載のアミノ酸配列を含む。
【0042】
さらなる態様によれば、本発明は、本発明による少なくとも1種の合成ペプチドと、VDAC1由来ペプチドの類似体を含むペプチドと、任意選択で薬学的に許容される担体、希釈剤、塩または賦形剤とを含む医薬組成物を提供し、該VDAC1由来ペプチドは癌細胞内でアポトーシスを誘導することができ、かつ5~26の連続するアミノ酸からなり、該類似体は前記VDAC1由来ペプチドに関してレトロ修飾型および部分的または完全インベルソ修飾型である。
【0043】
特定の例示的な実施形態によれば、医薬組成物は、配列番号14、配列番号15および配列番号16からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1種の合成ペプチドを含む。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表わす。
【0044】
特定の例示的な実施形態によれば、医薬組成物は、配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する合成ペプチドを含む。
【0045】
別の例示的な実施形態によれば、医薬組成物は、配列番号14、配列番号15および配列番号16からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる少なくとも1つの合成ペプチドを含む。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表わす。
【0046】
特定の例示的な実施形態によれば、医薬組成物は、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなる合成ペプチドを含む。
【0047】
特定の実施形態によれば、VDAC1由来ペプチドの類似体を含む合成ペプチドを含む医薬組成物は、本発明に従って少なくとも1種のシールド粒子をさらに含む。特定の実施形態において、シールド粒子は、ポリエチレングリコール(PEG)および/または脂質および/またはポリ-D,L-乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)からなる。
【0048】
さらなる実施形態によれば、医薬組成物は、本発明によるVDAC1由来ペプチドの類似体を含むカプセル化合成ペプチドを含む。特定の実施形態において、合成ペプチドはベシクルまたは免疫リポソームにカプセル化される。
【0049】
本発明の合成ペプチドおよびそれを含む医薬組成物は、アポトーシスおよび/または細胞死の誘導に効果的である。さらに、本明細書の以下に例示するように、本発明の合成ペプチドは、対応する健康な細胞を含む正常な代謝活性を有する細胞と比較して、高い代謝活性を示す細胞、例えば癌細胞の死を誘導する際により効果的である。
【0050】
さらなる態様によれば、本明細書に記載の本発明の合成ペプチドおよびそれを含む医薬組成物は、有害な細胞増殖を阻害する際に使用される。特定の実施形態によれば、医薬組成物は、異常なアポトーシスおよび/または細胞過剰増殖に関連した疾患の処置で使用される。
【0051】
さらなる態様によれば、本発明は、発明の合成ペプチドまたはそれを含む医薬組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、有害な細胞増殖を阻害するための方法を提供する。
【0052】
さらなる態様によれば、本発明は、異常なアポトーシスおよび/または細胞過剰増殖に関連する疾患を患っている対象を処置するための方法を提供し、該方法は本発明の合成ペプチドまたはそれを含む医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。
【0053】
特定の実施形態によれば、異常なアポトーシスおよび/または細胞過剰増殖に関連した疾患は、癌である。特定の例示的な実施形態によれば、癌は、慢性リンパ性白血病(CLL)を含む白血病、肝癌、神経膠芽腫を含む神経膠腫、肺癌、前立腺癌、膵癌および黒色腫からなる群から選択される。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表わす。
【0054】
特定の実施形態によれば、癌は白血病である。別の実施形態によれば、癌はCLLである。さらなる実施形態によれば、癌は神経膠芽細胞腫である。別の実施形態によれば、癌は肝癌である。
【0055】
予想外に、本発明の合成ペプチドが、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、特に非アルコール性脂肪肝および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防、および処置に効果的であることもわかった。
【0056】
さらなる態様によれば、本発明は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および/またはNAFLDに伴う症状を予防および/または処置する方法を提供し、該方法はそれを必要とする対象に本発明の合成ペプチドまたはそれを含む医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。
【0057】
さらなる態様によれば、本明細書に記載の本発明の合成ペプチドおよびそれを含む医薬組成物は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および/またはNAFLDに伴う症状の処置で用いる。
【0058】
特定の実施形態によれば、NAFLDは非アルコール性脂肪肝および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)からなる群から選択される。一部の実施形態によれば、NAFLDに伴う症状は、脂肪滴の蓄積、炎症、線維化、肝細胞死およびそのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。
【0059】
本明細書に開示される態様および実施形態の各々のいずれの組み合わせも本発明の開示の範囲内に明確に包含されることを理解すべきである。本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の説明と図面から明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】レトロ-Tf-D-LP4ペプチドと比較してVDAC-1由来ペプチドLP4を含む合成ペプチド(Tf-D-LP4と名付けた)による白血病細胞死の誘導を示す。使用した細胞株は、急性単球性白血病(AML)患者由来のヒト単球細胞株のTHP1であった。
図2】VDAC-1由来ペプチドLP4を含む合成ペプチド(Tf-D-LP4と名付けた)による肝癌細胞死の誘導をレトロ-Tf-D-LP4ペプチドと比較して示す。使用した細胞株は、メチルコラントレン・エポキシドを用いた形質転換によるBNL CL.2由来のBNL1MEであった。
図3A】レトロ-Tf-D-LP4による膵癌細胞死の誘導を表す。図3Aは、56歳白人男性の膵管由来の膵癌から樹立されたヒトPANC-1細胞、およびマウス(C57BL/6)膵管癌から樹立されたマウスPANC-2細胞に対するレトロ-Tf-D-LP4の効果を示す。
図3B】レトロ-Tf-D-LP4による膵癌細胞死の誘導を表す。図3Bは、無処置PANC-2細胞(対照)、5%DMSOとともにインキュベートしたPANC-2、および、2μMのレトロ-Tf-D-LP4とともにインキュベートしたPANC-2細胞のアクリジンオレンジ、エチジウムプロマイド染色を示す。
図4】マウス由来のB16F10.0黒色腫癌細胞上でレトロ-Tf-D-LP4ペプチドによって誘導された細胞死を示す。
図5】VDAC-1由来ペプチドLP4(Tf-D-LP4と名付けた)を含む合成ペプチドによって誘導された神経膠腫癌細胞株U-87MGの細胞死のパーセンテージをレトロ-Tf-D-LP4と比較して示す。使用した細胞株は、マウス神経膠腫細胞株のGL-261であった。
図6】VDAC-1由来のペプチドLP4を含む合成ペプチド(Tf-D-LP4;(○));VDAC-1N末端配列の一部を含む合成ペプチド(D-ΔN-Ter-Antp;(●))およびレトロ-Tf-D-LP4;(Δ)によって誘導された神経膠芽腫由来U-87MG細胞株の細胞死のパーセンテージを示す。
図7A】非癌性細胞と比較してレトロ-Tf-D-LP4のヒト神経膠芽腫癌細胞に対する、および癌幹細胞と比較して癌細胞に対する差異効果を示す。図7Aは、レトロ-Tf-D-LP4のヒト神経膠芽腫癌細胞(U-87MG;(○))に対する、および非癌性MDCK細胞(●)に対する差異効果を示す。
図7B】非癌性細胞と比較してレトロ-Tf-D-LP4のヒト神経膠芽腫癌細胞に対する、および癌幹細胞と比較して癌細胞に対する差異効果を示す。図7Bは、U-87MGおよびG7幹細胞の細胞株におけるKlf4、Sox2、MusashiとNestinの幹細胞マーカーの発現について、特定の抗体を用いる免疫ブロット分析を示す。
図7C】非癌性細胞と比較してレトロ-Tf-D-LP4のヒト神経膠芽腫癌細胞に対する、および癌幹細胞と比較して癌細胞に対する差異効果を示す。図7Cは、免疫ブロットの定量分析を示す。
図7D】非癌性細胞と比較してレトロ-Tf-D-LP4のヒト神経膠芽腫癌細胞に対する、および癌幹細胞と比較して癌細胞に対する差異効果を示す。図7Dは、PI染色およびフローサイトメトリーを用いて、レトロ-Tf-D-LP4がG7幹細胞(●)の細胞死と、U-87MG細胞(○)の細胞死を効果的に誘導することを示す。
図7E】非癌性細胞と比較してレトロ-Tf-D-LP4のヒト神経膠芽腫癌細胞に対する、および癌幹細胞と比較して癌細胞に対する差異効果を示す。図7Eは、FITC-Annexin V/Pl染色およびFACS分析を用いて、レトロ-Tf-D-LP4のアポトーシスに対する効果を示す。
図8A】レトロ-Tf-D-LP4の安定性を示す。ペプチドTf-D-LP4とレトロ-Tf-D-LP4(5%DMSO中0.5mM)を-20℃、4℃または25℃で表示時間の間、インキュベートした。次いで、PI染色およびFACS分析を用いて、ペプチド(10μM)を、A549の細胞死を誘導するその能力をアッセイした。無処置細胞において、細胞死は3%であったが、一方ペプチドでは細胞死は90%を超えた(n=2)。Tf-D-LP54は、-20℃で保管された場合のみ、その全活性を維持したが、4℃または25℃で保管された場合、その活性を75%維持した(図8A)。一方レトロ-Tf-D-LP4は、4℃および室温を含むすべての試験温度でその全活性を維持した(図8B)。
