(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】計測システム及び制御システム
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20220610BHJP
G08C 19/00 20060101ALI20220610BHJP
G08C 15/00 20060101ALI20220610BHJP
B64F 5/60 20170101ALI20220610BHJP
B64D 43/00 20060101ALI20220610BHJP
G01L 1/26 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
G01L5/00 101Z
G08C19/00 S
G08C15/00 E
B64F5/60
B64D43/00
G01L1/26 D
(21)【出願番号】P 2018236745
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】上野 真
(72)【発明者】
【氏名】成岡 優
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0011074(US,A1)
【文献】米国特許第6134485(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00
G08C 19/00
G08C 15/00
B64F 5/60
B64D 43/00
G01L 1/26
-----------------------------------
本件出願を優先基礎とする国際特許出願PCT/JP2019/041394
の調査結果が利用された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の物理量を計測する第1のセンサと、前記第1のセンサで計測された第1の物理量を補償するための第2の物理量を計測する第2のセンサと、前記計測した第1及び第2の物理量に基づく計測データを出力する出力部とを基板に搭載し、被計測対象物の複数の地点にそれぞれ配置される複数のセンサモジュールと、
各前記センサモジュールから前記計測データを所定のタイミングで収集し、収集した複数の前記計測データを集約した集約データを生成するデータ集約モジュールと、
前記データ集約モジュールから前記集約データを受け取る主計算機とを具備し、
帯状のフレキシブル基板の面上に一列に間隔をおいて又は離散的に配置された前記複数のセンサモジュールから一組の計測ユニットが構成され、
前記被計測対象物の表面に複数の前記計測ユニットを配置し、
各前記計測ユニットに対応して前記データ集約モジュールを設け、
前記主計算機は、各前記計測ユニットに設けられた複数の前記データ集約モジュールから集約データを受け取る計測システムであって、
一組の計測ユニットにおける複数の前記センサモジュールは、1つの前記データ集約モジュールにシリアルに接続され、
前記データ集約モジュールは、前記被計測対象物における下流側でかつ前記フレキシブル基板の末端に配置される
計測システム。
【請求項2】
各前記センサモジュール又は前記データ集約モジュールに設けられ、前記第1のセンサで計測された第1の物理量を前記第2のセンサで計測された第2の物理量で補償する処理部
を更に具備する請求項1に記載の計測システム。
【請求項3】
前記データ集約モジュール及び前記複数のセンサモジュールは、非金属領域を含む隔壁によって区画される一方の領域に配置され、前記データ集約モジュール及び前記複数のセンサモジュールに電力を供給する主電源は、前記隔壁によって区画される他方の領域に配置され、
前記主電源から前記データ集約モジュールへの電力伝送のうち前記隔壁での電力伝送を、前記非金属領域を介して電磁誘導方式で無接点給電する無線電力伝送ユニット
を更に具備する請求項1又は2に記載の計測システム。
【請求項4】
前記第1のセンサは、絶対圧センサであり、
前記第2のセンサは、温度センサ及び/又は三軸加速度センサであり、
前記処理部は、前記温度センサによる計測結果に基づき前記絶対圧センサによる計測結果の温度依存性を補償し、及び/又は、前記三軸加速度センサによる計測結果に基づき前記絶対圧センサによる計測結果の振動誤差及び/又は重力による誤差を補償する
請求項2又は3に記載の計測システム。
【請求項5】
複数の前記データ集約モジュールは、デイジーチェーン接続で前記主計算機から遠い前記データ集約モジュールからカスケード式に接続される
請求項1に記載の計測システム。
【請求項6】
各前記センサモジュールは、前記被計測対象物の裏面側に取り付けられ、
前記被計測対象物には、各前記センサモジュールの前記第1のセンサを構成する絶対圧センサの表面を前記被計測対象物の表面側に暴露するための孔が穿孔され、
前記第1のセンサを構成する絶対圧センサは、当該絶対圧センサを搭載する前記基板と、前記被計測対象物の裏面と、前記基板と前記被計測対象物の裏面との間で前記絶対圧センサを囲むガスケットとにより包囲されている
請求項4に記載の計測システム。
【請求項7】
前記データ集約モジュールから前記計測データを受け取り、前記主計算機に前記計測データを受け渡す無線通信ユニット
を更に具備する請求項1乃至
6のうちいずれか一項に記載の計測システム。
【請求項8】
第1の物理量を計測する第1のセンサと、前記第1のセンサで計測された第1の物理量を補償するための第2の物理量を計測する第2のセンサと、前記計測した第1及び第2の物理量に基づく計測データを出力する出力部とを基板に搭載し、被計測対象物の複数の地点にそれぞれ配置される複数のセンサモジュールと、
各前記センサモジュールから前記計測データを所定のタイミングで収集し、収集した複数の前記計測データを集約した集約データを生成するデータ集約モジュールと、
前記データ集約モジュールから前記集約データを受け取る主計算機と、
各前記センサモジュール又は前記データ集約モジュールに設けられ、前記第1のセンサで計測された第1の物理量を前記第2のセンサで計測された第2の物理量で補償する処理部とを具備し、
前記第1のセンサは、絶対圧センサであり、
前記第2のセンサは、温度センサ及び/又は三軸加速度センサであり、
前記処理部は、前記温度センサによる計測結果に基づき前記絶対圧センサによる計測結果の温度依存性を補償し、及び/又は、前記三軸加速度センサによる計測結果に基づき前記絶対圧センサによる計測結果の振動誤差及び/又は重力による誤差を補償し、
前記主計算機は、前記データ集約モジュールから受け取った計測データに基づき、前記被測定対象物の表面の圧力分布を積分し、当該被測定対象物に作用する力及び/又はモーメントを算出し、前記力及び/又はモーメントを補償する所定のパラメータを算出する
計測システム。
【請求項9】
第1の物理量を計測する第1のセンサと、前記第1のセンサで計測された第1の物理量を補償するための第2の物理量を計測する第2のセンサと、前記計測した第1及び第2の物理量に基づく計測データを出力する出力部とを基板に搭載し、被計測対象物の複数の地点にそれぞれ配置される複数のセンサモジュールと、
