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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】歯ブラシ
(51)【国際特許分類】
   A46B 5/00 20060101AFI20220610BHJP
【FI】
A46B5/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018547186
(86)(22)【出願日】2017-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2017033093
(87)【国際公開番号】W WO2018079114
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2016212030
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】亀井 誠一
(72)【発明者】
【氏名】金丸 直史
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-070925(JP,A)
【文献】特開2011-030950(JP,A)
【文献】特表2005-510330(JP,A)
【文献】特開2015-091283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A46B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の毛束からなる植毛部と、
前記植毛部が植毛面に設けられたヘッド部と、
前記ヘッド部に延設されたネック部と、
前記ネック部に延設されたハンドル部と、を備えた歯ブラシであって、
前記ヘッド部の厚さが、2.0mm以上、4.0mm以下であり、
前記ネック部の最小幅および最小厚さが、3.0mm以上、4.5mm以下であり、
前記ネック部の後端側における前記植毛面側には、中心位置が当該植毛面側に配置され、側面視で前記植毛面側が凹となる円弧輪郭の曲面が形成され、
前記ハンドル部の先端側における前記植毛面と逆側には、中心位置が前記植毛面とは逆側に配置され、側面視で前記植毛面側が凸となる円弧輪郭の第2曲面が形成され、
前記歯ブラシの把持中心位置における前記ハンドル部の厚さ方向中心点と前記植毛部の中心位置における前記ヘッド部の厚さ方向中心点とを結ぶ直線と、前記植毛面を構成する平面と、がなす角度が、5.0度以上、10.0度以下であり、
前記ヘッド部、前記ネック部および前記ハンドル部は、それぞれ硬質樹脂材料で形成された硬質部を有し、
前記硬質樹脂材料は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、セルロースプロピオネート、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂から選択され、
前記ヘッド部の前記硬質部と、前記ネック部の前記硬質部と、前記ハンドル部の前記硬質部とは、1種の前記硬質樹脂材料を単独で使用し一体成形された成形体であることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
前記ネック部の構成材料の曲げ弾性率が、1000MPa以上、2200MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記ネック部の構成材料が、ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
側面視において前記植毛面を含む平面を境としたときに、
前記ネック部と前記ハンドル部の前記植毛面側の境界位置において、前記境界位置における前記ネック部の厚さに対して、前記境界位置における前記ネック部の前記平面よりも前記植毛面側の厚さが占める割合は45%以上、95%以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記ネック部は、前記凹となる円弧輪郭の曲面が形成された領域において、前記ハンドル部に向けて幅および厚さの両方が漸次太くなる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関する。
