IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クエスト ダイアグノスティクス インベストメンツ インコーポレイテッドの特許一覧

特許7086122生物学的試料中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の検出
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】生物学的試料中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の検出
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20220610BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220610BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220610BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020018396
(22)【出願日】2020-02-06
(62)【分割の表示】P 2016516533の分割
【原出願日】2014-09-22
(65)【公開番号】P2020078324
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2020-03-06
(31)【優先権主張番号】61/881,234
(32)【優先日】2013-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514005216
【氏名又は名称】クエスト ダイアグノスティクス インベストメンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(72)【発明者】
【氏名】アイ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ナイル,ラクシュミー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンセント,ヘザー
(72)【発明者】
【氏名】マイ,フォン
(72)【発明者】
【氏名】タッブ,ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】エクスナー,モーリス
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/048583(WO,A1)
【文献】特表2016-531550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/68-1/6897
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の存在を決定するためのプライマーのセットの使用であって、
(a)生物学的試料を、
(i)黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸のセグメントが存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第1のプライマー対であって、第1のプライマー対の一方のプライマーは配列番号2を含む、第1のプライマー対
(ii)標的mecC核酸のセグメントが存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第2のプライマー対、及び
(iii)標的mecA核酸のセグメントが存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第3のプライマー対
と接触させて、反応-試料混合物を得るステップであって、各プライマー対の少なくとも一つのプライマーにフルオロフォア標識が付随しているステップ、
(b)生物学的試料中に存在する標的核酸のそれぞれが増幅されて蛍光シグナルを生ずるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件に、反応-試料混合物を供するステップ、
(c)各フルオロフォアによって生じた蛍光シグナルの量を測定するステップ、並びに
(d)黄色ブドウ球菌特異的標的核酸並びにmecA及びmecC標的核酸からの蛍光の量を比較することによってMRSAの存在を決定するステップ
を含む、使用。
【請求項2】
配列番号2を含むプライマーがプライマーの5'末端にプローブ配列エレメントを含むプライマー-プローブであり、該プローブ配列エレメントがフルオロフォア及びクエンチャーをさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
第1のプライマー対のプライマー-プローブが、フルオレセインアミダイトフルオロフォアを含む、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
(a)第1のプライマー対が、配列番号1を含む第1のプライマー及び配列番号2を含む第2のプライマーからなり、及び/又は
(b)第2のプライマー対が、配列番号4を含む第1のプライマー及び配列番号5を含む第2のプライマーからなり、及び/又は
(c)第3のプライマー対が、配列番号7を含む第1のプライマー及び配列番号8を含む第2のプライマーからなる、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
配列番号5を含むプライマーがプライマーの5'末端にプローブ配列エレメントを含むプライマー-プローブであり、該プローブ配列エレメントがフルオロフォア及びクエンチャーをさらに含む、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
配列番号8を含むプライマーがプライマーの5'末端にプローブ配列エレメントを含むプライマー-プローブであり、該プローブ配列エレメントがフルオロフォア及びクエンチャーをさらに含む、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
第2及び第3のプライマー対のプライマー-プローブが、可視スペクトルの赤色領域において蛍光を発するキサンテン色素を含む、請求項5又は6に記載の使用。
【請求項8】
全てのプライマー対が、生物学的試料と接触させる前に、DNAポリメラーゼ、dNTP及びPCR緩衝液をさらに含む増幅マスターミックスに一緒に含まれている、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
ステップ(a)が、生物学的試料を、対照標的核酸のセグメントにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第4のプライマー対と接触させるステップをさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸が、spa、agr、sspプロテアーゼ、sir、sodM、cap、coa、アルファ溶血素、ガンマ溶血素、femA、Tuf、ソーターゼ(sortase)、フィブリノゲン結合タンパク質、clfB、srC、sdrD、sdrE、sdrF、sdrG、sdrH、NADシンセターゼ、sar、sbi、rpoB、ジャイレースA、及びorfXからなる群から選択される遺伝子配列の全て又は一部を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸がspaである、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
(i)蛍光シグナルが黄色ブドウ球菌特異的標的核酸並びにmecA及び/又はmecC核酸の両方に関して検出され、且つ
(1)黄色ブドウ球菌特異的標的核酸からの閾値サイクル数(Ct)引くmecA及び/又はmecC核酸からのCt≦1.9かつ≧-1.9、又は
(2)黄色ブドウ球菌特異的標的核酸からのCt引くmecA及び/又はmecC核酸からのCt>1.9
である場合、MRSAが生物学的試料中に存在すると決定され;
(ii)Ctが黄色ブドウ球菌特異的標的核酸並びにmecA及び/又はmecC核酸の両方に関して検出され、且つ黄色ブドウ球菌特異的標的核酸からのCt足す1.9<mecA及び/又はmecC核酸からのCtである場合、黄色ブドウ球菌及びメチシリン耐性遺伝子が生物学的試料中に存在すると決定され;又は
(iii)蛍光シグナルが黄色ブドウ球菌特異的標的核酸配列に関して検出されるが、蛍光シグナルがmecA及びmecCに関して検出されない場合、生物学的試料中に黄色ブドウ球菌が存在すると決定され、MRSAが存在しないと決定される、
請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、病原体検出の方法に関する。特に、本発明は、生物学的試料中の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及びメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA: methicillin-resistant Staphylococcus aureus)を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の記載は、読者の理解を補助するために提供される。提供された情報又は引用された参照のいずれも、本発明への先行技術であると認められない。
【0003】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)は、皮膚感染症(例えば毛包炎、麦粒腫、蜂巣炎、膿痂疹、及びフルンケル症)、肺炎、乳腺炎、静脈炎、髄膜炎、熱傷様皮膚症候群、骨髄炎、尿路感染症、及び食中毒を含めた、ヒトにおける様々な状態の原因である。さらに、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、外科的創傷の院内(HA又は病院内)感染などの院内感染の主要な原因の1つであるので、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は、それを医療の場におけるますます大きな問題であると認めた。
