(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】成分分析方法及び成分分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/447 20060101AFI20220610BHJP
【FI】
G01N27/447 331K
(21)【出願番号】P 2018155960
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(72)【発明者】
【氏名】吉田 迅
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-134556(JP,A)
【文献】実開平01-112458(JP,U)
【文献】特開2006-177980(JP,A)
【文献】特開2014-211393(JP,A)
【文献】特開2018-072336(JP,A)
【文献】実開昭62-084754(JP,U)
【文献】国際公開第2015/056329(WO,A1)
【文献】特開昭56-150342(JP,A)
【文献】特開昭63-210769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447,
G01N 30/86,
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に連続的に導入された試料溶液を前記流路内で分離し、経時的に前記流路の測定位置において前記試料溶液を光学的に測定して光学測定値を得る測定工程と、
前記光学測定値に基づき、試料に含まれる複数の成分を分析する分析工程と、を備える成分分析方法であって、
前記分析工程は、
前記光学測定値を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する元波形取得工程と、
前記元波形を前記時間軸と直交する前記光学測定値の軸に沿って微分して得られる波形である測定値微分波形を取得する測定値微分工程と、
前記測定値微分波形のピークトップに対応する光学測定値を前記複数の成分どうしの間の分離境界とする測定値境界決定工程と、
を含む成分分析方法。
【請求項2】
前記分析工程は、
前記元波形を前記時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する時間微分工程と、
前記時間微分波形について、前記分離境界に対応する時点を積分境界として、隣接する積分境界を両端とする積分区間について前記時間微分波形を積分して得られた値を、当該積分区間に対応する前記成分の、前記試料における相対的な含有量として算定する積分定量工程と、
をさらに含む、請求項1記載の成分分析方法。
【請求項3】
前記分析工程は、前記光学測定値の軸に沿って隣接する前記分離境界を両端とする区間の距離を、当該区間に対応する前記成分の、前記試料における相対的な含有量として算定する変位定量工程をさらに含む、請求項1記載の成分分析方法。
【請求項4】
前記流路としてのキャピラリ管に連続的に導入された前記試料溶液に電圧を印加して前記試料溶液を分離するキャピラリ電気泳動法によって前記光学測定値が得られる、請求項1から
3までのいずれかに記載の成分分析方法。
【請求項5】
試料溶液が連続的に導入される流路と、
前記流路内で分離された前記試料溶液を経時的に前記流路の測定位置において光学的に測定して光学測定値を得る測定部と、
前記光学測定値に基づき試料に含まれる複数の成分を分析する分析部と、を備える成分分析装置であって、
前記分析部は、
前記光学測定値を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する元波形取得部と、
前記元波形を前記時間軸と直交する前記光学測定値の軸に沿って微分して得られる波形である測定値微分波形を取得する測定値微分部と、
前記測定値微分波形のピークトップに対応する光学測定値を前記複数の成分どうしの間の分離境界とする測定値境界決定部と、
を有する成分分析装置。
【請求項6】
前記分析部は、
前記元波形を前記時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する時間微分部と、
前記時間微分波形について、前記分離境界に対応する時点を積分境界として、隣接する積分境界を両端とする積分区間について前記時間微分波形を積分して得られた値を、当該積分区間に対応する前記成分の、前記試料における相対的な含有量として算定する積分定量部と、
をさらに有する、請求項
5記載の成分分析装置。
【請求項7】
前記分析部は、前記光学測定値の軸に沿って隣接する前記分離境界を両端とする区間の距離を、当該区間に対応する前記成分の、前記試料における相対的な含有量として算定する変位定量部をさらに有する、請求項
5記載の成分分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、連続試料導入を用いた成分分析方法及び成分分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャピラリ電気泳動法などの連続試料導入を用いた成分分析システムにおいて、検出器で取得した吸光度などの検出データを縦軸に取り、時間を横軸に取って得られた曲線を元波形として作成し、この元波形を時間について微分して得られたエレクトロフェログラムなどの微分波形を用いて成分分析を行う技術がある。
【0003】
微分波形において現れる各ピークは導入された試料中に含有される各成分に対応する。また、各ピークのトップが認められた時間の差異によって、成分を同定することができる。さらに、各ピークが微分波形中で占める面積は当該成分の試料中の含有量の指標となる。たとえば、血液を試料とした連続試料導入によるヘモグロビン測定システムの微分波形は、下記特許文献1に示されるような形状となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャピラリ電気泳動法のような連続試料導入による成分分析システムにおいては、上記したように、吸光度曲線を時間軸に沿って微分して得られた微分波形において認められるピークによって成分を同定し、当該ピークの部分が微分波形中で占める面積によって当該成分の相対的な定量を行っていた。その際、ピーク間に生ずる谷部分(「ボトム」と称する。)を当該ピーク間の境界とすることが多いが、そのボトムが不明瞭なことがしばしばあった。特に、2つのピークが融合した際には、当該2つのピークのうちの低い方が高い方のピークに吸収されて、両ピークを識別することが困難となる場合があり、このような場合には、ボトムを特定することが困難ないし不可能であった。
【0006】
