(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】局所領域的腫瘍治療後の免疫調節
(51)【国際特許分類】
A61K 47/34 20170101AFI20220610BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220610BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20220610BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20220610BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220610BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220610BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220610BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220610BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220610BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220610BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220610BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220610BHJP
A61P 15/14 20060101ALI20220610BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220610BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20220610BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220610BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K47/36
A61K39/39
A61K38/19
A61K38/16
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/04
A61P1/00
A61P1/16
A61P13/12
A61P11/00
A61P15/14
A61P1/18
A61P19/08
A61P43/00 121
A61K9/06
(21)【出願番号】P 2019532205
(86)(22)【出願日】2017-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2017071924
(87)【国際公開番号】W WO2018041981
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-12
(32)【優先日】2016-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】506413856
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・デカルト
(73)【特許権者】
【識別番号】507139834
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリック-オピト ドゥ パリ
(73)【特許権者】
【識別番号】519069589
【氏名又は名称】エコール・ナシオナル・スーぺリウール・ドゥ・シミ・ドゥ・パリ
(73)【特許権者】
【識別番号】505211271
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ヴェルサイユ・サン-クァンタン・アン・イヴェリーヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロベール・マラフォス
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー・ミニェ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・ブディ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンネ・セガン
(72)【発明者】
【氏名】カティア・レムダニ
(72)【発明者】
【氏名】クロード・カプロン
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-538271(JP,A)
【文献】Development of a successful antitumor therapeutic model combining in vivo dendritic cell vaccination with tumor irradiation and intratumoral GM-CSF delivery,Cancer Immunol Immunother,2011年,60(2),273-281
【文献】Sustained Delivery of Interleukin-2 from a Poloxamer 407 Gel Matrix Following Intraperitoneal Injection in Mice,Pharmaceutical Research,米国,1992年,9(3),425-434
【文献】Hematopoietic Progenitor Cell Mobilization in Mice by Sustained Delivery of Granulocyte Colony-Stimulating Factor,Journal of Interferon and Cytokine Research,2005年,25(8),490-500
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-
1つの水溶液中における、17%w/v~32%w/vの間の濃度の、ポロキサマー;PEG-PLGA-PEGコポリマー;PEG-PLA-PEGコポリマー;PEG-PCL-PEGコポリマーから選択され;好ましく
はポロキサマーであり、より好ましく
はポロキサマー407及び/又はポロキサマー188である、少なくとも1種の熱感受性コポリマー
;
- カラゲナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、キトサン、及びデキストランから選択される
、0.01%w/v~0.3%w/vの間
、優先的に
は0.01%w/v~0.2%w/vの間の濃度の粘膜付着性添加剤
を含
む熱感受性ポリマーハイドロゲルであって;
前記熱感受性ポリマーハイドロゲルが、
- 以下から選択される少なくとも1種の免疫賦活性アジュバント:
i. BCG又はその精製タンパク質の少なくとも1種、
ii. 細菌DNAの断片、例えばCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、又は任意の弱毒化された細菌若しくはウイルス剤、及び特異的若しくは非特異的な抗腫瘍活性を有するそれらの誘導体、例えばリステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、及びHPV16 E7(rE7m)タンパク質、
iii. 死滅し得、生存し得及び/又は弱毒化し得るマイコバクテリア細胞、特に、以下から選択される加熱殺菌された細菌:マイコバクテリウム・ツベルクローシス(HKMT)、サルモネラ・チフィムリウム(HKST)、リステリア・モノサイトゲネス(HKLM)、マイコバクテリウム・バッカエ、IMM-101(マイコバクテリウム・オブエンセ)、及び不活性化されたストレプトコッカス・ピオゲネス(OK-432/ピシバニール)、並びにそれらの組合せ、
iv. MPLA(モノホスホリル脂質A)、G100(グルコプラノシル脂質A)、及びそれらの組合せから選択されるLps類似体、
v. イミキモド、ミファムルチド(マイコバクテリウム・ツベルクローシスの合成の壁類似体)、及びそれらの組合せから選択される合成類似体;
- 並びに、以下のうちの少なくとも1種:
〇 インターフェロン-アルファ(IFN-α)、インターフェロン-ベータ(IFN-β)、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)、インターロイキン(IL-1~IL-29)、腫瘍壊死因子(TNF-アルファ、TNF-ベータ)、エリスロポエチン(EPO)、細胞内接着分子(ICAM)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及び顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)から選択される1種のサイトカイン;並びに/又は
〇 CCL21、CCL19、CCR7、CCL2、CCL3、CCL5、CCL16、CXCL12、CXCR7、CCL20及びMDCから選択される少なくとも1種のケモカイン;並びに/又は
〇 HSP60、HSP70及びHSP90から選択される少なくとも1種の熱ショックタンパク質
を更に含む、熱感受性ポリマーハイドロゲル。
【請求項2】
医薬としての
その使用のための
、請求項1に記載の熱感受性ポリマーハイドロゲル。
【請求項3】
がんを有する対象における腫瘍又は転移の治療における
その使用のための、
請求項1に記載の熱感受性ポリマーハイドロゲル
。
【請求項4】
前記熱感受性コポリマーが
、17%w/v~28%w/vの間、より好ましく
は17%w/v~24%w/vの間、更により好ましく
は18%w/v~22%w/vの間の濃度のポロキサマー407及び/又はポロキサマー188である、請求項1に記載の熱感受性ポリマーハイドロゲル又は請求項2若しくは3に記載の使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲル。
【請求項5】
前記熱感受性ポリマーハイドロゲルが、生理的状態下で、少なくとも12時間~12日間、好ましく
は少なくとも24時間~10日間、より好ましく
は少なくとも3~7日間、更により好ましく
は7日間の期間にわたって、前記免疫賦活性アジュバント及び/又は前記サイトカイン及び/又は前記ケモカイン及び/又は前記熱ショックタンパク質の放出を制御することを可能にする、請求項1若しくは4に記載の熱感受性ポリマーハイドロゲル又は請求項2から4のいずれか一項に記載の使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲル。
【請求項6】
前記がんが、結腸直腸がん、肝細胞癌、黒色腫、腎がん、肺がん、乳がん、膵がん及び骨がんから選択され、好ましく
はその転移性がんであり、より好ましく
は結腸直腸がんの転移である、請求項3から5のいずれか一項に記載の腫瘍又は転移の治療における
その使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲル。
【請求項7】
前記熱感受性ポリマーハイドロゲルが、
i.熱局所領域的治療、例え
ば高周波、マイクロ
波、又は
ii.寒冷療法、又は
iii.塞栓術、優先的に
は高周波、及び/又は
iv.抗腫瘍治療、例え
ば放射線治療、標的化学療法、生物療法、全身免疫療法と共に使用され、前記熱感受性ポリマーハイドロゲルが、同時に又は順次投与される
、
請求項3から6のいずれか一項に記載のその使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲル。
【請求項8】
前記熱感受性ポリマーハイドロゲルが、同時に又は順次投与され、優先的には、RFAと同時に投与され、抗-PD1、抗-CTLA4、抗-PDL1、抗-TIM3、抗-LAG3、抗-IDO、抗-Kir、抗-blta及びそれらの組み合わせから選択される全身性免疫チェックポイント阻害剤と共に順次投与される、
請求項3から7のいずれか一項に記載のその使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲル。
【請求項9】
i.
-
1つの水溶液中における、17%w/v~32%w/vの間の濃度の、ポロキサマー;PEG-PLGA-PEGコポリマー;PEG-PLA-PEGコポリマー;PEG-PCL-PEGコポリマーから選択され;好ましく
はポロキサマーであり、より好ましく
はポロキサマー407及び/又はポロキサマー188である、少なくとも1種の熱感受性コポリマー
;
- カラゲナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、キトサン、及びデキストランから選択される
、0.01%w/v~0.3%w/vの間
、優先的に
は0.01%w/v~0.2%w/vの間の濃度の粘膜付着性添加剤
を含む熱感受性ポリマーハイドロゲル;
ii.
- BCG及び/若しくはその精製タンパク質の少なくとも1種;又は
- CpGオリゴデオキシヌクレオチド(若しくはCpG ODN);又は
- 弱毒化された細菌、ウイルス剤、及び特異的若しくは非特異的な抗腫瘍活性を有するそれらの誘導体、例え
ばリステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、及びHPV16 E7(rE7m)タンパク
質;又は
-
死滅し得、生存し得及び/若しくは弱毒化し得るマイコバクテリア細胞、特に、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(HKMT)、サルモネラ・チフィムリウム(HKST)、リステリア・モノサイトゲネス(HKLM)、マイコバクテリウム・バッカエ、IMM-101(マイコバクテリウム・オブエンセ)及び不活性化されたストレプトコッカス・ピオゲネス(OK-432/ピシバニール)並びにそれらの組み合わせから選択される、加熱殺菌された細菌;又は
- MPLA(モノホスホリル脂質A)、G100(グルコプラノシル脂質A)及びそれらの組み合わせから選択されるLps類似体;又は
- イミキモド、ミファムルチド(マイコバクテリウム・ツベルクローシスの合成の壁類似体)及びそれらの組み合わせから選択される合成類似体
から選択される少なくとも1種の免疫賦活性アジュバント;
iii.