図8B】レトロ-Tf-D-LP4の安定性を示す。ペプチドTf-D-LP4とレトロ-Tf-D-LP4(5%DMSO中0.5mM)を-20℃、4℃または25℃で表示時間の間、インキュベートした。次いで、PI染色およびFACS分析を用いて、ペプチド(10μM)を、A549の細胞死を誘導するその能力をアッセイした。無処置細胞において、細胞死は3%であったが、一方ペプチドでは細胞死は90%を超えた(n=2)。Tf-D-LP54は、-20℃で保管された場合のみ、その全活性を維持したが、4℃または25℃で保管された場合、その活性を75%維持した(図8A)。一方レトロ-Tf-D-LP4は、4℃および室温を含むすべての試験温度でその全活性を維持した(図8B)。
図9】Tf-D-LP4と比較して、レトロ-Tf-D-LP4の高溶解度を示す。ペプチドを100%DMSOに溶解し、次いで約10倍希釈して、DMSOを10~11%まで、ペプチドを4.4または4mMまで減少させた。不溶性ペプチドを除去するための遠心分離に続いて、上清(SUP)中の可溶性ペプチドの量を分析した。Tf-D-LP4と比較してレトロ-Tf-D-LP4の高溶解度が示される。
図10A】遊離レトロ-Tf-D-LP4およびPLGAカプセル化レトロ-Tf-D-LP4による神経膠芽腫細胞株U-87MGの細胞死誘導を示す。図10Aは、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)とその分解産物の構造を示す。図10Bは、PLGAカプセル化レトロ-Tf-D-LP4(ペレット)による細胞死誘導によって明らかになり、上清(sup)には現れなかったように、ペプチドがPLGAナノ粒子にカプセル化されたことを示す。細胞死をPI染色およびFACS分析によって分析した。
図10B】遊離レトロ-Tf-D-LP4およびPLGAカプセル化レトロ-Tf-D-LP4による神経膠芽腫細胞株U-87MGの細胞死誘導を示す。図10Aは、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)とその分解産物の構造を示す。図10Bは、PLGAカプセル化レトロ-Tf-D-LP4(ペレット)による細胞死誘導によって明らかになり、上清(sup)には現れなかったように、ペプチドがPLGAナノ粒子にカプセル化されたことを示す。細胞死をPI染色およびFACS分析によって分析した。
図11A】レトロ-Tf-D-LP4の腫瘍増殖に対するin vivo効果を示す。図11Aは、U-87MG細胞の移植から32日後のマウスの脳のMRI画像を示す。
図11B】レトロ-Tf-D-LP4の腫瘍増殖に対するin vivo効果を示す。図11Bは、細胞移植から25日後(濃い灰色のカラム)および32日後(薄い灰色のカラム)の算出した腫瘍体積を示す。結果=平均値±標準誤差(n=6)(p:<0.05,***p:<0.001)。
図11C図11Cは、PBS/DMSO処置マウスと、レトロ-Tf-D-LP4処置マウスとの間の生存曲線において統計的な有意差を示すKaplan-Meier生存曲線である。対照マウス(点線)、PLGAナノ粒子にカプセル化されたレトロ-Tf-D-LP4ペプチド(10mg/kg)(黒色線)、またはレトロ-Tf-D-LP4ペプチド(10mg/kg、破線)のKaplan-Meier累積生存曲線。
図12A】DENによるマウス処置によって誘導された肝臓内の腫瘍(DEN-誘導肝癌)の成長をレトロ-Tf-D-LP4ペプチドによって阻害することを示す。図12Aは、実験プロトコルの略図を示す。
図12B図12B~Cは、対照(図12B)およびレトロ-Tf-D-LP4ペプチド処置マウス(図12C)のMRI画像を示す。
図12C】DENによるマウス処置によって誘導された肝臓内の腫瘍(DEN-誘導肝癌)の成長をレトロ-Tf-D-LP4ペプチドによって阻害することを示す。図12B~Cは、対照(図12B)およびレトロ-Tf-D-LP4ペプチド処置マウス(図12C)のMRI画像を示す。
図12D】DENによるマウス処置によって誘導された肝臓内の腫瘍(DEN-誘導肝癌)の成長をレトロ-Tf-D-LP4ペプチドによって阻害することを示す。図12Dは、対照(無処置)のDEN-処置マウスから、およびレトロ-Tf-D-LP4ペプチド処置群からの肝臓の写真を示す。
図12E】DENによるマウス処置によって誘導された肝臓内の腫瘍(DEN-誘導肝癌)の成長をレトロ-Tf-D-LP4ペプチドによって阻害することを示す。図12Eは、対照およびレトロ-Tf-D-LP4ペプチド処置群の肝臓重量を示す。結果=平均値±標準誤差(n=5)(p:≦0.001)。
図13A】レトロ-Tf-D-LP4仲介による脂肪肝症状のin vivo阻害を示す。図13A:高脂肪食(HFD)によって誘導された脂肪肝発症、およびレトロ-Tf-D-LP4ペプチド処置開始の過程の略図。
図13B】レトロ-Tf-D-LP4仲介による脂肪肝症状のin vivo阻害を示す。図13B:9週目の終わりに犠牲にしたマウスから摘出した肝臓の写真。
図13C】レトロ-Tf-D-LP4仲介による脂肪肝症状のin vivo阻害を示す。図13C図13Bに示した肝臓の重量(ND:固形飼料(通常))。結果=平均値±標準誤差(n=5)(p:<0.05、**≦0.005)。
図14】固形飼料(ND)を与えられたマウス、HFP-32試料を与えられたマウス、およびHFD-32を与えられ、次いでレトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置されたマウスの血糖値を示す。結果=平均値±標準誤差(n=5)、(p:**<0.003)。
図15A】固形飼料(ND)を与えられたマウス、HFDを与えられ、次いでHPSS緩衝液中0.9%DMSOの静注で処置されたマウス、またはHFDを与えられ、次いでレトロ-Tf-D-LP4(10mg/kg、0.9%DMSO)の静注で処置されたマウスから摘出された肝切片を示す。代表的なH&E染色(図15A)およびオイルレッド染色(図15B)。HFD-で発症した脂肪肝は、レトロ-Tf-D-LP4処置後に防がれた。
図15B】固形飼料(ND)を与えられたマウス、HFDを与えられ、次いでHPSS緩衝液中0.9%DMSOの静注で処置されたマウス、またはHFDを与えられ、次いでレトロ-Tf-D-LP4(10mg/kg、0.9%DMSO)の静注で処置されたマウスから摘出された肝切片を示す。代表的なH&E染色(図15A)およびオイルレッド染色(図15B)。HFD-で発症した脂肪肝は、レトロ-Tf-D-LP4処置後に防がれた。
図16A】レトロ-Tf-D-LP4静注処置の脂肪肝阻止への明白な効果を示す。図16A:膨化を示す代表的なH&E染色。
図16B】レトロ-Tf-D-LP4静注処置の脂肪肝阻止への明白な効果を示す。図16B:炎症(矢印)を示す代表的なH&E染色。
図16C】レトロ-Tf-D-LP4静注処置の脂肪肝阻止への明白な効果を示す。図16C:線維化(矢印)についてのシリウスレッド染色。HFD-32を与えられたマウスにおいてすべて現れているが、HFD-32を与えられ、次いでTf-D-LP4(10mg/kg)で処置されたマウスにおいて、または固形飼料(ND)を与えられたマウスにおいては現れていない。
図17A】レトロ-Tf-D-LP4仲介によるNASH肝症状のin vivo阻害を示す。図17A:HFD-32食によって誘導された脂肪肝後のNASH発症およびペプチド処置の開始点の略図。
図17B】レトロ-Tf-D-LP4仲介によるNASH肝症状のin vivo阻害を示す。図17B:12週目の終わりに犠牲にしたマウスから摘出した肝臓の写真。
図17C】レトロ-Tf-D-LP4仲介によるNASH肝症状のin vivo阻害を示す。図17C図17Bに示した肝臓の重量(p:≦0.05、**≦0.01)。
図17D】レトロ-Tf-D-LP4仲介によるNASH肝症状のin vivo阻害を示す。図17D:HFD-32を与えられたマウスから、およびHFD-32を与えられ、次いでレトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置されたマウス(n=5)から摘出された精巣上体脂肪(精巣上体)、腸間膜脂肪(腸間膜)の体脂肪重量。
図18A】固形飼料(ND)を与えられたマウス(図18A)およびNASHに罹患し脂肪肝を示すマウス(図18B)からの肝切片と、HFDを与えられ、HBSS緩衝液中0.9%DMSOの静注または10mg/kgレトロ-Tf-D-LP4処置マウスからの膨化(図18C)および炎症(点線で囲んだ部分)(図18D)からの肝切片との代表的なH&E染色を示す。
図18B】固形飼料(ND)を与えられたマウス(図18A)およびNASHに罹患し脂肪肝を示すマウス(図18B)からの肝切片と、HFDを与えられ、HBSS緩衝液中0.9%DMSOの静注または10mg/kgレトロ-Tf-D-LP4処置マウスからの膨化(図18C)および炎症(点線で囲んだ部分)(図18D)からの肝切片との代表的なH&E染色を示す。
図18C】固形飼料(ND)を与えられたマウス(図18A)およびNASHに罹患し脂肪肝を示すマウス(図18B)からの肝切片と、HFDを与えられ、HBSS緩衝液中0.9%DMSOの静注または10mg/kgレトロ-Tf-D-LP4処置マウスからの膨化(図18C)および炎症(点線で囲んだ部分)(図18D)からの肝切片との代表的なH&E染色を示す。
図18D】固形飼料(ND)を与えられたマウス(図18A)およびNASHに罹患し脂肪肝を示すマウス(図18B)からの肝切片と、HFDを与えられ、HBSS緩衝液中0.9%DMSOの静注または10mg/kgレトロ-Tf-D-LP4処置マウスからの膨化(図18C)および炎症(点線で囲んだ部分)(図18D)からの肝切片との代表的なH&E染色を示す。
図19】HFD-32食によって誘導された脂肪肝後のNASHマウスから、およびレトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置されたマウスからの肝切片のシリウスレッド染色を示す。矢印は、線維化(コラーゲン)の存在を示している。
図20】HFD-32を与えられ、12週目に摘出された肝切片、およびレトロ-Tf-D-LP4(10mg/kg)処置マウスから摘出された肝切片の代表的なH&E染色を示す。バー=100μm。腫瘍小結節を破線で示す。
図21A】Tf-D-LP4が脂肪肝と、DEN誘導肝癌(HCC)において発症されるNASHとを防止することを示す。図21Aは、DEN誘導HCCを誘導されたが処置を受けてない(無処置)、しかしレトロ-Tf-D-LP4処置(18mg/kg静注)マウス群でないマウスから得た肝切片中の脂肪肝、炎症および膨化を示す代表的なH&R染色である。