本願は、2016年10月28日に日本に出願された特願2016-212030号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3より、口腔内での操作性等の観点でヘッドの厚さを薄くした歯ブラシが提案されている。ヘッドの厚さを薄くすると、強度の低下などが問題となる。そのため、ポリアセタール樹脂(POM)など強度の高い樹脂が使われる。特に、金属製の平線を樹脂製のヘッドに打ち込んで刷毛を保持する平線式植毛の場合、植毛強度、ヘッド部の耐折強度が不十分となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-143914号公報
【文献】特開2011-4852号公報
【文献】特開2011-200296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討により、上述したような歯ブラシにおいては、ヘッド部とハンドル部をつなぐネック部が太いと、ヘッド部を薄くしたことによる口腔内での操作性の向上効果が損なわれることが見出された。特に、ネックを幅広にすると、操作性をより損なう上、外観上もヘッドの薄さが目立たず商品の印象も損なわれる。しかしながら、ネック部を細くした場合、撓みすぎて逆に操作性に問題が生じることがある。また、強度的にも更なる改善が求められる。特にポリプロピレン(PP)等の歯ブラシに一般的に使われる汎用樹脂を用いた場合、課題はより顕著である。
【0005】
本発明の一つの態様は、上記の課題を解決するためになされたものであって、良好な操作性を得ることができるヘッドの薄い歯ブラシを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の一つの態様の歯ブラシは、複数の毛束からなる植毛部と、前記植毛部が植毛面に設けられたヘッド部と、前記ヘッド部に延設されたネック部と、前記ネック部に延設されたハンドル部と、を備えた歯ブラシであって、前記ヘッド部の厚さが、2.0mm以上、4.0mm以下であり、前記ネック部の最小幅および最小厚さが、3.0mm以上、4.5mm以下であり、前記ネック部の後端側における前記植毛面側には、中心位置が当該植毛面側に配置され、側面視で前記植毛面側が凹となる円弧輪郭の曲面が形成され、前記歯ブラシの把持中心位置における前記ハンドル部の厚さ方向中心点と前記植毛部の中心位置における前記ヘッド部の厚さ方向中心点とを結ぶ直線と、前記植毛面を構成する平面と、がなす角度が、5.0度以上、10.0度以下であることを特徴とする歯ブラシことを特徴とする。
【0007】
本発明の一つの態様の歯ブラシにおいて、前記ネック部の構成材料の曲げ弾性率は、1000MPa以上、2200MPa以下であってもよい。
【0008】
本発明の一つの態様の歯ブラシにおいて、前記ネック部の構成材料は、ポリプロピレン樹脂であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一つの態様によれば、良好な操作性が得られるヘッド部の薄い歯ブラシを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の歯ブラシの平面図である。
図2】歯ブラシの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図1および図2を用いて説明する。
なお、以下の実施形態は、本発明の一つの態様を示すものであって、本発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更が可能である。また、以下の図面においては各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺や数等を異ならせて示すことがある。
【0012】
図1は、本実施形態の歯ブラシの平面図である。
図2は、歯ブラシの側面図である。
図1および図2に示すように、本実施形態の歯ブラシ1は、植毛部11と、植毛部11が設けられたヘッド部12と、ヘッド部12の基端側から延設されたネック部13と、ネック部13の基端側から延設されたハンドル部14と、を備えている。すなわち、ヘッド部12とネック部13とハンドル部14とは、一体に形成されている。以下、ヘッド部12とネック部13とハンドル部14とが一体になった部材をハンドル体15と称する。なお、図1においては、植毛部11の図示を省略する。
【0013】
ここで、植毛部11が設けられたヘッド部12の上面を植毛面12aと称する。図1および図2に示すように、植毛面12aを構成する平面P(仮想平面)をXY平面とし、ハンドル体15が全体として延在する方向をX軸方向とし、X軸に直交する方向をY軸方向とする。平面Pの法線方向をZ軸方向とする。以下の説明では、各部材のY軸方向の寸法をその部材の幅と称し、各部材のZ軸方向の寸法をその部材の厚さと称し、各部材のX軸方向の寸法をその部材の長さと称する。
