(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】トランスレス単相ネットワークインバータのハイブリッドクロック方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220610BHJP
H02M 7/5387 20070101ALI20220610BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/5387 Z
(21)【出願番号】P 2019512222
(86)(22)【出願日】2017-09-06
(86)【国際出願番号】 EP2017072394
(87)【国際公開番号】W WO2018046565
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-08-21
(31)【優先権主張番号】102016116630.8
(32)【優先日】2016-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515078095
【氏名又は名称】エスエムエイ ソーラー テクノロジー アクティエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SMA Solar Technology AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ブルカルト
(72)【発明者】
【氏名】リグベルス,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】フォークト,ヴィルフリート
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-097787(JP,A)
【文献】特開平08-098549(JP,A)
【文献】特開平11-252803(JP,A)
【文献】国際公開第2013/080878(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42- 7/98
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスレスインバータ(1)を動作させる方法であって、
前記トランスレスインバータ(1)が、
互いに並列に配置された第1のハーフブリッジ(HB1)および第2のハーフブリッジ(HB2)と、
トランスレスインバータ(1)の第1および第2の直流端子(2,3)の間の
中間回路(zwischenkreis)(DCL)であって、2つのキャパシタを有する中間回路(DCL)と、を備え、
前記第1および第2のハーフブリッジ(HB1、HB2)が、前記中間回路(DCL)と並列に配置され、または並列に配置された前記前記第1および第2のハーフブリッジ(HB1、HB2)と前記中間回路(DCL)との間にトランジスタ(T5)が直列に接続されており、
前記第1のハーフブリッジ(HB1)および前記第2のハーフブリッジ(HB2)の第1および第2のブリッジ出力(Br1,Br2)それぞれは、第1および第2のフィルタインダクタ(L1,L2)によって前記トランスレスインバータ(1)の第1および第2の交流出力(AC1,AC2)に接続されており、前記第1および第2の交流出力(AC1,AC2)は、対応する第1または第2のハーフブリッジ(HB1,HB2)に割り当てられ、前記第1のハーフブリッジ(HB1)に割り当てられる前記第1の交流出力(AC1)はグリッドの中性導体(N)に接続され、前記第2のハーフブリッジ(HB2)に割り当てられる前記第2の交流出力(AC2)はグリッド(5)の相導体に接続されており、低インピーダンスで
前記中間回路(DCL)または前記第1および第2の直流端子(2,3)の一方に接続されているフィルタコンデンサのネットワーク(4)が、前記第1および第2の交流出力(AC1,AC2)の間に配置されている、トランスレスインバータ(1)を動作させるための方法において、
- 第1クロック方法により動作させるステップであって、前記第1のハーフブリッジ(HB1)が前記中間回路(DCL)の中点(MP)の電位に基づいて前記第1の交流出力(AC1)において第1の正弦波プロファイル(U
AC1MP)を生成し、前記第2のハーフブリッジ(HB2)が前記中間回路(DCL)の中点(MP)の電位に基づいて前記第2の交流出力(AC2)において第2の正弦波プロファイル(U
AC2MP)を生成し、前記第1の正弦波プロファイル(U
AC1MP)および第2の正弦波プロファイル(U
AC2MP)を加算してグリッド電圧のプロファイル(U
O)を形成し、前記第1の正弦波プロファイル(U
AC1MP)および第2の正弦波プロファイル(U
AC2MP)が前記グリッド電圧のプロファイル(U
O)の半分である第1クロック方法により動作させるステップと、
- 前記トランスレスインバータ(1)の前記第1および第2の直流端子(2,3)におけるグリッド周波数の迷走電流値を求めるステップと、を含み、
