(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】偽造防止構造体、紙葉類、真偽識別装置、真偽識別方法及び紙葉類処理装置
(51)【国際特許分類】
B42D 25/328 20140101AFI20220610BHJP
B41M 3/14 20060101ALI20220610BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20220610BHJP
G03H 1/02 20060101ALI20220610BHJP
G03H 1/22 20060101ALI20220610BHJP
G07D 7/206 20160101ALI20220610BHJP
G07D 7/12 20160101ALI20220610BHJP
【FI】
B42D25/328
B41M3/14
G02B5/20
G03H1/02
G03H1/22
G07D7/206
G07D7/12
(21)【出願番号】P 2018155557
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001432
【氏名又は名称】グローリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【氏名又は名称】中辻 史郎
(74)【代理人】
【識別番号】100148655
【氏名又は名称】諏訪 淳一
(72)【発明者】
【氏名】志水 勇人
(72)【発明者】
【氏名】亀山 博史
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-92646(JP,A)
【文献】特開2013-195640(JP,A)
【文献】特開2001-96999(JP,A)
【文献】特開平6-247084(JP,A)
【文献】特開2015-110308(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0367670(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/328
B41M 3/14
G07D 7/206
G07D 7/12
G03H 1/02
G03H 1/22
G02B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類の偽造を防止するための偽造防止構造体であって、
所定波長を有する非可視光の透過率が異なる複数の領域によって所定のデザインが形成された第1層と、
前記第1層より上側に設けられ、前記第1層を透過する前記非可視光を透過可能かつ前記第1層と異なるデザインを目視可能に形成された第2層と
を備えることを特徴とする偽造防止構造体。
【請求項2】
前記第1層は、前記非可視光を透過する領域と、前記非可視光を透過しない領域とを含むことを特徴とする請求項1に記載の偽造防止構造体。
【請求項3】
前記第1層は、第1波長の非可視光を透過する領域と、前記第1波長の非可視光は透過せず前記第1波長と異なる第2波長の非可視光を透過する領域とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の偽造防止構造体。
【請求項4】
前記第1層は、第1波長の非可視光及び前記第1波長と異なる第2波長の非可視光を透過する領域と、前記第1波長の非可視光は透過せず前記第2波長の非可視光を透過する領域とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の偽造防止構造体。
【請求項5】
前記第1層は、非可視光の透過率が異なる複数種類のインクによって形成されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の偽造防止構造体。
【請求項6】
前記第2層の上方から可視光を照射して得られる可視光反射画像は、前記第2層のデザインを含み、
前記非可視光を照射して得られる非可視光透過画像は、前記第1層のデザインを含む
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の偽造防止構造体。
【請求項7】
前記第1層に形成されたデザインは、文字、数字、記号、模様の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の偽造防止構造体。
【請求項8】
前記第1層は、可視光を透過しないことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の偽造防止構造体。
【請求項9】
前記第2層は、前記可視光を透過する材料に所定デザインが印刷された層であることを特徴とする請求項8に記載の偽造防止構造体。
【請求項10】
前記第2層はホログラムであることを特徴とする請求項8に記載の偽造防止構造体。
【請求項11】
前記ホログラムは前記可視光及び前記非可視光を透過しない金属層を含み、
前記金属層に、前記非可視光を透過する加工が施されている
ことを特徴とする請求項10に記載の偽造防止構造体。
【請求項12】
前記金属層は、前記非可視光を透過する加工が施された領域と、前記加工が施されていない領域とを含むことを特徴とする請求項11に記載の偽造防止構造体。
【請求項13】
前記第2層は、可視光を透過しないことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の偽造防止構造体。
【請求項14】
前記第2層は、前記可視光を透過しない材料の上面に所定デザインが印刷された層であることを特徴とする請求項13に記載の偽造防止構造体。
【請求項15】
可視光を透過せずかつ前記非可視光を透過するフィルタ層
をさらに備えることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の偽造防止構造体。
【請求項16】
前記第1層は、ホログラムを形成する金属層であり、
前記第2層は、前記ホログラムを形成する再生層であり、
前記金属層に前記非可視光を透過する加工を施した領域と、前記加工を施していない領域とによって、前記第1層の所定のデザインが形成される
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の偽造防止構造体。
【請求項17】
前記可視光を透過せずかつ前記非可視光を透過するフィルタ層
をさらに備えることを特徴とする請求項16に記載の偽造防止構造体。
