(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】o-キシレン吸着性に優れたMFI型ゼオライト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/48 20060101AFI20220610BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20220610BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20220610BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
C01B39/48
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/18 B
(21)【出願番号】P 2018163160
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 理世
(72)【発明者】
【氏名】荻野 智大
(72)【発明者】
【氏名】皆川 円
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/142033(WO,A1)
【文献】特開平02-095435(JP,A)
【文献】特開昭60-176917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/00
B01J 20/00
B01J 29/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO
2/Al
2O
3(モル比)が
1000以上のMFI型ゼオライトであって、XRDで測定して、(002)面でのd値が
6.690Å以下であり、且つ(400)面でのd値が
4.977Å以下の範囲にあることを特徴とするMFI型ゼオライト。
【請求項2】
蒸気法で測定して、分圧(P/P
0)が0.1でのo-キシレン吸着量が
6.0質量%以上である請求項1に記載のMFI型ゼオライト。
【請求項3】
シリカ源とテンプレートを含む結晶化用原料(A)を用意する工程(1);
種晶微粒子をアルカリ水溶液に分散させ、該種晶中のシリカ分の一部を溶出させることにより、高活性種晶(B)を得る種晶活性化工程(2);
前記高活性種晶(B)と前記結晶化用原料(A)を混合して結晶化反応用液(A1)を得る工程(3);
前記結晶化反応用液(A1)を、常圧下、80~99℃の温度に保持してMFI型ゼオライトを生成させる結晶化反応工程(4);
及び
生成した結晶を焼成し、テンプレートを消失させる細孔画定工程(5);
を含むことを特徴とするMFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項4】
前記高活性種晶(B)が、前記種晶微粒子に対して、SAR比(SiO
2/Al
2O
3(モル比)の変化割合)が0.99以下且つ、結晶化度が5~90%の範囲内であり、窒素吸着法で測定した細孔容積比が1.1以上となるようにシリカ分の一部を溶出させた高活性種晶(B)であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記種晶活性化工程において、10質量%濃度以下のアルカリ水溶液を使用する請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記種晶活性化工程において、種晶微粒子が分散されているアルカリ水溶液を、30~90℃の温度に少なくとも0.1時間加熱することにより、該種晶中のシリカ分の一部を溶出させる請求項3~5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
シリカ源とテンプレートを含み、さらにアルミナ源をSiO
2/Al
2O
3(モル比)が160以上となる割合で含む混合原料を、結晶化用原料(A)とする請求項3~6の何れかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記混合原料を60~95℃の熟成温度に維持して熟成を行うことにより、前記結晶化用原料(A)を調製する請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、o-キシレン吸着性に優れたMFI型ゼオライトに関するものであり、さらに、その製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、SiO2、Al2O3等を骨格に持ち、規則的なチャンネル(細孔)を有する結晶性のアルミノケイ酸塩である。特にMFI型ゼオライトはシリカリッチであり、10員環構造の細孔(5.1×5.5Å及び/又は5.3×5.6Å)を含むものとして広く知られている。
【0003】
ゼオライトの結晶骨格中のAl2O3は、親水性に影響を与えAl量が多いほど親水性が高く、少ないほど親水性が低下することが知られている。シリカリッチなMFI型ゼオライトは、Al量が少ないため親水性が低く、従って、疎水性の有機成分に対して高い吸着性を示し、更に、低分子量炭化水素の大きさに近い細孔径を有していることから、有機化合物に対する吸着剤としての使用が提案されている(特許文献1~3参照)。
また、ゼオライトの結晶骨格中のAlは固体酸点として働くことが知られており、上記したように芳香族の分子直径に近い細孔を有することから、MFI型ゼオライトを炭化水素芳香族化用触媒もしくは触媒担体として使用することも広く知られており、MFI型ゼオライトが固体酸触媒もしくは触媒担体として用いられる場合は、活性点を多く持つ比較的Al含有量の多いものもしばしば利用される(特許文献4参照)。
【0004】
上述した種々のMFI型ゼオライトは、シリカ源とアルミナ源とを含む混合ゲル中で、テンプレート及び必要により種晶を添加して加熱することによりシリカ源とアルミナ源とを反応させることにより得られるものであるが、本発明者等の研究によると、このような方法で得られるMFI型ゼオライトは、結晶学的に言って、(053)面の面間隔が2.99Åよりも大きいという性質を有することが判っている。この面間隔が大きいことは、ゼオライトの結晶構造或いは細孔構造中に形成した歪もしくはゆがみによるものであると、本発明者等は考えている。
【0005】
