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特許7085753反射防止機能付き熱可塑性シート及びその製造方法、並びにこれを用いた画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】反射防止機能付き熱可塑性シート及びその製造方法、並びにこれを用いた画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220610BHJP
   G02B 1/11 20150101ALI20220610BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20220610BHJP
   B29D 7/01 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
B32B27/00 C
G02B1/11
G09F9/00 313
B29D7/01
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018180434
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020049746
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】399020212
【氏名又は名称】東山フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 将幸
(72)【発明者】
【氏名】服部 真士
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-261277(JP,A)
【文献】特開平10-086286(JP,A)
【文献】特開平11-316303(JP,A)
【文献】特開平10-221525(JP,A)
【文献】国際公開第2009/028330(WO,A1)
【文献】特開2013-099867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 63/00-67/08
67/24-69/02
73/00-73/34
B29D 1/00-29/10
33/00
99/00
B33Y 10/00-99/00
G09F 9/00
G02B 1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み0.1~15mmの熱可塑性透明シートと、該熱可塑性透明シートの少なくとも一方の面の上に設けられた厚み0.005~0.4mmの反射防止フィルムとの溶着体であり、揮発性有機溶剤の残存量が0.005~4.3質量%である反射防止機能付き熱可塑性シート。
【請求項2】
下記の工程(a)~(d)を含む、請求項1に記載の反射防止機能付き熱可塑性シートの製造方法。
工程(a):厚み0.1~15mmの熱可塑性透明シート、及び熱可塑性透明基材フィルムと反射防止層とを備える厚み0.005~0.4mmの反射防止フィルムを準備する工程
工程(b):厚み0.1~15mmの熱可塑性透明シートの一方の面、及び/又は厚み0.005~0.4mmの反射防止フィルムの反射防止層を備えていない面の上に、揮発性有機溶剤を0.08~80g/mの塗布量でコーティングする工程
工程(c):前記の揮発性有機溶剤が残存した状態で、前記熱可塑性透明シートの一方の面と、前記反射防止フィルムの反射防止層を備えていない面とを対向させて、前記の反射防止フィルムと熱可塑性透明シートを圧着して圧着シートを得る工程
工程(d):前記の工程(c)で得られた圧着シートを乾燥する工程
【請求項3】
前記の工程(d)における乾燥温度が、20~100℃であることを特徴とする請求項2に記載の反射防止機能付き熱可塑性シートの製造方法。
【請求項4】
前記の工程(c)における揮発性有機溶剤の残存量が、0.04~40g/mであることを特徴とする請求項2または3に記載の反射防止機能付き熱可塑性シートの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性透明シートがポリメチルメタクリレート樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体樹脂及びポリカーボネート樹脂のいずれかからなる単層シート、ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂の2層シート、又はポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂/ポリメチルメタクリレート樹脂の3層シートであり、
前記熱可塑性透明基材フィルムがポリメチルメタクリレート樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体樹脂、ABS樹脂、及びポリカーボネート樹脂のいずれかからなる単層フィルム、ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂の2層フィルム、又はポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂/ポリメチルメタクリレート樹脂の3層フィルムである、請求項2~4のいずれか1項に記載の反射防止機能付き熱可塑性シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の反射防止機能付き熱可塑性シートの加熱成型物を表面に備えることを特徴とする、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ディスプレイ、タッチパネル、あるいは携帯型情報端末等の画像表示装置に用いられる反射防止機能付き熱可塑性シート及びその製造方法、並びにこれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ、タッチパネル、あるいは携帯型情報端末等の画像表示装置には、表面を保護するために樹脂製の保護板が用いられる。この保護板には、表示装置内部からの発熱への耐性のほか、光学的透明性や反射防止機能といった様々な機能が要求され、さらにセンターインフォメーションディスプレイ、メーターパネル、ヒートコントロールパネルといった個々の画像表示装置においては、デザインの高度化に伴い機能要求も高まっている。この保護板は、生産性の点から透明シート上に機能性フィルムを貼合して製造される。さらに近年では、この保護板に対して、画像表示装置の意匠性を高めるため、加熱成型や切削加工の後加工工程が可能である熱可塑性シートが使用されている(例えば、特許文献1、2)。特許文献1、2には、具体的には、反射防止機能を有するフィルムを、粘着層やホットメルト層を介して、透明性に優れるポリカーボネート板等に貼合した反射防止機能を有する熱可塑性シートについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-189625号公報
