(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】SRSイメージングのための動的なロックイン検出帯域幅
(51)【国際特許分類】
G02B 21/36 20060101AFI20220610BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
G02B21/36
G02B21/06
(21)【出願番号】P 2018517818
(86)(22)【出願日】2016-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2016074176
(87)【国際公開番号】W WO2017060519
(87)【国際公開日】2017-04-13
【審査請求日】2019-10-10
(32)【優先日】2015-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100165940
【氏名又は名称】大谷 令子
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴィシュヌ ヴァルダン クリシュナマチャリ
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/162787(WO,A1)
【文献】米国特許第04358789(US,A)
【文献】国際公開第2014/205007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックインアンプ(300)を含む、顕微鏡(20)のための電気回路において、
前記ロックインアンプ(300)は、
入力信号(s)のための入力部と、
参照信号(r)のための入力部と、
出力信号(o)のための出力部と、
帯域幅フィルタ装置(302)と、
を含み、
前記帯域幅フィルタ装置(302)は、低帯域幅周波数値および/または高帯域幅周波数値が可変に設定可能となるように構成されており、
前記電気回路は、動的帯域幅制御ユニット(500)を含み、前記動的帯域幅制御ユニット(500)には、前記顕微鏡(20)の現在の設定の少なくとも1つのパラメータ(P)が入力され、
前記動的帯域幅制御ユニット(500)は、前記ロックインアンプ(300)の前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値を、前記顕微鏡(20)の現在の設定の前記少なくとも1つのパラメータ(P)の関数として制御するように構成されており、
前記顕微鏡(20)の現在の設定の前記少なくとも1つのパラメータ(P)は、
レーザ走査速度、
ステージ走査速度、
対物レンズ倍率、
対物レンズ開口数、
画像走査フォーマットまたは画素サイズ、
画像走査幅または物理的画像サイズ、
ズーム値、
のうちの少なくとも1つであり、
前記動的帯域幅制御ユニット(500)は、前記ロックインアンプ(300)の前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値を、復調された信号における潜在的な最高の時間周波数に依存して制御するように構成されており、
前記復調された信号における前記潜在的な最高の時間周波数は、以下の式
【数1】
によって与えられ
、
λは、オブジェクト上に集束される光の波長であり、
NA
MO
は、顕微鏡対物レンズの開口数であり、
F
Sys
は、顕微鏡光学系の倍率に依存しているシステム依存長さであり、
M
MO
は、前記顕微鏡対物レンズの倍率であり、
Zoomは、前記顕微鏡のビーム経路の追加的な倍率を表す値であり、
fillは、レーザ走査のデューティ比であり、
f
scan
は、走査周波数である、
電気回路。
【請求項2】
前記顕微鏡(20)の現在の設定の前記少なくとも1つのパラメータ(P)の前記関数は、
前記レーザ走査速度に比例、
前記ステージ走査速度に比例、
前記対物レンズ倍率に反比例、
前記対物レンズ開口数に比例、
前記画像走査フォーマットまたは前記画素サイズに比例、
前記画像走査幅または前記物理的画像サイズに比例、
前記ズーム値に反比例、
のうちの少なくとも1つである、
請求項1記載の電気回路。
【請求項3】
前記動的帯域幅制御ユニット(500)は、前記ロックインアンプ(300)の前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値を、
前記波長λ、
前記開口数NA
MO、
前記システム依存長さF
Sys、
前記倍率M
MO、
前記値Zoom、
前記デューティ比fill、
前記走査周波数f