- 以下のうちの少なくとも1種:
● インターフェロン-アルファ(IFN-α)、インターフェロン-ベータ(IFN-β)、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)、インターロイキン(IL-1~IL-29)、腫瘍壊死因子(TNF-アルファ、TNF-ベータ)、エリスロポエチン(EPO)、細胞内接着分子(ICAM)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及び顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)から選択される1種のサイトカイン;並びに/又は
● CCL21、CCL19、CCR7、CCL2、CCL3、CCL5、CCL16、CXCL12、CXCR7、CCL20及びMDCから選択される少なくとも1種のケモカイン;並びに/又は
● HSP60、HSP70及びHSP90から選択される少なくとも1種の熱ショックタンパク質
を含む、キット。
【請求項10】
前記熱感受性コポリマーが
、17%w/v~28%w/vの間、より好ましく
は17%w/v~24%w/vの間、更により好ましく
は18%w/v~22%w/vの間の濃度のポロキサマー407及び/又はポロキサマー188である、請求項
9に記載のキット。
【請求項11】
前記少なくとも1種のサイトカインが、GM-CSFである、請求項9又は10に記載のキット。
【請求項12】
前記少なくとも1種のサイトカインが、GM-CSFである、請求項1に記載の熱感受性ポリマーハイドロゲル又は請求項2若しくは3に記載のその使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、少なくとも1種の熱感受性コポリマー、1種の水溶液、粘膜付着性(mucoadhesive)添加剤を含む熱感受性ポリマーハイドロゲルを対象とし、前記熱感受性ポリマーハイドロゲルは、少なくとも1種の免疫賦活性アジュバント及び/又は少なくとも1種のサイトカイン及び/又は少なくとも1種のケモカイン及び/又は少なくとも1種の熱ショックタンパク質を更に含む。本発明の他の目的は、がん(cancer)、好ましくは、転移性がんを有する対象における腫瘍又は転移の治療における使用のための、本発明による熱感受性ポリマーハイドロゲルである。
【背景技術】
【0002】
結腸直腸がん(CRC)は、世界で3番目に多いがんであり、肝転移は、症例のおよそ50%に生じる。治療意図をもった外科治療は、患者の70%において可能でない。化学療法及び標的生物学的療法は、毒性及び治療に対する抵抗性の発生のため、効果が限定される。切除が可能でない場合、局所領域的治療(Locoregional treatments)、例えば、局部熱治療又は局所動脈内化学塞栓療法等を用いて、原発性及び転移性肝腫瘍を治療する。特に、切除不可能な肝転移の治療のために広く用いられるラジオ波焼灼療法(RFA)は、免疫応答を誘導するが、再発を防止するのに不十分であることが示されている。しかしながら、完全な治療を受けた患者の半数は、肝内再発及び/又は潜在的な微小転移の進行を生じる。抗腫瘍免疫応答は、局部熱治療(den Brokら、2004年;Hanslerら、2006年)又は局所化学塞栓療法(Guoら、2014年;Suら、2016年)で治療した患者において明白に実証された。しかしながら、結腸直腸がんは、免疫系に対し小さな影響しかなく、3年後に局所及び全身の再発を高率にもたらし、したがってこれらの結果は弱い(Ruersら、2012年及びNordlingerら、2013年)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】den Brokら、2004年
【文献】Hanslerら、2006年
【文献】Guoら、2014年
【文献】Suら、2016年
【文献】Ruersら、2012年
【文献】Nordlingerら、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、がん又は転移性がんに罹患している対象における潜在的な微小転移の再発及び/又は増殖を予防するために結腸直腸がんへの免疫系応答を増強し、それによって、3年後の生存率を向上させる新規な生成物及び方法の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、腫瘍又は転移の局所領域的治療と組み合わせた、1種若しくは複数の免疫賦活性種、例えば、分子又はタンパク質を含む熱感受性ハイドロゲルである。この戦略によって、転移性疾患の遠隔制御を持続する抗腫瘍免疫応答が増強される。ハイドロゲルによるin situでベクトル化された免疫調節薬による熱又は虚血性の細胞ストレスの強化は、抗腫瘍性免疫応答、抗原提示細胞(APCs)の動員及び成熟という2つの基本概念を対象としている。
【0006】
したがって、本発明は、
- ポロキサマー;PEG-PLGA-PEGコポリマー;PEG-PLA-PEGコポリマー;PEG-PCL-PEGコポリマーから選択され;好ましくは、ポロキサマーであり、より好ましくは、ポロキサマー407及び/又はポロキサマー188である、少なくとも1種の熱感受性コポリマー;
- 67%w/v~83%w/vの間、優先的には、75%w/v~83%w/vの間、より優先的には、77%w/v~82%w/vの間の濃度の少なくとも1種の水溶液;
- カラゲナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、キトサン、及びデキストランから選択される、0~0.3%w/vの間、優先的には、0.01%w/v~0.3%w/vの間、より優先的には、0.01%w/v~0.2%w/vの間の濃度の粘膜付着性添加剤
を含む熱感受性ポリマーハイドロゲルに関し;前記熱感受性ポリマーハイドロゲルは、少なくとも1種の免疫賦活性アジュバント及び/又は少なくとも1種のサイトカイン及び/又は少なくとも1種のケモカイン及び/又は少なくとも1種の熱ショックタンパク質を更に含む。
【0007】
好ましい実施形態において、本発明による熱感受性ポリマーハイドロゲルは、好ましくは、ポロキサマー、例えば、ポロキサマー407及び188等から選択される、少なくとも2種のコポリマーを含む。
【0008】
用語「熱感受性コポリマー」とは、温度の変化に応答して相転移挙動を有するコポリマーとして定義することができる。本明細書において用いられる熱感受性コポリマーは、遷移温度として本明細書に記載された、ある種の閾値を超える温度の増加に応答して、ある溶媒(例えば、水)中で、溶液からゲルへの(ゾル-ゲル)遷移、又はゲル化を起こす。遷移温度よりも低い温度で、コポリマーは、容易に溶解して、溶液(例えば、水溶液)を形成することができる。遷移温度以上の温度で、コポリマーの溶解性は、急に低下して、凝集した粒子を形成し、その結果、例えば、ポリマー分子の会合及び脱水をもたらし得る。熱感受性コポリマーの溶液が、部分相転移を起こしてゲルになる遷移温度又は遷移温度を超える温度は、約10℃~約50℃、例えば、約25℃~約50℃、詳細には、約28℃~35℃の範囲で存在し得る。本明細書において用いられる熱感受性コポリマーのゾル-ゲル遷移は、優先的には、可逆的であり、溶液及び/又はゲルの組成物に依存している。
【0009】
本発明に適した熱感受性コポリマーは、
- エチレンオキシド及び酸化プロピレンに基づいたコポリマーである、プルロニックポリマー(「ポロキサマー」とも名付けられる);
- PEG-PLGA-PEGコポリマー(「PEG」は、「ポリエチレングリコール」を意味し、「PLGA」は、「ポリ(co-グリコール酸)」を意味する);
- PEG-PLA-PEGコポリマー(「PLA」は、「ポリ(乳酸)」を意味する);
- PEG-PCL-PEGコポリマー(「PCL」は、「ポリカプロラクトン」を意味する)
から選択され;好ましくは、ポロキサマーであり、前記熱感受性コポリマーは、より好ましくは、ポロキサマー407(又はP407)である。
【0010】
好ましい実施形態において、本発明による熱感受性ポリマーハイドロゲルは、17%w/v~32%w/vの間、好ましくは、17%w/v~28%w/vの間、より好ましくは、17%w/v~24%w/vの間、更により好ましくは、18%w/v~22%w/vの間の濃度のポロキサマー407及び/又はポロキサマー188を含む。
【0011】
好ましい実施形態において、本発明による熱感受性ポリマーハイドロゲルは、17%w/v~32%w/vの間、好ましくは、17%w/v~28%w/vの間、より好ましくは、17%w/v~24%w/vの間、更により好ましくは、18%w/v~22%w/vの間の濃度の、1種のポロキサマー、好ましくは、P407、又はポロキサマーの組み合わせ、例えば、P407及びP188を含む。例えば、本発明によるコポリマーは、好ましくは、17%w/v~32%w/vの間、好ましくは、17%w/v~28%w/vの間、より好ましくは、17%w/v~24%w/vの間、更により好ましくは、18%w/v~22%w/vの間の濃度でP407を含む。
【0012】
用語「水溶液」とは、液体組成物、例えば、ろ水、塩化ナトリウム、リン酸緩衝食塩水(PBS)、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ブドウ糖、乳糖、及び/又はトレハロース等と、本明細書で定義する。P407は、水溶液に可溶化である場合、優れた可溶化能力、低毒性を有し、熱可逆特性を示す。
【0013】
通常、本発明の熱ゲル(thermogel)組成物は、60%w/vを超える水、更により好ましくは、65%w/vを超える水、更により好ましくは、67%w/v~83%w/vの間の水、より好ましくは、75%w/v~81%w/vの間の水、より優先的には、77%w/v~79%w/vの間の水を含む。前記水は、好ましくは、滅菌水(例えば、超純水又は注射用水)である。
【0014】
かかる「水性」組成物は、通常、均質である。
【0015】
「粘膜付着性添加剤」とは、本明細書では、組成物を、流動性のある液体として投与することを可能にするが、ゲル化後のゲル凝集及び目的とする組織とのゲル相互作用を強化し、それによって、長期間、目的とする部位で治療薬を保持するために働く生体付着効果を提供する生成物であることを意味する。粘膜付着性ポリマー添加剤、例えば、カラゲナン、キサンタンガム(例えば、Satiaxane(登録商標))、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム(例えば、Protanal)、キトサン、及びデキストラン等は、適当な組成物に配合される場合、目的とする組織でゲル化する材料の例である。キサンタンガム(例えば、Satiaxane(登録商標))又はジェランガムを含有する、本発明による組成物は、キサンタン又はジェランガムが典型的には0.01%w/v~0.3%w/vの間、好ましくは、0.05%w/v~0.2%w/vの間、より好ましくは、0.1%w/v~0.2%w/vの間の濃度で構成される。
【0016】
「熱ショックタンパク質」又は「HSP」とも称される「ストレスタンパク質」とは、本明細書では、ストレス性状態への曝露に応答して、細胞により産生されるタンパク質のファミリーを意味する。かかるストレス性状態は、(限定されるものではないが)寒冷、熱、UV光である。本発明に関連して有用なHSPは、例えば、GP96及びHSP70である。
【0017】
好ましい実施形態において、本発明による熱感受性ポリマーハイドロゲルは、少なくとも12時間~12日間、好ましくは、少なくとも24時間~10日間、より好ましくは、少なくとも3~7日間、更により好ましくは、7日間の期間にわたって、生理的状態下で、前記免疫賦活性アジュバント及び/又は前記サイトカイン及び/又は前記ケモカイン及び/又は前記熱ショックタンパク質の放出を制御することを可能にする。
