(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】クーリングファブリック
(51)【国際特許分類】
B32B 5/02 20060101AFI20220610BHJP
D01F 6/00 20060101ALI20220610BHJP
D04B 21/14 20060101ALI20220610BHJP
A41D 13/002 20060101ALI20220610BHJP
A41D 31/14 20190101ALI20220610BHJP
【FI】
B32B5/02 A
D01F6/00 A
D04B21/14 Z
A41D13/002 105
A41D31/14
(21)【出願番号】P 2019520369
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(86)【国際出願番号】 IB2017056360
(87)【国際公開番号】W WO2018073710
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-07-17
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ゴリッセン
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ヘラルド アッカー
(72)【発明者】
【氏名】アレックス ヴァン ノレル
(72)【発明者】
【氏名】マレイケ ティマーマンス
(72)【発明者】
【氏名】ムクンド ティワリ
(72)【発明者】
【氏名】マーク-ヤン デ ハース
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0177904(US,A1)
【文献】特表2004-527667(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0080373(US,A1)
【文献】国際公開第01/011127(WO,A1)
【文献】特開平08-060516(JP,A)
【文献】特許第5521170(JP,B2)
【文献】国際公開第2002/079558(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D03D 1/00-27/18
D04B 1/00-1/28
D04B 21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透湿性内面層、スペーサーファブリックおよび外面層を含むクーリングファブリックであって、前記外面層は、ISO 9237に従って測定して500Paで最大250リットル/dm
2/分の通気性を有し、かつ前記スペーサーファブリックは、前記スペーサーファブリックにわたって延びるモノフィラメントを含み、前記モノフィラメントは、少なくとも250dtexの線密度を有し、かつ前記モノフィラメントは、1平方インチあたり最大800モノフィラメントの密度で存在する、クーリングファブリック。
【請求項2】
前記モノフィラメントが、少なくとも450dtexの線密度を有する、請求項1記載のクーリングファブリック。
【請求項3】
前記スペーサーファブリックが、スペーサーファブリックの厚さ方向に垂直な方向で少なくとも1.0m/秒の空気速度を有する、請求項1記載のクーリングファブリック。
【請求項4】
前記モノフィラメントが、1平方インチあたり最大700モノフィラメントの密度で存在する、請求項1から3までのいずれか1項記載のクーリングファブリック。
【請求項5】
前記モノフィラメントが、1平方インチあたり最大200モノフィラメントの密度で存在する、請求項1記載のクーリングファブリック。
【請求項6】
前記外面層が、箔、フィルムまたは目の詰んだファブリックから選択され、かつ最大50リットル/dm
2/分の通気性を有する、請求項1記載のクーリングファブリック。
【請求項7】
前記透湿性内面層が、最大1μmのフィラメント直径を有するナノファイバーを含む、請求項1から
6までのいずれか1項記載のクーリングファブリック。
【請求項8】
熱伝導性繊維を含む、請求項1から
7までのいずれか1項記載のクーリングファブリック。
【請求項9】
