IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニーの特許一覧

特許7086115建築用コーティングのためのフッ素化エステル化合物添加剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】建築用コーティングのためのフッ素化エステル化合物添加剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220610BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220610BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019570507
(86)(22)【出願日】2018-06-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 US2018036822
(87)【国際公開番号】W WO2019005460
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】62/524,635
(32)【優先日】2017-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515269383
【氏名又は名称】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イェレナ ラシオ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ヘンリー オーバー
(72)【発明者】
【氏名】フランシス ジェイ.ワーナー
(72)【発明者】
【氏名】ヒン イム
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-506552(JP,A)
【文献】特表2000-515579(JP,A)
【文献】特開平02-097586(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0212491(US,A1)
【文献】特開昭54-103808(JP,A)
【文献】特開2011-020924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水分散コーティング、エポキシポリマーコーティング、アルキドコーティング、I型ウレタンコーティング、又は不飽和ポリエステルコーティングから選択されるコーティングベースと、(b)複数のフルオロアルキルチオエーテル基を有するフッ素化エステル化合物と、を含む組成物であって、前記フッ素化エステル化合物が、式(I)、式II)、式(III)、又は式(IV):
【化1】
【化2】
[式中、
前記フッ素化エステル化合物の数平均分子量は、≦30,000Daであり;
1は、直鎖状又は分枝鎖状C1~C4のアルキル基であり;
tは、2~4の整数であり;
nは、≧3の整数であり;
xは、独立して、1~4の整数であり;
yは、独立して、1~10の整数であり;
Yは、直鎖状又は分枝鎖状C1~C20のアルキレン基、カルボニル基、チオエーテル基、アリール基、シクロアルキル基、エーテル基、ヒドロキシル基、-NHC(O)-、ウレトジオン、アロファネート、イソシアヌレート、及びこれらの混合からなる群から選択される、二価、三価、又は四価である直鎖状又は分枝鎖状有機連結基であり;
fは、独立して、1つ以上の-CH2-、-CFH-、エーテル酸素-O-、又はこれらの組み合わせによって任意選択的に中断されている、炭素原子が2~20個の、直鎖又は分枝鎖状ペルフルオロアルキル基である]から選択される、組成物。
【請求項2】
(a)と(b)との合計重量に基づいて、(a)約95~99.98%の量の前記コーティングベースと、(b)約0.02~5重量%の量の前記フッ素化エステル化合物と、を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フッ素化エステル化合物が、式(I)から選択され、tは、2又は3である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
nが、3~15である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
Yが、-(CH2zC(R2)(OH)(CH2z-、中断されていないC1~C20の直鎖状又は分枝鎖状アルキレン、-C(O)-C(O)-、
-C(O)-(CH2z-S-(CH2r-S-(CH2z-C(O)-、
-C(O)-(CH2z-O-(CH2r-O-(CH2z-C(O)-、
-C(O)-(CH2z-S-C(R2)(R3)-S-(CH2z-C(O)-、
-C(O)-(CH2z-O-C(R2)(R3)-O-(CH2z-C(O)-、-C(O)NH-A-NHC(O)-;
[式中、zは、1~4の整数であり;rは、1~20の整数であり、R2は、H、直鎖状又は分枝鎖状C1~C6のアルキル基、又はアリール基であり;R3は、H、直鎖状又は分枝鎖状C1~C6のアルキル基、又はアリール基であり、Aは、ポリイソシアネートからの残基である]からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
zが、1であり、R2は、Hである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
zが、2であり、R2は、CH3であり、R3は、-CH2CH(CH32である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記フッ素化エステル化合物(b)が、水不溶性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記コーティングベースが、水性アクリル系ラテックス塗料の形態の水分散コーティングである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記コーティングベースが、TiO2、粘土、アスベスト、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化クロム、硫酸バリウム、酸化鉄、酸化スズ、硫酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカ、ドロマイト、硫化亜鉛、酸化アンチモン、二酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、クロム酸鉛、クロム酸亜鉛、チタン酸ニッケル、珪藻土、ガラス繊維、ガラス粉末、ガラス球、青色顔料、赤色顔料、黄色顔料、橙色顔料、プロセス凝集結晶、褐色顔料、又は緑色顔料から選択される添加剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