【0018】
本発明によれば、用語「アジュバント」とは、抗原又はワクチンの免疫原性を増強する目的のために投与される化合物を意味し、本明細書において、「免疫賦活性アジュバント」又は、単に「アジュバント」と表現される。本明細書において、「免疫賦活性アジュバント」は、細菌細胞、マイコバクテリア細胞、又はウイルスに由来し得る抗原に対して免疫応答を刺激するために、動物に投与され、前記細菌細胞は、死滅し得、生存し得及び/又は弱毒化し得、例えば、弱毒化された生細菌ワクチンであるBCGとなり得る。細菌ワクチンは、当技術分野で公知の通り、生細菌ワクチン、不活化細菌ワクチン、弱毒化細菌ワクチン、又は精製タンパク質、例えば、BCG又は細菌DNAの断片、例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(又はCpG ODN)等から得られた、精製タンパク誘導体(PPDs)となり得る又は、ルーチン的な実験を用いた当技術分野で当業者に周知の方法により生成することができる。
【0019】
本発明のアジュバントは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、アジュバント間で相乗効果がある場合、相乗効果を発揮する2種以上のアジュバントを、組み合わせて用いることが好ましい。他の場合では、アジュバントは単独で用いることができるが、本目的によれば、アジュバントは、組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「抗原」とは、腫瘍関連抗原及びウイルス抗原、細菌性抗原、寄生虫抗原、真菌抗原を含むがそれだけに限らない、それ自体又はそれらの部分に対して免疫応答を誘発することが可能である、任意の生体分子(タンパク質、ペプチド、ヌクレオチド/オリゴデオキシヌクレオチド、リポタンパク質、グリカン、糖タンパク質)を意味する。
【0021】
好ましい実施形態において、本発明による熱感受性ポリマーハイドロゲルは、以下から選択される少なくとも1種の免疫賦活性アジュバントを含む。
i.BCG及び/又はその精製タンパク質(特に、PPDs)の少なくとも1種、又は
ii.細菌DNAの断片、例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(又はCpG ODN)、弱毒化された細菌及びウイルス剤並びにそれらの誘導体、例えば、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、及びHPV16 E7(rE7m)タンパク質等。有利には、前記抗腫瘍活性は、特異的又は非特異的な抗腫瘍活性である、又は
iii.マイコバクテリウム・ツベルクローシス(HKMT:Mycobacterium tuberculosis)、サルモネラ・チフィムリウム(HKST)、リステリア・モノサイトゲネス(HKLM)、マイコバクテリウム・バッカエ(Mycobacterium vaccae)、IMM-101(マイコバクテリウム・オブエンセ(mycobacterium obuense))及び不活性化されたストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)(OK-432/ピシバニール)及びそれらの組み合わせから選択される、加熱殺菌された細菌;又は
iv.MPLA(モノホスホリル脂質A)、G100(グルコプラノシル(glucopranosyl)脂質A)及びそれらの組み合わせから選択される、Lps類似体;又は
v.イミキモド、ミファムルチド(マイコバクテリウム・ツベルクローシスの合成の壁類似体)及びそれらの組み合わせから選択される合成類似体。
【0022】
好ましい実施形態において、本発明による熱感受性ポリマーハイドロゲルは、
- BCG及び/又はその精製タンパク質(特に、PPDs)の少なくとも1種、又は
- 細菌DNAの断片、例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(又はCpG ODN)、弱毒化された細菌及びウイルス剤並びにそれらの誘導体、例えば、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、及びHPV16 E7(rE7m)タンパク質等から選択される少なくとも1種の免疫賦活性アジュバント
を含む。有利には、前記抗腫瘍活性は、特異的又は非特異的な抗腫瘍活性である。
【0023】
「非特異的抗腫瘍活性」とは、本明細書では、前記薬剤が、それ自体免疫原性でないが、がん腫瘍に対して免疫系の様々な非特異的なエフェクター機序を刺激することが可能であるという意味である。一方、「特異的抗腫瘍活性」とは、がん腫瘍に対する免疫系の様々な特異的なエフェクター機序を刺激することが可能である薬剤を意味する。用語「抗腫瘍」とは、がん増殖、浸潤、及び/又は転移を抑制する又は予防することができる化合物又は組成物を意味する。
【0024】
用語「サイトカイン」とは、本明細書で使用される場合、免疫系の細胞に効果を及ぼす/影響を与える生体分子の一般的クラスを意味する。本定義では、それだけに限らないが、局所的に作用する又は血液中で循環することができる、及び本発明の組成物又は方法において使用される場合、がんへの個体の免疫応答を調節する又はモジュレートするのに役立つ生体分子を含むことを意味する。本発明を実行するのに使用するための模範的なサイトカインには、それだけには限らないが、インターフェロン-α(IFN-α)、インターフェロン-β(IFN-β)、及びインターフェロン-γ(IFN-γ)、インターロイキン(例えば、IL-1からIL-29の中でもとりわけ、特に、IL-2、IL-5、IL-6、IL-7、IL-12、IL-15及びIL-18)、腫瘍壊死因子(例えば、TNF-α及びTNF-β)、エリスロポエチン(EPO)、細胞内接着分子(ICAM)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及び顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)が含まれる。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「ケモカイン」とは、宿主防御エフェクター細胞、例えば、好中球、単球及びリンパ球等のための走化性因子として作用する、当技術分野で認識される(art-recognized)タンパク質のグループのメンバーを意味する(例えば、Rollins、1997年及びBaggiolini、1998年を参照のこと)。好ましいケモカインは、「CC」及び「CXC」ケモカインクラスのメンバーであり、CCL21-CCL19-CCR7;CCL2(又は単球走化性タンパク質[MCP-1])、CCL3、CCL5、CCL16(肝臓で発現したケモカイン[LEC])、CXCL12-CXCR7、CCL20(又はMIP3a)、及び単球、樹状細胞、例えば、MDC(STCP1)等についての走化性活性を有する他のケモカインが含まれる。より好ましくは、CCL2、CCL19、及びCCL21である。最も好ましくは、CCL21である。
【0026】
用語「ストレスタンパク質」とは、本明細書で使用される場合、1種又は複数の、好ましくは、すべての次の基準を満たす、任意の細胞のタンパク質を意味するものと理解される。これは、細胞がストレス性刺激に曝露される場合、細胞内濃度が増加し、他のタンパク質又はペプチドに結合することが可能であり、アデノシン三リン酸(ATP)及び/又は低pHの存在下で、結合タンパク質又はペプチドを放出することが可能であるタンパク質である。ストレス性刺激には、それだけには限らないが、熱ショック、栄養の欠乏、代謝の破壊、酸素ラジカル、及び細胞内病原体による感染が含まれる。
【0027】
同定される第1のストレスタンパク質は、熱ショックタンパク質(HSP's)であった。これらの名称が示唆する通り、HSP'sは、通常、熱ショックに応答して、細胞により誘導される。哺乳動物のHSP'sの3つの主なファミリーが、これまでに同定されており、HSP60、HSP70及びHSP90が含まれる。これらの数字は、キロダルトンでストレスタンパク質の近似の分子量を示す。これまでに同定された哺乳動物のHSP90ファミリーのメンバーには、サイトゾルHSP90(Hsp83としても公知である)及び小胞体対応物HSP90(HSP83としても公知である)、HSP87、Grp94(ERp99としても公知である)及びgp96が含まれる。これまでに同定されたHSP70ファミリーのメンバーには、サイトゾルHSP70(p73としても公知である)及びHsc70(p72としても公知である);小胞体対応物BiP(Grp78としても公知である);及びミトコンドリア対応物HSP70(Grp75としても公知である)が含まれる。
【0028】
好ましい実施形態において、本発明による熱感受性ポリマーハイドロゲルは、GMCSF、GCSF、IL-12、インターフェロンγ、TNFα、GP96、HSP、HSP70から選択され、好ましくは、GMCSFである、少なくとも1種のサイトカイン及び/又は1種のケモカイン及び/又は1種の熱ショックタンパク質を含む。
【0029】
本発明の他の目的は、
- 前述の少なくとも1種の熱感受性コポリマー;
- 67%w/v~83%w/vの間、優先的には、75%w/v~83%w/vの間、優先的には、77%w/v~82%w/vの間の濃度の少なくとも1種の水溶液;
- カラゲナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、キトサン、及びデキストランから選択される、0~0.3%w/vの間、優先的には、0.01%w/v~0.3%w/vの間、より優先的には、0.01%w/v~0.2%w/vの間の濃度の粘膜付着性添加剤
を含む、医薬として用いるための熱感受性ポリマーハイドロゲルであり;前記熱感受性ポリマーハイドロゲルは、少なくとも1種の免疫賦活性アジュバント及び/又は少なくとも1種のサイトカイン及び/又は少なくとも1種のケモカイン及び/又は少なくとも1種の熱ショックタンパク質を更に含む。
【0030】
好ましい実施形態において、本発明による医薬として用いるための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、好ましくは、ポロキサマー、例えば、ポロキサマー407及び188等から選択される、少なくとも2種のコポリマーを含む。
【0031】
本発明による医薬として用いるための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、
- ポロキサマー;
- PEG-PLGA-PEGコポリマー;
- PEG-PLA-PEGコポリマー;
- PEG-PCL-PEGコポリマーから選択される、少なくとも1種の熱感受性コポリマー
を含み;好ましくは、ポロキサマーであり、より好ましくは、ポロキサマー407及び/又は188である。
【0032】
有利には、本発明による医薬として用いるための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、17%w/v~32%w/vの間、好ましくは、17%w/v~28%w/vの間、より好ましくは、17%w/v~24%w/vの間、更により好ましくは、18%w/v~22%w/vの間の濃度のポロキサマー407及び/又は188、又は例えば、ポロキサマー407及びポロキサマー188等のポロキサマーの組み合わせを含む。
【0033】
