(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】電気化学センサーのための電極
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20220610BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20220610BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
G01N27/327 353B
G01N27/416 338
G01N27/30 B
(21)【出願番号】P 2019543014
(86)(22)【出願日】2018-01-30
(86)【国際出願番号】 US2018015851
(87)【国際公開番号】W WO2018148052
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-12-15
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594055158
【氏名又は名称】イーストマン ケミカル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100168066
【氏名又は名称】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】ホックステットラー,スペンサー・エリック
(72)【発明者】
【氏名】アシュフォード,デニス・リー,ザ・セカンド
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-128818(JP,A)
【文献】国際公開第2015/138690(WO,A2)
【文献】特開昭60-035250(JP,A)
【文献】特開昭59-211854(JP,A)
【文献】特開2014-132232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0031134(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオセンサーにおいて用いるための電気化学電極であって、
前記電極は、
(a)基材;
(b)90nm以下の厚さを有する、前記基材上に形成されているパラジウム金属層;及び
(c)40nm以下の厚さを有する、前記パラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層;
を含
み、
前記バイオセンサーが血糖センサーであり、
前記基材がポリマーフィルムを含む、上記電気化学電極。
【請求項2】
前記電極が少なくとも5nm及び/又は110nm以下の厚さを有する、請求項
1に記載の電気化学電極。
【請求項3】
前記パラジウム金属層が少なくとも4nm及び/又は80nm以下の厚さを有する、請求項1
又は2に記載の電気化学電極。
【請求項4】
前記酸化パラジウム含有層が少なくとも0.5nm及び/又は30nm以下の厚さを有する、請求項1~3のいずれかに記載の電気化学電極。
【請求項5】
前記パラジウム金属層が前記基材上にスパッタ被覆されている、請求項1~
4のいずれかに記載の電気化学電極。
【請求項6】
前記酸化パラジウム含有層が前記パラジウム金属層上にスパッタ被覆されている、請求項1~
5のいずれかに記載の電気化学電極。
【請求項7】
前記パラジウム金属層が前記基材上にスパッタ被覆されており、前記酸化パラジウム含有層が前記パラジウム金属層上にスパッタ被覆されている、請求項1~
6のいずれかに記載の電気化学電極。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の電気化学電極の製造方法であって、
不活性ガスから実質的に構成される第1の雰囲気中で前記基材上にスパッタ被覆
することで、前記パラジウム金属層を形成する工程と;
不活性ガスと酸化剤の混合物を含む第2の雰囲気中で前記パラジウム金属層上にスパッタリング
することで、前記酸化パラジウム含有層を形成する工程と;
を含み、
前記酸化剤は分圧基準で第2の雰囲気の0.5~
40%の間を構成する
、電気化学電極
の製造方法。
【請求項9】
前記不活性ガスがアルゴンである、請求項
8に記載の
方法。
【請求項10】
前記酸化剤が、酸素、オゾン、及び水の1以上から選択される、請求項
8又は
9に記載の
方法。
【請求項11】
前記酸化剤が酸素であり、酸素は分圧基準で第2の雰囲気の1~20%の間を構成する、請求項
8~
10のいずれかに記載の
方法。
【請求項12】
前記パラジウム金属層の前記スパッタリング中に用いられるスパッタリング出力と、前記酸化パラジウム含有層の前記スパッタリング中に用いられるスパッタリング出力との比が約4:1である、請求項
8~
11のいずれかに記載の
方法。
【請求項13】
前記酸化パラジウム含有層が前記パラジウム金属層の40%以下の厚さを有する、請求項1~
7のいずれかに記載の電気化学電極。
【請求項14】
前記基材がポリエステル又はポリカーボネートを含む、請求項1~
7及び13のいずれかに記載の電気化学電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、概して電気化学センサー用、例えばバイオセンサー用の電極に関する。より詳しくは、本発明は、パラジウム金属層及び酸化パラジウム含有層を含む電極に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]生物学的試料の分析において用いるためのバイオセンサーは、ますます普及するようになっている。例えば、世界の人口における糖尿病の症例の増加に伴って、血糖を測定するためのバイオセンサーに対する必要性が劇的に増加している。かかるバイオセンサーは、一般に血糖計として知られており、血糖計に付随する試験片上にユーザーが一滴の血液を配置することによって操作される。試験片は、一滴の血液中のグルコースの量に対して反応性であるように構成され、血糖計によってユーザーの血液の血糖値を検出して表示することができるようになっている。
【0003】
[0003]血糖計タイプのバイオセンサーのための試験片は、一般に基材上に形成されている2以上の電極(例えば作用電極と対電極)で形成されている。更に、生物学的試料と反応する生物学的反応物質、例えば酵素(例えば、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼなど)、及びメディエーター(例えば、フェリシアニド、ルテニウム錯体、オスミウム錯体、キノン類、フェノチアジン類、フェノキサジン類など)が、電極の少なくとも1つ、例えば作用電極の上に形成される。操作においては、一滴の血液を試験片に施す。その後、作用電極上で、血液中のグルコースの量に比例する電気化学反応を起こす。より詳しくは、グルコースはまず生物学的反応物質、例えば酵素(グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼなど)、及び時には酵素補因子(PQQ、FADなど)と反応してグルコン酸に酸化される。生物学的反応物質、例えば酵素、補因子、又は酵素-補因子複合体は、グルコースから酵素、補因子、又は酵素-補因子複合体に移動する2つの電子によって一時的に還元される。次に、還元された酵素、補因子、又は酵素-補因子複合体はメディエーターと反応して、1電子プロセスで還元されるメディエーターの場合には1つの電子が2つのメディエーター種(分子又は錯体)のそれぞれに移動する。メディエーター種が還元される際には、酵素、補因子、又は酵素-補因子複合体は、それにしたがってその元の酸化状態に戻る。次に、還元されたメディエーターが電極表面に拡散して、そこで所定の十分に酸化性の電位をバイオセンサーに印加して、還元されたメディエーターが酸化されてそれらの元の酸化状態に戻るようにする。バイオセンサーによってメディエーター種の酸化によって生成する電流を測定し、血液中のグルコースの量に比例して関連づける。
【0004】
[0004]作用電極の品質は、血液の血糖値の正確な測定において重要な役割を果たす。具体的には、(1)電極の電気活性表面積の再現性、(2)特定のグルコース測定配置における電極の電子移動速度のロット間再現性、及び(3)保管中の電極材料の長期間安定性のそれぞれは、全て血糖試験片の向上した正確性をもたらすファクターである。
【0005】
[0005]多くの金属ベースの電極の組成は、大気中での経時変化(atmospheric aging)を受けやすいので多少不安定である。大気に曝露されることから引き起こされるかかる電極の経時変化は、電極の物理的及び化学的特性を変化させる可能性がある。したがって、電極は電気化学的性能及び正確性の低下を起こす可能性がある。
【0006】
[0006]かかる経時変化の問題を軽減するために、多くの商業的バイオセンサーは、金、パラジウム、白金、イリジウムなどのような本質的に貴(noble)である電極材料を用いる。かかる貴金属は、一般に妨害物質(例えば大気)との反応性が最小であると考えられ、その結果、安定且つ正確な測定のための増大した耐化学薬品性を与えると考えられている。しかしながら、パラジウムのような貴金属であっても大気中での経時変化を起こし、したがって時間経過と共に物理的及び化学的変化を起こすことが分かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[0007]したがって、センサーの耐用年数全体にわたって安定且つ正確な測定を与えるバイオセンサーのような電気化学センサーのための電極に対する必要性が存在する。特に、大気中での経時変化のマイナスの効果に抵抗することができるが、電極の導電性の大きな低下を起こさず、及び/又は通常の酸化還元メディエーターと共に用いた際に不均一電子移動速度の大きな変化を起こさない電極に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0008]本発明の1以上の態様は、バイオセンサーにおいて用いるための電気化学電極に関する。この電極は、基材、基材上に形成されているパラジウム金属層、及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を含む。パラジウム金属層は90nm以下の厚さを有し、酸化パラジウム含有層は40nm以下の厚さを有する。
【0009】
[0009]本発明の1以上の更なる態様は、バイオセンサーにおいて用いるための電気化学電極に関する。この電極は、基材、基材上に形成されているパラジウム金属層、及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を含む。酸化パラジウム含有層の厚さとパラジウム金属層の厚さとの比は3:5以下である。
【0010】
[0010]本発明の1以上の更なる態様は、バイオセンサーのための電気化学電極を製造する方法に関する。この方法は、基材を用意する最初の工程を含む。更なる工程は、不活性ガスから実質的に構成される第1の雰囲気中で基材上にパラジウム金属層をスパッタリングすることを含む。更なる工程は、不活性ガス及び酸化剤の混合物を含む第2の雰囲気中でパラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層をスパッタリングすることを含み、酸化剤は分圧基準で第2の雰囲気の0.5~40%の間を構成する。
【0011】
