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特許7086099グラフェンを製造するためのマイクロ波システム及び方法
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  • 特許-グラフェンを製造するためのマイクロ波システム及び方法 図1
  • 特許-グラフェンを製造するためのマイクロ波システム及び方法 図2A-2B
  • 特許-グラフェンを製造するためのマイクロ波システム及び方法 図3
  • 特許-グラフェンを製造するためのマイクロ波システム及び方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】グラフェンを製造するためのマイクロ波システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/19 20170101AFI20220610BHJP
   C01B 32/225 20170101ALI20220610BHJP
【FI】
C01B32/19
C01B32/225
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019556344
(86)(22)【出願日】2017-06-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 US2017036673
(87)【国際公開番号】W WO2018194696
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】15/491,714
(32)【優先日】2017-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】リン,イ-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-065009(JP,A)
【文献】特開2013-050301(JP,A)
【文献】特開2006-273645(JP,A)
【文献】特表2013-536141(JP,A)
【文献】特表2009-511415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/19
C01B 32/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素からのグラフェンの製造方法において、
(a)前記マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の粉末を非金属固体基材表面上に提供し供給するステップであって、前記粉末が、第1のリボン幅及び第1のリボン厚さを有する実質的にリボン状であり、前記マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素が酸化されたものであるステップと;
(b)あるマイクロ波照射幅及びあるマイクロ波侵入深さを有するマイクロ波出力ゾーンを含むマイクロ波照射チャンバー中に前記リボン状粉末を移動させるステップであって、前記マイクロ波照射幅が前記第1のリボン幅以上であり、前記マイクロ波侵入深さが前記第1のリボン厚さ以上であり、それによって、リボン状粉末全体が、十分な時間の長さで十分な出力レベルのマイクロ波出力を受け取って吸収し、前記マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素が剥離し分離して、前記第1のリボン幅を超える第2の幅、及び前記第1のリボン厚さを超える第2の厚さを有する膨張体積を占めるグラフェンシートを製造するステップと;
(c)前記グラフェンシートを前記マイクロ波チャンバーの外まで移動させ、前記グラフェンシートを冷却し、前記グラフェンシートを収集するステップと
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素が、酸化された天然黒鉛、酸化された合成黒鉛、酸化された非晶質黒鉛、酸化されたHOPG、酸化されたメソカーボンマイクロビーズ、酸化されたニードルコークス、酸化された炭素若しくは黒鉛の繊維、酸化されたカーボンナノファイバー、又はそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の粉末が、水、極性有機分子、無機誘電体材料、又はそれらの組合せから選択される、0.1重量%~20重量%の誘電加熱促進剤をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記マイクロ波出力ゾーン中の前記マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の滞留時間が10秒~5分であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記滞留時間が30秒~3分であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記第1のリボン幅が1mm~10cmの範囲から選択され、前記第1のリボン厚さが10nm~3.8cmであることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記第1のリボン幅が5mm~5cmの範囲から選択され、前記第1のリボン厚さが1μm~2.5cmであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記第1のリボン幅が1cm~3cmの範囲から選択され、前記第1のリボン厚さが0.1mm~1.0cmであることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、前記マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の粉末が、連続的又は断続的な方法で、マイクロ波照射チャンバー中まで供給され移動することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、前記第2の幅の前記第1のリボン幅に対する比が3~300であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、前記グラフェンシートに対して、より小さなグラフェンシートを製造するための機械的剪断処理が行われることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記機械的剪断処理が、エアミル粉砕、エアジェットミル粉砕、ボールミル粉砕、回転ブレードによる機械的剪断、超音波処理、キャビテーション、又はそれらの組合せの使用を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法において、前記グラフェンが単層グラフェンシートを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法において、前記グラフェンが少なくとも80%の単層グラフェンシートを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法において、前記グラフェンが、純粋なグラフェン、5重量%未満の酸素含有量の酸化グラフェン、フッ化グラフェン、5重量%未満のフッ素を有するフッ化グラフェン、95重量%以上の炭素含有量のグラフェン、又は官能化グラフェンを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素からのグラフェンの製造方法において、