【文献】特開2005-227415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像表示装置製品により高度な意匠性が求められるようになってくるにつれ、これらの熱可塑性シートに対する要求水準も高まっている。反射防止機能を有する熱可塑性シートの製造においては、貼合に粘着剤を使用した場合には、熱により発生するガスによって外観が悪化したりする等の耐熱性が低下し、切削加工時に粘着剤が飛び出る不具合や、これに伴うフィルムの剥がれが生じるなどの切削加工耐性が悪くなる。ガス発生の少ない接着剤を用いた場合には、被着体と接着剤の屈折率差により、透過率の低下を引き起こしてしまう。
貼合する反射防止フィルムの設計機能を損なうことなく、かつ上記耐熱性及び切削加工耐性が良好な反射防止機能を有する熱可塑性シートが求められているのである。
【0005】
そこで、本発明の目的は、反射防止機能等の光学的特性が良好であり、良好な外観を高温負荷後にも維持でき、切削加工時にフィルムとシートの界面で剥がれが生じ難い反射防止機能付き熱可塑性シート及びその製造方法、並びにこれを用いた画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定厚みの熱可塑性透明シートと、該熱可塑性透明シートの少なくとも一方の面の上に設けられた、特定厚みの反射防止フィルムとの溶着体である反射防止機能付き熱可塑性シートにおいて、揮発性有機溶剤の残存量を特定範囲にすることにより、上記課題を解決しうることの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の〔1〕~〔6〕である。
【0007】
〔1〕厚み0.1~15mmの熱可塑性透明シートと、該熱可塑性透明シートの少なくとも一方の面の上に設けられた厚み0.005~0.4mmの反射防止フィルムとの溶着体であり、揮発性有機溶剤の残存量が0.005~4.3質量%である反射防止機能付き熱可塑性シート。
〔2〕下記の工程(a)~(d)を含む、上記〔1〕に記載の反射防止機能付き熱可塑性シートの製造方法。
工程(a):厚み0.1~15mmの熱可塑性透明シート、及び熱可塑性透明基材フィルムと該熱可塑性透明基材フィルムの一方の面に設けられた反射防止層とを備える厚み0.005~0.4mmの反射防止フィルムを準備する工程
工程(b):厚み0.1~15mmの熱可塑性透明シートの一方の面、及び/又は厚み0.005~0.4mmの反射防止フィルムの反射防止層を備えていない面の上に、揮発性有機溶剤を0.08~80g/mの塗布量でコーティングする工程
工程(c):前記の揮発性有機溶剤が残存した状態で、前記熱可塑性透明シートの一方の面と、前記反射防止フィルムの反射防止層を備えていない面とを対向させて、前記の反射防止フィルムと熱可塑性透明シートを圧着して圧着シートを得る工程
工程(d):前記の工程(c)で得られた圧着シートを乾燥する工程
〔3〕前記の工程(d)における乾燥温度が、20~100℃であることを特徴とする上記〔2〕に記載の反射防止機能付き熱可塑性シートの製造方法。
〔4〕前記の工程(c)における揮発性有機溶剤の残存量が、0.04~40g/mであることを特徴とする上記〔2〕又は〔3〕に記載の反射防止機能付き熱可塑性シートの製造方法。
〔5〕 前記熱可塑性透明シートがポリメチルメタクリレート樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体樹脂及びポリカーボネート樹脂のいずれかからなる単層シート、ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂の2層シート、又はポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂/ポリメチルメタクリレート樹脂の3層シートであり、
前記熱可塑性透明基材フィルムがアクリル樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体樹脂、ABS樹脂、及びポリカーボネート樹脂のいずれかからなる単層フィルム、ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂の2層フィルム、又はポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂/ポリメチルメタクリレート樹脂の3層フィルムである、上記〔2〕~〔4〕のいずれか1項に記載の反射防止機能付き熱可塑性シートの製造方法。
〔6〕上記[1]に記載の反射防止機能付き熱可塑性シートの加熱成型物を表面に備えることを特徴とする、画像表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱可塑性透明シートと、該熱可塑性透明シートの一方の面に反射防止フィルムを有しつつ、反射防止機能等の光学的性能に優れ、良好な外観が成型時等の高温負荷後にも維持され、切削加工時にフィルムとシートの界面で剥がれが生じ難い反射防止機能付き熱可塑性シートおよびこれを表面に備える画像表示装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートは、厚み0.1~15mmの熱可塑性透明シートと、該熱可塑性透明シートの少なくとも一方の面の上に設けられた厚み0.005~0.4mmの反射防止フィルムとの溶着体であり、揮発性有機溶剤の残存量が0.005~4.3質量%である反射防止機能付き熱可塑性シートである。
熱可塑性シート中の揮発性有機溶剤の残存量が0.005質量%未満であると、切削加工時に熱可塑性透明シートと、反射防止フィルムの界面で剥がれやすくなる。揮発性有機溶剤の残存量が、4.3質量%を超えると、高温負荷後に外観が悪くなる。揮発性有機溶剤の残存量は、好ましくは0.01~4.2質量%である。
なお、本発明において、揮発性有機溶媒とは標準圧力で150℃以下の沸点を有する有機溶媒をいう。
本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートにおける揮発性有機溶剤の残存量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー法によって定量される、シートの単位m当たりに残存している溶剤のグラム数をいう。ヘッドスペースガスクロマトグラフィー法は、試料を容器に封入し、加熱し、容器中に揮発成分が充満した状態で速やかに容器中のガスをガスクロマトグラフに注入し、揮発成分を定量する方法である。
熱可塑性シート中の揮発性有機溶媒の残存量は、熱可塑性透明シートと反射防止フィルムとの溶着体を形成させるときの製造条件などにより調節することができる。