[0011]本発明の1以上の更なる態様は、バイオセンサーにおいて用いるための電気化学電極に関する。この電極は、基材、基材上に形成されているパラジウム金属層、及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を含む。この電極は、パラジウム金属層及び酸化パラジウム含有層を形成した10日以内に電極をMESA(メルカプトエタンスルホネート)被覆手順を用いてMESAで被覆すると、電極の外表面上において特定のMESAの表面被覆率(被覆率A)を受容するように構成される。この電極は、パラジウム金属層及び酸化パラジウム含有層を形成した10~90日後の間に電極をMESA被覆手順を用いてMESA中で被覆すると、電極の外表面上において別のMESAの表面被覆率(被覆率B)を受容するように構成される。被覆率Aは被覆率Bと30%以下だけ相違する。
【0012】
[0012]本発明の1以上の更なる態様は、バイオセンサーにおいて用いるための電気化学電極に関する。この電気化学電極は、基材、基材上に形成されているパラジウム金属層、及びパラジウム金属層上に堆積されている酸化パラジウム含有層を含む。電気化学電極は、MESA被覆手順を用いて電気化学電極をメルカプトエタンスルホネート(MESA)で被覆すると、電極の外表面上においてMESAの特定の表面被覆率を受容するように構成される。ベースライン電極(Baseline Electrode)は、MESA被覆手順を用いてベースライン電極をMESA中に浸漬すると、ベースライン電極の外表面上においてMESAのベースライン表面被覆率を受容するように構成される。電気化学電極は、パラジウム金属層及び酸化パラジウム含有層を形成した10日以内に電気化学電極がMESAの特定の被覆率を受容する場合に、電気化学電極上におけるMESAの特定の表面被覆率が、ベースライン電極上におけるMESAのベースライン表面被覆率から25%以下高く及び/又は50%以下低く相違する(deviates no more than 25% higher and/or 50% lower)ように構成される。
【0013】
[0013]本発明の1以上の更なる態様は、バイオセンサーにおいて用いるための電気化学電極に関する。この電気化学電極は、基材、基材上に形成されているパラジウム金属層、及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を含む。この電気化学電極は、ベースライン電極に関してタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験によって求められる還元ピークよりも少なくとも10mVよりカソード性である、タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験によって求められる還元ピークを有するように構成される。
【0014】
[0014]ここで、本発明の複数の態様を以下の図面を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】[0015]
図1は、本発明の複数の態様による電極の断面概要図であり、特に基材上の導電性フィルムを示す。
【
図2】[0016]
図2は、
図1の電極の更なる詳細断面概要図であり、特に導電層及び酸化物含有層を含む導電性フィルムを示す。
【
図3】[0017]
図3は、本発明の複数の態様による電極を含む試験片バイオセンサーの概要図である。
【
図4】[0018]
図4は、タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた3種類の電極の分極スキャンを示すグラフである。
【
図5】[0019]
図5はタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた4種類の電極の分極スキャンを示すグラフである。
【
図6】[0020]
図6は、タイプ2のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた4種類の電極の分極スキャンを示すグラフである。
【
図7】[0021]
図7はタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた2種類の電極の分極スキャンを示すグラフである。
【
図8】[0022]
図8は、タイプ3のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた3種類の電極のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。
【
図9】[0023]
図9は、タイプ4のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた4種類の電極のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。
【
図10】[0024]
図10は、タイプ1のMESA被覆率試験にかけた電極のMESA被覆率を示すグラフである。
【
図11】[0025]
図11は、タイプ1のMESA被覆率試験にかけた電極に関するMESA被覆率の変化率(%)を示すグラフである。
【
図12】[0026]
図12は、タイプ1のMESA速度試験にかけた電極のMESA速度(MESA kinetics)を示すグラフである。
【
図13】[0027]
図13は、タイプ1のMESA速度試験にかけた電極のMESA速度を示す他のグラフである。
【
図14】[0028]
図14は、タイプ3のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた4種類の電極のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[0029]本発明は、広範には、バイオセンサーのような電気化学センサーのための電極の組成に関する。本明細書において用いる「バイオセンサー」という用語は、生物学的試料を分析するための装置を示す。幾つかの態様においては、
図1に示されるように、電極は層状薄膜電極(電極100)であってよく、広範には、基材102、及び基材102の少なくとも一部の上に被覆されている導電性フィルム104を含む。
図2に示されるように、導電性フィルム104には、導電層106及び酸化物含有層108を含ませることができる。かかる態様においては、導電層106は基材102上に形成することができ、導電層106上に酸化物含有層108を形成することができる。導電性フィルム104は酸化物含有層106を含むが、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極100は、電気化学センサーにおいて用いるために十分な導電性及び電気化学応答性を有する導電性フィルム104を与える。
【0017】
[0030]上述したように、幾つかの態様においては、電極100はバイオセンサーにおいて用いることができる。バイオセンサーは、血糖センサー又は血糖計のような医用センサーであってよい。本明細書において用いる「医用センサー」という用語は、医用モニター及び/又は診断のために用いられるバイオセンサーを示す。更に、「血糖センサー」という用語は、血中グルコース濃度を求めるために用いられる医用センサーを示す。したがって、本明細書に記載する電極100は、血糖センサーのような医用センサーにおいて用いられる試験片の一部を形成することができる。例えば、
図3に示されるように、幾つかの態様は、医用センサーは、反応スペース112によって第2の電極100から分離されている第1の電極100を含む試験片110を構成してよいことができることを意図している。第1の電極100は作用電極を構成してよく、第2の電極100は参照電極又は対電極或いは参照電極と対電極の組合せを構成してよい。したがって、一滴の血液のような生物学的試料を、反応スペース112内に、分析のために第1及び第2の電極100と電気的に接触させて配置することができる。
【0018】
[0031]通常はパラジウム及び/又は金のような貴金属から実質的に形成される導電性フィルムのみを含み、及び/又はこれのみを用いる従来のバイオセンサー電極とは異なり、本明細書に記載する電極100は、パラジウムのような貴金属から形成される導電層106、及び酸化パラジウムのような同じ貴金属の酸化物を含む層として形成することができる酸化物含有層108を含む導電性フィルム104を含むように形成することができる。電極100は酸化物含有層108を含むが、本明細書に記載する導電層106と酸化物含有層108の組み合わせは、同時に大気中での経時変化に抵抗しながら、生物学的試料を測定する際に優れた安定性及び正確性を与えるように構成される。
【0019】
[0032]より詳しくは、本発明の複数の態様は、概して非導電性であり、ここに記載する意図する化学反応に対して化学的に不活性である可撓性又は剛性のいずれかの任意のタイプの材料から形成される電極100の基材102を提供する。幾つかの態様においては、基材102に、ポリマーフィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルムなどのようなポリマーを含む可撓性の非導電性フィルムを含ませることができる。幾つかの具体的な態様においては、基材102にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを含ませることができる。本発明の複数の態様は、基材102は少なくとも25μm、125μm、又は250μm、及び/又は800μm以下、500μm以下、又は400μm以下の厚さを有していてよいと意図する。幾つかの態様においては、基材102は、25~800μm、25~500μm、又は25~400μmの間、125~800μm、125~500μm、又は125~400μmの間、或いは250~800μm、250~500μm、又は250~400μmの間の厚さを有していてよい。
【0020】
[0033]上述したように、基材102上に被覆されている導電性フィルム104に、導電層106及び酸化物含有層108を含ませることができる。幾つかの態様においては、導電層106はパラジウムから実質的に構成することができ、酸化物含有層108には酸化パラジウムを含ませることができる。しかしながら、他の態様においては、導電層106に他の金属(例えば金)又は非金属を含ませることができ、酸化物含有層108には、かかる他の金属の酸化物を含ませることができ、或いは他の材料の酸化物を含ませることができる。導電層106及び酸化物含有層108は、スパッタ被覆(例えば、マグネトロンスパッタリング、非平衡マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット式スパッタリングなど)、熱蒸着、電子ビーム蒸着、アーク蒸着、共蒸着、イオンプレーティングなどのような1以上の物理蒸着技術によって基材102上に形成することができる。具体的には、導電層106は基材102上に(例えばスパッタリングによって)形成することができ、酸化物含有層108は導電層106上に(例えばスパッタリングによって)形成することができる。本明細書において用いる「形成」という用語は、「意図的に形成する」ことを意味するように用いられる。したがって、酸化物含有層108が形成されると記載されている場合には、かかる記載は、電極を大気雰囲気に曝露した際などに自然に生成する酸化物含有層(例えば、大気雰囲気中で経時変化した金属電極の表面上に自然に形成される大気中で生成する酸化物含有層)の形成を排除する。
【0021】