【請求項18】
前記非可視光は赤外光であることを特徴とする請求項1~17のいずれか1項に記載の偽造防止構造体。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の偽造防止構造体を備えることを特徴とする紙葉類。
【請求項20】
前記偽造防止構造体を備える紙幣であることを特徴とする請求項19に記載の紙葉類。
【請求項21】
請求項1~18のいずれか1項に記載の偽造防止構造体を有する紙葉類に非可視光を照射する光源と、
前記紙葉類を透過した非可視光のデータを取得する透過用センサと、
前記透過用センサが取得した非可視光透過データと予め準備された基準データと比較することにより前記紙葉類の真偽を判別する判別部と
を備える
ことを特徴とする真偽識別装置。
【請求項22】
請求項21に記載の真偽識別装置
を備え、
前記真偽識別装置による識別結果に基づいて紙葉類を処理することを特徴とする紙葉類処理装置。
【請求項23】
紙葉類の真偽を機械識別する真偽識別方法であって、
請求項1~18のいずれか1項に記載の偽造防止構造体を有する紙葉類に非可視光を照射する工程と、
前記紙葉類を透過した非可視光のデータを取得する工程と、
取得した非可視光透過データと予め準備された基準データと比較することにより前記紙葉類の真偽を識別する工程と
を含むことを特徴とする真偽識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紙葉類の偽造防止に利用する偽造防止構造体、該偽造防止構造体を有する紙葉類、該紙葉類の真偽を識別する真偽識別装置及び真偽識別方法、該真偽識別装置を備える紙葉類処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙葉類の偽造を防止するために偽造防止構造体が利用されている。例えば、特許文献1には、OVD(Optical Variable Device)の1つであるホログラムを偽造防止構造体として利用する技術が開示されている。小切手、紙幣、商品券等の有価媒体に、偽造防止構造体として、シールタイプのホログラムや転写箔のホログラムを貼り付ける。見る角度によってデザインが変化するホログラムは、コピー機等による複写では再現できず、製造することも困難であるため、紙葉類の偽造防止に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の偽造防止構造体の中には装置による機械識別に適さないものがあった。例えば、人間がホログラムを目視確認する際にはホログラムを傾けてデザインの変化を容易に確認できるが、これを装置内で実現するには複雑な機構が必要となる。
【0005】
本発明は、上記従来技術による課題に鑑みてなされたものであって、機械識別に適した構造を有する偽造防止構造体、該偽造防止構造体を設けた紙葉類、該紙葉類の真偽を識別する真偽識別装置及び真偽識別方法、該真偽識別装置を備える紙葉類処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、紙葉類の偽造を防止するための偽造防止構造体であって、所定波長を有する非可視光の透過率が異なる複数の領域によって所定のデザインが形成された第1層と、前記第1層より上側に設けられ、前記第1層を透過する前記非可視光を透過可能かつ前記第1層と異なるデザインを目視可能に形成された第2層とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、上記発明において、前記第1層は、前記非可視光を透過する領域と、前記非可視光を透過しない領域とを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上記発明において、前記第1層は、第1波長の非可視光を透過する領域と、前記第1波長の非可視光は透過せず前記第1波長と異なる第2波長の非可視光を透過する領域とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記発明において、前記第1層は、第1波長の非可視光及び前記第1波長と異なる第2波長の非可視光を透過する領域と、前記第1波長の非可視光は透過せず前記第2波長の非可視光を透過する領域とを含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記発明において、前記第1層は、非可視光の透過率が異なる複数種類のインクによって形成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記発明において、前記第2層の上方から可視光を照射して得られる可視光反射画像は、前記第2層のデザインを含み、前記非可視光を照射して得られる非可視光透過画像は、前記第1層のデザインを含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、前記第1層に形成されたデザインは、文字、数字、記号、模様の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、前記第1層は、可視光を透過しないことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、前記第2層は、前記可視光を透過する材料に所定デザインが印刷された層であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記発明において、前記第2層はホログラムであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記発明において、前記ホログラムは前記可視光及び前記非可視光を透過しない金属層を含み、前記金属層に、前記非可視光を透過する加工が施されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記発明において、前記金属層は、前記非可視光を透過する加工が施された領域と、前記加工が施されていない領域とを含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記発明において、前記第2層は、可視光を透過しないことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上記発明において、前記第2層は、前記可視光を透過しない材料の上面に所定デザインが印刷された層であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記発明において、可視光を透過せずかつ前記非可視光を透過するフィルタ層をさらに備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記発明において、前記第1層は、ホログラムを形成する金属層であり、前記第2層は、前記ホログラムを形成する再生層であり、前記金属層に前記非可視光を透過する加工を施した領域と、前記加工を施していない領域とによって、前記第1層の所定のデザインが形成されることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記発明において、前記可視光を透過せずかつ前記非可視光を透過するフィルタ層をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、上記発明において、前記非可視光は赤外光であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、紙葉類であって、上記発明に係る偽造防止構造体を備えることを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、紙幣であって、上記発明に係る偽造防止構造体を備えることを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、真偽識別装置であって、上記発明に係る偽造防止構造体を有する紙葉類に非可視光を照射する光源と、前記紙葉類を透過した非可視光のデータを取得する透過用センサと、前記透過用センサが取得した非可視光透過データと予め準備された基準データと比較することにより前記紙葉類の真偽を判別する判別部とを備えることを特徴とする。
【0027】
また、本発明は、紙葉類処理装置であって、上記発明に係る真偽識別装置を備え、前記真偽識別装置による識別結果に基づいて紙葉類を処理することを特徴とする。
【0028】
また、本発明は、紙葉類の真偽を機械識別する真偽識別方法であって、上記発明に係る偽造防止構造体を有する紙葉類に非可視光を照射する工程と、前記紙葉類を透過した非可視光のデータを取得する工程と、取得した非可視光透過データと予め準備された基準データと比較することにより前記紙葉類の真偽を識別する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、可視光下で目視確認される偽造防止構造体のデザインと、該偽造防止構造体に所定波長の非可視光を照射して得られる透過画像に含まれるデザインとが異なる。これを利用して、偽造防止構造体を付した紙葉類の偽造を防止することができる。例えば、機械識別時に安定した可視光反射画像を得られないホログラムを利用して偽造防止構造体を構成する場合でも、所定デザインの非可視光透過画像を得られることから、該非可視光透過画像に基づく安定した機械識別が可能となる。これにより、偽造防止構造体を付した紙葉類のセキュリティ性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る偽造防止構造体の構造を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、2種類のインクの塗り方の例を示す図である。
【
図3】
図3は、偽造防止構造体に光を照射して得られる画像の種類を示す図である。
【
図4】
図4は、紙幣処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、偽造防止構造体の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、第2層がホログラムである偽造防止構造体の構造を説明するための模式図である。
【
図7】
図7は、第2層がホログラムである偽造防止構造体の他の構造を説明するための模式図である。
【
図8】
図8は、第1層及び第2層がホログラムである偽造防止構造体の構造を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、波長の異なる2種類の赤外光を利用する例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る偽造防止構造体、紙葉類、真偽識別装置、真偽識別方法及び紙葉類処理装置について説明する。偽造防止構造体を利用して偽造を防止する紙葉類は、所定波長の非可視光(可視光以外の電磁波)を照射した際に偽造防止構造体の透過画像を得ることができれば、その種類や構造は特に限定されない。例えば、紙幣、小切手、商品券、入場券、保証書、証明書に偽造防止構造体を貼り付けて、偽造を防止することができる。本実施形態では、紙幣を例に、偽造防止構造体、紙葉類、真偽識別装置、真偽識別方法及び紙葉類処理装置について説明する。
【0032】
まず、本実施形態に係る偽造防止構造体の概要を説明する。偽造防止構造体は、所定波長の非可視光を照射した際に所定デザインを含む透過画像が得られる非可視光デザイン層(第1層)と、可視光下において、非可視光デザイン層の透過画像とは異なる所定デザインを目視確認可能な可視光デザイン層(第2層)とを含む。また、偽造防止構造体は、偽造防止構造体の表面と裏面との間で可視光の透過を妨げると共に、非可視光デザイン層を透過する非可視光の透過を許容するフィルタ層を含んでいる。フィルタ層については、可視光デザイン層及び非可視光層から独立して設けられる態様であってもよいし、可視光デザイン層と非可視光デザイン層の少なくともいずれか一方がフィルタ層を兼ねる構成であってもよい。
【0033】
偽造防止構造体に可視光を照射した際には、可視光デザイン層のデザインを含む可視光反射画像が得られる。偽造防止構造体に非可視光を照射した際には、非可視光デザイン層のデザインを含む非可視光透過画像が得られる。可視光反射画像と非可視光透過画像とは異なる画像となる。偽造防止構造体に可視光を照射した際、フィルタ層によって可視光の透過が妨げられる。このため、可視光透過画像は非可視光透過画像と異なる画像となる。すなわち可視光下では非可視光透過画像の画像内容を確認できない。
【0034】
紙幣の表面に偽造防止構造体を貼り付けた際、可視光デザイン層が非可視光デザイン層よりも上側となる。非可視光デザイン層は、紙幣表面と可視光デザイン層との間に挟まれた状態となる。このため、可視光下において紙幣の表面を見たときに、可視光デザイン層のデザインを目視確認できるが、非可視光デザイン層のデザインを目視確認することはできない。すなわち、可視光デザイン層は、紙幣表面を見る者から非可視光デザイン層のデザインを隠す層として機能する。
