(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】カーボンナノファイバー製造のための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
C25B 1/01 20210101AFI20220610BHJP
C01B 13/02 20060101ALI20220610BHJP
C01B 32/15 20170101ALI20220610BHJP
C01B 32/166 20170101ALI20220610BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220610BHJP
C25B 11/073 20210101ALI20220610BHJP
【FI】
C25B1/01 Z
C01B13/02 B
C01B32/15
C01B32/166
C25B9/00 Z
C25B11/073
(21)【出願番号】P 2017545590
(86)(22)【出願日】2016-02-26
(86)【国際出願番号】 US2016019918
(87)【国際公開番号】W WO2016138469
(87)【国際公開日】2016-09-01
【審査請求日】2018-12-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-07
(32)【優先日】2015-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519174584
【氏名又は名称】シーツーシーエヌティー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】C2CNT LLC
【住所又は居所原語表記】21854 Watson Road Leesburg, Virginia 20175 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】リヒト,スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】レン,ジアウェン
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】池渕 立
【審判官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0202874(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/
C01B32/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノ材料を製造するためのシステムであって、
炭酸塩を受け入れる炉室であって、これを加熱することにより溶融炭酸塩を生成させる前記炉室;
前記溶融炭酸塩に電気分解を行うためのアノード及びカソードを有する電気分解装置;並びに
添加される遷移金属から、
前記カソード上に十分な量の遷移金属核形成剤を形成させる分散機
を含み、
前記
システムは、
(i)核形成部位として作用する前記カソード上に前記遷移金属核形成剤の析出物を形成し、
(ii)その後、カーボンナノ材料としての前記核形成部位
から主に成長さ
れたカーボン生成物を提供する、ように構成される、
前記システム。
【請求項2】
アノード及びカソードを用いた電気分解によりカーボンナノ材料を製造する方法であって、
炭酸塩を加熱することにより溶融炭酸塩を生成させ;
前記溶融炭酸塩に前記アノード及びカソードを挿入し;
添加される遷移金属から、遷移金属核形成剤が形成され;
前記溶融炭酸塩中に前記遷移金属核形成剤を提供し;そして
前記電気分解は、電解質の析出条件を変化させて、核形成部位として作用する前記カソード上に前記遷移金属核形成剤の析出物を形成させ、前記核形成部位
からカーボンナノ材料を成長させる、ように起こされる、
ことを含む方法。
【請求項3】
前記カソードが、鋼、鉄、ニッケル、コバルト、銅、マンガン、イリジウム、金属合金、炭素、又はそれらの何れかの組み合わせ、を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記アノードが、ニッケル、コバルト、銅、マンガン、炭素、イリジウム、金属、炭素、又はそれらの何れかの組み合わせ、を含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記電気分解が、最初の所定時間は5~10mA・cm
-2の電流密度で、そして次に20~1000mA・cm
-2の電流密度で行われる、請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記カーボンナノ材料が、カーボンナノファイバーである、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記カーボンナノ材料が、カーボンナノチューブである、請求項2記載の方法。
【請求項8】
前記遷移金属核形成剤が、ニッケル、鉄、コバルト、銅、チタン、クロム、マンガン、ジルコニウム、モリブデン、銀、カドミウム、ルテニウム、及びそれらの何れかの組み合わせ、からなるグループから選択される、請求項2記載の方法。
【請求項9】
前記遷移金属核形成剤が、溶解した遷移金属塩として前記溶融炭酸塩に添加されて、前記カソード上に移動する、請求項2記載の方法。
【請求項10】
前記遷移金属核形成剤が、直接に前記カソード上に添加される、請求項2記載の方法。
【請求項11】
前記遷移金属核形成剤が、前記アノードからの遷移金属の溶解により添加されて、前記溶融炭酸塩を通って、前記カソード上に移動する、請求項2記載の方法。
【請求項12】
前記カソードが、亜鉛でコーティングされる、請求項2記載の方法。
【請求項13】
前記炭酸塩が、アルカリ炭酸塩、アルカリ土類炭酸塩、及びそれらの何れかの組み合わせ、を含む、請求項2記載の方法。
【請求項14】
前記溶融炭酸塩に、CO
2源からCO
2を注入する、ことを更に含む、請求項2記載の方法。
【請求項15】
前記CO
2源が、空気、加圧CO
2
、濃縮CO
2、発電産業プロセス、鉄生成産業プロセス、鋼生成産業プロセス、セメント形成プロセス、アンモニア形成産業プロセス、アルミニウム形成産業プロセス、製造プロセス、炉、煙突、又は内燃機関、の1つである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記溶融炭酸塩が、カーボンナノ材料の充填剤又はコーティング剤として作用することができるか、あるいは電解質の粘度に影響を及ぼす、酸化物又は遷移金属塩以外の添加剤を含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記蓄積されたカーボンナノ材料を処理することであって、前記処理が、洗浄、コーティング、及び化学的又は電気化学的な酸化又は還元、の少なくとも1つ、を更に含む、請求項14記載の方法。
【請求項18】
前記溶融炭酸塩が、酸化物を更に含む、請求項2記載の方法。
【請求項19】
前記酸化物が、絡み合ったカーボンナノ材料の前記形成を促進するための酸化リチウムである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記酸化物が、酸化バリウムである、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記分散機が、アノードである、請求項1記載のシステム。
【請求項22】
クーロン効率が、80%以上である、請求項2記載の方法。
【請求項23】
前記カーボンナノ材料が、カーボンナノファイバーを80%以上含む、請求項2記載の方法。
【請求項24】
前記カーボンナノ材料の特性が、前記アノード及び前記カソードへの電流密度、電気分解の温度、粘度、電気分解の注入気体、遷移金属容量、又は電解炉の電解容量、の少なくとも一つにより制御される、請求項1記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
著作権
本特許文書の開示の一部には、著作権保護の対象となる資料が含まれている。著作権所有者は、特許開示が特許庁の特許包袋又は記録中に現れるため、誰でもそれの複写ができることに異論を唱えないが、それ以外の場合は何であれ全ての著作権を留保する。
【0002】
優先権
本出願は、2015年2月26日に出願された米国仮出願第62/120,951号及び2015年10月13日に出願された米国仮出願第62/240,805号(これらは両方とも、その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)の優先権を主張する。
【0003】
[技術分野]
本発明は一般に、カーボンナノ材料の製造に関し、具体的には、CO2中で混合することにより炭素と酸素を分離しながら、溶融炭酸塩の電気分解を提供することによるカーボンナノ材料の製造に関する。
【背景技術】
【0004】
大気中の二酸化炭素濃度の上昇による地球温暖化の結果は、氷河及び氷冠の消失、海面上昇、干ばつ、ハリケーン、種の絶滅、及び経済的損失によって証明されるとおり立証されている。カーボンナノファイバーなどのカーボンナノ材料は、最高レベルのスポーツ機器から軽量の車や飛行機のボディーに至るまで、高強度の複合建材における使用が増えている。カーボンナノファイバーは、CO2を結合するだけでなく、CO2から製造された場合、鋼、アルミニウム、及びセメントの生産に伴う大量のCO2排出量を削減し、風力タービンと軽量で低炭素のフットプリント輸送との両方を促進することにより更に排出量を減少させるだろう。しかし、石炭1トンあたりの価値は約60ドルであり、黒鉛は約1,000ドルであるのに対して、カーボンナノファイバーは、1トン当たり2万ドルから10万ドルの範囲である。今日、カーボンナノファイバーは、アルミニウムと比較して、製造するのに30~100倍高いエネルギーを必要とする。溶融炭酸リチウム中の電気分解によるカーボンナノチューブ及びナノファイバーの効率的又は高収率の製造は、従来法では不可能であると考えられる。
【0005】
1985年に始まったフラーレン、ナノチューブ、及びナノファイバーなどの種々の独特なカーボンナノスケール構造の認識に先立って、水酸化物及び塩化バリウム/炭酸バリウム溶融物からの無機溶融電解質中の炭酸塩の(巨視的な)炭素への還元は、1800年代後半に早くも認められた。今日、カーボンナノファイバー調製の主要な方法は、ポリマーナノファイバー前駆体の紡糸と、これに続く炭化熱処理及び触媒熱化学気相成長法(CVD)による成長である。カーボンナノファイバーのCVDによる成長は、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、及びバナジウムを含む、金属炭化物を形成するために炭素を溶解することができる金属又は合金によって触媒される。カーボンナノファイバーに対して触媒のレベルが低いことが必要であり、ファイバー先端に顕著な触媒ナノ粒子が観察され、更には、カーボンナノファイバーの成長中に移動したファイバーに沿った触媒クラスターも観察される。線状、コイル状、及び球状のクラスター化カーボンナノファイバーを含む、種々のカーボンナノファイバー形態が観察されている。これらの手法は費用がかかり、大規模に実施することが困難であり、そしてカーボンナノファイバーの現在の高コストを招いている。
【0006】