各前記センサモジュールから前記計測データを所定のタイミングで収集し、収集した複数の前記計測データを集約した集約データを生成するデータ集約モジュールとを具備し、
前記データ集約モジュール及び前記複数のセンサモジュールは、非金属領域を含む隔壁によって区画される一方の領域に配置され、前記データ集約モジュール及び前記複数のセンサモジュールに電力を供給する主電源は、前記隔壁によって区画される他方の領域に配置され、
前記主電源から前記データ集約モジュールへの電力伝送のうち前記隔壁での電力伝送を、前記非金属領域を介して電磁誘導方式で無接点給電する無線電力伝送ユニットを更に具備し、
前記第1のセンサは、絶対圧センサであり、
前記第2のセンサは、温度センサ及び/又は三軸加速度センサであり、
前記処理部は、前記温度センサによる計測結果に基づき前記絶対圧センサによる計測結果の温度依存性を補償し、及び/又は、前記三軸加速度センサによる計測結果に基づき前記絶対圧センサによる計測結果の振動誤差及び/又は重力による誤差を補償し、
前記主計算機は、前記データ集約モジュールから受け取った計測データに基づき、前記被測定対象物の表面の圧力分布を積分し、当該被測定対象物に作用する力及び/又はモーメントを算出し、前記力及び/又はモーメントを補償する所定のパラメータを算出する
計測システム。
【請求項10】
高速で移動する物体の位置及び/又は姿勢を制御する操舵部を制御する制御システムであって、
前記操舵部は、請求項
8又は9に記載の主計算機で算出された所定のパラメータに基づき、物体の位置及び/又は姿勢の変化が発生する前に、前記力及び/又はモーメントを補償する
制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気中を高速移動する航空機や自動車などの物体表面の物理量を計測する計測システム及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空気中を高速移動する物体は空気力の影響を強く受ける。従って、機体表面の物理用分布を空気中を移動中に得られれば設計結果の確認や設計手法の検証、飛行状態の推定、位置・姿勢の制御などに役立つ。
【0003】
しかし、空気力の影響を受ける物体は通常は空気抵抗の影響を避けるため、余分な容積を持たないように設計され、表面に突起物が出ることも嫌う。よって、空気中を高速移動する物体、たとえば飛行機、高速鉄道などは、ピトー管等によって局所的な圧力を得る機能は持つが、移動中に表面の物理量分布を得る機能はない。
【0004】
現状の物理量分布測定手法は主に風洞試験で用いられている手法であり、圧力の場合は圧力孔を機体表面に穿孔して圧力配管を敷設して圧力を計測する手法であるが、圧力配管は重く曲げることが困難であることが多いため、実運用する機体に多数の圧力配管をすることは現実的ではない。圧力配管が不要で機体表面の圧力を計測するデバイスとしてはボーイング社が開発したプレッシャーベルトがある(特許文献1参照)。複数のセンサモジュールが間隔をおいて配置されたプレッシャーベルトは、主翼の何カ所かに配置される。コントローラは、各プレッシャーベルトの各センサモジュールから計測データを受け取る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第6134485号公報(特に
図1、
図2、
図8参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、航空機の主翼表面の圧力分布を計測する場合には、航空機の主翼表面にかなりの数のセンサモジュールを配置する必要がある。加えて、計測データとしては、圧力や温度などの複数種類のデータがある。このため、コントローラの負荷が大きくなり、精度が十分な計測結果が迅速に得られないおそれがあった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、物体表面の流れを乱すことなくその表面の物理量を高精度で迅速に計測できる計測システムを提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、物体にかかる力及び/又はモーメントによって物体の位置及び/又は姿勢の変化が発生する前に、物体にかかる力及び/又はモーメントを補償することができる制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る計測システムは、第1の物理量を計測する第1のセンサと、前記第1のセンサで計測された第1の物理量を補償するための第2の物理量を計測する第2のセンサと、前記計測した第1及び第2の物理量に基づく計測データを出力する出力部とを基板に搭載し、被計測対象物の複数の地点にそれぞれ配置される複数のセンサモジュールと、各前記センサモジュールから前記計測データを所定のタイミングで収集し、収集した複数の前記計測データを集約した集約データを生成するデータ集約モジュールと、前記データ集約モジュールから前記集約データを受け取る主計算機とを具備する。
本発明では、複数種類のセンサを基板に搭載した薄型化が可能なセンサモジュールを被計測対象物の複数の地点にそれぞれ配置した構成を採用しているので、物体表面の流体の流れを乱す要因が減り、かつ、データ集約モジュールが各センサモジュールから計測データを所定のタイミングで収集して集約した集約データを生成し、主計算機はその集約データを受け取っているので、主計算機にかかる負荷が軽減される。従って、物体表面の流れを乱すことなくその表面の物理量を高精度で迅速に計測できる。
【0010】
本発明の一形態に係る計測システムでは、各前記センサモジュール又は前記データ集約モジュールに設けられ、前記第1のセンサで計測された第1の物理量を前記第2のセンサで計測された第2の物理量で補償する処理部を更に具備してもよい。これにより、主計算機にかかる負荷が更に軽減される。
【0011】
本発明の一形態に係る計測システムでは、前記データ集約モジュール及び前記複数のセンサモジュールは、非金属領域を含む隔壁によって区画される一方の領域に配置され、前記データ集約モジュール及び前記複数のセンサモジュールに電力を供給する主電源は、前記隔壁によって区画される他方の領域に配置され、前記主電源から前記データ集約モジュールへの電力伝送のうち前記隔壁での電力伝送を、前記非金属領域を介して電磁誘導方式で無接点給電する無線電力伝送ユニットを更に具備してもよい。これにより、例えば航空機の胴体のように穴を開けることは非常に困難である内側領域の電源から外側の領域に配置されたデータ集約モジュール及び複数のセンサモジュールに電力供給できる。
【0012】
本発明の一形態に係る計測システムでは、前記第1のセンサは、絶対圧センサであり、前記第2のセンサは、温度センサ及び/又は三軸加速度センサであり、前記処理部は、前記温度センサによる計測結果に基づき前記絶対圧センサによる計測結果の温度依存性を補償し、及び/又は、前記三軸加速度センサによる計測結果に基づき前記絶対圧センサによる計測結果の振動誤差及び/又は重力による誤差を補償してもよい。これにより、場所ごとに変化する圧力以外の要素の影響を受けずに正確な計測が可能になる。
【0013】