また、本発明において、「溶着体」とは、揮発性有機溶媒を利用して形成させた積層体を意味し、例えば、熱可塑性透明シート及び/又は反射防止フィルムの一方の面に揮発性有機溶剤に接触させ、表面が揮発性有機溶媒で処理されたシート及び/又はフィルムを得て、この処理面を利用して、シートとフィルムを接着させた積層体を意味する。
【0011】
〔熱可塑性透明シート〕
本発明に用いる熱可塑性透明シートの厚みは、0.1~15mmである。厚みが0.1mm未満であると、シートとしてのコシがなくなり形状安定性が損なわれやすくなり、厚みが15mmを超えると重量が増加するため、軽量性にかける。
熱可塑性透明シートの厚みは、好ましくは0.1~5.0mmであり、より好ましくは0.4~2.0mmである。
【0012】
本発明に用いる熱可塑性透明シートの層構成及び材質は、特に制限されず、熱可塑性樹脂からなる単層シートであっても、各層が熱可塑性樹脂からなる2層以上の多層シートであってもよい。熱可塑性樹脂の種類としては、ポリメチルメタクリレート樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
熱可塑性透明シートとしては、好ましくは、ポリメチルメタクリレート樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体樹脂及びポリカーボネート樹脂のいずれかからなる単層シート;ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂の2層シート;ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂/ポリメチルメタクリレート樹脂の3層シート等が挙げられ、これらの中でより好ましくはポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂等の単層シート、ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂/ポリメチルメタクリレート樹脂の3層シートが挙げられる。本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートの耐熱性を向上させる観点から、ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂/ポリメチルメタクリレート樹脂の3層シートが特に好ましい。
なお、本明細書において、層構成の表示において、例えばA/Bと表示した場合、A層とB層が積層されている2層の構成であることを意味し、A/B/Aと表示した場合、A層、B層、A層がこの順に積層されている3層の構成であることを意味する。
【0013】
〔反射防止フィルム〕
本発明の反射防止フィルムは、熱可塑性透明シートの一方の面に設けられてもよいし、両方の面に設けられてもよい。また、反射防止フィルムは、熱可塑性透明シートの面上に直接設けられることが好ましい。例えば、反射防止フィルムと熱可塑性透明シートとの間に、粘着層などが存在すると、本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートの耐熱性や、切削加工性が悪くなる傾向がある。
本発明に用いる反射防止フィルムは、反射防止層を備える熱可塑性フィルムであり、好ましくは熱可塑性透明基材フィルムと反射防止層とを備える熱可塑性フィルムである。この場合、反射防止層は、熱可塑性透明基材フィルムの一方の面上に直接又は、ハードコート層等を介して設けられている。
反射防止フィルムの厚みは0.005~0.4mmである。厚みが0.005mm未満であると、厚みが薄すぎてフィルムが切れやすく取扱いが容易でなくなり、厚みが0.4mmを超えると、熱可塑性透明シートと反射防止フィルムの間に空気が入りやすくなり、貼り合わせでの不具合が生じやすくなる。
また、反射防止フィルムの厚みは、好ましくは0.025~0.25mmであり、より好ましくは0.050~0.100mmである。厚みをこのような範囲に調節することにより、本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートの高温負荷後の外観を良好に維持しやすくなる。
【0014】
本発明に用いる熱可塑性透明基材フィルムの層構成及び材質は、特に制限されず、熱可塑性樹脂からなる単層フィルムであっても、各層が熱可塑性樹脂からなる2層以上の多層フィルムであってもよい。熱可塑性樹脂の種類としては、ポリメチルメタクリレート樹脂等のアクリル樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。
熱可塑性透明基材フィルムは、好ましくは、熱可塑性透明基材フィルムがアクリル樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体樹脂、ABS樹脂、及びポリカーボネート樹脂のいずれかからなる単層フィルム;ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂の2層フィルム;ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂/ポリメチルメタクリレート樹脂の3層フィルムが挙げられ、これらの中で好ましくはポリメチルメタクリレート樹脂の単層フィルム、ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリカーボネート樹脂の2層フィルムが挙げられる。
【0015】
本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートは、反射防止フィルムの熱可塑性透明基材フィルム側の面が、熱可塑性透明シートの面上に接触されるように配置されて形成されることが好ましい。この場合、熱可塑性透明シートと熱可塑性透明基材フィルムとが接触しているが、同種の材質の層同士で接触していることが好ましい。換言すると、直接接触する2つの層は、同種の材質で形成されていることが好ましい。例えば、熱可塑性透明基材フィルム(又は熱可塑性透明基材フィルムのうち熱可塑性透明シート側の層)がポリメチルメタクリレート樹脂で形成されているのであれば、熱可塑性透明シート(又は熱可塑性透明シートのうち熱可塑性透明基材フィルム側の層)もポリメチルメタクリレート樹脂であることが好ましい。
直接接触する2つの層が、同種の材質で形成されていることで、界面での接着性が高まり、耐熱性、接着加工耐性が向上しやすくなる。特に、直接接触する2つの層が、共にポリメチルメタクリレート樹脂であることが好ましい。
【0016】
本発明に用いる反射防止フィルムは、反射防止層を備える。反射防止層は、上記の熱可塑性透明基材フィルム上に直接または、ハードコート層もしくは防眩性ハードコート層を介して形成されたものを用いることができる。例えば、ポリジオルガノシロキサン化合物を用いてハードコート層上に形成させる特開2007-171405号公報の方法や、ハードコート層に代え、透光性有機微粒子を含む防眩層上に形成させる方法が挙げられる。
〔ハードコート層〕