図21B】Tf-D-LP4が脂肪肝と、DEN誘導肝癌(HCC)において発症されるNASHとを防止することを示す。図22Bは、DENによって癌を誘導され、次いでレトロ-Tf-D-LP4で処置された、または処置されてない(対照)マウスからの肝切片のシリウスレッド染色を示す。矢印は、線維化の存在を示している。
【0061】
本発明は、活性を維持し、かつ非修飾ペプチドと比較して、さらに改善した活性、ならびに新規の活性を有するVDAC1由来のペプチドのレトロ-インベルソ類似体を含む、合成ペプチドを提供する。加えて、レトロ-インベルソ類似体は溶解度および安定性が改善され、血液脳関門を通過することができ、したがって治療用ペプチドとしての使用に極めて適している。
【発明を実施するための形態】
【0062】
「VDAC1」および「hVDAC1」という用語は本明細書では同じ意味で用いられ、およびミトコンドリアポリンの高度に保存されたファミリーのヒト電位依存性陰イオンチャネルアイソフォーム1(hVDAC1)を指す。3つの遺伝子によってコードされる4種のVDACアイソフォームがこれまで知られており、本明細書で使用するように、用語「VDAC1」およびヒト「hVDAC1」は、283アミノ酸タンパク質(NP_003365)を指す。
【0063】
本明細書で用いる場合「ペプチド」という用語は、天然アミノ酸残基、非自然アミノ酸残基および/または化学修飾アミノ酸残基を包含し、各残基は、ペプチド結合または非ペプチド結合によって互いに結合されたアミノ末端とカルボキシ末端を有することによって特徴づけられる。当技術分野で既知のように、アミノ酸残基は、本明細書および特許請求の範囲全体を通して1文字または3文字表記のいずれかで表わされている。本発明の特定のペプチドは、好ましくはβ-ヘアピン型で利用される。
【0064】
一態様によれば、本発明はVDAC1系ペプチドの類似体を含む合成ペプチドを提供し、VDAC1系ペプチドは癌細胞内でアポトーシスを誘導することができ、5~26の連続するミノ酸からなり、類似体はVDAC1由来ペプチドに関してレトロ修飾型、および部分的または完全なインベルソ修飾型である。
【0065】
本明細書で用いる場合、「VDAC1由来ペプチドの類似体」または「VDAC1系ペプチドの類似体」という用語は、修飾されるVDAC1に関して、VDAC1由来の天然ペプチドの癌細胞死の誘導を少なくとも模倣することができる合成ペプチド分子を指す。
【0066】
本明細書で用いる場合、「レトロ修飾型」という用語は、レトロ修飾されるペプチドに対して反対方向でアミノ酸残基が構築されているL-アミノ酸で構成されているペプチド類似体を指す。
【0067】
本明細書で用いる場合、「インベルソ修飾型」という用語は、インベルソ修飾されるペプチドに対して同じ方向でアミノ酸残基が構築されている少なくとも1つのD-アミノ酸で構成されているペプチド類似体を指す。部分的インベルソ修飾型類似体とは、少なくとも1つのD-アミノ酸を含むペプチドを指す。完全インベルソ修飾型類似体とは、D-アミノ酸で構成されているペプチドを指す。
【0068】
本明細書で用いる場合、「レトロ-インベルソ」修飾型という用語は、レトロ-インベルソ修飾されるペプチドに対して反対方向でアミノ酸残基が構築されているD-アミノ酸で構成されているペプチド類似体を指す。
【0069】
特定の実施形態によれば、VDAC1由来ペプチドは、配列番号1および配列番号4のいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなる。特定の実施形態によれば、VDAC1由来ペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる。特定のさらなる実施形態によれば、VDAC1由来ペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなる。
【0070】
特定の例示的な実施形態によれば、VDAC1由来ペプチドの類似体は、配列番号1に関してレトロ-インベルソ類似体である。これらの実施形態によれば、VDAC1由来ペプチドの類似体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなり、そのすべてのアミノ酸は配列番号3を形成するD-アミノ酸である。
【0071】
特定のさらなる例示的な実施形態によれば、VDAC1由来ペプチドの類似体は、配列番号4に関してレトロ-インベルソ類似体である。これらの実施形態によれば、VDAC1由来ペプチドの類似体は、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなり、そのすべてのアミノ酸は配列番号6を形成するD-アミノ酸である。
【0072】
特定の実施形態によれば、合成ペプチドは、細胞認識部分および/または局在化部分をさらに含む。一部の実施形態によれば、細胞局在化部分は、合成ペプチドの透過性を増加させる。「透過性」とは、障壁、膜または皮膚層を通して浸透する、広がる、または拡散する薬剤もしくは物質の能力を指す。「細胞透過性部分」または「細胞浸透性部分」または「細胞透過性増強部分」とは、膜を通して分子の浸透を容易にすることができる、もしくは増強することができる当技術分野で既知のいかなる分子を指す。非限定的な例としては、脂質、脂肪酸、ステロイドおよび嵩高い芳香族化合物または脂肪族化合物などの疎水性部分;
細胞膜受容体、または、例えばステロイド、ビタミンおよび糖などの担体、天然アミノ酸および非天然アミノ酸、トランスポーターペプチドを有し得る部分;ナノ粒子およびリポソームが挙げられる。
【0073】
特定の例示的な実施形態によれば、認識部分および/または局在化部分は、ペプチド細胞浸透性増強部分である。一般的に細胞浸透ペプチドまたは細胞浸透性ペプチド(CPP)と呼ばれるそのようなペプチドは、外見的にはエネルギー非依存様式で、時には受容体非依存様式で大分子を含む分子を迅速に細胞内部に移動させる短いペプチド配列からなる。CPPは、毒性が低く、送達収率が高い。例示的なCPPは、Antpドメイン(配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する)、HIV-1転写因子TAT、HSV-1からのVP22がある。トランスフェリン受容体(TfR)は、トランスフェリンとのその相互作用を通して細胞の鉄の取り込みにおいて機能する。この受容体は、多くの癌型の表面で増加し、効率的に内部移行されるので、癌の標的治療にとって魅力的な分子である。Tfは、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するトランスフェリン受容体によって認識されるペプチド配列である。予想外に、現在、本発明は、配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するトランスフェリン受容体結合ドメインのレトロ類似体が癌細胞認識部分および浸透部分としても使用し得ることを示す。
【0074】
特定の例示的な実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号7またはそのレトロ類似体を含み、配列番号8に記載のアミノ酸配列を有する。さらなる例示的な実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号7またはそのレトロ類似体からなり、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなる。別の実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号7または配列番号8の部分的インベルソ修飾型類似体である。さらなる実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号7または配列番号8の完全インベルソ修飾型類似体である。
【0075】
特定のさらなる例示的な実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号9またはそのレトロ類似体を含み、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する。さらなる例示的な実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号9またはそのレトロ類似体からなり、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなる。別の実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号9または配列番号10の部分的インベルソ修飾型類似体である。さらなる実施形態によれば、認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドは、配列番号9または配列番号10の完全インベルソ修飾型類似体である。
【0076】
特定の実施形態によれば、本発明の合成ペプチドは、「トリプトファン(Trp)ジッパーペプチド」またはそのレトロ類似体(複数可)とともに、アミノ酸配列SWTWE(配列番号11)およびKWTWK(配列番号12)を含み、各々はVDAC1由来ペプチドの類似体のC末端またはN末端に互いに独立して位置する。
【0077】
特定の実施形態によれば、Trpジッパーペプチドまたはそのレトロ類似体は、すべてL-立体異性体ペプチドである。他の実施形態によれば、Trpジッパーペプチドまたはそのレトロ類似体は、部分的インベルソ修飾型である。さらなる実施形態によれば、Trpジッパーペプチドまたはそのレトロ類似体は、D-アミノ酸だけを含有する完全インベルソ修飾型である。一部の実施形態によれば、Trpジッパーペプチドのレトロ類似体は、配列番号13(EWTWS)に記載のアミノ酸配列を含む。さらなる実施形態によれば、Trpジッパーペプチドは、配列番号11、配列番号12またはその組み合わせのレトロ-インベルソ類似体を含む。
【0078】
さらなる例示的な実施形態によれば、本発明は、そのN末端に配列番号12に記載のアミノ酸配列と、そのC末端に配列番号13に記載のアミノ酸配列とを有するTrpジッパーと隣接している配列番号1のレトロ-インベルソ類似体を含み、配列番号8に記載のアミノ酸配列を有する認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドをさらに含む合成ペプチドを提供する。一部の実施形態によれば、合成ペプチドは、配列番号19(Lys-Trp-Thr-Trp-Lys-D-Asn-D-Ser-D-Asn-D-Gly-D-Ala-D-Thr-D-Trp-D-Ala-D-Leu-D-Asn-D-Val-D-Ala-D-Thr-D-Glu-D-Leu-D-Lys-D-Lys-Glu-Trp-Thr-Trp-Ser-His-Arg-Pro-Tyr-Ile-Ala-His)に記載のアミノ酸配列を含む。特定の例示的な実施形態によれば、ペプチドは配列番号19からなる。
