(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】農作物の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20220610BHJP
A01G 7/04 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
A01G7/04 Z
(21)【出願番号】P 2018550298
(86)(22)【出願日】2017-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2017040804
(87)【国際公開番号】W WO2018088559
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2016221212
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】501111902
【氏名又は名称】株式会社片桐エンジニアリング
(73)【特許権者】
【識別番号】516341888
【氏名又は名称】NU-Rei株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 博司
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】石川 健治
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】秋山 真一
(72)【発明者】
【氏名】水野 正明
(72)【発明者】
【氏名】田 昭治
(72)【発明者】
【氏名】山川 晃司
(72)【発明者】
【氏名】中井 義浩
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-029117(JP,A)
【文献】特開2015-216872(JP,A)
【文献】特開平10-276597(JP,A)
【文献】特開2016-029919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00-31/06
A01K 61/00-63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する原料水溶液を準備する水溶液準備工程と、
前記原料水溶液にプラズマを照射して成長促進水溶液とする成長促進水溶液製造工程と、
農作物を育成する育成水に前記成長促進水溶液を混入する育成工程と、
を有すること
を特徴とする農作物の生産方法。
【請求項2】
請求項1
に記載の農作物の生産方法において、
前記成長促進水溶液を冷凍する冷凍工程を有すること
を特徴とする農作物の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、農作物の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。プラズマの内部では、電子やイオン等の荷電粒子の他に、紫外線やラジカルが発生する。これらには、生体組織の殺菌をはじめとして、生体組織に対する種々の効果があることが分かってきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水にプラズマを照射することにより水中の微生物等を殺菌する技術が開示されている。また、特許文献1のプラズマ装置は、水中に電流を流すことなくプラズマを水中に照射することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、プラズマを用いて微生物を殺菌する技術については多くの研究開発がなされてきている。プラズマは、上記のように、生物を死滅させるために用いられてきた。そのため、農作物や魚類といった生物を成育させるためにプラズマを利用することなど到底考えられなかった。
【0006】
そこで、本発明者らは、プラズマを利用して農作物および魚類の成長を促進する技術を新たに開発した。
【0007】
本明細書の技術は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、プラズマを利用して農作物の成長を促進する農作物の生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様における農作物の生産方法は、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する原料水溶液を準備する水溶液準備工程と、原料水溶液にプラズマを照射して成長促進水溶液とする成長促進水溶液製造工程と、農作物を育成する育成水に成長促進水溶液を混入する育成工程と、を有する。
【0009】
この農作物の生産方法は、農作物の成長を促進する成長促進水溶液を農作物の育成水に混入する。そのため、農作物は、好適に生育する。