ハードコート層を形成するためのハードコート層形成用組成物としては、ハードコート層を形成できる従来からの公知の組成物を使用することができるが、光硬化性樹脂と光重合開始剤を含有するハードコート形成用組成物であることが好ましい。ハードコート層形成用組成物が、光硬化性樹脂と光重合開始剤とからなる基本的な組成である場合、光硬化性樹脂と光重合開始剤との合計100質量部に対し、光硬化性樹脂は90~99質量部、光重合開始剤は1~10質量部とすればよい。また、ハードコート形成用組成物には、後述するように、透光性有機微粒子を含有させて、防眩性ハードコート層形成用組成物とすることもできる。
ハードコート層に用いられる光硬化性樹脂としては、多官能アクリレートが好ましく用いられ、中でも2~3官能の多官能アクリレートがより好ましく用いられる。多官能アクリレートの官能数がこの範囲であれば、樹脂板や下地のベースフィルム樹脂の膨張と、ハードコート層硬化膜の収縮との差の増大に起因する耐熱試験後のクラック等の欠陥の発生がなく、良好な外観が得られる。
4官能以上の官能数の多官能アクリレートを併用する場合は、ガラス転移温度Tgが84℃以上のアクリル系樹脂(例えば、PMMA(Tgは105℃程度))をともに配合することで、耐熱試験後のクラックの発生を抑制できる。
一方、単官能アクリレートは20質量%以下の配合にとどめることで、塗膜のはがれや脆化の発生がなくなり、高温高湿度環境下での長時間耐久性を損なうことがない。
【0017】
光硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレートなどのオリゴマーが挙げられる。
【0018】
光重合開始剤は、紫外線(UV)によりハードコート層形成用組成物を硬化させて塗膜を形成する際の、重合開始剤として用いられる。光重合開始剤としては、紫外線照射により重合を開始するものであれば特に限定されず、公知の化合物を使用できる。例えば、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフェリノプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のアセトフェノン系重合開始剤、ベンゾイン、2,2-ジメトキシ1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾイン系重合開始剤、ベンゾフェノン、[4-(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系重合開始剤、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系重合開始剤等が挙げられる。これら光重合開始剤は、1種のみを使用しても良いし、2種以上を混用することもできる。
【0019】
ハードコート層形成用組成物には、必要に応じて、表面調製剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、消泡剤、希釈剤等のその他成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよい。
【0020】
ハードコート層形成用組成物の調製に用いられる希釈溶剤は、ハードコート層形成用組成物の粘度を調整するために用いられ、非重合性のものであれば特に制限されない。係る希釈溶剤により、主にハードコート層形成用組成物を熱可塑性透明基材フィルム上に容易に塗布することができる。
【0021】
希釈溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、エチルセルソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシブタノール等が挙げられる。
【0022】
熱可塑性透明基材フィルム上に、ハードコート層を形成させる方法としては、例えば、上記ハードコート層形成用組成物を熱可塑性透明基材フィルム上に塗布した後、紫外線を照射して硬化させる方法が挙げられる。ハードコート層形成用組成物を熱可塑性透明基材フィルム上に塗布する方法としては、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、ハケ塗り法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ダイコート法、グラビアコート法、カーテンフローコート法、リバースコート法、キスコート法、コンマコート法等公知のいかなる方法も採用される。塗布に際しては、密着性を向上させるために、予め熱可塑性透明基材フィルム表面にコロナ放電処理等の前処理を施すことも好ましい。
【0023】
紫外線の照射に用いられる紫外線源としては、例えば高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、窒素レーザ、電子線加速装置、放射性元素等の線源が使用される。紫外線の照射量は、紫外線の波長365nmでの積算光量として、50~5000mJ/cmであることが好ましい。
【0024】
なお、上記ハードコート層用組成物には、透光性有機微粒子等を含有させて防眩性ハードコート層形成用組成物としてもよい。防眩性ハードコート層形成用組成物により、防眩性ハードコート層(AG層)を形成させることができる。透光性有機微粒子は、防眩性ハードコート層における光拡散機能、すなわち表面凹凸を積極的に形成するために含有される。透光性有機微粒子としては、スチレン-アクリル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂(屈折率1.49)、塩化ビニル樹脂(屈折率1.54)、ポリスチレン樹脂(屈折率1.59)、ポリエチレン樹脂(屈折率1.53)、メラミン樹脂(屈折率1.57~1.60)、ポリカーボネート樹脂(屈折率1.59)等から選択される1種又は2種以上の樹脂微粒子を使用できる。中でも、屈折率の調整が容易な点から(メタ)アクリル樹脂又はスチレン-アクリル共重合樹脂が好ましい。
【0025】
〔反射防止層〕
反射防止層は、単層で構成されていてもよいし、複数層で構成されていてもよい。複数層で構成された反射防止層としては、屈折率の異なる複数の層で構成されるものが挙げられる。低屈折率層と高屈折率層とが積層された反射防止層を用いる場合、反射防止効果を高める観点から、反射防止フィルムは、熱可塑性透明基材フィルムの一面にハードコート層と、高屈折率層と、低屈折率層がこの順に積層されていることが好ましい。さらに、反射防止効果を高める場合には、熱可塑性透明基材フィルムの一面にハードコート層と、中屈折率層と、高屈折率層と、低屈折率層がこの順に積層する場合もある。
【0026】
反射防止層の各層は、反射防止層形成用組成物により形成される。反射防止層形成用組成物は、通常は、光硬化性樹脂、光重合開始剤を含有する組成物であり、さらに、これらに加えて、後述する屈折率を調節するための金属酸化物微粒子、中空シリカ微粒子などを配合することができる。