【0079】
本発明の合成ペプチドの例示的な配列は、N末端からC末端に、配列番号12に記載のアミノ酸配列を有するTrpジッパーペプチドを含み、ここではアミノ酸はD-アミノ酸であり、配列番号1に記載のレトロ-インベルソ類似体(配列番号2のアミノ酸配列を有し、ここではアミノ酸はD-アミノ酸であり、配列番号3を形成する)が続き、配列番号13に記載のアミノ酸配列を有するTrpジッパーペプチドが続き、ここではアミノ酸はD-アミノ酸であり、配列番号7(配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するレトロ類似体)に記載のアミノ酸配列を有するTf認識ペプチドおよび/または局在化ペプチドのレトロ類似体が続く。本明細書ではレトロ-Tf-D-LP4、レトロ-インベルソペプチド、レトロ-インベルソTf-D-LP4、またはレトロ-インバースTf-D-LP4と同じ意味で用いられるペプチドは、アミノ酸配列D-Lys-D-Trp-D-Thr-D-Trp-D-Lys-D-Asn-D-Ser-D-Asn-D-Gly-D-Ala-D-Thr-D-Trp-D-Ala-D-Leu-D-Asn-D-Val-D-Ala-D-Thr-D-Glu-D-Leu-D-Lys-D-Lys-D-Glu-D-Trp-D-Thr-D-Trp-D-ser-His-Arg-Pro-Tyr-Ile-Ala-His(配列番号14)からなる。
【0080】
本発明の合成ペプチドのさらなる例示的な配列は、N末端からC末端に、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有するAntp細胞浸透性ペプチドのレトロ類似体(配列番号10に記載のアミノ酸配列を有するレトロ類似体)を含み、配列番号4のレトロ-インベルソ類似体(配列番号5のアミノ酸配列を有し、ここではアミノ酸はD-アミノ酸であり、配列番号6を形成する)が続く。本明細書で「レトロ-インベルソN末端」またはレトロ-D-N末端と呼ばれるペプチドは、アミノ酸配列Lys-Lys-Trp-Lys-Met-Arg-Arg-Asn-Gln-Phe-Trp-Ile-Lys-Ile-Gln-Arg-D-Leu-D-Gly-D-Phe-D-Gly-D-Tyr-D-Gly-D-Lys-D-Thr-D-Phe-D-Val-D-Asp-D-Arg-D-Ala-D-Ser-D-LyD-Gly-D-Leu-D-Asp-D-Ala-D-Tyr-D-Thr-D-Pro-D-Pro-D-Val-D-Ala-D-Met(配列番号15)からなる。
【0081】
特定の実施形態によれば、本発明のペプチドのC末端は、アミド化、アシル化、還元、またはエステル化され得る。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表わす。
【0082】
本明細書で用いる場合、「アポトーシス」または「アポトーシス細胞死」という用語は、末端が細胞フラグメンテーションになる細胞収縮、膜小疱形成およびクロマチン凝縮によって特徴付づけられ得るプログラム細胞死を指す。アポトーシスを受けている細胞は、DNA切断の特徴的パターンも示す。あるいは、アポトーシスは、アポトーシス経路のメンバーの活性化または発現における変化、例えばシトクロムcのミトコンドリア放出の増加によって間接的に特徴づけられ得る。当技術分野で周知のアポトーシス誘導試薬の非限定的な例としては、アクチノマイシンD、抗生剤A-23187、b-ラパコン、カンプトテシン、セラミド、クルクミン、デキサメタゾン、エトポシド(Etopophos(登録商標)、Vepesid(登録商標))、ヒペリシン、プロスタグランジンA2、S-ニトロソグルタチオン、スタウロスポリン、スリンダク硫化物、スルホン化スリンダク、パクリタキセル(Taxol(登録商標))、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、15(S)-HPETE、4-ヒドロキシフェニルレチンアミド、ベツリン酸などが挙げられる。
【0083】
以下に例証されるように、レトロ-Tf-D-LP4は癌細胞死を誘導する際に高活性である。さらに、ヒト初代神経芽細胞腫細胞株U-87(図5)で例証されるように、VDAC-1由来ペプチドLP4のレトロ-インベルソ類似体を含む合成ペプチドは、非悪性マディン-ダービーイヌ腎臓上皮細胞と比較して、癌細胞死を誘導することにおいてははるかに効果的であった。
【0084】
レトロ-Tf-D-LP4ペプチドは、トランスフェリン受容体結合ドメインのレトロ類似体を含む。予想外に、本発明は、現在、レトロ類似体が天然ペプチドとして同等の認知活性および/または局在化活性を有することを示す。
【0085】
本明細書で以下にさらに例証するように、レトロ-Tf-D-LP4はin vivoで癌の発症を阻害する上で効果的であることが示された。レトロ-Tf-D-LP4の脳腫瘍の頭蓋内異種移植の成長に対する効果を示す1モデルと、ペプチドのジエチルニトロソアミン(DEN)-誘導肝癌に対する効果を示す他のモデルとの2つのモデルを使用した。
【0086】
脳同所性腫瘍モデルにおいて神経膠芽細胞腫U-87 MG細胞がヌードマウス頭脳に移植された。遊離レトロ-Tf-D-LP4ペプチドまたはPLGAナノ粒子カプセル化ペプチドで静注処置されたマウスは、かなり低い腫瘍体積を示した(遊離ペプチドの場合、最高90%の低下、図11)。これらの結果は、遊離形態であるとき、ペプチドがBBBも通過する可能性が最も高いことを示唆する。いかなる特定の理論または作用機構にも拘束されることを望むものでなはいが、BBBを通過することは、由来類似体であるVDACに結合される配列を認識するTfRによって仲介され得るが、しかしTfドメインも上述のようにレトロ-立体配置である。
【0087】
DENによって誘導された肝細胞癌(HCC)において、マウスは、レトロ-Tf-D-LP4ペプチド、または対照溶液(HBSS中2%のDMSO)を静脈内に注射された。無処置、対照群においてマウスの肝臓は、多数の腫瘍小結節を示した(図12B、12D)が、ペプチドで処置されたマウスにおいて、腫瘍小結節は観察されなかった(図12C、12D)。対照群において、肝臓は、レトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置されたマウスからの肝臓と比較して、サイズおよび重量が大きかった(図12E)。これらの結果は、ペプチドが腫瘍成長を阻害したことを示す。
【0088】
予想外に、本発明のレトロ-インベルソペプチドは、さらに、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の防止および/または処置において顕著な活性を示した。脂肪性肝炎/NASH(STAM)のために用いたモデルは、NASHを有する大部分のヒトにおいて生じるようにカロリー過剰によって脂肪肝疾患が誘導されるHFD-32に基づき、ヒトNASHの生理的、代謝的、組織学的、および臨床的なエンドポイントのすべてを示した。HFD-32摂食の開始後すぐに、マウスは脂肪性肝炎を発症し、肝細胞中の脂肪滴の蓄積、炎症性細胞浸潤の散在、膨化およびMallory-Denk体、線維化、および最終的にHCC症小結節を有した(図13~20)。静脈内に投与されたVDAC1系ペプチド、レトロ-Tf-D-LP4は、これらのすべての肝臓の病変形成を除去し、または高度に減少させた。ペプチド処置マウスからの肝臓は、非常に少ない脂肪性沈着物、炎症性細胞浸潤またはコラーゲン繊維を示した(図13~20)。
【0089】
さらなる態様によれば、本発明は、VDAC1由来ペプチドの類似体を含む少なくとも1種の合成ペプチドと、任意選択で薬学的に許容される担体、希釈剤、塩または賦形剤を含む医薬組成物を提供し、該VDAC1由来ペプチドは癌細胞内でアポトーシスを誘導することができ、かつ5~26の連続するアミノ酸からなり、該類似体はVDAC1由来ペプチドに関してレトロ修飾型および部分的または完全インベルソ修飾型である。
【0090】
「薬学的に許容される担体」という用語は、意図した標的に有効成分を送達し、ヒトまたは他のレシピエント生物に有害事象を引き起こさない賦形薬を指す。本明細書で用いる場合、「医薬品」とは、ヒトおよび動物用の両医薬品を包含すると理解される。有用な担体としては、例えば、水、アセトン、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン-1、3-ジオール、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテートまたは鉱物油が挙げられる。医薬組成物の調合のための方法と成分は、周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版,A.R. Gennaro,編, Mack Publishing Co. Easton Pa.,1990に見いだすことができる。
【0091】
医薬組成物は、他の任意選択の材料を含むこともでき、組成物の担体および/または使用目的に応じて選択されてよい。さらなる成分としては、抗酸化剤、キレート剤、カルボマーなどの乳剤安定剤、メチルパラベンなどの保存剤、芳香剤、グリセリンなどの湿潤剤、PVP/エイコセンコポリマーなどの防水剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性フィルム形成剤、油溶性フィルム形成剤、カチオン性ポリマーまたはアニオン性ポリマーなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0092】
他のことは考慮しなくても、本発明の新規活性成分がペプチド、ペプチド類似体またはペプチド模倣薬であるという事実は、調合がこれらの種類の化合物の送達に好適であることを決定づける。一般にペプチドは、胃酸または腸内酵素による消化に対する感受性のために経口投与にあまり適していないが、本発明の組成物は、本発明の安定したレトロ-インベルソペプチドについて観測される高活性のために、経口投与されることができる。加えて、代謝的に安定し、および経口生物学的利用が可能なペプチド模倣薬類似体を設計し、提供するために、新規方法が使用される。
【0093】
本発明の医薬組成物は、いずれの適切な手段、例えば、鼻腔内、皮下、筋内、静脈内、動脈内、関節内を含む局所的もしくは非経口的な投与、または病巣内投与によって投与されてよい。
【0094】