基材及び前記基材上の乾燥コーティングを含む、物品であって、前記乾燥コーティングが、(a)水分散コーティング、エポキシポリマーコーティング、アルキドコーティング、I型ウレタンコーティング、又は不飽和ポリエステルコーティングから選択されるコーティングベースと、(b)複数のフルオロアルキルチオエーテル基を有するフッ素化エステル化合物と、を含む組成物の乾燥から生じ、前記フッ素化エステル化合物が、式(I)、式II)、式(III)、又は式(IV):
【化3】
【化4】
[式中、
前記フッ素化エステル化合物の数平均分子量は、≦30,000Daであり;
1は、直鎖状又は分枝鎖状C1~C4のアルキル基であり;
tは、2~4の整数であり;
nは、≧3の整数であり;
xは、独立して、1~4の整数であり;
yは、独立して、1~10の整数であり;
Yは、直鎖状又は分枝鎖状C1~C20のアルキレン基、カルボニル基、チオエーテル基、アリール基、シクロアルキル基、エーテル基、ヒドロキシル基、-NHC(O)-、ウレトジオン、アロファネート、イソシアヌレート、及びこれらの混合からなる群から選択される、二価、三価、又は四価である直鎖状又は分枝鎖状有機連結基であり;
fは、独立して、1つ以上の-CH2-、-CFH-、エーテル酸素-O-、又はこれらの組み合わせによって任意選択的に中断されている、炭素原子が2~20個の、直鎖又は分枝鎖状ペルフルオロアルキル基である]から選択される、物品。
【請求項12】
Yが、-(CH2zC(R2)(OH)(CH2z-、中断されていないC1~C20の直鎖状又は分枝鎖状アルキレン、-C(O)-C(O)-、-C(O)-(CH2z-S-(CH2r-S-(CH2z-C(O)-、
-C(O)-(CH2z-O-(CH2r-O-(CH2z-C(O)-、
-C(O)-(CH2z-S-C(R2)(R3)-S-(CH2z-C(O)-、
-C(O)-(CH2z-O-C(R2)(R3)-O-(CH2z-C(O)-、-C(O)NH-A-NHC(O)-;
[式中、zは、1~4の整数であり;rは、1~20の整数であり、R2は、H、直鎖状又は分枝鎖状C1~C6のアルキル基、又はアリール基であり;R3は、H、直鎖状又は分枝鎖状C1~C6のアルキル基、又はアリール基であり、Aは、ポリイソシアネートからの残基である]からなる群から選択される、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
前記組成物が、(a)と(b)との合計重量に基づいて、(a)約95~99.98%の量の前記コーティングベースと、(b)約0.02~5重量%の量の前記フッ素化エステル化合物と、を含む、請求項11に記載の物品。
【請求項14】
前記コーティングベースが、水性アクリル系ラテックス塗料の形態の水分散コーティングである、請求項11に記載の物品。
【請求項15】
前記基材が、木、金属、壁板、石垣、コンクリート、繊維板、及び紙からなる群から選択される、請求項11に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性のある表面効果をもたらすための、水系ラテックス塗料などの建築用コーティング組成物で使用するための、コーティングベースと、フッ素化エステル化合物と、を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の対象のコーティング組成物は、アルキドコーティング組成物、ウレタンコーティング組成物、水分散性コーティング組成物、及び不飽和ポリエステルコーティング組成物(典型的には、塗料、クリアコーティング、又はステイン)を含む。乾燥又は硬化後の上記のコーティング組成物の全ては、多くの場合、低いヘキサデカン接触角を示し、油によって容易に湿潤し、汚れ易い。コーティング組成物は、Outlines of Paint Technology(Halstead Press,New York,NY,Third Edition,1990)及びSurface Coatings Vol.I,Raw Materials and Their Usage(Chapman and Hall,New York,NY,Second Edition,1984)に記載されている。
【0003】
水系ラテックスコーティングベース、例えば、塗料コーティングとして使用されるものは、撥油性が小さく、不十分な洗浄性評価を有する傾向がある。室内用塗料及び屋外用塗料の表面に、より良い洗浄性を付与するために、フッ素系界面活性剤を含む低分子添加剤が使用されている。しかしながら、添加剤は、より過酷な環境条件にさらされる屋外用塗料においては、長期性能及び耐久性を提供しない。添加剤は、数日以内にコーティング面から洗い流され得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Outlines of Paint Technology(Halstead Press,New York,NY,Third Edition,1990)
【文献】Surface Coatings Vol.I,Raw Materials and Their Usage(Chapman and Hall,New York,NY,Second Edition,1984)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、フッ素化エステル化合物を導入することによって、上述の問題に対処する。本化合物は、湿潤しているときにコーティング面へ移動するのに十分小さいが、厳しい要素にさらされるのに十分に安定している。本フッ素化エステル化合物のチオエーテル基は、公知のフッ素化エステル化合物に優る性能上の利点を提供する、加水分解安定性を提供する。本発明の組成物は、水系ラテックスコーティングに性能及び耐久性を提供する。これらは、コーティングフィルムに、水接触角及び油接触角の増加、汚れ付着耐性の向上、並びに洗浄性の改善といった、予想外に望ましい表面効果を付与する。
【0006】
本発明は、(a)水分散コーティング、エポキシポリマーコーティング、アルキドコーティング、I型ウレタンコーティング、又は不飽和ポリエステルコーティングから選択されるコーティングベースと、(b)複数のフルオロアルキルチオエーテル基を有するフッ素化エステル化合物と、を含み、当該のフッ素化エステル化合物が、式(I)、式II)、式(III)、又は式(IV):
【0007】
【化1】
【0008】
【化2】
[式中、フッ素化エステル化合物の数平均分子量は、≦30,000Daであり;Rは、直鎖状又は分枝鎖状C~Cのアルキル基であり;tは、2~4の整数であり;nは、≧3の整数であり;xは、独立して、1~4の整数であり;yは、独立して、1~10の整数であり;Yは、直鎖状又は分枝鎖状C~C20のアルキレン基、カルボニル基、チオエーテル基、アリール基、シクロアルキル基、エーテル基、ヒドロキシル基、-NHC(O)-、ウレトジオン、アロファネート、イソシアヌレート、及びこれらの混合からなる群から選択される、二価、三価、又は四価である直鎖状又は分枝鎖状有機連結基であり、Rは、独立して、炭素原子が2~20個の、直鎖又は分枝鎖状ペルフルオロアルキル基であり、1つ以上のCH、CFH、エーテル酸素-O-、又はこれらの組み合わせによって任意選択的に中断されている]から選択される、組成物に関する。