ところで、特許文献5には、シリカ源とアルミナ源との反応(結晶化)を100℃よりも低い低温で且つ常圧下で行うことにより、このような歪やゆがみが抑制され、(053)面の面間隔(d値)が2.99Å以下のMFI型ゼオライトが得られることが開示されており、かかるMFI型ゼオライトを揮発性有機化合物吸着剤として使用することが提案されている。
【0006】
また、本発明者等は、上記のような(053)面の面間隔が2.99Å以下のMFI型ゼオライトについて研究をさらに推し進め、この製造過程で使用されるシリカ源とアルミナ源の混合工程乃至熟成工程、反応工程の条件を制御することにより、マクロポアが多く存在するという極めて特異な細孔構造のMFI型ゼオライトを提案している(特願2017-157248号)。
【0007】
従来公知のMFI型ゼオライトは、例えばトルエンやp-キシレンのような立体障害性の低い芳香族炭化水素に対して高い吸着性を示すが、o-キシレンやm-キシレンのような立体障害性の高い芳香族炭化水素についての吸着性はほとんど検討されておらず、実際、o-キシレンに対する吸着性は、本発明者等が開発した上記のMFI型ゼオライトも極めて低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開H01-171554号公報
【文献】特開H09-253483号公報
【文献】特開2003-126689号公報
【文献】特開2001-62305号公報
【文献】WO2017/142033号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、(053)面の面間隔が2.99Å以下のMFI型ゼオライトの製造方法について多くの実験を行って研究を行ったところ、結晶化反応において、特定の方法により処理することにより活性化された高活性種晶を用いたときに、o-キシレンに対する吸着性に優れた細孔構造を有するMFI型ゼオライトを効率よく得ることができるという知見を得た。
【0010】
従って、本発明の目的は、o-キシレンに対する吸着性に優れた細孔構造を有する新規なMFI型ゼオライト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、SiO2/Al2O3(モル比)が1000以上のMFI型ゼオライトであって、XRDで測定して、(002)面でのd値が6.690Å以下であり、且つ(400)面でのd値が4.977Å以下の範囲にあることを特徴とするMFI型ゼオライトが提供される。
【0012】
本発明のMFI型ゼオライトは、例えば蒸気法で測定して、分圧(P/P0)が0.1でのo-キシレン吸着量が6.0質量%以上であり、o-キシレンに対して優れた吸着性を示す。
【0013】
本発明によれば、また、シリカ源とテンプレートを含む結晶化用原料(A)を用意する工程(1);
種晶微粒子をアルカリ水溶液に分散させ、該種晶中のシリカ分の一部を溶出させることにより、高活性種晶(B)を得る種晶活性化工程(2);
前記高活性種晶(B)と前記結晶化用原料(A)を混合して結晶化反応用液(A1)を得る工程(3);
前記結晶化反応用液(A1)を、常圧下、80~99℃の温度に保持してMFI型ゼオライトを生成させる結晶化反応工程(4);
及び
生成した結晶を焼成し、テンプレートを消失させる細孔画定工程(5);
を含むことを特徴とするMFI型ゼオライトの製造方法が提供される。
【0014】
本発明の製造方法においては、以下の手段を好適に採用することができる。
(1)高活性種晶(B)として、種晶活性化工程(2)前の前記種晶微粒子に対して、SAR比(SiO2/Al2O3(モル比)の変化割合)が0.99以下且つ、結晶化度が5~90%の範囲内であり、窒素吸着法で測定した細孔容積比が1.1以上となるようにシリカ分の一部を溶出させた高活性種晶(B)を用いること。
(2)前記種晶活性化工程において、10質量%濃度以下のアルカリ水溶液を使用すること。
(3)前記種晶活性化工程において、種晶微粒子が分散されているアルカリ水溶液を、30~90℃の温度に少なくとも0.1時間加熱することにより、該種晶中のシリカ分の一部を溶出させること。
(4)シリカ源とテンプレートを含み、さらにアルミナ源をSiO2/Al2O3(モル比)が160以上となる割合で含む混合原料を、結晶化用原料(A)とすること。
或いは
(5)前記混合原料を60~95℃の熟成温度に維持して熟成を行うことにより、前記結晶化用原料(A)を調製すること。
【発明の効果】
【0015】
本発明のMFI型ゼオライトは、SiO2/Al2O3(モル比)が150以上であり、著しくシリカリッチの組成を有しているが、このような組成に加えて、XRDで測定して、(002)面でのd値が6.700Å以下であり、且つ(400)面でのd値が4.980Å以下であり、何れの面での面間隔(d値)が小さい。即ち、MFI型ゼオライトは、大きな細孔(5.3×5.6Å)をもつストレートチャンネルと、屈曲した細孔(5.1×5.5Å)をもつジグザグチャンネルとが3次元的に交差している細孔構造を有しているが、上記のように(002)面でのd値及び(400)面でのd値が何れも小さいということは、ストレートチャンネル側での大きな細孔が均一に且つ緻密に形成されていることを意味する。
即ち、本発明のMFI型ゼオライトは、ストレートチャンネル側の大きな細孔が均一に且つ緻密に形成されているため、トルエンやp-キシレン等の立体障害性の小さい芳香族炭化水素に対しては勿論のこと、立体障害の大きなo-キシレンに対して優れた吸着性を示し、例えば、蒸気法で測定して、分圧(P/P0)が0.1でのo-キシレン吸着量が1.2質量%以上である。
【0016】
従って、本発明のMFI型ゼオライトは、芳香族炭化水素吸着剤として、例えば自動車の排ガス浄化等や化学工場等において使用される環境浄化用設備、例えばハニカム構造を有する排気ガス処理用ローターに担持され好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実験例6で合成されたMFI型ゼオライトのX線回折像。
【
図2】実験例1及び実験例6、比較例3の(002)面のX線回折像。
【
図3】実験例1及び実験例6、比較例3の(400)面のX線回折像。
【
図4】実験例6、比較例2のo-キシレン吸着等温線測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<MFI型ゼオライト>
本発明のMFI型ゼオライトは、SiO
2/Al
2O
3(モル比)が150以上とシリカリッチの組成を有しており、このようなシリカリッチのゼオライトに特有の10員環形態の細孔が形成されているため、