有効成分としての本発明の分子は、周知のように、薬学的に許容され、および有効成分と適合する希釈剤または賦形剤に溶解される、分散させる、または混合される。好適な賦形剤としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)、デキストロース、グリセロール、エタノールなどおよびそれらの組み合わせがある。別の好適な担体は、当業者には周知である(例えば、Anselら,1990およびGennaro,1990を参照されたい)。加えて、必要に応じて、組成物は、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤のような補助物質を少量含むことができる。
【0095】
本明細書(図9)に例示したように、本発明は現在、VDAC1由来ペプチドのレトロ-インベルソ類似体を含む合成ペプチドが生理学的に適合した溶液に高度に可溶性であることを示す。この溶解度は、これまで知られているVDAC1由来のペプチドを超える、本発明のレトロ-インベルソペプチドの意味のある利点であり、レトロ-インベルソパプチドを薬物としての用途の適合性を高める。
【0096】
さらなる態様によれば、本発明は、異常なアポトーシスおよび/または細胞過剰増殖に関連する疾患を患っている対象を処置するための方法を提供し、該方法は本発明の合成ペプチドまたはそれを含む医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。
【0097】
特定の実施形態によれば、異常なアポトーシスおよび/または細胞過剰増殖に関連する疾患は癌である。特定の例示的な実施形態によれば、癌は神経膠芽腫を含む神経膠腫;肝細胞癌を含む肝癌;慢性リンパ性白血病(CLL)を含む白血病;膵癌と乳癌および黒色腫からなる群から選択される。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表わす。
【0098】
さらなる態様によれば、本発明は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および/またはNAFLDに伴う症状を予防および/または処置する方法を提供し、該方法はそれを必要とする対象に本発明の合成ペプチドまたはそれを含む医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを含む。
【0099】
本明細書で用いる場合、「処置する」という用語は、治療上の処置を意味し、用語「減少させる」、「抑える」、「寛解させる」および「阻害する」を包含する。これは一般的に、腫瘍増殖を減少させる、もしくは抑える、および/または癌細胞増殖を減少させる、もしくは抑える、および/または癌幹細胞の腫瘍形成能を減少させる、および/またはNAFLDの発症およびNAFLDに伴う症状を減少させる、もしくは抑えることを意味すると理解される。
【0100】
特定の実施形態によれば、本発明のペプチドは、予防使用のため、NAFLD、特に非アルコール性脂肪肝および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の進行を阻止するおよび/または低減させる。
【0101】
本明細書で用いる場合、「治療有効量」という用語は、対象に投与されると、抗癌活性を発現するおよび/またはNAFLDおよびNAFLDに伴う症状を減少させる、もしくは抑えることができる医薬組成物の量を指す。さらなる態様によれば、本明細書に記載の本発明の合成ペプチドおよびそれを含む医薬組成物は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および/またはNAFLDに伴う症状の処置で用いる。
【0102】
特定の実施形態によれば、NAFLDは非アルコール性脂肪肝および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)からなる群から選択される。一部の実施形態によれば、NAFLDに伴う症状は、脂肪滴の蓄積、炎症、線維化、肝細胞死およびそのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。
【0103】
以下の実施例は、本発明の一部の実施形態をより完全に例示するために示される。しかし、実施例は本発明の広範な範囲を限定すると決して解釈されてはならない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書に開示される原理の多くの変更および修正を容易に考案することができる。
【実施例
【0104】
材料および方法
細胞培養
細胞株THP-1、BNL1ME、GL-261、PANC-1、PANC-2、B16F10.0、MDCK、U-87MG、U-251MG、U-118MG、LN-18を、10%のFCS、ペニシリン(100u/mL)およびストレプトマイシン(100μg/mL)を含む推奨される培地中で、37℃、5%COで維持した。
【0105】
VDAC1系ペプチドによる細胞処置および細胞死分析
懸濁液中の細胞を計数し(2x10/mL)、同日に処置したが、接着細胞は処置の16~24時間前に計数し、12ウェルプレートに播種した(1.5~2×10/mL)。
懸濁液中の細胞または接着細胞を、種々の濃度の目的のペプチドとともに、無血清培地(それぞれ200μLまたは500μL)中で、5%COの存在下、37℃でインキュベートした(それぞれ90分間または6時間)。細胞を収集し(接着細胞はトリプシン処理によって)、遠心分離し(1500×g、5分間)、PBSで洗浄し、ヨウ化プロピジウム(PI)染色とフローサイトメーター(Beckton-Dickinson,San Jose,CA)およびBD CellQuest Proソフトウェアを用いて細胞死について分析した。
【0106】
ペプチド
対照合成ペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するVDAC1由来ペプチド(LP4と名付けた)で構成されており、配列番号1のアミノ酸はD-アミノ酸であり、そのN末端に配列番号11に記載のアミノ酸配列を有するTrpジッパーと隣接し、かつそのC末端に配列番号12に記載のアミノ酸配列と隣接し、これらのアミノ酸は、配列番号11のN末端に結合した配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するD立体配置のTf局在化ペプチドであり、配列番号17(His-Ala-Ile-Tyr-Pro-Arg-His-D-Ser-D-Trp-D-Thr-D-Trp-D-Glu-D-Lys-D-Lys-D-Leu-D-Glu-D-Thr-D-Ala-D-Val-D-Asn-D-Leu-D-Ala-D-Trp-D-Thr-D-Ala-D-Gly-D-Asn-D-Ser-D-Asn-D-Lys-D-Trp-D-Thr-D-Trp-D-Lys)を形成する。このペプチドは、Tf-D-LP4と名付ける。
【0107】
レトロ-Tf-D-LP4と名付け、試験した合成ペプチドは、上述のように構成された配列番号14に記載のアミノ酸配列を含む。
【0108】
このペプチドは、>95%の純度までGL Biochem(Shanghai,China)によって合成された。ペプチドを以下のように溶解した:2mgのTf-D-LP4またはレトロ-Tf-D-LP4を5μLの100%DMSOで溶解し、400mg/mL(97.36mM)の濃度のペプチド溶液を得、この溶液を37℃の水浴中で30分間さらにインキュベートした。次いで、この溶液に95μLの蒸留水を混合しながら加えることによって20mg/mL(4.86mM)のペプチド濃度になるまで希釈し、希釈溶液を37℃の水浴中で30分間インキュベートして、溶液が透明になるまでさらに可溶化させた。次いで、ペプチド溶液を15,000gで5分間遠心分離させ、各調製の上清を結合能の低い新たなエッペンドルフチューブに移した。得られた溶液のアリコートをペプチド濃度についてのさらなる分析のために使用した。
【0109】
ヨウ化プロピジウム(PI)染色
PI溶液を0.5mg/mLの最終濃度になるまでPBSで希釈した。2.5μLのPI溶液を各FACSチューブに加え、次いでチューブを穏やかにボルテックスして、細胞懸濁液を均質にした。細胞生存率をFACSチャネルFL3で測定し、CellQuest Proソフトウェアを使用してデータを分析した。
【0110】
ヘマトキシリン/エオシン(H&E)、オイルレッドO;マッソントリクロームおよびシリウスレッド染色
パラフィン包埋肝臓の切片(5μmの厚さ)のヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色は、標準プロトコルを使用して行った。
【0111】
オイルレッドO染色は、細胞中の脂肪滴を染色するために行われるアッセイである。新鮮な肝臓検体をO.C.T化合物(Scigen,USA)に包埋することによって調製された凍結切片を60%イソプロパノールで穏やかに洗浄し、次いで、60%イソプロパノールに溶解した0.5gのオイルレッドO(BDH chemicals,England)のワーキング溶液で15分間、染色した。染色した切片を蒸留水で数回洗浄して、取り込まれていない染料を除去した。次いで、検体をヘマトキシリンで5分間、対比染色した。光学顕微鏡を使用して結果を調べた。脂肪滴は赤色に見え、核は青色に見える。
【0112】
マッソントリクローム(Bio optica,Italy)染色を既述(Martinello Tら,2015.Histol Histopathol.30(8), 963-969)のように行った。この染色によって、コラーゲンは青色に見え、筋繊維は赤色に見え、核は黒色/青色に見える。
【0113】
シリウスレッド(Sigma,USA)染色は、既述(Zhang Yら,2014. Hepatology 60,919-930)のように、パラフィン包埋肝切片上で行った。手短に言うと、固定され、パラフィンに包埋された肝切片を0.1%のシリウスレッド-ピクリン酸溶液で染色した。切片を酢酸で迅速に洗浄して、光学顕微鏡下で撮影した。コラーゲンは、淡黄色の背景上で赤色に見える。
【0114】
異種移植片実験
頭蓋内同所性異種移植マウスモデルのために、定位装置を使用してU-87MG細胞(8×10)をヌードマウス脳に移植した。手術から48時間後に、マウスを3つの群(群当たり6匹の動物)にランダム化し、3日ごとにDMSO(1.44%)、レトロ-Tf-D-LP4(10mg/kg)、またはPLGAナノ粒子中にカプセル化したレトロ-Tf-D-LP4(10mg/kg)で処置した。マウスをMRIにかけ、次いで犠牲にした。IHCのために脳を摘出して、処理した。VivoQuant 2.10ソフトウェアを使用して腫瘍体積を分析した。
【0115】
肝癌の誘導