scan、
のうちの少なくとも1つに依存して制御するように構成されている、
請求項1または2記載の電気回路。
【請求項4】
前記動的帯域幅制御ユニット(500)は、前記ロックインアンプ(300)の前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値を、
オブジェクト上に集束される光の波長λに反比例、
顕微鏡対物レンズの開口数NA
MOに比例、
顕微鏡光学系の倍率に依存しているシステム依存長さF
Sysに比例、
前記顕微鏡対物レンズの倍率M
MOに反比例、
前記顕微鏡のビーム経路の追加的な倍率を表す値Zoomに反比例、
前記レーザ走査のデューティ比fillに反比例、
走査周波数f
scanに比例、
のうちの少なくとも1つである関数として制御するように構成されている、
請求項3記載の電気回路。
【請求項5】
前記動的帯域幅制御ユニット(500)は、前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値を、前記顕微鏡(20)の現在の設定の前記少なくとも1つのパラメータ(P)の前記関数として計算する制御回路機能を含み、
計算された前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値が前記ロックインアンプ(300)に設定され、少なくとも1つの画像取得が実施され、取得された信号の測定帯域幅スペクトラムが分析される、
請求項1から4までのいずれか1項記載の電気回路。
【請求項6】
前記動的帯域幅制御ユニット(500)は、ハードウェアモジュールおよび/またはソフトウェアモジュールとして形成されている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の電気回路。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の電気回路を含む顕微鏡(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡のための電気回路と、このような電気回路を有する顕微鏡と、に関する。本発明の主題は、好ましくは、誘導ラマン散乱顕微鏡(SRS)[1,2]との関連において有用であり、種々のイメージング設定に対して最適にイメージングするための自動適合可能なロックイン検出帯域幅(または時定数)を提供する。
【背景技術】
【0002】
最近、コヒーレントラマン散乱顕微鏡(CRSM)は、生物学的/薬学的/食品科学関連の標本の化学的なイメージングを実施するための多くの重要性および使用法を獲得している。伝統的なラマン顕微鏡に比べてCRSMの利点は、イメージングがより高速であることである。コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS)、ラマン誘起カー効果散乱(RIKES)、および誘導ラマン散乱(SRS)が、種々のCRSM技術を構成している。
【0003】
CRSM技術は、100fs~20psのそれぞれ異なる波長のパルス幅を有する2つのパルス状の(典型的には1~100MHzの周波数を有する)光照射野からなり、これらの光照射野は、共焦点顕微鏡システムを通ってルーティングされ、関心対象の試料上で緊密に集束される。ビームルーティング装置および集束光学系は、2つの光照射野が試料において空間的および時間的にオーバーラップするように形成されている。SRSまたはヘテロダインRIKESイメージングの場合には、2つのビームのうちの一方が、典型的にはkHz~MHz範囲の特定の周波数Ωによって強度変調または周波数変調または偏光変調され、その後、試料における他方の光照射野と相互作用する。
【0004】
SRSおよびRIKESイメージングの場合には、初期変調されていない光ビームが検出され、ロックイン[1-2,5]または包絡線検出技術[6]を使用して強度の変調が抽出され、画像として表示される。CARSおよびCSRSの場合には、試料との相互作用により、第3の光照射野が検出され、画像として表示される[7-9]。上記の全てのCRSM技術では、入射野間の周波数差が試料における振動共振周波数と一致する場合にのみ信号が強くなる。
【0005】
種々のコヒーレントラマンイメージング技術の中で、SRSイメージングは、画像における非共振的な背景がないので近年普及してきている。以下では、もっぱらSRSイメージングの方法論に傾注されている。しかしながら、導かれた結論は、CRSM、CARS、CSRS、およびRIKESイメージングに直接的に適用可能である。単純に、これらの信号を抽出するための適切な偏光素子、検出ユニット、および光学フィルタの使用の問題であり、これらは周知であり、既存の文献に記載されている。