【0014】
ハンドル体15は、全体として長尺状に一体成形されたものであり、例えば樹脂を材料とした射出成形により作製することができる。ハンドル体15の構成材料として、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、セルロースプロピオネート(CP)、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂(AS)などが挙げられる。これらの樹脂材料のうち、強度が高く、ヘッド部を薄肉化しやすい点では、POM、PBT、PENなどの材料を用いることが好ましい。
【0015】
特にポリプロピレンは、ポリアセタール等の樹脂に比べて、一般的に汎用性が高く、加工しやすくコストが低い反面、曲げ弾性率が低いという性質を有する。例えばポリアセタールの曲げ弾性率が概ね2500MPa程度であるのに対し、ポリプロピレンの曲げ弾性率は概ね1500~2000MPa程度である。そのため、従来であれば、ヘッド部が薄く、ネック部が細い歯ブラシの材料として、ポリプロピレンは使いにくい材料であった。ところが、後述する本実施形態の歯ブラシの形状を採用することによって、ポリプロピレン等の曲げ弾性率が比較的低い樹脂も使用することができる。
【0016】
本実施形態において、ハンドル体15、特にネック部13の構成材料の曲げ弾性率は、1000MPa以上、2200MPa以下であることが好ましい。曲げ弾性率が1000MPa未満であると、ネック部13を細くしたときに十分な強度が得られないおそれがある。また、曲げ弾性率が2200MPaを超えると、硬さが増す反面、脆くなるおそれがある。
【0017】
上記の樹脂は、1種の樹脂を単独で使用してもよいし、2種以上の樹脂を併用してもよい。また、ハンドル体15は、ハンドル部14の一部または全部が軟質樹脂で被覆されていてもよい。ハンドル部14の一部または全部が軟質樹脂で被覆されていることにより、使用者がハンドル部14を握った際の手のフィット感が向上し、把持した手指が滑ることを防止できる。軟質樹脂として、例えば、好ましくはショアA90以下の樹脂、より好ましくはショアA10~40の樹脂が挙げられる。このような軟質樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等のエラストマー樹脂、シリコン等が挙げられる。
【0018】
ハンドル体15の全体の長さは、操作性等を関して決定することができる。ハンドル体15の全体の長さは、例えば100~200mm程度である。
【0019】
ヘッド部12は、平面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略四角形の平板状の形状を有する。ヘッド部12の上面である植毛面12aには、複数の植毛穴12hが設けられている。用毛が束ねられた毛束17が各植毛穴12hに植設されることにより、複数の毛束17からなる植毛部11が形成されている。複数の植毛穴12hのうち、ヘッド部12の最も先端側に位置する植毛穴12hとヘッド部12先端までの距離d1と、ヘッド部12の最も基端側に位置する植毛穴12hとヘッド部12基端までの距離d2と、は等しく設定されている。換言すると、後述するネック部13とヘッド部12との境界位置K1は、ヘッド部12の最も基端側に位置する植毛穴12hから距離d1と等しい距離だけネック部13側に離れた位置である。
【0020】
ヘッド部12の寸法は、口腔内操作性などの特性を勘案して決定される。ヘッド部12の幅は、大きすぎると口腔内での操作性が低下し、小さすぎると、植毛される毛束17の数が少なくなりすぎて、清掃効果が損なわれやすい。このため、ヘッド部12の幅は、例えば5mm~16mm程度に設定される。
【0021】
ヘッド部12の長さは、長すぎると口腔内での操作性が損なわれやすく、短すぎると植毛される毛束17の数が少なくなりすぎて、清掃効果が損なわれやすい。このため、ヘッド部12の長さは、例えば10mm~33mmの範囲で設定される。
【0022】
植毛穴12hの形状は、特に限定されず、真円、楕円などの円形であってもよいし、三角形、四角形などの多角形であってもよい。植毛穴12hの数量は、特に限定されず、例えば10個~60個の範囲に設定される。植毛穴12hの直径は、毛束17の太さに応じて決定され、例えば1mm~3mmの範囲に設定される。植毛穴12hの配列パターンは、特に限定されず、いわゆる格子状、千鳥状等、いかなる配列パターンであってもよい。