本発明の実施態様は、連続試料導入を用いた成分分析システムにおいて、微分波形では2つのピーク間の境界を明瞭に定めることが困難な場合であっても、その境界を明瞭に定めることを可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様では、流路に連続的に導入された試料溶液を前記流路内で分離し、経時的に前記流路の測定位置において前記試料溶液を光学的に測定して光学測定値を得る測定工程と、前記光学測定値に基づき、試料に含まれる複数の成分を分析する分析工程と、を備える成分分析方法であって、前記分析工程は、前記光学測定値を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する元波形取得工程と、前記元波形を前記時間軸と直交する前記光学測定値の軸に沿って微分して得られる波形である測定値微分波形を取得する測定値微分工程と、前記測定値微分波形のピークトップに対応する光学測定値を前記複数の成分どうしの間の分離境界とする測定値境界決定工程と、を含む。
【0008】
本開示の第2の態様では、第1の態様において、前記分析工程は、前記元波形を前記時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する時間微分工程と、前記時間微分波形について、前記分離境界に対応する時点を積分境界として、隣接する積分境界を両端とする積分区間について前記時間微分波形を積分して得られた値を、当該積分区間に対応する前記成分の、前記試料における相対的な含有量として算定する積分定量工程と、をさらに含む。
【0009】
本開示の第3の態様では、第1の態様において、前記分析工程は、前記光学測定値の軸に沿って隣接する前記分離境界を両端とする区間の距離を、当該区間に対応する前記成分の、前記試料における相対的な含有量として算定する変位定量工程をさらに含む。
【0010】
本開示の第4の態様では、流路に連続的に導入された試料溶液を前記流路内で分離し、経時的に前記流路の測定位置において前記試料溶液を測定して光学測定値を得る測定工程と、前記光学測定値に基づき、試料に含まれる複数の成分を分析する分析工程と、を備える成分分析方法であって、前記分析工程は、前記光学測定値を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する元波形取得工程と、前記元波形を前記時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する時間微分工程と、前記時間微分波形の逆数を前記時間軸に沿ってプロットした逆微分波形を取得する逆微分工程と、前記逆微分波形のピークトップに対応する時点を前記複数の成分どうしの間の分離境界とする時間境界決定工程と、を含む。
【0011】
本開示の第5の態様では、第4の態様において、前記分析工程は、前記時間微分波形について、前記分離境界に対応する時点を積分境界として、隣接する積分境界を両端とする積分区間について前記時間微分波形を積分して得られた値を、当該積分区間に対応する前記成分の、前記試料における相対的な含有量として算定する積分定量工程と、をさらに含む。
【0012】
本開示の第6の態様では、第1から第5までのいずれかの態様において、前記流路としてのキャピラリ管に連続的に導入された前記試料溶液に電圧を印加して前記試料溶液を分離するキャピラリ電気泳動法によって前記光学測定値が得られる。
【0013】
本開示の第7の態様では、試料溶液が連続的に導入される流路と、前記流路内で分離された前記試料溶液を経時的に前記流路の測定位置において光学的に測定して光学測定値を得る測定部と、前記光学測定値に基づき試料に含まれる複数の成分を分析する分析部と、を備える成分分析装置であって、前記分析部は、前記光学測定値を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する元波形取得部と、前記元波形を前記時間軸と直交する前記光学測定値の軸に沿って微分して得られる波形である測定値微分波形を取得する測定値微分部と、前記測定値微分波形のピークトップに対応する光学測定値を前記複数の成分どうしの間の分離境界とする測定値境界決定部と、を有する。
【0014】
本開示の第8の態様では、第7の態様において、前記分析部は、前記元波形を前記時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する時間微分部と、前記時間微分波形について、前記分離境界に対応する時点を積分境界として、隣接する積分境界を両端とする積分区間について前記時間微分波形を積分して得られた値を、当該積分区間に対応する前記成分の、前記試料における相対的な含有量として算定する積分定量部と、をさらに有する。
【0015】
本開示の第9の態様では、第7の態様において、前記分析部は、前記光学測定値の軸に沿って隣接する前記分離境界を両端とする区間の距離を、当該区間に対応する前記成分の、前記試料における相対的な含有量として算定する変位定量部をさらに有する。
【0016】
本開示の第10の態様では、試料溶液が連続的に導入される流路と、前記流路内で分離された前記試料溶液を経時的に前記流路の測定位置において光学的に測定して光学測定値を得る測定部と、前記光学測定値に基づき試料に含まれる複数の成分を分析する分析部と、を備える成分分析装置であって、前記分析部は、前記光学測定値を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する元波形取得部と、前記元波形を前記時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する時間微分部と、前記時間微分波形の逆数を前記時間軸に沿ってプロットした逆微分波形を取得する逆微分部と、前記逆微分波形のピークトップに対応する時点を前記複数の成分どうしの間の分離境界とする時間境界決定部と、を有する。
【0017】
本開示の第11の態様の成分分析装置は、第10の態様において、前記分析部は、前記時間微分波形について、前記分離境界に対応する時点を積分境界として、隣接する積分境界を両端とする積分区間について前記時間微分波形を積分して得られた値を、当該積分区間に対応する前記成分の、前記試料における相対的な含有量として算定する積分定量部と、をさらに有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施態様では、連続試料導入を用いた成分分析システムにおいて、微分波形では2つのピーク間の境界を明瞭に定めることが困難な場合であっても、その境界を明瞭に定めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施態様の成分分析方法を実行するのに使用することができる成分分析システムを示すシステム概略図である。
【
図2】
図1の分析システムに用いられる分析チップを示す平面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【
図4】制御部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】成分分析装置の機能構成を表すブロック図である。
【
図6】第1の態様における分析部の機能構成を表すブロック図である。
【
図7】第1の態様における成分分析方法の概要を表すフローチャートである。
【
図9】
図8の元波形に対する時間微分波形を破線にて示す。
【
図10】
図9において元波形に対する測定値微分波形を点線にて付加したものを示す。
【
図11】第2の態様における分析部の機能構成を表すブロック図である。