【0006】
図1に、典型的なSRS顕微鏡システム20が示されている。2つのパルスレーザ源(レーザ1およびレーザ2)は、それぞれSRSイメージングのためのいわゆる「ストークス」ビームおよび「ポンプ」ビームを生成する(時間t軸上に強度が示されている
図2のウィンドウ100を参照)。典型的に、CRSM文献では、比較的短い波長を有するレーザ源は「ポンプ」と呼ばれており、比較的長い波長を有するレーザは「ストークス」ビームと呼ばれている。一方のビーム(レーザ1)は、変調器3、例えばAOM(音響光学変調器)またはEOM(電気光学変調器)を用いて振幅変調され、ダイクロイック4を用いて第2のレーザ源(レーザ2)と共線的に結合される。変調器3は、RF周波数信号を供給するRF駆動部9によって駆動される。
【0007】
2つのレーザ源の時間的なオーバーラップは、(好ましくは可変の)光学遅延ステージ5によって保証されている。組み合わされたビームは、走査装置またはレーザ走査(共焦点)顕微鏡6を通って進行し、顕微鏡対物レンズ(図示せず)の焦点において被検試料と相互作用する。レーザ1のビームは、試料の後ろで、ブロッキングフィルタ11によってブロックされる。
【0008】
試料との相互作用により、レーザ2の光は、レーザ1の光の変調周波数に対応する周波数を有する微小な振幅変調を獲得する(
図2、ウィンドウ200を参照)。
【0009】
両方のビームが試料に当たると、レーザ2の光は、レーザ2の光の相対的な(レーザ1の光に対する)波長に応じてエネルギを獲得または損失する可能性がある。レーザ2の波長がレーザ1の波長よりも短い場合、すなわちλレーザ2<λレーザ1の場合には、強度損失ISRLが存在し、そうでない場合には、利得ISRGが存在する。
【0010】
レーザ2のこの極めて小さい利得または損失は、敏感検出器7と、信号抽出エレクトロニクス8と、を用いて検出される。後者の電子ユニットは、ロックインアンプ/ミキサを含むことができ、すなわち、SRS信号は、局部発振器としての変調器3のRF駆動周波数を用いて復調される。その結果として得られた信号は、画像の表示、保存または分析10へとルーティングされる。
【0011】
適切な検出器と、低ノイズのエレクトロニクスと、を使用することにより、SRSイメージングを、リアルタイムイメージング(25フレーム/秒)のために十分に敏感なものにすることが可能であることが実証されている[3]。
【0012】
ロックインアンプは、変調されたSRS信号を抽出するために必要な検出エレクトロニクスの重要なコンポーネントである。SRS検出は、包絡線検出エレクトロニクス[6]を使用して実装されてきたが、ロックイン検出を使用することにより、フレキシブルな検出帯域幅(変化のあるレーザスキャン周波数を示唆する)と、より良好な信号直線性と、が提供される。
【0013】
図3に示されるような基本的なロックインアンプ300は、電子ミキサ301を含み、電子ミキサ301は、振幅変調された信号sと、参照クロック信号rと、を入力として受信する。ロックインアンプ300は、rによって与えられる基準周波数においてsの復調された信号を出力として供給する。さらに、市販のロックインアンプは、入力ポートおよび/または出力ポートにおいて、ある程度の量の信号増幅303およびフィルタリング302を提供することができる。抽出された信号oの周波数帯域幅は、ミキサの出力段におけるフィルタ302の帯域幅設定BWに依存している。この帯域幅設定は、典型的には数10Hzから数MHz(または数10秒から数ナノ秒と同等)の範囲である。
【0014】
SRSイメージングのセッションでは、通常、良好な画像を取得するために、またはイメージングされるオブジェクトのうちの、顕微鏡のユーザにとって関心のある1つ/複数の部分を含む画像を取得するために、種々の画像取得パラメータが変更される。例えば、ラマン信号は、指紋領域(500cm-1~1800cm-1)では格段に弱いので、良好なSRS画像を獲得するためには、画素滞留時間を長くし、低速での走査を実施する必要があろう。イメージング要件に基づいて変更されうる他の取得パラメータには、レーザ走査/ステージ走査速度、対物レンズ倍率、対物レンズ開口数、画像走査フォーマット(画素サイズ)、画像走査幅(物理的画像サイズ)、画素滞留時間、ズーム等が含まれる。これらの値のいずれかを変更すると、変調された信号の帯域幅が異なることとなろう。