反射防止層形成用組成物に用いる光硬化性樹脂としては、好ましくは、分子内に2~6個のアクリロイルオキシ基を有するフッ素アクリレートが良い。官能基数がこの範囲内であれば、未反応の官能基数の増加に伴う架橋密度や強度の低下が起こらず良好な硬化膜が得られる。また、例えば、低屈折率層を形成させるための反射防止層形成用組成物としては、中空シリカ微粒子と分子内に2~6つのアクリロイルオキシ基を有するフッ素アクリレート、光重合開始剤との混合物が好適に用いることができる。
反射防止層が複数層で構成される場合、高屈折率層、中屈折率層を形成させるための組成物としては、酸化チタン、ATO、アンチモン酸亜鉛、ITOなどの金属酸化物微粒子と分子内に2~6つのアクリロイルオキシ基を有するアクリレートと、光重合開始剤との混合物が良い。ハードコート層と低屈折率層のプライマー効果を向上し、各層の接着性を高めることができるためである。
【0027】
高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層の屈折率は、相対的な屈折率の高低を表しており、特に限定されない。
例えば、反射防止層が単層で構成されている場合は、上述したようにハードコート層の上に低屈折率層がこの順に積層されていることが好ましい。この場合、ハードコート層の屈折率は、低屈折率層より高くすることが好ましい。
反射防止層が2層で構成されている場合は、高屈折率層と低屈折率層の2層で構成されていることが好ましく、上記したように、ハードコート層の上に、高屈折率層、低屈折率層がこの順に積層されていることが好ましい。この場合、高屈折率層の屈折率をハードコート層の屈折率よりも高くすることが好ましい。高屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率層よりも高ければ特に限定されない。
反射防止層が3層で構成されている場合は、高屈折率層と中屈折率層と低屈折率層の3層で構成されていることが好ましく、上記したように、ハードコート層の上に、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層がこの順に積層されていることが好ましい。この場合、中屈折率層の屈折率をハードコート層の屈折率よりも高くすることが好ましい。また、高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層の各屈折率については、屈折率が高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層の順に高ければ特に限定されない。
なお、各層の具体的な屈折率については、特に限定されないが、ハードコート層の屈折率を1.48~1.70、高屈折率層の屈折率を1.50~1.95、中屈折率層の屈折率を1.49~1.80、低屈折率層の屈折率を1.20~1.49の範囲で選択すればよい。このような範囲で、上記した関係になるように、各層の屈折率を選択することが好ましい。
【0028】
〔反射防止機能付き熱可塑性シートの製造方法〕
本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートは、好ましくは下記の工程(a)~(d)を含む製造方法によって製造される。
【0029】
〔工程(a)〕
工程(a)は、厚み0.1~15mmの熱可塑性透明シート、及び熱可塑性透明基材フィルムと反射防止層とを備える厚み0.005~0.4mmの反射防止フィルムを準備する工程である。
【0030】
〔工程(b)〕
工程(b)は、厚み0.1~15mmの熱可塑性透明シートの一方の面、及び/又は厚み0.005~0.4mmの反射防止フィルムの反射防止層を備えていない面の上に、揮発性有機溶剤を0.08~80g/mの塗布量でコーティングする工程である。
揮発性有機溶媒の塗布は、熱可塑性透明シートの一方の面に対して行ってもよいし、反射防止フィルムの反射防止層を備えていない面に対して行ってもよいし、これら両方に対して行ってもよいが、作業性を良好にする観点から、熱可塑性透明シートの一方の面に行うことが好ましい。
【0031】
なお、本発明では、揮発性有機溶剤を塗布する際には、揮発性有機溶剤に加えてフィルムとシートを接着する機能を有する樹脂などの成分(例えば、接着剤や粘着剤など)を併用しないことが好ましい。これらを併用すると、熱可塑性透明シートと反射防止フィルムの界面に粘着層などの層が形成され、熱可塑性シートの耐熱性及び切削加工性が悪くなる傾向がある。熱可塑性シートの耐熱性及び切削加工性を良好とする観点から、熱可塑性透明シートの一方の面、及び/又は反射防止フィルムの反射防止層を備えていない面の上に、揮発性有機溶媒のみを塗布することがより好ましい。
【0032】
本発明に用いる揮発性有機溶剤としては、熱可塑性透明シートおよび反射防止フィルムの基材フィルムに対する親和性の高いものであれば特に制限はなく、例えば、アセトン(沸点56℃)、メチルエチルケトン(沸点80℃)、メチルイソプロピルケトン(94℃)、ジエチルケトン(102℃)、メチルイソブチルケトン(沸点117℃)、3-ペンタノン(沸点101℃)、メチルn-ブチルケトン(沸点127℃)、シクロペンタノンン(沸点131℃)等のケトン;
酢酸メチル(沸点57℃)、酢酸エチル(沸点77℃)、酢酸イソプロピル(沸点85℃)、酢酸n-プロピル(沸点101℃)、酢酸n-ブチル(沸点125℃)、酢酸イソブチル(沸点118℃)、酢酸n-アミル(沸点142℃)、乳酸メチル(沸点145℃)等のエステル;
メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点78℃)、n-プロパノール(沸点97℃)、イソプロパノール(沸点82℃)、n-ブタノール(沸点117℃)、1-ペンタノール(沸点137℃)、2-メチル-1-ペンタノール(沸点148℃)等のアルコール;
ベンゼン(沸点80℃)、トルエン(沸点111℃)、エチルベンゼン(沸点136℃)、キシレン(沸点138℃)等の芳香族炭化水素;
テトラヒドロフラン(沸点66℃)、テトラヒドロピラン(沸点88℃)、1,4-ジオキサン(沸点101℃)等の環状エーテル;
エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールジメチルエーテル(沸点84℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点119℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点132℃)、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)等の多価アルコールアルキルエーテル;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点145℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点143℃)等の多価アルコールアルキルエーテルアセテート