カーボンナノファイバーの電気化学的合成は広く検討されていない。固体炭素電極は、アルカリ金属の形成、炭素へのインターカレーション、及び炭素の剥離を介して、溶融ハロゲン化物溶液中のナノチューブのようなナノ構造に電気的に変換されている。固体炭素の変換の代わりに、炭素電極と白金電極で研究されたCO2の直接還元速度は、高い(15atm)CO2圧を必要とする溶融ハロゲン化物中のCO2の低い溶解度によって制限されており、電極の腐食を伴う。溶融塩化物中の5~10% Li2CO3の研究は、リチウム放電及びカソードへのインターカレーションの代わりに炭素の還元及び析出が起こるため、溶融炭酸リチウム中での電気分解によるカーボンナノチューブ及びナノファイバーの製造が不可能であると結論付けた。
【0007】
よって、溶融炭酸塩材料からカーボンナノ材料を製造する効率的な方法が必要とされている。また、太陽光発電による炉及び電気分解システムからカーボンナノ材料を製造する必要がある。電気分解からのカーボンナノ材料の成長を促進するために、溶融Li2CO3からの代替のカーボンナノ材料遷移金属核成長経路を提供する必要がある。
【0008】
要約
一例により、カーボンナノ材料を製造するためのシステムが開示される。このシステムは、炭酸塩を受け入れる炉室を含む。この炉室を加熱することにより溶融炭酸塩を生成させる。電気分解装置は、溶融炭酸塩に電気分解を行うためのアノード及びカソードを有する。分散機は、カーボンナノ材料を蓄積させるためにカソード上に遷移金属核形成剤を形成する。
【0009】
開示される別の例は、カーボンナノ材料を製造する方法である。炭酸塩を加熱することにより溶融炭酸塩を生成させる。溶融炭酸塩には、アノードとカソードが挿入される。遷移金属核形成剤が溶融炭酸塩中に提供される。アノードとカソードとの間に電気分解が行われることにより、核形成部位からカソードにカーボンナノ材料を形成させる。
【0010】
本発明の更なる態様は、図面を参照してなされる種々の実施態様の詳細な説明を考慮して当業者には明らかであり、図面の簡単な説明は以下に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】炭酸塩からカーボンナノ材料を製造するための電気分解システムのブロック図である。
【
図2A】
図1のシステムに使用される太陽光発電による炉及び電気分解システムの詳細図である。
【
図2B】
図1のシステムに使用される代替の太陽光発電による炉及び電気分解システムの詳細図であり;
【
図2C】
図2Cは、
図1のシステムに使用される塔型の太陽光発電による炉及び電気分解システムの詳細図である。
【
図3A】溶融炭酸塩の電気分解からゼロニッケル環境で形成された炭素材料の異なる倍率でのSEM画像である。
【
図3B】溶融炭酸塩の電気分解からゼロニッケル環境で形成された炭素材料の異なる倍率でのSEM画像である。
【
図3C】溶融炭酸塩の電気分解からゼロニッケル環境で形成された炭素材料の異なる倍率でのSEM画像である。
【
図3D】溶融炭酸塩の電気分解からゼロニッケル環境で形成された炭素材料の異なる倍率でのSEM画像である。
【
図4A】溶融炭酸塩の電気分解のための異なる電流密度により生成した析出鉄粒子のSEM画像である。
【
図4B】溶融炭酸塩の電気分解のための異なる電流密度により生成した析出鉄粒子のSEM画像である。
【
図4C】溶融炭酸塩の電気分解のための異なる電流密度により生成した析出鉄粒子のSEM画像である。
【
図4D】溶融炭酸塩の電気分解のための異なる電流密度により生成した析出鉄粒子のSEM画像である。
【
図4E】溶融炭酸塩の電気分解のための異なる電流密度により生成した析出鉄粒子のSEM画像である。
【
図4F】溶融炭酸塩の電気分解のための異なる電流密度により生成した析出鉄粒子のSEM画像である。
【
図5A】電解プロセスにおいてニッケル大含量アノードを用いて製造された炭素生成物のX線回折グラフである。
【
図5B】製造されたカーボンファイバーの変動を示す、ニッケル大含量アノードを用いた電気分解により製造された炭素生成物のSEM画像である。
【
図5C】製造されたカーボンファイバーの変動を示す、ニッケル大含量アノードを用いた電気分解により製造された炭素生成物のSEM画像である。
【
図5D】製造されたカーボンファイバーの変動を示す、ニッケル大含量アノードを用いた電気分解により製造された炭素生成物のSEM画像である。
【
図5E】製造されたカーボンファイバーの変動を示す、ニッケル大含量アノードを用いた電気分解により製造された炭素生成物のSEM画像である。
【
図6A】ニッケル制御含量アノードを用いた電気分解により製造された炭素生成物のX線回折グラフである。
【
図6B】ニッケル制御含量アノードを用いた電気分解により製造された炭素生成物のエネルギー分散分光分析グラフである。
【
図6C】ニッケル制御含量アノードを用いた電気分解により製造された炭素生成物のエネルギー分散分光分析グラフである。
【
図6D】カソード上にニッケル核形成部位をもたらす電気分解により製造されたカーボンナノファイバーのSEM画像である。
【
図7A】アノード上にニッケル制御含量を含む電気分解により製造されたカーボンナノ生成物のSEM画像である。
【
図7B】アノード上にニッケル制御含量を含む電気分解により製造されたカーボンナノ生成物のSEM画像である。
【
図7C】アノード上にニッケル制御含量を含む電気分解により製造されたカーボンナノ生成物のSEM画像である。
【
図7D】電解プロセスのカソード上の核形成部位からの炭素含量及びニッケル含量を示す電子分散分光法である。
【
図7E】
図7A~7Cの画像をもたらす電解プロセスにより製造されたカーボンナノチューブのSEM画像である。
【
図7F】
図7A~7Cの画像をもたらす電解プロセスにより製造されたカーボンナノチューブのTEM画像である。
【
図8A】カーボンナノ材料を製造するための試験電解室及び関連要素を示す。
【
図8B】カーボンナノ材料を製造するための試験電解室及び関連要素を示す。
【
図8C】カーボンナノ材料を製造するための試験電解室及び関連要素を示す。
【
図8D】カーボンナノ材料を製造するための試験電解室及び関連要素を示す。
【
図8E】カーボンナノ材料を製造するための試験電解室及び関連要素を示す。
【
図8F】カーボンナノ材料を製造するための試験電解室及び関連要素を示す。
【
図8G】カーボンナノ材料を製造するための試験電解室及び関連要素を示す。
【
図9A】カーボンナノ材料を製造するために電解プロセスに電力を供給するために使用され得る集光型太陽光発電システムを示す。
【
図9B】カーボンナノ材料を製造するために電解プロセスに電力を供給するために使用され得る集光型太陽光発電システムを示す。
【
図9C】カーボンナノ材料を製造するために電解プロセスに電力を供給するために使用され得る集光型太陽光発電システムを示す。
【
図9D】
図9A~9Cの集光型太陽光発電システムの電力曲線グラフである。
【
図10A】炭素同位体を含む溶融炭酸塩に注入された炭素又は炭素同位体から生じる炭素生成物のラマン分光分析図である。
【
図10B】炭素同位体を含む溶融炭酸塩に注入された炭素又は炭素同位体から生じる炭素生成物のラマン分光分析図である。
【
図10C】炭素同位体を含む溶融炭酸塩に注入された炭素又は炭素同位体から生じる炭素生成物のラマン分光分析図である。
【
図11A】炭素同位体を含まない炭素を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM画像である。
【
図11B】炭素同位体を含まない炭素を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM画像である。
【
図11C】炭素同位体を含まない炭素を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM画像である。
【
図11D】炭素同位体を含まない炭素を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM画像である。
【
図11E】炭素同位体を含まない炭素を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM画像である。
【
図12A】炭素同位体を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM及びTEM画像である。
【
図12B】炭素同位体を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM及びTEM画像である。
【
図12C】炭素同位体を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM及びTEM画像である。
【
図12D】炭素同位体を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM及びTEM画像である。
【
図12E】炭素同位体を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM及びTEM画像である。
【
図12F】炭素同位体を用いて製造されたカーボンナノチューブのSEM及びTEM画像である。
【
図13】発電とカーボンナノ材料製造との統合プラントの一例であり;
【
図14A】石炭発電とカーボンナノ材料製造との統合石炭発電プラントの一例である。
【
図14B】石炭発電とカーボンナノ材料製造との統合再生可能発電プラントの一例である。
【
図14C】石炭発電とカーボンナノ材料製造との統合太陽光発電によるプラントの一例である。
【
図15】熱/電気分解システムを介してカーボンナノ材料を製造するプロセスのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、種々の変形及び代替形態が可能であるが、特定の実施形態が図面で一例として示されており、本明細書で詳細に説明されよう。しかし、当然ながら本発明は開示された特定の形態に限定されるものではない。むしろ本発明は、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の本質及び範囲内に入る、全ての変形、均等物、及び代替物に及ぶものである。
【0013】
詳細な説明
純粋なLi2CO3(融点723℃を有する)又はより低融点の炭酸塩共融物(LiNaKCO3(融点399℃を有する)又はLiBaCaCO3(融点620℃を有する)など)は、可溶性の高い酸化物(Li2O及びBaOなど)と混合すると、大気中の排気CO2からのCO2の迅速な吸収を維持する。炭酸塩は、アルカリ及びアルカリ土類炭酸塩を含む。アルカリ炭酸塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、若しくはフランシウム炭酸塩、又はこれらの混合物を含み得る。アルカリ土類炭酸塩は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、若しくはラジウム炭酸塩、又はこれらの混合物であってもよい。
【0014】
リチウム又はリチウム/バリウム酸化物の吸収を抑制する平衡が提示されており、リチウムの場合は以下のように記述される:
【数1】
【0015】
空気は、0.04% CO2を含有する;これは、1リットル当たり四価炭素わずか1.7×10-5molであるのに対し、溶融炭酸塩は、1リットル当たり還元可能な四価炭素 約20molを含有する。大気中CO2を濃縮するための別のプロセスは、熱電気化学プロセスでは必要でない。したがって、空気からCO2を吸収することにより、溶融炭酸塩は、電解室で(炭素に)分割するために利用可能な還元可能な四価炭素の百万倍の濃度増加を提供する。炭酸塩の活性のある還元可能な四価炭素部位の高濃度が、対数的に電解電位を低下させ、そして低い電解電位で電荷移動の達成を容易にすることができる。溶融炭酸塩にCO2が吹き込まれ、電気分解中にアノードで酸素が発生し、同時にカソードには粘性の固体炭素が増えていく。上述されるように、得られる粘性の固体炭素は、カーボンナノファイバー又はカーボンナノチューブのようなカーボンナノ材料であってよい。