本発明の一形態に係る計測システムでは、帯状のフレキシブル基板の面上に一列に間隔をおいて又は離散的に配置された前記複数のセンサモジュールから一組の計測ユニットが構成され、前記被計測対象物の表面に複数の前記計測ユニットを配置してもよい。これにより、貼りつけることが可能な、曲がりやすく、軽く小さく薄い構造にでき、空気力学的な影響を最小限にすることができる。
【0014】
本発明の一形態に係る計測システムでは、各前記計測ユニットに対応して前記データ集約モジュールを設け、前記主計算機は、各前記計測ユニットに設けられた複数の前記データ集約モジュールから集約データを受け取ってもよい。
【0015】
本発明の一形態に係る計測システムでは、複数の前記データ集約モジュールは、デイジーチェーン接続で前記主計算機から遠い前記データ集約モジュールからカスケード式に接続してもよい。
【0016】
本発明の一形態に係る計測システムでは、一組の計測ユニットにおける複数の前記センサモジュールは、1つの前記データ集約モジュールにシリアルに接続され、前記データ集約モジュールは、前記被計測対象物における下流側でかつ前記フレキシブル基板の末端に配置されてもよい。
【0017】
本発明の一形態に係る計測システムでは、各前記センサモジュールは、前記被計測対象物の裏面側に取り付けられ、前記被計測対象物には、各前記センサモジュールの前記第1のセンサを構成する絶対圧センサの表面を前記被計測対象物の表面側に暴露するための孔が穿孔され、前記第1のセンサを構成する絶対圧センサは、当該絶対圧センサを搭載する前記基板と、前記被計測対象物の裏面と、前記基板と前記被計測対象物の裏面との間で前記絶対圧センサを囲むガスケットとにより包囲されていてもよい。
【0018】
本発明の一形態に係る計測システムでは、前記データ集約モジュールから前記計測データを受け取り、前記主計算機に前記計測データを受け渡す無線通信ユニットを更に具備してもよい。
本発明の一形態に係る計測システムでは、前記主計算機は、前記データ集約モジュールから受け取った計測データに基づき、前記被測定対象物の表面の圧力分布を積分し、当該被測定対象物に作用する力及び/又はモーメントを算出し、前記力及び/又はモーメントを補償する所定のパラメータを算出してもよい。
【0019】
本発明の一形態に係る制御システムでは、高速で移動する物体の位置及び/又は姿勢を制御する操舵部を制御する制御システムであって、前記操舵部は、上記の計算機で算出された所定のパラメータに基づき、物体の位置及び/又は姿勢の変化が発生する前に、前記力及び/又はモーメントを補償する。
【0020】
本発明の一形態に係る計測システムでは、非金属領域を含む隔壁によって区画される一方の領域に配置され、電力の供給を必要とし、前記一方の領域の物理量を計測するセンサと、前記隔壁によって区画される他方の領域に配置され、前記センサに電力を供給するための電源と、前記電源から前記センサへの電力伝送のうち前記隔壁での電力伝送を、前記非金属領域を介して電磁誘導方式で無接点給電する無線電力伝送ユニットと、前記センサによる計測結果に基づく計測データを受け取り、前記他方の領域の前記計算機に前記計測データを受け渡す無線通信ユニットとを具備する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、物体表面の流れを乱すことなくその表面の物理量を迅速に高精度で計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る計測システム1を実装する航空機100の斜視図である。
【
図2】は
図1の主翼部分を上面からみた平面図である。
【
図3】本実施形態に係る計測ユニット10の構成を示す平面図である。
【
図5】計測ユニット10の他の構成例を示す平面図である。
【
図6】センサモジュール11の実装の他の例を示す断面図である。
【
図9】本実施形態に係るセンサモジュール11の構成を示す斜視図である。
【
図10】本実施形態に係る無線電力伝送ユニット40の構成を示すブロック図である。
【
図11】本実施形態に係る計測システム1の配線の構成を示す平面図である。
【
図12】本実施形態に係るデータ集約モジュール20と各センサモジュール11との間でのデータ収集方式を説明するための図である。
【
図13】本実施形態に係る主計算機30側と各データ集約モジュール20との間でのデータ収集方式を示すタイミングチャートである。
【
図14】本実施形態に係る主計算機30側と各データ集約モジュール20との間でのデータ収集方式の別の例を示すタイミングチャートである。
【
図15】航空機100の表面の圧力の変化を説明するための斜視図である。
【
図16】本実施形態に係る絶対圧センサ112としてのMEMS圧力センサの縦断面図である。
【
図17】本実施形態に係る絶対圧センサ112としてのMEMS圧力センサへの重力の作用を説明するための断面図である。
【
図18】本実施形態に係る絶対圧センサ112としてのMEMS圧力センサへの振動の作用を説明するための断面図である。
【
図19】本実施形態に係る制御システムの動作を示すフローチャートである。
【
図20】一般化した面素にかかる力を示す図である。
【
図21】一般化した力とモーメントを示す図である。
【
図22】本実施形態に係る航空機100に作用する力Fz及びモーメントMxを示す図である。
【
図23】
図19に対応する従来技術に係る動作を示すフローチャートである。
【
図24】本実施形態に係る航空機100の制御システムの作用効果を従来技術と対比して説明するための図である。
【
図25】自動車が横からの突風にさらされる場合の圧力の変化とモーメントの変化を示している(その1)。
【
図26】自動車が横からの突風にさらされる場合の圧力の変化とモーメントの変化を示している(その2)。
【
図27】自動車が横からの突風にさらされる場合の圧力の変化とモーメントの変化を示している(その3)。
【
図28】他の本実施形態に係る自動車200の制御システムの作用効果を従来技術と対比して説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0024】
<計測システム1の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る計測システム1を実装する航空機100の概略的斜視図、
図2は
図1の一部を上面からみた図である。
図1及び
図2に示すように、計測システム1は、航空機100に実装される。なお、航空機100は、例えば風洞試験で用いられる実際の機体を模擬した模型も含む。また、後述するように本発明に係る計測システム1は、航空機以外の空気中を高速移動する物体にも適用することができる。
【0025】
計測システム1は、計測ユニット10と、データ集約モジュール20と、主計算機30、無線電力伝送ユニット40と、無線通信ユニット50とを有する。
【0026】
計測ユニット10は、一列に間隔をおいて配置された複数のセンサモジュール11を有する。計測ユニット10は、航空機100の胴体101や主翼102等の表面に、縦横に或いは離散的にセンサモジュール11が配置されるように、その表面に列設されている。例えば、幅狭で帯状の各計測ユニット10は、航空機100の主翼102であれば、主翼102の表面の前縁側と後縁側との間に配設されている。