【0010】
【0011】
【0012】
第2の態様における農作物の生産方法は、さらに、成長促進水溶液を冷凍する冷凍工程を有する。
【0013】
【0014】
【発明の効果】
【0015】
本明細書では、プラズマを利用して農作物の成長を促進する農作物の生産方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施形態における成長促進水溶液の製造装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2.Aは第1のプラズマ発生装置の構成を示す断面図であり、
図2.Bは電極の形状を示す図である。
【
図3】
図3.Aは第2のプラズマ発生装置の構成を示す断面図であり、
図3.Bはプラズマ領域の長手方向に垂直な断面における部分断面図である。
【
図5】蒸留水を供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
【
図6】250倍に希釈したプラズマ水を供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
【
図7】250倍に希釈したラクテック(登録商標)を供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
【
図8】1000倍に希釈したラクテック(登録商標)を供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
【
図9】250倍に希釈したPALを供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
【
図10】1000倍に希釈したPALを供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
【
図11】実験Bにおける実験方法を説明するための図である。
【
図12】3週間飼育した後のゼブラフィッシュの体長を示すグラフである。
【
図13】成長促進水溶液(PAL)を投与せずに3週間飼育したゼブラフィッシュを示す写真である。
【
図14】原料水溶液(ラクテック(登録商標))を3週間投与したゼブラフィッシュを示す写真である。
【
図15】プラズマを照射した成長促進水溶液(PAL)を3週間投与したゼブラフィッシュを示す写真(その1)である。
【
図16】プラズマを照射した成長促進水溶液(PAL)を3週間投与したゼブラフィッシュを示す写真(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、具体的な実施形態について、成長促進水溶液とその製造装置並びに農作物および魚類の生産方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。
【0019】
1.成長促進水溶液
第1の実施形態の農作物の生産方法に用いられる成長促進水溶液は、原料水溶液に非平衡大気圧プラズマを照射したものである。ここで、原料水溶液は、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する。
【0020】
2.農作物の生産方法の概要
第1の実施形態の農作物の生産方法においては、農作物に供給する第1の育成水に成長促進水溶液を混入して第2の育成水とする。第1の育成水は、水の他に農作物の栄養を含んでいる。農作物は、第2の育成水を供給される。そのため、農作物は、栄養を補給されるとともに、成長をさらに促進される。
【0021】
3.成長促進水溶液の製造装置
3-1.成長促進水溶液の製造装置の基本的構成
図1は、成長促進水溶液の製造装置1000の概略構成を示す図である。製造装置1000は、
図1に示すように、プラズマ照射部P1と、原料水溶液貯蔵庫1100と、成長促進水溶液貯蔵庫1200と、電源ユニット1300と、ポンプ1401、1402と、流路1501、1502、1503、1504、1505と、を有する。
【0022】
プラズマ照射部P1は、原料水溶液に非平衡大気圧プラズマを照射して成長促進水溶液を製造するためのものである。プラズマ照射部P1は、プラズマ発生装置P1aと反応槽P1bとを有する。反応槽P1bは、プラズマ照射前の原料水溶液もしくはプラズマ照射後の成長促進水溶液を溜めておくための水槽である。プラズマ発生装置P1aは、例えば、後述するプラズマ発生装置P10、P20である。
【0023】
原料水溶液貯蔵庫1100は、プラズマ照射前の原料水溶液を貯蔵するためのものである。成長促進水溶液貯蔵庫1200は、プラズマ照射後の成長促進水溶液を貯蔵するためのものである。
【0024】
電源ユニット1300は、各部に電力を供給するためのものである。また、電源ユニット1300は、各部を制御する制御部を有する。
【0025】