【0016】
遷移金属核形成剤は、溶融炭酸塩の電気分解中に添加される。遷移金属は、カーボンナノ材料の成長を可能にする核形成部位を作り出す。遷移金属核形成剤の例には、ニッケル、鉄、コバルト、銅、チタン、クロム、マンガン、ジルコニウム、モリブデン、銀、カドミウム、バナジウム、スズ、ルテニウム、又はこれらの混合物が含まれる。
【0017】
図1は、炭酸塩材料及び注入されたCO
2からカーボンナノ材料を製造する、システム100の一例の透視図である。システム100は、炭酸塩炉102、電解室104、及びコレクタ106を含む。炉102、電解室104、及びコレクタ106は、
図1では別々の構成要素として示されているが、当然のことながら、それらは同じ物理的構造内に存在することができる。電解室104は、炉102内で炭酸塩を加熱することによって生成した溶融炭酸塩を保持するチャンバー110を含む。アノード112及びカソード114が電源116に接続される。アノード112及びカソード114がチャンバー110内に挿入される。CO
2は、CO
2源118から溶融炭酸塩に注入される。CO
2がアノード112でO
2に変換され、カソード114でカーボンナノ材料が変換されるため、CO
2は、電解反応全体では、酸化物と反応して、炭酸塩を消費するのではなく、むしろそれを更新するように溶融炭酸塩に注入される。後述されるように、CO
2源118には種々のCO
2源が存在しうる。後述されるように、炭酸塩炉は、純粋なLi
2CO
3のような炭酸塩をそれぞれの融点に加熱することにより溶融炭酸塩を生成させる。遷移金属は、アノードであってよい分散機を介して添加されることにより核形成剤として作用する。溶融炭酸塩は、電解室104においてアノード112とカソード114との間に挿入されることにより電気分解に付される。生じる反応は、炭酸塩から炭素を分離し、核形成部位からカソード114上に炭素生成物を残す。得られた炭素生成物はコレクタ106に集められ、同時にアノード112上に酸素が生成する。
【0018】
図2Aは、
図1のシステムによって実行される太陽熱電気化学プロセスのために使用され得る、太陽光発電による炉及び電解室システム200の略図である。システム200は、集光器202及び誘電体フィルター204(ホット/コールドミラーとも呼ばれる)を含む。光がそのフィルターを介して反射又は透過される波長は、誘電体フィルター204によって調整される。集光器202は、太陽光線を受光するように位置合わせされ、光線を誘電体フィルター204に集束する。集光器202は、放物面鏡、又は凸レンズ若しくはフレネルレンズのような、短い光路長の太陽光集光器である。誘電体フィルター204は、光を可視光206と赤外光208とに分離する。誘電体フィルター204は、ホットミラー光学素子であってもよい。システム200は、炉/電解室210を含む。炉/電解室210は、
図1の炉102と電解室104とを結合したものである。熱放射赤外線208は、炉/電解室210に熱エネルギーを提供するために使用される。可視光206は、太陽電池212を介して電気エネルギーを生成するように導かれる。
【0019】
純粋なLi2CO3などの炭酸塩材料214が炉/電解室210に挿入される。炭酸塩材料は加熱されることにより溶融炭酸塩が生成する。炉/電解室210は、アノード216及びカソード218を含む。アノード216及びカソード218は、太陽電池212の電気出力に接続されることにより、溶融炭酸塩に電気分解を提供する。この例では、アノード216は、ニッケル、イリジウム、又はニッケル合金などの高温酸素発生に安定な遷移金属であり、そしてカソード218は、鋼、亜鉛メッキ鋼、ニッケル、又は炭素である。あるいは、遷移金属核形成は、遷移金属を溶融炭酸塩に添加することによって導入することができる。この場合、カソード218及びアノード216はまた、酸化及び低過電圧での持続する酸素発生に耐性の、コバルト、銅、マンガン、炭素、イリジウム、金属、金属炭素、又は合金であってもよい。CO2が炉/電解室210に注入される。電気化学反応により、以下に説明されるように、カソード218上のニッケル部位で核形成を介してカーボンナノ材料が、そしてアノード216でO2が生成する。
【0020】
太陽熱電気化学プロセスは、溶融炭酸塩電解質を使用して、大気中の二酸化炭素からカーボンナノファイバーなどの純粋なカーボンナノ材料を生み出すことができる。
図2Aのシステム200は、太陽熱電気化学プロセスに使用することができる。
【0021】
太陽光発電による炉及び電気分解システムの代替案を
図2B及び2Cに示す。
図2Bは、太陽光発電に基づく太陽炉及び電気分解システム240を示す。システム240は、太陽光を太陽光発電装置244に導く集光器242を含む。ヒートシンク246を介して太陽光発電装置244から熱を取り出し、炉電解室250の炉に電力を供給するために使用する。チャンバー250内のアノード254とカソード256との間に、炭酸塩材料252が配置される。太陽光発電装置244は、アノード254とカソード256との間で電気分解を生じさせる電気エネルギーを生み出す。炭素生成物260は、カソード256上に生成し、酸素262はアノード254で生成する。
【0022】
図2Cは、塔型の炉及び電気分解システム270を示す。システム270は、塔280を取り囲むヘリオスタットミラー274のコレクタアレイ272を含む。ミラー274は、太陽を追跡し、そして塔280の中心点で太陽光を反射及び集光するようにアクチュエータにはめ込まれる。太陽光は、塔280によって可視の集中太陽光282(電解槽に電子電荷を提供する集光型太陽光発電装置を駆動するため)と熱太陽光284(電解槽を加熱するための熱を提供する)とに分割される。熱太陽光284は、結合した炉/電解槽290に熱エネルギーを供給する集熱器286に導かれる。炉/電解槽290は、炭酸塩を加熱して溶融炭酸塩を生成させる。可視の集中太陽光282は、溶融炭酸塩の電気分解のための電力を供給する太陽電池288に導かれる。溶融炭酸塩にCO
2が吹き込まれる。炉/電解槽290は、溶融炭酸塩に適用される電気分解のために使用される太陽電池288によって電力を供給される、アノード292及びカソード294を含む。カソード294上にカーボンナノ材料が生成し、同時にアノード292には酸素が生成する。
【0023】
図3A~3Dはそれぞれ、Niを含まないるつぼ中の10cm
2白金箔アノード及び10cm
2コイル状鋼線(直径0.12cm)カソードを用いて、6m Li
2Oを含む730℃溶融Li
2CO
3中でのニッケルを含まない1.5時間、1Aの定電流電解後の洗浄されたカソード炭素生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
図3A~Dの各画像は、異なる倍率でのカソードで生成した炭素生成物を示す。
図3Aは、倍率900倍での炭素生成物を示し、
図3Bは、倍率1700倍での炭素生成物を示し、そして
図3Cは、倍率4400倍での炭素生成物を示す。
図3Dは、
図3A~3Cに示されたものとはカソードの別の部分における倍率4400倍での種々の異なる炭素生成物を示す。これらの画像は、炭酸塩が、750℃以下の溶融炭酸塩温度で容易に炭素に分解されて100%クーロン効率に近づくことを示している。クーロン効率は、印加される電荷のモル数を形成された生成物のモル数と比較することによって決定されるが、ここで、形成される生成物各モルは電子4モルに左右される。これは、H
2及び炭素生成物が同時に生成される、水酸化物が炭酸塩と混合される場合を除いて当てはまる。炭素形成のために1アンペアcm
-2未満の高電流密度が維持され、そして炭素、白金、ニッケル、又は鋼カソード(後者は析出中に実際上炭素電極になる)で同様の持続電流が生じる。
【0024】
ファラデー当量を介して、上記プロセスにおける電流密度1A cm-2の適用は、年間にカソード面積 1m2当たり二酸化炭素36トンを除去する。フルセル電解電位は、高温(例えば、800℃)、低電流密度(例えば、10mA cm-2)、及び高酸化物濃度(例えば、6モル Li2O)の条件下で約1Vから数ボルトの範囲に及ぶ。炭酸塩電解電圧を増加させる条件は、高電流密度、低温、低粘度、又は低酸化物濃度である。
【0025】
高温では、生成物は徐々に炭素と一酸化炭素との混合物に変わり、そして950℃で純粋なCOとなる。それぞれの4電子又は2電子プロセスは、下記式により与えられる:
Li2CO3→C+Li2O+O2;式(1)との差引:CO2→C+O2 (2)
Li2CO3→CO+Li2O+1/2 O2;
式(1)との差引:CO2→CO+1/2 O2 (3)
【0026】
式(2)又は式(3)のいずれかによる電気分解は、Li2Oを放出することにより二酸化炭素の継続的な吸収を可能にする。式(1)の結果は、CO2が分割されて、酸素が放出されると同時に、炭素がカソード上で集められることである。式(2)の結果は、CO2が分割されて、酸素が放出されると同時に、炭素がカソードで形成されることである。式(3)の結果は、CO2が分割されて、酸素が放出されると同時に、COガスがカソードで放出されることである。
【0027】
図3A~3DのSEM画像は、ニッケルアノードではなく白金アノードを利用してLi
2CO
3を6モル Li
2Oと共に730℃で加熱した、ニッケルを含まない環境での炭酸塩電気分解後に、カソードに析出した炭素生成物中にカーボンナノファイバーが存在しないことの証拠である。無定形及び板状晶構造が見られ、この板状晶は部分的に形成された多層グラフェン/黒鉛を示すものである。電子分散分光法の元素分析は、無定形及び板状晶構造が99%を超える炭素から構成されていることを示している。同様に、Li
1.6Ba
0.3Ca
0.1CO
3電解質を用いて630℃の腐食しない更に低温でニッケルアノードで電気分解を代わりに実施した場合、カソード生成物にカーボンナノファイバーの形成は観察されなかった。
【0028】
カソードでの炭素とアノードでの酸素を生成させる効果は、
図1又は
図2A~2Cのシステムを用いて行われる炭酸塩電気分解中に生じる。ここに示されるように、これらのアノード効果は非常に特異的であり、そして
図1及び2に示されるシステムを使用して有意なカーボンナノ材料形成を促進することができる。カーボンナノ材料の種類及び特性は、電流レベル、電解質の組成、温度、粘度、及び遷移材料の量に依存する。カーボンナノ材料は、カーボンナノファイバー又はカーボンナノチューブを含んでいてもよい。
【0029】
図1~2のアノードは、白金、イリジウム、及びニッケルから構成されるが、これらはそれぞれ、カーボンナノ材料製造プロセスのための酸素発生アノードとして有効であろう。イリジウムは、溶融炭酸塩中で数百時間の使用にも腐食しないが、ニッケル腐食の程度は、炭酸塩電解質のカチオン組成によって決定される。ニッケルアノードは、炭酸ナトリウム及びカリウム電解質中で連続的に腐食を受け、炭酸リチウム電解質中では最初の軽度の腐食後は安定であり、そして炭酸バリウム/リチウム電解質中ではニッケルアノードの腐食は認められない。説明されるように、ニッケルの腐食は、カーボンナノ材料の形成を可能にする核形成剤として、ニッケルの電解質への導入を可能にする。炭酸リチウム電解質において、アノードでのニッケル腐食の低い割合は、アノード電流密度、電解時間、温度、粘度、及び酸化リチウム濃度の関数である。Li
2O 0又は5モルを添加した750℃でのLi
2CO
3中の100mA cm