航空機100の胴体101や主翼102等の表面である機体外部に多数のセンサモジュール11を配置する場合、センサモジュール11は後付けで貼り付けられるため、計測点の正確な位置を特定する必要がある。
その場合、例えば、表面の詳細な光学形状計測により、センサモジュール11の位置を特定してもよい。
【0027】
また、センサモジュール11を実装した後述するフレキシブル基板(後述する)末端とセンサモジュール11に隣接してシール状の蛍光マーカを貼り付け、機体表面の基準位置にも蛍光マーカを貼り付ける。そして、紫外線ランプを照射して蛍光マーカを光らせ、ステレオカメラ計測を用いて機体表面の基準位置とフレキシブル基板上のマーカの相対位置とを計測してもよい。これにより前者と比較して高速に全体の位置計測を実施することができる。
【0028】
データ集約モジュール20は、各計測ユニット10に対応して設けられている。典型的には、一つの計測ユニット10に対して一つのデータ集約モジュール20が設けられ、各データ集約モジュール20は、被計測対象物における下流側である主翼102の後縁側かつ計測ユニット10の後述するフレキシブル基板の末端に配置される。一つのデータ集約モジュール20は、当該計測ユニット10に搭載された各センサモジュール11より計測データを所定のタイミングで収集し、収集した複数の計測データを集約し、配線21を介して集約データを主計算機30に受け渡す。
データ集約モジュール20はCPUあるいはFPGAのように演算能力を持った集積回路で実現することができ、後述するようにデータバスを介して指令を出すことで、時間的に分割して複数個のセンサからデータをスキャンし、あるいは興味がある一部のセンサのみからデータを連続的に読み出すことができ、目的に応じたセンサとの通信の最適化が可能である。
【0029】
主計算機30は、航空機100の胴体101内に配置されている。主計算機30は、各データ集約モジュール20から集約データを受け取り、所定の処理を実行する。例えば、主計算機30は、データ集約モジュール20から受け取った集約データに基づき、被測定対象物の表面である、航空機100の胴体101や主翼102などの表面の圧力分布を積分し、当該航空機100に作用する力及びモーメントを算出する。
時系列データは正確な時刻情報を必要とするため、得られるデータ全てに主計算機30もしくは無線通信ユニット50で高精度発信機を用いて管理する統一したタイムスタンプを付けることが好ましい。なお、計測サンプリング周期は全システムで一定に同期し、時分割データについてはトリガーとのずれを管理する構成を採用することで、実際のデータ取得タイミングの厳密な再現ができる。
【0030】
無線電力伝送ユニット40は、航空機100の胴体101内の非接触送電器41と航空機100の胴体101外の主翼102の中の非接触受電器42とが対をなし、航空機100の胴体101内からデータ集約モジュール20などに、電力を電磁誘導方式で無接点給電する。
【0031】
無線通信ユニット50は、データ集約モジュール20と主計算機30との間で無線通信によりデータを受け渡す。例えば、無線通信ユニット50は、データ集約モジュール20から集約データを受け取り、主計算機30に集約データを受け渡す。
計測システム1では、電源遮断、無線リンク切断時にもデータを失わずに保持する必要がある。本実施形態では、電源が遮断された際にデータが失われることを防ぐため、無線通信ユニット50に大容量フラッシュメモリを搭載し、データストレージとして使用してもよい。これは電源遮断時のみならず、不安定な通信環境に起因する無線リンクの切断等、データを機内に転送できない場合のバックアップとして機能させてもよい。
【0032】
(計測ユニット10の構成)
図3は本実施形態に係る計測ユニット10の構成を示す概略平面図、
図4はその概略断面図である。
図3及び
図4に示すように、計測ユニット10は、例えば主翼102の上部外板102aの表面や胴体101の外板の表面に配置され、光造形やシーラントなどにより形成される保護部材14により覆われている。この場合、センサモジュール11に搭載された絶対圧センサ(後述する。)は、保護部材14に覆われずに表面に露出することが好ましい形態である。
【0033】
計測ユニット10は、帯状のフレキシブル基板12と、このフレキシブル基板12の面上に一列に所定の間隔をおいて搭載された複数のセンサモジュール11と、フレキシブル基板12に形成され、複数のセンサモジュール11間を接続する配線13とを有する。また、フレキシブル基板12の末端の面上には、配線13により接続されたデータ集約モジュール20が搭載されている。ここでは、フレキシブル基板12の面上に搭載された複数のセンサモジュール11とデータ集約モジュール20とは、配線13を介してシリアルに接続されている。
【0034】
内部にセンサを内蔵するスペースが無い場合や、機体に穴を空けることが不可能な場合は航空機100の外表面にセンサ類を配置する必要があるが、対象物の空気力学的な性質を大きく乱すことなく表面の物理量を取得するため、及び空気力学的な性質を変化させてしまうことで安全性を損なわないことが必要である。
【0035】
本実施形態では、貼りつけることが可能な、曲がりやすく、軽く小さく薄い構造により、空気力学的な影響を最小限にする。具体的には、センサ類を帯状のフレキシブル基板12上に配置することで厚みを抑制しつつ曲率のある機体外殻表面に貼り付け可能とする。また、帯状にすることで高速な外部気流に沿ったセンサ配置を可能にし、気流との干渉を極小化することができる。なお、より厳密な計測性能が求められる際は、滑らかに接合するためのエッジシールや覆いを施せばよい。具体的には、シリコンシーラントによるエッジシール、光造形による覆いなどを用いる。
【0036】
本実施形態では、占有面積を最小に抑えるため、計測システム1は機能ごとのユニットにより構成されており、大きく分けて、計測ユニット10、ノードユニット(データ集約モジュール20及び配線21)、無線ユニット(無線電力伝送ユニット40及び無線通信ユニット50)の3ユニット構成としている。特に、計測点が存在する計測ユニット10については空気力学的な影響を最小限にするような最も薄い構造としている。
【0037】
本実施形態では、データ集約モジュール20は、フレキシブル基板12に搭載せず、フレキシブル基板12の近くに配置した構成を採用してもよい。
本実施形態では、
図5に示すように、計測ユニット10は、フレキシブル基板12の面上に離散的に若しくは縦横に複数のセンサモジュール11を搭載する構成を採用してもよい。この場合、複数のセンサモジュール11のうち各列のセンサモジュール11とデータ集約モジュール20間をそれぞれ配線13によりシリアルに接続することが好ましい形態である。
【0038】
(センサモジュール11の実装の他の例)
図3及び
図4に示した例では、計測ユニット10も含めセンサモジュール11が主翼102や胴体101の外板の表面に配置されていたが、センサモジュール11は主翼102や胴体101の外板の裏面に配置してもよい。
図6~
図8にその構成例を示す。
図6は主翼102の外板102aの裏面側に複数のセンサモジュール11を配置した構成を示す概略断面図であり、