図1に示されているようなX線回折ピークを示す。例えば、2θ=7.9°付近に(011)面、2θ=8.9°付近に(200)面、及び2θ=23.1°付近に(051)面のシャープな回折ピークを示す。
【0019】
本発明のMFI型ゼオライトは、XRD測定により、(002)面でのd値が6.700Å以下、好ましくは6.697Å以下、特に好ましくは6.690Å以下であり、且つ(400)面でのd値が4.980Å以下であり、好ましくは4.977Å、特に好ましくは4.975Å以下である。即ち、d値は、ゼオライト中の細孔が有する特定の面同士の間隔を表すものであり、d値がこのように小さいということは、上記でも述べたように、結晶や細孔に歪やゆがみがなく、ストレートチャンネル側の大きな細孔が均一に且つ緻密に分布した構造を有していることである。この結果として、蒸気法で測定して、分圧(P/P0)が0.1でのo-キシレン吸着量が1.2質量%以上であり、特にSiO2/Al2O3(モル比)が1000以上のMFI型ゼオライトでは、4.0質量%以上の吸着量を示し、立体障害性の高いo-キシレンに対して優れた吸着性を示す。
【0020】
このように、本発明のMFI型ゼオライトは、(002)面及び(400)面での面間隔(d値)が小さく、ストレートチャンネル側の細孔が均一に且つ緻密に分布していることがo-キシレンに対して優れた吸着性を示す一因となっているのであるが、もう一つの要因として、結晶子自体がa軸方向((100)面方向)に伸縮性を示すように形成されていることにあるではないかと、本発明者等は推定している。
即ち、このMFI型ゼオライトは、後述するように、特定の活性化種晶を使用し、常圧下での結晶化反応により得られるものであるが、このようにして(002)面及び(400)面でd値の小さいMFI型ゼオライトに、トルエン或いは水分を吸着させたとき、これらの面間隔は吸着前後でほぼ変化しない。しかしながら、o-キシレンを吸着させたときには、(400)面でのd値が大きく変化することを本発明者等は確認している。
【0021】
例えば、後述する実験例に示されているように、本発明のMFI型ゼオライトについて、飽和水分量となるまで吸湿させたときのd値をA、o-キシレンが飽和量となるまで吸着させたときのd値をCとし、(400)面及び(002)面についてのd値の変化幅比Δd400/Δd002を下記式:
Δd400/Δd002=(C-A)(400)/(C-A)(002)
により算出すると、この変化幅比(Δd400/Δd002)は1.1以上、特に1.5以上の値を示すが、同様の変化幅比を、後述方法によらず、例えばオートクレーブを用いた水熱合成により製造されたMFI型ゼオライトについて測定すると、その値は、1.0以下であり、本発明のMFI型ゼオライトに比してかなり低い。
即ち、本発明のMFI型ゼオライトは、o-キシレンの吸着により(400)面のd値が大きく変動する。このことは、ストレートチャンネルの細孔幅が収縮性に富んでいることを意味しており、この結果として、本発明のMFI型ゼオライトは、立体障害性の高いo-キシレンに対しても優れた吸着性を示すものと信じられる。
【0022】
<MFI型ゼオライトの製造>
本発明のMFI型ゼオライトは、大まかにいって、結晶化用原料(A)を用意する工程(工程1)、種晶活性化工程(工程2)、結晶化反応用液(A1)を得る工程(工程3)、結晶化反応工程(工程4)及び細孔画定工程(工程5)を経て製造される。
【0023】
(工程1)結晶化用原料(A)の調製;
この工程では、シリカ源とテンプレートを含む原料が使用されるが、アルミナ成分を含む場合は、この原料中のSiO2/Al2O3(モル比)は、前述した本発明のMFI型ゼオライトが有するSiO2/Al2O3(モル比)よりも若干過剰であり、例えば160以上である。これは、収率を考慮したものである。
【0024】
また、上記の原料は、通常、シリカ源、アルミナ源及びテンプレートの3種を水乃至アルカリ水溶液に混合することにより調製されるが、シリカ源には、極微量のアルミナが不純物として含まれている場合がある。その場合は、シリカ源がアルミナ源を兼用することとなり、専用のアルミナ源の使用を省略することができる。即ち、シリカ源中に微量含まれることがあるアルミナを使用することができるため、アルミナ含有シリカ源とテンプレートとの混合により原料液を調製することができる。また、専用アルミナ源の使用量を少なくすることもできる。
例えば、本発明のシリカ源としてシリカゲルを用いる場合は、市販のシリカゲルを用いることができるが、市販のシリカゲルはグレードによってppmオーダーでアルミナ成分を含むこともあり、これをアルミナ含有シリカ源として利用できる。後述する実験例においては、シリカ源の一例としてシリカゲルを用いるが、当該実験例で用いたシリカ源は200ppm以下の範囲の極微量のアルミナ成分を含み得るものである。
【0025】
本発明において、上記の原料を用いての結晶化用原料(A)の調製は、上記のシリカ源(或いはアルミナ含有シリカ源)、アルミナ源及びテンプレートを用いて調製された原料液を混合してMFI型ゼオライトの骨格を有するゲルを形成することにより結晶化用原料(A)が得られる。
【0026】
尚、上記で使用されるシリカ源としては、各種ゼオライトの製造に使用される従来公知のSiO2分含有材料、例えば、テトラエチルオルトシリケート、コロイダルシリカ、シリカゲル乾燥粉末、シリカヒドロゲル等が使用される。また、シリカ源の一部として、ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムなどのケイ酸アルカリを使用することが好ましい。ただし、テトラエチルオルトシリケート、コロイダルシリカは反応性に長けているものの高価であり、特にテトラエチルオルトシリケートは反応液中からEtOHを揮発させる必要があるため大量合成等に不向きである。
本発明の製造方法は、これら高価な原料の使用に限らずに製造することができ、コスト面で従来よりも有利である。
【0027】
これらのシリカ源は、後述する結晶化反応工程において、水溶液中に一度溶解し、MFI型ゼオライトへと構築されるわけだが、反応に不要な不純物もしくは非反応性成分が少なければ、シリカ源の種類はMFI型ゼオライトの結晶化に大きく影響しない。
【0028】
また、アルミナ源としても、各種ゼオライトの製造に使用される従来公知のものを使用することができ、例えば、塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等が代表的である。本発明のMFI型ゼオライトを製造するには、これらのアルミナ源の中でも、特にアルミン酸ナトリウムが好ましく、アルミン酸ナトリウムの水溶液が原料として好適に使用される。
