(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】共通軽鎖を有するトランスジェニックウサギ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220610BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20220610BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20220610BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20220610BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220610BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20220610BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/85 Z
A01K67/027
C12N5/0781
C12P21/08
C07K16/46
(21)【出願番号】P 2018522020
(86)(22)【出願日】2016-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2016075882
(87)【国際公開番号】W WO2017072208
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2019-10-11
(32)【優先日】2015-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2016-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】プラッツァー ジョセフ
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-502203(JP,A)
【文献】特表2015-515275(JP,A)
【文献】国際公開第2015/085847(WO,A1)
【文献】特表2011-518886(JP,A)
【文献】特表2011-527887(JP,A)
【文献】特表2011-526792(JP,A)
【文献】国際公開第2014/051433(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/130172(WO,A1)
【文献】Woyach, J. A. et al.,The B-cell receptor signaling pathway as a therapeutic target in CLL,Blood,2002年,Vol. 120(6),pp. 1175-1184
【文献】松本 隆志,ヒト抗体の開発と応用はどこまで進んでいるか,化学と生物,Vol. 36(7),1998年,pp. 448-456
【文献】Flisikowska, T. et al.,Efficient immunoglobulin gene disruption and targeted replacement in rabbit using zinc finger nucleases,PLoS One,2011年,Vol. 6(6):e21045,pp. 1-10
【文献】P01597,Uniprot[online],2015年09月16日,https://www.uniprot.org/uniprot/P01597.txt?version=83,[retrieved on 11.17.2020]
【文献】Bruggemann, M. et al.,Human antibody production in transgenic animals,Arch. Immunol. Ther. Exp.,2015年,Vol. 63(2),pp. 101-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト化軽鎖遺伝子座を含むトランスジェニックベクターに存在するヒト化免疫グロブリン遺伝子座を含む、トランスジェニックウサギ
であって、該ヒト化軽鎖遺伝子座が以下:
(a)V遺伝子セグメントとして、ヒト軽鎖VセグメントIGKV1-39-01;
(b)該軽鎖遺伝子セグメントの3'近位に、プロモーター;および
(c)該軽鎖遺伝子セグメントの5'近位に、ヒトIGKJ4 J要素
を含み、かつ該トランスジェニックウサギが、以下:
(1)8つのヒトVH要素、ヒトJH1~JH6要素、ヒトbcl2コード配列に融合したヒトCμコード領域、およびヒトCγコード領域によって置換されたウサギ免疫グロブリン重鎖遺伝子座を含む、導入遺伝子;
(2)ヒトVκ要素IGKV1-39-01およびヒトIgKJ4 J要素を含む、ウサギ免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を含む、導入遺伝子;
(3)ヒトCD79αおよびCD79β遺伝子座からの導入遺伝子;ならびに
(4)ウサギCμおよびウサギCκ遺伝子座内の機能欠失変異
をさらに含む、前記トランスジェニックウサギ。
【請求項2】
前記トランスジェニックベクターに存在するヒト化免疫グロブリン遺伝子座を含む、請求項
1記載のトランスジェニックウサギ由来のB細胞。
【請求項3】
請求項
1記載のトランスジェニックウサギを用いて、ヒト化免疫グロブリンを産生するための方法。
【請求項4】
ヒト化免疫グロブリンが抗体であることを特徴とする、請求項
3記載の方法。
【請求項5】
ヒト化免疫グロブリンがポリクローナル抗体であることを特徴とする、請求項
3~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
ヒト化免疫グロブリンがモノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項
3~4のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ヒト抗体を産生するトランスジェニックウサギの生成に有用である共通軽鎖遺伝子座を、本明細書において報告する。また、共通軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列、該共通軽鎖可変ドメインを含む多特異性抗体、および各共通軽鎖遺伝子座を含むトランスジェニックウサギも、本明細書において報告する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多特異性抗体の産生は、不対合および誤対合の副産物の形成をもたらす、鎖の誤対合の問題により妨げられる。選択される方式によっては、無視できない数および量のこれらの副産物が形成されうる。
【0003】
この問題に対処するための様々なアプローチが開発されてきた。
【0004】
重鎖の誤対合を減らすため、ノブ・イントゥ・ホール技術(例えば、Ridgway, J.B., et al. Prot. Eng. 9 (1996) 617-621を参照)またはCrossMab方式(例えば、Schaefer, W., et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA 108 (2011) 11187-11192を参照)が報告されている。
【0005】
軽鎖の誤対合を減らすため、共通軽鎖を使用しうる。このアプローチでは本質的に、一対の抗体重鎖可変ドメインおよび抗体軽鎖可変ドメインによってそれぞれ形成される、2つの結合部位に関して、同じ抗体軽鎖可変ドメインを用いなければならない。
【0006】
ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含む非ヒト動物を用いて、共通軽鎖を有する単一特異性抗体を産生することができる。このような動物におけるヒト免疫グロブリン遺伝子座は概して、少ない限られた数の重鎖生殖系列遺伝子、再編成された生殖系列重鎖遺伝子または重鎖V遺伝子セグメント、および単一の軽鎖遺伝子を含む。抗体を産生するためにこのような非ヒト動物を免疫すると、誘発される免疫反応は、複数の異なる重鎖可変ドメインを有するが、軽鎖可変ドメインはただ1つである抗体を含む。
【0007】
新たに生成される抗体に組み込むのに適した新規の共通軽鎖の設計および開発には、大変な労力を要する。したがって、このアプローチは、さらなる最適化が必要とされ、配列を修正しなければならない可能性が非常に高いため、多特異性組換え抗体を開発する上で第一の選択肢とは考えられない。
【0008】
共通軽鎖およびこのような共通軽鎖を生成する方法は、例えばWO 98/50431、WO 2010/084197、US 2013/045492、WO 2011/097603およびWO 2012/148873に報告されている。
【0009】
WO 2004/009618において、共通VLがSEQ ID NO: 1(UBS54およびK53に含まれる)において報告されている。SEQ ID NO: 18には、CD22に対するファージ(クローンB28)、CD72に対するファージ(クローンII-2)、およびHLA-DRに対するファージ(クラスII;クローンI-2)から得られる共通軽鎖が報告されている。
【0010】
US 2007/098712において、抗Ob-R抗体クローン26および抗HER3抗体クローン18の共通VL配列を用いて、二重特異性抗体が構築された。また、抗Mpl scFv 12B5(GenBankアクセッション番号AF048775)および抗HER3 scFvクローンH6(GenBankアクセッション番号AF048774)が、同一のVL配列および実質的に異なるVH配列を使用することも報告されている。
【0011】
WO 2010/84197において、重鎖および軽鎖を含む組換え抗体であって、該軽鎖がSEQ ID NO: 8に記載される配列を含む、抗体が報告されている。SEQ ID NO: 8はVセグメントVKVI-2-l-(l)-A14(IGKV6D-41*01)のアミノ酸配列である。さらなる共通軽鎖のアミノ酸配列がSEQ ID NO: 12~14に報告されている。
【0012】
別の共通軽鎖のアプローチがUS 2010/0331527に報告されており、この文献では特異性の異なる2つの抗体が同じ軽鎖を用いている。
【0013】
WO 2011/097603において、ヒトVカッパ1-39Jカッパ5遺伝子座、ヒトVカッパ3-20Jカッパ1遺伝子座、およびヒトVプレBJラムダ5遺伝子座に基づく、操作されたヒトVカッパおよびVラムダ共通軽鎖が報告されている。
【0014】
共通軽鎖およびそれらを作製する方法は、US 2012/0192300、US 2012/021409、US 2011/0195454、およびUS 2013/0045492において報告されている。
【0015】
WO 2012/018764において、遺伝子改変マウスならびにそれらを作製および使用する方法が報告されており、これらのマウスは、全てのまたは実質的に全ての免疫グロブリン重鎖V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント、およびJ遺伝子セグメントの、少なくとも1つの軽鎖V遺伝子セグメントおよび少なくとも1つの軽鎖J遺伝子セグメントによる置換を含む。
【0016】
WO 2013/157953において、再編成された生殖系列のヒトカッパ軽鎖IgVK1-39/JKまたはIGVK3-20/JKに由来する、生殖系列様共通軽鎖が報告されている。
【0017】
WO 2014/22540において、普遍的軽鎖は、VK1-39軽鎖およびVK3-20軽鎖から選択されるκ軽鎖でありうるか、またはVL1-40軽鎖およびVL2-14軽鎖から選択されるλ軽鎖でありうると概説されている。具体的な態様において、ヒトVL遺伝子セグメントは、ヒトVK1-39JK5遺伝子セグメントまたはヒトVK3-20JK1遺伝子セグメントである。
【0018】
WO 2014/51433において、ヒト再編成カッパ軽鎖IgVK1-39*01/IgJK1*01である、共通軽鎖012が報告されている。この配列は、ヒトレパートリーにおいて頻用され、多数の異なるVH領域と対になる優れた能力を有する生殖系列の配列であり、良好な熱力学的安定性、収量、および可溶性を有する。
【0019】
US 2015/037337において、ヒトJH6*02は、ヒトにおける共通の保存された変種であり、そのため、トランスジェニックIgH遺伝子座を構築するための適切な候補であることが報告されている。
【0020】
WO 2015/052230では、SEQ ID NO: 6において、改変された重鎖CH3-CH2-CH1-VLのアミノ酸配列が報告されており、ここでVLは共通軽鎖(CLC-Fc cross-Mab)の可変ドメインである。
【0021】
WO 2015/153765では、SEQ ID NO: 78および79のN末端-VL-CK-C末端融合ポリペプチドにおいて、共通軽鎖が報告されている。
【0022】
ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むトランスジェニックウサギは、WO 2000/46251、WO 2002/12437、WO 2005/007696、WO 2006/047367、US 2007/0033661、およびWO 2008/027986において報告されている。
【発明の概要】
【0023】
本明細書において報告される1つの局面は、以下のアミノ酸配列
またはその変種を有する、共通抗体軽鎖可変ドメインである。
【0024】
本明細書において報告される1つの局面は、以下のアミノ酸配列
またはその変種を有する軽鎖可変ドメインを含む、共通抗体軽鎖である。
【0025】
1つの態様において、共通軽鎖は13個までのアミノ酸変異を含む。1つの好ましい態様において、共通軽鎖は13個までのアミノ酸変異を含み、このうち多くて11個がHVRに存在する。
【0026】
1つの態様において、共通軽鎖は11個までのアミノ酸変異を含む。
【0027】
1つの態様において、共通軽鎖はSEQ ID NO: 01のアミノ酸配列内に1~11個のアミノ酸変異を含む。1つの好ましい態様において、共通軽鎖はSEQ ID NO: 01内に1~13個のアミノ酸変異を含み、このうち多くて11個がHVRに存在する。
【0028】
1つの態様において、本明細書において報告される共通抗体軽鎖の変種は、SEQ ID NO: 01に対して90%またはそれ以上の配列同一性を有する(すなわち、11個までの変異を含む)軽鎖可変ドメインを含む。1つの態様において、配列同一性は95%またはそれ以上である。1つの態様において、配列同一性は98%またはそれ以上である。
【0029】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告される軽鎖を含む抗体である。
【0030】
本明細書において報告される1つの局面は、2つまたはそれ以上の異なる重鎖可変ドメインと、本明細書において報告される2つまたはそれ以上の共通軽鎖可変ドメインとを含む、多特異性抗体である。
【0031】
1つの態様において、多特異性抗体は、2つの異なる重鎖と、本明細書において報告される2つの共通軽鎖可変ドメインまたは2つの共通抗体軽鎖とを含む、二重特異性全長抗体である。
【0032】
1つの態様において、多特異性抗体は、3つの異なる重鎖可変ドメインと、本明細書において報告される3つの共通軽鎖可変ドメインとを含む、三重特異性抗体である。
【0033】
1つの態様において、多特異性抗体は、4つの異なる重鎖可変ドメインと、本明細書において報告される4つの共通軽鎖可変ドメインとを含む、四重特異性抗体である。
【0034】