好ましい実施形態において、本発明による医薬として用いるための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、200~600mOsmの間、優先的には、300~500mOsmの間、優先的には、350~450mOsmの間を含むモル浸透圧濃度を有する。
【0034】
「モル浸透圧濃度」の決定は、当業者により公知であるルーチン的な実験手順により容易になされる。
【0035】
好ましい実施形態において、本発明による医薬として用いるための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、生理的状態下で、少なくとも12時間~12日間、好ましくは、少なくとも24時間~10日間、より好ましくは、少なくとも3~7日間、更により好ましくは、7日間の期間にわたって、前記免疫賦活性アジュバント及び/又は前記サイトカイン及び/又は前記ケモカイン及び/又は前記熱ショックタンパク質の放出を制御することを可能にする。
【0036】
好ましい実施形態において、本発明による医薬として用いるための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、BCG及び/又はその精製タンパク質、例えば、PPDs等の少なくとも1種、又は細菌DNAの断片、例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(又はCpG ODN)等、弱毒化された細菌及びウイルス剤及び特異的又は非特異的抗腫瘍活性を有するそれらの誘導体、例えば、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、及びHPV16 E7(rE7m)タンパク質等から選択される、少なくとも1種の免疫賦活性アジュバントを含む。
【0037】
好ましい実施形態において、本発明による医薬として用いるための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、GMCSF、GCSF、IL-12、インターフェロンγ、TNFα、GP96、HSP、HSP70から選択され、好ましくは、GCSFである、少なくとも1種のサイトカイン及び/又はケモカイン及び/又は熱ショックタンパク質を含む。
【0038】
本発明の他の目的は、がんを有する対象における腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲルであり、前記ハイドロゲルは、
- 上記の少なくとも1種の熱感受性コポリマー;
- 67%w/v~83%w/vの間、優先的には、75%w/v~83%w/vの間、より優先的には、77%w/v~82%w/vの間の濃度の少なくとも1種の水溶液;
- カラゲナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、キトサン、及びデキストランから選択される、0~0.3%w/vの間、優先的には、0.01%w/v~0.3%w/vの間、より優先的には、0.01%w/v~0.2%w/vの間の濃度の粘膜付着性添加剤
を含み;前記熱感受性ポリマーハイドロゲルは、少なくとも1種の免疫賦活性アジュバント及び/又は少なくとも1種のサイトカイン及び/又は少なくとも1種のケモカイン及び/又は少なくとも1種の熱ショックタンパク質を更に含む。
【0039】
好ましい実施形態において、本発明による、がんを有する対象における腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、好ましくは、ポロキサマー、例えば、ポロキサマー407及び188等から選択される、少なくとも2種のコポリマーを含む。
【0040】
用語「腫瘍」とは、正常な組織を進行的に置換する又は破壊することができる浸潤性の腫瘤を形成することが可能な1種又は複数の腫瘍細胞として定義される。
【0041】
用語「転移」とは、一方の臓器又はその一部から別の非隣接の臓器又はその一部への悪性腫瘍細胞の拡散を意味する。がん細胞は、原発腫瘍から「離脱する」、「漏出する」、又は「溢流する」ことができ、リンパ管及び血管に入り、血流を通って循環し、体内の他の正常な組織内で増殖するために定住し得る。腫瘍細胞が転移する場合、新たな腫瘍は、二次若しくは転移性がん又は腫瘍と呼ばれる。用語「微小転移」とは、治療において検出不可能な転移を意味し、治療後のその発症は、再発の原因である。用語「マクロ転移」とは、治療期間で可視の転移を意味し;これらは、治療される又は留置される(肝臓、肺等の他の部分)。
【0042】
好ましい実施形態において、本発明によるがん腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、
- ポロキサマー;
- PEG-PLGA-PEGコポリマー;
- PEG-PLA-PEGコポリマー;
- PEG-PCL-PEGコポリマーから選択され、好ましくは、ポロキサマーである少なくとも1種の熱感受性コポリマー
を含み;前記熱感受性コポリマーは、より好ましくは、ポロキサマー407及び/又は188である。
【0043】
好ましい実施形態において、本発明によるがん腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、17%w/v~32%w/vの間、好ましくは、17%w/v~28%w/vの間、より好ましくは、17%w/v~24%w/vの間、更により好ましくは、18%w/v~22%w/vの間の濃度におけるポロキサマー407及び/又はポロキサマー188を含む。
【0044】
詳細な実施形態において、本発明によるがん腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーヒドロゲルは、200~600mOsmの間、300~500mOsmの間、優先的には、350~450の間で構成されるモル浸透圧濃度で存在する。
【0045】
好ましい実施形態において、本発明によるがん腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーヒドロゲルは、生理的状態下で、少なくとも12時間~12日間、好ましくは、少なくとも24時間~10日間、より好ましくは、少なくとも3~7日間、更により好ましくは、7日間の期間にわたって、前記免疫賦活性アジュバント及び/又は前記サイトカイン及び/又は前記ケモカイン及び/又は前記熱ショックタンパク質の放出を制御することを可能にする。
【0046】
好ましい実施形態において,熱感受性ポリマーヒドロゲルは、結腸直腸がん、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、黒色腫、腎がん、肺がん、乳がん、膵がん及び骨がんから選択され、好ましくは、その転移性がん、より好ましくは、結腸直腸がんの転移である、がん腫瘍又は転移の治療における使用のためのものである。
【0047】
好ましい実施形態において、本発明によるがん腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、BCG及び/又はその精製タンパク質、例えば、PPDs等の少なくとも1種、又は細菌DNAの断片、例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(若しくはCpG ODN)等、又は任意の弱毒化された細菌又はウイルス剤及び特異的又は非特異的抗腫瘍活性を有するそれらの誘導体、例えば、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、及びHPV16 E7(rE7m)タンパク質等から選択される、少なくとも1種の免疫賦活性アジュバントを含む。
【0048】
好ましい実施形態において、本発明によるがん腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーヒドロゲルは、GMCSF、GCSF、IL12、インターフェロンγ、TNFα、GP96、HSP、HSP70、好ましくは、GMCSFから選択される、少なくとも1種のサイトカイン及び/又はケモカイン及び/又は熱ショックタンパク質を含む。
【0049】
好ましい実施形態において、本発明によるがん腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、局所領域的治療、例えば、高周波、マイクロ波、寒冷療法、又は塞栓術等、優先的には、高周波、及び/又は抗腫瘍治療、例えば、放射線治療、標的化学療法、生物療法、又は全身免疫療法等と共に使用される。優先的には、治療における使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、同時に又は順次、優先的には、局所領域的治療と同時に及び抗腫瘍治療と共に順次投与される。
【0050】
用語「同時に投与される」とは、これらの薬剤をほぼ同時に投与する及び/又は局所領域的治療をほぼ同時に施行するという意味である。用語「同時に投与される」とは、単一の医薬剤形で、異なる局所領域的治療を施行する及び/又は薬剤を投与するだけでなく、その特有の別個の医薬用量における各局所領域的治療を施行する及び/又は有効な薬剤を投与することをも包含する。別個の局所領域的治療及び/又は処方(dosage formulation)が用いられる場合、これらは、本質的に同じ時間に、すなわち、同時に投与することができる。
【0051】
用語「順次投与する」とは、別々にずらした時間で、局所領域的治療を施行する及び/又は薬剤を投与することを意味する。
【0052】
好ましい実施形態において、がん腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、全身性免疫チェックポイント(systemic immune checkpoint)阻害剤又は全身性免疫チェックポイント遮断である全身免疫療法と共に、前述した通り使用することができる。
【0053】
用語「全身性免疫チェックポイント」とは、循環するリンパ球の活性化を防止し、結果として、免疫応答を抑制する免疫チェックポイントを意味する。用語「免疫チェックポイント」とは、免疫応答のプロセスにおいて、T細胞受容体(TCR)の抗原認識を調整するためのシグナルを意味する。用語「免疫チェックポイント阻害剤」とは、免疫応答の刺激又は抑制を指導する分子又は受容体-リガンド相互作用を意味し、これは、身体ががん細胞又は転移を認識する及び攻撃するのを助ける治療のために用いることができる。
【0054】
用語「全身性免疫チェックポイント遮断」とは、免疫応答を回復するために全身性免疫チェックポイントの効果を遮断する分子又は生体分子の使用を意味する。
【0055】
好ましい実施形態において、全身性免疫チェックポイント阻害剤は、抗-PD1、抗-CTLA4、抗-PDL1、抗-TIM3、抗-LAG3、抗-IDO、抗-Kir、抗-blta及びそれらの組み合わせから選択される。
【0056】
好ましい実施形態において、本発明によるがん腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、局所領域的治療、例えば、RFA等、及び抗腫瘍治療、例えば、全身免疫療法等と共に使用される。
【0057】
優先的には、がん腫瘍又は転移の治療における使用のための熱感受性ポリマーハイドロゲルは、同時に又は順次投与され、優先的には、RFAと同時に投与され、抗-PD1、抗-CTLA4、抗-PDL1、抗-TIM3、抗-LAG3、抗-IDO、抗-Kir、抗-blta及びそれらの組み合わせから選択される全身性免疫チェックポイント阻害剤と共に順次投与される。
【0058】
本発明の他の目的は、
i.
