(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂シートおよび成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 51/04 20060101AFI20220610BHJP
C08L 25/12 20060101ALI20220610BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220610BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
C08L51/04
C08L25/12
C08J5/18 CET
C08L53/02
(21)【出願番号】P 2018136550
(22)【出願日】2018-07-20
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】金子 英利香
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕卓
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-235715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂(A)77~94.5質量%、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)
(ただし、前記耐衝撃性スチレン系樹脂(A)に該当するものを除く)5~20質量%、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(C)0.5~3質量%、を含み、シート中のゴム成分が2~20質量%であ
り、
前記スチレン-ブタジエンブロック共重合体(C)のスチレン含有率が70~90質量%、かつブタジエン含有率が10~30質量%であり、
前記シート中のゴム成分の含有量は、シートをクロロホルムに溶解し、一塩化ヨウ素を加えてゴム成分中の二重結合を反応させた後、ヨウ化カリウムを加え、残存する一塩化ヨウ素をヨウ素に変え、チオ硫酸ナトリウムで逆滴定する一塩化ヨウ素法によって測定される、スチレン系樹脂シート。
【請求項2】
前記アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)におけるアクリロニトリル単量体単位の含有量が5~45質量%であり、スチレン単量体単位の含有量が55~95質量%である請求項1に記載のスチレン系樹脂シート。
【請求項3】
前記耐衝撃性スチレン系樹脂(A)のゴム成分の含有量が1~25質量%である請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂シート。
【請求項4】
前記アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の重量平均分子量が10万~25万である請求項1~3のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂シート。
【請求項5】
厚みが0.05~0.8mmである請求項1~4のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂シート。
【請求項6】
シート成膜工程において押出流れ方向の加熱収縮率が5%未満である請求項1~5のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂シートからなる成形品。
【請求項8】
食品包装容器である請求項7に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂シートおよび成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
耐衝撃性スチレン[ハイインパクトポリスチレン(HIPS)]は、耐衝撃性、成形性、寸法安定性に優れた樹脂であることから、食品包装容器分野で幅広く使用されている。しかしながら、耐衝撃性スチレン系樹脂は耐油性が低い為、特にヒンジと呼ばれる蓋部と本体部を連結する接合部を有した食品容器や嵌合部分を有する容器は、応力が掛かっている為、食品に含まれる脂肪や油の付着により割れを起こしやすくなる。
【0003】
耐衝撃性スチレン系樹脂の耐油性を改良する方法として、耐衝撃性スチレン系樹脂シートにポリオレフィン系樹脂フィルムをラミネートし、油とポリスチレンシートとを直接接触させない方法が知られている。しかしながら、加工コストが大幅に増加するだけでなく、これらを圧空成形や真空成形等の熱成形により食品容器を賦型した際に発生する抜きカスをリサイクル出来ない問題がある。
【0004】
また、耐油性を改良する別の方法として、特許文献1~3には耐衝撃性スチレン系樹脂中の分散ゴム粒子径を大きくする方法が開示されている。さらに、特許文献4には食品容器の嵌合性を向上させるために、耐衝撃性スチレン系樹脂の分散ゴム粒子径、ゲル分、グラフト率を特定の範囲とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-227914号公報
【文献】特表平8-504450号公報
【文献】特開2002-275210号公報
【文献】特開2010-37455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~4の方法では耐衝撃性スチレン系樹脂シートを食品容器として用いる場合の引張強度など実用強度については不十分である。