【0004】
MRSAは、最も猛威をふるっている2つの抗生物質耐性病原体のうちの1つであり、もう1つはバンコマイシン耐性腸球菌(enterococcus)である(Society for Healthcare and Epidemiology, SHEA guidelines 2003)。集中治療室における50%を超える病院内感染がMRSAが原因である(National Nosocomial Infections Surveillance System, NNIS report, January 1992-June 2004)。したがって、MRSAは、公衆衛生への重大な脅威となっている。
【0005】
メチシリン耐性は、βラクタム抗生物質への低親和性を示すペニシリン結合性タンパク質(PBP2a又はPBP2')をコードする外来性遺伝子mecAの獲得によって引き起こされる(Wielders and Fluit, 2002)。mecAは、ブドウ球菌カセット染色体mec(SCCmec)と称される可動遺伝エレメントによって運ばれ、これは、このエレメントの可動性に必要なリコンビナーゼをコードするccr遺伝子複合体も含む。SCCmecカセットは、黄色ブドウ球菌ゲノムの内外に動くことができる大きなエレメントである。
【0006】
mecA遺伝子は、黄色ブドウ球菌よりも病原性が少ないコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)株においても見出される。これらの株は、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)、S.ヘモリチカス(S.haemolyticus)、S.サプロフィティカス(S.saprophyticus)、S.カピティス(S.capitis)、S.ワーネリ(S.warneri)、S.スキウリ(S.sciuri)及びS.カプラエ(S.caprae)を含む。ブドウ球菌のこれらの他の株のいくつかは、前鼻孔及び皮膚などの黄色ブドウ球菌と同じ環境に生息する。したがって、鼻スワブ又は創傷スワブなどの臨床試料は、1つを超えるブドウ球菌種の混合物を潜在的に含有し得る。したがって、mecAを検出するだけでは、MRSAを臨床試料から直接同定するのに十分ではない。MRSAの同定は、その増加した病原性及び毒性のために、他のブドウ球菌種よりも大きな臨床的意義があるので、MRSAをmecA遺伝子を含む他のブドウ球菌株から識別する診断アッセイを有することが望まれる。
【0007】
より最近になって、mecCと称されるさらなるmec遺伝子が発見され、これもベータラクタム耐性を与える。以前は、初期の刊行物においてmecA相同体と称されていたmecC(GenBank受託番号FR821779)は、SCCmec XIエレメント(GenBank受託番号FR823292)上に存在している。mecC遺伝子は、ヒト及びウシの黄色ブドウ球菌において報告されており、これは、mecAによってコードされるPBP2aと63%未満のaa同一性を有するタンパク質をコードする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Society for Healthcare and Epidemiology, SHEA guidelines 2003
【文献】National Nosocomial Infections Surveillance System, NNIS report, January 1992-June 2004
【文献】Wielders and Fluit, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
院内感染(HA)MRSAは、通常、患者及び職員を感染に関してモニターすることによって制御される。接触予防策及び/又は患者隔離が、感染が生じた場合又は特にリスクがある個体への感染を妨げるために適切であり得る。市中感染(CA)MRSAの蔓延も増加している。CA-MRSAは、MRSA感染に関する既知のリスク因子(例えば最近の入院、感染患者との接触)を有さない人間に感染したMRSAと定義される。MRSAの迅速且つ確実な同定が感染患者の診断及び処置のために、並びに院内感染制御手順の実行及び管理のために重要になってきたので、黄色ブドウ球菌の存在、特に、MRSAの存在を検出する診断アッセイを有することが望まれる。加えて、検出系とは別個のフロントエンド標本調製(front-end specimen preparation)プロセスを必要としないようなアッセイを有することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
生物学的試料中のMRSAを検出するための方法及びキットが本明細書で提供される。特に、記載された方法は、3つのマーカー核酸配列の存在をスクリーニングすることによるMRSAの陽性同定に関する。本方法は、未処理の生物学的試料に行われてもよく、直接的な、能率化されたサンプル-トゥー-アンサープロセス(sample-to-answer process)をもたらす。
【0011】
生物学的試料中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の有無を決定するための開示された方法は、
(a)生物学的試料を、
(i)黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸が存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第1のプライマー対、
(ii)標的mecA核酸が存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第2のプライマー対、及び
(iii)標的mecC核酸が存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第3のプライマー対
と接触させて、
反応-試料混合物(reaction-sample mixture)を得るステップであって、各プライマー対の少なくとも一つのプライマーにフルオロフォア標識が付随しているステップ、
(b)生物学的試料中に存在する標的核酸のそれぞれが増幅されて蛍光シグナルを生ずるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件に、反応-試料混合物を供するステップ、
(c)各フルオロフォアによって生じた蛍光シグナルの量を測定するステップ、及び
(d)標的核酸の閾値サイクル数(cycle threshold)を比較することによってMRSAの有無を決定するステップであって、それによって
(i)蛍光シグナルが黄色ブドウ球菌特異的核酸並びにmecA及び/又はmecC核酸の両方に関して検出され、且つ
(1)黄色ブドウ球菌特異的核酸からの閾値サイクル数(Ct)引くmecA及び/又はmecC核酸からのCt≦1.9、又は
(2)黄色ブドウ球菌特異的核酸からのCt引くmecA及び/又はmecC核酸からのCt>1.9、且つmecA及び/又はmecC核酸からのCt足す1.9<黄色ブドウ球菌特異的核酸からのCt
である場合、MRSAが生物学的試料中に存在すると決定される、
(ii)蛍光シグナルが黄色ブドウ球菌特異的核酸並びにmecA及び/又はmecC核酸の両方に関して検出され、且つ黄色ブドウ球菌特異的核酸からのCt引くmecA及び/又はmecC核酸からのCt<1.9、且つ黄色ブドウ球菌特異的核酸からのCt足す1.9<mecA及び/又はmecC核酸からのCtである場合、黄色ブドウ球菌及びメチシリン耐性遺伝子が生物学的試料中に存在すると決定される、又は
(iii)蛍光シグナルが黄色ブドウ球菌特異的標的核酸に関して検出されるが、蛍光シグナルがmecA及び/又はmecCに関して検出されない場合、生物学的試料中に黄色ブドウ球菌が存在すると決定され、MRSAが存在しないと決定されるステップ
を含む。
【0012】
全てのプライマー対は、生物学的試料と接触させる前に、DNAポリメラーゼ、dNTP及びPCR緩衝液をさらに含む増幅マスターミックスに一緒に含まれていてもよい。さらに、増幅マスターミックスは、対照標的核酸にストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第4のプライマー対をさらに含んでもよい。
【0013】
一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸は、spa、agr、sspプロテアーゼ、sir、sodM、cap、coa、アルファ溶血素、ガンマ溶血素、femA、Tuf、ソーターゼ(sortase)、フィブリノゲン結合タンパク質、clfB、srC、sdrD、sdrE、sdrF、sdrG、sdrH、NADシンセターゼ、sar、sbi、rpoB、ジャイレースA、及びorfXからなる群から選択される遺伝子配列の全て又は一部を含む。特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸は、spaである。
【0014】
第1のプライマー対は、spa核酸配列に対するものでもよく、配列番号1を含む第1のプライマー及び配列番号2からなる第2のプライマーからなっていてもよい。mecA核酸配列に対する第2のプライマー対は、配列番号4を含む第1のプライマー及び配列番号6を含む第2のプライマーからなっていてもよい。mecC核酸に対する第3のプライマー対は、配列番号7を含む第1のプライマー及び配列番号9を含む第2のプライマーからなっていてもよい。
【0015】