【0009】
本発明は更に、基材及びその基材上の乾燥コーティングを含む、物品であって、乾燥コーティングが、(a)水分散コーティング、エポキシポリマーコーティング、アルキドコーティング、I型ウレタンコーティング、又は不飽和ポリエステルコーティングから選択されるコーティングベースと、(b)複数のフルオロアルキルチオエーテル基を有するフッ素化エステル化合物と、を含む組成物の乾燥から生じ、当該のフッ素化エステル化合物が、式(I)、式II)、式(III)、又は式(IV)[式中、フッ素化エステル化合物の数平均分子量は、≦30,000Daであり;Rは、直鎖状又は分枝鎖状C~Cのアルキル基であり;tは、2~4の整数であり;nは、≧3の整数であり;xは、独立して、1~4の整数であり;yは、独立して、1~10の整数であり;Yは、直鎖状又は分枝鎖状C~C20のアルキレン基、カルボニル基、チオエーテル基、アリール基、シクロアルキル基、エーテル基、ヒドロキシル基、-NHC(O)-、ウレトジオン、アロファネート、イソシアヌレート、及びこれらの混合からなる群から選択される、二価、三価、又は四価である直鎖状又は分枝鎖状有機連結基であり、Rは、独立して、炭素原子が2~20個の、直鎖又は分枝鎖状ペルフルオロアルキル基であり、1つ以上のCH、CFH、エーテル酸素-O-、又はこれらの組み合わせによって任意選択的に中断されている]から選択される、物品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書では、商標を大文字で示す。
【0011】
用語「(メタ)アクリル」又は「(メタ)アクリレート」は、それぞれ、メタクリル及び/又はアクリル、並びにメタクリレート及び/又はアクリレートを示し、用語(メタ)アクリルアミドは、メタクリルアミド及び/又はアクリルアミドを示す。
【0012】
用語「アルキドコーティング」は、以下に使用するとき、アルキド樹脂をベースとした従来の液体コーティング(典型的には塗料、クリアコーティング、又はステイン)を意味する。アルキド樹脂は、不飽和脂肪酸残基を有する分枝鎖状及び架橋した複合ポリエステルである。
【0013】
用語「ウレタンコーティング」は、以下に使用するとき、I型ウレタン樹脂をベースとした従来の液体コーティング(典型的には塗料、クリアコーティング、又はステイン)を意味する。ウレタンコーティングは、典型的には、ポリイソシアネート、通常、トルエンジイソシアネートと、乾性油酸の多価アルコールエステルとの反応生成物を含有する。ウレタンコーティングは、ASTM D16によって5つの範疇に分類される。I型ウレタンコーティングは、予備反応させた自己酸化性の結合剤を最低10重量%含有し、大量の遊離イソシアネート基が存在しないことを特徴とする。これらは、ウラルキド、ウレタン変性アルキド、油変性ウレタン、ウレタン油、又はウレタンアルキドとしても知られている。I型ウレタンコーティングは、ポリウレタンコーティングの最大体積範疇であり、塗料、クリアコーティング、又はステインを含む。I型ウレタンコーティングの硬化コーティングは、結合剤における不飽和乾性油残基の空気酸化及び重合によって形成される。
【0014】
用語「不飽和ポリエステルコーティング」は、以下に使用するとき、モノマーに溶解し、かつ必要に応じて開始剤及び触媒を含有する(典型的には、塗料、クリアコーティング、ステイン、又はゲルコート配合物として)、不飽和ポリエステル樹脂をベースとした従来の液体コーティングを意味する。
【0015】
用語「水分散コーティング」とは、本明細書で使用するとき、エマルション、ラテックス、又は水相に分散しているフィルム形成材料の懸濁液を必須で含み、任意選択的に、界面活性剤、保護コロイド及び増粘剤、顔料及び増量剤顔料、保存剤、殺真菌剤、凍結融解安定剤、消泡剤、pH制御剤、合体助剤、並びに他の成分を含有する、基材の化粧又は保護を目的とした表面コーティングを意味する。水分散コーティングとしては、ラテックス塗料などの着色コーティング、ウッドシーラー、ステイン、仕上げなどの無着色コーティング、石垣及びセメント用コーティング、及び水系アスファルトエマルションが挙げられるが、これらに限定されない。ラテックス塗料に関して、フィルム形成材料は、アクリレートアクリル系、スチレンアクリル系、ビニルアクリル系、ビニル系のラテックスポリマー、又はこれらの混合物である。このような水分散コーティング組成物は、C.R.Martensによる「Emulsion and Water-Soluble Paints and Coatings」(Reinhold Publishing Corporation,New York,NY,1965)に記載されている。
【0016】
用語「コーティングベース」は、本明細書で使用するとき、表面に持続性フィルムを作製する目的のために後にその基材に塗布される、水分散コーティング、エポキシポリマーコーティング、アルキドコーティング、I型ウレタンコーティング、又は不飽和ポリエステルコーティングの液体配合物を意味する。コーティングベースは、従来の液体コーティング中に見られる溶媒、顔料、充填剤、及び機能性添加剤を含む。例えば、コーティングベース配合物は、水中に分散したポリマー樹脂及び顔料を含み得、ポリマー樹脂は、アクリルポリマーラテックス、ビニルーアクリルポリマー、ビニルポリマー、I型ウレタンポリマー、アルキドポリマー、エポキシポリマー、若しくは不飽和ポリエステルポリマー、又はこれらの混合物である。
【0017】
本発明は、(a)水分散コーティング、エポキシポリマーコーティング、アルキドコーティング、I型ウレタンコーティング、又は不飽和ポリエステルコーティングから選択されるコーティングベースと、(b)複数のフルオロアルキルチオエーテル基を有するフッ素化エステル化合物と、を含み、当該のフッ素化エステル化合物が、式(I)、式II)、式(III)、又は式(IV):
【0018】
【化3】
【0019】
【化4】
[式中、フッ素化エステル化合物の数平均分子量は、≦30,000Daであり;Rは、直鎖状又は分枝鎖状C~Cのアルキル基であり;tは、2~4の整数であり;nは、≧3の整数であり;xは、独立して、1~4の整数であり;yは、独立して、1~10の整数であり;Yは、直鎖状又は分枝鎖状C~C20のアルキレン基、カルボニル基、チオエーテル基、アリール基、シクロアルキル基、エーテル基、ヒドロキシル基、-NHC(O)-、ウレトジオン、アロファネート、イソシアヌレート、及びこれらの混合からなる群から選択される、二価、三価、又は四価である直鎖状又は分枝鎖状有機連結基であり、Rは、独立して、炭素原子が2~20個の、直鎖又は分枝鎖状ペルフルオロアルキル基であり、1つ以上のCH、CFH、エーテル酸素-O-、又はこれらの組み合わせによって任意選択的に中断されている]から選択される、組成物に関する。
【0020】