【0035】
フィルタ層は、紙幣の表面側から可視光デザイン層のデザインを目視確認することができ、かつ、紙幣の裏面側から非可視光デザイン層のデザインを確認できないように設けられる。例えば、可視光デザイン層と非可視光デザイン層との間、又は、非可視光デザイン層より下側にフィルタ層が設けられる。フィルタ層は可視光を透過しないため、紙幣の裏面側から見ても、非可視光デザイン層のデザインを目視確認することはできない。例えば、非可視光デザイン層全域を覆うようにフィルタ層を形成した場合、可視光透過画像は黒等の単色で塗り潰された画像となり、非可視光デザイン層のデザインを確認することはできない。すなわち、フィルタ層は、裏面側から紙幣を透かして見る者から、非可視光デザイン層のデザインを隠す層として機能する。なお、非可視光デザイン層のデザインを確認できなければ、フィルタ層が、非可視光デザイン層のデザイン全てを隠す態様に限定されず、非可視光デザイン層のデザインを部分的に隠す態様であってもよい。
【0036】
人が可視光下で紙幣を見る場合、可視光反射画像と同じ内容を目視確認することができる。また、可視光透過画像と同じ内容を目視確認することもできる。人が紙幣の真偽を判断する際には、紙幣の表面側から偽造防止構造体を見て、可視光デザイン層のデザインを目視確認できるか否かを確認する。また、紙幣の裏面側から見て、表側から見たときと見え方が異なるか否かを確認する。例えば、表面側から見たときに可視光デザイン層のデザインを確認することができて、このデザインを裏面側から確認することができなければ、真の紙幣であると判断することができる。
【0037】
真偽識別装置が紙幣の真偽を機械識別する際には、非可視光を照射して得られる非可視光透過画像を利用する。具体的には、非可視光デザイン層のデザインを含む非可視光透過画像が得られたか否かに基づいて紙幣の真偽を識別することができる。非可視光透過画像に加えて、可視光反射画像と可視光透過画像の少なくともいずれか一方を真偽識別に利用することもできる。具体的には、可視光デザイン層のデザインを含む可視光反射画像が得られたか否かと、可視光反射画像及び非可視光透過画像と異なる可視光透過画像が得られるか否かの少なくともいずれか一方を、真偽識別の判定に加えることができる。例えば、可視光デザイン層が、従来装置で安定した反射画像を得られないホログラムを利用して実現される場合でも、ホログラムとは別に又はホログラム内に、非可視光デザイン層を設けることで、非可視光透過画像に基づく安定した機械識別が可能となる。例えば、ホログラムが有する金属層を利用して非可視光デザイン層を実現するが詳細は後述する。
【0038】
本実施形態で言う非可視光は、所定波長を有する電磁波であれば、波長は特に限定されない。以下では、所定波長の赤外光(以下、単に「赤外光」と記載する)を例に説明する。本実施形態で言うデザインは、文字、数字、記号、模様の少なくともいずれか1つを含んで構成されるもので内容は特に限定されない。以下では、所定模様から成るデザインを例に説明する。紙幣については、2つの紙幣面のうち偽造防止構造体が貼り付けられた紙幣面を表面、他方の紙幣面を裏面として説明する。
【0039】
図1は、本実施形態に係る偽造防止構造体1の構造を説明するための模式図である。
図1(a)~(d)には、各図の関係が分かるように直交座標を示している。
図1(b)に示す下側の層が第1層10、第1層10の上に形成された層が第2層20である。第2層20は、可視光下で、所定模様を目視可能に形成された可視光デザイン層である。第1層10は、赤外光透過時に、第2層20と異なる所定模様を確認可能に形成された赤外光デザイン層である。
【0040】
図1(a)は、偽造防止構造体1が付された紙幣2を示している。具体的には、第1層10の下に接着層を設けた偽造防止構造体1が、紙幣2の表面に貼り付けられている。例えば、シール状に形成した偽造防止構造体1を紙幣2に貼り付ける態様であってもよいし、転写箔状に形成した偽造防止構造体1を紙幣2に転写して貼り付ける態様であってもよい。第1層10と第2層20の間の接着強度は、第1層10と紙幣2の間、すなわち偽造防止構造体1と紙幣2の間の接着強度より強い。偽造防止構造体1を紙幣2から剥がそうとした場合、第1層10と第2層20とが分離されることはなく、偽造防止構造体1が紙幣2から剥がれるようになっている。
【0041】
図1(b)は、
図1(a)に示す偽造防止構造体1を側方(Y軸負方向側)から見た断面を示している。第2層20は、第1層10の全域を覆っている。偽造防止構造体1は、例えば、全体の厚みが数百μm以下の薄い構造体である。
【0042】
第2層20は、可視光を透過し、かつ、赤外光を透過する層である。
図1(c)に示すように、第2層20には、可視光下で確認可能な所定模様のデザインが施されている。例えば、第2層20は、
図1(c)に示す幾何学模様が印刷された透明フィルムである。
【0043】
図1(b)、(d)に示すように、第1層10は、赤外光の透過率が異なる2種類の領域を含んでいる。1つは、赤外光を透過しない赤外光不透過領域10aである。もう1つは、赤外光を透過する赤外光透過領域10bである。
図1では、赤外光不透過領域10aを黒く塗り潰して示し、赤外光透過領域10bを斜線で示している。赤外光不透過領域10a及び赤外光透過領域10bは可視光を透過しない。すなわち、第1層10が、可視光を透過しないフィルタ層として機能する。第1層10は、全域で可視光を透過せず、かつ、一部の領域で赤外光を透過する層である。
図1(d)に示すように、第1層10には、赤外光不透過領域10aと、赤外光透過領域10bとを利用して所定模様のデザインが施されている。このように、赤外光の透過率が異なる複数の領域によって模様を形成することにより、赤外光を照射して得られる透過画像上に、各領域を区別可能なコントラスト差が生ずる。このコントラスト差によって第1層10の模様を確認することができる。
【0044】
例えば、赤外光不透過領域10aは、可視光及び赤外光を透過しない赤外反射インク又は赤外吸収インクで形成される。赤外光透過領域10bは、可視光を透過せずかつ赤外光を透過する赤外透過インクで形成される。
図1では、赤外光不透過領域10aと赤外光透過領域10bとを区別できるように図示しているが、実際には、例えば、両方の領域が黒いインクで形成されている。このため、たとえ第2層20が透明材料から成る場合でも、
