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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】消火方法
(51)【国際特許分類】
   A62D 1/00 20060101AFI20220610BHJP
【FI】
A62D1/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018558884
(86)(22)【出願日】2017-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2017041080
(87)【国際公開番号】W WO2018123311
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2016250484
(32)【優先日】2016-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114905
【氏名又は名称】ヤマトプロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】吉川 昭光
(72)【発明者】
【氏名】富山 昇吾
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-155098(JP,A)
【文献】特開昭52-099699(JP,A)
【文献】特開昭52-077499(JP,A)
【文献】特開昭50-066096(JP,A)
【文献】特表平08-501481(JP,A)
【文献】特開昭58-112565(JP,A)
【文献】特開昭62-139675(JP,A)
【文献】特開2005-027742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0023033(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 13/00-78、35/00-68
A62D 1/00
C09K 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性成分として消炎化合物と硝酸塩とを含む消火用水溶液を、高圧状態で、噴霧ノズルから粒子径20~200μmのミストとして噴霧放射する消火方法であって、
前記消炎化合物が、クエン酸三カリウム、酢酸カリウム、重炭酸カリウム、酒石酸カリウム、グルコン酸カリウム、乳酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸カリウム、フタル酸水素カリウム、シュウ酸カリウム、プロピオン酸カリウム、アロフォン酸カリウム、炭酸カリウム、クエン酸三ナトリウム、重炭酸ナトリウム、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム又は硫酸アンモニウムであり、
前記消火用水溶液における前記消炎化合物及び前記硝酸塩の合計含有量が1~85質量%であることを特徴とする消火方法。
【請求項2】
前記硝酸塩が、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム又は硝酸グアニジンであること、を特徴とする請求項1に記載の消火方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火作用を有する水溶液を高圧状態で噴霧ノズルから噴霧放射して消火する消火方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消防法上の火災は、木材や紙等の火災(A火災)、油火災(B火災)及び電気火災(C火災)に分類されており、市販されている消火剤としては、水系消火剤(例えば水、炭酸カリウムを主成分とする強化液消火剤)、泡系消火剤(例えばライトウォーター)、ガス系消火剤(例えばハロン消火剤、二酸化炭素消火剤)及び粉末系消火剤(例えば第一リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸カリウムと尿素との化合物)等があり、火災の種類に応じて適当な消火剤が使用されている。
【0003】
ここで、本来、水は消火対象としてA火災に対してしか消火効力がないと考えられていたが、使用方法によっては、B火災の消火も可能であるという技術が考えられている。そのような水による消火技術の一例として、例えば特許文献1(国際公開第WO92/20453号パンフレット)に記載のものがあり、局所放出方式及び全域放出方式がある。
【0004】
局所放出方式では、図2(a)に示すように、水を加圧して高圧状態とし、その高圧水をスプレーヘッド1から火炎2に向けて直接噴霧して消火を行い、全域放出方式では、図2(b)に示すように、密閉空間A内の火災に対して直接噴霧するのではなく、間接的に放射を行って、その噴霧粒子が微細であるために、放射されてから地上に落下するまでの滞留時間が長く、空間全域に噴霧液を充満させて消火を行われる。
【0005】
上記のような消火方法によれば、噴霧された水の霧が火炎を覆うことにより、気相の冷却、霧の気化による酸素濃度の希釈及び燃焼面の濡れ化によって、A火災だけでなく、B火災も消火することが可能であるが、水のみを使用していることから、火炎の面積が大きくなると、確実に消火することができないため、本出願人は、特許文献2(特開平7-171228号公報)において、消火剤として水のみを使用した消火方法に代替して、A火災だけでなく、B火災及びC火災も確実に消火できる消火方法を提案した。