さらに、前述したシリカ源には微量のアルミナが含まれることがあり、この場合には、先にも述べたとおり、シリカ源中のアルミナ分をアルミナ源として使用することができる。
【0029】
テンプレートは、MFI型ゼオライトに特有の10員環形態の細孔を形成するための構造規定剤であり、分子中に炭素数が2~4のn-アルキル基と窒素カチオンを含むアミン化合物、例えば、テトラアルキル(エチル、n-プロピルあるいはn-ブチル)アンモニウムのカチオンとアニオン(例えばBr-)との塩や該アンモニウムの水酸化物等が使用される。
【0030】
かかるテンプレートの使用量は、テンプレートの種類、特にアルキル基の炭素数によって大きく異なるため、一概に規定することはできないが、例えばテトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPA-Br)をテンプレートとして使用するのであれば、Si成分に対して、TPABr/SiO2=0.03~0.20(モル比)の量で使用される。
【0031】
本発明のMFI型ゼオライトは、シリカが著しくリッチであるため、結晶化用原料(A)においては、特にテンプレートの周囲にシリカが分布していることが好ましく、このため、上述したシリカ源にテンプレートが分散しており、このようなシリカ源原料とアルミナ源原料を混合して結晶化用原料(A)を得ることが好ましい。
この場合、上記第4級アンモニウムの水酸化物をテンプレートとして使用するときには必要でないが、第4級アンモニウムとBrやCl等のアニオンとの塩等をテンプレートとして使用する場合には、シリカ源及びテンプレートが溶解乃至分散したシリカ源を得るため、アルカリ金属水酸化物(例えば苛性ソーダ等)が、このシリカ源中に添加混合されアルカリ性水溶液となっていることが好ましい。このようなアルカリ金属水酸化物は、Si成分に対して、A2O/SiO2(モル比)=0.01~0.20(Aはアルカリ金属元素)、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下の量で使用されるのがよい。この場合、アルカリ金属水酸化物の添加量が多いほど、後述する結晶化反応時間(結晶化に要する時間)を短縮できる効果が得られるが、A2O/SiO2が0.20を超えると、得られるMFI型ゼオライト中に、親水的に作用するアルカリ金属が大量に残存してしまい、その物性が損なわれるおそれがある。
また、前述したシリカ源の一部としてケイ酸アルカリを使用した場合には、このようなアルカリ金属水酸化物の使用を避けることができる上で有利である。
【0032】
また、本発明においては、シリカ源原料とアルミナ源原料とを混合する場合には、より確実にアルミナ源を均質に分散させるため、撹拌下で、シリカ源原料中に、アルミナ源原料を少しずつ注加していくことが好ましく、例えば20分以上、好適には60分以上かけてアルミナ源原料を注加することが望ましい。
【0033】
上記のようにして調製した原料は、さらに熟成することにより、テンプレートの周囲にシリカ源及びアルミナ源が分布し、このように分布構造が安定化されたゲルが形成され、これを、結晶化用原料(A)として使用することができ、これにより、次の高活性種晶(B)を用いての結晶化工程を経て、MFI型ゼオライトに特有の10員環形態の細孔を確実に形成することができる。
このようなゲル化のための熟成は、通常、60~95℃の温度で行われる。
【0034】
即ち、テンプレートのカチオンを囲むように、以下の概略式に示されるようにSiOSiの連鎖が形成されていき、MFI型ゼオライトに特有の10員環構造の骨格が形成される。また、SiOSi連鎖の一部には、OAlOが取り込まれた形で均等に形成される。
OH-Si-O- +Si-OH → [OH-Si-O…SiOH]-
→ OH-Si-O-Si--OH
→ OH-Si-O-Si(-OH)-O- +H2O
【0035】
このような熟成温度への加熱は、混合液を徐々に昇温することにより行うことが好ましく、例えば30分以上かけて行うことにより、急激な加熱によるゲル化を確実に防止することができる。
また、かかるゲル化は、上記熟成温度に1時間以上、好ましくは1~96時間、特に好ましくは8~24時間、混合液を保持することにより行われる。この場合、熟成温度を上記範囲よりも高温に設定した場合には、ゲル化が急激に進行してしまい、また、熟成温度が上記温度より低いときには、ゲル化に長時間要し、工業的に望ましくない。
【0036】
尚、本発明において、アルミナを微量含むアルミナ含有シリカ源を用いた場合には、上記の熟成工程を省略し、単に原料を常温程度で0.5時間程度、混合撹拌して、各成分を均質に分散させるのみでよく、上記のような熟成工程を省略することもできる。即ち、アルミナの量が少なく、しかも、シリカ源中に既に含まれているため、単なる撹拌混合によって、テンプレートの周囲に、アルミナを含む形でシリカ源を分布させることができるからである。
かかる手段は、特に、SiO2/Al2O3(モル比)が1000より大きいシリカ高リッチのMFI型ゼオライトを製造する場合に好適に適用される。
【0037】
(工程2)種晶活性化;
上記のようにして調製された結晶化用原料(A)には、以下に述べる高活性種晶(B)が混合され、かかる高活性種晶(B)が混合された結晶化反応用液(A1)が結晶化反応に供される。
【0038】
ゼオライト等の結晶を合成するにあたって種晶を使用することにより結晶化を促進させるという手法は、周知の技術である。しかるに、本発明では、このような種晶として、種晶源の微粒子が分散されているアルカリ液を使用し、該種晶源から一部のシリカ分を溶出させることにより生成する高活性種晶(B)を使用する。
ゼオライト等の結晶を製造するために使用する種晶としては、通常、目的とするゼオライトと同型の結晶粒子を使用するが、本発明において使用される高活性種晶は、このような結晶粒子の一部からシリカ分が溶出された結晶粒子である。
【0039】
通常ゼオライト合成にはオートクレーブを用いるが、その場合高温高圧下という条件のため、添加したテンプレートが熱分解したり、分解しないまでも熱エネルギーによる振動が起こったりして、細孔に歪やひずみが生じてしまうと考えられる。そこで本発明では高活性種晶を添加することで低温かつ常圧反応でも結晶成長開始までの誘導時間が短縮、つまり反応時間が短縮されることを発見した。高活性種晶は微分散しており、それがより多くの核として添加されることで結晶成長に原料が消費される速度が上がるためと考えられる。この結果として、合成による熱エネルギーの影響が少ないため、(002)面及び(400)面でのd値が小さく、且つ(400)面での細孔が伸縮性を示し、o-キシレンを吸着したときの(400)面でのd値の変化率が大きい細孔構造が形成され、o-キシレンに対して優れた吸着性を示すMFI型ゼオライトを効率よく製造することができる。