- 上記の少なくとも1種の熱感受性コポリマー;
- 67%w/v~83%w/vの間、優先的には、75%w/v~83%w/vの間、より優先的には、77%w/v~82%w/vの間の濃度の本発明による少なくとも1種の水溶液;
- 0~0.3%w/vの間、優先的には、0.01%w/v~0.3%w/vの間、より優先的には、0.01%w/v~0.2%w/vの間の濃度で、カラゲナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、キトサン、及びデキストランから選択される、本発明による粘膜付着性添加剤
を含む熱感受性ポリマーハイドロゲル;
ii.
- BCG及び/又はその精製タンパク質、例えば、PPDs等の少なくとも1種、又は
- 細菌DNAの断片、例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)等、
- 特異的、又は非特異的抗腫瘍活性を有する弱毒化された細菌及びウイルス剤並びにそれらの誘導体、例えば、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、及びHPV16 E7(rE7m)タンパク質等、又は
- マイコバクテリウム・ツベルクローシス(HKMT)、サルモネラ・チフィムリウム(HKST)、リステリア・モノサイトゲネス(HKLM)、マイコバクテリウム・バッカエ、IMM-101(マイコバクテリウム・オブエンセ)及び不活性化されたストレプトコッカス・ピオゲネス(OK-432/ピシバニール)及びそれらの組み合わせから選択される、加熱殺菌された細菌;又は
- MPLA(モノホスホリル脂質A)、G100(グルコプラノシル脂質A)及びそれらの組み合わせから選択されるLps類似体;又は
- イミキモド、ミファムルチド(マイコバクテリウム・ツベルクローシスの合成の壁類似体)及びそれらの組み合わせから選択される合成類似体
から選択される少なくとも1種の免疫賦活性アジュバント;
iii.
GMCSF、GCSF、IL12、インターフェロンγ、TNFα、GP96、HSP、HSP70から選択され、好ましくは、GMCSFである、少なくとも1種のサイトカイン及び/又は少なくとも1種のケモカイン及び/又は少なくとも1種の熱ショックタンパク質;
iv.
場合によっては、使用上の注意
を備えるキットである。
【0059】
有利には、本発明によるキットは、
i.
- 上記の少なくとも1種の熱感受性コポリマー;
- 67%w/v~83%w/vの間、優先的には、75%w/v~83%w/vの間、より優先的には、77%w/v~82%w/vの間の濃度の本発明による少なくとも1種の水溶液;
- 0~0.3%w/vの間、優先的には、0.01%w/v~0.3%w/vの間、より優先的には、0.01%w/v~0.2%w/vの間の濃度の、カラゲナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、キトサン、及びデキストランから選択される、本発明による粘膜付着性添加剤
を含む熱感受性ポリマーハイドロゲル;
ii.
CG及び/又はその精製タンパク質、例えば、PPDs等の少なくとも1種、又は細菌DNAの断片、例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)等、弱毒化された細菌及びウイルス剤並びに特異的又は非特異的抗腫瘍活性を有するそれらの誘導体、例えば、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、及びHPV16 E7(rE7m)タンパク質等から選択される少なくとも1種の免疫賦活性アジュバント;
iii.
GMCSF、GCSF、IL12、インターフェロンγ、TNFα、GP96、HSP、HSP70から選択され、好ましくは、GMCSFである少なくとも1種のサイトカイン及び/又は少なくとも1種のケモカイン及び/又は少なくとも1種の熱ショックタンパク質;
iv.
場合によっては、使用上の注意
を含む。
【0060】
好ましい実施形態において、本発明によるキットは、好ましくは、ポロキサマー、例えば、ポロキサマー407及び188等から選択される、少なくとも2種のコポリマーを含む。
【0061】
好ましい実施形態において、本発明によるキットは、
- ポロキサマー;
- PEG-PLGA-PEGコポリマー;
- PEG-PLA-PEGコポリマー;
- PEG-PCL-PEGコポリマー
から選択され;好ましくは、ポロキサマーである熱感受性コポリマーを含み、前記熱感受性コポリマーは、より好ましくは、ポロキサマー407及び/又はポロキサマー188である。
【0062】
有利には、前記ポロキサマー407及び/又は188は、17%w/v~32%w/vの間、好ましくは、17%w/v~28%w/vの間、より好ましくは、17%w/v~24%w/vの間、更により好ましくは、18%w/v~22%w/vの間の濃度である。
【0063】
本発明の他の目的は、少なくとも次の工程、すなわち、
- 局所領域的治療、例えば、高周波、マイクロ波、寒冷療法、又は動脈塞栓術等、優先的には、高周波、又は抗-腫瘍治療等を施行する工程と;
- 本発明による前記熱感受性ポリマーハイドロゲルを、少なくとも1種の前記がん腫瘍又は転移に注入する工程と;
- 細菌及びウイルス剤並びにそれらの誘導体、例えば、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、及びHPV16 E7(rE7m)タンパク質等を弱毒化した又はそれらに由来する、BCG及び/又はその精製タンパク質の少なくとも1種、又はCpGオリゴデオキシヌクレオチド(又はCpG ODN)から選択される、免疫賦活性アジュバントを投与することにより、前記対象において免疫系を刺激する工程と;
- 本発明によるサイトカイン及び/又はケモカイン及び/又は熱ショックタンパク質を投与する工程と
を含む、がんを有する対象の治療の方法である。
【0064】
本発明の他の目的は、少なくとも次の工程、すなわち、
- 局所領域的治療、例えば、高周波、マイクロ波、寒冷療法、又は動脈塞栓術等、優先的には、高周波、又は抗-腫瘍治療を施行する工程;
- 少なくとも1種の前記がん腫瘍又は転移に、本発明による前記熱感受性ポリマーハイドロゲルを注入する工程;
- 細菌及びウイルス剤並びにそれらの誘導体、例えば、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、及びHPV16 E7(rE7m)タンパク質等を弱毒化した又はそれらに由来する、BCG及び/又はその精製タンパク質の少なくとも1種、又はCpGオリゴデオキシヌクレオチド(又はCpG ODN)から選択される免疫賦活性アジュバントを投与することにより、前記対象において免疫系を刺激する工程;及び/又は
- 本発明によるサイトカイン及び/又はケモカイン及び/又は熱ショックタンパク質を投与する工程;
- 抗-PD1、抗-CTLA4、抗-PDL1及び抗-TIM3抗-PD1、抗-CTLA4、抗-PDL1、抗-TIM3、抗-LAG3、抗-IDO、抗-Kir、抗-blta及びそれらの組み合わせから選択される全身性免疫チェックポイント阻害剤を投与する工程
を含む、がんを有する対象の治療の方法である。
【0065】
或いは、上記の実施形態のそれぞれにおいて、BCGは、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(HKMT)、サルモネラ・チフィムリウム(HKST)、リステリア・モノサイトゲネス(HKLM)、マイコバクテリウム・バッカエ、IMM-101(マイコバクテリウム・オブエンセ)及び不活性化されたストレプトコッカス・ピオゲネス(OK-432/ピシバニール)並びにそれらの組み合わせから選択される、加熱殺菌された細菌によって有利には置き換えることができる。
【0066】
或いは、上記の実施形態のそれぞれにおいて、BCGは、MPLA(モノホスホリル脂質A)、G100(グルコプラノシル脂質A)及びそれらの組み合わせから選択されるLps類似体によって有利には置き換えることができる。
【0067】
或いは、上記の実施形態のそれぞれにおいて、BCGは、イミキモド、ミファムルチド(マイコバクテリウム・ツベルクローシスの合成の壁類似体)及びそれらの組み合わせから選択される合成類似体によって有利には置き換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】DSCによって測定されたミセル化及びゾル-ゲル遷移を示す図である。 示差熱量測定を、P407 21%w/vハイドロゲル中の0.1%w/vキサンタンガムSatiaxane(登録商標)の添加の影響及び活性タンパク質の添加の影響を研究するために用いた。測定を、-5℃~-40℃の範囲の温度及び速度1℃/分で、DSC SCC7(Mettler Toledo社)で行った。ゲル化の温度を、Tg又はTゲルとして示す。
【
図2A】レオロジー(Aにおけるゾル-ゲル遷移及びBにおけるゲル生体付着性(bioadherence))によるゲル特性の決定を例示する図である。(A)熱感受性ポリマーハイドロゲルP407/Satiaxane(登録商標)21/0.1%w/vのゲル化温度を、接線(tangent)G'及びG"を用いたレオロジーにより決定した。(B)ムチン骨格からハイドロゲルを引きはがすために要する強度は、P407 21%w/v又はP407/Satiaxane(登録商標)21/0.05%w/vゲル組成物の場合よりも、P407/Satiaxane(登録商標)21/0.1%w/vゲル組成物の場合において高かった。