ポンプ1401は、原料水溶液貯蔵庫1100から原料水溶液をプラズマ照射部P1の反応槽P1bに供給するための第1のポンプである。ポンプ1402は、プラズマ照射部P1の反応槽P1bから成長促進水溶液を成長促進水溶液貯蔵庫1200に供給するためのポンプである。
【0026】
流路1501は、原料水溶液貯蔵庫1100とポンプ1401とをつないでいる。流路1502は、ポンプ1401とプラズマ照射部P1の反応槽P1bとをつないでいる。流路1503は、プラズマ照射部P1の反応槽P1bとポンプ1402とをつないでいる。流路1504は、ポンプ1402と成長促進水溶液貯蔵庫1200とをつないでいる。流路1505は、成長促進水溶液貯蔵庫1200と育成水の貯蔵庫(図示せず)とをつないでいる。
【0027】
3-2.成長促進水溶液の製造装置の動作
電源ユニット1300の制御部は、次のように各部を制御する。まず、原料水溶液貯蔵庫1100から原料水溶液をプラズマ照射部P1の反応槽P1bに供給する。次に、プラズマ照射部P1が、反応槽P1bの原料水溶液にプラズマを照射して成長促進水溶液を製造する。次に、成長促進水溶液が反応槽P1bから成長促進水溶液貯蔵庫1200に供給される。そして、成長促進水溶液貯蔵庫1200は、成長促進水溶液を貯蔵する。そして、成長促進水溶液は、育成水に混合される。育成水は、農作物に散布される。
【0028】
4.プラズマ発生装置
4-1.第1のプラズマ発生装置
図2.Aはプラズマ発生装置P10の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P10は、プラズマを点状に噴出する第1のプラズマ発生装置である。
図2.Bは、
図2.Aのプラズマ発生装置P10の電極2a、2bの形状の詳細を示す図である。
【0029】
プラズマ発生装置P10は、筐体部10と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部10は、アルミナ(Al2 O3 )を原料とする焼結体から成るものである。そして、筐体部10の形状は、筒形状である。筐体部10の内径は2mm以上3mm以下である。筐体部10の厚みは0.2mm以上0.3mm以下である。筐体部10の長さは10cm以上30cm以下である。筐体部10の両端には、ガス導入口10iと、ガス噴出口10oとが形成されている。ガス導入口10iは、プラズマを発生させるためのガスを導入するためのものである。ガス噴出口10oは、プラズマを筐体部10の外部に照射するための照射部である。なお、ガスの移動する向きは、図中の矢印の向きである。
【0030】
電極2a、2bは、対向して配置されている対向電極対である。電極2a、2bの対向面方向の長さは、筐体部10の内径より小さい。例えば1mm程度である。電極2a、2bには、
図2.Bに示すように、対向面のそれぞれに凹部(ホロー)Hが多数形成されている。そのため、電極2a、2bの対向面は、微細な凹凸形状となっている。なお、この凹部Hの深さは、0.5mm程度である。
【0031】
電極2aは、筐体部10の内部であってガス導入口10iの近傍に配置されている。電極2bは、筐体部10の内部であってガス噴出口10oの近傍に配置されている。そのため、プラズマ発生装置P10では、電極2aの対向面の反対側からガスを導入するとともに、電極2bの対向面の反対側にガスを噴出するようになっている。そして、電極2a、2b間の距離は、例えば、24cmである。電極2a、2b間の距離は、これより小さい距離であってもよい。
【0032】
電圧印加部3は、電極2a、2b間に交流電圧を印加するためのものである。電圧印加部3は、商用交流電圧である、60Hz、100Vを用いて9kVに昇圧するとともに、電極2a、2b間に電圧を印加する。
【0033】
ガス導入口10iからアルゴンを導入するとともに、電圧印加部3により、電極2a、2b間に電圧を印加すると、筐体部10の内部にプラズマが発生する。
図2.Aの斜線で示すように、プラズマが発生する領域をプラズマ発生領域Pとする。プラズマ発生領域Pは、筐体部10に覆われている。
【0034】
4-2.第2のプラズマ発生装置
図3.Aはプラズマ発生装置P20の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P20は、プラズマを線状に噴出する第2のプラズマ発生装置である。
図3.Bは、
図3.Aのプラズマ発生装置P20のプラズマ領域Pの長手方向に垂直な断面における部分断面図である。
【0035】
プラズマ発生装置P20は、筐体部11と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部11は、アルミナ(Al2 O3 )を原料とする焼結体から成るものである。筐体部11の両端には、ガス導入口11iと、多数のガス噴出口11oとが形成されている。ガス導入口11iは、