前記熱伝導性繊維が、金属繊維、金属被覆繊維、セラミック繊維、炭素繊維、および少なくとも150W/(m K)の熱伝導率を有する物質のコーティングが設けられた繊維の群から選択される、請求項
8記載のクーリングファブリック。
【請求項10】
前記スペーサーファブリックが、少なくとも2mmの厚さを有する、請求項1から
9までのいずれか1項記載のクーリングファブリック。
【請求項11】
前記外面層が、熱可塑性樹脂または繊維を含む、請求項1から
10までのいずれか1項記載のクーリングファブリック。
【請求項12】
請求項1から
11までのいずれか1項記載のクーリングファブリックを含む、物品。
【請求項13】
少なくとも1つの送風手段と少なくとも1つの電源とを含む、請求項
12記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クーリングファブリック、および前記クーリングファブリックを含む物品、好ましくは衣料品に関する。
【0002】
クーリングファブリックは、該ファブリックを着用している人間または動物の体を冷却する能力を有する。
【0003】
さまざまな状況、環境条件でまたは必要な防護衣服は、人間の衣服内部に蓄熱し得る。蓄熱は過熱につながり、不快感を与えることがあるか、個人の健康に危険を及ぼすことさえあり得る。
【0004】
例えば、消防士、レースドライバーまたは他の、耐熱衣服または防護衣服を着用している個人は、蓄熱を経験することがある。クーリングファブリックを(例えば、防護衣服の下に)着用することで、それを着用している人間の体から体熱および湿気を逃し、蓄熱を避けることができる。
【0005】
クーリングファブリックは知られている。
【0006】
欧州特許出願公開第1367913号明細書(EP1367913)および米国特許第6955999号明細書(US6955999)には、透湿性内面層、三次元多孔質層および外層を含むファブリックが記載されている。米国特許出願公開第2016/0213078号明細書(US2016/0213078)には、かかる層を含む断熱服が開示されている。しかしながら、かかるファブリックの冷却能力および快適さに関しては改善の余地がある。クーリングファブリックの冷却能力を、クーリングファブリックの層に特別な材料を選択して組み合わせることによって、特にスペーサーファブリックの特性を慎重に選択することによって、さらに改善することが可能であることがわかった。
【0007】
本発明の課題は、改良されたクーリングファブリックを提供することである。この課題は、透湿性内面層、スペーサーファブリックおよび外面層を含むクーリングファブリックによって解決され、ここで、該外面層は、ISO 9237に従って測定して500Paで最大250リットル/dm2/分の通気性を有し、かつ該スペーサーファブリックは、該スペーサーファブリックにわたって延びるモノフィラメントを含み、該モノフィラメントは、少なくとも250dtexの線密度を有し、かつ該モノフィラメントは、1平方インチあたり最大800モノフィラメントの密度で存在する。
【0008】
クーリングファブリックの透湿性内面層は、該ファブリックを着用している個人の体の方を向いているが、外面層は、体から離れた方に向いている。好ましくは、クーリングファブリックの内面層は、個人の皮膚と直接接触している。
【0009】
本発明によるクーリングファブリックは、透湿性内面層と外面層との間に位置しているスペーサーファブリックを含む。スペーサーファブリックは、三次元スペーサーファブリックを含むか、または三次元スペーサーファブリックとして形成されている。このようなスペーサーファブリックは、スペーサー繊維により相互接続された2つの別個のファブリックを含む。
【0010】
スペーサーファブリックの別個のファブリックは、それぞれ、クーリングファブリックの透湿性内面層および/または外面層を形成し得る。あるいは、透湿性内面層および/または外面層は、スペーサーファブリックの上部および下部の別個のファブリックにそれぞれ隣接して配置された別個の層であってもよい。
【0011】
したがって、本発明によるクーリングファブリックは、透湿性内面層およびスペーサーファブリック、またはスペーサーファブリックおよび外面層、または透湿性内面層、スペーサーファブリックおよび外面層が、スペーサーファブリックの製造プロセス中に、互いに一体化されるか、あるいは透湿性内面層および外面層が、スペーサーファブリックに隣接した別個の層として存在していてよく、それらのすべての層が、重なり合って配置されている、実施形態を包含する。