【
図2B】レオロジー(Aにおけるゾル-ゲル遷移及びBにおけるゲル生体付着性)によるゲル特性の決定を例示する図である。(A)熱感受性ポリマーハイドロゲルP407/Satiaxane(登録商標)21/0.1%w/vのゲル化温度を、接線G'及びG"を用いたレオロジーにより決定した。(B)ムチン骨格からハイドロゲルを引きはがすために要する強度は、P407 21%w/v又はP407/Satiaxane(登録商標)21/0.05%w/vゲル組成物の場合よりも、P407/Satiaxane(登録商標)21/0.1%w/vゲル組成物の場合において高かった。
【
図3】P407 21%w/v及びP407/satiaxane(登録商標)21/0.1%w/vゾル-ゲルを接触面から分離する(detach)ために要する力及び時間を示す図である。本試験によって、付着面がない場合、ゲルを壊す力が、類似である(P407単独の場合0.5及びsatiaxaneでは0.6)ことが実証されている。設置面におけるムチンの存在によって、破壊時間が、P407の場合2.7sに等しく、この時間は、satiaxane(登録商標)の存在下で6.0sまで増えることが示される。Satiaxaneは、P407単独に比べてゲル粘膜付着が改善される。
【
図4】in vivoにおける熱感受性ハイドロゲルからの標識タンパク質放出の動力学を示す図である。 (A)腫瘍移植後10日目に熱感受性ポリマーハイドロゲルとして(左側の腫瘍)又は水溶液として(右側の腫瘍)注入した場合の標識タンパク質放出の後の軸方向。(B)標識タンパク質を、腫瘍内に注入し、注射後0、0.5、2、24、48、96h及び7日目に蛍光定量した。
【
図5】熱感受性ポリマーハイドロゲルに対するin vivoマウス耐性を表すグラフである。 A.対照群(黒線)及びゲルP407/Satiaxane(登録商標)21/0.1%w/v 60μLの腫瘍内注射後の処置群(破線)についての腫瘍増殖のフォローアップ。B.対照群(黒線)及びゲルP407/Satiaxane(登録商標)21/0.1%w/vの60μLの腫瘍内注射後の処置群(破線)についてのマウスの体重のフォローアップ。
【
図6】熱感受性ポリマーハイドロゲルを用いた抗腫瘍効果及びマウスの生存率を図示するグラフである。 (A)生物発光により測定された遠位の腫瘍増殖に対する治療の効果。遠位の腫瘍(50,000細胞/100μ1)を、処置当日に皮下に注射した。原発腫瘍を、熱感受性ポリマーハイドロゲルGM-CSF/BCG単独で(三角形、破線)、ラジオ波焼灼療法(RFA)単独で(四角、直線)、又はRFA及び熱感受性ポリマーハイドロゲルGM-CSF/BCGの併用(白抜きの丸、破線)で処置した。(B)(A)に記載の3群の生存曲線(生存の百分率を時間の関数(日)として表す)。
【
図7A】フローサイトメトリーにより測定された全身性免疫応答を表すグラフである。 全身性免疫の予備的な結果を、フローサイトメトリーにより測定した。屠殺の当日、脾臓を収集し、リンパ球を抽出した。2種のヘルパーリンパ球母集団CD3+/CD4+(A及びB)並びに細胞傷害性CD3+/CD8+(C及びD)についてのTNF-α、IFN-γ及びIL-2の産生を、未処置群(n=3)、高周波群(RFA、n=3)、並びに高周波及び熱感受性ポリマーハイドロゲルGM-CSF/BCGの併用(RFA-ゲルGMCSF-BCG、n=1)で処置した群について、CT26-luc+細胞の存在下での刺激あり(B及びD)又は刺激なし(A及びC)で測定した。
【
図7B】フローサイトメトリーにより測定された全身性免疫応答を表すグラフである。 全身性免疫の予備的な結果を、フローサイトメトリーにより測定した。屠殺の当日、脾臓を収集し、リンパ球を抽出した。2種のヘルパーリンパ球母集団CD3+/CD4+(A及びB)並びに細胞傷害性CD3+/CD8+(C及びD)についてのTNF-α、IFN-γ及びIL-2の産生を、未処置群(n=3)、高周波群(RFA、n=3)、並びに高周波及び熱感受性ポリマーハイドロゲルGM-CSF/BCGの併用(RFA-ゲルGMCSF-BCG、n=1)で処置した群について、CT26-luc+細胞の存在下での刺激あり(B及びD)又は刺激なし(A及びC)で測定した。
【
図7C】フローサイトメトリーにより測定された全身性免疫応答を表すグラフである。 全身性免疫の予備的な結果を、フローサイトメトリーにより測定した。屠殺の当日、脾臓を収集し、リンパ球を抽出した。2種のヘルパーリンパ球母集団CD3+/CD4+(A及びB)並びに細胞傷害性CD3+/CD8+(C及びD)についてのTNF-α、IFN-γ及びIL-2の産生を、未処置群(n=3)、高周波群(RFA、n=3)、並びに高周波及び熱感受性ポリマーハイドロゲルGM-CSF/BCGの併用(RFA-ゲルGMCSF-BCG、n=1)で処置した群について、CT26-luc+細胞の存在下での刺激あり(B及びD)又は刺激なし(A及びC)で測定した。
【
図7D】フローサイトメトリーにより測定された全身性免疫応答を表すグラフである。 全身性免疫の予備的な結果を、フローサイトメトリーにより測定した。屠殺の当日、脾臓を収集し、リンパ球を抽出した。2種のヘルパーリンパ球母集団CD3+/CD4+(A及びB)並びに細胞傷害性CD3+/CD8+(C及びD)についてのTNF-α、IFN-γ及びIL-2の産生を、未処置群(n=3)、高周波群(RFA、n=3)、並びに高周波及び熱感受性ポリマーハイドロゲルGM-CSF/BCGの併用(RFA-ゲルGMCSF-BCG、n=1)で処置した群について、CT26-luc+細胞の存在下での刺激あり(B及びD)又は刺激なし(A及びC)で測定した。
【
図8】マクロ転移においてRFA-ゲル-GMCSF-BCGで強化されたPD1処置応答を示すグラフである。 ct26-Luc腫瘍を有するマウスを、8日目にRFAで処置し、ゲル-GMCSF-BCGを局所に注射した。PD1を、RFA後4、7、10、13及び16日目にi.pにより注射した。本モデルにおける腫瘍(「原発」及び「二次」)を、同日に注射し、これは、巨大-腫瘍が、腫瘍I領域の処置期間にRFAの部位から離れているという意味である。二次腫瘍のサイズを、ノギスでRFA後3日毎に測定した(1群当たりマウス4~6匹)。Anova試験を行った(値は平均±SEMを表す;
***、P<0.001)。
【
図9】微小転移における熱感受性ポリマーハイドロゲルGMCSF/BCGを用いた抗腫瘍効果を図示するグラフである。 生物発光により測定された遠位の腫瘍増殖に対する処置の効果。遠位の腫瘍(25,000細胞/100μl)を、処置当日に皮下に注射した。原発腫瘍を、(RFA)及び空のゲル(四角、破線)で、RFA及び熱感受性ポリマーハイドロゲル-BCGの併用(丸、直線)で、又はラジオ波焼灼療法(RFA)及び熱感受性ポリマーハイドロゲルGM-CSF/BCGの併用(三角形、破線)で処置した。
【
図10】免疫ゲル配合物による未熟な骨髄樹状細胞のin vitro活性化を例示する図である。本試験によって、樹状細胞活性化におけるP407-Satiaxaneの効果が示される。
【
図11】二次腫瘍におけるCD3リンパ球の免疫組織化学染色を示す図である。黒矢印は、二次腫瘍におけるCD3リンパ球浸潤を示す。処置を行わなかったマウスと比較して、RFA+ゲル+GMCSF-BCGにより処置したマウスにおいて、腫瘍周囲に、より大きなリンパ球浸潤物がある。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0069】
要旨
膀胱がんにおいてin situで広く用いられる又は結腸直腸系ワクチンに関連する、カルメット・ゲラン・バチルス(BCG:Calmette Guerin Bacilla)及び成熟した樹状細胞を動員する及び成熟させることが可能であるGM-CSFの抗腫瘍効果は、基礎研究並びに臨床試験において前もって示されている。これらの結果が動機となり、熱感受性ポリマーハイドロゲルにおけるこれらの免疫調節物質の両方を統合して、局所治療後、それらを局所的に維持しようと試みることとなった。
【0070】
様々な熱感受性ポリマーハイドロゲル組成物を、熱分析及びレオロジーにより評価して、ゲル化温度及び粘度を決定し、作用物質の放出を延長することが可能であるゲルを設計した。ポロキサマー407(例えば、40、26、又は21%w/v)、並びに緩衝液(例えば、水、PBS、又はNaCl)の濃度を変えた。ポロキサマー407 21%w/vを含有する熱感受性ポリマーハイドロゲルは、ゲル化温度、モル浸透圧濃度、及び粘弾性に関して、好ましい特性を示した。
【0071】
処置される腫瘍において熱感受性ポリマーハイドロゲルを安定させるために、粘膜付着性ガムを、配合物に加えた。0.05~0.3%w/vの範囲の様々なガム濃度を有する溶液を試験した。熱感受性ポリマーハイドロゲルP407/キサンタンガムSatiaxane(登録商標)UCX930 21/0.1%w/vを、その流動学的特性についての好ましい配合物として選択した。得られた結果の一例を、
図1及び
図2に示す。本配合物を、タンパク質放出の延長(
図4)、in vivo毒性(