【0040】
本発明において、上記のような種晶源の活性化は、種晶源が完全に溶解しない程度の希薄なアルカリ水溶液、例えば10.0質量%濃度以下、好ましくは1.0~5.0質量%濃度のアルカリ水溶液中に種晶源を投入することにより行われる。尚、種晶の活性化に用いるアルカリ水溶液としては、NaOH水溶液及び/又はKOH水溶液、特にNaOH水溶液が好適に使用される。
また、種晶源の活性化は、H2O/SiO2(モル比)が50以上、好ましくは150~800により行われる(ただし種晶源はすべてSiO2として計算)。
上記のようにして種晶源を加えたアルカリ溶液を、撹拌下で30~90℃、好ましくは40~75℃で加熱、活性化する。
また、かかる種晶活性化工程は、アルカリ濃度と加熱温度によって適宜変更可能であるが、通常は0.1~24時間、好ましくは0.5~1.5時間行う。上記条件の上限を超えて活性化を行うと種晶源は全溶解してしまい、効果が著しく低くなる。また、上記条件の下限を下回った場合は種晶源が十分に微分散していないため、効果は低くなる。
このような活性化によって、種晶源からシリカ分が溶解し、一部のシリカが溶出しているものは、微粒のコロイド粒子として希薄なアルカリ水溶液中に分散している。このコロイド粒子を、遠心分離等により希薄なアルカリ水溶液から分離することにより、高活性種晶(B)として使用することができる。
また、用いた希薄アルカリ水溶液の量によっては、このようなコロイド粒子が分布している液を、そのまま、前述した結晶化用原料(A)に混合することができる。
特に、NaOH水溶液を種晶の活性化処理に用いる場合は、後の工程で混合する結晶化用原料のNa2O成分を予め調整することにより、遠心分離等によるアルカリと種晶の分離操作を行うことなく使用することができる。これは、NaOH水溶液を用いる場合は、本発明のゼオライトの合成において不必要な成分を含まないからであり、また、結晶化反応用液(A1)の成分調整が容易にできるからである。
【0041】
また、本発明における種晶の活性化程度は、高活性種晶(B)の物性を、前記種晶微粒子に対して、以下の範囲に設定することで調整できる。即ち、前記高活性種晶(B)が、前記種晶微粒子に対して、SAR比(SiO2/Al2O3(モル比)の変化割合)が0.99以下且つ、結晶化度が5~90%の範囲内であり、窒素吸着法で測定した細孔容積比が1.1以上となる程度である。活性化処理の程度を当該範囲に調整することは、シリカ分の溶出が十分に達成され、高活性種晶(B)が得られることを意味する。
上記SAR比とは、種晶源のSiO2/Al2O3(モル比)をa、活性化処理後に得られる高活性種晶(B)を希薄なアルカリ水溶液から分離し、洗浄、回収したときのSiO2/Al2O3(モル比)をbとしたときの、b/aのことであり、この割合が0.99以下、特に0.95以下とすることが好ましい。さらに同様に固液分離した後の高活性種晶(B)の結晶化度が、種晶源と比較して5~90%、特に10~85%とすることが好ましい。また、同様に高活性種晶(B)の細孔容積をア、種晶源の細孔容積をイとすると、ア/イが1.1以上のものが好ましく、上記範囲を満たす高活性種晶(B)を使用することが望ましい。
【0042】
また、種晶の活性化は、種晶がゼオライトの構造をある程度保った状態で完了させることが望ましい。これは、ゼオライト構造を適度に保った高活性種晶(B)を、前記結晶化用原料(A)と混合することで、結晶成長開始までの誘導時間を極めて短縮する効果を得られるためである。種晶の活性化処理を過度に行った場合は、シリカの溶出が上記の結晶化度を維持することができないほど進み、高活性種晶(B)としての効果は著しく低下する。また、種晶の活性化処理が不十分な場合も、SAR比が当該範囲とならないことから、シリカ分の溶出が少なく、結晶化度を上記範囲に調整すること、即ち、本発明の高活性種結晶を得ることが困難となる。
【0043】
また、上記のような種晶源としては、当然、目的とするMFI型ゼオライトと同程度のSiO2/Al2O3(モル比)のMFI型ゼオライト結晶を使用することができるが、通常は、特に当該モル比に制限なく使用することができる。一般に、このモル比が低いほど、結晶化速度が向上する傾向がある。従って、目的とするMFI型ゼオライトのSiO2/Al2O3(モル比)にかかわらず、このモル比が25以上、特に80以上の範囲にあるMFI型ゼオライトの結晶を種晶源として使用することが好適である。
【0044】
また、上記の種晶源は、焼成によりテンプレートが除去されたものが使用され、例えば旋回式ジェットミルなどの乾式粉砕やビーズミルによる湿式粉砕などで、単粒子径が10μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.8μm以下程度となるように適度に粉砕したものが、種晶の活性化を速やかに行う上で好適である。
【0045】
(工程3)結晶化反応用液(A1)の調製;
本発明では、上記の高活性種晶(B)と結晶化用混合液(A)を混合することにより、結晶化反応用液(A1)を得る。
【0046】
本発明において、上記のような活性化により得られる高活性種晶(B)は、例えば、前記コロイド粒子が分散している稀アルカリ水溶液の固形分量が、結晶化用混合液(A)中のSiO2100質量部当り30質量部以下であり、好適には0.01~10質量部、特に0.1~5質量部の量で混合されることが望ましく、これにより結晶化反応を加速させ、迅速にo-キシレン吸着性に優れた細孔構造を有するMFI型ゼオライトを得ることができる。
【0047】
(工程4)結晶化反応工程;
上記工程3で得られた結晶化反応用液(A1)を、常圧下で、結晶化温度に加熱保持し、これにより、結晶核が構築され、また微細な高活性種晶(B)を核として、結晶が成長し、目的とする細孔構造を有する本発明のMFI型ゼオライトが極めて短時間で得られる。
【0048】
かかる結晶化反応工程は、常圧、即ち開放系で行うことが重要である。即ち、オートクレーブなどを用いての閉鎖系で結晶化反応工程を実施すると、内圧によって結晶の粒子間隙が小さくなり、結果として、目的とするo-キシレン吸着性に優れた細孔構造を有するMFI型ゼオライトを工業的に得ることができない。