【
図12】第2の態様における成分分析方法の概要を表すフローチャートである。
【
図13】第3の態様における分析部の機能構成を表すブロック図である。
【
図14】第3の態様における成分分析方法の概要を表すフローチャートである。
【
図15】
図8の元波形に対する測定値微分波形を点線にて示す。
【
図16】第4の態様における分析部の機能構成を表すブロック図である。
【
図17】第4の態様における成分分析方法の概要を表すフローチャートである。
【
図18】
図9において時間微分波形に対する逆微分波形を点線にて付加したものを示す。
【
図19】第5の態様における分析部の機能構成を表すブロック図である。
【
図20】第5の態様における成分分析方法の概要を表すフローチャートである。
【
図21】時間微分工程で得られた時間微分波形について、測定時の環境温度の高低及び検体の濃度の高低の影響を示したものである。
図21(A)は環境温度23℃かつ低濃度試料の場合を示す。
図21(B)は環境温度23℃かつ高濃度試料の場合を示す。
図21(C)は環境温度8℃かつ低濃度試料の場合を示す。
図21(D)は環境温度8℃かつ高濃度試料の場合を示す。
【
図22】時間微分工程で得られた時間微分波形について、測定時の環境温度の高低及び検体の濃度の高低の影響を示したものである。
図22(A)は環境温度23℃かつ低濃度試料の場合を示す。
図22(B)は環境温度23℃かつ高濃度試料の場合を示す。
図22(C)は環境温度8℃かつ低濃度試料の場合を示す。
図22(D)は環境温度8℃かつ高濃度試料の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施態様を、適宜図面を参照しつつ説明する。
【0021】
<成分分析システム>
図1は、本実施態様に係る成分分析方法を実行するのに使用することができる成分分析システムA1の概略構成を示している。成分分析システムA1は、成分分析装置1及び分析チップ2を備えて構成されている。成分分析システムA1は、試料Saを対象としてキャピラリ電気泳動法による分析方法を実行するシステムである。試料Saとしては、キャピラリ電気泳動法で分析可能な成分を含み、かつ、そのような溶媒に溶解可能なものであれば、液体、固体又は気体等その態様は問わないが、本実施態様においては、人体から採取された血液を例として説明する。
【0022】
試料Saに含まれる成分のうち分析の対象となるものとしては、ヘモグロビン(Hb)、アルブミン(Alb)、グロブリン(α1、α2、β、γグロブリン)、フィブリノーゲン等が挙げられる。上記ヘモグロビンとしては、たとえば、正常ヘモグロビン(HbA)、変異ヘモグロビン(HbA1c、HbC、HbD、HbE、HbS等)、胎児ヘモグロビン(HbF)等の複数のヘモグロビン種が挙げられる。これらの成分は、構成要素であるアミノ酸の変異が蛋白分子に電気的に反映されやすいため、キャピラリ電気泳動法による分析には好適である。本実施形態に係る成分分析システムA1では、これら複数のヘモグロビン種という、同種の蛋白質の変異体を複数の成分として、これら複数の成分どうしの間の分離境界を定めるものである。
【0023】
なお、分析対象となる成分によっては、試料を適当な試薬で事前処理したり、別途の方法(たとえば、クロマトグラフィ法)によって予備的な分離処理をしておくこととしてもよい。
【0024】
分析チップ2は、試料Saを保持し、かつ成分分析装置1に装填された状態で試料Saを対象とした分析の場を提供するものである。本実施態様においては、分析チップ2は、1回の分析を終えた後に廃棄されることが意図された、いわゆるディスポーザブルタイプの分析チップとして構成されている。
図2及び
図3に示すように、分析チップ2は、本体21、混合槽22、導入槽23、フィルタ24、排出槽25、電極槽26、流路27及び連絡流路28を備えている。
図2は、分析チップ2の平面図であり、
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面図である。なお、分析チップ2は、ディスポーザブルタイプのものに限定されず、複数回の分析に用いられるものであってもよい。また、本実施態様の成分分析システムは、成分分析装置1に装填される別体の分析チップ2を備える構成に限定されず、分析チップ2と同様の機能を果たす機能部位が成分分析装置1に組み込まれた構成であってもよい。
【0025】
本体21は、分析チップ2の土台となるものであり、その材質は特に限定されず、たとえば、ガラス、溶融シリカ、プラスチック等があげられる。本実施態様においては、本体21は、
図3における上側部分2Aと下側部分2Bとが別体に形成されており、これらが互いに結合された構成である。なお、これに限らず、たとえば、本体21を一体的に形成してもよい。
【0026】
混合槽22は、試料Saと希釈液Ldとが混合される箇所である。混合槽22は、たとえば、本体21の上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。導入槽23は、混合槽22において試料Saと希釈液Ldとが混合されて得られた試料溶液が導入される槽である。導入槽23は、たとえば、本体21の上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。
【0027】
フィルタ24は、導入槽23への導入経路の一例である導入槽23の開口部に設けられている。フィルタ24の具体的構成は限定されず、好適な例として、たとえばセルロースアセテート膜フィルタ(ADVANTEC社製、孔径0.45μm)が挙げられる。
【0028】
排出槽25は、流路27の下流側に位置する槽である。排出槽25は、たとえば、本体21の上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。電極槽26は、キャピラリ電気泳動法において、電極31が挿入される槽である。電極槽26は、たとえば、本体21の上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。連絡流路28は、導入槽23と電極槽26とを繋いでおり、導入槽23と電極槽26との導通経路を構成している。
【0029】
流路27は、導入槽23と排出槽25とを繋ぐキャピラリ管として形成され、電気泳動法における電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)が生じる場である。流路27は、たとえば本体21の下側部分2Bに形成された溝として構成されている。なお、本体21には、流路27への光の照射及び流路27を透過した光の出射を促進するための凹部等が適宜形成されていてもよい。流路27のサイズは特に限定されないが、その一例を挙げると、その幅が25μm~100μm、その深さが25μm~100μm、その長さが5mm~150mmである。分析チップ2全体のサイズは、流路27のサイズ並びに混合槽22、導入槽23、排出槽25及び電極槽26のサイズや配置等に応じて適宜設定される。
【0030】
なお、上記構成の分析チップ2は一例であって、キャピラリ電気泳動法による成分分析が可能な構成の分析チップを適宜採用することができる。