図5)、抗腫瘍効果(
図6及び
図9)及びリンパ球動員(
図7)に関して更に評価した。
【0072】
最適化された熱感受性ポリマーハイドロゲルは、単独で注射した標識タンパク質溶液に対して、熱感受性ポリマーハイドロゲルを含む標識タンパク質溶液の注射後、少なくとも4日間タンパク質放出の延長を示した(
図4)。16日後、処置された動物群内で毒性は観察されなかった。増殖又は体重の差は、対照群と処置群との間で測定されなかった。本発明者らの治療戦略を、CT26腫瘍を皮下に移植したBalb/cマウスにおいて試験した。マウスに、処置の3週間前にBCGをワクチン接種した。腫瘍移植片を移植し、次いで、原発腫瘍を、高周波を用いて外科的に除去した。熱感受性ポリマーハイドロゲルを、切除後、局所に注射した。同日に、2つの二次腫瘍を、25,000 CT26ルシフェラーゼ陽性細胞の注射により移植した。
【0073】
次いで、腫瘍増殖させ、その後、光学イメージングを行った。これらの結果から、RFA単独(n=11)、熱感受性ポリマーハイドロゲル単独(n=6)又はRFA切除、その後、熱感受性ポリマーハイドロゲル注射(n=10)からなる完全な処置で処置された動物間で、統計的に有意な結果が示された(
図6)。生存は有意に改善された。平均の生存は、ハイドロゲル単独で処置されたマウスの場合14日間であり、RFA単独で処置されたマウスの場合39日間であり、RFA+熱感受性ハイドロゲルの完全な処置の場合152日間であった。処置された動物の脾臓内のリンパ球定量によって、完全な処置が、予想通り、リンパ球動員を誘導することが示された(
図7)。
【0074】
(実施例1)
熱感受性ポリマーハイドロゲル調製
キサンタンガムSatiaxane(登録商標)UCX930(0.05%w/v、0.1%w/v、0.2%w/v、0.3%w/v)を、室温で1h振り混ぜながら、脱イオン水に、最終体積の2/3で溶解した。ポロキサマー407を、溶液に加え、4℃で終夜インキュベートした。次いで、混合物を、脱イオン水により最終体積に完成させた。溶液は、4℃で維持され、フィルター減菌することができる。
【0075】
(実施例2)
DSCを用いたゾル-ゲル遷移の測定
試料(20mg)を、ふた(ME26763)が付いたアルミニウム製皿(40μL)に投入する。るつぼを、圧着し(ME 51140547)、次いで、参照として空のるつぼを用いて、その系の乾燥器に入れる。分析を、HSS7センサー及びintracooler(Hueber、-40℃)を備えたDSC1(Mettler Toledo社)を用いて、5℃/分の速度及び温度ランプ-5~-40℃で行う(
図1)。第1の吸熱ピークは、ミセル化遷移に対応し、臨界ミセル温度(CMT)の決定を可能にする。より弱いエネルギーの第2の遷移は、ゲル化遷移に対応し、最大シグナルで得られたゲル化温度の決定を可能にする。
【0076】
(実施例3)
レオロジーを用いたゾル-ゲル遷移の測定
レオメーター(MC102)を加温し、この系を可動式CP50-1でキャリブレーションした。体積750μLを、支持体にロードし、次いで、可動部を、支持体から0.1mmに等しい距離に下げる。第1の試験(振幅掃引(Amplitude sweep))は、剪断力Yにかけられた2つのモジュールG'(貯蔵係数)及びG"(喪失係数)の直線性を定義する(
図2)。次いで、温度の増加を、1℃/分の速度及び20℃~40℃までのランプで3回行う。ゲル化温度を、曲線G'の接線によって決定した。
【0077】
(実施例4)
レオロジーを用いたゲル生体付着性の測定
この系を、ムチン浴(ムチン、ブタ胃II型由来、Sigma Aldrich社)に入れ、37℃で10分間インキュベートする。フィルムを乾燥させる場合、可動部を安定させ、試料を、装置の支持体にロードした。可動部を、支持体から0.1mmの距離まで下げる。ゲルを引きはがすために要する強度を、37℃で測定する(分離力)。
【0078】
熱感受性ポリマーハイドロゲルP407/キサンタンガムSatiaxane(登録商標)UCX930 21/0.1%w/vを、実施例2から4に基づき好ましい配合物として選択した(
図1及び
図2を参照のこと)。更なる分析を、本配合物で行った。
【0079】
(実施例5)
様々なポロキサマー及び粘膜付着剤(mucoadhesive agent)を含むハイドロゲル配合物のゲル化温度(Tg)の測定。各配合物を、3回分析した(Table 1(表1)は、平均±S.Dを示す)。試験したすべてのゲルは、21℃~28℃の間のTゲルの範囲を示す。ND:決定されない。
【0080】
【0081】
(実施例6)
In vitro粘膜付着試験。
付着試験を、50mm平面-平面可動式ジオメトリーを取り付けたAnton Paarレオメーター、MCR102モデルを用いて行った。ゾル-ゲルの2つの配合物を、次の通り試験した。P407 21%w/v及びP407/satiaxane 21/0.1%w/v。II型のブタ胃由来ムチン(MUC2)を、更に精製せずに受け取ったままの形で用いた。
【0082】
本試験は、接触面からゾル-ゲルを分離するのに要した法線力(normal force)及び時間の測定から成る。2つの条件は、ペルティエプレート上にゾル-ゲル試料をロードすることにより行った。第1の条件は、試料へと可動式ジオメトリーを移動させることからなっていた。後者との接触時間後、可動部は、正確な速度(5000μm/秒)で反対方向に移動し、ゲルを伸長させ、次いで、可動部から分離させる。第2の条件は、測定前に可動式ジオメトリーにおいてムチン分散体(5%w/v)の層を堆積させることからなっていた。
【0083】
付着試験を、生理的温度を模倣する37℃で実施した。試料の脱水が、試料の流動学的特性に深刻に影響を与えるはずであるから、ジオメトリーを包含する溶媒トラップを用いて、蒸発を防止した。
【0084】
両方の条件を行い、ゾル-ゲルを分離するのに要した法線力及び時間を経時的に記録した。法線力が高ければ高いほど、時間が長ければ長いほど、粘着力は強い。
【0085】
本試験は、ゲル付着力に対するsatiaxaneの効果を実証する(
図3)。本発明者らは、付着面がない場合、ゲルを壊す力が、P407単独の場合0.5及びsatiaxaneでは0.6で類似することを観察している。設置面におけるムチンの存在によって、P407の場合2.7sと等しい破壊時間が示され、この時間は、satiaxaneの存在下で6.0sまで上昇する。Satiaxaneは、P407単独と比較して、ゲル粘膜付着を改善する。
【0086】
(実施例7)
in vivoにおける熱感受性ポリマーハイドロゲルからの標識タンパク質放出の速度論
CT26腫瘍を、両方のマウスの側腹部における腫瘍断片(30mm
3)の皮下移植により誘導する(
図4)。移植後10日目に、マウスを、キシラジン(10mg/kg)/ケタミン(80mg/kg)混合物のi.p注射で麻酔した。剪毛後、腫瘍内注射を行った。左側の腫瘍では、熱感受性ポリマーハイドロゲルP407 21%w/v/キサンタンガムSatiaxane(登録商標)0.1%w/v/HSA-Cyanin(60μl、H
2O 0.5mg/ml)に包埋した標識タンパク質を注射した。右側の腫瘍では、HSA-Cyaninタンパク質(60μl、H
2O 0.5mg/ml)の水溶液を注射した。注射後t0で、視像を撮影する。追加の画像を、5秒間に、次の時点、すなわち、注射の0.5h後;2h後、24h後、48h後、96h後及び7日後に撮影する。蛍光シグナル定量を、M3 visionソフトウェア(Biospace Lab社)を用いて腫瘍に適用した関心領域(ROI)に対して行った。結果を、式:蛍光(AU)=txにおける蛍光値/t0における蛍光値で表す。
【0087】
最適化された熱感受性ポリマーハイドロゲルは、標識タンパク質の水溶液と比較した場合、注射の少なくとも4日後のタンパク質放出の延長を示した(
図4を参照のこと)。
【0088】
(実施例8)
in vivoにおける熱感受性ポリマーヒドロゲルに対する耐性
CT26-Luc断片(30mm3)の皮下移植を、Balb/cマウスの両方の側腹部において行った。ゲルP407 21%w/v/キサンタンガムSatiaxane(登録商標)0.1%w/v(60μl)を、腫瘍移植の8日後に注射した。軸方向の腫瘍増殖を、ノギスで測定し、マウスの体重を、16日間の時間の関数として記述した。Anova試験を、統計的比較のために行った。挙動、毛の変化及び体重減少の古典的フォローアップをやはり毎日行った。
【0089】
16日後、処置された動物群内で、毒性は観察されなかった。増殖又は体重の差は、対照群と処置群との間で測定されなかった(
図5を参照のこと)。
【0090】
(実施例9)
熱感受性ポリマーハイドロゲル内に挿入したタンパク質による局所免疫刺激の効果
9.1.原発及び二次微小転移腫瘍についての腫瘍体積フォローアップ
Balb/c JRJ(6~8週)マウスを、BCG(Sanofi Pasteur社)5×106CFUの皮下注射によりワクチン接種した。3週間後、CT26-Luc断片(30mm3)を、マウスの側腹部に移植した。移植の8日後、キシラジン(10mg/kg)/ケタミン(80mg/kg)混合物のi.p注射で、マウスに麻酔した。
【0091】