【0012】
クーリングファブリックのスペーサーファブリックは、好ましくは、65m3/時の制限されていない空気流で、スペーサーファブリックの厚さ方向に垂直な方向で少なくとも0.5m/秒、好ましくは少なくとも1.0m/秒の空気速度を可能にする。該当する気流は、スペーサーファブリックの延在方向に沿った気流である。スペーサーファブリックの空気速度は、以下の方法に従って測定される。
【0013】
DIN A4サイズのスペーサーファブリック材料1枚を、例えばプラスチックのケース中で、不通気性の固体支持体上の、水に浸したファブリックまたはフォームの上に置く。該スペーサーファブリック材料は、該材料の幅および厚さによって定義される面(
図1中の面B)、および水に浸したファブリックまたはフォームと接触している面を除いて、すべての面が不通気性材料で覆われている。
【0014】
これは、例えば、DIN A4の幅、スペーサーファブリック材料と少なくとも同じ深さおよびDIN A4よりわずかに大きい長さのプラスチックフレームと、それに合った蓋とを用いて、または不通気性テープを使用して、実現され得る。
【0015】
該スペーサーファブリック材料の上部を覆う蓋は、直径80mmの円形の切り抜きを有し、該切り抜きの中心は、該材料の端部から50mmに位置し、かつ中央にある(面A、
図1)。この開口部には、アキシアル滑り軸受、直径80mmの直流型送風機(例えば、Sunon KD1208PTS1.13 GN送風機)が置かれている。送風機は、65m
3/時の制限されていない空気流を発生するように設定されている(すなわち、周囲空気中の該発電機の空気流であり、周囲空気以外の他の物質からの抵抗がなく、したがって試験中のファブリックの抵抗がない)。他の面はすべて気密封止されているため、空気は、スペーサーファブリックに流れ込み、該材料の延在方向に沿って押し込まれる。送風機の反対側にあるスペーサーファブリック材料の端部(
図1の面B)で、蓋は、スペーサーファブリック材料の端部に平行に一列に並んで配置された3つのさらなる穴を備える。穴は、熱プローブの挿入を可能にするのに十分なだけの大きさである。熱式風速計(例えば、Testo 425)の熱プローブを、それらの3つの位置のそれぞれに挿入し、気流が測定される。3つの値の平均が計算され、本発明によるクーリングファブリックのスペーサーファブリックにおける空気速度(単位:メートル/秒[m/s])として定義される。
【0016】
空気速度を測定するための構成の略図を
図1に示す。参照番号は次のとおり称する:1=濡れたファブリックまたはフォームを有する固体支持体、2=スペーサーファブリック、3=ケース、4=送風機用の切り抜きおよび送風機、5=風速計の熱プローブ、矢印は気流の方向を示す。
【0017】
クーリングファブリックの外面層は、ISO9237に従って測定して500Paで最大250リットル/dm2/分の通気性を有し、ここで、通気性は、外面層の厚さ方向で測定される。好ましくは、外面層は、最大150リットル/dm2/分、より好ましくは最大50リットル/dm2/分の通気性を有する。一実施形態では、外面層は、空気に対して不透過性である。
【0018】
好ましくは、外面層は、水分、すなわち蒸気(例えば水蒸気)、ガス(例えば空気)および液体(例えば水)に対して少なくともある程度まで透過性である。外面層は、体から離れた方向に向けられたスペーサーファブリックの表面層に取り付けられた箔として形成されていてよい。また、外面層は、スペーサーファブリックから離れているか、またはその一部を形成しているかのいずれかで、目の詰んだファブリックとして形成されてもよい。
【0019】
したがって、本発明によるクーリングファブリックは、熱可塑性樹脂またはポリマー繊維を、好ましくはポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルホン、メタ-アラミド、パラ-アラミド、または概してフィルムに延伸され得る熱可塑性材料、またはそれらの組み合わせから選択される、好ましくは箔もしくはファブリックの形で、含む外面層を含み得る。
【0020】
外面層が箔で形成されている場合、箔は、スペーサーファブリックにラミネートされ得る。
【0021】