用語「Yは、直鎖状又は分枝鎖状C~C20のアルキレン基、カルボニル基、チオエーテル基、アリール基、シクロアルキル基、エーテル基、ヒドロキシル基、-NHC(O)-、ウレトジオン、アロファネート、イソシアヌレート、及びこれらの混合からなる群から選択される、二価、三価、又は四価である直鎖状又は分枝鎖状有機連結基である」は、Yが、記載された官能基から任意の順序で構成される有機基であることを、意味する。式(I)~式(IV)中、Yは、加水分解安定性チオエーテル基を有する複数のフッ素化エステル置換を接続する。一態様では、フッ素化エステル化合物は、式(I)から選択され、tは、2又は3である。別の態様では、tは、2である。一態様では、フッ素化エステル化合物は、式(II)、式(III)、又は式(IV)から選択され、nは、3~50であり;別の態様では、nは、3~30であり、第3の態様では、nは、3~15である。
【0021】
前述したように、フッ素化エステル化合物の数平均分子量(M)は、≦30,000Daである。一態様では、フッ素化エステル化合物のMは、1000~20,000Daであり、別の態様では、Mは、1000~10,000Daである。式(I)の化合物は、単一の分子量を有し(分子量分布を有さない)、Mは、化学構造を同定して、元素の合計によって分子量を計算することによって、決定することができる。式(II)、式(III)、又は式(IV)のポリマー構造を含む、分子量分布を有する化合物について、値Mは、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)によって測定することができる。化学構造は、重水素化クロロホルムなどの重水素化溶媒中に化合物を溶解させ、H NMRを行うことによって確認することができる。SECは、屈折率検出器を備え、ポリスチレン標準を使用するゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって行うことができる。
【0022】
フッ素化分枝鎖の数が増加するにつれて、化合物の水溶性は低くなる。一実施形態では、フッ素化エステル化合物は、水不溶性である。一態様では、組成物は、式(I)、式(II)、式(III)、又は式(IV)で表される2つ以上の異なるフッ素化エステル化合物の混合物を含む。
【0023】
式(I)~式(IV)中、Yは、二価、三価、又は四価の有機基であってもよい。各式のフッ素化エステル化合物は、連結有機基Y、トリアルカノールアルカンなどの四級炭素含有基、及びフッ素化チオエーテル基から形成される。式(I)は、非ポリマー化合物であり、有機基Yにtの価数を有し、2tの数のフッ素化チオエーテル分枝鎖を有する。式(II)は、ポリマーフッ素化エステルであり、式中、Yは二価であり、四級炭素はポリマー主鎖の一部であり、繰り返し単位は、1つのフッ素化チオエーテルペンダント基を有する。式(III)は、ポリマーフッ素化エステルであり、Yは三価であり、繰り返し単位頭部の1つのエーテル酸素-O-が繰り返し単位尾部のYに接続し、繰り返し単位は、2個の四級炭素及び2つのペンダントフッ素化チオエーテル基を有する。式(IV)は、ポリマーフッ素化エステルであり、Yは四価であり、繰り返し単位頭部の1つのエーテル酸素-O-が、別の繰り返し単位尾部からの1つのY結合に接続し、繰り返し単位は、2個の四級炭素をポリマー主鎖中に有し、及び2つのペンダントフッ素化チオエーテル基を有する。
【0024】
一実施形態では、フッ素化エステル化合物は、四級炭素含有ポリオール、フッ素化ヨウ化物、チオアルカン酸、及びチオール反応性又はヒドロキシ反応性化合物の、反応生成物である。フッ素化エステル化合物を形成するための1つの方法は、溶媒又は他のチオール反応性化合物の存在下で、四級炭素含有ポリオールをチオアルカン酸と反応させ、チオアセタールを形成し、続いてフッ素化ヨウ化物と反応させ、最終生成物を形成することを含む。この場合、Yは、チオール反応性化合物及びチオアルカン酸構造から誘導される。別の方法では、フッ素化ヨウ化物をチオアルカン酸と反応させ、フッ素化チオアルカン酸を形成し、これを四級炭素含有ポリオールと反応させ、ヒドロキシ官能性フッ素化ジエステルを形成する。次いで、このヒドロキシ官能性フッ素化ジエステルを、2つのヒドロキシ反応性官能基を有する、オキサリルハライドなどの化合物と反応させ、最終生成物を形成する。この実施形態では、Yは、ヒドロキシ反応性化合物から誘導される。一実施形態では、四級炭素含有ポリオールは、少なくとも3つのヒドロキシル基を有する。一般的な四級炭素含有ポリオールとしては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、グリセロール、テトラエステルポリオール、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。一般的なチオアルカン酸としては、3-チオプロピオン酸、2-チオグリコール酸、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)などのチオアセタール生成物も、入手容易である。チオール反応性化合物及び溶媒としては、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、アセトン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンジルメチルケトン、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ヒドロキシ反応性化合物としては、オキサリルクロライド、ポリイソシアネート(ジイソシアネート又はトリイソシアネートを含むがこれらに限定されない)、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
ヒドロキシ反応性化合物がポリイソシアネートである場合、2つ以上のイソシアネート基を有する、任意のポリイソシアネートが、本発明における使用に好適である。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートホモポリマーは、本明細書で使用するのに好適であり、これらは市販されている。少量のジイソシアネートが、複数のイソシアネート基を有する生成物中に残存し得ることは、認識されている。その一例は、残存する少量のヘキサメチレンジイソシアネートを含有するビウレットである。また、ポリイソシアネート反応物としての使用に好適なものは、DESMODUR N-100(ヘキサメチレンジイソシアネート系、Bayer Corporation(Pittsburgh,PA)から入手可能)などの炭化水素ジイソシアネート誘導イソシアヌレートトリマーである。本発明の目的に有用な他のトリイソシアネートは、3モルのトルエンジイソシアネートを反応させることによって得られるものである。メタン-トリス-(フェニルイソシアネート)と同様に、トルエンジイソシアネートのイソシアヌレートトリマー及び3-イソシアナトメチル-3,4,4-トリメチルシクロヘキシルイソシアネートのイソシアヌレートトリマーは、本発明の目的に有用なトリイソシアネートの他の例である。また、Bayer Corporation(Pittsburgh,PA)製のDESMODUR N-3300、DESMODUR N-3600、DESMODUR Z-4470、DESMODUR H、DESMODUR N3790、及びDESMODUR XP 2410、並びにビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタンも、本発明において好適である。これらの化合物は、ビウレット構造を有してもよく、脂肪族置換基及び芳香族置換基の両方を有してもよい。好適な構造としては、Bayer Corporation(Pittsburgh,PA)製のDESMODUR N-100、DESMODUR N-75、及びDESMODUR N-3200などの、ヘキサメチレンジイソシアネートホモポリマー;