本明細書において報告される1つの局面は、二重特異性抗体の生成のための、本明細書において報告される共通抗体軽鎖の使用である。
【0035】
1つの態様において、前記使用は、2つの共通抗体軽鎖を第一の抗体重鎖および第二の抗体重鎖と組み合わせることによるものであり、ここで第一の抗体重鎖は共通抗体軽鎖と共に第一の抗原結合部位を形成し、第二の抗体重鎖は共通抗体軽鎖と共に第二の抗原結合部位を形成する。
【0036】
本明細書において報告される1つの局面は、ヒト化免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を含むトランスジェニックベクターであり、該ヒト化免疫グロブリン軽鎖遺伝子座は以下を含む:
(a)ヒト軽鎖VセグメントIGKV1-39-01に由来するV遺伝子セグメント;
(b)該軽鎖遺伝子セグメントの3'近位に、プロモーター;および
(c)該軽鎖遺伝子セグメントの5'近位に、少なくともヒトIGKJ4 J要素の断片。
【0037】
1つの態様において、トランスジェニックベクターはヒト化軽鎖遺伝子座を含み、該ヒト化軽鎖遺伝子座は以下を含む:
(a)V遺伝子として、ヒト軽鎖VセグメントIGKV1-39-01;
(b)該軽鎖遺伝子セグメントの3'近位に、プロモーター;および
(c)該軽鎖遺伝子セグメントの5'近位に、ヒトIGKJ4 J要素またはその機能的断片。
【0038】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告されるトランスジェニックベクターに存在するヒト化免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を含む、トランスジェニックウサギである。1つの態様において、トランスジェニックウサギは、本質的にインタクトな内因性の調節機構および抗体産生機構を有する。
【0039】
1つの態様において、トランスジェニックウサギは以下をさらに含む:
(1)8つのヒトVH要素、ヒトJH1~JH6要素、ヒトbcl2コード配列に融合したヒトCμコード領域、およびヒトCγコード領域によって置換された、ウサギ免疫グロブリン重鎖遺伝子座に由来する導入遺伝子;
(2)ヒトVκ要素IGKV1-39-01およびヒトIgKJ4 J要素を含む、ウサギ免疫グロブリン軽鎖遺伝子座に由来する導入遺伝子;
(3)ヒトCD79αおよびCD79β遺伝子座に由来する導入遺伝子;ならびに
(4)ウサギCμおよびウサギCκ遺伝子座内の機能欠失変異。
【0040】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告されるトランスジェニックウサギ由来のB細胞であって、本明細書において報告されるトランスジェニックベクターに存在するヒト化免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を含む、B細胞である。
【0041】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告されるトランスジェニックウサギを使用して、ヒト免疫グロブリンを産生するための方法である。
【0042】
1つの態様において、ヒト免疫グロブリンは抗体である。1つの態様において、ヒト免疫グロブリンはポリクローナル抗体である。1つの好ましい態様において、ヒト免疫グロブリンはモノクローナル抗体である。
[本発明1001]
二重特異性抗体を生成するための、SEQ ID NO: 01のアミノ酸配列を有するかまたはその変種である可変ドメインを含む共通抗体軽鎖の使用。
[本発明1002]
2つの共通抗体軽鎖を第一の抗体重鎖および第二の抗体重鎖と組み合わせることによる、本発明1001の使用であって、該第一の抗体重鎖が共通抗体軽鎖と共に第一の抗原結合部位を形成し、該第二の抗体重鎖が共通抗体軽鎖と共に第二の抗原結合部位を形成する、使用。
[本発明1003]
共通軽鎖が、SEQ ID NO: 01のアミノ酸配列内に1~11個のアミノ酸変異を含む、本発明1001~1002のいずれかの使用。
[本発明1004]
共通軽鎖が、SEQ ID NO: 01のアミノ酸配列内に1~13個のアミノ酸変異を含み、このうち多くて11個がHVRに存在する、本発明1001~1003のいずれかの使用。
[本発明1005]
2つの重鎖と、SEQ ID NO: 01のアミノ酸配列を有するかまたはその変種である可変ドメインをそれぞれ含む2つの共通軽鎖とを含む、二重特異性全長抗体。
[本発明1006]
ヒト化軽鎖遺伝子座を含むトランスジェニックベクターであって、該ヒト化軽鎖遺伝子座が以下:
(a)V遺伝子セグメントとして、ヒト軽鎖VセグメントIGKV1-39-01;
(b)該軽鎖遺伝子セグメントの3'近位に、プロモーター;および
(c)該軽鎖遺伝子セグメントの5'近位に、ヒトIGKJ4 J要素またはその機能的断片
を含む、トランスジェニックベクター。
[本発明1007]
本発明1005のトランスジェニックベクターに存在するヒト化免疫グロブリン遺伝子座を含む、トランスジェニックウサギ。
[本発明1008]
以下:
(1)8つのヒトVH要素、ヒトJH1~JH6要素、ヒトbcl2コード配列に融合したヒトCμコード領域、およびヒトCγコード領域によって置換された、ウサギ免疫グロブリン重鎖遺伝子座に由来する導入遺伝子;
(2)ヒトVκ要素IGKV1-39-01およびヒトIgKJ4 J要素を含む、ウサギ免疫グロブリン軽鎖遺伝子座に由来する導入遺伝子;
(3)ヒトCD79αおよびCD79β遺伝子座に由来する導入遺伝子;ならびに
(4)ウサギCμおよびウサギCκ遺伝子座内の機能欠失変異
をさらに含む、本発明1007のトランスジェニックウサギ。
[本発明1009]
本発明1006のトランスジェニックベクターに存在するヒト化免疫グロブリン遺伝子座を含む、本発明1007~1008のいずれかのトランスジェニックウサギ由来のB細胞。
[本発明1010]
本発明1007~1008のいずれかのトランスジェニックウサギを用いて、ヒト免疫グロブリンを産生するための方法。
[本発明1011]
ヒト免疫グロブリンが抗体であることを特徴とする、本発明1010の方法。
[本発明1012]
ヒト免疫グロブリンがポリクローナル抗体であることを特徴とする、本発明1010~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
ヒト免疫グロブリンがモノクローナル抗体であることを特徴とする、本発明1010~1011のいずれかの方法。
【発明を実施するための形態】
【0043】
発明の詳細な説明
定義
本明細書において使用される場合、「共通軽鎖可変ドメイン」という用語は、異なる抗体重鎖可変ドメインのアミノ酸配列と対になって、特異性の異なる機能的な抗原結合部位を形成することができる、すなわち同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープに結合することができる、特定の抗体軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列を意味する。共通軽鎖可変ドメインは、1つの態様において、SEQ ID NO: 01に対して少なくとも80%の、もしくは少なくとも90%の、もしくは少なくとも95%の、または好ましい態様において98%を超える、アミノ酸配列同一性を有する。アミノ酸残基の違いは通常、抗原結合にごくわずかしか影響しないか、または全く影響しない。したがって、「共通軽鎖可変ドメイン」という用語には、いくつかの軽微なアミノ酸配列の違いを有するが、抗体の同じ重鎖と対になったとき、同じ特異性および類似の親和性を有する結合部位を形成する、抗体軽鎖可変ドメインも包含される。
【0044】
同一ではないが機能的に同等である共通軽鎖可変ドメインを同定することは、可能である。これは例えば、保存的アミノ酸変異を導入して検査することにより可能であり、ここで保存的アミノ酸変異とは、共通軽鎖が抗体重鎖可変ドメインと対になるとき、結合部位の結合特異性に影響しないか、またはわずかにしか影響しない、共通軽鎖の一部におけるアミノ酸残基の変更である。