などが挙げられる。
【0033】
これらの中では、溶解性および沸点の観点から、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、3-ペンタノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチル、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸イソブチル、乳酸メチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましく挙げられ、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、ブタノールおよびトルエンがより好ましく挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
揮発性有機溶剤の塗布量は、熱可塑性シートの揮発性有機溶剤の残存量を所望の範囲に調整する観点から、0.08~80g/mであることが好ましい。さらに、乾燥時間を短時間にしつつ、揮発性有機溶剤の残存量を所望の範囲に調整する観点から、0.1~30g/mであることがより好ましく、0.2~10g/mであることが更に好ましい。
【0035】
〔工程(c)〕
工程(c)は、前記の揮発性有機溶剤が残存した状態で、前記熱可塑性透明シートの一方の面と、前記反射防止フィルムの反射防止層を備えていない面とを対向させて、前記の反射防止フィルムと熱可塑性透明シートを圧着して圧着シートを得る工程である。
圧着する方法は、特に限定されず、一般に知られている方法を適宜採用できるが、ロールプレスが好ましい。
圧着は、熱可塑性透明シートの一方の面と、前記反射防止フィルムの反射防止層を備えていない面とを対向させて行う。すわなち、上記工程(b)において、揮発性有機溶剤を塗布した面がシートとフィルムの界面となるようにして、圧着を行う。
工程(c)において、揮発性有機溶剤の残存量は、好ましくは0.04~40g/mである。工程(c)の段階で揮発性有機溶剤の残存量は、塗布量に依存するので、連続塗布の場合には、揮発性有機溶剤の供給量のほか、シートの搬送速度でコントロールすることができる。塗布から反射防止フィルムの重ね合せと圧着までの時間は、通常0.2~30秒、好ましくは1~5秒で行う。また、圧着の際の圧力、面圧として通常0.1~5.0kgf/cm、好ましくは0.5~2.0kgf/cmの圧力下で圧着を行う。
なお、工程(c)における、揮発性有機溶剤の残存量は、熱可塑性透明シートと反射防止フィルムを圧着させる直前の揮発性有機溶剤の残存量を意味する。圧着させる直前とは、圧着させる1秒前を意味する。揮発性有機溶剤の残存量は、反射スペクトルから求められる溶剤の塗布膜厚と溶剤の比重から計算される。
【0036】
〔工程(d)〕
工程(d)は、前記の工程(c)で得られた圧着シートを乾燥する工程である。乾燥は通常、20~100℃、好ましくは30~50℃の温度で、適宜通風条件下で行うことができる。乾燥時間は、好ましくは10秒間~8分間、より好ましくは40秒間~2分間である。乾燥温度を高くしたり、乾燥時間を長くしたりすることにより、残存溶剤量は低減する方向になる。これら乾燥条件は生産効率が低下しないようにしながら行うことで、本発明の所定の揮発性有機溶剤の残存量の範囲とするのが好ましい。
【0037】
〔画像表示装置〕
本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートは、光学的特性に優れ、良好な外観が成型時の高温負荷後にも維持され、切削応力に耐える剥離強度を有するので、ディスプレイ、タッチパネル、携帯型情報端末等の画像表示装置に好適に用いることができ、特にセンターインフォメーションディスプレイ、メーターパネル、ヒートコントロールパネル等の画像表示装置に好適に用いることができる。具体的には、本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートの加熱成型物を表面に備える画像表示装置として用いることができる。
【実施例
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
まず、各例における評価法を示す。
<揮発性有機溶剤の残存量の測定>
反射防止機能付き熱可塑性シートに切断して1gを採取し、切断されたシート試料を20mLのガラスバイアル瓶に入れてシールし、150℃で30分間加熱した。その後0.5mLをヘッドスペースからサンプリングし、ガスクロマトグラフで分析を行った。検量線に基づき算出した測定値(揮発性有機溶剤量)とシート試料重量から下記式(1)に従って同反射防止機能付き熱可塑性シートの揮発性有機溶剤の残存量[質量%]を算出した。
揮発性有機溶媒の残存量[質量%]=100×揮発性有機溶剤量/シート試料重量・・式(1)
なお、使用したガスクロマトグラフ等は以下のとおりである。
ガスクロマトグラフ:GC-2010〔(株)島津製作所製〕
カラム:「Zebron ZB-1」30m×0.53mm、液相厚5μm(phenomenex製)
【0039】
<ヘイズ値>
ヘイズメーター〔日本電色工業(株)(株)製、NDH2000〕を使用し、光学特性としてのヘイズ値(%)を測定した。反射防止フィルムにおけるヘイズ値と反射防止機能付き熱可塑性シートにおけるヘイズ値の差が1%以下の場合、反射防止フィルムの特性を損なうことなく反射防止フィルムを熱可塑性透明シートに接着できている。反射防止フィルムを熱可塑性透明シートの両面に付与した場合は、それぞれの反射防止フィルムにおけるヘイズ値の和と反射防止機能付き熱可塑性シートにおけるヘイズ値の差が1%以下の場合、反射防止フィルムの特性を損なうことなく反射防止フィルムを熱可塑性透明シートに接着できている。
【0040】
<視感反射率Y(SCI)>
測定面の裏面反射を除くため、フィルムの裏面をサンドペーパーで粗し、黒色塗料で塗り潰した形態にて調整した。調整したフィルムの測定面を日本電色(株)製「SD6000」により測定し、JISZ 8701で規定されているXYZ表色系(CIE標準イルミナントD65)における、反射による物体色の三刺激値Yを算出した。
<外観>
○:浮き、ふくれ、亀裂、シワ、脆化なし
×:浮き、ふくれ、亀裂、シワ、脆化のいずれかがある
【0041】
<耐熱性>
120℃、95℃、60℃のぞれぞれ3種の条件で1000時間保存後、上記外観基準にて耐熱性の判定を行った。外観で×とならなかった温度に伴い、下記の通り判定した。
◎◎:120℃で1000時間保存後の耐熱性試験後の外観○
◎:95℃で1000時間保存後の耐熱性試験後の外観○、120℃で1000時間保存後の耐熱性試験後の外観×
○:60℃で1000時間保存後の耐熱性試験後の外観○、95℃で1000時間保存後の耐熱性試験後の外観×
×:60℃で1000時間保存後の耐熱性試験後の外観×
<切削加工耐性>