【0031】
成分分析装置1は、試料Saが点着された分析チップ2が装填された状態で、試料Saを対象とした分析処理を行う。成分分析装置1は、電極31、電極32、光源41、光学フィルタ42、レンズ43、スリット44、検出器45、分注器6、ポンプ61、希釈液槽71、泳動液槽72及び制御部8を備えている。なお、光源41、光学フィルタ42、レンズ43及び検出器45は、本実施態様でいう測定部40を構成する。
【0032】
電極31及び電極32は、キャピラリ電気泳動法において流路27に所定の電圧を印加するためのものである。電極31は、分析チップ2の電極槽26に挿入されるものであり、電極32は、分析チップ2の排出槽25に挿入されるものである。電極31及び電極32に印加される電圧は特に限定されないが、たとえば0.5kV~20kVである。
【0033】
光源41は、キャピラリ電気泳動法において光学測定値としての吸光度を測定するための光を発する部位である。光源41は、たとえば所定の波長域の光を出射するLEDチップを具備する。光学フィルタ42は、光源41からの光のうち所定の波長の光を減衰させつつ、その余の波長の光を透過させるものである。レンズ43は、光学フィルタ42を透過した光を分析チップ2の流路27の分析箇所へと集光するためのものである。スリット44は、レンズ43によって集光された光のうち、散乱などを引き起こしうる余分な光を除去するためのものである。
【0034】
検出器45は、分析チップ2の流路27を透過してきた光源41からの光を受光するものであり、たとえばフォトダイオードやフォトICなどを具備して構成されている。
【0035】
このように、光源41から発した光が検出器45へと至る経路が光路である。そして、当該光路が流路27と交わる位置である測定位置27Aでその流路27を流れる溶液(すなわち、試料溶液及び泳動液のいずれか又はその混合溶液)について光学測定値が測定される。すなわち、流路27における測定位置27Aにおいて、測定部40が試料溶液の光学測定値を測定する。この光学測定値としては、たとえば吸光度が挙げられる。吸光度は、該光路の光が流路27を流れる溶液によって吸収された度合いを表すものであり、入射光強度と透過光強度の比の常用対数の値の絶対値を表したものである。この場合、検出器45としては汎用的な分光光度計を利用することができる。なお、吸光度を使用せずとも、単純に透過光強度の値そのものなど、光学測定値であれば本発明に利用することができる。以下においては、光学測定値として吸光度を使用した場合を例に説明する。
【0036】
分注器6は、所望の量の希釈液Ldや泳動液Lm及び試料溶液を分注するものであり、たとえばノズルを含む。分注器6は図示しない駆動機構によって成分分析装置1内の複数の所定位置を自在に移動可能である。ポンプ61は、分注器6への吸引源及び吐出源である。また、ポンプ61は、成分分析装置1に設けられた図示しないポートの吸引源及び吐出源として用いてもよい。これらのポートは、泳動液Lmの充填などに用いられる。また、ポンプ61とは別の専用のポンプを備えてもよい。
【0037】
希釈液槽71は、希釈液Ldを貯蔵するための槽である。希釈液槽71は、成分分析装置1に恒久的に設置された槽でもよいし、所定量の希釈液Ldが封入された容器が成分分析装置1に装填されたものであってもよい。泳動液槽72は、泳動液Lmを貯蔵するための槽である。泳動液槽72は、成分分析装置1に恒久的に設置された槽でもよいし、所定量の泳動液Lmが封入された容器が成分分析装置1に装填されたものであってもよい。
【0038】
希釈液Ldは、試料Saと混合されることにより、試料溶液を生成するためのものである。希釈液Ldの主剤は特に限定されず、水、生理食塩水が挙げられ、好ましい例として後述する泳動液Lmと類似の成分の液体が挙げられる。また、希釈液Ldは、上記主剤の他に、必要に応じて添加物が添加されてもよい。
【0039】
泳動液Lmは、電気泳動法による分析工程S20において、排出槽25及び流路27に充填され、電気泳動法における電気浸透流を生じさせる媒体である。泳動液Lmは、特に制限されないが、酸を用いたものが望ましい。上記酸は、たとえば、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、フタル酸、マロン酸、リンゴ酸がある。また、泳動液Lmは、弱塩基を含むことが好ましい。上記弱塩基としては、たとえば、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリス等がある。泳動液LmのpHは、たとえば、pH4.5~6の範囲である。泳動液Lmのバッファーの種類は、MES、ADA、ACES、BES、MOPS、TES、HEPES等がある。また、泳動液Lmにも、希釈液Ldの説明で述べたのと同様に、必要に応じて添加物が添加されてもよい。
【0040】
制御部8は、成分分析装置1における各部を制御するものである。制御部8は、
図4のハードウェア構成に示すように、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83及びストレージ84を有する。各構成は、バス89を介して相互に通信可能に接続されている。
【0041】
CPU81は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU81は、ROM82又はストレージ84からプログラムを読み出し、RAM83を作業領域としてプログラムを実行する。CPU81は、ROM82又はストレージ84に記録されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
【0042】
ROM82は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM83は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ84は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)又はフラッシュメモリにより構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。本実施態様では、ROM82又はストレージ84には、本実施態様に係る成分分析方法を実行するためのプログラムや各種データが格納されている。
【0043】
成分分析装置1は、本実施態様に係る成分分析方法を実行する際に、上記のハードウェア資源及び前記した各構成を用いて
図5に示すような各種の機能を実現する。それらの機能には、前記した測定部40の他、この測定部40によって経時的に前記試料溶液を光学的に測定して得られた光学測定値に基づき試料Saに含まれる複数の成分を分析する分析部800も含まれるが、これについては後述する。
【0044】
<第1の態様>