-2ニッケルアノードからのニッケル消失は、電気分解600秒後のアノードそれぞれ0.5又は4.1mg cm
-2であり、そして電気分解1200又は5400秒後に4.6又は5.0mg cm
-2まで増加する。ニッケル消失は、更に高い電流密度(1000mA cm
-2)又は更に高温(950℃)を受けると、それぞれ7.0mg又は13.8mg cm
-2まで増加する。これらのニッケル消失の各々は、種々のワイヤ又はシム構成のアノードに使用されるニッケルの質量に比べて取るに足りない傾向がある。酸化ニッケルは、Li
2CO
31kg当たりニッケル 10mgに相当する、溶融Li
2CO
31モル当たりNiO 10
-5モルの低い溶解度を有する。この低い限界溶解度が、腐食されたニッケルの一部を薄い酸化物上層としてアノード表面に束縛し、残りはカソードでの還元及び再析出に利用可能な可溶性の酸化されたニッケルとなる。
【0030】
組成及び電流密度は、溶融炭酸塩電解質からの金属電着の性質を実質的に変える。これは、可溶性の低いものとは対照的に、可溶性の高い金属塩で観察することは容易である。鉄(酸化物)は、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムに不溶性であるが、リチウム化溶融炭酸塩には極めて可溶性になり得、溶解度はFe(III)又はFe(II)酸化物の質量の20%を超えるまで温度と共に増加する。
図4A~4Fは、Fe
2O
3を添加しない代わりに、1.5m Fe
2O
3を、3m Li
2Oを用いた、上記の730℃での炭酸塩電解プロセスにより、異なる電流密度で生成した析出鉄のSEM画像である。鉄はカソード上に形成され、そして
図4A~4Fは、形成された鉄粒子のSEM画像である。
図4Aは、電流0.1Aの電気分解で生成した比較的大きな鉄粒子を示し、
図4Bは、電流0.5Aの電気分解で生成した
図4Aのものよりも比較的小さな鉄粒子を示し、
図4Cは、電流2.5Aの電気分解で生成した
図4Bのものより小さい粒子である鉄粒子を示しており、そして
図4Dは、
図4Cのものよりも小さい粒子をもたらす電流5Aの電気分解で生成した鉄粒子を示している。
図4Eは、電流5Aの電気分解で生成した鉄粒子を高倍率で示し、そして
図4Fは、
図4A~4Eに示される炭素を生成させるプロセスに使用されたものとは異なる種類の電解質、650° Li
1.34Ba
0.08Ca
0.1CO
3中のC 1.5m Fe
2O
3及び6m LiOHでの、電流5Aの電気分解で生成した鉄粒子を高倍率で示す。LiOH及びこの後者の電解質の低い温度は、この後者の電解質中の溶存水を増進させ(2LiOH⇔Li
2O+H
2Oとして)、金属鉄生成物に加えて酸化鉄粒子の形成をもたらす。
図4A~Eに示される画像は、溶融炭酸塩から析出した鉄粒子のサイズが、一定の電荷(10cm
2カソードに対して1Ah)で電流密度に反比例すること、及び鉄の形状が電解質の析出条件によって強く影響されることを示している。
図4Fの画像は、鉄又は炭素などのカソードにおける生成物の異なる構造が、異なる電解質組成によって生成し得ることを示す。酸化ニッケルは、酸化鉄とは異なり、炭酸リチウム中の溶解度が低い。しかし、ニッケルと同様に、電気分解条件の変化による
鉄析出の幅広い変化は、ナノファイバーの成長を活性化するための核形成点として
鉄を発生させる可能性がある。
【0031】
アノードの腐食に由来する低濃度のニッケルでさえ、カソード上への析出をもたらすことができ、そしてカーボンナノファイバーの形成を触媒する。
図5A~5Eは、高ニッケル媒体アノードから様々なカーボンナノファイバーを製造するためのCO
2の適用の結果を示す。この例では、アノードは、10cm
2の直径0.12cmのコイル状鋼線カソードを用いた、6m Li
2Oを含む730℃溶融Li
2CO
3中で2時間、0.05A、次に1Aの定電流電解での、50ml Niるつぼの内壁である。試験装置は、
図8A~8Gを参照して以下に更に詳細に説明される。
図5Aは、炭素生成物のX線粉末回折のX線回折図である。
図5Aは、これらの条件によって生成した生成物が、26°の鋭いピーク及び42°のピークによって黒鉛炭素であることを示す。
【0032】
図5B~5Eは、50ml Niるつぼの内壁の特大のニッケルカソードでの電気分解後に、洗浄したカソード生成物の異なる領域を示すSEM画像である。
図5Bは、930倍のSEM画像であり、一方、
図5Cは、8600倍での同領域のSEM画像である。
図5B及び
図5Cの画像に示されるように、様々な直径を有する一貫して絡み合ったカーボンナノファイバーが全体にわたって観察される。典型的な定電流電解電位は、電流密度が0.05Aから1Aまで増加するにつれて、0.5から1.5Vまで変動することにより、
図5B~5Eに示される炭素生成物が生成する。
【0033】
図5A~5Eに示されるように、炭酸塩電気分解中のアノードからのニッケル放出が高いほど、種々の直径のカーボンナノファイバーの急増が得られる。しかし、放出されるニッケルの量は、放出されるニッケル量対アノードのサイズの比例関係によって制御することができる。
【0034】
図6A~6Dは、溶融炭酸塩へのCO
2の適用の結果が、上記の電解プロセスにおいてアノードからの制御されたニッケル媒体由来のカーボンナノファイバーの均質なセットを生み出すことを示す。核形成剤として作用するアノード中の制御されたニッケル媒体は、6m Li
2O電解質が添加された溶融炭酸塩にCO
2を吹き込む間に形成されるカーボンナノファイバーの均質なセットをもたらす。
図6Aは、更に小さいニッケルカソード(
図8A~8Gに説明される20ml Niるつぼの内壁)、直径0.12cmの10cm
2コイル状鋼線アノードを使用して、6m Li
2Oを含む730℃溶融Li
2CO
3中での0.05A、次に1Aの定電流電解を用いて生成した炭素生成物のX線粉末回折図である。。
図6AのX線粉末回折図は、
図5Aで生成した炭素生成物よりも、27°で小さいピーク及び42°で平坦なピークを示している。これは、制御されたニッケルプロセスからのカーボンナノファイバーのような、より均一な炭素生成物を示す。以下に説明されるように、カーボンナノファイバーは、カソード上のニッケル核形成点から成長する。
【0035】
図6B及び
図6Cは、製造されたカーボンナノファイバーのエネルギー分散分光グラフである。
図6Bは、成長したファイバーのカソードでの100%の炭素組成を示す。対照的に、
図6Cは、溶融炭酸塩電解質へのニッケルの導入をもたらすアノードでのニッケル劣化による、ニッケル含量の高いカソードでの高ニッケル濃度からの核形成点を示す。
図6B及び6Cは、高炭素濃度のナノファイバーを生成させる電解プロセスを示す。
図6Dは、洗浄されたカソード炭素生成物のSEM画像を示す。
図6Dの画像は、このプロセス条件が、試料全体にわたって一貫して同じ直径のカーボンナノファイバーをもたらすことを示す。
【0036】
図6AのX線粉末回折図は、アノードからのニッケルの制御された放出の濃度が低いほど、カソードでの非常に均質でより小さい直径のカーボンナノファイバーの生成をもたらすことを示す。
図5及び
図6に示される両方の炭素生成物は、Li
2Oを添加した730℃のLi
2CO
3中の鋼線カソードでの電気分解中に形成された。
図5A~5Eに示される炭素生成物は、意図的に特大のNiアノードを含むセル内で生成したが、この単一実験で生成した様々なカーボンナノファイバーは、直径約0.2から4μmまで変動し、そして長さは100μm以下である。
【0037】
図6Cの電子分散分光法で見られるように、輝点はカソード上のニッケル析出物である。これは、ニッケルがカーボンナノファイバーの成長を開始させるための核形成部位として作用する、既知のCVDカーボンナノファイバー成長の代替機序と一致する。26°及び43°のX線回折ピークは、カーボンナノファイバー内の六方晶黒鉛(002)及び回折面(JCPDSカードファイル番号41-1487)に、具体的には平行グラフェン層の積層及びグラフェン層のサイズにそれぞれ割り当てられる。
【0038】
電気分解が、典型的には5mA cm-2の低電流密度で開始され、続いて100mA cm-2のような長時間の高電流密度電気分解が行われると、カーボンナノファイバーのカソード生成物が優勢に観察される。カソード生成物は、高い(100mA cm-2)電流密度のみで直接開始するとき、主として無定形であり、そしてわずか約25%のカーボンナノファイバーである。溶解度が低く、かつ還元電位が低いため、アノードに由来するニッケルは、低い印加電解電流(5又は10mA cm-2)で選択的に析出する。これは、観測される低い電解電圧(<0.7V)によって証明され、そしてカーボンナノファイバー形成の核形成に有用なニッケル金属カソード析出物の形成を持続させる。電解質の濃度[CO3
2-]≫
[Ni2+]、及び質量拡散により、高電流は、炭酸塩還元に独占されよう。炭素を析出させるために熱力学的に必要とされるその後のより高い電解電圧は、より高い印加電流密度(>20mA cm-2)においてのみ観測される。したがって、低電流の最初の印加なしには、無定形炭素及び黒鉛板状晶が形成される傾向があるが、一方、カーボンナノファイバーは、低電流ニッケル核形成活性化の後に容易に形成される。典型的な高収率のカーボンナノファイバー電気分解では、電流密度は、10cm-2の鋼カソードで50から1000mAまで15分間かけて増加させ、続いて1000mAで定電流電解を行う。
【0039】
図6に示されるプロセスにより合成されるカーボンナノファイバーは、
図5の合成におけるものと同じカソード及び同じ組成の電解質を使用したが、放出されるニッケルの制御された限定量により、カソード上のニッケル核形成点の形成を制限した。これは、電解セル内のニッケルアノードのもっと小さい(1/3)表面積を使用することによって達成される。
図5Aに示されるX線回折におけるピークと比較して、良好に分離された
図6Aの43°(100面)及び44°(101面)のX線回折ピークは、
図6DのSEM画像が得られるプロセスによりニッケル限定条件下で合成されたカーボンナノファイバーの良好な均質性の証拠である。
図6Dに示されるように、ニッケルの制御された放出の濃度が低いと、約0.2μmのより小さい一貫した直径を有する高度に均質なカーボンナノファイバーが生成する。
【0040】
図5B~5Eの画像に示される高ニッケル電気分解から生成したカーボンナノ材料は、種々の直径の絡み合ったカーボンナノファイバーの急増を示す。
図6DのSEM画像に示される低ニッケル電気分解のカーボンナノ材料は、絡み合った均一な直径のカーボンナノファイバーを示す。これらの電気分解の各々では、6m Li
2Oを添加した(溶解した)Li
2CO
3電解質を利用した。カーボンナノファイバー形成領域に局在する酸化物が高濃度になると、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーの欠陥や絡まりが生じる。
【0041】
図7A~7Fに示されるように、Li
2Oを添加しない純粋な溶融Li
2CO
3中での電気分解によって成長したカーボンナノファイバーは、一貫して絡み合っておらず、均質で、かつ長い。得られるカーボンナノチューブは、幅が300~1000nm、長さが20~200μmに及ぶ。これらのナノ材料は、溶融炭酸塩にCO
2を添加することにより、制御されたニッケル媒体から均質で絡み合っていないカーボンナノファイバー又はカーボンナノチューブのセットを生成させることから生じる。溶融炭酸塩電解質中の酸化物の高濃度を防止するために、Li
2Oは溶融炭酸塩電解質に添加されない。
図7Aは、更に小さいニッケルカソード(20ml Niるつぼの内壁)での電気分解、10cm