【0045】
「機能的に連結された」とは、2つまたはそれ以上の成分の並置であって、そのように記載される成分が、それらが意図された様式で機能することを可能にする関係にある、並置を意味する。例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサーが、結合しているコード配列の転写を制御または調節するようにシスに作用する場合、プロモーターおよび/またはエンハンサーはコード配列に機能的に連結されている。必ずではないが、一般的に、「機能的に連結された」DNA配列は連続しており、分泌リーダーおよびポリペプチドのような領域をコードする2つのタンパク質をつなぐ必要がある場合、連続しておりかつイン(リーディング)フレームである。しかしながら、機能的に連結されたプロモーターは一般的にコード配列の上流に位置するが、該配列に必ずしも連続していない。エンハンサーは連続する必要はない。エンハンサーがコード配列の転写を増大させる場合、エンハンサーは該コード配列に機能的に連結されている。機能的に連結されたエンハンサーは、コード配列の上流、中または下流に、かつプロモーターからかなり離れて位置しうる。転写がコード配列を通ってポリアデニル化配列へと進行するように、ポリアデニル化部位がコード配列の下流端に位置する場合、ポリアデニル化部位はコード配列に機能的に連結されている。翻訳がコード配列を通って終止コドンへと進行しそこで終結するように、翻訳終止コドンがコード配列の下流端(3'末端)に位置する場合、翻訳終止コドンはエキソンの核酸配列に機能的に連結されている。当技術分野において公知の組換え法、例えばPCR手法を用いて、および/または好都合な制限部位での連結によって、結合が成される。好都合な制限部位が存在しない場合、従来の慣例に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが使用される。
【0046】
「単離された」抗体は、その天然環境の構成要素から分離された抗体である。いくつかの態様において、例えば電気泳動(例えばSDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えばイオン交換または逆相HPLC)によって測定すると、抗体は、95%または99%を超える純度に精製される。抗体純度を評価する方法の総説については、例えばFlatman, S. et al, J. Chromatogr. B 848 (2007) 79-87を参照。
【0047】
「単離された」核酸とは、その天然環境の構成要素から分離された核酸分子を意味する。単離された核酸には、その核酸分子を通常含む細胞に包まれる核酸分子であるが、染色体外に存在するか、またはその天然の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置にある、核酸分子が含まれる。
【0048】
本明細書において使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、本質的に均一の抗体集団から得られる抗体を意味し、すなわち、一般に少量存在する潜在的な変種抗体(例えば天然に存在する変異を含むか、またはモノクローナル抗体製剤の産生中に生じる変種抗体)を除いて、該集団を構成する個々の抗体は、同一である、および/または同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対して向けられた異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して向けられる。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の特性を示しており、任意の特定の方法による抗体の産生が必要とされると解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全てまたは一部を含むトランスジェニック動物を用いる方法などの方法、ならびに本明細書に記載されるモノクローナル抗体を作製するための他の例示的方法を含むが、これらに限定されない、様々な手法によって作製されてよい。
【0049】
基準ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、基準ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージと定義され、これは、配列を整列させてギャップを導入し、必要であれば最大パーセントの配列同一性を得て、いかなる保存的置換も配列同一性の一部とは見なさない上での、パーセンテージである。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的での整列化は、当技術分野の範囲内の様々な手段、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを用いて、達成されうる。当業者は、比較する配列の全長にわたって最大の整列化を達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含む、配列の整列化に適したパラメータを決定することができる。しかしながら、本明細書における目的では、アミノ酸配列同一性%の値は、配列比較コンピュータプログラムであるALIGN-2を用いて生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはGenentech, Inc.によって開発され、ソースコードはユーザー文書と共に米国著作権局、Washington D.C.、20559に提出されており、米国著作権登録第TXU510087号として登録されている。ALIGN-2プログラムはGenentech, Inc.、South San Francisco、Californiaから公的に入手可能であるか、またはソースコードからコンパイルされてもよい。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステム上で使用するためにコンパイルされるべきである。全ての配列比較パラメータはALIGN-2プログラムによって設定され、変更しない。
【0050】
アミノ酸配列の比較のためにALIGN-2を使用する状況では、所定のアミノ酸配列Bとの、または所定のアミノ酸配列Bに対する、所定のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(あるいは、所定のアミノ酸配列Bとの、もしくは所定のアミノ酸配列Bに対する、ある一定のアミノ酸配列同一性%を有するかもしくは含む、所定のアミノ酸配列A、と表現することができる)は、以下のように算出される:
100×分数X/Y
式中、Xは、配列整列化プログラムALIGN-2によるAとBとの整列化において、該プログラムによって同一整合として記録されたアミノ酸残基の数であり、Yは、Bにおけるアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBに対するアミノ酸配列同一性%は、BのAに対するアミノ酸配列同一性%と等しくないと認められる。特に記載しない限り、本明細書において使用される全てのアミノ酸配列同一性%の値は、直前の段落に記載されるように、ALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られる。
【0051】
「薬学的製剤」という用語は、その中に含まれる有効成分の生物学的活性を有効にするような形状の調製物であって、該製剤が投与される対象に対して容認できないほど毒性である付加的成分を含まない、調製物を意味する。
【0052】
哺乳動物における抗体の生成