例えば、DESMODUR I(Bayer Corporation)として入手可能な、3-イソシアナトメチル-3,4,4-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート;例えば、DESMODUR W(Bayer Corporation)のような、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、並びに下式;
【0026】
【化5】
のジイソシアネートトリマー;が挙げられる。
ジイソシアネートトリマー(Va~Vd)は、例えば、それぞれ、Bayer CorporationからDESMODUR Z4470、DESMODUR IL、DESMODUR N-3300及びDESMODUR XP2410として入手可能である。
【0027】
用語「ポリイソシアネートからの残基」は、-NCO基が除去されたときに生じるポリイソシアネート化合物の部分を定義するものである。例えば、構造OCN-(CH-NCOでは、残基Aは、-(CH-である。このような残基は、二価、三価、又は四価を含む少なくとも二価の構造であり、直鎖状若しくは分枝鎖状C~C20のアルキレン基、アリール基、脂環式基、アロファネート基、ウレトジオン基、イソシアヌレート基、イミノオキサジオジンジオン基、又はこれらの混合などの官能基を含んでもよい。この場合、ウレトジオン基、アロファネート基、イソシアヌレート基、及びイミノオキサジオジンジオン基は、ポリイソシアネートの二量体化、三量体化、又は重合から生じる。
【0028】
フッ素化エステル化合物は、末端基として複数のフルオロアルキルチオエーテル基を有する。これらの末端基は、非ポリマー分枝鎖構造の一部であり、又はポリマー繰り返し単位のペンダント基である。一実施形態では、Rは、1つ以上の-CH-、-CFH-、エーテル酸素-O-、又はこれらの組み合わせによって任意選択的に中断されている、炭素原子が4~12個の、直鎖又は分枝鎖状ペルフルオロアルキル基であり;別の実施形態では、Rは、1つ以上の-CH-、-CFH-、エーテル酸素-O-、又はこれらの組み合わせによって任意選択的に中断されている、炭素原子が4~6個の、直鎖又は分枝鎖状ペルフルオロアルキル基である。フッ素化エステル化合物を形成するために使用されるフッ素化ヨウ化物の例としては、C(CHOH、C13(CHI、C17(CHI、CI、C13I、C17I、CCHCHCHI、C13CHCHCHI、CCHI、C13CHI、CCHCFCHCHI、C13CHCFCHCHI、CCHCFCHCFCHCHI、C13CHCFCHCFCHCHI、COCFCFCHCHI、COCFCFCHCHI、CFOCFCFCHCHI、C(OCFCFCHCHI、C(OCFCFCHCHI、CF(OCFCFCHCHI、COCHFCFOCHCHI、COCHFCFOCHCHI、CFOCHFCFOCHCHCHI、COCHFCFOCHCHCHI、COCHFCFOCHCHCHI、CFOCHFCFOCHCHI、CCHCHCFCFCHCHI、HCF(CFCHI、HCF(CFCHI、HCF(CFCHI、及びこれらの類似の変形体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
有機基Yは、フッ素化チオエーテル基を一緒に連結する、二価、三価、又は四価の構造である。一実施形態では、Yは、-(CHC(R)(OH)(CH-、中断されていないC~C20の直鎖状又は分枝鎖状アルキレン、-C(O)-C(O)-、
-C(O)-(CH-S-(CH-S-(CH-C(O)-、
-C(O)-(CH-O-(CH-O-(CH-C(O)-
-C(O)-(CH-S-C(R)(R)-S-(CH-C(O)-、
-C(O)-(CH-O-C(R)(R)-O-(CH-C(O)-、-C(O)NH-A-NHC(O)-;[式中、zは、1~4の整数であり;rは、1~20の整数であり、Rは、H、直鎖状又は分枝鎖状C~Cのアルキル基、又はアリール基であり;Rは、H、直鎖状又は分枝鎖状C~Cのアルキル基、又はアリール基であり、Aは、ポリイソシアネートからの残基である]からなる群から選択される。一実施形態では、zは、1又は2である。一実施形態では、rは、1~10であり、別の実施形態では、rは、1~6である。一実施形態では、R及びRは、独立して、直鎖状又は分枝鎖状C~Cのアルキル基である。別の実施形態では、R及びRは、両方ともHである。一態様では、zは、1であり、Rは、Hである。別の態様では、zは、2であり、Rは、CHであり、Rは、CHCH(CHである。
【0030】
フッ素化エステル化合物は、コーティング添加剤として有用であり、フッ素化エステル化合物は、基材に塗布されるコーティングベースに添加され得る。フッ素化エステル化合物は、直接添加されてもよく、又は、水性分散液、水性エマルションの形態で添加されてもよく、若しくは有機溶媒溶液に添加されてもよい。一態様では、組成物は、コーティングベースとフッ素化エステル化合物との合計重量(100%に等しい)に基づいて、約95~99.98%の量のコーティングベースと、約0.02~5重量%の量のフッ素化エステル化合物と、を含む。
【0031】
上記したように、コーティングベースは、表面に持続性フィルムを作製する目的のために後に基材に塗布される、水分散コーティング、エポキシポリマーコーティング、アルキドコーティング、I型ウレタンコーティング、又は不飽和ポリエステルコーティングの液体配合物である。一実施形態では、コーティングベースは、水性アクリル系ラテックス塗料の形態の水分散コーティングである。コーティングベースは、従来の液体コーティング中に見られる溶媒、顔料、充填剤、及び機能性添加剤を含む。典型的には、コーティングベースは、10~60重量%の樹脂化合物、及び0.1~80重量%の機能性添加剤(顔料、充填剤、及び他の添加剤を含む)を含み得、コーティングベース組成物の残部は、水又は溶媒である。建築用コーティングに関して、樹脂化合物は、約30~60重量%の量であり、機能性添加剤(顔料、増量剤、充填剤、及び他の添加剤を含む)は、0.1~60重量%の量であり、残部は、水又は溶媒である。
【0032】