[0034]導電性フィルム104は、基材102上に、少なくとも5nm、10nm、20nm、又は30nm、及び/又は110nm以下、100nm以下、90nm以下、又は80nm以下の厚さに形成することができる。幾つかの態様においては、導電性フィルム104は、5~110nm、5~100nm、5~90nm、5~80nmの間、10~110nm、10~100nm,10~90nm,又は10~80nmの間、20~110nm、20~100nm、20~90nm、又は20~80nmの間、或いは30~110nm、30~100nm、30~90nm、又は30~80nmの間の厚さを有していてよい。
【0022】
[0035]上述したように、導電性フィルム104は、導電層106及び酸化物含有層108を含む多層フィルムであってよい。したがって、本発明の幾つかの態様は、基材102上に、少なくとも0.5nm、1nm、2nm、3nm、又は4nm、及び/又は90nm以下、80nm以下、40nm以下、10nm以下、又は5nm以下の厚さに形成されている導電層106を与える。幾つかの態様においては、導電層106は、0.5~90nm、0.5~80nm、0.5~40nm、0.5~10nm、又は0.5~5nmの間、1~90nm、1~80nm、1~40nm、1~10nm、又は1~5nmの間、2~90nm、2~80nm、2~40nm、2~10nm、又は2~5nmの間、3~90nm、3~80nm、3~40nm、3~10nm、又は3~5nmの間、或いは4~90nm、4~80nm、4~40nm、4~10nm、又は4~5nmの間の厚さを有していてよい。他の態様においては、導電層106は、15~35nmの間、20~30nmの間、又は約25nmの厚さを有していてよい。
【0023】
[0036]更に、導電性フィルム104の酸化物含有層108は、導電層106上に、少なくとも0.5nm、1nm、2nm、又は3nm、及び/又は20nm以下、15nm以下、10nm以下、又は5nm以下の厚さに形成することができる。幾つかの態様においては、酸化物含有層108は、0.5~20nm、0.5~15nm、0.5~10nm、又は0.5~5nmの間、1~20nm、1~15nm、1~10nm、又は1~5nmの間、2~20nm、2~15nm、2~10nm、又は2~5nmの間、或いは3~20nm、3~15nm、3~10nm、又は3~5nmの間の厚さを有していてよい。他の態様においては、導電層106は、5~15nmの間、7~12nmの間、又は約10nmの厚さを有していてよい。
【0024】
[0037]したがって、複数の態様は、導電層106の厚さの70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、4%以下、又は2%以下である厚さを有する酸化物含有層108を提供し得る。同様に、酸化物含有層108の厚さと導電層106の厚さとの比は、7:10以下、3:5以下、1:2以下、2:5以下、1:3以下、1:5以下、1:10以下、1:20以下、1:25以下、又は1:50以下であってよい。
【0025】
[0038]導電性フィルム104には導電層106及び酸化物含有層108の形態の個々の別個の複数の層を含ませることができるが、幾つかの態様においては、個々の層は明確な境界によって互いから画成されていなくてもよい。例えば幾つかの態様においては、導電層106及び酸化物含有層108は、導電層106から酸化物含有層108へ酸化物の遷移勾配を有する材料の複数の接続部分によって接続することができる。したがって、接続部分は、導電層106付近の位置においては実質的に導電性材料(例えばパラジウム)から構成されていてよく、接続部分が導電層106から離れて酸化物含有層108により近い位置まで移行するにつれてより多い量の酸化物(例えば酸化パラジウム)を含んでいてよい。
【0026】
[0039]導電性フィルム104は、得られる電極100がASTM-F1711-96にしたがって測定して少なくとも0.1Ω/sq、0.5Ω/sq、1Ω/sq、5Ω/sq、又は10Ω/sq、及び/又は200Ω/sq以下、100Ω/sq以下、50Ω/sq以下、35Ω/sq以下、又は15Ω/sq以下のシート抵抗を有することができるように基材102上に形成することができる。幾つかの態様においては、得られる電極100は、0.1~200Ω/sq、0.5~100Ω/sq、1~50Ω/sq、5~35Ω/sq、又は10~15Ω/sqの間のシート抵抗を有することができる。
【0027】
[0040]本発明の複数の態様は、実質的に金属から構成される導電性フィルム104の導電層106を提供する。幾つかの態様においては、導電層106の金属は、パラジウムのような貴金属であってよい。当業者が容易に認識するように、導電層106は実質的にパラジウムから構成することができるが、導電層106は不可避的不純物を含んでいてもよい。本明細書において用いる「不可避的不純物」とは、金属を製造するために用いる鉱石中に天然に存在しているか、又は製造プロセス中に非意図的に加えられる任意の不純物を指す。導電層106は、幾つかの態様においては、約0.1重量%未満、0.05重量%未満、又は0.001重量%未満の不可避的不純物を含んでいてよい。
【0028】
[0041]酸化物含有層108には、導電層106を形成する金属の酸化物を含む材料を含ませることができる。したがって、例えば酸化物含有層108に酸化パラジウムを含ませることができる。酸化物含有層108中の酸化物の量は変化させることができる。例えば幾つかの態様においては、酸化物含有層108中の酸化物の量は、重量基準で酸化物含有層108の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%であってよい。更に、酸化物含有層108中の酸化物の量は、重量基準で40~99%、60~95%、又は80~90%の間であってよい。
【0029】
[0042]電極100を形成するために、本発明の複数の態様は、広範には:
(a)基材を用意する工程;
(b)ターゲットを用意する工程;
(c)不活性雰囲気中でターゲットからの材料を基材上に堆積させて、それによって基材上に導電層(ここで導電層は実質的にターゲットからの材料から構成される)を形成する工程;及び
(d)酸化剤含有雰囲気中でターゲットからの材料を導電層上に堆積させて、それによって導電層の上に酸化物含有層(ここで酸化物含有層はターゲットからの材料の酸化物を含む)を形成する工程;
を実施することにより、物理蒸着によって基材102上に形成される導電層106及び酸化物含有層108を提供する。
【0030】
[0043]工程(a)の基材を用意することには、上記に記載したPETのような任意のタイプの基材材料を用意することを含ませることができる。幾つかの態様においては、基材は、高真空チャンバー内に配置することができる基材材料のシートを含む。基材材料のシートには、四角形のシートのような単一断面の材料を含ませることができる。幾つかの他の態様においては、基材材料のシートには、下記により詳細に記載するように、ロールツーロール機構によって高真空チャンバーに通される材料のロールを含ませることができる。他の態様においては、基材は固定して保持することができ、一方で他の態様においては、基材は堆積中に回転させることができる。
【0031】
[0044]工程(b)のターゲットを用意することには、上記に記載した任意の導電性物質を含んでいてよい物理蒸着ターゲットを用意することを含ませることができる。ターゲットは、その中に基材も用意される真空チャンバー内に用意することができる。幾つかの具体的な態様においては、ターゲットは実質的にパラジウムから構成することができる。かかるターゲットは、約0.1重量%未満、0.05重量%未満、又は0.001重量%未満の不可避的不純物を含んでいてよい。幾つかの態様においては、ターゲットは、物理蒸着プロセス中において、スパッタカソードのように電極内に収容され、及び/又はそれを構成する。幾つかの態様においては、ターゲットは、円形、管状、方形体などであってよい。しかしながら、本発明の複数の態様は必要に応じて種々の寸法を有する他の形状のターゲットを使用することを意図していることを理解すべきである。
【0032】
[0045]工程(c)の堆積は、概して、不活性雰囲気中でターゲットからの材料を基材上に形成して導電層を形成することを含む。同様に、工程(d)の堆積は、概して、酸化剤含有雰囲気中でターゲットからの材料を導電層上に形成して酸化物含有層を形成することを含む。
【0033】
[0046]本明細書において用いる「物理蒸着」という用語は、表面(例えば基材)上に気化した材料を凝縮させることによって薄膜を堆積させることを意味する。物理蒸着被覆は、任意のタイプの物理蒸着プロセス、例えばスパッタ被覆、熱蒸着、電子ビーム蒸着、アーク蒸着、共蒸着、イオンプレーティングなどによって行うことができる。例えば幾つかの態様においては、物理蒸着工程は、それぞれ不活性雰囲気中及び酸化剤含有雰囲気中において、スパッタリング装置によってターゲットをスパッタリングすることによって、基材を導電層で被覆し、導電層を酸化物含有層で被覆するスパッタリングプロセスによって行う。電極100の酸化物含有層108は物理蒸着(例えばスパッタリング)によって形成することができるが、複数の態様は、コロナ処理、酸素プラズマ、化学的酸化、イオンアシスト酸化などのような他のプロセスによって形成される酸化物含有層108を提供することができる。したがって、本明細書において酸化物含有層108が「形成される」と記載されている場合には、かかる形成は、かかる上記記載のプロセス及び手順(例えば、スパッタリング、コロナ処理、酸素プラズマ、化学的酸化、イオンアシスト酸化など)によって実施することができる。
【0034】
[0047]幾つかの態様においては、工程(c)及び(d)の堆積は、シングルゾーン真空チャンバー内で実施することができる。例えば、工程(c)の堆積に関しては、真空チャンバーをまず真空にし、アルゴンのような希ガスを充填して、パラジウムターゲットをスパッタリングすることによって基材上に導電層を堆積させることができるようにすることができる。幾つかの態様においては、工程(c)の堆積は、2~70kWの間、7~35kWの間、又は約8kWの出力で運転するスパッタリングシステムによって実施することができる。次に、酸化剤をチャンバー中に加えて希ガスと酸化剤の混合物を生成させた後に工程(d)の堆積を同じ真空チャンバー内で実施して、酸化物含有層を導電層上に堆積させることができるようにすることができる。用いる酸化剤は変化させることができるが、酸素、水、オゾンなどを挙げることができる。幾つかの態様においては、酸化剤は、分圧基準で第2の雰囲気の0.5~40%の間、1~20%の間、2~10%の間、4~6%の間、又は約5%を構成することができる。電極中に含まれる酸化物の量は、希ガス及び酸化剤の混合物中の酸化剤の量を制御することによって制御可能であることが示された。また、電極中に含まれる酸化物の量は、工程(d)の堆積中に酸化物含有層を堆積させるのに用いる時間の量を制御することによって制御することができることも見出された。幾つかの態様においては、工程(d)の堆積は、2~70kWの間、7~35kWの間、又は約8kWの出力で運転するスパッタリングシステムによって実施することができる。幾つかの態様は、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1、又は約10:1の、工程(c)(即ち導電層を堆積させる工程)のスパッタリング中に用いるスパッタリング出力と、工程(d)(即ち酸化物含有層を堆積させる工程)のスパッタリング中に用いるスパッタリング出力との比を与えることができる。
【0035】