前記迷走電流値が限界値を上回る場合に第2クロック方法により動作させて、前記第1の正弦波プロファイル(U
AC1MP)が前記グリッド電圧のプロファイル(U
O)の30%以下であり、前記第2の正弦波プロファイル(U
AC2MP)が前記グリッド電圧のプロファイル(U
O)の70%以上であるようにして、前記第1の正弦波プロファイル(U
AC1MP)および第2の正弦波プロファイル(U
AC2MP)を加算してグリッド電圧のプロファイル(U
O)を形成し、第1のハーフブリッジ(HB1)が前記第1のハーフブリッジ(HB1)に割り当てられる前記第1の交流出力(AC1)における交流電圧を供給して迷走電流を低減させることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の方法において、
前記第2のクロック方法における前記第1の正弦波プロファイル(U
AC1MP
)の振幅は、前記迷走電流値に応じて選択され、前記迷走電流値がより高いほど、より低くなるように選択されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の方法において、
前記第2のクロック方法における前記第2の正弦波プロファイル(U
AC2MP
)の振幅は、前記第1および第2の直流端子(2,3)に印加される電圧に応じて選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項
1乃至3の何れか1項に記載の方法において、前記迷走電流値が前記限界値を上回る場合、前記第1および第2の直流端子(2,3)に印加される直流電圧は、入力側DC/DCコンバータ(BC)を作動させることによって、さらに増加されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項
1乃至4の何れか1項に記載の方法において、前記迷走電流値が前記限界値を上回る場合、前記第1および第2のハーフブリッジ(HB1,HB2)が互いに独立して制御されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項
1乃至4の何れか1項に記載の方法において、前記第1のハーフブリッジ(HB1)と、前記第2のハーフブリッジ(HB2)とは、互いに同期して動作されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項
1乃至5の何れか1項に記載の方法において、前記第1のハーフブリッジ(HB1)と、前記第2のハーフブリッジ(HB2)とは、互いに独立して動作され、異なるクロック周波数で動作されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項
1乃至7の何れか1項に記載の方法において、最大インバータ電力が、前記第2クロック方法を用いた動作の間よりも前記第1クロック方法を用いた動作の間の方が、より高い値に制限されることを特徴とする方法。
【請求項9】
トランスレスインバータ(1)において、
互いに並列に配置された第1のハーフブリッジ(HB1)および第2のハーフブリッジ(HB2)と、
トランスレスインバータ(1)の第1および第2の直流端子(2,3)の間の
中間回路(zwischenkreis)(DCL)であって、2つのキャパシタを有する中間回路(DCL)と、を備え、
前記第1および第2のハーフブリッジ(HB1、HB2)が、前記中間回路(DCL)と並列に配置され、または並列に配置された前記前記第1および第2のハーフブリッジ(HB1、HB2)と前記中間回路(DCL)との間にトランジスタ(T5)が直列に接続されており、
前記第1のハーフブリッジ(HB1)および前記第2のハーフブリッジ(HB2)の第1および第2のブリッジ出力(Br1,Br2)それぞれは、第1および第2のフィルタインダクタ(L1,L2)によって前記トランスレスインバータ(1)の第1および第2の交流出力(AC1,AC2)に接続されており、前記第1および第2の交流出力は、対応するハーフブリッジ(HB1,HB2)に割り当てられ、前記第1のハーフブリッジ(HB1)に割り当てられる前記第1の交流出力(AC1)はグリッドの中性導体(N)
に接続され、前記第2のハーフブリッジ(HB2)に割り当てられる前記第2の交流出力(AC2)はグリッド(5)の相導体に接続されており、低インピーダンスで
前記中間回路(DCL)または前記第1および第2の直流端子(2,3)の一方に接続されているフィルタコンデンサのネットワーク(4)が、前記第1および第2の交流出力(AC1,AC2)の間に配置されており、請求項1乃至9の何れか1項に記載の方法を用いて動作するように構成されていることを特徴とするトランスレスインバータ(1)。
【請求項10】
請求項