図1(d)に示す模様を可視光下で目視確認することは困難である。加えて、
図1(c)に示すように、異なる模様を有する第2層20が第1層10を覆い隠しており、第1層10の模様を目視確認できないようになっている。
【0045】
図1(b)では、赤外光の透過率が異なる2種類のインクが重ならないように、赤外光不透過領域10aと赤外光透過領域10bとを塗り分ける例を示したが、インクの塗り方がこれに限定されるものではない。
図2は、2種類のインクの塗り方の例を示す図である。
図2(a)に示すように、赤外光反射インク又は赤外光吸収インクによって赤外光不透過領域10aを形成し、その上に赤外光透過インクを塗り重ねて赤外光透過領域10bを形成する態様であってもよい。
図2(b)に示すように、赤外光透過インクによって赤外光透過領域10bを形成し、その上に赤外光反射インク又は赤外光吸収インクによって赤外光不透過領域10aを形成する態様であってもよい。
【0046】
図3は、偽造防止構造体1に光を照射して得られる画像の種類を示す図である。
図3(a)は、紙幣2の表面側から可視光を照射して得られる可視光反射画像21及び可視光透過画像22を示している。
図3(b)は、紙幣2の表面側から赤外光を照射して得られる赤外光透過画像11を示している。
【0047】
図3(a)に示すように、可視光反射画像21は、
図1(c)に示した第2層20の模様を含む画像となる。
図3(a)に矢印で示すように、可視光は第1層10を透過できない。このため、可視光透過画像22は、可視光反射画像21とは異なる画像になる。具体的には、第2層20の模様を含まない画像となる。なお、実際には、環境光の影響等によって、可視光透過画像22に、紙幣2の裏面に印刷された模様が含まれる場合があるが、説明を簡単にするため、
図3(a)では全域を単色で塗り潰した画像としている。
【0048】
赤外光は第2層20を透過する。第2層20を透過した赤外光は、
図3(b)に矢印で示すように、赤外光不透過領域10aを透過できず、赤外光透過領域10bは透過できる。このため、
図3(b)に示すように、赤外光透過画像11は、
図1(d)に示した第1層10の模様を含む画像となる。赤外光透過画像11は、可視光反射画像21と異なる画像となり、可視光透過画像22とも異なる画像となる。
図3(b)では、紙幣2の表面側から赤外光を照射して裏面側で赤外光透過画像11を得る例を示しているが、紙幣2の裏面側から赤外光を照射して表面側で赤外光透過画像11を得る場合も同じ画像となる。
【0049】
このように、偽造防止構造体1に可視光と赤外光とを照射して、
図3に示すように、可視光反射画像21、可視光透過画像22及び赤外光透過画像11の3種類の異なる画像を得ることができる。例えば、人が紙幣2の真偽を確認する際には、可視光下で紙幣2の表面を目視して、
図1(c)に示す第2層20の所定模様を確認できるか否かに基づいて紙幣2の真偽を判断することができる。
【0050】
装置による機械識別によって紙幣2の真偽を識別することもできる。
図4は、紙幣処理装置100の構成例を示すブロック図である。
図4(a)に示す紙幣処理装置100と、
図4(b)に示す紙幣処理装置100は、真偽識別装置170(170a、170b)の構成のみが異なっている。具体的には、
図4(a)に示す真偽識別装置170aは、1つの光源180と2つのセンサ191、192を有している。
図4(b)に示す真偽識別装置170bは、2つの光源181、182と1つのセンサ193を有している。
【0051】
図4(a)及び(b)に示す紙幣処理装置100は、投入口110、搬送部120、排出口130、収納部140、制御部150、操作表示部160及び真偽識別装置170を有する。操作表示部160は、例えばタッチパネル式の液晶表示装置から成る。操作表示部160は紙幣処理に係る設定操作及び指示操作を行うための操作部として機能する。また、操作表示部160は紙幣処理に係る各種情報を液晶画面上に表示する表示部としても機能する。制御部150は、操作表示部160で操作を受け付けて、各種情報を画面に表示しながら、投入口110、搬送部120、排出口130、収納部140及び真偽識別装置170を制御する。これにより、紙幣処理装置100は、様々な紙幣処理を行うことができる。紙幣処理には、例えば、入金処理及び出金処理が含まれる。
【0052】
投入口110は、入金処理時に複数枚の紙幣を受け付けて、紙幣を1枚ずつ紙幣処理装置100の装置内部へ繰り出す。搬送部120は、装置内に繰り出された紙幣を搬送路に沿って搬送する。投入口110、真偽識別装置170、排出口130及び収納部140は、搬送路によって接続されている。排出口130は、搬送部120が搬送してきた紙幣を排出する。排出口130に排出された紙幣は、紙幣処理装置100の外部へ抜き取れるようになっている。収納部140は、例えば、紙幣を種類別に収納するための複数の集積部を有する。収納部140は、各集積部に集積中の紙幣を搬送路に繰り出す機能を有する。出金処理時には収納部140から繰り出された紙幣が搬送路に沿って搬送され、排出口130から排出される。
【0053】
図4(a)に示す真偽識別装置170aは、搬送部120が搬送する紙幣を識別する。例えば、紙幣の金種、真偽、正損、方向が識別される。真偽識別装置170で識別された紙幣は、識別結果に基づいて排出口130から排出されるか又は収納部140に収納される。入金処理時には、真偽識別装置170が真の紙幣と識別しなかった紙幣がリジェクト紙幣として排出口130に排出される。真偽識別装置170が真の紙幣と識別した紙幣は、識別結果に基づいて、収納部140の集積部に種類別に分類して集積される。
【0054】
図4(a)に示す真偽識別装置170aは、光源180、反射用センサ191、透過用センサ192及び制御部200を有する。光源180は、搬送部120が紙幣を搬送する搬送路の上方に配置されている。光源180は、搬送路を搬送される紙幣に可視光を照射する。光源180は、紙幣に赤外光を照射することもできる。
【0055】
反射用センサ191は、搬送路の上方、光源180の配置位置から搬送路の延接方向に位置をずらして配置されている。反射用センサ191は、例えばラインセンサから成り、搬送路を搬送される紙幣を撮像して反射画像を取得する。光源180から可視光を照射することにより、反射用センサ191を利用して可視光反射画像を取得することができる。
【0056】