ロックイン時定数が固定されている場合には、これらのパラメータを変更すると、画質が低下する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の課題は、ロックイン出力フィルタ帯域幅の適切な設定を提供することである。好ましくは、あらゆる所与の画像取得パラメータに対しても、信号対雑音比に関して良好な画像を獲得することを可能にすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、ロックインアンプを含む、顕微鏡、とりわけコヒーレントラマン散乱顕微鏡(CRSM)、コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS)顕微鏡、ラマン誘起カー効果散乱(RIKES)顕微鏡、誘導ラマン散乱(SRS)顕微鏡、またはポンププローブ顕微鏡のための電気回路において、前記ロックインアンプは、入力信号のための入力部と、参照信号のための入力部と、出力信号のための出力部と、帯域幅フィルタ装置と、を含み、前記帯域幅フィルタ装置は、低帯域幅周波数値および/または高帯域幅周波数値が可変に設定可能となるように適合されており、前記電気回路は、動的帯域幅制御ユニットを含み、前記動的帯域幅制御ユニットには、前記顕微鏡の現在の設定の少なくとも1つのパラメータが入力され、前記動的帯域幅制御ユニットは、前記ロックインアンプの前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値を、前記顕微鏡の現在の設定の前記少なくとも1つのパラメータの関数として制御するように適合されている、電気回路と、このような電気回路を有する顕微鏡(システム)、とりわけ上述した種類のうちの1つの顕微鏡と、が提案される。有利なさらなる発展形態は、従属請求項の主題と、後続する説明の主題と、を形成する。
【0017】
本発明は、後続の信号処理および/または画像処理のための出力信号として最大測定帯域幅スペクトラムが得られるように、ロックインアンプの帯域幅を現在の設定に適合させることが可能となるという利点を提供する。
【0018】
本発明は、例えば、種々のイメージング設定に対して最適にイメージングするための自動適合可能なロックイン検出帯域幅(または時定数)を有する誘導ラマン散乱顕微鏡(SRS)を実現するための方法および装置を記載する。本発明の1つの態様は、所与の画像取得パラメータの設定に対して高品質の画像および/またはできるだけ最良の画像を提供するために、ロックイン帯域幅/時定数が自動的に適合(増加または減少)される装置および方法を提供することである。上述した装置は、OHD-RIKES[2]およびポンププローブ顕微鏡技術[4]のような他のロックインベースのイメージング技術に直接的に適用可能である。
【0019】
有利には、前記顕微鏡の現在の設定の前記少なくとも1つのパラメータは、画素滞留時間、レーザ走査速度、ステージ走査速度、対物レンズ倍率、対物レンズ開口数、画像走査フォーマットまたは画素サイズ、画像走査幅または物理的画像サイズ、およびズーム値のうちの少なくとも1つである。好ましい実施形態によれば、前記顕微鏡の現在の設定の前記少なくとも1つのパラメータの前記関数は、前記画素滞留時間に反比例、前記レーザ走査速度に比例、前記ステージ走査速度に比例、前記対物レンズ倍率に反比例、前記対物レンズ開口数に比例、前記画像走査フォーマットまたは前記画素サイズに比例、前記画像走査幅または前記物理的画像サイズに比例、および前記ズーム値に反比例のうちの少なくとも1つである。これらのパラメータを使用することにより、測定帯域幅を現在の顕微鏡設定に簡単に適合させることが可能となる。
【0020】
好ましくは、前記動的帯域幅制御ユニットは、前記ロックインアンプの前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値を、復調された信号における潜在的な最高の時間周波数に依存して制御するように適合されており、すなわち、前記動的帯域幅制御ユニットは、前記ロックインアンプの前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値を、前記潜在的な最高の時間周波数に依存している値に設定するように適合されている。好ましくは、前記値は、前記潜在的な最高の時間周波数に等しいか、または前記潜在的な最高の時間周波数から最大で10%、20%、30%、40%、または50%だけ異なる。このようにして、良好で適切な帯域幅スペクトラムが獲得される。
【0021】