【0023】
毛束17を構成する用毛としては、径が毛先に向かって漸次小さくなる用毛(テーパー毛)、毛先の丸め部を除いて外径が略同一である用毛(ストレート毛)が挙げられる。用毛の材質は、例えば、6-12ナイロン、6-10ナイロン等のポリアミド、PET、PBT、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、PEN、ポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル、PP等のポリオレフィン、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等の合成樹脂材料を用いることができる。これらの樹脂材料は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。また、用毛は、芯部と芯部の外側に設けられた少なくとも1層以上の鞘部とを有する多重芯構造であってもよい。
【0024】
用毛の断面輪郭は、特に限定されず、例えば、真円形、楕円形等の円形、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形、星形、三つ葉のクローバー形、四つ葉のクローバー形等が挙げられる。
【0025】
用毛の太さは、特に限定されず、断面輪郭が円形の場合、例えば、3mil~11mil(1mil=1/1000inch=0.025mm)とされる。毛束は、全てが同じ太さの用毛で構成されていてもよいし、2種以上の異なる太さの用毛が組み合わされていてもよい。毛丈は、特に限定されず、例えば6mm~12mmに設定される。
【0026】
図2に示すように、ハンドル部14の先端側における植毛面12a側には、中心位置(曲率中心)が植毛面12aとは逆側(図2ではハンドル部14よりも下側)に配置され、側面視で植毛面12a側が凸となる円弧輪郭の曲面14aが形成されている。同様に、ハンドル部14の先端側における植毛面12aと逆側には、中心位置が植毛面12aとは逆側に配置され、側面視で植毛面12a側が凸となる円弧輪郭の曲面14bが形成されている。
【0027】
また、ネック部13の後端側における植毛面12a側には、中心位置(曲率中心)が植毛面12a側(図2ではハンドル部14よりも上側)に配置され、側面視で植毛面12a側が凹となる円弧輪郭の曲面13aが形成されている。より詳細には、ネック部13は、ヘッド部12と交差する長軸方向の先端側領域から後端側領域に亘ってハンドル部14の厚さ方向の植毛面12a側の面(曲面または平面)が、長軸方向及び厚さ方向と直交する幅方向から視た側面視で植毛面12a側が凹となる円弧輪郭の曲面13aを形成して湾曲している。曲面13aの曲率中心は、当該曲面13aよりも厚さ方向で上側に配置されている。同様に、ネック部13の後端側における植毛面12aと逆側には、中心位置(曲率中心)が植毛面12a側(上側)に配置され、側面視で植毛面12a側が凹となる円弧輪郭の曲面13bが形成されている。
【0028】
曲面13aおよび曲面14aは、それぞれハンドル部14の長さ方向に進むのに従って、側面視における接線と植毛面12aとの交差角が連続的に変化するが、曲面13aと曲面14aとの交差部においては接線同士の交差角が0度または180度ではない角度α1で交差する。そのため、曲面13aと曲面14aとの交差部においては稜線K2が形成されている。
【0029】
曲面13bおよび曲面14bについても、それぞれハンドル部14の長さ方向に進むのに従って、側面視における接線と植毛面12aとの交差角が連続的に変化するが、曲面13bと曲面14bとの交差部においては接線同士の交差角が0度または180度ではない角度α2で交差する。そのため、曲面13bと曲面14bとの交差部においては稜線K3が形成されている。したがって、ネック部13およびハンドル部14は、稜線K2,K3を挟んだ長さ方向の一方側が側面視で植毛面12a側が凸となる円弧輪郭の曲面14a,14bと、稜線K2,K3を挟んだ長さ方向の他方側が側面視で植毛面12a側が凹となる円弧輪郭の曲面13a,13bとで繋がれることにより、側面視で略S字状に形成されている。
【0030】
ネック部13の後端側の境界は、稜線K2,K3によって定義される。したがって、稜線K2,K3よりも後端側は、ハンドル部14が配置されている範囲であり、ヘッド部12が配置されている範囲と、ハンドル部14が配置されている範囲との間の範囲にネック部13が配置されている。