また、耐衝撃性スチレン系樹脂シートの実用強度を改良する方法として、スチレン-ブタジエン共重合体を添加する方法があるが、食品容器、食品容器蓋材としての剛性や嵌合性が低下し、耐油性も含めて十分なものは得られなかった。また、成形加工時にスチレン-ブタジエン共重合体の架橋反応により生成するゲル異物により、シート外観が悪化する問題もあった。
【0007】
以上から本発明は、食品用途での実用強度、特に引張強度に優れ、かつ、耐油性に優れたスチレン系樹脂シートおよび成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し、当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0009】
[1] ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂(A)77~94.5質量%、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)5~20質量%、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(C)0.5~3質量%、を含み、シート中のゴム成分が2~20質量%であるスチレン系樹脂シート。
[2] 前記アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)におけるアクリロニトリル単量体単位の含有量が5~45質量%であり、スチレン単量体単位の含有量が55~95質量%である[1]に記載のスチレン系樹脂シート。
[3] 前記耐衝撃性スチレン系樹脂(A)のゴム成分の含有量が1~25質量%である[1]又は[2]に記載のスチレン系樹脂シート。
[4] 前記アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の重量平均分子量が10万~25万である[1]~[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂シート。
[5] 厚みが0.05~0.8mmである[1]~[4]のいずれかに記載のスチレン系樹脂シート。
[6] シート成膜工程において押出流れ方向の加熱収縮率が5%未満である[1]~[5]のいずれかに記載のスチレン系樹脂シート。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のスチレン系樹脂シートからなる成形品。
[8] 食品包装容器である[7]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食品用途での実用強度、特に引張強度に優れ、かつ、耐油性に優れたスチレン系樹脂シートおよび成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るスチレン系樹脂シート及び成形品を詳細に説明する。
[1.スチレン系樹脂シート]
本発明に係るスチレン系樹脂シートは、ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂(A)77~94.5質量%、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)5~20質量%、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(C)0.5~3質量%、を含み、シート中のゴム成分が2~20質量%であるスチレン系樹脂シートである。
【0012】
耐衝撃性スチレン系樹脂(A)が上記範囲より少ないと耐衝撃性が低下し、シートや容器の実用強度が保持されず、上記範囲より多いと耐油性が不十分となる。
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)が上記範囲よりも少ないと、耐油性が低下する。また、上記範囲よりも多いと食品包装容器としての強度が不十分となる。
スチレンーブタジエンブロック共重合体(C)が上記範囲よりも少ないと、シート製膜時に掛かる応力の緩和がシートで発生し、耐油性が低下する。上記範囲よりも多いとシートや容器としての剛性が低下する。
【0013】
(耐衝撃性スチレン系樹脂(A))
本発明に係る耐衝撃性スチレン系樹脂(A)としては、ゴム成分が含まれるスチレン系樹脂であれば良く、例えば、スチレン単量体にゴム状重合体を溶解し、重合(好ましくはグラフト重合)して得られる。
【0014】
耐衝撃性スチレン系樹脂の原料のスチレン単量体としては、例えばスチレン、アルキルスチレン(例えば、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン及び第三級ブチルスチレンなどのo-、m-、p-の各異性体)、アルファアルキルスチレン(例えばアルファメチルスチレン、アルファエチルスチレンなど)、モノハロゲン化スチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレン及びフルオロスチレンなどのo-、m-、及びp-の各異性体)、ジハロゲン化スチレン(例えば、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ジフルオロスチレン及びクロロブロモスチレンなどの各核置換異性体)、トリハロゲン化スチレン(例えば、トリクロロスチレン、トリブロモスチレン、トリフルオロスチレン、ジクロロブロモスチレン、ジブロモクロロスチレン及びジフルオロクロロスチレンなどの各核置換異性体)、テトラハロゲン化スチレン(例えば、テトラクロロスチレン、テトラブロモスチレン、テトラフルオロスチレン及びジクロロジブロモスチレンなどの各核置換異性体)、ペンタハロゲン化スチレン(例えば、ペンタクロロスチレン、ペンタブロモスチレン、トリクロロジブロモスチレン及びトリフルオロジクロロスチレンなどの各核置換異性体)、アルファー及びベーターハロゲン置換スチレン(例えば、アルファクロロスチレン、アルファブロモスチレン、ベータークロロスチレン及びベーターブロモスチレンなど)などが挙げられる。これらの単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
