(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、その製造方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07C 43/17 20060101AFI20220610BHJP
C07C 41/24 20060101ALI20220610BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
C07C43/17 CSP
C07C41/24
C11D7/50
(21)【出願番号】P 2019558271
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044860
(87)【国際公開番号】W WO2019111989
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2017235320
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】原田 晃典
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-37912(JP,A)
【文献】特開昭54-117414(JP,A)
【文献】特公昭39-93(JP,B1)
【文献】特開2014-62214(JP,A)
【文献】特開2013-67583(JP,A)
【文献】特開2013-151435(JP,A)
【文献】PARK. J. D. et al.,The Preparation and Properties of Some Fluorochloropropyl Alkyl Ethers,Journal of the American Chemical Society,1956年,Vol.78,pp.1685-1686
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式中、Xは水素原子または塩素原子である。)
で表される塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル。
【請求項2】
下記式(2):
【化2】
で表される(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル。
【請求項3】
(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(トランス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(シス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(シス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(トランス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる請求項2に記載の(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル。
【請求項4】
下記式(3):
【化3】
で表されるビス(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル。
【請求項5】
ビス(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、ビス(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる請求項4に記載のビス(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル。
【請求項6】
下記式(4):
【化4】
(式中、Xは水素原子または塩素原子である。)
に示す塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを塩基の存在下に液相中で脱塩化水素反応する工程を含む、請求項1に記載の塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルの製造方法。
【請求項7】
下記式(5):
【化5】
に示す(1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを塩基の存在下に液相中で脱塩化水素反応する工程を含む、請求項2または3に記載の(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルの製造方法。
【請求項8】
下記式(6):
【化6】
に示すビス(1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを塩基の存在下に液相中で脱塩化水素反応する工程を含む、請求項4または5に記載のビス(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルの製造方法。
【請求項9】
前記脱塩化水素反応が、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属炭酸塩の存在下で行われる、請求項6~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記脱塩化水素反応が、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの存在下で行われる、請求項6~8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
溶剤、洗浄剤または発泡剤としての請求項1に記載の塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを含む組成物の使用。
【請求項12】
フラックスまたは加工油を洗浄するための洗浄剤としての請求項1に記載の塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを含む組成物の使用。
【請求項13】
基材に請求項1に記載の塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを含む組成物を接触させる工程を含む、基材から汚染物質を除去する方法。
【請求項14】
前記汚染物質がフラックスまたは加工油である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤、洗浄剤、発泡剤、機能性材料の中間体等として利用が期待される、新規な塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル(以下、単に「本発明化合物」ということがある)、その製造方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素オレフィンの製造方法を開示する文献は多数存在するが(特許文献1~7)、本発明の塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを製造できたとする報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】再公表2013/187489号公報
【文献】特開2011-037912号公報
【文献】特開2014-062214号公報
【文献】特開2013-067583号公報
【文献】特開2007-238528号公報