図3.Aの左右方向を長手方向とするスリット形状をしている。ガス導入口11iからプラズマ領域Pの直上までのスリット幅(
図3.Bの左右方向の幅)は1mmである。
【0036】
ガス噴出口11oは、プラズマを筐体部11の外部に照射するための照射部である。ガス噴出口11oは、円筒形状もしくはスリット形状である。円筒形状の場合のガス噴出口11oは、プラズマ領域の長手方向に沿って一直線状に形成されている。ガス噴出口11oの内径は1mm以上2mm以下の範囲内である。また、スリット形状の場合には、ガス噴出口11oのスリット幅を1mm以下とすることが好ましい。これにより、安定したプラズマが形成される。また、ガス導入口11iは、電極2aと電極2bとを結ぶ線と交差する向きにガスを導入するようになっている。
【0037】
電極2a、2bおよび電圧印加部3については、
図2に示したプラズマ発生装置P10と同じものである。そして、同様に、商用交流電圧を用いて、電極2a、2b間に電圧を印加する。これにより、プラズマを一直線状に噴出することができる。
【0038】
また、この一直線状にプラズマを噴出するプラズマ発生装置P20を
図3.Bの左右方向に列状に並べて配置すれば、プラズマをある長方形の領域にわたって平面的に噴出することができる。
【0039】
4-3.プラズマ発生装置により発生されるプラズマ
プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。ここで、大気圧プラズマとは、0.5気圧以上2.0気圧以下の範囲内の圧力であるプラズマをいう。
【0040】
本実施形態では、プラズマ発生ガスとして、主にArガスを用いる。プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマの内部では、もちろん、電子と、Arイオンとが生成されている。そして、Arイオンは、紫外線を発生させる。また、このプラズマは大気中に放出されている。そのため、酸素や窒素に由来するラジカルが発生する。
【0041】
このプラズマのプラズマ密度は、1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内である。なお、誘電体バリア放電により発生されるプラズマにおけるプラズマ密度は、1×1011cm-3以上1×1013cm-3以下程度である。したがって、プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマのプラズマ密度は、誘電体バリア放電により発生されるプラズマのプラズマ密度に比べて、3桁程度大きい。したがって、このプラズマの内部では、より多くのArイオンが生成する。そのため、ラジカルや、紫外線の発生量も多い。なお、このプラズマ密度は、プラズマ内部の電子密度にほぼ等しい。
【0042】
そして、このプラズマ発生時におけるプラズマ温度は、およそ1000K以上2500K以下の範囲内である。また、このプラズマにおける電子温度は、ガスの温度に比べて大きい。しかも、電子の密度が1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内の程度であるにもかかわらず、ガスの温度はおよそ1000K以上2500K以下の範囲内である。このプラズマの温度は、プラズマの発生しているプラズマ発生領域Pでの温度である。したがって、プラズマの条件や、ガス噴出口から水面までの距離を異なる条件とすることにより、液面の位置でのプラズマ温度を室温程度とすることができる。
【0043】
5.農作物の生産方法
5-1.水溶液準備工程
まず、原料水溶液を準備する。原料水溶液とは、プラズマを照射する前の水溶液である。原料水溶液は、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する。
【0044】
5-2.成長促進水溶液製造工程
次に、製造装置1000を用いて大気圧プラズマを原料水溶液に照射する。プラズマを照射する際における水溶液の液面とプラズマ照射口との間の距離は、例えば、0.1cm以上3cm以下である。もちろん、これ以外であってもよい。これらのプラズマ条件を表1に示す。これらの条件は、あくまで一例である。
【0045】
[表1]
条件 数値範囲
液面-噴出口距離 0.1cm以上 3cm以下
プラズマ密度 1×1014cm-3以上 1×1017cm-3以下
プラズマ温度 1000K以上 2500K以下
【0046】
このように、原料水溶液にプラズマを照射することにより、成長促進水溶液を製造する。
【0047】
5-3.農作物の育成工程
農作物を育成する第1の育成水に成長促進水溶液を混入して第2の育成水を製造する。そして、第2の育成水を農作物に供給する。これにより、農作物は、栄養を補給されるとともに成長を促進される。
【0048】
6.成長促進水溶液の効果