コーティング組成物は、顔料も含み得る。このような顔料は、コーティングベース配合物の一部であり得、又は後に添加され得る。任意の顔料が、本発明で用いられ得る。用語「顔料」は、本明細書で使用するとき、使用時に粒子状で実質的に不揮発性の、不透明にするか又は不透明にしない成分を意味する。顔料は、本明細書で使用するとき、顔料と表記される成分を含むだけではなく、典型的には、コーティング業界で不活性成分、増量剤、充填剤と表記される成分及びこれらに類似した物質も含む。
【0033】
本発明に使用することができる代表的な顔料としては、ルチル及びアナターゼTiO、カオリン粘土などの粘土、アスベスト、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化クロム、硫酸バリウム、酸化鉄、酸化スズ、硫酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカ、ドロマイト、硫化亜鉛、酸化アンチモン、二酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、クロム酸鉛、クロム酸亜鉛、チタン酸ニッケル、珪藻土、ガラス繊維、ガラス粉末、ガラス球、MONASTAL Blue G(C.I.Pigment Blue 15)、モリブデン酸塩Orange(C.I.Pigment Red 104)、Toluidine Red YW(C.I.Pigment 3)プロセス凝集結晶、Phthalo Blue(C.I.Pigment Blue 15)セルロースアセテート分散液、Toluidine Red(C.I.Pigment Red 3)、Watchung Red BW(C.I.Pigment Red 48)、Toluidine Yellow GW(C.I.Pigment Yellow 1)、MONASTRAL Blue BW(C.I.Pigment Blue 15)、MONASTRAL Green BW(C.I.Pigment Green 7)、Pigment Scarlet(C.I.Pigment Red 60)、Auric Brown(C.I.Pigment Brown 6)、MONASTRAL Green G(C.I.Pigment Green 7)、MONASTRAL Maroon B、MONASTRAL Orange、及びPhthalo Green GW 951が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
二酸化チタン(TiO)は、本発明で使用するのに好ましい顔料である。本発明において有用な二酸化チタン顔料は、ルチル又はアナターゼ結晶形態であり得る。二酸化チタン顔料は、一般的に、塩化物法又は硫酸塩法のいずれかによって作製される。塩化物法では、TiClを酸化させてTiO粒子にする。硫酸塩法では、硫酸及びチタン含有鉱石を溶解させ、得られる溶液を一連の工程に供してTiOを得る。硫酸塩法及び塩化物法はいずれも、「The Pigment Handbook」、Vol.1,2nd Ed.,John Wiley&Sons,NY(1988)により詳細に記載されており、その教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0035】
フッ素化エステル化合物は、錯体化合物組成物とコーティングベースとを十分に接触させる(例えば、混合する)ことによって、コーティングベースに効果的に導入される。錯体化合物とコーティングベースとの接触は、例えば都合がよいことに、室温で実施できる。機械式振盪器を使用する、又は熱を与えるなどによる、より綿密な接触又は混合法も利用できる。このような方法は、通常は必要ではなく、通常は最終コーティング組成物を実質的に向上させない。
【0036】
本発明の錯体化合物は概して、湿潤塗料の重量に対するポリマー化合物の乾燥重量ベースで、約0.02重量%~約5重量%で添加される。一実施形態では、約0.02重量%~約0.5重量%が使用され、第3の実施形態では、約0.05重量%~約0.25重量%の錯体化合物が、塗料に添加される。
【0037】
別の実施形態では、本発明は、基材及びその基材上の乾燥コーティングを含む、物品であって、乾燥コーティングが、(a)水分散コーティング、エポキシポリマーコーティング、アルキドコーティング、I型ウレタンコーティング、又は不飽和ポリエステルコーティングから選択されるコーティングベースと、(b)複数のフルオロアルキルチオエーテル基を有するフッ素化エステル化合物と、を含む組成物の乾燥から生じ、当該のフッ素化エステル化合物が、式(I)、式II)、式(III)、又は式(IV)[式中、フッ素化エステル化合物の数平均分子量は、≦30,000Daであり;Rは、直鎖状又は分枝鎖状C~Cのアルキル基であり;tは、2~4の整数であり;nは、≧3の整数であり;xは、独立して、1~4の整数であり;yは、独立して、1~10の整数であり;Yは、C~C20のアルキレン基、カルボニル基、チオエーテル基、アリール基、エーテル基、ヒドロキシル基、及びこれらの混合からなる群から選択される、二価、三価、又は四価である直鎖状又は分枝鎖状有機基であり、Rは、独立して、炭素原子が2~20個の、直鎖又は分枝鎖状ペルフルオロアルキル基であり、1つ以上のCH、CFH、エーテル酸素-O-、又はこれらの組み合わせによって任意選択的に中断されている]から選択される、物品に関する。
【0038】
本発明のコーティング組成物は、広範な基材に対して、保護及び/又は化粧コーティングをもたらすのに有用である。このような基材としては、主に建築資材及び硬質表面が挙げられる。基材は、好ましくは、木、金属、壁板、石垣、コンクリート、繊維板、及び紙からなる群から選択される。他の材料も基材として使用してよい。コーティング組成物を基材と接触させる任意の方法が使用できる。刷毛、噴霧、ローラー、ドクターブレード、ワイプ、浸漬、泡、液体注入、液浸、又はキャスティングなどのこのような方法は、当業者に公知である。
【0039】
本発明の組成物は、コーティングに性能及び耐久性を提供する。これらは、コーティングフィルムに、水接触角及び油接触角の増加、汚れ付着耐性の向上、並びに洗浄性の改善といった、予想外に望ましい表面効果を付与する。これらの理由により、本発明の組成物は、屋外用コーティング及び塗料において特に有用である。
【0040】
材料及び試験方法
全ての溶媒及び試薬は、特に指示がない限り、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入し、供給された状態のまま直接使用した。
【0041】
ペルフルオロヘキシルエチルヨーダイド及びCAPSTONE FS-61は、The Chemours Company(Wilmington DE)から入手した。CAPSTONE FS-61は、部分フッ素化アルコール/P反応生成物のアンモニウム塩である。
【0042】
試験方法
塗料中の添加剤の投入及び試験パネルへの塗布