(a)ある体積の前記マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素粉末を固体基材表面に提供し供給するステップであって、前記粉末体積が、ある最大幅及びある最大厚さを有し、前記マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素が酸化されたものであるステップと;(b)あるマイクロ波照射幅及びあるマイクロ波侵入深さを有するマイクロ波出力ゾーンを含むマイクロ波照射チャンバー中まで前記粉末を移動させるステップであって、前記マイクロ波照射幅が前記粉末体積の前記最大幅以上であり、前記マイクロ波侵入深さが前記粉末体積の前記最大厚さ以上であり、そのため粉末体積全体が、十分な時間の長さで十分な出力レベルのマイクロ波出力を受け取って吸収し、前記マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素が剥離し分離して、前記最大幅を超える第2の幅、及び前記最大厚さを超える第2の厚さを有する膨張体積を占めるグラフェンシートとなるステップと;(c)前記グラフェンシートを前記マイクロ波チャンバーの外まで移動させ、前記グラフェンシートを冷却し、前記グラフェンシートを収集するステップとを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される2017年4月19日に出願された米国特許出願第15/491,714号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、インターカレートされた黒鉛、インターカレートされた黒鉛状炭素、酸化黒鉛、酸化された黒鉛状炭素、及びフッ化黒鉛からグラフェン材料を製造するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
単層グラフェンシートは、2次元の六角形格子を占める炭素原子から構成される。多層グラフェンは、炭素原子の2つ以上の六角形面から構成されるプレートレットである。数層グラフェンシート又はプレートレットは、炭素原子の2~10個の六角形面を有するグラフェン材料を意味する。個別の単層グラフェンシート及び多層グラフェンプレートレットは、本明細書では一括してナノグラフェンプレートレット(NGP)又はグラフェン材料と記載される。NGPとしては、純粋なグラフェン(実質的に99%の炭素原子)、わずかに酸化されたグラフェン(<5重量%の酸素)、酸化グラフェン(≧5重量%の酸素)、わずかにフッ素化されたグラフェン(<5重量%のフッ素)、フッ化グラフェン(≧5重量%のフッ素)、他のハロゲン化グラフェン、水素化グラフェン、及び化学官能化グラフェンが挙げられる。
【0004】
グラフェンは、一連の独特の物理的、化学的、および機械的性質を有することが分かっている。たとえば、グラフェンは、あらゆる既存の材料の中で最も高い固有強度および最も高い熱伝導率を示すことが分かった。グラフェンの実際の電子デバイス用途(たとえば、トランジスタ中の主要要素としてのSiの代替)は、今後5~10年の間に実現するとは考えられていないが、複合材料中、およびエネルギー貯蔵装置の電極材料中のナノフィラーとしてのその用途は目前に迫っている。加工可能グラフェンシートを大量に利用できることが、グラフェンの複合物用途、エネルギー用途、および別の用途の開発に成功するために重要である。
【0005】
本発明者らの研究グループは、グラフェンを世界で最初に発見した[B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。NGPおよびNGPナノ複合物の製造方法は本発明者らによって最近レビューされている[Bor Z.Jang and A Zhamu,“Processing of Nano Graphene Platelets (NGPs) and NGP Nanocomposites:A Review,”J.Materials Sci.43(2008)5092-5101]。NGPを製造するために4つの主要な従来技術の方法が採用されてきた。これらの利点および欠点を以下に簡潔にまとめている。
【0006】
方法1:酸化黒鉛(GO)プレートレットの化学的形成および還元
第1の方法(図1)は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)、または実際には酸化黒鉛(GO)を得るために、インターカラントおよび酸化剤(たとえば、それぞれ濃硫酸および硝酸)を用いた天然黒鉛粉末の処理を伴う。インターカレーションまたは酸化の前、黒鉛は約0.335nmのグラフェン面間隔を有する(L=1/2 d002=0.335nm)。インターカレーションおよび酸化処理を行うと、グラフェン間隔は、典型的には0.6nmを超える値まで増加する。これは、この化学的経路中に黒鉛材料に生じる第1の膨張段階である。得られたGICまたはGOは、次に、熱衝撃曝露、または溶液系の超音波支援グラフェン層剥離方法のいずれかを用いることでさらに膨張する(多くの場合で剥離と呼ばれる)。
【0007】
熱衝撃曝露方法では、典型的には依然として互いに相互接続する黒鉛フレークから構成される「黒鉛ワーム」の形態である剥離黒鉛(またはさらに膨張した黒鉛)を形成するために、GICまたはGOを高温(典型的には800~1,200℃)に短時間(典型的には30秒~3分)曝露して、GICまたはGOを剥離または膨張させる。この熱衝撃手順によって、一部分離した黒鉛フレークまたはグラフェンシートを製造することができるが、通常は、黒鉛フレークの大部分は相互接続されたままである。典型的には、次に、剥離した黒鉛または黒鉛ワームに対して、エアミル粉砕、機械的剪断、または水中の超音波処理を用いたフレーク分離処理が行われる。したがって、方法1は、基本的に、第1の膨張(酸化またはインターカレーション)と、さらなる膨張(または「剥離」)と、分離との3つの異なる手順を伴う。
【0008】
溶液系分離方法では、膨張または剥離したGO粉末を水中または水性アルコール溶液中に分散させ、これに対して超音波処理を行う。これらの方法において、超音波処理は、黒鉛のインターカレーションおよび酸化の後(すなわち第1の膨張の後)、ならびに典型的には得られたGICまたはGOの熱衝撃曝露の後(第2の膨張の後)に使用することに留意することが重要である。あるいは、面間空間内に存在するイオン間の反発力がグラフェン間ファンデルワールス力に打ち勝って、結果としてグラフェン層が分離するように、水中に分散させたGO粉末のイオン交換または長時間の精製手順が行われる。
【0009】
熱剥離は、典型的には800~1,200℃の温度にあらかじめ設定された高温炉の使用が必要であり、したがって、高いエネルギー集約型プロセスとなる。さらに、オーブンに基づく熱剥離単独では、通常、ほとんど黒鉛ワームが形成され、そのため分離したグラフェンシートを製造するためにさらなる機械的剪断を行う必要がある。超薄グラフェンシート(ほとんどが単層又は数層)のよりエネルギー効率的で効果的な製造方法の必要性が存在する。
【0010】
方法2:純粋なナノグラフェンプレートレットの直接形成
2002年に、本発明者らの研究チームは、ポリマーまたはピッチ前駆体から得られた部分的に炭化または黒鉛化されたポリマー炭素から単層および多層のグラフェンシートを単離することに成功した[[B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。
【0011】
Mackら[“Chemical manufacture of nanostructured materials”米国特許第6,872,330号明細書(2005年3月29日)]は、黒鉛にカリウム溶融物をインターカレートさせるステップと、結果としてKがインターカレートされた黒鉛をアルコールと接触させて、NGPを含む剥離黒鉛を乱暴に生成するステップとを含む方法を開発した。カリウムおよびナトリウムなどの純アルカリ金属は水分に対して非常に敏感であり、爆発の危険が生じるので、この方法は、真空中または非常に乾燥したグローブボックス環境中で注意深く行う必要がある。この方法は、NGPの大量生産には適していない。
【0012】
方法3:無機結晶表面上でのナノグラフェンシートのエピタキシャル成長および化学蒸着
基板上の超薄グラフェンシートの小規模製造は、熱分解に基づくエピタキシャル成長およびレーザー脱離イオン化技術によって行うことができる。わずか1層または数層の原子層を有する黒鉛のエピタキシャル膜は、それらの特有の特性およびデバイス基板としての大きな可能性のため、技術的および化学的に重要である。しかし、これらの方法は、複合材料およびエネルギー貯蔵用途の単離されたグラフェンシートの大量生産には適していない。
【0013】
方法4:ボトムアップ方法(小分子からのグラフェンの合成)
Yangら[“Two-dimensional Graphene Nano-ribbons,”J.Am.Chem.Soc.130(2008)4216-17]は、1,4-ジヨード-2,3,5,6-テトラフェニル-ベンゼンと4-ブロモフェニルボロン酸との鈴木-宮浦カップリングから開始する方法を用いて最長12nmの長さのナノグラフェンシートを合成した。結果として得られるヘキサフェニルベンゼン誘導体をさらに誘導体化させ環を縮合させて小さいグラフェンシートを得た。これは、これまでは非常に小さいグラフェンシートが生成されている遅いプロセスである。
【0014】
剥離黒鉛(黒鉛ワーム)、黒鉛ナノプレートレット(又は膨張黒鉛)、及びグラフェンの製造を支援するためにマイクロ波が使用されている。例えば、L.Drzalらは、剥離黒鉛ナノプレートレットを製造するための加熱手段としてマイクロ波を使用している[“Expanded Graphite and Products Produced Therefrom”、米国特許出願公開第20040127621号明細書(2004年7月1日)及び米国特許出願公開第20060148965号明細書(2006年7月6日)]。この従来技術の方法では、強酸及び酸化剤を用いて、天然黒鉛のインターカレーション及び酸化が行われている。インターカレーション/酸化処理の後、天然黒鉛は洗浄され、乾燥され、液体からの取り出しが行われる。この乾燥された粉末はGIC又はGOであり、これに対して次にマイクロ波加熱を行うことで剥離黒鉛ナノプレートレットが得られるが、薄いグラフェンシート(すなわち単層又は数層グラフェン)は得られない。さらに、典型的には、一部のGICは膨張も剥離も起こらず、従って、この方法には、剥離していない黒鉛粒子から剥離プレートレットを分離(単離)するための追加のステップが必要となる。
【0015】
Zhuらは、乾燥させた酸化黒鉛粉末の剥離及び還元の両方の支援にマイクロ波を使用している[Yanwu Zhu,et al.“Microwave assisted exfoliation and reduction of graphite oxide for ultracapacitors,”Carbon,Vol.48,Issue 7,June 2010,Pages 2118-2122]。天然黒鉛を酸化させ、インターカレートさせることで、GO/GICが生成される。この方法は、Drzalの方法と同じ欠点がある。生成物は、基本的にマイクロ波で剥離された酸化黒鉛ワームであり、完全に分離/単離されたグラフェンシートではない。
【0016】
同じ問題はKhavrelらによる研究とも関連している[P.A.Khavrel,et al.,“Fluorinated microwave exfoliated graphite oxide:structural features and double layer capacitance,”Fullerenes,Nanotubes and Carbon Nanostructures,Volume 24,2016-Issue 4]。天然黒鉛を酸化させることで酸化黒鉛(GO)が得られ、次にこれを剥離することで、酸化黒鉛ワーム及びプレートレットが得られる。剥離されたGOプレートレットを次にフッ素化させると、フッ素化された酸化黒鉛になる。
【0017】
Chenらは、マイクロ波と化学的還元剤との組合せを使用して、溶液状態の酸化グラフェンを還元している[Wufeng Chen,Lifeng Yan,Prakriti R.Bangal,“Preparation of graphene by the rapid and mild thermal reduction of graphene oxide induced by microwaves,”Carbon,Volume 48,Issue 4,April 2010,Pages 1146-1152]。黒鉛の酸化を用いて酸化黒鉛を生成し、次に酸化黒鉛の溶液超音波処理を用いて、個別の酸化グラフェンシートの剥離及び分離を行うことによって、酸化グラフェンシートがあらかじめ生成されている。N,N-ジメチルアセトアミド及び水(DMAc/H2O)の混合溶液である液体溶液中の既に製造された酸化グラフェンシートの還元を促進するためにマイクロ波が使用される。
【0018】
同様に、Voiryら[Damien Voiry,et al.,“High-quality graphene via microwave reduction of solution-exfoliated graphene oxide,”Science,23 Sep 2016:Vol.353,Issue 6306,pp.1413-1416]は、天然黒鉛から酸化黒鉛粉末を調製している。次にこの酸化黒鉛を液体中に分散させて溶液(例えばGO+水)を形成し、超音波を用いて剥離させて、酸化グラフェンシートを生成している。次に、この酸化グラフェンシートを乾燥させ、マイクロ波オーブンを用いた熱的還元によって、還元酸化グラフェン(RGO)になる。マイクロ波は酸化黒鉛の剥離に使用されるのではなく、その代わりに、マイクロ波は、超音波で剥離され既に乾燥された酸化グラフェンシートの熱的還元に使用されていることに留意されたい。
【0019】
本発明者らの研究グループは、酸化されずインターカレートされていない黒鉛からグラフェンシートを直接製造するために、マイクロ波とある強酸との組合せを使用している[A.Zhamu and Bor Z.Jang,“One-Step Production of Graphene Materials”、米国特許出願第13/317,100号明細書(10/11/2011);現在は米国特許第8,747,623号明細書(06/10/2014)]。数年後、Matsumotoらは、マイクロ波と特定のグループのオリゴマーイオン液体との組合せを使用して、そのようなイオン液体中に分散させた天然黒鉛からグラフェンを直接製造している[Michio Matsumoto,Yusuke Saito,Chiyoung Park,Takanori Fukushima,& Takuzo Aida,“Ultrahigh-throughput exfoliation of graphite into pristine ‘single-layer’ graphene using microwaves and molecularly engineered ionic liquids,”Nature Chemistry,7(2015)730-735]。このグループのイオン液体は、製造が困難で、非常に高価であり、大規模生産には役立たない。
【0020】
したがって、短縮されたプロセス時間及びより少ないエネルギー消費を必要とするグラフェン製造方法が緊急に必要とされている。この方法は、超薄グラフェンシート(ほとんどが単層グラフェン、又は単層及び数層グラフェンシートの混合物)が製造可能となる必要があり、剥離していない黒鉛粉末からグラフェンシートを分離する追加のステップが不要となる必要がある。
【発明の概要】
【0021】
本発明は、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素からグラフェンを製造する方法を提供する。この方法は、(a)マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の粉末を非金属固体基材表面上に提供し供給するステップであって、粉末が、実質的に、第1のリボン幅及び第1のリボン厚さを有するリボン状であるステップと;(b)あるマイクロ波照射幅及びあるマイクロ波侵入深さを有するマイクロ波出力ゾーンを含むマイクロ波照射チャンバー中に上記リボン状粉末を移動させるステップであって、マイクロ波照射幅が第1のリボン幅以上であり、マイクロ波侵入深さが第1のリボン厚さ以上であり、それによって、リボン状粉末全体が、十分な時間の長さで十分な出力レベルのマイクロ波出力を受け取って吸収し、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素が剥離し分離して、第1のリボン幅を超える第2の幅、及び第1のリボン厚さを超える第2の厚さを有する膨張体積を占めるグラフェンシートとなるステップと;(c)グラフェンシートをマイクロ波チャンバーの外まで移動させ、グラフェンシートを冷却し、グラフェンシートを(例えば収集容器中に)収集するステップとを含む。