本実施形態の成長促進水溶液は、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する原料水溶液に非平衡大気圧プラズマを照射したものである。後述する実施例の項目でも説明するが、この成長促進水溶液は、微生物等を殺菌するのではなく、農作物の成長を促進する。成長促進水溶液は、何らかの活性物質を含んでおり、何らかの形で農作物を活性化させていると考えられる。
【0049】
7.変形例
7-1.プラズマ装置
本実施形態のプラズマ発生装置P10、P20以外のプラズマ発生装置を用いてもよい。また、プラズマ発生装置P10、P20の寸法等の数値は例示であり、上記以外の数値であってもよい。ただし、プラズマ密度は、十分に高いことが好ましい。
【0050】
8.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態の成長促進水溶液は、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する原料水溶液に非平衡大気圧プラズマを照射したものである。成長促進水溶液は、農作物の成長を促進する効果を有する。
【0051】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、成長促進水溶液を魚類の育成に用いる。したがって、異なる点について説明する。
【0052】
1.魚類の生産方法の概要
第2の実施形態の魚類の生産方法においては、魚類に供給する第3の育成水に成長促進水溶液を混入して第4の育成水とする。第3の育成水は、水を含んでいる。また、プランクトン等を含んでいてもよい。魚類は、第4の育成水を供給される。そのため、魚類は、成長をさらに促進される。
【0053】
2.魚類の生産方法
2-1.水溶液準備工程
L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する原料水溶液を準備する。
【0054】
2-2.成長促進水溶液製造工程
次に、原料水溶液にプラズマを照射して成長促進水溶液にする。
【0055】
2-3.魚類の育成工程
次に、成長促進水溶液を第3の育成水に混入して第4の育成水を製造する。そして、第4の育成水を魚類を飼育する水槽等に供給する。
【0056】
第4の育成水にする際には、成長促進水溶液の濃度を50倍以上10000倍以下の濃度に希釈する。このように、稚魚の育成水における単位体積当たりのプラズマ密度時間積を3.75×1011sec・cm-3・ml-1以上7.5×1016sec・cm-3・ml-1以下とする。この成長促進水溶液の希釈率は、好ましくは、100倍以上1000倍以下である。また、もちろん、稚魚に別途エサを与える。
【0057】
なお、本実施形態の成長促進水溶液を製造するためには、成長促進水溶液における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、3.75×1015sec・cm-3・ml-1以上3.75×1018sec・cm-3・ml-1以下であるとよい。ここで、単位体積当たりのプラズマ密度時間積とは、(プラズマ密度)×(照射時間)/(原料水溶液の体積)である。つまり、単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、単位体積当たりの原料水溶液に照射されるプラズマ生成物の量である。
【0058】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。第3の実施形態は、第1の実施形態の工程に加えて、冷凍工程を有する。
【0059】
1.冷凍工程
成長促進水溶液を保存するために冷凍工程を実施してもよい。冷凍工程は、成長促進水溶液製造工程の後であって育成工程の前に実施する。冷凍工程では、成長促進水溶液を-196℃以上0℃以下の範囲内で冷凍する。具体的には、冷凍庫に保存する。冷凍庫として例えば、生物実験用冷蔵庫(例えば、日本フリーザー株式会社製のバイオフリーザーGS-5203KHC)を用いることができる。
【0060】
この冷凍庫で冷凍した成長促進水溶液の温度は、-28℃以上-14℃以下の範囲内である。また、成長促進水溶液の温度は、この範囲に限らない。通常の冷凍温度であればよい。例えば、-196℃以上0℃以下の範囲内である。好ましくは、-196℃以上-10°以下である。より好ましくは、-150℃以上-20℃以下である。さらに好ましくは、-80℃以上―30℃以下である。
【0061】
この冷凍工程をすることにより、成長促進水溶液を保存することができる。そのため、育成水に混入する前に冷凍状態の成長促進水溶液を解凍すればよい。
【実施例】
【0062】
1.実験A(農作物の育成)
1-1.ハツカダイコン
農作物としてハツカダイコンを用いた。
【0063】
1-2.水溶液の種類
ハツカダイコンに供給する水溶液を6種類用意した。6種類の水溶液を次の表2に示す。