[0048]幾つかの態様においては、シングルゾーン真空チャンバーに代えて、工程(c)及び(d)の堆積を、真空チャンバー(例えばデュアルゾーン真空チャンバー)の少なくとも2つの異なる区域内で実施することができる。例えば、かかる態様は、ロールツーロールマグネトロンスパッタリングなどのロールツーロール物理蒸着プロセスによって実施することができる。まず、その中に配置されている第1のターゲットを含む第1の真空チャンバー区域に基材を供給する。工程(c)の堆積に関しては、第1の真空チャンバー区域をアルゴンのような希ガスで充填して、第1のチャンバー区域内で第1のターゲットからの材料で基材をスパッタリングすることによって、導電層を基材上に堆積させることができるようにすることができる。その後、その上に堆積されている導電層で被覆されている基材を、その中に第2のターゲットが配置されている第2の真空チャンバー区域に移すことができる。幾つかの態様においては、第1及び第2のターゲットは同じ材料であってよい。次に、工程(d)の堆積は、希ガスと酸化剤の混合物が充填されている第2の真空チャンバー区域内で実施して、導電層上に酸化物含有層を堆積させることができるようにすることができる。
【0036】
[0049]シングルゾーン真空チャンバー又はデュアルゾーン真空チャンバーのいずれを用いるかに関係なく、その上に導電層及び酸化物含有層が形成されている得られる基材は、薄膜シートで製造することができ、これを所定寸法に切断して、バイオセンサーのような電気化学電極として用いることができる。かかる電極としては、作用電極、参照電極、又は対電極を挙げることができる。具体的には、得られる薄膜シートを適当な寸法に切断して、特にバイオセンサーの寸法の電気化学電極を形成することができる。他の態様においては、電気化学電極は、化学エッチング又はレーザーエッチング(又はアブレーション)のようなエッチングによって薄膜シートから形成することができる。更に他の態様においては、電気化学電極は、基材上に載置したパターン化マスクを用いて形成することができ、その上に導電層及び酸化物含有層を物理蒸着して電極を形成する。
【0037】
[0050]上述したように、パラジウム金属層として形成されている導電層、及び酸化パラジウム含有層として形成されている酸化物含有層を含む本発明の複数の態様にしたがって形成される電極は、望ましい電気化学的特性を示すことができ、大気中での経時変化の影響に抵抗することができる。したがって、本発明の複数の態様の電極は、パラジウム及び/又は金のような純貴金属を含むバイオセンサーに代わるものとして特に適している。具体的には、パラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層は、電極の更なる酸化及び表面修飾を制限することができるので、大気中での経時変化(例えば更なる酸化)の影響を減少又は最小にする電極を形成することができる。電極が大気中での経時変化に抵抗することができる程度は、電極の表面上に形成される酸化パラジウムの量に相関することが分かった。例えば、より高い酸化物表面被覆率を有する電極は、より低い酸化物表面被覆率を有する電極よりも大気中での経時変化に対してより抵抗性である。しかしながら、電極に関する酸化物表面被覆率の最大有効量が存在し、電極中の過度に多い酸化物は電極の導電性を運転可能なレベルよりも低く低下させる可能性があることを理解すべきである。本発明の複数の態様は、酸化パラジウム含有層の堆積中に堆積雰囲気に加える酸化剤の量を制御すること、及び/又は酸化パラジウム含有層を堆積させるのに用いる堆積時間を制御することによって、電極の表面上の酸化パラジウムの量を制御する。酸化パラジウム含有層を形成するために他のプロセス(例えば、コロナ処理、酸素プラズマ、化学的酸化、イオンアシスト酸化など)を導入する他の態様においては、電極中の酸化パラジウムの量は、かかる他のプロセスの種々のパラメーター(例えば処理時間)を制御することによって制御することができる。
【0038】
[0051]上記を考慮すると、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極の安定性(即ち、大気中での経時変化の影響に抵抗する能力)は、電極の表面上に形成される酸化物の量によって定量化することができることが見出された。パラジウムベースの電極に関しては、電極の表面上の酸化パラジウムの量は、電極をMESAで被覆した後にメルカプトエタンスルホネート(MESA)が電極の表面上に保持される量及び/又は速度を測定することによって求めることができる。特に、MESAが電極の表面に接着する速度は、電極の酸化物表面被覆率に伴って減少することが見出された。而して、その表面上により多い量の酸化パラジウムを有するパラジウム電極は、所定の被覆時間にわたってMESAで被覆すると、より少ない量のMESAを電極表面に接着させる。対照的に、その表面上により少ない量の酸化パラジウムを有するパラジウム電極は、所定時間にわたってMESAで被覆すると、より多い量のMESAを電極に接着させる。而して、(1)MESAが電極上に被覆される速度(即ちMESA速度)、及び(2)所定時間の間MESA中で被覆した後の電極上のMESAの表面被覆率(即ちMESA被覆率)のそれぞれは、いずれも電極の表面酸化に逆比例する。
【0039】
[0052]電極を安定にして大気中での経時変化の影響に抵抗するようにするためには、電極は電極の寿命にわたって安定している酸化物表面被覆率を有していなければならない。かかる電極は、電極をMESAで被覆した時点に関係なく安定なMESA速度を有する。他方においては、安定でなく、大気中での経時変化の影響に抵抗することができない電極は、電極を大気に曝露するにつれて電極の寿命にわたってその酸化物表面被覆率が増加する。上述したように、電極のMESA速度は、電極の酸化物表面被覆率が増加すると共に減少することが知られている。したがって、大気中で不安定な電極は、電極の寿命にわたって減少するMESA速度を有する。これに対して、大気中で安定な電極は、電極の寿命にわたって概して安定なMESA速度を有する。
【0040】
[0053]本発明の複数の態様にしたがって形成される電極、即ち基材上に形成されているパラジウム金属層及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を有する電極は、大気中で安定であることが示される。例えば、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極は、パラジウム層及び酸化パラジウム含有層を形成した10日以内にMESA被覆手順(下記に規定する)によって電極をMESAで被覆すると、電極の外表面上において、タイプ1のMESA被覆率試験(下記において規定する)によって求めて特定の被覆率(被覆率A)を受容するように構成することができる。更に、電極は、パラジウム金属層及び酸化パラジウム含有層を形成した10~90日後の間にMESA被覆手順によって電極をMESAで被覆すると、電極の外表面上において、タイプ1のMESA被覆率試験(下記において規定する)によって求めて別の被覆率(被覆率B)を受容するように構成される。本発明の複数の態様は、被覆率Bと30%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、又は2%以下だけ相違する(deviates no more than 25%, 20%, 15%, 10%, or 5% higher and/or 50%, 40%, 30%, 20%, or 10% lower)被覆率Aを与える。
【0041】
[0054]種々の態様においては、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極は、MESA被覆手順によってMESAで被覆した際に、電極の外表面についてタイプ1のMESA被覆率試験によって求めてMESAの特定の被覆率を受容するように構成される。対照的に、ベースライン電極(本発明においては、不活性雰囲気中において基材上に少なくとも10nmの厚さにスパッタリングされたパラジウム金属層から実質的に形成され、少なくとも90日間大気雰囲気中で経時変化させた電極として定義される)をMESA被覆手順によってMESA中で被覆すると、ベースライン電極は、ベースライン電極の外表面についてタイプ1のMESA被覆率試験によって求めてMESAのベースライン被覆率を受容するように構成される。本発明の電極は、電極に関するMESAの特定の被覆率が、本発明の電極がパラジウム金属層及び酸化パラジウム含有層を形成した10日以内にMESAの特定の被覆率を受容する場合に、ベースライン電極に関するMESAのベースライン被覆率よりも25%、20%、15%、10%、又は5%以下高く、及び/又は50%、40%、30%、20%、又は10%以下低く相違するように構成される。
【0042】
[0055]本発明の複数の態様にしたがって形成される電極は大気中で安定であり、それらが大気中での経時変化の影響に抵抗することができることは有益であるが、電極が電気化学的に好適に機能することも重要である。下記の実施例において示されるように、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極、即ち基材上に形成されているパラジウム金属層及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を有する電極は、純パラジウム電極のような貴金属で実質的に形成されている電極と電気化学的に同様に機能することが示される。具体的には、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極は、通常用いられる電極(例えば純パラジウム電極)と同等の不均一電子移動又は導電率を有する。しかしながら、この電極は他の通常用いられている電極と電気化学的に同様に機能するが、本発明の電極はそれらの表面上に異なる酸化物構造を有しており、電極の還元波は通常用いられている電極の還元波と異なる特徴を生起することが分かった。例えば、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極は、タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験によって求めて、ベースライン電極に関してタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験によって求められる還元ピークよりも少なくとも10mVより負電位側(cathodic)である還元ピークを有するように構成される。
【0043】
[0056]本発明はその複数の態様の以下の実施例によって更に示すことができるが、これらの実施例は単に例示の目的で含めるものであり、他に具体的に示していない限りにおいて発明の範囲を限定することは意図しないことが理解される。
【実施例】
【0044】
薄膜電極の製造:
[0057]下記に記載する実施例のそれぞれに関して、電極は以下の物理蒸着プロセスの1つによって形成した。したがって、下記のプロセスを用いて本発明の複数の態様の電極を形成して、基材上に形成されているパラジウム金属の導電層、及び導電層上に形成されている酸化パラジウムを含む酸化物含有層を含ませることができることが理解される。シングルゾーン真空チャンバープロセスは、次の工程を実施することによって電極薄膜シートを形成することを含む:
(a)高真空チャンバー内における直流(DC)マグネトロンスパッタリングを用いて、10.16cm×10.16cmの正方形のPET基材シート上にパラジウム金属層を堆積させた。スパッタリングは、Denton Vacuum Desktop Proスパッタリング装置を用いて実施した。
【0045】
(i)真空チャンバーを約10-5mTorrの初期到達圧力まで排気した;
(ii)10sccmのアルゴンガスを高真空チャンバー中に導入して、5mTorrの堆積圧力を生成させた;
(iii)真空チャンバー内において、基材シートを約2rpmで回転させた;