【0031】
ハンドル部14の先端側における植毛面12a側の端部(側面視で稜線K2よりも後端側)は指当て部19となる。指当て部19の先端側の頂点は、稜線K2で規定される。この頂点位置(稜線K2)は、図1に示されるように、正面視でヘッド部12に対して最短距離となる頂点の位置である。使用者は、指当て部19に親指を当てるようにしてハンドル部14を持つことにより、歯ブラシ1を安定して操作することができる。
【0032】
ネック部13は、ヘッド部12とハンドル部14とを一体に接続する。ネック部13は、一例として、ヘッド部12とネック部13との境界位置K1(ネック部13先端)から少しハンドル部14寄りに離れた位置が最も細く、小さい断面積になっており、当該断面積のままで後端側に延び、後端側においてハンドル部14との境界K2まで漸次拡径する形状に形成されている。このように、ネック部13がヘッド部12側からハンドル部14側に向けて徐々に太くなっていることによって、歯ブラシ1を様々な握り方や磨き方で用いたときもネック部13の撓みが吸収され、使用性に優れる。ただし、使用感の観点から、ネック部13は弾力性を有し、適度に撓むことが必要である。
【0033】
ネック部13の長さは、ヘッド部12を口腔内に挿入したときにネック部13が唇に触れるために、25mm~70mmであることが好ましい。
【0034】
図1に示すように、歯ブラシ1の把持中心位置G1はハンドル部14上に位置する。把持中心位置G1は、稜線K2からハンドル部14の後端側に37mm離れた位置として定義する。
【0035】
歯ブラシの持ち方として、指当て部付近に親指を当て、掌全体でハンドル部を握る「パームグリップ」と、指当て部付近に親指を当て、ペンを握るようにして持つ「ペングリップ」と、が知られている。本発明者らは、種々の歯ブラシを各持ち方で握った場合に歯ブラシを操作する際に力が加わる位置を鋭意検討した。その結果、指当て部頂点(稜線K2の位置)から平均して37mmの位置に指の一部が当たり、この箇所が操作点の中心の一つになることが明らかとなった。したがって、この位置を把持中心と定義する。なお、この位置は、多くの一般的な歯ブラシの重心位置と概ね一致することも同時に明らかとなった。
【0036】
図2に示すように、歯ブラシ1の把持中心位置G1におけるハンドル部14の厚さ方向中心点G2と植毛部11の中心位置S1(図1参照)におけるヘッド部12の厚さ方向中心点S2とを結ぶ仮想的な直線を直線Nとすると、直線Nは平面Pよりも上方(+Z方向)に位置する。換言すると、ハンドル体15は、把持中心位置G1を有するハンドル部14がヘッド部12の植毛面12aよりも植毛部11側に位置するように曲がった形状を有している。
【0037】
本発明者らは、ハンドル体が略直線状に延在する従来の歯ブラシにおいて、ヘッド部を薄く、ネック部を細くすると、ヘッド部やネック部が撓み、植毛部がヘッド部の背面側(図2で言えば-Z軸方向)に変位しやすくなることを見出した。特にブラッシングを行った際に、ネック部が撓むと、植毛部が通常の位置よりもヘッド部の背面側(すなわち、歯や歯肉から離れる方向)に変位し、ハンドル部に加えた力が植毛部に十分に伝達されにくくなる。その結果、ハンドル部の操作性が著しく低下することが判った。
【0038】
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、上述した本実施形態の歯ブラシ1のように、植毛面12aを構成する平面Pよりも植毛部11側にハンドル体15のハンドル部14側を曲げ、さらに、直線Nと平面Pとのなす角度θ等のパラメーターを最適化すれば、ハンドル体15の曲がりによってヘッド部12やネック部13の撓みを相殺できることに想到した。このように、本実施形態の歯ブラシ1によれば、ヘッド部12を薄く、ネック部13を細くした場合にヘッド部12やネック部13が撓んだとしても、ハンドル操作性を良好に維持することができ、口腔内操作性とハンドル部操作性の双方に優れた可能な歯ブラシ1を実現することができる。
【0039】
以下、本実施形態の歯ブラシ1において、特徴的な設計パラメーターについて説明する。
[ヘッド部の厚さt]
ヘッド部12の厚さtは、薄い程、口腔内操作性を高めることができるが、薄すぎると、ヘッド部12の強度が不十分になりやすい。このため、ヘッド部12の厚さtは、ハンドル体15の構成材料、曲げ弾性率等を勘案して決定できる。ヘッド部12の厚さtは、2.0mm~4.0mmの範囲に設定される。ヘッド部12の厚さtは、2.5mm~3.5mm程度であることがより好ましい。