肝癌誘導のために、ジエチルニトロソアミン(DEN)、別名N-ニトロソジエチルアミン、を用いた。DENは、実験動物モデルにおいて発癌性物質として広く使われている(Shirakami Yら,2012.Carcinogenesis 33,268-274;Tolba,Rら,2015.Lab Anim 49,59-69)。
【0116】
14日齢のC57BL/6マウス(雄)にDEN(Sigma-Aldrich)20mg/kg体重を注射し(腹腔内)、その後定期的に調べた。2匹のマウスをランダムに犠牲にすることによって、マウスの肝腫瘍成長を調べた。腫瘍成長は、30週目から始まる。
腫瘍成長の確認後、マウスを以下の通りにグループ分けした:HBSS緩衝液に溶解した2%DMSOを50μL、静脈内投与される対照群マウス(n=12);18mg/kgのレトロ-Tf-D-LP4を静脈注射で投与される処置群(n=12)。ペプチド処置は、最初の2週間に3回(それから43週目まで週2回)施した。腫瘍サイズは、MRIで分析した。実験終了後、病理組織学的分析のためにマウスを犠牲にし、肝臓を撮影して、PBS中の4%ホルムアルデヒドで固定した。
【0117】
非アルコール性脂肪性肝炎-肝細胞癌(NASH-HCC)マウスモデル
雄と雌のC57Bl/6マウスは、ENVIGO(Jerusalem,Israel)から購入した。すべてのマウスはAnimal Facilities of the Ben-Gurion University(Beer-Sheva Israel)において無菌条件下で飼育されていた。脂肪肝-NASH-HCCを既述(Fujii Mら,Med Mol Morphol 46,141-152)のように得た。脂肪肝-NASHを誘導するためにマウスを飼育し、2日齢の新生児雄マウスにストレプトゾトシン(STZ)(200μg/マウス)を皮下注射し、授乳ために母マウスのケージに戻した。
【0118】
4週齢目にマウスに高脂肪食(HFD-32)を摂取させた。肝臓脂肪性症状は6週目に、NASHは9週目に発現し始める。対照群(n=10)および処置群(n=10)としてマウスをグループ分けし、脂肪肝調査についての処置を7週目から9週目に、NASH調査についての処置を9週目から12週目に開始した。対照群には、HBSS緩衝液に溶解した0.9%DMSOを50μL投与した。処置群-1(n=10)にはレトロ-Tf-DーLP4(配列番号14)を10mg/kgで、および処置群-2(n=10)にはレトロ-Tf-D-LP4(配列番号14)を18mg/kgで、すべて静脈注射で投与した。ペプチド処置は、週に3回施した。実験終了後、マウスにケタミン(100mg/kg)と、PBSに溶解したキシラジン(10mg/kg)とで麻酔し、次いで血液サンプルを採取した。胸部を切開して、血液を心臓から採取した。次いで、マウスをCO吸入によって犠牲にした。肝臓を摘出し、撮影して、計量した。肝臓の一部を固定し、パラフィンに包埋して、薄片を作り、次いで上述のようにヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色を施した。オイルレッド染色の場合、肝臓の一部をOptimal Cutting Temperature化合物(O.C.T)中で凍結させ、包埋し、薄片を作り、次いで上述のようにオイルレッドO染色法を用いて、脂肪分を染色した。
【0119】
血糖値は、Accu-Check(登録商標)Performa血糖測定器(Accu-Check(登録商標)を使用して測定した。
【0120】
NASH-HCCモデルマウスの食事介入
すでにSTZを注射した4週齢の雄マウスを母マウスから離し、実験の経過中は、高脂肪食(HFD-32)を与えた。HFD-32飼料は、卵白粉末(MM Ingredients;Wimborne,UK)5%;ラクトース(PHARMA GRADE;Nelson,UK)6.928%;牛脂(飽和脂肪)粉末(80%の牛脂を含む)(MP Biomedical,LLC;Illkirch,France)15.88%;ミルクカゼイン(Shaanxi Fuheng(SF)Biotechnology;Xi’an,China)24.5%;サフラワー油(高オレイン酸タイプ)(Bustan aBriut;Galil,Israel)20%;ショ糖(Sigma,St;Louis,MO)6.45%;重酒石酸コリン(BULK POWDERS,Colchester,UK)0.36%;結晶セルロース(Sigma,St;Louis,MO)5.5%;L-システイン(Source Naturals,Scotts Valley, USA)0.43%;マルトデキストリン(BULK POWDERS,Colchester,UK)8.25%;AIN93G-ミネラル混合物(MP Biomedical,LLC;Illkirch,France)5%;AIN93VX-ビタミンミックス(MP Biomedical,LLC;Illkirch,France)1.4%、および第三ブチルヒドロキノン(MP Biomedical,LLC;Illkirch,France)0.002%で構成された。対照C57Bl/6マウスには、標準固形飼料を与えた。
【0121】
動物試験は、Institutional Animal Care and Use Committee (IACUC)、Research Animal Resource Center (RARC) of Ben-Gurion UniversityおよびNational Institutes of Health (NIH)「実験動物の管理と使用に関する指針」のすべての適用される方針、手法および規制条件に従って実施した。
【0122】
実施例1:白血病細胞における細胞死の誘導
本実験では、急性単球性白血病患者由来のヒト単球細胞株の細胞(THP-1細胞、ウェル当たりの400,000細胞)を使用した。本明細書において上述したように、対照(Tf-D-LP4)およびいくつかの濃度でのアッセイ レトロ-インベルソ(レトロ-Tf-D-LP4)ペプチドのそれぞれを無血清培地に加え、各ペプチド型の存在下で細胞を5%COの存在下、37℃で90分間インキュベートした。
【0123】
図1に示すように、両ペプチドはかなりの細胞死を誘導した。レトロ-インベルソペプチド(レトロ-Tf-D-LP4)による細胞死は、対照ペプチド(Tf-D-LD4)の8μMのEC50と比較して、4.5μMのEC50で得られた。
【0124】
実施例2:肝癌細胞における細胞死の誘導
図2は、対照(Tf-D-LP4)および試験レトロ-インベルソペプチド(レトロ-Tf-D-LP4)の肝癌マウスBNL1ME細胞株に対する効果を示す。細胞を無血清培地中で各ペプチド型とともに、5%COの存在下、37℃で6時間インキュベートした。
【0125】
白血病細胞と同様に、両ペプチドは、同程度のEC50(レトロ-Tf-D-LP4およびTf-D-LP4に対してそれぞれ2.5μMおよび2.7μMのEC50)で、大量の細胞死を誘導した。しかし、より高い最大の細胞死誘導は、レトロ-インベルソペプチド(70%と比較して95%)で得られた。
【0126】
実施例3:PANC-1またはPANC-2細胞における細胞死の誘導
本アッセイでは、ヒト(PANC-1)およびマウス(PANC-2)膵癌細胞を使用した。細胞を播種し(100,000細胞/ウェル)、無血清培地中で5%COの存在下、37℃で6時間レトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置した。細胞死はPI染色によって分析し、細胞死のパーセンテージはフローサイトメトリーで測定した。
【0127】
図3Aに示すように、レトロ-インベルソペプチド(レトロ-TF-D-LP4)は、両細胞株において約4μMのEC50で細胞死を誘導した。
【0128】
図3Bは、PANC-2細胞のアクリジンオレンジ、エチジウムブロマイド染色を表わし、レトロ-Tf-D-LP4がアポトーシスを誘導することを示す。
【0129】
実施例4:黒色腫細胞における細胞死の誘導
B16F10.0黒色腫細胞(12ウェルプレートにおいて150,000細胞/ウェル)を播種し、翌日、無血清培地中で、表示濃度のレトロ-Tf-D-LP4ペプチドとともに5%COの存在下、37℃で6時間インキュベートした。細胞死をPI染色およびFACSによって分析した。
【0130】
図4に示すように、レトロ-インベルソペプチド(レトロ-Tf-D-LP4)が、7μMのEC50で、濃度依存細胞死を誘導した。
【0131】
実施例5:マウス神経膠腫細胞における細胞死の誘導
マウス神経膠腫GL-261細胞を、無血清培地中で、対照Tf-D-LP4またはいくつかの濃度のレトロ-Tf-D-LP4とともに5%COの存在下、37℃で6時間インキュベートし、細胞死をPI染色およびFACSによって分析した。
【0132】
図5に示すように、両ペプチドはかなりの細胞死を誘導したが、しかしレトロ-インベルソペプチド(レトロ-Tf-D-LP4)による細胞死の誘導は、対照ペプチドの3.3μMのEC50と比較して、2.2μMのEC50であり、対照ペプチドと比較して著しく高かった。
【0133】
実施例6:神経膠芽腫細胞における細胞死の誘導
ヒト原発性神経膠芽腫由来細胞株(U-87MG)をmL当たり6×10細胞で、無血清培地中でいくつかの濃度の試験ペプチドとともに5%COの存在下、37℃で6時間インキュベートした。本実験で使用したペプチドはTf-D-LP4、レトロ-Tf-D-LP4、およびアミノ酸配列D-Arg-D-Asp-D-Val-D-Phe-D-Thr-D-Lys-D-Gly-D-Tyr-D-Gly-D-Phe-D-Gly-D-Leu-D-Arg-D-Gln-D-Ile-D-Lys-D-Ile-D-Trp-D-Phe-D-Gln-D-Asn-D-Arg-D-Arg-D-Met-D-Lys-D-Trp-D-Lys-D-Lys(配列番号18)を含む、D-ΔN-Ter-Antpと名付けられた、VDAC1由来の追加のペプチドである。次いで、細胞をトリプシン処理し、遠心分離し(1500×g、5分間)、PBSで洗浄して、PI染色およびフローサイトメーター(Beckton-Dickinson,San Jose,CA)ならびにBD CellQuest Proソフトウェアを使用して細胞死を分析した。図6に示すように、Tf-D-LP4およびレトロ-Tf-D-LP4の両ペプチドは、それぞれ1.5μMのEC50および2.2μMのEC50で同程度の大量の細胞死を誘導した。
【0134】
実施例7:癌幹細胞および癌細胞株対非癌細胞株の細胞死誘導
癌細胞と比較して非癌性細胞内でアポトーシスを誘導するレトロ-インバースペプチドのレトロ-Tf-D-LP4の能力を試験して、ペプチドの癌特異性を確立した。U-87MGおよびMDCK(成犬雌コッカースパニエルの腎臓組織由来のメイディン・ダービー・イヌ腎臓上皮細胞)を無血清培地中でいくつかの濃度のレトロ-インベルソペプチド(レトロ-Tf-D-LP4)とともに6時間インキュベートした。