9に記載のトランスレスインバータ(1)において、前記ネットワーク(4)は、2つのフィルタコンデンサから構成される直列回路を備え、前記直列回路の中点は、前記第1および第2の直流端子(2,3)の一方に接続されるか、または2つのキャパシタを有する前記中間回路(DCL)における前記2つのキャパシタの間の前記中間回路(DCL)の中点に接続されることを特徴とするトランスレスインバータ(1)。
【請求項11】
請求項
9または10に記載のトランスレスインバータ(1)において、前記第1および第2の交流出力(AC1,AC2)の前記第1および第2のフィルタインダクタ(L1,L2)は、互いに磁気的に接続されていないことを特徴とするトランスレスインバータ(1)。
【請求項12】
請求項
9乃至11の何れか1項に記載のトランスレスインバータ(1)において、前記第1および第2の交流出力(AC1,AC2)の電流を決定するために、
前記第1および第2のブリッジ出力(Br1,Br2)のそれぞれに電流センサが設けられていることを特徴とするトランスレスインバータ(1)。
【請求項13】
請求項
9乃至12の何れか1項に記載のトランスレスインバータ(1)において、出力が前記第1および第2の直流端子(2,3)に接続されるDC/DCコンバータ(BC)をさらに備えることを特徴とするトランスレスインバータ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータを動作させるための方法、およびインバータに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールによって直流として供給される電力を、グリッドに給電することが可能となるように交流に変換するために、太陽光発電(PV)システムにインバータが用いられる。多数の太陽電池モジュールによって協働的に生成される電力は、通常、インバータによって交流電圧に変換される。トランスレスインバータは、特に効率的な変換が可能である。特に、単相で給電し、且つフルブリッジトポロジーを有するトランスレスインバータは、接地電位に対する電位基準がグリッド周波数によって変化するため、一般的には動作中に太陽電池モジュールの接地ができない。前記グリッド周波数の電位変化は、太陽電池モジュールにおける構造による寄生容量に関連して、迷走電流を引き起こし、当該迷走電流の振幅は、例えば雨の場合に値の増加が想定され得る。PVシステムは、動作の安全性の理由により差動電流センサを備える。迷走電流は、システムの故障電流に重畳されると共に、差動電流センサによって測定される故障電流値に寄与するので、迷走電流の増加が、故障電流の測定に基づく保護機構の早期トリップにつながることがある。その結果、安全な操作が引き続き可能であっても、PVシステムは自動的にスイッチがオフになる。
【発明の概要】
【0003】
従って、本発明の目的は、迷走電流の増加を抑制するトランスレスフルブリッジインバータの動作方法を提供することである。従って、故障電流を決定する際に高い寄生容量の影響を受けにくいインバータを提供することを意図とする。
【0004】
この目的は、独立請求項1の方法によって達成される。前記請求項を引用する、方法の従属請求項は、本発明の好ましい実施形態を示す。上記目的は、さらに、同位の装置請求項11に記載のインバータによって達成され、前記請求項を引用する従属請求項は、本発明のさらなる実施形態を表す。
【0005】
本発明の一態様は、互いに並列に配置され、トランスレスフルブリッジインバータの直流端子の間の中間回路(zwischenkreis)と並列に配置されている第1のハーフブリッジおよび第2のハーフブリッジを備えるトランスレスフルブリッジインバータであって、第1のハーフブリッジおよび第2のハーフブリッジのブリッジ出力それぞれは、フィルタインダクタによってこのインバータの交流出力に接続されており、交流出力は、対応するハーフブリッジに割り当てられ、交流出力は、グリッドに接続されており、低インピーダンスで中間回路に接続されているフィルタコンデンサのネットワークが、交流出力の間に配置されている、トランスレスフルブリッジインバータを動作させるための方法に関する。本方法は、ユニポーラ第1クロック方法を用いてインバータの2つのハーフブリッジを動作させるステップと、インバータの直流端子におけるグリッド周波数迷走電流の値を求めるステップと、を含む。本方法は、迷走電流値が限界値を上回る場合、インバータの2つのハーフブリッジは、第1のハーフブリッジが当該第1のハーフブリッジに割り当てられる交流出力における交流電圧を供給する、迷走電流を抑制する第2クロック方法を用いて動作され、交流電圧の振幅は、グリッドの電圧振幅の振幅の50%未満であり、第2のハーフブリッジは、グリッド電圧と、当該第2のハーフブリッジに割り当てられる交流出力において第1のハーフブリッジによって供給される電圧との間の差電圧を供給することを特徴とする。ユニポーラクロック方法は、ハーフブリッジの一方のみがクロックされるように、持続時間がグリッド半サイクルの持続時間に対応する期間にわたってインバータが動作されることを特徴とする。
【0006】