抗体遺伝子の生成(Molecular Biology of the Cell. 4th edition. Alberts B, Johnson A, Lewis J, et al. New York: Garland Science; 2002;およびImmunobiology: The Immune System in Health and Disease. 5th edition. Janeway, C.A. Jr, Travers P, Walport M, et al. New York: Garland Science; 2001を参照):
λ軽鎖の遺伝子座(第22染色体)は、約30個の機能的なVλ遺伝子セグメントおよび4対の機能的なJλ遺伝子セグメントとCλ遺伝子とを有する。κ遺伝子座(第2染色体)は同様に構成され、5個のJκ遺伝子セグメントからなるクラスターを伴う約40個の機能的なVκ遺伝子セグメント、および単一のCκ遺伝子を有する。およそ50%の個体において、κV遺伝子セグメントのクラスター全体が複製による増加を経験している。重鎖遺伝子座(第14染色体)は、約65個の機能的なVH遺伝子セグメント、およびこれらのVH遺伝子セグメントと6個のJH遺伝子セグメントとの間に位置する、約27個のDセグメントからなるクラスターを有する。重鎖遺伝子座はまた、CH遺伝子の大きなクラスターも含む。重鎖遺伝子座の全長は2メガ塩基(200万塩基)を超えるが、一部のDセグメントはわずか6塩基長である。
【0053】
免疫グロブリンの重鎖または軽鎖のV領域またはVドメインは、複数の遺伝子セグメントによってコードされる。軽鎖に関しては、Vドメインは2つの別々のDNAセグメントによってコードされる。第一のセグメントは軽鎖の最初の95~101アミノ酸をコードし、これはVドメインの大部分をコードすることから、V遺伝子セグメントと呼ばれる。第二のセグメントはVドメインの残りの部分(最大13アミノ酸)をコードし、連結部またはJ遺伝子セグメントと呼ばれる。したがって、免疫グロブリンの可変ドメインにおける3つの超可変ループのうち、2つはV遺伝子セグメントDNA内でコードされるが、3つ目(HV3またはCDR3)はV遺伝子セグメントとJ遺伝子セグメントとの間の連結部にあたり、重鎖においては、部分的にD遺伝子セグメントによってコードされる。重鎖および軽鎖の両方において、CDR3の多様性は、遺伝子セグメント間の接合部を形成する2つの工程における、ヌクレオチドの付加および欠失によって、有意に増加する。付加されたヌクレオチドは、PヌクレオチドおよびNヌクレオチドとして公知である。
【0054】
B細胞の発生中に、(軽鎖の)VおよびJ遺伝子セグメント、ならびに(重鎖の)V、D、およびJ遺伝子セグメントが共に連結され、V(D)J連結と呼ばれる部位特異的組換えのプロセスによって、機能的なVLまたはVH領域コード配列が形成される。保存DNA配列が、各遺伝子セグメントに隣接し、連結プロセスのための認識部位として機能して、適切な遺伝子セグメントのみが組換えられることを確実にしている。したがって、例えばVセグメントは必ずJまたはDセグメントに連結されるが、別のVセグメントには連結されない。連結は、V(D)Jリコンビナーゼと呼ばれる酵素複合体によって媒介される。この複合体は、我々の全ての細胞において損傷したDNAの修復を助ける酵素だけでなく、発生中のリンパ球に特異的な2つのタンパク質を含む。
【0055】
例えば、ヒトκ軽鎖遺伝子セグメントのプールにおける40個のVセグメントはいずれも、少なくとも200(40×5)個の異なるκ鎖V領域がこのプールによってコードされうるように、5個のJセグメントのいずれにも連結されうる。同様に、ヒト重鎖プール中の51個のVセグメントのいずれも、6個のJセグメントのいずれにも、および27個のDセグメントのいずれにも連結されて、少なくとも8262(51×6×27)個の異なる重鎖V領域をコードしうる。
【0056】
上述した遺伝性のV、J、およびD遺伝子セグメントの異なる組み合わせを集合させた結果生じる、組み合わせの多様化は、抗体の抗原結合部位を多様化させるための重要な機構である。この機構のみで、ヒトは287個の異なるVL領域(200個のκおよび116個のλ)および8262個の異なるVH領域を産生することができる。
【0057】
部位特異的組換えの大部分の場合において、DNA連結は正確である。しかし抗体(およびT細胞受容体)遺伝子セグメントの連結中に、組換えている遺伝子セグメントの末端から不定数のヌクレオチドがしばしば欠失し、1つまたは複数の無作為に選択されたヌクレオチドも挿入されうる。この連結部位におけるヌクレオチドの無作為の欠失および獲得は接合多様化と呼ばれ、特に3つ目の超可変領域において、組換えによりもたらされるV領域コード配列の多様性を桁外れに増大させる。
【0058】
本明細書において報告される共通軽鎖
本明細書において、ヒト化軽鎖遺伝子座を報告する。
【0059】
複数のV遺伝子要素を含むがプロモーターと組み合わされている遺伝子要素はただ1つであるヒト化軽鎖免疫グロブリン遺伝子座を、トランスジェニックウサギにおける共通軽鎖遺伝子座として使用することができるという発見に、本発明は少なくとも部分的に基づく。
【0060】
本明細書において報告されるヒト化軽鎖遺伝子座は、以下を含む:
(a)ヒト軽鎖VセグメントIGKV1-39-01に由来するV遺伝子セグメント;
(b)該軽鎖遺伝子セグメントの3'近位に、プロモーター;および
(c)該軽鎖遺伝子セグメントの5'近位に、少なくともヒトIGKJ4 J要素の断片。
【0061】
完全な軽鎖V遺伝子セグメントIGKV1-39-01は、以下の核酸配列を有する(例えば、GenBank X93627、ヒト(Homo sapiens)生殖系列免疫グロブリンカッパ軽鎖、可変領域(DPK9);287bp;SEQ ID NO: 02を参照)。
【0062】
対応するアミノ酸配列は以下(SEQ ID NO: 03)である。
【0063】
全長のヒトIgKJ4
*01/02は、以下の核酸配列(SEQ ID NO: 04)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO: 05)を有する。
【0064】
共通軽鎖の使用は、それぞれ異なるエピトープ/抗原/標的に結合する異なる重鎖可変ドメインを、同じ軽鎖可変ドメインまたはその同じ変種と組み合わせて、副産物の複雑度を低減することによって、多特異性抗体(例えば、二重特異性全長抗体)の生成を可能にする。
【0065】
1つの態様において、ヒト化軽鎖遺伝子座は、25~30個のヒトVκ要素およびヒトCκコード領域を含み、ここで、
(a)3'近位のVκ要素は、ヒト軽鎖VセグメントIGKV1-39-01に由来するV遺伝子セグメントであり;
(b)該3'近位の軽鎖遺伝子セグメント(3'近位)に、プロモーターが機能的に連結されており;かつ
(c)該軽鎖遺伝子セグメントの5'近位に、少なくともヒトIGKJ4 J要素の断片が機能的に連結されている。
【0066】
1つの態様において、プロモーターはヒトカッパ可変領域プロモーター(サブグループVカッパI)である。
【0067】
1つの態様において、V遺伝子セグメントは、ヒトカッパ免疫グロブリン軽鎖のリーダーペプチドをコードする核酸を含む。1つの態様において、リーダーペプチドはSEQ ID NO: 15のアミノ酸配列を有する。
【0068】
1つの態様において、V遺伝子セグメントは、ヒトカッパ免疫グロブリンのリーダーペプチドをコードする核酸、および該リーダーペプチドをコードする核酸配列とV遺伝子セグメントとの間のニワトリ由来のスペーサー配列を含む。1つの態様において、ニワトリ由来のスペーサー配列はSEQ ID NO: 16である。
【0069】
軽鎖免疫グロブリン遺伝子座は、以下の軽鎖Vセグメント(SEQ ID NO: 03、HVRに下線):
および以下のヒトJ要素(SEQ ID NO: 05、HVR-L3の一部に下線):
をコードする。
【0070】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、以下のアミノ酸配列