各プライマー対の一方のプライマーは、その同じプライマー分子の一部としてプローブ配列エレメントを含んでもよく、これは、プライマー-プローブと称されるものをもたらす(例えばScorpion(商標)プライマー-プローブ)。プローブ配列は、典型的にはプライマーの5'末端に位置しており、バックグラウンド蛍光を減少させるためのクエンチャーが付随したフルオロフォアをさらに含んでもよい。PCR伸長後、合成された標的領域は、プローブと同じ鎖に結合している。変性時に、Scorpion(商標)のプローブ部分は、新たに生じたPCR産物の一部に特異的にハイブリダイズし、フルオロフォアをクエンチャーから物理的に分離し、それによって検出可能なシグナルを生ずる。一部の実施形態では、mecAプライマーのフルオロフォア及びmecCプライマーのフルオロフォアは、同一である。プライマー-プローブのフルオロフォアは、フルオレセインアミダイト(fluorescein amidite)(FAM)であってもよく、mecA及びmecC spa遺伝子のフルオロフォアは、可視スペクトルの赤色領域において蛍光を発するキサンテン色素であってもよい。
【0016】
生物学的試料は、1対以上のプライマー対と別個に又は同時に接触させられてもよい。接触が同時に生じる(すなわちマルチプレキシング)場合、第1、第2、及び第3のプライマー対の1対以上は、生物学的試料と及び互いに接触させられて、標的核酸配列を増幅する。任意選択で、内部陽性対照核酸及び内部陽性対照核酸に相補的な第4のプライマー対が増幅混合物に含まれてもよい。
【0017】
本明細書に記載の増幅を行うためのプライマー又はプライマー-プローブであり得るオリゴヌクレオチドを含むキットもまた提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、以下、及び明細書を通して記載されるいくつかの定義を使用して、本明細書に記載される。
【0019】
特に明記しない限り、本明細書で使用される単数形の用語は、複数形の参照を含む。したがって、例えば、「オリゴヌクレオチド」への参照は、複数のオリゴヌクレオチド分子を含み、「核酸」への参照は、1つ以上の核酸への参照である。
【0020】
本明細書で使用される「約」は、プラス又はマイナス10%を意味する。
【0021】
標的核酸にストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするプライマー対は、遺伝子の任意の部分にハイブリダイズし得る。結果として、プライマーがハイブリダイズする遺伝子の部分に依存して、遺伝子全体が増幅され得るか又は遺伝子のセグメントが増幅され得る。
【0022】
本明細書使用される「増幅」又は「増幅する」という用語は、標的核酸をコピーし、それによって、選択された核酸配列のコピーの数を増加させるための方法を含む。増幅は、指数関数的又は線形であってもよい。標的核酸は、DNA(例えば、ゲノムDNA及びcDNAなど)又はRNAであってもよい。この様式で増幅された配列は、「アンプリコン」を形成する。以下に記載された例示的な方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用した増幅に関するが、多数の他の方法が核酸の増幅に関して当技術分野で既知である(例えば、等温方法、ローリングサークル方法など)。当業者は、これらの他の方法がPCR法の代わりに又はこれと一緒に使用されてもよいことを理解しているだろう。例えば、Saiki, "Amplification of Genomic DNA" in PCR Protocols, Innisら, Eds., Academic Press, San Diego, CA 1990, pp 13-20;Wharamら, Nucleic Acids Res. 2001 Jun 1;29(11):E54-E54;Hafner,ら, Biotechniques 2001 Apr;30(4):852-860を参照されたい。
【0023】
ポリヌクレオチド(すなわち、オリゴヌクレオチド又は標的核酸などのヌクレオチドの配列)に関連して、本明細書で使用される「相補鎖」、「相補的」、又は「相補性」などの用語は、標準的なワトソン・クリック対合則を表す。1つの配列の5'末端が他方の3'末端と対になるような核酸配列の相補鎖は、「逆平行結合」にある。例えば、配列「5'-A-G-T-3'」は、配列「3'-T-C-A-5'」に相補的である。天然の核酸中に通常見出されないいくつかの塩基が、本明細書で記載される核酸に含まれてもよい;これらは、例えば、イノシン、7-デアザグアニン、ロックド核酸(LNA)、及びペプチド核酸(PNA)を含む。相補性は、完全である必要はなく、安定な二本鎖は、ミスマッチ塩基対、縮重塩基、又はマッチしてない塩基を含んでもよい。核酸テクノロジーの当業者は、例えば、オリゴヌクレオチドの長さ、塩基組成及びオリゴヌクレオチドの配列、イオン強度及びミスマッチ塩基対の出現率を含めたいくつかの変数を考慮して、二本鎖安定性を経験的に決定することができる。相補鎖配列は、DNA配列に相補的なRNAの配列又はその相補鎖配列でもあってよく、cDNAでもあってよい。本明細書で使用される「実質的に相補的な」という用語は、2つの配列が特異的にハイブリダイズすることを意味する(以下に定義されている)。当業者は、実質的に相補的な配列は、それらの全長に沿ってハイブリダイズする必要はないことを理解しているだろう。「完全な相補鎖」であるか、又は参照配列に「完全に相補的」である核酸は、完全な相補鎖である核酸の全長に沿って参照配列に(ワトソン・クリック対合則下で)100%相補的であるヌクレオチド配列からなる。完全な相補鎖は、参照配列へのミスマッチを含まない。
【0024】
試料中の標的核酸の存在を示すための検出可能な標識からのシグナルを検出する文脈において、本明細書で使用される「検出」という用語は、方法が、100%の感受性及び/又は100%の特異性を提供することを必要としない。よく知られているように、「感受性」は、その人間が標的核酸を有するならば、試験が陽性である可能性である一方、「特異性」は、その人間が標的核酸を有さないならば、試験が陰性である可能性である。少なくとも50%の感受性が好ましいが、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%及び少なくとも99%の感受性が明らかにより好ましい。少なくとも50%の特異性が好ましいが、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%及び少なくとも99%の感受性が明らかにより好ましい。検出は、偽陽性及び偽陰性を有するアッセイも包含する。偽陰性率は、1%、5%、10%、15%、20%又はさらにこれより高いこともある。偽陽性率は、1%、5%、10%、15%、20%又はさらにこれより高いこともある。
【0025】
核酸の文脈における「断片」は、少なくとも約5ヌクレオチド、少なくとも約7ヌクレオチド、少なくとも約9ヌクレオチド、少なくとも約11ヌクレオチド、又は少なくとも約17ヌクレオチドである一連のヌクレオチド残基を表す。断片は、典型的には、約300ヌクレオチド未満、約100ヌクレオチド未満、約75ヌクレオチド未満、約50ヌクレオチド未満、又は30ヌクレオチド未満である。いくつかの実施形態では、断片は、mRNA又はDNA分子の同一の又は関連する一部を同定する又は増幅するための、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、様々なハイブリダイゼーション手順又はマイクロアレイ手順において使用され得る。断片又はセグメントは、本発明の各ポリヌクレオチド配列をユニークに同定し得る。
【0026】
「ゲノム核酸」又は「ゲノムDNA」は、染色体由来のDNAの一部分又は全体を表す。ゲノムDNAは、インタクトであっても又は(例えば、当技術分野で既知の方法によって制限酵素で消化され)断片化されていてもよい。一部の実施形態では、ゲノムDNAは、単一遺伝子の全体又は一部由来の、又は複数の遺伝子由来の配列を含んでもよい。対照的に、「総ゲノム核酸」という用語は、ゲノム中に含まれる全DNAの全体(full complement)を表すために本明細書で使用される。様々な試料由来のDNA及び/又はRNAを精製する方法が当技術分野で周知である。
【0027】
本明細書で使用する、「マルチプレックスPCR」という用語は、同じ反応器内の2つ以上の産物の同時増幅を表す。各産物は、別個のプライマー対を使用して開始される。マルチプレックス反応は、検出可能な部分で標識されている各産物に特異的なプローブをさらに含んでもよい。
【0028】
本明細書で使用する、「オリゴヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド又はその任意の組合せで構成される短いポリマーを表す。オリゴヌクレオチドは、一般に、長さが少なくとも約10、11、12、13、14、15、20、25、40又は50から約100、110、150又は200ヌクレオチド(nt)、より好ましくは、長さが約10、11、12、13、14、又は15から約70又は85nt、最も好ましくは、長さが約18から約26ntである。ヌクレオチドに関する単一の文字コードは、U.S. Patent Office Manual of Patent Examining Procedure、2422節、表1に報告されているようなものである。この点について、ヌクレオチド名称「R」は、グアニン又はアデニンなどのプリンを意味し、「Y」は、シトシン又はチミジン(RNAの場合、ウラシル)などのピリミジンを意味し、「M」は、アデニン又はシトシンを意味する。オリゴヌクレオチドは、プライマーとして又はプローブとして使用されてもよい。
【0029】
本明細書で使用する、増幅のための「プライマー」は、標的ヌクレオチド配列に相補的であり、DNA又はRNAポリメラーゼの存在下でプライマーの3'末端へのヌクレオチドの付加をもたらすオリゴヌクレオチドである。プライマーの3'ヌクレオチドは、一般に、最適発現及び増幅のために、対応するヌクレオチド位置で標的核酸配列と同一であるべきである。本明細書で使用される「プライマー」という用語は、ペプチド核酸プライマー、ロックド核酸プライマー、ホスホロチオエート修飾プライマー、標識プライマーなどを含めた合成されていてもよいプライマーの全ての形態を含む。本明細書で使用する、「フォワードプライマー」は、dsDNAのアンチセンス鎖に相補的であるプライマーである。「リバースプライマー」は、dsDNAのセンス鎖に相補的である。「外来性プライマー」は、特に、増幅される試料核酸を含有する反応器に外部から加えられ、反応器中の増幅によって生成しないオリゴヌクレオチドを表す。フルオロフォア又は他の標識が「付随」しているプライマーは、いくつかの手段によって標識に結合されている。例は、プライマー-プローブである。