ハーフブリッジによって供給される交流電圧は、それぞれ、正弦波電圧であることが好ましいが、第1のハーフブリッジおよび第2のハーフブリッジによって提供される電圧プロファイルの組み合わせがグリッド電圧のプロファイルに対応する、その他の所望の電圧プロファイルであってもよい。
【0007】
第1のハーフブリッジによって供給される交流電圧の振幅は、迷走電流値に応じて選択されると都合が良い。第1のハーフブリッジによって供給される交流電圧の振幅は、迷走電流値がより高いほど、より低くなるように選択されることが好ましい。これによって、インバータに接続される発電機の端子における電位変動の振幅が低減され、その結果、迷走電流値の増加が抑制されるか、または完全に回避される。特定の一実施形態では、迷走電流の最大値を上回らないように振幅が制御される。
【0008】
第1のハーフブリッジに割り当てられる交流出力をグリッドの中性導体に接続し、第2のハーフブリッジに割り当てられる交流出力を位相導体に接続するのが有利である。このことは、例えば、交流端子の一方が中性導体に接続されることが設置説明書に明記されることによって確実にすることができる。あるいは、割り当ては、接地に対する交流出力における電圧を測定すると共に、この測定に基づいて、2つの交流出力の内の何れの交流出力がグリッドの中性導体に接続されているのかを判定するインバータによって、一度または定期的に確認することができる。これに従って、第1のハーフブリッジおよび第2のハーフブリッジとしてインバータ内に存在するハーフブリッジの割り当てが選択されるか、または誤接続が示され得る。あるいは、一方で、インバータは、第1クロック方法から第2クロック方法に変更することによって迷走電流値の上昇または低下が達成されるか否かを判定し、迷走電流値が上昇する場合は、第1のハーフブリッジおよび第2のハーフブリッジとしての、インバータのハーフブリッジの割り当てを入れ替えてもよい。
【0009】
クロック方法を変更することに加えて、インバータは、迷走電流値が限界値を上回る場合、入力側DC/DCコンバータを作動させることによって、直流端子に印加される直流電圧をさらに増加することができる。この場合、DC/DCコンバータは、ブーストコンバータまたはバックコンバータとして動作することができ、特に、直流端子において直流電圧が異なっていても、接続された太陽電池モジュールをMPP(最大電力点)に保つことができる。直流端子における直流電圧の増加によって、第2のハーフブリッジを用いてより高い部分電圧を設定することができ、第1のハーフブリッジは、グリッド電圧のより低い成分を設定するだけでよく、従って、生じる迷走電流がより少なくなる。
【0010】
本発明に係る方法の好ましい一実施形態では、迷走電流値が限界値を上回る場合、ハーフブリッジの一方は、所定の方法で動作され、ハーフブリッジの他方は、制御されるように動作される。この場合、第1のハーフブリッジは、所定の方法で動作されることが好ましい。所定の動作は、例えば、ブリッジ出力に印加される電圧または当該ブリッジ出力を流れる電流を考慮せずに、デューティ比の所定のクロックパターンまたは所定のプロファイルを用いてハーフブリッジを作動させることにより実現することができる。この場合、制御されるように動作されるハーフブリッジは、所望のグリッド電流を設定する。
【0011】
本方法の好適な一実施形態では、第1のハーフブリッジと、第2のハーフブリッジとは、互いに同期して動作され、即ち、同じクロック周波数で動作されるか、または第1および第2の切り替え時間の間の一定の時間基準を用いて動作される。ここで、2つのハーフブリッジの2つのスイッチのスイッチオン時間、スイッチオフ時間、またはスイッチオン期間の中間点を、例えば切り替え時間として選択することができる。一方で、2つのハーフブリッジを互いに独立させて、異なるクロック周波数で動作させてもよい。
【0012】
第2クロック方法におけるインバータの動作は、スイッチング素子およびインダクタの熱負荷がより高くなることにつながるため、最大インバータ電力を、第1クロック方法を用いた動作の間よりも第2クロック方法を用いた動作の間の方で、より低い値に制限することが有利である。従って、第2クロック方法において最大インバータ電力をより強く制限することによって、インバータの過負荷が予防される。
【0013】
第2クロック方法においてインバータの変換損失がより高くなることを考慮することにより、迷走電流値が限界値を上回る場合、第2クロック方法におけるインバータのより高い変換損失を補償する、迷走電流値の低減を実現するために、第1のハーフブリッジによって供給される交流電圧について、グリッド電圧の振幅の最大30%の振幅を選択することが有利である。特に、第1のハーフブリッジによって供給される交流電圧の振幅を段階的に変えることが有利である。この場合、第2クロック方法において少なくとも2段階を設けることが有利である。あるいは、限界値を上回る場合、第2のハーフブリッジによって供給される交流電圧の振幅を規定してもよく、特に、直流端子における印加された直流電圧が許容する大きさと同程度の大きさになるように前記振幅を選択してもよく、例えば、前記直流電圧の半分、または前記直流電圧に対してわずかに低い値になるように前記振幅を選択してもよい。直流端子における直流電圧が変化する場合、第2のハーフブリッジによって供給される交流電圧の振幅を連続的に調整することもできる。従って、第1のハーフブリッジによって供給される交流電圧の振幅が調整されて、グリッド電圧の振幅全体が供給される。