またはその変種を有する軽鎖可変ドメインを含む、抗体軽鎖である。
【0071】
B細胞の成熟中にウサギにおいて遺伝子変換および過剰変異により生じるこのアミノ酸配列の変種もまた、本明細書に包含される。
【0072】
1つの態様において、(成熟)軽鎖は、HVR以外の軽鎖免疫グロブリン遺伝子座によってコードされる軽鎖に対して、1~4個のアミノ酸変異を含む。
【0073】
1つの態様において、(成熟)軽鎖は、軽鎖免疫グロブリン遺伝子座によってコードされる軽鎖に対して、1~15個のアミノ酸変異を含む。
【0074】
1つの態様において、(成熟)軽鎖は、軽鎖免疫グロブリン遺伝子座によってコードされる軽鎖に対して、1~11個のアミノ酸変異を含む。
【0075】
1つの態様において、(成熟)軽鎖は、軽鎖免疫グロブリン遺伝子座によってコードされる軽鎖に対して、1~15個のアミノ酸変異を含み、そのうち多くて11個はHVR内にある。
【0076】
本明細書において報告される1つの局面は、2つの異なる重鎖と2つの軽鎖とを含む二重特異性全長抗体であって、ここで軽鎖は同一であり、可変ドメインは本明細書において報告されるアミノ酸配列を有する。
【0077】
トランスジェニックウサギ
本明細書において報告される軽鎖遺伝子座は、ヒト免疫グロブリンを産生するトランスジェニックウサギの生成において使用することができる。
【0078】
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告されるヒト化免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を有する、軽鎖トランスジェニックウサギである。
【0079】
トランスジェニックウサギは、ヒト化免疫グロブリン遺伝子座を有し、さらに例えば、抗体の多様性を生成するために遺伝子変換を用いる、野生型ウサギの抗体成熟プロセスも有する。したがって、野生型ウサギの重鎖および軽鎖の遺伝子座は不活化されており、それぞれのヒト化免疫グロブリン導入遺伝子座が該ウサギのゲノムに導入されており、該ウサギがヒト(化)/ヒト様抗体を産生するのを可能にしている。トランスジェニックウサギの遺伝子型は以下のように説明されうる。
トランスジェニックウサギは以下を含む:
(1)8個のヒトVH要素、ヒトJH1~JH6要素、ヒトbcl2コード配列に融合したヒトCμコード領域、およびヒトCγコード領域で置換された、ウサギ免疫グロブリン重鎖遺伝子座に由来する導入遺伝子;
(2)ヒトVκ要素IGKV1-39-01およびヒトIgKJ4 J要素を含む、ウサギ免疫グロブリン軽鎖遺伝子座に由来する導入遺伝子;
(3)ヒトCD79αおよびCD79β遺伝子座に由来する導入遺伝子;ならびに
(4)ウサギCμおよびウサギCκ遺伝子座内の機能欠失変異。
【0080】
本明細書において、ヒト化免疫グロブリン重鎖遺伝子座およびヒト化免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を含むトランスジェニックウサギが報告され、ここで、
i)ヒト化重鎖免疫グロブリン遺伝子座は、ウサギの免疫グロブリン遺伝子座またはその一部に由来し、複数の免疫グロブリン重鎖遺伝子セグメントを含み、ここで、
(a)該重鎖遺伝子セグメントの少なくとも1つは、SEQ ID NO: 06のウサギスペーサー配列(に由来する20個から1000個の連続したヌクレオチド)を含むヌクレオチド配列と隣接している3'近位のV遺伝子セグメントのように、VH3ファミリーのヒト重鎖Vセグメントであり、
(b)該遺伝子セグメントは、再編成されていないか、または部分的に再編成されたか、または完全に再編成された配置で、並置されており、
(c)該ヒト化免疫グロブリン遺伝子座は、遺伝子再編成、ならびに必要ならば遺伝子変換および/または過剰変異を受けることができ、かつ該ウサギにおいてヒト化免疫グロブリンのレパートリーを産生することができ、かつ
ii)該ヒト化軽鎖免疫グロブリン遺伝子座は以下を含む:
(a)ヒト軽鎖VセグメントIGKV1-39-01に由来するV遺伝子セグメント;
(b)該軽鎖遺伝子セグメントの3'近位に、プロモーター;および
(c)該軽鎖遺伝子セグメントの5'近位に、少なくともヒトIGKJ4 J要素の断片。
【0081】
1つの態様において、トランスジェニックウサギは、ヒト化重鎖遺伝子座およびヒト化軽鎖遺伝子座に関してホモ接合である。
【0082】
1つの態様において、トランスジェニックウサギは、ヒト化重鎖遺伝子座およびヒト化軽鎖遺伝子座に関してヘテロ接合である。
【0083】
1つの態様において、トランスジェニックウサギは、内因性抗体重鎖の発現および/または内因性抗体軽鎖の発現に関して不活化されている。
【0084】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告されるヒト化軽鎖免疫グロブリン遺伝子座を含む、本明細書において報告されるトランスジェニックウサギ由来のB細胞である。
【0085】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告されるヒト化軽鎖免疫グロブリン遺伝子座を含む、単離されたB細胞である。
【0086】
1つの態様において、B細胞は、複数の免疫グロブリン重鎖遺伝子セグメントを含む、ウサギの免疫グロブリン遺伝子座またはその一部に由来するヒト化重鎖免疫グロブリン遺伝子座をさらに含み、ここで、
(a)該重鎖遺伝子セグメントの少なくとも1つは、SEQ ID NO: 06のウサギスペーサー配列(に由来する20個から1000個の連続したヌクレオチド)を含むヌクレオチド配列と隣接している、VH3ファミリーのヒト重鎖Vセグメントであり、
(b)該遺伝子セグメントは、再編成されていないか、部分的に再編成されたか、または完全に再編成された配置で並置されており、かつ
(c)該ヒト化免疫グロブリン遺伝子座は、遺伝子再編成、ならびに必要ならば遺伝子変換および/または過剰変異を受けることができ、かつ該ウサギにおいてヒト免疫グロブリンのレパートリーを産生することができる。
【0087】
本明細書において報告される1つの局面はまた、本明細書において報告されるトランスジェニックウサギを用いて、ヒト免疫グロブリンを産生するための方法である。
【0088】
1つの態様において、該ウサギの血液からヒト免疫グロブリンが得られる。
【0089】
本明細書において、重鎖免疫グロブリン遺伝子座および軽鎖免疫グロブリン遺伝子座の改変を含むゲノムを有するウサギが報告され、ここで該改変は、内因性のウサギ免疫グロブリン遺伝子座の不活化およびヒト化免疫グロブリン遺伝子座の導入であって、その結果トランスジェニックウサギをもたらす。したがって、トランスジェニックウサギのゲノムは、異なるヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインおよび(単一の機能的な)ヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインをコードする外来性の核酸配列を含む。
【0090】
ヒト化免疫グロブリン遺伝子座、すなわちそれぞれの核酸配列は、ウサギゲノムに組み込まれる。免疫グロブリン遺伝子座の改変は、1つまたは複数のトランスジェニックヒト免疫グロブリン遺伝子セグメント配列の挿入であって、これはそれぞれ1つまたは複数の内在性のウサギ免疫グロブリン遺伝子セグメントの不活化を伴う。
【0091】
「ヒト化免疫グロブリン遺伝子座」という用語は、1つもしくは複数のV領域および/もしくはなし、ならびに/または1つもしくは複数のJ要素のような、1つまたは複数のヒト要素を含む、単離された免疫グロブリン遺伝子座を意味する。これらは外来性要素と組み合わされる、すなわち、例えば非ヒト生物由来のプロモーターおよび/または調節要素のような、自然界では組み合わされない遺伝要素と組み合わされる。
【0092】