2コイル状鋼線カソード(直径0.12cm)を使用して、730℃溶融Li
2CO
3中での0.05A、次に1Aの定電流電解後に、洗浄されたカソード炭素生成物の800倍のSEM画像を示す。
図7Bは、溶融炭酸塩電解質にLi
2Oを添加した、同じ条件下でのカソード炭素生成物のSEM画像を示す。
図7Bは、
図7Aのよりも比較的絡み合いの多いカーボンナノファイバーを示す。
【0042】
図7Cは、カソード上に形成されたカーボンナノファイバーのSEM画像である。
図7Cには、種々の典型的なニッケル核形成部位702が含まれる。
図7Cに示される矢印704は、1つのニッケル核形成部位706での起点を示し、核形成部位706から形成されたカーボンナノファイバー経路に沿って移動する。
図7Eは、このプロセスから形成されたカーボンナノチューブのSEM画像を示す。
図7Fは、このプロセスから形成されたカーボンナノチューブ先端の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【0043】
図7Dは、ナノファイバーの始点の純粋なニッケルから残りのナノファイバーに沿った純粋な炭素までの6μmの経路に沿った元素の変化を示す、線形電子分散分光法の地図を示す。
図7Dは、微量ニッケル710及び微量炭素712を含む。クーロン効率パーセントは、回収された炭素のモル数を、CO
2の還元に適用される各4モルの電気分解の電荷と比較し、そして80%を超え(そして洗浄後の全ての生成物の慎重な回収により100%に近づく)、生成物(電解質を洗浄後)は、純度80%を超えるカーボンナノファイバーよりなる。カーボンナノ材料がカーボンナノチューブであるか、又はカーボンナノファイバーであるかどうかの程度を示す最初の結果は、
図7E及び7FのSEM及びTEM画像に見られる。ナノチューブを含む炭素殻の数及び充填されたナノチューブの程度の制御は、電解時間、電気分解中に通過した電荷、及び電解質組成、温度、粘度、カソードに添加される遷移金属の量に基づく。ナノチューブの長さは、これらの要因に加えて、遷移金属がカソードに添加される速度にも基づいている。白金と亜鉛は、溶融電解質のカーボンナノファイバーの核形成を起こさない傾向があるが、ニッケル、コバルト、銅、及びマンガンと併せると、これらの材料もカーボンナノ材料の核形成を誘導する。
図7Fに示されるように、示された明るいニッケルのような添加物は、核形成部位として作用するだけでなく、中空ナノファイバーの充填剤としても作用することができる。電解質に添加された酸化物又は遷移金属塩以外の添加剤もまた、カーボンナノ材料の充填剤又はコーティング剤として作用することができるか、あるいは電解質の粘度に影響を及ぼすために使用することができる。例えば、無機アルミン酸塩及びケイ酸塩の両方は、溶融炭酸リチウムに高度に可溶性である。高濃度のいずれかのタイプの塩は電解質の粘度を上昇させ、そして電気分解中に一般に約3Vを上回る高い電解電圧を印加すると、エネルギー分散分光法により測定されるとき、カーボンナノ材料と共に、その上に又はその中にリチウム金属、アルミニウム金属又はケイ素が生成する。
【0044】
よって、カーボンナノチューブを製造するために、電気分解は、カソード上にニッケル核形成部位を成長させるために初期低電流(0.001Aで0.5時間)で行われる。次に、カーボンナノチューブを、浸漬した10cm2の亜鉛メッキ鋼カソード上で1Aで1時間成長させる。2種類のナノ材料が生成する。直線状カーボンナノチューブは、Li2Oを添加しない溶融炭酸塩電解質から成長する。あるいは、絡み合ったカーボンナノチューブは、溶融炭酸塩電解質に4m Li2Oが添加されたときに成長する。溶融炭酸リチウム中のCO2の電気分解分割中の拡散条件の制御は、充填されたカーボンナノファイバー又は中空カーボンナノチューブのいずれかをもたらし、そして酸化物及び遷移金属濃度の制御は、絡み合ったか又は直線状のファイバーをもたらす。このことは、合成されたカーボンナノ材料のある程度の制御を与える。
【0045】
図8A~8Fは、
図5~7の試料を製造するために使用され得る電解室800の一例を示す。
図8Aは、チャンバー800の透視図を示す。チャンバー800は、炭酸塩に吹き込まれるCO
2を分割する拡大した電解室である。チャンバー800は、100アンペア、1.5V、及び炭素への4電子還元のクーロン効率95~100%で動作する。チャンバー800は、カーボンナノ材料の成長のためのニッケルシリンダー802を含む。チャンバー802は、導線804及び806に結合される。導線804及び806は、高電流母線810に結合された同心ニッケルアノード(底部に電気的に接続される)である。
図8Bに示されるように、鋼電極シリンダー808は、高電流母線に結合されたカソードであり、そして
図8Cに示されるように、チャンバー800内の導線804と806との間に挿入される。この例におけるアノード及びカソード面積は300cm
2であり、アルミナセル直径は7cmであり、そして高さは14cmである。
【0046】
小規模の実験では、炭素は、低電流により、そして次に1Aの電気分解によりコイル状10cm2の亜鉛メッキ鋼線からなるカソード上で形成される。電気分解後に取り出されると、炭素は、凝結した電解質に沿って明らかになる。冷却された鋼線が解かれると、炭素と電解質は鋼線から落ち、電解質を除去するための洗浄用に集められる。鋼線を巻き直して、カソードを再利用することができる。
【0047】
図8Dは、チャンバー800内での1.5V処理で1時間、100A電気分解後に、チャンバー800から取り外された鋼電極808を示す。
図8Dは、鋼電極上に厚い炭素析出被膜が形成されたことを示す。カソードからの炭素の取り出しは、
図8Eに示されるようにカソード808をハンマーで打つことによって行われる。
図8Fは、ほぼ完全に炭素層を取り出したカソード808の底面図である。
図8Gは、チャンバー800を2回目に使用してカソード808上に生成した炭素を示す。
【0048】
カーボンナノファイバー電解室800は容易に拡大縮小可能である。例えば、チャンバーは、300cm2(示されている)及び800cm2の電極セルを用いる100Aの電流まで拡大することができ、そしてこの拡大は、両方ともより低い炭素分割電位(1~1.5V)及び高い(80~100%)炭素生成物形成の4電子クーロン効率でのより小さなセルである。これは、元の電気分解から100倍のスケールアップであるが、同じ低電解電圧と高いクーロン効率で起こる。
【0049】
実証されたカーボンナノ材料合成は、石炭、天然ガス、太陽光、風力、熱水、又は原子力発電所によって発生する電力のような、任意の電源によって駆動されてもよい。従来の発電による電源の代替として、カーボンナノファイバー合成は、最大電力点で動作する
図2A~2Cにあるような、照射された効率的な集光型太陽光発電装置によって発生する電流から行うことができる。例えば、電解セルの反応物質として使用されるCO
2は、最初に、
図2Aの太陽電池212のような集光型太陽光発電装置(CPV)の上及び下を通過させ、そして次に太陽電池212による吸収に先立って誘電体フィルター204のようなホットミラーを介して集光された太陽光から分割されたサブバンドギャップ(赤外線)熱光を用いて電解温度まで加熱する。
【0050】
図9A~9Cは、カーボンナノファイバー合成プロセスを駆動するために使用され得る集光型太陽光発電システム900を示す。
図9Dは、
図9の太陽光発電システム900の出力曲線を示すグラフである。
図9Aは、空冷式AM1フィルター904の下に位置する0.3074cm
2のEnvoltek ESRD055 集光型太陽光発電装置902の透視図を示す。電力供給による電解槽電流(初期の実験)は、今や1kW キセノン、昼光色(5600K)光源906下の実験室での効率的な集光型太陽光発電により提供されて、
図9Bに示されるように疑似太陽光及びAM1(気塊(air mass))を提供する。
図9Bはまた、AM1フィルター904の上方にフレネル集光器908を示す。光導管910は、集光型太陽光発電装置902の上に懸架されている。
図9Cは、第2の集光器912の下の連結されていない集光型太陽光発電装置902のクローズアップである。
【0051】
図9Dは、典型的な(550sun)光電流を示す電力グラフである。電力曲線920は、39%高効率集光型発電を示す効率的な最大電力点922を示す。効率的なカーボンナノファイバーの太陽光利用合成は、屋内太陽シミュレーターと、550sun濃度で動作する39%高効率集光型太陽光発電装置により実証されているが、そしてこの装置は、2つの直列(1.35V×2)カーボンナノ材料電解槽を2.3Aで駆動する、2.7Vの最大電力点電圧を有する。安価なニッケルと鋼の電極を高い太陽光効率で使用して、カーボンナノ材料は、空気中のCO
2から効率的に形成される。上述されるように、炭素材料の種類及び寸法は、アノード中のニッケルなどの遷移金属、電解質組成、及び電流密度によって制御することができる。亜鉛のような材料の添加により、このプロセスは、エネルギー消費を低くすることが可能である。
【0052】
炭素の12C、13C若しくは14C同位体又はその混合物を含む、代替となるCO2類を使用することができる。生成したカーボンナノ材料からのラマン分光法、SEM画像及びTEM画像によって特徴付けられるように、例えば、天然に豊富に存在する12CO2は、中空カーボンナノチューブを形成するが、一方より重い13CO2による同等な合成条件では、中心が閉じたカーボンナノファイバーが優先される。純粋な13C多層カーボンナノファイバーは、大気中のCO2から直接形成される上記プロセスによって合成することができる。
【0053】
図10A~10Cは、溶融炭酸塩中の
13C同位体及び注入されたCO
2を用いて合成されたカーボンナノチューブのラマンスペクトル図である。
図10A~10Cは、構造及び同位体置換情報をもたらすカーボンナノチューブのスペクトルを示す。
図10Aのラマンスペクトル1000をもたらすカーボンナノチューブは、溶融Li
2CO
3炭酸塩に天然に豊富に存在するCO
2を注入しての電気分解により合成された。
図10Bのラマンスペクトル1002をもたらすカーボンナノチューブは、天然に豊富に存在するCO
2を溶融
13C Li
2CO
3炭酸塩に注入することによって成長した。
図10Bはまた、溶融
13C Li
2CO
3炭酸塩に注入されたCO
2中の
13C同位体の使用に由来する、ラマンスペクトル1004を示す。
図10Cは、2250~3000ω(cm
-1)帯域における様々なラマンスペクトル1010、1012及び1014を示す。ラマンスペクトル1010は、天然に豊富に存在するCO
2をLi
2CO
3の炭酸塩に注入しての電気分解によって合成されたカーボンナノチューブを表す。ラマンスペクトル1012は、溶融
13C Li
2CO
3に天然に豊富に存在するCO
2を注入することによって成長したカーボンナノチューブを表す。ラマンスペクトル1014は、溶融
13C Li
2CO
3炭酸塩中に
13C同位体を含むCO
2を注入することによって成長したカーボンナノチューブを表す。
【0054】
天然に豊富に存在するカーボンナノチューブは、1350cm
-1及び1575cm
-1に2つの鋭いピークを示す、
図10Aのラマンスペクトル1000をもたらす。これらのピークは、欠陥起因モード(Dバンド)及び高振動数E
2g一次モード(Gバンド)にそれぞれ対応する。DバンドとGバンドの間の強度比(I
D/I
G)は、黒鉛化を評価するための重要なパラメーターであり、ここで0.60の比は、市販の中空炭素の、天然に豊富に存在する炭素同位体ナノファイバーの比と一致する。
【0055】
図10Bの
13Cに基づくカーボンナノ生成物について観察されたラマンスペクトル1002及び1004は、