好ましくは、スペーサーファブリックは、低い空気抵抗を有する。空気抵抗は、A4サイズ(210mm×297mm)のスペーサーファブリックのサンプルについて気流の圧力降下を測定することによって決定され得る。このサンプルは、気密な固体表面上に置かれ、その全幅にわたって加圧空気用の入口に接続される(そのため、加圧空気はその側から、すなわちスペーサーファブリックの厚さ方向からスペーサーファブリックに入り、該ファブリックの反対側に流れる)。気密なカバープレートは、サンプルを覆うために使用される。該スペーサーファブリックについての空気圧は、U字管マノメーターで測定される。該マノメーターの一方の管は、周囲空気の空気圧を測定するために周囲空気中に置かれ、該マノメーターのもう一方の管は、加圧空気用の入口の出るところと、加圧空気がスペーサーファブリックへ入るところの間に置かれる。したがって、後の管は、スペーサーの加圧空気に対する抵抗によって生じる空気圧を決定する。U字管マノメーターは、差圧ΔPを水柱mmとして与える。このΔP(単位:mm H2O)は、スペーサーファブリックの空気抵抗を示す。小さい差(ΔP、単位:mm H2O)は、低い空気抵抗を示す。
【0022】
測定は、周囲条件下(約20℃、相対湿度50~60%)で行われる。
【0023】
加圧空気の空気流は、流量計を使用して様々な値に設定されてよく、本明細書のサンプルの空気抵抗を測定する場合、12m3/時の空気流が、加圧空気に使用された。このような気流では、スペーサーファブリックは、好ましくは20未満(ΔP、単位:mm H2O)、より好ましくは15ΔP mm H2O未満、さらにより好ましくは12.5ΔP mm H2O未満の空気抵抗を有する。
【0024】
スペーサーファブリックは、2~20mm、好ましくは3~15mm、より好ましくは4~12mm、さらにより好ましくは3~10mmの範囲の厚さを有し得る。一実施形態では、スペーサーファブリックは、4~6mmの厚さを有する。
【0025】
本発明のクーリングファブリックは、スペーサーファブリックにわたって延びる繊維、すなわち、スペーサーファブリックの厚さにわたって延びる繊維を含む、スペーサーファブリックを含む。スペーサーファブリックにわたって延びるこれらの繊維は、モノフィラメントである。それらは、スペーサーファブリックの延在方向に対して垂直にまたは傾斜して配置され得る。繊維は、様々なパターンで配列され得る。好ましくは、該層にわたって延びる繊維の密度は、低く、例えば、1平方インチあたり最大800モノフィラメント、好ましくは1平方インチあたり最大700モノフィラメント、より好ましくは1平方インチあたり最大600モノフィラメント、さらにより好ましくは1平方インチあたり最大500モノフィラメント、さらにより好ましくは1平方インチあたり最大300モノフィラメント、または1平方インチあたり最大200モノフィラメントである。1平方インチ当たりのモノフィラメント数は、スペーサーファブリックの別個の上側および下側のファブリック間のモノフィラメントの接続部の数を指す。その数は、顕微鏡法によって、例えば、Keyence VHX-5000顕微鏡を使用し、代表的な領域(例えば、1平方インチに相当する拡大画像の領域)のモノフィラメントの接続部をカウントすることによって測定され得る。より簡便な測定の場合、スペーサーファブリックのモノフィラメントは、カウントされる領域の上層と下層とを分離するために(例えば、中央で)カットされ得る。その後、該スペーサーファブリックの領域内のモノフィラメントの数が、カウントされ得る。
【0026】
スペーサーファブリックにわたって、かつスペーサーファブリックの別個の上層と下層との間に延びる繊維は、少なくとも250dtexのフィラメント線密度を有するモノフィラメントである。より好ましくは、繊維は、フィラメントあたり少なくとも300dtex、好ましくは少なくとも400dtex、より好ましくは少なくとも450dtexのフィラメント線密度を有するモノフィラメントである。通常、モノフィラメントは、5000dtexの最大線密度を有し得る。
【0027】
高い線密度のモノフィラメントは、より高い圧縮抵抗のスペーサーファブリックをもたらすので好ましい。また、フィラメントの線密度が高いと、モノフィラメント数を減らすことができる。
【0028】