【0022】
本発明のある実施形態では、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素は、インターカレートされた天然黒鉛、酸化された天然黒鉛、フッ素化された天然黒鉛、インターカレートされた合成黒鉛、酸化された合成黒鉛、フッ素化された合成黒鉛、インターカレートされた非晶質黒鉛、酸化された非晶質黒鉛、フッ素化された非晶質黒鉛、インターカレートされた高配向熱分解黒鉛(HOPG)、酸化されたHOPG、フッ素化されたHOPG、インターカレートされたメソカーボンマイクロビーズ、酸化されたメソカーボンマイクロビーズ、フッ素化されたメソフェーズカーボン、インターカレートされたニードルコークス、酸化されたニードルコークス、フッ素化されたニードルコークス、インターカレートされた炭素若しくは黒鉛の繊維、酸化された炭素若しくは黒鉛の繊維、フッ素化された炭素若しくは黒鉛の繊維、インターカレートされたカーボンナノファイバー、酸化されたカーボンナノファイバー、フッ素化されたカーボンナノファイバー、窒素化黒鉛、塩素化黒鉛、臭素化黒鉛、ヨウ素化黒鉛、又はそれらの組合せから選択される。出発黒鉛又は黒鉛状炭素材料は、好ましくは長さが50μm未満、より好ましくは20μm未満、さらに好ましくは10μm未満、最も好ましくは3μm未満である。
【0023】
ある実施形態では、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の粉末は、水、極性有機分子、無機誘電体材料、又はそれらの組合せから選択される、0.1重量%~20重量%(好ましくは1重量%~10重量%)の誘電加熱促進剤をさらに含む。上記粉末は、実質的に固体状態に維持される必要がある。黒鉛材料中に最大20重量%の水を含んでさえも、黒鉛粉末は依然として固体である。
【0024】
ある好ましい実施形態では、マイクロ波出力ゾーン中のマイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の滞留時間は、10秒~5分、好ましくは30秒~3分である。
【0025】
好ましくは、第1のリボン幅は1mm~10cmの範囲から選択され、第1のリボン厚さは10nm~3.8cmである。より好ましくは、第1のリボン幅は5mm~5cmの範囲から選択され、第1のリボン厚さは1μm~2.5cmである。最も好ましくは、第1のリボン幅は1cm~3cmの範囲から選択され、第1のリボン厚さは0.1mm~1.0cmである。
【0026】
本発明者らは、マイクロ波照射チャンバー中に供給される粉末が、高出力マイクロ波が及ぶ(高出力マイクロ波が到達可能な)幅の中に閉じ込められ、マイクロ波が粉末試料の厚さを完全に通過する場合、その粉末は、グラフェン面の大部分が完全に剥離し互いに分離するような最大限の程度まで剥離しうることを見出した。結果として得られる生成物は、多量の実質的に完全に分離したグラフェンシートであり、インターカレートされた黒鉛又は酸化黒鉛を剥離する従来技術の方法において一般に観察される剥離した黒鉛ワームとは対照的である。元の粉末(第1の幅w、及び第1の厚さtを有する)は、元の粉末の体積の300~1000倍になりうる体積(第2の幅及び第2の厚さを有する)まで大幅に膨張する。第2の幅の第1の幅に対する比は500の大きさになることができ、より典型的には3~300、さらにより典型的には10~100になることができる。粉末の厚さも顕著に増加する。結果として、製造されるグラフェンシートは、典型的には少なくとも80%の単層グラフェンシートを含み、より典型的には90%の単層グラフェンを含む。残りのグラフェンシートは、2~10層の六角形炭素原子面を有する数層グラフェンが大部分である。
【0027】
リボン状の粉末は最良の実施の形態を説明するために単なる一例であることに留意されたい。粉末をリボン状に供給する必要はなく、マイクロ波照射ゾーン中に供給される粉末の体積を完全に取り囲むマイクロ波有効体積に、マイクロ波出力が実質的に「集中する」又は限定されるのであれば、あらゆる形状及び寸法であってよい。ある幅及びある厚さを有するほぼ長方形の体積となるように好都合に設計することができるこのマイクロ波有効体積の内側に実質的にすべての粉末材料が存在するのであれば、マイクロ波照射ゾーン中に供給される粉末はあらゆる形状又は寸法であってよい。最大粉末試料幅がマイクロ波有効体積の幅未満となり、最大粉末試料厚さが装置のマイクロ波侵入深さ未満となるように、コンベアによって、粉末はマイクロ波照射チャンバー中、次に外に移動する。同じマイクロ波周波数(例えば2.45GHz又は915MHz)の場合、この侵入深さは膨張性黒鉛材料ごとに異なるが、典型的には1cm~4cmである。
【0028】
したがって、本発明は、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素からグラフェンを製造する方法も提供する。この方法は:(a)ある体積のマイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素粉末を非金属固体基材表面に提供し供給するステップであって、粉末体積が、ある最大幅及びある最大厚さを有するステップと;(b)あるマイクロ波照射幅及びあるマイクロ波侵入深さを有するマイクロ波出力ゾーンを含むマイクロ波照射チャンバー中まで粉末を移動させるステップであって、マイクロ波照射幅が粉末体積の最大幅以上であり、マイクロ波侵入深さが粉末体積の最大厚さ以上であり、そのため粉末体積全体が、十分な時間の長さで十分な出力レベルのマイクロ波出力を受け取って吸収し、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素が剥離し分離して、最大幅を超える第2の幅、及び最大厚さを超える第2の厚さを有する膨張体積を占めるグラフェンシートとなるステップと;(c)グラフェンシートをマイクロ波チャンバーの外まで移動させ、グラフェンシートを冷却し、グラフェンシートを(例えば収集容器中に)収集するステップとを含む。
【0029】
出発黒鉛又は黒鉛状炭素材料の種類によるが、本発明の方法を用いて製造されるグラフェンシートは、純粋なグラフェン、5重量%未満の酸素含有量の酸化グラフェン、フッ化グラフェン、5重量%未満のフッ素を有するフッ化グラフェン、95重量%以上の炭素含有量のグラフェン、又は官能化グラフェンを含むことができる。
【0030】
マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の粉末は、連続的又は断続的な方法で、マイクロ波照射チャンバー中に供給し移動させることができる。
【0031】
場合により、グラフェンシートは、グラフェンシートのサイズを小さくして製造するために機械的剪断処理を行うことができる。機械的剪断処理は、エアミル粉砕、エアジェットミル粉砕、ボールミル粉砕、回転ブレードによる機械的剪断、超音波処理、キャビテーション、又はそれらの組合せの使用を含むことができる。
【0032】
本発明は、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素からグラフェンシートを製造するための集束マイクロ波に基づくシステムも提供する。このシステムは:(A)マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の実質的にリボン状の粉末を固体基材表面上に提供し供給することが可能な、固体粉末を供給し案内する手段であって、リボン状粉末が第1のリボン幅及び第1のリボン厚さを有する手段と;(B)粉末を供給し案内する装置に関連して動作し、非金属固体基材を支持し、又は含み、リボン状粉末を少なくとも1つのマイクロ波照射チャンバー(複数のチャンバーを含むことができる)中に移動させるコンベア装置と;(C)マイクロ波照射チャンバー中にマイクロ波出力ゾーンを形成するマイクロ波出力供給及び出力集束サブシステムであって、マイクロ波出力ゾーンが、第1のリボン幅以上のマイクロ波照射幅、及び第1のリボン厚さ以上のマイクロ波侵入深さを有し、それによって、リボン状粉末全体が、マイクロ波出力を受け取って吸収して、マイクロ波加熱により活性化される粉末の剥離及び分離によってグラフェンシートを形成するサブシステムと;(D)グラフェンシートを収集するための収集装置とを含む。