透過用センサ192は、搬送路の下方、搬送路を挟んで光源180と対向する位置に配置されている。透過用センサ192は、例えばラインセンサから成り、搬送路を搬送される紙幣を撮像して透過画像を取得する。光源180から可視光を照射することにより、透過用センサ192を利用して可視光透過画像を取得することができる。光源180から赤外光を照射することにより、透過用センサ192を利用して赤外光透過画像を取得することができる。
【0057】
制御部200は、搬送部120から情報を得て、紙幣が、透過用センサ192による撮像領域へ到達するタイミングと、反射用センサ191による撮像領域へ到達するタイミングとを認識する。制御部200は、搬送路を搬送される紙幣が真偽識別装置170内を通過するタイミングに合わせて各部を制御する。
【0058】
制御部200は、反射用センサ191による撮像領域を紙幣が通過する間に、光源180から可視光を照射して、紙幣の可視光反射画像を取得する。また、制御部200は、透過用センサ192による撮像領域を紙幣が通過する間に、光源180から赤外光を照射して、紙幣の赤外光透過画像を取得する。透過用センサ192による撮像領域を紙幣が通過する間、可視光と赤外光とを切り換えながら繰り返し紙幣に照射する。これにより、可視光のラインデータと赤外光のラインデータとを取得して、可視光透過画像及び赤外光透過画像の2種類の透過画像を取得することができる。
【0059】
真偽識別装置170aは、
図1に示すように偽造防止構造体1を有する紙幣2から、
図3に示した可視光反射画像21、可視光透過画像22及び赤外光透過画像11を取得する。真偽識別装置170aの制御部200は、赤外光透過画像11に基づいて、紙幣2の真偽を識別する。或いは、制御部200は、可視光反射画像21と可視光透過画像22の少なくともいずれか1つと、赤外光透過画像11とに基づいて、紙幣2の真偽を識別する。すなわち、制御部200は、紙幣2の真偽を判別する判別部として機能する。真偽識別の処理は、紙幣2から得られたデータと、予め準備された基準データとを比較することによって行われる。
【0060】
図4(b)に示す真偽識別装置170bについて、
図4(a)に示す真偽識別装置170との違いを説明する。
図4(b)に示す真偽識別装置170bは、紙幣に可視光を照射する可視光光源181と、紙幣に赤外光を照射する赤外光光源182と、可視光画像及び赤外光画像を取得可能なセンサ193とを有する。センサ193は、例えばラインセンサから成る。可視光光源181及びセンサ193は、搬送路の上方、搬送路の延接方向に位置をずらして配置されている。赤外光光源182は、搬送路の下方、搬送路を挟んでセンサ193と対向する位置に配置されている。
【0061】
可視光光源181から可視光を照射することにより、センサ193を利用して可視光反射画像を取得することができる。赤外光光源182から赤外光を照射することにより、センサ193を利用して赤外光透過画像を取得することができる。
【0062】
センサ193による撮像領域を紙幣が通過する間に、可視光光源181による可視光照射と、赤外光光源182による赤外光照射とを切り換えながら繰り返し実行する。可視光照射時にセンサ193が取得したラインデータから可視光反射画像が生成される。赤外光照射時にセンサ193が取得したラインデータから赤外光透過画像が生成される。
【0063】
真偽識別装置170bは、
図1に示すように偽造防止構造体1を有する紙幣2から、
図3に示した可視光反射画像21及び赤外光透過画像11を取得する。真偽識別装置170bの制御部200は、赤外光透過画像11に基づいて、紙幣2の真偽を識別する。或いは、制御部200は、赤外光透過画像11及び可視光反射画像21に基づいて、紙幣2の真偽を識別する。すなわち、制御部200は、紙幣2の真偽を判別する判別部として機能する。真偽識別の処理は、紙幣2から得られたデータと、予め準備された基準データとを比較することによって行われる。
【0064】
図4に示す紙幣処理装置100は、真偽識別装置170による識別結果に基づいて、排出口130への紙幣2の排出や、収納部140への紙幣2の収納を実行する。なお、真偽識別装置170が紙幣2の真偽を決定する態様に限定されず、紙幣処理装置100が、真偽識別装置170で得られた画像を利用して紙幣2の真偽を識別する態様であってもよい。また紙幣処理装置100が、真偽識別装置170を利用して得られた真偽識別結果と、他のセンサで得られた情報とに基づいて、紙幣2の真偽を最終決定する態様であってもよい。
【0065】
紙幣2上の偽造防止構造体1から、
図3に示したように画像を得ることができれば、偽造防止構造体1の構成が
図1に示した構造に限定されるものではない。以下、偽造防止構造体1の他の例について説明する。
【0066】
図5は、偽造防止構造体1の構成例を示す図である。
図5(a)~
図5(d)は、偽造防止構造体1を構成する複数の層について、各層の機能と、該機能を実現する各層の例とを示している。
【0067】
図5(a)に示す構成は、第1層10が、赤外光不透過領域10aと赤外光透過領域10bとによって赤外光模様を形成し、第2層20が、可視光下で目視可能な可視光模様を形成すると共にフィルタ層として機能する構成を示している。例えば、
図1に示す偽造防止構造体1の第2層20を、
図1(c)に示した模様が上面に印刷された不透明フィルムとした例である。第2層20を不透明フィルムとした場合も、
図3に示す3種類の画像が得られる。この構成では、第2層20がフィルタ層として機能するため、第1層10を形成する2種類のインクは可視光を透過するものであってもよい。
【0068】
図5(b)に示す構成は、第1層10が赤外光模様を形成すると共にフィルタ層として機能し、第2層20が可視光模様を形成する構成を示している。
図1に示した偽造防止構造体1は、本構成の一例である。
【0069】
例えば、
図1に示す偽造防止構造体1の第2層20をホログラムとした場合も、本構成に該当する。
図6は、第2層220がホログラムである偽造防止構造体1の構造を説明するための模式図である。この例では、
図1(c)に示した模様がホログラムによって実現される。
【0070】
図6に示すように、第2層220のホログラムは、記録された像を再生する再生層221と、再生層221に進入した可視光を反射するための金属層222とを含む。再生層221は、可視光及び赤外光を透過する。金属層222は可視光及び赤外光を透過しない金属材料で形成されているが、金属層222に、上下方向に貫通した微細孔を多数形成することで赤外光を透過するようになっている。