本明細書において報告されるトランスジェニックウサギは、ヒト抗体を生成するために使用することができる。したがって、本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告されるトランスジェニックウサギ由来の、(単離された)B細胞または(単離された)組織である。
【0093】
本明細書において報告される1つの局面はまた、(i)ヒト重鎖および軽鎖の可変領域ならびにウサギ定常領域を含むキメラ抗体、または(ii)完全なヒト抗体、のどちらかを生成するための、本明細書において報告されるトランスジェニックウサギの使用である。
【0094】
本明細書において報告される1つの局面は、以下の工程を含む、抗原に特異的に結合する抗体を産生するための方法である:
(a)本明細書において報告されるトランスジェニックウサギを(該抗原で)免疫する工程;
(b)該抗原に特異的に結合する抗体を産生する、該免疫されたトランスジェニックウサギに由来する少なくとも1つの細胞を、単離する工程;
(c)工程(b)の少なくとも1つの細胞を単一の寄託細胞として培養し、抗体を産生する工程。
【0095】
1つの態様において、工程(b)において得られる少なくとも1つの細胞は、脾細胞である。1つの態様において、工程(b)において得られる少なくとも1つの細胞は、B細胞である。
【0096】
本明細書において報告される1つの局面はまた、以下の工程を含む、(関心対象の)抗原に特異的に結合する抗体を産生するための方法である:
(a)(関心対象の)抗原で免疫された、本明細書において報告されるトランスジェニックウサギ由来の、1つまたは複数のB細胞を提供する工程;
(b)工程(a)の少なくとも1つまたは複数のB細胞を単一の寄託細胞として培養し、抗体を産生する工程。
【0097】
本明細書において報告される1つの局面はまた、以下の工程を含む、抗原に特異的に結合する抗体を産生するための方法である:
(a)該抗原に特異的に結合する抗体をコードする核酸を含む哺乳類細胞を培養する工程であって、抗体としての可変ドメインをコードする核酸が少なくとも、該抗原で免疫された本明細書において報告されるトランスジェニックウサギから得られていた、工程;
(b)該哺乳類細胞または培養培地から、該抗体を回収する工程。
【0098】
1つの態様において、抗体はモノクローナル抗体である。
【0099】
1つの態様において、免疫は、抗原、抗原をコードするDNA、抗原および該抗原をコードするDNA、または抗原を発現する細胞を用いてなされる。
【0100】
1つの態様において、免疫は、抗原、抗原をコードするDNA、抗原と該抗原をコードするDNAとを一緒に、または抗原を発現する細胞を、本明細書において報告されるトランスジェニックウサギに投与することによって行われる。
【0101】
以下の実施例および配列は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲に記載される。本発明の精神から外れることなく、記載される手順における改変が可能であると理解される。
【実施例】
【0102】
実施例1
ウサギの免疫
免疫に用いたトランスジェニックウサギは以下を含んだ:(1)8個のヒトVH要素、ヒトJH1~JH6要素、ヒトbcl2コード配列に融合したヒトCμコード領域、およびヒトCγコード領域で置換された、ウサギ免疫グロブリン重鎖遺伝子座に由来する導入遺伝子;(2)25個のヒトVκ要素、ヒトJκ4に融合した近位Vκ要素、およびヒトCκコード領域で置換された、ウサギ免疫グロブリン軽鎖遺伝子座に由来する導入遺伝子;(3)ヒトCD79aおよびCD79b遺伝子座に由来する導入遺伝子;ならびに(4)ウサギCμおよびウサギCκ遺伝子座内の機能欠失変異。
【0103】
タンパク質免疫
ウサギを、0日目に皮内適用によって、フロイント完全アジュバントで乳化した400μgの組換え可溶性抗原を用いて免疫し、7、14、42、70、および84または98日目に、筋肉内適用および皮下適用を交互に行うことによって、フロイント完全アジュバントで乳化した200μgの各抗原を用いて免疫した。20~21、34~48、62~76、および90~104日目頃に血液(推定全血液量の10%)を採取した。血清を調製して、ELISAによる力価測定に使用し、末梢単核細胞を単離して、B細胞クローニングプロセスにおける抗原特異的B細胞の供給源として使用した。これによりヒト抗体が得られた。
【0104】
DNA免疫
全長抗原をコードするプラスミド発現ベクターを用いて、400μgのベクターDNAを皮内適用し、続いてエレクトロポレーション(750V/cmの5方形パルス、持続時間10ミリ秒、間隔1秒)を行うことによって、ウサギを遺伝子免疫した。ウサギは、0、14、28、49、70、98および126日目に、連続7回の免疫を受けた。35、77、105および133日目に血液(推定全血液量の10%)を採取した。血清を調製して、ELISAによる力価測定に使用し、末梢単核細胞を単離して、B細胞クローニングプロセスにおける抗原特異的B細胞の供給源として使用した。
【0105】
実施例2
血清力価の測定
抗原を、PBS中で、1.75~2μg/ml、100μl/ウェルで、96ウェルNUNC Maxisorbプレート上に固定し、続いて以下を行った:PBS中2% CroteinC、200μl/ウェルを用いてプレートをブロッキングし;PBS中0.5% CroteinC、100μl/ウェル中で、抗血清の段階希釈液を2連で適用し;それぞれPBS中0.5% CroteinC、100μl/ウェルに希釈した以下のいずれかを用いて検出した:(1)HRP結合ロバ抗ウサギIgG抗体(Jackson Immunoresearch)、または(2)HRP結合ウサギ抗ヒトIgG抗体(Pierce/Thermo Scientific;1/5000)、または(3)ビオチン化ヤギ抗ヒトカッパ抗体(Southern Biotech/Biozol;1/5000)およびストレプトアビジン-HRP。全工程において、プレートは37℃で1時間インキュベートした。各工程と工程の間に、プレートを、PBS中0.05% Tween 20で3回洗浄した。BM Blue POD Substrate soluble(Roche)を添加することによりシグナルを発生させ;1M HCL、100μl/ウェルの添加により停止させた。吸光度を、基準としての690nmに対して450nmで読み取った。力価は、最大半量シグナルをもたらす抗血清の希釈度として定義された。
【0106】
実施例3
B細胞のクローニングおよび選別
ウサギ末梢血単核細胞(PBMC)の単離
実施例1のトランスジェニックウサギを血液の供給源として使用した。製造業者の仕様書に従って、lympholyte mammal(Cedarlane Laboratories、Burlington、Ontario、Canada)での密度遠心分離を行う前に、全血を含むEDTAを1×PBSで2倍希釈した。PBMCを、抗体で染色する前に1×PBSで2回洗浄した。
【0107】
EL-4 B5培地
10% FCS(Hyclone、Logan、UT、USA)、2mM グルタミン、1% ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(PAA、Pasching、Austria)、2mM ピルビン酸ナトリウム、10mM HEPES(PAN Biotech、Aidenbach、Germany)、および0.05mM β-メルカプトエタノール(Gibco、Paisley、Scotland)を追加した、RPMI 1640(Pan Biotech、Aidenbach、Germany)。
【0108】
マクロファージ/単球の枯渇
滅菌6ウェルプレート(細胞培養グレード)を用いて、非特異的付着によりマクロファージおよび単球を枯渇させた。各ウェルを、最大で4mlの培地および免疫されたウサギ由来の6×106個までの末梢血単核細胞で満たし、インキュベーター内で37℃、5% CO2で1時間結合させた。上清中の細胞を、抗原パニング工程のために使用した。
【0109】
プレートのコーティング