【0033】
固体粉末を供給し案内する手段は、振動フィーダー、重量式フィーダー、容量式オーガー型フィーダー、インジェクター、圧縮空気支援フィーダー、真空支援フィーダー、重力フィーダー、ドラムフィーダー、ホイールフィーダー、スライド、シュート、コンベアフィーダー、又はそれらの組合せから選択される供給装置を含むことができる。好ましくは、固体粉末を供給し案内する手段は、第1のリボン幅を制御するための案内装置、及び粉末の第1の厚さを制御するためのワイパーを含む。
【0034】
集束マイクロ波に基づくシステムにおいて、マイクロ波出力供給及び出力集束サブシステムは、複数のマイクロ波照射チャンバーを含むことができる。マイクロ波出力供給及び出力集束サブシステムは、200W~200kW、好ましくは400W~100kW、より好ましくは700W~50kWのマイクロ波出力を供給することができる。
【0035】
ある実施形態では、集束マイクロ波に基づくシステムは、保護ガス雰囲気を前記マイクロ波照射チャンバー中に導入する手段をさらに含むことができ、保護ガス雰囲気は、希ガス、窒素ガス、水素ガス、又はそれらの組合せを含む。
【0036】
集束マイクロ波に基づくシステムは、マイクロ波加熱により活性化される粉末剥離及び分離の後にグラフェンシートが冷却される冷却ゾーンをさらに含むことができる。
【0037】
ある実施形態では、集束マイクロ波に基づくシステムは、排気ガスを排出できる手段、又は排気ガスを捕捉するためのスクラバー手段をさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)又は酸化黒鉛の製造の最も一般的に使用される従来技術の方法を示すフローチャートである。
図2A図2Aは、マイクロ波膨張性黒鉛材料からグラフェンシートを製造する方法の概略図である。
図2B図2Bは、初期幅(第1の幅)を有する膨張性黒鉛材料のリボン状粉末の概略図であり、これは、初期粉末幅よりもはるかに大きい膨張粉末幅を有するグラフェンシートの粉末まで膨張し剥離する。
図3図3は、グラフェン材料を製造するための集束マイクロ波出力に基づく装置の概略図である。
図4図4は、本発明の方法によって製造された代表的なグラフェンシートのTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
炭素材料は、実質的に非晶質の構造(ガラス状炭素)、高度に組織化された結晶(黒鉛)、または種々の比率およびサイズの黒鉛微結晶および欠陥が非晶質マトリックス中に分散することを特徴とするあらゆる種類の中間構造を想定することができる。典型的には、黒鉛微結晶は、底面に対して垂直の方向であるc軸方向でファンデルワールス力によって互いに結合する多数のグラフェンシートまたは六角形炭素原子面から構成される。これらの黒鉛微結晶は、典型的にはミクロンサイズまたはナノメートルサイズである。黒鉛微結晶は、黒鉛フレーク、炭素/黒鉛繊維セグメント、炭素/黒鉛ウィスカー、炭素/黒鉛ナノファイバー、無秩序炭素(ソフトカーボン及びハードカーボンなど)などであってよい黒鉛又は黒鉛状炭素の粒子中の結晶の欠陥又は非晶質相の中に分散し、又はそれらと連結している。
【0040】
本発明の好ましい特定の一実施形態は、グラフェン面の1つのシート、又は互いに積層され結合したグラフェン面の複数のシート(典型的には、平均で、多層プレートレット1つ当たり最大5つのシート)から実質的に構成されるグラフェン材料(ナノグラフェンプレートレット、NGPとも呼ばれる)の製造方法である。グラフェンシートとも呼ばれるそれぞれのグラフェン面は、炭素原子の2次元六角形構造を含む。各プレートレットは、グラフェン面と平行の長さ及び幅を有し、黒鉛面と直交する厚さを有する。定義によると、NGPの厚さは100ナノメートル(nm)以下であり、1つのシートのNGPは0.34nmの薄さである。しかし、本発明による方法では、典型的には1~10層を含み、すなわち0.34nm~3.4nmのグラフェンシートが製造される。多くの場合、製造されるグラフェンシートは、ほとんどが単層グラフェンである。NGPの長さ及び幅は典型的には200nm~20μmの間である。
【0041】
図1中に示されるように、グラフェン製造のための従来技術の化学的方法は、典型的には、濃硫酸、硝酸、及び過マンガン酸カリウム若しくは過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤の混合物中に天然黒鉛粉末を浸漬するステップを含む。典型的には、この化学的インターカレーション/酸化反応を完了するために5~120時間を要する。反応完了後、スラリーに対して、水でのすすぎ及び洗浄のステップが繰り返され、次に水を除去するために乾燥処理が行われる。乾燥された粉末は、一般に黒鉛インターカレーション化合物(GIC)又は酸化黒鉛(GO)と呼ばれる。このGO/GICに対して次に熱衝撃処理が行われ、最も典型的にはこれは、典型的には800~1200℃(より典型的には950~1050℃)の温度にあらかじめ設定された炉にGIC/GOを曝露することによって実施される。この炉に基づく熱衝撃作業は、エネルギー効率的ではなく、典型的には剥離黒鉛ワームが形成され(分離/単離されたグラフェンシートを製造するためには、さらなる機械的剪断又は超音波処理を必要とする)、超薄グラフェンシート(単層又は数層)の形成には容易には適用されない。
【0042】
ある実施形態では、説明的な例として図2(A)及び図2(B)を参照すると、本発明による方法は:
(a)マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の粉末(18)を非金属固体基材表面(例えばコンベアベルト(12)によって支持される、又はその中に含まれる)の上に供給するために粉末供給装置(16)を使用するステップであって、粉末が、第1のリボン幅、第1のリボン厚さ、及びある長さ(装置が粉末の供給、及び粉末のマイクロ波照射チャンバー中への移動を続けながら、剥離した粉末はマイクロ波加熱ゾーンから外に連続的に移動するので、このリボンの長さは「動的」である)を有する実質的にリボン状であるステップと;
(b)あるマイクロ波照射幅及びあるマイクロ波侵入深さを有するマイクロ波出力ゾーン(例えば集束マイクロ波案内及び出力閉じ込めサブシステム24の下)を含むマイクロ波照射チャンバー(粉末処理ゾーン20の第1の部分)の中にリボン状粉末を移動させるステップであって、マイクロ波照射幅が第1のリボン幅以上であり、マイクロ波侵入深さが第1のリボン厚さ以上であり、それによって、リボン状粉末全体が、十分な時間の長さで十分な出力レベルのマイクロ波出力を受け取って吸収し、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素(粉末18)を剥離し分離して、第1のリボン幅を超える第2の幅、及び第1のリボン厚さを超える第2の厚さを有する膨張体積を占めるグラフェンシート(28)となるステップと;
(c)グラフェンシートをマイクロ波チャンバーの外まで移動させ、グラフェンシートを(例えば冷却ゾーン26の中で)冷却し、収集装置(例えば真空支援収集容器32)を用いて、冷却されたグラフェンシート(30)を収集するステップと、
を含む。移動コンベア(12)は、1組のローラー(14a及び14b)によって駆動される。2つのローラーの中の少なくとも1つは、モーターによって動力が供給される。
【0043】
マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素は、インターカレートされた天然黒鉛、酸化された天然黒鉛、フッ素化された天然黒鉛、インターカレートされた合成黒鉛、酸化された合成黒鉛、フッ素化された合成黒鉛、インターカレートされた非晶質黒鉛、酸化された非晶質黒鉛、フッ素化された非晶質黒鉛、インターカレートされた高配向熱分解黒鉛(HOPG)、酸化されたHOPG、フッ素化されたHOPG、インターカレートされたメソカーボンマイクロビーズ、酸化されたメソカーボンマイクロビーズ、フッ素化されたメソフェーズカーボン、インターカレートされたニードルコークス、酸化されたニードルコークス、フッ素化されたニードルコークス、インターカレートされた炭素若しくは黒鉛の繊維、酸化された炭素若しくは黒鉛の繊維、フッ素化された炭素若しくは黒鉛の繊維、インターカレートされたカーボンナノファイバー、酸化されたカーボンナノファイバー、フッ素化されたカーボンナノファイバー、窒素化黒鉛、別のハロゲン化黒鉛、又はそれらの組合せから選択することができる。出発黒鉛又は黒鉛状炭素材料は、好ましくは長さが50μm未満、より好ましくは20μm未満、さらに好ましくは10μm未満、最も好ましくは3μm未満である。
【0044】
このような多くの異なる種類の黒鉛材料からの超薄グラフェンシート(ほとんどが単層グラフェン、又は単層グラフェンと数層グラフェンとの混合物)の製造において、このように汎用性があり効率的である従来技術の方法は存在しない。
【0045】
ある実施形態では、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の粉末は、水、極性有機分子(例えばアセトン、アルコール、パリレンなど)、無機誘電体材料(例えば種々の金属酸化物、窒化物、ホウ化物、又は炭化物;塩、例えばNaHPO、ゼオライトなど)、又はそれらの組合せから選択される、0.1重量%~20重量%(好ましくは1重量%~10重量%)の誘電加熱促進剤をさらに含む。粉末は、実質的に固体状態に維持される必要がある。黒鉛材料中に最大20重量%の水を含んでさえも、黒鉛粉末は依然として固体である。
【0046】
本発明の別の一実施形態は、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素からグラフェンシートを製造するための集束マイクロ波に基づくシステム又は装置である。説明的な例として図3を参照すると、このシステムは:
(A)マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素の実質的にリボン状の粉末を(コンベアベルト58の)非金属固体基材表面上に提供し供給することが可能な、固体粉末を供給し案内する手段(例えば真空支援フィーダー52及び膨張性材料の貯蔵タンク50)において、リボン状粉末が第1のリボン幅及び第1のリボン厚さを有する手段と;
(B)粉末を供給し案内する装置に関連して動作し、非金属固体基材を支持し、又は含み、リボン状粉末を少なくとも1つのマイクロ波照射チャンバー(複数のチャンバーを含むことができる)中に移動させるコンベア装置58と、;
(C)マイクロ波照射チャンバー中にマイクロ波出力ゾーン54を形成するマイクロ波出力供給及び出力集束サブシステム(例えばマイクロ波発生装置56及びトランスミッター55を含む)において、マイクロ波出力ゾーンが、第1のリボン幅以上のマイクロ波照射幅、及び第1のリボン厚さ以上のマイクロ波侵入深さを有し、それによって、リボン状粉末全体が、マイクロ波出力を受け取って吸収して、マイクロ波加熱により活性化される粉末の剥離及び分離によってグラフェンシートを形成するサブシステムと;
(D)グラフェンシートを収集するための収集装置66と、
を含む。
【0047】
固体粉末を供給し案内する手段は、振動フィーダー、重量式フィーダー、容量式オーガー型フィーダー、インジェクター、圧縮空気支援フィーダー、真空支援フィーダー、重力フィーダー、ドラムフィーダー、ホイールフィーダー、スライド、シュート、コンベアフィーダー、又はそれらの組合せから選択される供給装置を含むことができる。好ましくは、固体粉末を供給し案内する手段は、第1のリボン幅を制御するための案内装置、及び粉末の第1の厚さを制御するためのワイパーを含む。
【0048】
図3の左端には、真空支援フィーダー52が存在し、これは貯蔵タンク50から膨張性黒鉛又は黒鉛状炭素の粉末を抜き取り、それを連続的又は断続的にコンベアベルト58の非金属表面上に供給する。マイクロ波出力ゾーン54の入口付近には保護ガス入口60が配置される。このガス入口によって、保護ガス(不活性ガス、N、Hなど)がマイクロ波出力ゾーン(又は粉末加熱ゾーン)中に導入される。
【0049】
最大出力をほぼ長方形のゾーンに閉じ込める、又は限定することができるマイクロ波発生装置56及びトランスミッター55によって、マイクロ波出力ゾーンが有効となる、又は形成される。この長方形のマイクロ波出力ゾーンの深さは、膨張性黒鉛又は黒鉛状炭素材料の場合で典型的には1cm~4cmである最大マイクロ波侵入深さと同じかわずかに大きくなるべきである。グラフェン面の効果的な剥離及び分離を引き起こすのに十分な曝露時間(又は入口点から出口点までの十分な滞留時間)で粉末材料がマイクロ波出力に曝露される速度で、膨張性黒鉛又は黒鉛状炭素の粉末がマイクロ波出力ゾーンの中及び外に移送される。製造されたグラフェンシートは次にマイクロ波出力ゾーン(又は加熱ゾーン)に隣接する冷却ゾーン62中に移動し、次に収集装置66によって収集される。排気ガス出口64、及びガス種を捕捉するためのスクラバーシステムが存在することができる。
【0050】
コンベアの非金属基材表面上に供給された粉末は、リボン状又はあらゆる特定の形状を有する必要はないことに留意されたい。しかし、粉末体積全体が所望のマイクロ波出力に曝露することを保証するため、この形状の最大幅が有効なマイクロ波出力ゾーンの最大幅を超えるべきではない。また、粉末の形状は種々の厚さを有することができるが、特定のマイクロ波周波数の特定の黒鉛材料中への最大侵入深さを超える厚さを有するべきではない。
【0051】
したがって、本発明は、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素からグラフェンを製造する方法も提供する。この方法は:(a)ある体積のマイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素粉末を非金属固体基材表面上に提供し供給するステップであって、粉末体積が、ある最大幅及びある最大厚さを有するステップと;(b)あるマイクロ波照射幅及びあるマイクロ波侵入深さを有するマイクロ波出力ゾーンを含むマイクロ波照射チャンバー中まで粉末を移動させるステップであって、マイクロ波照射幅が粉末体積の最大幅以上であり、マイクロ波侵入深さが粉末体積の最大厚さ以上であり、そのため粉末体積全体が、十分な時間の長さで十分な出力レベルのマイクロ波出力を受け取って吸収し、マイクロ波膨張性の未剥離の黒鉛又は黒鉛状炭素が剥離し分離して、最大幅を超える第2の幅、及び最大厚さを超える第2の厚さを有する膨張体積を占めるグラフェンシートとなるステップと;(c)グラフェンシートをマイクロ波チャンバーの外まで移動させ、グラフェンシートを冷却し、グラフェンシートを(例えば収集容器中に)収集するステップとを含む。
【0052】
本発明の実施に使用できるマイクロ波の周波数又は無線周波数の照射は、家庭用マイクロ波オーブンで使用される2.45GHz又は0.915GHzに限定される必要はない。好ましくは、周波数は0.9~20GHzの間、より好ましくは2~10GHzの間である。
【0053】
出発黒鉛材料は、天然黒鉛、非晶質黒鉛(典型的には0.1~1.0μmのマイクロスケールの黒鉛微結晶を含む黒鉛材料)、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛化メソフェーズカーボン、ニードルコークス、炭素繊維、黒鉛繊維、カーボンナノファイバー、黒鉛ナノファイバー、フッ化黒鉛、化学修飾黒鉛、膨張黒鉛、又はそれらの組合せのインターカレート、酸化、ハロゲン化(フッ素化、塩素化、臭素化、又はヨウ素化を含む)、又は窒素化が行われたバージョンから選択することができる。
【0054】