【0030】
プライマーは、典型的には、長さが少なくとも10、15、18、又は30ヌクレオチドから、長さが約100、110、125、又は200ヌクレオチド、好ましくは、長さが少なくとも15から約60ヌクレオチド、最も好ましくは、長さが少なくとも25から約40ヌクレオチドである。一部の実施形態では、プライマー及び/又はプローブは、長さが15から35ヌクレオチドである。最適ハイブリダイゼーション又はポリメラーゼ連鎖反応増幅のための標準的な長さはない。特定のプライマー適用のために最適な長さは、H. Erlich, PCR Technology, Principles and Application for DNA Amplification, (1989)に記載されている方法で容易に決定され得る。
【0031】
「プライマー対」は、両方が標的核酸配列に対するプライマーの対である。プライマー対は、フォワードプライマー及びリバースプライマーを含み、それらはそれぞれ、二本鎖標的核酸配列の異なる鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。フォワードプライマーは、dsDNAのアンチセンス鎖に相補的であり、リバースプライマーは、センス鎖に相補的である。プライマー対の一方のプライマーは、プライマー-プローブ(すなわち、ポリメラーゼブロッキング基によってプローブエレメントに共有結合しているPCRプライマーエレメントを含み、さらに、クエンチャーと相互作用するフルオロフォアを含み得る二機能性分子)であってもよい。
【0032】
標的核酸に特異的であるオリゴヌクレオチド(例えば、プローブ又はプライマー)は、特定の条件下で標的核酸に「ハイブリダイズする」であろう。本明細書で使用される「ハイブリダイゼーション」又は「ハイブリダイズ」は、それによってオリゴヌクレオチド一本鎖が定義されたハイブリダイゼーション条件下で塩基対形成を通して相補鎖とアニールするプロセスを表す。
【0033】
「特異的なハイブリダイゼーション」は、2つの核酸配列が高度な相補性を共有するという指示である。特異的なハイブリダイゼーション複合体は、許容的アニーリング条件下で形成され、続くいずれの洗浄ステップ後もハイブリダイズしたままである。核酸配列のアニーリングのために許容的条件は、当業者によって常法に従って決定でき、例えば、約6×SSCの存在下で65℃で生じ得る。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、洗浄ステップが行われる温度に言及することによって、部分的には表すことができる。そのような温度は、典型的には、定義されたイオン強度及びpHでの特定の配列の熱融点(Tm)よりも約5℃から20℃低く選択される。Tmは、標的核酸の50%が(定義されたイオン強度及びpH下で)完全にマッチしたプローブにハイブリダイズする温度である。Tmを計算するための式及び核酸ハイブリダイゼーションの条件は、当技術分野で既知である。特異的なハイブリダイゼーションは、好ましくは、当技術分野でよく知られているストリンジェントな条件下で生じる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、37℃での50%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS中でのハイブリダイゼーション及び60℃での0.1×SSC中の洗浄である。ハイブリダイゼーション手順は、当技術分野で周知であり、例えばAusubelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Inc., 1994に記載されている。
【0034】
本明細書で使用する、オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド及び核酸をアライメントした時に、オリゴヌクレオチドが核酸と少なくとも50%の配列同一性を有する場合、核酸に「特異的」である。核酸に特異的であるオリゴヌクレオチドは、適切なハイブリダイゼーション又は洗浄条件下で、目的の核酸でない核酸には実質的にハイブリダイズせずに、目的の標的にハイブリダイズする能力があるオリゴヌクレオチドである。より高いレベルの配列同一性が好ましく、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の配列同一性を含む。配列同一性は、当技術分野で周知のアルゴリズムを用いる市販のコンピュータープログラムをデフォルト設定で使用して決定され得る。本明細書で使用する、「高い配列同一性」を有する配列は、アライメントしたヌクレオチド位置の少なくとも約50%で、好ましくはアライメントしたヌクレオチド位置の少なくとも約60%で、より好ましくはアライメントしたヌクレオチド位置の少なくとも約75%で同一ヌクレオチドを有する。
【0035】
標的核酸を特異的に増幅する(すなわち、特定の標的核酸を増幅する)又は特異的に検出する(すなわち、特定の標的核酸配列を検出する)ためのプライマー又はプローブとして使用されるオリゴヌクレオチドは、一般に、ストリンジェントな条件下で標的核酸に特異的にハイブリダイズする能力がある。
【0036】
本明細書で使用する、「試料」又は「試験試料」という用語は、臨床試料、単離された核酸、又は単離された微生物を含んでもよい。好ましい実施形態では、試料は、対象から回収された組織、体液、又は微生物などの生物学的源(すなわち、「生物学的試料」)から得られる。試料源は、痰(処理された又は未処理の)、気管支肺胞洗浄液(BAL)、気管支洗浄液(BW)、血液、体液、脳脊髄液(CSF)、尿、血漿、血清、又は組織(例えば、生検材料)を含むが、これらに限定されない。好ましい試料源は、鼻咽頭スワブ、創傷スワブ、及び鼻洗浄液を含む。本明細書で使用する、「患者試料」という用語は、疾患の診断及び/又は治療を求めているヒトから得られた試料を表す。
【0037】
本明細書で使用する、「増幅混合物」は、核酸増幅反応において使用される試薬の混合物であるが、プライマー又は試料を含有しない。増幅混合物は、緩衝液、dNTP、及びDNAポリメラーゼを含む。増幅混合物は、MgCl2、KCl、非イオン性及びイオン性界面活性剤(陽イオン性界面活性剤を含む)のうち少なくとも1つをさらに含んでもよい。
【0038】
「増幅マスターミックス」は、標的核酸を増幅するための増幅混合物及びプライマーを含むが、増幅される試料を含有しない。
【0039】
本明細書で使用する、「反応-試料混合物」は、増幅マスターミックス及び試料を含有する混合物を表す。
【0040】
本明細書で使用する、「プローブ配列エレメント」は、それがプライマー核酸配列に連結している又は隣接しているという点で、プライマーに付随しており、検出される標的核酸配列にストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする一続きのヌクレオチドを表す。
【0041】
本明細書で使用する、「プライマー-プローブ検出系」という用語は、リアルタイムPCRのための方法を表す。この方法は、二機能性分子(本明細書でプライマー-プローブと称される)を利用し、この二機能性分子は、ポリメラーゼブロッキング基によってプローブエレメントに共有結合しているPCRプライマーエレメントを含む。加えて、各プライマー-プローブ分子は、クエンチャーと相互作用して、バックグラウンド蛍光を減少させるフルオロフォアを含む。本明細書で使用する、プライマー-プローブは、フルオロフォア/クエンチャー対を有するヘアピン構造を含む5'伸長プローブ尾部を有する3'プライマーを含んでもよい。PCR中、ヘキサエチレン(hexethlyene)グリコール(HEG)を含めることによって、ポリメラーゼがプローブ尾部中に伸長しないようにする。増幅の最初のラウンドで、3'標的特異的プライマーは標的核酸にアニールし伸長され、これによりプライマー-プローブが、新しく合成された鎖中に組み込まれる。この鎖は、新しく合成された、5'プローブの標的領域を有する。次のラウンドの変性及びアニーリングで、プライマー-プローブヘアピンループのプローブ領域は、標的にハイブリダイズすることになり、こうしてフルオロフォアとクエンチャーとが分離し、測定可能なシグナルが生じる。そのようなプライマー-プローブは、Whitcombeら, Nature Biotech 17: 804-807 (1999)に報告されている。SCORPIONプライマーは、例示的なプライマー-プローブである。
【0042】
本明細書で使用する、「標的核酸」、「標的核酸配列」又は「標的配列」という用語は、増幅され検出される目的のヌクレオチドのセグメントを含む配列を表す。増幅反応中に生成する標的配列のコピーは、増幅産物、アンプライマー(amplimer)、又はアンプリコンと称される。標的核酸は、染色体のセグメント、遺伝子間配列を有する又は有さない完全な遺伝子、遺伝子間配列を有する又は有さない遺伝子のセグメント若しくは部分、又はプローブ若しくはプライマーが設計されている核酸の配列で構成されていてもよい。標的核酸は、野生型配列、変異、欠失又は重複、タンデムリピート領域、目的の遺伝子、目的の遺伝子の領域又はその任意の上流若しくは下流領域を含んでもよい。標的核酸は、特定の遺伝子の代替の配列又は対立遺伝子を表してもよい。標的核酸は、ゲノムDNA、cDNA、又はRNAに由来してもよい。本明細書で使用する、標的核酸は、細胞から抽出されたDNA若しくはRNA又はそこからコピー又は増幅された核酸であってもよい、又はバイサルファイト(bisulfite)反応を使用してさらに変換された抽出された核酸を含んでもよい。
【0043】