【0006】
より具体的には、上記特許文献2においては、負触媒効果による消火作用を有する消火薬剤を溶解した水溶液を高圧状態でスプレーヘッドから噴霧放射することを特徴とする消火方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第WO92/20453号パンフレット
【文献】特開平7-171228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2の消火方法では、噴霧された霧(ミスト)状の消火剤中の水分が火炎の熱エネルギーで蒸散することで、冷却作用及び酸素遮蔽作用が発現し、更に、逐次的に析出した消火剤の結晶粒子が、火炎の吸熱分解により負触媒作用を示すアンモニアやカリウム等を発生させて化学消火反応を進行させる、とされているが、必ずしも十分に吸熱分解するとは限らず、消火力の観点から未だ改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、火炎の熱エネルギーが小さく吸熱が不十分であってもより確実に消火作用を発現する消火方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題点を解決すべく、本発明者らが鋭意実験を繰り返して検討した結果、火炎の熱エネルギーが小さく吸熱が不十分であってもより確実に消火作用を発現する消火方法を実現するためには、更に、消火剤を酸化分解させる添加物が有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、水溶性成分として少なくとも1種の消炎化合物と少なくとも1種の硝酸塩とを含む消火用水溶液を、高圧状態で、噴霧ノズルから噴霧放射することを特徴とする消火方法、を提供する。
【0012】
かかる本発明の消火方法においては、前記消炎化合物が、クエン酸三カリウム、酢酸カリウム、重炭酸カリウム、酒石酸カリウム、グルコン酸カリウム、乳酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸カリウム、フタル酸水素カリウム、シュウ酸カリウム、プロピオン酸カリウム、アロフォン酸カリウム、炭酸カリウム、クエン酸三ナトリウム、重炭酸ナトリウム、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム又は硫酸アンモニウムであること、が好ましい。
【0013】
また、前記硝酸塩は、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム又は硝酸グアニジンであること、が好ましい。
【0014】
また、前記消火用水溶液における前記消炎化合物及び前記硝酸塩の合計含有量が1~85質量%であること、更には、5~60質量%であること、が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記のような構成の本発明の消火方法においては、噴霧する水溶液として、消火作用を有する消火剤である消炎化合物だけでなく、当該消炎化合物を酸化分解させることが可能な硝酸塩を更に含む混合水溶液を用いる。これにより、水分蒸散後の混合水溶液は、火炎からの最小着火エネルギーレベルで一気に燃焼に近い極めて早い熱分解反応を生じ、一気に消火作用を示す化学種を微粒拡散し、より速やかで効率的な化学消火を確実に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の消火方法の一実施形態を説明するための概略模式図である。
図2】局所放出方式の消火方法を説明するための概略模式図(a)と、全域放出方式の消火方法を説明するための概略模式図(b)である。
図3】消火装置に使用されるスプレーヘッドの一例の概略縦断面図である。
図4図3に示すスプレーヘッドの概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の消火方法の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、各実施形態において重複する説明は省略することがあり、本発明はこれら図面に限定されるものではなく、また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。
【0018】
図1は、本発明の消火方法の一実施形態を説明するための消火装置の概略模式図である。図1に示す消火装置においては、消火作用を有する消火薬剤である消炎化合物と、当該消火薬剤の酸化分解可能な硝酸塩と、を溶解した水溶液(以下、「消火用水溶液」ともいう。)を充填した開閉バルブ15a付き高圧容器15を有し、該高圧容器15とスプレーヘッド1とを配管16を介して連通連結されている。
【0019】
高圧容器15には、消火用水溶液と、窒素ガスと、二酸化炭素等の圧縮ガスとが充填され、消火用水溶液が1平方センチメートル当たり少なくとも10kg以上、好ましくは100kg以上の高圧で加圧されている。なお、高圧容器15を用いず、圧縮ポンプ等により消火薬剤を溶解した水溶液を加圧して高圧状態にしてもよい。
【0020】