【0040】
[ネック部の最小幅W1]
ネック部13の最小幅W1は、小さい程、口腔内操作性を高めることができるが、小さすぎると、ネック部13の強度が不十分になりやすい。このため、ネック部13の最小幅W1は、ハンドル体15の構成材料、曲げ弾性率などを勘案して決定できる。ネック部13の最小幅W1は、3.0mm~4.5mmに設定される。ネック部13の最小幅W1は、3.5mm~4.3mm程度であることがより好ましい。
【0041】
[ネック部の最小厚さD1]
ネック部13の最小厚さD1は、X軸方向においてネック部13の幅が最小となる位置のネック部13の厚さとして規定することができる。すなわち、本実施形態の歯ブラシ1においては、ネック部13の延在方向に直交する断面の形状が略円形であり、X軸方向においてネック部13の幅が最小となる位置と厚さが最小となる位置とは一致する。ただし、ネック部13の延在方向に直交する断面の形状は、必ずしも円形でなくてもよく、例えば多角形状であってもよい。また、ネック部13の延在方向に直交する断面の形状は、X軸方向の位置により異なっていてもよく、ネック部13の幅が最小となる位置と厚さが最小となる位置とは必ずしも一致していなくてもよい。
【0042】
ネック部13の最小厚さD1は、ネック部13の最小幅W1と同様、小さい程、口腔内操作性を高めることができるが、小さ過ぎると、ネック部13の強度が不十分になりやすい。このため、ネック部13の最小厚さD1は、ハンドル体15の構成材料、曲げ弾性率等の条件を勘案して決定できる。ネック部13の最小厚さD1は、3.0mm~4.5mmに設定される。ネック部13の最小厚さD1は、3.5mm~4.3mm程度であることがより好ましい。本実施形態の場合、ネック部13の延在方向に直交する断面の形状が略円形であるから、幅と厚さとは同一である。すなわち、ネック部13の最小径は、3.0mm~4.5mmが好ましく、3.5mm~4.3mmがより好ましい。
【0043】
ここで、ネック部13における先端領域と後端領域の形状因子について説明する。
ネック部13における先端領域(ヘッド部12との境界位置K1と、境界位置K1から後端側に10mm離れた位置との間の領域)は、口腔内に入り、かつ清掃部位周辺との物理的干渉が多い領域である。従って、口腔内操作性の観点から、当該領域におけるヘッド部12の植毛面12a側の側面視の形状は、当該植毛面12aと同一平面上(面一)、もしくは平行な関係にあるのが好ましい。それ故、ネック部12の厚さをDとし、側面視において植毛面12aを含む平面を境としてネック部12の前記平面より上側の厚さをD11、下側の厚さをD12(D=D11+D12)とすると、ネック先端領域では常にD12>D11、且つ、D12とD11の比は一定で推移(上記先端領域におけるD11/D12の変化は1.0±0.15の範囲)することが望ましい。
【0044】
ネック部13における後端領域(稜線K2と、稜線K2から先端側に20mm離れた位置との間の領域)は、前述の先端領域とは異なり、口腔内に入るケースは少ない。後端領域は、薄型ヘッド、細ネックによる撓み過ぎを抑制するため(すなわち、口腔内操作性とハンドル部操作性を向上させるため)に、適切な把持中心点角度θと把持中心点高さhを成立させるための形状変化を付ける役割を担う。特に後端領域における植毛面12a側の形状(上側)は、前記把持中心点角度θの設定に主体的に寄与するため、側面視の形状は、前記先端領域と比べて急な(曲率が大きい)円弧形状で設定される。更に、この形状変化により厚さが増すために、ブラッシングによる負荷が集中しやすいネック部12の根元において、撓み制御が可能となる。
一方、後端領域における背面側(下側)は、前記上側の側面視における形状変化に合わせて同様の円弧形状を形成するものの、前記撓みを抑制するために厚さを増やす必要があるため、前記上側と比較すると、緩やかな(曲率が小さい)円弧形状で形成される。この時に、稜線K2からヘッド部12側(先端側)へ20mm移動した位置における前記厚さD11を厚さD11(20)、稜線K2から先端側に10mm移動した場合を厚さD11(10)、稜線の場合を厚さD11(0)とし、厚さD12も同様に表したとすると、下記の関係が成り立つ。
【0045】
(1)稜線K2から先端側に20mm離れた位置において:
当該位置の厚さDのうち、上側の厚さD11が占める割合は40±10%である。
稜線K2から先端側に10mm離れた位置において:
当該位置の厚さDのうち、上側の厚さD11が占める割合は40%以上、90%以下、好ましくは60%以上、80%以下である。