(iv)パラジウムの直径5.08cmのターゲットを、DCマグネトロンスパッタリング装置下において純アルゴン雰囲気中で40ワットの一定の出力に4分間の堆積時間の間保持して、基材シートの少なくとも一部を導電性パラジウム金属層で被覆した(ターゲットを初期化するために、基材を真空チャンバー中に導入する前に、ターゲットをDCマグネトロンスパッタリング装置下において40ワットの一定の出力に5分間の予備スパッタリング時間の間保持した);
(b)スパッタリング装置によってパラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を堆積させた。
【0046】
(i)10sccmの酸素とアルゴンの気体混合物を高真空チャンバー中に導入して、5mTorrの堆積圧力を生成させた;
(ii)真空チャンバー内において、基材シートを約2rpmで回転させた;
(iii)パラジウムターゲットを、DCマグネトロンスパッタリング装置下において酸素及びアルゴンの雰囲気中で40ワットの一定の出力に1分間の堆積時間の間保持して、パラジウム金属層の少なくとも一部を酸化パラジウム含有層で被覆した。そして
(c)全ての堆積は室温(即ち25℃)で行った。
【0047】
[0058]シングルゾーン真空チャンバープロセスに加えて、下記の実施例において記載する本発明の複数の態様の幾つかの電極は、ロールツーロール装置を用いるデュアルゾーン真空チャンバープロセスによって形成した。より詳しくは、デュアルゾーン真空チャンバーに関するプロセスは、2つのパラジウムターゲットを用い、それぞれの真空チャンバー区域内で1つのターゲットを用いた他は上記に記載のものと同様である。更に、第1の区域に純アルゴンをポンプ注入して、基材上にパラジウム金属層を堆積させることによって電極薄膜シートの形成を開始した。その後、電極薄膜シートを第2の区域に移した(ロールツーロール)。第2の区域に酸素を供給して、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を堆積させるためのアルゴン/酸素混合物を生成させた。
【0048】
[0059]このようにして、基材上にパラジウム金属層及びパラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を含む電極薄膜シートを形成した。シングルゾーン又はデュアルゾーンの真空チャンバープロセスのいずれを用いるかに関係なく、電極薄膜シートから5.08cm×7.62cmの寸法を有する個々の電極を切り出した。下記において詳細に記載するように、幾つかの電極は、ポテンシオスタットによってそれらの電気化学的特性を試験した。更に、幾つかの電極は、下記により詳細に記載するように、更に2-メルカプトエタンスルホネート(MESA)の被覆にかけた後に試験した。
【0049】
[0060]3電極構成のGamry Instruments Reference 600ポテンショスタットを用い、薄膜電極を含む電気化学セルをGamry Instruments VistaShieldファラデー箱の内部に配置して電気化学実験を行った。その中にダイカットされた単一の直径3mmの開口を有する電気メッキテープで薄膜電極を部分的にマスクすることによって、薄膜電極のそれぞれを作用電極として形成した。これにより、薄膜電極の非マスク部分は、0.0707cm2の幾何学的作用電極表面積を与えた。薄膜電極の非マスク部分は、ポテンショスタットの作用電極リードへの電気的接続点として機能させた。薄膜電極のマスク部分は、プラスチックのような非導電性材料の平坦な支持ブロック上に配置した。その後、薄膜電極をガラス電気化学セルの作用電極ポート中に配置した。薄膜電極の露出した直径3mmの部分を、電気化学セルの作用電極ポートの底部開口の中心付近に配置した。電気化学セルの作用電極ポートを、クランプ及びOリングでシールした。電気化学セルにはまた、飽和カロメル参照電極を含む参照電極、及び炭素補助電極も含めた。参照電極及び補助電極は、それぞれ参照電極ポート及び補助電極ポート内に配置した。更に、参照電極及び補助電極は、それぞれポテンショスタットの参照リード及び補助リードに接続した。電気化学セルにはまた、それによって試験溶液を脱気し、及び窒素のような不活性ガスで覆う気体流ポートも含めた。
【0050】
タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験の説明:
[0061]以下の例の幾つかは、下記のように規定されるタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験を用いて実施した。pH7.1の145mMの塩化ナトリウムを含むリン酸カリウム緩衝液(PBS)50mLを電気化学セル中に配置し、電気化学セルをストッパーで密閉した。或いは、50mLの0.1M塩化カリウムをPBSに代えて用いることができる。気体流ポートに接続した気体入口及び出口取付具によって、中多孔質フィルタースティックを用いて窒素の気体流によってPBSの不活性ガス散布(即ち脱気)が可能であった。気体流ポートによって更に、気体流をフィルタースティックからヘッドスペースを覆う配置に切り替えることができた。気体出口をオイルバブラーに接続して、外部気体(例えば空気)が電気化学セル中に逆拡散するのを阻止した。気体流をブランケット構成に切り替える前に、同時に窒素を少なくとも5分間散布する一方で、磁気スターラーバーを用いてPBSを撹拌した。行った電気化学実験中においては、(噴霧又は他の形態による)溶液の撹拌は行わなかった(即ち、電気化学試験中においてはPBSは静止させた)。
【0051】
[0062]電気化学セル内の作用電極を形成した薄膜電極に関してサイクリックボルタンメトリーを実施した。タイプ1のサイクリックボルタンメトリーに関する初期ボルテージポテンシャル(voltage potential)は、実験の前の少なくとも10秒の静止時間の後に作用電極と参照電極(即ち飽和カロメル参照電極)の間で測定して、開路電位(即ち自然電位(rest potential))に対して0Vであった。25mV/秒の走査速度でボルテージポテンシャルを、まず負電位(cathodically)方向、次に正電位(anodic)方向に掃引した。
【0052】
タイプ2のサイクリックボルタンメトリー試験の説明:
[0063]PBSを50mLの0.1M水酸化ナトリウムに置き換えた他はタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験と同じようにして、タイプ2のサイクリックボルタンメトリー試験を実施した。
【0053】
タイプ3のサイクリックボルタンメトリー試験の説明:
[0064]タイプ3のサイクリックボルタンメトリー試験に関する実験の構成は、レドックスメディエーターとして1mMのFe[III](CN)6をPBSに加えた他はタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験のものと同様であった。更に、タイプ3のサイクリックボルタンメトリー試験の手順は次の通りであった。
【0054】
(1)薄膜電極の当初電位は、開路電位(即ち自然電位)に対して0Vであった。
(2)薄膜電極の電位を、25mV/秒で(参照電極に対して)-0.3Vの電位までカソード走査した。そして
(3)薄膜電極の電位を、25mV/秒で(参照電極に対して)約1Vの電位までアノード走査した。
【0055】
タイプ4のサイクリックボルタンメトリー試験の説明:
[0065]タイプ4のサイクリックボルタンメトリー試験に関する実験の構成は、2mMの3(2’,5’-ジスルホフェニルイミノ)-3H-フェノチアジンをPBSに加えた他はタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験のものと同様であった。
【0056】
タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験の適用:
図4の実験:
[0066]
図4は、タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた3種類の電極の結果を示す。第1の電極(純Pd)及び第2の電極(純Pd11)のそれぞれは、スパッタリングプロセス中に酸素を導入しないで、パラジウムターゲットを純アルゴン雰囲気中でスパッタリングすることによって形成した。したがって、第1の電極及び第2の電極は、基材上のパラジウム金属層で実質的に形成された。第1の電極は大気中で経時変化させないで、直ちにタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた。第2の電極は、大気中で11か月経時変化させた後に、タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた。
図4はまた、本発明の複数の態様にしたがって形成した電極である第3の電極(PdO-10%)も示す。特に、第3の電極は、純アルゴン雰囲気中で4分間パラジウムターゲットをスパッタリングして、基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。更に、第3の電極は、10%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気混合物中でパラジウムターゲットを1分間スパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。ここに記載する実施例のそれぞれにおいて、言及している具体的な酸素のパーセントは、真空チャンバー内の全アルゴン/酸素雰囲気の圧力の分圧であることを理解すべきである。第3の電極は、大気中で経時変化させないで、直ちにタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた。
【0057】
[0067]第2の電極は11か月の間大気中で経時変化させたので、第2の電極は大気と反応して、パラジウム金属層の外表面上に大気中で生成した酸化パラジウム層を生成させた。対照的に、第1の電極は経時変化させなかったので、
図4において示される電気化学的分析において示されるように、第1の電極は第2の電極と同じ程度に多い酸化物を含む酸化パラジウム層を含んでいなかった。
図4によって示されるように、第2の電極の還元波は第1の電極のものよりも非常により大きく、したがってこれは、パラジウム導電層の表面上の酸化パラジウム層が、タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた際の電極の電気化学的応答を変化させることを示している。更に、第3の電極の還元波は、第1の電極のものよりも非常に大きいことが示され、更に第1の電極及び第2の電極の両方に対して負(cathodic)方向に大きくシフトしたピークを有することが分かった。その酸化パラジウム含有層がスパッタリングプロセス中に生成された第3の電極の還元波が、その酸化パラジウム含有層が大気中での経時変化中に自然に生成した第2の電極の還元波と大きく相違する(即ち負(cathodically)方向にシフトしたピークを有する)ことは予期しなかったことであった。かかる相違は、それぞれの電極の表面上の相違する酸化物構造を示している。
【0058】
図5の実験:
[0068]更に、
図5は
図4において先に示したタイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた3種類の電極(即ち、純Pd、純Pd11、及びPdO-10%)の結果を示す。更に、