本開示の第1の態様における成分分析方法は、流路27に連続的に導入された試料溶液をその流路27内で分離し、経時的にその流路27の測定位置27Aにおいて試料溶液を光学的に測定して光学測定値を得る測定工程S10と、その光学測定値に基づき、試料Saに含まれる複数の成分を分析する分析工程S20と、を備えるとともに、その分析工程S20は、光学測定値を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する元波形取得工程S21と、この元波形を時間軸と直交する光学測定値の軸に沿って微分して得られる波形である測定値微分波形を取得する測定値微分工程S23と、この測定値微分波形のピークトップに対応する光学測定値を複数の成分どうしの間の分離境界とする測定値境界決定工程S24と、を含む。
【0045】
本態様における成分分析装置1は、試料溶液が連続的に導入される流路27と、その流路27内で分離された試料溶液を経時的にその流路27の測定位置27Aにおいて光学的に測定して光学測定値を得る測定部40と、その光学測定値に基づき試料Saに含まれる複数の成分を分析する分析部800と、を備えるとともに、その分析部800は、光学測定値を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する元波形取得部801と、この元波形を時間軸と直交する光学測定値の軸に沿って微分して得られる波形である測定値微分波形を取得する測定値微分部803と、この測定値微分波形のピークトップに対応する光学測定値を前記複数の成分どうしの間の分離境界とする測定値境界決定部804と、を有する。
【0046】
本態様における分析部800の機能構成は、
図6に示すとおりである。以下、本態様における成分分析方法について、
図7のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0047】
図7に示す測定工程S10では、試料溶液が連続的に流路27に導入され、その流路27において試料溶液が電圧の印加により分離され、その流路27の途中に設けられている測定位置27Aに達したところで測定部40により光学測定値が得られる。具体的には、流路27の上流及び下流にそれぞれ電極31及び電極32が装着され、その間に電圧が印加されて試料溶液がいわゆるキャピラリ電気泳動法による電気泳動に供される。
【0048】
たとえば、分析対象の成分が上記したようなヘモグロビンである場合、その分子表面は負電荷を帯びているので、流路27の上流に電極31として陰極を、下流に電極32として陽極を配置することで、分析対象の成分は陽極である電極32に向かって泳動される。その際、分子表面の荷電状態によって、電気的な泳動速度が異なってくる。すなわち、分子表面の負電荷が強いほど、泳動速度は高くなる。したがって、試料溶液が流路27に導入された段階で、泳動速度の高い成分は、より速く上記した測定位置27Aに到達することになる。
【0049】
そして、泳動速度の低い成分が測定位置27Aに到達した時点では、後から導入された試料溶液に由来する、泳動速度の高い成分も同時に測定位置27Aに到達することになる。すなわち、流路27においては、泳動速度の高い成分が先に測定位置27Aに到達すると、試料溶液が流路27に導入され続ける限り、当該成分は持続的に到達し続けることになる。また、泳動速度がより低い成分は遅れて測定位置27Aに到達するが、一旦測定位置27Aに到達すると、試料溶液が流路27に導入され続ける限り、やはり当該成分は持続的に測定位置27Aに到達し続けることになる。
【0050】
換言すると、測定位置27Aにおいては、泳動速度の高い成分が先に到達し、以後は泳動速度のより低い成分が累積的に到達することになる。よって、測定位置27Aにおいて測定部40によって測定された試料溶液の光学測定値としての吸光度は、経時的に累積的に単調増加していくことになる。
【0051】
図6に示す分析部800のうちの元波形取得部801は、
図7に示す分析工程S20のうちの元波形取得工程S21において、光学測定値としての吸光度を一方の軸(たとえば、Y軸)とし、他方の時間軸(たとえば、X軸)と対比させた二次元平面上にプロットし、元波形として取得する。この元波形は、たとえば
図8に示すような実線グラフとして表される。なお、本態様における光学測定値は、二次元平面上にプロットすることが可能なデータとして取得されていればよく、このようなデータを基に実際にグラフとして描画されることは必須ではない。このことは、以下で言及する他の態様においても同様である。
ここで、元波形は、時間を変数として光学測定値(たとえば、吸光度)をプロットした関数、ということもできる。
【0052】
この元波形を時間軸に沿って見た場合、
図8中の実線矢印で示すような勾配の大きい部分は、ある成分が測定位置27Aに初めて到達したことによる光学測定値の増加に由来するものである。また、破線矢印で示すような勾配の小さい部分は、次の成分がまだ測定位置27Aに到達していないことを示すものである。すなわち、元波形で勾配が大きくなっている部分は、試料溶液中の成分が測定位置27Aに到達していることを示すものである。このような元波形における勾配の大きい部分は、
図9中の破線グラフに示すような、元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形(「時間微分波形」と称する。)において現れるピーク波形として表される。これらのピーク波形は、各成分に由来するものとして特定される。なお、時間軸においては、より左側にあるピーク波形に対応する成分の方が、より右側にあるピーク波形に対応する成分よりも泳動速度が高いことを表す。
【0053】
ここで、時間微分波形においてピーク波形が複数ある場合、隣接するピーク波形は、その間に位置する谷部分であるボトムBで区画される。ピーク波形のピークトップTは、時間微分波形における極大値であり、元波形では、この極大値に対応して傾きが極大になる箇所に相当する。一方、ボトムBについては時間微分波形における極小値であり、元波形では傾きが極小となる。換言すると、元波形において、傾きが急な部分はピークトップTに相当し、また、傾きがなだらかな部分はボトムBに相当する。
【0054】
一方、
図8に示す元波形を光学測定値の軸(Y軸)から見た場合、ピークトップTに相当する部分は傾きはなだらかになり、また、ボトムBに相当する部分の傾きは急になる。
【0055】
この点に着目したのが、
図7に示す分析工程S20のうちの測定値微分工程S23である。すなわち、
図6に示す分析部800のうちの測定値微分部803は、この測定値微分工程S23において、元波形を光学測定値の軸に沿って微分し、
図10中の点線グラフに示すような測定値微分波形を取得する。
ここで、測定値微分波形は、光学測定値を変数として元波形の時間を微分して得られた関数、ということもできる。
【0056】
この
図10に示すように、測定値微分波形におけるピークトップT
1′~T
6′は、時間微分波形におけるボトムB
1~B
6にそれぞれ対応するものである。すなわち、測定値微分波形は、時間微分波形に対して、ピークトップとボトムとが入れ替わって表される。換言すると、時間微分波形におけるボトムB
1~B
6が、それぞれ測定値微分波形におけるピークトップT
1′~T
6′として明確に表現される。
【0057】
そして、
図6に示す分析部800のうちの測定値境界決定部804が、
図7に示す分析工程S20のうちの測定値境界決定工程S24において、このピークトップT