0mm(稜線K2)の位置において:
当該位置の厚さDのうち、上側の厚さD11が占める割合が45以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%、85%以上が更に好ましい。上限値については95%以下であることが好ましく、90%以下がより好ましい。
【0046】
厚さD11の割合は、角度θが大きくなるほど値が大きくなる。また、ヘッド部12を薄型にすると厚さ自体が少ないため、所定の角度θを得るには上側の厚さD11の割合がより大きくなる。
厚さD11の割合が下限値以下の場合、ストレート形状に近くなり所定の把持中心点角度が得られない。また、角度を付けられたとしても、ネック部13の根元において厚さD12が必要以上に大きくなり、細ネックとしての効果が低下する。厚さD12が上限値を超えると、ネック部13の湾曲が早い段階で始まるため、適切な把持中心点角度が付けにくく、かつ口腔内操作性も低下する。
【0047】
(2)稜線K2から先端側に20mm離れた位置と、稜線K2から先端側に10mm離れた位置における、厚さD11の変化(D11(10)/D11(20))は、1.2以上、好ましくは1.4以上、より好ましくは1.7以上である。また、厚さD11の変化(D11(10)/D11(20))の上限は2.5である。
稜線K2から先端側に20mm離れた位置と、稜線K2から先端側に10mm離れた位置における、厚さD11の変化(D11(10)/D11(20))が上記の下限値未満の場合は、ネック部13の根元までストレート形状が続くため、所定の把持中心点角度が得られない。稜線K2から先端側に20mm離れた位置と、稜線K2から先端側に10mm離れた位置における、厚さD11の変化(D11(10)/D11(20))が上記の上限値を超える場合は、ネック部13の湾曲が早い段階で始まるため、適切な把持中心点角度が付けにくく、かつ口腔内操作性も低下する。
稜線K2から先端側に10mmの位置と0mmの位置におけるD11の変化は、1.4以上、好ましくは1.8以上、より好ましくは1.9以上である。先端側に10mmの位置と0mmの位置におけるD11の変化の上限は3.0である。
稜線K2から先端側に10mmの位置と0mmの位置におけるD11の変化が上記の下限値未満の場合は、ネック部13の根元までストレート形状が続くため、所定の把持中心点角度が得られない。稜線K2から先端側に10mmの位置と0mmの位置におけるD11の変化が上記の上限値を超える場合は、ネック部13の湾曲が早い段階で始まるため、適切な把持中心点角度が付けにくく、かつ口腔内操作性も低下する。
【0048】
稜線K2から先端側に20mm離れた位置と、稜線K2から先端側に10mm離れた位置における、厚さD12の変化率(D12(20)/D12(10)は、1.3以上、好ましくは1.4以上である。
稜線K2から先端側に10mmの位置と0mmの位置における厚さD12の変化は、1.3以上、好ましくは1.4以上である。
上記下限値以下の場合は、上側の形状変化に合わせて下側が湾曲していないこととなり、指当て部が無駄に厚くて持ちにくくなる。上限値は特にないが、同区間における上側の変化を上回らないことが好ましい。
稜線K2の位置の厚さ(D11(0)+D12(0))の範囲は、7mm以上、15mm以下が好ましく、8.4mm以上、13.5mm以下がより好ましく、8.8以上、10mm以下が更に好ましい。
【0049】
[ヘッド部基端~指当て部先端間距離a]
ヘッド部12の基端(ネック部13とヘッド部12との境界位置K1)から指当て部19の先端(ネック部13とハンドル部14との境界K2)間の距離aは、大きい程、植毛部11が口腔内の奥まで届き、口腔内の隅々まで清掃効果を高めることができる反面、ネック部13の撓みが大きくなる。一方、距離aは、小さい程、ネック部13の撓みを小さくできるが、植毛部11が口腔内の奥まで届きにくくなる。そこで、距離aは、ハンドル体15の構成材料、曲げ弾性率等の条件にも依るが、例えば25mm~70mm程度に設定される。
【0050】
[把持中心点角度θ]
歯ブラシ1の把持中心位置G1におけるハンドル部14の厚さ方向中心点G2と植毛部11の中心位置S1におけるヘッド部12の厚さ方向中心点S2とを結ぶ直線Nと、植毛面12aを構成する平面Pと、がなす角度θを以下、把持中心点角度θと称する。
【0051】