スペーサーファブリックにわたって延びるモノフィラメントまたはマルチフィラメント繊維は、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルホン、メタ-アラミド、パラ-アラミドまたはそれらの組み合わせから製造され得る(が、これらに限定されない)。
【0029】
スペーサーファブリックの上下別個のファブリックは、好ましくはマルチフィラメント繊維を含む。スペーサーファブリックの上下のファブリックのマルチフィラメント繊維は、該層にわたって延びる繊維と同じポリマーから選択され得る(スペーサーファブリックにわたって延びるモノフィラメントについて前述したとおり)。
【0030】
スペーサーファブリックは、好ましくは編成されたまたは製織されたスペーサーファブリック、より好ましくは編成されたものである。
【0031】
スペーサーファブリックのファブリック構造は、該ファブリックにおいて実現され得る空気速度に影響を及ぼす。驚くべきことに、スペーサーファブリックを交差する繊維の高い線密度と、面積当たりの前記繊維の低い密度との組み合わせによって、スペーサーファブリックにおける空気速度が高くなり、最終的に該ファブリックの冷却能力が向上する。
【0032】
本発明のクーリングファブリックのスペーサーファブリックは、好ましくは少なくとも0.75m/s、より好ましくは少なくとも1m/s、さらにより好ましくは少なくとも1.25m/sの空気速度を可能にする。
【0033】
一実施形態では、本発明によるクーリングファブリックは、最大5μm、好ましくは最大1μm、より好ましくは最大750nmのフィラメント直径を有するナノファイバーを含む透湿性内面層を含む。ナノファイバーは、好ましくは編布または織布の形で存在する。好ましい実施形態では、透湿性内面層は、ナノファイバーを含む3種類の繊維を使用する、ダブルラッシェルニットタイプのファブリックである。編布のループにおけるコース(c、横方向の列またはループの合計数)およびウェール(w、縦方向の列またはループの合計数)は、5~10コース/cmおよび4~10ウェール/cmの範囲内にあり得る。
【0034】
一実施形態では、スペーサーファブリックの上側および/または下側の別個のファブリックは、開放構造を有する。これは、別個のファブリックの一方または両方のいずれかで、糸を編成するか、または製織して、孔、すなわち、開いた空間を形成し、ここには上側または下側のファブリックの繊維が存在しないことを意味する。好ましくは、別個のファブリックの全表面積に対する孔面積の割合は、40%を上回り、より好ましくは少なくとも50%である。
【0035】
全表面積および孔面積は、顕微鏡法によって、例えば、Keyence VHX-5000および2D顕微鏡法画像の面積測定用の統合ソフトウェアを使用して測定され得る。
【0036】
低いモノフィラメント密度は、場合によっては大きな孔面積比とを組み合わせると、開放構造となり、これはおそらくクーリングファブリックの冷却特性を同様に改善する。
【0037】
先に説明したように、クーリングファブリックの透湿性内面層の繊維は、スペーサーファブリックの下側の別個のファブリックを形成し得る。したがって、スペーサーファブリックは、ナノファイバーを含み得る。あるいは、ナノファイバーファブリックは、スペーサーファブリックの下面層に近接または接続して配置される。
【0038】
ナノファイバーは、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルホン、メタ-アラミドまたはパラ-アラミドを含み得る。
【0039】
驚くべきことに、上記の特性を有するスペーサーファブリックとナノファイバー透湿性内面層との組み合わせにより、クーリングファブリックのクーリング効果は大幅に向上する。
【0040】
透湿性内面層は、気体(例えば、空気)、蒸気(例えば、水蒸気)および液体(例えば、水)に対して透過性である。
【0041】
好ましい実施形態では、クーリングファブリックは、少なくとも250dtex、好ましくは少なくとも300dtex、より好ましくは少なくとも400dtexの線密度を有するモノフィラメントを含み、1平方インチあたり最大800モノフィラメント、好ましくは最大700モノフィラメント、より好ましくは最大600モノフィラメント、さらにより好ましくは1平方インチあたり最大500モノフィラメント、または1平方インチあたり最大300もしくは最大200モノフィラメントのモノフィラメント密度で配置されたスペーサーファブリックを含む。より好ましい実施形態では、このようなスペーサーファブリックは、ナノファイバーが最大1μmの直径を有する、ナノファイバー透湿性内面層と組み合わされる。