図7はそのうち一つのセンサモジュール11の構成を示す拡大断面図、
図8は
図7に示したセンサモジュール11を上からみた平面図である。
図8では主翼102の外板102aは図示していない。
【0039】
図6~
図8に示すように、各センサモジュール11は、主翼102の外板102aの裏面側に取り付けられる。主翼102の外板102aには、各センサモジュールに搭載された絶対圧センサ112の表面を主翼102の外板102aの表面側に暴露するための圧力孔102bが穿孔されている。
【0040】
絶対圧センサ112は、
図7及び
図8に示したように、当該絶対圧センサ112を搭載する基板111と、主翼102の外板102aの裏面と、基板111と主翼102の外板102aの裏面との間で絶対圧センサ112を囲むガスケット113とにより包囲されている。
【0041】
主翼102の外板102aの裏面の圧力孔102bの周囲には、ボルト螺着穴が設けられた固定部材102cが取り付けられている。センサモジュール11は、基板111に穿孔されたボルト孔114を介して固定部材102cのボルト螺着穴にボルト115を螺着することで、主翼102の外板102aの裏面側に取り付けられている。
【0042】
すなわち、機体表面に開けた圧力孔102bの位置で、絶対圧センサ112の形で切り抜いた絶対圧センサ112より厚いガスケット113で絶対圧センサ112周りを気密状態にして、絶対圧センサ112を取り付けた基板111を機体裏面にボルト115で押し付けることによって、圧力孔102b位置での圧力を計測する。
【0043】
本実施形態では、基板111上に実装された絶対圧センサ112の周りを囲む形でガスケット113が配置され、この基板111を基板111に空けたボルト孔114を通したボルト115で固定部に固定することで、ガスケット113を圧縮して絶対圧センサ112周りに気密を実現し、圧力孔102bの圧力のみが絶対圧センサ112面の受感部に作用するようにしている。
【0044】
(センサモジュール11の構成)
図9は本実施形態に係るセンサモジュール11の構成を示す概略斜視図である。
図9の(a)はセンサモジュール11を上方からみた概略斜視図、
図9の(b)はセンサモジュール11を下方からみた概略斜視図である。
図9に示すように、センサモジュール11は、第1の物理量を計測する第1のセンサとしての絶対圧センサ112、第1のセンサで計測された第1の物理量を補償するための第2の物理量を計測する第2のセンサとしての温度センサ116及び3軸加速度センサ117と、処理部118と、出力部119とを基板111に搭載する。これらの絶対圧センサ112、温度センサ116及び3軸加速度センサ117は、いずれもMEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)であり、またデジタルセンサである。センサをセンサパッケージ内部でアナログ・デジタル変換がされるデジタルセンサにより構成することで、ノイズ対策をセンサ近傍のみに限定することができる。
なお、
図9は概略図であり、同一基板上に近接して配置される場合は、116、117、118は基板の表裏いずれの面上に配置されてもよいものとし、112、116、117、118のいずれかの組み合わせあるいはすべてを1パッケージに収めたものを使用してもよい。
【0045】
処理部118は、絶対圧センサ112で計測された第1の物理量である圧力を温度センサ116及び3軸加速度センサ117で計測された第2の物理量である温度及び3軸方向の加速度で補償する。具体的には、処理部118は、絶対圧センサ112による計測結果の温度依存性を補償し、絶対圧センサ112による計測結果の振動誤差及び重力による誤差を補償する。
【0046】
出力部119は、計測した第1及び第2の物理量である圧力、温度及び3軸方向の加速度に基づき補償された圧力に関するデータを計測データとして出力する。
【0047】
本実施形態では、絶対圧センサ112、温度センサ116及び3軸加速度センサ117のいずれかがアナログセンサであってもよい。この場合には、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータをセンサモジュール11に搭載することが好ましい形態である。
【0048】
本実施形態では、処理部118は、センサモジュール11ではなくデータ集約モジュール20に搭載するように構成してもよい。この場合には、出力部119は、計測した第1及び第2の物理量である圧力、温度及び3軸方向の加速度に関するデータを計測データとして出力し、データ集約モジュール20がこの計測データである圧力を温度及び3軸方向の加速度で補償する。
本実施形態では、絶対圧センサ112で計測された圧力を温度センサ116又は3軸加速度センサ117で計測された温度又は3軸方向の加速度のいずれかで補償するように構成してもよい。
本実施形態では、2軸又は1軸方向の加速度を計測するだけでもよい。つまり、本実施形態では、第2のセンサとして、2軸加速度センサや1軸加速度センサを用いてもよい。
本実施形態では、第1の物理量を計測する第1のセンサとしての絶対圧センサ112を例示したが、勿論他の物理量を計測するセンサであってもよい。1のセンサで計測された第1の物理量を補償するための第2の物理量を計測する第2のセンサとしての温度センサ116及び3軸加速度センサ117を例示したが、勿論他の物理量を計測するセンサであってもよい。
【0049】
(無線電力伝送ユニット40の構成)
計測システム1は機体に穴を開けられない場合の給電手段が必要である。本実施形態では、航空機100の内部から各モジュール42c(センサモジュール11やデータ集約モジュール20、無線通信ユニット50など)へ電磁誘導方式で無接点給電を行っている。
図10は本実施形態に係る無線電力伝送ユニット40の構成を示すブロック図である。
図10に示すように、無線電力伝送ユニット40は、一対の非接触送電器41と非接触受電器42とを有する。
航空機100の胴体101の内側である機内(与圧部)と外側である機外とは、穴をあけずに電磁的に結合できる部位である非金属領域(例えばガラス窓)を含む隔壁100aによって区画されている。
非接触送電器41は一方の領域である機内に配置され、非接触受電器42は他方の領域である機外に配置される。
【0050】
主電源である機内電源41dから各モジュール42c(センサモジュール11やデータ集約モジュール20、無線通信ユニット50など)へは、電力線を介して電力伝送されるが、無線電力伝送ユニット40は、隔壁100aでの電力伝送を、非金属領域(例えばガラス窓)を介して電磁誘導方式の無接点給電で電力伝送する。
非接触送電器41は、送電コイル部41aと、直交流変換および監視部41bと、緊急遮断装置41cとを有し、電力源である主電源としての機内電源41dに接続されている。
【0051】
非接触受電器42は、受電コイル部42aと、交流直流変換および応答部42bとを有し、各モジュール42cに接続され、各モジュール42cに電力を供給する。
【0052】
送電コイル部41aと受電コイル部42aとは、隔壁100aの非金属領域(例えばガラス窓)を挟んで電磁誘導が可能なように近接して配置され、電力が伝送される。