また、耐衝撃性スチレン系樹脂(A)の原料となるゴム状重合体としては、例えば1種又は2種以上のジエン系共重合体(例えばブタジエン、イソプレン、2-クロロ-1,3ブタジエン、1-クロロ-1,3ブタジエン、ピペリレンなど共役1,3-ジエンの共重合体)、ブタジエン-スチレン共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、ブタジエンースチレンーアクリロニトリル共重合体、イソブチレン-アクリル酸エステル共重合体、ブチルゴム及びエチレンープロピレンーターポリマー(EPDM)などが使用できる。
【0016】
耐衝撃性スチレン系樹脂(A)のGPC法で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は15万~30万が好ましい。Mwが15万以上であると耐油性、引裂強度がより良好となる。Mwが30万以下であると樹脂の粘度が上がり過ぎず、生産性を良好にすることができる。また、粘度を調整するためにはゲル分を下げる方法があるが、結果として耐油性、引裂強度が低下することがある。Mwは18万~25万であることがより好ましい。
【0017】
耐衝撃性スチレン系樹脂(A)のゴム成分の含有量は1~25質量%が好ましく、3~21質量%がより好ましい。1質量%以上であると耐衝撃性をより良好にすることができる。25質量%以下であると、シートや容器の強度をより良好にすることができる。
【0018】
耐衝撃性スチレン系樹脂(A)分の平均ゴム粒子径は、1.2~12.0μmであることが好ましく、4.0~10μmであることがより好ましい。平均ゴム粒子径が1.2μm以上であることでシート脆性の改善効果が十分発揮される。一方、平均ゴム粒子径が12.0μm以下であることでシートの透明性を良好にすることができる。
本発明における平均ゴム粒子径(Ro)は、超薄切片法にて観察面がシート平面と平行方向となるよう切削し、四酸化オスミウム(OsO4)にてゴム成分を染色した後、透過型顕微鏡にて粒子100個の粒子径を測定し、以下の式により算出した値である。
【0019】
式: 平均ゴム粒子径(Ro)=Σni(Di)4/Σni(Di)3
(式中、niは測定個数、Diは測定したゴム粒子の粒子径を示す。)
【0020】
(アクリロニトリル-スチレン共重合体(B))
本発明に係るアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)は、アクリロニトリル単量体単位(アクリロニトリル単位)とスチレン単量体単位(スチレン単位)とを含み、例えば塊状連続重合により得られる。
【0021】
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)におけるアクリロニトリル単量体単位の含有量は、共重合体を構成する単量体単位全量基準で、5~45質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。アクリロニトリル単量体単位の含有量が45質量%以下であると、シート製膜性が良好となり、アクリロニトリル単量体単位の含有量が5質量%以上であると耐油性および強度をより良好にすることができる。
【0022】
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)のアクリロニトリル単量体単位としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の単位を挙げることができるが、好ましくはアクリロニトリル単位である。
【0023】
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)は、必要に応じて共重合可能なその他のビニル系モノマー単位を含んでいてもよい。その他のビニル系モノマー単位としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-メチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート等のアクリル酸エステルなどの単位が挙げられる。その他のビニル系モノマー単位の含有量は、例えば、スチレン単量体単位とアクリロニトリル単量体単位の合計100質量%に対して10質量%未満であってよい。
【0024】
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)のスチレン単量体単位としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等の単位を挙げることができるが、好ましくはスチレン単位である。
これらのスチレン単量体単位は、単独でもよいが二種以上であってもよい。アクリロニトリル-スチレン共重合体におけるスチレン単量体単位の含有量は、共重合体を構成する単量体単位全量基準で、55~95質量%であることが好ましく、60~90質量%であることが好ましい。