ここで、スプレーヘッド1としては、従来公知のものを使用すればよく、例えば図3及び図4に示すものが用いられ、例えば天井に火災の発生が予期される方向へ指向して配置された各噴霧ノズル4から粒子径が20~200μmの霧14が火炎2に向けて噴霧放射される。
【0021】
上記の消火用水溶液に含まれる消炎化合物は、無機化合物でも有機化合物でもよく、好ましいものは、例えば、クエン酸三カリウム、酢酸カリウム、重炭酸カリウム、酒石酸カリウム、グルコン酸カリウム、乳酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸カリウム、フタル酸水素カリウム、シュウ酸カリウム、プロピオン酸カリウム、アロフォン酸カリウム、炭酸カリウム、クエン酸三ナトリウム、重炭酸ナトリウム、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム及び硫酸アンモニウムのうちの少なくとも1種である。これらの消炎化合物が好ましい理由は、水に溶解し易く、また消炎化合物中のカリウム、ナトリウム、アンモニウムが火炎により容易に消炎化合物より放出され、燃焼反応を促進する化学種と結合することで消炎効果を発揮できるからである。
【0022】
また、上記の消火用水溶液に含まれる硝酸塩は、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム及び硝酸グアニジンのうちの少なくとも1種である。これらの硝酸塩が好ましい理由は、水に溶け易く、上記の化合物との組合せで硝酸イオン由来の酸素による酸化分解反応を促進し、消火成分を放出する機能を有するからである。
【0023】
消火用水溶液における前記消炎化合物及び前記硝酸塩の合計含有量が1~85質量%であること、更には、1~60質量%であること、が好ましい。また、消火用水溶液における前記消炎化合物及び前記硝酸塩の質量比は、消炎化合物が45~99に対し、硝酸塩が55~1(合計100)であればよい。より好ましくは、消炎化合物が50~95に対し、硝酸塩が50~5(合計100)であればよい。
【0024】
本発明の消火方法においては、スプレーヘッド1から噴霧放射される上記消火用水溶液の霧(ミスト)14の粒子径が20~200μmのときに消火作用を効果的に発揮する。粒子径が200μm以下であれば、燃焼熱により粒子中の水分がより確実に蒸発し、残された消火剤成分である消炎化合物が粉末化し、更に、熱せられて吸熱分解を起こすことで消火作用を発揮する、また、粒子径が20μm以上であれば、含有水分の蒸発が確実に行われ、消火薬成分による消火効果が最大限に引き出される。上記消火用水溶液の霧(ミスト)14の粒子径は、より好ましくは、30~100μmであるのが好ましい。
【0025】
上記のような構成を有する消火装置を用い、火災が発生した場合には、その検知信号又は手動で開閉バルブ15aを開放する。これによって、負触媒効果による消火作用を有する消火薬剤を溶解した水溶液が高圧状態でスプレーヘッド1の各噴霧ノズル4から霧14となって火炎2に向けて噴霧放射される。
【0026】
このとき、火炎2を霧14で覆うことにより、先ず燃焼熱により霧14の水分が気化蒸発し、次に、消火用水溶液の霧14が熱分解して残った火炎2を消火する。即ち、消火原理は、(1)気相の冷却、(2)噴霧液の気化による酸素濃度の希釈、(3)燃焼面の濡れ化、(4)消火剤成分の消火作用と、硝酸塩による消火剤成分の酸化分解作用と、による化学的消火であって、A火災だけでなく、B火災及びC火災であっても、しかも、その火炎の面積が広い場合でも、確実に消火することができる。
【実施例
【0027】
≪実施例1~10≫
図1に示す消火装置を用い、深さが30cmで、その面積が45×45、63×63、77×77及び89×89cmの各種の燃焼火皿18に敷水19を深さ15cm溜め、その敷水19上にノルマルヘプタン20を深さ3cm入れ、スプレーヘッド1と燃焼火皿18との間の間隔Hを1.5mとした。消火対象空間は5リットルとした。
また、表1に示す組成の成分を水に溶解させて20%の消火用水溶液を調製し、高圧容器15にこれを充填するとともに、窒素ガスを充填して、初期圧力が1平方センチメートル当たり100kgになるように加圧した。この状態で、ノルマルヘプタン20に着火し、予備燃焼を1分間行った後、開閉バルブ15aを開放し、スプレーヘッド1から粒子径が20~200μmの消火用水溶液の霧14を噴霧放射し、その霧14で火炎2を覆った。このような手順で消火方法を実施し、消火の成否を確認した。結果を表1に示した。
【0028】
≪比較例1≫
硝酸塩を用いない以外は、実施例1と同様にして、消火方法を実施して消火の可否を確認した。結果を表1に示した。
【0029】
≪比較例2≫
水のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、消火方法を実施して消火の可否を確認した。結果を表1に示した。
【0030】
【表1】
【0031】
消火試験の結果は、表1に示すとおりであり、硝酸塩を用いない場合(比較例1)は、ほとんど消火できたが最後に小さな炎が残った。また、水だけを用いた場合(比較例2)は、ほとんど消火できなかった。これに対し、本発明の消火方法においては確実に消火することができた。
なお、消炎化合物を用いない場合を比較例3としたが、消火できなかった。
【符号の説明】
【0032】
1・・・スプレーヘッド、
2・・・火炎、
15・・・高圧容器、
18・・・燃焼火皿、
19・・・敷水、
20・・・ノルマルヘプタン。
図1
図2
図3
図4