従来、o-キシレン吸着性に優れた細孔構造が知られていなかったのは、おそらく、従来公知の手段では、工業的な実施が可能程度の結晶化時間では、このような細孔構造が得られていなかったためではないかと思われる。
【0049】
また、結晶化反応温度は、80~99℃に設定することも重要である。即ち、この温度が低いと、結晶化が十分に行われず、目的とするMFI型ゼオライトを得ることができない。また、この温度が高く、例えば100℃を超えると、テンプレートや微細な種晶が大きく流動してしまい、この結果、細孔分布が不均一となり、形成される細孔に歪やゆがみが生じ、この結果、(002)面或いは(400)面の面間隔であるd値が大きくなってしまう。
【0050】
上記のような結晶化反応工程は、通常、結晶化に供する結晶化反応用液(A1)の組成によっても異なり、一概に規定することはできないが、一般的には、工業的実施を考慮して、48時間以下、特に36時間以下程度である。
【0051】
(工程5)細孔画定;
上記のようにして結晶化反応が終了した後は、ろ過、水洗し、アルカリ金属等の不純物を除去した後、焼成し、結晶中に含まれるテンプレートを消失させ、これにより、MFI型ゼオライトに特有の10員環形状の細孔が画定し、目的とする本発明のMFI型ゼオライトを得ることができる。
尚、焼成温度は、テンプレートが分解するが、ゼオライト結晶が損なわれない程度の温度であり、例えば、400~700℃で0.5~20時間程度である。
【0052】
かくして得られるMFI型ゼオライトは、単粒子径が0.1~100μm、好ましくは0.2~10μmの大きさであるが、適宜粉末状に粉砕して使用に供されることが好ましく、取扱いの容易性等を考慮して、例えば芳香族炭化水素の吸着に使用する用途において、0.2~4.0μmの大きさに粒度調製し、吸着カラムや吸着塔などの設備に充填して使用される。
また、吸着用途に使用せず、n-炭化水素の異性化触媒として使用することもでき、分枝の多い炭化水素の製造に利用することもできる。
【実施例】
【0053】
本発明を次の実験例で説明する。
尚、実験における各種の測定は、以下の方法で行い、測定結果を表2および表3に示した。
【0054】
(1)X線回折
(面間隔d値解析のための測定及び解析条件)
相対湿度75%に調湿済みのデシケーターとo-キシレンを飽和させたデシケーターを用意し、それぞれに各乾燥試料を入れ、室温下で48時間以上静置し、水分またはo-キシレンを飽和量吸着させた試料を得た。また試料調製の際に内部標準試料としてシリコンを5質量%添加した。標準シリコンとしては和光純薬製のケイ素粉末を使用した。取出した試料の、2Θ=13.0~13.4°(MFI、002面)、17.7~17.9°(MFI、400面)、28.2~28.6°(シリコン、111面)にかけて、X線回折測定した。なお、X線回折測定はリガク社製のUltima4を用いて、Cu-Kαにて下記の条件で測定を行った。
ターゲット:Cu
フィルター:湾曲結晶グラファイトモノクロメーター
検出器:SC
電圧:40kV
電流:50mA
ステップサイズ:0.005°
計数時間:10sec/step
スリット:DS2/3° RS0.3mm SS2/3°
2Θ=13~13.4°(MFI、002面)、17.7~17.9°(MFI、400面)のX線回折それぞれの、最大ピークの角度を求めた。さらに2Θ=28.2~28.6°のX線回折の最大ピークを持つ角度(シリコン、111面)と既知の標準シリコンの(111)面のピーク位置(28.425°)から下記式に基づき補正を行った。
(内部標準試料のシリコンによる補正)
2Θ’=2Θ+(28.425-2ΘSi(111))
さらに下記式に基づきd値(Å)を求めた。
(ブラッグの条件)
d=nλ/2sinΘ’
d :面間隔
n :整数
λ :波長
sinΘ:結晶面とX線がなす角度(尚、Θは上記補正により求めたΘ’である)
(結晶型の確認)
ゼオライトの結晶型の確認は、各乾燥試料を用いて行った。X線回折測定の条件は、d値の測定条件のうち、以下を変更して行った。
測定範囲 :3~40°
電流 :40mA
ステップサイズ:0.02°
計数時間 :0.6sec/step
(種晶の結晶化度の確認)
高活性種晶(B)の各種物性を確認するため、後述する実験例と同様に、種晶のアルカリ水溶液分散液を調製した。工機ホールディングス社遠心分離器CR7を用いて遠心分離による沈降とイオン交換水による再分散を繰り返し、上澄みのpHが10.5を下回るまで洗浄を行った。洗浄後のスラリーを110℃で20時間乾燥し、測定用試料を得た。測定用試料は上記(結晶型の確認)と同様の操作でX線回折測定し、得られた回折の2Θ=7.30~8.14°(MFI、011面)と2Θ=22.46~23.46°(MFI、051面)の最大ピークの積算値を求めた。活性化工程前のゼオライト種晶源を(結晶型の確認)と同様の操作でX線回折測定したときの011面と051面の最大ピークの積算値を求め、これを100%としたときの種晶活性化工程で得られる試料の積算値の割合を結晶化度(%)とした。
【0055】
(2)BET比表面積
窒素吸着の測定に、micromeritics社製のTristarを用い、窒素分圧PN2(P/P0)が0.005~0.95の範囲における吸着等温線を求めた。前処理は、真空条件下で200℃、2時間の条件で行った。求めた吸着等温線から、BET法による比表面積を算出した。
【0056】
(3)細孔容積の測定
窒素吸着の測定に、micromeritics社製のTristarを用い、窒素分圧PN2(P/P0)が0.005~0.95の範囲における吸脱着等温線を求めた。前処理は、真空条件下で200℃、2時間の条件で行った。求めた吸脱着等温線から、BJH法による細孔容積を算出した。
【0057】
(4)o-キシレン吸着等温線の測定
o-キシレン吸着の測定には、日本ベル社製のBelsorp Maxを用いo-キシレン分圧PT(P/P0)が0.001~0.90の範囲における吸着等温線を求めた。前処理は、真空条件下で150℃、2時間の条件で行った。平衡判定時間は300秒とした。o-キシレンは和光純薬製試薬特級グレードを使用した。後述する各試料について、o-キシレン分圧PT(P/P0)が0.1における測定値を試料単位質量あたりの吸着量に換算し、o-キシレン吸着量(質量%)とした。
【0058】
(5)組成解析
酸化物換算でのアルカリ金属含有量及びSiO
2/Al
2O