【0014】
迷走電流を制限するには効率が劣る第2クロック方法を用いてインバータを動作させなければならない期間をできるだけ短くし続けるためには、インバータは、第2クロック方法を用いた動作の間に現在の迷走電流値を連続的または反復的に求めると共に、現在の迷走電流値と、さらなる限界値とを比較する。当該さらなる限界値は、第1のハーフブリッジによって供給される交流電圧の現在用いられている振幅値に応じて決定されることが好ましい。現在の迷走電流値が、前記さらなる限界値を下回る場合は、限界値を再び上回ることなく第1クロック方法に戻り得るという兆候である。次いで、インバータは、直ちに、または迷走電流値がさらなる限界値を再び上回らない所定の時間が経過した後に、第1クロック方法に戻る。特に、各ハーフブリッジによって供給される交流電圧の振幅が、直流端子に印加される直流電圧に応じて選択される場合、さらなる制限値は、前記直流電圧の関数として決定することができる。
【0015】
第2クロック方法によって一定の迷走電流値に抑制される場合に、第1のハーフブリッジによって供給される交流電圧の振幅が振幅制限値を上回ると、第1クロック方法に戻る。
【0016】
本発明のさらなる態様は、上記方法、または当該方法の実施形態を用いて動作するように構成されているトランスレスインバータに関する。この場合、交流端子の間のフィルタコンデンサのネットワークは、2つのフィルタコンデンサから構成される直列回路を備えてもよく、当該直列回路の中点は、直流端子の一方に接続されるか、または分割中間回路として構成されている中間回路の中点に接続される。また、本発明に係るインバータのフィルタインダクタは、互いに磁気的に接続されていない。
【0017】
2つのハーフブリッジは、インバータブリッジの追加の構成要素、特に追加のスイッチと共に、H4、H5、H6、H6Q、またはHERICトポロジーを形成してもよい。上記トポロジーの概要は、例えば、2012 IEEE Energy Conversion Congress and Exposition(エネルギー変換会議および展示会)(ECCE)に掲載されている、Jianhua Wangらによる論文「From H4,H5 to H6 - Standardization of Full-Bridge Single Phase Photovoltaic Inverter Topologies without Ground Leakage Current Issue」に見られ、H6Qトポロジーについては欧州特許出願公開第2237404A1号明細書に見られる。この場合、迷走電流を低減させる第2クロック方法を用いた動作の間、インバータブリッジの追加のスイッチは、2つのハーフブリッジのスイッチが高周波クロックによって所望の現在の電圧値を提供することができるように、半サイクルにおいて恒久的にスイッチング状態で保持される。Wangによる論文の用語において、H5トポロジーでは、追加のスイッチS5は恒久的に閉じられており(Wangによる論文の
図2aを参照)、HERICトポロジーでは、スイッチS5およびS6は恒久的に開いており(
図2eを参照)、H6トポロジーでは、直列に接続された2つのスイッチを備えると共に、ブリッジ出力から見て直流端子と対向しているハーフブリッジそれぞれのスイッチは恒久的に閉じられている(
図2fのS1およびS3、
図2gのS3およびS4、
図4bのS3、
図4cおよび
図4dのS4、並びに
図4eのS1)。
【0018】
一実施形態では、本発明に係るインバータは、交流出力電流を決定するために、電流センサを1つのみ備えていてもよく、当該電流センサは、特に、第2のハーフブリッジに割り当てられる交流出力に配置されている。第2クロック方法を用いた動作の間に、ハーフブリッジの一方が所定の方法で動作され、且つハーフブリッジの一方が制御されるように動作される場合、電流センサは、制御されるように動作されるハーフブリッジに割り当てられる交流出力に配置されるのが好ましい。
【0019】
第1のハーフブリッジと、第2のハーフブリッジと、を備えるインバータブリッジに加えて、本発明に係るインバータは、出力が直流端子に接続されるDC/DCコンバータ、特にブーストコンバータをさらに備えてもよい。この実施形態では、DC/DCコンバータを用いることによって、第1クロック方法を用いた動作の間よりも第2クロック方法を用いた動作の間の方が、直流端子においてより高い直流電圧を供給することができる。
【0020】