【0064】
[表2]
サンプル1 蒸留水
サンプル2 プラズマ水 250倍希釈
サンプル3 ラクテック(登録商標) 250倍希釈
サンプル4 ラクテック(登録商標) 1000倍希釈
サンプル5 プラズマを照射したラクテック(登録商標) 250倍希釈
サンプル6 プラズマを照射したラクテック(登録商標) 1000倍希釈
【0065】
ここで、ラクテック(登録商標)は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L-乳酸ナトリウムと、を含有する。塩化ナトリウムの濃度は、6.0g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウム水和物の濃度は、0.2g/Lである。L-乳酸ナトリウムの濃度は、3.1g/Lである。
【0066】
プラズマを照射したラクテック(登録商標)は、ラクテック(登録商標)と同じ成分の水溶液にプラズマを照射した溶液(PAL:Plasma Activated Lactec(Lactecは登録商標))である。これは、実施形態で説明した成長促進水溶液である。
【0067】
プラズマ装置として、プラズマ発生装置P20を用いた。プラズマの照射時間は、5分であった。ガスの種類としてアルゴンガスを用いた。プラズマ発生装置P20では、プラズマ発生領域と原料水溶液との間の距離は、3mmであった。プラズマ発生装置P20におけるプラズマ密度は、2×1016cm-3であった。プラズマ照射時間は5分であった。プラズマを照射したときのラクテック(登録商標)の量は8mlであった。
【0068】
蒸留水は、通常の蒸留水である。プラズマ水は、蒸留水にプラズマを照射したものである。プラズマの照射条件は、ラクテック(登録商標)に照射した場合と同じである。
【0069】
1-3.実験方法
図4は、実験Aの実験方法の概要を示す図である。脱脂綿の上に15個のハツカダイコンの種子を播種したものを6皿準備した。そして、前述の6種類の水溶液を6皿にそれぞれ20ml供給した。暗所で2日放置して発芽させた。そして、光の当たる場所で発芽後4日間生育した。発芽後には、それぞれ供給した水溶液を追加した。
【0070】
そのため、発芽前にはハツカダイコンは種子が蓄えている栄養で生育する。発芽後にはハツカダイコンは光合成により栄養を得ている。
【0071】
1-4.実験結果
図5は、蒸留水を供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
図6は、250倍に希釈したプラズマ水を供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
図7は、250倍に希釈したラクテック(登録商標)を供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
図8は、1000倍に希釈したラクテック(登録商標)を供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
図9は、250倍に希釈したPALを供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
図10は、1000倍に希釈したPALを供給して生育したハツカダイコンを示す写真である。
【0072】
図5から
図10までに示すように、蒸留水、プラズマ水、ラクテック(登録商標)で生育したハツカダイコンは、全体としてそれほど好適に成長していない。茎がまっすぐではなく、斜め方向に成長しているものも多い。一方、PALで生育したハツカダイコンは、全体として好適に成長している。ほとんどの茎がまっすぐに成長している。
【0073】
実験結果をまとめたものを表3に示す。表3に示すように、1000倍に希釈したPALを用いたハツカダイコンが最も発育が良かった。プラズマ水を用いたハツカダイコンが、最も発育が悪かった。プラズマ水を用いたハツカダイコンは、蒸留水を用いたハツカダイコンに比べて悪かった。ラクテック(登録商標)を用いたハツカダイコンは、蒸留水を用いたハツカダイコンに比べて同程度に生育した。PALを用いたハツカダイコンは、蒸留水を用いたハツカダイコンに比べて好適に生育した。
【0074】
[表3]
サンプル 生育良好 背丈低い 生育不良、未発芽
(≧2.5cm) (<2.5cm)
サンプル1 10 5 0
サンプル2 8 3 4
サンプル3 10 2 3
サンプル4 11 2 2
サンプル5 12 0 3
サンプル6 15 0 0
【0075】
1-5.考察
前述したように、プラズマ水を供給したハツカダイコンの成育は悪かった。プラズマ水は、過酸化水素等の活性酸素種を含んでいると考えられる。そして、活性酸素種は、殺菌効果を有している。しかし、本実験においては、殺菌効果を備えるプラズマ水を供給した場合には、ハツカダイコンはそれほど生育しなかった。つまり、ハツカダイコンは、殺菌効果のある水を供給されたところで好適に生育するわけではない。