本明細書で使用する、「陽性対照核酸」又は「内部陽性増幅対照」は、ある量又はレベルで試料中に存在することが知られている核酸である。一部の実施形態では、陽性対照核酸は、試料中に天然に存在せず、MRSAの有無を決定するための開示された方法におけるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応に反応-試料混合物を供する前に試料に加えられる。本明細書で使用する、分析物の「閾値サイクル数」(Ct)は、蛍光シグナルが特定の蛍光閾値を通過するPCRサイクルである。Ctは、開始鋳型コピー数、生物の溶解、PCR増幅、ハイブリダイゼーション又は蛍光発生プローブの切断、及び検出の感受性を含む増幅反応効率に依存する。
【0044】
本明細書で使用する、「TaqMan(登録商標)PCR検出系」は、リアルタイムPCRのための方法を表す。この方法では、増幅される核酸セグメントにハイブリダイズするTaqMan(登録商標)プローブは、増幅マスターミックス中に含まれる。TaqMan(登録商標)プローブは、ドナーの蛍光がクエンチャーによって吸収されるように、プローブのどちらかの末端上に且つ互いに十分に近接してドナー及びクエンチャーフルオロフォアを含む。しかしながら、プローブが増幅されたセグメントにハイブリダイズする場合、Taqポリメラーゼの5'エキソヌクレアーゼ活性は、プローブを切断し、それによってドナーフルオロフォアが検出され得る蛍光を発することが可能になる。
【0045】
本発明者らは、MRSAの陽性同定が、生物学的試料中の3つのマーカー核酸配列の有無を決定することによって行われ得ることを発見した。したがって、本発明は、生物学的試料中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の有無を決定する方法であって、(a)生物学的試料を、黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸が存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第1のプライマー対、標的mecA核酸が存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第2のプライマー対、及び標的mecC核酸が存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第3のプライマー対と接触させて、反応-試料混合物を作製するステップであって、各プライマー対の少なくとも一つのプライマーにフルオロフォア標識が付随しているステップ、(b)反応-試料混合物を、生物学的試料中に存在する標的核酸のそれぞれが増幅されて、蛍光シグナルを生ずるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件に供するステップ、(c)統合された熱サイクル系を使用して、各フルオロフォアによって生じた蛍光シグナルの量を測定するステップ、及び(d)標的核酸からの蛍光の量を比較し、本発明者らによって発見されたアルゴリズムを適用することによってMRSAの有無を決定するステップを含む方法を提供する。
【0046】
生物学的試料及び試料調製
MRSAが開示された方法を使用して検出且つ定量化され得る生物学的試料は、無菌及び/又は非無菌部位由来である。試料が得られ得る無菌部位は、全血、血漿、無細胞血漿、尿、脳脊髄液、滑液、胸水、心膜液、眼内液、組織生検又は気管内吸引液などの体液である。本明細書で使用する、「無細胞血漿」は、体積で1%未満の細胞を含有する血漿を示す。試料が採取され得る非無菌部位は、例えば、痰、便、例えば、皮膚、鼠径、鼻及び/又は咽頭からのスワブである。好ましくは、非無菌部位からの試料、より好ましくは創傷及び/又は鼻スワブが本発明において使用される。MRSA検出のための試料は、コロニーを形成するために適切な培地上で増殖された単離された細菌の培養物も含んでもよい。試料は、細菌単離体も含んでもよい。
【0047】
例示的な生物学的試料源は、鼻咽頭スワブ、創傷スワブ、及び鼻洗浄液を含む。生物学的試料は、MRSA及び/又はMRSA核酸を含有すると疑われ得る。さらに、生物学的試料は、MRSAに感染していると疑われる個体から得てもよい。生物学的試料は、マイクロ流体/マイクロエレクトロニクス遠心分離プラットフォームにおける使用のための増幅マスターミックスと接触させてもよい。
【0048】
開示された方法は、未処理の生物学的試料を好ましくは用い、したがって直接的な、能率化されたサンプル-トゥー-アンサープロセスをもたらすが、本明細書で開示された検出方法は、当業者に周知の任意の方法に従って生物学的試料から精製された単離された核酸(DNA又はRNA)に対して使用される場合も有効であろう。所望の場合、試料は、遠心分離などによって回収又は濃縮してもよい。試料の細胞は、酵素、熱界面活性剤、超音波又はそれらの組合せによる処理などによる溶解に供してもよい。代わりに、生物学的試料は、市販の核酸抽出キットを使用して処理してもよい。
【0049】
一部の実施形態では、1つ以上のプライマー対が、生物学的試料と接触させる前に、DNAポリメラーゼ、dNTP及びPCR緩衝液をさらに含む増幅マスターミックス中に存在する。増幅は、好ましくはマルチプレックス形式で生じるが、各マーカーに対する個々の反応が代わりに使用されてもよい。生物学的試料は、プライマー対と及び/又は増幅マスターミックスと接触させて、直接増幅ディスク(direct amplification disc)中で反応-試料混合物を形成させてもよい。例えば、生物学的試料は、3M(商標)Integrated Cyclerと協調して働くためのSIMPLEXA Direct リアルタイムPCRアッセイの一部として、Focus Diagnostics, Inc.(Cypress、CA、USA)によって市販されているDirect Amplification Discなどの直接増幅ディスク中で増幅マスターミックスと接触させてもよい。直接増幅ディスクは、複数の指定された領域を含む薄い円形ディスクであり、その領域のそれぞれは、増幅マスターミックスを加えるためのウェル、及びそれに付随する、未処理の患者試料を加えるためのウェルを含む。試料-反応混合物は、増幅マスターミックス及び試料を加える際又はその後に、直接増幅ディスクにおいて作製される。
【0050】
リアルタイムPCR
反応-試料混合物は、生物学的試料中に存在する標的核酸のそれぞれが増幅され、増幅された産物が検出され測定されるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件に供される。一部の実施形態では、生物学的試料は、別個の、フロントエンド標本調製を有さない直接増幅ディスク中に直接充填され、同じディスク中での標的分析物のRT-PCR検出及び識別が続く。好ましくは、増幅は、Direct Amplification Disc(Focus Diagnostics, Inc.製の8ウェルディスク)において行われる。一部の実施形態では、リアルタイムPCR増幅は、直接増幅ディスク中でSIMPLEXA Directアッセイを使用して行われ、検出は、3M(St. Paul、MN、USA)によって販売されている3M(商標)Integrated Cyclerなどの統合サーマルサイクラーを使用して行われる。3M(商標)Integrated Cyclerは、Direct Amplification Discを受け入れ可能であり、ディスク当たり複数のアッセイを行う能力がある。この装置では、毎秒5℃超での加熱、及び毎秒4℃超での冷却が可能である。サイクリングパラメーターは、伸長される増幅産物の長さに依存して変更し得る。
【0051】
内部陽性増幅対照(IPC)は、オリゴヌクレオチドプライマー、プローブ及び/又はプライマー-プローブを利用して試料中に含めてもよい。
【0052】
したがって、一部の実施形態では、増幅反応における各プライマー対の少なくとも一つのプライマーは、検出可能な部分を含む。検出可能な部分は、プライマー-プローブでなどのプライマーに結合しているプローブ上にあってもよい。プローブは、当技術分野で既知の方法によって検出可能に標識されていてもよい。有用な標識は、例えば、蛍光色素(例えば、Cy5(登録商標)、Cy3(登録商標)、FITC、ローダミン、ランタニド蛍光体(lanthamide phosphor)、Texas red、フルオレセインアミダイト(FAM)、JOE、可視スペクトルの赤色領域において蛍光を発し、I-BHQ2色素によって効果的にクエンチされ得るCal Fluor Red 610(登録商標)(「CFR610」)などのキサンテン色素、Quasar 670(登録商標)、32P、35S、3H、14C、125I、131I、高電子密度試薬(例えば、金)、例えば、ELISAにおいて通例使用される酵素(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ、ベータガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、比色標識(例えば、コロイド金)、磁気標識(例えば、Dynabeads(商標))、ビオチン、ジオキシゲニン(dioxigenin)、又はハプテン及び抗血清又はモノクローナル抗体が利用可能であるタンパク質を含む。他の標識は、それぞれ、対応する受容体又はオリゴヌクレオチド相補鎖と複合体を形成する能力があるリガンド又はオリゴヌクレオチドを含む。標識は、検出される核酸中に直接組み込まれ得るか、又はそれは、検出される核酸にハイブリダイズする又は結合するプローブ(例えば、オリゴヌクレオチド)又は抗体に結合していてもよい。
【0053】
したがって、増幅後、様々な標的セグメントがサイズ及び/又は色などの異なる検出可能な部分を使用することによって同定され得る。検出可能な部分は、蛍光色素であってもよい。一部の実施形態では、異なるプライマー対が異なる識別可能な検出可能な部分で標識される。したがって、例えば、HEX及びFAM蛍光色素がマルチプレックスPCRにおける異なるプライマー上に存在し、生じるアンプリコンに付随していてもよい。他の実施形態では、例えば、フォワードプライマーにはFAM色素、及びリバースプライマーにはHEX色素というように、フォワードプライマーが、1つの検出可能な部分で標識されている一方、リバースプライマーは、異なる検出可能な部分で標識されている。異なる検出可能な部分の使用は、同じ長さである又は長さが非常に類似している増幅された産物を識別するのに有用である。いくつかの実施形態では、黄色ブドウ球菌特異的遺伝子に対するプライマー-プローブは、1つの検出可能な標識(FAMなど)で標識されており、mecA及びmecC遺伝子のそれぞれに特異的なプライマー-プローブは、異なる検出可能な標識(CFR610など)で標識されている。したがって、ある特定の実施形態では、2つの異なる蛍光色素が単一増幅において使用される異なるプライマー-プローブを標識するために使用される。