【文献】特開2001-233815号公報
【文献】特開昭62-096442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規な塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、その製造方法及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のものを提供する。
[1]
下記式(1):
【化1】
(式中、Xは水素原子または塩素原子である。)
で表される塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル。
[2]
下記式(2):
【化2】
で表される(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル。
[3]
(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(トランス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(シス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(シス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(トランス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる[2]に記載の(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル。
[4]
下記式(3):
【化3】
で表されるビス(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル。
[5]
ビス(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、ビス(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる[4]に記載のビス(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル。
[6]
下記式(4):
【化4】
(式中、Xは水素原子または塩素原子である。)
に示す塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを塩基の存在下に液相中で脱塩化水素反応する工程を含む、[1]に記載の塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルの製造方法。
[7]
下記式(5):
【化5】
に示す(1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを塩基の存在下に液相中で脱塩化水素反応する工程を含む、[2]または[3]に記載の(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルの製造方法。
[8]
下記式(6):
【化6】
に示すビス(1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを塩基の存在下に液相中で脱塩化水素反応する工程を含む、[4]または[5]に記載のビス(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルの製造方法。
[9]
前記脱塩化水素反応が、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属炭酸塩の存在下で行われる、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
前記脱塩化水素反応が、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの存在下で行われる、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[11]
溶剤、洗浄剤または発泡剤としての[1]に記載の塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを含む組成物の使用。
[12]
フラックスまたは加工油を洗浄するための洗浄剤としての[1]に記載の塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを含む組成物の使用。
[13]
基材に[1]に記載の塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを含む組成物を接触させる工程を含む、基材から汚染物質を除去する方法。
[14]
前記汚染物質がフラックスまたは加工油である、[13]に記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明化合物の塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルは、溶剤、洗浄剤、発泡剤、機能性材料の中間体等の用途に好適に用いることができる。また、本発明化合物は、分子内に二重結合を有しており、大気中において容易に分解するので、地球温暖化係数(GWP)およびオゾン破壊係数(ODP)が低い。
また本発明の製造方法によれば、本発明化合物を産業的に有利な方法で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(本発明の化合物の構造)
本発明化合物である塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルは、下記式(1):
【化7】
(式中、Xは水素原子または塩素原子である。)
で表される化学構造を有する。上記式(1)において、炭素-炭素二重結合に波線で結合するトリフルオロメチル基は、当該トリフルオロメチル基が二重結合に対してトランス位置またはシス位置のいずれかの位置に存在することを示す。Xは水素原子または塩素原子なので、式(1)の化合物には以下の化合物が包含される。
【化8】
【化9】
したがって、式(2)の化合物には、(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(トランス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(シス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(シス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(トランス-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、及びこれらの組み合わせが包含される。また、式(3)の化合物には、ビス(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、ビス(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル、及びこれらの組み合わせが包含される。なお、慣用の表記法に従い、本願明細書に記載の化学式では水素原子の表示を省略している。
【0008】