直交流変換および監視部41bは、機内電源41dの直流電源を交流に変換し、また交流直流変換および応答部42bからの受電応答に基づき電力供給の状況を監視する。
緊急遮断装置41cは、直交流変換および監視部41bの監視結果に基づき、緊急の場合には機内電源41dから送電コイル部41aへの電力供給を遮断する。
交流直流変換および応答部42bは、受電コイル部42aから交流電源を直流電源に変換し、また受電コイル部42aからの電力供給に応じて受電応答をする。
【0053】
安全性確保要求が高い場合は、機内からの指令によって、あるいは指令が届かない場合は自動的に電源遮断を可能とすることが必要である。本実施形態では、電磁誘導方式の給電をやめた瞬間に計測システム1は電源が遮断され、動作を安全に停止する。
電源の安全要求が高くない場合には、上記の航空機100内からの給電の他、太陽電池43による給電、電池44の放電による給電、これらの組み合わせを用いることもできる(
図2参照)。この場合は電源のウォッチドックタイマによる自己監視や、無線指示による電源の切断によって安全性を確保してもよい。また、機内からの給電を行わない場合は各ユニットに搭載されたロードバランサによって、受送電や充放電を管理してもよい。
【0054】
(データ収集方式)
本実施形態では、空気力学的な物理量計測は流れに沿った方向の物理量変化を重視するため、
図11に示すように、一筋の帯状に複数のセンサモジュール11を配置したものを一組としてデータ集約モジュール20にデータを集約する。データ集約モジュール20はデイジーチェーン接続で主計算機30から遠いモジュールからカスケード式に接続されている。これによって、機体内部の主計算機30に転送されるデータの通信量と配線の容積・重量を軽減することできる。
【0055】
なお、場合によっては、データ集約モジュール20間の距離が数m~数10mの単位で長いものになるので、長距離伝送ができるよう、ノイズに強い差動通信を用いている。断面ごとに推定した空気力等、データ集約モジュール20ごとの集約値としてから機体内部に配置した主計算機30に伝送する構成を採用することで、さらにデータ量を大幅に軽減することが可能である。
【0056】
機体内部にセンサモジュール11を配置できる場合は通常、恒久的なセンサモジュール11の利用を意図しており、通信速度を優先するために
図11に示すように各センサモジュール11はデータ集約モジュール20にパラレル接続される。
【0057】
ところが、機体外部にセンサモジュール11を配置する場合は、データ伝送速度よりも気流との干渉を極小化することが求められる。この場合、センサモジュール11はデータ集約モジュール20にシリアル接続され、一本の帯状のフレキシブル基板上12に配置される(
図2、
図3などを参照)。また、センサモジュール11よりも大サイズとなるデータ集約モジュール20は計測に影響を与えないようにするため、センサモジュール11が実装された帯状のフレキシブル基板12の下流側末端に接続される(
図2、
図3などを参照)。なお、本実施形態では、データ集約モジュール20は帯状のフレキシブル基板12の下流側末端ではなく、上流側末端その他任意の位置でフレキシブル基板12に接続されていても構わない。
【0058】
センサモジュール11とデータ集約モジュール20の通信は、後述するようにセンサモジュール11のインターフェース部分直前にシフトレジスタを介することで実現することができる。
【0059】
機体外部にセンサモジュール11を配置する場合、電源と同様、センサモジュール11で計測したデータも有線通信は期待できない。従って、データの伝送には無線通信を利用する。無線通信ユニット50にはCPUを搭載し、供給できる電力量と消費電力および必要なデータ転送レートに応じて通信プロトコルを選択できるように構成する。
【0060】
図12は本実施形態に係るデータ集約モジュール20と各センサモジュール11との間でのデータ収集方式を説明するための図である。
【0061】
図12に示すように、データ集約モジュール20(受信インターフェース)とセンサモジュール11、11・・・(センサA、B、C、D)とはシリアルに接続されている。データ集約モジュール20からのデータ出力の指示は、各センサモジュール11に入力される。各センサモジュール11のセレクタには、それぞれ、シフトレジスタ15を介してデータ集約モジュール20からのセレクタ信号が入力される。
【0062】
例えば、データ集約モジュール20である受信インターフェースが要求側モジュールである主計算機30側よりセンサA、B、Dからのデータ要求を受け取ると、データ集約モジュール20からデータ出力の指示を出し、これにセンサAが応答してデータを受信インターフェースに受け渡す。次に、シフトレジスタ15を介してセンサAにスルー動作を指示すると共に、データ集約モジュール20からデータ出力の指示を出し、これにセンサBが応答してデータを受信インターフェースに受け渡す。次に、シフトレジスタ15を介してセンサA、B、Cにスルー動作を指示すると共に、データ集約モジュール20からデータ出力の指示を出し、これにセンサDが応答してデータを受信インターフェースに受け渡す。
【0063】
以上で、データ集約モジュール20である受信インターフェースは、センサA、B、Dからのデータ(計測データ)を受け取り、これらのデータを集約し、要求側モジュールである主計算機30側に集約データを受け渡す。
【0064】
図13は本実施形態に係る主計算機30側と各データ集約モジュール20との間でのデータ収集方式を示すタイミングチャートである。
図13において、データ集約モジュール20は、主計算機30から近い順にセンサA、センサB・・・センサXとしている。
【0065】
例えば、要求側モジュールである主計算機30よりセンサA、センサB・・・センサX側にデータ要求があると、センサAがその応答及び下流側へのデータ要求を実行する。次に、センサBがその応答及び下流側へのデータ要求を実行する。以下、同様に実行し、最後のセンサXがその応答のみを実行する。センサA、センサB・・・センサXは上記の応答のタイミングが異なり、主計算機30から遠いデータ集約モジュール20(下流のセンサ)ほど早いタイミングで応答し、かつ、その応答は下流のセンサから受け渡されたデータに自身のデータを加えて応答する。センサAは、すべてのセンサからのデータ、すなわちすべてのデータ集約モジュール20の集約データを要求側モジュールである主計算機30に受け渡す。すなわち、本実施形態では、圧力計測を同期するために、主計算機30から送信した計測トリガーを受けたデータ集約モジュール20は通信遅れを考慮して、同時刻に各センサモジュール11に計測信号を送信する。データ集約モジュール20は計測データを各センサモジュール11から受け取ると、センサモジュール11の分担する断面が発生する力とモーメントの寄与分を計算し、これを主計算機30に送信する。後述するように、主計算機30では受信したモーメントデータから機体全体に働く力とモーメントを計算し、この変化を相殺するような制御入力を舵面に対して発出する。
【0066】
図14は本実施形態に係る主計算機30側と各データ集約モジュール20との間でのデータ収集方式の別の例を示すタイミングチャートであり、この図に示すように、要求側モジュールである主計算機30と複数のデータ集約モジュール20とをパラレルに接続してもよい。すなわち、主計算機30は各データ集約モジュール20にそれぞれデータ要求を出し、各データ集約モジュール20はそれぞれ主計算機30に対するデータ応答を実行する。