1′~T
6′にそれぞれ対応する光学測定値s
1~s
6を、成分の分離境界と定める。
【0058】
以上述べた第1の態様の構成によって、本来であれば時間微分波形においてピーク波形の両端として識別する必要のあるボトムB1~B6を、測定値微分波形におけるピークトップT1′~T6′としてそれぞれ認識することが可能となる。そして、このピークトップT1′~T6′に対応する光学測定値s1~s6をそれぞれ試料Saに含まれる成分の分離境界とすることができる。
【0059】
なお、測定値微分波形におけるピークトップT
1′~T
6′の取得のためには、時間微分波形を一切参照する必要はないが、上記説明並びに
図9及び
図10において時間微分波形に言及しているのは測定値微分波形におけるピークトップT
1′~T
6′の意義を説明するためであることをここに付言する。
【0060】
<第2の態様>
本開示の第2の態様における成分分析方法は、第1の態様における成分分析方法の構成に加え、分析工程S20は、元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する時間微分工程S22と、時間微分波形について、分離境界に対応する時点を積分境界として、隣接する積分境界を両端とする積分区間について時間微分波形を積分して得られた値を、当該積分区間に対応する成分の、試料Saにおける相対的な含有量として算定する積分定量工程S28と、をさらに含む。
【0061】
本態様における成分分析装置1は、第1の態様における成分分析装置1の構成に加え、分析部800は、元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する時間微分部802と、時間微分波形について、分離境界に対応する時点を積分境界として、隣接する積分境界を両端とする積分区間について時間微分波形を積分して得られた値を、その積分区間に対応する成分の、試料Saにおける相対的な含有量として算定する積分定量部808と、をさらに有する。
【0062】
本態様における分析部800の機能構成は、
図11に示すとおりである。以下、本態様における成分分析方法について、
図12のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0063】
図12に示す測定工程S10については、第1の態様と同様である。
【0064】
図11に示す分析部800のうちの元波形取得部801は、
図12に示す分析工程S20のうちの元波形取得工程S21において、光学測定値としての吸光度を一方の軸(たとえば、Y軸)とし、他方の時間軸(たとえば、X軸)と対比させた二次元平面上にプロットし、元波形として取得する。この元波形は、たとえば
図8に示すような実線グラフとして表される。この元波形取得工程S21については、第1の態様と同様である。
【0065】
次に、
図11に示す分析部800のうち時間微分部802は、
図12に示す分析工程S20のうちの時間微分工程S22において、元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する。この時間微分波形は、
図9及び
図10に示すような破線グラフとして表される。元波形と時間微分波形との関係については、第1の態様で述べたのと同様である。
【0066】
次に、
図11に示す分析部800のうちの測定値微分部803は、
図12に示す分析工程S20のうちの測定値微分工程S23において、元波形を光学測定値の軸に沿って微分し、
図10中の点線グラフに示すような測定値微分波形を取得する。この測定微分波形についても、第1の態様と同様である。
【0067】
次に、
図11に示す分析部800のうちの測定値境界決定部804が、
図12に示す分析工程S20のうちの測定値境界決定工程S24において、
図10中のピークトップT
1′~T
6′にそれぞれ対応する光学測定値s
1~s
6を、成分の分離境界と定める。
【0068】
そして、
図11に示す分析部800のうちの積分定量部808は、
図12に示す分析工程S20のうちの積分定量工程S28において、測定値境界決定工程S24で定められたピークトップT
1′~T
6′にそれぞれ対応する光学測定値s
1~s
6を分離境界として、これにそれぞれ対応する時間微分波形におけるボトムB
1~B
6にそれぞれ対応する時点t
1~t
6を積分境界とする。そして、隣接する積分境界を両端とする積分区間について、時間微分波形を積分し、当該積分区間における時間微分波形が占める面積を算定する。この面積として得られた値は、当該積分区間に対応する成分(すなわち、時間微分波形でピーク波形として認められる成分)の相対的な含有量とみなすことができる。
【0069】
なお、ここで注目すべきは、
図10中のボトムB
3は、時間微分波形では必ずしも明確な極小値としては認められないが、これに対応する測定値微分波形におけるピークトップT
3′はグラフにおけるいわゆる肩ピークとして明確に識別することができる。よってこのボトムB
3に対応する時点t
3を、分離境界s
3に対応する積分境界t
3として明確に定めることができる。そして、この積分境界t
3と隣接する積分境界t
4とを両端とする積分区間で時間微分波形を積分することで、必ずしも明確なピークとしては認められないピーク波形P
3について、相対的な含有量を算定することが可能となっている。もちろん、明確なピークとして認められる他のピーク波形P
1、P
2、P
4及びP
5についても、それぞれt
1~t
2、t
2~t
3、t
4~t
5及びt
5~t
6を積分区間として同様に時間微分波形を積分すればそれぞれの相対的な含有量を算定することが可能である。
【0070】
<第3の態様>
本開示の第3の態様における成分分析方法においては、第1の態様における成分分析方法の構成に加え、分析工程S20は、光学測定値の軸に沿って隣接する分離境界を両端とする区間の距離を、当該区間に対応する成分の、試料Saにおける相対的な含有量として算定する変位定量工程S25をさらに含む。
【0071】
本態様における成分分析装置1は、第1の態様における成分分析装置1の構成に加え、分析部800は、光学測定値の軸に沿って隣接する分離境界を両端とする区間の距離を、その区間に対応する成分の、試料における相対的な含有量として算定する変位定量部805をさらに有する。
【0072】
本態様における分析部800の機能構成は、
図13に示すとおりである。以下、本態様における成分分析方法について、
図14のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0073】
図14に示す測定工程S10については、第1の態様と同様である。
【0074】
図13に示す分析部800のうちの元波形取得部801は、
図14に示す分析工程S20のうちの元波形取得工程S21において、光学測定値としての吸光度を一方の軸(たとえば、Y軸)とし、他方の時間軸(たとえば、X軸)と対比させた二次元平面上にプロットし、元波形として取得する。この元波形は、たとえば
図8に示すような実線グラフとして表される。この元波形取得工程S21については、第1の態様と同様である。