本発明化合物は、炭素-炭素二重結合に電気陰性度が高い酸素原子と塩素原子が直接結合した構造をしており、二重結合の電子が比較的広く分散して分子全体として安定な化学構造を形成している。一方、本発明化合物は、二重結合と酸素原子からなるビニルエーテル構造を有するため、大気中に放出された場合には容易に分解する。本発明化合物は、酸素、塩素、二重結合などの反応部位となる官能基を備える反面、化合物全体として安定しており、特定条件のみで反応する試薬として作用する。このため機能性材料の中間体としての用途が期待できる。本発明の化合物は、塩素原子を1つ又は2つ有するので、有機物の溶解性、特に油の溶解性に優れている。このため、溶剤、洗浄剤、発泡剤などの用途に有用である。
【0009】
(本発明化合物の製造方法)
本発明化合物は、例えば、下記式(4):
【化10】
(式中、Xは水素原子または塩素原子である。)
に示す塩素化ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを塩基の存在下に液相中で脱塩化水素反応することにより得られる。
【0010】
Xは水素原子または塩素原子であるため、式(4)の化合物は、
下記式(5):
【化11】
及び下記式(6):
【化12】
に示す化合物を包含する。式(5)及び式(6)の化合物は、例えば、特許第5871633号に記載の方法において塩素の当量をそれぞれ3及び4とすることにより製造できる。
【0011】
塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属重炭酸塩;トリエチルアミンなどのトリアルキルアミンを含む第3アミンなどが挙げられる。塩基濃度は、反応液全体を100重量%として、5~50重量%が好ましく、5~20重量%がより好ましい。
【0012】
溶媒としては、塩基を溶解できるものであればよく、水のみならず、水溶性有機溶媒、非プロトン性極性有機溶媒も使用でき、さらにこれらの混合溶媒も使用できる。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール;グライム、ジグライムなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。非プロトン性極性有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)などが挙げられる。入手の容易性やコストを考慮して、アルコール、水または水との混合溶媒を使用することが好ましい。
【0013】
反応は大気圧下で行うことができ、反応温度は装置コストを考慮して-30~100℃の範囲内とすることが好ましい。
【0014】
(本発明化合物の用途)
前述したように、本発明化合物は、塩素原子を1つまたは2つ有するので、有機物の溶解性、特に油の溶解性に優れている。この特性を利用して以下の用途に有用である。
(1)溶剤及び洗浄剤としての用途
本発明の化合物はアセトン、アセトフェノン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグライム、1,4-ジオキサン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類等の有機溶媒と任意の割合で混合することができる。このため、混合溶媒として幅広い用途に使用できる。また、本発明の化合物は、特に油の溶解性に優れており、洗浄剤として好適に用いる事ができる。
【0015】
本発明化合物の沸点は、式(2)の化合物で54.1 ℃/92hPa(約120℃/1013hPaに相当する。)であり、式(3)の化合物で68.4 ℃/100hPa(約140℃/1013hPaに相当する。)である。このため、通常の作業環境において揮発性が低く、作業環境の改善に寄与する。
【0016】
(2)発泡剤としての用途
本発明の化合物の有機物の溶解性を利用して、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂やポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂の発泡性組成物の調製に利用できる。
【実施例】
【0017】
以下に本発明を具体例で説明するが、本発明の範囲は以下の例に限定されるものではない。
【0018】
[実施例1]
【化13】
窒素雰囲気下、200mL3つ口フラスコに乳鉢で粉砕した水酸化ナトリウムを8.8g(220mmol)、メタノールを100mL加えた。反応液を撹拌下-20℃まで冷却し、滴下漏斗でビス(1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを34.7g(100mmol)、30分かけて滴下した。2時間後反応液を室温まで昇温し、ジクロロメタンと水を加えて分層した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。固体をろ別し、溶媒留去、単蒸留を行ったところ、本発明化合物であるビス(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを12.5g(収率46%)で得た。
【0019】
[実施例2]
【化14】
(上記式中、refluxは溶媒を還留させたことを指す。)
窒素雰囲気下、1L3つ口フラスコに炭酸ナトリウムを140g(1320mmol)、メタノールを600mL、ビス(1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを208g(600mmol)加えた。反応液をメタノールが還留するまで加熱し、22時間反応させた後に反応液の温度を室温に戻した。その後、ジクロロメタンと水を加えて分層し、得た有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。固体をろ別し、溶媒留去、蒸留精製を行ったところ、本発明化合物であるビス(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを103g(収率63%)で得た。
【0020】
[実施例3]
【化15】
窒素雰囲気下、10mL試験管に乳鉢で粉砕した水酸化カリウムを0.13g(2.2mmol)、メタノールを1mL加えた。反応液を撹拌下-20℃まで冷却し、ビス(1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを0.35g(1mmol)を加えた。2時間後反応液を室温まで昇温し、ジクロロメタンと水を加えて分層した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。固体をろ別し、溶媒留去を行ったところ、本発明化合物であるビス(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを75%(ガスクロマトグラフィー面積%)含む液体を0.36g得た。
【0021】
得られた化合物の同定に至ったスペクトルデータを以下に示す。生成物は以下の3種類の異性体の混合物であることを確認した。
【化16】
外観:無色透明液体
沸点:68.4 ℃/100hPa(約140℃/1013hPaに相当する。)
【0022】
異性体1
1H NMR(CDCl3):5.82(q,J=6Hz,2H)
19F NMR(CDCl3):-58.97(d,J=6Hz,6F)
13C NMR(CDCl3):107.9(q,J=38Hz,OCCl=CHCF3)、121.6(q,J=269Hz,OCCl=CHCF3)、146.6(q,J=9Hz,OCCl=CHCF3)
GC-MS m/z (%):69(90)、91(52)、110(22)、129(100)、131(33)、146(14)、148(5)、177(7)、205(14)、274(6)、276(4)、278(1)