図5は、タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた第4の電極(PdO-EC)を示す。第4の電極は、スパッタリングプロセス中に酸素を導入しないでパラジウムターゲットを純アルゴン雰囲気中でスパッタリングすることによって形成した。したがって、第4の電極は当初は実質的に基材上のパラジウム金属層から形成された。しかしながら、タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかける前に、第4の電極は、パラジウム金属層の表面上に酸化パラジウム含有層を電気化学的に生成させるためにまず1.1Vまでアノード走査した。
【0059】
[0069]
図5によって示されるように、第4の電極の還元波は、他の電極のそれぞれのものよりも非常に大きかった。その酸化パラジウム含有層がスパッタリングプロセス中に生成された第3の電極(PdO-10%)の還元波が、その酸化パラジウム含有層がアノード走査中に電気化学的に生成された第4の電極の還元波の特徴と大きく相違していることは予期しなかったことである。かかる相違は、それぞれの電極の表面上の相違する酸化物構造を示している。
【0060】
図6の実験:
[0070]
図6は、タイプ2のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた4種類の電極の結果を示す。第1の電極(純Pd)は、第1の区域及び第2の区域を有するロールツーロール堆積機内で形成した。第1の電極を第1の区域に通して、電極の導電性フィルム厚さの80%を堆積させた。その後、第1の電極を第2の区域に通して、電極の導電性フィルムの厚さの残りの20%を堆積させた。第1の区域及び第2の区域のそれぞれに実質的にアルゴンから構成される雰囲気(即ち不活性ガス)を充填し、スパッタリングプロセス中に酸素を導入しないで、第1及び第2の区域のそれぞれの中でパラジウムターゲットをスパッタリングすることによって第1の電極が形成されるようにした。したがって、第1の電極は、実質的に基材上のパラジウム金属層から形成された。第2の電極(PdO-1%)、第3の電極(PdO-5%)、及び第4の電極(PdO-10%)は、それぞれ本発明の複数の態様にしたがって形成された電極である。具体的には、第2、第3、及び第4の電極は、第1の区域に純アルゴン雰囲気を与え、第2の区域にアルゴン/酸素の混合雰囲気を与えてロールツーロール堆積機内で形成した。したがって、第2の電極、第3の電極、及び第4の電極のそれぞれは、第1の区域に通して電極の導電性フィルム厚さの80%を堆積させた。その後、電極のそれぞれを第2の区域に通して電極の導電性フィルム厚さの残りの20%を堆積させた。より詳細には、第2の電極、第3の電極、及び第4の電極のそれぞれは、基材上にパラジウム金属層を堆積させるように、パラジウムターゲットを純アルゴン雰囲気を含む第1の区域内でスパッタリングすることによって形成した。第2の電極、第3の電極、及び第4の電極のそれぞれは、次に、アルゴン及び酸素の混合物を含む雰囲気を含む第2の区域内でパラジウムターゲットをスパッタリングすることによって、パラジウム金属層の上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。具体的には、第2の電極は1%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気中でスパッタリングした。第3の電極は、5%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気中でスパッタリングした。第4の電極は、10%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気中でスパッタリングした。電極のそれぞれは、次に、タイプ2のサイクリックボルタンメトリー試験にかける前に60日間大気中で経時変化させた。
【0061】
[0071]
図6は、還元波が、より高い酸素濃度を有するアルゴン/酸素雰囲気中でスパッタリングした電極に関しては、より低い酸素濃度を有するか又はゼロの酸素濃度を有するアルゴン/酸素雰囲気中でスパッタリングした電極に関するものと大きく異なることを示す。例えば、第2の電極(即ちPdO-1%)は、第1の電極(即ち純Pd)と同様の還元波を有する。対照的に、第3の電極(即ちPdO-5%)及び第4の電極(即ちPdO-10%)は、第1の電極及び第2の電極よりも非常により大きい還元波を有し、ピークはより負(cathodic)方向にシフトした。更に、上述したように、電極のそれぞれを、スパッタリング後に60日間大気中で経時変化させた。本発明の複数の態様にしたがって形成された電極(例えば、PdO-1%、PdO-5%、及びPdO-10%)の還元波は、大気中での経時変化の後においても、変化してこれも大気中での経時変化にかけた実質にパラジウム金属層から形成された電極(例えば純Pd)の電気化学的応答に戻らないので、
図6の結果は予期しないものである。
【0062】
図7の実験:
[0072]
図7は、タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた2種類の電極の結果を示す。第1の電極(PdO-1m)及び第2の電極(PdO-2m)は、それぞれ本発明の複数の態様にしたがって形成された電極である。具体的には、第1の電極は、パラジウムターゲットを純アルゴン雰囲気中で4分間スパッタリングして基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。その後、第1の電極は、次にパラジウムターゲットを10%の酸素のアルゴン/酸素混合物を含む雰囲気中で1分間スパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。第2の電極は、パラジウムターゲットを純アルゴン雰囲気中で3分間スパッタリングして基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。その後、第2の電極は、パラジウムターゲットを10%の酸素のアルゴン/酸素を含む雰囲気中で2分間スパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。いずれの電極も、タイプ1のサイクリックボルタンメトリー試験にかける前に大気中での有意な経時変化にはかけなかった。
図7は、電極の還元波が相違することを示しており、これは電極上の酸化パラジウム含有層の表面構造が相違することを示している。具体的には、
図7は、アルゴン/酸素雰囲気中での堆積時間によって電極上の酸化パラジウム含有層の厚さを制御することができることを示す。
【0063】
図8の実験:
[0073]
図8は、タイプ3のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた3種類の電極の結果を示す。第1の電極(純Pd)は、第1の区域及び第2の区域を有するロールツーロール堆積機内で形成した。第1の電極を第1の区域に通して、電極の導電性フィルム厚さの80%を堆積させた。その後、第1の電極を第2の区域に通して、電極の導電性フィルム厚さの残りの20%を堆積させた。第1の区域及び第2の区域のそれぞれに実質的にアルゴンから構成される雰囲気(即ち不活性ガス)を充填し、スパッタリングプロセス中に酸素を導入しないで、第1及び第2の区域のそれぞれの中でパラジウムターゲットをスパッタリングすることによって第1の電極が形成されるようにした。したがって、第1の電極は、実質的に基材上のパラジウム金属層から形成された。第2及び第3の電極のそれぞれは、第1の区域に純アルゴン雰囲気を与え、第2の区域にアルゴン/酸素の混合雰囲気を与えてロールツーロール堆積機内で形成した。したがって、第2の電極及び第3の電極のそれぞれは、第1の区域に通して電極の導電性フィルム厚さの80%を堆積させ、その後、第2の区域に通して電極の導電性フィルム厚さの残りの20%を堆積させた。より詳細には、第2の電極(PdO-1%)は、パラジウムターゲットを純アルゴン雰囲気を含む第1の区域内でスパッタリングして基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。更に、第2の電極は、パラジウムターゲットを、1%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気混合物を含む第2の区域内でスパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。第3の電極は、パラジウムターゲットを、純アルゴン雰囲気を含む第1の区域内でスパッタリングして基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。更に、第3の電極は、パラジウムターゲットを、10%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気混合物を含む第2の区域内でスパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。いずれの電極も、タイプ3のサイクリックボルタンメトリー試験にかける前に大気中で経時変化させなかった。
【0064】
[0074]
図8は、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極、即ち基材上に形成されているパラジウム金属層、及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を有する電極は、通常のレドックスメディエーター(例えば、0.1M-KCl中のFeIII/II(CN)
6)を用いると、純パラジウム電極と電気化学的に同様に機能することを示す。酸化パラジウムは半導体であり、相対的に非導電性であるので、電極を相対的な半導体(relative semiconductor)でキャップすることが電極の電気化学的性能に影響を与えないことは驚くべきことである。
【0065】
図9の実験:
[0075]
図9は、タイプ4のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた4種類の電極の結果を示す。第1の電極(純Pd10)は、第1の区域及び第2の区域を有するロールツーロール堆積機内で形成した。第1の電極を第1の区域に通して、電極の導電性フィルム厚さの80%を堆積させた。その後、第1の電極を第2の区域に通して、電極の導電性フィルム厚さの残りの20%を堆積させた。第1の区域及び第2の区域のそれぞれは、実質的にアルゴンから構成される雰囲気(即ち不活性ガス)を充填して、スパッタリングプロセス中に酸素を導入しないで第1及び第2の区域のそれぞれの中でパラジウムターゲットをスパッタリングすることによって第1の電極が形成されるようにした。したがって、第1の電極は、実質的に基材上のパラジウム金属層から形成された。次に、第1の電極を、タイプ4のサイクリックボルタンメトリー試験にかける前に大気中で90日間経時変化させた。第2、第3、及び第4の電極のそれぞれは、第1の区域に純アルゴン雰囲気を与え、第2の区域にアルゴン/酸素の混合雰囲気を与えて、ロールツーロール堆積機内で形成した。したがって、第2の電極、第3の電極、及び第4の電極のそれぞれを、第1の区域に通して電極の導電性フィルム厚さの80%を堆積させ、その後、第2の区域に通して電極の導電性フィルム厚さの残りの20%を堆積させた。より詳しくは、第2の電極(PdO-1%)は、純アルゴン雰囲気を含む第1の区域内でパラジウムターゲットをスパッタリングして、基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。更に、第2の電極は、1%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気混合物を含む第2の区域内でパラジウムターゲットをスパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。第3の電極(PdO-5%)は、純アルゴン雰囲気を含む第1の区域内でパラジウムターゲットをスパッタリングして、基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。更に、第3の電極は、5%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気混合物を含む第2の区域内でパラジウムターゲットをスパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。第4の電極(PdO-10%)は、純アルゴン雰囲気を含む第1の区域内でパラジウムターゲットをスパッタリングして、基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。更に、第4の電極は、10%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気混合物を含む第2の区域内でパラジウムターゲットをスパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。第2、第3、及び第4の電極のいずれも、タイプ4のサイクリックボルタンメトリー試験にかける前に大気中で経時変化させなかった。