回転式電動ノコギリにてカットした端面にて、切削加工時のフィルム/シート界面でのはがれの有無で切削加工耐性の判定を行った。切削加工時のフィルム/シート界面でのはがれが生じなかったものについては、さらに、ルーターを使用して端部をテーパー面仕上げにてトリミング加工を行い、加工面のフィルム/シート界面でのはがれの有無で加工耐性の判定を行った。
◎:ルーター加工での、はがれ、なし
○:切削加工時のはがれなし、ルーター加工でのはがれあり
×:切削加工時はがれあり
【0042】
各実施例、比較例で使用した熱可塑性透明シートと、反射防止フィルムの名称(略称)と層構成を以下に示す。なお、層構成の表示において、例えばA/Bと表示した場合、A層とB層が積層されている2層の構成であることを意味し、A/B/Aと表示した場合、A層、B層、A層がこの順に積層されている3層の構成であることを意味する。
また、ポリメチルメタクリレート樹脂を「PMMA」と、ポリカーボネート樹脂を「PC」と略記する。さらに、ハードコート層を「HC」と、アンチグレア層を「AG」と略記する。
<熱可塑性透明シート>
#C101: PMMA/PC/PMMA、三層シート、住友化学(株)製「テクノロイC101」(商品名)
#1151: PCシート、単層シート、帝人(株)製「パンライトシート PC-1151」(商品名)
#1600: PCシート、単層シート、タキロンシーアイ(株)製「PC-1600」(商品名)
DG-A: PMMAシート、単層シート、旭化成テクノプラス(株)製 メタクリル樹脂シート「デラグラスA」(商品名)
【0043】
<反射防止フィルム>
HCAR1: 熱可塑性透明基材フィルムはPC/PMMAの2層フィルム、反射防止フィルム全体の層構成はPC/PMMA/HC/反射防止層。反射防止層は、高屈折率層/低屈折率層の2層構成。
AGAR1: 熱可塑性透明基材フィルムはPC/PMMAの2層フィルム、反射防止フィルム全体の層構成はPC/PMMA/AG層/反射防止層。
HCAR2: 熱可塑性透明基材フィルムはPMMAの単層フィルム、反射防止フィルム全体の層構成はPMMA/HC/反射防止層。反射防止層は、高屈折率層/低屈折率層の2層構成。
【0044】
<揮発性有機溶剤>
MEK:メチルエチルケトン
MEK/BuAc:メチルエチルケトン/酢酸ブチル=80/20(質量比率)の混合溶剤
MEK/トルエン:メチルエチルケトン/トルエン=80/20(質量比率)の混合溶剤
MEK/1-ブタノール:メチルエチルケトン/1-ブタノール=80/20(質量比率)の混合溶剤
粘着剤含有溶剤:綜研化学(株)製のアクリル系粘着剤「SKダイン2094」(不揮発分含有量25質量%、メチルエチルケトン75質量%)と架橋剤「E-5XM」及び「L-45」を含有する溶剤
【0045】
(製造例1:HCAR1の製造)
(1)ハードコート層形成用組成物(HC-1)の調製
以下に示す紫外線硬化型樹脂と光重合開始剤を混合してHC-1とした。
紫外線硬化型樹脂として以下の3成分を用いた
ダイセル・サイテック(株)製「EBECRYL8402」・・42.5質量%
日本化薬(株)製「KAYARAD DPCA-20」・・12.5質量%
共栄社化学(株)製「ライトアクリレート1.9ND-A」・・41質量%
光重合開始剤として以下の成分を用いた
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「IRGACURE184(I-184)」・・4質量%
【0046】
(2)高屈折率層形成用組成物H-1の調製
アンチモン酸亜鉛微粒子分散液(日産化学工業(株)製、セルナックスCX-603M-F2)を固形分換算で70質量部、ウレタンアクリレート(分子量1400、60℃における粘度が2500~4500Pa・s、日本合成化学工業(株)製、紫光UV7600B)25質量部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、イルガキュア184)を5質量部、及びイソプロピルアルコール500質量部を混合し、高屈折率層形成用組成物(含アンチモン酸亜鉛微粒子硬化性塗布液)を得た。H-1の屈折率(硬化後)は1.58であった。
【0047】
(3)低屈折率層用組成物L-1の調製
粒子径が60nmの中空シリカ微粒子40質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製、商品名「DPHA」)60質量部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、イルガキュア907)5質量部、シリコン添加剤(ビックケミー・ジャパン(株)製、BYKUV-3570)8質量部、シリコン添加剤(信越化学工業(株)製、TIC2457)5質量部、アルミナ添加剤(ビックケミー・ジャパン(株)製、NANOBYKUV-3601)0.5質量部、及びイソプロピルアルコール2000質量部を混合し、低屈折率層用組成物(含シリカ硬化性塗布液)を得た。L-1の屈折率(硬化後)は1.39であった。
【0048】
(4)HCAR1の製造
厚さ0.2mmのポリカーボネート樹脂層とポリメチルメタクリレート樹脂層との2層構造からなる熱可塑性透明基材フィルム(PC/PMMA):住友化学(株)製「C001」のPMMA層上に、上記ハードコート層形成用組成物(HC-1)をロールコーターにて乾燥膜厚が7μmとなるように塗布し、80℃で2分間乾燥した。その後、窒素雰囲気下で120W高圧水銀灯(日本電池(株)製)により紫外線を照射し(積算光量300mJ/cm)、ハードコート層形成用組成物を硬化させてハードコート層を形成した。
次いで、このハードコート層上に上記高屈折率層形成用組成物H-1を、乾燥時の厚さが150nmとなるように塗布した後、窒素雰囲気下で紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、120W高圧水銀灯)を用いて300mJ/cmの紫外線を照射し、高屈折率層形成用組成物を硬化させて高屈折率層を形成した。
最後に、この高屈折率層上に上記低屈折率層用組成物L-1を乾燥時の厚さが90nmとなるように塗布した後、窒素雰囲気下で紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、120W高圧水銀灯)を用いて300mJ/cmの紫外線を照射し、低屈折率層用組成物を硬化させて低屈折率層を形成し、反射防止フィルム(HCAR1)を作製した。
【0049】
(製造例2:HCAR2の製造)
熱可塑性透明基材フィルムにポリメチルメタクリレートフィルム(PMMA):住友化学(株)製「S014G-125、厚み0.1mm」を使用する以外は、製造例1と同様の方法で、反射防止フィルム(HCAR2)を作製した。
【0050】
(製造例3:AGAR1の製造)
(1)防眩性ハードコート層形成用組成物の調製