【0042】
本発明によるそのような実施形態または他の実施形態では、クーリングファブリックは、熱伝導性繊維を含み得る。熱伝導性繊維は、ASTM E 1225-13;ガード付き比較縦熱流法を用いた固体の熱伝導率の標準試験方法(Standard Test Method for Thermal Conductivity of Solids Using the Guarded-Comparative-Longitudinal Heat Flow Technique)に従って測定される少なくとも10W/(m K)、好ましくは少なくとも50W/(m K)、より好ましくは少なくとも100W/(m K)の軸方向熱伝導率を有する繊維である。
【0043】
熱伝導性繊維は、ASTM E 1225-13;ガード付き比較縦熱流法を用いた固体の熱伝導率の標準試験方法に従ってガード付き熱流束センサ法を用いて測定される少なくとも150W/(m K)の熱伝導率を有する、金属繊維、金属被覆繊維、セラミック繊維、炭素繊維、および物質のコーティングが設けられた繊維の群から選択され得る。
【0044】
金属繊維としての使用またはコーティングに適した金属は、例えば、銅、アルミニウム、ニッケルまたは亜鉛である。適切なセラミック繊維は炭化ケイ素繊維を含む。繊維のコーティング用の熱伝導性物質は、窒化アルミニウム、窒化ホウ素および酸化ベリリウムから選択され得る。
【0045】
熱伝導性繊維またはそれから製造されたファブリックは、該繊維および/またはそれから製造されたファブリックを、そのファブリック構造へ編み込むことによって、あるいは繊維および/またはファブリックを、刺繍縫い、縫い込みまたはラミネーションにより組み込むことによって、透湿性内面層および/またはスペーサーファブリックに組み込まれ得る。
【0046】
本発明はまた、上記の様々な実施形態に記載されているようなクーリングファブリックを含む物品に関する。この物品は、好ましくは、人間または動物が着用する衣料品である。
【0047】
クーリングファブリックは、消防士、工場労働者、警察官、兵士のための衣料品に特に有利に使用され得る。
【0048】
本発明によるクーリングファブリックまたは衣料品は、防護衣服、例えば、耐火性または耐高温性の防護衣服またはヘルメットと組み合わされ得る。好ましくは、衣料品またはヘルメットの一部としてのクーリングファブリックは、直接肌に触れて着用され、他の衣料品は、その上に(したがって、体からさらに離れて)配置される。
【0049】
衣料品は、クーリングファブリックから製造され得るか、またはクーリングファブリックと少なくとも1つの他のファブリックを含み得る。後者の実施形態では、衣料品において、クーリングファブリックは、多くの熱および水分を発生する身体部分、例えば、ヒト胴体の上部領域(例えば、胸部、肩甲骨)、首または頭に置かれるように配置される。
【0050】
例えば、クーリングファブリックは、クーリングファブリックの外側に(すなわち、環境に向かって)配置されているメタ-アラミドファブリックと組み合わされ得る。この実施形態では、冷却特性および耐熱もしくは耐火特性を有する衣料品が提供される。
【0051】
好ましい実施形態では、クーリングファブリックを含む物品は、また、送風手段、例えば、少なくとも1つの送風機またはエアポンプも含む。この実施形態は、衣料品を着用している個人の積極的な冷却を可能にする。好ましくは、送風手段のための電源、例えば、電池も含まれる。
【0052】
送風手段は、例えば、(例えば、3Dプリントされた)プレースホルダーへの挿入により、縫い付け、テープ貼り付け、糊付けまたは布編組プロセス中の組み込みにより、衣料品に取り付けられるかまたは一体化されて、空気を強制的にスペーサーファブリック中に送り込み、それによってスペーサーファブリック内の空気循環、ひいては熱輸送が改善される。
【0053】
好ましくは、スペーサーファブリックは、送風手段が衣料品に取り付けられているかまたは衣料品に一体化されている入口開口部を有するチャネルパターンを含む。
【0054】