【0076】
一方、PALを供給されたハツカダイコンは、好適に生育している。したがって、PALは、殺菌作用ではなく、農作物の成長を促進する何らかの効果を有していると考えられる。
【0077】
また、ラクテック(登録商標)を供給したハツカダイコンの成育の程度は、蒸留水を供給したハツカダイコンの成育の程度と同程度であった。そのため、ラクテック(登録商標)自体が、ハツカダイコンの栄養であるともいえない。
【0078】
ここで、ラクテック(登録商標)は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L-乳酸ナトリウムと、を含有する。そして、大気圧プラズマを供給することにより、酸素に由来するラジカル、窒素に由来するラジカル、窒素酸化物に由来するラジカル、酸素や窒素の励起状態等が生じる。そして、水溶液中で上記の物質が反応し合う。また、水溶液中で多段階反応を起こす可能性もある。そのため、農作物を活性化する物質が具体的に何であるかを特定することは困難である。
【0079】
2.実験B(稚魚の育成)
2-1.稚魚
本実験では、ゼブラフィッシュの稚魚を育成した。実験開始時におけるゼブラフィッシュの体長は3mm程度である。
【0080】
2-2.成長促進水溶液の製造
成長促進水溶液は、実験Aと同様である。ただし、プラズマ照射装置P20と液面との間の距離は2mmであった。それ以外の各種条件は、実験Aと同様である。
【0081】
2-3.成長促進水溶液の添加
図11に示すように、ゼブラフィッシュを10cmディッシュの中で飼育した。飼育に用いた育成水の体積は30mLであった。そして、この育成水に1日1回0.1mLの成長促進水溶液(PAL)を投与した。つまり、成長促進水溶液を300倍に薄めた。そして、この投与を3週間継続した。また、3週間継続してエサをゼブラフィッシュに与えた。そして、3週間後にゼブラフィッシュに麻酔をかけて体長を測定した。
【0082】
2-4.実験結果
図12は、3週間飼育した後のゼブラフィッシュの体長を示すグラフである。
図12の一番左側のデータは、成長促進水溶液(PAL)を投与せずに3週間飼育したゼブラフィッシュの体長である。
図12の左側から2番目のデータは、原料水溶液(ラクテック(登録商標))を3週間投与したゼブラフィッシュの体長である。
図12に左側から3番目のデータは、2つの電極のうちの一方を水中に備えるプラズマ発生装置によりプラズマを照射した成長促進水溶液(PAL)を3週間投与したゼブラフィッシュの体長である。
図12の一番右側のデータは、プラズマ発生装置P20によりプラズマを照射した成長促進水溶液(PAL)を3週間投与したゼブラフィッシュの体長である。
【0083】
図12に示すように、成長促進水溶液(PAL)を投与したゼブラフィッシュの体長は、成長促進水溶液(PAL)を投与しなかったゼブラフィッシュの体長よりも大きい。また、プラズマを照射していない原料水溶液(ラクテック(登録商標))を育成水に投与するか否かによるゼブラフィッシュの体長の変化はほとんどない。そして、ゼブラフィッシュの体長は、成長促進水溶液(PAL)を製造するためのプラズマ発生装置の種類にはほとんど依存しない。
【0084】
図13は、成長促進水溶液(PAL)を投与せずに3週間飼育したゼブラフィッシュを示す写真である。ゼブラフィッシュの体長は、4.9±0.2mmであった。
図14は、原料水溶液(ラクテック(登録商標))を3週間投与したゼブラフィッシュを示す写真である。ゼブラフィッシュの体長は、5.0±0.1mmであった。
図15は、プラズマを照射した成長促進水溶液(PAL)を3週間投与したゼブラフィッシュを示す写真(その1)である。ゼブラフィッシュの体長は、5.7±0.3mmであった。
図16は、プラズマを照射した成長促進水溶液(PAL)を3週間投与したゼブラフィッシュを示す写真(その2)である。
図15では、電極の一方が水中に配置されているプラズマ発生装置を用いた。
図16では、プラズマ発生装置P20を用いた。ゼブラフィッシュの体長は、5.6±0.1mmであった。
【0085】
以上説明したように、ラクテック(登録商標)にプラズマを照射した成長促進水溶液(PAL)を魚類の飼育液に投与すると、魚類の成長は促進される。
【0086】
2-5.単位体積当たりのプラズマ密度時間積
プラズマの照射量としてプラズマ密度時間積を用いる。プラズマ密度時間積は、プラズマ密度と照射時間との積である。プラズマ密度時間積は、プラズマを照射した量を表している。また、単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、成長促進水溶液(PAL)の単位体積当たりに照射されたプラズマ生成物の量を表している。
【0087】