【0025】
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)は、アクリロニトリル単量体とスチレン単量体とを重合させることにより得られる。重合方法は特に限定しないが、臭気低減のため塊状連続重合が好ましい。
【0026】
塊状連続重合法としては公知の例が採用できるが、エチルベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン等の溶剤をスチレン系モノマーとアクリロニトリル単量体の合計100質量%に対して10~40質量%添加して重合させると、さらに好ましい。
【0027】
重合時には、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、エチル-3,3-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブチレート等の公知の有機過酸化物を添加しても差し支えなく、また、4-メチル-2,4-ジフェニルペンテン-1、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等の公知の分子量調整剤を添加しても差し支えない。重合温度は、好ましくは80~170℃、さらに好ましくは100~160℃である。
【0028】
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)のGPC法で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量は、特に限定されないが、10万~25万であることが好ましく、12万~20万であることがより好ましい。重量平均分子量が10万以上であると樹脂の強度低下しづらくなり、シート強度や耐折性が良好になりやすい。また25万以下であると粘度上昇が防がれシート製膜性や容器成形性良好になりやすい。
【0029】
なお、GPC測定は、以下のような条件で実施する。
装置:昭和電工社製Shodex「SYSTEM-21」
カラム:PLgel MIXED-B
温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
流量:1.0ml/分
検出:RI
濃度:0.2質量%
注入量:100μl
検量線:標準ポリスチレン(Polymer Laboratories製)を用い、溶離時間と溶出量との関係を分子量と変換して各種平均分子量を求める。
【0030】
(スチレン-ブタジエンブロック共重合体(C))
本発明に係るスチレン-ブタジエンブロック共重合体(C)としては、シートの加工性を損なわない限り種々のスチレン-ブタジエン系ブロック共重合体を採用できるが、シートの強度、打ち抜き工程での切り粉抑制が良好であることからスチレン含有率が70~90質量%、かつブタジエン含有率が10~30質量%であり、且つ、スチレンブロック部の分子量が1万~13万であることが好ましい。スチレンブロック部の分子量が1万以上であると、配向緩和が抑制され、耐油性が良好になりやすい。また、スチレンブロック部の分子量が13万以下であると、押出成形工程における流動性が良好で、高温に押出温度を高める必要がなくなり、良好な成形性が得られやすい。
【0031】
スチレン-ブタジエンブロック共重合体(C)のスチレンブロック部の分子量は、ブロック共重合体をオゾン分解して〔Y.TANAKA、et al.,RUBBER CHEMISTRY AND TECHNOLGY,59,16(1986)に記載の方法〕得たビニル芳香族炭化水素重合体成分のGPC測定(検出器として波長254nmに設定した紫外分光検出器を使用)において、各ピークに対応する分子量を標準ポリスチレン及びスチレンオリゴマーを用いて作成した検量線から求める。
【0032】
本発明に係るスチレン系樹脂シートは、公知のシートの製造方法を用いて、各種シートに成形して製造することができる。
シートの製造方法の具体例としては、溶融樹脂をTダイから押出して成形する方法や、カレンダー成形法、インフレーション成形法等が挙げられるが、生産性と膜厚精度の面からTダイを使用することが好ましい。また、シートは単層でも良く、多層シートの最外層のうち油と接触する面のみに本発明に係るスチレン系樹脂シートを用いてもよい。多層シートの製造方法としては、フィードブロックダイやマルチマニホールドダイを使用した共押出法や、予め表面層を単独で作成しておき、基材シートと熱ラミネートする方法が挙げられる。
シートの厚みは、成形品での用途により特に限定されることはないが、好ましくは0.05~0.8mmであり、より好ましくは0.1~0.7mmである。
【0033】
シートの製造においては、ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂(A)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(C)をそれぞれ所定量含む樹脂組成物の溶融混練時に、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、種々の添加剤、例えば、安定剤(リン系,硫黄系、又はヒンダードフェノール系などの酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、可塑剤(ミネラルオイルなど)、帯電防止剤、滑剤(ステアリン酸、脂肪酸エステルなど)、離型剤、顔料、染料などを含有していてもよい。さらに、必要であれば、無機粒子(リン酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、ゼオライト、シリカなど)を添加してもよい。