好ましくは、送風手段および/または電源は、衣料品に取り外し可能に取り付けられているかまたは一体化されている。
【0055】
有利には、本発明によるクーリングファブリックおよび物品は、特に消防士または工場労働者の防護服のようなより隔離された環境において、顕著に改善された冷却能力を有し、着心地がよく、かつ環境熱に対する保護をもたらす。
【0056】
本発明による物品は、それを着用している人間の温度知覚を改善する。例えば、消防士が本発明のクーリングファブリックを含む冷却ベストをフル装備の下に着用すると、消防士は、物理的なストレス(例えば、上り坂走行)および上昇した外部温度の下でも快適な感覚を有する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図2a】クーリングファブリックから作製された冷却服を示す図。
【
図2b】クーリングファブリックに設けた送風機の位置を示す図。
【0058】
本発明によるクーリングファブリックおよびそれらの特性の非限定的な例を、以下に記載する。
【実施例】
【0059】
例1
ヒトの上半身のサイズに作ったいくつかの冷却服を試験した。クーリングファブリックから
図2aに示すような冷却服を作製して、胴体の前部および後部(濃い灰色の部材)をクーリングファブリックで覆う。
図2aでは、左側が冷却服の前面を表し、右側が冷却服の背面を表す。冷却服の側部および腕(薄い灰色の部材)は、冷却服が完璧に胴体にフィットするのを確実にするために、Lycra(登録商標)ファブリックから作製される。
【0060】
クーリングファブリックには、冷却服内に空気の流れをもたらすために、複数の送風機に設ける。送風機は、
図2bに示すようにして前面(2個)および背面(4個)に配置される。
図2bでは、左側は冷却服の背面を表し、右側は冷却服の前面を表す。送風機は、バッテリーで駆動されており、1つの送風機あたり65m
3/時の最大空気流でスペーサーファブリック中に直接吹き込んでいる。
【0061】
さまざまな冷却服を、人体からの熱損失をシミュレートする発汗サーマルマネキンで試験した。冷却服試験を、ASTM F2371-5に準拠して行った。使用したサーマルマネキン試験条件は、以下のとおりであった:
1.表面温度(35℃)
2.周囲温度/相対湿度(%)(25℃/40%)
3.上半身の発汗量(0.48L/時)
【0062】
累積熱流束(または冷却能力)を、1時間の試験中に測定する。マネキンの胴体に、下記の冷却服(サンプル1~9)のうちの1つを着せた。冷却服の上に標準の消防服を置き、体の下部、頭および手を含めたマネキン全体を覆った。体の胴体部分の累積熱流束を決定した。
【0063】
試験した冷却用衣料品のうち6つは、透湿性内面層、スペーサーファブリックおよび外面層からなる。
【0064】
これらの冷却服の場合、様々なスペーサーファブリックと透湿性内面層とを組み合わせた。サンプル1~6の外面層は、熱可塑性ポリウレタンフィルムであった。
【0065】
サンプル1、3および5は、本発明によるスペーサーファブリック(1)を含む。このタイプのスペーサーファブリックは、1.3m/sの空気速度を可能にする。
【0066】
タイプ1のスペーサーファブリックは、以下の特性を有する:
材料:100%ポリエチレンテレフタレート
モノフィラメント密度:155カウント/インチ2(24カウント/cm2)
モノフィラメント線密度:656dtex/フィラメント
構造:経編布、1cmあたり6.5コース、1cmあたり2ウェール
厚さ:10mm
表面孔径:7mm
単位面積当たりの質量:530g/m2
【0067】
対照的に、タイプAのスペーサーファブリック(比較)は、0.5m/s未満の空気速度を可能にし、以下の特性を有する:
材料:100%ポリエチレンテレフタレート
モノフィラメント密度:約3870カウント/インチ2(150カウント/cm2)
モノフィラメント線密度:33dtex/フィラメント
構造:経編布、1cmあたり17コース、1cmあたり10ウェール
厚さ:5mm
表面孔径:2mm
単位面積当たりの質量:432g/m2
【0068】
両方のタイプのスペーサーファブリックを、様々な透湿性内面層と組み合わせた:綿布(標準綿10A、WFK Testgewebe GmbH)、ポリエステルファブリック、またはポリエステルナノファイバーファブリック。
【0069】
ポリエステルファブリックは、以下の特性を有する:
繊維径:2μm