【0023】
異性体2
1H NMR(CDCl3):5.69(q,J=6Hz,2H)
19F NMR(CDCl3):-58.99(d,J=6Hz,6F)
13C NMR(CDCl3):106.4(q,J=39Hz,OCCl=CHCF3)、120.7(q,J=271Hz,OCCl=CHCF3)、145.8(q,J=7Hz,OCCl=CHCF3)
GC-MS m/z (%):69(90)、91(52)、110(22)、129(100)、131(33)、146(14)、148(5)、177(7)、205(14)、274(6)、276(4)、278(1)
【0024】
異性体3
1H NMR(CDCl3):5.67(q,J=6Hz,1H)、5.83(q,J=6Hz,1H)
19F NMR(CDCl3):-59.2(d,J=6Hz,3F)、-58.9(d,J=6Hz,3F)
13C NMR(CDCl3):107.2(q,J=43Hz,OCCl=CHCF3)、107.2(q,J=38Hz,OCCl=CHCF3)、120.7(q,J=271Hz,OCCl=CHCF3)、121.5(q,J=270Hz,OCCl=CHCF3)、145.6(q,J=6Hz,OCCl=CHCF3)、146.6(q,J=9Hz,OCCl=CHCF3)
GC-MS m/z (%):69(90)、91(52)、110(22)、129(100)、131(33)、146(14)、148(5)、177(7)、205(14)、274(6)、276(4)、278(1)
【0025】
[実施例4]
【化17】
撹拌子、温度計、100W高圧水銀灯、ジムロート冷却管および塩素導入管を備えたガラス製5L光反応装置に、ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテル1.4kg(6.7mol)を仕込み、氷水浴を用いて冷却した。高圧水銀灯(理工科学産業株式会社製のUVL-100HA)を点灯して光(波長312~577nmの紫外線)を照射し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、反応液中に塩素20molを流速1.2L/ minで、7時間かけて導入した。その後、反応液が無色となるまで光照射を継続した。反応液を室温に戻したのち水洗し、その後有機層を重曹水で中和した。得た有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、固体をろ別したところ無色透明液体の粗生成物を1.9kg得た。そのうち0.4kgを蒸留精製したところ、(1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを0.2kg得た。
【0026】
得た(1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルのスペクトルデータを下記に示す。
1H NMR(CDCl3):2.82-3.04(m,2H)、3.36(q,J=8Hz,2H)、6.41(dd,J1=7Hz,J2=5Hz,1H)
19F NMR(CDCl3):-63.5(t,J=10Hz,3F)、-61.6(t,J=8Hz,3F)
GC-MS m/z (%):69(33)、111(100)、131(65)、147(22)、165(53)、277(0.4)
【0027】
[実施例5]
【化18】
窒素雰囲気下、1L3つ口フラスコに乳鉢で粉砕した水酸化ナトリウムを50g(1.25mol)、メタノールを570mL加えた。反応液を撹拌下-20℃まで冷却し、滴下漏斗で(1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル)エーテルを178g(0.57mol)、1時間かけて滴下した。3時間後反応液を室温まで昇温し、ジクロロメタンと水を加えて分層した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。固体をろ別し、溶媒留去、蒸留を行ったところ、本発明化合物である(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテルを90g(収率66%)で得た。
【0028】
得られた化合物の同定に至ったスペクトルデータを以下に示す。生成物は以下の2種類の異性体の混合物であることを確認した。
【化19】
外観:無色透明液体
沸点:54.1 ℃/92hPa(約120℃/1013hPaに相当する。)
【0029】
異性体1
1H NMR(CDCl3):5.46(q,J=7Hz,1H)、5.61(dq,J1=14Hz,J2=6Hz,1H)、7.22(dq,J1=14Hz,J2=2Hz,1H)
19F NMR(CDCl3):-61.5(dd,J1=6Hz,J2=2Hz,3F)、-58.6(q,J=7Hz,3F)
13C NMR(CDCl3):103.8(q,J=39Hz,OCH=CHCF3)、104.6(q,J=39Hz,CF3
CH=CClO)、121.2(q,J=270Hz,OCH=CHCF3)、123.1(q,J=268Hz,CF3CH=CClO)、147.6(q,J=8Hz,OCH=CHCF3)、147.6(q,J=8Hz,CF3CH=CClO)
GC-MS m/z (%):63(64)、69(100)、91(68)、95(32)、110(20)、129(21)、143(9)、171(8)、205(7)、221(4)、240(10)、242(3)
【0030】
異性体2
1H NMR(CDCl3):5.60(dq,J1=14Hz,J2=7Hz,1H)、5.62(q,J=7Hz,1H)、7.17(dq,J1=14Hz,J2=2Hz,1H)
19F NMR(CDCl3):-61.5(dd,J1=7Hz,J2=2Hz,3F)、-58.3(q,J=7Hz,3F)
13C NMR(CDCl3):102.4(q,J=39Hz,OCH=CHCF3)、105.0(q,J=35Hz,CF3
CH=CClO)、122.1(q,J=269Hz,OCH=CHCF3)、123.0(q,J=268Hz,CF3CH=CClO)、147.6(q,J=8Hz,OCH=CHCF3)、148.9(q,J=6Hz,CF3CH=CClO)
GC-MS m/z (%):63(64)、69(100)、91(68)、95(32)、110(20)、129(21)、143(9)、171(8)、205(7)、221(4)、240(10)、242(3)
【0031】
[洗浄力評価試験]
本発明化合物(式(3)の化合物:ビス(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)エーテル)に対する各評価対象の溶解度(洗浄能力)を下表に示した。表中の数値は溶剤100gに溶ける各評価対象のグラム数を示す。「相溶」は、溶剤100gに評価対象100gが溶解したことを意味する。
【0032】
【表1】
*1:参考資料 洗浄技術の展開 シーエムシー出版
*2:ゼオローラ(登録商標)HTA、AE-3000、AK-225はいずれも洗浄剤商品名である。
*3:1233zは、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの略称である。
【0033】
上記表からわかるように、本発明化合物は、いずれの加工油に対しても「相溶」であるだけでなく、洗浄が困難とされるフラックス剤(アビエチン酸)に対しても既存の洗浄剤と同等の溶解性を有するという予想外に良好な評価結果となった。