3(モル比)の算出に必要な元素分析については、(株)リガク製Rigaku ZSX primus IIを用い、ターゲットはRh、分析線はKαで、その他は以下の条件で測定を行った。
なお、試料は110℃で2時間乾燥した物を基準とした。
【表1】
【0059】
(6)粒子径の測定
日本電子株式会社製JSM-6510LAにより測定したSEM像から種晶源であるMFI型ゼオライトの一次粒子径を測定した。ランダムに粒子10個を選び長径と短径の平均をそれぞれの単粒子径とし、それらの平均を種晶源の単粒子径とした。
【0060】
<比較例1>
98%TPABrを37.1g、水を544.2g、シリカヒドロゲル(SiO2=38.5質量%、Na2O=0.02質量%、H2O=61.4質量%)520gを混合してテンプレートを含むシリカ源原料液を、アルミン酸ナトリウム(Al2O3=23.0質量%、Na2O=19.2質量%、H2O=57.8質量%)5.8g、49%NaOH18.9g、水72.6gを用いて調製したアルミナ源原料液を、それぞれ調製した。シリカ源原料液及びアルミナ源原料液を混合し、さらに種晶として水澤化学工業(株)製MFI型ゼオライト(粒子径6.0μm、SiO2/Al2O3モル比=400)を2.0g(上記シリカ源原料液のSiO2に対し1質量%相当)を加え反応ゲルを調製した。反応ゲルの組成はSiO2:Al2O3:Na2O:TPABr:H2O:種晶SiO2=1:0.004:0.033:0.041:16:0.01だった。反応ゲルを撹拌羽内蔵型の1.5Lオートクレーブに移し、撹拌条件下で170℃まで2.5時間で昇温後170℃を24時間保持して結晶化反応を行った。反応終了後、反応液をろ過し、引き続いて反応ゲルの3倍の容積の水で水洗を行い、テンプレートを含むMFI型ゼオライトを得た。その後110℃で10時間乾燥した。乾燥物をマッフル電気炉にて550℃で2時間焼成し、比較例1のMFI型ゼオライトを得た。
【0061】
<比較例2>
40%硫酸65.3gと水297.2gを混合することによって硫酸水溶液を、ケイ酸ソーダ(SiO2=22.8質量%、Na2O=7.4質量%、H2O=69.8質量%)396gと水49.0gを混合することによってシリカ源原料液を、98%TPABr20.5gと塩化ナトリウム51.5gおよび水302.4gを混合することによって塩溶液を、それぞれ調製した。塩溶液に対し、硫酸水溶液とシリカ源原料液を同時に1時間かけて注加することによって反応ゲルを得た。反応ゲル組成はSiO2:Na2O:NaCl:TPABr:H2O=1:0.134:0.135:0.033:37.25だった。反応時間を6時間とした以外は比較例1と同様の操作により比較例2のMFI型ゼオライトを得た。
【0062】
<比較例3>
ユニオン昭和製ABSCENTS3000を比較例3とした。
【0063】
<実験例1>
<シリカ源の調製>
98%TPABrを27.1g、水を304.3g、シリカヒドロゲル311.7gを混合し、テンプレートを含むシリカ源原料液を調製した。
<アルミナ源の調製>
アルミン酸ナトリウム3.5g及び水71gを混合してアルミナ源原料液を調製した。<工程1:結晶化用原料(A)の調製>
撹拌条件下で上記シリカ源原料液に対しアルミナ源原料液を30分かけて注加した。得られた混合原料液を湯浴中で30分かけて25℃から85℃まで昇温し、そのまま85℃で20時間熟成し、結晶化用原料(A)を得た。
<工程2:高活性種晶(B)の調製>
3.6g(上記シリカ源原料液のSiO2に対して3質量%相当)の旋回式ジェットミルで微粒子化したMFI型ゼオライト(粒子径0.7μm、SiO2/Al2O3モル比=100、細孔容積0.117cm3/g、テンプレート含まないMFI型ゼオライト)及び225.9gのNaOH水溶液を混合(NaOH濃度:2.2質量%)し分散液を得た。分散液の組成はSiO2:Na2O:H2O=1:1:200であった(但し、MFI型ゼオライトはすべてSiO2として計算)。分散液を撹拌条件下50℃まで昇温し、そのまま60分間加熱撹拌し高活性種晶(B)を得た。なお、同様の活性化を経た種晶を遠心分離法によって洗浄した後、固形分を回収、乾燥後に物性を測定したところ、活性化前種晶微粒子に比べ結晶化度は44%であり、SAR比は0.41、細孔容積比は5.0であった。
<工程3:結晶化反応用液(A1)の調製>
得られた高活性種晶(B)を前記結晶化用原料(A)に添加し、結晶化反応用液(A1)を得た。結晶化反応用液(A1)の組成はSiO2:Al2O3:Na2O:TPABr:H2O:種晶SiO2=1:0.004:0.036:0.050:22:0.03となった。
<工程4:結晶化反応>
工程3で得られた結晶化反応用液(A1)を95℃まで昇温し、36時間結晶化反応し、MFI型ゼオライトを得た。
<工程5:細孔画定>
前記工程4で得られた結晶スラリーは沈降後の上澄みのpHが9.0以下になるまで遠心分離とイオン交換水による再分散を繰り返して洗浄し、その後110℃で10時間乾燥した。乾燥物をマッフル電気炉にて550℃で2時間焼成し、実験例1のMFI型ゼオライトを得た。
【0064】
<実験例2>
<シリカ源の調製>
98%TPABrを49.7g、水を883.5g、49質量%NaOHを18.4g、およびシリカヒドロゲル571.5gを混合し、テンプレートを含むシリカ源原料液を調製した。
<アルミナ源の調製>
アルミン酸ナトリウム6.5g及び水200gを混合してアルミナ源原料液を調製した。
<工程1:結晶化用原料(A)の調製>
上記シリカ源原料液およびアルミナ源原料液を用いた他は、実験例1の工程3と同様の操作により、結晶化用原料(A)を得た。
結晶化用原料(A)の組成はSiO2:Al2O3:Na2O:TPABr:H2O:種晶SiO2=1:0.004:0.036:0.050:22:0であった。
<工程2:高活性種晶(B)の調製>
行わなかった。
<工程3:結晶化反応用液(A1)の調製>
行わなかった。
<工程4:結晶化反応>
工程1で得られた結晶化用原料(A)を95℃まで昇温し、146時間結晶化反応し、MFI型ゼオライトを得た。
<工程5:細孔画定>
前記工程4で得られた結晶スラリーを用いた他は、実験例1の工程5と同様の操作で、実験例2のMFI型ゼオライトを得た。
【0065】
<実験例3>
<シリカ源の調製>
実験例2と同様のテンプレートを含むシリカ源原料液を調製した。
<アルミナ源の調製>
実験例2と同様のアルミナ源原料液を調製した。
<工程1:結晶化用原料(A)の調製>