【0034】
本発明は、シート成膜工程において押出流れ方向(MD方向)が5.0%未満の加熱収縮率を有することが望ましい。5.0%以上の場合、油に接触した部分で配向緩和が生じ、シートやフィルムに割れや穴あきを引き起こす。また、押出流れ方向に垂直な方向(TD方向)は、1.0%以下の加熱収縮率を有することが望ましい。
加熱収縮率は、100℃、30分加熱後の押出し流れ方向および押出流れ方向に垂直な方向の収縮率を測定する。
【0035】
シート中のゴム成分の含有量は、シート全量基準で2~20質量%である。ゴム成分の含有量が上記範囲未満ではシート脆性の改善効果が十分発揮できない。また、上記範囲を超えると、シートの剛性が低下する。シート中のゴム成分の含有量は、4~18質量%であることが好ましく、6~16質量%であることがより好ましい。
【0036】
シート中のゴム成分の含有量は、シートをクロロホルムに溶解し、一塩化ヨウ素を加えてゴム成分中の二重結合を反応させた後、ヨウ化カリウムを加え、残存する一塩化ヨウ素をヨウ素に変え、チオ硫酸ナトリウムで逆滴定する一塩化ヨウ素法によって測定される。
【0037】
本発明は、食品用途での実用強度、特に引張強度に優れ、かつ、耐油性に優れるだけでなく、例えば、食品用容器又はトレーなどの包装容器として用いることができるが、熱成形性が良好であり、剛性もあるので、これらの特性を生かした種々の容器として用いることができる。
【0038】
[2.成形品]
本発明の成形品は、既述の本発明に係るスチレン系樹脂シートからなる。当該シートから容器などの成形品を成形する方法としては、真空成形、真空圧空成形、熱板成形などの通常の熱成形法が採られる。当該成形品としては、食品包装容器であることが好ましい。
なお、本明細書において、「容器」とは、被包装体を収容するためのトレーのような凹部形状をした容器本体を意味している。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
[耐衝撃性スチレン系樹脂(A-1)の製造]
ゴム状重合体(ゴム成分)として3.4質量%のローシスポリブタジエンゴム(旭化成製、商品名ジエン55AS)を使用し、91.6質量%のスチレンと、溶剤として5.0質量%のエチルベンゼンに溶解して重合原料とした。また、ゴムの酸化防止剤(チバガイギー製、商品名イルガノックス1076)0.1質量部を添加した。この重合原料を翼径0.285mの錨型撹拌翼を備えた14リットルのジャケット付き反応器に12.5kg/時間で供給した。反応温度は140℃、回転数は2.17sec-1で反応させた。得られた樹脂液を直列に配置した2基の内容積21リットルのジャケット付きプラグフロー型反応器に導入した。1基目のプラグフロー型反応器では、反応温度が樹脂液の流れ方向に120~140℃、2基目のプラグフロー型反応器では、反応温度が樹脂液の流れ方向に130~160℃の勾配を持つようにジャケット温度を調整した。得られた樹脂液は230℃に加熱後、真空度5torrの脱揮槽に送られ、未反応単量体、溶剤を分離・回収した。その後、脱揮槽からギヤポンプで抜き出し、ダイプレートを通してストランドとした後、水槽を通してペレット化し、製品(耐衝撃性スチレン系樹脂(A-1))として回収した。平均ゴム粒子径は7.0μmであった。
【0041】
[耐衝撃性スチレン系樹脂(A-2)~(A-9)の製造]
実験例1の各種原料仕込み量を調整し、表1および表2に記載の耐衝撃性スチレン系樹脂(A-2)~(A-9)を得た。
【0042】
[アクリロニトリル-スチレン共重合体(B-1)の製造]
容積約20Lの完全混合型攪拌槽である第一反応器と容積約40Lの攪拌機付塔式プラグフロー型反応器である第二反応器を直列に接続し、さらに予熱器を付した脱揮槽を2基直列に接続して構成した。
アクリロニトリル10質量%、スチレン90質量%で構成する単量体溶液85質量部に対し、エチルベンゼン15質量部、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.01質量部、t-ドデシルメルカプタン0.25質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時6.0kgで125℃に制御した第一反応器に導入した。第一反応器より連続的に反応液を抜き出し、この反応液を流れの方向に向かって125℃から160℃の勾配がつくように調整した第二反応器に導入した。次に予熱器で160℃に加温した後67kPaに減圧した第一脱揮槽に導入し、さらに予熱器で230℃に加温した後1.3kPaに減圧した第二脱揮槽に導入し残存単量体と溶剤を除去した。これをストランド状に押出し切断することによりペレット形状のアクリロニトリル-スチレン系共重合体(B-1)を得た。組成は、表1に記載のとおり、アクリロニトリル単位25質量%、スチレン単位75質量%であり、重量平均分子量は15万であった。
【0043】
[アクリロニトリル-スチレン共重合体(B-2)~(B-9)の製造]
実施例1の各種原料仕込み量を調整し、表1、表2に記載のアクリロニトリル-スチレン共重合体(B-2)~(B-9)を得た。
【0044】
[スチレン-ブタジエンブロック共重合体(C-1)の製造]
スチレン-ブタジエンブロック共重合体(C)は、一般的なスチレン-ブタジエン系ブロック共重合体ゴムの製造方法、すなわち、ある条件下において、「重合速度>スチレン-ブタジエン混合モノマー供給速度」である関係が成立する製造条件が大略利用される。