把持中心点角度θは、大き過ぎると、ハンドル部14の延在方向とヘッド部12の延在方向との違いが大きくなり、ハンドル部14の操作性が低下する。また、把持中心点角度θは、小さ過ぎると、ハンドル体15の形状が直線的になり、本実施形態の本来の効果が得られない。これらを勘案して、把持中心点角度θは、5.0度以上、10.0度以下に設定される。把持中心点角度θは、6.0度以上、8.0度以下がより好ましい。
【0052】
[把持中心点高さh]
歯ブラシ1の把持中心位置G1におけるハンドル部14の厚さ方向中心点G2と、植毛面12aを構成する平面Pと、の間の距離を把持中心点高さhと定義する。
【0053】
把持中心点高さhは、6.0mm以上、15.5mm以下に設定される。把持中心点高さhは、下限においては7.0mm以上が好ましく、上限においては15.0mm以下が好ましく、14.5mm以下がより好ましく、13.5mm以下が更に好ましく、12.0mm以下が一層好ましく、11.0mm以下が特に好ましい。上下の範囲としては、7.0mm以上、15.0mm以下が好ましく、7.0mm以上、14.5mm以下がより好ましく、7.0mm以上、13.5mm以下が更に好ましく、7.0mm以上、12.0mm以下が一層好ましく、7.0mm以上、11.0mm以下が特に好ましい。
【0054】
[実施例]
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0055】
表1に示す仕様に従って、実施例1~10および比較例1~4の歯ブラシを射出成形法により作製した。上記の歯ブラシにおいて、ハンドル部の幅、長さ、厚さおよび形状は、全て同一とした。表1に記載の各種樹脂を射出成形して、図1および図2に記載されたヘッド部、ネック部およびハンドル部の一体成形物を得た。植毛穴の配列は、ヘッド部の先端からネック部に向って3穴×1列、4穴×6列、3穴×1列とした。ヘッド部の幅・長さは表1に記す。PBT製フィラメントからなるテーパー用毛(7.5mil)の毛束を、平線式植毛によりヘッド部に植設して歯ブラシを作製した。
【0056】
各試料の評価項目としては、口腔内操作性とハンドル操作性の2つの項目を挙げた。口腔内操作性については、「非常に優れている」を「◎」とし、「優れている」を「○」とし、「やや劣っている」を「△」とし、「非常に劣っている」を「×」とした。同様に、ハンドル操作性についても、「非常に優れている」を「◎」とし、「優れている」を「○」とし、「やや劣っている」を「△」とし、「非常に劣っている」を「×」とした。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、比較例1の歯ブラシは、把持中心点角度θ、把持中心点高さhがともに本発明の数値範囲から外れている。すなわち、比較例1の歯ブラシは、ハンドル体が比較的直線状に近い形状を有している。そのため、比較例1の歯ブラシは口腔内操作性およびハンドル操作性に劣っていることが確認された。さらに、比較例2の歯ブラシは、ヘッド部厚さt、ネック部の最小幅W1、およびネック部の最小厚さD1が本発明の数値範囲から外れている。そのため、比較例2の歯ブラシは口腔内操作性に劣っていることが確認された。また、比較例3の歯ブラシは、把持中心点高さhが本発明の数値範囲から外れており、口腔内操作性およびハンドル操作性に劣っていることが確認された。比較例4の歯ブラシは、把持中心点角度θ、把持中心点高さhがともに本発明の数値範囲から外れており、口腔内操作性およびハンドル操作性に劣っていることが確認された。
【0059】
これに対して、実施例1~10の歯ブラシは、ヘッド部厚さt、ネック部の最小幅W1、ネック部の最小厚さD1、把持中心点角度θ、および把持中心点高さhの全てのパラメーターが本発明の数値範囲内に入っている。これにより、ネック部が撓んでも口腔内操作性、ハンドル操作性の双方に優れた歯ブラシであることが確認された。
【0060】
一般に平線式植毛を採用した場合、ヘッド部に平線打ち込みによるストレスが掛かる。ヘッド部が薄い場合、力が加わった際の変形に対する強度が低い一方で、ネック部が太く強度が高いと、歯を磨く際のストレスがヘッド部に集中し、ヘッド部の撓みが大きくなり、使用性が低下することがある。この場合、本実施形態の歯ブラシ1のように、ネック部を細くし、ある程度の撓み性を持たせることにより、歯を磨く際のストレスをヘッド部からネック部全体に分散でき、使用性が向上する。そのために平線式植毛の場合、本発明の効果を特に顕著に得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
1…歯ブラシ、11…植毛部、12…ヘッド部、12a…植毛面、13…ネック部、14…ハンドル部、17…毛束。
図1
図2