構造:経編布
【0070】
ポリエステルナノファイバーファブリックは、以下の特性を有する:
繊維径:700nm
構造:経編布
【0071】
さらに、3つの市販の冷却服も、サーマルマネキン試験で試験した(サンプル7~9)。
【0072】
市販の冷却服は、E-Cooline(サンプル7)、Glacier Tekクールベスト(サンプル8)、Rakuten U500B冷却ベスト(サンプル9)である。サンプル7は、ベストに水を入れる必要がある冷却服であり、サンプル8は、相変化冷却タイプの服の例であり、サンプル9は、市販の空冷タイプの服の例である。
【0073】
表1は、さまざまな冷却服の冷却能力を示す:
【表1】
【0074】
表2のデータから分かるように、本発明による冷却服(サンプル1、3および5)は、市販の冷却服(サンプル7~9)だけでなく、スペーサーファブリックが0.5m/s未満の空気速度を有する冷却服よりも明らかに性能が優れている。
【0075】
例2
いくつかのスペーサーファブリックの冷却能力を比較した。この目的のために、6つの異なるスペーサーファブリックの空気抵抗および蒸発特性を測定した。
【0076】
スペーサー1(本発明による)およびスペーサーA(比較)は例1でも使用した。さらに、スペーサー2~4(本発明による)およびスペーサーB(比較)も試験した。すべてのスペーサーは、100%ポリエチレンテレフタレート製である。
【0077】
スペーサーの空気抵抗を、上記のように求めた。
【0078】
モノフィラメント密度および相対孔面積を、(上記のとおり)顕微鏡法により測定した。
【0079】
蒸発特性を、以下の方法により測定した:
実験構成は、送風されるスペーサーファブリックで覆われた発汗している肌をシミュレートすることを意図していた。35℃に設定した水浴は、発汗している肌に類似する。フォーム層を水浴中の支持体上に置いて、フォームが水中で表面から部分的に出ているが、フォームはその厚さ全体にわたって水で飽和している。例えば、厚さ10mmのポリエーテルフォームが、7mm出ることもある。フォームの層は、該表面への定常状態の水輸送を保証する。試験されるべきスペーサーファブリックを、フォーム上に置き、吹き抜ける周囲空気の通路として機能する。送風機(例えば、Sunon KD 1208 PTSI 1.8 W送風機)を使用して、空気を、空気速度の測定(上記および
図1に記載)と同じ方法であるが、蒸発を可能にするように該スペーサーに吹き込む。
【0080】
全体の構成を(水浴、フォーム、スペーサーおよび送風機を含めて)、精密はかり(例えば、Kern DS 20K0.1 0.1)の上に置き、このはかりは、蒸発速度の尺度として、一定の時間枠内での質量の減少をデジタル分析することが可能である。水浴の温度、スペーサーファブリックおよび周囲の空気の温度を、熱電対で測定し、ファイルに記録した。同時に、質量を測定し(1秒に1回)、ファイルにも記録した。全体の構成を、WEISS WK3-180/40 4.1kWの気候室に置き、25℃の設定温度および40%の相対湿度(Rh)下での理論上の期待値を検証する。試験中、電圧を、常に送風機の最大値、12V(したがって0.15A)に設定した。
【0081】
単位時間当たりの蒸発水の質量(グラム/秒)、スペーサーファブリックの蒸発面積(A4サイズ)、および水の蒸発熱(J/g)に基づいて、冷却能力(W/m2)を決定する。
【0082】
各スペーサーファブリックの冷却能力を、25℃および40%Rhで10分間、3回測定し、以下の式で計算した:
冷却能力(W/m2)=[質量損失/時間(グラム/秒)]×K/[面積(m2)]。
【0083】
定数Kは、使用温度および相対湿度における水の蒸発熱(2400J/g)である。
【0084】
その後、平均値を3回の測定から計算した(単位:W/m2)。
【0085】
表2は、様々なスペーサーファブリックの特性を示す。
【表2】
【0086】
これらのデータは、本発明で使用するスペーサーが、より低い空気抵抗およびより高い冷却能力をもたらすことを示す。これにより、スペーサーファブリックを含むクーリングファブリックの冷却効果の向上が期待される。
【符号の説明】
【0087】
1 濡れたファブリックまたはフォームを有する固体支持体、 2 スペーサーファブリック、 3 ケース、 4 送風機用の切り抜きおよび送風機、 5 風速計の熱プローブ