有利には、前記動的帯域幅制御ユニットは、前記ロックインアンプの前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値を、オブジェクト上に集束される光の波長λ、顕微鏡対物レンズの開口数NAMO、顕微鏡光学系の倍率に依存しているシステム依存長さFSys、前記顕微鏡対物レンズの倍率MMO、前記顕微鏡のビーム経路の追加的な(好ましくは可変に設定可能な)倍率を表す値Zoom、前記レーザ走査のデューティ比fill、および走査周波数fscanのうちの少なくとも1つに依存して制御するように適合されている。これにより、帯域幅を正確にチューニングすることが可能となる。
【0022】
好ましい実施形態によれば、前記動的帯域幅制御ユニットは、前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値を、前記顕微鏡の現在の設定の前記少なくとも1つのパラメータの関数として計算する制御回路機能を含み、計算された前記低帯域幅周波数値および/または前記高帯域幅周波数値が前記ロックインアンプに設定され、少なくとも1つの画像取得が実施され、取得された信号の測定帯域幅スペクトラムが分析される。
【0023】
前記動的帯域幅制御ユニットは、ハードウェアモジュールおよび/またはソフトウェアモジュールとして形成することができ、とりわけASIC(特定用途向け集積回路)として、またはFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはDSP(デジタルシグナルプロセッサ)において形成することができる。
【0024】
本発明のさらなる利点および実施形態は、明細書および添付の図面から明らかになるであろう。
【0025】
上述した特徴および以下に後述する特徴は、それぞれ指示された組み合わせで使用可能であるのみならず、本発明の範囲から逸脱することなく、別の組み合わせまたは単独でも使用可能であることに留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のために使用可能なSRS顕微鏡システムの好ましい実施形態を示す図である。
【
図2】本発明のために使用可能なSRS顕微鏡システムにおける入力レーザビーム強度および出力レーザビーム強度を示す図である。
【
図3】本発明のために使用可能なロックインアンプの好ましい実施形態を示す図である。
【
図4】本発明のために使用可能なロックインアンプにおける例示的な信号を示す図である。
【
図5】本発明によるロックインアンプおよび動的帯域幅制御ユニットの好ましい実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、本発明を、
図1~
図3に示されるようなSRS顕微鏡システムに基づいて例示的に説明する。
【0028】
SRSイメージングの場合には、レーザ走査またはステージ走査に起因して、変調されたSRS信号の帯域幅に基づいて正しい帯域幅を選択することが非常に有利である。すなわち、信号帯域幅よりも格段に広いロックイン出力フィルタ帯域幅を選択すると、ノイズの多い画像がもたらされることとなり、他方で、狭いフィルタ帯域幅を設定すると、ぼやけた画像がもたらされることとなる。
【0029】
まず始めに、レーザ走査システムの場合を考える。変調された信号の帯域幅は、照射/励起レーザビームがオブジェクトを横切って走査する速度によって決定される。取得された画像における1つの点または1つの画素として表される、試料オブジェクトにおける長さとして、w
pixelが定義される場合には、画素を横切るレーザビームの通過速度は、以下の式
【数1】
によって与えられ、ただし、t
pixelは、画素滞留時間である。
【0030】
画素幅wpixelは、共焦点スキャナにおける(a)対物レンズおよび(b)リレー光学系の倍率によって決定され、また、レーザ光が走査する長さにも基づいており、これは、典型的な市販のレーザ走査顕微鏡システムにおける「ズーム(Zoom)」パラメータによって与えられる。
【0031】
他方で、画素滞留時間t
pixelは、レーザ走査の周波数と、1ラインの画素数と、1ラインを走査するために要する時間と、によって決定される。画素滞留時間は、以下のように表すことができる。
【数2】
ただし、
fillは、レーザ走査のデューティ比(レーザがイメージング/励起のためにオンである1走査周期の比)であり、
f
scanは、走査周波数であり、
N
pixelsは、画像の1ラインの画素数である。
【0032】
画素サイズは、以下の式によって与えられる。
【数3】
ただし、
F
Sysは、リレー光学系の倍率と、走査レンズ/チューブレンズの組み合わせと、に依存しているシステム依存長さであり、
M
MOは、対物レンズの倍率であり、