具体的な実施方法は、内容積1000Lのジャケット・コイル・撹拌機付きステンレス製重合槽を、水分含量10ppm以下に脱水したシクロヘキサンで洗浄し窒素置換後、窒素ガス雰囲気下において水分含量10ppm以下に脱水しテトラヒドロフラン135ppmを含むシクロヘキサン540kgを重合槽に仕込み、内温80℃に昇温後、n-ブチルリチウム10質量%のシクロヘキサン溶液を0.8kg添加した。次に、内温80℃一定の条件下で、水分含量10ppm以下に脱水したスチレン8.75kg/時間と、モレキュラーシーブを通過させて脱水したブタジエン35kg/時間を同時に4時間フィードし重合した。その後、水分含量10ppm以下に脱水したスチレンを80℃で55kg添加し、最高温度が120℃を超えない範囲で10分間重合し、仕込んだスチレンを全て重合させた。その後、重合溶液を次の反応槽へ移送し、水を重合体100質量部に対して0.08質量部加えて重合を停止した後、次の反応槽に移行する間に炭酸ガスを加え中和した。次に、安定剤として2,4、-ビス[(オクチルチオ)メチル]-O-クレゾールを重合体に対し0.2質量%の割合で添加してからスチームストリッピングにより溶媒を除去し、100℃の熱ロールにて乾燥してスチレン-ブタジエンブロック共重合体(C-1)を得た。得られたスチレン-ブタジエンブロック共重合体の重量平均分子量は20万であり、ブタジエンゴムの含有量は25.0質量%であった。また、スチレンブロック部の分子量は、10万であった。
【0045】
<実施例および比較例>
上記の耐衝撃性スチレン系樹脂(A)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)およびスチレン-ブタジエンブロック共重合体(C)をスクリュー径40mmのシート押出機に供給した。樹脂溶融ゾーンの温度は180~220℃に設定し、Tダイ(コートハンガーダイ)より吐出量10kg/時間で溶融押出した後、80℃に設定したキャストロール、タッチロールに圧着し、幅40mm、厚み0.3mmのシートを得た。実施例16~19の厚みのシートは、ダイリップ開度を調整し作製した。得られたシートの特性を表1、表2に示す。
【0046】
なお、各種物性、性能評価は以下の方法で行った。評価は、◎と○を可とし、×を不可とする。
【0047】
樹脂特性は以下の方法により評価した。
(1)加熱収縮率
シートから、押し出し流れ方向(MD方向)100mm、幅方向(TD方向)100mmとなるように正方形の試験片を5枚切り出し、100℃30分で加熱した。その後、23±2℃で24時間放置後にシートの長さを測定し、それぞれの変化率の算出平均値を加熱収縮率%とした。
【0048】
(2)シート強度(引張強度)
JIS K 6251に従い、シートを1号型テストピース形状にカットし、島津製作所AGS-100D型引張試験機を用い、23±2℃の環境で引張速度500mm/分にて測定し、MD方向及びTD方向の引張弾性率を求めて評価した。引張弾性率は1000MPa以上であれば可であり、好ましくは1500MPa以上である。
【0049】
(3)シャルピー衝撃強さ
射出成型機を用いて試験片(80mm×10mm、厚さ4mm)を作製し、23±2℃の環境でJIS K 7111に従って測定した。測定機は東洋精機製作所社製デジタル衝撃試験機を使用した。
【0050】
シート特性は以下の方法により評価した。
(1)シート外観
シート350mm×350mmの範囲について、1)面積100mm2以上のロール付着跡、2)面積10mm2以上の気泡、3)異物、4)付着欠陥、5)幅3mm以上のダイライン(製膜時にTダイ出口で発生するシート流れ方向に走る欠陥)を欠点とし、欠点の個数を下記基準で評価した。上記シート10枚を用いてその算術平均値を求めた。
◎:0個
○:1~2個
×:3個以上
【0051】
(2)製膜性
シートのMD方向およびTD方向に20mm間隔で直線を5本ずつ格子状に引いた時の交点25点についてマイクロゲージを用いて厚みを測定し、その標準偏差σを下記基準で評価した。
◎:σが0.03mm未満
○:σが0.03mm以上、0.07mm未満
×:σが0.07mm以上
【0052】
(3)賦型性
熱板成形機HPT-400A(脇坂エンジニアリング社製)にて、熱板温度150℃、加熱時間2.0秒の条件で、フードパック(寸法 蓋:縦150×横130×高さ30mm、本体:縦150×横130×高さ20mm)を成形し、賦型性を下記基準にて評価した。上記フードパック3個を評価し、全て良好なものを◎、1個以上コーナー部に僅かな形状不良を生じるものを○、1個以上寸法と異なる形状またはコーナー部に著しい形状不良を生じるものを×とした。
【0053】
(4)耐油性
シートから押出方向に垂直な方向(TD方向)を長手とし、幅15mm×長さ180mmの短冊状試験片を切り出した。23±2℃の環境で、定歪み治具に長さ80mmまで弓状に曲げて装着した後、試験片の中央部に10mm×20mmの幅でガーゼを置き、サラダ油(日清オイリオ社製、日清サラダ油)を0.5mL塗布した。23±2℃の環境で、24時間の外観を目視で確認し、クラックが発生しないものを◎、クラックは僅かに発生するが目立たないものを○、クラックが発生したり、破断したりするものを×として評価した。
【0054】
【0055】
【0056】
表に示すように、実施例に示すシートは各性能ともに良好であり、バランスのとれたシートであるが、比較例に示すシートはシート強度、耐油性等の一部の特性が不十分であり、実用性の低いシートである。