撹拌条件下で上記シリカ源原料液に対しアルミナ源原料液を30分かけて注加した。ここに、実験例1で使用した微粒子化したMFI型ゼオライトをシリカ源原料液のSiO2に対して3質量%添加し、得られた混合原料液を湯浴中で30分かけて25℃から85℃まで昇温し、結晶化用原料(A)を得た。
結晶化用原料(A)の組成はSiO2:Al2O3:Na2O:TPABr:H2O:種晶SiO2=1:0.004:0.036:0.050:22:0.03であった。
<工程2:高活性種晶(B)の調製>
行わなかった。
<工程3:結晶化反応用液(A1)の調製>
行わなかった。
<工程4:結晶化反応>
工程1で得られた結晶化用原料(A)を85℃で20時間結晶化反応し、その後95℃まで昇温し、24時間結晶化反応して、MFI型ゼオライトを得た。
<工程5:細孔画定>
前記工程4で得られた結晶スラリーを用いた他は、実験例1の工程5と同様の操作で、実験例3のMFI型ゼオライトを得た。
【0066】
<実験例4>
<シリカ源の調製>
98%TPABrを45.2g、水を556g、シリカヒドロゲル519.6gを混合し、テンプレートを含むシリカ源原料液を調製した。
<アルミナ源の調製>
アルミン酸ナトリウム0.6gをアルミナ源原料液とした。
<工程1:結晶化用原料(A)の調製>
撹拌条件下で上記シリカ源原料液に対しアルミナ源原料液を30分かけて注加し、結晶化用原料(A)を得た。
<工程2:高活性種晶(B)の調製>
6.0g(上記シリカ源原料液のSiO2に対して3質量%相当)の旋回式ジェットミルで微粒子化したMFI型ゼオライト(粒子径0.7μm、SiO2/Al2O3モル比=6000、細孔容積0.049cm3/g、テンプレート含まないMFI型ゼオライト)及び448.5gのNaOH水溶液(NaOH濃度:1.8質量%)を混合し分散液を得た。分散液の組成はSiO2:Na2O:H2O=1:1:240であった(但し、MFI型ゼオライトはすべてSiO2として計算)。
分散液を撹拌条件下60℃まで昇温し、そのまま60分間加熱撹拌し高活性種晶(B)を得た。なお、同様の活性化を経た種晶を遠心分離法によって洗浄した後、固形分を回収、乾燥後に物性を測定したところ、活性化前種晶微粒子に比べ結晶化度は60.3%であり、SAR比は0.22、細孔容積比は2.3であった。
<工程3:結晶化反応用液(A1)の調製>
得られた高活性種晶(B)を前記結晶化用原料(A)に添加し、結晶化反応用液(A1)を得た。結晶化反応用液(A1)の組成はSiO2:Al2O3:Na2O:TPABr:H2O:種晶SiO2=1:0.0004:0.031:0.050:22:0.03となった。
<工程4:結晶化反応>
工程3で得られた結晶化反応用液(A1)を95℃まで昇温し、24時間結晶化反応し、MFI型ゼオライトを得た。
<工程5:細孔画定>
前記工程4で得られた結晶スラリーを用いた他は、実験例1の工程5と同様の操作で、実験例4のMFI型ゼオライトを得た。
【0067】
<実験例5>
<シリカ源の調製>
シリカヒドロゲル623.4gをシリカ源とした。
<アルミナ源の調製>
行わなかった。
<工程1:結晶化用原料(A)の調製>
98%TPABrを48.8g、上記シリカ源を混合し、結晶化用原料(A)を得た。<工程2:高活性種晶(B)の調製>
7.2g(上記シリカ源原料液のSiO2に対して3質量%相当)の旋回式ジェットミルで微粒子化したMFI型ゼオライト(粒子径0.7μm、SiO2/Al2O3モル比=6000、細孔容積0.049cm3/g、テンプレート含まないMFI型ゼオライト)及び670.4gのNaOH水溶液を混合(NaOH濃度:1.8質量%)し分散液を得た。分散液の組成はSiO2:Na2O:H2O=1:1:240であった(但し、MFI型ゼオライトはすべてSiO2として計算)。
分散液を撹拌条件下60℃まで昇温し、そのまま60分間加熱撹拌し高活性種晶(B)を得た。なお、同様の活性化を経た種晶を遠心分離法によって洗浄した後、固形分を回収、乾燥後に物性を測定したところ、活性化前種晶微粒子に比べ結晶化度は66.7%であり、SAR比は0.33、細孔容積比は7.7であった。
<工程3:結晶化反応用液(A1)の調製>
得られた高活性種晶(B)を前記結晶化用原料(A)と混合し、結晶化反応用液(A1)を得た。結晶化反応用液(A1)の組成はSiO2:Na2O:TPABr:H2O:種晶SiO2=1:0.035:0.045:14.5:0.03となった。
<工程4:結晶化反応>
工程3で得られた結晶化反応用液(A1)を93℃まで昇温し、7.5時間結晶化反応し、MFI型ゼオライトを得た。
<工程5:細孔画定>
前記工程4で得られた結晶スラリーを用いた他は、実験例1の工程5と同様の操作で、実験例5のMFI型ゼオライトを得た。
【0068】
<実験例6>
<シリカ源の調製>
シリカヒドロゲル623.4gをシリカ源とした。
<アルミナ源の調製>
行わなかった。
<工程1:結晶化用原料(A)の調製>
98%TPABrを48.8g、水を573.3g、上記シリカ源を混合し、結晶化用原料(A)を得た。
<工程2:高活性種晶(B)の調製>
7.2g(上記シリカ源原料液のSiO2に対して3質量%相当)の旋回式ジェットミルで微粒子化したMFI型ゼオライト(粒子径0.7μm、SiO2/Al2O3モル比=6000、細孔容積0.049cm3/g、テンプレート含まないMFI型ゼオライト)及び489.1gのNaOH水溶液を混合(NaOH濃度:2.0質量%)し分散液を得た。分散液の組成はSiO2:Na2O:H2O=1:1:169であった(但し、MFI型ゼオライトはすべてSiO2として計算)。
分散液を撹拌条件下60℃まで昇温し、そのまま60分間加熱撹拌し高活性種晶(B)を得た。なお、同様の活性化を経た種晶を遠心分離法によって洗浄した後、固形分を回収、乾燥後に物性を測定したところ、活性化前種晶微粒子に比べ結晶化度は66.0%であり、SAR比は0.16、細孔容積比は7.6であった。
<工程3:結晶化反応用液(A1)の調製>
得られた高活性種晶(B)を前記結晶化用原料(A)と混合し、結晶化反応用液(A1)を得た。結晶化反応用液(A1)の組成はSiO2:Na2O:TPABr:H2O:種晶SiO2=1:0.03:0.045:20:0.03となった。
<工程4:結晶化反応>
工程3で得られた結晶化反応用液(A1)を95℃まで昇温し、24時間結晶化反応し、MFI型ゼオライトを得た。
<工程5:細孔画定>
前記工程4で得られた結晶スラリーを用いた他は、実験例1の工程5と同様の操作で、実験例6のMFI型ゼオライトを得た。
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