【0075】
次に、
図13に示す分析部800のうちの測定値微分部803は、
図14に示す分析工程S20のうちの測定値微分工程S23において、元波形を光学測定値の軸に沿って微分し、
図15中の点線グラフに示すような測定値微分波形を取得する。この測定微分波形についても、第1の態様と同様である。
【0076】
次に、
図13に示す分析部800のうちの測定値境界決定部804が、
図14に示す分析工程S20のうちの測定値境界決定工程S24において、
図15中のピークトップT
1′~T
6′にそれぞれ対応する光学測定値s
1~s
6を、成分の分離境界と定める。
【0077】
そして、
図13に示す分析部800のうちの変位定量部805は、
図14に示す分析工程S20のうちの変位定量工程S25において、
図15に示すように、時間微分波形を取得することなしに、前記した第1の態様において定められたピークトップT
1′~T
6′にそれぞれ対応する分離境界s
1~s
6でそれぞれ画された区間の距離D
1~D
5をもって、試料Saにおける成分の相対的な含有量として算定する。なお、
図15に示す区間D
1~D
5の距離は、
図10に示すピーク波形P
1~P
5の面積にそれぞれ対応するものである。この変位定量工程S25においては、時間微分波形を参照することは一切不要である。
【0078】
<第4の態様>
本開示の第4の態様における成分分析方法は、流路27に連続的に導入された試料溶液をその流路27内で分離し、経時的にその流路27の測定位置27Aにおいて試料溶液を測定して光学測定値を得る測定工程S10と、その光学測定値に基づき、試料Saに含まれる複数の成分を分析する分析工程S20と、を備えるとともに、その分析工程S20は、光学測定値を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する元波形取得工程S21と、この元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する時間微分工程S22と、この時間微分波形の逆数を時間軸に沿ってプロットした逆微分波形を取得する逆微分工程S26と、この逆微分波形のピークトップに対応する時点を複数の成分どうしの間の分離境界とする時間境界決定工程S27と、を含む。
【0079】
本態様における成分分析装置1は、試料溶液が連続的に導入される流路27と、その流路27内で分離された試料溶液を経時的にその流路27の測定位置27Aにおいて光学的に測定して光学測定値を得る測定部40と、その光学測定値に基づき試料Saに含まれる複数の成分を分析する分析部800と、を備えるとともに、その分析部800は、光学測定値を時間軸に沿って二次元平面上にプロットした元波形として取得する元波形取得部801と、この元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する時間微分部802と、この時間微分波形の逆数を前記時間軸に沿ってプロットした逆微分波形を取得する逆微分部806と、この逆微分波形のピークトップに対応する時点を前記複数の成分どうしの間の分離境界とする時間境界決定部807と、を有する。
【0080】
本態様における分析部800の機能構成は、
図16に示すとおりである。以下、本態様における成分分析方法について、
図17のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0081】
図17に示す測定工程S10については、第1の態様と同様である。
【0082】
図16に示す分析部800のうちの元波形取得部801は、
図17に示す分析工程S20のうちの元波形取得工程S21において、光学測定値としての吸光度を一方の軸(たとえば、Y軸)とし、他方の時間軸(たとえば、X軸)と対比させた二次元平面上にプロットし、元波形として取得する。この元波形は、たとえば
図8に示すような実線グラフとして表される。この元波形取得工程S21については、第1の態様と同様である。
ここで、元波形は、時間を変数として光学測定値(たとえば、吸光度)をプロットした関数、ということもできる。
【0083】
次に、
図16に示す分析部800のうち時間微分部802は、
図17に示す分析工程S20のうちの時間微分工程S22において、元波形を時間軸に沿って微分して得られる波形である時間微分波形を取得する。この時間微分波形は、
図9に示すような破線グラフとして表される。元波形と時間微分波形との関係については、第1の態様で述べたのと同様である。
【0084】
次に、
図16に示す分析部800のうちの逆微分部806は、
図17に示す分析工程S20のうちの逆微分工程S26において、時間微分工程S22で取得された時間微分波形における吸光度の逆数を、時間軸に沿ってプロットして、
図18の点線で示すような逆微分波形を取得する。なお、時間微分波形における吸光度の逆数を、光学測定値の軸を一方の軸とし、時間軸を他方の軸とした二次元平面上にプロットする際には、絶対値としてプロットする必要はなく、時間微分波形との対応が明確になる程度の相対値としてプロットすれば足りる。なお、ここでいう吸光度の逆数についても、二次元平面上にプロットすることが可能なデータとして取得されていればよく、このようなデータを基に実際にグラフとして描画されることは必須ではない。
【0085】
ここで、時間微分波形におけるピークトップとボトムとは、逆微分波形におけるボトムとピークトップにそれぞれ対応するものであることは、前記した第1の態様で述べた測定値微分波形と同様である。よって、
図18に示すように、逆微分波形におけるピークトップT
1″~T
6″は、時間微分波形におけるボトムB
1~B
6にそれぞれ対応するものである。換言すると、時間微分波形におけるボトムB
1~B
6が、それぞれ逆微分波形におけるピークトップT
1″~T
6″として明確に表現される。
【0086】
すなわち、
図16に示す分析部800のうちの時間境界決定部807は、
図17に示す分析工程S20のうちの時間境界決定工程S27において、逆微分波形におけるピークトップT
1″~T
6″にそれぞれ対応する時点t
1~t
6を、成分の分離境界と定める。
【0087】
以上述べた第5の態様の構成によって、本来であれば時間微分波形においてピーク波形の両端として識別する必要のあるボトムB1~B6を、逆微分波形におけるピークトップT1″~T6″としてそれぞれ認識することが可能となる。そして、このピークトップT1″~T6″に対応する時点t1~t6をそれぞれ試料Saに含まれる成分の分離境界とすることができる。
【0088】
<第5の態様>
本開示の第5の態様における成分分析方法は、第4の態様における成分分析方法の構成に加え、分析工程S20は、時間微分波形について、分離境界に対応する時点を積分境界として、隣接する積分境界を両端とする積分区間について時間微分波形を積分して得られた値を、当該積分区間に対応する成分の、試料Saにおける相対的な含有量として算定する積分定量工程S28と、をさらに含む。
【0089】