さらなる態様では、本願に係る動作方法は、インバータブリッジが、互いに並列に配置され、トランスレスインバータの直流端子の間の中間回路と並列に配置されている第1のハーフブリッジおよび第2のハーフブリッジからなるH4トポロジーで具体化される、トランスレスインバータに関する。2つのハーフブリッジのブリッジ出力それぞれは、フィルタインダクタによって、対応するハーフブリッジに割り当てられる、インバータの交流出力に接続されており、当該交流出力は、グリッドに接続されている。ここで、低インピーダンスで中間回路に接続されているフィルタコンデンサのネットワークが、交流出力の間に配置されている。本方法は、第1クロック方法を用いてインバータの2つのハーフブリッジを動作させることと、インバータの直流端子におけるグリッド周波数迷走電流の値を求めることとを含み、さらに、迷走電流値が限界値を上回る場合、インバータの2つのハーフブリッジは、迷走電流を低減させる第2クロック方法を用いて動作されることを特徴とする。第1クロック方法において、ハーフブリッジは、バイポーラクロックパターンを用いて協働的に動作される。その結果、各振幅がグリッド電圧振幅の50%である両電圧プロファイルが、2つの交流出力に提供される。迷走電流を低減させるクロック方法において、第1のハーフブリッジは、当該第1のハーフブリッジに割り当てられる交流出力において、グリッドの電圧振幅の50%未満、好ましくはグリッド電圧振幅の30%未満の交流電圧を供給し、第2のハーフブリッジは、グリッド電圧と、当該第2のハーフブリッジに割り当てられる交流出力において第1のハーフブリッジによって供給される電圧との間の差電圧を供給する。これによって、第1クロック方法においては、グリッド電圧振幅の50%の接地電位に対して直流端子の電圧の変動が生じ、第2クロック方法においては、変動に比べて変動が低減され、その結果、迷走電流のグリッド周波数成分の値が低減される。第1のハーフブリッジによって供給される電圧の振幅は、迷走電流のレベルに応じて選択されることが好ましく、特に、迷走電流のグリッド周波数成分が所定の臨界値未満に保たれるように選択される。前記振幅は、迷走電流のグリッド周波数成分の対応する限界値が下回るかまたは上回る場合、段階的に変更されることが好ましい。この場合、振幅は、対応する限界値が下回ると低下し、対応する限界値が上回ると増加する。
【0021】
本願に係る前記代替的な動作方法は、特に、シリコンスイッチより迅速に切り替わる、例えば窒化ガリウムから作製された半導体スイッチと共に用いることができる。その結果、第2クロック方法の間のスイッチング損失および磁化損失が増加しないか、または第1クロック方法と比較して著しく増加しない。
【0022】
以下、図を用いて本発明、および本発明の構成の変形例の幾つかをより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、H4トポロジーにおける本発明に係るインバータの概略構成を示す。
【
図2】
図2は、H5トポロジーにおける本発明に係るインバータのさらなる実施形態を示す。
【
図3】
図3は、ユニポーラ第1クロック方法における、本発明に係るインバータの動作中の電圧の時間プロファイルを示す。
【
図4】
図4は、迷走電流を低減させる第2クロック方法における、本発明に係るインバータの動作中の電圧の時間プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に示したインバータ1は、電圧源(図示せず)、特に太陽光発電機が接続され得る直流端子2,3を備える。直流端子2,3の間には
中間回路(zwischenkreis)DCLが配置されており、第1ハーフブリッジHB1および第2ハーフブリッジHB2は、
中間回路DCLと並列に配置されている。第1のハーフブリッジHB1は、直列に接続される2つの半導体スイッチT3,T4から形成されてもよい。半導体スイッチの中点は、第1のブリッジ出力Br1として第1のハーフブリッジHB1から引き出されている。同様に、第2のハーフブリッジHB2は、直列に接続される2つの半導体スイッチT1,T2から形成されてもよく、当該半導体スイッチの中点は、第2のブリッジ出力Br2として第2のハーフブリッジHB2から引き出されている。半導体スイッチは、固有または別体の逆並列フリーホイーリングダイオードを備えてもよい。
【0025】
第1のフィルタインダクタL1は、第1のブリッジ出力Br1を第1の交流出力AC1に接続し、第2のフィルタインダクタL2は、第2のブリッジ出力Br2を第2の交流出力AC2に接続する。2つの交流出力AC1,AC2の間には、フィルタインダクタL1,L2と共にACグリッドフィルタを形成するフィルタコンデンサのネットワーク4が配置されている。ネットワーク4は、ここでは2つのフィルタコンデンサから構成される直列回路によって形成され、当該直列回路の中点は、低インピーダンス接続部6によって直流端子3に接続されている。この場合、低インピーダンス接続部6は直接接続であり、当該接続部には、グリッド周波数およびブリッジのスイッチング周波数において低インピーダンスを有するさらなる構成部品を設けてもよい。直流端子3の代替として、ネットワーク4の中点が、直流端子2、またはこの場合には分割されている中間回路DCLの中点MPに接続されてもよく、従って、各電位が互いに接続される。第1の交流出力AC1は、グリッドの中性導体Nに接続することができ、第2の交流出力AC2は、前記グリッドの相導体Lに接続される。グリッドフィルタは、ネットワーク4と、接続されたグリッドとの間にさらなるフィルタ構成要素、特にさらなるフィルタインダクタを備えてもよい。