高周波を、RF発生器CC-1 Cosman Coagulation System(Radionics社、Burlington、MA、USA)を用いて適用した。原発腫瘍を単離するために、小切開を行った。高周波プローブ(Cool-tip(商標)RFA Single Single Electrode、15-1cm Covidien(商標)、Medtronic社)を、原発腫瘍内に導入した。パラメータ、例えば、インピーダンス、時間及び温度等を記述した(パワー2~4ボルト、電気インピーダンス:300~700アンペア)。温度が腫瘍内で60℃に達した場合、プローブを除去した。皮膚を縫合し、GMCSF(5μg)+BCG(5×106CFU)を含有する又は含有しないP407 21%w/v/キサンタンガムSatiaxane(登録商標)0.1%w/vハイドロゲル60μlを、腫瘍内に注射した。同時に、両方のマウスの側腹部において、25000 CT26-Luc細胞の皮下注射により、二次腫瘍を誘導した。原発及び二次(遠位)腫瘍増殖を行った後、3日毎に生物発光イメージングを行った。この場合、ルシフェリン(2mg)のi.p注射を行い、ルシフェリンの注射の10分後、20分間後、PhotonlMAGER(商標)OPTIMA CCDiカメラ(対物50mm)を用いて、生物発光シグナルを取得した。生存曲線を、1000mm3を腫瘍増殖限界として決定した。遠位の腫瘍がこの体積に達した場合、マウスを屠殺した。フローサイトメトリー及び免疫組織化学により免疫応答を分析するために、脾臓及び遠位の腫瘍を除去した。
【0092】
これらの結果から、RFA単独で処置した動物(n=11)、熱感受性ポリマーハイドロゲル単独で処置した動物(n=6)又はRFA切除後、熱感受性ポリマーハイドロゲル注射からなる完全な処置を行った動物(n=10)間で統計的に有意な結果が示された(
図6A及び
図9を参照のこと)。生存は有意に改善された(
図6Bを参照のこと)。平均の生存は、ハイドロゲル単独で処置されたマウスの場合14日間、RFA単独で処置されたマウスの場合39日間及びRFA+ゲルの完全な処置の場合152日間であった(
図6A)。
【0093】
9.2.フローサイトメトリーによる全身性免疫応答の分析。
RFA処置の22日後、マウスを屠殺し、無菌条件下で脾臓を除去した。細胞培養培地(RPMI 1640 1×+glutamax、Gibco、10%w/vウシ胎児血清FBS、1%w/vペニシリン-ストレプトマイシン)中でポッター(potter)を用いて、脾臓を分離した。細胞溶液をろ過し(細胞ストレーナー70μm)、400~500×gを5分間遠心した。細胞ペレットを、細胞溶解緩衝液(3ml、BD PharmLyse(商標)緩衝液555899)で室温で5分間インキュベートする。単離した細胞を、カウントし、100,000細胞/ウェルの濃度で6穴培養プレートに移した。刺激条件では、このプレートを、終夜(5%w/v CO2、37℃)インキュベートしたCT26luc+細胞(20,000細胞/ウェル)で前もって調製し、1時間46℃まで加熱して、高周波を模倣した。終夜インキュベーションした後、脾細胞を、抗-CD3(PE-Cy7ラット抗-マウス、BD Bioscience社)、抗-CD4(APC ラット抗-マウス、BD Bioscience社)、抗-CD8(APC-Cy7ラット抗-マウス、BD Bioscience社)及び抗-NK(BV421ラット抗-マウスCD49b、BD Bioscience社)抗体で染色した。細胞を、洗浄し、fixation permeabilization kit(554722 BD Bioscience社)で処理した。細胞内サイトカインを、IFN-γ(Alexa Fluor(登録商標)488ラット抗-マウスIFN-γ)、TNF-α(FITCラット抗-マウスTNF)及びIL-2(Alexa Fluor(登録商標)488ラット抗-マウスIL-2)抗体で検出した。試料のデータ取得及び分析を、フローサイトメーター(BD FacsCanto III)を用いて行った。
【0094】
リンパ球定量は、完全な処置がリンパ球動員を誘導したことを示した(
図7を参照のこと)。
【0095】
(実施例10)
大型の二次病変の免疫逃避は、別々に用いると有効性が劣る(separately less effective)、全身性チェックポイントの抑制とのRFA-免疫ゲルワクチン接種の併用により元に戻った。
10.1腫瘍細胞
CT26結腸腺癌(colon adenocarcinoma)を、ATCCから取得した。CT26細胞株を、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC、CRL-2638、LGC Standards、Molsheim、France)から購入した。CT26-Luc細胞株を、レポーターとしてルシフェラーゼ遺伝子を有する親CT26細胞株の形質移入により生成し、10%w/vウシ胎児血清、ストレプトマイシン100μΜ、ペニシリン100U/mL及びジェネテシン4mg/mlを含有するダルベッコ変法イーグル培地中で、5%w/v CO2-加湿雰囲気中で、37℃で培養した。本モデルにおける腫瘍(「原発」及び「二次」)を同日に注射し、これは、巨大-腫瘍が、腫瘍I領域の処置期間においてRFAの部位から遠位にあることを意味する。
【0096】
10.2腫瘍モデル及びRFA手順
マウスを、BCG(5*105CFU/50μl)の皮下注射によりワクチン接種した。3週間後、皮下CT26-Luc腫瘍を有するマウスを屠殺し、腫瘍を切除し、無菌リン酸緩衝液に入れ、30mm3断片に切断し、12ゲージトロカール(38mm)を用いて、前もってアルコールで消毒された2匹のマウスの側腹部に皮下に挿入した。
【0097】
腫瘍体積が約500mm3になったとき、処置を開始した。実際、動物を、ケタミン(80mg/ml)及びキシラジン(10mg/ml)のi.p注射により麻酔した。アブレーションを、右側の腫瘍の中心に挿入した高周波プローブを用いて行った。腫瘍内で温度が60℃に達した場合、プローブを除去して、標的腫瘍の完全なアブレーションを保証した。
【0098】
10.3ハイドロゲル注射
ハイドロゲルP407 21%w/v/Satiaxane 0.1%w/vを、前述の通り調製した(データは図示せず)。RFAの5分後、組換え型GM-CSF5μg及びBCG5*105CFUを含有するハイドロゲルP407 21%w/v/Satiaxane 0.1%w/v 60μlを、23ゲージ針を用いて右側の腫瘍中に挿入した。次いで、抗-PD1療法を、3日間毎に合計5回i.p.注射によって抗-PD-1 200μgをマウスに投与することにより行った。腫瘍を、3日間毎にデジタルノギスを用いて測定した。腫瘍体積を、次式:長さ×(幅)2]/2を用いて、立方ミリメートルで算出した。示したデータは、平均腫瘍体積+/-SEである。データ分析を、Graph Pad(Prism5)を用いて行った。
【0099】
これらの結果によって、RFA、熱ゲル及び抗-PD1の併用が、RFA及び抗-pd1単独の使用よりも、より高い抗腫瘍効果を示すことが示された(
図8を参照のこと)。
【0100】
(実施例11)
免疫ゲル配合物による未熟な骨髄樹状細胞のin vitro活性化。
未熟な樹状細胞を、健常なマウスの骨髄(BMDCs)から生成した。107個の骨髄細胞を、37℃、CO
25%でGM-CSF(20ng/ml)を加えた適切な培地で培養した。6日目に、未熟な樹状細胞を、発見し、活性化試験を行う。BMDCsの活性化を試験するために、トランスウエルインサートを有する24穴プレートを用いた。様々なゲル(空のゲル、GM-CSFを含むゲル及びGM-CSF及びHKMTを含むゲル)を、ウェル(6穴/ゲル)に入れた。ゲル化後、培地を加え、トランスウエルを挿入した。次いで、適切な培地中のBMDCsをインサートに加えた。プレートを24時間インキュベートした。トランスウェルメンブレンに移しているBMDCsを、CD80及びCD86で標識し、フローサイトメトリーを用いてカウントした。本試験は、樹状細胞活性化中のP407-Satiaxaneの効果を示す。本発明者らは、空のゲルが、いくつかの活性化レベルを示すことを観察している(
図10を参照のこと)。HKMTを含む又は含まないGM-CSFを有するゲルは、空のゲルよりも高い活性化を示す(有意差)。GM-CSFを有するゲルとGM-CSF及びHKMTを有するゲルとの間に差はない。
【0101】
結論として、ゲルによって、GM-CSF及びHKMTの拡散が可能になり、これらの分子の放出のおかげで、樹状細胞の活性化能力が維持される。
【0102】
(実施例12)
二次腫瘍におけるCD3リンパ球の免疫組織化学染色。
処置の17日目に、腫瘍を収集し、固定化しパラフィンに包埋した。組織を切断し、スライド(Superfrost Plus)に置き、4℃でウサギ抗ヒト精製CD3で染色した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、H202で急冷し、続いて、スライドを、室温で30分間二次抗体ウサギN-ヒストファイン及びDAB-色素原でインキュベートした。組織片を、ギルヘマトキシリンで対比染色した。スライドを、miraxスライドスキャナーを用いて分析した。
【0103】
黒矢印は、二次腫瘍中のCD3リンパ球浸潤を示す(
図11を参照のこと)。処置を受けていないマウスと比べて、RFA+ゲル+GMCSF-BCGによって処置したマウスにおける腫瘍の周りに、より大型のリンパ球浸潤物がある。
【0104】