本態様における成分分析装置1は、第4の態様における成分分析装置1の構成に加え、分析部800は、時間微分波形について、前記分離境界に対応する時点を積分境界として、隣接する積分境界を両端とする積分区間について時間微分波形を積分して得られた値を、その積分区間に対応する成分の、試料Saにおける相対的な含有量として算定する積分定量部808と、をさらに有する。
【0090】
本態様における分析部800の機能構成は、
図19に示すとおりである。以下、本態様における成分分析方法について、
図20のフローチャートを参照しつつ説明する。ただし、
図20に示す測定工程S10並びに分析工程S20のうち元波形取得工程S21、時間微分工程S22、逆微分工程S26及び時間境界決定工程S27については第4の態様と同様である。
【0091】
図20に示す時間境界決定工程S27において、
図18において、第4の態様において定められたピークトップT
1″~T
6″にそれぞれ対応する時点t
1~t
6はそれぞれボトムB
1~B
6に対応する分離境界であり、これらの分離境界としての時点t
1~t
6がそれぞれ積分境界となる。そして、
図19に示す分析部800のうちの積分定量部808は、
図20に示す分析工程S20のうちの積分定量工程S28において、隣接する積分境界を両端とする積分区間について、時間微分波形を積分し、この積分区間における時間微分波形が占める面積を算定する。この面積として得られた値は、当該積分区間に対応する成分(すなわち、時間微分波形でピーク波形として認められる成分)の相対的な含有量とみなすことができる。
【0092】
なお、ここで注目すべきは、
図18中のボトムB
3は、時間微分波形では必ずしも明確な極小値としては認められないが、これに対応する逆微分波形におけるピークトップT
3″はグラフにおけるいわゆる肩ピークとして明確に識別することができる。よってこのボトムB
3に対応する時点t
3を
、積分境界t
3として明確に定めることができる。そして、この積分境界t
3と隣接する積分境界t
4とを両端とする積分区間で時間微分波形を積分することで、必ずしも明確なピークとしては認められないピーク波形P
3について、相対的な含有量を算定することが可能となっている。もちろん、明確なピークとして認められる他のピーク波形P
1、P
2、P
4及びP
5についても、それぞれt
1~t
2、t
2~t
3、t
4~t
5及びt
5~t
6を積分区間として同様に時間微分波形を積分すればそれぞれの相対的な含有量を算定することが可能である。
【0093】
<その他>
なお、本発明の別の実施の態様として、流路に導入される時点で試料溶液が電圧の印加以外の何らかの手段(たとえば、クロマトグラフィ)により分離されているような手法を採用した、前記したキャピラリ管の幅より大きな流路で測定を行う、キャピラリ電気泳動法以外の成分分析方法も挙げられる。
【実施例】
【0094】
以下、ある被験者の血液を試料Saとした場合を例として、測定時の環境温度の高低及び検体の濃度の高低がピーク波形の特定に及ぼす影響に対する本実施態様の効果を示す。
【0095】
図21(A)~
図21(D)は、時間微分工程S22で得られた時間微分波形について、測定時の環境温度の高低及び検体の濃度の高低の影響を示したものである。
図21(A)~図21(D)では、縦軸は吸光度を時間で微分した微分値である。なお、
図21(A)及び
図21(B)においては環境温度23℃であり、
図21(C)及び
図21(D)においては環境温度は8℃であった。また、
図21(A)及び
図21(C)においては試料Saをあらかじめ約3倍に希釈したもの(低濃度試料)を使用し、
図21(B)及び
図21(D)においては無希釈の試料Sa(高濃度試料)を使用した。なお、各図中において、ピークαは、変異ヘモグロビンHbA1cに対応するものであるが、その両端に認められる明瞭なボトムで区画した領域をハッチングにて表示している。
【0096】
図21(A)及び
図21(B)のような常温環境下では、試料Saの濃度の高低にかかわらず、低泳動速度側(すなわち、右側)に隣接するピークβとの境界に当たるボトム部分は明瞭である。
【0097】
ところが、
図21(C)及び
図21(D)のように、環境温度8℃の場合、ピークαとピークβが近接する傾向があり、互いに隣接するピークαとピークβとの境界がやや不明瞭になる。とりわけ、
図21(D)のように高濃度試料の場合、ピークβはピークαに吸収されて判別不能となる。このような状態でピーク波形を単純にその両側の明瞭なボトムによって区分して定量しようとした場合、さらに低泳動速度側にあるピークγとの間を境界とすることになり、ハッチングを施した領域がピークαの含有量とされる。しかしこの領域は実はピークβを含んでいる。よって、高濃度試料を低環境温度で測定した場合、特定のピークに対応する成分の含有量が、実際よりも高く算定されてしまう可能性がある。
【0098】
図22(A)~
図22(D)は、それぞれ
図21(A)~
図21(D)と同じ時間微分波形について、ピークαを、図示しない元波形に基づいた測定値微分工程S23、測定値境界決定工程S24及び積分定量工程S28によって定められた積分境界で区画した領域をハッチングにて表示したものである。
図22(A)~図22(D)では、縦軸は吸光度を時間で微分した微分値である。
【0099】
図22(A)、
図22(B)及び
図22(C)においてピークαとして特定された領域は、それぞれ
図21(A)、
図21(B)及び
図21(C)における当該領域と変わりはない。しかし、
図22(D)においては、ピークαと融合していたピークβとの境界を明確にすることができ、他の図においてピークαとして特定された領域と比較して妥当と思われる含有量を算定することが可能となった。
【0100】
以上、本実施態様によれば、高濃度試料を低環境温度で測定した場合であっても、より正確なピーク波形の特定が可能となり、それによってより正確な成分の定量も可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本願発明は、連続試料導入を用いた成分分析システム、特にキャピラリ電気泳動法による成分分析システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0102】
A1 分析システム
Sa 試料
Ld 希釈液
Lm 泳動液
1 成分分析装置
2 分析チップ
2A 上側部分
2B 下側部分
21 本体
22 混合槽
23 導入槽
24 フィルタ
25 排出槽
26 電極槽
27 流路
27A 測定位置
28 連絡流路
31 電極
32 電極
40 測定部
41 光源
42 光学フィルタ
43 レンズ
44 スリット
45 検出器
6 分注器
61 ポンプ
71 希釈液槽
72 泳動液槽
8 制御部
81 CPU
82 ROM
83 RAM
84 ストレージ
89 バス
800 分析部
801 元波形取得部
802 時間微分部
803 測定値微分部
804 測定値境界決定部
805 変位定量部
806 逆微分部
807 時間境界決定部
808 積分定量部
S10 測定工程
S20 分析工程
S21 元波形取得工程
S22 時間微分工程
S23 測定値微分工程
S24 測定値境界決定工程
S25 変位定量工程
S26 逆微分工程
S27 時間境界決定工程
S28 積分定量工程