【0066】
[0076]
図9は、本発明の複数の態様にしたがって形成された電極、即ち基材上に形成されているパラジウム金属層及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を有する電極が、通常のレドックスメディエーター(例えば、PBSバッファー中の3(2’,5’-ジスルホフェニルイミノ)-3H-フェノチアジン)を用いると、大気中で経時変化させた純パラジウム電極と電気化学的に同様に機能することを示す。酸化パラジウムは半導体であり、相対的に非導電性であるので、相対的な半導体で電極をキャップすることが電極の電気化学的性能に影響を与えないことは驚くべきことである。
【0067】
MESA被覆手順の説明:
[0077]有益な電気化学的特性に加えて、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極は、電極の表面上に形成されている新規な酸化物含有層のために、大気中での経時変化に抵抗するように構成される。上記で議論したように、電極の酸化物表面被覆率の程度は、電極のMESA被覆特性を求めることによって定量することができる。MESA被覆特性を測定するためには、次のMESA被覆手順にしたがって電極をMESAで被覆することができる。以下のMESA被覆手順は、Macfieらの"Mechanism of 2-Mercaproethanesulphonate Adsorption onto Sputtered Palladium Films: Influence of Surface Oxide Species, The Journal of Physical Chemistry C2012, 116, 9930-9941(以下、Macfie)(その全部を参照として本明細書中に包含する)によって記載されている手順と幾つかの点で同様であることを理解すべきである。
【0068】
[0078]MESA被覆手順の第1工程は、約200mLのMilli-Q水中0.3mM-MESA溶液を含む500mLのビーカーを用意することを含む。電磁スターラーを用いて溶液を軽く撹拌し、10.16cm×10.16cmの電極薄膜を溶液中に500秒間配置する。電極薄膜を取り出し、直ちに水及びエタノールで洗浄し、空気乾燥する。電極薄膜から、電極を5.08cm×7.62cmの寸法に切り出す。次に、電極をエタノール中1-ドデカンチオールの1.0mM溶液中に16時間配置する。その後、電極を取り出し、エタノールですすぎ、乾燥し、分析のために試験する。
【0069】
タイプ1のMESA被覆率試験の説明:
[0079]Macfieに記載されているものと同様の方法を用いて、表面MESA被覆の程度を計算した。より詳しくは、MESAが被覆された電極を、タイプ3のボルタンメトリー試験にかけた。次に、電極のカソードピークとアノードピークの間の電位差を求めた。特に、FeIII/II及びFeII/IIIレドックス対の間で分割するピーク電流を求めた。したがって、電極上のMESAの表面被覆率(以下、「MESA被覆率」と規定する)を求めるために、以下の式においてΔEpeakを用いた。
【0070】
【0071】
タイプ1のMESA速度試験の説明:
[0080]タイプ1のMESA被覆率試験から計算されるMESA被覆率をとり、かかる被覆率の値を、被覆のために電極薄膜をMESA溶液中に配置した時間の量(即ち、MESA被覆手順において記載されているように500秒)で割ることによって、MESAが電極の表面上に受容された速度(以下、MESA速度と規定する)を計算した。
【0072】
MESA試験の適用:
図10の実験:
[0081]
図10は、タイプ1のMESA被覆試験にかけた6組の電極の結果を示す。電極の第1の組(S1)は、第1の区域及び第2の区域を有するロールツーロール堆積機内で形成した。第1の組における電極のそれぞれを第1の区域に通して、電極の導電性フィルム厚さの80%を堆積させた。その後、電極のそれぞれを第2の区域に通して、電極の導電性フィルム厚さの残りの20%を堆積させた。第1の区域及び第2の区域のそれぞれは、実質的にアルゴンから構成される雰囲気(即ち不活性ガス)を充填して、スパッタリングプロセス中に酸素を導入しないで、第1及び第2の区域のそれぞれの中でパラジウムターゲットをスパッタリングすることによって電極の第1の組S1が形成されるようにした。したがって、組S1における電極のそれぞれは、基材上のパラジウム金属層で実質的に形成された。残りの電極は、本発明の複数の態様にしたがって、ロールツーロール堆積機内で形成した。特に、残りの電極のそれぞれは、純アルゴン雰囲気を含む第1の区域内でパラジウムターゲットをスパッタリングして、基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。かかる電極のそれぞれは、第1の区域内でスパッタリングして、電極の導電性フィルム厚さの80%が第1の区域内で形成されるようにした。更に、残りの電極のそれぞれは、アルゴン/酸素雰囲気混合物を含む第2の区域内でパラジウムターゲットをスパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。具体的には、かかる電極のそれぞれは、第2の区域内でスパッタリングして、電極の導電性フィルム厚さの残りの20%が第2の区域内で形成されるようにした。それぞれの残りの電極の組に関する第2の区域のアルゴン/酸素雰囲気中の酸素のパーセント(分圧として)は、次の通りであった。
【0073】
S3-0.075%;
S5-0.25%;
S8-1.0%;
S9-2.0%;
S10-5.0%;及び
S11-10.0%。
【0074】
[0082]
図10において示されるように、それぞれの組からの電極を、スパッタリング後7日からスパッタリング後90日の間の異なる時点においてMESA被覆手順にかけた。その後、電極をタイプ1のMESA被覆率試験にかけて、電極上のMESA被覆率を求めた。
図10は、純パラジウム電極(即ちS1)のMESA被覆率は、低い酸素濃度を用いて形成されたそれらの酸化パラジウム含有層を有する電極(例えば、S3、S5、及びS8)と同様に、最初の90日間にわたって劇的に減少することを示す。対照的に、より高い酸素濃度を用いて形成されたそれらの酸化パラジウム含有層を有する電極(例えば、S9、S10、及びS11)は、スパッタリング後の90日間にわたって大きくは変化しない。
図10における赤紫色の線は、MESA被覆手順及びタイプ1のMESA被覆率試験にかける前に90日間経時変化させた別の純パラジウム電極のMESA被覆率を示す。予測されるように、大気中で経時変化させた純パラジウム電極は更なる酸化を起こさなかったので、この別の純パラジウム電極のMESA被覆率は試験時間にわたって一定であった。本発明の複数の態様にしたがって形成される電極、即ち、基材上に形成されているパラジウム金属層及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を有する電極が、純アルゴン雰囲気中でスパッタリングされた純パラジウムフィルムと比べて大気中での経時変化に対してより安定であることは予期しないことであった。
【0075】
図11の実験:
[0083]
図11は、
図10において議論した同じ電極からの情報を示す。しかしながら、
図11は、所定の電極の組に関して得られたそれぞれの測定値からのMESA被覆率の変化率(%)を示す。かかる測定は、スパッタリング後の7日目に開始し、スパッタリング後の90日目に終了した。
図11は、純パラジウム電極の組(即ちS1)が、スパッタリング後7日目とスパッタリング後90日目の間でMESA被覆において約50%減少することを示す。かかる変化は、その時間にわたる純パラジウム電極の相当な量の表面酸化を示す。これに対して、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極、即ち基材上に形成されているパラジウム金属層及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を有する電極は、より少ない量のMESA被覆の変化率を有していた。例えば、組S10及びS11からの電極は、スパッタリング後7日目とスパッタリング後90日目の間で約15%しか変化しなかった。本発明の複数の態様にしたがって形成される電極、即ち基材上に形成されているパラジウム金属層及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を有する電極が、純アルゴン雰囲気中でスパッタリングされた純パラジウム電極と比べて大気中での経時変化に対してより安定であることは予期しなかったことであった。
【0076】
図12の実験:
[0084]
図12は、
図10及び11において議論した同じ電極からの情報を含む。しかしながら、
図12においては、電極についてタイプ1のMESA速度試験を実施して、それぞれの電極に関するMESA速度値を得た。
図12は、MESA速度が電極の経時変化に伴って変化することを示す。具体的には、
図12は、純パラジウム電極(即ちS1)のMESA速度が、低い酸素濃度を用いて形成されたそれらの酸化パラジウム含有層を有する電極(例えば、S3、S5、及びS8)と同様に、スパッタリング後90日間にわたって減少することを示す。これに対して、より高い酸素濃度を用いて形成されたそれらの酸化パラジウム含有層を有する電極(例えば、S9、S10、及びS11)は、スパッタリング後90日にわたって有意には変化しない。プロットにおける赤紫色の線は、そのMESA速度を測定する前に90日間経時変化させた別の純パラジウムフィルムを示す。
図12は、純パラジウム電極、及びより低い酸素濃度を用いて形成されたそれらの酸化パラジウム含有層を有する電極(例えば、S3、S5、及びS8)が、90日間経時変化させた別のパラジウムフィルムと同等のMESA速度に達することを示す。本発明の複数の態様にしたがって形成される電極、即ち基材上に形成されているパラジウム金属層及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を有する電極が、純アルゴン雰囲気中でスパッタリングされた純パラジウム電極と比べて、大気中での経時変化に対してより安定であることは予期しなかったことであった。