図10Aに示される
12Cスペクトル1000と比較して両方の帯域が下方移動している。
13Cの濃度Cを含む試料中のラマンモードの振動数は、この同位体の増加した質量を組み込む下記式によって求められる:
(ω
0-ω)/ω
0=1-[(12+C
0)/(12+C)]
1/2 (4)
【0056】
式(4)において、ω
0は天然に豊富に存在するカーボンナノチューブ試料中の特定のモードの振動数であり、ωは
13C濃縮炭素試料中の特定モードの振動数であり、そしてC
0=0.0107は
13Cの天然存在度である。式(4)によれば、純粋な
13CカーボンナノファイバーのDバンド及びGバンドは、それぞれ1297及び1514cm
-1にピークを示すはずである。理論的に計算された(1297及び1514cm
-1)ラマンピーク位置と観察された実験ピーク曲線との間の密接な一致は、得られたカーボンナノ生成物が100%
13C同位体濃縮に近づいたことを示す。I
D/I
Gの強度比は0.63であり、これは、天然に豊富に存在するCO
2濃縮多層カーボンナノチューブのよりも良好な黒鉛化度を示している。DバンドとGバンドの間の強度比(I
D/I
G)は、黒鉛化を評価するための重要なパラメーターであり、そしてここで0.60の比は、市販の中空炭素、天然に豊富に存在する炭素同位体ナノファイバーの比と一致する。DバンドとGバンドの間の強度比0.60より大きいと、黒鉛化と比べた欠陥のある程度の増加を表す。この欠陥は、欠損、炭素空孔、分枝、グラフェン層間隔間の及び層間隔内の局所的な変化、及び黒鉛sp
2以外の炭素結合に起因するかもしれない。この欠陥は、ナノ材料の形態、導電率、強度、柔軟性、並びに半導体、触媒及び電荷貯蔵能力に影響を及ぼす。例えば、
図6Dのように電気分解中に酸化リチウムを添加して形成された絡み合ったカーボンナノ材料に関して、又は強無機酸及び強無機酸化剤、例えば、硝酸及び過マンガン酸塩(これらに限定されるものではない)への浸漬のような電気分解後の処理に更に付される場合の直線状電気分解カーボンナノ材料に関して、我々はより高いI
D/I
Gを観察する。
【0057】
図10Bに示されるカーボンナノ材料の合成において、
13CO
2はLi
2
13CO
3に曝露されたが、一方天然に豊富に存在する
12CO
2は
図10Aに示される炭素生成物のためのLi
2
12CO
3に曝露された。大気中のCO
2は吸収され、次に反応によって制約される電位での低エネルギー電気分解により、炭酸塩溶融物中に存在するLi
2Oと反応して炭素に変換され得る。
Li
2O+CO
2→Li
2CO
3+C+O
2 (5)
【0058】
13C電解質(Li2
13CO3中の1m Li2O)を、電気分解の間に0.04% CO2を含む通常の(天然存在度、99% 12C)空気に曝露した。得られたラマンスペクトル1002は、純粋な13Cカーボンナノ材料の曲線スペクトル1004と比較して、類似しているがわずかに上方移動している。Gバンドシフトは、高い振動数に向かって約4cm-1であり、式(3)を用いると、この試料に約4% 12Cが存在していたことを示し、(12C)CO2が、炭素生成物の形成において空気から直接吸収されるという証拠になる。半値全幅が大きいことから分かるこの試料中のGバンドの広がりは、12C/13C混合物の更なる証拠であるが、なぜなら、他の、純粋な12C、又は純粋な13Cの場合、Gバンドは、単一ピークであり、半値全幅は最も狭いからである。この結果は、溶融炭酸塩電解質中のLi2Oの存在が、空気からの温室効果ガスCO2を吸収し、そしてそれを電気分解によってカーボンナノ材料に変換することを確認する役割を果たす。
【0059】
生成物のラマンG’バンドが
図10Cに提示される。純粋な
13Cカーボンナノ材料のピーク振動数は2585cm
-1である。報告されているG’バンドの振動数は文献によって異なる。例えば、単層カーボンナノチューブのG’バンドは2526cm
-1に観測されるが、一方単層カーボンナノチューブのこの帯域では、G’バンドは約2580cm
-1にあり、両方とも532nmの入射レーザーを使用している。この相違は、形態の変化(ジグザグ又はアームチェアなど)及び/又はピークの比較的ブロードな特性に起因する可能性がある。
【0060】
図11A~11Eは、
12Cがカーボンナノ材料中の主要な同位体である場合のナノ形態を示す顕微鏡像である。
図11A~11Eは、溶融された天然に豊富に存在するLi
2CO
3中の天然に豊富に存在するCO
2から電気化学的に合成された多層カーボンナノチューブを示す。
図11A及び11Bは、カーボンナノチューブの異なる倍率のSEM画像である。
図11C及び11Dは、個々のカーボンナノチューブの先端の異なる倍率のTEM画像である。
図11Eは、カーボンナノチューブの多層の壁を示すTEM画像である。典型的には、多層カーボンナノチューブは、約100~150nmの壁厚及び約160~210nmの内径を有する。高分解能TEMからのグラフェン層間の距離は、0.342nmであり、したがって壁は、約300~450層を含む。層間隔は、純粋な
12C黒鉛構造と一致する。成長電流が低振動数でパルスを打つとき、直径の大きなカーボンナノチューブが同じグラフェン層間隔で製造される(1AのDC定電流ではなく、9分オン(1A)、1分オフ(0A)の周期)(10cm
2の亜鉛メッキ鋼カソードを通して)。
【0061】
図12A~12Fは、カーボンナノ生成物中で
13Cが主要な同位体である場合のナノ形態を示す顕微鏡像である。
図12A及び12Bは、炭素同位体ナノチューブの異なる倍率のSEM画像である。
図12C及び12Dは、個々の炭素同位体ナノチューブの先端の異なる倍率のTEM画像である。
図12E及び
図12Fは、同位体カーボンナノチューブの多層の壁を示す異なる倍率のTEM画像である。
図11A~11Eに示されるように、天然同位体CO
2で形成されたカーボンナノ生成物は、中空コアを一貫して示している(カーボンナノチューブ)のに対し、
図12A~12Fに示されるように、
13CO
2から形成されたものは、中身が詰まっているか又はほぼ中身が詰まっているコアを有する(カーボンナノファイバー)。天然に豊富に存在する電気合成カーボンナノチューブで観察されるように、Li
2Oを電解質に添加すると、
13Cの電気分解の間に形成される直線状でなく絡み合ったカーボンナノファイバーが得られる。
【0062】
図12A~12Fに示されるように、天然に豊富に存在する(99%
12C)炭酸塩からの電気分解によって生成した大きなコアのナノチューブというよりも、エネルギー分散型X線分光法により分析すると、ニッケル触媒が依然として存在する場合を除き、
13C(Li
2
13CO
3中の
13CO
2由来)からは、ほぼ中身が詰まっている構造を持つファイバーが成長する。炭素層間の間隔は、
図3の天然に豊富に存在するカーボンナノ構造の場合には0.342nmから、
図12A~12Fに示されるように0.338nmに減少することが分かるが、これは、
13Cナノ構造におけるグラフェン間の間隔について知られている。
13C生成物は、内部(空隙)容積が全体の6%未満であるカーボンナノファイバー形態を示す。具体的には、
13Cカーボンナノファイバーの外径は150から350nmに及び、そして壁厚は75~175nmである。
13C合成由来のファイバーの観測される収率は、反復測定で60~80%であるが、一方天然に豊富に存在するC合成由来では、観測されるカーボンナノチューブ収率は、典型的には80~90%である。
13C合成のわずかに低い収率は、反応物の高コストに関連し、そしてこれが、更なる(3回を超える)反復測定又は最適化を排除した可能性があり、そして天然に豊富に存在する炭素の電気分解について以前に観測されたように、残りの生成物は無定形黒鉛及びグラフェンを含む。
【0063】
12Cカーボンナノチューブと比較して、13C生成物のものより壁が厚く直径が小さいのは、Li2
13CO3電解質中の様々な拡散挙動に起因する可能性がある。CO2は炭酸塩として溶液中で溶媒和され、そして炭酸塩のカソードへの拡散はナノチューブ/ナノファイバー成長のために炭素を供給する。13C電解質中のより重い13CO3
2-種は、天然に豊富に存在する炭酸塩電解質中の12CO3
2-に比べて移動度が低く、そしてこのことは、(i)遷移金属核形成部位の分布、(ii)核形成部位での炭素キャップ成長の湾曲、及び(iii)成長プロセス中の炭素の利用可能性に影響を及ぼし得る。13Cナノ構造がエネルギー分散型X線分光法によって観察されると、ナノファイバーの外側及び内側の両方のニッケル並びにこれらの内部コア核形成部位は、追加の内部コア壁成長を促進し得る。
【0064】
12Cの合成構造と比較して13Cで観察される間隔の狭い壁は、より安定した構造を示しており、そしてこれは13Cがカーボンナノチューブマトリックス内でより多くの層を形成するという観察された傾向と一致するようである。より重い炭素同位体が、エネルギー的により安定しており、かつ観察された多層カーボンナノチューブの内部コアを更に満たすために更に多くの壁を形成する傾向があり、そしてより密集した多層炭素成長を促進するであろうという仮説を精査するために、密度汎関数計算は興味深い。
【0065】
図1のシステム100は、ニッケルアノード及び亜鉛メッキ鋼カソードでの電気分解によって溶融炭酸塩電解質中に溶解したCO
2ガスを変換することができる。アノードでは、生成物はO
2であり、そしてカソードでは生成物は均一なカーボンナノファイバー、又は中空内部を有するカーボンナノファイバーであるカーボンナノチューブである。
図7A~7を参照して上述されるように、Li
2Oを含まない電解質を用いる溶融炭酸塩のもっと低い電流密度での電気分解により、カーボンナノチューブを製造することができる。
【0066】
カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブは、その鋼より優れた強度、導電性、柔軟性、及び耐久性に起因して、コンデンサ、Liイオン電池、及びナノエレクトロニクスから、架橋工事、風力タービンにおいて鋼やコンクリートを置換するのに使用されるような、軽量で高強度の建築材料の主成分、並びにジェット機、自動車、及び運動機器用の更に軽量の構造材料までにわたる応用を有する。
【0067】
上述されるように、溶融炭酸塩に電気分解を施すプロセスは、アノードで形成された酸素とカソードの炭素生成物とを分離する。無定形炭素は、
図3に示されるように、遷移金属アノードを使用せずに鋼カソードで生成させることができる。亜鉛コーティング(亜鉛メッキ)鋼カソードと非遷移金属アノードを電気分解で使用すると、球状炭素が生成する。亜鉛コーティング(亜鉛メッキ)鋼カソードと非遷移金属アノードを電気分解で使用するが、電解質中に溶解した酸化鉄からの鉄含有率が高いと、
図4に示されるように無定形炭素、更にはカソード上の様々なカーボンナノ構造が生成する。
【0068】
カソード上の亜鉛金属は、炭素を形成するためのエネルギーを低下させ、そしてカーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバー形成プロセスの開始を助けることができる。酸化亜鉛から亜鉛金属を生成させるのに必要なエネルギーは、四価炭素(炭酸塩に溶解した二酸化炭素の形態で)を固体炭素に還元するのに必要なエネルギーよりも大きいので、亜鉛はニッケル、銅、コバルト、又は鉄と比較して熱力学的にありふれたものではないことから、酸化物からの亜鉛と比較して、酸化物から選択的に炭素が形成されるだろう。しかしながら、亜鉛金属は、化学的に自発的に反応(印加電位を必要とすることなく)して、炭酸塩から固体炭素を形成すること、及び酸化物からニッケル(又は他のカーボンナノ材料核形成部位の金属)を形成することの両方にエネルギー的に足りている。亜鉛と酸化ニッケルとの反応と同様に、コバルト、鉄、コバルト及び銅との亜鉛の反応もまた発熱反応である(それぞれ0.4、6.0及び1.0Vの電解電位E°(25℃)で)。