酸化黒鉛(GO)は、出発黒鉛又は黒鉛状炭素(例えば合成黒鉛粉末、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンナノファイバー、多層カーボンナノチューブ、黒鉛繊維、ニードルコークスなど)の粉末又はフィラメントを、所望の温度における反応容器中の酸化性液体媒体(例えば硫酸、硝酸、及び過マンガン酸カリウムの混合物)中に、ある時間(出発材料の性質及び使用される酸化剤の種類によって決定されるが、典型的には0.5~96時間)浸漬することによって得ることができる。好ましくは、酸化は、黒鉛又は黒鉛状炭素材料中の酸素含有量が好ましくは20重量%以上となる程度まで行われる。酸素含有量は、より好ましくは30重量%を超え、最も好ましくは40重量%を超える。これに続いて、繰り返し洗浄が行われ、次に乾燥させることで、酸化黒鉛又は酸化された黒鉛状炭素が得られる。得られた酸化黒鉛は次に、希望するなら、酸化黒鉛中の-OH基を別の化学基(例えば-Br、NHなど)で置換することによって、種々の官能化黒鉛材料に変換することができる。
【0055】
ハロゲン化グラフェン材料のグループの一例として、フッ素化グラフェン又はフッ化グラフェンが本明細書において使用される。フッ素化グラフェンは、マイクロ波によって誘発されるフッ化黒鉛の剥離によって得ることができる。高温におけるFと黒鉛との相互作用によって、共有結合性のフッ化黒鉛(CF)又は(CF)が得られ、低温では黒鉛インターカレーション化合物(GIC)のCF(2≦x≦24)が形成される。(CF)中、炭素原子はsp3混成軌道であり、したがってフルオロカーボン層は、トランス結合したいす形シクロヘキサンからなる波形である。(CF)中、C原子の半分のみがフッ素化され、隣接する炭素シートのそれぞれの組は共有C-C結合によって互いに結合する。フッ素化反応の系統的な研究によって、結果として得られるF/C比は、フッ素化温度、フッ素化ガス中のフッ素の分圧、並びに黒鉛化度、粒度、及び比表面積などの黒鉛前駆体の物理的特性に大きく依存することが示されている。入手可能な文献のほとんどは、場合によりフッ化物の存在下で、Fガスを用いたフッ素化に関与しているが、フッ素(F)に加えて、別のフッ素化剤を使用することができる。
【0056】
窒素化グラフェンは、熱水方法によって、例えば酸化黒鉛及びアンモニアをオートクレーブ中に密閉し、次に温度を150~250℃まで上昇させることによって、より低い温度で形成することができる。材料中の窒素含有量又は酸素と窒素との総量は、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、最も好ましくは40%を超える。
【0057】
硫酸などの酸は、GICを得るためにグラフェン面間の空間中に侵入可能な唯一の種類のインターカレーティング剤(インターカラント)ではない。ステージ1、ステージ2、ステージ3などまで黒鉛をインターカレートするために、アルカリ金属(Li、K、Na、Cs、及びそれらの合金又は共晶)、金属塩(例えば金属三塩化物)、並びに多くの他の有機若しくは無機種(例えばテトラブチルアンモニウム)などの多くの別の種類のインターカレーティング剤を使用することができる。ステージnは、n個のグラフェン面ごとに1つのインターカラント層があることを示す。例えば、ステージ1のカリウムがインターカレートされたGICは、グラフェン面1つごとに1つのK層が存在することを意味し;或いは、2つの隣接するインターカレーティング剤種の面(「A」と記載される)の間に1層のグラフェン(ここでは「G」と記載される)をG/A/G/A/G/A/Gの配列で見出すことができ、ここでGはグラフェン面であり、Aはインターカレーティング剤の面である。ステージ2のGICは、GG/A/GG/A/GG/A/GG...の配列を有し、ステージ3のGICは、GGG/A/GGG/A/GGG...の配列を有する、などとなる。これらのGICは、次に剥離のためのマイクロ波出力ゾーン中に供給することができる。超薄グラフェンシートを製造するためには、GICは好ましくはステージ1又はステージ2の化合物のみを含み、最も好ましくはステージ1の化合物のみを含む。
【0058】
非常に顕著なことには、必要なマイクロ波曝露時間は5分未満、多くの場合3分未満、又はさらには1分未満であってよい。マイクロ波曝露ステップに続いて、得られた剥離グラフェンシート材料に対して機械的剪断処理のステップを行って、より小さい(より短い又はより細い)グラフェンシートを得ることができる。機械的剪断処理は、エアミル粉砕、エアジェットミル粉砕、ボールミル粉砕、回転ブレードによる機械的剪断、超音波処理、キャビテーション、又はそれらの組合せの使用を含む。
【0059】
本発明による方法及び関連するマイクロ波装置によって単層グラフェンシートの製造が可能となる。多くの例では、製造されるグラフェン材料は、少なくとも80%又は90%の単層グラフェンシートを含む(残りのグラフェンシートは数層又は10層以下である)。幾つかの試料では、グラフェンシートはほとんどが単層である。製造されたグラフェンは、純粋なグラフェン、5重量%未満の酸素含有量の酸化グラフェン、フッ化グラフェン、5重量%未満のフッ素を有する酸化グラフェン、95重量%以上の炭素含有量のグラフェン、又は官能化グラフェンを含むことができる。
【0060】
以下の実施例は、本発明の実施の最良の形態を提供する役割を果たすものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例
【0061】
実施例1:改良Hummers法を用いた酸化黒鉛の調製
Hummersの方法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]により硫酸、硝酸ナトリウム、及び過マンガン酸カリウムを用いて天然黒鉛フレークを酸化させることによって酸化黒鉛を調製した。この例では、1グラムの黒鉛当たりに、本発明者らは、22mlの濃硫酸、2.8グラムの過マンガン酸カリウム、及び0.5グラムの硝酸ナトリウムの混合物を使用した。黒鉛フレークを混合物溶液中に浸漬し、反応時間は35℃において約5時間であった。過熱及びその他の安全性の問題を回避するために、過マンガン酸カリウムは、十分制御された方法で硫酸に徐々に加えるべきであることに注意することが重要である。反応終了後、試料は次に、濾液のpHが約5にまるまで脱イオン水で繰り返し洗浄した。乾燥させた生成物は、硫酸がインターカレートされた黒鉛(GIC)又は酸化黒鉛である。
【0062】
次にGIC粒子を2.45GHzのマイクロ波出力(25kW)に45秒間曝露して、ほとんどが単層グラフェンである分離/単離グラフェンシートを得た。マイクロ波出力ゾーン中に移動させる前のリボン状粉末は幅0.85cm及び厚さ0.75cmであった。マイクロ波に45秒間曝露した後、リボンは幅62cm及び厚さ4.6cmまで膨張した。図4は製造した代表的なグラフェンシートのTEM画像を示している。
【0063】
実施例2:ニードルコークスからの単離グラフェンシートの製造
電気化学的インターカレーション手順を用いて、市販のニードルコークス(Jinzhou Petrochemical Co.)を使用して、インターカレートされた黒鉛状炭素を調製した。ハードカーボンスキンを除去するためにフィラメントを濃硫酸中に0.5時間浸漬することによって、表面処理されたニードルコークス(針状コークスフィラメント)の試料を調製した。平均長さが35μmのニードルコークスフィラメントをアノード材料として使用し、1,000mLの液体溶液電解質(典型的には有機溶媒中1Mのアルカリ金属塩)を使用した。エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)との混合物を溶媒として使用した。この実施例で使用したアルカリ金属塩は、別々に過塩素酸リチウム(LiClO)及び過塩素酸ナトリウム(NaClO)を含んだ。
【0064】
アノード支持要素はステンレス鋼板であり、カソードは、リチウムまたはナトリウムを含浸させた直径約4cmおよび厚さ0.2cmの黒鉛発泡体である。カソード板をニードルコークスフィラメントから分離し、これらの粒子を下のアノード支持要素に押し付けることで、ニードルコークスフィラメントがアノード支持要素と電気的に接触してアノードとして機能することを確実にするため、ガラス繊維布のセパレータを使用した。電極、電解質、およびセパレータは、電気化学セルを形成するためにブフナー型漏斗内に収容される。インターカレート(電解質中に含まれる)が、ニードルコークスを飽和させ、セルを上部から底部まで移動することができるようにするため、アノード支持要素、カソード、およびセパレータは多孔質である。