図6に示すように、第2層220がホログラムである場合も、第2層220の全域に、赤外光を透過する微細孔加工を施すことで、
図3に示す3種類の画像を得ることができる。
【0071】
図5(c)に示す構成は、第1層10が赤外光模様の一部を形成すると共にフィルタ層として機能し、第2層20が赤外光模様の一部と可視光模様とを形成する構成を示している。例えば、
図1に示す偽造防止構造体1の第2層20をホログラムとした構成により、本構成を実現することができる。
【0072】
図7は、第2層220がホログラムである偽造防止構造体1の他の構造を説明するための模式図である。
図7に示すように、第2層220のホログラムに含まれる金属層223は、内周領域223aと外周領域223bの2つの領域に分かれている。内周領域223aには
図6に示した金属層222と同様に多数の微細孔加工が施され、赤外光を透過するようになっている。一方、外周領域223bには微細孔加工が施されておらず、赤外光を透過しない。すなわち、内周領域223aは赤外光透過領域として機能し、外周領域223bは赤外光不透過領域として機能する。これにより、金属層223、すなわち第2層220が、赤外光透過画像に表れる赤外光模様の一部を形成することになる。
【0073】
図7に示すように、第1層210は、楕円形状の短径に平行な3つの帯状領域210a~210cに分割されている。中央は赤外光不透過領域210aで、両外側の2つは赤外光透過領域210bである。第1層210も、赤外光透過画像に表れる赤外光模様の一部を形成する。
【0074】
第1層10の両外側の赤外光透過領域210bは赤外光を透過する領域であるが、紙幣2の表面側から、すなわち偽造防止構造体1の上方から照射された赤外光は、第2層220の外周領域223bを透過できす、第1層10には届かない。このため、第2層220を透過した赤外光により、内周領域223aと外周領域223bとを区別可能な赤外光模様が形成されることになる。また、第2層220の内周領域223aを透過した赤外光が第1層210を透過することにより、赤外光不透過領域210aと赤外光透過領域210bとを区別可能な赤外光模様が形成される。第2層220による赤外光模様と、第1層10による赤外光模様とが合成されることで、
図1(d)に示した赤外光模様が実現される。この結果、偽造防止構造体1を
図7に示す構造とした場合も、
図3に示す3種類の画像を得ることができる。
【0075】
図5(d)に示す構成は、ホログラムの再生層を第1層、ホログラムの金属層を第2層として、ホログラムとは別にフィルタ層を設けた構成を示している。例えば、
図7に示すホログラムの金属層223によって、
図1(d)に示す赤外光模様を形成して、金属層223より下側に、可視光を透過せず赤外光を透過するフィルタ層を設けることにより、本構成を実現することができる。
【0076】
図8は、第1層及び第2層がホログラム300である偽造防止構造体1の構造を説明するための模式図である。ホログラム300は、記録された像を再生するための再生層320と、再生層320に進入した可視光を反射するための金属層310とを含む。
【0077】
再生層320は、可視光及び赤外光を透過する。再生層320には
図1(c)に示した可視光模様が記録されている。すなわち、再生層320は、
図1(c)に示した可視光模様が可視光下で目視確認可能に形成された第2層として機能する。
【0078】
金属層310は、赤外光を透過しない赤外光不透過領域310aと、赤外光を透過する赤外光透過領域310bとを含む。
図7に示したホログラムと同様に、微細孔加工が施されていない領域が赤外光不透過領域310aで、赤外光を透過するように微細孔加工が施された領域が赤外光透過領域310bである。
図8に示すように、金属層310には、赤外光不透過領域310aと赤外光透過領域310bとによって、
図1(d)に示す赤外光模様が形成されている。すなわち、ホログラム300の金属層310は、赤外光模様を形成する第1層として機能する。
【0079】
図8に示すように、ホログラム300の下側、すなわち金属層310の下側に、フィルタ層400が設けられている。フィルタ層400は、例えば、可視光を透過せずかつ赤外光を透過する赤外透過インクで形成される。
【0080】
このように、第1層及び第2層がホログラム300である場合も、第1層として機能する金属層310の一部に微細孔加工を施して赤外光模様を形成すると共に、ホログラム300の下側にフィルタ層400を設けることで、
図3に示す3種類の画像を得ることができる。具体的には、
図8に示すように、再生層320及び金属層310から成るホログラム300により、
図3と同様の可視光反射画像21が得られる。また、金属層310により
図3と同様の赤外光透過画像11が得られ、フィルタ層400により
図3と同様の可視光透過画像22が得られる。可視光下で、偽造防止構造体1を表側から見る際には可視光反射画像21と同じ内容が目視確認され、裏側から見る際には可視光透過画像22と同じ内容が目し確認されることになる。
【0081】
図6及び
図7に示すように偽造防止構造体1がホログラムを含む場合、
図4に示した真偽識別装置170で取得する可視光反射画像の画像内容が安定せず、搬送路上の紙幣2の搬送状態によって異なる画像となったり白飛びした画像となったりする可能性がある。このような場合でも赤外光透過画像11は安定して得られるため、赤外光透過画像11に基づいて紙幣2の真偽を識別することができる。
【0082】
従来装置のようにホログラムを機械識別に利用できない場合、例えば、ホログラムが剥がされた真の紙幣2が機械識別する装置を欺いて使用され、さらに、真の紙幣2から剥がしたホログラムを紙幣2のコピーに貼り付けた偽の紙幣が人の目を欺いて使用される可能性がある。偽造防止構造体1を
図6又は
図7に示す構造とすることで、真偽識別装置170は、偽造防止構造体1が剥がされた真の紙幣2を検出することができる。また、真偽識別装置170は、偽造防止構造体1を貼り付けた偽の紙幣も検出することができる。真偽識別装置170、又は真偽識別装置170を備える紙幣処理装置100を利用して紙幣の真偽を識別することにより、偽造された紙幣の使用を防ぐことができる。
【0083】
ここまで、1種類の赤外光を利用して赤外光透過画像を取得する例を説明したが、波長の異なる複数種類の赤外光を利用する態様であってもよい。
図9は、波長の異なる2種類の赤外光を利用する例を説明するための模式図である。