本実施形態では、主計算機30がDMAやFPGAによる並列処理で受信した各集約データを処理するように構成することで、主計算機30の処理負荷を低減できる。
【0067】
本実施形態では、データ要求は無線通信ユニット50からデータ集約モジュール20、各センサへと上下関係があるので、データ要求がない場合は下位のモジュールはスリープ状態に入るように構成することで、消費電力を抑制することができ、システム全体の電源要求を緩和することができる。
【0068】
<計測システム1の作用・効果>
航空機100のように空気中を高速移動する物体は空気力を受けており、その力の影響は空気力を受ける表面全体に分布している。従って、機体表面の物理量を空気中を移動中に得られれば設計結果の確認、設計手法の検証、飛行状態の推定、位置・姿勢の制御などに役立つが、そのためには物体周囲の流れを乱さず、データ伝送量を抑制し、内部空間を圧迫することなく、物体の表面物理量を計測できるシステムが必要である。
【0069】
本実施形態に係る計測システム1は、機体表面に穿孔した非常に小さな圧力計測用の圧力孔102bの直下である機体外殻裏面の機体内部(
図6参照)、あるいは機体表面に帯状に配置した多数の小型デジタルセンサ群であるセンサモジュール11群から機体表面の物理量分布を得て、帯状の連続した配置ごとにデイジーチェーン接続されたデータ集約モジュール20でセンサデータを集約したうえで、機体内部に伝送・集約する。このような構成の計測システム1によれば、以下の利点を有する。
【0070】
(1)センサモジュール11を機体外殻裏面の機体内部に配置する場合は、機体外部気流に対する計測に係る干渉を抑制する。
【0071】
(2)機体表面に配置する際にも極小のセンサモジュール11を用いて極めて気流との干渉が少ない計測を実現し、計測システム1が無い時と同様の気流状態を実現する。これは主に電磁誘導による電力の無線伝送、無線通信によるデータの無線伝送、フレキシブル基板12を用いた帯状のセンサモジュール11実装によって実現される。
【0072】
(3)デイジーチェーン接続された演算能力を持つデータ集約モジュール20で帯ごとにデータを集約するので、配線量、主計算機30の計算量、データ転送量を抑制できる。また、データ集約モジュール20ごとに計算が並列化されるため、データ処理が高速化される。
【0073】
(4)デジタルセンサを使用することで、センサモジュール11格納に伴う空間確保を最小化し、アナログセンサ用配線敷設に特有のノイズ対策を不要とすると共に、センサモジュール11近傍のデジタルデータ処理装置によるデータ処理を可能にする。なお、センサが圧力センサである場合は、デジタル絶対圧センサ112を用いることで、圧力計測に伴う圧力孔から圧力センサまでの圧力配管、差圧センサを用いた場合の参照圧力配管、及び圧力配管に過大な曲げを与えずに導引するための空間を不要とする。
【0074】
(5)絶対圧センサ112の温度依存性はセンサ内蔵の温度センサ116で補正する。振動の補正は各絶対圧センサ112近傍に設置した3軸加速度センサ117によって実現する。いずれも小型デジタルセンサを集積することで実現する。この点を、更に詳細に説明する。
【0075】
図15は上記(5)の点を更に詳細に説明するための図である。
図15に示すように、流体中を移動する物体である航空機100の表面の圧力は、流れの剥離や衝撃波の振動などによって、変化している。と同時に、振動の強い領域では流体の影響を受けて物体自体の一部が振動する。あるいは、表面の傾斜角が異なることから重力の影響が異なる。さらには太陽からの輻射熱を受ける側では同じ圧力でも温度の影響を強く受ける、といったことが生じる。すなわち、同一の物体でも物体表面の場所によって、温度や加速度の影響は変化する。
【0076】
図16は本実施形態に係る絶対圧センサ112としてのMEMS圧力センサの縦断面図である。
この図に示すように、絶対圧センサ112としてのMEMS圧力センサは、ガラス基板112a上に真空部としての空間を有するシリコン層112bが形成され、真空部としての空間上を覆うようにシリコン層112b上にダイアフラム112cが張られている。そして、ダイアフラム112cの外周領域に貼られた歪ゲージ112dでその歪を検出することで圧力を計測する。
【0077】
このような絶対圧センサ112としてのMEMS圧力センサは、歪ゲージ112dが温度感度を持つので、当該圧力センサの出力は温度によって変化する。本実施形態では、温度によるセンサ出力の変化が顕著である場合には、搭載するセンサ近傍のフレキシブル基板上または内部には温度センサを実装する構成を採用し、例えば温度の影響を事前に個別のセンサを恒温槽内で較正することで補償する。
また、
図17に示すように、絶対圧センサ112としてのMEMS圧力センサを傾けるとダイアフラム112cの形状が変わる。ダイアフラム112cの圧力による変形は重力の影響を受けて変化するため、姿勢によって絶対圧センサ112としてのMEMS圧力センサの出力は変化する。本実施形態では、MEMS圧力センサの取り付け角度に応じてMEMS圧力センサに働く重力が変化して圧力出力が変化するため、事前にMEMS圧力センサの重力に対する影響を較正し、センサ取り付け角度の情報を用いて重力の方向を決定し、静的な重力の影響を排除している。
更に、
図18に示すように、絶対圧センサ112としてのMEMS圧力センサが振動などの加速度を受けると、ダイアフラム112cがその振動特性に応じた振動をし、絶対圧センサ112としてのMEMS圧力センサの出力に誤差が生じる。本実施形態では、振動による影響が顕著であるような非定常性のある計測を行う場合には、MEMS圧力センサに隣接して3軸加速度センサ117を設置し、事前に振動を与えて較正を行うことで、振動による慣性力がダイアフラム112cに与える影響を排除している。
【0078】
本実施形態に係る計測システム1では、センサモジュール11を絶対圧センサ112に加えて絶対圧センサ112で計測された圧力を補償するための温度や加速度を計測する温度センサ116及び3軸加速度センサ117をモジュール化し、航空機100の表面にそのようなセンサモジュール11を分布配置させることによって、場所ごとに変化する圧力以外の要素の影響を受けずに正確な計測が可能になる。
【0079】
<計測システム1を用いた物体の位置及び姿勢の制御する制御システム>
航空機や自動車などのように高速移動する物体が空気中を安定して移動するためには、物体の位置及び姿勢が変化する前の情報を用いて自動制御すればよい。このためには、物体の位置及び姿勢が変化する前に、流体から物体が受ける力とモーメントを知る必要がある。
【0080】