【0135】
レトロ-インベルソペプチド(レトロ-Tf-D-LP4)が癌細胞に対する特異性で、癌細胞と非癌細胞を識別することを図7Aは明らかに示す。15μMのレトロ-Tf-D-LP4ペプチドは癌細胞株において約80%の細胞死を誘導したが、同じ濃度のペプチドは非癌性細胞株MDCKにおいてわずかに約30%の細胞死を誘導した。
【0136】
癌幹細胞へのレトロ-Tf-D-LP4の効果も、GBM患者由来の神経膠腫由来の幹細胞(GSC)系G7(Pollard S Mら,2009.Cell Stem Cell 4(6):568-580)を使用して調べた。既述(Pollard S Mら,2009.Cell Stem Cell.4(6):568-580)のように、G7 GSC細胞株は特定の神経膠芽腫幹細胞培地を使用して増殖させた。
【0137】
U-87MG細胞と比較して、GSC特異的マーカーであるSox2,MusashiおよびNestinは、G7内で高度に発現され、約1%のGSCを含有しており、したがって細胞の幹細胞性を確認する(図7B、7C)。Klf4は、両細胞株において、G7におけるよりもわずかに高いレベルで発現される。レトロ-Tf-D-LP4ペプチドによるG7幹細胞での細胞死の誘導は、U-87MG細胞株での細胞死誘導と類似していた(図7D)。50%の細胞死(EC50、n=3)を誘導するための濃度は、U-87MG細胞とG7細胞でそれぞれ、1.5±0.3と2.5±0.3μMであった。annexinV/PI染色およびFACS分析を使用してアポトーシスをアッセイすると、同様の結果が得られた(図7E)。
【0138】
したがって、結果は、GSCがVDAC1由来ペプチドのレトロ-インベルソ類似体に感受性があることを明確に示している。
【0139】
実施例8:レトロ-Tf-D-LP4の溶解度および安定性
VDAC-1由来ペプチドを含む合成ペプチド、対照Tf-D-LP4およびレトロ-インベルソペプチドのレトロ-Tf-D-LP4の溶解度を、in vivo実験および処置において動物への静脈投与のペプチド適合性を判断するために評価した。前述のようにペプチドを溶解した。試験した濃度は、4mMであり、使用した溶媒は、薬物投与のための一般的な生理的適合溶液としてのDDW/10%DMSO/150mM NaCl(NaClは150mMの最終濃度で、後で加えた)であった。
【0140】
Tf-D-LPの分子量=4111.67g/mol。したがって、分析規模で使用して1.4mgのペプチド(Tf-D-LP4またはレトロ-Tf-D-LP4)を計量した。8.5μLのDMSO100%をペプチドに加えて、40mMの濃度にし、次いでこの溶液が透明になるまで、水浴中37℃で15分間インキュベートした。得られた溶液をDDWで約10倍希釈し、4.4mM(11.1%DMSO)の最終濃度にし、水浴中37℃で15分間インキュベートし、次いで4℃で終夜インキュベートした。インキュベーション後、溶液を15,000×gで5分間、遠心分離した。上清を新たなLobindエッペンドルフチューブに移し、0.15Mの最終濃度までNaClを加えた。得られた溶液を水浴中37℃で15分間、インキュベートし、15,000×gで5分間遠心分離し、上清を新たなLobindエッペンドルフチューブに移した。各ステップでペプチド濃度を分析した。
【0141】
ペプチド濃度の判定
ペプチド濃度を以下の計算式を使用し、その変性に続いて280nmでの吸光度から判定した。
【0142】
重量/体積(mg/mL)濃度を以下の式に従って算出した。
mgペプチド/mL=(AU×DF×Mw)/[(TrypW#×5560)+(TyrY#×1200)]:
AU-ペプチド吸光度測定値
DF-希釈係数
Wm-分子量
TrypW#-ペプチド配列中のトリプトファンの数
TyrY#-ヘプチド配列中のチロシンの数
【0143】
図9は、上述の280nmの吸光度分析によって算出した総ペプチド含有量から可溶性ペプチドのパーセンテージとしてTf-D-LP4の溶解度(白色バー)とレトロ-Tf-D-LP4の溶解度(黒色バー)との間の比較を示す。図9に明確に示すように、DMSO濃度が10%まで減少すると、ほとんどのレトロ-Tf-D-LP4は溶解されたが、この条件下ではわずか約10%のTf-D-LP4が溶解した。
【0144】
Tf-D-LP4とレトロ-Tf-D-LP4の両ペプチドは、100%DMSO中で高溶解度を示した。予想外に、10%DMSOで、レトロ-インベルソ レトロ-Tf-D-LP4ペプチドは、Tf-D-LP4と比較して5~7倍より可溶であることが示された。
【0145】
レトロ-Tf-D-LD4は、その調合物が医薬用途用に可能になるので、この特徴は非常に重要である。
【0146】
実施例9:ペプチドカプセル化
固形腫瘍を処置するため、特に脳腫瘍を処置するための治療薬としてペプチドを使用する上での1つの主な障害は、治療用ペプチドを患部に送達すること、および脳腫瘍の場合、血液脳関門(BBB)を通過することである。BBBは制限性および選択性が高く、極めて小さい分子(<600Da)または拡散によって、もしくは特定のトランスポーターを介して通過するペプチドだけが通過できる。ナノ粒子にカプセル化された薬物、または細胞受容体によって認識され、かつ取り込まれる配列に結合された薬物はBBBを通過することができる。ここでは、レトロ-Tf-D-LP4が、BBB内で高度に発現されるTfR(例えば、Bien-Ly Nら,2014.J Exp Med.211(2),233-244)を介してBBBを通過することを想定してレトロ-Tf-D-LP4を使用し、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)(図10A)で作られているナノ粒子を用いて、カーゴの制御放出を可能にした。
【0147】
これまでに報告されているように(Andrieu Vら,1989.Drug Des Deliv 4, 295-302;Das Jら,2104.Toxicol Lett 225,454-466)、レトロ-Tf-D-LP4を充填したPLGA複合体を、一部修正した溶媒置換法によって調製した。20ミリグラムのレトロ-Tf-D-LP4を40μLの100%DMSOに溶解し、次いで無菌DDWで20倍に希釈して、最終濃度5%のDMSO中の25mg/mLの濃度にした。PLGA(50mg)をアセトン(1mL)に溶解した。次いで、105μLのペプチドをPLGA-アセトン溶液に加えた。生じたペプチド-PLGA-アセトン混合物を、1%PVA(w/v)含有水溶液10mLに滴下した(0.5mL/分)。有機溶媒が完全に蒸発するまで、混合物を室温で連続して撹拌した。ナノ粒子を15,000g(4℃で20分間)で遠心分離し、次いでペレットを無菌DDWに再懸濁させて、2回洗浄した。生じたペレットをHBSS溶液と混合して、マウスへの静脈注射用に使用した。ペプチドがPLGAナノ粒子内にカプセル化され、活性であることを示すために、粒子を遠心分離し、生じた上清および再懸濁させたナノ粒子の細胞死誘導活性を分析した(図10B)。ペプチドがPLGAナノ粒子にカプセル化され、U-87MG細胞内で細胞死を誘導したことを結果は明確に示した。
【0148】
実施例10:レトロ-Tf-D-LP4の腫瘍細胞死に対するin vivo効果
レトロ-Tf-D-LP4のin vivo効果を、脳同所性腫瘍モデルを使用して検討した。同所性モデルは、生きた動物と関連して、腫瘍、特に脳などのユニークな生理的かつ構造的性質を有する部位での腫瘍の特性を調査するための、現在の最善の方法を提供する。これらのモデルは、特徴、例えば代謝、BBBを越えるドラッグデリバリーおよび毒性の評価を可能にする。多形神経膠芽腫(GBM)の臨床状況をより良く模倣するために、頭蓋内同所異種移植(Pierce AMおよびKeating AK. 2014.J Vis Exp.91,52017)を用いて、腫瘍増殖を阻害するレトロ-Tf-D-LP4ペプチドの有効性を検討した。
【0149】
U-87MG細胞(8×10)をヌードマウス脳に移植し、次いでマウスをPLGAナノ粒子にカプセル化したレトロ-Tf-D-LP4(10mg/kg)、または遊離レトロ-Tf-D-LP4ペプチド(10mg/kg)を、PBS中DMSO(1.05%)とともに静注(i.v.)により処置した。25日後および32日後に、腫瘍増殖をMRIでモニターした(図11A)。マウスを遊離レトロ-Tf-D-LP4ペプチド(10mg/kg)の静注により処置し、後処置開始から25日目および32日目に、同所性異種腫瘍の体積において80%および90%の縮小が得られた(図11B)。同様に、PLGAカプセル化(10mg/kg)レトロ-Tf-D-LP4による処置も、後処置開始から25日目および32日目に同所性異種腫瘍の体積においてそれぞれ45%および65%の縮小を示した(図11B)。
【0150】
Kaplan-Meier生存曲線を用いた分析により、PBS/DMSO処置マウスと、遊離レトロ-Tf-D-LP4処置マウスまたはPLGAカプセル化レトロ-Tf-D-LP4処置マウスとの間の生存に統計的な有意差が明らかになった(図11C)。ペプチド処置は、無処置マウスで観察された35日の生存を超えて、遊離レトロ-Tf-D-LP4で処置されたマウス、またはPLGAカプセル化レトロ-Tf-D-LP4で処置されたマウスの生存をそれぞれ40%と50%延ばした。
【0151】
静脈投与された遊離レトロ-Tf-D-LP4およびPLGAカプセル化レトロ-Tf-D-LP4の両製剤がBBBを通過して、腫瘍細胞に到達し、腫瘍細胞死を効果的に誘導することができ、遊離レトロ-Tf-D-LP4が腫瘍サイズの縮小およびマウス生存の両方においてより効果的であることをこれらの結果は明確に示している。
【0152】
実施例11:レトロ-Tf-D-LP4によるDEN-誘導性癌の阻害
遺伝毒性薬物、ジエチルニトロサミン(DEN)は、マウスにおける肝癌の誘導で最も広く使用されている化学物質である。肝細胞が依然として活発に増殖しているとき、2週齢よりも若い雄マウスに注射されると、DENはシトクロムP450ファミリーの酵素によって肝細胞内で代謝活性化を起こし、完全な発癌性物質として作用する(Bakiri LおよびWagner F.2013.Mol Oncol 7,206-223)。DENによって誘導された肝細胞癌(HCC)は、進行性過程を辿り、DEN処置後30~32週間で腫瘍が目に見える。
【0153】
マウスにおいてDEN誘導HCCは、上述のように行った(図12Aにまとめる)。