図9は、第1層10を構成する2つの赤外光透過領域10b、10cがそれぞれ異なる波長の赤外光を透過する点が、
図1に示す例と異なっている。
【0084】
例えば、
図9(a)に示す赤外光透過領域10bは、第1波長の赤外光を透過するが、第2波長の赤外光を透過しない領域とする。一方、赤外光透過領域10cは、第1波長の赤外光を透過せず、第2波長の赤外光を透過する領域とする。例えば、各領域を形成するインクの種類を変更することにより、このように透過する波長域が異なる複数種類の領域を実現することができる。この場合、偽造防止構造体1に第1波長の赤外光を照射すると、
図9(b)左側に示す赤外光透過画像が得られる。また、偽造防止構造体1に、第2波長の赤外光を照射すると、
図9(b)左側に示す赤外光透過画像が得られる。
【0085】
また、例えば、
図9(a)に示す赤外光透過領域10bは、第1波長の赤外光及び第2波長の赤外光の両方を透過する領域とする。一方、赤外光透過領域10cは、第2波長の赤外光のみを透過する領域とする。この場合、偽造防止構造体1に第1波長の赤外光を照射すると、
図9(c)左側に示す赤外光透過画像が得られる。また、偽造防止構造体1に第2波長の赤外光を照射すると、
図9右側に示す赤外光透過画像が得られる。
【0086】
このように、偽造防止構造体1を、波長の異なる複数種類の赤外光それぞれを照射した際に、異なる透過画像が得られる構造とすることで、偽造防止構造体1による偽造防止の効果をさらに高めることができる。
【0087】
図4(a)に示す光源180を、波長の異なる複数種類の赤外光を照射する構成とすることにより、真偽識別装置170aは、
図9(b)、(c)に示した複数種類の赤外光透過画像を取得することができる。同様に、
図4(b)に示す赤外光光源182を、波長の異なる複数種類の赤外光を照射する構成とすることにより、真偽識別装置170bは、
図9(b)、(c)に示した複数種類の赤外光透過画像を取得することができる。真偽識別装置170は、各波長の赤外光を照射して得られた複数種類の赤外光透過画像を、それぞれ予め準備された基準データと比較することにより、紙幣の真偽を識別することができる。また、紙幣処理装置100は、真偽識別装置170による識別結果に基づいて、紙幣を処理することができる。
【0088】
本実施形態では、偽造防止構造体1が2層から成る態様を示したが、上述した偽造防止構造体1の機能を実現することができれば、偽造防止構造体1を構成する層の数は特に限定されない。例えば、
図1(b)に示した偽造防止構造体1の第1層10は、可視光を透過せず、赤外光透過時に所定模様を示す層である。この第1層10を、可視光を透過しない層と、赤外光透過時に所定模様を示す層とに分け、偽造防止構造体1を、これら2つの層に第2層20を加えた3層構造とする態様であってもよい。また、例えば、
図5(a)に示した偽造防止構造体1の第2層20は、可視光を透過せず、可視光下で所定模様を示す層である。この第2層20を、可視光を透過する透明フィルムに所定模様を印刷した層と、可視光を透過しない層とに分けて、偽造防止構造体1を、これら2つの層に第1層10を加えた3層構造とする態様であってもよい。
【0089】
本実施形態では、説明を簡単にするため、偽造防止構造体1を構成する最小限の構成を示したが、上述した偽造防止構造体1の機能を実現することができれば、偽造防止構造体1が別の層を有する態様であってもよい。例えば、第1層10と第2層20との間に、接着層や保護層を設ける態様であってもよい。また、例えば、第2層20の上に保護層を設ける態様であってもよい。
【0090】
本実施形態では、説明を簡単にするため、光が各層を透過する又は透過しないと記載したが、これは光の透過率を100%又は0%に限定するものではない。光を透過する領域とは、光を透過しないとした領域に比べて光の透過率が高い領域を言うもので、光を透過しないとした領域の透過率が0%でなくてもよいし、光を透過するとした領域の透過率が100%でなくてもよい。例えば、光の透過率が異なる2種類の領域のうち、透過率が高い領域を光を透過する領域とし、透過率が低い領域を光を透過しない領域とするものである。具体的には、
図3及び
図6~9に示したように複数種類の画像を得ることができれば、透過率の値は特に限定されない。
図1~3の例では、赤外光不透過領域10aと赤外光透過領域10bとで赤外光の透過率が異なり、
図3に示した赤外光透過画像11で
図1(d)に示した模様を確認することができれば、赤外光不透過領域10aの透過率が0%でなくてもよいし、赤外光透過領域10bの透過率が100%でなくてもよい。言い換えれば、赤外光透過画像11上で赤外光不透過領域10aと赤外光透過領域10bとがコントラスト差を示す程度に、これら2種類の領域の赤外光透過率が異なっていればよい。
図6~9の赤外光不透過領域と赤外光透過領域についても同様である。
【0091】
上述したように、本実施形態に係る偽造防止構造体1によれば、可視光下で確認される反射画像と、可視光下で確認される透過画像と、非可視光下で確認される透過画像とが、それぞれ異なる画像内容となる。これを利用して、紙葉類が、すなわち紙葉類に付された偽造防止構造体1が、本物であるか否かを目視確認することもできるし、機械識別によって真偽を識別することもできる。例えば、偽造防止構造体1がホログラムを含む場合も、非可視光透過画像を利用することにより、機械識別による真偽識別を正確に行うことができる。ホログラムによる偽造防止の効果に加えて、安定した機械識別を可能とすることで、従来に比べて紙葉類に係るセキュリティ性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、本発明に係る偽造防止構造体、紙葉類、真偽識別装置、真偽識別方法及び紙葉類処理装置は、偽造防止構造体を付した紙葉類の偽造を防止すると共に、該偽造防止構造体を付した紙葉類の真偽を正確に機械識別するために有用である。
【符号の説明】
【0093】
1 偽造防止構造体
2 紙幣
10、210 第1層
10a、210a 赤外光不透過領域
10b、10c、210b 赤外光透過領域
20、220 第2層
100 紙幣処理装置
110 投入口
120 搬送部
130 排出口
140 収納部
150 制御部
160 操作表示部
170(170a、170b) 真偽識別装置
180 光源
181 可視光光源
182 赤外光光源
191 反射用センサ
192 透過用センサ
193 センサ
200 制御部