ここで、プラズマ発生装置P20におけるプラズマ密度は、2×1016cm-3である。プラズマ照射時間は300secである。原料水溶液の体積は8mlである。したがって、成長促進水溶液(PAL)における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、7.5×1017sec・cm-3・ml-1である。そして、育成水においては、300倍に薄めて使用する。そのため、育成水における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、2.5×1015sec・cm-3・ml-1である。
【0088】
ここで、成長促進水溶液(PAL)については、育成水に対して50倍以上10000倍以下に薄めてよい。その場合には、育成水における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、7.5×1013sec・cm-3・ml-1以上1.5×1016sec・cm-3・ml-1以下である。また、成長促進水溶液(PAL)については、育成水に対して100倍以上1000倍以下に薄めるとなおよい。その場合には、育成水における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、7.5×1014sec・cm-3・ml-1以上7.5×1015sec・cm-3・ml-1以下である。
【0089】
また、第2の実施形態で説明したように、成長促進水溶液における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、3.75×1015sec・cm-3・ml-1以上3.75×1018sec・cm-3・ml-1以下であるとよい。この場合に、育成水に対して50倍以上10000倍以下に薄める場合を考える。この場合には、育成水における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、3.75×1011sec・cm-3・ml-1以上7.5×1016sec・cm-3・ml-1以下である。
【0090】
3.実験C(農作物の糖度)
3-1.さくらんぼ
農作物として桜桃を用いた。桜桃にはさくらんぼの実がなる。
【0091】
3-2.水溶液の種類
ラクテック(登録商標)にプラズマを照射した成長促進水溶液(PAL)を用意した。実験Cにおける成長促進水溶液(PAL)は、ラクテック(登録商標)にプラズマを照射したものである。プラズマガスとして3slmのArガスを用いた。プラズマ装置と溶液との間の距離は5mmであった。プラズマの照射時間は300秒であった。ラクテック(登録商標)の量は7cm3 であった。上記の成長促進水溶液(PAL)を36バッチ製造した。ただし、最後のバッチではラクテック(登録商標)の量は5cm3 であった。これにより、250cm3 の成長促進水溶液(PAL)を得た。そして、その成長促進水溶液(PAL)を6Lに希釈した。つまり、希釈率は24倍である。
【0092】
3-3.実験方法
実験方法を表4に示す。樹木C1、樹木C2には成長促進水溶液(PAL)を散布した。樹木C1には、噴霧器により枝に2Lの成長促進水溶液(PAL)を散布するとともに、樹木C1の根元の土に2Lの成長促進水溶液(PAL)を散布した。樹木C2には、樹木C2の根元の土に2Lの成長促進水溶液(PAL)を散布した。このように、1回当たり合計6Lの成長促進水溶液(PAL)を消費した。散布期間は桜桃の花が満開になってから3週間である。そして成長促進水溶液(PAL)の供給を停止してから1週間後にさくらんぼを収穫した。散布頻度は週に2~3回である。なお、樹木C1~C3には、PALとは別に、通常の生育に用いられる量の水を与えている。
【0093】
[表4]
樹木 PALの散布方法
樹木C1 樹木に2L + 土に2L
樹木C2 土に2L
樹木C3 PAL無し
【0094】
3-4.実験結果
実験結果を表5に示す。表5の糖度は、桜桃のさくらんぼの実の糖度である。表5に示すように、成長促進水溶液(PAL)を与えた樹木C1、C2の糖度は、成長促進水溶液(PAL)を与えなかった樹木C3の糖度よりも高い。成長促進水溶液(PAL)を与えることにより、糖度が5%ほど向上している。
【0095】
[表5]
樹木 PALの散布方法 糖度
樹木C1 樹木に2L + 土に2L 21.1
樹木C2 土に2L 21.0
樹木C3 PAL無し 20.1
【符号の説明】
【0096】
1000…製造装置
1100…原料水溶液貯蔵庫
1200…成長促進水溶液貯蔵庫
1300…電源ユニット
P1…プラズマ照射部
P1a…プラズマ発生部
P1b…反応槽
P10、P20…プラズマ発生装置
10、11…筐体部
10i、11i…ガス導入口
10o、11o…ガス噴出口
2a、2b…電極
P…プラズマ領域
H…凹部(ホロー)