(a)ガラス転移温度が84℃以上のアクリル系樹脂として、PMMA(SIGMA-ALDRICH製、「Poly(Methyl methacrylate)」重量平均分子量97,000、Tg=105℃)を65質量%、(b)1分子中に(メタ)アクリル基を3つ以上有する重量平均分子量が15000以下のウレタンアクリレートとして、日本合成化学工業(株)製、「紫光UV7600B」を22質量%、(c)透光性有機微粒子として綜研化学(製)「MX-150」(架橋アクリル単分散粒子、平均粒径1.5μm)を9質量%、(d)光重合開始剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「イルガキュア-184」を4質量%混合し防眩性ハードコート層形成用組成物を得て、該組成物に固形分濃度が10質量%となるようにメチルエチルケトン(MEK)を混合して完全に溶解し、防眩性ハードコート層形成用組成物を含有する塗液を得た。なお、(c)透光性有機微粒子「MX-150」(綜研化学(株)製架橋アクリル単分散粒子、平均粒径1.5μm)以外の成分は塗液中に完全に溶解し、(c)透光性有機微粒子「MX-150」(綜研化学(株)製架橋アクリル単分散粒子、平均粒径1.5μm)は、塗料中に均一に分散していることを確認した。
【0051】
(2)防眩性反射防止フィルムAGAR1の製造
上記防眩性ハードコート層形成用組成物を含有する塗液を、ポリカーボネート層とポリメチルメタクリレート層との2層積層体からなる透明基材のポリメチルメタクリレート層上に、ロールコーターにて乾燥膜厚が0.2μmとなるように塗布し、80℃で2分間乾燥した。なお、上記乾燥膜厚が実質的にハードコート層の膜厚である。その後、120W高圧水銀灯〔日本電池(株)製〕により紫外線を照射し(積算光量300mJ/cm)、ハードコート層形成用組成物を硬化させて透明基材上に防眩性ハードコート層を形成した。
【0052】
続いて、(ア)フッ素含有紫外線硬化型樹脂としてダイキン工業(株)製「オプツールDAC-HP」を5質量%、(イ)アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンとしてビッグケミー(株)製「BYK3500」を4質量%、(ウ)(ア)・(イ)と共重合可能なバインダーとして日本化薬(株)製「OD2H2A」(1,10-ジアクリロイルオキシ-2,9-ジヒドロキシ-4,4,5,5,6,6,7,7-オクタフルオロデカン)を43質量%、(エ)透光性有機微粒子として日揮触媒化成(株)製「スルーリアNAU」を43質量%、(オ)光重合開始剤としてBASF(株)製「イルガキュア-907」を5質量%含む反射防止層形成用組成物を、固形分濃度が5質量%となるようにIPAにて希釈し反射防止層形成用の塗布液(L-1)を得た。
【0053】
得られた反射防止層形成用の塗布液(L-1)を、防眩性ハードコート層上に厚さが約0.1μm(反射スペクトルを測定したときに、最小反射率波長が約600nmとなる厚さ)となるように塗布し、80℃で2分間乾燥した。窒素雰囲気下で紫外線照射装置(アイグラフィックス(株)製、120W高圧水銀灯)を用いて積算光量300mJ/cmで紫外線を照射し、反射防止層形成用組成物を硬化させて反射防止層を形成し、防眩性反射防止フィルム(AGAR1)を作製した。
【0054】
[実施例1]
テスター産業(株)製アプリケーターのスライダー上に幅20cm×長さ50cmの熱可塑性透明シート(#1151、厚み2.0mm)をセットし、室温(約20°C)にてライン速度4.43m/minでフィードしながら、上記熱可塑性透明シートの一方の面に揮発性有機溶剤(MEK)を所定量塗布し、塗布位置から2.0秒(約9cmに相当)後方から反射防止フィルム(HCAR1、厚み0.2mm)を供給してガリ版ローラーを使用して手圧でラミネート圧着し、圧着シートを得た。なお、圧着は、上記熱可塑性透明シートの一方の面と、上記反射防止フィルムの反射防止層を備えていない面とを対向させて行った。次いで、該圧着シートを乾燥温度40℃、乾燥時間60秒の乾燥条件で乾燥させて、反射防止機能付き熱可塑性シートを得た。
各実施例における本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートの製造条件を、評価結果とともに表1に示す。また、各比較例における本発明におけるものでない反射防止機能付き熱可塑性シートの製造条件を、評価結果とともに表2に示す。
【0055】
[実施例2~16、比較例1~4]
使用した熱可塑性透明シート、反射防止フィルム、及び揮発性有機溶剤の種類、並びに乾燥条件を表1又は2のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止機能付き熱可塑性シートを得た。製造条件とともに評価結果を表1及び2に示す。
【0056】
[比較例5]
反射防止フィルムの代わりに熱可塑性透明基材フィルムであるポリメチルメタクリレートフィルム(PMMA):住友化学(株)製「S014G-125、厚み0.1mm」を用い、かつ使用した熱可塑性透明シート、揮発性有機溶剤の種類、並びに乾燥条件を表2のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性シートを得た。製造条件とともに評価結果を表2に示す。
【0057】
[比較例6]
揮発性有機溶剤の代わりに、上記した粘着剤含有溶剤を用い、かつ使用した熱可塑性透明シート、反射防止フィルム、乾燥条件を表2のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止機能付き熱可塑性シートを得た。製造条件ともに評価結果を表2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】
【0060】
表1に示した評価結果について、実施例1~16の本発明の反射防止機能付き熱可塑性シートにおいてはいずれも、ヘイズの低下無しに反射防止特性に優れ、良好な外観が成型時の高温負荷後にも維持され、切削応力に耐える剥離強度を有することが明らかとなった。
【0061】
一方で、表2に示した比較例1においては、貼合直前の溶剤残存量が過剰であったため、結果的に反射防止機能付き熱可塑性シートの溶剤残存量が適正範囲を超過し、この結果、耐熱性が悪化した。比較例2においては、貼合直前の溶剤残存量が過少であったために結果的に反射防止機能付き熱可塑性シートの溶剤残存量が適正範囲を下回り、この結果、切削加工耐性が悪化した。
比較例3においては、貼合直前の溶剤残存量が過剰であったために結果的に反射防止機能付き熱可塑性シートの溶剤残存量が適正範囲を超過し、この結果、耐熱性が悪化した。
【0062】
また、比較例4においては、乾燥温度が低すぎたために、反射防止機能付き熱可塑性シートの溶剤残存量が過剰であったために、耐熱性が悪化した。比較例5においては、フィルムにハードコート層および反射防止層がコーティングされていないために、フィルムの貼り合せ面とは反対側の面まで溶剤によって浸食され、この結果、脆化から外観不良となった。比較例6においては、粘着剤を用いており、熱可塑性透明シートの面上に粘着層が存在するため、耐熱性、切削加工性が悪化した。