【0069】
亜鉛がカソードに存在しない場合、炭素形成は、はるかに高い電位(約1V以上)でのみ開始するため、より大きな高電流密度に形成された核形成部位をもたらすが、これらは、カーボンナノ材料の限定された成長並びに観察される多量の混合された無定形黒鉛、グラフェン、及び種々の形状のカーボンナノ構造に寄与しない。亜鉛金属の存在は、(i)炭酸塩からの固体炭素の自発的形成と(ii)核形成部位でのカーボンナノ材料の制御された構造成長の開始を助ける金属触媒核の自発的形成との両方を活性化するのにエネルギー的に足りるため、有益な助剤として作用する。したがって亜鉛は、溶融炭酸塩に溶解された温室効果ガスCO2からの、続いての高収率カーボンナノ材料成長の達成を容易にする。これは、水素、レーザーアブレーション又はプラズマ援助なしで有利な(形成速度に対して)、より高い電流密度の続いての高成長炭素の溶媒和/拡散/析出応用に寄与する基底構造の舞台を設定する。
【0070】
カソード及びアノードの設計は、種々の形状を含むことができる。例えば、アノード及びカソードは、コイル状ワイヤ、スクリーン、多孔質材料、電解室の内側、導電板、又は平坦な若しくは折り畳まれたシムであってもよい。
【0071】
電気分解において比較的高い電流密度が適用されると、無定形炭素及び種々のカーボンナノ構造が生成する。溶融炭酸塩電解質中の初期の低電流密度とその後の高電流密度がLi2Oとの組み合わせで適用されると、高収率で均一であるが捩れたカーボンナノファイバーがカソードで生成する。Li2Oを含まない溶融炭酸塩電解質と組み合わせて初期の低電流密度とその後の高電流密度が適用されると、高収率で均一な直線状カーボンナノファイバー又はカーボンナノチューブがカソードで生成する。
【0072】
カーボンナノ材料を製造するためのCO2電気分解の間、遷移金属の析出は、カーボンナノ構造の核形成及び形態を制御する。拡散は、天然に豊富に存在するCO2から成長したカーボンナノチューブ又は13C同位体形態からのカーボンナノファイバーのいずれかの形成を制御する。電解酸化物は、高Li2O溶融炭酸塩電解質からの絡み合ったナノチューブの又は溶融炭酸塩電解質にLi2Oが添加されていない場合に直線状ナノチューブの形成を制御する。上記の例は、アノードから溶解して電解質を通ってカソード上に移動する、アノードの一部であるニッケルなどの遷移金属を使用する。添加される遷移金属核形成剤は、ニッケル、鉄、コバルト、銅、チタン、クロム、マンガン、ジルコニウム、モリブデン、銀、カドミウム、スズ、ルテニウム、又はそれらの混合物のグループの1つである。しかしながら、遷移金属は、溶解した遷移金属塩として電解質に導入されてカソードに移動することができる。もう1つの機序は、カソード上に直接遷移金属核形成剤を添加することである。
【0073】
カーボンナノ材料の上記製造方法には、様々なCO2源を使用することができる。例えば、CO2源は、空気又は加圧CO2であってもよい。CO2源は、煙突を含む、大煙突や煙道、並びに鉄鋼、アルミニウム、セメント、アンモニアの消費材及び建築材料のような産業スタック、並びに運輸業などに見られるような濃縮CO2であってもよい。
【0074】
別のCO2源は、化石燃料発電プラントにおける燃料燃焼中に発生した高温CO2からのものであってもよい。このようなシステムでは、電力とカーボンナノ材料がCO2排出を伴わずに同時生産される。化石燃料発電プラントの一部は、電解プロセスのための電力を出力する。O2電解生成物は、化石燃料発電プラントに注入により戻される。この複合化されたカーボンナノ生成物/化石燃料発電プラントは、化石燃料の燃焼効率を向上させ、発電所からのCO2及び熱放射を減少させ、そして電力とカーボンナノ材料との両方をコジェネレーションする。あるいは、再生可能又は原子力発電の電力などの非CO2排出電力の第2の供給源を使用することにより電気分解に電力を供給し、そしてO2電解生成物を化石燃料発電プラントに注入により戻すことができる。この複合化されたカーボンナノ生成物・化石燃料/再生可能ハイブリッド発電所は、化石燃料の燃焼効率を向上させ、プラントのCO2及び熱放射を減少させ、そして電力と、カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーとの両方をコジェネレーションする。
【0075】
発電の将来を見ると、ガスタービン技術は、高効率、高速負荷応答時間、及び豊富な燃料(メタン)の結果として最前線に立っている。複合サイクルガスタービン発電所は、2つの熱機関を利用することにより熱エネルギーを機械エネルギーに変換しており、そして次にこれを電気エネルギーに変換する。燃料対電気効率は、より効率的な技術を組み込んだ新しいプラントでは50~60%の間で変化する。これらの効率は、新しいタービン技術及び更に高い燃焼効率によって更に向上し得る。従来型の現代の複合サイクルガス発電所ではこの利用可能なエンタルピーの約38%及び約21%が、それぞれガスタービン及び蒸気タービンによって電力に変換され、複合エンタルピーは約59%の電気効率に達し;熱は、蒸気復水器(約30%)、スタック(約10%)、及び放射損失(約1%)で失われる。典型的なパイプライン品質の天然ガスは、約93% メタン(CH4)、約3% エタン(C2H6)、0.7% プロパン(C3H8)、0.4% n-ブタン(C4H10)、約1% 二酸化炭素(CO2)、及び約1~2% 窒素(N2)である。これらのプラントで燃焼される天然ガス混合物は、使用される天然ガスの特定の供給源、更には発電所の特定の要件に基づいて変化し得る。
【0076】
高温電解セルは、このようなシステムと組み合わせることができる。複合サイクル発電所は、温室効果ガスとして大気中に排出されるのではなく、溶融炭酸塩電解質と混合されるか、中に吹き込まれるか又は中に直接散布され得る、加熱CO2源を生成する。このCO2は次に、上述のようにカーボンナノ材料へと電気分解され得るが、一方他の煙道ガス生成物は、熱交換器に通されることにより、複合サイクルの第2部分に使用される蒸気を生成させることができる。
【0077】
カーボンナノ生成物複合サイクル発電プラントシステム1300の一例が
図13に示される。プラントシステム1300は、ガスタービン1302及び蒸気タービン1304を含む。ガスタービン1302は、天然ガス供給部1306によって燃料供給され、そしてガスを燃焼室1308内で燃焼することによりガスタービン1302を推進させる。排気1310は、高温CO
2、N
2、及び水のような副産物を含むが、これらは電解室1320に導かれる。電解室1320は、ガスタービン排気からの高温CO
2を吸収し、これがカーボンナノ材料及び純粋なO
2に変換される。得られる排気は、排気管1312を介して送出される。熱回収ボイラ1314は、電解室1302の排気生成物から熱を回収する。ガスタービン及び電解室から取り出された過剰な熱は、水を熱回収ボイラ内の加圧蒸気に変換して、これが蒸気タービン1304を駆動する。このように、発電機1316及び1318は、それぞれガスタービン1302及び蒸気タービン1304によって駆動されて発電する。
【0078】
電解室1320は、アノード1324とカソード1326との間で電気分解される溶融炭酸塩1322を含む。電気分解は、電源1330によって電力が供給される。炭素材料1332がカソードで生成し、一方酸素がアノードで生成して、ガスタービン1302の燃焼室に結合された空気ブレンダー1334に送られる。こうして、電解室1320は、ガス燃焼からの高温CO2を溶解して取り出し、そしてCO2をカーボンナノ材料生成物及び純酸素へと分割する。
【0079】
電気分解によって生成した純酸素は、燃焼室1308に戻されて循環されることにより効率を向上させ、一方回収された熱は蒸気タービン1304に送られ、プロセス全体では、CO2を放出する代わりに価値あるカーボンナノ材料を生成する。このシステムの大きな利点は、高温で二酸化炭素を捕捉して隔離できることである。従来の吸収式炭素捕捉及び貯蔵技術は、より低温でCO2を捕捉する吸収材料を必要としており、CO2を放出して材料を再生するためには加熱しなければならない。溶融炭酸塩電解質は、酸化リチウム、ナトリウム、カリウム又はバリウムなどの金属酸化物を利用することにより、CO2と化学的に反応させて炭酸塩を形成することができる。次にこの炭酸塩を上述のように電気分解することにより正味の反応を引き起こす。
【0080】
酸化物CO2吸収剤を用いる利点は、酸化物及びCO2の両方を高温に保つことができることであり、このため、イオン性液体、アミン、及び他のCCS技術で一般的に行われる熱サイクルの必要性を未然に防ぐことができる。更に、適用される電気分解エネルギーは、価値あるカーボンナノ材料を製造するという追加の利点があるため、単にCO2捕捉のためのエネルギーコストではない。電気分解の間、炭酸塩は分割されてカーボンナノ生成物、酸化物及び酸素を形成し、そして酸化物は流入CO2と反応することにより炭酸塩を形成して、プロセスのための電解質を再生する。カーボンナノ生成物は容易に回収され、そして二酸化炭素よりも価値あるものである。
【0081】
図13の発電プラントシステム1300は、電解プロセスによって生成した高温の純酸素を利用することによって、天然ガス燃料燃焼プロセス効率を向上させてタービン1302を駆動する。この向上は、より多くの酸化剤が存在するためCO生成の減少、利用可能な窒素が少ないため存在するNO
xの減少、プラントに入る空気が少なく窒素が少ないことに起因する少ない排気ガス量による低い熱損失、及び熱力学的効率の向上を可能にする高い到達温度にわたる、種々の理由で起こり得る。オキシ燃料燃焼プロセスへのこの移行は、排気ガス中の不純物を減少させ、そしてこのことが電解室で副反応が起こるのを防止する。高温化により、更なる温度利益を可能にするカーボンナノ生成物の電気合成のための電解電位の低減が可能になる。
【0082】
大部分の石炭発電所は微粉炭を燃焼させて、高温の加圧蒸気を生成させ、これがタービンを駆動することにより発電する。燃焼の排気は一般に、大部分の硫黄、重金属、及び微粒子が取り除かれ、そして高い二酸化炭素含量(窒素及び水蒸気と共に)を含む残りの煙道ガス排出物は大気中に直接排出される。従来の石炭発電所は、全温室効果ガスの多くの割合を占める大量の二酸化炭素を大気中に排出する。排気煙道ガス量の組成は、プラント建設によって変化する。煙道ガス量は、石炭発電所から約323m3/GJである。煙道ガスは、大部分の窒素、水蒸気、及び約14% CO2を含む。硫黄、亜酸化窒素、及び重金属を煙道ガスから落とし取るために追加インフラが含まれる。石炭は主に炭素と水分である。石炭について更に具体的には、褐炭は24~35% 炭素と66%以下の水分を含み、瀝青炭は60~80% 炭素を含み、一方無煙炭は92~98% 炭素である。この3種はそれぞれ、約15、24~35、及び36kJ/gの熱含量を有する。
【0083】
少数の統合(石炭)ガス化複合サイクル(IGCC)発電所が存在するが、ここでは石炭を空気ではなく精製酸素で燃焼させ、そして石炭を水素又は合成ガスまでガス化することができる。これらのIGCCプラントは、より高いエネルギー変換効率(従来の約35%と比較して約50%)を有しており、そして本明細書で試験されるCO2のその場での電気分解を介するなどの、必要な純酸素を形成するためのエネルギー損失が回避される場合に、実質的に高効率に到達する可能性を有する。空気でなくオキシ燃料の石炭プラントには幾つかの利点があり、より高いO2燃焼で達成される高温に起因して、そして空気からのN2が少なくなるにつれ排出されるガス量が著しく小さくなるので熱スタック損失が少ないため、エネルギー効率が高い。オキシ燃料石炭プラントは、熱のための単純な石炭燃焼よりも、より濃縮された二酸化炭素排出物を生成するが、このことは、石炭プラントの潜在的な炭素隔離の機会として探究されている。