【0065】
ニードルコークスフィラメントに対して電気化学的充填処理を行った(すなわち0.5アンペアの電流(約0.04アンペア/cmの電流密度)および約4~6ボルトのセル電圧で2~5時間、ニードルコークスフィラメント中のグラフェン面間の空間にアルカリ金属イオンを充填した。これらの値は、セルの構成および構造の変化とともに変動しうる。電気化学的充填処理の後、結果として得られたインターカレートされたフィラメントを水で洗浄し、乾燥させた。
【0066】
続いて、インターカレートされた化合物の一部に対してマイクロ波加熱を行った。種々の試料を収集して、SEM、TEM、及びラマンの観察によってそれらの形態を調べ、それらの比表面積を周知のBET法によって測定した。BET比表面積は675~1,050m/gであることが分かり、これはグラフェンシートのほとんどが単層(>80%)及び数層の種類のものであることを示している。第1の粉末リボン幅は4.8cmであり、第1のリボン厚さは約2cmであった。剥離後、グラフェン粉末は幅100cm(2つのTeflon板ベースの壁の間に閉じ込められる)及び厚さ9.5cmであった。
【0067】
実施例3:黒鉛繊維からの離散GOシートの調製
平均直径が12μmの黒鉛短繊維を出発材料として使用し、これを、濃硫酸、硝酸、及び過マンガン酸カリウムの混合物(化学的インターカレート(intercalate)及び酸化剤として)中に浸漬して、繊維系の黒鉛インターカレーション化合物(GIC)を調製した。出発材料は最初に真空オーブン中80℃で24時間乾燥させた。次に、濃硫酸、発煙硝酸、及び過マンガン酸カリウム(4:1:0.05の重量比)の混合物を、適切な冷却及び撹拌下で、繊維セグメントが入れられた三口フラスコにゆっくり加えた。12時間の反応後、酸処理された黒鉛繊維を濾過し、溶液のpHレベルが6になるまで脱イオン水で十分に洗浄した。60℃で終夜乾燥させ、第1の幅が5cmで第1の厚さが2.5cmのリボン状の酸化黒鉛繊維粉末が得られ、これに対してマイクロ波処理(25kWで30秒間)を行った。得られた剥離粉末は、すべてが単層又は数層のグラフェンシートであり、未剥離の黒鉛繊維粉末は含まない。
【0068】
比較のため、同じ酸化黒鉛繊維粉末の2つの試料に対して同じマイクロ波処理条件にさらした;一方の粉末試料(試料3b)は、第1の幅が11cmであり、第1の厚さが2.5cmであり、他方の試料(試料3c)は第1の幅が5cmであり、第1の厚さが4.5cmであった。本発明者らは、試料3bは、マイクロ波曝露後に、約20%の未剥離の黒鉛繊維を有することを確認しており、これはおそらくは集束マイクロ波出力ゾーンを超えて粉末の一部が配置されたためである。試料3cは、約15%の未剥離の黒鉛繊維を有し、これはおそらくは粉末の深さ全体にマイクロ波が侵入できなかったためである。
【0069】
実施例4:メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)からの単層グラフェンシートの調製
メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)は、China Steel Chemical Co.,Kaohsiung,Taiwanより供給された。この材料は、密度が約2.24g/cmでありメジアン粒度が約16μmである。一例では、MCMB(10グラム)に酸溶液(4:1:0.05の比率の硫酸、硝酸、及び過マンガン酸カリウム)を48~96時間インターカレートさせた。反応終了後、混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。インターカレートされたMCMBをHClの5%溶液中で繰り返し洗浄して、硫酸イオンの大部分を除去した。次に、濾液のpHが4.5以上になるまで、試料の脱イオン水による洗浄を繰り返した。次に、得られたスラリーに対してマイクロ波処理を行った。TEM及び原子間力顕微鏡、並びにBET試験によると、酸化処理が72時間を超えるとほとんどのGOシートが単層グラフェンであり、酸化時間が48~72時間の場合は2層又は3層グラフェンであったことを示している。GOシートは、48~96時間の酸化処理時間の場合に約35重量%~47重量%の酸素比率を有する。
【0070】
実施例5:フッ化グラフェンナノシートの調製
GFを製造するために本発明者らは数種類の方法を使用してきたが、本明細書ではただ1つの方法を例として記載している。典型的な手順では、高度に酸化された人造黒鉛に対して、100℃において10時間の三フッ化塩素蒸気によるフッ素化を行うと、わずかにフッ素化された黒鉛が形成された。あらかじめ冷却されたTeflon反応器に20~30mLのあらかじめ冷却した液体ClFを入れ、反応器を閉じ、液体窒素温度まで冷却した。次に、1gのわずかにフッ素化された黒鉛を、ClFガスが通過するための穴を有する容器中に入れ、反応器内部に配置した。7~10日間でおおよその式がCFである灰色-ベージュの生成物が形成された。
【0071】
次にこれらのCF粒子を2.45GHzのマイクロ波出力(10W)に60秒間曝露すると、フッ化グラフェンシート(>90%が単層フッ化グラフェンシート)が得られた。マイクロ波出力ゾーン中に移動する前のリボン状粉末は幅1.5cm及び厚さ1.5cmであった。1分間のマイクロ波曝露の後、リボンは幅44cm及び厚さ4.6cmまで膨張した。
【0072】
実施例6:窒素化グラフェンナノシート及び多孔質グラフェン構造の調製
熱水方法を使用して、酸化黒鉛(実施例1において調製したものと同じ)を窒素化黒鉛に変換した。酸化黒鉛の粒子をアンモニアとともにオートクレーブ中に密閉し、次に温度を220℃まで上昇させた。反応を6時間進行させると、窒素化黒鉛粒子が得られた。これらの粒子を次に2.45GHzのマイクロ波出力(700W)に60秒間曝露すると、窒素化グラフェンシートが得られた。マイクロ波出力ゾーン中に移動させる前のリボン状粉末は幅1.1cm及び厚さ1cmであった。1分(1分の滞留時間)のマイクロ波曝露の後、リボンは幅39cm及び厚さ3.5cmまで膨張した。
【0073】
実施例7:種々の酸化された黒鉛及び黒鉛状炭素材料の調製
数種類の酸化された黒鉛状炭素材料を実施例1で使用した手順と同じ手順により調製したが、出発黒鉛材料は、高配向熱分解黒鉛(HOPG)、天然黒鉛粉末、ピッチベースの黒鉛繊維、気相成長カーボンナノファイバー(VG-CNF)、多層カーボンナノチューブ(MW-CNT)、及び非晶質黒鉛のそれぞれの粉末であった。各試料中、誘電加熱促進剤として最大20%の水又はアルコールを酸化された黒鉛材料に加えた。本発明者らは驚くべきことに、ある量(例えば5%)の誘電加熱促進剤によって、単層グラフェンシートの量が大幅に増加しうることを確認した。比表面積は典型的には260~450m/gから650~950m/gまで増加した。
【0074】
実施例8:ソフトカーボン粒子からの酸化された黒鉛状炭素の調製
液晶芳香族樹脂からソフトカーボンの粒子を調製した。乳鉢で樹脂を粉砕し、N雰囲気中900℃で2時間焼成して、又はソフトカーボンとも呼ばれる黒鉛化可能な炭素を調製した。ソフトカーボンの粒子に対して、実施例1で行ったものと同様の方法で、インターカレーション及びマイクロ波曝露処理を行った。得られた生成物は、ほとんどが小さな単層グラフェンシートであり、一部が非晶質炭素粉末であった。
【0075】
実施例9:石油ピッチから誘導されるハードカーボン粒子からの酸化された黒鉛状炭素の調製
ピッチ試料(Ashland Chemical Co.のA-500)を900℃で2時間炭化させ、続いて1,200℃で4時間炭化させた。ピッチベースのハードカーボン粒子からスキン炭素層を除去するために、水中のKOHの溶液(濃度5%)をハードカーボン粒子の表面処理に使用した。ハードカーボン粒子に対して、実施例1で行ったものと同様の方法で、インターカレーション及びマイクロ波曝露処理を行った。得られた生成物は、ほとんどが小さな単層グラフェンシートであり、一部が非晶質炭素粉末であった。
図1
図2A-2B】
図3
図4