本実施形態に係る計測システム1は、機体表面に穿孔した非常に小さな圧力計測用の圧力孔102bの直下である機体外殻裏面、あるいは機体表面に配置した多数のデジタル絶対圧センサ112、温度センサ116及び3軸加速度センサ117から得られる機体表面の圧力分布を積分することで、航空機100に作用する力及びモーメントを得ることができる。しかも、上記したように、デイジーチェーン接続された演算能力を持つデータ集約モジュール20で帯ごとにデータを集約するので、配線量、主計算機30の計算量、データ転送量を抑制でき、またデータ集約モジュール20ごとに計算が並列化されるため、データ処理が高速化できる。このため、物体の位置及び姿勢が変化する前に、流体から物体が受ける力とモーメントを知ることができ、つまり実際に位置及び姿勢の変化が生じる前に変化をもたらす空気力を知ることができるので、位置及び姿勢の変化が生じる前に制御を実施することで制御の応答性を改善することが可能になる。この計測システム1を高速で移動する物体の位置及び/又は姿勢を制御する操舵部を制御する制御システムに適用する。
【0081】
図19は本実施形態に係る位置及び姿勢の制御を説明するためのフローチャートである。
航空機100の機体に働く空気力を変化すると(ステップ191)、計測システム1は機体に働く空気力を検知して(ステップ192)、すなわち主計算機30でリアルタイムに力やモーメントに変換され、検知した力を補償するだけの力やモーメントを発生するよう舵面を操舵する(ステップ193)。これにより、位置又は姿勢の変化が発生する前に力を補償することができる(ステップ194)。
【0082】
ここで、ステップ192において、機体に働く空気力、すなわち航空機100に作用する力及びモーメントを推定する方法を説明する。
【0083】
図20は一般化した面素にかかる力を示している。
図20において、
【0084】
【0085】
を示しており、面素にかかる力fziは以下のとおりとなる。
【0086】
【0087】
ここで、
ci:補正係数
(曲率の効果や面内圧力分布の補正)
である。
【0088】
【0089】
図21において、
を示しており、力及びモーメントは以下のとおりとなる。
【0090】
【0091】
ここで、
【0092】
【0093】
である。
【0094】
本実施形態では、機体表面の圧力分布を積分することで、航空機100に作用する力F
z及びモーメントM
xを得ている。すなわち、
図22に示すように、航空機100に作用する力F
z及びモーメントM
xはそれぞれ以下のとおりとなる。
機体表面に十分多数配置した圧力孔iとで計測された圧力をp
i、その圧力孔を囲む表面積と圧力孔iにおける面に垂直なベクトルの積をS
i(ベクトル)、圧力孔iと機体の重心を通り機体の対称面と平行な面との距離をy
i、機体水平面に対して下向き(z方向)の単位ベクトルk(ベクトル)をとすると、機体にかかる鉛直下向きの力F
zとローリングモーメントM
xは以下の式で近似できる。ただし、c
iは面にかかる圧力を圧力孔iで計測された圧力をp
iで代表することによる誤差を修正する係数で、風洞試験等によって決定する。
【0095】
【0096】
同様に、圧力孔iと機体の重心を通り機軸と垂直な面に対する距離をxiとすると、機体にかかるピッチングモーメントは以下の式で近似できる。
【0097】
【0098】
さらに、機体対象面と垂直かつ右方向(y方向)の単位ベクトルをj(ベクトル)とすると、機体にかかる右向きの力FyとヨーイングモーメントMzは以下の式で近似できる。
【0099】
【0100】
なお、物体の機軸方向の力Fxには摩擦力による寄与も大きいため、圧力だけの積分では精度を期待できないが、基軸方向の単位ベクトルをi(ベクトル)とすると、以下のように推定される。
【0101】
【0102】
本実施形態では、各データ集約モジュール20で集約された計測データは主計算機30でリアルタイムに力F
zやモーメントM
xに変換され、操舵部(図示を省略)において各舵を制御して位置及び姿勢の制御を行っている。これに対して、従来の位置及び姿勢の制御は、典型的には
図23のフローチャートに示す如く、位置あるいは姿勢の変化の検知をした(ステップ233)後に、姿勢の変化を補償するだけの力かモーメントを発生する舵面の操舵し(ステップ234)、位置あるいは姿勢の補償している(ステップ235)。
【0103】
従って、
図24(a)に示すように例えば航空機100の主翼102に突風による揚力分布の乱れが生じた場合には、従来は
図24(b)に示すようにその乱れに応じて姿勢が変化し、その後に、舵面を操舵して姿勢をもとに戻す制御が行われる。
【0104】
これに対して、本実施形態では、
図24(a)に示すように航空機100の主翼102に突風による揚力分布の乱れが生じた場合には、
図24(c)に示すようにその乱れに応じて姿勢が変化する前に、操舵部による例えばエルロン操舵により空気力が補償される。よって、本実施形態では、突風により揚力分布の乱れが生じた場合であっても航空機100の姿勢が変化することはなくなる。
【0105】
本発明に係る計測システム1を用いた物体の位置及び姿勢の制御は、航空機だけでなく、自動車などのように高速移動する物体にも適用できる。
図25~
図27は自動車200が横からの突風にさらされる場合の圧力の変化とモーメントの変化を示している。
図25~
図27において、それぞれ(A)は自動車200を上面から見た図、(B)は正面から見た図を示している。
【0106】
図25に示すように、進行方向からの風を受けつつ、横風により自動車200の側面前方の圧力が高い場合には、負のヨーイングモーメントM
yが発生し、自動車200は左方向に押されて左旋回する。
図26に示すように、進行方向からの風を受けつつ、横風により自動車200の側面中央の圧力が高い場合には、負のローリングモーメントM
rが発生し、自動車200は左側の車輪半径が小さくなって左旋回する。
図27に示すように、進行方向からの風を受けつつ、横風により自動車200の側面後方の圧力が高い場合には、正のヨーイングモーメントMyが発生し、自動車200は右旋回する。
【0107】
従って、
図28(a)に示すように例えば自動車200が進行方向からの風を受けつつ、横風を受けた場合には、従来は
図28(b)に示すようにその横風に応じて位置あるいは姿勢が変化し、その後に、位置あるいは姿勢の変化を補償する力を発生する操舵が行われる。
【0108】
これに対して、本発明に係る自動車200では、
図28(a)に示すように自動車200が進行方向からの風を受けつつ、横風を受けた場合には、
図28(c)に示すようにその横風に応じて位置あるいは姿勢が変化する前に操舵が行われ、横風によって自動車200の位置あるいは姿勢が変化することはなくなる。
【0109】
<その他>
本発明は上記の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内で様々な変形や応用が可能であり、その変形や応用に係る実施形態も本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0110】
1 :計測システム
10 :計測ユニット
11 :センサモジュール
11 :基板
12 :フレキシブル基板
20 :データ集約モジュール
30 :主計算機
40 :無線電力伝送ユニット
50 :無線通信ユニット
100 :航空機
100a :隔壁
102b :圧力孔
111 :基板
112 :絶対圧センサ
113 :ガスケット
116 :温度センサ
117 :3軸加速度センサ
118 :処理部
119 :出力部