【0084】
図1に上記されるように従来の石炭プラントとカーボンナノ材料を製造するためのシステムを統合すると、純酸素の極低温生成を必要とせずに石炭の燃焼効率が向上し、二酸化炭素の排出がなく、排ガスに関して過剰スタックが少ないため燃焼室に熱が残り、そして有用で安定なカーボンナノ材料が生成する。
【0085】
図14Aは、非CO
2排出石炭燃焼プラントシステム1400の第1例を示す。システム1400は、電解室1402及び従来の石炭発電プラント1410を含む。石炭発電プラント1410は、石炭源1414からの石炭を燃焼させる燃焼室1412を含む。水は、パイプシステム1416を介して燃焼室1412に循環される。水は、再循環される前に、冷却塔1418で冷却される。燃焼室1412を通って流れる水から得られる蒸気は、発電機1422に結合されている蒸気タービン1420に電力を供給することにより発電する。燃焼室1412からの排気は高温CO
2を含むが、これは排気管1424によって電解室1402に導かれる。この例では、電解室1402は電源1430によって電力を供給される。電解室1402は、カーボンナノ材料1440及び酸素1442を生成させるが、酸素は燃焼室1412に戻される。上述されたように、電解室1402は、石炭燃焼からの高温CO
2をカーボンナノ材料生成物及び純酸素へと分割する。石炭燃焼を向上させるために純酸素を使用することができ、そして残りのガスからCO
2を電気分解によって取り出す。
【0086】
炭素燃焼(-394kJ/mol)から排出されるCO2当たり利用可能な熱力学的エンタルピーは、メタン(-890kJ/mol)燃焼からのものよりも少ない。石炭燃焼は、天然ガスに比べて、カーボンナノ材料の生産を促進するために変換可能なCO2当たりの過剰な熱の生成が少ない。石炭は、750℃の電解室温度でシステム内に保持されるため、通常の状況下ではプラントは、電気とカーボンナノ材料とを同時生産することができ、石炭カーボンナノ材料プラント1400は、付加価値カーボンナノ材料のみを生産し、そして余剰電力を生産しない。しかしながら、石炭カーボンナノ材料プラント1400は、低い電解電圧、及びカーボンナノ材料へのCO2の変換で観測される高いクーロン効率に起因してエネルギー効率が高いが、プラント1400内で熱を保持し、電気分解で生成する純酸素を使用することにより石炭の燃焼効率を高め、そして蒸気凝縮器の熱損失を利用することにより電解室の生成物抽出及び熱収支を改善する、機会がCO2電解室に与えられれば更に強化される。
【0087】
図14Bは、石炭カーボンナノ材料及び電力プラントシステム1440の一例である。プラントシステム1440は、石炭プラント1410を介する電力と電解室1402を介するカーボンナノ材料との両方を生成させる。システム1400は、石炭プラントからの電力ではなく再生可能(又は原子力)電源1450を用いることにより電解室1402を駆動する。
【0088】
図14Cは、太陽光に基づくカーボンナノ材料及び石炭プラントシステム1470の一例である。プラント1470は、
図2Aに記載されたものと同様の太陽光に基づくシステム1480を含む。プラント1470は、太陽光の全スペクトルを利用して最高効率を提供することによって、電力及びカーボンナノ材料の生産を活性化する。プラント1470は、電力及びカーボンナノ材料の両方を製造する。集光された太陽光は、電解室1402を加熱し、過剰な熱を石炭プラント1410の石炭燃焼室に導く赤外線帯域と、電解室の太陽光発電力を駆動する可視帯域とに分割される。太陽光の全スペクトルを使用することにより、より高い効率が達成される。前述のように、可視太陽光は効率的な電力を供給し、熱太陽光は太陽熱電気化学電気分解の補助加熱を供給する。例えば、従来の太陽電池スーパーバンドギャップ(可視)放射は、電子/正孔分離を推進するのに十分ではないため、サブバンド(熱エネルギー)を使用することができない。例えば、従来の効率的な(40% 太陽光から電力)集光型太陽光発電装置は、過剰の熱エネルギーがここでの化学的及び電気的反応を加熱するように導かれる場合、50%を超える太陽エネルギー効率を達成することができる。
【0089】
図14B及び14Cのプラント1440及び1470は、石炭発電を非CO
2電源で補うことによって、CO
2排出なしに電力とカーボンナノ材料とを同時に生成する石炭発電プラント410を含む。
【0090】
これらのシステムはまた、化石燃料発電機における燃料燃焼中に発生した高温CO2から注入されたCO2を使用することもできる。高温CO2は、炉内のバイオ燃料又は化石燃料の燃焼中に発生したものからも取ることができる。再生可能又は原子力発電などの非CO2排出電力の供給源が電気分解に電力を供給し、そしてO2電解生成物が炉に注入により戻される。この複合カーボンナノ材料炉は、燃料の燃焼効率を向上させ、炉内CO2及び熱排出を減少させ、そして炉熱、更にはカーボンナノ材料を生成させる。
【0091】
図15は、
図1に示されるような製造システムからのカーボンナノ材料の製造のフロー図を示す。炭酸塩の種類、炉温度、電流密度及び時間、遷移金属含量並びに電解質組成などの製造パラメーターが、所望の種類のカーボンナノ材料に対して設定される(1500)。次に炭酸塩材料を炉内で加熱することにより溶融炭酸塩を生成させる(1502)。次にCO
2を溶融炭酸塩に注入する(1504)。遷移金属アノードと亜鉛メッキ鋼カソードとの間で電解プロセスが開始される(1506)。
【0092】
電気分解は電流密度に関連して制御されて、遷移金属を劣化させることにより核形成部位をカソード上に形成する(1508)。核形成部位は、カソードでカーボンナノ材料を成長させる(1510)。次にカーボンナノ材料をカソードから採取する(1512)。
【0093】
実証された二酸化炭素からカーボンナノ材料へのプロセスは、上述のように、太陽光駆動及び太陽熱利用のCO2電気分解から構成されてよい。このプロセスの大規模化は、煙突の排気ガスから始まり、高温で、かつ気候変動を改善するために濃縮されたCO2反応物を提供することができた。気候変動の更に大きな改善は大気中CO2の直接除去から起こる。太陽光駆動カーボンナノ材料合成の現在の規模を外挿すると、サハラ砂漠の面積の10%未満の面積中の700km2の集光型太陽光発電(CPV)が、大気中CO2を10年間で工業化前の濃度にまで減少させることになる。産業環境は、CO2除去率を更に向上させる機会を提供するが、例えば、化石燃料燃焼器の排気は、大気中の室温で希釈されたCO2よりも必要なエネルギーが少ない比較的濃縮された高温CO2源を提供する。この生成物である、カーボンナノ材料は、将来世代のために安定した高密度資源として貯蔵されるか、又はインフラ、輸送及び消費者装置用の炭素複合材における柔軟で導電性の高強度材料として普及して貯蔵されるかもしれない。
【0094】
物質資源が、二酸化炭素の大気中レベルに実質的に影響を及ぼす(減少させる)ためにこのプロセスを拡大するのに足りるかどうかは興味深い。産業革命の間発生する280ppmから約400ppmへの大気中CO2レベルの積み上げは、2×1016モル(8.2×1011メートルトン)CO2の増加を含み、そして除去するには相当な努力が必要となる。この努力が隔離された資源よりもむしろ有用な資源を生み出すならば望ましい。後述されるように、スケールアップされた捕捉プロセスは、全ての過剰な大気中CO2を除去して、それを有用なカーボンナノファイバーに変換することができる。
【0095】
ファラデー当量を介して100%クーロン効率に近づくと、0.3A cm-2が、次のように計算して、年間にカソード 1m2当たり二酸化炭素10トンを除去する:3×103A m-2×3.156×107s 年-1×(1mol e-/96485As)×(CO2/4 e-))×(4.40098×10-6トン/mol)=10トン CO2。CO2の完全な吸収及び変換には、以下のとおり0.04% CO2を含む空気が1mphの風速でセルに当たる必要がある:(1609m空気/h×1m2×8,766時間/年)×(0.0004m3 CO2/m3 空気)×(1トン/556m3 CO2)=10トン CO2。
【0096】
カーボンナノ材料の生産をもたらす太陽熱電気化学プロセスでは、
図9A~9Gに示されるように39%効率の集光型太陽光発電装置 1m
2上で500sunで1日当たり6kWh m
-2の太陽光が、2.7Vで430kAhを発電することにより、2つの直列に接続された溶融炭酸塩電解セルを駆動してカーボンナノファイバーを形成する。これは、1日当たり8.1×10
3モルのCO
2を捕捉することにより固体炭素を形成する(430kAh×2直列セル/4ファラデー mol
-1 CO
2に基づく)。このプロセスで大気中の二酸化炭素濃度を減少させる物質資源は妥当であると思われる。CPVの1平方メートル当たり8.1×10
3モルのCO
2の1日変換率から、10年間動作するCPVの700km
2までスケールアップされた捕捉プロセスは、大気中CO
2 2×10
16モルの全増加分を除去して固体炭素に変換することができる。電解電極での電流密度が大きくなると、必要な電圧が増加し、そして必要なCPV面積が増加する。溶融塩の蓄熱を含む種々の集光型太陽光発電設備が商業化されており、昼光のみではなく24時間年中無休の操業を許容し、そしてコストは減少している。太陽熱電解プロセスは、電力ではなく化学生成物を生産することにより、集光型太陽光発電設備より高い太陽エネルギー変換効率を提供し、そして二次損失はより低くなり得る(例えば、グリッド関連の送電損失はない)。
図2Cに示されるような発電塔ではなく、プラスチックのフレネルに基づく集光器のような現代の集光器は、環境への熱損傷を回避するために、より短い焦点距離を有する。高温のCO
2洗浄空気と周囲流入空気の間で熱交換損失が予想される。500sunではなく、例えば、2000sunと太陽光集光度が大きいと、必要な集光器の太陽光発電装置の量は175km
2まで比例して減少するが、一方集光器の土地面積は、集光器の太陽光発電装置面積より数千倍大きく、10年間で人為起源の二酸化炭素を除去するためにはサハラ砂漠地域の面積の10%未満に相当する(これはその10
7km
2 表面にわたり平均すると1日日射量約6kWh m
-2になる)。
【0097】
関連する資源問題は、炭素捕捉のための二酸化炭素の大気中レベルを減少させるために最適な電解質として、十分な炭酸リチウムが存在するかどうかである。700km2の集光型太陽光発電所は、電解セル厚さ、電流密度及びセル厚さに応じて、数百万トンの炭酸リチウム電解質を必要とする。セルが厚いか又は電流密度が低いと、比例してより多くの電解質が必要になる。工業化前の二酸化炭素レベルに大気を戻すために10年ではなく50年かけると、比例してより少ない電解質しか必要にならない。これらの値は、現在の炭酸リチウムの生産内で実行可能である。世界的な資源としての炭酸リチウムの利用可能性は、成長するリチウム電池市場を満たすために監視されている。この年間生産量は2015年には0.24百万トンに増加すると推定されている。炭酸ナトリウム及びカリウムは実質的に更に利用可能である。
【0098】
これらの実施態様及びその明らかな変形の各々は、以下の請求項に記載される、特許請求された発明の本質及び範囲内にあるものとして考慮される。