【0054】
一部の実施形態では、用いられるプローブは、検出可能に標識されており、検出は、各増幅産物に対するプローブ標識を検出することによって達成される。プローブの標的の増幅の前に標識の検出を妨げるクエンチャーが、検出可能な標識にさらに付随していてもよい。TAQMANプローブは、そのようなプローブの例である。
【0055】
いくつかの実施形態では、プローブと、プライマー対の一つのプライマーとは、同じ分子の一部を構成してもよい。これは、プライマー-プローブと称される(例えばSCORPIONプライマー-プローブ)。これらの実施形態では、プライマー-プローブは、バックグラウンド蛍光を減少させるためのクエンチャーと付随しているフルオロフォアをさらに含む。そのような蛍光標識プライマー-プローブでのPCR伸長後、合成された標的領域は、プローブと同じ鎖に結合されている。変性時に、プライマー-プローブのプローブ部分は、新たに生じたPCR産物の一部に特異的にハイブリダイズし、クエンチャーからフルオロフォアを物理的に分離し、それによって検出可能なシグナルを生ずる。したがって、一部の実施形態では、各プライマー対の一つのプライマーは、プライマーの5'末端にプローブ配列エレメントを含むプライマー-プローブであってよく、ここで、プローブエレメントは、フルオロフォア及びクエンチャーをさらに含む。
【0056】
一部の実施形態では、開示された方法において用いられるプローブは、その全体が参照により本明細書に組み込まれているFrenchら HyBeacon probes: a new tool for DNA sequence detection and allele discrimination, Mol Cell Probes, 2001 Dec;15(6):363-74に開示されているものなどの、遺伝的変異を有するDNA配列の切片を検出するように設計された短い蛍光標識DNA配列を含む又はこれからなる。蛍光分子がこの型のプローブ内の中心に位置することは、DNAプローブの末端にシグナリング化学物質を有するプローブより優れたいくつかの利点をもたらす。HyBeacons(登録商標)は、プローブのこの型の例である。
【0057】
標的核酸及びプライマー
本発明に従って、オリゴヌクレオチドプライマー及びプローブは、mecA遺伝子、及びmecC遺伝子の全体又は一部に加えて、黄色ブドウ球菌に特異的なマーカー遺伝子の全体又は一部などの標的核酸を増幅及び検出するために、本明細書で記載された方法において使用される。一実施形態では、この方法は、spa、mecA及びmecC、例えばこれらの遺伝子のいずれか又は全ての断片に対し特異的なプライマー対を用いることを含む。
【0058】
さらに、プライマーは、1つ以上の対照核酸配列を増幅するためにも使用され得る。
【0059】
本明細書で記載された標的核酸は、各標的に対する個々の標識を利用して個々に又はマルチプレックス形式で検出されてもよい。特定の実施形態では、SCORPIONプライマー-プローブなどの蛍光標識プライマー-プローブは、mecA遺伝子に対し特異的なプライマー対において使用され、mecCに対するプライマー対の蛍光標識プライマー-プローブと同じ蛍光標識を含む。
【0060】
当業者は、本開示に基づいて、標的核酸を増幅するのに適切であるプライマーを設計し、且つ調製する能力がある。本発明における使用のための増幅プライマーの長さは、ヌクレオチド配列同一性及びこれらの核酸がin vitro核酸増幅中にハイブリダイズされる又は使用される温度を含めたいくつかの因子に依存する。特定の配列同一性の増幅プライマーにとって好ましい長さを決定するために必要な考慮は、当業者に周知である。
【0061】
ハイブリダイゼーションプローブとして使用されるオリゴヌクレオチドの設計は、プライマーの設計と類似した方法で行われ得る。オリゴヌクレオチドプライマーと同様に、オリゴヌクレオチドプローブは、類似した融解温度を通常有し、各プローブの長さは、配列特異的ハイブリダイゼーションが生じるのに十分でなければならないが、合成中に忠実度が減少するほどに長くないものであってはならない。オリゴヌクレオチドプローブは、一般に、長さが15から60ヌクレオチドである。
【0062】
一部の実施形態では、1つ以上のヌクレオチド位置で縮重を有するプライマーの混合物が提供される。縮重プライマーは、可変性が標的核酸配列に存在する、すなわち配列情報があいまいであるPCRにおいて使用される。典型的には、縮重プライマーは、プライマー内の約4以下、約3以下、好ましくは約2以下、最も好ましくは、約1以下のヌクレオチドの位置で可変性を示す。
【0063】
標的核酸は、完全に増幅される遺伝子であってもよい。あるいは、一部の実施形態では、標的核酸は、遺伝子の断片又はセグメントである。断片は、完全な配列の任意の領域に由来してもよいが、本方法による断片長は、典型的には、少なくとも30、少なくとも50、少なくとも75、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250又は少なくとも300ヌクレオチドである。当業者に理解されるように、特定の標的核酸のサイズ及び位置は、増幅プライマーの選択を制御するであろうし、逆もまた同じである。
【0064】
黄色ブドウ球菌に特異的なマーカー遺伝子の全体又は断片の増幅及び検出のための特異的なプライマー、プローブ及びプライマー-プローブは、黄色ブドウ球菌に存在するが、他のブドウ球菌種に存在しない配列に対するものを含む。特異的なマーカー遺伝子の例は、spa、agr、sspプロテアーゼ、sir、sodM、cap、coa、アルファ溶血素、ガンマ溶血素、femA、Tuf、ソーターゼ、フィブリノゲン結合タンパク質、clfB、srC、sdrD、sdrE、sdrF、sdrG、sdrH、NADシンセターゼ、sar、sbi、rpoB、ジャイレースA、及びorfXを含むが、これらに限定されない。黄色ブドウ球菌特異的遺伝子の検出は、黄色ブドウ球菌を含有する試料を、他の病原性がより少ない種又は株、例えば表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)を含有し得るものから、識別するのに役立つ。適したマーカー遺伝子は、1.55kb spa遺伝子である(例えば、GenBank受託番号NC_002952、範囲125378-123828を参照されたい)。spaを増幅及び検出するための例示的なプライマー及び標識プライマー-プローブ配列は、
黄色ブドウ球菌spaプライマー1:5'd CTTGATAAAAAGCATTTTGTTGAGCTTCA 3'(配列番号1)
黄色ブドウ球菌spaプライマー2:5'TGCATCTGTAACTTTAGGTACATTA 3'(配列番号3)
黄色ブドウ球菌spa標識プライマー-プローブ:5'd BHQ-1-agcggtGCAGCAGGTGTTA CGCCACCgc-T(配列番号2)(FAM)-スペーサー18-TGCATCTGTAACTTTAGGTACATTA 3'(配列番号3)
を含む。
【0065】
当業者は、他のプライマー、プローブ、及びプライマー-プローブ(他のSCORPIONプライマー-プローブを含めた)が使用されてもよいことを理解しているだろう。
【0066】
特異的なプライマー及びプローブが2.0kb mecC遺伝子(例えば、GenBank受託番号FR821779、範囲36219-36322を参照されたい)の断片を増幅及び検出するために選択される。mecCを増幅及び検出するための例示的なプライマー及び標識プライマー-プローブ配列は、
mecAhプライマー1:5'd TCACCGATTCCCAAATCTTGC 3'(配列番号4)
mecAhプライマー2:5'AAGCAAGCAATAGAATCATCAGACA 3'(配列番号6)
mecAh標識プライマー-プローブ:5'd CFR610-acgtgCCTAATGCTAATGCAATGCG GGCAcgt(配列番号5)-BHQ-2-スペーサー18-AAGCAAGCAATAGAA TCATCAGACA 3'(配列番号6)
を含む。
【0067】
当業者は、mecCに対する他のプライマー、プローブ、及びプライマー-プローブ(他のSCORPION(商標)プライマー-プローブを含めた)が使用されてもよいことを理解しているだろう。
【0068】
特異的なプライマー及びプローブが2.0kb mecA遺伝子(例えば、GenBank受託番号X52593、範囲1491-1519を参照されたい)の断片を増幅及び検出するために選択される。mecAを増幅及び検出するための例示的なプライマー及び標識プライマー-プローブ配列は、
mecAプライマー1:5'd TCTTCACCAACACCTAGTTTTTTCA 3'(配列番号7)
mecAプライマー2:5'GGTAATATCGACTTAAAACAAGCAATAGA 3'(配列番号9)
mecA標識プライマー-プローブ:5'd CFR610acgcggcCTTACTGCCTAATTCGAGTGCTACTCTAGCgccgcgt(配列番号8)-BHQ-2-スペーサー18 GGTAATATCGACTTAAAACAAGCA ATAGA 3'(配列番号9)
を含む。
【0069】
したがって、開示された方法を使用した黄色ブドウ球菌及びメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の定性的検出及び識別は、統合サイクラー系を用いて直接増幅ディスク上で黄色ブドウ球菌特異的遺伝子spa、並びにメチシリン耐性遺伝子mecA及びmecCを増幅及び検出するのための、プライマー-プローブを含むプライマー対及びリアルタイムPCRを利用してもよい。この方法で、標的ゲノムDNAなどの標的核酸は、特異的に増幅され、蛍光標識プローブによって同じ反応において同時に検出される。spaプライマー対のプライマー-プローブは、フルオレセインアミダイト(例えば、FAM)標識を含んでもよく、mecA及びmecCプライマー対のプライマー-プローブのそれぞれは、可視スペクトルの赤色領域において蛍光を発するキサンテン色素(例えばCFR610)を含んでもよい。