肝臓をMRIによって画像化した(図12B、12C)。犠牲にしたマウスからの肝臓を肉眼病理学的観察のために撮影した(図12D)。無処置、対照群において、マウス肝臓は多数の腫瘍小結節を示した(図12B、12D)が、ペプチドで処置したマウスにおいて、腫瘍小結節は観察されなかった(図12 C、12D)。対照群において、肝臓は、レトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置したマウスからの肝臓と比較して、サイズと重量が大きかった(図12E)。これらの結果は、ペプチドが腫瘍成長を阻害したことを示す。
【0154】
実施例12:レトロ-Tf-D-LP4による脂肪肝の阻害
形態学的変化
ペプチドの脂肪肝に対する効果を調査するために、マウス(4~9週齢マウス)に5週間、通常の固形飼料(対照)または高脂肪食(HFD-32)を与え、最後の2週間、マウスをHBSS中DMSO2%またはレトロ-Tf-D-LP4(10mg/kg)で処置した。本調査の過程は、図13Aに模式的に示した。9週目の終わりに、マウスを犠牲にし、肝臓を撮影し(図13B)、計量し(図13C)、次いで病理組織学的分析のためのさらなるプロセシングのために固定または凍結させた。HFD-32を与えられたマウスからの肝臓は、通常食(固定飼料)を与えられたマウス、またはレトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置されたマウスの肝臓と比較して、黄味がかった色を示した(図13B)。HFD-32を与えられたマウスからの肝臓の重量は、通常食(固形飼料)を与えられたマウスの肝臓の重量と比較して、約30%増加していたが、一方この増加はレトロ-インベルソペプチドで処置されたHFD-32マウスにおいて減少していた(図13C)。これらの結果は、HFD-32マウスの肝臓組織において脂肪の増加および液体の蓄積(炎症)を示しているが、これらはレトロ-Tf-D-LP4によって処置することが可能である。
【0155】
HFD-STAMマウスにおいてレトロ-Tf-D-LP4による血糖値の低下
以前の調査結果と一致して、血糖値は、通常(固形飼料)食を与えられたマウスにおける約150mg/dLから、HFD-32を与えられたマウスにおける450mg/dLまで、HFD-32食を与えられたマウスにおいて高度に上昇した(図14)。この上昇は、レトロ-Tf-D-LP4で処置されたマウスにおいて抑えられ、通常食を与えられたマウスの血糖値に匹敵する血糖値を示した。
【0156】
肝臓病理組織学的変化
形態変化は、固定、パラフィン包埋肝切片で、H&E染色を用いて評価した。HFD-32を与えられたマウスからの肝組織の代表的なH&E染色切片は、肝細胞内に示される脂肪滴の蓄積、炎症性細胞浸潤の拡散、および線維化によって特徴づけられる脂肪肝の徴候を示す(図15、16)。
【0157】
HFD-32を与えられたマウスからの肝臓は、脂肪滴の蓄積を示していた。対照的に、ペプチド処置マウスからの肝臓は、サイズおよび脂肪滴の数の両方が明白に減少したことを示した(図15A)。
【0158】
脂肪滴を良好に可視化するために、肝切片にオイルレッド染色を施した。HFD-32を与えられた3匹のマウスからの肝切片は、高度に赤色染色された脂肪滴が肝臓を占めていたが、一方通常(固形飼料)食を与えられたマウスまたはHFD-32を与えられ、ペプチドで処置されたマウスからの肝切片にはそのような染色が観察されなかった(図15B)。
【0159】
脂肪肝の別の特徴は、明らかに膨化した肝細胞の細胞形態であり、一般的に隣接の肝細胞の2~3倍のサイズであり、H&E染色切片上の透明になったわずかな細胞質によって特徴づけられる。肝細胞の膨化変性は、肝細胞の細胞死を伴う(Yip W W およびBurt A D.2006.Semin Diagn Pathol 23,149-160)。HFD-32を与えられたマウスからの肝臓は、膨化細胞の蓄積を示した(図16A)。対照的に、通常(ND、固形飼料)食を与えられたマウスからの肝臓には、膨化細胞が示されず、HFD-32を与えられ、ペプチドで処置されたマウスは膨化細胞が高度に減少したことを示した(図16A)。
【0160】
肝細胞膨化現象は、炎症(脂肪性肝炎)と関連している(Liangpunsakul SおよびChalasani N.2003.Curr Treat Options Gastroenterol 6,455-463)。実際、H&E染色は、HFD-32を与えられたマウスの肝臓内に炎症区域を示した。ペプチド処置マウス由来の組織切片において、炎症が高度に減少したことが肝組織切片中で認められた(図16B)。HFD-32を与えられ、続いてシリウスレッド染色で染色されたマウスの肝臓において線維化は目に見えたが、レトロ-インベルソ レトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置されたマウスにおいては高度に減少した(図16C)。
【0161】
レトロ-Tf-D-LP4ペプチドはNASHを阻害/後退させる
組織学的には、NASHは、極めて小さいものから肝細胞をほぼ埋めてしまうまで大きさが変化する脂肪球を有する大滴性脂肪肝によって、および線維化とともに、マロリー小体の有無にかかわらず肝細胞の膨化変性によって特徴づけられる(Kleiner Dら,2005.Hepatology 41,1313-1321)。
【0162】
本調査において、マウスに通常の固形飼料(対照)またはHFD-32を8週間与え(4~12週齢のマウス)、最後の3週間、HBSS中DMSO0.9%またはレトロ-Tf-D-LP4(10mg/kg)でマウスを処置した(図17A)。12週目の終わりに、マウスを犠牲にし、肝臓を撮影し(図17B)、計量し(図17C)、次いで病理組織学的分析、免疫ブロット分析またはqPCR分析のためのさらなるプロセシングのために固定または凍結させた。HFD-32食を与えられたマウスからの肝臓は、通常食(固定飼料)を与えられたマウス、またはレトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置されたHFD-32食を与えられたマウスの肝臓と比較して、黄色に見えた(図17B)。HFD-32を与えられたマウスからの肝臓の重量は、通常食(固形飼料)(ND)を与えられたマウスの肝臓と比較して、約1.8倍増加したが、一方この増加はレトロ-インベルソペプチドで処置したHFD-32を与えられたマウスにおいてわずかに1.4倍であった(図17C)。
【0163】
脂肪は、肝臓または身体の内臓に、大部分は腹腔内に蓄積され得る(内臓脂肪または腹部脂肪)。したがって、精巣上体脂肪(精巣上体)および腸間膜脂肪(腸間膜)を、HFD-32を与えられたマウスおよびHFD-32を与えられ、レトロ-Tf-LP4ペプチドで処置されたマウスから収集した。後者は、無処置マウスと比較して、約40%短い運命を示した(図17D)。
【0164】
HFD-32を与えられたマウスからのNASH肝組織の代表的なH&E染色切片は、脂肪肝について上に示したように、マクロベシクルおよびマイクロベシクルとともに脂肪滴蓄積を示した。これらのベシクルはペプチド処置群において高度に減少している(図18B)。HFD-32を与えられたマウスからの肝切片において、膨化肝細胞形態(図18C)および炎症(図18D)が明確に観察された。対照的に、通常食(固形飼料)を与えられたマウスからの肝臓は、膨化する細胞または炎症徴候を示さず(図18A)、HFD-32を与えられ、レトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置されたマウスは膨化および炎症の徴候をほとんど示さなかった(図18B~D)。
【0165】
肝線維化は、コラーゲン細胞外マトリクスの過剰な蓄積による持続的な障害に対する肝臓の異常応答である。肝線維化は、肝臓における慢性炎症によって刺激され、促進される(Czaja,A J. 2014. World J Gastroenterol 20,2515-2532)。コラーゲン、線維化マーカーのマッソントリクロームおよびシリウスレッド染色は、HFD-32を与えられたマウスの肝組織において、中心静脈および門脈域周囲の高レベルのコラ-ゲン繊維と、類洞周囲線維化の明白な徴候とを示したが、
HFD-32を与えられ、レトロ-Tf-D-LP4ペプチドで処置されたマウスの肝組織は、コラーゲン染色をほとんど示さず、ペプチド処置が炎症と線維化を防止したことを示唆する(図19)。
【0166】
HFD-32食は、肝細胞癌(HCC)をもたらし得る(Scorletti Eら,2014.Hepatology 60,1211-1221)。したがって、HFD-32を与えられたマウスにおいてNASH段階での微小腫瘍を探した。腫瘍形成能に関連した組織切片の小結節は、明らかに見られる(図20)。これらの小結節は、HFD-32を与えられ、ペプチドで処置されたマウスの肝切片中では認められず、レトロ-Tf-D-LP4ペプチドも腫瘍形成を防止することを示唆した。
【0167】
DEN-誘導性HCCにおいてTf-D-LP4は脂肪肝およびNASH発症を予防する
DENで誘導されたHCCマウスモデルを生成し、上述のように腫瘍が肝臓内で見えるようになってから、ペプチドで処置した。DENによって誘導されたHCCからの肝臓のH&E染色によって、脂肪肝を含む肝臓病変の腫瘍形成過程に沿って、膨化変性、炎症および線維化が発現されることが明確に示された(図21A、21B)。マウスをレトロ-Tf-D-LP4ペプチド(18mg/kg)で処置すると、そのような肝臓症状は観察されなかった(図21A、B)。これらの結果は、ペプチドがHCC成長ならびに肝臓関連の症状を予防することを示している。
【0168】
特定の実施形態についての前述の説明は、本発明の全般的な性質を完全に明らかにしているため、現在の知識を適用することにより、当業者が過度の実験を行うことなく、および一般的な概念から逸脱することなく、そのような特定の実施形態を種々の用途に合わせて容易に修正および/または適合させることができ、したがって、そのような適合および修正は開示された実施形態の均等物の意味および範囲内に包含されるべきであり、包含されることが意図される。本明細書で使用される語法または用語は説明を目的とするものであり、限定のためではないことを理解すべきである。種々の開示した機能を実施するための手段、材料およびステップは、本発明から逸脱することなく、様々な代替形態を取ることができる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図13C
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図17A
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図17C
図17D
図18A
図18B
図18C
図18D
図19
図20
図21A
図21B
【配列表】
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