本発明のフルオロアクリルコポリマーの水性分散液を、選択した市販の屋外用ラテックス塗料(添加前はフルオロ添加剤を含まない)に、350ppm又は1000ppmのフッ素濃度で添加した。サンプルを、オーバーヘッドコウレスブレードスターラーを用いて、600rpmで10分間混合した。続いて、混合液をガラス瓶に移し、封をして、ロールミル上に一晩置き、フルオロポリマーを均一に混合させた。次いで、5mLバードアプリケータを用いたBYK-Gardnerドローダウン装置によって、サンプルを、Aluminium Q-panel(4”×12”)の上に均一に引き出した。続いて、塗膜を室温で7日間乾燥させた。
【0043】
試験方法1.接触角測定による撥油性及び撥水性の評価
油接触角及び水接触角の測定値を使用し、塗膜の表面へのフッ素添加剤の移動を調べた。乾燥塗膜でコーティングされた1インチのLenetaパネルのストリップに対して、油接触角及び水接触角試験をゴニオメータで行った。自動分注システム、250μLのシリンジ、及び照明付き試料ステージアセンブリを備えた、DROPimageの標準的ソフトウェアを利用する、Rame-Hart Standard Automated Goniometer Model 200を使用した。ゴニオメータのカメラをインターフェイスによりコンピュータにつなぎ、コンピュータスクリーン上に液滴を表示させた。横軸線及び交差線の両方を、ソフトウェアを使用して、コンピュータスクリーン上で独立して調整できた。
【0044】
接触角測定に先立ち、サンプルをサンプルステージに置き、縦型スケールを、サンプルの水平面に一致する接眼部の横線(軸)に揃うように調節した。サンプル界面において、試験液滴の界面領域の一方が見えるように、接眼部に対してステージの水平位置を配置した。
【0045】
サンプル上の試験液の接触角を測定するため、30μLのピペットチップ、及び較正した量の試験液を移動させるための自動分注システムを用いて、おおよそ1滴の試験液をサンプル上に分注した。油接触角測定には、ヘキサデカンを適宜使用した。ステージを調節してサンプルの水平合わせを行った後、Model 200の場合はソフトウェアによって横線及び交差線を調整し、液滴の外観モデルに基づいて、コンピュータが接触角を算出した。初期接触角は、試験液をサンプル表面に分注した直後に測定した角度である。30度を超える初期接触角は、有効な撥油性を示す。
【0046】
試験方法2.屋外用塗料に対する汚れ付着耐性(DPR)試験
DPR試験を用いて、塗布パネルの汚れ蓄積を防止する能力を評価した。シリカゲル(38.7%)、酸化アルミニウム粉末(38.7%)、黒酸化鉄粉末(19.35%)及びランプブラック粉末(3.22%)から構成される人工乾燥汚れをこの試験に使用した。粉塵成分を混合し、完全に混合するためにローラー上に48時間置き、デシケータ内で保管した。
【0047】
屋外用塗料サンプルを、1.5”×2”の寸法に切断したアルミニウムQパネルに引き出し、これらのサンプルを4枚複製して、4”×6”の金属パネルにテープで留めた。各Qパネルの初期白色度(L initial)を、Hunter Lab測色計を用いて測定した。次に、4”×6”の金属パネルを、木製ブロックに切り込みを入れた45度の角度のスロットに挿入した。金属製の網を備える粉塵アプリケータにより、パネルが完全に粉塵で覆われるまで、パネルに粉塵をまいた。続いて、浅型トレイ内で、木製ブロックに取り付けたパネルを軽く5回たたいて、過剰の粉塵を除去した。次に、粉塵を付けたパネルを有する4”×6”のパネルを、Vortex-Genie 2に60秒間固定し、残っている全ての粉塵を除去した。続いて、パネルを取り外し、10回たたいて残っている全ての粉塵を取り除いた。各1.5”×2”のサンプルの白色度(L dusted)を、同じ測色計を用いて再測定し、粉塵付け前後の白色度の差を記録した。この値を平均した。DPRは、ΔL=(L initial-L dusted)のときのΔLについて評価した。ΔL値が低いほど、汚れ付着耐性が良好であることを示す。
【0048】
試験方法3.DPR及び油接触角耐久性に関する耐候性(WOM)
コーティングされたQパネルの促進耐候試験は、ATLAS Ci5000 Xenon Lamp Weather-o-Meterにおいて実施された。キセノンランプは、S型ボロ内側及び外側フィルタを備えていた。耐候サイクルは、D6695、サイクル2に応じて実行された。耐候性期間の間、パネルは、18分の光及び水の噴霧、並びにそれに続く102分の光のみを含む、繰り返された2時間のプログラムを受けた。プログラム全体の間、パネルは63℃で保持され、紫外線のみの間、部分相対湿度が50%で保持された。
【0049】
24時間WOMプログラムに関して、新たにコーティングされたアルミニウムQパネルは、7日間空気乾燥させた。各Qパネルの初期白色度(Linitial)を、Hunter Lab測色計を用いて測定した。1組のパネルは、DPR試験(試験方法2に従って)並びに油接触角及び水接触角試験(試験方法1に従って)を受けた。同一の組のパネルは、耐候試験機内に置かれて、上の説明に従って12の連続する2時間のサイクルを通過させた。耐候サイクルの完了後、パネルは、乾燥され、試験方法1及び2に従って評価され、DPRを再び受けた。
【0050】
第1の人工乾燥汚れ塗布(初期)後に測定値を記録していき、24時間WOMについては、第1の人工乾燥汚れ塗布(1日目の第1の粉塵)後に、24時間WOMのために清浄に保った後に第1の人工乾燥汚れ塗布(1日目の新たな粉塵)を行ったパネル上でと、1日目の第1の粉塵パネル上に第2の人工乾燥汚れ塗布(1日目の第2の粉塵)を行ったパネル上でとし、1日目の第2の粉塵パネル(3日目の第2の粉塵)の48時間WOMについては、3日目の第2の粉塵パネル上に第3の人工乾燥汚れ塗布(3日目の第3の粉塵)を行ったパネル上でとした。
【0051】
試験方法4.サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)
屈折率検出器及び蒸発光散乱検出器(Polymer Laboratories)によるPL220GPCシステムを35℃で使用して、Dalton単位の分子量及び多分散度を測定した。屈折率検出器からの値を選択した。カラムセット:3つのPSS 5μmのSDV、300×8mmと、1つのPSS 5μmのガードカラム。HPLCグレードのTHF(安定化していないもの、OmniSolv)を、流速1mL/分で、溶離液として使用した。サンプルの分子量及び多分散性を、ポリスチレン標準(Agilent EasiVials:High Green、Medium Red及びGreen、Low Yellow;較正範囲、400Dalton~1,000,000Dalton)に対して計算した。
【実施例
【0052】
調製1:フッ素化3-チオプロピオン酸
【0053】
【化6】
1Lのフラスコに、熱電対、機械的撹拌棒、還流凝縮器、窒素入口、及び滴下漏斗を備えた。反応器フラスコに、ペルフルオロヘキシルエチルヨーダイド(173g)、イソプロパノール(158g)、及び3-チオプロピオン酸(42.7g)を加えて、混合物を加熱し、80℃で還流させた。80℃の温度を維持しながら、KCO水溶液(83.5gの水中に57g)を滴下した。出発材料のヨウ化物が全く検出されなくなるまで、混合物を、更に5.5時間、還流状態に保持した。混合物を40℃未満まで冷却して、HCl水溶液(220gの水中に41gのHCl)で徐々に中和した。混合物を、更に15分間、50℃で攪拌した。有機材料を抽出し、溶媒を蒸留により除去して、化合物C13CHCHSCHCHCOOHを得た。