滅菌細胞培養6ウェルプレートを2μg/mlの抗原タンパク質でコートするか、または滅菌ストレプトアビジンコート6ウェルプレート(Microcoat、Bernried、Germany)を室温で3時間もしくは4℃で一晩、2μg/mlのビオチン化抗原でコートした。プレートは、使用前に滅菌PBSで3回洗浄した。
【0110】
抗原タンパク質上でのB細胞の濃縮
抗原タンパク質でコートされた6ウェル組織培養プレートに、培地4mlあたり6×106個までの細胞を播種し、インキュベーター内で37℃、5% CO2で1時間結合させた。抗原タンパク質上での濃縮工程の後、ウェルを1×PBSで1~2回慎重に洗浄することにより、非付着細胞を除去した。残りの粘着性細胞は、インキュベーター内で37℃で10分間、トリプシンにより引き離した。トリプシン処理はEL-4 B5培地によって停止させた。その後、該細胞を培地中で2回洗浄した。該細胞は、免疫蛍光染色まで氷上で保管した。
【0111】
免疫蛍光染色およびフローサイトメトリー
抗IgG FITC抗体(AbD Serotec、Dusseldorf、Germany)を単一細胞選別のために使用した。表面染色のため、枯渇および濃縮工程後の細胞を、4℃の低温室において暗闇で回転させながら、抗IgG FITC抗体と共にPBS中で30~45分間インキュベートした。遠心分離の後、吸引により上清を除去した。PBMCを、2サイクルの遠心分離および氷冷PBSでの洗浄に供した。最後に、PBMCを氷冷PBSに再懸濁し、直ちにFACS解析に供した。死細胞と生細胞とを識別するため、FACS解析の前に5μg/mlの濃度のヨウ化プロピジウム(BD Pharmingen、San Diego、CA、USA)を加えた。
【0112】
コンピュータを備えたBecton Dickinson FACSAriaおよびFACSDivaソフトウェア(BD Biosciences、USA)を、単一細胞の選別に用いた。
【0113】
B細胞の培養
Seeber, S., et al., PLoS One 9 (2014) e86184に記載された方法により、ウサギB細胞を培養した。簡単に述べると、単一の選別されたウサギB細胞を、96ウェルプレートにおいて、Pansorbin細胞(1:100,000)(Calbiochem (Merck)、Darmstadt、Deutschland)、5% ウサギ胸腺細胞上清(MicroCoat、Bernried、Germany)、およびガンマ線照射されたマウスEL-4 B5胸腺種細胞(2.5×10e4細胞/ウェル)を含む200μl/ウェルのEL-4 B5培地と共に、インキュベーター内で7日間、37℃でインキュベートした。B細胞培養の上清をスクリーニングのために除去し、残りの細胞を直ちに回収して、100μlのRLT緩衝液(Qiagen、Hilden、Germany)中で-80℃で凍結した。
【0114】
実施例4
B細胞PCR
製造業者のプロトコールに従ってNucleoSpin 8/96 RNAキット(Macherey&Nagel)を用いて、(RLT緩衝液に再懸濁した)B細胞溶解物から全RNAを調製した。RNアーゼ不含水60μlでRNAを溶出した。6μlのRNAを用いて、製造業者の指示に従って、Superscript III First-Strand Synthesis SuperMix(Invitrogen)およびオリゴdTプライマーを用いた逆転写酵素反応を行うことにより、cDNAを生成した。全工程をHamilton ML Starシステム上で行った。4μlのcDNAを用いて、AccuPrime SuperMix(Invitrogen)によって免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変領域(VHおよびVL)を増幅し、これは、重鎖用プライマーrbHC.upおよびrbHC.doならびに軽鎖用プライマーBcPCR_FHLC_leader.fwおよびBcPCR_huCkappa.revを用い、最終量は50μlであった。全ての順方向プライマーは(VHおよびVLそれぞれの)シグナルペプチドに特異的であったのに対して、逆方向プライマーは(VHおよびVLそれぞれの)定常領域に特異的であった。RbVH+RbVLのためのPCR条件は以下であった:94℃で5分間のホットスタート;94℃で20秒、70℃で20秒、68℃で45秒を35サイクル;および68℃で7分間の最終伸長。HuVLのためのPCT条件は以下であった:94℃で5分間のホットスタート;94℃で20秒、52℃で20秒、68℃で45秒を40サイクル;および68℃で7分間の最終伸長。
【0115】
【0116】
50μlのPCR溶液のうちの8μlを48 E-Gel 2%(Invitrogen G8008-02)にロードした。製造業者のプロトコールに従ってNucleoSpin Extract IIキット(Macherey&Nagel;740609250)を用いて、ポジティブなPCR反応物を浄化し、50μlの溶出緩衝液に溶出した。全ての浄化工程はHamilton ML Starletシステム上で行った。
【0117】
用いた抗原は、TPBG(栄養膜糖タンパク質、SEQ ID NO: 11)の細胞外ドメインであった。
【0118】
結果として生じる、TPBGの細胞外ドメインに対する抗体は、以下の軽鎖可変ドメインを有する。
【0119】
実施例5
TPBG特異的Fab断片のTPBGへの結合
組換えTPBGの結合を評価するため、Nunc Maxisorbストレプトアビジンコートプレート(MicroCoat #11974998001)を、25μl/ウェルの濃度100ng/mlのビオチン化ヒトTPBG-AviHisでコートした。プレートは4℃で一晩インキュベートした。洗浄(PBST緩衝液で90μl/ウェルを3回)後、抗TPBG試料を、2μg/mlから始まる1:2の希釈系列になるよう加えて、室温で1時間インキュベートした。洗浄(PBST緩衝液で90μl/ウェルを3回)後、25μl/ウェルのヤギ抗c-myc HRP(Bethyl、# A190-104P)またはヤギ抗ヒトカッパHRP(Millipore、# AP502P)をそれぞれ1:7000または1:4000の希釈度になるよう加え、室温で1時間、振盪機上でインキュベートした。洗浄(PBST緩衝液で90μl/ウェルを3回)後、25μl/ウェルのTMB基質(Calbiochem、#CL07)を加えて2分間インキュベートした。Safire2リーダー(Tecan)で370/492nmにて測定を行った。
【0120】
ヒトTPBGの細胞結合を評価するため、内因性にTPBGを発現するヒト乳がん腫瘍細胞株であるMFC7を、384ウェルのcellcoat Poly-D-Lysineプレート(Greiner、#781940)に21000細胞/ウェルの濃度で播種した。細胞を37℃で一晩接着させた。上清を除去した後、抗TPBG抗体を含む25μl/ウェルの上清を、5μg/mlから始まる1:2の希釈系列になるよう加えて、4℃で1時間インキュベートした。洗浄(50μl/ウェルのPBSTで2回)後、1×PBS緩衝液中で希釈した50μl/ウェルの0.05% グルタルアルデヒド(Sigma、25%)を加えることによって細胞を固定し、室温で10分間インキュベートした。洗浄(3回;90μl/ウェルのPBS-T)後、25μl/ウェルの二次抗体:ヤギ抗c-myc HRP(1:5000、Bethyl)を、検出のために加え、続いて振盪機上で室温で1時間インキュベートした。洗浄(3回;90μl/ウェルのPBS-T)後、25μl/ウェルのTMB基質溶液(Calbiochem)を加えた。室温で10分経過後、Safire2リーダー(Tecan)で370/492nmにて測定を行った。
【0121】
(表)抗TPBG Fab断片のヒトTPBGへの結合
【0122】
051、091、および097のFab断片は、ヒトTPBGもしくは組換え源に結合するか、またはヒト乳がん細胞株の細胞上で発現されることが見出された。
【配列表】