【0070】
アルゴリズム
試料-反応混合物をリアルタイムPCRに供し、増幅された遺伝子に付随している蛍光シグナルを検出及び測定したら、本発明の方法は、増幅された標的核酸配列からの閾値サイクル数(Ct)をマッチングすることにより最終結果を与えるMRSAアルゴリズムを使用することによってMRSAの有無を決定することをもたらす。好ましくは、mecA及びmecC標的核酸がCFR610などの可視スペクトルの赤色領域において蛍光を発するキサンテン色素で標識されたプライマー-プローブを使用して増幅され、spa標的核酸配列がFAMなどのフルオレセインアミダイトフルオロフォアで標識されているプライマー-プローブを使用して増幅される。したがって、mecA及び/又はmecCのシグナル(以下で「mecA_C(CFR610チャネル)のCt」と称される)は、キサンテン色素からであり、spaのシグナル(以下で「SA(FAMチャネル)のCt」と称される)は、フルオレセインアミダイトフルオロフォアからである。
【0071】
MRSAアルゴリズムは、以下を指示する:
【0072】
【表1】
【0073】
したがって、試料中のMRSAの有無は、以下のシナリオに基づいて決定され得る:
(1)蛍光シグナルが黄色ブドウ球菌特異的遺伝子(FAMシグナル)並びにmecA及び/又はmecC遺伝子(CFR610シグナル)の両方に関して検出される場合、且つ
(a)SA(FAMチャネル)のCt-mecA_C(CFR610チャネル)のCt≦1.9(すなわち、黄色ブドウ球菌特異的標的核酸配列(例えば、spa)からの閾値サイクル数引くmecA及び/又はmecC標的核酸配列からの閾値サイクル数≦1.9)の場合、又は
(b)SA(FAMチャネル)のCt-mecA_C(CFR610チャネル)のCt>1.9、且つmecA_C(CFR610チャネル)のCt+1.9<SA(FAMチャネル)のCt(すなわち、黄色ブドウ球菌特異的標的核酸配列(例えば、spa)からの閾値サイクル数引くmecA及び/又はmecC標的核酸配列からの閾値サイクル数>1.9且つmecA及び/又はmecC標的核酸配列からの閾値サイクル数足す1.9<黄色ブドウ球菌特異的標的核酸配列からの閾値サイクル数)の場合、
MRSAが前記生物学的試料中に存在すると決定され、
(2)蛍光シグナルが黄色ブドウ球菌特異的標的核酸配列(FAMシグナル)並びにmecA及び/又はmecC標的核酸配列(CFR610シグナル)の両方に関して検出される場合、且つ
SA(FAMチャネル)のCt-mecA_C(CFR610チャネル)のCt<1.9、且つSA(FAMチャネル)のCt+1.9<mecA_C(CFR610チャネル)のCt(すなわち、黄色ブドウ球菌特異的標的核酸配列からの閾値サイクル数引くmecA及び/又はmecC標的核酸配列からの閾値サイクル数<1.9、且つ黄色ブドウ球菌特異的標的核酸配列からの閾値サイクル数足す1.9<mecA及び/又はmecC標的核酸配列からの閾値サイクル数)の場合、
黄色ブドウ球菌及び少なくとも1つのメチシリン耐性遺伝子が試料中に存在すると決定される。
そのような場合では、黄色ブドウ球菌及びメチシリン耐性遺伝子は、試料中に存在するが、そのメチシリン耐性遺伝子は、同じ試料中の黄色ブドウ球菌又はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌由来であり得る。
(3)黄色ブドウ球菌特異的標的核酸配列の検出可能なシグナル(FAM)を有するが、mecA及び/又はmecCについては検出可能なCFR610シグナルを有さない試料は、黄色ブドウ球菌を含有するがMRSAを含有しないと解釈される。
(4)黄色ブドウ球菌特異的標的核酸配列のシグナル(FAMシグナル)は検出されず、mecA又はmecC(CFR610)のシグナルも検出されない場合、試料は、黄色ブドウ球菌及びMRSA陰性であると解釈される。
【0074】
キット
生物学的試料中のMRSAの有無を決定するための本明細書に記載の増幅を行うためのプライマー又はプライマー-プローブであってもよいオリゴヌクレオチドを含むキットも本発明によって提供される。本発明のキットは、増幅された核酸を検出するためのプローブとして使用されてもよいオリゴヌクレオチド、及び/又は非標的核酸を消化して、オリゴヌクレオチドプライマーによる標的核酸の検出を増加させるための1つ以上の制限酵素をさらに含んでもよい。
【0075】
一部の実施形態では、キットは、
(i)黄色ブドウ球菌に特異的な標的マーカー遺伝子のセグメントにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第1のプライマー対、
(ii)標的mecA遺伝子のセグメントにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第2のプライマー対、及び
(iii)標的mecC遺伝子のセグメントにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第3のプライマー対
を含む。
【0076】
第1のプライマー対は、spa遺伝子に特異的にハイブリダイズしてもよく、配列番号1を含むオリゴヌクレオチドと、配列番号3を含むオリゴヌクレオチド又は配列番号2からなるプライマー-プローブのいずれかとからなっていてもよい。第2のプライマー対は、配列番号4を含むオリゴヌクレオチドと、配列番号6を含むオリゴヌクレオチド又は配列番号5からなるプライマー-プローブのいずれかとからなっていてもよい。第3のプライマー対は、配列番号7を含むオリゴヌクレオチドと、配列番号9を含むオリゴヌクレオチド又は配列番号8からなるプライマー-プローブのいずれかとからなっていてもよい。
【0077】
キットは、アッセイ定義スキャンカード(assay definition scan card)及び/又はアッセイにおいてオリゴヌクレオチドを使用するための印刷された説明書又は電子説明書などの説明書を追加で含んでもよい。一部の実施形態では、キットは、MRSAの有無を決定するために生物学的試料を分析するための説明書を含む。一部の実施形態では、キットは、増幅反応混合物又は増幅マスターミックスを含む。キットに含まれる試薬は、バイアルなどの1つ以上の容器に含まれていてもよい。
【0078】
DNA内部対照の増幅及び検出に特異的なプライマー、プローブ、及び/又はプライマー-プローブが潜在的なPCR阻害をモニターするための標的プライマー対として増幅マスターミックスに含まれてもよい。標的及び内部対照の増幅及び検出に必要な試薬は、キットにおける単一反応アリコートとして提供可能なオールインワンの増幅マスターミックスとして処方することができる。
【実施例
【0079】
[実施例1]
鼻スワブ試料を、個体から、適切な回収デバイスにとる。50μlの未処理の鼻スワブ試料を、別個のフロントエンド標本調製ステップなしにSIMPLEXA Direct Amplification Disc(Focus Diagnostics, Inc.、Cypress、CA、USA)のウェッジ1の試料ウェル中に直接充填する。50μlの増幅マスターミックスを、ディスクのウェッジ1の反応ウェル中にピペットで移す。この増幅マスターミックスは、PCR緩衝液、DNAポリメラーゼ、dNTP、塩化マグネシウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、配列番号1、2、4、5、7及び8からなるプライマー及び内部対照DNA断片及び対照断片に特異的なプライマー対を含有する。配列番号2、5及び8からなるプライマーは、SCORPIONプライマー-プローブであり、FAM(配列番号2)又はCFR610(配列番号6及び8)で標識されている。
【0080】
ウェッジを、ホイルで密閉し、次いでDirect Amplification Discを3M(商標)Integrated Cycler(3M、St. Paul、MN、USA)中に挿入し、RT-PCRをサイクラーにおいて開始する。PCRサイクリング条件は、以下のステップ:i)97℃、480秒、1サイクルでの試料予熱、ii)97℃、120秒、1サイクルでのポリメラーゼ活性化、iii)97℃、10秒での変性及び58℃、30秒でのアニーリングを37サイクル含む。
【0081】
標的ゲノムDNAを特異的に増幅し、同じ反応において蛍光標識プライマー-プローブによって同時に検出する。MRSAの存在は、FAM及びCFR610チャネルにおける閾値サイクル数(Ct)をマッチングすることによって最終結果を与える以下のMRSAアルゴリズムによって決定する:
1)SA(FAMチャネル)のCt-mecA_C(CFR610チャネル)のCt≦1.9、又は
2)SA(FAMチャネル)のCt-mecA_C(CFR610チャネル)のCt>1.9且つmecA_C(CFR610チャネル)のCt+1.9<SA(FAMチャネル)のCt
の場合、FAM及びCFR610チャネルにおけるシグナルを有する試料をMRSAと解釈し、
1)SA(FAMチャネル)のCt-mecA_C(CFR610チャネル)のCt<1.9且つSA(FAMチャネル)のCt+1.9<mecA_C(CFR610チャネル)のCt
の場合、FAM及びCFR610チャネルにおけるシグナルを有する試料をSA、メチシリン耐性と解釈する。
【0082】
他に定義しない限り、本明細書で使用された全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって通例理解されるものと同じ意味を有する。
【0083】
本明細書で例示的に記載された本発明は、本明細書で特に開示されていない任意のエレメント(複数可)、制限(複数可)の非存在下で適切に行われてもよい。加えて、本明細書で用いられた用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用され、そのような用語及び表現の使用において、示された及び記載された特徴又はその部分の任意の均等物を排除する意図はなく、しかし様々な改変が特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で可能であることが認識される。