【0026】
2つのハーフブリッジHB1,HB2は、当該2つのハーフブリッジHB1,HB2に割り当てられる制御装置C1,C2によって作動される。制御装置C1は、パルス幅変調によって第1のハーフブリッジHB1のスイッチT3,T4をオンにし、制御装置C2は、第2のハーフブリッジHB2のスイッチT1,T2をオンにする。ハーフブリッジによって供給される電流は、ブリッジ出力Br1,Br2に配置されている電流センサCSによって検出される。この実施形態では、迷走電流の値は、2つの電流センサCSの測定値の差を求めることによって求めることができる。この場合、グリッド周波数迷走電流は、接続されたグリッドの周波数における差の周波数成分である。あるいは、グリッド周波数迷走電流は、インバータ1の交流側または直流側のさらなるセンサによって既知の方法で求めることもできる。
【0027】
図2は、本発明に係るインバータ1のさらなる実施形態を示す。この場合、太陽光発電機PVは、DC/DCコンバータBC、例えばブーストコンバータによって直流端子2,3に接続されている。その他のインバータトポロジーにおいても、太陽光発電機PVの電圧を
中間回路DCLの電圧に変換するために、上記のようなDC/DCコンバータBCが入力側に設けられてもよい。また、迷走電流の原因として寄生容量7が記号によって示されており、当該寄生容量は、太陽光発電機PVを接地GNDに接続する。この場合、インバータブリッジは、2つのハーフブリッジHB1,HB2のトランジスタT1~T4に加えて、当該ハーフブリッジHB1,HB2の上側の接続点を直流端子2に接続するさらなるトランジスタT5を備えるH5ブリッジとして知られているものとして構成されている。この場合、
中間回路DCLは、中点MPを有する分割
中間回路として同様に具体化されている。交流フィルタのネットワーク4には、グリッド5が接続されている端子L,Nの間の2つのフィルタコンデンサの直列回路に加えて、当該2つのグリッド端子L,Nの間に直接的に配置されているさらなるコンデンサが出力側に設けられている。この場合、ネットワーク4のフィルタコンデンサから構成される直列回路の中点は、
中間回路DCLの中点MPに直接的に接続されている。ここで示される実施形態では、グリッド5に対する接続線に、単一の電流センサCSが1つのみ設けられているが、このことは、その他の考えられる実施形態においても同様であってもよい。
【0028】
良く知られているように、H5トポロジーにおける追加のトランジスタT5は、フリーホイーリングフェーズの間、接続された太陽光発電機PVを、接続されたグリッド5から電気的に絶縁させるように機能する。本発明の内容において、前記トランジスタは、この機能を、ユニポーラ第1クロック方法を用いた動作の間にのみ実行する。第2クロック方法を用いた動作の間、T5は、恒久的にスイッチがオンされたままであり、従って、中間回路DCLにおいて2つのハーフブリッジHB1,HB2を独立して動作させることが可能になる。
【0029】
本発明の動作をより詳細に説明するために、まず初めに、
図3は、第1クロック方法で動作される場合の、例えば
図2のH5トポロジーから生じる電圧の時間的プロファイルを示す。グリッド電圧U
0は、振幅
を有する既知の正弦波プロファイルを有する。ユニポーラクロック方法において、グリッド電圧の半サイクルの間に、2つのハーフブリッジHB1,HB2のうちの一方のみがクロックされる。さらなるスイッチのクロックによってトポロジーに依拠するように生じる無電位フリーホイーリングに関連して、ハーフブリッジは、
中間回路の中点MPの電位に基づいて、交流端子AC1,AC2において、グリッド振幅の半分が
である互いに反する正弦波プロファイルU
AC1MP,U
AC2MPを生成する。前記2つの正弦波プロファイルが加算されて、グリッド電圧U
0のプロファイルが形成される。交流端子AC1は、グリッド5のN導体に固定的に接続されているため、
中間回路中点MPの電位は、接地電位に対して変化する。当該接地電位は、わかりやすくするためにここではN導体の電位と等しいと仮定する。また、
中間回路中点MPの電位は、グリッド振幅の半分U