Zoomは、顕微鏡のビーム経路の追加的な(好ましくは可変に設定可能な)倍率を表す値である。
【0033】
上記の各式に基づいて、画素を横切るレーザスポットの通過速度は、以下の式によって与えられる。
【数4】
【0034】
集束されたスポットのサイズは、エアリー直径D
Airyによって決定されるので、試料を横切るレーザスポットの走査に起因して生成される最高の時間周波数を、以下のようにして推定することができる。
【数5】
ただし、
D
Airy=1.22λ/NA
MOは、エアリー直径であり、
λは、試料上で集束されている光の波長であり、
NA
MOは、対物レンズの開口数である。
【0035】
したがって、復調された信号(例えば、
図2のミキサ301の出力)における潜在的な最高の時間周波数は、以下の式によって与えられる。
【数6】
【0036】
このようにして、復調された信号の周波数内容は、種々のシステムパラメータおよび走査パラメータに依存している。これらのパラメータのうちのいずれかが変化すると、信号の周波数内容が変化することとなる。したがって、出力ローパスフィルタは、fHighを通過させるために十分に広い帯域幅を有するべきであるが、広すぎてはいけない。さもなければ、fHighを越える周波数スペクトラムに由来するノイズを伴う、ノイズの多い画像がもたらされることとなろう。
【0037】
典型的なレーザ走査実験では、「ズーム」係数を変更し、画像のある部分をズームして、特定の領域をより詳細に視覚化することが望まれる。このズームは、市販の顕微鏡システムにおいて最大で64倍まで変化する可能性がある。同様に、走査周波数fscanは、他の全てのパラメータが一定であれば、市販の顕微鏡システムにおいて最大で1200倍まで変化する可能性がある。このことは、fHighが3桁変化する可能性があることを示唆している。
【0038】
図4に、走査パラメータに対する信号帯域幅の依存性の代表的な例が示されている。
図4は、アジレント社(Agilent)製のスペクトラムアナライザ(モデルE7401A)を用いて測定された周波数領域における信号のスクリーンショットである。線401は、検出器に光が入射していない場合におけるベースラインノイズ曲線に対応する。線402は、ズームパラメータが0.75に設定されている状態で生成された信号に対応する。線403は、ズームパラメータが1.0に設定されている状態の信号に対応する。
【0039】
これら3つの曲線を生成するための残りの走査パラメータは、
MMO=20、NAMO=0.75、fscan=600Hz、およびNpixels=512
である。
【0040】
曲線402と曲線403との差を明確に見て取ることができる。すなわち、より大きなズームでは、レーザは、それぞれの画素を若干より緩慢に通過する。結果として、このことにより、より大きなズームでは信号帯域幅が減少することとなる。固定された帯域幅のローパスフィルタを有していれば、「ズーム」が増加したときに、信号対ノイズ比に関して画像の劣化がもたらされることであろう。その代わりに、フィルタの帯域幅が本発明に基づいてチューナブルである場合には、走査/顕微鏡パラメータのどのような変化にも関係なく画質を保持することが可能となる。
【0041】
したがって、顕微鏡のユーザによって引き起こされうる走査パラメータの変化を考慮し、出力ローパスフィルタの帯域幅を変更して、後続の処理または表示または保存のためにできるだけ高い信号周波数を通過させるような電子回路、またはソフトウェアモジュールもしくはハードウェア/ソフトウェアモジュールの組み合わせを使用することが提案される。
【0042】
図5に、本発明の概念の図的表現が示されている。本発明の特定の実施形態において、スイス国チューリッヒのチューリッヒインスツルメンツ社(Zurich Instruments AG)製の市販のロックインUHFLIを、ソフトウェアモジュール500と共に使用した。なお、後者のソフトウェアモジュール500は、走査パラメータPを決定し、帯域幅値BWを計算し、この値をロックインアンプユニット300に設定する。
【0043】
同様の分析を、ステージ走査型の顕微鏡に対して実施することができ、この場合には、画素滞留時間tpixelおよび画素幅wpixelが、それぞれステージスキャナの速度と、焦点のエアリー直径と、によって与えられることに留意すべきである。しかしながら、上述した基本的な考え方は依然として有効であり、この場合にも容易に適用することが可能である。
【0044】
参照文献
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