【0077】
図13の実験:
[0085]
図13は、本発明の複数の態様にしたがって製造された電極、即ちアルゴン雰囲気中でスパッタリングすることによって形成されているパラジウム金属層、及びアルゴン/酸素混合物雰囲気中でスパッタリングすることによってパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を有する電極のMESA速度が、アルゴン/酸素スパッタリング雰囲気中の酸素の濃度に基づいてどのように変化するかを示す。特に、それぞれの電極を、スパッタリング後6日目にタイプ1のMESA速度試験にかけた。
図13は、アルゴン/酸素雰囲気中の酸素の濃度を変化させることによって、MESA速度、及びしたがって電極の表面酸化の程度を調節することができることを示す。酸化パラジウム含有層の構造は大気中で生成された酸化パラジウムのものとは異なっているので、酸化の程度を調節して分子の表面結合の速度を制御することができることは予期しなかったことである。
【0078】
図14の実験:
[0086]
図14は、MESA被覆手順にしたがってMESAによって被覆する前にタイプ3のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた4種類の電極の結果を示す。第1の電極(純Pd)及び第2の電極(純P10)は、スパッタリングプロセス中に酸素を導入しないで、純アルゴン雰囲気中でパラジウムターゲットをスパッタリングすることによって形成した。したがって、第1の電極及び第2の電極は、実質的に基材上のパラジウム金属から形成された。第1の電極は、1日間大気中で経時変化させた後にMESA被覆手順にかけた。第2の電極は、90日間大気中で経時変化させた後にMESA被覆手順にかけた。第3の電極(PdO-0.1%)は、純アルゴン雰囲気中でパラジウムターゲットを4分間スパッタリングプロセスして基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。更に、第3の電極は、0.1%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気混合物中でパラジウムターゲットを1分間スパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。第4の電極(PdO-10%)は、パラジウムターゲットを純アルゴン雰囲気中で4分間スパッタリングして基材上にパラジウム金属層を生成させることによって形成した。更に、第4の電極は、10%の酸素を含むアルゴン/酸素雰囲気混合物中でパラジウムターゲットを1分間スパッタリングすることによって、パラジウム金属層上に酸化パラジウム含有層を与えて形成した。第3及び第4の電極は、1日間大気中で経時変化させてMESA被覆手順にかけた。その後、それぞれの電極をタイプ3のサイクリックボルタンメトリー試験にかけた。
【0079】
[0087]種々の試料に関するMESA被覆速度を、下表1に示す。
【0080】
【0081】
[0088]
図14は、スパッタリング中のアルゴン/酸素混合物雰囲気内の酸素濃度を変化させることによって、電極の表面上の酸化の程度を調節することができることを示す。更に、
図14及び表1は、本発明の複数の態様にしたがって形成される電極、即ち基材上に形成されているパラジウム金属層及びパラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層を有する電極は、90日間大気中で経時変化させた純パラジウム電極のMESA被覆速度に匹敵する可能性があることを示す。本発明の電極上の酸化パラジウム含有層の構造は、大気中で生成した酸化パラジウムのものとは異なるので、本発明の電極上の酸化パラジウム含有層が、表面への小分子の表面結合の速度を決定することは予期しなかったことである。
【0082】
[0089]本発明の複数の態様の上記の詳細な記載は、当業者が本発明を実施することを可能にするのに十分に詳細に本発明の種々の形態を記載することを意図している。発明の範囲から逸脱することなく、他の態様を用いることができ、変更を行うことができる。したがって、上記の詳細な記載は限定の意味で解釈すべきではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲が権利を保有する均等物の全範囲と共に、続く正規の実用新案出願において示されている特許請求の範囲によってのみ規定される。
【0083】
[0090]本明細書において、「一態様」、「態様」、又は「複数の態様」という記載は、関連する1つ又は複数の特徴が本技術の少なくとも1つの態様の中に含まれることを意味する。本明細書における「一態様」、「態様」、又は「複数の態様」という別々の記載は、必ずしも同じ態様を指すものではなく、また、そのように言及されているか及び/又はその記載から当業者に明白である場合を除いて互いに排他的でない。例えば、一態様において記載されている特徴、工程等はまた他の態様においても含まれる可能性があるが、必ずしも含まれない。而して、本発明は、ここに記載する複数の態様の種々の組合せ及び/又は統合を包含することができる。
【0084】
[0091]ここに本発明者らは、本発明は、以下の特許請求の範囲において示す発明の文理範囲から実質的に逸脱しないが、その外側である任意の装置に関しているので、本発明の合理的に正しい範囲を決定及び利用するために均等論に依拠する本発明者らの意図を主張する。
【0085】
定義:
[0092]下記は定義されている用語の排他的なリストであるとは意図しないことを理解すべきである。例えば文脈において規定されている用語を用いることを伴う際などにおいて、上記の記載において他の規定が与えられる可能性がある。
【0086】
[0093]本明細書において用いる「a」、「an」、及び「the」の用語は1以上を意味する。
[0094]本明細書において用いる「及び/又は」の用語は、2以上の事項のリストにおいて用いる場合には、リストされている事項の任意の1つを単独で用いることができ、或いはリストされている事項の2以上の任意の組合せを用いることができることを意味する。例えば、組成物が成分A、B、及び/又はCを含むと記載されている場合には、この組成物は、A単独;B単独;C単独;A及びBの組合せ;A及びCの組合せ;B及びCの組合せ;或いはA、B、及びCの組合せ;を含む可能性がある。
【0087】
[0095]本明細書において用いる「含む」、「含み」、及び「含んでいる」という用語は、その用語の前に示されている主語から、その用語の後に示されている1以上の要素へ移行するのに用いられる非限定的な移行語であり、この移行語の後にリストされている1つ又は複数の構成要素は、必ずしも主語を構成する唯一の構成要素ではない。
【0088】
[0096]本明細書において用いる「有する」、「有し」、及び「有している」という用語は、上記に定義した「含む」、「含み」、及び「含んでいる」と同じ非限定的な意味を有する。
【0089】
[0097]本明細書において用いる「包含する」、「包含し」、及び「包含している」という用語は、上記に規定した「含む」、「含み」、及び「含んでいる」と同じ非限定的な意味を有する。
【0090】
数値範囲:
[0098]本明細書においては、本発明に関連する幾つかのパラメーターの量を定めるために数値範囲を用いる。数値範囲が与えられている場合には、かかる範囲は、その範囲のより低い値のみを示すクレームの限定、並びにその範囲のより高い値のみを示すクレームの限定に対する文言上のサポートを与えるものと解釈されることを理解すべきである。例えば、10~100の開示されている数値範囲は、「10よりも大きい」(上限なし)を示すクレーム、並びに「100未満」(下限なし)を示すクレームに対する文言上のサポートを与える。
本発明は以下の実施態様を含む。
(1)バイオセンサーにおいて用いるための電気化学電極であって、
前記電極は、
(a)基材;
(b)90nm以下の厚さを有する、前記基材上に形成されているパラジウム金属層;及び
(c)40nm以下の厚さを有する、前記パラジウム金属層上に形成されている酸化パラジウム含有層;
を含む上記電気化学電極。
(2)前記バイオセンサーが医用センサーである、(1)に記載の電気化学電極。
(3)前記医用センサーが血糖センサーである、(2)に記載の電気化学電極。
(4)前記電極が少なくとも5nm及び/又は110nm以下の厚さを有する、(1)~(3)のいずれかに記載の電気化学電極。
(5)前記パラジウム金属層が少なくとも4nm及び/又は80nm以下の厚さを有する、(1)~(3)のいずれかに記載の電気化学電極。
(6)前記酸化パラジウム含有層が少なくとも0.5nm及び/又は30nm以下の厚さを有する、(1)~(3)のいずれかに記載の電気化学電極。
(7)前記パラジウム金属層が前記基材上にスパッタ被覆されている、(1)~(3)のいずれかに記載の電気化学電極。
(8)前記酸化パラジウム含有層が前記パラジウム金属層上にスパッタ被覆されている、(1)~(3)のいずれかに記載の電気化学電極。
(9)前記パラジウム金属層が前記基材上にスパッタ被覆されており、前記酸化パラジウム含有層が前記パラジウム金属層上にスパッタ被覆されている、(1)~(8)のいずれかに記載の電気化学電極。
(10)前記パラジウム金属層が、不活性ガスから実質的に構成される第1の雰囲気中で前記基材上にスパッタ被覆されており;
前記酸化パラジウム含有層が、不活性ガスと酸化剤の混合物を含む第2の雰囲気中で前記パラジウム金属層上にスパッタリングされており;そして
前記酸化剤は分圧基準で第2の雰囲気の0.5~50%の間を構成する、(1)~(9)のいずれかに記載の電気化学電極。
(11)前記不活性ガスがアルゴンである、(10)に記載の電気化学電極。
(12)前記酸化剤が、酸素、オゾン、及び水の1以上から選択される、(10)又は(11)に記載の電気化学電極。
(13)前記酸化剤が酸素であり、酸素は分圧基準で第2の雰囲気の1~20%の間を構成する、(10)~(12)のいずれかに記載の電気化学電極。
(14)前記パラジウム金属層の前記スパッタリング中に用いられるスパッタリング出力と、前記酸化パラジウム含有層の前記スパッタリング中に用いられるスパッタリング出力との比が約4:1である、(10)~(13)のいずれかに記載の電気化学電極。
(15)前記酸化パラジウム含有層が前記パラジウム金属層の40%以下の厚さを有する、(1)~(14)のいずれかに記載の電気化学電極。
(16)前記基材がポリマーフィルムを含む、(1)~(15)のいずれかに記載の電気化学電極。
(17)前記基材がポリエステル又はポリカーボネートを含む、(1)~(16)のいずれかに記載の電気化学電極。
(18)前記電極が、前記パラジウム金属層及び前記酸化パラジウム含有層を形成した10日以内に前記電極をメルカプトエタンスルホネート(MESA)被覆手順を用いてMESA中で被覆すると、電極の外表面上において、タイプ1のMESA被覆率試験によって求めて特定のMESAの表面被覆率(被覆率A)を受容するように構成され;
前記電極が、前記パラジウム金属層及び前記酸化パラジウム含有層を形成した90日後に前記電極をMESA被覆手順を用いてMESA中で被覆すると、電極の外表面上において、タイプ1のMESA被覆率試験によって求めて別のMESAの表面被覆率(被覆率B)を受容するように構成され;
前記被覆率Aは前記被覆率Bと30%以下だけ相違する、(1)~(17)のいずれかに記載の電気化学電極。
(19)前記被覆率Aが前記被覆率Bと20%以下だけ相違する、(18)に記載の電気化学電極。