【0054】
調製2:ヒドロキシ官能性フッ素化ジエステル及びジヒドロキシ官能性フッ素化モノエステル
【0055】
【化7】
短行程蒸留装置、窒素入口、温度計、及び磁気撹拌子を備えた、200mLの2つ口丸底フラスコに、2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(5g、37.3mmol)、調製1からのF13CHCHSCHCHCOOH(33.7g、74.6mmol)、及びp-トルエンスルホン酸(0.300g、1.58mmol)を添加した。混合物を160℃まで加熱し、その間に副生成物の水を回収フラスコ内に回収した。6時間後、反応物を室温まで冷却し、次にカラムクロマトグラフィ(エチルアセテート:ヘキサン=1:10、1:7.5、1:6、1:5、1:4)により精製した。トリフルオロエステル(12.16g、23%)、ヒドロキシ官能性フッ素化ジエステル(15.26g、41%)、及びジヒドロキシ官能性フッ素化モノエステル(3.04g、14%)を単離した。
【0056】
比較例A
記載の試験方法に従って屋外用塗料について両方試験するために、計算量のCAPSTONE FS-61(350ppmのF)を、実施例と並行して使用した。
【0057】
比較例B
添加剤なしの屋外用塗料を、記載の試験方法に従って試験した。
【0058】
(実施例1)
【0059】
【化8】
1Lのジャケット付きバッフル反応器に、熱電対、オーバーヘッド撹拌機、還流凝縮器、及びN供給源を装備した。反応器に、ペルフルオロヘキシルエチルヨーダイド(178.0g、50gのメチルイソブチルケトンですすぎ)と、2-エチル-2-(((3-メルカプトプロパノイル)オキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイルビス-(3-メルカプトプロピオネート)(50.0g、50gのメチルイソブチルケトンですすぎ)と、メチルイソブチルケトン(MIBK、400g)とを、順次添加した。この混合物を、室温で撹拌した。1.5時間後、KCO(69.4g)及びテトラブチルアンモニウムヨーダイド(1.8g、5mmol)を、反応器に添加した。反応混合物を100℃まで加熱して、N下で攪拌した。反応混合物を真空下で濃縮して、シリカカラム(溶離液としてエチルアセテート:ヘキサン=1:10、1:7、1:5、1:4)で精製した。H NMR分析をCDClにて実施して、チオアセタール構造を確認した。1.76gの生成物を3.3gのMIBKに溶解して、1.75gの1%ナトリウムラウリルサルフェート溶液を8.8gの水とともに添加することによって、最終生成物を分散させた。混合物を2回、各々1分間、超音波処理して、次にMIBKを真空により除去した。分散体を1000ppmで投入して、上記試験方法に従って試験した。
【0060】
(実施例2)
【0061】
【化9】
窒素入口及び磁気撹拌子を備えた100mLの丸底フラスコに、調製2のヒドロキシ官能性フッ素化ジエステル(3.7g、3.69mmol)及びジクロロメタン(50mL)を添加した。溶液を、0℃まで冷却した。オキサリルクロリド(156μL、1.84mmol)及びトリエチルアミン(772μL、5.54mmol)を添加して、混合物を0℃で1時間撹拌した後、室温に到達させた。混合物を、一晩攪拌した。その後、反応混合物を50mLの水で分液し、層を分離した。下方の有機層を真空にて濃縮して、残留物をシリカカラム(溶離液としてエチルアセテート:ヘキサン=1:5、1:3、1:1)で精製した。オキサリルジエステルを回収して、MIBK(3.18g)に溶解し、1%ナトリウムラウリルサルフェート溶液(1.12mL)を水(4mL)とともに添加することによって、分散させた。H NMR分析をCDClにて実施して、構造を確認した。混合物を2回、各々1分間、超音波処理して、次にMIBKを真空により除去した。分散体を1000ppmで投入して、上記試験方法に従って試験した。
【0062】
(実施例3)
【0063】
【化10】
内部温度計、還流凝縮器、及び窒素入口を備えた100mLの2つ口丸底フラスコに、調製2のジヒドロキシ官能性フッ素化モノエステル(1.455g、2.56mmol)及び1,6-ジイソシアネート(0.431g、2.56mmol)、続いて10mLのMIBKを添加した。混合物に塩化鉄(III)(0.001g)を添加して、混合物を、磁気撹拌しながら80℃まで7時間かけて加熱した。その後、水酸化アンモニウム(337μL)を添加して、混合物を、撹拌しながら室温に到達させた。20mLのMIBK及び20mLの水を混合物に添加して、層を分離した。有機層を濃縮して、残留物をCHClに溶解した。溶液を綿栓に通し濃縮して、1.79gの黄色液体を得た。Mを試験方法4により測定すると、2518Daであった。
【0064】
1.74gの生成物をメチルイソブチルケトン(MIBK、5g)に溶解し、次に1%ナトリウムラウリルサルフェート溶液(1.8mL)と水(4.5mL)とを添加することによって、分散させた。混合物を2回、1分間で超音波処理し、溶媒を分散体から留去した。分散体を1000ppmで投入して、上記試験方法に従って試験した。
【0065】
(実施例4)
【0066】
【化11】
還流凝縮器、窒素入口、及び内部温度計を備えた100mLの2つ口丸底フラスコに、1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキシル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン(0.415g、0.822mmol)、調製2からのヒドロキシ官能性フッ素化ジエステル(2.472g、2.466mmol)、及びメチルイソブチルケトン(10mL)を添加した。この混合物に塩化鉄(III)(0.005g、0.031mmol)を添加し、最終混合物を80℃まで66時間かけて加熱した。次に、混合物を室温まで冷却して、1mLの水を添加し、反応をクエンチした。混合物を1時間撹拌して、真空下で濃縮した。残留物をメチレンクロリド(25mL)と水(25mL)とで分液した。有機層を綿栓により濾過し濃縮して、2.82gの粗生成物を得た。カラムクロマトグラフィ(ヘキサン:エチルアセテート=5:1、3:1)による精製で、0.853gの生成物を得た。
【0067】
H NMR分析をCDClにて実施して、構造を確認した。0.500gの生成物をメチルイソブチルケトン(MIBK、4g)に溶解し、次に1%ナトリウムラウリルサルフェート溶液(0.505mL)と水(4.2mL)とを添加することによって、分散させた。混合物を2回、各々1分間、超音波処理して、MIBKを蒸留により除去した。分散体を1000ppmで投入して、上記試験方法に従って試験した。
【0068】
【表1】
より低い数は、より良い性能を示す。
【0069】
【表2】
**より高い数は、より良い性能を示す。