0/2に対応する振幅によって正弦的に変化する。これによって、発電機電位の変化の振幅に比例する、寄生容量7の迷走電流のグリッド周波数成分がもたらされる。前記成分は、太陽光発電機PVの理想的でない絶縁によって流れる故障電流に加えられ、特に寄生容量7の値が高い場合は、システムが十分に絶縁された状態であったとしても、絶縁監視手段のトリップにつながることがある。従って、迷走電流のグリッド周波数成分を低減させるためには、発電機電位の変化のグリッド周波数振幅を低減させて、迷走電流の対応するグリッド周波数成分を同様に低減させることが望ましい。
【0030】
ここで、発電機プロファイルの変化の前記振幅を、グリッド振幅の半分
よりも低い値に低減させることが可能な、本発明に係る第2クロック方法が重要になる。前記第2クロック方法の動作は、
図4に示される電圧プロファイルを用いて示し、説明する。
【0031】
この目的を達成するために、
図4は、再度、
中間回路中点MPの電位に対する交流端子AC1,AC2それぞれにおける電圧プロファイルU
AC1MP,U
AC2MPと比較してグリッド電圧U
0の正弦波プロファイルを示す。この場合、交流端子AC1における電圧プロファイルの振幅
は、交流端子AC2における電圧プロファイルの振幅
よりも低い。振幅
は、グリッド電圧振幅
の最大30%であるのが好ましい。従って、振幅
は、グリッド電圧振幅
の少なくとも70%である。既に説明したように、交流端子AC1は、グリッド5の中性導体に接続されているため、
中間回路中点MPの電圧プロファイルは、より小さい方の振幅
によってのみ変化し、従って、上記第1クロック方法からもたらされる振幅に対して低減される。同様に、迷走電流のグリッド周波数成分も、第2クロック方法によって低減される。
【0032】
交流端子AC1,AC2において非対称の電圧プロファイルを実現するために、ハーフブリッジHB1,HB2それぞれは、ブリッジ電圧の対応する目標値の電圧プロファイルに、互いに独立して制御される。ハーフブリッジHB1,HB2における電圧調整の代替として、ハーフブリッジの一方のみ、好ましくは第1のハーフブリッジHB1を、電圧が制御されるように動作させるのに対し、第2のハーフブリッジを、電流が制御されるように動作させてもよく、その結果、所望のグリッド電流が生成される。電圧調整は、交流端子AC1,AC2それぞれにおける測定された電圧と、所定の目標値との偏差、および当該偏差に対応する変化であって、ハーフブリッジHB1,HB2を動作させるために用いることができるデューティ比それぞれの変化を判定することによって実行することができる。一方で、2つのハーフブリッジのうちの一方、好ましくは第1のハーフブリッジHB1を、所定のクロックパターンを用いて動作させてもよく、これによって、所望の振幅
を有する、交流端子AC1における電圧プロファイルに少なくとも近似する。この場合、2つのハーフブリッジのうちの一方を、制御されるように動作するだけでよい。
【0033】
第1のハーフブリッジHB1は、第2のハーフブリッジHB2と独立して動作させることができ、即ち、特に偏移周波数においてさえも動作させることができる。この場合、2つのハーフブリッジのブリッジスイッチの切り替え時間の間には時間的相関関係は存在しない。しかし、一方で、2つのハーフブリッジを同じクロック周波数で動作させることも容易に可能であり、特に、例えば第1のハーフブリッジおよび第2のハーフブリッジのスイッチオン期間の中間点を同期させることによって互いに同期させて動作させることも容易に可能である。
【0034】
交流端子AC1およびAC2において非対称の電圧プロファイルを提供するためには、2つのハーフブリッジは恒久的にクロックされなければならず、即ち、ハーフブリッジのスイッチの両方が、双方の半サイクルの間に交互に閉じられ、直流端子2,3の正電圧および負電圧が、前記ハーフブリッジのブリッジ出力において同相で供給される。このことが、第1クロック方法を用いた動作と比較して第2クロック方法を用いた動作の間に上記コンバータ損失が増加する原因である。
【0035】
迷走電流を低減させる第2クロック方法において必要な、発電機の最小電圧U
DCminは、第2の交流端子AC2における振幅
によって決定され、この値の2倍である。前記値は、インバータ1が第1クロック方法を用いて動作される場合の発電機の必要最小電圧U
DCminよりも高い(U
DCmin=
、
図3を参照)。従って、前記最小電圧を下回ることを防ぐために、第1クロック方法から第2クロック方法に変更されるときに、発電機電圧を増加させることが有利であるか、または必要でさえある。発電機電圧は、インバータの上流に接続されるDC/DCコンバータBCによって調整することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 インバータ
2,3 直流端子
4 ネットワーク
5 グリッド
6 接続部
7 寄生容量
AC1,AC2 交流出力
Br1,Br2 ブリッジ出力
T1~T5 スイッチ
HB1,HB2 ハーフブリッジ
C1,C2 制御装置
DCL 中間回路
BC DC/DCコンバータ
PV 太陽光発電機
L1,L2 フィルタインダクタ
CS 電流センサ
GND 接地電位
N 中性導体
L 位相導体