【0084】
したがって、本発明は、好ましい実施形態及び任意選択の特徴によって特に開示されたが、当業者は、そこで具体化され、本明細書で開示された本発明の改変、改善及び変形形態を用いてもよく、そのような改変、改善及び変形形態は、本発明の範囲内であると考えられることが理解されよう。本明細書で提供された材料、方法、及び例は、好ましい実施形態の代表であり、例示であり、本発明の範囲の限定として意図されていない。
【0085】
本発明は、本明細書で広く一般的に記載された。一般的な開示内に属するより狭い種及び亜属グループのそれぞれも、本発明の一部を形成する。これは、取り除かれた部分が本明細書で特に列挙されているかどうかにかかわらず、本発明の任意の主題を属から除去する条件又は否定的な限定を有する一般的な記載を含む。
【0086】
さらに、本発明の特徴又は態様がマーカッシュグループを用いて記載されている場合、当業者は、本発明もそれによってマーカッシュグループの任意の個々のメンバー又はメンバーのサブグループを用いて記載されていることを認識しているだろう。
【0087】
本明細書で言及された全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、それぞれが個々に参照により組み込まれている場合と同じ程度までその全体が参照により明確に本明細書に組み込まれている。矛盾する場合、定義を含めた本明細書が制御するであろう。
本発明はまた、以下に関する。
[項目1]
生物学的試料中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の有無を決定するための方法であって、
(a)生物学的試料を、
(i)黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸のセグメントが存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第1のプライマー対、
(ii)標的mecA核酸のセグメントが存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第2のプライマー対、及び
(iii)標的mecC核酸のセグメントが存在する場合、それにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第3のプライマー対
と接触させて、反応-試料混合物を得るステップであって、各プライマー対の少なくとも一つのプライマーにフルオロフォア標識が付随しているステップ、
(b)生物学的試料中に存在する標的核酸のそれぞれが増幅されて蛍光シグナルを生ずるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件に、反応-試料混合物を供するステップ、
(c)各フルオロフォアによって生じた蛍光シグナルの量を測定するステップ、及び
(d)標的マーカー核酸からの蛍光の量を比較することによってMRSAの有無を決定するステップであって、それによって
(i)蛍光シグナルが黄色ブドウ球菌特異的核酸並びにmecA及び/又はmecC核酸の両方に関して検出され、且つ
(1)黄色ブドウ球菌特異的核酸からの閾値サイクル数(Ct)引くmecA及び/又はmecC核酸からのCt≦1.9、又は
(2)黄色ブドウ球菌特異的核酸からのCt引くmecA及び/又はmecC核酸からのCt>1.9、且つmecA及び/又はmecC核酸からのCt足す1.9<黄色ブドウ球菌特異的核酸からのCt
である場合、MRSAが生物学的試料中に存在すると決定され;
(ii)Ctが黄色ブドウ球菌特異的核酸並びにmecA及び/又はmecC核酸の両方に関して検出され、且つ黄色ブドウ球菌特異的核酸からのCt引くmecA及び/又はmecC核酸からのCt<1.9、且つ黄色ブドウ球菌特異的核酸からのCt足す1.9<mecA及び/又はmecC核酸からのCtである場合、黄色ブドウ球菌及びメチシリン耐性遺伝子が生物学的試料中に存在すると決定され;又は
(iii)蛍光シグナルが黄色ブドウ球菌特異的標的核酸配列に関して検出されるが、蛍光シグナルがmecA及び/又はmecCに関して検出されない場合、生物学的試料中に黄色ブドウ球菌が存在すると決定され、MRSAが存在しないと決定されるステップ
を含む、方法。
[項目2]
各プライマー対の一つのプライマーがプライマーの5'末端にプローブ配列エレメントを含むプライマー-プローブであり、該プローブ配列エレメントがフルオロフォア及びクエンチャーをさらに含み、且つmecAプライマーのフルオロフォア及びmecCプライマーのフルオロフォアが同一である、項目1に記載の方法。
[項目3]
全てのプライマー対が、生物学的試料と接触させる前に、DNAポリメラーゼ、dNTP及びPCR緩衝液をさらに含む増幅マスターミックスに一緒に含まれている、項目1に記載の方法。
[項目4]
ステップ(a)が、生物学的試料を、対照標的核酸のセグメントにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第4のプライマー対と接触させるステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
[項目5]
黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸が、spa、agr、sspプロテアーゼ、sir、sodM、cap、coa、アルファ溶血素、ガンマ溶血素、femA、Tuf、ソーターゼ(sortase)、フィブリノゲン結合タンパク質、clfB、srC、sdrD、sdrE、sdrF、sdrG、sdrH、NADシンセターゼ、sar、sbi、rpoB、ジャイレースA、及びorfXからなる群から選択される遺伝子配列の全て又は一部を含む、項目2に記載の方法。
[項目6]
黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸が、spaである項目5に記載の方法。
[項目7]
第1のプライマー対が、配列番号1を含む第1のプライマー及び配列番号2からなる第2のプライマーからなる、項目6に記載の方法。
[項目8]
第2のプライマー対が、配列番号4を含む第1のプライマー及び配列番号6を含む第2のプライマーからなる、項目7に記載の方法。
[項目9]
第3のプライマー対が、配列番号7を含む第1のプライマー及び配列番号9を含む第2のプライマーからなる、項目8に記載の方法。
[項目10]
spaプライマー-プローブが、フルオレセインアミダイトフルオロフォアを含み、mecA及びmecC遺伝子プライマー-プローブが、可視スペクトルの赤色領域において蛍光を発するキサンテン色素を含む、項目6に記載の方法。
[項目11]
生物学的試料中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の有無を決定するためのキットであって、
(i)黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸のセグメントにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第1のプライマー対、
(ii)標的mecA核酸のセグメントにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第2のプライマー対、及び
(iii)標的mecC核酸のセグメントにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする第3のプライマー対を含み、
各プライマー対の一つのプライマーがプライマーの5'末端にプローブ配列エレメントを含むプライマー-プローブであり、該プローブ配列エレメントがフルオロフォア及びクエンチャーをさらに含み、mecAプライマーのフルオロフォア及びmecCプライマーのフルオロフォアが同一である、キット。
[項目12]
対照遺伝子配列にストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするプライマー対をさらに含む、項目11に記載のキット。
[項目13]
プライマー対が、DNAポリメラーゼ、dNTP及びPCR緩衝液をさらに含む増幅マスターミックス中に一緒に存在する、項目12に記載のキット。
[項目14]
黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸が、spa、agr、sspプロテアーゼ、sir、sodM、cap、coa、アルファ溶血素、ガンマ溶血素、femA、Tuf、ソーターゼ(sortase)、フィブリノゲン結合タンパク質、clfB、srC、sdrD、sdrE、sdrF、sdrG、sdrH、NADシンセターゼ、sar、sbi、rpoB、ジャイレースA、及びorfXからなる群から選択される、項目11に記載のキット。
[項目15]
黄色ブドウ球菌に特異的な標的核酸が、spaである項目14に記載のキット。
[項目16]
第1のプライマー対が、配列番号1を含む第1のプライマー及び配列番号2を含む第2のプライマーからなる、項目15に記載のキット。
[項目17]
第2のプライマー対が、配列番号4を含む第1のプライマー及び配列番号6を含む第2のプライマーからなる、項目16に記載のキット。
[項目18]
第3のプライマー対が、配列番号7を含む第1のプライマー及び配列番号9を含む第2のプライマーからなる、項目17に記載のキット。
[項目19]
spaプライマー-プローブが、フルオレセインアミダイトフルオロフォアを含み、mecA及びmecC遺伝子プライマー-プローブが、可視スペクトルの赤色領域において蛍光を発するキサンテン色素を含む、項目18に記載のキット。
[項目20]
印刷された説明書又は電子説明書をさらに含む、項目11に記載のキット。
【0088】
他の実施形態は、添付の特許請求の範囲内に記載される。
【配列表】
0007086122000001.app